弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の「被告が原告に対し平成七年一一月一〇日付け及び同年一二月二七日付
けでした別紙物件目録一記載の土地についての特別土地取得税の納税義務を免除で
きない旨の決定を取り消す。」との訴えをいずれも却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告が原告に対し平成七年一一月一〇日付け及び同年一二月二七日付けでした
別紙物件目録一記載の土地についての特別土地取得税の納税義務を免除できない旨
の決定を取り消す。
二 被告が原告に対し平成八年一〇月一六日付けでした右土地についての特別土地
保有税の納税義務を免除できない旨の決定を取り消す。
第二 事案の概要
 本件は、原告のした別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)の
取得に係る特別土地保有税の納税義務免除の申請に対し、被告が平成七年一一月一
〇日付け及び同年一二月二七日付けで地方税法(以下「法」という。)六〇三条の
二に規定する要件に該当しないから免除できない旨の決定(以下「本件土地取得に
係る保有税免除不承認決定」という。)をし、また、原告のした本件土地の所有に
係る特別土地保有税の納税義務免除の申請に対し、被告が平成八年一〇月一六日付
けで右と同様の理由により免除できない旨の決定(以下「本件土地所有に係る保有
税免除不承認決定」という。)をしたことについて、原告が、右各不承認決定(以
下、合わせて「本件各不承認決定」という。)には、法六〇三条の二の解釈適用を
誤った違法があるなどとして、その取消しを求めたものである。
一 争いのない事実等(証拠の記載のない事実は争いがないものであり、証拠の記
載のある事実は当該証拠により認定したものである。)及び法令の定め
1 特別土地保有税の制度
(一) 特別土地保有税は、土地の取得又は所有に対し、当該土地所在の市町村
が、当該土地の取得者又は保有者に対し課す制度である(法五八五条一項。以下、
土地の取得に係るものを「取得に係る保有税」と、土地の所有に係るものを「所有
に係る保有税」という。)。
 この特別土地保有税については、申告納付の方式が採られ、右各保有税につき、
次に掲げる区分に応じ、納税申告書を市町村長に提出するとともに、その申告した
税額を当該市町村に納付しなければならない(法五九九条一項)。
(1) 取得に係る保有税
イ 一月一日前一年以内に基準面積以上の土地を取得した者に係る土地の取得に対
して課する特別土地保有税 その年の二月末日
ロ 七月一日前一年以内に基準面積以上の土地を取得した者に係る土地の取得に対
して課する特別土地保有税 その年の八月三一日
(2) 所有に係る保有税
 一月一日において基準面積以上の土地を所有する者に係る土地に対して課する特
別土地保有税 その年の五月三一日
(二) 右にいう「基準面積」は、法五九五条各号に定められているが、法附則三
一条の四は、その特例として、三大都市圏の特定市について、基準面積を一〇〇〇
平方メートルとしている。
2 特別土地保有税の納税義務免除の制度
(一)建物、構築物又は特定施設のうち恒久的な利用に供するものとして定められ
た一定の基準に適合するものの用に供する土地で、当該土地利用が当該市町村に係
る土地利用基本計画等の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地
域における計画的な土地利用に適合するものであることについて市町村長が特別土
地保有税審議会の議を経て認定した場合には、当該土地に係る特別土地保有税の徴
収金に係る納税義務は免除される(法六〇三条の二)。
(二)この納税義務の免除制度の適用を受けようとする者は、原則として法五九九
条一項の納期限までに、当該市町村長に対し、その旨の申請をしなければならない
(法六〇三条の二第二項本文)。
3 原告の本件土地取得等
 原告は、平成六年一一月二二日、本件土地(合計二四二六平方メートル)及び地
上の別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を取得し、本件土地
につき平成七年三月三一日売買を原因として同日所有権移転登記を了し、そこに鉄
骨等の資材を置いている。(甲四の一から四、甲七)
4 本件土地取得に係る保有税免除不承認決定
(一) 右のとおり、原告は、平成七年七月一日前一年以内に基準面積を超える本
件土地を取得したため、右取得に係る保有税を同年八月三一日までに申告納付すべ
き義務があったところ、被告に対し、同年一一月二日付けで納税義務免除の申請を
した。これに対し、被告は、同年一一月一〇日付けで免除できない旨の決定(本件
土地取得に係る保有税免除不承認決定)をし、右通知はそのころ原告に到達した。
(二)原告は、被告に対し、平成七年一二月一五日、再度、(一)の保有税の納税
義務の免除申請をしたが、被告は、同月二七日付けで
免除できない旨の決定をし、右通知はそのころ原告に到達した。
(三) 原告は、(一)(二)の不承認決定に対し、それぞれの通知を受けた日の
翌日から六〇日以内に異議の申立てをしなかった。
5 本件土地所有に係る保有税免除不承認決定
(一) 原告は、平成八年一月一日時点で本件土地を所有していたため、本件土地
所有に係る保有税を同年五月三一日までに申告納付すべき義務があったところ、被
告に対し、同年九月一二日付けで納税義務免除の申請をした。被告は、右免除申請
に対し、平成八年一〇月一六日付けで、免除認定申請書を不受理とする通知(乙六
の二。本件土地所有に係る保有税免除不承認決定)をし、右通知はそのころ原告に
到達した。
(二) 原告は、右の免除不承認決定に対し、その通知を受けた日の翌日から六〇
日以内に異議の申立てをしなかった。
二 本件の争点と双方の主張
 本件の争点は、原告が本件各不承認決定について異議申立てを経ずに本訴を提起
したことが、法一九条の一二に違反し、不適法か(争点1)、仮に右の点が適法で
あるとした場合、本件各不承認決定は違法か、具体的には、本件土地には法六〇三
条の二第一項の特別土地保有税の納税義務免除の適用はあるか(争点2)、であ
る。
 これらについての双方の主張は以下のとおりである。
1 争点1(本件訴えの適否)について
(一) 被告の主張
(1) 本件各不承認決定の取消しの訴えは、異議申立てに対する決定を経なけれ
ば提起することができないものとされている(法一九条の一二)ところ、前記のと
おり、原告は、本件各不承認決定のいずれについても、被告からその通知を受けた
日の翌日から六〇日以内に異議申立てをしなかった。したがって、本件訴えは、異
議申立てに対する決定を経ていないので、不適法な訴えであり、却下を免れない。
(2) この点に関する原告の後記主張は、否認ないし争う。すなわち、本件各不
承認決定も不服申立ての対象となるのである。また、本件各不承認決定について不
服申立てができる旨を教示しなかったとしても、右本件各不承認決定の効力を左右
するものではない。
(3) なお、原告は、後記のとおり、本件土地所有に係る保有税について被告が
更正決定をし、原告がこれに不服申立てをしたので、本件土地所有に係る保有税免
除不承認決定の取消しを求める本訴は異議申立ての前置を経ているかのように主張
する。
 しかし、もともと右の更正
決定は無用のものであったから、原告の右主張は前提において失当である。すなわ
ち、原告は、平成八年度の本件土地所有に係る保有税について、平成八年九月一二
日付けで申告書を提出したが、これに記載されていた課税標準及び税額に誤りはな
かった。したがって、原告の右納税義務は、右申告書の提出により確定した。とこ
ろが、原告が右申告書と同時に右保有税についての免除申請書を提出し、それに伴
い申告書の納付すべき税額欄に零と記載していたため、被告は、これが更正決定の
対象になると誤解し、右の更正決定をした。被告のした更正決定は無用のものであ
ったわけである。
(二) 原告の主張
 原告は、本件各不承認決定に対して異議申立手続を経ていないが、本訴の提起は
不適法とはいえない。その理由は以下のとおりである。
(1) 本件土地取得に係る保有税免除不承認決定の取消しと不服申立てについて
 不服申立前置は法一九条に規定する処分の取消しの訴えを提起する場合に要請さ
れる(法一九条の一二)ところ、法一九条一号は、「更正若しくは決定又は賦課決
定」を挙げており、本件各不承認決定はいずれも右にいう更正若しくは決定又は賦
課決定に当たらない。また、被告は、本件各不承認決定に際し、不服申立てができ
ること等を原告に教示しなかったから、右決定は不服申立てのできる処分に当たら
ない。
 仮に右のようにいえないとしても、原告は、被告から、異議申立期間の猶予を得
た。すなわち、原告は、本件土地取得に係る保有税の申告期限後である平成七年九
月二七日、綾瀬市課税課に赴いたところ、担当者から、期限を過ぎても構わないか
ら申告してほしいと言われた。そこで、原告は、同年一一月二日納付すべき税額欄
を空欄とした申告書を提出しようとしたところ、被告担当者から、納付すべき税額
欄に数字を入れるよう指摘された。原告は当然免除になるはずであると考え、右欄
には零と記入して申告し、同時に免除申請書も提出した。このような経緯にかんが
みれば、被告は、原告に対し、不服申立期間を猶予したものといえる。
(2) 本件土地所有に係る保有税免除不承認決定の取消しと不服申立てについて
 原告の被告に対する平成八年九月一二日付けの所有に係る保有税の申告書及びそ
の免除申請に対し、被告は、同年一〇月三〇日付けで更正決定をし、右決定に不服
がある場合は、その通知を受け取った日の翌日から起算して六〇日以内に市長
に対して不服申立てをすることができることを教示した。これに対し、原告は、右
不服申立期間内である平成八年一二月二八日不服申立てをした。被告は、右不服申
立てに対し、平成九年三月一三日付けでこれを棄却したので、原告は、平成九年六
月一三日本訴を提起した。したがって、本件土地所有に係る保有税免除不承認決定
の取消しの訴えの提起は、異議申立てを経ないことについて正当な理由がある。
2 争点2(本件各不承認決定の適否)について
(一) 被告の主張
 本件各不承認決定はいずれも適法である。その理由は以下のとおりである。
(1) 法に定める免除の要件
 法六〇三条の二第一項は、土地所有者等(所有者又は取得者)が所有する土地に
つき、市町村長が特別土地保有税に係る地方団体の徴収金に係る納税義務を免除す
ることのできる認定基準を定めている。これを本件に関していうと、
イ 当該土地の利用が当該市町村に係る土地利用基本計画等に照らし当該土地を含
む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて市町村
長が認定したこと(同条一項本文)、
ロ 特定施設(建物などの工作物及びそれらと一体的に利用されている土地により
構成されているものに限る。)で、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供
される特定施設に係る基準として政令で定める基準に適合するものの用に供する土
地であること(同条一項二号)、が必要である。
(2) 政令の内容
 右にいう「政令で定める基準」について、法施行令五四条の四七第二項は、
イ その整備状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる
整備の水準と同程度の水準に達しているものであること、
ロ その利用が相当の期間にわたると認められること、
ハ その効用を維持するため通常必要とされる管理が行われると認められること、
と定めている。
(3) 特則としての法附則の内容
 また、法附則三一条の四の二(特別土地保有税の課税の特例)は、法六〇三条の
二第一項二号にいう「ものの用に供する土地」について、
イ 保有に係る保有税については「昭和六一年一月一日以後取得した土地で、資材
置場等の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物等を伴わないもの
とし政令で定めるものの用に供する土地を除く」と、
ロ 取得に係る保有税については「資材置場等の土地自体の利用を主たる目的とす
る特定施設のうち建物等を伴わないも
のとして政令で定めるものの用に供する土地を除く」と、
定めている。
(4) 特則としての法施行令附則の内容
 そして、法施行令附則一六条の二の四は、「法附則三一条の四の二第一項又は第
二項の規定により読み替えられた法第六〇三条の二第一項第二号に規定する資材置
場等の土地自体の利用を主たる目的とする特定施設のうち建物等を伴わないものと
して政令で定めるものは、当該特定施設のうち、次に掲げる建物等及びこれらと一
体的に利用されている土地により構成されているもの以外のものとする」として、
同条一号に「建築基準法第七条第三項に規定する検査済証を交付された建物又は構
築物」と定めている。
(5) 本件における適用結果
 綾瀬市は法附則三一条の四の二にいう「特定市」に当たるから、同市内に所在す
る本件土地を資材置場として利用する場合について、特別土地保有税の免除を受け
るには、建築基準法七条三項に規定する検査済証が交付された建物又は構築物と一
体的に利用されている土地であることが必要となる。
 ところが、本件建物については、右にいう検査済証が交付されておらず、保有税
免除の基準に合致しないから、納税義務を免除できないとした本件各不承認決定は
適法である。
(二) 原告の主張
 被告の主張は争う。本件建物は三〇年間にわたり釣り堀用の事務所として利用さ
れてきた。原告は、このような本件土地を、鉄骨等の資材置場としてふさわしい土
地にするため、取得し、これを整備し、本件建物を改良しようと考えている。この
ような土地利用を考えている場合、保有税免除の基準に合致する。この点につい
て、被告は、本件建物に建築基準法上の検査済証が交付されていないことを理由
に、免除基準に該当しないと主張するが、法六〇三条の二第一項、法施行令五四条
の四七第二項は、土地上の建物について、右のような検査済証の交付を要求してい
ない。免除の可否は、被告主張のような形式的な基準によるのではなく、投機目的
か有効利用目的かの基準によるべきである。したがって、被告のした本件各不承認
決定は違法である。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(本件各訴えの適否)について
1 本件土地取得に係る二度目の保有税免除不承認決定の取消しの訴えの適否
(一) 問題の所在
 原告は、本件土地取得に係る保有税免除不承認決定について平成七年一一月一〇
日付けのものと同年一二月二七日付けのものとの二個の処分があ
るとして、その両者の取消しを求めている。申請が二つあるから応答もそれぞれ行
われたものとうかがわれるが、原告の本件土地の取得という同一の課税の発生原因
事実に関する保有税についての免除の許否であるから、本来は一個の処分で済むは
ずのものである。そこで、後の決定の処分性、その取消しの適否等を検討するため
に、このような少なくとも外形的に二個の決定がされた経緯をみることとする。
(二) 経緯
 前記争いのない事実及び証拠(甲一三から一八、乙一五、証人Aの証言)及び弁
論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 綾瀬市総務部課課税課土地係職員(以下「本件担当職員」という。)は、
原告が平成七年三月三一日付けで本件土地を取得した旨が記載された登記済通知書
を法務局の出張所から交付された。この場合の取得に係る保有税の申告期限が同年
八月三一日となる(法五九五条一項三号)ところ、申告がないので、本件担当職員
は、原告に申告方を促す書面を送付した。
 申告期限後の同年九月ないし一〇月ころ、原告の代理人の税理士から、電話で、
特別土地保有税の申告と納税義務免除申請の方法等についての問い合わせがされ
た。その後、原告から、被告に対し、同年一一月二日付けで、特別土地保有税の申
告書(甲一五 )、免除認定申請書(甲一六)及び「保有税免除願」と題する書面
(甲一四 )が提出された。
(2) 右の申請を受けて、本件担当職員は、原告に対し、保有税の免除を受ける
ためには本件建物について検査済証書の写しが必要であり検査済証を紛失したとき
は、神奈川県行政センター建築指導二課で台帳を調べ、建築確認と検査済みである
ことを証明する「照合済証」の交付を受けることができることなどを指導した。
(3) しかし、原告から、右の検査済証等が提出されなかったため、被告は、平
成七年一一月一〇日付けの「平成七年度特別土地保有税の納付について(通知)」
と題する書面(甲一七)で、「本件土地は法六〇三条の二、第一項一号、二号に規
定する免除土地に該当せず、特別土地保有税を免除することはできない旨を通知し
ます。つきましては、税額七五七万七四〇〇円と延滞金一三万七九〇〇円の合計七
七一万五三〇〇円を納付されるようお願いします。」旨を記載した書面を送付し、
そのころ右書面は原告に送達された。
(4) ところが、原告は、平成七年一二月一五日付けの「代理人弁護士加賀美清

」名の「保有税免除申請書」と題する文書(甲一八)を被告に送付した。この申請
書は、(1)記載の免除等に比べると、内容が詳細に記載されていた。
 そこで、本件担当職員は、念のため、本件建物について検査済証が交付された事
実があるかどうかを確認するため、当時大和市にあった神奈川県行政センター内の
建築指導二課に赴き、建築確認処理簿を閲覧したところ、本件建物について検査済
証が交付された事実がないことが判明した。
 そこで、被告は、「原告代理人弁護士加賀美清七殿」として、同月二七日付けの
「特別土地保有税の免除申請について」と題し、本件土地については法六〇三条の
二第一項二号に規定する土地の恒久性の要件を満たしておらず、保有税免除の認定
することはできない旨を記載した書面を送付し、そのころ右書面は原告代理人に送
達された。
(三) 二個の通知の趣旨及び後続の通知の取消しの訴えの適否
 右の事実からすると、原告はまず平成七年一一月二日に保有税の納税義務免除の
申請をしているのであり、これに対し、被告は、同月一〇日付けの書面で具体的な
理由を付してこれが認められない旨を通知しているのであるから、この一〇日付け
の通知は、不承認決定というべきである。
 そして、一度処分がされると、処分にはいわゆる公定力があるから、その処分に
ついて撤回あるいは取消しがされない限り、その処分は有効に存在するものであ
る。したがって、原告代理人名でされた重ねての免除の申請については、被告は、
本来であれば、既に同月一〇日付けで不承認をしている旨を連絡すれば足りたとい
うべきである。しかし、同年一二月二七日付けで被告により原告代理人あてにされ
た通知は、その趣旨からすると、前にした不承認決定を確認したものでなく、内容
的には同一ながら別の機会にされた申請に応じて別の機会に別個にされた処分と見
ざるを得ない。このように本来は不必要な通知ではあるが、それが現実に行われた
上、それを当然無効と扱うべき特段の事情も見当たらない。そして、この処分を争
って取り消したい原告の立場からすると、当初の同年一一月一〇日付けの免除不承
認決定を取り消すだけでは、なお同年一二月二七日付けの免除不承認決定が有効に
残存するという懸念を抱かれるのであるから、この同年一二月二七日付けの処分の
取消しの訴えは、処分でないものの取消しを求めるから不適法ということはできな
いし、同年一一月
一〇日付けの免除不承認決定があることの一事で訴えの利益がないということもで
きないと解する。
2 取得に係る保有税免除不承認決定(平成七年一一月一〇日付け及び同年一二月
二七日付けの両処分)の取消しの訴えと不服申立前置との関係
(一) 不服申立前置の要請
 標記の取得に係る保有税免除不承認決定(二個の処分)は、法一九条一号に定め
る「更正若しくは決定(第五号に掲げるものを除く。)又は賦課決定」に該当す
る。そうすると、その取消しの訴えは、不服申立手続を経た後でなければ提起する
ことはできない。法一九条の一二が、「第十九条に規定する処分の取消の訴えは、
当該処分についての異議申立ては又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でな
ければ、提起することができない。」と定めているからである。
 ところが、標記の取得に係る保有税免除不承認決定(二個の処分)について、原
告が異議申立てをしていないことは当事者間に争いがないから、右の取消しを求め
る本件訴えは、異議申立てに対する決定を経ずに提起されたものであり、不適法で
あるから、却下を免れない。
(二) 後続の申立てと異議申立てとの関係
 もっとも、前記認定のとおり、原告は、平成七年一一月一〇日付けでされた免除
不承認決定がされた後六〇日以内に当たる同年一二月一八日に再度被告に対し、免
除認定申請をしているから、これが当初の不承認決定に対する異議申立てに当たら
ないかが一応問題となる。しかし、後にされた免除認定申請は、原告の代理人であ
る弁護士がしたもので、申請の趣旨として、保有税の納税義務の免除を求めること
が明確に記載され、しかも、前に保有税免除不承認決定を受け、これについて不服
である旨の記載は全くないのであるから、これをもって異議申立てと解することは
できない。
(三) 教示との関係
 原告は、本件土地取得に係る保有税免除不承認決定に際し、被告が不服申立てが
できること等を原告に教示しなかったから、原告がこれを経ていないことについ
て、正当な理由があると主張する。確かに、右書面には、不服申立てをすることが
できる旨並びに不服申立てをすべき行政庁及び不服申立てをすることができる期間
についての記載がなかった(甲一七、甲一九)。
 しかし、行政庁が不服申立てを要しないと誤った教示をしたというわけでもな
く、不服申立期間等について教示しなかったからというだけで、異議申立てを経由
しないこ
とについて、正当な理由があるとすることはできない。
 また、原告は、被告から、異議申立期間の猶予を得たと主張するが、これを認め
るに足りる証拠はないし、期間経過後に異議申立てをしたわけでもない。
(四) まとめ
 したがって、原告の本件土地取得に係る保有税免除不承認決定(二個の処分)の
取消しを求める訴えは、いずれも不適法であり、却下を免れない。
3 本件土地所有に係る保有税免除不承認決定取消しの訴えの適否
(一) 不服申立ての不存在と経緯
 本件土地所有に係る保有税免除不承認決定についても、原告は不服申立てをして
いない。そこで、この所有に係る保有税免除不承認決定の取消しの訴えが不適法か
が問題となる。この点につき、原告は、不服申立てを経ないことにつき正当の理由
があると主張するので、経緯を検討する。
 前記争いのない事実及び証拠(甲二〇から二三、甲二四の一・二、乙六の一・
二、乙一一、乙一二の一・二、乙一三から一五、証人Aの証言)及び弁論の全趣旨
によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件担当職員は、平成八年五月一日、本件土地について、平成八年度の土
地所有に係る保有税の申告納付期限(五月三一日)が近づいてきたので、原告に対
し、「特別土地保有税の申告について」と題する文書を送付した。
 原告は、右の申告期限までには申告書を提出しなかったが、同年九月一二日に右
申告書(乙一一)と免除認定申請書(甲二一)を被告に送付した。この申告書は、
課税標準額を二億五二八二万円、税額を三四一万二五〇〇円と記載し、納付すべき
税額について、納税義務免除の認定が受けられるものと仮定して、これを零円と記
載していた。
(2) 本件担当職員は、右の課税標準額及び税額に誤りはないと判断したが、納
付すべき税額を零円と記載していたため、「税額が調査したところと異なる」(法
六〇六条)と考え、原告に対し、平成八年一〇月一六日、「平成八年度特別土地保
有税免除認定申請書の不受理及び修正申告書の提出について(通知)」と題する同
日付け書面(乙六の二)を送付し、原告の提出した免除認定申請書を返戻した。
(3) しかし、原告から修正申告書の提出がなかったため、被告は、「平成八年
度特別土地保有税申告書の更正について(通知)」と題する平成八年一〇月三〇日
付けの書面(甲二二)に、課税標準額を二億五二八二万円、算出税額及び納付税額
を共に三四一万二五〇〇円
と記載し、法六〇六条二項の規定により課税標準及び税額を更正する旨記載して、
そのころ右書面を原告に送付した。なお、右書面には、「この更正に不服がある場
合は、この通知書を受け取った日の翌日から六〇日以内に市長に対して不服の申し
立てをすることができます。」との記載がされていた。
(4) その後、被告は、原告から、平成九年一月六日、「更正決定に対する不服
申立書」と題する平成八年一二月二八日付けの書面を受理した。
 本件担当職員は、この書面が更正決定の通知の翌日から六〇日以内にされた異議
の申立てであると判断し、平成九年二月二四日、綾瀬市特別土地保有税審議会に対
し、免除申請についての求意見の手続を取ることにした。その結果、同年三月五日
付けで、同審議会から、免除することは不相当であるとの答申がされた。そこで、
被告は、同月一三日付けで、原告に対し、原告から平成八年一二月二八日付けで提
出された平成八年度特別土地保有税の更正決定に対する不服申立てを棄却する旨の
決定をし、そのころ右書面を原告に通知した。
(5) 原告は、平成九年六月一三日、横浜地方裁判所に、右の棄却決定等の取消
しを求める訴えを提起し、後にこの訴えは、本件各不承認決定の取消しを求める訴
えに訂正された。
以上のとおり認められる。
(二) 本件土地所有に係る保有税についての免除拒否処分の存在と更正処分の不
存在
 前記認定の事実によれば、原告は、本件土地所有に係る保有税の免除申請を行
い、併せて納付すべき税額を零円とする保有税について申告書を提出しているとこ
ろ、申告書には課税標準額及び税額その他の自治省令で定める事項を記載すること
が必要である(法五九九条一項)から、課税標準額及び算出税額が記載されかつ被
告の計算と一致し、納付すべき税額だけが異なるもののその記載のある右の申告書
の提出は有効な申告ということができる。そして、被告のした更正は、課税標準額
及び算出税額とも原告の申告と一致し、専ら納付税額が零円(原告の申告)か、三
四一万二〇〇〇円(甲二二の更正通知)かの点で異なるものである。そして、原告
は申告と同時に本件土地所有に係る保有税の免除申請(甲二一)をしているとこ
ろ、被告は更正に先立ち原告からの免除申請を不受理として申請書を返戻している
(乙六の二)から、納付税額の違いは、免除を受けられるとの前提により零円とし
た原告とこれを受けられないとして算
出税額と同額であるとした被告との立場の相違によるということができる。そうす
ると、所有に係る保有税の免除申請書を不受理として返戻した被告の行為は、免除
申請を実質的に否定した処分であり、更正は、申告の是認と免除拒否の結果とを通
知した趣旨のものであって本来の意味での更正ではないと解するのが相当である。
(三) 不服申立ての存否と正当な理由の有無
 そして、本件においては、被告が誤解を与える「更正」の通知を不服申立ての教
示を伴う形で行い、かつ、不服申立ての教示を必要とする所有に係る保有税の免除
申請を拒否する旨の処分を明示的にしないで申請書を返戻し、もとよりこれについ
て処分である旨の告知も不服申立てができる旨の教示もしなかったものである。そ
のことが影響したため、原告は、本件土地所有に係る保有税免除不承認決定に対し
てではなく.「更正」の通知に対して不服申立てをしたわけである。
 そうすると、本来、原告としては、被告から免除認定の申請を不受理とする旨の
通知を受けた段階で、これを免除申請に対する拒否処分と解して、行政不服審査法
に基づき異議申立てをすべきであったといえるが、右のような事情下で、そのよう
な行動を原告に求めるのは多分に無理を強いる感があり、酷というべきである。む
しろ、原告は「更正」、についての教示に従い不服申立てをした結果、免除認定申
請の不受理を争う機会を逸したものというべきであるから、原告には、免除拒否に
ついての異議申立てを経ずにその取消しの本訴を提起したことに、行政事件訴訟法
八条二項三号にいう正当な理由があるというべきである。したがって、この点の被
告の主張は理由がない。
二 争点2 (本件土地所有に係る免除不承認決定の適否)について
1 対象
 一のとおりであるから、進んで本件土地所有に係る免除不承認決定が内容的に違
法かどうかの本案の検討を行う。
2 所有に係る保有税の免除に関する規定の趣旨
(一) 所有に係る保有税について納税義務の免除を受けるためには、資材置場と
して利用されている本件土地に即していうと、次の二つの要件に適合するものであ
ることについて、市町村長の認定を受ける必要がある(法六〇三条の二第一項)。
(1) 当該土地が工場施設、競技場施設その他の施設(建物、構築物その他の工
作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限
る。)で、その整備状況、利用状況
等が恒久的な利用に供される特定施設に係る一定の基準に適合するものの用に供す
る土地であること(同項二号。いわゆる恒久性の要件)
(2) 当該土地の利用が国土利用計画法に規定する土地利用基本計画、都市計画
その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画
的な土地利用に適合すること(同項本文。いわゆる土地利用計画適合性の要件)。
(二) この(一)(1)にいう「特定施設」とは、規定にあるとおり、建物、構
築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されてい
るものをいうのであり、単なる物をいうのではなく、また、単なる場所的な意味の
スペ―スをいうものではなく、当該土地に常置されている建物、構築物その他の工
作物及びこれらと一体的に利用されている土地によって構成され、積極的に特定の
効用を果たしている物的施設の総合体をいう。規定にある工場施設、競技場施設は
例示であり(乙三の一)、駐車場、資材置場等が対象となると解される。
 この免除の制度は、昭和五三年に導入されたもので、恒久的な施設等の用に供す
る土地に係る保有税について納税義務の免除を認める趣旨のものである(乙三の
一)。
3 三大都市圏における免除制度についての特例
(一) 特例の内容
 平成三年度の税制改正により、時限的に納税義務の免除の対象を一部縮減する旨
の改正が行われ、法附則三一条の四の二が設けられたが、これは、地価高騰が著し
く土地問題の深刻な三大都市圏の特定市を対象に、土地自体の利用を主たる目的と
する一定の特定施設の用に供する土地を保有税の納税義務の免除の対象としないこ
ととする特例を設けたものである(乙三の二)。
 すなわち、本件に即していうと、保有税の免除に関する前記の恒久性の要件に関
する法六〇三条の三第一項二号にいう「ものの用に供する土地」について、「昭和
六一年一月一日以後取得した土地で、資材置場等の土地自体の利用を主たる目的と
する特定施設のうち建物等を伴わないものとして政令で定めるものの用に供する土
地を除く」とされた。そして、右規定を受けた法施行令附則一六条の二の四は、
「法附則三一条の四の二第一項又は第二項の規定により読み替えられた法第六〇三
条の二第一項第二号に規定する駐車場、資材置場その他の土地自体の利用を主たる
目的とする特定施設のうち建物又は構築物を伴わないものとして政令で定めるもの
は、当該特定施設のうち、次に掲げる建物等及びこれと一体的に利用されている土
地により構成されているもの以外のものとする」として、同条一号に「建築基準法
第七条第三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物」と定めた。
 これにより、三大都市圏の特定市の区域内に所在する土地で、駐車場、資材置場
等として利用されている土地は、建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付さ
れた建物又は構築物を伴っていなければ、免除制度の適用を受けることができない
とされた。綾瀬市は、右にいう「三大都市圏の特定市」に当たる(法附則三一条の
四)。
(二) 特例の趣旨
 (一)のような特例が設けられたことの背景には、地価高騰が著しく土地問題が
深刻な三大都市圏の特定市においては、投機的取引により取得した土地を一時的に
青空駐車場、資材置場等に転用しているのではないかと思われる事例であっても、
客観的・外形的にはその判断が困難なため、特別土地保有税の納税義務の免除が行
われる事例が少なくないこと等により、投機的土地取引の抑制と土地の有効利用の
促進を目的とする政策税制である特別土地保有税がその期待される役割を十分に果
たしていないとの指摘がされていたことが挙げられる。
 このようなことが背景となり、特別土地保有税の機能をより高めるため、恒久的
な利用が行われるかどうかの判断が難しい土地自体の利用を主たる目的とする特定
施設(駐車場、資材置場等)の用に供される土地については、恒久的に利用してい
るか否かの判断を新たに外形的・客観的な基準で行うこととし、検査済証を交付さ
れた建物等を伴っていないものは、免除の対象から除外することとされたものであ
る。右の特例の立法趣旨及び法附則三一条の四の二の「伴わないものとして政令で
定めるもの」という規定ぶりなどからすると、保有税免除の制度は、本来は、恒久
施設については保有税を課す必要がないという考え方で設けられていたのである
が、恒久性の判定が微妙な事案もあるので、地価高騰の著しい三大都市圏の特定市
という地域を限定した上、そこにおいて施設よりも土地自体の利用を主たる目的と
すると定型的に評価できる駐車場、資材置場等については、一時的に投機的取引の
隠れ蓑に利用される危険性があるにもかかわらず、それを防ぐための効果的な手段
が見当たらないことにかんがみ、時限的に、真実は恒久性のあるものであっても、
いわば外形
的形式的に、検査済証を交付された建物等を伴わない限り、保有税の免除対象とし
ないとしたものと解される。
 このような立法趣旨と内容とからすると、三大都市圏の特定市に所在する土地
で、駐車場、資材置場等として利用されている土地について、建築基準法七条三項
に規定する検査済証を交付された建物等を伴っていなければ免除制度の適用を受け
ることができないとしたのは、それなりに合理性があり、やむを得ないというべき
である。
4 本件土地の所有に係る保有税の免除要件該当性の有無
 証拠(甲一一の一から四、甲一二の一から六、甲二八、原告代表者尋問の結果)
及び弁論の全趣旨によれば、本件土地は、もと釣り堀として利用されていたが、原
告が取得して以来、池沼が埋め立てられ、現在は鉄骨等の資材置場として利用され
ていること、その一画には本件建物が存在するところ、右建物について、本件担当
職員が、平成七年当時、大和市所在の神奈川県行政センター内の建築指導二課を訪
れ、建築確認処理簿を閲覧し、検査済証が交付された事実があるかどうかについて
調査したところ、その事実のないことが判明したことが認められる。
 右事実によれば、本件建物は、建築基準法七条三項に規定する検査済証が交付さ
れた建物とはいえないから、本件土地は保有税免除認定の要件を欠くものといわな
ければならない。
5 原告の主張に対する判断
 この点について、原告は、本件建物に建築基準法上の検査済証が交付されていな
いことを理由に、保有税の免除基準に該当しないとするのは失当であると主張す
る。
 しかし、法附則三一条の四の二が三大都市圏の特定市に所在する土地を対象とし
て保有税の免除制度を縮減し、法施行令附則一六条の二の四は、これらの区域内に
所在する土地で、駐車場、資材置場等として利用されている土地は、建築基準法七
条三項に規定する検査済証を交付された建物又は構築物を伴っていなければ免除制
度の適用を受けることができないとしており、そのことには前記のような合理的な
理由があると解される。
 そうすると、建築基準法七条三項に規定する検査済証を交付された建物等を伴っ
ていない本件土地について、所有に係る保有税の免除制度の適用を受けることがで
きないのは、それなりに合理性があり、やむを得ないというべきである。したがっ
て、これを基準としてされた本件土地所有に係る保有税免除不承認決定は適法とい
うべきであり
、そこに原告の主張するような違法があるということはできない。
 なお、原告としては、特別土地保有税の納税義務の免除を受けようとすれば、本
件建物を既存建物としてこれを増改築するなりし、建築基準法七条三項に規定する
検査済証の交付を受ければよかったのであり、それを行うだけの時間的余裕もあっ
たというべきであるから、そのようなことをも総合考慮すると、右の結論も必ずし
も原告に酷な結果になるとはいえない。
三 結論
 よって、原告の本件土地取得に係る保有税免除不承認決定の取消しを求める訴え
はいずれも不適法であるから却下し、本件土地所有に係る保有税免除不承認決定の
取消しを求める請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
横浜地方裁判所第一民事部
裁判長裁判官 岡光民雄
裁判官 近藤壽邦
裁判官 弘中聡浩

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