弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人柳川俊一、同篠原一幸、同藤村啓、同岡部貞美、同東條敬、同梅村裕
司、同木下秀雄、同下村弘之、同川野義孝の上告理由について
 一 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
 1 訴外M及び同Nは、過激な武力革命思想に共鳴し、東京都練馬区a町陸上自
衛隊O駐とん地(以下「本件駐とん地」という。)に侵入して銃器等を奪取しよう
と企て、昭和四六年八月二一日午後八時三〇分ころ、Mが二等陸尉の階級章を付け
た制服及び幹部の制帽を着用し、Nが一等陸士の制服及び略帽を着用して、それぞ
れ自衛官に変装したうえ、Nの運転するレンタカー(以下「本件車両」という。)
にMが同乗して同駐とん地の正門に乗り付け、その制服等によつて幹部自衛官とそ
の随従者であると誤認した営門の警衛勤務者からとがめられることなく本件車両に
乗車したまま正門を通り抜けて同駐とん地内に侵入し、広場に右車両を停車させた
のち、同日午後八時四五分ころ、折から動哨勤務中の陸上自衛隊東部方面第一武器
隊所属の訴外P陸士長(当時満二一歳、以下「P士長」という。)と遭遇し、挙手
の礼をした同人に対し、Mがいきなり手挙でそのみぞおちを殴打し、Nが所携の包
丁で右側胸腹部を二回突き刺し、まもなく同所付近において右刺創による胸腔内出
血等により同人を死亡させた(以下「本件事故」という。)。
 2 過激な新左翼集団は、昭和四三年ころから武力闘争を呼号し、複数の過激派
活動家が、反軍闘争を掲げ、武器獲得のため、昭和四五年六月までの間に、防衛庁
のほか、陸上自衛隊の大久保駐とん地、市ケ谷駐とん地、日本原駐とん地、善通寺
駐とん地、都城駐とん地、駐とん地赤羽地区、武器補給処十条支処など八か所の諸
施設に相次いで侵入し、あるいは火炎びん、爆発物を使用してこれを襲撃するなど
の行為を反覆し、昭和四六年二月一七日未明には、銃砲店を襲撃して散弾銃等を強
奪し、次いで同年六月一七日夜、過激派デモ隊が警備中の警視庁機動隊に手製爆弾
を投げつけて警察官多数に重軽傷を負わせた。
 3 Mは、本件事故の約五か月前まで本件駐とん地に一等陸士として勤務し、同
駐とん地における営門警衛の取扱いを熟知していたところから、Nと共に、幹部自
衛官とその随従者を装つて同駐とん地に不法侵入すべく、あらかじめ同駐とん地内
の売店から購入するか窃取するなどして前記制服等を調達し、本件車両にQ軍と表
示したヘルメツト二個、Q軍のビラ多数及び前記包丁一丁を隠し入れたバツグ、奪
取した武器を隠匿するための人形等を積載し、本件車両の前部ナンバープレートを
取り替えたり、後部ナンバープレートを折り曲げて見えにくくするなどの隠ぺい工
作もしていた。
 4 ところで、駐とん地司令は、駐とん地警衛の最高責任者として、上司の指揮
監督のもとに駐とん地の警備、隊員の規律の統一等に関する職務権限を有し(駐と
ん地司令及び駐とん地業務隊等に関する訓令五条)、警衛勤務要領の細部を定める
ことができ、陸上自衛隊服務規則の定めるところに従い、所属隊員の中から警衛司
令をはじめ、分哨長、営舎係、歩哨係、歩哨等の警衛勤務者を命ずるものとされて
いた(同規則五五条)。そして、警衛勤務者は、警衛司令の直接の指揮を受け、主
として駐とん地の警戒及び営門出入者の監視に任じ、あわせて営内における規律の
維持等に当たるものとされ(同規則五一条、五四条、五五条、六〇条)、幹部及び
准陸尉(私服の場合は身分証明書を所持するもの)並びにそれらの随従者等所定の
者のほかは営門の出入をさせてはならず(同規則六二条二項)、営門を出入する車
両及び隊員に対して特別の必要があるときは、積載又は所持している物品等につい
て点検を行うことができ(同規則六二条三項)、不法に営内に立ち入る者がある場
合においては、これを退去させなければならないとされ(同規則六三条)、営門出
入車両の点検及び記録は警衛司令の日常の業務の一つにも挙げられていた(陸上自
衛隊服務細則一三四条一項九号)。
 5 更に、本件駐とん地司令は、同駐とん地私有車両管理規則を定め、私有車両
の保有使用を部隊等の長の許可にかからしめ、その保有者に対し、同駐とん地内使
用許可証(以下「使用許可証」という。)又は右許可を得ていない車両と区別する
ためのステツカー(以下「ステツカー」という。)を当該車両に掲示させるように
し、また、同駐とん地警衛勤務規則を定め、検問所に部内及び部外の各車両出入記
録簿を備え付けさせ、車両の出入時刻、車両番号等を記録すべきものとしていた。
そして、営門の警衛勤務者は、同駐とん地における警衛勤務要領の指導に当たつて
いた上司の指導により、営門出入車両が右いずれの掲示もしていないときは、それ
に乗車する者が制服自衛官であつても、営門の警衛勤務者において身分証明書の提
示を求め、部外車両出入記録簿に所要事項を記録すべきものとされていた。
 6 しかし、本件事故当時、本件駐とん地内には、陸上自衛隊東部方面武器隊の
ほか各種部隊及び教育隊が駐とんし、輸送学校、体育学校なども併設され、総勢三
〇〇〇名の自衛官が常駐し、幹部自衛官が約四五〇名いたところ、本件駐とん地の
営門の警衛勤務者は、従来、車両による営門出入者については、着用する制服、制
帽、階級章により外観上幹部自衛官と見える者である限り、その随従者を含め、身
分証明書の提示を求めず、当該車両及び搬出入物品の点検も原則として実施しない
取扱いをしていたものであつて、警衛勤務者のかかる取扱状況は、同駐とん地で自
衛隊員としての勤務経験を有する者であればこれを了知しており、そうでない者で
も、営門付近で右状況を観察すれば容易に了知することができた。更に、自衛隊員
ばかりでなく部外者も、同駐とん地内の売店や出入業者から身分証明書などの提示
を要することなく陸上自衛隊の制服、制帽等を自由に購入することができ、また、
本件事故の発生前に、同駐とん地内において自衛隊員の制服及び幹部自衛官の制帽
の盗難も発生していた。
 7 本件事故当日は、本件駐とん地警衛司令Rの指揮のもとにP士長を含む警衛
勤務者総勢二五名をもつて、午前八時三〇分から翌日午前八時三〇分までの二四時
間勤務で営門出入者の監視、駐とん地内の所定場所における歩哨等の警衛の任に当
たり、P士長は、正門より東門に至る動哨経路を巡察中、本件事故に遭遇したもの
であるが、営門の警衛勤務者は、Mらが乗り付けた本件車両の入門時刻が午後八時
三〇分ころであるうえ、右車両自体、使用許可証及びステツカーが掲示されていな
い部外車両で、隠ぺい工作も施されるなど、不審な情況があつたにもかかわらず、
その入門に際し、同人らに身分証明書の提示を求めず、右車両及び搬入物品の点検、
部外車両出入記録簿への記録もしなかつた。
 8 本件駐とん地司令Sは、本件事故に先立ち、自衛隊上層部から、過激派活動
家の侵入ないし襲撃に備え警備を厳重にするように示達を受けていたが、幹部自衛
官の制服等の着用によるかかる活動家の不法侵入を未然に防止するため、営門の警
衛勤務者に対し、直属の上司等面識のある幹部自衛官以外の者については、階級章
を付けた制服等の着用により外観上幹部自衛官と見える者であつても、その営門出
入の際の身分確認、出入車両及び搬出入物品の点検などを必ず実行させる措置を講
ずることなく、平穏な情況を前提とした従来の警衛の取扱いを踏襲していた。
 二 国は、公務員に対し、その公務遂行のための場所、施設若しくは器具等の設
置管理又はその遂行する公務の管理に当たつて、公務員の生命及び健康等を危険か
ら保護するよう配慮すべき義務を負つているところ(最高裁昭和四八年(オ)第三
八三号同五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁)、国の安全
配慮義務は、国が公務遂行に当たつて支配管理する人的及び物的諸条件から生じう
べき危険の防止について信義則上負担するものであつて、その具体的内容は、公務
員の職種・地位、現に遂行する具体的な公務の内容、その具体的な状況等によつて
定まるべきものである。したがつて、国は、自衛隊員を駐とん地内の動哨勤務に就
かせる場合であつても、公務の遂行に当たる当該具体的状況のもとにおいて、制服
等の着用により幹部自衛官を装つた部外者が営門から不法侵入し、かつ、動哨勤務
者の生命、身体に危害を及ぼす可能性を客観的に予測しうるときは、営門出入の管
理を十全にしてその侵入を防止し、もつて、同人にかかる危険が及ぶことのないよ
う配慮すべき義務を負うものと解するのが相当である。けだし、およそ駐とん地内
で動哨として勤務する自衛隊員は、規律維持等のほか、外部からの不法侵入に備え
るべき職責を負い、その職責には生命、身体に対する危険が多かれ少なかれ不可避
的に内在していることを否定することはできないが、外部から区画された施設内で
の警衛を分担する複数の公務遂行者の一員であることに鑑みると、前述のような手
段、方法による営門からの不法侵入者により惹起されるべき動哨勤務者の生命、身
体に対する危害の可能性は、その職責に不可避的に内在している危険の限界を超え
るものというべく、国は、公務の遂行を管理する者として、かかる危害の可能性を
あらかじめ客観的に予測しうる限り、これを排除するに足りる諸条件を整えるべき
義務を免れないからである。
 本件において、前示事実関係によれば、本件事故当時、既にその三年ほど前から
過激派活動家が武器獲得を目的として各地の陸上自衛隊駐とん地等に度々侵入し、
本件駐とん地にあつても、自衛隊上層部から本件駐とん地司令に対しこれに備えた
厳重警備をすべき旨示達されていたのであり、また、部外者も同駐とん地から陸上
自衛隊の制服、制帽等を容易に入手することができ、その盗難も発生していたとこ
ろ、前示のような本件駐とん地私有車両管理規則及び警衛勤務規則が定められてい
たとはいえ、現実には、数百名に達する幹部自衛官を擁していた同駐とん地におけ
る営門警衛の取扱いとして、車両による営門出入者が着用の制服等により外観上幹
部自衛官と見える者である限り、その随従者を含め、身分証明書の提示を求めず、
当該車両及び搬出入物品の点検も原則的に実施していなかつたものであつて、かか
る取扱状況は、同駐とん地の勤務経験者であればこれを了知しており、部外者も容
易に了知することができた、というのである。そうすると、本件駐とん地警衛の最
高責任者たる本件駐とん地司令及びその命を受けて警衛勤務者を直接指揮し営門出
入者の監視等の任に当たる本件警衛司令とすれば、制服等の着用により幹部自衛官
を装つた過激派活動家が営門から不法侵入し、かつ、動哨勤務者の生命、身体に危
害を及ぼす可能性も、客観的にこれを予測しえないものではなかつたというべく、
本件駐とん地司令としては、かかる事態を未然に防止するため、営門の警衛勤務者
に対し、車両による営門出入者が着用の制服等により外観上幹部自衛官と見える者
であつても、その営門出入の際の身分確認、当該車両及び搬出入物品の点検などを
必ず実行させる措置を講ずべきであり、また、本件警衛司令としては、警衛勤務者
を直接指揮し、警衛の方法に関する所定の準則を遵守して前示のように不審な情況
のあつた本件車両が営門から不法侵入するのを防止すべきであつたというべきであ
る。したがつて、上告人には、本件駐とん地司令及び本件警衛司令を履行補助者と
して、営門出入の管理を十全にして前示不法侵入を防止し、もつて動哨勤務中のP
士長の生命、身体に前示危険が及ばないよう保護すべき安全配慮義務の不履行があ
つたものといわざるをえず、前記事実関係からすると、上告人においてこれを履行
していれば、本件事故の発生を未然に防止しえたというべきであるから、右事故は、
上告人の右安全配慮義務の不履行によつて発生したものということができ、上告人
は、右事故によつて被害を被つた者に対しその損害を賠償すべき義務があるものと
いうべきである。
 三 以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができ、原判決
に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実又は独自の
見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、いずれも採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    長   島       敦
            裁判官    坂   上   壽   夫

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