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判決言渡平成20年10月8日
平成20年(行ケ)第10178号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年9月8日
判決
原告株式会社インタフェース
訴訟代理人弁理士板谷康夫
同中川勝吾
被告特許庁長官
指定代理人安達輝幸
同小林由美子
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−28296号事件について平成20年4月1日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が平成18年9月6日に下記商標(商願2006−82924
号。以下「本願商標」という。)について商標登録出願をしたところ,平成1
9年9月14日付けで拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をし
たが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事
案である。

・商標
・指定商品
第9類
「コンピュータ」
2争点は,本願商標が下記引用商標(甲1)との関係で類似するか(商標法4
条1項11号),である。

・商標(標準文字)
LEGACY
・指定商品
第1類∼32類,第34類。具体的な商品名は別添審決写し別紙のとお
り。
なお,第9類を転記すると次のとおり(下線は判決で付記)。
第9類
「配電用又は制御用の機械器具,電池,電線及びケーブル,写真機械
器具,映画機械器具,光学機械器具,加工ガラス(建築用のものを除
く。),救命用具,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部
品,オゾン発生器,電解槽,ロケット,遊園地用機械器具,運動技能
訓練用シミュレーター,乗物運転技能訓練用シミュレーター,回転変
流機,調相機,鉄道用信号機,乗物の故障の警告用の三角標識,発光
式又は機械式の道路標識,火災報知機,ガス漏れ警報器,事故防護用
手袋,消火器,消火栓,消火ホース用ノズル,消防車,消防艇,スプ
リンクラー消火装置,盗難警報器,保安用ヘルメット,防火被服,防
じんマスク,防毒マスク,磁心,自動車用シガーライター,抵抗線,
電極,溶接マスク,映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィ
ルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,ガソリ
ンステーション用装置,自動販売機,駐車場用硬貨作動式ゲート,金
銭登録機,計算尺,硬貨の計数用又は選別用の機械,作業記録機,写
真複写機,手動計算機,製図用又は図案用の機械器具,タイムスタン
プ,タイムレコーダー,電気計算機,パンチカードシステム機械,票
数計算機,ビリングマシン,郵便切手のはり付けチェック装置,潜水
用機械器具,アーク溶接機,金属溶断機,検卵器,電気溶接装置,電
動式扉自動開閉装置」
・登録番号第4519184号
・登録年月日平成13年11月2日
・商標権者富士重工業株式会社
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成18年9月6日に上記本願商標について商標登録出願(商願
2006−82924号)をしたところ,平成19年9月14日付けで拒絶
査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2007−28296号事件として審理した上,
平成20年4月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は同年4月15日原告に送達された。
(2)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願商
標は上記引用商標と類似し,指定商品も同一又は類似であるから,商標法4
条1項11号により商標登録を受けることができない,というものである。
(3)審決の取消事由
しかしながら,審決は,本願商標と引用商標との類否判断を誤り,本願商
標が商標法4条1項11号に該当すると誤って判断したものであるから,違
法として取り消されるべきである。
すなわち,審決は,「本願商標は,…『LegacyFactory
AutomationComputer』の文字よりなるところ,その構
成文字全体をもって,一般に親しまれた特定の意味合いを認識させる既存の
語とは認められず,必ずしも一体不可分にのみ認識されなければならない特
別な事由は見いだせない」(1頁下3行∼2頁2行)とした上で,「…『F
actoryAutomationComputer』の文字部分は,
上述した『コンピュータ制御技術を用いて工場を自動化すること』の意味合
いを表す語として理解され,該文字部分は,自他商品の識別標識としての機
能を果たしていないか,自他商品の識別標識としての機能を果たしていたと
しても,その機能は極めて弱いものと認識されるとみるのが相当であって,
本願商標中,自他商品の識別標識としての機能を果たしているのは『Leg
acy』の文字部分にあるものと認められる」(2頁13頁∼20頁),
「…してみれば,本願商標と引用商標とは,『レガシー』の称呼,『遺産,
受け継いだもの』の観念を共通にし,外観上もある程度近似した印象を与え
るものであって,全体として類似する商標というべきであ」る(3頁27行
∼29行)としたが,以下のとおり誤りである。
ア(ア)コンピュータ関連分野においては,「Legacy」(レガシー)な
る語は,その後に何らかの語を伴い一体として使用されることが普通に
行われている(例えば,レガシー・インターフェース,レガシー・シス
テム,レガシー・デバイス,レガシー・フリー,レガシー・リエンジニ
アリング,レガシー・マイグレーション,レガシー・アプリケーショ
ン,レガシー・ファイル等〔甲2∼5〕)。
したがって,「Legacy」から直ちに「遺産,受け継いだもの」
との観念が想起されるものではない。
(イ)また「Factory」(ファクトリー)なる語は,「製造所,工
場」という意味で使用される以外に,コンピュータ関連分野において特
定の意味を持った用語として単独で使用されることが普通に行われてい
る(甲6∼8)。
また,「Automation」(オートメーション)なる語は,
「Computer」(コンピュータ)なる語と結合して「Autom
ationComputer」として使用されている(甲9)ほか,
単独でも広く使用されている(甲22,乙29)。
そうすると,「FactoryAutomationCompu
ter」の文字部分は「コンピュータ制御技術を用いて工場を自動化す
ること」を意味する語として理解されるものではなく,むしろ,「Fa
ctory」「Automation」「Computer」がそれぞ
れ独立した意味を有する語として認識されるものである。
なお,「Factory」「Automation」「Comput
er」の文字がそれぞれ自他商品識別機能を果たしうることは,これら
の文字を使用した商標(甲14∼16)が登録されていることからも明
らかである。
(ウ)したがって,本願商標を構成する「Legacy」「Factor
y」「Automation」「Computer」は,それぞれが自
他商品識別機能を果たしうるものであるから,本願商標中「Legac
y」のみが自他商品識別機能を果たしているものではなく,本願商標は
「LegacyFactoryAutomationCompu
ter」あるいは取引者・需要者が読みやすい部分を捉えて区切り「L
egacyFactory」として認識されるものである。
イ(ア)以上を前提として,本願商標と引用商標との類否についてみる
と,まず観念については,「LegacyFactoryAut
omationComputer」「LegacyFactor
y」はいずれもコンピュータ関連分野において特定の意味合いを有
する語句として一般に親しまれておらず,いわゆる造語であって,
特定の意味を観念することができないものである。
したがって,本願商標は,「遺産,受け継いだもの」を意味する
引用商標と観念において類似しない。
(イ)また称呼については,「レガシーファクトリーオートメーションコン
ピュータ」あるいは「レガシーファクトリー」との称呼を生じるもので
あるから,本願商標は「レガシー」の称呼を生じる引用商標と称呼にお
いても類似しない。
なお,仮に被告が主張するように,「FactoryAutoma
tion」が取引者・需要者によって一体に認識されるのであれば,
「FactoryAutomation」なる語は「FA」と表記さ
れるのが一般的であることから,本願商標は「レガシーエフエーコンピ
ュータ」なる称呼を生じることとなる。
(ウ)また外観については,欧文字の大文字と小文字により構成された四つ
の単語から成る「LegacyFactoryAutomatio
nComputer」あるいは2つの単語から成る「Legacy
Factory」が,欧文字の大文字による一つの単語から成る「LE
GACY」と外観において著しく異なることは明らかである。
(エ)したがって,本願商標は,引用商標と観念,称呼,及び外観が異なる
ものである。
ウさらに,本願商標の指定商品である「コンピュータ」の取引の実情につ
いて,パソコン,スーパーコンピュータ,マイクロコンピュータ等に関し
て述べる。
(ア)パソコンは,家庭などにおいて個人的に使用されるため必ずしもコン
ピュータに精通していないユーザが需要者となるが,日用品ではないた
め,その購入に当たってはパソコンの機能,性能,特性,デザイン,使
用目的,サポート内容,メーカーの信頼性等について詳細に検討し,相
当の注意を払って購入する。
(イ)スーパーコンピュータは,最先端科学分野において使用されることか
ら,その需要者は極めて高い専門性を有する。また,汎用コンピュー
タ,オフィスコンピュータ,ワークステーションは,業務や研究開発に
おいて使用されるいわゆるメインフレーム又はサーバであり,その需要
者は,コンピュータの性能や機能に精通し,使用目的に応じてカスタマ
イズする能力を有する専門家である。したがって,これらのコンピュー
タの需要者は,パソコンの需要者よりも更に高い注意を払って購入す
る。
(ウ)マイクロコンピュータは,家電製品などに組み込まれることによって
使用されるものであり,その需要者は家電製品等の開発者であって,コ
ンピュータに関する極めて高い知識を有する専門家である。したがっ
て,マイクロコンピュータの需要者は,パソコンの需要者よりも更に高
い注意を払って購入する。
(エ)以上のような取引の実情に照らせば,本願商標と引用商標について,
取引者・需要者において出所の混同が生じる可能性がないことは明らか
である。
2請求原因に対する認否
請求原因(1),(2)の各事実は認めるが,(3)は争う。
3被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)ア本願商標の指定商品であるコンピュータに係る分野において,「Fa
ctoryAutomation」(「FA」と略して使用される場合
を含む。)が「コンピュータによる,工場の生産システムの自動化」等の
意味を有する語として広く使用されている(乙1∼9)。
イそして,コンピュータ制御による工場の自動化は我が国の各種製造工場
で広く行われており,工場の自動化を制御するコンピュータについて「F
A(FactoryAutomation)Computer」,「F
Aコンピュータ」などと称されている(乙10∼26)。
(2)ア以上を前提として本願商標についてみる。まず,外観についてみる
と,本願商標は「LegacyFactoryAutomation
Computer」の文字より成るところ,構成中の各文字間に1文字
分の間隔があり,視覚上4つの文字部分に分離して認識,把握されるもの
である。
イ次に観念についてみると,本願商標の構成中,「Legacy」は「受
け継いだもの。遺産」(「現代用語の基礎知識2008」,乙27),
「Factory」は「製造所。工場」(「広辞苑第六版」,乙28),
「Automation」は「自動化」(「広辞苑第六版」,乙29)等
の意味を有する語であり,「Computer」の文字は本願指定商品名
そのものであって,いずれもよく知られた語であるが,「Legacy
FactoryAutomationComputer」という構成
文字全体をもって特定の意味合いを認識させる既存の語として知られてい
る事実はない。
そして,前記(1)で述べたとおり,コンピュータ関連分野において,
「FactoryAutomationComputer」は,「コ
ンピュータ制御技術を用いて工場を自動化すること」あるいは「工場の生
産システムの自動化のためのコンピュータ」を意味する語として,知られ
ているものである。
ウさらに称呼についてみると,本願商標は,その構成文字部分を一体とし
て称呼した場合,「レガシーファクトリーオートメーションコンピュー
タ」という21音となって極めて冗長であり,かつ,上述のとおり各構成
部分はよく知られた語であって,それぞれの部分が分離して発音されるも
のであることから,常に一連のものとして称呼されるとはいえないもので
ある。
エそうすると,本願商標は,各構成部分がそれを分離して観察することが
取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとはいえず,
その構成中の「FactoryAutomationCompute
r」の文字が「コンピュータ制御技術を用いて工場を自動化すること」あ
るいは「工場の生産システムの自動化のためのコンピュータ」を意味する
語として認識され,自他商品識別機能を果たしていないことに照らせば,
本願商標中「Legacy」の文字部分が自他商品識別機能を有するもの
である。
(3)以上を前提として本願商標と引用商標との類否についてみると,本願商標
は,その構成中「Legacy」の文字部分が自他商品識別機能を有するも
のであり,引用商標は「LEGACY」の文字より成ることから,いずれも
「レガシー」の称呼及び「遺産,受け継いだもの」という観念を生じる。
そして,本願商標の「Legacy」の文字と引用商標の「LEGAC
Y」の文字とは,小文字であるか大文字であるかの違いはあるものの,外観
上,近似した印象を与えるものである。
なお,本願商標の指定商品である第9類「コンピュータ」は,引用商標の
指定商品である第9類中の「電子応用機械器具及びその部品」に含まれるも
のである。
そうすると,本願商標と引用商標とは,「レガシー」の称呼及び「遺産,
受け継いだもの」の観念が同一であり,外観においても近似した印象を与え
るものであるから,本願商標は引用商標と類似するものである。
(4)これに対し原告は次のとおり主張するが,いずれも失当である。
アまず原告は,コンピュータ関連分野においては「Legacy」なる語
は,その後に何らかの語を伴い一体として使用されることが普通に行われ
ており,直ちに「遺産,受け継いだもの」との観念が想起されるものでは
ないと主張する。
しかし,「Legacy」なる語が何らかの語を伴い一体として使用さ
れる場合とは,例えば,甲2(「デジタル用語辞典2002−2003年
版」平成14年3月18日日経BP社発行)をみると,「レガシー・イン
ターフェース」という語の説明として「汎用性が低く速度の遅い従来のイ
ンターフェースを“過去の遺物”と皮肉って呼び始めたもの」と記載され
ているように,最新の技術に対して従来のものが時代遅れ的であることを
強調していう場合など,極めて限られた場面で使用されるものと考えら
れ,「Legacy」の後に何らかの語を伴い一体として使用されること
が普通に行われているものとはいえない。
また,「LegacyFactory」あるいは「LegacyF
actoryAutomationComputer」の文字が特定
の意味を有するものとして使用されている事実もない。
そうすると,「Legacy」という文字からは「遺産,受け継いだも
の」という観念が想起されるものである。
イまた原告は,「FactoryAutomationComput
er」の文字部分は「コンピュータ制御技術を用いて工場を自動化するこ
と」を意味する語として理解されるものではなく,むしろ,「Facto
ry」「Automation」「Computer」がそれぞれ独立し
た意味を有する語として認識されるものであると主張する。
しかし,「Factory」が単独で「製造所,工場」以外の意味にお
いて用いられるのは,原告の示す例(甲6∼8)のような情報処理の極め
て専門分野における使用であって,コンピュータ分野に関する辞典(例え
ば「2007−'08年版最新パソコン用語辞典」〔乙6〕など)にも
「Factory」の項目はない。
また,「Automation」「Computer」がそれぞれ独立
して使用されるとしても,それぞれの語意である「自動化」「コンピュー
タ」の意味で使用されているものであり,前記(1)(2)で述べたとおり「F
actoryAutomationComputer」は「コンピュ
ータ制御技術を用いて工場を自動化すること」あるいは「工場の生産シス
テムの自動化のためのコンピュータ」を意味する語として認識されるもの
である。
ウまた原告は,本願商標の称呼につき「レガシーファクトリーオートメー
ションコンピュータ」又は「レガシーファクトリー」との称呼を生じると
主張する。
しかし,商標に接する取引者・需要者は,一連に称呼した場合には冗長
な商標であって各部分に分離されて認識される商標については,その各部
分のうち自他商品識別機能を果たす特徴のある部分を抽出して,その部分
より生じる称呼,観念をもって取引に当たるというべきである。
そして,本願商標については,「Legacy」の部分が自他商品識別
機能を有することは既に述べたとおりである。
エまた原告は,コンピュータの取引の実情に照らして本願商標と引用商標
との出所の混同が生じないと主張する。
しかし,コンピュータの購入に関して,需要者が日常的に消費される日
用品に比べて相当の注意を払うとしても,常に商品及びそれに付された商
標をその場で対比するのではなく,商品,商標を記憶して,時間・場所等
を異にして購入を考える場合もあり得る。また,メーカーによって,機
種,性能等により細分化されている商品について同一の商標を付すことも
あるから,このような場合に,本願商標をその指定商品に使用した場合に
は,「Legacy」シリーズの一機種であるかのように認識されるとい
うべきである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(審決の内容)の各事実
は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由について
原告は,本願商標と引用商標との類否判断の誤りを主張するので,以下この
点について検討する。
(1)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場
合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決す
べきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観
念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に
考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具
体的な取引状況に基づいて判断すべきものである(最高裁昭和43年2月2
7日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。そして,商標は,そ
の構成部分全体によって他人の商標と識別すべく考案されているものである
から,みだりに,商標構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標
と比較して商標そのものの類否を判定することは許されないが,他方,簡
易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,各構成部分がそれを分離して観
察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているも
のと認められない商標は,常に必ずしもその構成部分全体の名称によって称
呼,観念されず,その一部だけによって簡略に称呼,観念され,1個の商標
から2個以上の称呼,観念の生ずることがあるのは,経験則の教えるところ
である。そしてこの場合,一つの称呼,観念が他人の商標の称呼,観念と同
一又は類似であるとはいえないとしても,他の称呼,観念が他人の商標のそ
れと類似するときは,両商標はなお類似するものと解するのが相当である
(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621
頁参照)。
そこで,以上の見地に立って本件事案について検討する。
(2)本願商標の内容
ア本願商標は,前記のとおり,「LegacyFactoryAut
omationComputer」のように横書きしたものであり,
「Legacy」「Factory」「Automation」「Com
puter」の各語の間に1文字分の間隔を空け,同一書体かつ同一の大
きさで表記したものである。
イそこで,まず,本願商標に用いられている「Legacy」「Fact
ory」「Automation」「Computer」の語義について
検討する。
(ア)「Legacy」は「遺産」,「遺物」を意味する英語であり(「ラ
ンダムハウス英和大辞典第2版」平成6年1月1日株式会社小学館発
行),日本語の外来語では「レガシー」と表記される(「現代用語の基
礎知識2008」1503頁,平成20年1月1日自由国民社発行,乙
27)。
(イ)「Factory」は「工場」,「製造所」を意味する英語であり
(「ランダムハウス英和大辞典第2版」),日本語の外来語では「ファ
クトリー」と表記される(「広辞苑第六版」平成20年1月11日株式
会社岩波書店発行,乙1)。
(ウ)「Automation」は「自動制御方式」,「自動化」を意味す
る英語であり(「ランダムハウス英和大辞典第2版」),日本語の外来
語では「オートメーション」と表記される(「広辞苑第六版」,乙2
9)。
(エ)「Computer」は「計算機」,「電子計算機」を意味する英語
であり(「ランダムハウス英和大辞典第2版」),日本語の外来語では
「コンピュータ」又は「コンピューター」と表記される(「広辞苑第六
版」)。そして,「コンピュータ」は本願商標の指定商品である。
ウ以上のように,「Legacy」「Factory」「Automat
ion」「Computer」はそれぞれ別個の意義を有する語であると
ころ,これらを並べて成る「LegacyFactoryAutom
ationComputer」は特定の意味を有するものとして用いら
れるものではない。
また,上記各語の間には1文字分の間隔が空けられており,しかも各語
の1文字目はいずれも大文字で表記されているため,外観上はそれぞれの
語が独立しているようにみえる。
さらに,上記構成部分を一体として称呼した場合には「レガシーファク
トリーオートメーションコンピュータ」という21音となり,冗長であ
る。
したがって,簡易,迅速をたっとぶ取引の実際においては,本願商標に
接する取引者・需要者は,本願商標を構成する4語を適当な区切りで分離
して認識するのが自然であるといえるから,本願商標を構成する各部分は
分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結
合しているものということはできない。
エそこでさらに,本願商標を構成する各語の相互の関係について検討す
る。
(ア)aまず,「Legacy」という語については,前記イのような「遺
産」,「遺物」という意味のほかに,以下のとおり,特にコンピュー
タ分野において「前世代の」,「前世代のもの」という意味合いで他
の語を伴って用いられることがある。
(a)「デジタル用語辞典2002−2003年版」1098頁∼10
99頁,平成14年3月18日日経BP社発行(甲2)
・「レガシー・インターフェース
[LegacyInterface]従来のパーソナル・コンピュータが採用してき
た,SCSIやシリアルなどのインタフェースの総称。USBやIEE
E1394インターフェースが登場し始めた頃に,汎用性が低く速度の
遅い従来のインターフェースを“過去の遺物”と皮肉って呼び始めたも
の。米アップルコンピュータが1998年のワールド・ワイド・デベロ
ッパーズ・カンファレンス(WWDC)の講演で用いてから一般化し
た。」
・「レガシー・システム
[LegacySystem]『前世代のシステム』の意。…」
・「レガシー・フリー」
[LegacyFree]SCSIやシリアルといった旧来のレガシー・インタ
ーフェースを取り外すこと。…」
(b)「NIPPONSTEELMONTHLY6」1頁,平成16
年6月発行(甲3)
・「複雑なシステムを最適化する『レガシー・リエンジニアリング』
…市場の急激な変化に対応して,旧来のシステムに逐次機能拡張を重ね
た結果,複雑になってしまったIT環境に悩む企業が多い。いま,こう
した長期にわたって運用されてきたレガシーシステム(注1)を見直す
『レガシー・マイグレーション(移行)』が注目されている。この分野
で新日鉄ソリューションズ㈱は,以前より新日鉄の各製鉄所の大規模シ
ステムでの豊富な実績を持つ。そのノウハウを活かし,システムの全体
最適を意識し,レガシー・マイグレーションを確実に成功させる『レガ
シー・リエンジニアリング』を,対外的にも展開している。…」
・「(注1)レガシーシステム:メインフレームを中心に開発され,長い
間使われてきた古いシステムのこと。このレガシーシステムをいかにし
て統合し,新しいシステムへ円滑に移行していくかが,システムの更新
における課題となっている。」
b他方,「Legacy」が「Factory」との関係で,あるい
は「FactoryAutomation」,「Factory
AutomationComputer」との関係で前記aのよう
な「前世代の」という意味合いで用いられることはなく,また,その
他の意味合いでもこれらの語と一体となって用いられることはない
(この点については当事者間に争いがない。)。
(イ)a次に,「Factory」及び「Automation」について
は,以下のとおり,これらの語が一体となって「工場の生産システム
の自動化」を意味する語として広く用いられるとともに,上記2語の
頭文字をとった「FA」という略称で用いられる場合もあることが認
められる。
(a)「広辞苑第六版」平成20年1月11日株式会社岩波書店発行
(乙1)
・「ファクトリー[factory]…―‐オートメーション[∼automation]
エフ・エー(FA)に同じ。」
・「エフ・エー[FA]①(factoryautomation)コンピュータによる,
工場の生産システムの自動化。」
(b)「コンサイスカタカナ語辞典第3版」平成17年10月20日株
式会社三省堂発行(乙2)
・「ファクトリー・オートメーション[factoryautomation]工場,製
造部門の生産システムの自動化,省力化,無人化。FAとも。」
(c)「imidas2007」平成19年1月1日株式会社集英社発
行(乙3)
・「FA①[factoryautomation]…工場の生産機構を自動化・機械化
すること。」
(d)「朝日現代用語知恵蔵2007」平成19年1月1日朝日新聞社
発行(乙4)
・「FA…②[factoryautomation]工場自動化。」
(e)「超図解パソコン用語辞典2007−08年版」平成18年1
1月28日株式会社エクスメディア発行(乙5)
・「FA[エフエー]FactoryAutomationコンピュータ制御の技術を利
用して,工場などでの生産作業を自動化するシステムのこと。」
(f)「2007−'08年版最新パソコン用語辞典」平成18年11
月1日株式会社技術評論社発行(乙6)
・「FA[エフエー]FactoryAutomationコンピュータ制御技術を用い
て工場を自動化すること。」
(g)「JISハンドブック⑭産業オートメーションシステム200
7」平成19年6月22日財団法人日本規格協会発行(乙7)
・「…この規格は,主として機械工業においてファクトリーオートメーシ
ョン(以下,FAという。)に用いる主な用語及び定義について規定す
る。」
・「備考1.FAとは,工場の生産機能の構成要素である生産設備(製
造,搬送,保管などにかかわる設備)と生産行為(生産計画,生産管理
を含む。)とはコンピュータを利用する情報処理システムの支援のもと
に統合化され,総合的に自動化を行うこと。」
(h)「マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版」平成12年3
月15日株式会社日刊工業新聞社発行(乙8)
「FAfactoryautomation…工場自動化。」・
・「工場自動化factoryautomation,FA…自動工作機械,自動搬送
機械などを計算機により総合管理することにより,素材の供給から加
工,検査,組立製品の搬出まで一貫して自動化すること。」
(i)「機械用語大辞典」平成9年11月28日株式会社日刊工業新聞
社発行(乙9)
FAfactoryautomation工場などの生産システムの自動化,無人・「
化を目指す概念。工場の製造現場における作業方法や,作業工程の生産
性の向上を図るため,コンピュータを駆使して機械化し自動化すること
である。特に最近の他品種少量生産での自動化をFAと呼んでいる。」
bさらに,前記a(a),(e),(f),(g),(i)の各記載によれば,ファクト
リーオートメーション(factoryautomation)における工場の自動化
は,コンピュータを利用して行われる場合が一般的であるところ,こ
のような工場自動化のために用いられるコンピュータを指す語として
「ファクトリーオートメーションコンピュータ」,「FAコンピュー
タ」などの語が広く用いられていることは,以下のとおりである。
(a)日経ナビ2009のWebサイト(オムロン株式会社の説明に関
する部分,乙12)
・「日経コメント…FA(ファクトリー・オートメーション)コンピュ
ータやプログラマブルコントローラ等の各種制御システム機器…を通
じ,高度なシステムの提案で数多い実績をもつ。…」
(b)日本工業新聞平成7年5月11日記事(乙13)
・「山武ハネウエルは,オープン化対応に優れる米ISI社(ワシントン
州)製プロセスCIM(コンピューター統合生産)構築ソフトウエア日
本語版「CIMJ/21」を11日に発売する。…」
・「同製品はDCS(分散制御システム)やFA(ファクトリーオートメ
ーション)コンピュータからデータを取り込み,石油,化学など各種プ
ラントの監視,制御,解析をリアルタイムで行うソフト群。」
(c)化学工業日報平成6年12月8日記事(乙14)
・「熊谷組は7日,地下トンンネル工事用のシールド総合施工管理システ
ム『シールドマスター21』を開発し,横浜市鶴見区の下水道整備工事
…で実用化したと,発表した。ファクトリーオートメーション(FA)
コンピューターを活用し,シールド機の運転・管理にかかわるすべての
コントロールと監視を中央制御室から自動的に行えるというシステム。
…」
(d)日本工業新聞平成6年8月25日記事(乙15)
・「横河が機能拡張,値下げもFAコンピューター一新」
・「横河電機は,FA(ファクトリーオートメーション)コンピューター
『ユーマック500シリーズ』を一新,機能拡張を図った新モデルを2
4日発売した。…」
(e)日本経済新聞平成6年6月30日記事(乙16)
・「トヨタ自動車は7月1日,名古屋市西区の産業技術記念館で同社が開
発した工場内ネットワーク『ME−NET』の技術発表会を開く。ME
−NETは変換用のコンピューターを使わなくてもメーカーや機種の異
なるロボットやFA(ファクトリーオートメーション)コンピューター
をケーブル1本で簡単につなげられるもので,トヨタ以外にも利用が広
がっている。…」
(f)中央電子株式会社のWebサイト(乙17)
・「製品情報
CHUO55
32bitFAコンピュータ」
・「国際標準規格VMEbusを採用,拡張性,耐環境性と,保守性に優
れたコンパクト設計の本格的FAコンピュータです。」
・「幅広い産業機器の自動化,製造ラインのシステムかのニーズに対応す
る各種ネットワークをサポート。…計測・制御システやCIMにおける
FAコンピュータとして最適です。」
(g)日本電波株式会社のWebサイト(事業内容の紹介に関する部
分,乙18)
・「産業用コンピュータ

■平置き/壁掛け型FAコンピュータ
■ラックマウント型FAコンピュータ
■ミドルタワー型FAコンピュータ
■ミニタワー型FAコンピュータ
など」
(h)Webサイト「FactoryMartJapan/生産財情
報サイトファクトリー・マート・ジャパン」(乙19)
・「[製品名]FAコンピュータ

特長●耐震性に優れ,FA現場での電気的なノイズにも対応
●ラックなどの組み込みに適した筐体設計
●長期安定供給可能
●ユーザーカスタマイズに応じて,スペック変更可能」
(i)朝日興業株式会社のWebサイト(乙20)
・「弊社の営業品目のご紹介

情報系機器FAコンピュータ・パソコン・CAD/CAM」
(j)株式会社日野エンジニアリングのWebサイト(乙21)
・「業務案内
コンピューター事業

Pentium4搭載ISA/PCIFAコンピュータ(MultiFlexシリー
ズ)
MultiFlexシリーズPentium4モデルはISAスロットを3スロット及
びPCIスロットを4スロットを標準装備したコンピュータです。…」
(k)ナラサキ産業株式会社のWebサイト(乙22)
・「取扱商品一覧
電機及び機器
…・FAコンピュータ…」
(l)化学工業日報平成14年6月11日記事(乙25)
・「横河電機は,NEC製FAコンピュータ専用のPLC(プログラマブ
ル・ロジック・コントローラ)システム作成ソフトウエア『ADCAT
フォーFC98NX』を開発,このほど販売を開始した。…」
(m)日刊工業新聞平成13年4月2日記事(乙26)
・「東芝,FAコンピューターで攻勢―01年度1万台目指す」
・「東芝は産業用(FA)コンピューター分野で攻勢に出る。…」
・「FAコンピューター市場は,情報技術(IT)の進展に伴い,そのす
そ野が広がる半面,ユーザーニーズが多様化・複雑化し,単なる標準的
な製品の供給だけではビジネスが成り立たなくなっている。…」
(ウ)以上によれば,本願商標を構成する各部分中,「FactoryA
utomationComputer」は,工場自動化のために用い
られるコンピュータを意味するものとして取引者・需要者に認識される
ものであるのに対して,「Legacy」は「FactoryAut
omationComputer」との関係で特定の意味を有するも
のとして用いられるものではないから,本願商標は「Legacy」と
「FactoryAutomationComputer」に分離
して印象される。
そして,上記のとおり「FactoryAutomationC
omputer」は工場自動化のために用いられるコンピュータを意味
し,本願商標の指定商品である「コンピュータ」の種類の一つを指すも
のであって,自他商品識別機能を有しないものであるから,結局,本願
商標中,自他商品識別機能を有するのは「Legacy」部分のみであ
る。
オ(ア)これに対し原告は,「Factory」はコンピュータ関連分野にお
いて特定の意味を持った語(例えば,結城浩著「増補改訂版Java
言語で学ぶデザインパターン入門」48頁,平成17年8月31日ソフ
トバンクパブリッシング株式会社第5刷発行〔甲6〕における「Fac
toryクラス」,「FactoryMethodパターン」等)と
して使用されることを主張する。
しかし,「Factory」について原告が主張するような特定の意
味での使用がされることがあるとしても,上記のとおり「Factor
yAutomationComputer」が工場自動化のために
用いられるコンピュータを意味する語として広く用いられていることに
照らせば,指定商品であるコンピュータに使用された本願商標に接した
取引者・需要者は,「Factory」を原告が主張するような特定の
意味において認識するよりも,「FactoryAutomatio
nComputer」という一連の語を構成する一部分として認識す
るのが自然である。
(イ)また原告は,「Automation」は「Computer」と結
合して「AutomationComputer」という一連の語と
して使用されることを主張する。
しかし,原告が「AutomationComputer」の用例
として提出する甲9(アドバンテック株式会社の製品カタログ)には,
そのタイトル部分に「UNOEmbeddedAutomationComputers組込オー
トメーション・コンピュータ」と記載されているものの,同カタログの
見出し部分に「/ビル・オートメーション/ファクトリ・オートメー
ション/マシン・オートメーション」と記載されていることからする
と,タイトル部分に記載された「オートメーション・コンピュータ」な
る語は,「ファクトリ・オートメーション」を含む各種オートメーショ
ンに用いられるコンピュータを指す総称として用いられているものと理
解される。したがって,原告の上記主張は上記認定を左右するものでは
ない。
(ウ)また原告は,「Factory」「Automation」「Com
puter」のいずれかが含まれる商標が登録されていることをもって
これらの語がそれぞれ自他商品識別機能を果たしうることを主張する
が,原告主張の登録商標(甲14∼16)はいずれも本願商標とはその
前提を異にするものであるから,原告の上記主張は採用することができ
ない。
カしたがって,本願商標は,「Legacy」と「FactoryAu
tomationComputer」に分離して印象され,「Lega
cy」の部分が自他商品識別機能を有するものである。
そして,前記イのとおり,「Legacy」からは「遺産」,「遺物」
との観念が生じ,「レガシー」との称呼が生じる。
(3)引用商標の内容
引用商標は,前記のとおり,「LEGACY」と表記したものであり,
「遺産」,「遺物」との観念が生じるほか,「レガシー」の称呼が生じるも
のであり,指定商品も,本願商標にいう「コンピュータ」を含む「電子応用
機械器具及びその部品」(いずれも第9類)が含まれている。
(4)本願商標と引用商標の類否
ア以上の(2)及び(3)で述べたところに照らして,本願商標と引用商標とを
対比すると,本願商標と引用商標とは,観念において「遺産」,「遺物」
との観念を生じる点で共通し,称呼においても「レガシー」の称呼を生じ
る点で共通している。
また,外観においては,いずれもアルファベットの標準文字を同一書体
かつ同一の大きさで表記したものであり,本願商標が「Legacy」と
1文字目を大文字で,その他の文字を小文字で表記しているのに対して引
用商標は「LEGACY」と全体を大文字で表記している点においてのみ
異なるものであるが,このような違いが及ぼす印象は僅かなものであっ
て,外観上も近似した印象を与えるものといえる。
イこれに対し原告は,パソコン,スーパーコンピュータ,マイクロコンピ
ュータ等の取引の実情に照らせば,取引者・需要者が購入するに当たって
はその性能,サポート内容,メーカーの信頼性等について相当の注意を払
って購入するから,本願商標と引用商標について出所の混同が生じる可能
性はないと主張する。
しかし,上記のとおり,本願商標と引用商標は,大文字表記か小文字表
記かという外観上の僅かな違いを除き,殆ど同一といえるものであるか
ら,たとえ取引者・需要者が相当の注意を払って購入するとしても,なお
出所の混同を引き起こす可能性を否定できないものである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(5)以上のとおり本願商標は引用商標と類似するから,本願商標が商標法4条
1項11号に該当するとした審決の判断に誤りはない。
3結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

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