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平成30年3月14日判決言渡し名古屋高等裁判所
平成28年(行コ)第90号懲戒免職処分取消等請求控訴事件(原審・名古
屋地方裁判所平成27年(行ウ)第16号)
主文
1原判決を取り消す。
2処分行政庁が控訴人に対し平成22年12月22日付けでした
免職処分を取り消す。
3処分行政庁が控訴人に対し平成22年12月22日付けでした
退職手当支給制限処分を取り消す。
4訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,被控訴人の職員で,長期間の無断欠勤を理由に平成22年1
2月22日付けで懲戒免職処分(以下「本件免職処分」という。)及び
退職手当支給制限処分(以下「本件支給制限処分」といい,本件免職処
分と併せて「本件各処分」という。)を受けた控訴人が,被控訴人に対
し,本件各処分の取消しを求める事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却し,これを不服とする控訴人が,
本件控訴を提起した。
2前提事実,主な争点及び当事者の主張は,次のとおり補正するほか,
原判決「事実及び理由」第2の2及び3に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
なお,当審の第1回弁論準備手続期日において,受命裁判官が,双方
に対して,「いわゆる「新型うつ」についての議論を踏まえた「うつ病」
の捉え方」につき主張を補充するよう求めたが,控訴人は,控訴人の本
件無断欠勤が「新型うつ」の状況下でなされたものであるとの明示的な
主張をしなかった。
原判決8頁2行目の後に,行を改め次のとおり加える。
「A医師は,控訴人に4回面接をし,本人の供述を丹念に聞き取った
上で,診断結果報告書(甲8)において,控訴人が,仕事を忌避する
気持が強くなり,自分を無用の人間と考える「自己価値の退縮」が生
じ,そもそも思考が湧いてこない「思考の制止」が生じており,これ
らうつ病に特徴的な症状をとらえてうつ病であると診断している。こ
れを否定した原判決は,認知や記憶の障害の有無を択一的に捉えるの
みで,その程度を問題としておらず,また,事実の記憶と心情の記憶
との区別を問題としておらず,極めて粗雑な認定である。
原判決は,平成22年7月後半以降,当日申請の休暇の取得が急に
増えたという事情があったとしても,控訴人の以前からの行動様式や
勤労意欲の低下と整合的に理解することができるなどとしたが,控訴
人は,平成21年度以前に休暇を取る場合には,ごく一部の例外を除
いて,通院等のために当日申請によって時間単位の休暇を取得するこ
とはあったが,いったん出勤し,朝8時に休暇を申請して帰るという
行動とは全く異なるものである。控訴人は,平成22年6月から8月
にかけて,出勤後当日届出で休暇を取得して職場を去るという行動を
とるようになり,当日届出の休暇取得を頻繁に行うようになった平成
22年7月後半の時点での控訴人の精神状態はかなり悪化していたと
推測されるが,それでもきちんと職場に行って,休暇届の手続をして
休むという最低限の手続,最低限の規範を遵守することができていた。
にもかかわらず,同年8月17日,控訴人は,いつもより30分ほ
ど早い朝7時頃には職場に出勤していながら,その場にいたくないと
いう気持ちで頭がいっぱいになって,何も考えられなくなり,午前8
時まで待つことができず,それまでの行動パターンとしてあった規範
意識が全く吹き飛んでしまい,休暇届を出すという最低限の手続も踏
まずに突発的に職場を出て行方不明となった。わざわざ職場に赴いた
上で,何の届出もせず,事後的な処理もせず失踪するという行為は,
控訴人のそれまでの生活様式や行動様式からして「衝動的で了解しが
たい」ものというべきであり,8月17日の控訴人の行動は,今まで
の行動パターンと明らかに違って了解不可能である旨結論付けている
A医師の診断は(甲8の8~11頁,乙26の11頁),極めて説得
的である。
A医師は,DSMの診断基準によっても,控訴人は大うつ病性障害
に該当すると明確に述べている。控訴人は,DSM-Ⅳの大うつ病エ
ピソードの診断基準に記載された9つの症状のうち,の「抑うつ気
分」,の「興味,喜びの減退」,の「睡眠障害」,の「精神運
動性の焦燥または制止」,の「易疲労性,または気力の減退」,
の「無価値観(自己価値の退縮)」,の「思考力や集中力の減退,
または決断困難」という症状を有しており,また,必須症状のうち,
及びの両方か,少なくともはあったから,本件無断欠勤当時,
控訴人がうつ病を発症しており,うつ病による判断能力の著しい低下
又は喪失を来していたことは明らかであり(甲10の4頁,乙26の
17頁,60頁),これを否定した原判決は誤っている。
仮に,医師による解釈の違いにより,控訴人がDSM-Ⅳの大うつ
病エピソードの診断基準に基づいたうつ病という類型自体に該当する
とはいえなかったとしても,控訴人が,うつ病に特徴的な複数の症状
を示すうつ状態にあり,平成22年8月17日の朝,焦る気持ちが募
り,その場にいたくないという気持ちで頭がいっぱいになって何も考
えられなくなり,とにかくその場から離れたいという異常な精神状態
になって失踪したことは動かしがたい事実であり,本件無断欠勤当時,
控訴人は,通常の公務員や控訴人が普段有していた判断能力に比べ,
状況を切り開く能力,判断能力が減弱し,最低限の手続を履践して職
場を離れるという公務員の規範意識が喪失してしまい,正常な状況把
握と適切な判断ができない状態にあった。」
原判決8頁3行目冒頭から10行目末尾までを次のとおり改める。
「本件無断欠勤前の控訴人の勤務状況に対する職場の対応
厚生労働省は「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を定
め,職場におけるメンタルヘルスを推進しており,本件のようにメ
ンタルヘルス不調に陥る労働者が出た場合に,早期発見と適切な対
応を図ることが必要であるため,同指針は「メンタルヘルスケアに
おいては,ストレス要因の除去又は軽減や労働者のストレス対処な
どの予防策が重要であるが,これらの措置を実施したにもかかわら
ず,万一,メンタルヘルス不調に陥る労働者が発生した場合は,そ
の早期発見と適切な対応を図る必要がある。」としている(甲29の
24頁)。その中でも労働者のすぐ近くにいる管理監督者の役割は重
要であり,「管理監督者は,日常的に,労働者からの自発的な相談に
対応するよう努める必要があ」り,また,「強度の心理的負荷を伴う
出来事を経験した労働者,その他特に個別の配慮が必要と思われる
労働者から,話を聞き,適切な情報を提供し,必要に応じ事業場内
産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促すよう努め
るもの」とされている(甲29の25頁)。同指針を踏まえた管理監
督者による部下への接し方の取組内容としては「いつもと違う」部
下に早く気づくことが大切だとされている(甲29の14頁)。「い
つもと違う」という感じを持つのは,部下がそれまでに示してきた
行動様式からズレた行動をするからであり,「いつもと違う」部下の
様子の具体例としては「遅刻,早退,欠勤が増える。」が挙げられて
いる(甲29の14頁)。
本件無断欠勤が始まる直前約1か月間の控訴人の休暇取得状況は,
頻度が高いだけではなく,その経緯も特殊なものであり,控訴人は,
通常どおり退庁時刻まで勤務する意思で出勤したにもかかわらず,
何か急用ができたわけでもないのに,始業前にそこにいることが嫌
になり耐えられなくなり,アイシステム(愛知県職員ポータルサイ
トシステムの総務事務システムの通称)が使える午前8時まで待っ
て当日届出により休暇を取得して退庁するということを繰り返して
いた。
また,控訴人は,勤務中に寝てしまうということが何度かあり(甲
11の6頁),本件無断欠勤当時,農政課長として控訴人を管理監督
すべき立場にあったB(以下「B課長」という。)も,控訴人が勤務
中に居眠りをしているのを現認している(乙27の36頁)。
このように,控訴人は,本件無断欠勤直前に,いつもとは違う,
メンタルヘルスの不調を疑うべき明瞭な兆候を出しており,管理監
督者がその異常性に気付かないはずがない。被控訴人は,このよう
な,「いつもと違う」控訴人の行動に気付き,メンタルヘルスの不調
を早期発見し,控訴人から話を聞き,適切な情報を提供し,必要に
応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業所外資源への相談や医療機
関の受診を促すよう努めるべきであるのに,これを怠った。控訴人
のメンタルヘルスの不調は,それによって重篤となり,判断能力が
著しく低下ないし喪失し,それまでにはあった,休暇届を出して休
むという最低限の手続を履践するという規範意識すらなくなり,届
出すらせずに職場から遁走して行方不明となり,以後,無断欠勤す
るに至ったものであるから,仮に控訴人がうつ病に該当するとはい
えなかったとしても,控訴人の帰責性は減じられるべきである。」
原判決8頁14行目の「本件無断欠勤」から15行目の「にある。」
までを次のとおり改める。
「控訴人は,本件無断欠勤当時,重篤なうつ病に陥っており,また,
重篤でないとしてもうつ病に陥り,あるいは診断名としてのうつ病そ
のものに該当しないとしても,うつ病の症状をいくつか有するうつ状
態にあったのであって,通常の公務員や控訴人が普段有していた判断
能力に比べれば判断能力が低下し,自分の置かれている状況や自分の
行動の引き起こす結果の予測もできず,正常な状況把握と適切な判断
ができない精神状態にあったのであるから,全く精神状態に異常がな
い者が起こした行為と比較し,責任非難の度合いは,低下ないし消滅
するというべきである。」
原判決9頁18行目の後に行を改め次のとおり加える。
「控訴人は,原判決が,無断欠勤中の控訴人の状態について,認知や
記憶に障害が生じていたとは考え難い旨認定したことを,極めて粗雑
な認定であると論難しているが,控訴人が,原審における本人尋問に
おいて,無断欠勤中の行動などについて相当程度具体的な供述をして
いることは動かし難い事実である。また,無断欠勤中の心情について,
「考えると落ち込むので,自分で考えることを辞めていたのだと思
う。」とか,「後になって考えてみると「自分で自分に保険をかけて
いた」のだと思う。」(甲8,乙25の72頁)などと述べていると
ころ,そこで述べられている思考は,仕事から逃げて無断欠勤を続け
ている者として一般的かつ正常な思考というべきものであって,この
ことからも無断欠勤中の控訴人の認知や記憶に障害が生じていたとは
考え難い旨認定した原判決は何ら粗雑なものではなく,その判示に誤
りが存しないことは明らかである。
控訴人は,欠勤中の行動内容について,「スーパーのゲームコーナ
ーやゲームセンターで時間をつぶしていた。ゲームはそれなりに楽し
めていたが,長くは続けられず30分程度で嫌になった。」とか,「パ
チンコもやった。」とか「飲みにも行った・・・週に4-5日だった
のが2-3日になった。」とか,「食事は1日1食程度,Cなどで食
べていた。」とか,「昼間は暑かったので,スーパーなど涼しい場所
を探して過ごしていた。」と陳述するなど(甲8,11,乙5の43
頁,乙25の72頁,103頁)相当に明確かつ具体的な記憶がある
ことを自ら認めており,ネットカフェに宿泊した事実についても,「2
2時頃にネットカフェに入り,4-5時間の睡眠は取っていた。」と
(甲8の5頁),入店時間や店内での睡眠時間まで具体的に記憶をし
ており,かかる観点からも,控訴人の主張が失当であることは明らか
である。
控訴人は,以前から当日申請による日単位の休暇申請を為していた
(乙10,11)から,この点を「以前からの行動様式」ないし「勤
労意欲の低下」を明らかにする一つの事実として適示する原判決が正
しいものであることは明らかである。
D医師も,控訴人が「平成22年8月17日に初めて無断欠勤する
以前から,当日届出の有給休暇や早退が増えているという事実や,い
ったん出勤した後に届出をして有給休暇をとるといった奇異な勤務態
度からは,無断欠勤が了解しがたいというより,むしろそれらの行為
の延長上に無断欠勤があったものと了解的に理解し得る。」と指摘し
ているとおり(乙13,25の158頁),控訴人の無断欠勤は,控
訴人の性格・性癖ないし,単に仕事から逃避したいというわがままな
気持ちに起因するものであったことが明らかなのである。
DSM-Ⅳを用いた診断は,精神医学の分野で客観的な手法として
実施されており,D医師は,この方法によれば,控訴人は何らの精神
疾患にも罹患していないと結論付けている(乙13)。控訴人は,A
医師がDSMによるとうつ病の「発症が」が否定されるなどとは述べ
ていないとか,DSMに準拠すると「重度のうつ病」には罹っていな
かったという見解を述べていると主張するが,A医師は,DSMの診
断基準に依拠すれば控訴人がうつ病に罹患していたという確実な根拠
は見当たらない旨,明確に述べているのであり(甲10,乙25の8
4頁,86頁,乙26の60~61頁),本件無断欠勤当時,控訴人
がうつ病に罹患していなかったことは明らかである。
なお,控訴人は,「仮にうつ病ではなかったとしても,うつ病の症
状をいくつか示しており,正常な状況把握と適切な判断ができない精
神状態にあった。」と主張しているが,本件ではそのような事実の存
在も認められない。」
原判決9頁21行目の後に行を改め次のとおり加える。
「厚生労働省が「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定
していること,同指針(甲29)に控訴人が指摘する記載が存するこ
とは認め,その余は争う。そもそも控訴人は,何らの精神疾患にも罹
患していないのであるから,上記指針は本件とは無関係である。
この点,控訴人は,自らがうつ病に罹患していたなどと主張してい
るが,D医師が,A医師の意見書(甲8)記載の事実関係を検討し
た上で,それらの事実を以てしても控訴人がうつ病に罹患していたと
の事実は認められないと判断していること,控訴人は本件無断欠勤
の前までに一度として精神科に自発的に通院した事実はなく,懲戒免
職を申し渡された後に弁護士に相談した際に「診断書を付けろ」とい
った訴訟戦略を見据えた助言を受けて初めて精神科を受診したこと,
少なくともA医師の診察を受けた時点では,うつ病の症状は一切な
かったことなどの事実からしても,控訴人がうつ病に罹患したという
客観的な証拠など一切存在していないことは明らかというべきである。
控訴人が平成22年4月以降,継続的に当日の休暇申請をしていた
こと(平成22年4月から同年6月18日までの間に控訴人が当日の
休暇申請をする日が少なからず存したこと,同月25日や同年7月2
0日にも同様に当日の休暇申請をしたこと,その後も同様に1か月強
の間に10回程度,当日の休暇申請をしたこと)は認めるが,かかる
行動は,控訴人の一種の性癖とみるほうが相当である。控訴人が勤務
中に寝てしまうということが何度かあったことは事実であるが,B課
長が控訴人の居眠りを現認したのは一度のみであるところ,勤務時間
中に居眠りをすることの是非は別論として,勤務時間中に一度居眠り
をすることなど,世上,希なことではなく,ごくごく一般的な事象で
あることは明らかである。
本件無断欠勤当時,控訴人はいかなる精神疾患にも罹患していなか
ったから,何らかの精神疾患に罹患していたことを前提とする控訴人
の主張は誤っている。その点を暫く措くとしても,無断欠勤を始める
直前の控訴人の態度,行動には何らの変化も存しておらず,上記のと
おり,当日の休暇申請という行動も,それまでと同様の行動に過ぎな
い。
控訴人は現在まで独身の身であるが,A医師作成の意見書によれば,
控訴人は,若い時から母親から忠告を受けると反発して家出をし,愛
知県職員として相当額の給与を得ていながら,借金をため込み,最後
は母親に借金の穴埋めをさせるなど,マザコン的な行動が明白に認め
られるのであり,このような控訴人の行動は,まさに自己愛性人格障
害に親和性が極めて強い自己中心的行動であり,今回の長期無断欠勤
もその延長線上にある行動であることは明白で,いわゆるマザコンな
いし過保護と深く関係している行動であり,これを精神病であるなど
として免責することは,県民の血税を違法不当に支出させる結果を生
むものとなるから,被控訴人は断じて認めることはできない。」
原判決9頁22行目の後に行を改め次のとおり加える。
「前記のとおり,本件無断欠勤当時,控訴人がうつ病に罹患していな
かったことは明らかであるし,控訴人がうつ病の症状をいくつか示し
ており正常な状況把握と適切な判断ができない精神状態にあったとい
うような事実の存在も認められない。」
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人の請求にはいずれも理由があると判断する。その
理由は,以下のとおりである。
2認定事実
前提事実,甲5~12,14,18~20,24,28,乙1~7,
9~12,16,25~27(枝番のあるものは特記しない限り枝番を
含む。以下同じ。)及び原審控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を
総合すれば,以下の事実が認められる。
控訴人の経歴
控訴人は,昭和27年8月●日に出生し,高校卒業後,農業技術大
学校に進学し2年間学んで卒業した後,昭和48年4月に愛知県職員
として採用された。
控訴人は,農業技術改良普及員の資格を有しており,同じ資格を有
する愛知県職員であり技監として勤め上げた父の影響もあって,仕事
を通じて農業の普及,発展に役立つことに生甲斐を感じながら,事務
職として勤務し,主として農林水産業務を担当していた。
控訴人は,県庁経済流通課,E農林水産事務所経済課,F農林水産
事務所経済課,G農林水産事務所経済課,H家畜保健衛生所での勤務
を経て,平成14年4月から4年間,H事務所(H農林水産事務所)
農政課で主任主査として農地調整や農村対策等の仕事を担当し,平成
18年4月から2年間,E農林水産事務所総務課で主任主査として総
務・経理・契約の仕事を担当し,平成20年4月の異動を迎えた。
平成20年4月の異動
ア控訴人は,平成20年4月にE農林水産事務所総務課からI事務
所(I農林水産事務所)農政課に主任主査として異動し,農地調整・
農村対策グループに所属し,主として農地転用許可事務等を担当し
た。農地転用を担当したのは2年ぶりであったが,控訴人は,従来
から農地の転用によって守られるべき農地が失われていくと考えて
おり,自己の意に沿わない判断を迫られることとなった。しかも,
後記認定にかかる農地転用違反事件については,控訴人は,転用許
可自体には関与しなかったものの,関連する手続に途中から関与し,
その際,既に定められていた方針に疑問を持ち上司に意見具申をし
たが,上司や同僚に自分の考えに理解を示す者は全くおらず,従来
の方針どおり手続を進めるほかなかった。
イ平成21年2月頃,豊田市内の農地が不正に転用されたという農
地法違反事件が新聞等でスクープされ,同年8月3日に豊田市の農
政課長始め4名が,農地法違反,虚偽申請の疑いで書類送検された
(以下「農地転用違反事件」ともいう。)。同事件の捜査のために,
同年5月28日に愛知県警察がI事務所に家宅捜索に入った日の朝,
控訴人は,朝5時頃に上司からの電話で出勤を指示されて,午前7
時頃,職場で最も早く登庁し,警察官から捜索差押令状を示されて,
会議室を準備して,そこに書類を運び入れるよう指示され,会議室
に十数箱の書類を運び込み,警察官から具体的な内容に立ち入った
質問を受けた。控訴人は,前記のとおり,この件についての処理方
針に疑問を持っていたが,その立場上そのことを警察官に述べるこ
とはできず,ただ書類を指差しする姿を撮影されるなどして捜査に
協力することを余儀なくされ,その後の個別の事情聴取の対象には
ならなかったが,新聞報道等により農地転用許可事務が世間の耳目
を集めていることから,精神的な負担を感じていた。
ウこの農地転用違反事件による家宅捜索を受けて以降,控訴人は,
市町村の担当者や農地転用許可申請者及びその代理人である行政書
士等との面談(基本的には2人,場合によっては3人以上で応対し
ており,控訴人が発言することは少なかったが,控訴人が応答する
ときもあった。)やその準備等のために割く時間が増え,また,毎月
開催される愛知県農業会議への農地転用許可に係る諮問の準備(想
定問答の作成。資料作りも含む。)にも時間を割いていた。ただし,
控訴人が残業申告をすることは,ほとんどなかった(乙7)。
エ控訴人は,期限のある仕事の期限を守れないことがあり,電気通
信事業者から農地に電気通信設備を設置しようとする事前の届出書
が提出されていたのに,届出書を受領した旨の回答書の作成・送付
事務を遅らせ,年休を取って,回答書を該当事業者まで直接持参し,
処理の遅れを謝罪したこともあった。
控訴人の上司は,控訴人に対し,現在の与えられた仕事をきちん
とこなすために,仕事を一人で抱え込まず,困った時はグループの
職員,班長に相談するようアドバイスしており,農政課の農地調整・
農村対策グループ内での控訴人と同僚や上司とのコミュニケーショ
ンは円滑に行われていた。
オ控訴人は,県庁に入るときから56歳まで働けばよいと考えてい
たし,55歳頃から元気が出なくなっていたことから,転勤を控え
た平成22年初め頃には退職を考えていたが,意に沿わない転用許
可の職場を離れ,希望する職務を担当できれば定年まで勤務しても
よいと考えるに至った。そこで,人事異動のヒアリング(個人面談)
において,上司に対し,「農地転用許可事務を担当しているが,新聞
報道された仕事であり,日頃のプレッシャーも増している。とにか
く今の(農地転用の)仕事から変わりたい。」,「できれば食品表示の
仕事にかわりたい。(理由:表示の仕事は経済流通課で経験があり,
制度が変わっているが,対応出来る。)」との希望を表明していた(乙
1の3の別紙4「平成21年度自己申告シートⅠ」,乙25の128
頁「平成21年度自己申告シートⅡ」)。
平成22年4月の異動から本件無断欠勤の開始まで
ア控訴人は,上記の希望は容れられず,平成22年4月からH事務
所(H農林水産事務所)農政課に主任主査として異動するよう命じ
られ,園芸農産・畜産グループに所属し,同年度に新規に開拓され
た「戸別所得補償制度モデル対策に関すること,及び,同モデル対
策支援チームに関すること」の主担当になった。
イ戸別所得補償制度は,平成22年度から新規に開拓された事業で
あり,以前から転作や生産調整に疑問を抱いていた控訴人は,今回
の異動で転作の仕事を担当することになったことに失望した。しか
も,I事務所時代に農地転用違反事件に関連する手続において,控
訴人の意見に全く理解を示さなかった同僚の1人も同時期に同じ課
に転勤している上,新しい職場では,同僚と仕事のことで話をする
機会はほとんどなかったことから,思うように仕事を進めることが
できず,転勤せずに仕事をやめておけばよかったと後悔することが
あった。このような状況の中で,控訴人は,上司が作成を命じた資
料につき,本来出先の事務所ではなく本庁において作成すべきもの
ではないかと疑問に思い,そのような仕事をさせられることをむな
しく思っていた上,いったん作成したものの作り直しを命じられる
などしたため,仕事に嫌気がさした。また,勤務時間中,上司に斜
め後ろから常時監視されていると感じたりするようになり,職場に
おいて,日々緊張し続けるようになった。
控訴人は,以前から,飲酒して就寝するなどして,毎朝午前3時
頃には目が覚めるという早朝覚醒が続いており,日中眠くなること
もあり,仕事中に居眠りをし,B課長がそれを現認したこともあっ
た。この頃,控訴人は,思考力が低下し,仕事を一生懸命やっても,
頭の中でそれを整理してまとめることができず,メモを取ってもメ
モが役にたたないこともあった。控訴人は,上記のように仕事の内
容に自己の考えに沿わない不当なものと考えるものがある上,自己
の考えを述べても理解する者がいなかったことから,自分は職場で
役に立たない不要な人間であり,自分などいなくても仕事は回って
いくと感じ,次第に仕事が嫌になり,職場にいることが耐えられず,
逃げ出したい気持ちになっていった。ただし,控訴人は,始業時刻
ぎりぎりに行くと出勤自体をやめてしまうおそれがあると考え,そ
ういうことが起きないように,通常の始業時刻である午前8時45
分よりも早めに職場に出勤していた。
ウ控訴人は,平成22年6月25日に,当日届出の1日単位の休暇
を取得した。それまで,控訴人が当日届出の1日単位の休暇を取得
することは例外的なことであったが,控訴人は,その後,7月23
日,26日,27日,28日,29日,8月4日,12日,13日,
16日と,短期間の間に,当日届出の1日単位の休暇を9日も立て
続けに取得した(なお,控訴人は,このほか7月20日と22日に
も1日単位の休暇を取得しているが,乙10によれば,7月20日
の休暇届出日は同月16日,7月22日の休暇届出日は同月21日
であり,当日届出ではなかった。)。
職員が休暇(年次休暇・有給休暇)を取得する場合は,事前にア
イシステムで申請し,上司の了解を得ることになっているが,急病
や急用のためやむを得ず休暇を取得する場合は,電話連絡等で了解
を得て,アイシステムへは代理申請でも可とされている。しかし,
上記9日のうち控訴人が代理申請で休暇を取得したのは7月23日
と29日のみで,7月26日,27日,28日,8月4日,12日,
13日,16日は,いずれも当日の朝は1日仕事をするつもりで1
時間余りの通勤時間をかけて午前7時台にいったん出勤しながら,
気持ちが非常に焦って落ち着かず,職場にいたたまれなくなり,パ
ソコンを開いてメールチェックをして必要なメールの返信を行った
後,アイシステムが使えるようになる午前8時まで待って自身でパ
ソコンのアイシステムに登録をし,班長であるJ課長補佐(以下「J
補佐」という。)の許可をもらって職場を離れるという,特異な休
暇申請を続けていた。
エJ補佐は,控訴人のこのような特異な休暇の取得申請に接しても,
その理由等を確認したり,控訴人が休暇を取ることによる仕事上の
支障の有無について話題にしたりすることはなく,したがって,控
訴人の置かれていた上記のような精神状況を確認しないままに,漫
然と休暇取得の許可を与え,控訴人が上記のような特異な休暇申請
をし続けていることについて,上司であるB課長に報告することも
しなかった。
オ欠勤を開始した同年8月17日には,控訴人は,いつもより1本
早い電車で職場に出勤してパソコンを開いたものの,落ち着かない
気持ち,焦る気持ちがそれまでよりもはるかに強くなり,その場に
いたくないという気持ちで頭がいっぱいになって何も考えられなく
なり,それまではアイシステムが使えるようになる午前8時まで待
って休暇届出をするという最低限の手続を踏むことができていたの
に,この日は午前8時まで職場で待つことすらできず,休暇届の手
続をしないままに職場を離れてしまい,気が付いたら電車に乗って
いた。
控訴人の無断欠勤中の状況
ア控訴人は,その後,職場にも母にも連絡することなく,スーパー
のゲームコーナーやゲームセンターなどで時間をつぶし,夜はネッ
トカフェで睡眠をとるなどして過ごし,携帯電話にも一切出なかっ
た。被控訴人の職場では,何の連絡もなく始業開始時にいない控訴
人を心配して庁舎内をくまなく探し回り,守衛室で当日午前7時1
9分に控訴人が農政課の火器予防点検簿を受け取ったことを確認す
るなどし,控訴人と同じマンションに居住する控訴人の母とも連絡
を取った。B課長とJ補佐は,同年8月21日の土曜日の午前中,
控訴人から話を聞くために,控訴人の母に教えられた行きつけの耳
鼻咽喉科医院付近で待機していたが,控訴人は,自動車で同医院に
出かけたものの,B課長とJ補佐を見かけたため,顔を合わせるの
を避けるために受診を取り止め,自動車を駐車場に置いたまま,そ
の場を離れた。課長らは,控訴人と会えなかったが,同医院の近く
に駐車された控訴人の車を発見して張り紙をして連絡を求めた。控
訴人は,その後駐車場に戻ったが,張り紙には応答しなかった。控
訴人の母は,控訴人を探しても見つからなかったため,同年8月2
6日に警察に家出人届を出した。その後,控訴人が自車の前方バン
パーに擦過傷を生じさせる物損事故を起こしたことが判明し,B課
長と控訴人の母が警察に事情を聞きに行ったものの,控訴人の行方
はわからなかった。
イ控訴人は,後日,当時の状況について,ゲームはそれなりに楽し
めていたが,長くは続けられず30分程度で嫌になった。パチンコ
もやったが集中力がなかった。飲みにも行ったが頻度は減り,週に
4-5日だったのが2-3日になった。食事は1日1食程度,Cな
どで食べ,午後10時頃にネットカフェに入り,4-5時間の睡眠
は取っていた。入浴は週に1回程度銭湯で済ませ,昼間は暑かった
ので,スーパーなど涼しい場所を探して過ごしていたなどと述べ,
また,当時の精神状態について,無断欠勤開始前と同様に思考が停
止していた,考えると落ち込むので,自分で考えるのをやめていた
のだと思う,思考が停止していた状態から回復するのに3か月ほど
かかった,頭の中が停止しており,漫画喫茶のような閉鎖空間で何
も考えられずにいることが良かった等と,振り返っている。
ウ控訴人は,同年10月25日頃,所持金がなくなり,換金できる
物を探すために家に戻り,疲れて寝ていたところを母に発見され,
同月26日,母に連れられてH事務所に登庁した。
3本件無断欠勤開始前の控訴人の勤務状況と被控訴人の対応に対する当
裁判所の判断
前記認定のとおり,控訴人は,アルコールの影響もあって,午前3
時頃に目が覚めるという早朝覚醒が続いており,仕事中に居眠りをし,
B課長がそれを現認したこともあったところ,本件無断欠勤開始直前
の頃の控訴人は,思考力が低下して考えがまとまらず,仕事が思うよ
うに進まないことに悩み,自分は職場で役に立たない不要な人間であ
ると感じ,職場にいることが耐えられない精神状態になっていた。
控訴人は,平成22年6月25日の朝,いったん職場に出勤後に,
当日の1日単位の休暇申請をして職場を離れるという方法で休暇を取
得したのを皮切りに,本件無断欠勤を開始するまでの1か月強の間に,
合計9日の当日申請の1日単位の休暇を取得しており,このうち代理
申請の7月23日と29日を除く26日,27日,28日,8月4日,
12日,13日,16日は,いずれも当日の朝,仕事をするつもりで
いったん出勤しながら,職場にいたたまれなくなり,アイシステムが
使えるようになる午前8時まで待って自身でパソコンのアイシステム
に登録し,班長のJ補佐の許可をもらって職場を離れるという,非常
に奇異な休暇申請をし続けていた。
厚生労働省が職場におけるメンタルヘルスを推進するために定める
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」では,メンタルヘルス
ケアにおいてはストレス要因の除去又は軽減や労働者のストレス対処
などの予防策が重要であるが,万一,職場でメンタルヘルス不調に陥
る労働者が発生した場合は,その早期発見と適切な対応を図る必要が
あり,管理監督者は,日常的に,労働者からの自発的な相談に対応す
るよう努める必要があり,強度の心理的負荷を伴う出来事を経験した
労働者,その他特に個別の配慮が必要と思われる労働者から,話を聞
き,適切な情報を提供し,必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や
事業場外資源への相談や受診を促すよう努めるものとしている(甲2
9の24~25頁)。同指針を踏まえた管理監督者による部下への接し
方の取組内容としては「いつもと違う」部下に早く気づくことが大切
だとされているところ,「遅刻,早退,欠勤が増える。」は,「いつもと
違う」部下の様子の具体例の最初に挙げられている(甲29の14頁)。
控訴人が朝出勤していながら特に急用もないのに当日申請で1日単
位の休暇を申請することは,それまでには全くなかったことであり(乙
10,11,原審控訴人本人),本件無断欠勤が始まる直前約1か月強
の間の控訴人の上記のような休暇取得状況は,頻度だけではなく,
その経緯も,控訴人のそれまでの行動様式とズレており,「いつもとは
違う」特異なものであり,控訴人はメンタルヘルスの不調を疑うべき
明瞭な兆候を発していたといえ,このころから控訴人は,うつ病ない
しそれに類似する精神の病気に罹患していたものと認められる。被控
訴人は,上記のような控訴人の特異な行動に気付いてメンタルヘルス
の不調を早期発見し,控訴人から話を聞き,適切な情報を提供し,必
要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業所外資源への相談や医療
機関の受診を促すよう努めるべきであったといえ,そのようにしてい
れば,控訴人が当時上記2イ,ウのような精神状況にあり,うつ病
ないしそれに類似する精神の病気に罹患していたことを確認すること
ができ,平成22年8月17日に控訴人が休暇届も出さずに突然職場
から遁走するなどという事態になることは避けられた可能性が極めて
高い。
それにもかかわらず,J補佐は,控訴人に話を聞いて控訴人が特異
な休暇申請を続けている理由等を確認することをせず,上司であるB
課長に対し,控訴人が特異な休暇申請をし続けていることを報告する
こともなかった。そのため,控訴人のメンタルヘルスの不調を早期に
発見する機会は失われ,これを改善する手続が講じられないまま推移
し,控訴人は,ついに同年8月17日の朝,その場にいたくないとい
う気持ちで頭がいっぱいになって何も考えられなくなり,休暇届を出
して休むという最低限の手続を履践するという規範意識すら喪失させ,
休暇届すら出さずに職場を離れて行方不明となり,以後,無断欠勤を
するに至った。本件無断欠勤当時,控訴人は,通常の公務員や控訴人
が普段有していた判断能力に比べ,状況を切り開く能力,判断能力が
減弱し,最低限の手続を履践して職場を離れるという公務員の規範意
識が喪失してしまい,正常な状況把握と適切な判断ができない状態に
あったといえる。
このように,控訴人がうつ病ないしそれに類似する精神の病気に罹
患していたことからして,その行為への帰責性は減じられるべきであ
る。
被控訴人の主張について
ア被控訴人は,控訴人の無断欠勤は,控訴人の性格・性癖ないし,
単に仕事から逃避したいというわがままな気持ちに起因するもので,
本件無断欠勤を始める直前の控訴人の態度,行動には何らの変化も
存しておらず,当日の休暇申請という行動も,それまでと同様の行
動に過ぎないと主張する。
被控訴人の上記主張は,本件無断欠勤とその前の1か月間に行わ
れた当日申請の休暇取得との比較をその有力な根拠としており,本
件無断欠勤前1か月程度の間に控訴人の精神状態に異常がなかった
ことを前提として初めて成り立つ立論である。しかし,控訴人が朝
出勤していながら特に急用もないのに当日申請で1日単位の休暇を
申請して職場を離れるなどということは,平成22年6月25日よ
り前には全くなかったことであり,それが僅か1か月足らずの間に
少なくとも7回も繰り返されたことも,後記で説示するとおりの控
訴人の当時の職場や仕事に対する心情等に照らすと,控訴人は既に
本件無断欠勤の1か月程度前から精神に変調を来し,それが悪化し
て本件無断欠勤に至ったと認めるのが相当である。したがって,被
控訴人の上記主張は,本件無断欠勤前の控訴人の精神状態に対する
誤った認識を前提とするものであって,採用できない(なお,当事
者双方はともに,控訴人の精神状態に関する意見書を提出している
ところ,双方の意見書の見解が異なる理由も,主として本件無断欠
勤が始まる前の控訴人の精神状態を既に変調を来していたと見るか
否かにかかるものと評価できる。上記の説示は,控訴人の依拠する
A医師の意見書に沿うものである。他方,被控訴人の依拠するD医
師の意見書は,当該時期における控訴人の精神状態には特に問題が
なかったことを当然の前提とするものであるが,その根拠となるべ
き具体的考察は何ら示されておらず,到底採用できない。)。
しかも,「当日になって急に休む。」は,愛知県の「メンタルヘル
ス支援の手引き」(乙8)においても,管理監督者が気づく職員の変
化の例の冒頭に掲げられている例であって,このような奇異な休暇
申請がその後立て続けに繰り返されたにもかかわらず,そのサイン
を放置し,不服申立てがされた以降もこれを看過している被控訴人
の責任は重いというべきである。
イ被控訴人は,本件無断欠勤当時,控訴人はいかなる精神疾患にも
罹患しておらず,正常な判断能力を有しており,控訴人一人では対
処できないほどに借金が膨らんだが,控訴人の母に相談できず,無
責任な浪費の後始末がつかずに逃げ出したというのが本件無断欠勤
の真の原因であると主張する。
しかし,本件無断欠勤前において,控訴人は,借金の返済を滞ら
せてはおらず,この件を母に相談しなければならないような状況に
もなかったから(甲20,24),無断欠勤の原因は借金ではない。
控訴人は,前記認定のとおり,平成20年以降担当した職務が自
己の意に反するものであった上,自己の述べた意見が上司や同僚に
全く理解されなかったこともあって,退職も考慮していたものの,
転勤を機に希望する職務を担当することができるものと期待して思
い止まっていた。しかし,平成22年4月の異動後の職務は以前に
も増して自己の意に反するものであり,初めて担当する職務であっ
たことから戸惑うことも多い中で,仕事について相談できる相手が
少なく,上司の命ずる仕事には不要と思えるものもあり,思うよう
に仕事を進められないと悩み,思考力が低下し,仕事を一生懸命や
っても,頭の中でそれを整理してまとめることができず,前任地以
来の経緯からして,自分は職場で役に立たない不要な人間であると
感じ,緊張し,いたたまれない思いがしていた。控訴人は,それで
も,始業時刻ぎりぎりに行くと出勤自体をやめてしまうおそれがあ
ると考えて,始業時刻よりも早めに職場に出勤していたところ,次
第に職場にいることが耐えられない精神状況になって,平成22年
6月25日の出勤後に当日申請の1日単位の休暇を取得したのを皮
切りに,本件無断欠勤開始までの約1か月強の間に,出勤しては当
日申請の1日単位の休暇を取得して逃げるように職場を離れるとい
う奇異な行動を頻繁に繰り返しており,このことは,この時期から
控訴人の精神状況に異変が生じていたことを示しているから(甲8,
10,乙26),被控訴人の上記主張は採用できない。
この精神状況の異変の兆候に対し,メンタルヘルスケアの観点か
ら被控訴人がなすべき対処が何らなされないまま,控訴人の精神状
況は悪化し,うつ病ないしそれに類似する精神の病気により正常な
状況把握と適切な判断ができない状態に陥り,控訴人は,休暇届出
をして休むという最低限の手続をとることもできなくなって,本件
無断欠勤に至ったものである。
4本件免職処分の違法性
本件免職処分は,正当な理由なく47日間にわたって勤務を欠いたこ
と(本件無断欠勤)のみを処分理由とするものであって,被控訴人もそ
の余の事由(例えば,業務に対する具体的な支障等)を主張するもので
はない。
しかし,被控訴人は,前記認定説示のとおり,無断欠勤に至る前に控
訴人が発していた精神状態の不調を疑うべき明瞭な兆候を見逃し,とる
べき適切な対応をとらなかった上,本件無断欠勤後も控訴人の精神状態
を正しく認識しないまま,控訴人の欠勤日数のみをことさら重大視して
本件免職処分を行ったものというべきであり,その判断の基礎になる事
実に対する評価において明白に合理性を欠くことにより,その判断が社
会通念に照らし著しく妥当性を欠くことは明らかであるから,裁量権の
範囲を逸脱又は濫用した違法なものである。
よって,控訴人による本件免職処分の取消請求には理由がある。
5本件支給制限処分の違法性
本件支給制限処分は,本件免職処分が適法であることを前提になされ
たものであるが,上記4において述べたとおり,本件免職処分に裁量権
の範囲を逸脱濫用した違法性があって取り消されるべきものである以上,
これを前提とする本件支給制限処分も違法であるから,その取消請求に
も理由がある。
6結論
以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容す
べきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこと
とし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官藤山雅行
裁判官水谷美穂子
裁判官金久保茂

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