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平成24年1月16日判決言渡
平成23年(行ケ)第10264号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年12月6日
判決
原告笹川農機株式会社
訴訟代理人弁理士黒田勇治
被告特許庁長官
指定代理人早川治子
遠藤行久
田村正明
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が不服2010-28464号事件について平成23年7月1日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
1意匠登録出願の拒絶査定不服審判請求不成立審決の取消訴訟である。争点は,
引用意匠との類否(意匠法3条1項3号)である。
2特許庁における手続の経緯
原告は,平成20年11月1日,別紙第1記載の本願意匠につき,意匠登録出願
(意願2008-28212号)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する
不服の審判請求をした(不服2010-28464号)。
特許庁は,平成23年7月1日,同請求につき「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,その謄本は同月19日,原告に送達された。
3審決の理由の要点
本願意匠は,平成13年1月15日発行の意匠登録第1096954号公報(甲
2)に記載された引用意匠(別紙第2のとおり)と,意匠に係る物品が穀類乾燥機
用集塵機であって一致し,形態についても,次のとおり,共通点が看者に強い共通
感を与えて,類否判断を決定付けているのに対し,相違点が類否判断に及ぼす影響
は微弱で,共通感を覆すほどのものではないから,意匠全体として類似するもので
あり,意匠法3条1項3号の意匠に該当する。
(1)本願意匠と引用意匠との間には,形態について次の共通点と相違点があ
る。
ア共通点(共通点Aは基本的構成態様,共通点B~Fは具体的構成態様)
【共通点A】全体は,円筒の下方を略逆円錐台状に狭めた器体と,この器体を
垂直に支える細長い支持脚で構成され,器体上面に大きな空気出口筒,器体円筒部
周側面に含塵空気導入口筒,そして器体最下方に塵出口筒をそれぞれ配設した態様
である点
【共通点B】器体は,全長の上部略3分の1程度を円筒部とするものである点
【共通点C】支持脚は,器体円筒部の下方周囲を三分する位置に,器体上の縦
長長方形小突片を介して設け,それぞれを下方やや外方向へ伸ばした形状である点,
詳細には細い円筒の内部に伸縮自在の細棒を挿通し,細棒の下方端をそれぞれ外方
向水平に屈曲させた態様である点
【共通点D】空気出口筒は,器体上面中央から立設され,器体斜め上方向にお
いて大きな略倒コ字形状に屈曲し,筒端を器体の中心軸と平行な鉛直方向に向けた

【共通点E】含塵空気導入口筒は,器体円筒部の上方周側面に,水平方向に立
設した点
【共通点F】塵出口筒は,器体略逆円錐台状部の最小口径とほぼ同径の小円筒
形状で,筒端を器体の中心軸上の鉛直方向に向けた点
イ相違点(いずれも具体的構成態様)
【相違点ア-1】空気出口筒の態様について,本願意匠は,筒端に別部材を嵌
めておらず,筒端の位置は器体上面と同じ位置であるが,引用意匠は,筒端に薄肉
合成樹脂製の長い可撓性筒材を嵌めて筒を延伸させており,筒端の位置が器体より
下方である点
【相違点ア-2】空気出口筒の態様のうち,空気出口筒の表面について,本願
意匠は,略倒コ字形状の屈曲部に蛇腹状の凹凸面を含むのに対して,引用意匠は,
略倒コ字形状の屈曲部も含め全体が平滑面である点
【相違点イ-1】含塵空気導入口筒の態様について,器体円筒部の上方周側面
において,本願意匠は,2本の筒を,器体中心軸に点対称の位置に配置しているの
に対して,引用意匠は,1本の筒を設けたものである点
【相違点イ-2】含塵空気導入口筒の態様について,器体円筒部の上方周側面
において,筒体が,本願意匠は,その端部まで水平方向を向いたものであるのに対
して,引用意匠は,水平方向に延伸したのち斜め上方向に屈曲している点
【相違点ウ】集塵袋取付け部について,本願意匠には,取付け部材が無い(参
考斜視図によれば,集塵袋開口部を塵出口筒にC字状止め具により袋の上から止め
るものと認められる。)のに対して,引用意匠には,取付け部材が有り,塵出口筒
上方に止め金具を介して袋吊り下げ用の細桿が水平方向に付設されている点,詳細
には,この吊り下げ桿の左右両端にごく短い斜めの突設部を設けており,吊り下げ
桿の両端部は,それぞれ全体として略倒イ状を形成する点
(2)共通点と相違点の評価
ア共通点A~Cは,両意匠の骨格を形成しており,両意匠の類否判断に支
配的な影響を及ぼす。共通点Dは,非常に目立つ位置にあり,また意匠全体に占め
るボリュームも,器体に次いで大きいため,類否判断に及ぼす影響が大きい。共通
点Eは,空気出口筒ほどボリュームはないものの,目につきやすい位置にあるため,
類否判断において一定の影響を与える。共通点Fは,目につきやすい位置にあるが,
器体に配設された筒のうちで最も小さく,器体下方の窄まっていく形状の一部とも
視認される程度で,類否判断に与える影響は微弱である。
以上を総合し,全体としてみると,これらの共通点は,両意匠の骨格を形成する
ものとして両意匠の基調を奏し,看者に強い共通感を与える。
イこれに対し,相違点ア-1及び相違点ア-2は,意匠全体としてみた場
合,上記共通の印象に埋没してしまう程度のものであって,両意匠の類否判断に及
ぼす影響は微弱である。
相違点イ-1については,この種物品が含まれる物品分野ではごく一般的に行わ
れる,単なる口数の変更であり,本願意匠の2本の筒の配置態様,すなわち器体中
心軸に点対称の位置に配置した態様も,この種物品が含まれる分野で本件出願前に
公然知られていた(特開平10-328531公報(甲3)の図1(a),(b)
及び図2(a),(b)に表されたろ過式集塵装置の意匠参照)態様であるから,
この相違点は微弱な相違にすぎない。相違点イ-2についても,この種物品の使用
状態においては,含塵ホースは上方から斜め下方向に降下し,この含塵空気導入口
筒の端部に接続されるものであるから,筒を屈曲させた点は,接続されるホースの
方向に合わせたごく一般的な形態処理にすぎず,両意匠の類否判断に及ぼす影響は
微弱なものにとどまる。
相違点ウについては,集塵袋取付け部自体,この種物品にとっては本体とは別個
に付加されるものであり,意匠全体の中で,ごく微細な部分にすぎないことなどか
ら,両意匠の類否判断に及ぼす影響は微弱である。
そして,相違点が相乗して生じる効果を考慮しても,その効果は,上記共通点が
与える効果を凌駕するほどのものではなく,相違点が類否判断に及ぼす影響は微弱
である。
第3原告主張の審決取消事由(意匠法3条1項3号の解釈適用の違法性)
1取消事由1(相違点の位置付けに関する誤り)
特許庁の意匠審査基準では,類否の判断について,「意匠に係る物品全体の形態
(基本的構成態様)は意匠の骨格ともいえるものであって,視覚を通じて起こさせ
る美感への影響が最も大きいことから,意匠が類似するためには,原則として,意
匠に係る物品全体の形態(基本的構成態様)が共通することが必要である。」など
としており,共通点及び相違点を基本的構成態様と具体的構成態様のいずれと認定
するかは,意匠の類否判断に大きな影響を与える。
審決は,相違点イ-1を基本的構成態様上の相違点ではなく,具体的構成態様上
の相違点であると認定したが,相違点イ-1は,意匠の骨格をなす基本的構成態様
上の相違点である。そうすると,本願意匠と引用意匠とはその基本的構成態様が顕
著に異なっており,非類似である。
2取消事由2(類否判断の誤り)
(1)審決は,相違点イ-1について,この種物品が含まれる物品分野ではごく
一般的に行われる,単なる口数の変更であり,本願意匠の2本の筒の配置態様,す
なわち器体中心軸に点対称の位置に配置した態様も,この種物品が含まれる分野で
本件出願前に公然知られていたと判断し,その根拠として,特開平10-3285
31号公報(甲3)の図1(a)(b)及び図2(a)(b)に表されたろ過式集
塵装置の意匠を挙げた。
甲3公報には,点対称の位置に配置された2個の吸着剤吹込ダクト6・6が示さ
れているものの,甲3公報に記載された意匠において,本願意匠の含塵空気導入口
筒に相当するのは,この吸着剤吹込ダクト6・6ではなく,排ガス導入ダクト4(排
ガス導入ロ5)である。したがって,含塵空気導入口筒が2本配置された態様は,
この種物品が含まれる分野で本件出願前に公然知られていた態様であるとはいえ
ず,審決の上記判断は誤りである。
(2)上記のとおり,含塵空気導入口筒は,本願意匠では2本であり,引用意匠
では1本である。含塵空気導入口筒が1本の場合,1台の穀類乾燥機にのみ接続さ
れ,他の穀類乾燥機からの含塵空気を集塵する際には1本の含塵ホースを差し替え
ることになる。これに対し,含塵空気導入口筒が2本の場合,2台の穀類乾燥機に
それぞれ接続することが可能となり,集塵作業の融通性が飛躍的に向上する。この
ことは,穀類乾燥機用集塵器の物品特性等からみて,需要者又は取引者にとって意
匠全体の中での重大な関心事であって,最も注意を惹く部分であるといえる。
なお,審決が,含塵空気導入口筒に係る共通点Eについて,空気出口筒ほどボリ
ュームはないものの,目につきやすい位置にあるため,類否判断において一定の影
響を与えると判断していることからしても,含塵空気導入口筒が2本か1本かは,
類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
したがって,含塵空気導入口筒が2本か1本かは,両意匠の形態上の特徴を顕著
に表し,形態全体の基調を決定付け,看者の注意を強く惹く部位であるから,類否
判断における要部であり,これによって,本件意匠と引用意匠とでは明らかに別異
の審美感を想起感得させるものであり,本願意匠と引用意匠との共通点を凌駕して
いるから,両意匠は非類似の意匠である。
(3)類否判断に当たっては,各形態の組合せに注意しつつ,共通点及び相違点
を総合的に検討し,それら共通点及び相違点が意匠全体の美感の類否に対し,どの
ような影響を与えているかを判断すべきであるのに,審決は,両意匠の形態におけ
る各共通点及び相違点を個別に評価するだけで,全体観察をせずに類否を判断し,
その結果,相違点ア~ウが類否判断に及ぼす影響は微弱であるとしているのであっ
て,誤っている。
第4被告の反論
1取消事由1に対して
原告が引用する意匠審査基準は,類否判断の手法に関する一般的な考え方を示し
たものにすぎず,意匠の類否判断では,基本的構成態様と具体的構成態様における
共通点及び相違点について,個別の評価に基づき,意匠全体として総合的に判断を
行うのであるから,原告の主張するような,本願意匠と引用意匠の認定においてし
た基本的構成態様と具体的構成態様の仕分けが審決の結論に直結するものではな
い。
2取消事由2に対して
(1)本願意匠と引用意匠の意匠に係る物品は「穀類乾燥機用集塵器」であって,
「意匠に係る物品の説明」の記載によれば,穀類乾燥機が排出する含塵空気を,導
入管体を通して,混合物を分離する器体内に導入し,この器体内においてサイクロ
ン作用により塵等を分離し,塵等を器体外に排出する方式の集塵器である。そして,
両意匠の意匠に係る物品が含まれる集塵器(機),分離器(機),ろ過器(機)等
の分野において,サイクロン作用によって混合物を分離する方式は,サイクロン式
と呼ばれて本件出願前よりごく一般的な混合物分離方式であり,両意匠の意匠に係
る物品である「穀物乾燥機用集塵器」の分野においても,サイクロン式の集塵器は
一般的であった。サイクロン式の混合物分離においては,横断面が円形のサイクロ
ンと呼ばれる器体に混合気体を導入するための導入管を設けるものであるが,その
際,導入管は,サイクロン器体に接線方向に設けることが普通に行われており,ま
た導入管を1本ではなく複数本設けることも,本件出願前より本願物品の属する分
野において普通に行われており,導入管の本数を2本とした態様の意匠も,本件出
願前に公然知られていた。本願意匠の導入管の配置態様は,横断面を円形とするサ
イクロン器体に対して,その接線方向の2方向の器体中心軸に対して点対称の位置
に,器体本体の同じ高さで付設された配置態様であるが,円形器体の接線方向の2
方向の器体中心軸に対して点対称の位置に設けた2つの導入管が,器体本体の同じ
高さに付設された態様,すなわち本願意匠における2つの導入管の配置態様も,本
件出願前に公然知られていた。
なお,審決が例示した先行公知意匠である甲3公報に表された2個の吸着剤吹込
ダクト6・6が,選別対象物そのものをサイクロン器体内に導入する部位ではない
としても,この部位は,サイクロン器体において選別を行うために何らかの気体を
導入する機能を担う部位であるという点では共通しており,この態様について,機
能の共通性を前提として先行公知意匠を参酌したことは妥当なものであり,原告の
主張は失当である。
(2)含塵空気導入口筒を2本にした構成態様は,取引者・需要者の注意を惹く
部位ではあるものの,意匠を全体として見た場合に,最も注意を惹く部分であると
することはできない。
なぜなら,この種物品は,穀物乾燥機と共に使用されるものであるところ,穀物
乾燥機の形態は様々であり,また,穀物乾燥機及び穀物乾燥機用集塵器を設置する
場所も様々であるから,穀物乾燥機用集塵器の取引者・需要者は,それらの様々な
条件の下に穀物乾燥機用集塵器を選択することになる。その際,例えば集塵器本体
の形状は,集塵機能を端的に表す形状として取引者・需要者の注目するところであ
り,本体を支持する支持脚は,穀物乾燥機の形態や集塵器の設置場所の制約を受け
ることから,やはり取引者・需要者の注目するところであるなど,この物品の意匠
には含塵空気導入口筒以外にも注目する部位が多々ある。
また,含塵空気導入口筒は,目に付きやすい位置にあるが,集塵器体本体に付設
された空気出口筒,塵出口筒もそれぞれ目に付きやすい位置にある。そして,取引
者・需要者は,これらの付設管体各部をまんべんなく見るのであり,含塵空気導入
口筒のみに注目し,他を全く認識しないということはない。さらにいえば,これら
の付設管体よりも,集塵室器体本体及び支持脚こそが,最も目に付きやすいところ
にあり,かつ意匠全体に占めるボリュームが大きいところであるから,取引者・需
要者は,視覚を通じて意匠を全体として観察するとき,この集塵室器体本体及びこ
れを支持する支持脚にまず注目する。そして,両意匠の比較に当たっては,集塵室
器体本体及び支持脚に注目した後,器体各部に付設された管体のそれぞれの形態を
視認し把握した上で,意匠全体として総合して,それぞれの形態を比較するのであ
る。
したがって,含塵空気導入口筒のみを取り出し,これが両意匠の形態上の特徴を
最も顕著に表した部位であるとすることはできないし,含塵空気導入口筒が形態全
体の基調を決定付け,看者の注意を強く惹く部位であるとすることもできない。ま
して,導入口を2本にした構成態様の創作的価値を新規な創作として高く評価する
ことはできないのであって,審決の類否判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断
1類否判断の前提となる事実
本願意匠と引用意匠(意匠権者は原告)の意匠に係る物品は,いずれも穀類乾燥
機用集塵機であって,同一である。
また,両意匠の形態につき,審決が認定した上記の共通点と相違点を基本的構成
態様と具体的構成態様のいずれと位置付けるかについては別として,共通点A~F
の各点において共通していることと,相違点ア~ウの各点において相違しているこ
とそれ自体については,原告も争わない。
2両意匠の類否
(1)両意匠の意匠に係る物品の説明及び各図面によれば,次のとおり認められ
る。
両意匠の穀類乾燥機用集塵機は,穀類乾燥機から排出される含塵空気について,
器体内のサイクロン作用により空気と夾雑物等に分離し,さらに,分離されて器体
から排出された空気を水の水面に近接させて,空気中の塵埃を捕集することを目的
とするものである。そのために,主として,器体,器体を中空に支えるための支持
脚,器体に含塵空気を導入するための含塵空気導入口筒,器体から空気を排気する
ための空気出口筒,分離されて自重落下する夾雑物等を器体下方の集塵袋に収容す
るための塵出口筒から構成されている。意匠全体に占める大きさは,器体と支持脚
が最も大きく,空気出口筒がこれに次ぐ大きさで,含塵空気導入口筒は空気出口筒
よりも小さく,塵出口筒はかなり小さい。機能についてみると,器体の形状や大き
さは集塵の方式や能力に関係し,支持脚の形状や長さは設置場所や安定性に影響を
及ぼし,空気出口筒も塵埃の捕集という機能と関係する部位であり,含塵空気導入
口筒の個数は接続できる穀類乾燥機の数に影響するなど,それぞれ特徴を有する。
(2)以上の点に鑑みると,各部位のうち,形態として看者の目を惹く顕著な部
分は見当たらず,両意匠において取引者・需要者の注意をひく特徴的な部分(要部)
は,意匠全体の形態,すなわち,両意匠を構成する主要な部位の構成,形状,それ
らの各部位の組合せや配置等を総合したものであるというべきである。そうすると,
両意匠は,要部である意匠全体の形態について,共通点A~Fのとおり,意匠を構
成する主要な部位の種類,形状,それらの各部位の組合せや配置など,その大部分
が共通しているのであるから,取引者・需要者に対して,共通の美感を与えるもの
といえる。
これに対し,相違点ア-1は,空気出口筒の端部に,本願意匠には可撓性筒材が
接続されていないが,引用意匠には接続されているというものであるところ,本願
意匠の参考図によれば,本願意匠においても引用意匠と同様の可撓性筒材を用いる
ことが予定されていると認められるのであって,この点は実質的な相違点とはいえ
ない。相違点ア-2は,空気出口筒の屈曲部において,本願意匠には蛇腹があり,
引用意匠は平滑であるという差異であるが,上記の蛇腹は,金属の筒体を成形する
場合に表れるありふれた凹凸にすぎない。相違点イ-1の含塵空気導入口筒の本数
の違いは,単なる口数の変更であり,意匠全体に占める含塵空気導入口筒の大きさ
や機能を考慮すると,両意匠の共通性を否定するほどの相違であるとはいえない。
相違点イ-2も,両意匠の参考図に記載されるように,含塵空気を導入するための
ホースは上方から下方に向けられているのであるから,筒を上方に屈曲させること
は一般的な処理にすぎない。相違点ウも,意匠全体に占める大きさや機能を考慮す
ると,両意匠の共通性を否定するほどの相違であるとはいえない。
以上を総合すると,本願意匠は,相違点を考慮したとしても,全体として取引者
・需要者に引用意匠と共通の美感を生じさせるものと認めるのが相当であって,引
用意匠と類似する。
3原告の主張に対する判断
(1)原告は,審決が相違点イ-1を基本的構成態様ではなく具体的構成態様と
して認定したことは誤りであると主張する。しかしながら,上記2(2)で判断したと
ころによれば,審決が共通点Aとして認定したところが両意匠の基本的構成態様と
して評価されるべきであり,相違点イ-1をもって具体的構成態様として判断を進
めた審決に誤りはないから,原告の主張は失当である。
(2)原告は,審決が引用した甲3公報記載の意匠について,点対称の位置に配
置された2本の吸着剤吹込ダクトは本願意匠の含塵空気導入口筒に該当しない旨主
張する。しかしながら,審決は,含塵空気導入口筒の数が2本か1本かという違い
は単なる口数の変更にすぎないとした上で,この種物品が含まれる分野において2
本の筒(含塵空気導入口筒に限定されない。)を点対称の位置に配置するという形
態が公知であることを示す一例として甲3公報を引用したものであって,甲3公報
記載の意匠において,点対称の位置に配置された2本の管が含塵空気導入口か否か
は,相違点イ-1が両意匠の共通性を否定するほどの相違ではないという上記判断
に影響を及ぼすものではない。
(3)原告は,相違点イ-1が,作業効率の向上という点からして,取引者・需
要者にとって意匠全体の中で重大な関心事であり,最も注意を惹く部分であると主
張する。しかしながら,上記2で説示したとおり,穀類乾燥機用集塵機の機能から
して,含塵空気導入口筒以外の器体,支持脚,空気出口筒にもそれぞれの機能や特
徴があるというべきであり,取引者・需要者にとって,含塵空気導入口筒が最も注
意を惹く部分とする原告の主張は採用することができない。
(4)原告は,審決が,各共通点及び相違点を個別に評価するだけで,全体観察
をしていないと主張する。しかしながら,審決は,その説示に照らし,共通点と相
違点をそれぞれ検討した上で,意匠全体について総合的な評価をしたことは明らか
であって,原告の主張は採用することができない。
第6結論
以上のとおり,引用意匠との対比において本願意匠の意匠法3条1項3号該当性
を肯定した審決の判断に誤りはなく,原告の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
古谷健二郎
裁判官
田邉実

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