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平成16年(ネ)第3178号,同年(ネ)第4541号 損害賠償請求控訴・同
附帯控訴事件(原審・東京地方裁判所平成15年(ワ)第19005号)(平成1
6年11月8日口頭弁論終結)
  判           決
       控訴人(附帯被控訴人)   株式会社建築資料研究社
    訴訟代理人弁護士    石 上 麟太郎
       被控訴人(附帯控訴人)  株式会社総合資格
       訴訟代理人弁護士   堀   裕 一
       同          木 島 昇一郎
       同          手 島 万 里
       同          丸 山   央
       同          島 岡 清 美
          主           文 
      控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴及び被控訴人(附帯控訴人)の本
件附帯控訴をいずれも棄却する。
      控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の,附帯控訴費用は被控訴人(附
帯控訴人)の各負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴人(附帯被控訴人,以下「控訴人」という。) 
 (1) 原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。
 (2) 被控訴人(附帯控訴人,以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。
2 被控訴人
 (1) 原判決を次のとおり変更する。
 (2) 控訴人は被控訴人に対し,600万円及びこれに対する平成15年8月2
5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 被控訴人は,「総合資格学院」の名称で,控訴人は,「日建学院」の名称
で,いずれも,主に建築士等の資格試験のゼミナール等の事業を行っている株式会
社である。被控訴人は,控訴人が「〈ご注意下さい!〉最近,ある建築士講習機関
の講座システムが大きな問題になっています」,「全国で大勢の被害者が出ていま
す」などの記載のあるチラシ(以下「本件チラシ」という。)を配布したことによ
り,被控訴人の営業上の信用が毀損されたと主張し,控訴人の上記行為は,不正競
争防止法2条1項14号の不正競争行為又は不法行為に該当するとして,控訴人に
対し,不正競争防止法4条又は民法709条及び715条に基づき,損害賠償60
0万円を請求をした(選択的併合)。
   原判決は,本件チラシの配布行為は,不正競争防止法2条1項14号に該当
するとした上,被控訴人が営業上の信用を害されたことによって被った損害額を1
00万円,控訴人の不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用を30万円と認
定し,その合計額130万円及び附帯金員の限度で被控訴人の請求を認容し,その
余の請求を棄却した。これに対し,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴をした。
   本件において争いのない事実,争点及び当事者の主張は,次のとおり当審に
おける控訴人及び被控訴人の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」欄の
「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
 2 控訴人の主張
 (1) 本件チラシの配布が不正競争行為及び不法行為のいずれにも当たらないこ

   ア 本件チラシは,単に「ある建築士講習機関」と記載するのみであり,控
訴人と被控訴人が建築士資格試験の受験指導業界における大手の2社であるという
だけでは,第三者が客観的に見て,「ある建築士講習機関」が当然に被控訴人を指
すものと理解するということはできない。建築士資格試験の指導機関は,控訴人及
び被控訴人以外にも無数に存在する(乙4のインターネット検索サイトの検索結
果)。したがって,本件チラシの配布は,特定の「他人」の営業上の信用ないし名
誉を害する行為には当たらない。
   イ本件チラシの内容は,真実であり,2級建築士試験受験講座の受講希望
者に対して注意を呼び掛ける内容のものであるから,本件チラシを配布したこと
は,不正競争防止法2条1項14号の「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を
告知し,又は流布する」行為には当たらない。
     本件チラシの記載内容の,「ある建築士講習機関の講座システムが大き
な問題になっています」,「昨年も全国で大勢の被害者が出ています」等は,真実
である。すなわち,建築士試験は,学科試験と設計製図試験の2段階よりなるとこ
ろ,被控訴人の従来の講座システムにおいては,学科試験対策については,設計製
図講座の受講とセットになったセット講座しか存在せず,学科講座のみを受講する
ことはできないため,学科試験に不合格となった受講生は,自分が受験できないそ
の年の受験対策の設計製図講座を受講しなければならなかった。そこで,被控訴人
は,試験制度が変更になった平成13年度から,学科試験に不合格となった受講生
が,その年の設計製図講座の受講を翌年に繰り越すことを選択できる「スライド
制」を設けた(乙5)が,この「スライド制」の下でも,翌年,学科試験に不合格
になると,設計製図講座を受けることができず,そこで受講の権利が消滅してしま
う。2度続けて学科試験に不合格となることにより,受講の権利が消滅してしまっ
た受講生は,全国に相当数存在する。「スライド制」の下で,被控訴人は,結果的
にはセット講座の申込者の大半が設計製図講座を受講できないにもかかわらず(す
なわち役務の提供をすることなく),受講料を得ることができたのである。これ
は,受講生の損失において,被控訴人が利益を得ていることに等しく,現に,被控
訴人のセット講座の受講生の中には,設計製図講座を受講することができなかった
として,被害感情を訴える者が多数存在する(乙7~25)。
     被控訴人は,上記のような被控訴人の講座システムに基づく契約の際,
受講生に対し,上記のような受講の権利の消滅について十分な説明をしていないか
ら,消費者契約法3条に違反しており,また,特定商取引法6条1項,12条,2
1条1項の趣旨にも抵触している。さらに,被控訴人のセット講座は,学科講座と
設計製図講座という二つの商品を抱き合わせて販売するものであり,被控訴人は建
築士資格試験の受験講座の市場において第2位を占める支配的な地位を有している
から,独占禁止法で禁止される抱合せ商法にも該当する。
     本件チラシは,以上のような被控訴人の講座システムの問題を指して,
講座システムに問題があり,多数の被害者が出ていると指摘し,注意を呼び掛けた
のであり,本件チラシの内容は真実である。
   ウ 本件チラシの内容は,上記のとおり真実であり,また,公共の利害に関
する事実に係り専ら公益を図る意図に出たものであるから,違法性が阻却され,名
誉毀損による不法行為は成立しない。
     本件チラシの内容は,被控訴人の講座システムの問題点を指摘し,一般
消費者に対し自己の利益を守るようにと注意を呼び掛けたものであるから,公共の
利害に関するものである。控訴人が本件チラシを配布したのは,建築士試験の受験
者の保護を図り,ひいては,同業者としての建築士資格試験講座業界全体の信用性
の維持を図ることが目的であり,専ら公益を目的としたものである。
 (2) 損害額について
    被控訴人の後記3(2)の主張は争う。
 3 被控訴人の主張
 (1)本件チラシの配布が不正競争行為又は不法行為に当たること
   ア 本件チラシに「〈ご注意下さい!〉」として記載された「ある建築士講
習機関」が被控訴人を指していることは,原判決認定のとおり,明らかである。
   イ 本件チラシに「〈ご注意下さい!〉」として記載された事実は,真実で
はなく,本件チラシは虚偽の内容を記載したものである。被控訴人の講座システム
について,本件チラシに記載されたような,「講座システムが大きな問題になって
います」,「昨年も全国で大勢の被害者が出ています」などの事実はなく,また,
控訴人の主張するような法規違反もない。
   被控訴人は,平成13年度の2級建築士試験制度の改正によって,従来は許
されていなかった学科試験問題の持ち帰りができるようになり,学科試験の合否を
受験者がかなり正確に予測できるようになったことに伴い,平成13年6月ころ,
学科試験及び設計製図試験対策の一貫講座(以下「セット講座」ということがあ
る。)の受講生に対し,同年度で受験する見込みのない設計製図講座を,受講生の
選択により,翌年度に繰り越すことを認め,翌年度の学科試験の合格判定を受ける
ことを条件として,翌年度に設計製図講座を受講することのできる制度(優遇措置
①,控訴人のいう「スライド制」)を設けるとともに,翌年度の学科講座を,通常
の学科講座の受講料より割安の受講料で再受講することができ,翌年度の学科試験
の合格判定を受けることにより無償でその年の設計製図講座を受講できる制度(優
遇措置②)を併せて創設した。なお,受講生は,学科試験の不合格が見込まれる場
合であっても,本来どおり,当該年の設計製図講座を受講することはできる。この
ような,被控訴人の講座システムにおいて採用されている上記優遇措置制度は,受
講生に利益を与えこそすれ,何ら負担を負わせるものではない。
   ウ 控訴人による本件チラシの配布は,専ら,競争関係にある被控訴人の営
業妨害を目的として行われたものであり,公益を図る目的などは存在しない。
 (2) 損害額について
    原判決は,本件チラシが,ダイレクトメールと直接配布で約50枚,ファ
クシミリ送信で約60枚,合計110枚配布されたと認定しているが,実際の配布
枚数ははるかに多い。本件チラシを約110枚のみ配布したという控訴人の従業員
A作成の報告書(乙1)及び始末書(乙2)の裏付けとなるものはなく,被控訴人
の従業員であるBに本件チラシが郵送されてきた経緯(甲10)に照らすと,控訴
人は,平成15年度の2級建築士試験の願書受付会場で控訴人が配布したアンケー
トの回答者全員に本件チラシを配布したと考えることが合理的であり,その配布枚
数は,500枚程度と推測される。
   本件チラシの配布枚数が上記のとおり原判決認定の4~5倍程度はあると
考えられること,控訴人が被控訴人に対し,繰り返し,組織的な営業妨害行為を行
ってきており,本件チラシの配布もその一環であったことなどを考慮すると,本件
チラシの配布行為によって被控訴人が営業上の信用を毀損されたことの損害は,5
00万円を下ることはない。
    また,弁護士費用としては100万円が控訴人の上記行為と相当因果関係
にある損害と評価されるべきである。
第3 当裁判所の判断  
 1 当裁判所も,本件チラシを配布した控訴人の行為は,不正競争防止法2条1
項14号の不正競争行為に当たると判断し,被控訴人の本訴請求は,原判決認定の
損害額の限度で理由があるが,これを超える部分は理由がないものと判断する。そ
の理由は,以下のとおり,付加訂正し,当審の判断を付加するほかは,原判決「事
実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用す
る。
 2 原判決の訂正
 (1)原判決2頁下から9行目の「平成15年6月ころ,」の次に「日建学院池
袋校の作成名義で,」を加え,同3頁5行目から6行目の「需用者」を「需要者」
と,同5頁の下から4行目の「110枚」を「約110枚」とそれぞれ訂正する。
(2)原判決6頁12行目の「甲1ないし9」の次に「,乙5」を加える。
 (3) 原判決7頁9行目及び13行目の「平成14年度」をそれぞれ「平成13
年度」と,同頁16行目から17行目の「ただし,次年度に受講しないと,権利は
失効する」を「ただし,次年度の設計製図講座の受講は,次年度の学科試験につき
合格判定を受けることを条件とし,次年度に設計製図講座を受講しないと,権利は
失効する」と,同頁18行目の「平成14年6月12日付けで」を「平成13年6
月26日付けの『試験制度変更による受講優遇措置のお知らせ』と題する書面によ
り,被控訴人の2級建築士試験受験講座の受講生に対して告知し,さらに,平成1
4年度においても,同様の制度について,同年6月12日付けの『受講優遇措置制
度のお知らせ』と題する書面により,」とそれぞれ訂正する。
 (4) 原判決8頁末行の「ダイレクトメール」から同9頁1行目までを,「ダイ
レクトメールと直接配布で,少なくとも約50枚,ファクシミリ送信で少なくとも
約60枚,合計少なくとも約110枚配布されたものと認められる。本件チラシが
『2003年度2級建築士学科試験無料解答速報のお知らせ』と題し,平成15年
7月7日から同月9日にかけて控訴人が開催する『設計製図受験対策説明会』の案
内等の内容を有するものであることからすると,本件チラシの配布枚数は,上記約
110枚を超えるものと推認されるが,その総数を確認するに足りる証拠はな
い。」と改める。
 (5) 原判決9頁2行目から7行目までの全文,同頁18行目から19行目の
「(被告も,本件訴訟において,内容が真実であるとの主張は,していな
い。)」,同頁下から4行目の「(併せて不法行為にも該当する。以下同
様。)」,同10頁1行目及び7行目の「(不法行為)」をいずれも削除する。
 (6)原判決10頁11行目から12行目の「支払済みまで」の次に「年5分の
割合による遅延損害金の支払」を加える。
 3 本件チラシ配布の不正競争防止法2条1項14号該当性について
 (1) 控訴人は,建築士資格試験の指導機関は,控訴人や被控訴人以外にも無数
に存在するから,本件チラシに単に「ある建築士講習機関」と記載されているだけ
では,それが被控訴人を指すと理解されるものではないと主張する。
    しかし,本件チラシに記載された「学科と設計のセット入学で学科が不合
格となったときに,設計の権利が翌年に繰越され,翌年も不合格だと消滅します」
という講座内容が,平成13年度の2級建築士試験制度の改正後に被控訴人が導入
した優遇措置①(控訴人のいう「スライド制」)を指していることは明らかである
上,上記引用に係る原判決が認定するとおり,被控訴人は,建築士試験受験講座の
業界において控訴人と1,2位を争う大手業者であるから,控訴人が配布する本件
チラシに接した建築士試験の受験者等は,本件チラシに指摘された「ある建築士講
習機関」が被控訴人を指したものであることを,容易に理解するというべきであ
る。また,「ある建築士講習機関」がだれを指しているかが容易に理解されるので
なければ,受験者等に注意を呼び掛けたものであると控訴人が主張する,「ある建
築士講習機関の講座システムが大きな問題になっています」,「全国で大勢の被害
者が出ています」等の文章を本件チラシに掲載することの意義は事実上ないに等し
いというべきであるから,控訴人自身も,「ある建築士講習機関」が被控訴人を指
すことを受験者等において容易に理解することを当然の前提とし,被控訴人を暗に
名指しすることを意図して,本件チラシを配布したものと考えられる。
    したがって,本件チラシにいう「ある建築士講習機関」が被控訴人を指す
ものとは理解されない旨の控訴人の主張は,採用することができない。
 (2) 控訴人は,本件チラシの内容は真実であり,「ある建築士講習機関」の講
習システムに問題があることを指摘して受験者等に注意を呼び掛ける内容のもので
あるから,本件チラシは,不正競争防止法2条1項14号にいう「他人の営業上の
信用を害する虚偽の事実」を記載したものではないと主張する。
    本件チラシは,紙面の上半分に,「2003年度2級建築士学科試験無料
解答速報のお知らせ」と題する内容を記載し,その下に,黒地枠に白抜き文字で
「設計製図受験対策説明会!!」との見出しの下に,「平成15年度課題発表『吹
抜けのある居間を持つ専用住宅』(木造2階建)」,「日時:7月7日(月)~9
日(水)19:00~20:00」などと記して,設計製図受験対策説明会への参
加を案内する内容を記載したものである。そして,本件において問題の箇所は,設
計製図受験対策説明会の案内に続けて,紙面右下部分に,「〈ご注意下さい!〉」
との見出しの下に記載された4行の文章であり,そこには,「最近,ある建築士講
習機関の講座システムが大きな問題になっています。学科と設計のセット入学で学
科が不合格となったときに,設計の権利が翌年に繰越され,翌年も不合格だと消滅
します。昨年も全国で大勢の被害者が出ています。説明は細かく聞いて,入学願書
の裏書は必ず読んでから入学しましょう」と記載されている(以下,この文章を,
その見出しと併せて「本件記載」という。)。
    そこで,本件記載について検討すると,まず,「学科と設計のセット入学
で学科が不合格となったときに,設計の権利が翌年に繰越され,翌年も不合格だと
消滅します」との記述は,事実に合致しておらず,真実とは認められない。すなわ
ち,被控訴人の受講システムにおいては,2級建築士試験の受験対策のための学科
講座と設計製図講座とがセットになったセット講座の受講生に対し,当該年度の学
科試験に不合格となった場合には,設計製図講座の受講を翌年に繰り越すことを選
択することのできる制度(優遇措置①,控訴人のいう「スライド制」)を設けた
が,この制度は,受講生の選択において,設計製図講座の受講を翌年に繰り越すこ
とができるというものであるから,これをあたかも,学科試験に合格しないと,設
計製図講座を受講する権利が自動的に翌年に繰り越され,翌年も学科試験に不合格
となることによって権利が当然に消滅してしまうかのごとくいう上記記述は,極め
て不正確というべきである。そして,この記述が,「大きな問題になっている」,
「大勢の被害者が出ている」等の文脈において理解されるときには,全体として,
被控訴人の提供するセット講座のシステムそのものが,受講生に不利益をもたらす
詐欺的な内容のものであるとの印象を与えるものといわざるを得ない。したがっ
て,本件記載の上記記述部分は,事実をゆがめたものであって,真実とは認められ
ない。
    また,「大きな問題になっています」,「昨年も全国で大勢の被害者が出
ています」との記述は,被控訴人の経営する建築士試験講習機関の講座システムに
大きな問題があり,かつ,それが現実に世間で大きな問題となっており,「昨
年」,すなわち,本件チラシが配布された前年に当たる平成14年にも,全国で大
勢の被害者を発生させていると読む者に受け取られる内容であるところ,本件全証
拠によっても,そのような事実の存在を認めることはできない。
    この点に関し,控訴人は,被控訴人の提供するセット講座は,消費者契約
法3条や独占禁止法に違反し,特定商取引法6条1項,12条,21条1項の趣旨
にも反する内容を含んでいるなどとして,同講座の問題点をるる指摘し,また,被
控訴人のセット講座における「スライド制」によって,受講料を支払ったにもかか
わらず,設計製図講座を受講できなかったという不利益を受け,強い被害感情を持
っている元受講生が多数存在するから,「大きな問題になっています」,「昨年も
全国で大勢の被害者が出ています」との記述は真実であるなどと主張する。しかし
ながら,被控訴人の講座システムにおける優遇措置①(スライド制)は,受講年度
の学科試験に不合格となった受講生が,設計製図講座を当該年度に受講するか,翌
年に繰り越すかを選択することができることとしており,翌年への繰越しを選択し
た受講生が翌年も学科に不合格となった場合には翌年の設計製図講座を受講する権
利は消滅するが,セット講座自体に受講料等の点で受講生にとっての利点もある
上,上記のようなシステム内容については,平成13年6月26日付けの「試験制
度変更による受講優遇措置のお知らせ」(乙5),平成14年6月12日付けの
「受講優遇措置制度のお知らせ」(甲4)などの書面によって受講生への説明もさ
れていたと認められるから,被控訴人の講座システム自体に控訴人の主張するよう
な違法ないし受講生にとって不当な不利益をもたらす等の問題があるとはいえな
い。また,控訴人が提出した被控訴人の元受講生らの陳述書(乙7~9)及び控訴
人の従業員らが被控訴人の元受講生らから聞き取った内容を記載した陳述書(乙1
0~25)には,被害感情を持つ受講生が存在する旨の控訴人の主張に沿う記載が
あるが,これらの陳述書は,本件訴訟のために作成されたことが文書の体裁上明ら
かであり,その作成の経緯及び内容に照らし,その内容は直ちに信用し難いのみな
らず,受講料を支払ったにもかかわらず,設計製図講座を受講できなかったことに
ついて不満を抱き,被害感情を持つ者が存在するというだけでは,被控訴人の講座
システムが「大きな問題になっています」,「全国で大勢の被害者が出ています」
などということはできない。したがって,この点でも,本件記載は,事実を殊更誇
張ないしわい曲するものというべきである。
    以上のとおり,本件記載は,その文章中の,「大きな問題になっていま
す」,「全国で大勢の被害者が出ています」などの表現から,これを読んだ者に,
「ある建築士講習機関」の提供する講座のシステムに問題があり,それが社会的に
大きな問題となっており,全国で大勢の被害者を発生させているという印象を与え
るものであり,「ある建築士講習機関」が被控訴人のことであると理解する2級建
築士試験受験講座の受講希望者等に,被控訴人の講座システムには詐欺的ないしこ
れに近い不明りょうさがあるのではないかとの不信感を醸成するのに十分というべ
きである。
    そうすると,本件記載は,「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」を
伝える内容のものというべきである。
 (3) 以上によれば,本件チラシの配布行為は,控訴人と競争関係にある被控訴
人の「営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し,又は流布する」行為に当たり,
不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該当するものと認められる。
 4 損害賠償責任及び損害額について
 (1) 証拠上確認できる控訴人の本件チラシの配布枚数は約110枚であるが,
実際の配布枚数はこれよりも多いと推認されること,本件チラシの記載内容が2級
建築士試験受験講座の受講希望者等に被控訴人の講座システムに対する不信感を醸
成する内容のものであること,その他,当事者双方の当審における主張及び立証を
参酌しても,被控訴人がその営業上の信用が害されることにより被った損害として
100万円,控訴人による不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用として3
0万円を相当とした原判決の認定を左右するに足りない。
 (2) なお,被控訴人は,控訴人による本件チラシの配布行為について,民法7
09条及び715条の不法行為に基づく損害賠償も請求するが,被控訴人が不法行
為による損害賠償請求について主張する請求原因事実は,不正競争行為に基づく損
害賠償請求の請求原因事実と同一であり,かつ,被控訴人が控訴人の不法行為によ
って被ったと主張する損害も,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為によ
る損害と同種,同等のものであって,その損害額が不正競争行為による損害額を超
えると認めるべき事情は存在しない。そうすると,本件においては,被控訴人の主
張する不法行為による損害は,不正競争行為に基づく損害の賠償によって,評価し
尽くされる性質のものというべきであるから,上記のとおり,不正競争行為に基づ
く損害賠償請求が上記認定の限度で認められる以上,これと選択的併合の関係に立
つ不法行為に基づく損害賠償請求については,これを判断することを要しないとい
うべきである。
 5 結論
   以上のとおりであるから,被控訴人の控訴人に対する本件損害賠償請求を1
30万円及び附帯金員の限度で認容し,その余の請求を棄却した原判決は,相当で
あって,控訴人の本件控訴及び被控訴人の本件附帯控訴はいずれも理由がない。
   よって,控訴人の本件控訴及び被控訴人の本件附帯控訴をいずれも棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
 東京高等裁判所知的財産第2部
    裁判長裁判官   篠  原  勝  美
   裁判官   古  城  春  実
    裁判官   岡  本     岳

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