弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、「当審における未決勾留日数中参拾日を原判決の本刑に算入
する。」との部分を破棄する。
     その余の部分に対する本件上告を棄却する。
         理    由
 東京高等検察庁検事長Aの上告趣意は、判例違反を主張するけれども、原判決は
論旨引用の判例に相反する判断、すなわち刑の執行と重複する未決勾留日数を本刑
に算入することが違法ではないとの判断を示したものとは解せられないから、所論
判例違反の主張は、前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由に当らない。
 しかし職権により調査すると、次の事実が記録上明らかである。
 被告人は、本件住居侵入、窃盗(第一審判決判示第二、第三)事実につき、起訴
前である昭和三九年一二月七日勾留状の執行を受け、その後一、二審を通じ、引き
続き勾留を継続されていたものであるが、これよりさき、被告人は昭和三八年一二
月一〇日東京地方裁判所において、窃盗、住居侵入、傷害の罪により懲役一〇月以
上一年六月以下(未決勾留日数法定一五日、裁定五〇日通算)に処せられ、同月二
五日同判決の確定とともに右刑の執行が開始され、昭和三九年一一月一九日に仮出
獄を許されたが、その後昭和四〇年二月四日右仮出獄が取り消されたため、翌二月
五日からその残刑につき執行を受け、原判決言渡当時なお受刑中であつたこと、被
告人は本件第一審の判決に対し右残刑の執行開始後である昭和四〇年二月八日控訴
を申し立て、原裁判所はこれに対し、同年五月一〇日控訴を棄却するとともに原審
における未決勾留日数中三〇日を本刑に算入する旨の判決を言い渡したものである
ことが明らかである。
 したがつて、被告人の原審における未決勾留の全期間は、前記確定刑の執行と重
複していたのであり、このように刑の執行と勾留状の執行とが競合している場合に、
重複する未決勾留日数を本刑に算入することは、不当に被告人に利益を与えるもの
として許されないのであるから(昭和二九年(あ)第三八九号、同三二年一二月二
五日大法廷判決、刑集一一巻一四号三三七七頁参照。)、原判決中前記未決勾留日
数を算入した部分は、刑法二一条の適用を誤つた違法があり、刑訴法四一一条一号
により破棄を免れない。
 よつて、同四一三条但書により、原判決中「当審における未決勾留日数中参拾日
を原判決の本刑に算入する。」との部分を破棄し、その未決勾留日数を算入しない
ものとし、その余の部分に対する検察官の上告は、上告趣意として何らの主張がな
く、したがつてその理由がないことに帰するから、同四一四条、三九六条によりこ
れを棄却すべく、当審における訴訟費用は、同一八一条一項但書により被告人に負
担させないこととし 裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 高橋一郎出席
  昭和四〇年一〇月二二日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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