弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人を懲役四月に処する。
     但し、裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
     押収にかかる物件のうち杉丸木材九八〇・五八石は、これを没収する。
     原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人鶴和夫の控訴趣意は記録添付の同弁護人名義の控訴趣意書記載のとおりで
あるから、これを引用する。
 控訴趣意第一点の(一)及び(二)について、
 原審第六回公判調書によれば、原審検察官が訴因変更申請書を朗読したのに対
し、これを許す旨の記載のないことは所論のとおりである。刑事訴訟法第三百十二
条によれば、裁判所は検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限
度において、起訴状に記載された訴因の変更を許さなければならないとしているの
で、<要旨>この場合には、裁判所はその許可の決定を要する趣旨のようである。し
かし公訴の提起は検察官の職責であつて、裁判所はその提起された公訴の範
囲においてのみこれが審判をなすものである。そして提起された公訴事実における
訴因の変更は検察官のなすところのものであり、裁判所の決定によつて変更される
ものではない。
 訴因が変更された場合、公訴事実に同一性がある限りにおいては、必ず許されね
ばならない。ただその同一性あるや否やについては、疑のある場合が多いのである
から、その同一性を害するものと認むるときには、このことを明らかにするため
に、これを却下すれば足り、許すときは形式的な決定をなすに越したことはない
が、必ずしもこれを必要としないものと解するのが相当である。所論は右と見解を
異にするもので採るを得ない。
 なお、記録によれば、原審検事は昭和二十五年六月二十二日原審に対し同日附訴
因変更申請書を差し出し、当時同申請書の謄本は被告人及びその相被告人A、Bに
夫々送達せられたこと、同検察官はその送達があつた直後の第六回公判期日におい
て前記申請書を朗読(一部は口頭により訂正陳述)したこと、これに対して、原審
裁判官が訴因の変更を許す旨の決定の記載はないが原審裁判所は刑事訴訟法第二百
七十一条第二項刑事訴訟則第百九十七条第一項所定の事項を告げ被告人等に対し被
告事件について陳述する機会を与えた後弁護人において右訴因の変更は公訴事実の
同一性を害するものとし異議の申立をしたのに対し原審裁判官は右異議申立を却下
する旨の決定をしたことを認むることができる。この訴訟の経過から見ると原審裁
判官は前記訴因の変更は、公訴事実の同一性を害しないものと認めてこれを許した
ことが自ら明らかである。従つて仮りに所論のように訴因の変更につき許す旨の裁
判を要すとしても、本件においては原審は黙示的に、これを許す旨の決定があつた
ことを認めることができるから、訴因の変更についての原審の訴訟手続上の措置に
は何等違法の点はない。論旨は理由がない。
 同第一点の(三)について
 記録によれば、起訴状には「被告人C、A、Bは共謀の上税関の免許を受けるこ
となく木材約八百七十二石半をD丸に積載の上、昭和二十四年十二月十九日午前五
時頃門司田の浦港を朝鮮釜山に向け出港し以つて之が密輸出をなしたものである」
とあるが訴因変更申請書記載の事実は「被告人C、A、Bは共謀の上、税関の免許
を受けることなく木材八百七十二石半をD丸に積載の上昭和二十四年十二月十九日
午前五時頃門司田の浦港より朝鮮釜山に向うべく(但し、第六回公判期日に朝鮮釜
山に向うとあるを、博多に向け進行中と口頭により訂正陳述)若松沖合より粕屋郡
(福岡県下)相の島附近迄航行し、その間被告人等は船長等に朝鮮行を懇願した
が、船長等が之を拒否して博多港に入港したのでその目的を達し得ず、以つて之が
密輸出を図つたものである」というのである。刑事訴訟法第三百十二条に、いわゆ
る公訴事実の同一性とは、公訴の基本的事実関係が同一であることを指称するもの
と解する。その同一性ありや否やは、各具体的場合により社会通念に照らして決す
べきである。換言すれば犯罪の日時、場所、被害法益等において同一事実として認
定し得る範囲を指称するものといわねばならない。本件において、起訴状における
公訴事実と訴因変更申請書におけるそれとはその両者に共通な事実としては昭和二
十四年十二月十九日午前五時頃門司田の浦を出帆したD丸に積載した木材を税関の
免許を受けることなく密輸出をするという行為に、被告人外二名が関与した点であ
つて、前者は門司田の浦港出帆の際を密輸出の既遂とし、後者は門司港出帆後その
航海の途上において密輸出を図つたものとしている差異あるのであるから、常識
上、その基本的事実においては、両者同一性を保持しているものと認むべきは勿論
である。しかのみならず元来訴因の変更につき、一定の手続が要請される所以は、
裁判所が勝手に訴因を異にした事実を認定することによつて、被告人に不当な不意
打を加え、その防禦権の行使を徒労に終らしむることを防止するにあるかち、かか
る虞れのない場合、例えば既遂の起訴に対しその未遂を認定する場合の如く、裁判
所がその態様及び限度において訴因たる事実よりも縮少された事実を認定するにつ
いては、敢て訴因の変更手続を経ることを要しないものと解するのが相当である。
本件においては起訴状では密輸出の既遂であるに対し、変更された訴因はその縮少
された範囲内のものであつて、原審検察官においては、訴因の変更すら必要でなか
つたものといわねばならない。敢てこれが変更手続に及んだのは、訴訟の進行を万
全ならしむる趣旨に出でたものと解せられる。しかも、起訴以来の訴訟の経過に徴
するも、原審が訴因の変更手続がなされたために、被告人のこれに対する防禦に実
質的な不利益を生ぜしめたとも思はれたい。従つて本件においては所論のように公
訴事実の同一性を害するものでないことが明らかであるから何等違法の点たくその
変更された公訴事実の範囲内においてせられたと認むべき原判決は所論の如く審判
の請求を受けない事実を審判し、審判の請求を受けた事件につき審判をなさなかつ
た違法があるということはできない。論旨は結局理由がない。
 同第二点について、
 原判示事実とその挙示の証拠によれば、被告人は当初正式の免許を受け得るもの
と信じその免許を得て朝鮮に輸出する目的で判示木材を買入れ判示a村においてこ
れをD丸に船積し門司港に廻航したが正式の免許を得ることができなかつたので判
示日時頃門司田の浦港を出帆し一応博多港に向け運航することにしたが、元来右木
材は朝鮮に運搬輸出すべきものであつたし、なお右木材代金の大部分は支払未了
で、その支払時期も追つていたので、その調達を急ぐの余り、その運航の途上、免
許を受くることなくそのまま、判示木材を、朝鮮に密輸出しようと決意し、船員等
の承応を期待し判示相の島附近航行中同船船長等船員に対して朝鮮に行くよう懇願
したが、その拒絶するところとなり、博多港に入港して目的を遂げなかつたことが
認められる。そして被告人の行為が右の程度に達している以上は所論のような陰謀
又はその単なる準備行為ではなく、その範囲を越えて目的木材を輸出する手段行為
の遂むに入つたもので、その犯罪の実行は客観的に可能であると認むべきであるか
ら被告人の右所為は判示関税法第七十六条第一項にいわゆる「輸出ヲ図リタル者」
に該当すること勿論である。従つて被告人の右行為を以つて判示法条に該当するも
のとした原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。
 同第三点について、
 本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われた事実並びに所論の情状
に照らすと原審の被告人に対する科刑は重きに過ぎ刑の量定が不当であると認めら
れるので刑事訴訟法第三百九十七条により破棄を免れない。論旨は理由がある。
 そして当裁判所は本件記録及び原裁判所において取り調べた証拠によつて、直ち
に判決をすることができるものと認めるので、同法第四百条但書に従い更に判決を
することとする。
 原判決の確定した事実を法律に照らすと被告人の所為は裁判時法によれば昭和二
十五年法律第百十七号第七十六条第二項に、行為時法によれば昭和二十三年法律第
一〇七号第七十六条第一項に該当するが、その法定刑に軽重があるから刑法第六条
第十条に則つて軽き行為時法により所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内にお
いて被告人を懲役四月に処し情状により裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予
すべきものとし、押収にかかる物件のうち主文第四項記載の木材は右法律第一〇七
号第八十三条第一項に従いこれを没収し原審における訴訟費用は刑事訴訟法第百八
十一条により全部被告人に負担させることとして主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 白石亀 判事 後藤師郎 判事 大曲壮次郎)

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