弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決を取り消す。
2被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用はそのすべてを被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1本件は,北海道稚内市内にパチンコ店出店を計画していた被控訴人が,同市
内のパチンコ業者である控訴人事業者ら並びに控訴人社会福祉法人A以下控(「
訴人A」という)において,被控訴人の出店を阻止する目的で,控訴人事業。
者らが児童遊園を設置するなどしたため,被控訴人の出店予定地におけるパチ
ンコ店の営業につき風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下
「風営法」という)3条1項の許可を受けることができなくなり,損害を被。
ったと主張して,控訴人らに(亡は,第1審係属中に死亡し,同人の相続C
,,,。)人である控訴人1同2同3及び同4が本件訴訟を承継したCCCC
に対し,共同不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
一審判決は,控訴人らによる不法行為の成立を認め,控訴人らに対し,請求
どおり,連帯して総額10億0414万1150円(ただし,控訴人1,C
同3及び同4については2億5103万5287円の限度で)及び遅延CC
損害金の支払を命じたので,控訴人らは控訴した。
差戻前控訴審判決は,控訴人事業者らが,控訴人Aに対し,上記児童遊園用
地の寄附を申し入れた時点では,上記パチンコ店出店計画は未だ確定しておら
ず,控訴人事業者らが,被控訴人の出店計画を殊更に阻止するために,上記寄
附を申し入れ,被控訴人の営業の自由を侵害したとは評価できず,上記寄附に
は違法性がないとして,一審判決を取り消し,被控訴人の請求を棄却した。
これに対し,被控訴人が,上告の提起及び上告受理の申立てをしたところ,
上告審は,上告は棄却したものの,最高裁判所の判例違反を主張する上告受理
の申立てを受理した上,上記寄附は,被控訴人の事業計画が上記出店予定地の
購入により実行段階に入った後に行われたものというべきであり,風営法の規
制を利用し,競業者である被控訴人のパチンコ店開業を妨害したものというべ
きであるから,控訴人事業者らによる上記寄附は被控訴人の営業の自由を侵害
するものであり,違法性を有し,不法行為を構成するとして,差戻前控訴審判
決を破棄し,控訴人事業者らとの関係では被控訴人が被った損害について,控
訴人Aとの関係では被控訴人に対する不法行為の成否等について更に審理を尽
くさせるために当審に差し戻した。
2前提事実
以下の事実は当事者間に争いがないか又は以下に掲げる証拠若しくは弁論の
全趣旨により明らかに認められる。
()被控訴人は,北海道内において16店の遊技場を経営する株式会社であ1
る。控訴人事業者らは,いずれも稚内市内においてパチンコ店を経営してい
た者である。控訴人Aは,稚内市内において福祉事業を営む社会福祉法人で
ある。
()風営法4条2項2号は,同法3条1項の許可の申請に係る営業所が都道2
府県の条例で定める地域内にあるときは,公安委員会は,その許可をしては
ならないと定める。これを受けて,風営法施行条例(昭和30年北海道条例
第77号)は,風営法4条2項2号にいう都道府県の条例で定める地域につ
いて,児童福祉法7条の児童福祉施設の敷地の周囲100メートルの区域内
と定める。
()平成10年ころ,名古屋地区に本拠を有するパチンコ業者が稚内市内に3
パチンコ店を出店する計画を進めたことがあった。この計画は見送られるこ
ととなったが,控訴人事業者らは,このようなパチンコ業者の進出を阻止す
るために,同年5月15日,稚内市丁目番の土地(以下「本件海側acde
公園土地」という)を購入し,同日その移転登記を了した(甲121)。。
()控訴人事業者らは,平成10年7月16日,稚内市丁目番及び同4abfg
所同番の各土地(以下「本件山側公園土地」といい,本件海側公園土地とh
併せて「本件事業者土地」という)を購入し,同年9月29日,その移転。
登記を了した(甲118,119,乙21)。
()被控訴人は,平成11年4月1日,株式会社Xから,下記の12筆の各5
土地(以下「本件土地」という)を代金2億7000万円で購入し(以下。
「本件売買契約」という,同月8日,その移転登記を了した(甲24,。)。
104ないし115)

稚内市丁目番,同所番,同所番,同所番,同所番,abijklmnopq
rsactuvwxyzd同所番,同市丁目番,同所番,同所番,同所番,同所
efg番,同所番
()R組の代表者であるDは,平成11年4月12日付けで,本件山側公園6
土地に児童福祉施設等を建築する確認申請をし,同月20日,同申請に基づ
く建築確認がされた。また,Dは,同月13日,本件海側公園土地に公衆便
,,。所を建築する確認申請をし同月16日同申請に基づく建築確認がされた
(乙3,9)
その後間もなく,上記各建築確認に基づく児童福祉施設等の建築が開始さ
れた(以下「本件建築工事」という。。)
()控訴人事業者らは,平成11年5月14日,控訴人Aに対し,本件事業7
者土地3筆,同土地上の上記()記載の各建物及び遊具一式等を寄附し(丙6
6,同月21日,本件事業者土地について,控訴人Aへの共有者全員持分)
全部移転登記を了し,同月27日には,上記各建物について,控訴人A名義
の所有権保存登記を了した(丙6,甲118ないし122。以下「本件寄。
附」という)。
()控訴人Aは,平成11年5月28日,北海道知事に対し,本件事業者土8
地上の児童遊園(以下「本件児童遊園」という)の設置運営を定款の事業。
目的に追加する旨の定款変更について認可の申請をし,同年6月1日,その
認可を受けた。
()控訴人Aは,平成11年6月7日,北海道知事に対し,本件児童遊園設9
置についての認可の申請をした。
()被控訴人は,平成11年6月14日付けで,北海道旭川方面公安委員会10
に対し,本件土地上に建築を予定するパチンコ店(以下「本件パチンコ店」
という)の営業について,風俗営業の許可申請をした(甲2,弁論の全趣。。
旨)
()北海道知事は,平成11年7月14日,控訴人Aに対し,本件児童遊園11
の設置を認可した(以下「本件認可」という。。)
()北海道旭川方面公安委員会は,平成11年8月6日,上記()の許可申1210
請について,本件パチンコ店の敷地の周囲100メートルの区域内に,児童
福祉法7条所定の児童福祉施設(児童厚生施設・児童遊園)が,同年7月1
4日付けで認可されたことを理由として,不許可とした(甲2)。
3争点及び争点に関する当事者の主張
()控訴人らの不法行為の成否1
(被控訴人の主張)
被控訴人は,憲法22条1項により営業の自由を保障されており,自己の
好むときに,稚内市内の本件土地を含むすべての土地において,パチンコ業
の事業分野へ,新規事業者として参入する自由を有している。したがって,
被控訴人が本件土地に店舗を建設してパチンコ営業を行おうとしたのを,他
の者が何らかの方法で開業を阻止し,損害を与えた場合には,営業の自由を
妨害する行為として違法性が認められる。
控訴人事業者らは,被控訴人が本件土地において本件パチンコ店を開業す
,,,るのを阻止することを主たる目的としまず児童遊園の施設を建設設置し
控訴人Aに本件寄附の申入れをし,次いで,控訴人Aは,控訴人事業者らの
上記意図を十分に承知していながら,その寄附を受け入れ,定款改正をした
上,児童福祉法上の児童福祉施設である児童厚生施設としての児童遊園の認
可申請を行い,北海道知事が本件認可を与え,これによって被控訴人の出店
予定地である本件土地を風営法に基づく条例による指定営業禁止区域に該当
させ,被控訴人の営業を不許可にさせるという方法によって,被控訴人によ
る開業を阻止したものである。
かかる控訴人らの行為は,そもそも被控訴人が自由競争に参加しようとす
るのを阻止するものであり,被控訴人の営業の自由を妨害するものであるか
ら,被控訴人に対する共同不法行為を構成する。
本件認可自体は適法である。さらには,それに至るまでの,控訴人事業者
らによる児童遊園の建設設置,控訴人Aへの寄附,控訴人Aによる定款の改
正及び児童遊園設置の認可申請行為も,個々の行為としては適法である。し
かし,それらが,結局において,被控訴人の開業を阻止することを主たる目
的とし,開業阻止の方法の一手段である以上,全体として控訴人らの行為は
違法性を帯びることになる。
(控訴人らの主張)
控訴人事業者らによる本件寄附に違法性が認められるとすれば,それは,
被控訴人がパチンコ店営業目的の下に本件土地を取得したことを知り,それ
を知った控訴人事業者らが,営業妨害目的で突貫工事をして,控訴人Aに本
件寄附を行い,他方,控訴人Aは,必要のない児童遊園であるが,控訴人事
業者らの上記営業妨害目的に協力をして本件認可を得たというような例外的
な場合に限られる。
しかし,控訴人事業者らは,被控訴人が本件土地を取得する平成11年4
月1日以前から,控訴人Aに本件児童遊園を寄附することを決定して準備行
為を進めていた。そうだとすれば,その準備行為が始まった後に被控訴人が
本件パチンコ店開業のために本件土地を取得したとしても,控訴人事業者ら
のその後の本件寄附は,先に行われた寄附の決定の単なる延長にすぎないの
であるから,これを自由競争の範囲を逸脱する違法行為と評価することはで
きない。
また,控訴人事業者らが,パチンコ業者が本件土地を購入したとの事実を
知ったのは,早くても平成11年5月20日ころである。よって,控訴人事
業者らは,本件寄附を行った時点において,被控訴人が本件土地を取得した
ことを知らなかったのであり,そうだとすれば,そのことだけでも,上記準
備行為の有無にかかわらず,控訴人らの不法行為責任は否定される。
控訴人Aは,控訴人事業者らから,本件寄附を含めて平成10年から平成
12年まで一連の寄附を受けており,本件寄附も,稚内市地区を,児童,a
高齢者及び地域住民が豊かな社会環境を実現できる地区にするという展望の
もとに受けたものである。また,本件寄附は,被控訴人が本件土地を取得す
る以前の平成11年1月ころから,控訴人事業者らからの打診を受けて始ま
ったのであるから,控訴人Aが被控訴人による本件パチンコ店開業を妨害す
る意思のもとに本件寄附を受け入れることなどあり得ず,その後も,本件寄
附の受入れ決定まで,被控訴人が本件土地を取得したことを認識したことは
ない。
したがって,控訴人Aに不法行為責任が発生することはない。
(被控訴人の反論)
,,控訴人らは本件寄附行為についてその準備行為がなされたことを主張し
本件土地取得により被侵害利益が発生してから準備行為が始められていない
以上,違法性は認められない旨主張するが,違法行為は本件寄附であってそ
の準備行為ではないのであるから,そもそも本件寄附の準備行為がいつなさ
,。れたかということは違法性の判断にとって何らの意味を持つものではない
上告審判決は,準備行為の存在を強調する控訴人らの主張について,全く判
示せず,本件寄附の前に控訴人らが本件売買契約の存在を知っていれば十分
であり,準備行為の有無は不法行為の成否に関係ないと判断したものと解さ
れる。
また,控訴人事業者らは,少なくとも,不特定の同業者によるパチンコ店
,,進出を阻止する目的で本件児童遊園の設置及び控訴人Aへの寄附を計画し
その後本件売買契約が行われたことを知って本件寄附を実行しているのであ
るから,仮に控訴人らが主張する準備行為開始の後に本件売買契約が行われ
たとしても,被控訴人に対する不法行為の成立が妨げられることはない。
仮に控訴人らが主張する準備行為の存在により,不法行為の成立が否定さ
れるとしても,被控訴人が本件土地を取得した平成11年4月1日以前に本
件寄附の準備行為がなされた事実はない。控訴人事業者らは,上記4月1日
,,,か又はその日から同月5日までの間に上記土地取得の事実を知り大至急
本件児童遊園を建設して,控訴人Aに本件寄附を行ったものであり,本件寄
附の主たる目的が,被控訴人による本件パチンコ店の新規開店を阻止するこ
とにあったことは明らかであって,控訴人Aも,控訴人の上記意図を十分承
知しながら,必要もないのに,本件寄附を受け入れ,控訴人事業者らに協力
したものである。
よって,控訴人らの行為が被控訴人に対する不法行為となることは明らか
である。
()控訴人事業者ら個々の責任について2
(控訴人事業者らの主張)
AC遊技場組合(以下「組合」という)は,権利能力なき社団としての。
性格を有しており,本件寄附は,権利能力なき社団としての同組合の行為と
見るべきものであり,個々の組合員である控訴人事業者らに個別に不法行為
の要件が認められない限り,同人らが自己の財産をもって責任を負うべきで
はなく,本件においてその立証はない。
(被控訴人の主張)
組合が権利能力なき社団であることの主張,立証はまったくなされていな
い。また,寄附された土地は,控訴人事業者ら全員の共有名義であり,共有
者全員の承諾なくして寄附できないこと等からすれば,その全員が本件寄附
の趣旨を知っていたことは明らかであり,控訴人事業者ら全員につき不法行
為責任が発生する。
()損害3
(被控訴人の主張)
被控訴人が,控訴人らにより本件パチンコ店の開業を阻止されたことによ
って被った損害は,同店舗で開業したならば将来において得られたであろう
。,,利益の合計であるその利益は本件パチンコ店と同等の市場規模を有する
被控訴人が北海道内で開業する4店舗の営業実績,具体的には,税引前利益
の平均額に基づいて算定すべきであり,予定通り,平成11年8月に開業す
ることができたのであれば,毎年2億8926万円の営業利益をあげること
ができたと認められる。そして,本件パチンコ店は,開業後少なくとも50
年は継続できるであろうと合理的に推定される。よって,ライプニッツ方式
により中間利息を控除して計算すると,次のとおり,損害額は合計52億8
070万円となる。
289,260,00018.25595,280,700,000×≒
また,被控訴人は,本訴の追行を被控訴人代理人らに委任し,その成功報
酬の支払を約したが,そのうち8000万円は,控訴人らの不法行為と相当
因果関係を有し,損害として控訴人らに請求し得る。
よって,控訴人らは,共同不法行為者として,被控訴人に対し,連帯して
上記逸失利益及び弁護士費用相当額の損害賠償義務を負うが,被控訴人は,
その一部請求として,一審判決の認容額と同額の10億0414万1150
円(逸失利益につき一部である9億2414万1150円,弁護士費用につ
いては全額である8000万円)及びこれに対する不法行為の日である本件
パチンコ店の営業不能が確定した後の日である平成11年8月7日から支払
済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(控訴人らの主張)
アそもそも物的損害については,その物の交換価値の減少分を賠償すれば
足り,これとは別にその使用価値の賠償を求めることはできない。また,
そもそも,法人について自然人と同じような意味での逸失利益を観念する
ことはできない。
イ被控訴人の決算報告書を見る限り,被控訴人は本件パチンコ店開店の有
無にかかわらず順調な収益をあげており,本件パチンコ店を開業できなか
ったことによる損害は発生していない。
ウ新設店舗開業による利益を既設店舗の営業実績から推計するのは相当で
ない。また,比較対照としての既設店舗を,被控訴人が主張する4店舗と
することは,種々の条件の違いを考慮すると相当でない。
()過失相殺4
(控訴人事業者らの主張)
仮に損害が認定されたとしても,被控訴人には,以下のとおり,損害の発
生及び拡大について相当な落ち度があり,大幅な過失相殺が適用されるべき
である。
ア被控訴人の責任者であるEは,平成11年3月31日に本件土地を見に
行き,翌日である同年4月1日に本件土地を購入し,ほどなく総額2億7
000万円の売買代金を支払っており,全くと言っていいほど事前調査を
していない。また,同月8日に,本件建築工事が児童遊園設置のためのも
のであるかもしれないと考えながら,民間の児童遊園が認可になるはずが
ないとの主観的認識のもとに,本件パチンコ店建築を進めている。
イEは,平成11年6月3日に本件児童遊園が建設されていることを新聞
報道により知りながら,本件パチンコ店の建築工事を続行しており,その
工事を中止する指示をしたのは,本件児童遊園に関する本件認可のあった
同年7月14日になってからであった。
ウ児童遊園の存在によりパチンコ開業の目的を達せられないのであれば,
本件売買契約の錯誤無効の主張や,瑕疵担保責任の請求等も可能であり,
又は,本件土地を転売することも可能であった。
エ以上によれば,本件パチンコ店開業が不許可になる蓋然性があるにもか
かわらず,敢えて本件パチンコ店を建築した被控訴人は,損害の極小化に
ついて全く努力しようとしなかったものである。
(被控訴人の主張)
被控訴人の行う本件パチンコ店建築は営業の自由に基づく適法行為なので
あるから,不法行為が行われることを懸念して適法行為を中止する理由はな
く,中止しなかったことをもって過失であると非難されるいわれはない。
また,児童遊園の設置例は過去においてもほぼ皆無に等しく,被控訴人が
児童遊園が認可されることはないと信じた判断に過失はないし,そもそも控
訴人らの不法行為は故意によるものであるから,過失相殺は適当ではない。
なお,被控訴人の請求する損害は逸失利益であり,本件土地の買入代金で
はないから,控訴人事業者らの主張は前提を欠く。
第3当裁判所の判断
1当審における審理の対象
差戻審である当審は,上告審が破棄理由とした事実上及び法律上の判断に拘
束されるが(民事訴訟法325条3項,他方,従前の控訴審の審理の続行と)
して,破棄理由とされた事項に限らず,事件全般にわたって審理することがで
き,破棄判断の基礎となった事実関係を審理の上これを変更することができる
のであるから,上告審が破棄判断をするに当たりその基礎として立脚した事実
関係の確定については,上記拘束力は生じない(最高裁判所昭和36年11月
28日第三小法廷判決・民集15巻10号2593頁参照。したがって,当)
審は,上告審判決の前提となった差戻前控訴審判決の確定した事実関係と異な
る事実関係を認定した上で,差戻前控訴審判決と同一の結論に達することもで
きる。
控訴人事業者らは,上告審が前提とした差戻前控訴審が確定した事実関係,
すなわち,被控訴人が本件パチンコ店の出店予定地である本件土地を取得した
後に,これを知った控訴人事業者らが本件児童遊園用地を控訴人Aに寄附した
,。という事実関係を前提にするならば上告審の判断は正しいことを認めている
,,,しかしながら控訴人事業者らは①被控訴人が出店予定地を取得する前から
控訴人Aに対し,児童遊園を寄附する旨決定し,その準備行為を行っていた旨
主張し,原審が確定していない上記事実関係を前提にするならば,控訴人らの
行為を自由競争を逸脱する違法行為と評価することはできず,また,②差戻前
控訴審が確定した,被控訴人が出店予定地を取得した後,間もなく控訴人事業
者らはそのことを知り,平成11年4月6日に,控訴人Aに寄附の意向を伝え
たとの事実認定は誤っており,控訴人事業者らがこれを知ったのは同年5月以
降のことであるから,控訴人らの本件寄附は被控訴人のパチンコ店開業を妨害
する違法行為とはいえない旨主張し,控訴人Aも同旨主張すると解される。
よって,当審においては,上告審が再度の審理を求めた事項に加えて,原審
が確定した事実関係に,控訴人らが主張するような変更を加えるべきか否か,
変更したとして,その変更された事実関係に基づくならば,控訴人事業者らの
不法行為責任を認めた上告審判決の結論は相当かどうかも,併せて審理の対象
とする。
なお,被控訴人は,上告審は,控訴人らが主張する準備行為の存在いかんに
かかわらず,本件売買契約がなされたことを知って本件寄附が行われた以上,
不法行為は成立する旨判示したと主張するが,上告審判決が原審の確定した事
実関係の概要等として判示する事実関係には,本件売買契約成立以前の本件寄
附の準備行為の有無は含まれておらず,差戻前控訴審判決を破棄するに至った
その判断部分を見ても,本件売買契約締結の事実を知った控訴人事業者らが,
風営法の規制を利用して本件パチンコ店開設を妨害する目的で本件寄附を申し
入れた行為が,被控訴人の営業の自由を侵害すると判示するのみであり,本件
寄附の準備行為が,控訴人事業者らが本件売買行為を知る前から行われていた
場合にも,同様の結論となるかどうかについての判断は,示されていないとい
うべきである。よって,上記被控訴人の主張は採用できない。
2認定事実
前記前提事実に後掲証拠及び弁論の全趣旨を合わせると,以下の事実を認め
ることができる。
()組合は,北海道宗谷支庁管内にあるパチンコ遊技場業者をもって組織す1
る団体であり,平成10年に創立30周年を迎えた。組合は,創立30周年
記念事業として,社会福祉に貢献することを考え,組合事務局長であるFを
窓口として,平成10年4月,控訴人Aに対し,精神障害者のためのグルー
。,プホーム用地購入費用864万円の寄附を申し入れた控訴人A側の窓口は
常務理事兼施設長であるGであった。控訴人Aは,同年6月ころ,上記寄附
を受け入れた。控訴人Aは,これにより,本件海側公園土地の近くの土地を
購入し,建物建築資金を借入金及び補助金により調達して,グループホーム
を建築した。この寄附を通じて,FとGとの間では,今後も控訴人Aが行う
,。(,社会福祉事業に組合が協力していきたいとの話がなされた一審証人G
一審控訴人B1代表者本人F(以下「一審本人F」という,当審控訴人B。)
1代表者本人F(以下「当審本人F」という)。)
()組合は,控訴人事業者らの共有名義で,平成10年5月15日に本件海2
側公園土地,同年7月16日に本件山側公園土地を購入した。本件海側公園
土地は,新規パチンコ店進出を阻止するために購入されたものであったが,
本件山側公園土地は,2筆合わせても547.76㎡に過ぎず,パチンコ店
,,,を建築する用地としては敷地面積が不足しておりその使途として組合は
上記()のグループホーム用地資金寄附で繋がりを持った控訴人Aへの寄附1
を考えていた(前提事実,乙21,当審本人F)。
()Fは,平成11年1月ころ,Gに対し,児童公園を寄附したいと申し入3
れた。Gは,検討する旨Fに回答し,かかる寄附を受け入れることが可能か
どうかを調査することとした。Gは,調査の結果,児童福祉法に基づく児童
厚生施設たる児童遊園(児童福祉法7条1項,40条)としてであれば,寄
附を受け入れることが可能であると判断した。そこで,Gは,児童遊園であ
れば受入れ可能である旨Fに話した(一審本人F,当審本人F,一審証人。
G)
()Dは,Fから,平成11年1月ころ,R組で児童遊園建設を請け負う依4
頼を受け,同年2月初旬,宗谷支庁を訪れ,社会福祉課のH主事から児童遊
園について説明を受け,その際「標準的児童遊園設置運営要綱」と題する,
書面の交付を受けた。同要綱によれば,児童遊園の敷地は原則として330
㎡以上であり,標準的設備として,ブランコ,砂場などの遊具のほか,トイ
レや飲料水設備等を備えることが要求され,また,児童の遊びを指導する者
を置くことも要求されていた(そのための管理棟の設置も必要となる場合も
あり得る。なお,その後,Gも,宗谷支庁の担当者のもとを訪れ,児童遊。)
園の設置基準等について説明を受けている。Dは,その後も,同年5月一杯
くらいまで,何度か児童遊園設置の件で宗谷支庁を訪問しており,宗谷支庁
においても,平成11年3月ないし5月ころにDが来庁し,児童遊園の設置
基準について照会がなされたこと,その際,Dが「ある慈善家が施設に寄,
付するため組に造営を依頼してきた」旨説明したとの記録が残されている。
(乙16,17,丙49,一審証人G,差戻前控訴審証人D,当審証人D)
()Dは,宗谷支庁で受けた説明や受領した書面に基づき,児童遊園設置に5
必要な遊具の見積りを,平成11年2月10日ころ,S商事に依頼し,同月
22日付けで,同社を通じて遊具メーカーであるT産業から見積書を受け取
。(,,,,,,った乙18の192023差戻前控訴審証人D当審証人I1,2
当審証人D)
()一級建築士であるJは,平成11年2月ころ,R組から,本件児童遊園6
に必要なトイレ及び管理者が常駐するための管理棟の設計を依頼されて設計
を始め,同年3月,Jはこれを正式に受注した。Jは,基本設計は自ら行っ
たが,実施設計は外注した。基本設計には3週間,実施設計には3週間で,
。,,,全部で合計約6週間を要する設計図は完成し同年3月20日ころJは
これをR組に交付した(乙34ないし37,当審証人J,差戻前控訴審証。
人D)
()Fは,有限会社Uの代表者Kの息子から,平成10年10月か11月こ7
ろ,有限会社Uの経営するホームセンター「AB」の用地として,本件海側
公園土地を買い受けるか又は賃借したいとの申入れを受けた。Fは,この件
を組合に諮ったところ,本件海側公園土地は,前記の目的で時価より高い金
額で購入しているので,転売が望ましいということとなり,Fは,Kに対し
て,賃貸は難しい旨伝えた。その後,Kは,大規模小売店舗法が大規模小売
店舗立地法に変更になることから,その前に店舗開設の届け出だけでもしよ
うと考え,Fにそのための書類作成の了解を求め,Fは,一存でこれを了承
した。上記届け出には,店舗開設予定地にその旨の看板を立てた写真を提出
する必要があった。そこで,有限会社Uは,平成11年2月25日,V株式
会社を通じて,稚内市で看板業を営む株式会社Wに,上記看板の製作を依頼
した。株式会社Wでは「第二種大規模小売店舗設置者名㈱U表示年月,
日平成11年2月26日」という記載のある看板を作成し,同月26日,本
件海側公園土地にこれを持って行った。当時はまだ雪が深く,上記看板を雪
にさして何カ所かで写真を撮影しただけで,雪を掘って地面に固定すること
はなかった。撮影の後,その看板は,株式会社Wが自社に持ち帰り,倉庫に
,。,,保管したがその後見当たらなくなった有限会社Uは上記写真を添えて
同年3月2日,宗谷支庁を経由して北海道知事に対し,完成予定日を平成1
2年3月2日とするAB開設を内容とする第二種大規模小売店舗届出書を提
出した。なお,Kは,上記写真撮影について,撮影後にFに事後報告した。
(甲12,127,128,乙26,差戻前控訴審証人K,一審本人F,当
審証人L)
()その後,Z信用金庫から,Kに対し,株式会社Xが所有する本件土地の8
一部を同信金の融資金で買ってくれないかとの話しが持ち込まれた。Kは,
この話の方に興味を示し,本件海側公園土地を買い取る話はそれ以上進展し
なかった。Fは,平成11年3月20日ころ,Kからその話を聞いた(甲。
127,差戻前控訴審証人K,一審本人F)
()Fは,平成11年3月20日ころ,株式会社Xが廃業し,同社が所有す9
る本件土地が売りに出されるとの噂を聞き,知り合いの不動産業者,取引の
あるZ信用金庫,建設会社等を通じて,買主に関する情報を収集し,同業者
であるパチンコ店が買主かどうかを調査したが,その時は上記噂以上に詳し
い情報は得られなかった(一審本人F,当審本人F)。
()Fは,平成11年3月20日ころ,Gに,本件児童遊園の寄附について10
非公式の申入れを行い,Gは,同月21日,控訴人AのN理事長に,上記申
入れの話があることを告げた。同理事長は,理事会での正式決定に向けて具
体的な話を詰めるよう,Gに指示をした。Gは,その旨をFに伝え,これを
機に,本件児童遊園の設置及び本件寄附に向けた動きが具体化されることと
なった(一審本人F,一審証人G)。
()なお,本件寄附の態様について,金銭で寄附を受け,控訴人Aが自ら児11
童遊園を設置することも可能であったが,その事務作業が煩瑣であるため,
Gは,Fに対して,児童遊園の設備付設済みの土地の寄附を求め,Fもこれ
を了承した。また,控訴人Aとしては,本件児童遊園の寄附を受け入れてこ
,,,れを運営するに当たって事業の追加に伴う定款変更を要するところGは
宗谷支庁の行政指導により,少なくとも,受入施設に建築物が含まれる場合
には,定款変更申請の際にその検査済証の交付を受けることが必要と考えて
いた(丙2,5,一審証人G)。
()R組は,平成11年3月22日,本件児童遊園設置のため,本件海側公12
園土地につき,測量会社に頼んで測量を行った。当時はまだ積雪があったた
め,測量は簡易な測量にとどまった。測量には,R組の専務取締役であるI
が立ち会った(乙41,42,当審証人I)。
()R組は平成11年3月24日組合に対して本件児童遊園の施設建13,,,(
物,トイレ,遊具等)新設工事の見積書を提出した(乙5ないし8。4通)
の見積書の内容は,2289万円の「東児童遊園施設(遊具,修景施設)a
新設工事(乙5,609万円の「児童遊園(遊具)新設工事(乙6,」)」)a
2984万1000円の「児童遊園(建築)新設工事(乙7,1170a」)
万7500円の「東児童遊園施設トイレ新設工事(乙8)であり,そのa」
総合計金額は7052万8500円となる。R組と組合との間では,同年4
月6日,工事名を「児童遊園・東児童遊園新築工事,請負金額を合計7aa」
000万円とする工事請負契約が締結された(乙22。)
()株式会社Wの部長兼工場長であるLは,平成11年3月31日,控訴人14
BのM社長を通じて,組合から,本件児童遊園設置を示す「建設予定地」と
記載された看板2基の製作及び設置を依頼され,同年4月1日これを設置し
た。その後,Lは,同月7日,同じく上記M社長を通じて,組合から「児,
童公園建設用地完成予定5月初旬」と記載された看板2基の製作及び設置
を頼まれ,同日中に従前の看板の上に取り付ける形でこれを設置した(乙。
38,39,当審証人L,当審本人F,差戻前控訴審証人D)
,,,()被控訴人はかねてより稚内市内にパチンコ店を出店することを考え15
稚内市内の不動産業者を通じ,そのための用地を探していたところ,候補地
の情報が入った。被控訴人の取締役であるEは,被控訴人代表者とともに,
平成11年3月13日,上記土地を見るため,稚内市を訪れたが,同土地単
独では面積が足りず,隣接地の取得や借用が必要であったところ,これもで
きず,被控訴人は,この件は断念した(甲210,一審証人E,当審証人。
E)
,,,,()その後平成11年3月中に被控訴人は稚内市内の不動産業者から16
本件土地が売りに出されるとの情報を得た。本件土地の所有者である株式会
社Xの手形決済期限が同月末であり,同月中に本件土地の売買が決まらない
,,,と手形が不渡りとなるとのことだったのでEは被控訴人代表者を伴って
同月31日に稚内市を訪れ,現地を見た。その上で,被控訴人は,翌日であ
る同年4月1日,本件土地につき本件売買契約を締結した。そして,同月8
日には,Eが再び稚内市を訪れ,残金決済を行い,本件土地の移転登記を了
した(前提事実,甲210,一審証人E,当審証人E)。
()組合は,控訴人Aに対し,平成11年4月6日,正式に本件児童遊園寄17
附の申入れを行い,控訴人Aでは,これを受けて緊急の常任理事会で検討が
なされたが,同会では,受入れをするかどうかは理事会で審議することし,
それまではいかなる約束もできない旨が組合に伝えられた。そして,同年5
月10日,組合から控訴人Aに対して,本件寄附の申入文書が提出され,同
文書に基づき,同日,組合の理事ら及び控訴人Aの常務理事らとの間で事前
協議がなされ,同月13日,理事会において審議の上で本件寄附を受け入れ
ることが可決され,同月14日本件寄附が成立した(前提事実,丙6,一。
審証人G)
()組合から平成11年5月10日提出された「社会福祉事業に対する寄付18
の申し入れ(案」と題する書面には「最近,道内資本の最大手が大規模出),
店の噂があり当AC遊技場組合としても無視出来ないものです更,()。」,「
に大規模な出店はこれまでの組合の努力が無に等しいものになるだけでな
く,一層の射幸心を煽る営業展開が必然的となり地域環境にとっても問題で
あります「当組合として,地区を遊技場の施設エリヤとしてでなく,。」,a
住民と子供に豊かな社会環境を実現できる地区にしたいと考え「児童福祉」,
法の第7条の児童福祉施設に該当する「児童遊園(児童厚生施設」を建設)
いたしました」との記載がある。そして,同日の事前協議に参加した控訴。
人AのN理事長は,その場で「とかくの噂が出ている昨今,何かがあるの,
ではとの憶測が生まれたり,悪印象をもたれたりすることは双方にとって好
ましくない」との見解を述べている。また,同月13日の控訴人Aの理事会
の席では,本件土地へのパチンコ店出店の可能性が話題に上り,出店阻止戦
,,略に控訴人Aが利用されるのではないかとの疑念も出されたが最終的には
本件寄附の申入れを組合の善意として純粋に受け止めると共に,本件寄附を
控訴人Aの福祉事業が飛躍的に発展する契機にしようとの意見が大勢を占
め,本件寄附を受け入れることが決定された(丙6)。
()R組は,平成11年4月6日,組合との間で,本件建築工事請負契約を19
締結した後,同月12日に本件山側公園土地に児童福祉施設等,同月13日
に本件海側公園土地に公衆便所を建築する確認申請をした。本件海側公園土
地の公衆便所については,同月16日,本件山側公園土地の児童福祉施設等
については,同月20日,建築確認が行われ,その後間もなく本件建築工事
が開始され,工事完成の後,同年5月11日には,本件海側公園土地の建物
の,同月18日には,本件山側公園土地の建物の,それぞれ検査済証が交付
された(前提事実,乙4,10,22)。
3事実認定の補足説明
()被控訴人は,本件寄附の準備行為が平成11年4月以前に行われていた1
ことを認めるに足る証拠はないとして,そもそも準備行為の存在自体を否定
し,前記認定事実中,準備行為に関する認定事実につき,次のとおり主張す
る。
ア認定事実()について2
本件山側公園土地と本件海側公園土地の購入目的に違いはなく,本件山
側公園土地についても,同業大手のパチンコ業者の新規開業の妨害を目的
とするものであった。Fは,一審において,本件山側公園土地を含めて,
その取得目的が大手パチンコ店進出を阻止する目的であった旨供述してい
る。
イ認定事実()について3
控訴人らは,Gが,児童公園ではなく児童遊園であれば寄附を受け入れ
,,ることが可能であると考えたと主張するが社会福祉法人たる控訴人Aは
基本財産としてではなく,運用財産としてであれば,児童遊園としてでは
なく児童公園として受け入れ,周辺児童の「遊び場」として開放してこれ
を使用させることも可能であったのだから,上記控訴人らの主張は前提を
欠く。敢えて児童遊園として寄附を受け入れたのは,控訴人事業者らの要
請に応えて,被控訴人のパチンコ店出店を阻止するためである。
ウ認定事実()について4
Dと宗谷支庁との面談経過に関する宗谷支庁作成にかかる丙第49号証
には,Dが来庁したのは「平成11年3月から5月頃」と記載されている
にすぎない「3月から5月頃」との表現は,4月中のいずれかの日であ。
ると解すべきであり,また,これによれば,少なくとも,控訴人らが主張
する2月訪問の事実は否定される。
エ認定事実()について5
当審証人I及び同証人Dは,平成11年2月10日ころに遊具の見積り
を依頼したと供述するが,一審本人Fは,当時は本件事業者土地のうち海
側公園土地まで寄附するかどうかは未確定であった旨供述し(12頁,)
また,一審証人Gは,その時点で遊具の中味についての打ち合わせはなか
った旨供述する(13頁)から,遊具につき見積りを依頼することができ
るはずがない。また,S商事を通じた見積依頼であれば,T産業名義の見
積書ではなく,S商事の取り分を加えたS商事名義の見積書になるはずで
ある。
オ認定事実()について6
控訴人事業者らは,Jが平成11年3月に本件児童遊園の建物設計を受
注した証拠として,受注記録(乙37)を提出するが,平成19年1月1
9日作成の陳述書(乙34)において,Jは,受注日を示す書面は残って
いない旨述べている。また,受注記録中,本件児童遊園関係の受注のみ時
点が記載されており,しかも,月日ではなく年月が記載されているのは不
自然である。現地調査に行った日につき,Jは,尋問の際当初4月初めで
あった旨述べた後に3月初めと言い直している。J供述にかかる当時の積
雪量が実際の積雪量と異なる。外注を用いれば,1週間もあれば設計図は
完成できる。
カ認定事実()について7
売買等の約束もないのに,写真撮影をするためだけに看板を立てること
はあり得ないし,また,代金支払済みの看板につきいつの間にか見当たら
なくなったというのも無責任極まりない。また,平成11年4月7日に,
組合によって「児童公園建設用地」との看板が建てられるまでは,Kや本
件海側公園土地の向かいで店舗を営むOらが,有限会社Uが設置した前記
看板が設置されているのを現認している。
キ認定事実()について12
控訴人事業者らは,I証言の裏付証拠として,Iが当時付けていた手帳
(乙42)を提出する。しかし,差戻前控訴審証人Dは,当時の出来事に
つき作業日報等はなかったので作業員の記憶に基づいて供述した旨述べて
おり(25頁,矛盾する。)
ク認定事実()について13
平成11年3月24日に作成されたとされるR組作成の本件児童遊園施
設新築の見積書(乙5,7,8)及び同年4月6日に作成されたとされる
その工事請負契約書(乙22)には,それらの作成日以後に工事等の内容
が変更になった(甲133,218)にもかかわらず,変更後の工事等の
内容が記載されていることからすれば,上記各見積書及び契約書は,実際
,()(,,)には同年4月13日以降乙7又は同月22日以降乙5822
に作成された文書の日付を遡らせたものである。
ケ認定事実()について14
本件海側公園土地に「建設予定地」というだけの看板を立てても何の意
味もなく,かかる看板の制作依頼があったこと自体考えがたく,当審証人
Lの供述,その陳述書の記載及びその裏付証拠(乙38,39)に信用性
はない。
()しかしながら,被控訴人の以上アないしケの主張には,次のとおり,い2
ずれも理由がない。
アFは,一審において「いずれにしても,これらの土地というのは,今,
回購入した経緯としては,大手に進出されるならこちらで取得しといたほ
うがいいという,そういう見地から買っておいたということでよろしいで
すか」という質問に対して「はい。そうです」とは答えている(一審。,。。
本人F,しかし,その答えに続いて,Fは「先方のほうからたまたまそ),
ういう転売の話がありましたので,買いました」と供述しており,これ。
,「。は明らかに本件海側公園土地を念頭においた供述と認められ上記はい
そうです」が,本件山側公園土地の取得目的が同業者進出を阻止する目。
的であったことを明確に認める発言であると認めるのは相当でない。そし
て,Fは,当審において,本件山側公園土地購入の目的は,寄附であり,
()。,パチンコ店阻止目的ではないと明確に供述している当審本人Fまた
本件山側公園土地は,①その購入時期が本件海側公園土地よりも約2か月
後であること,②土地の広さがパチンコ店を開設するには狭すぎること,
③妨害目的で買ったとすれば,組合が,購入当時から児童遊園に関する距
離規制を知っており,かつ,株式会社Xが現に会社を営む本件土地がパチ
ンコ店に売られる可能性を認識していたこととなるが,平成10年7月1
6日当時に組合がそのような認識を有していたというには無理があること
などからすれば,当審におけるFの上記供述は信用できる。
以上によれば,一審における上記F供述を根拠に,本件山側公園土地の
取得目的がパチンコ店進出阻止目的であったとする被控訴人の主張は,採
用できない。
イ被控訴人が主張するように,控訴人Aが,運用財産として,児童遊園で
はない児童公園を保有することは,法的に不可能ではない。しかし,本件
寄附の目的が,控訴人Aが行う児童福祉事業に協力していきたいというこ
とであれば,控訴人Aとしては,本件寄附によって新たにこれまで定款上
の目的にもなかった児童に関する事業を営んでいくことを意味し,そうな
ると,定款を変更した上,その事業の用に供する本件寄附の対象となる土
地を,基本財産として受け入れ,これを前提に,監督官庁から定款変更の
認可を得る必要があったと認められる。したがって,Gが,基本財産とし
て本件寄附を受け入れるためには児童遊園でなければならないと考えたと
すれば,その判断は相当であったというべきである。そうすると,運用財
産たる「児童公園」として受け入れれば十分な本件寄附を,控訴人事業者
らが敢えて「児童遊園」として受け入れることにより,パチンコ店出店を
,,。阻止しようとしたとの被控訴人の主張はその前提を欠き採用できない
ウ丙第49号証の「3月から5月頃」との表現は,その期間中のいずれか
の時点という意味ではなく,その間に複数回にわたってという意味と解す
るのが相当であり,丙第49号証の「児童遊園の設置認可に係る経過」に
は「113∼5月ころ」の次欄に「4.12(4月12日)の本件,」H
児童遊園の確認申請の記載があることからも,そのことは明らかである。
また,上記記載は,面談の記録が残っているのは,平成11年3ないし5
月ころであったとの趣旨と解すべきであって,同年2月にDが宗谷支庁を
訪れたことを否定する趣旨とまで解することはできない。
エT産業の見積書(乙19)について,見積書の依頼がS商事を通して行
われたとしても,T産業が直接R組宛の見積書を作成することはあり得な
いことではない。S商事の取り分は別途支払われれば足りる。また,遊具
について,寄附を受ける側の控訴人Aとの打ち合わせは必ずしも必要では
ないし,本件海側公園土地の寄附が正式に決まっていなかったとしても,
その準備行為として,遊具の見積りを行うことはあり得る。
オJが,乙第34号証の陳述書において,乙第37号証の存在を認識しな
がら受注日を示す書面が残っていないと供述したとしても,Jが請負契約
書など明確な日付の分かる書面がないという意味でそう述べたとも考えら
れ,乙第37号証のような作業日誌がそれに当たらないと考えて上記供述
をしたとすれば矛盾はない。
受注記録中,本件児童遊園関係の受注のみ時点が記載されている点,及
び受注記録は1年単位で作成され,かつ「月日」欄とされているのに敢え
て年である「11」と月である「3」の記載がなされている点は,確かに
不自然であり,この記載は,工事内容等の記載時点よりも後に書き込まれ
た可能性が高く,この記載をもとに平成11年3月における発注の事実を
認定することはできない。しかしながら,上記時点以外の本件児童遊園の
建物の設計にかかる上記受注記録の記載は,建築確認日が一致するなど,
その内容からしても,実際になされた受注を記載したものというべきであ
る。そして,Jの設計に基づく建築確認申請がなされたのが,平成11年
4月12日及び同月13日であることと,設計に要する期間とを併せ考慮
するならば,同月1日以後に受注したと考えるのは無理であり,その受注
は,Jが供述するようにそれ以前であったと認めるのが相当である。
なお,Jの尋問における被控訴人が主張する程度の言い間違い,記憶違
いは,著しく不自然ではなく,それだけでJの証言全体の信用性を失わせ
るものではない。設計図完成に要する期間が一週間であるとする被控訴人
の主張は,これを認めるに足る証拠はない。
カAB開設に関する看板の製作設置に関する株式会社Wの作業日報(乙2
6)によれば,その製作に関する記載はあるが,その設置作業に関する記
載はなく,組合が平成11年4月1日及び同月7日に設置したと主張する
看板に関する作業日報(乙38,39)には,設置,取付作業がなされた
旨の記載があることも併せ考慮するならば,ABの看板については,これ
を設置することなく写真撮影のみ行ったとのLの供述(乙26,当審証人
L)は信用することができる。これに対して,ABの看板が4月7日まで
設置されていたということについては,K(甲127,差戻前控訴審証人
K)の供述,Pの供述(甲211,当審証人P)しかなく,その信用性を
裏付けるに足る供述以外の証拠はない。また,本件海側公園土地を,組合
から購入又は賃借できるかどうかについては未定であったが,法律の改正
前に届け出をしなければならなかったことはK自身認めており,だとすれ
ば,届出書提出に必要な写真撮影だけのために看板を製作することは決し
てあり得ないことではなく,かかる目的であれば,目的を達した代金1万
5000円(乙26)に過ぎない看板の処理について,有限会社Uが関心
を抱かず,株式会社Wでもその保管に意を用いないこともあり得ないこと
ではない。
以上によれば,上記ABの看板は,写真撮影目的のみで作成され,写真
撮影後直ちに株式会社Wが持ち帰って倉庫に保管していたと認定するのが
相当である。
キ差戻前控訴審において,証人Dは,作業員の作業日報等はない旨供述し
ているが(25頁,乙第42号証がIの個人的備忘録であると認められ)
ることなどからして,Dが上記証言時にその存在を認識していなかったか
らといって,乙第42号証の記載が直ちに虚偽記載であるということはで
きない。
ク(ア)Dは,乙第22号証の請負契約書の内容であると被控訴人が主張す
る2枚の「施設一覧表」は,平成11年秋ころに作成された資料が誤っ
て契約書添付書類として提出されたものである旨供述しているところ
(乙64,当審証人D,乙第22号証の請負契約書には割印がないこ)
とからすれば,同一覧表は平成11年4月6日になされた請負契約の内
容をなすとは認められず,後日作成された資料が誤って添付されて証拠
提出されたとの上記Dの供述は信用でき,この点に関する被控訴人の主
張には理由がない。
(イ)次に,平成11年3月24日付でR組が作成したとされる乙第5,
第7,第8号証の作成日付について検討する。
(ウ)以下に掲げる証拠によれば,次の事実が認められる。
a本件海側公園土地に設置予定の東児童遊園の遊具及び修景施設のa
平成11年3月24日付見積書(乙5)において,遊具の記載は,木
製コンビネーション遊具1基,スプリング遊具2基及び砂場となって
いる。
()b本件海側公園土地に設置予定のトイレの建築計画概要書甲218
記載の建物配置図によれば,遊具は,上記aとは異なり,木製コンビ
ネーションは記載されておらず,その代わりに,富士型スベリ台,鉄
棒(3連,2人用ブランコ,回転トリカゴが記載されている。)
c最終的に,東児童遊園に設置された遊具は,上記aと同じ,木製a
コンビネーション遊具1基スプリング遊具2基及び砂場であった丙,(
6。)
d東児童遊園のトイレの平成11年3月24日付見積書(乙8)にa
おいて,建築面積は21.6㎡となっている。
e上記dのトイレの建築計画概要書(甲218)によれば,建築面積
,.,についていったんは3510㎡で建築確認を申請し確認を得た後
間もなくこれを21.6㎡に変更し,最終的に寄附された上記トイレ
の面積は21.6㎡となっている(丙6。)
f本件山側公園土地に設置予定の児童遊園の管理棟の平成11年3a
月24日付見積書(乙7)において,建築面積は97.20㎡となっ
ている。
g上記fの建物の建築計画概要書(甲133)によれば,建築面積に
,.,ついていったんは17496㎡で建築確認を申請し確認を得た後
間もなくこれを97.20㎡に変更し,最終的に寄附された管理棟の
面積はさらに狭い77.76㎡となっている(丙6。)
(エ)上記認定したところによれば,乙第5,第7,第8号証が作成され
たのは,本件売買契約の後の上記各変更がなされた後であり,その作成
日付は,後日遡って記載されたものであるかにも思われる。
この点,控訴人らは,トイレ及び管理棟については,当初からの計画
がいったん大規模なものに変更された後,再度当初計画されたものに戻
ったのであるから,上記各見積書の内容が再変更後の建物と一致するの
,,,は当然であり遊具については見積段階で既に計画が変更されており
見積もりは変更後の計画を反映しているにもかかわらず,建築概要計画
書の配置図は,上記変更前の計画を反映したものが誤って提出された旨
主張し,Dも同旨供述する(乙64,当審証人D。)
(オ)Dの上記供述内容は,概要以下のとおりである。
a管理棟及びトイレの規模は,当初の計画では,最終的に建築された
,,,建物と同じであったが平成11年3月初旬ころFからDに対して
本件山側公園土地に建築予定の管理棟に,老健施設を付け加えられな
いかという提案があった。また,老健施設が付け加わると,本件海側
公園土地に建設予定のトイレに障害者等の出入りが多くなるだろうと
いう見込みのもと,そのトイレに障害者用トイレを併設する計画も持
ち上がった。
bまた,同じころ,本件海側公園土地に設置する予定の遊具につき,
T産業の見積もりに基づき検討していたところ,設置遊具として木製
コンビネーション遊具がよいのではないかということになった。
cDは,管理棟及びトイレについて,上記a及びbの変更の時点で,
既にJに設計を依頼していたところ,変更後の計画に従った設計の変
更もJに依頼することとなった。ただし,上記変更はまだ確定的なも
のではなかったため,両計画案の準備が並行して進められ,変更前の
第1次案が固まったところで,これに基づく見積書(乙7,8)が作
成された。
d遊具については,木製コンビネーション遊具に変更することが確定
したため,この変更を取り込んだ東遊園設置遊具の見積書(乙5)a
が作成された。
eところが,平成11年4月初旬ころ,老健施設を付設するとの変更
後の計画が,周辺住民の日照や職員の駐車場確保等の観点から実施で
きなくなった旨,Fから連絡があったため,Dは,並行して準備して
いた変更前の計画に基づいて,トイレ及び管理棟の確認申請書類を準
備するようJに連絡を取った。しかし,Jは,既に変更後の計画に従
って確認申請書類を完成させており,Jは,これに基づいて下請先に
発注していたため,下請代金の支払の都合もあって,より規模の大き
な工事である変更後の計画に従って確認申請を行い,その後に,より
,。規模の小さい変更前の計画に変更することとしDもこれに同意した
,,,,f遊具についてはJがトイレの建築確認の際建築計画概要書に
最初の見積もりの際にT産業が作成しJに渡されていた木製コンビネ
ーション遊具を含まない変更前計画に基づく遊具配置図を,変更を考
えずにコピーして貼り付けたため,変更を反映しない異なる配置図と
なってしまった。
(カ)上記Dの供述内容は,前記見積書や建築計画概要書の内容とも合致
し,また,その内容自体において,一応合理性を有する。Jは,第二次
案を第一次案に戻す要請があったのは,当初の建築確認申請がなされた
平成11年4月12日の後である旨供述するが(当審証人J,同供述)
と上記D供述の齟齬は,本来変更後の内容で確認申請すべき立場にあっ
,,たJが下請代金等の関係で実際と異なった確認申請を行ったことから
実際の経緯を述べられなかったことに起因すると考えるべきであって,
上記齟齬をもって,D供述の信用性を否定するのは相当でない。また,
トイレの建築確認に当たり,遊具の種類等は重要な意味を持たないこと
から,Jが変更前に入手していた遊具配置図を,確認申請書類に用いた
としても,著しく不合理であるとはいえない。トイレ及び管理棟の建築
確認申請につき,第一次案で申請すべきところ,第二次案で申請したと
いう点については,本来あってはならないところであるが,結果的に,
短期間で第一次案に変更申請しており,注文主の意向に反した申請とは
なっていないことからすれば,上記事実をもって,この点に関するDの
供述を虚偽と断ずることはできない。
かえって,前記建築確認の変更に要した期間は1週間程度であり,被
控訴人が主張するように,いったん建築確認を申請した後にそれまで検
討の対象ともなっていなかった建築内容への変更が急きょなされたとす
,,,ると期間として短か過ぎ逆に既に完成していた変更案であったから
これだけの短期間で建築確認の変更が可能であったと考えるのが相当で
。,,。あるそして他に上記D供述の信用性を否定するに足る証拠はない
被控訴人は,平成11年4月7日に組合が株式会社Wに製作設置を依
頼した看板に「児童遊園」ではなく「児童公園」建設予定地と記載さ,,
れたことから,その時まで,組合では「児童遊園」ではなく「児童公,
園」を設置する予定であり,その後,本件山側公園土地に建てる建物の
建築確認申請をした同月12日までに「児童遊園」を設置することに,
変更したとし,そうすると「東児童遊園」及び「児童遊園」という,aa
標題を用いた乙第5ないし第9号証の各見積書の平成11年3月24日
との作成日付は虚偽である旨主張する(J作成の乙第37号証の受注記
録の「児童福祉施設等」の工事を平成11年3月に受注したとの記載も
虚偽である旨主張する。。)
株式会社WのLが依頼を受けたのは,あくまで「児童公園」建設用地
(,,)。と記載された看板であることが認められる乙3839当審証人L
,,,しかし株式会社Wに看板製作を依頼したのは事情を知るFではなく
前記M社長であり,児童遊園と児童公園の違いを必ずしも明確に認識し
ておらず,そのため,Lへの依頼の際に間違った可能性がある。また,
看板設置の趣旨が周辺住民への周知にある以上,F自身,その違いに意
識が向かず,記載内容をM社長に伝える際「児童遊園」ではなく「児,
童公園」と誤って指示した可能性も認められる。実際,Fも,一審にお
,「,,いて看板屋さんが聞き間違ったのか発注した人間が間違ったのか
ちょっと分からないんですが,結果として児童公園ということで立って
しまいました」と証言している(一審本人F。以上によれば,上記看。)
板の記載が「児童公園」となっていることから,平成11年4月7日当
時設置が予定されていたのは「児童遊園」ではなく「児童公園」であ,
ったとする被控訴人の主張を採用することはできない。
(キ)以上によれば,計画変更等に関する前記D供述は信用することがで
き,前記各見積書の内容と実際の工事内容が合致することについては,
一応合理的な説明が可能であるから,上記合致を理由に,前記各見積書
が,建築確認後に日付を遡らせて作成されたとする被控訴人の主張には
理由がない。
ケ「建設予定地」の看板を立てたのが,控訴人Aへの本件寄附の正式な申
入れ(平成11年4月6日)の前であったことからすれば,建設対象を明
示しないことも想定できないではない。そして,本件寄附の正式申入れが
なされた平成11年4月6日の翌日である同月7日に,児童公園の建設予
定地であることを明示する看板に変えたことも,著しく不合理とはいえな
い。
4本件寄附が行われた経緯
以上認定したところによれば,組合から控訴人Aに対する本件寄附の経緯に
関して,①組合は,グループホーム設置資金の寄附を通じて交流のあった控訴
人Aに対して,控訴人事業者らの共有名義で保有する本件事業者土地を児童の
公園として寄附したいと考え,組合事務局長のFが窓口となって,平成11年
1月ころから,控訴人Aの常務理事であるGとの間でその準備行為を開始した
こと,②Gは,児童福祉法上の児童厚生施設たる児童遊園として,児童遊園の
基準を満たす設備を組合で設置した上ならば,寄附を受入可能である旨Fに伝
え,Fもこれを了承したこと,③組合は,R組に,本件事業者土地上に児童遊
園として必要な設備を設置する工事を請け負わせたこと,④R組は,監督官庁
である宗谷支庁の担当者から,児童遊園として必要な設備の教示を受けた上,
遊具メーカーに遊具の製作を依頼し,一級建築士であるJにトイレと管理棟の
設計を依頼したこと,⑤平成11年3月下旬ころ,J作成の設計図が完成し,
Fは,Gに対し,本件寄附に関する非公式の申入れを行い,Gは,控訴人Aの
理事長にその旨伝えたこと,⑥その後,本件児童遊園設置の動きが具体化し,
平成11年3月24日,R組が本件児童遊園設置工事にかかる見積書を組合に
提出したこと,⑦平成11年4月6日には,組合から控訴人Aに対し,正式な
本件寄附の申入れがなされ,控訴人Aは,緊急常任理事会で受入れを検討した
,,,がこれを受け入れるかどうかは理事会で審議する旨が組合に伝えられ同日
上記⑥の見積もりに基づき,組合とR組との間で本件児童遊園設置にかかる本
件建築工事請負契約が締結されたこと,⑧平成11年4月7日には,本件事業
者土地に「児童公園建設用地」との記載がある看板が立てられ,同月12日及
び同月13日には,トイレ及び管理棟につき建築確認申請がなされ,同月16
日及び同月20日には建築確認がなされ,その後,本件建築工事が開始された
こと,⑨平成11年5月13日には,控訴人Aの理事会において,本件寄附を
受け入れることが決定され,同月14日,本件寄附が成立したこと,⑩平成1
1年5月11日にはトイレの,同月18日には管理棟の検査済証が交付され,
同月21日には本件事業者土地の控訴人Aへの移転登記が,同月27日には,
上記各建物の控訴人A名義の保存登記がなされたこと,⑪控訴人Aは,平成1
1年6月7日には,本件児童遊園の設置についての本件認可の申請をなし,同
年7月14日に認可がなされたこと,がそれぞれ認められる。
以上の本件寄附の経緯を全体として見た場合にも,児童遊園を設置して寄附
する場合に通常想定される経緯として,格段不自然な点は認められない。
被控訴人は,本件売買契約がなされた平成11年4月1日以前の本件寄附の
準備行為の存在をすべて否定し(上記①ないし⑥。なお,上記⑦の4月6日の
工事請負契約締結も否定する,本件寄附に向けた行為は,同月1日から同月。)
5日までの間に,組合が本件売買契約を知った後,いわばゼロから始められた
旨主張する。しかし,平成11年4月12日には,本件山側公園土地に建築予
定の管理棟についての建築確認申請が,同月13日には,本件海側公園土地に
設置予定遊具の種類まで書かれた遊具配置図を含む本件海側公園土地に建築予
,,定のトイレの確認申請がなされており同月1日から組合が動き始めたとして
児童遊園の設置に必要な設備の調査,建築物の設計,遊具の選定を,すべて上
記短期間のうちに完了させることは不可能であるといわざるを得ない。その点
からも,本件売買契約がなされた平成11年4月1日の時点では,前記認定の
とおり,本件児童遊園寄附のための内部的な準備行為は概ね終了していたと解
するのが相当である。
5控訴人事業者らが本件売買契約を知った時点
()被控訴人は,控訴人事業者らが本件売買契約を知ったのは,本件売買契1
約がなされた平成11年4月1日から,本件寄附を控訴人Aに申し入れた同
月6日の前日である同月5日までの間である旨主張する。上記本件寄附申入
れが何らの事前の準備行為なく,いきなり同月6日になされたのであれば,
上記のとおり推認することもできよう。しかし,本件においては,前記認定
のとおり,寄附の準備行為が2か月以上も前から行われ,かつ,本件児童遊
園設置の内部的な準備行為もほぼ完了した後に,寄附が行われているのであ
るから,本件売買契約の直後に本件寄附の正式な申入れがなされているだけ
で,その時点で控訴人事業者らが本件売買契約の事実を知っていたと推認す
るのは相当でないというべきである。
()被控訴人は,控訴人事業者らが平成11年4月1日から同月5日までに2
本件売買契約を知った根拠として,①控訴人事業者らは,平成10年春ころ
から,同業者の出店を阻止するために情報収集に努め,その阻止に成功して
きたこと,②被控訴人は,平成11年3月13日に稚内市内に新規出店する
ため土地を取得しようとしたが,控訴人事業者らに妨害されたこと,③控訴
人事業者らは,同月20日過ぎころ,本件土地売却の噂を聞いて,関係者か
ら情報収集を行ったこと,④本件売買契約は,Z信用金庫で締結されたが,
控訴人事業者らのほとんどは同金庫と取引をしていること,⑤控訴人AのN
理事長が取締役を務めるY株式会社の代表取締役であるQは,本件売買契約
締結の3日後にその情報を得ていたこと,⑥本件海側公園土地について,有
限会社Uとの間で売買の話が進んでいたにもかかわらず,組合は,平成11
年4月7日に有限会社Uに連絡することなく,本件海側公園土地に立てられ
たABの看板を撤去して,売買の話が立ち消えになったこと,⑦有限会社U
も,平成11年4月8日までには本件売買契約の締結を知っていたことを指
摘する。
()上記事情②について3
前記認定事実()によれば,平成11年3月13日,Eは,パチンコ店出15
店の用地を探すために稚内市を訪れたが,結局用地取得に至らなかったこと
が認められる。Eは,上記計画が頓挫したのは組合が妨害したからである旨
(),。供述するが一審証人EEの供述以外にこれを認めるに足る証拠はない
よって,そもそも上記②の事実は認められない。
()上記事情⑤について4
証拠(甲211,乙57,当審証人P,当審証人Q)によれば,少なくと
も,①Qは,稚内市内で手広く不動産関係の仕事をしている株式会社Yの代
表取締役であったこと,②Pは,理髪業を営みながら不動産仲介の仕事にも
関与し,株式会社Xと被控訴人との間の本件売買契約を仲介し,平成11年
4月1日の契約の場にも立ち会ったこと,③同月3日ころ,Qは,PをQの
自宅に呼び出し,本件土地をパチンコ屋に売るのかどうか確認したことが認
められる。
以上の事実のみによっても,Qは,本件売買契約の直後である平成11年
4月3日には,Pの仲介により,本件土地が,被控訴人に売却されたか,あ
るいは近々売却予定であることを知っていたと認めることができる。
()上記事情⑥について5
途中まで建設された被控訴人の本件パチンコ店は,その後の一部の取壊し
もあって,本件海側公園土地に設置された児童遊園との関係では,最終的に
風営法上の距離制限に違反しないこととなった。しかし,本件土地上の本件
パチンコ店の位置いかんによっては,風営法の距離制限に触れることもあり
得た。したがって,本件売買契約時点においては,控訴人事業者らが,本件
海側公園土地に児童遊園を設置する動機は存在した。しかし,前記認定のと
おり,そもそもABの看板は,形式的な行政上の届出に必要な写真撮影のた
めに作成されたにすぎないし,組合と有限会社Uとの間の話は,有限会社U
が本件土地の一部を購入する話が出た時点で実質的に立ち消えになっていた
と認められる。したがって,本件寄附を行うために有限会社Uとの話を反古
,。にしたことを前提とする被控訴人の主張はそもそも前提を欠き理由がない
()上記事情⑦について6
Kは,控訴人事業者らが提出した同人の陳述書(乙25)において,Kの
息子が,本件売買契約の後,被控訴人に電話をして,本件土地の使用を求め
た旨述べており,同供述は,平成11年4月8日に,Kの息子から本件土地
の一部を使わせてくれないかとの電話があったとのEの供述と一致している
(一審証人E。以上に加えて,前記認定したところによれば,有限会社U)
は,同年3月20日以前に,Z信用金庫から本件土地購入の打診を受けてお
り,本件土地の購入先については重大な関心を持ってしかるべき立場にあっ
たことも併せ考慮するならば,Kは,同年4月8日の時点で本件売買契約の
存在を知っていたと認められる。
()上記事情①,③,④について7
前記認定したところ及び弁論の全趣旨によれば,組合は,パチンコ業者の
進出を阻止するために,名古屋のパチンコ業者が購入を諦めた本件海側公園
土地を,他の同業者が進出するのを阻止するために購入するなど,外部の同
業者が稚内市内に新規にパチンコ店を開業することを警戒してこれを阻止す
る活動を行ったこと,平成11年3月20日ころには,株式会社Xが本件土
地を手放そうとしているとの情報を入手し,Z信用金庫の関係者らからの買
主情報の収集活動を行ったこと,控訴人事業者らのほとんどがZ信用金庫と
取引があることがそれぞれ認められる。
()以上認定したところによれば,本件土地に関心を持つ稚内市内の者の多8
,,,くが本件売買契約後相当早い時期から本件土地を被控訴人が購入したか
あるいは購入するという情報を入手していたことが認められ,Z信用金庫や
地元の不動産業者と密接な関係を持ち,平成11年3月下旬の時点から本件
土地をパチンコ業者が購入するとの情報を入手していたFも,同年4月6日
の時点では,本件土地を被控訴人が購入したか購入すること,少なくともそ
の可能性が非常に高いことは知っていたと認めるのが相当である。
()控訴人事業者らは,本件売買契約を知ったのは平成11年5月20日こ9
ろである旨主張するが,前記認定事実()の,同月10日に組合が控訴人A18
に提出した寄附申入書の文面や寄附成立に至る協議の経緯を見るならば,組
合は,寄附申入文書を提出した同月10日以前から,被控訴人が本件土地を
購入して本件パチンコ店を開業しようとしていることを知っていたこと,そ
,。して本件寄附の目的の1つにその開業の阻止があったことは明らかである
,,このことからも本件寄附の申入れがなされた平成11年4月6日の時点で
控訴人事業者らが本件売買契約を知っていた事実は,優に認められるという
べきである。
()控訴人事業者らは,平成11年4月7日の時点では,児童遊園の設置に10
より,被控訴人が本件土地にパチンコ店を開業できなくなることは知らなか
。,,,った旨主張するしかしながら前記認定したところによればD及びGは
平成11年2月ころから,宗谷支庁に何度も通うなどして,児童遊園に関す
る法的問題には通暁していたと認められ,Fも,上記両名と打合せを重ねる
中で,児童遊園設置が一定範囲のパチンコ店開業を阻止する効力があること
は十分認識していたと認めるのが相当である。
6控訴人事業者らに不法行為は成立するか
以上認定した事実に基づき,まず,控訴人事業者らの本件寄附が,被控訴人
の営業の自由を侵害するものとして,被控訴人に対する不法行為となるか否か
検討する
()上告審判決は,被控訴人が本件売買契約により本件土地を購入したこと1
を知った後,控訴人事業者らが,風営法の規制を利用して,被控訴人がパチ
ンコ店営業の許可を受けることができないようにする意図で,本件寄附を申
し入れたことを前提に,かかる場合には,風営法の趣旨とは関係のない自ら
の利益確保のために,上記規制を利用して,競業者である被控訴人が本件パ
チンコ店を開業することを妨害したというべきであるから,本件寄附は,許
,,された自由競争の範囲を逸脱し被控訴人の営業の自由を侵害するものとし
不法行為を構成すると判示する。
不法行為責任を認めた判例として被控訴人が引用する最高裁判決(平成2
0年7月8日第3小法廷判決・平成18年(受)第1214号)の事案も,パ
チンコ業者が,自らの店舗の近隣地域でパチンコ店出店のための借地契約が
締結されたことを知った後,風営法の規制を利用して,上記パチンコ店の開
業を妨害することを計画して,診療所を開設したという事案である。
()これに対して,本件は,控訴人事業者らが,社会福祉法人である控訴人2
Aの社会福祉事業の発展拡大を目的として本件寄附を計画し,その準備行為
たる児童遊園の設置手続を相当程度進めていた最中に,被控訴人が本件児童
遊園を設置する予定の本件事業者土地との関係で風営法のパチンコ店開業規
制のかかる本件土地を購入したという事案である。前記認定したとおり,組
合が控訴人Aに正式に本件寄附の申入れを行ったのは,本件売買契約の5日
後であり,控訴人事業者らは,本件売買契約の後間もなくその事実を知り,
本件寄附の正式申入れを行っている。また,その時点で,本件寄附が,本件
パチンコ店の開業を阻止する効果を有することを,控訴人事業者らは知って
いたものと認められる。
そうすると,本件寄附は,結果として,競業者である被控訴人が本件パチ
ンコ店を開業することを阻止することとなり,また,控訴人事業者ら自身,
その効果を欲していたとは認められるものの,その主たる目的は,控訴人A
が営む社会福祉事業の発展にあったというべきであり,被控訴人のパチンコ
店開業を阻止するという自らの利益の確保のためにのみ,風営法の規制を利
用したという上告審判断の前提は,当審における事実審理の結果,本件には
当てはまらないこととなったというべきである。そして,上記事実関係を前
提とする限り,本件寄附は,控訴人事業者らが自由になし得るものであり,
本件寄附の実行により被控訴人が本件パチンコ店が開業できなくなるからと
いって,控訴人事業者らに対して,相当の期間・費用・労力をかけて行った
。,準備行為を断念することを強いることはできないと解すべきであるそして
控訴人事業者らが,本件寄附の申入れの時点では本件寄附が本件パチンコ店
開業を阻止することを知り,さらにその効果を欲していたとしても,そのこ
とにより上記判断が左右されることはない。
なお,被控訴人は,仮に控訴人事業者らが主張する準備行為が存在すると
としても,その準備行為自体,不特定のパチンコ業者によるパチンコ店進出
を阻止する目的で行われたものであるから,違法性がある旨主張する。しか
し,前記認定したところによれば,準備行為はもともと控訴人Aの社会福祉
事業への協力のために始められたものであり,副次的にでも不特定ではある
がパチンコ店進出阻止目的が加わったのは,早くても,平成11年3月下旬
ころからであるから,被控訴人の主張は,その前提を欠き,採用できない。
()結論3
以上によれば,本件寄附には,そもそも違法性が認められないから,控訴
人Aの責任や被控訴人の被った損害など,その余の点について判断するまで
もなく,被控訴人の各請求には理由がない。
よって,本件控訴には理由があるから,一審判決を取り消して被控訴人の
各請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
札幌高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官末永進
裁判官古閑裕二
裁判官住友隆行

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