弁護士法人ITJ法律事務所

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       主   文
一 被告が平成四年一二月一七日付けでした原告の平成元年分以降の所得税の青色
申告承認取消処分を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
主文と同旨
第二 事案の概要
一 本件は、原告が、大阪国税局及び下京税務署の調査官らの税務調査に違法があ
り、これに対する謝罪等がなければ、調査には応じられないなどとして、帳簿書類
の提示を拒否したところ、被告が、右提示拒否は所得税法一五〇条一項一号に定め
る取消事由に該当するという理由で青色申告承認を取り消したのは違法であると主
張して、被告に対し、青色申告承認取消処分の取消しを求める抗告訴訟である。
二 争いのない事実等
1 (当事者等)
(一) 原告は、京都市α三六番地所在及び大津市β一番一〇号所在の各店舗(以
下それぞれ「京都店」、「β店」という。)において衣料品小売業を営む者であ
り、昭和六二年分の所得税から青色申告によることの承認を受けていた。
 Aは原告の妻、Bは原告の母であり、右衣料品小売業に従事している。
 京都店は、二階建建物の一階にあり、原告の長姉であるC、その次姉であるD及
び他のパート従業員二名が衣料品の販売に従事している。右建物の二階はB及びC
の居室及び寝室になっている。
 β店は、スーパーマーケットであるシーダー21の一階の一画にあり、Aが他の
常勤従業員一人及びパート従業員三人(ただし、パート従業員は一人ずつ交代勤
務)とともに衣料品の販売に従事している。
(二) E、F、G、H、I、J、K、L、Mは、平成四年三月三〇日から本件青
色申告承認取消処分がなされるまでの間、いずれも大阪国税局資料調査課に勤務す
る国税調査官として、また、N、O、P、Q、R、Rは、右期間中、下京税務署に
勤務する国税調査官として、原告に対する税務調査を担当した(以下総称して「国
税調査官ら」といい、個別には「E」「F」などという。)。なお、Eが右税務調
査を担当したのは同年七月一〇日までであり、後任のLがその調査を引き継いだ。
2 (確定申告)
原告は、被告に対し、平成元年分から平成三年分の所得税について、以下のとお
り、いずれも青色申告書による確定申告をした。
(一) 平成元年分
総所得金額一〇四八万五六〇五円、納付すべき税額一八六万四五〇〇円
(二) 平成二年分
総所得金額一〇五九万九五七一円、納付すべき税額一八九万五一〇
〇円
(三) 平成三年分
総所得金額一一三三万八八七四円、納付すべき税額二一一万八八〇〇円
3 (帳簿書類の備付け等)
原告は、大蔵省令に定めるところに従って、帳簿書類の備付け等をしていた。
4 (青色申告承認取消処分)
被告は、原告に対し、平成四年一二月一七日付けで、所得税法一五〇条一項一号に
該当するとして、平成元年分以降の所得税の青色申告の承認を取り消す処分(以下
「本件処分」という。)をした。
5 (審査請求等)
(一) 原告は、被告に対し、平成五年二月一六日本件処分について異議申立てを
したが、被告は同年五月一四日付けで、これを棄却する決定をした。
(二) さらに、原告は、国税不服審判所長に対し、同年六月一五日審査請求をし
たが、同所長は、平成六年一二月五日付けで、これを棄却する裁決をした。
三 争点
 原告に所得税法一五〇条一項一号所定の青色申告承認取消事由(帳簿書類の備付
け、記録、保存義務違反)があるか(本件処分の適法性)。
四 争点に対する当事者の主張
(原告の主張)
1 所得税法一五〇条一項一号は、帳簿書類の不提示を青色申告承認取消事由とは
していないから、帳簿書類の不提示をもって直ちに帳簿書類の備付け、記録又は保
存の義務違反があると解することはできず、課税庁が、帳簿書類の備付け状況等を
確認すべき法的義務を尽くしても、納税者が正当な理由なく帳簿等の提示、確認を
拒んだ場合に初めて、帳簿書類の備付け等の義務違反がある場合と同視して、青色
申告承認取消事由に該当すると解すべきである。
2 本件において、国税調査官らが平成四年三月三〇日にした京都店及びβ店にお
ける税務調査は、二階の居室に侵入したり(京都店)、従業員のバッグを開披する
(β店)など不法行為そのものであったから、課税庁には、謝罪等の誠意ある対応
により右違法状態を解消したうえ、帳簿書類の備付け状況等を確認すべき法的義務
があった。しかも、原告は、法規に則して帳簿書類の備付け等をしており、課税庁
が同日の税務調査の事実関係を認め謝罪をすれば、調査に応じるとの態度を一貫し
てとっていたにもかかわらず、課税庁は、事実関係の確認についてさえ不誠実な態
度をとり続けたうえ、調査と称して一方的に原告の店舗に押し掛けるなどの嫌がら
せに終始した。このような経過からすれば、被告が帳簿書類の備付け状況等の確認
努力義務を尽くしたとはいえず、原告に所得税法一五〇条一項一
号の青色申告承認取消事由は存しないから、本件処分は違法である。
(被告の主張)
1 所得税法一五〇条一項一号所定の帳簿書類の備付け等の義務違反には、納税者
が税務調査に際し、税務職員の帳簿書類の提示閲覧要求に応じないため、課税庁に
おいて、右帳簿書類の備付け等が大蔵省令に定めるところに従って行われているか
どうかを確認し得ない場合も含むものと解すべきである。
2 本件において、国税調査官らは、平成四年三月三〇日から同年一二月一七日ま
での間、京都店及びβ店に十数回臨場し、口頭及び文書により、調査への協力、帳
簿書類の提示を再三求めたのに、原告は、同年三月三〇日の調査は違法であるか
ら、被告が事実関係を認め、謝罪するまでは調査に応じないとして、帳簿書類を提
示しなかった。また、調査に第三者を立ち会わせたり、調査の経緯を録音、録画す
るなど、税務調査に協力する姿勢を全く示さなかった。このように、被告は、原告
が同日の調査に対する謝罪要求・調査における第三者の立会要求等に固執し、正当
な理由なく帳簿書類を提示しなかったため、原告の帳簿書類の備付け等を確認し得
なかったから、帳簿等の備付け等の義務違反に該当するとしてなした本件処分は適
法である。
3 なお、青色申告承認取消処分の適法性は、右取消事由の存否により決定される
べきものであり、税務調査の違法が右取消事由の要件の存否に影響することはな
い。
第三 当裁判所の判断
一 税務調査等の事実経過について
前記争いのない事実等に、証拠(甲二の1、2、三の1、2、四の1、2、五、一
三、一四の1ないし3、一六、一七の1、2、一八の1、2、一九、二〇の1、
2、二二ないし三〇、三四ないし三九、四一、五三、検甲二〇ないし三六、三七の
1ないし4、三八ないし四六、四九ないし五六、五八ないし六一、乙二の1、2、
三の1、2、四の1、2、五、六の1、2、七、証人A、同L、原告本人)並びに
弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
1 平成四年三月三〇日(以下、特に断らない限り、同年中の事実をいう。)の京
都店における税務調査の状況
(一) E、F、G、N及びOの五名は、同日午後〇時五五分ころ、事前連絡をす
ることなく、原告の税務調査のため京都店に臨場した。
 Eは、応対に出たCに対し、同店中央のレジ付近において、身分証明書を提示し
たうえ、国税調査に来たと告げた。これに対し、Cは、原告は仕
入れのため大阪に出かけており、すぐに連絡をとるのは困難であるから、日を改め
て調査に来て欲しい旨再三要請した。しかし、Eは、右要請を聞き入れないで、C
に対し税務調査に応じて欲しいとの説得を続け、その後両名は店の奥に移動し、E
は、Cから、従業員数、店舗数、外部販売の有無等について聴取した。この間、同
店にいた客数名が同店内から出ていった。
(二) 京都店の二階は、BとCの居室及び寝室として使用されていたところ、そ
のうち、Eは、Cに対し調査のため二階へ上がらせて欲しい旨再三説得したが、C
は、二階はプライベートな部屋であるとして、これを強く拒否し続けた。なお、右
二階部分はアコーデオンカーテンにより店舗部分とは明白に区分されていた。
 そうこうするうち、Eは、Bが不意に二階へ上がって行くのを見て不審に思った
ため、Cが強く拒否しているのにこれを無視し、Fに目配せをして、二階に上がる
よう指示した。Fは、その指示に従い、Bの後を追うようにして二階へ上がると、
Bがコタツの上に置いてあった売上メモを持っていたため、Bに対し、右メモの提
示を強く求め、同人から右メモを奪うようにして取り上げた。また、Fは、Bがコ
タツの上に置いてあった売上集計表を隠そうとしたので、これも取り上げ、さら
に、同人がベッドの陰の方に何かを隠すような行動をしたと感じたため、箱様の篭
をさがし、その中に入っていた納品書及び請求書類を探し出した。
 その後、Fは、Eに対し、売上に関するメモがあるから二階へ上がるよう求めた
ため、Eは、二階へ上がったが、同人に続いてCも二階へ上がった。また、N、G
及びOも、その後に続いて二階へ上がった。Eは、Fが取り上げたメモ等の他にも
京都店の営業に関する帳簿類等が二階に隠されているのではないかと考え、Gらに
指示して、B及びCの承諾を得ないまま、二階にあったタンスやベッドの下の引出
し等を検査したところ、タンスの上には丸い空き缶に入った約二〇万円の現金(B
が旧紙幣をコレクションとして収集したもの)が、また、タンスの引出しには多数
の預金通帳や有価証券の預り証等が、さらに、ベッドの下の引出しにはバッグ及び
財布がそれぞれ二、三個あるのを発見した。また、Eらは、Bが強く制止している
にもかかわらず、ベッドの下の同人が下着を入れている引出しに手を入れてかき回
した。
(三) 二階で右のような調査が行われているころ、Oが
一階へ降りて来て、その場にいたパート従業員のTに指示してレジの中の現金の金
額を数えさせた。Tは、Oから現金を数えるように命令口調で指示されたため、こ
れに従ったものであり、進んで調査に応じたものではなかったし、また、右調査
は、B及びCの承諾を得ずになされたものであった。Oは、その後、T、B及びC
のいずれの承諾を得ることなく、右レジが置かれていた机の引出しを持って二階に
上がり、その中の帳簿類の調査をした。
(四) その後、民主商工会(以下「民商」という。)職員のYら数名が京都店に
来たので、Eらは、Cらに立ち退かせるよう要請したが、これを拒否されたうえ、
CやYらから右調査に対して激しい抗議を受けたため、京都店を退出した。
2 三月三〇日のβ店における税務調査の状況
(一) H、I及びPは、同日午後一時ころ、事前通知をすることなく、原告の税
務調査のためβ店に臨場した。Hらが臨場したとき、Aはレジから離れて店の中央
付近にいたが、Hは、Aが原告の妻であることを確かめたうえ、身分証明書を提示
して、原告がいるか尋ねた。これに対して、Aは、原告が不在であり、連絡が取れ
ないから出直して欲しい旨返答した。しかし、Hは、Aに対する質問により税務調
査を行うこととし、Aに対し、執拗に分かる範囲でよいから調査に協力するよう求
めた。その後、H及びAは、店の出口付近の隅にあるレジ付近に移動した。そし
て、そこで、Hらは、Aに対し、いくつかの質問をするとともに、レジが置かれて
いた机の引出し及びレジ付近の屑入れの中を探し、引出しから未使用の領収証綴り
と返品伝票綴りを、屑入れから客が受け取らずに置いていったレシート等を見つけ
て取り出したうえ、レジの横の陳列篭の上に置いてあった大学ノート(β店と同様
にシーダー21に出店している店舗の従業員やβ店の常連客に対するごく一時的な
掛け売りを記載したもの)を取り上げ、これらをレジ付近で点検した。Hらは、右
点検等をする際、Aの承諾を得ていない。なお、Aは右調査に対して積極的、明示
的に拒否することはしていないが、これは右調査を拒否すると不利益になると考え
たことによるものである。
(二) Hらが右レジ付近で右調査をしていると、同日午後一時二〇分ころ、パー
ト従業員のUが昼食から帰って来て、私物であるバッグをレジの奥に置こうとし
た。Uは、Hらがいて、様子がいつもと違うので、そのまま化粧を
直すため店の奥の方に行ったが、レジの方が気になり、戻ってきたりしていた。そ
うこうするうち、Pは、Uのバッグを見つけ、「それは何や、見せろ。」と言っ
て、Uが繰り返し拒否したにもかかわらず、強引にバッグを取り上げて中を開け、
在中物を調査した。そして、Pは、中にあった手帳を取り出して、ページをめくっ
て見始めたので、Uは「私のや。」と言って、バッグと手帳を取り返した。
(三) レジ付近における右調査が始められてからしばらくして、民商職員のVか
らβ店に電話が掛かってきた。Aが、税務職員が来て調査している旨説明したとこ
ろ、Vは、任意調査ならば原告がいるときにしてもらえばよいので、税務職員には
引き揚げてもらうよう助言をしたが、Aは、Hらに対して、明示的に調査を拒否す
ることまではせず、その質問に応じる程度のことは続けた。その後、Hらは、Aに
対し、レジの操作方法や前日、当日の売上げの確認方法について質問し、当日の売
上げと現金の照合等のため、レジの点検キーを押してレジの小計を出すよう要求し
た。これに対し、Aは、点検キーを押すとそれ以降のレジ打ちができなくなること
を理由に難色を示したが、なおも、Hが同様の要求をし続けたことから、原告に相
談することとし、仕入先に電話を架け、原告が出向いた際にβ店に連絡するよう伝
言を依頼した。しばらくして、原告から電話があり、Hが電話に出て、調査への協
力を依頼したが、原告は、Hに代わって電話に出たAに早く帰ってもらうよう指示
した。しかし、Aは、点検キーを押してレジの小計を出し、また、Hの求めに応じ
レジペーパーを中から取り出してHに渡し、現金と照合できるようにした。
(四) Hは、このころ、レジの横の棚に置いてあるバッグがAのものであること
を知って、その中身を確認させてほしい旨を同人に要求した。Aは、そのバッグに
は生理用品が入っていたため申出を断ったが、申出に押される形で、生理用品を取
り出し自己のポケットに入れた後、バッグを同人に差し出した。そこで、Hは、右
バッグの中を検査し、預金通帳等を取り出してその記載内容等を確認した後、Aに
返還した。
(五) 右のような調査が終わるころ、民商職員のWが、β店に二回電話を架け、
電話に出たAに調査の状況を尋ねるとともに、税務職員には早く帰ってもらうよう
助言した。Aは、右電話の後、Hらに改めて身分証明書の提示を求めたうえ、帰る
よう強
く要請し、調査への協力を明確に拒否したので、Hらはβ店を退出した。
 なお、Aは、右調査の際、Hに対し、帳簿書類は京都店にあり、β店にはない旨
説明していた。
3 B及びCらは、同日、下京税務署に対し、右調査について抗議し、また、原告
は三月三一日に、下京税務署に赴き、抗議文を提出した。
4 四月一日の京都店における税務調査の状況等
(一) Eは、三月三一日、原告に対し、四月一日に税務調査のため京都店に臨場
するので、帳簿書類を提示できるように用意して欲しい旨通知したうえ、同日午前
一〇時ころ、H、Jとともに同店に臨場した。京都店には、原告及びその家族の
他、六、七名の部外者が待機していたが、Eは、三月三〇日の調査について、「違
法なことはしていない。今日は調査に来た。」等と返答した。Eは、原告に対し、
部外者を退席させるよう要請したが、原告はこれを拒絶し、三月三〇日の調査が違
法であることを認めて謝罪した後でなければ調査には応じられないと返答したた
め、Eらは京都店を退出した。
(二) その後、原告は、四月三日、六日に下京税務署に抗議し、同月八日には大
阪国税局に抗議文を提出した。
5 四月一四日の税務調査の状況等
(一) H、P及びKは、同日午後一時ころ、事前通知をすることなく、β店に臨
場した。
 Hらは、銀行等の反面調査によって、原告に帰属すると認められる四億円を超え
る預金、債券等が存在することが判明したとして、原告に対し、右資産形成の経緯
の説明を求めたが、原告は、「今日は忙しいので帰ってくれ。」と言って、その説
明を拒否した。Hらは、帳簿等の提示に協力してもらえるのであれば連絡して欲し
い旨原告に告げて、β店を退出した。
(二) 原告は、四月一五日、下京税務署に対し、謝罪のないまま調査を進めよう
としていることや事前通知なく臨場したことに抗議した。
6 四月二一日の税務調査の状況等
(一) H、P及びEは、同日午後一時ころ、事前通知をすることなく、β店に臨
場した。これに対し、原告は、「三月三〇日の調査が違法であることを認めて謝罪
した後でなければ調査に応じることはできない、謝罪すれば調査に応じる。」と述
べ、さらに、Hらの発言を録音しようとしたため、Hらは、一〇分程度でβ店を退
出した。
(二) 原告は、四月二二日、大阪国税局に対し、三月三〇日の調査について抗議
し、謝罪のないまま調査を続行することは控えるように申
し入れた。
7 四月二七日の尾行の状況等
(一) H及びEは、同日、自宅から仕入先に向かう原告運転の車を尾行した。こ
れを知った原告は、仕入先問屋の駐車場で停車した際、抗議したが、Hらは、これ
を無視してなおも尾行を続行した。
(二) 原告は、四月二八日、下京税務署に対し、右尾行について抗議した。
8 五月一日の税務調査の状況等
(一) H及びEは、同日午後、事前通知をすることなく、β店に臨場した。Hら
は、原告に対し、帳簿書類の提示がない状態が続くと青色申告承認が取消しになる
ので調査に協力するよう説得したが、原告は、四月二一日と同様、三月三〇日の調
査が違法であると認めて謝罪した後でなければ調査に応じることはできないと述
べ、さらに、Hらの発言を録音し始めたので、Hらは、一〇分程度でβ店を退出し
た。
(二) 原告は、五月一三日、下京税務署に対し、謝罪のないまま調査を続行し、
一方的に青色申告承認取消処分を突きつけたことについて抗議した。
9 五月一四日の税務調査の状況等
(一) H及びEは、同日午前一〇時ころ、β店の二階にあるシーダー21協同組
合の事務所を訪れ、同組合理事長に対し、原告の反面調査を実施した。原告は、同
組合理事として右調査に立ち会った。Hらは、反面調査終了後、原告に対してかな
り強引に調査に協力するよう要求し、β店に臨場しようとしたが、原告に拒絶され
たためこれを断念した。
(二) 原告は、五月二七日、下京税務署に対し、謝罪を求めるとともに一方的に
臨場を繰り返すことは差し控えるように申し入れた。
10 五月二八日の税務調査の状況
 H及びQは、同日午前、事前通知をすることなく、β店に臨場し、原告に対し、
調査に協力するよう要請した。しかし、原告は、三月三〇日の調査が違法であるこ
とを認めて謝罪した後でなければ調査に応じることはできないと述べたため、Hら
は、一〇分程度でβ店を退出した。
11 六月五日の税務調査の状況等
(一) H及びRは、同日午前一〇時四〇分ころ、事前通知をすることなく、β店
に臨場した。Hが、Aに対して、原告の所在を尋ねたところ、Aは、原告は仕入れ
に出て不在であるから帰って欲しい旨返答した。すると、Rは、同店レジ付近にお
いて、Aの面前で六月一一日までに青色申告に必要な帳簿書類を下京税務署まで持
参して提示して欲しい、同日までに提示がない場合には青色申告の承認が取り消さ
れることになる
などと記載された注意書きを店中に聞こえるような大声で読み上げた後これをAに
交付し、Hらはβ店を退出した。
 なお、右注意書きを店中に聞こえるような大声で読み上げるような合理的理由及
び必要性は全くなかった。
(二) 原告は、六月一〇日、下京税務署に対し、六月五日の調査や尾行等につい
て抗議した。
12 六月一六日の税務調査の状況等
(一) 原告は、六月一一日までに帳簿書類の提示をしなかった。そこで、H及び
Qは、同月一六日午前一〇時四〇分ころ、事前通知をすることなく、β店に臨場
し、原告に帳簿書類の提示を要請したが、原告は、「三月三〇日の調査が違法であ
ることを認めて謝罪した後でなければ調査に応じることはできない、謝罪すれば調
査に応じる。」と述べたため、Hらは一〇分程度でβ店を退出した。
(二) 原告は、六月二九日付けで、大阪国税局長及び被告に対し、適法妥当な調
査であれば拒否する意思はないが、三月三〇日の調査に対する謝罪なしには適法な
調査とはいえないから謝罪を求める旨の通知書を送付した。
13(一) Hは、七月一〇日の人事異動により、原告の税務調査をLに引き継い
だ。Lは、右引継ぎにより、七月末までには、原告が帳簿書類を備え付けており、
これを提示をする意思もあるが、まずは三月三〇日の調査の謝罪を求めているこ
と、さらに、同日の調査において原告が不在のままレジ周りの確認をしたこと等を
問題としていることを認識した。Lは、以後反面調査を中心に調査を進めた。
(二) 原告は、国税調査官らが、原告の取引先に対し、反面調査を実施している
ことを知り、九月三〇日、一〇月三〇日、下京税務署に対し抗議した。
14 一一月九日等の尾行の状況等
 国税調査官七名は、同日、自宅から仕入先に向かう原告運転の車を四台の車で尾
行した。原告は、右尾行に気づき、一一月一二日国税庁に対し、三月三〇日の調査
及びその後の尾行等を改めるよう申入れをした。なお、国税調査官らは、一一月中
にもう一回原告を尾行した。
15 一二月一日の税務調査の状況等
(一) Lは、一一月二七日、Aに対し、一二月一日にβ店に臨場するので、帳簿
書類を準備して提示して欲しい旨を原告に伝えるよう依頼した。
 これに対し、原告は、同月三〇日、下京税務署に赴き、大阪国税局X総括主査に
対し、一二月一日は年末商戦で多忙であるので年明けに調査されたい旨申し入れ、
Xはこれを了承した。
 な
お、被告は、Xは右申入れを了承しておらず、とりあえず同日に調査を行うよう指
示したと主張し、証人Lの証言中にはこれに沿う部分があるが、従前の経緯からす
ると、事前通知がある場合には、臨場の際、当然部外者を立ち会わせると考えられ
るのに、原告が同日に部外者を呼んでいなかったこと、L自身、β店が一一月末か
ら一二月中にかけて年末商戦で忙しいことは認識していたことに照らし、信用でき
ない。
(二) L、M及びSは、右約束に反し、一二月一日、β店に臨場し、帳簿書類の
提示を求めたため、原告は、Xが前記申入れを了承していること、今日は忙しいか
ら帰って欲しいと述べるとともに三月三〇日の調査の謝罪を要求した。さらに、原
告は、Lらの発言を録音し、同人らの写真を撮影し始めたので、Lらは、一二月四
日までに帳簿書類を下京税務署に持参して提示して欲しい、提示がなければ青色申
告承認の取消しや更正をするなどと告げて、β店を退出した。
(三) 原告は、一二月四日に下京税務署に、同月七日には大阪国税局に赴き、一
一月九日の尾行に対する抗議・謝罪要求のほか、尾行や臨場等の人権侵害行為を中
止するよう申入れを行った。しかし、原告は、一二月四日までに帳簿書類を持参し
なかった。
16 一二月八日の税務調査の状況
 L、M及びSは、同日、事前通知をすることなく、β店に臨場し、帳簿書類の提
示を求めたところ、原告は、Lらに対し、三月三〇日の調査及びその後の尾行につ
いて謝罪を求めた。これに対し、Lは、謝罪に来たわけではない、帳簿書類の提示
がなかったので、青色申告の承認を取り消すことを伝えに来たと述べたが、原告が
Lらの発言を録音し、同人らの写真を撮影し始めたため、β店を退出した。
17 一二月一五日の税務調査の状況等
(一) L及びSは、同日、事前通知をすることなく、β店に臨場したが、原告が
不在であったため一旦退出し、同日中に再度臨場した。その際、Lは、原告に対
し、帳簿書類の提示がないので、青色申告の承認を取り消し、更正をせざるを得な
いことを説明し、修正申告に応じるか否かの確認をしようとしたが、原告は、同日
付けで、大阪国税局長及び被告に対して送付した、三月三〇日の違法調査を謝罪
し、立会人同席の下で、税務運営方針及び社会常識に従い、納税者の権利を尊重す
るなどの税務行政が行われるならば、平成五年一月二七日京都店において税務調査
に応じる旨の記載のあ
る申入書を読んでいないのか、まず読んでからにして欲しいなどと返答し、Lらの
発言を録音し、同人らの写真を撮影したため、β店を退出した。
(二) 原告は、一二月一六日、下京税務署に対し、Lが青色申告の承認を取り消
し、更正をする旨発言したことに抗議した。
18 その間、国税調査官らは、原告の申入れに対して、三月三〇日の調査につい
て、違法はなかったというのみで、その事実関係の調査、説明をなさなかった。
19 被告は、原告に対し、一二月一七日付けで本件処分をした。
二 所得税法一五〇条一項一号が定める青色申告承認取消事由
 青色申告制度は、納税義務者が自己の記録、保存している正確な帳簿書類を基礎
として納税申告を行うことを奨励することにより、申告納税制度が適正に機能する
ことを目的とする制度であって、納税義務者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が
正しく行われているとともに、課税庁がその点を的確に確認できることを当然の前
提にしていると解される。したがって、同号所定の青色申告承認取消事由には、青
色申告者が右帳簿書類の提示を拒否したため、その備付け、記録又は保存が正しく
行われているか否かを課税庁が確認することができない場合も含まれると解するの
が相当である。なぜなら、青色申告の承認を受けている納税義務者が正当な理由が
ないのに所定の帳簿書類を提示することを拒否したような場合には、たとえ客観的
にはその備付け、記録又は保存が正しく行われていたとしても、課税庁がその点を
確認することができない以上、青色申告制度の前提が欠けることとなるといわざる
を得ないからである。
 もっとも、青色申告承認取消処分は、その承認を受けていた納税義務者の種々の
特典を剥奪する不利益処分であるうえ、右のような取消事由は法規上明文をもって
は規定されていないことに照らすと、その認定に当たっては一定の慎重さが要求さ
れるというべきである。すなわち、課税庁の行う調査の全過程を通じて、課税庁が
帳簿書類の備付け状況等を確認するために社会通念上当然に要求される程度の努力
を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的にみてできなかったと考え
られる場合に右のような取消事由の存在が肯定されると解するのが相当である。
三 本件処分の適法性について
1 前判示の事実によれば、原告が、国税調査官らによる三月三〇日から一二月一
五日までの税務調査において、平成元年分な
いし平成三年分の帳簿書類を一切提示しなかったことは明らかである。そこで、課
税庁が本件の税務調査の全過程を通じて帳簿書類の備付け状況等の確認を行うため
に社会通念上当然に要求される程度の努力を尽くしたか否かを判断するに、右判断
は、国税調査官らによる一連の税務調査の方法・態様・適否、これに対する納税義
務者の対応等を総合して社会通念により決すべきである。
2 国税調査官らによる一連の税務調査の適否
(一) 質問調査権について
(1) 所得税法二三四条は、当該調査の目的、調査すべき事項、帳簿書類の記
入、保存状況、相手方の事業の形態等諸般の具体的事情に鑑み、所得税に関する調
査の客観的な必要があると判断される場合に、国税調査官が同条一項各号規定の者
に対して質問し、またはその業務に関する帳簿書類その他当該調査事項に関連性を
有する物件の検査を行う権限を認めたものである。
(2) そして、右質問検査権は、その行使に対し、相手方は、刑罰による制裁の
下で応答を間接的に強制されるが、国税調査官らはそれを超えて直接的物理的にこ
れを強制し得ないという意味において、任意調査の一種であるから、その行使に際
しては相手方の承諾を要し、その意思に反して行われる調査は、任意調査として許
される限度を超え、違法となると解するのが相当である。
 なお、右質問検査権行使の相手方は、質問検査権の実効性確保の見地や所得税法
二四四条一項の規定に照らすと、納税義務者本人のみならず、その業務に従事する
家族、従業員等を含むものと解するのが相当である。ただし、その行使が、納税義
務者本人ではなく、その家族等に対しなされる場合で、納税者本人の事前の承諾が
ない場合には、右家族等による黙示の承諾の有無については、その具体的状況を勘
案して、慎重に判断すべきである。
(3) また、質問検査権の具体的な行使における質問検査の範囲、程度、時期、
場所、事前通知の要否、第三者の立会の許否等実定法上特段の定めのない実施の細
目については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量に
おいて社会通念上相当な限度に止まる限り、国税調査官らの合理的な裁量に委ねら
れていると解すべきである。
(二) 本件税務調査の適否について
(1) 三月三〇日の調査について
① 京都店における調査
ア Fが、Bの後を追うようにして京都店の二階へ上がったことは前判示のとおり
であるとこ
ろ、右行為は、Eから調査のため二階へ上がらせて欲しい旨の申出を受けたCが、
Eに対して二階はプライベートな部屋であるから入ってもらっては困るとしてこれ
を強く拒否し続けていた最中に、居住者であるB及びCの明示の意思に反してなさ
れたものであることは明らかである。そして、居住者の拒絶の意思に反して、居住
部分に立ち入ることがプライバシーの侵害として許されないことは明らかであるか
ら、Fの右行為は社会通念上相当の限度を著しく逸脱した違法なものというべきで
ある。また、Fに続いて、E、N、G及びOが二階へ上がった行為についても、B
及びCの明示の意思に反するものであるから、同様に違法である。
イ 次に、Fが、二階において、コタツの上に置いてあった売上メモを持っていた
Bに対してその提示を強く求め、奪い取るようにして右メモを取り上げるととも
に、Bがコタツの上にあった売上集計表を隠そうとしたため、これも取り上げたこ
と、また、同人がベッドの陰の方に何かを隠すような行動をしたと感じたことから
箱様の籠をさがし、その中の納品書及び請求書を探し出したこと、その後二階に上
がってきた国税調査官らが、Eの指示により、B及びCの承諾を得ないまま、タン
スやベッドの下の引出しを捜索し、特に、Bの強い制止にもかかわらず、ベッドの
下の同人が下着を入れている引出しに手を入れてかき回したことは前判示のとおり
である。なお、証拠(乙二の1、乙三の1)の中には、右タンスやベッドの引出し
の捜索の際には、GがBに「部屋の中を確認させてもらいます。」と声をかけて黙
示の承諾を得たとする部分があるが、EらがCから拒絶されたにもかかわらず、こ
れを無視して、二階へ上がったことは前判示のとおりであり、このようなEらの一
連の行為態様に照らすと、この時だけ承諾を得たというのは不自然であって、信用
できない。そして、これら国税調査官らによる行為は、二階に上がったこと自体が
違法であるうえ、その後これに引き続いてBらの承諾を得ないままなされたもので
あって、社会通念上相当の限度を著しく逸脱する違法なものというべきである。
ウ さらに、二階での調査に並行して、Oが一階で、従業員のT、B及びCの承諾
を得ないまま、レジの金銭調査をしたうえ、レジが置かれていた机の引出しを持っ
て二階へ上がり、その中の帳簿類の調査をしたことは前判示のとおりである。右調
査は、いずれもBらの
承諾を得ないままなされた、任意調査として許される限度を逸脱した違法なもので
あると認められる。
② β店における調査
ア Hらが、Aの承諾のないまま、レジが置かれた机の引出し、レジ付近の屑入れ
の捜索及びレジの横の陳列籠の上にあった大学ノートの検査を行ったことは前判示
のとおりである(なお、Aが右調査に対して積極的、明示的に拒否することをして
いないことは前判示のとおりであるが、Aは臨場したHらに対し、原告が不在であ
るため出直して欲しいと述べていたこと、その対応は、主としてHらの質問に対し
口頭で答える程度の消極的なものであったといえることに照らすと、Aの黙示の承
諾があったものとは認め難い。)。したがって、右調査は、Aの承諾を得ないまま
なされた、任意調査として許される限度を逸脱した違法なものであると認められ
る。
イ 次に、Pが、従業員のUが繰り返し拒否したにもかかわらず、その所持するバ
ッグを強引に取り上げて中を開披し、在中していた手帳まで取り出してページをめ
くって見始めたことは前判示のとおりであり、これは同女の明示の意思に反するう
え、女性のバッグの内容物、とりわけ手帳の中身等はプライバシー保護の要請が大
きいことに照らすと、任意調査として許される限度を著しく逸脱した違法なもので
あるというべきである。
③ 以上のとおり、三月三〇日の京都店及びβ店における国税調査官らによる調査
は、任意調査として許される限度を著しく逸脱した行為を含むものであり、重大な
違法性を帯びるものであったと認めるのが相当である。
 なお、原告は、同日の京都店及びβ店における調査は、Eらが、質問検査権の範
囲を超えた違法な税務調査をするために意図的に事前通知をせず、また、納税義務
者本人の不在を狙って、ことさらに強制調査と誤信させて進めようとしたものであ
るから違法であると主張するが、本件全証拠によっても、これを認めるに足りな
い。
(2) その後の税務調査について
 国税調査官らが三月三〇日の調査後、多数回にわたり原告の店舗に臨場したこ
と、右臨場のほとんどは事前通知なしに行われたものであること、国税調査官らが
四月以降三回原告を尾行したことは前判示のとおりであるが、右行為は、それ自体
で直ちに違法があるとまでは認められない。
 しかし、Rが六月五日の調査において、合理的理由及び必要性が全くないのに、
Aの面前で注意書きを店中に聞こえるような
大きな声で読み上げた行為は嫌がらせと認めるほかはなく、社会通念上相当の限度
を逸脱した違法なものであるというべきである。
(三) 本件処分の適法性について
(1) 国税調査官らが、三月三〇日の調査の過程において、任意調査として許容
される限度を著しく逸脱した重大な違法行為を行ったことは前判示のとおりであ
る。そして、そのような違法行為を行い、社会通念上納税義務者の協力を期待し得
ない状態を作り出した課税庁には、以後の税務調査に際して、右違法とされる事実
関係を調査し、これを相手方に説明するなど誠実に対応し、右違法行為がなされる
以前の調査に対する協力を期待し得る状態に回復する努力をすることが要求される
というべきであり、右のような誠実な対応をなさないまま臨場を重ね、帳簿書類の
提示を求めたとしても、帳簿書類の備付け状況等の確認を行うために社会通念上当
然要求される程度の努力を尽くしたものということはできないと解するのが相当で
ある。
(2) そこで、本件における課税庁の対応をみるに、課税庁は、三月三〇日の京
都店及び唐橋店における調査後、原告の再三にわたる申し入れにもかかわらず、右
調査について違法はなかったというのみで、事実関係の説明をするなどの誠実な対
応をしなかったこと(弁論の全趣旨によれば、被告は、原告が提起した損害賠償請
求事件において、本件調査に違法があったとして損害賠償を命じる判決が確定して
いる現在でも調査は適法であったと主張し、不誠実な態度を継続していることが認
められる。)、原告の抗議にもかかわらず、右のような重大な違法行為を行った国
税調査官らを七月の人事異動まで八回にわたって引き続き臨場させたこと、右人事
異動により税務調査の担当者が交代した後も、原告の事業が多忙なことを知りなが
ら年末になって突然臨場を再開したうえ、約束に反し年末に臨場するなどして本件
処分に及んだこと、その過程で、Rは、六月五日に、合理的理由及び必要性が全く
ないのに、店中に聞こえるような大きな声で注意書きを読み上げるなど嫌がらせと
認めるほかはない行為に及んでいることは前判示のとおりであり、右事実によれ
ば、課税庁は、三月三〇日以後の調査に際して、違法とされる事実関係を調査し、
これを原告に説明するなどの誠実な対応をしないまま、いたずらに臨場を重ねたに
すぎないと認められる。
 次に、原告側の対応についてみるに、国税調査官らが
本件処分までに京都店および唐橋店に十数回臨場したうえ、原告に対し、口頭及び
文書により帳簿書類の提示を再三にわたり求めたこと、これに対し、原告は、国税
調査官らに、三月三〇日の調査の事実関係を認め謝罪しなければ調査に応じないと
して、まず、謝罪を求め、最終的には右謝罪に加え、第三者の立ち会いを認めなけ
れば調査に応じないことを明確にしたこと、原告は、事前に通知を受けていた調査
に際しては、部外者である第三者を立ち会わせたり、時には、調査の様子を写真撮
影したり、録音をしたことは前判示のとおりであるが、本件においては、三月三〇
日の調査の違法性は重大なものであり、そのような違法な調査を受けた原告が、誠
実な対応のないままなされた多数回に及ぶ事前通知なしの臨場や三回にわたる尾行
を課税庁による税務調査に名を借りた嫌がらせと受け取ったとしても、これを一方
的に非難することは相当でないし、また、右調査に際して、第三者の立ち会いを求
めたり、写真撮影等をしたことについても、同様の理由から、再度違法な調査がな
されないようするため、第三者の立ち会いを要求し、調査の様子を撮影・録音する
ことにやむを得ない面があると考えられるから、原告が前記のとおり調査に非協力
的な対応をしたことを原告の責にのみ帰せしめることはできない。
 以上のような課税庁の調査の方法等及びこれに対する原告側の対応を総合すれ
ば、課税庁は、本件処分をなすまでの全調査過程を通じて、帳簿書類の備付け状況
等を確認するために社会通念上当然要求される程度の努力を尽くしたものと認める
ことはできない。
(3) なお、被告は、青色申告承認取消処分の適法性はその要件の存否で決まる
ものであり、税務調査における違法は取消事由の存否に影響を与えないと主張す
る。
 しかし、法規上明文では規定されていない帳簿書類の不提示をもって、所得税法
一五〇条一項一号所定の取消事由に当たるというためには、課税庁の行う調査の全
過程を通じて、課税庁が帳簿書類の備付け状況等を確認するために社会通念上当然
に要求される程度の努力を行ったにもかかわらず、その確認を行うことが客観的に
みてできなかったことを要すること、右のような努力を行ったか否かの判断は、国
税調査官らによる一連の税務調査の方法・態様・適否、これに対する納税義務者の
対応等を総合して社会通念により決すべきであることは前判示のとおりであるから
、右の限度で調査手続の違法及びその後の課税庁の対応が右のような取消事由の要
件の存否に影響を与えるというべきである。
 したがって、被告の右主張には理由がない。
第四 結論
 以上によれば、所得税法一五〇条一項一号に該当するとしてなした本件処分は違
法であり、右処分の取消しを求める本訴請求は理由があるからこれを認容すること
とし、主文のとおり判決する。
京都地方裁判所第三民事部
裁判長裁判官 大谷正治
裁判官 山本和人
裁判官 西田政博

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