弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人諫山博の上告理由第一点について。
 勤務会社の従業員としての身分を保有しながら、もつぱらその会社の労働組合の
業務に従事するいわゆる在籍専従をなしうることが、憲法二八条の保障する勤労者
の団結権等に内在しあるいはそれから当然に派生する固有の権利であるとすること
ができないことは、当裁判所昭和三六年(オ)第一一三八号同四〇年七月一四日大
法廷判決(民集一九巻五号一一九八頁)の趣旨に照らして明らかであり、使用者が
従業員の在籍専従を認めるか否かは、その自由に委ねられているものと解するのが
相当である。原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法
はなく、論旨は採用することができない。
 上告代理人諫山博の上告理由第二点について。
 原審が認定したところによれば、被上告会社の臨時従業員には、三か月の雇用期
間の定めがあるほか、常用従業員に適用されるべき労働協約、就業規則の適用はな
く臨時従業員就業規則の適用をうけるところから、休職、停年、資格変更、昇格、
傷病の在籍容赦期間、貸付金、社宅等の制度がなく、有給休暇の与え方、昇給の方
法、退職金の内容が常用従業員とは異なり、就業時間中の組合活動のための離席手
続も恩恵として認められるにすぎなかつたというのであるから、被上告会社の臨時
従業員は、常用従業員と比較して、基本的な身分、待遇において大きな差異がある
ものと認められる。したがつて、両者の基本的同一性を前提とする所論違憲の主張
はその前提を欠く。論旨は採用することができない。
 上告代理人諫山博の上告理由第三点および同谷川宮太郎の上告理由第一点につい
て。
 所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程
にも所論の違法はない。すなわち、在籍専従の制度が憲法二八条の保障に含まれる
ものではなく、これを認めるか否かは使用者の自由に委ねられているものと解すべ
きであることは、前述のとおりであるから、労働協約九七条について原審のような
解釈をとつたとしてもなんら団結権を不当に侵害するものではない。また労働組合
法五条二項三号の規定は、組合の内部関係において、組合員の均等な取扱いをうけ
る権利を保障しようとするものであり、労働協約九七条は、使用者と労働組合との
間における臨時従業員の取扱いを定めたものであるから、右労働協約の条項につき
原審のような解釈をとつたとしても、なんら前記規定に違反することとなるもので
はない。また労働協約九七条の定めが民法九〇条に違反するものでないことも明ら
かである。論旨は、原判決を正解せず、独自の立場に立つてこれを非難するもので
あつて、すべて採用することができない。
 上告代理人諫山博の上告理由第四点および同谷川宮太郎の上告理由第二点につい
て。
 原審が確定した事実関係のもとにおいて、被上告人の上告人Aに対する雇用契約
の更新拒絶が権利濫用ないし不当労働行為にあたらないとした原審の判断は、正当
として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することが
できない。
 上告代理人諫山博の上告理由第五点について。
 所論の点に関する原審の判断は正当である。論旨は、ひつきよう、原判決を正解
せず、独自の見解に立つてこれを非難するものであつて、採用することができない。
 上告代理人諫山博の上告理由第六点および同谷川宮太郎の上告理由第四点につい
て。
 労働組合法一七条の規定により拡張適用される労働協約の範囲は、労働条件およ
び労働者の待遇について定めたいわゆる規範的部分にかぎられ、在籍専従に関する
労働協約の定めが規範的部分に属しないとした原審の判断は正当である。論旨は、
右法条に関する独自の解釈に立つものであつて、採用することができない。
 上告代理人諫山博の上告理由第七点および同谷川宮太郎の上告理由第三点につい
て。
 原審が確定した事実関係のもとにおいては、上告人Aの行動は、会社の承認を得
なくとも在籍専従をすることができるとの見解に立つて職場を離脱し組合の業務に
専従したものというべきであつて、上告人組合の要求貫徹のための手段として行な
われたものと解することはできない。したがつて、上告人Aの行動が上告人組合の
指令に基づくものであつたとしても、要求貫徹のための手段たる性格を欠くものと
して、これを争議行為と評価することはできない。これと結論を同じくする原審の
判断は、措辞適切を欠くが、結局正当として肯認することができる。上告人Aの行
動が争議行為にあたることを前提とする所論違憲の主張および労働組合法七条一号
違反の主張は、その前提を欠く。その他、原判決に所論の違法はなく、論旨はすべ
て採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岸       盛   一
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸   上   康   夫

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