弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所へ差し戻す。
         理    由
 上告代理人松岡末盛・同飯山悦治の上告理由第一点ないし第四点および第七点な
いし第九点について。
 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)の判示するところによる
と、訴外Dは、訴外Eと通謀して、振出人F株式会社、金額八万五〇〇〇円等の記
入のある約束手形について、白地の受取人欄にGと記入し、かつ、裏書人欄に桐生
市a町bのcH方Gと記入して「G」と刻した有合印を冒捺したうえ、右手形金に
ついて、右訴外Gを相手方(債務者)として桐生簡易裁判所に対し支払命令および
これにもとづく仮執行宣言付支払命令の各申立をしたこと、Dは前記各申立におい
て、Gの住所を桐生市a町b番地のcH(E)方と虚偽の記載をし、その結果、右
各申立にもとづいて発せられた支払命令および仮執行宣言付支払命令の各正本は前
記E方Gあてに送達され、右EがあたかもGであるように装つて、右各正本を受領
したこと、そして、Dは、昭和三二年六月一日右仮執行宣言付支払命令にもとづい
て前橋地方裁判所桐生支部に対しG所有の本件土地を含む宅地三〇〇坪について強
制競売の申立をし、同支部は、強制競売手続の開始決定をしてその正本を前記債務
名義に表示されている前記H方Gあてに送達したこと(その後その競売手続関係で
右Gおよび上告人らからなんらの異議の申立もなかつた。)、同年九月一四日同支
部は被上告人に対し競落許可決定をし、同年一〇月一七日被上告人あてに本件土地
の所有権取得登記がされたこと、上告人はこれよりさき同二五年九月四日本件土地
を含む前記宅地三〇〇坪(一反歩)をGから買い受けたこと、なおDのGに対する
前記手形債権が実体のない仮装の債権との確証はえられないことなどの各事実を確
定していることが認められ、右事実にもとづいて、原判決は、おおむね、次のよう
に判示している。すなわち、私法上の請求権が全く存在しない場合は格別、ひとた
び仮執行宣言付支払命令が発せられ、その債務名義にもとづいてされた強制競売開
始決定の正本が債務名義に表示された執行債務者の住所に送達されて差押の効力が
生じ、強制競売手続が進行して、競落許可決定の確定により競落人が差押不動産の
所有権を取得し、その競落手続が完結すると、執行当事者もしくは利害関係人は、
右差押不動産の所有権の取得について争うことを得なくなると解すべきである。そ
して、本件では、本件仮執行宣言付支払命令の正本がGの虚偽の住所あてに送達さ
れているから、その送達手続は違法であつても、当然には無効といえず、また、本
件の基本たる債務名義も真実の債務者たるGに送達されてはいないけれども、その
ように開始された強制競売手続ないし債務者に対する書類の送達がなくしてされた
その後の競売手続もまた当然には無効とはいえず、その競売手続の開始決定ないし
競落許可決定が取り消されないかぎり、競落人は、その強制競売手続によりその差
押不動産の所有権を取得すると解すべきである。なお、本件では債務名義である本
件仮執行宣言付支払命令は、のちにGからDに対する再審の訴において、取り消さ
れて、その請求は棄却され、債務名義の効力は遡及的に消滅しているが、本件の強
制競売手続はすでに終了している以上、右再審の訴の確定判決の存在をもつて、本
件強制競売手続が遡つて失効するものとはいえないと判示し、結局、Gから所有権
を譲り受けた上告人は対抗要件たる登記を経ていないから、競落人として所有権取
得登記を経た被上告人に対し、その所有権を主張しえないとして、所有権移転登記
の抹消登記等を求める本訴請求を排斥する旨を判示している。
 しかし、甲が乙と通謀のうえ、第三者丙に対して金銭債権を有すると称して丙に
対する債務名義を騙取しようと企て、甲は、その主張する債権に関し丙あてにその
住所を真実に反し乙方丙として、支払命令ないし仮執行宣言付支払命令の申立等の
訴訟行為をし、裁判所がこれに応じた訴訟行為等をし、乙があたかも丙本人のよう
に装つて、その支払命令ないし仮執行宣言付支払命令の正本等の訴訟書類を受領し
て、なんらの不服申立をすることなく、その裁判を確定させた場合においては、た
とえ甲が丙あての金銭債権についての債務名義を取得したような形式をとつたとし
ても、その債務名義の効力は、丙に対しては及ばず、同人に対する関係では無効で
あると解するのが相当である。けだし、右のような場合には、当事者たる甲および
同人と意思を通じている乙は、故意に、債務名義の相手方当事者と表示されている
丙に対し、その支払命令ないし仮執行宣言付支払命令等の存在を知らせないように
工作することにより、丙をしてこれに対する訴訟行為をし、その防禦をする手段方
法等を講ずる機会を奪つているのであるから、訴訟行為における信義誠実の原則に
照らし、甲は、丙に対し相手方当事者たる地位にもとづきその裁判の効力を及ぼし
うべきものではないと解するのが相当だからである。なるほど、このような場合に
は、乙方丙の記載により、一応丙名義の表示がされ、一見丙あての債務名義は成立
しているようであるが、前記のように、丙自身は、右の事実を全く知りえない事情
にあるのであつて、甲および乙の行為に対し、防禦の訴訟行為をする機会を完全に
奪われているのであるから、このような訴訟の実態にかんがみれば、単に丙がたま
たまなんらかの事由により事実上訴訟行為等に関与しえなかつたときとは異なるの
であつて、丙に対し、到底その裁判の効力が及ぶと解することは許されないのであ
る。
 これを本件についてみれば、前記のように、Dは、Eと通謀してGの住所をいつ
わり、E方Gとして支払命令および仮執行宣言付支払命令の申立をし、裁判所がそ
の各申立に応じた裁判をなし、EがG本人のように装つてその各正本を受領したと
いうのであるから、本件債務名義の効力がGに及ぶいわれのないことは、前段に説
示したところから明らかである。そして、本件債務名義がGに対する関係で効力が
及ばない以上、本件債務名義にもとづいて同人所有の本件土地についてされた本件
強制競売手続は、同人に対する関係では債務名義がなくしてされたものというべき
であるから、その強制競売手続は同人に対する関係では効力を生ぜず、競落人は同
人に対してその所有権の取得を主張しえない、と解するのが相当である。
 そうだとすれば、原判決は、この点について、法令の解釈をあやまつた違法があ
り、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 よつて、その余の論旨に対する判断を省略し、原判決を破棄して本件を東京高等
裁判所へ差し戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄

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