弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 本件訴えのうち,被告春日井市立藤山台中学校長が,平成16年4月22
日付けでした,同年度における同中学校の道徳副読本として別紙目録記載の
各副読本を採択した処分の取消しを求める部分を却下する。
2 原告の被告春日井市に対する請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告春日井市立藤山台中学校長が,平成16年4月22日付けでした,同
年度における同中学校の道徳副読本として,別紙目録記載の各副読本を採択
した処分を取り消す。
2 被告春日井市は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成16年1
0月21日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,春日井市立藤山台中学校(以下「本件中学校」という。)の教諭で
ある原告が,被告春日井市立藤山台中学校長(以下「被告校長」という。)の
した別紙目録記載の各副読本(以下「本件各副読本」という。)の採択(以下
「本件各採択」という。)が,選定手続の基準に反する違法な行政処分である
と主張して,その取消しを求めるとともに,国家賠償法1条に基づき,被告春
日井市に対して,原告の教育権(の支分権たる教材選定権)が侵害されたこと
に基づく慰謝料100万円の支払を求めた事案である。
1 前提事実(争いのない事実等)
(1) 当事者
ア 原告は,昭和○○年4月1日付けで,愛知県教育委員会から愛知県春
日井市公立中学校教員に任命され,平成○○年4月1日付けで,本件中
学校教諭に補された者である。
イ 被告校長は,本件中学校の校長としてその校務をつかさどる者である
が,春日井市立学校管理規則(昭和35年8月15日春日井市教育委員
会規則第1号。以下「本件管理規則」という。)第3章に基づき,副教
材の選択権を有している。
なお,平成16年4月1日以降被告校長の職にあるAは,市町村学校
職員給与負担法1条,2条に規定するいわゆる県費負担教職員である。
ウ 被告春日井市は,地方自治法180条の5第1項に基づき,春日井市
教育委員会を設置しているところ,同教育委員会は,地方教育行政の組
織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)43条1項によ
り,県費負担教職員の服務を監督する立場にある。
(2) 本件各採択
被告校長は,平成16年4月22日,本件中学校の道徳副読本として,
本件各副読本をそれぞれ採択し,これを春日井市教育委員会に届け出,同
教育委員会は,そのころ上記届出を受理した。
(3) 原告による本訴提起
原告は,平成16年10月13日,名古屋地方裁判所に対し,本訴を提
起した。
2 本件管理規則の抜粋
第3章 教科書以外の教材の取扱
(教材の取扱)
第9条 校長は,教材及び教具の選定にあたってはその教育上の効果及び保
護者の経済的負担について十分配慮しなければならない。
(教材の承認)
第10条 学校において文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学
省が著作の名義を有する教科用図書のない場合に他の教科用図書を使用し
ようとするときは,校長は,あらかじめ教育委員会の承認を受けなければ
ならない。
(教材の届出)
第11条 学校において,学年又は学級全員に教材として次に掲げるものを
使用させる場合は校長はあらかじめ教育委員会に届け出なければならな
い。
(1) 教科書と併用して計画的,且継続的に使用する副読本,問題集その
他の参考書
(2) 学習の過程又は夏季及び冬季の休業日等に長期にわたって使用する
学習帳
3 本件の争点
(1) 本件各採択の行政処分性の有無(被告校長に対する請求に関する本案
前の争点1)
(2) 出訴期間の遵守の有無(被告校長に対する請求に関する本案前の争点
2)
(3) 本件各採択の適否(被告校長に対する請求に関する本案の争点)
(4) 国家賠償法1条に基づく損害賠償請求権の有無(被告春日井市に対す
る請求に関する争点)
4 争点に関する当事者の主張
(1) 本案前の争点1-本件各採択の行政処分性の有無について
(原告の主張)
ア 取消訴訟の対象となる行政庁の処分は,公権力の主体たる国又は公共
団体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し
又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうが,こ
れに該当するか否かの判断については,①当該行政庁の行為が公権力性
を有するものであること,②その行為によって生ずる効果が原告の法律
上の地位に対して影響を与えるものであることの二つが基準となる。
イ ①当該行政庁の行為の公権力性
地教行法23条(教育委員会の職務権限),33条(学校等の管
理),学校教育法21条(教科用図書),40条(準用規定),本件管
理規則9条(教材の取扱),10条(教材の承認),11条(教材の届
出),義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律を概観すれ
ば,「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」により国
から無償給与される義務教育教科書の採択は市町村教育委員会が権限を
有し,それ以外の教科用図書,教材等の採択権限は各学校長が有してい
るということになる。
したがって,被告校長の行った本件各採択には公権力性が認められ
る。
ウ ②その行為によって生ずる効果が原告の法律上の地位に対して影響を
与えること
教員が,人間的主体性と責任感を持って真理と教育専門的高水準の教
育を行っていくためには,自ら行う教育活動の内容を自主的に決定する
権能すなわち教員の教育権が保障されていると解さねばならない。この
教育権は,憲法23条(学問の自由),26条(教育を受ける権利・教
育の義務)及び教育基本法10条1項(教育行政)に由来し,実定法的
には,学校教育法28条6項(同法40条により中学校に準用されてい
る。)が「教諭は,児童の教育をつかさどる。」と定めていることが根
拠とされている。
そして,教員の教育権やその支分権としての教員の教科用図書その他
教材に対する使用裁量権は十分尊重されなければならない。
したがって,本件に即していえば,道徳の副読本として校長がいかな
るものを採択するかということは,教員の教育活動に影響を及ぼすこと
は明らかといえる。そして,教員の教育活動はその職務の中核をなすも
のであるから,法律上の地位と解すべきである。
エ 特別権力関係論は働かないこと
本件各採択については,原告が愛知県教育委員会により任命された春
日井市教育公務員の地位にあり,かつ被告校長によって採択された副読
本は本件中学校の教育課程内で使用されるものであるので,いわゆる
「特別権力関係」論の立場から行政処分性が否定されるのではないかと
いう論点があり得る。
しかし,他の行政事務とは異なり,教育活動が教員の人間的主体性と
責任感をもって行われるということは尊重されなければならず,教育が
上司からの一方的な指揮命令によって遂行されるようになれば教育の自
殺行為となる。これがまさに教員の法律上の地位の重要な要素となって
いるのであって,これが影響を受ける場合には,行政処分性を肯定し,
法的救済の必要がある。
(被告校長の主張)
原告の主張は争う。
取消訴訟の対象となる行政庁の処分は,公権力の主体たる国又は公共団
体が行う行為のうち,その行為によって直接国民の権利義務を形成し又は
その範囲を確定することが法律上認められているものに限られる(最高裁
判所昭和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217頁)。
被告校長の本件各採択は,これによって直接原告又はその他の国民とし
ての権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではなく,そのような
ことが法律上認められているものでもない。また,被告校長のした本件各
採択によって原告の法律上の地位に何らの影響を与えるものではない。
したがって,本件各採択は行政処分性を有しないものであるから,その
取消請求に係る訴えは不適法として却下されるべきである。
(2) 本案前の争点2-出訴期間の遵守の有無について
(原告の主張)
行政事件訴訟法は,行政処分について審査請求をすることができる場合
又は行政庁が誤って審査請求をすることができる旨を教示した場合におい
て,審査請求をしたときには,出訴期間の3か月は,その裁決があったこ
とを知った日から起算することを定めている(14条4項)。
原告は,平成16年4月26日,被告校長の上級行政庁である春日井市
教育委員会に対し,同月22日付けでされた本件各採択に関して,「藤山
台中学校道徳副読本採択に係る要求書」と題する書面を提出しているとこ
ろ,これは,行政不服審査法5条1項1号に基づく審査請求と解すべきで
ある。
そして,上記審査請求については,現在まで裁決がないので,同年10
月13日に提起された本訴は出訴期間を徒過したものではない。
(被告校長の主張)
原告の主張は争う。
本件各採択は平成16年4月22日付けでされており,原告は,当日こ
れを知った。他方,本訴が提起されたのは同年10月13日であるから,
本件各採択の取消しを求める訴えは,3か月の出訴期間が遵守されておら
ず,不適法である。
(3) 本件各採択の適否
(原告の主張)
ア 裁量権の制約
行政庁がその裁量権を適正に行使するためには,その充足されるべき
基準を内部的に定立し,これに基づいて権限を行使する必要があり,定
立された基準に違反したり逸脱したときは,裁量権の逸脱,濫用として
当該行政処分は取り消されるべきである。
また,行政庁の公正な裁量権行使のためには,その判断形成が公正な
手続によって行われなければならない。
さらに,裁量判断の過程において,考慮すべき要素を考慮せず,ある
いは不当に軽視し,他方,考慮すべきでないことを考慮に入れ,あるい
は加重に評価するなど,その判断過程に誤りがあるときも,やはり裁量
権の逸脱,濫用となる。
イ 本件における当てはめ
被告校長(当時はB)は,平成16年度の道徳の副読本の選定に当た
り,平成16年1月9日及び同年3月23日の教材採択委員会を通じ
て,「①第1回の投票で上位3つの候補に絞る。②その結果を基に学年
会で再検討し,職員会議で第2回の投票を行い2つの候補に絞る,③さ
らに学年会で検討し,3度目の投票を行い,多いものを採択する。」と
の基準(以下「本件選定手続基準」という。)を定立した。
本件選定手続基準に従って行われた第2回目の投票の結果,日本文教
出版刊の「あすを生きる」を選定すべきとする意見が13票,財団法人
愛知県教育振興会刊「明るい人生」を選定すべきとする意見が12票
で,前者が後者を上回ったのであるから,被告校長(A)は,前者を選
定すべきであるにもかかわらず,第3回目の投票を行うことなく,後者
を道徳の副読本として選定する旨の本件各採択を行った。
したがって,本件各採択は,定立された基準に違反,逸脱するもので
あり,また,公正な手続に反するものであり,さらには,「明るい人
生」が退職校長等の天下り先である財団法人愛知県教育振興会の刊行物
であるという考慮すべきでない事実を考慮に入れたものであって,いず
れの観点からも,被告校長の裁量権の濫用,逸脱は明らかであるから,
本件各採択は違法なものとして取消しを免れない。
(被告春日井市の主張)
原告の主張は争う。
本件各採択を行うに当たり,被告校長が裁量権を逸脱,濫用したことは
全くないから,本件各採択は適法である。
原告が指摘する本件選定手続基準は,平成16年3月31日まで被告校
長の職にあった者が,個人的に原告ら教諭との間で合意したものにすぎ
ず,その後,被告校長の職に就いた者がこれを破棄することは何ら違法で
はない。
(4) 国家賠償法1条に基づく損害賠償請求権の有無(被告春日井市に対す
る請求)
(原告の主張)
被告校長は,前記のとおり,自ら定めた本件選定手続基準を無視し,若
しくはその選定について考慮すべき事項を考慮せず,考慮すべきでない事
項を考慮して,本件各採択をしたものであるから,国家賠償法上も違法で
ある。
しかして,被告校長は,本件選定手続基準を無視しているのであるか
ら,本件各採択という違法な職務執行について故意がある。また,仮に故
意が認められないとしても過失がある。
原告は,教員としての教育権ないしその支分権としての教材選定権を侵
害され,精神的苦痛を被った。この精神的苦痛を慰謝するためには100
万円の支払が必要である。
(被告春日井市の主張)
原告の主張は争う。
第3 争点に対する判断
1 本件各採択の行政処分性の有無(本案前の争点1)について
(1) 行政処分性の有無についての判断基準と本件各採択への当てはめ
抗告訴訟の対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
(行政事件訴訟法3条1項)とは,公権力の主体たる行政庁が行う行為の
うち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確
定することが法律上認められているものをいう(行政事件訴訟特例法1条
所定の行政庁の処分に関する最高裁判所昭和30年2月24日第一小法廷
判決・民集9巻2号217頁,同裁判所昭和39年10月29日第一小法
廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。
したがって,行政機関のある行為が,公権力の行使に当たるとしても,
本来的に私人に向けられたものではなく,行政内部又は行政相互間におい
て行われるものにすぎない場合には,通常,これによって国民の権利義務
に直接影響を与えることは考えられないから,抗告訴訟の対象となる行政
処分には当たらないというべきである(最高裁判所昭和37年7月20日
第二小法廷判決・民集16巻8号1621頁,同裁判所昭和46年1月2
0日大法廷判決・民集25巻1号1頁,同裁判所昭和53年12月8日第
二小法廷判決・民集32巻9号1617頁等参照)。
ところで,地方公共団体の設置する学校における公教育は,当該地方公
共団体の長が議会の同意を得て任命した委員から成る教育委員会が基本的
事項を定め(地教行法23条),これに基づいて教育機関たる学校が実際
の教育事務を担当する仕組みを採用している。そして,学校には,校務を
つかさどり,所属職員を監督する校長,校長を助け,その事故時には代理
する教頭,児童生徒の教育をつかさどる教諭などが置かれるが(学校教育
法28条,40条,51条,51条の9),これらは学校の機能を円滑か
つ十分に発揮するための内部的職務階層にすぎず,その扱う教育事務その
ものに関していえば,これらの者が一体として組織された学校として実施
されるものであり,個々の教諭や校長等が単独で担当する性質のものでな
いことは明らかである。
そうすると,学校における教育の内容を定める行為,例えばカリキュラ
ムを編成し,年間の進度計画を定め,教科書以外の教材を選定するなどの
行為も,教育の客体となり,その利益を享受する児童生徒ないしその保護
者との関係では,組織としての学校全体として行われる性質のものである
(もっとも,後記のとおり,教育の性質上,これを具体的に施すに当たっ
ては,その内容及び方法につき実際の担当者である教諭に一定の裁量権が
認められるから,学校としては基本的な枠組みを決定することになる。)
から,これらの行為は,行政機関たる学校の内部的な意思決定としてなさ
れるものにすぎないと解するのが相当である。
(2) 原告の主張(教員の教材選定権に対する影響)に対する判断
この点につき,原告は,憲法23条,26条及び教育基本法10条1
項,学校教育法28条6項,40条を根拠に,教諭たる中学校の教員が教
育権を有することを前提として,本件各採択は,原告の有する教育権の支
分権たる教材選定権を制約するという効果を有するものであるから,直接
国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められ
ているものに当たる旨主張しているので,以下において検討する。
ア 憲法23条の保障する学問の自由は,単に学問研究の自由ばかりでは
なく,その結果を教授する自由を含まれると解されるし,更にまた,知
識の伝達と能力の開発を主とする普通教育の場においても,例えば教員
が公権力によって特定の意見のみを教授することを強制されないという
意味において,また,児童生徒の教育が教員と児童生徒との間の直接の
人格的接触を通じ,その個性に応じて行われなければならないという本
質的要請に照らし,授業等の具体的内容及び方法につきある程度自由な
裁量が認められなければならないという意味において,一定の範囲にお
ける教授の自由が保障されるべきことを肯定できないではない。しか
し,普通教育においては児童生徒に教授内容を批判する能力がなく,教
員が児童生徒に対して強い影響力,支配力を有しており,また,普通教
育においては,児童生徒の側に学校や教員を選択する余地が乏しいこと
にかんがみると,普通教育における教員に完全な教授の自由を認めるこ
とは到底許されず,むしろ,一般に社会公共的な問題について国民全体
の意思を組織的に決定,実現すべき立場にある国は,児童生徒自身の利
益の擁護のため,あるいは児童生徒の成長に対する社会公共の利益と関
心に応えるため,必要かつ相当と認められる範囲において,教育内容に
ついてもこれを決定する権能を有すると解さざるを得ず,教員の上記裁
量も,このような枠組みの範囲内にとどまるというべきである。
また,憲法26条は,児童生徒の教育は,教育を施す者の支配的権能
ではなく,何よりもまず,児童生徒の学習をする権利に対応し,その充
足を図り得る立場にある者の責務に属するものとしてとらえられるもの
であるが,このことから,教育の内容及び方法をだれがいかにして決定
すべきであるかという問題に対する結論は当然には導き出されるもので
はなく,まして,児童生徒の側からみれば,教諭等の教員も教育を施す
側に位置することは否定できないから,この規定をもって教員の教育権
を基礎付けることは相当でない(以上,最高裁判所昭和51年5月21
日大法廷判決・刑集30巻5号615頁参照)。
次に,教育基本法10条1項は,「教育は,不当な支配に服すること
なく,国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。」
と規定しているところ,同規定は,教育は国民から信託されたものであ
り,その信託に応えて国民全体に対して直接責任を行うように行われる
べく,その間において不当な支配によってゆがめられることがあっては
ならないとの見地から,教育が専ら教育本来の目的に従って行われるべ
きことを示したものと考えられるが,これを超えて,教員の教育権の根
拠となし得るものではない。
そのほか,学校教育法40条により準用される28条6項は,校長,
教頭,養護教諭,事務職員,助教諭,講師,養護助教諭と対比して教諭
の職務内容を規定するにすぎず,この規定を根拠に教員の教育権を認め
ることは困難である。
以上の諸点にかんがみると,普通教育に携わる教員には,教育という
事柄の性質上,授業等の具体的内容及び方法を定めるにつき,ある程度
の裁量は認められるものの,これをもって個々の教員が,教育を実施す
るについて,国ないし設置者による教育行政に対置する意味での独自の
権利ないし法的利益を有すると解することは困難であるといわざるを得
ない。
イ そこで,念のために,教員の(副)教材選定権の有無について判断す
るに,学校教育法21条1項,2項(40条,51条,51条の9によ
って,中,高等,中等教育の各学校に準用されている。)は,学校にお
いては,文部科学大臣の検定を経た教科用図書又は文部科学省が著作の
名義を有する教科用図書を使用しなければならないものの,これ以外の
図書やその他の教材で,有益適切なものは,これを使用することができ
ると定めている。また,地教行法33条は,教育委員会は,都道府県,
市町村が設置する学校の施設,設備,組織編成,教育課程,教材の取扱
いその他学校その他の教育機関の管理運営の基本的事項について,必要
な教育委員会規則を定めるものとし,学校における教科書以外の教材の
使用について,あらかじめ,教育委員会に届け出させ,又は教育委員会
の承認を受けさせることとする定めを設けることとしている。
これを受けて,春日井市教育委員会が制定した本件管理規則は,校長
は,教材及び教具の選定に当たってはその教育上の効果及び保護者の経
済的負担について十分配慮しなければならないこと(9条),学校にお
いて,学年又は学級全員に教材として①教科書と併用して計画的,且継
続的に使用する副読本,問題集その他の参考書,②学習の過程又は夏季
及び冬季の休業日等に長期にわたって使用する学習帳を使用させる場合
は校長はあらかじめ教育委員会に届け出なければならない(11条)旨
定めている。
しかしながら,そもそも,検定を受けた教科書を使用することです
ら,教員の授業等における裁量の余地を奪うものではないと解される
(最高裁判所平成5年3月16日第三小法廷判決・民集47巻5号34
83頁参照)上,上記のとおり,本件管理規則は,副教材の採択の基準
について,教育上の効果や保護者の経済的負担に十分配慮するとの極め
て抽象的な規定しか置いていないこと(9条),一定の場合にあらかじ
め教育委員会の承認ないし届出を要するとしている(10条,11条)
ものの,採択そのものには何らの手続規定も置かず(校長以外の教員の
関与を認める本件選定手続基準が法令としての性質を有しないことは,
その主張自体から明らかである。),採択権者に対置されるべき相手方
の存在をうかがわせる規定は存在しないこと,現に,採択の結果につい
て,通知,告知,公告などの周知方法に関する規定が存在せず,校長の
した副教材の採択について異議のある教員に対し,不服申立てを認める
ような規定も存在しないことなどを考慮すると,本件管理規則が,春日
井市立の中学校において,教員個人の副教材選定権を権利ないし法的利
益として認めていると解することは困難である。
(3) 小括
上述のとおり,春日井市立の中学校における教員の教材選定権なるもの
が独自の権利ないし法的利益として認められないことに照らすと,本件各
採択が原告ら教員の権利義務に直接影響を及ぼすものとはいえない。
したがって,本件各採択は,抗告訴訟の対象たる行政処分には当たらな
いと判断するのが相当であるから,本件訴えのうち本件各採択の取消しを
求める部分は不適法といわざるを得ない。
2 国家賠償法1条に基づく損害賠償請求権の有無について
原告は,被告校長が故意又は過失により違法な本件各採択を行い,その結
果,原告の教材選定権を侵害したと主張して,国家賠償法1条に基づき,被
告春日井市に対して慰謝料の支払を求めている。
しかしながら,前記のとおり,春日井市立の中学校の教員たる原告に教材
選定権なる権利ないし法的利益を認めることはできないので,本件各採択に
よって賠償すべき慰謝料その他の損害が原告に生ずることもあり得ないとい
うべきである。
そうすると,本件各採択は原告に対する不法行為を構成するものではない
といわざるを得ないから,その余の点を判断するまでもなく,原告の被告春
日井市に対する請求は,失当と判断するのが相当である。
3 結論
よって,本件訴えのうち被告校長に対して本件各採択の取消しを求める部
分は不適法であるからこれを却下し,原告の被告春日井市に対する損害賠償
請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟
法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
    名古屋地方裁判所民事第9部
          裁判長裁判官   加藤幸雄
             裁判官   舟橋恭子
             裁判官   尾河吉久
(別紙)
目録
1 編集 愛知県小中学校長会
発行 財団法人愛知県教育振興会
「道徳 明るい人生Ⅰ(中学1年生用)」
2 編集 愛知県小中学校長会
発行 財団法人愛知県教育振興会
「道徳 明るい人生Ⅱ(中学2年生用)」
3 編集 愛知県小中学校長会
発行 財団法人愛知県教育振興会
「道徳 明るい人生Ⅲ(中学3年生用)」

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