弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人A、同Bに関する部分を破棄する。
     同被告人等を各懲役三月に処する。
     押収にかかる海図五枚及び大蔵事務官Cが差押えた真鍮屑(薬莢屑)千
七百貫、進駐軍ボロ作業着上百七十八着、下百二十九着、鉛屑三十貫、型鉛三個は
いずれもこれを没収する。
     原審の訴訟費用中証人D、Eに支給した分は被告人Bの負担とする。
         理    由
 検察官の控訴趣意第一点について。
 原判決が、本件F丸をもつて無免許輸入の犯罪行為の用に供した舶船であること
を認めながら、被告人Bの適法な所有または占有に属さないとの理由でこれを没収
しなかつたことは所論のとおりである。
 そこで、まず本件F丸が同被告人の所有であつたかどうかの点について検討する
に、原判決の挙示する証拠によると、同被告人は船を売りたいというG及びHなる
者と会見したところ、所有者が女の名であつたので所有者と直接取引をすることに
なり、同船の所有者Eと自称する女と直接面談し、同女を確かな所有者と信じこれ
と交渉の結果、金三十万円を支払い同船を買受け引渡を受けこれを本件密輸入の用
に供した事実及び同船はEの所有であるが、その夫Iが船長として占有中G外二名
が右Iを殺害し同船を強奪したものであり、右Eと自称し売買交渉にあたつた人物
は実は同人ではなくGの情婦であつた事実がそれぞれ明白である。
 従つて同被告人の占有が、民法第百九十二条にいわゆる平穏公然かつ善意であつ
たことは疑いないけれども、占有当時Gの情婦が真実権利者であると信ずるについ
て過失がなかつたかどうかは、記録上必すしも明白ではないが、過失があつたとす
れば当然同条の適用はないしかりに無過失であつたとすれば、まさに同法第百九十
三条に該当するものというべく、然る以上かかる場合には占有者は二年間はその物
の所有権を取得しないものと解するのが相当であるから(大審院昭和四年十二月十
一日言渡判決参照)同被告人をもつて同船の所有者であるとする所論には賛同し難
い。
 <要旨>更に所論は同船が同被告人の占有に属する以上、当然これを没収すべき旨
主張するのである。思うに関税法第八十三条第一項は無免許輸入の犯罪行為
に供した船舶は犯人の所有するものの外、その占有する船舶もまたこれを没収する
旨規定しているが、所有者が強窃盗等によりその意思によらないで所持を喪失した
船舶のごときは、たとえ犯罪の用に供せられたればとて没収するの法意であると称
するを得ない。けだし、右法条は、関税取締の必要上刑法第十九条第二項の適用を
排除し没収刑を設けたものではあるが、他方右のような所有者の権利を保護するを
要する十分の理由があつて、かかるものの犠牲において船舶を没収すべき実質的な
根拠がないのであり、このような場合についても没収するというようなことはとう
てい立法の精神とは解し得ないからである。(大審院大正十一年十二月六日言渡判
決参照)然るに、同船が所有者の夫なる占有者殺害により強奪されたものであり、
何ら権利者の意思に基ずかずして、同被告人が占有を取得したものである以上、前
叙の理により同人の占有は右条項にいわゆる占有に該当しないものというべく、従
つて原審がこれを没収しなかつたのは相当であり、本論旨もまたその理由がない。
 同第二点について。
 所論に鑑み記録を精査すると被告人両名に対する原審の科刑は軽きに失すると考
えられるから刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十一条第四百条但し書に従い原判
決を破棄し更に裁判をする。
 原判決が証拠により確定した被告人等の原判示第一の所為は関税法第三十一条第
百四条第七十六条第一項第二項刑法第六十条罰金等臨時措置法第二条に該当するか
ら所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期範囲内で被告人等を各懲役三月に処し没
収につき関税法第八十三条第一項、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条
を各適用し主文のとおり判決をする。
 (裁判長判事 荻野益三郎 判事 佐藤重臣 判事 梶田幸治)

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