弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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平成11年(行ケ)第371号 審決取消請求事件(平成12年10月11日口頭
弁論終結)
         判     決
  原      告   日綜産業株式会社
    代表者代表取締役   【A】
訴訟代理人弁護士   矢  野  義  宏
同          鈴  木  泰  文
同弁理士   【B】
  被      告   特許庁長官【C】
指定代理人    【D】
    同          【E】
同【F】
    同          【G】
         主     文
     原告の請求を棄却する。
     訴訟費用は原告の負担とする。
         事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
特許庁が平成7年審判第21882号事件について平成11年10月5日に
した審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、平成3年6月28日、名称を「昇降足場」とする発明について特許
出願(特願平3-185631号)をしたところ、平成7年9月12日、拒絶査定
を受けたので、同年10月12日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁
は、同請求を平成7年審判第21882号事件として審理した結果、平成11年1
0月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同
年10月25日、原告に送達された。
2 本件特許出願の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の
請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨
 建造物の外壁面に沿って昇降する複数の昇降体を水平方向に配設し、各昇降
体は建造物の頂上部から延長された吊り材にそれぞれ吊持させ、横方向に隣接する
昇降体同志はどちらか一方の上下方向の変位を許容するリンク機構を介して連結さ
れ、昇降体はフレーム部材と、各フレーム部材に上下多段に配設された複数の作業
床と、各フレーム部材に展設された天蓋部と外壁部とからなるカバー部材と、各フ
レーム部材に連設された揺れ止め手段と、を備えていることを特徴とする昇降足
場。
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、いずれも本件特
許出願前に頒布された刊行物である、実願昭55-179577号(実開昭57-
102647号)のマイクロフィルム(以下「刊行物1」という。)、米国特許第
2916102号明細書(以下「刊行物2」という。)、特開平3-137358
号公報(以下「刊行物3」という。)、実願昭60-23339号(実開昭61-
140037号)のマイクロフィルム(以下「刊行物4」という。)、特公昭51
-12932号公報(以下「刊行物5」という。)及び特公昭50-25737号
公報(以下「刊行物6」という。)記載の各発明に基づいて、当業者が容易に発明
をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受け
ることができないというものである。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は、本願発明と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤り(取消事由
1)、両発明の相違点(1)、(2)及び(4)に係る容易想到性の判断を誤り(取消事由
2)、多数の刊行物を組み合わせることの容易性の判断を誤った(取消事由3)も
のであるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)
  (1) 本願発明の「カバー部材」は、フレーム部材に展設され風雨の侵入を防止
するものであるから、強風下や降雨時にも所定の作業を行うことを可能とするもの
であるのに対し、刊行物1(甲第3号証)の「養生ネット」は、網目のものであっ
て雨風の侵入を防止することができないので、強風下や降雨時には作業を中止せざ
るを得ない点で、両者は異なる。
    確かに、本件明細書(甲第2号証の2)には、「カバー部材4は、・・・
雨水の浸入を問題とせずに風通しを優先させるような場合には、養生ネットが利用
されるとしても良い。」(6頁16行目~19行目)と記載されているが、この記
載は、足場装置として養生ネットも利用可能であることを説明しているだけであっ
て、他方、本件明細書には、本願発明の効果として、「同じくフレーム部材にはカ
バー部材が展設されているから内側に風雨が浸入するのを防止でき、直射日光もさ
えぎるから・・・気象条件に関係なく作業を続けることができる。」(9頁2行目
~4行目)と記載されているから、この効果を達成するためには、カバー部材とし
ては、養生ネットは除外され、プラスチックから成るシート状体等に限定される。
  (2) 本願発明の「カバー部材」は、フレーム部材に展設されているから、例え
ば、ビルディングの外面の作業用ゴンドラとして昇降足場を使用した際に、昇降足
場より上下に位置する窓はカバー部材で遮断されず、日光がビルディングの各室内
に照射され、各室内の執務者の生活環境の快適さが維持されるのに対し、刊行物1
の「養生ネット」は、養生ネット取付支柱の頂部に展張され、この養生ネットの下
部は構造物の下方まで垂れ下げられているから、刊行物1のゴンドラ装置を、例え
ば、ビルディングの外面に配置した際に、ゴンドラ装置の下方の外面では、養生ネ
ットにより日光の照射が遮断されることにより、ビルディングの各室の生活環境の
悪化を招くという問題点がある。
    また、本願発明の「カバー部材」は、天蓋部と外壁部とで構成され、か
つ、脱落防止のためフレーム部材に一体化されている。これに対し、刊行物1の養
生ネットは、天蓋部を構成しておらず、しかも、構造物の下方まで垂れ下がって日
光の照射を遮断する上、固定されていないため風であおられてしまうという難点を
有している。
    このように、本願発明の「カバー部材」と刊行物1の「養生ネット」と
は、構造、作用、効果において著しく異なるものであるから、審決が「刊行物1記
載の発明の・・・『養生ネット』・・・は、・・・本願請求項1の発明の・・・
『カバー部材』・・・に相当している」(審決書9頁16行目~10頁2行目)と
認定したことは誤りである。
 2 取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断の誤り)
  (1) 相違点(1)について
    刊行物1(甲第3号証)の対象構造物は、塔、煙突等の円柱構造物であ
り、そのゴンドラ装置は、煙突等の外面の作業を行うためのものであるのに対し、
刊行物2(甲第4号証)の対象構造物は、ボイラー又は同様の構造物であり、その
足場はボイラー等の内面の作業に使用されるものである(1欄12行目~14行
目)から、両者は、対象構造物、ゴンドラを使用する位置及び当業者において異な
る。したがって、刊行物1及び刊行物2を組み合わせることは困難であり、また、
刊行物2の図1において、符号90は、炉又は他の同様の構造物の上壁を示してい
る(6欄36行目~38行目)にすぎないから、本願発明の吊り材が建築物の頂上
部から延長されていることは、当業者が必要に応じて容易に推考できるものではな
い。
  (2) 相違点(2)について
    刊行物1のゴンドラ装置は、円周方向の横桟で一体に結合され、一体にな
って昇降するから、もともと隣接する二つのゴンドラ装置に昇降スピードの違いに
よる悪影響が生じるという問題がない。したがって、刊行物1のゴンドラ装置に
は、刊行物6のリンク機構の適用を必要とする課題がないから、両者を組み合わせ
ることは困難である。
  (3) 相違点(4)について
    刊行物3の防音框体は、完全密閉の箱体を構成して、作業音の外部漏れ防
止、剥離物、汚水の飛散防止等を主眼とするのに対し、本願発明のカバー部材は、
外部からの風雨の侵入防止を図るもので、両者は目的において根本的に相違する。
しかも、刊行物3の防音框体は、作業台の本体1に多数の支柱2を介して固定する
もので、構造が複雑で重量がかさみ、組付性が悪いという問題がある。したがっ
て、刊行物1記載の構造物の外周に連設した長いゴンドラ装置に単に垂れ下げられ
た養生ネットを、刊行物3の天蓋部を有する防音框体により置換することは困難で
ある。
 3 取消事由3(多数の刊行物を組み合わせることの容易性の判断の誤り)
   審決は、刊行物1ないし6の6個もの刊行物を組み合わせることが、どうし
て容易なのか判断するところがない。上記のとおり各刊行物の昇降足場の構造や使
用場所等が異なる以上、このように多数の刊行物を組み合わせること自体に、相当
の困難性があるはずである。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
  (1) 一般に、「カバー部材」とは、物を覆うものを指すのであり、刊行物1の
養生ネットも、作業ゴンドラ装置を包囲するように覆って垂下するものであるか
ら、一種のカバー部材である。また、本件明細書(甲第2号証の2)には「カバー
部材4は、透光性及び遮水性に富む材料で形成されていれば足り、従って例えば、
透明プラスチックからなるシート状体等が最適であるが、雨水の浸入を問題とせず
に風通しを優先させるような場合には、養生ネットが利用されるとしても良い。」
(6頁16行目~19行目)と記載され、「カバー部材」の例として養生ネットが
挙げられていることからも、刊行物1の養生ネットが本願発明の「カバー部材」に
相当することは明らかである。
  (2) 「展設する」とは、一般に「広げて設けること」を意味するから、本願発
明の要旨に規定する「カバー部材をフレーム部材に展設する」とは、カバー部材を
フレーム部材に広げて設けたということを意味する。
    そして、刊行物1に記載された支柱及び養生ネット取付柱は、フレームに
相当するものであるから、刊行物1記載の発明の「養生ネット」もフレーム部材に
展設されていることになり、養生ネットの取付構造は、本願発明のカバー部材の取
付構造と異なるものではない。
    したがって、本願発明と刊行物1記載の発明が「各フレーム部材に展設さ
れたカバー部材と、を備えている」点で一致しているとした審決の認定(審決書1
0頁9行目~12行目)に、誤りはない。
 2 取消事由2(相違点に係る容易想到性の判断の誤り)について
  (1) 相違点(1)について
    「建造物」とは、地上に構築される工作物一般を意味し、建物、建築物等
より広い概念であるから、刊行物1に対象構造物として記載された塔、煙突等の円
柱構造物は建造物に含まれると解され、また、刊行物2の建築物が建造物に含まれ
ることも明らかである。刊行物1と刊行物2において、昇降足場が設置される対象
物は共に建造物であり、また、建造物の種類が異なるものであっても、作業用の昇
降体を建造物の上部から吊り材で吊持する昇降足場である点で共通し、この昇降足
場の吊持手段自体は建造物の種類により構成上の差異が生じるというものではない
から、刊行物1記載の発明の吊持手段に代えて刊行物2記載の公知の手段を採用す
ることに困難性はない。
  (2) 相違点(2)について
    刊行物1記載の発明の各作業ゴンドラ装置は、それぞれがワインダを有
し、各ワインダによって昇降している。そうすると、各ワインダの巻上げ速度に差
が生じ、隣接する二つの作業ゴンドラ装置に悪影響が生じることは十分予想できる
ことであり、当業者がその問題点を解決するために、同じ技術分野において同じ問
題点を解決する技術として公知である刊行物6記載の技術手段を適用しようとする
ことは、当業者にとって容易なことである。
  (3) 相違点(4)について
    一般に、カバー部材とは物を覆うものを意味するから、刊行物3記載の防
音框体も作業用台を覆う一種のカバー部材であって、その内部と外部とを遮断する
という作用を有するものである。本願発明の「カバー部材」は、「養生ネット」を
含むものであり、「風雨の侵入防止」を目的とするもののみに限定されないから、
刊行物3記載の防音框体は本願発明のカバー部材に相当する。そして、刊行物1記
載の「養生ネット」と刊行物3記載の「防音框体」は、共に昇降足場の内部と外部
を遮断するカバー部材である点で共通しており、昇降足場において作業内容や外部
の状況等に応じてカバー部材を選択することは、当業者が適宜行い得る程度のこと
にすぎないから、刊行物1記載の発明のカバー部材として、刊行物3に記載された
天蓋部を有する防音框体の技術を採用することに格別の困難性はない。
 3 取消事由3(多数の刊行物を組み合わせることの容易性の判断の誤り)につ
いて
   原告は、引用例とする刊行物が6個もあるので、これを組み合わせることに
は、相当の困難性があると主張するが、刊行物1ないし6記載の発明は、いずれ
も、フレーム部材と作業床を有する昇降体を、建造物の上部から吊り材で吊持する
昇降足場である点で共通しており、本願発明の構成は、刊行物1記載の昇降足場
に、刊行物2に記載された吊持手段、刊行物6に記載されたリンク機構、刊行物5
に記載された作業床、刊行物3に記載されたカバー部材、刊行物4に記載された揺
れ止め手段といった昇降足場の各構成要素を単に寄せ集めたものにすぎず、これに
より奏される効果も、個々の技術事項が奏する作用効果の集合の域を出るものでは
ない。したがって、刊行物1記載の昇降足場に5つの異なる刊行物に記載された各
構成要素を適用することが困難であるとはいえない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
  (1) 原告は、本願発明の「カバー部材」がフレーム部材に展設され風雨の侵入
を防止するものであるのに対し、刊行物1の「養生ネット」は、網目のものであっ
て雨風の侵入を防止することができないから、刊行物1の「養生ネット」は本願発
明の「カバー部材」に相当しない旨主張する。
    しかし、本件明細書(甲第2号証の2)の特許請求の範囲には、「カバー
部材」の構成について、「各フレーム部材に展設された天蓋部と外壁部とからなる
カバー部材」と記載されているだけであり、発明の詳細な説明には「カバー部材4
は、透光性及び遮水性に富む材料で形成されていれば足り、従って例えば、透明プ
ラスチックからなるシート状体等が最適であるが、雨水の浸入を問題とせずに風通
しを優先させるような場合には、養生ネットが利用されるとしても良い。」(6頁
16行目~19行目)と記載されているから、カバー部材としては、透明プラスチ
ックからなるシート状体等が最適であるとしつつも、これに限定することなく、雨
水の浸入を問題とせずに風通しを優先させるような場合には養生ネットを利用する
ことが予定されていることは明らかであって、結局、本願発明は、カバー部材とし
て、透明プラスチックからなるシート状体だけでなく、養生ネットをも含むものと
認められる。他方、刊行物1(甲第3号証)には、「第3図は第1図のⅡ-Ⅱ線に
沿ってみた図、第4図は第1図に示すものを円柱構造物に取付けた状態を示す図で
ある」(5頁11行目~14行目)と記載されており、第3図及び第4図によれ
ば、養生ネット9が連結片10を介して、フレーム部材に相当する養生ネット取付
柱11に展設されていると認められる。そうすると、刊行物1の「養生ネット」
は、本願発明の「カバー部材」に相当するというべきであり、審決が、本願発明と
刊行物1記載の発明とを対比して「各フレーム部材に展設されたカバー部材」で一
致すると認定したことに誤りはない。
    この点について、原告は、本件明細書(甲第2号証の2)において、本願
発明の効果として、「同じくフレーム部材にはカバー部材が展設されているから内
側に風雨が浸入するのを防止でき、直射日光もさえぎるから・・・気象条件に関係
なく作業を続けることができる。」(9頁2行目~4行目)と記載されていること
から、カバー部材としては、プラスチックから成るシート状体等に限定されると主
張する。しかし、養生ネットでも、小雨であれば内側に浸入することを防止し、ま
た、直射日光もある程度遮るものと認められるから、原告が引用する上記効果の記
載も、刊行物1の「養生ネット」が本願発明の「カバー部材」に相当するとの認定
を左右するものではない。
  (2) 原告は、さらに、本願発明における「各フレーム部材に展設された天蓋部
と外壁部とからなるカバー部材」がフレーム部材に一体化されているのに対し、刊
行物1の「養生ネット」は、天蓋部を構成しておらず、しかも、構造物の下方まで
垂れ下がって日光の照射を遮断する上、風であおられるという難点を有している旨
主張する。しかしながら、刊行物1の「養生ネット」が天蓋部を構成しない点につ
いて、審決は、これを本願発明と刊行物1記載の発明との相違点(4)として認定して
おり(審決書11頁7行目~9行目)、両発明が天蓋部の有無において異なるとす
る原告の主張は、審決の認定を正解していない。また、本願発明における「各フレ
ーム部材に展設された天蓋部と外壁部とからなるカバー部材」との構成要件が、昇
降足場より下側に位置する窓をカバー部材により遮断しないとの構成を含むと解す
べき根拠は、これを見いだすことができない。原告の上記主張は、本願発明の一実
施例を示す図1(甲第2号証の1)についての主張にすぎず、図1により本願発明
の構成である「カバー部材」の意義を限定して解することはできない。
  (3) したがって、本願発明と刊行物1記載の発明の一致点についての審決の認
定に、原告主張の誤りはない。
 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について
  (1) 相違点(1)について
    原告は、刊行物1(甲第3号証)の対象構造物は、塔、煙突等の円柱構造
物であり、そのゴンドラ装置は、煙突等の外面の作業を行うためのものであるのに
対し、刊行物2(甲第4号証)の対象構造物は、ボイラー又は同様の構造物であ
り、その足場はボイラー等の内面の作業に使用されるものであって、両者は、対象
構造物、ゴンドラを使用する位置及び当業者において異なるものであるから、刊行
物1及び刊行物2を組み合わせることは困難である旨主張する。しかし、塔、煙突
及びボイラーは、いずれも構造物であることにおいて異なるものではなく、かつ、
その壁面のリフォーム作業等をゴンドラのような足場で行う必要性がある点でも共
通するものである。また、その当業者についても、塔、煙突等の建設業者とボイラ
ーの建設業者とが完全に一致するものではないとしても、煙突とボイラーとは、ボ
イラーで発生する燃焼ガスを煙突から排出するという関係にあるから、両者の技術
分野は相互に関連するものである。これらの事情に照らすと、刊行物1及び刊行物
2を組み合わせることが格別困難ではないというべきであり、原告の上記主張は採
用することができない。
    なお、原告は、刊行物2の図1において、符号90が建築物頂上部ではな
く炉等の上壁を示しているとも主張するが、この点は、刊行物1及び刊行物2を組
み合わせることにつき、支障となるものとは認められない。
  (2) 相違点(2)について
    原告は、刊行物1のゴンドラ装置が一体になって昇降し、隣接する二つの
ゴンドラ装置に昇降スピードの違いによる悪影響が生じるという問題がないから、
刊行物1のゴンドラ装置には、刊行物6のリンク機構の適用を必要とする課題がな
い旨主張する。しかしながら、刊行物1(甲第3号証)には「塔又は煙突のような
円柱構造物(30)の上端拡大部の下面から周知の手段により垂下した索条(2
2)は自走式のワインダ(17)に巻回されたのち索条導管(19)内を通って床
板(3)上に垂下される。」(4頁6行目~9行目)と記載され、その第1図に
は、符号17で矢示されたワインダが3個独立して記載されており、他方、ゴンド
ラ装置が横桟により完全に一体化されて昇降するものと認めるべき記載はないので
あるから、刊行物1のゴンドラ装置にあっても、ワインダ相互の巻回速度の差異に
よりゴンドラ装置の昇降に支障が生じ得るものであると認められる。そうすると、
刊行物1にあっても、上記事態による悪影響を防ぐため刊行物6のリンク機構の適
用を必要とする課題があると認めて妨げはなく、そうである以上、両者を組み合わ
せることに格別の困難はないというべきである。
  (3) 相違点(4)について
    原告は、刊行物3の防音框体が完全密閉の箱体を構成して、作業音の外部
漏れ防止、剥離物、汚水の飛散防止等を主眼とするのに対し、本願発明のカバー部
材は、外部からの風雨の侵入防止を図るもので、両者は目的において根本的に相違
し、しかも、刊行物3の防音框体が作業台の本体1に多数の支柱2を介して固定す
るもので、構造が複雑で重量がかさみ、組付性が悪いという問題があることから、
刊行物1記載の構造物の外周に連設した長いゴンドラ装置に単に垂れ下げられた養
生ネットを、刊行物3記載の天蓋部を有する防音框体により置換することは困難で
ある旨主張する。しかしながら、刊行物3の防音框体が本願発明のカバー部材と同
様に外部からの風雨の侵入を防止する機能を有することは、当業者にとって自明で
あり、また、本件明細書(甲第2号証の1)には、本願発明の実施例を図示する図
1(甲第2号証の1)に、フレーム部材2が吊り材6aに吊持され、カバー部材4が
多数のフレーム部材2に固定されている状態が図示されている。さらに、刊行物1
(甲第3号証)記載のゴンドラ装置2も索条22に吊持されているものであるから
(第2図)、養生ネットに代えて刊行物3記載の天蓋部を有する防音框体を適用す
ることは、当業者にとって容易であるというべきである。
 3 取消事由3(多数の刊行物を組み合せることの容易性)について
   原告は、6個もの刊行物を組み合わせること自体に、相当の困難性があるは
ずである旨主張する。しかしながら、単に組み合わせる刊行物の数が多いことか
ら、発明の容易想到性を否定することはできないというべきである。本件におい
て、刊行物1ないし6の各引用例は、いずれも、建造物の上部から吊り材で吊持す
る昇降足場を開示するものであって、本願発明の構成は、刊行物1記載の昇降足場
に、その各構成要素として、刊行物2の吊持手段、刊行物6のリンク機構、刊行物
5の作業床、刊行物3のカバー部材、刊行物4の揺れ止め手段をそれぞれ適用した
ものである。本願発明は、これらの各構成要素を単に寄せ集めたものにほかなら
ず、その効果も各引用例記載の発明が奏する効果の総和を超える格別のものはない
と認められる。したがって、刊行物1ないし6を組み合わせることは当業者にとっ
て容易であるというべきであり、この点に関する審決の判断に原告主張の誤りはな
い。
 4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消す
べき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判
決する。
 東京高等裁判所第13民事部
裁判長裁判官   篠  原  勝  美
裁判官石  原  直  樹
      裁判官   長  沢  幸  男

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