弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役一〇年に処する。
         理    由
 本件控訴の趣意は東京地方検察庁検察官検事河井信太郎提出の控訴趣意書記載の
とおりであるからここにこれを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 所論は原判決には法令の適用を誤つた違法があると主張し、原判決認定の第一乃
至第三の事実にはそれぞれ住居侵入の所為があるとして起訴したところ、原判決
は、右住居侵入の所為は判示認定の事実と牽連犯の関係にあり科刑上一罪とされる
が、本質的には数罪であるから各別に公訴時効が完成するものと解すべきところ右
各住居侵入の所為は昭和三八年中に犯されたものであつて本件起訴当時は既に公訴
時効は完成して居るから免訴すべきものであるが、これらは判示認定事実と牽連犯
の関係にあるものとして起訴されたものであるから主文においてその言渡しをしな
い、と判示したが、右は従来の判例に反し法令の解釈適用を誤つたものであるとい
うのである。
 よつて案ずるに、所論指摘の如き起訴がなされ、原判決が所論の如く住居侵入の
点について実質上免訴の措置をなしたことは記録上明らかである。然るところ、原
判決挙示の証拠によれば、右住居侵入の事実はいずれもこれを認めることができる
が、右住居侵入はいずれも原判示の犯行をなす為に同日犯したものであるから刑法
第五四条第一項後段の牽連犯としてその最も重い罪の刑に従つて処断すべき場合に
該当するところ、牽連犯<要旨>の公訴時効はその結果たる行為が手段たる行為の時
効完成後に実行された場合のほかは最も重い罪の法定罪を基準として牽連犯
の関係にある全犯行について時効の成否を決すべきものと解するのを相当とし(昭
和三八年一二月一一日東京高等裁判所判決参照)本件においてはいづれも重い原判
決第一の強盗強姦未遂致傷罪、同第二の強盗罪、同第三の窃盗罪の刑につき定めた
公訴時効に従うべきところ、右第一の点は昭和四二年一〇月二一日、同第二の点は
同年一一月二〇日、同第三の点は同年同月二一日の各起訴当時未だ公訴時効が完成
していないことは暦算上明白であるからその公訴権は消滅していないのである。従
つてこれと見解を異にし、公訴時効が完成したものとして右住居侵入の点につき実
質上免訴の措置をなした原判決は刑事訴訟法第三三七条第四号の解釈適用を誤まつ
たものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由が
ある。
 よつて刑事訴訟法第三九七条第三八〇条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条
但書に従い当裁判所において更らに判決する。
 当裁判所が認定した「罪となるべき事実」は、原判示第一の事実中第三行目「A
方において」を「A方南側板の間から故なく屋内に侵入し」と、同第二の事実中第
二行目「B方洋間において」を「B方洋間の南側庭出入口から故なく屋内に侵入
し」と、同第三の事実中第二行目「C方風呂脇の高窓から故なく屋内に侵入し」と
改める外原判示の各事実と同一であり、「証拠の標目」は原判示対応証拠と同一で
あるからこれを引用する。
 法律に照すに、被告人の判示各住居侵入の所為は刑法第一三〇条罰金等臨時措置
法第三条第一項第一号に、その他の同第一の所為は刑法第二四一条前段第二四三条
に、同第二の所為は同法第二三六条第一項に、同第三の所為は同法第二三五条に該
当するところ、右強盗強姦未遂致傷、強盗、窃盗の所為と各住居侵入の所為とは互
に手段結果の関係があるので同法第五四条第一項後段第一〇条により夫々重い前者
の刑に従い、右強盗強姦未遂致傷罪については所定刑中有期懲役刑を選択し、以上
各罪については被告人が自首したものであるから同法第四二条第一項第六八条第三
号を適用して法律上の減軽をなし、これらと原判決認定の確定裁判のあつた罪とは
同法第四五条後段の併合罪であるから同法第五〇条により未だ裁判を経ない右罪に
つき更らに処断することとし、同法第四五条前段第四七条第一〇条に従い最も重い
強盗強姦未遂致傷罪の刑(自首減軽したもの)に法定の加重をなした範囲内で被告
人を懲役一〇年に処し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項但書に則
り原審並びに当審におけるもの全部を被告人に負担させないこととする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 久永正勝 判事 津田正良 判事 四ツ谷厳)

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