弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告らは,原告に対し,連帯して6125万1000円及びこれに
対する平成X年X月X日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
2訴訟費用は被告らの負担とする。
3この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,原告の夫であるAが,被告Bの経営する理学療法士養成施
設であるCに入学後,同校のカリキュラムの一つとして,被告Dの経
営するEにおける実習を受けたところ,Eにおける実習指導担当者で
あるFからパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)を受ける
などしたことにより自殺したとして,原告が,被告Bに対しては不法
行為又は在学契約に係る債務不履行(いずれも安全配慮義務違反)に
基づき,被告Dに対しては使用者責任(民法715条1項)又は実習
生受入契約に係る債務不履行(いずれも安全配慮義務違反)に基づき,
連帯して,原告がAから相続(相続分は3分の2の割合)した死亡慰
謝料等合計の一部である6125万1000円及びこれに対する平成
X年X月X日(Aが死亡した日)から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1争いのない事実等
⑴当事者等
ア原告の関係者
Aは,昭和W年W月W日生まれの男性であり,平成X年X月X
日に自殺により死亡した者である(甲1,7,弁論の全趣旨)。
原告は,平成β年β月β日から平成X年X月X日までの間,A
と婚姻関係にあった者である(甲1)。
原告は,同日,Aの相続人として,Aの権利義務を3分の2の
割合で相続した(甲14の1~3)。
Gは,原告の実父であり,Aの義父である(甲1)。
イ被告Bの関係者
被告Bは,診療所の経営等を目的とする医療法人であり,遅く
とも平成20年4月頃からCを設置し,経営している(弁論の全
趣旨)。
Cは,理学療法士及び作業療法士法(以下「法」という。)1
1条1号所定の理学療法士養成施設である(乙16,弁論の全趣
旨)。
Cには,昼間部と夜間部があり,同校の学生はいずれかの部に
入学した上,3年間にわたり,理学療法士国家試験の受験資格の
取得のために必要な単位を取得していくこととなる(乙2,弁論
の全趣旨)。
Hは,Cの教務を統括する学科長である(乙16,証人H調書
1頁,弁論の全趣旨)。
Iは,平成21年4月頃から平成26年3月頃までの間,Cの
教員であって,他の教員の相談役である教務参与の立場にあり,
平成24年度にはAの実習担当教員でもあった者である(証人
I調書1頁,2頁,弁論の全趣旨)。
Jは,少なくとも平成23年4月頃から平成25年3月頃ま
での間,Cの教員であって,Aの平成23年度及び平成24年度
の担任教員であった者である(弁論の全趣旨。原告と被告Bとの
間では争いがない。)。
Kは,平成24年4月頃から平成26年3月頃までの間,Cの
教員であって,Aの平成25年度の担任教員(学生ごとに担当す
る教員が割り当てられる。)兼実習担当教員(実習施設ごとに担
当する教員が割り当てられる。)であった者である(証人K調書
1頁,46頁,弁論の全趣旨)。
ウ被告Dの関係者
被告Dは,診療所の経営等を目的とする医療法人であり,Eを
経営している(争いがない。)。
Eは,平成9年に大阪市L区に開院し,リハビリテーション科
や整形外科等を診療内容とする医療機関である(争いがない。)。
Mは,Eに勤務する理学療法士であり,Eのリハビリテーショ
ン部門を運営するリハビリ部長である(丙8,証人M調書1頁,
2頁,弁論の全趣旨)。
Fは,Cの卒業生であって,Eに勤務する理学療法士であり,
AのEにおける実習の指導担当者(以下「スーパーバイザー」と
いう。)であった者である(争いがない。)。
Nは,Eに勤務する理学療法士であり,CにおいてAと同級生
であった者である(弁論の全趣旨)。また,Nは,AのEにおけ
る実習の指導副担当者(以下「サブバイザー」という。)であっ
た(証人M調書7頁,8頁,証人F調書4頁,弁論の全趣旨)。
⑵理学療法士は,厚生労働大臣の免許を受けて,医師の指示の下に,
理学療法(身体に障害のある者に対し,主としてその基本的動作能
力の回復を図るため,治療体操その他の運動を行わせ,電気刺激,
マッサージ,温熱その他の物理的手段を加えることをいう。)を行う
ことを業とする者である(法2条3項)。
理学療法士になろうとする者は,理学療法士国家試験に合格し,
厚生労働大臣の免許を受けなければならない(法3条)。また,理学
療法士国家試験の受験資格を取得するためには,例えば高等学校を
卒業した者であれば,文部科学省令・厚生労働省令で定める基準に
適合するものとして,文部科学大臣が指定した学校又は都道府県知
事が指定した理学療法士養成施設において,3年以上理学療法士と
して必要な知識及び技能を修得する必要がある(法11条1号)。
⑶Aは,高等学校を卒業して社会人経験を経た後,平成22年4月
頃,Cの第二理学療法学科(3年制・夜間部)に入学し,その1年次
及び2年次のカリキュラムを問題なく修了した(甲88,乙1,弁
論の全趣旨。Cへの入学及びカリキュラムの修了については,原告
と被告Bとの間では争いがない。)。
⑷Cにおいては,3年次の臨床実習として9月頃から開始される第
Ⅲ期臨床総合実習及び11月頃から開始される第Ⅳ期臨床総合実習
の合計2回の臨床総合実習が予定されており,これらの実習の単位
の取得が卒業要件の一つとなっている(乙2,弁論の全趣旨。原告
と被告Bとの間では争いがない。)。
前記各臨床総合実習は,Cの学生が,同校の選定する受入先の病
院において,実際に患者への施術等を担当するなどしながら,同病
院のスーパーバイザーから理学療法士の技術等についての指導を受
けるものであり,その概要は以下のアからオまでのとおりである(乙
2,弁論の全趣旨)。
ア実習期間(平成25年度の場合)
第Ⅲ期平成25年9月2日から同年10月18日まで
第Ⅳ期同年11月4日から同年12月20日まで
イ実習時間
原則として午前8時30分から午後5時30分までであるが,
実際には,実習施設の病院又は施設に一任される。
ウ実習到達目標
障害構造に対応する治療的介入と効果の確認をする。
エ実習生の課題
実習日誌
観察した症例,検査・測定を行った症例,運動療法や物理療法
を行った症例,習得した知識・技術,指導者への質問,自身の反
省や感想等を各項目にまとめて記載した上,実習中の毎朝,スー
パーバイザーに提出し,指導を仰ぐものである。
症例日誌
担当した症例のうち症例報告会で発表するものについて,スー
パーバイザーの指導を参考にしつつ,発表資料として完成させて
いくものである。
症例報告会資料
実習終了後にCにおいて実施される症例報告会の資料であり,
実習中に担当した症例のうち一つをA3用紙1枚にまとめ,担任
教員へ提出するものである。
感想文
実習により習得したと思われる知識・技術を実習到達目標に照
らして自己評価し,反省を含めて感想をまとめた上,スーパーバ
イザーへの謝辞を記載し,スーパーバイザー及び担任教員へ提出
するものである。
オ実習生の欠席・遅刻・早退
無欠席,無遅刻及び無早退を原則とするが,やむを得ず欠席・遅
刻・早退をしなければならない場合は,次の点に留意する。
欠席又は遅刻をする場合は,始業時間までに実習施設に連絡
して了解を得ると同時に,C(実習担当教員)にも連絡し,その
理由等を説明する。また,早退についても,同様に連絡をし,了
解を得る。
なお,Cに対しては,登校の際に速やかに欠席届・遅刻届・早
退届を提出する。
欠席・遅刻・早退の管理は,実習施設に一任する。なお,遅刻・
早退は2回で欠席1日とし,無断の欠席・遅刻・早退は一切認め
ない。
無断欠席又は連絡不通となった場合は,原則として実習を中止
する。
全出席日数のうち,原則として10分の1を上回る欠席があ
れば,臨床総合実習における評価は「保留」となる。
⑸Aは,Cにおける3年次である平成24年9月3日,同校により
選定されたO病院において,第Ⅲ期臨床総合実習を開始した(弁論
の全趣旨。原告と被告Bとの間では争いがない。)。
しかし,Aは,当該実習期間中である同月20日の朝,自宅を出た
後に失踪し,同月21日まで行方不明の状態となり,同月22日午
前11時30分頃までの間,自宅に戻らなかった(以下「平成24年
の失踪事件」という。甲8,乙1,弁論の全趣旨。原告と被告Bとの
間では争いがない。)。
Cは,平成24年の失踪事件によってAが実習施設を無断で欠席
したことを理由に,Aの平成24年度の第Ⅲ期臨床総合実習を中止
とした。その結果,Aは,同年度の第Ⅲ期臨床総合実習の単位を取得
できなかった。
これにより,Aは,同年度までに第Ⅲ期臨床総合実習以外の全て
の単位を取得したものの,Cに留年せざるを得なくなり,平成25
年度において第Ⅲ期臨床総合実習の単位の取得を目指すこととなっ
た。(弁論の全趣旨。原告と被告Bとの間では争いがない。)
⑹Aは,留年したことにより,平成25年4月頃から同年8月頃ま
での間はCを休学し,同年8月下旬頃に復学してから同年10月末
頃までの間,臨床総合実習に備えるための指導を受けた後,同年1
1月頃から開始される実習(以下「本件実習」という。)において第
Ⅲ期臨床総合実習の単位の取得を目指すこととなった(乙3,証人
K調書4頁,5頁,弁論の全趣旨)。
Cは,同年6月26日,本件実習におけるAの実習施設として,E
を選定した(原告と被告Dとの間では,日付につき弁論の全趣旨,そ
の余は争いがない。原告と被告Bとの間では争いがない。)。
⑺Aは,同年11月5日,Eにおいて,本件実習を開始した(争い
がない。)。
Eは,本件実習に際し,Aに対する指導のため,Fをスーパーバイ
ザーに,Nをサブバイザーにそれぞれ選任した(弁論の全趣旨)。
⑻Fは,本件実習に際し,Aに対して,本件実習中に実習日誌(甲
16の1・2),症例日誌(甲15),症例レポート(甲17)及び症
例レポートのレジュメ(甲18)を作成することを指示した(弁論
の全趣旨。原告と被告Dとの間では争いがない。)。
⑼Aは,本件実習の期間中であるY年Y月Y日午後1時頃,実習施
設のEから外出したまま行方不明となった(争いがない。)。
Aは,X月X日午前1時頃,神戸市P区内の公園において,吊り橋
様の遊具の鉄柱にテントロープを掛けて首を吊って自殺した(甲7,
弁論の全趣旨)。
⑽Aは,自殺した際,以下の内容等が記載されたメモ帳(甲9,3
3。以下「本件遺書」という。)を所持していた(甲7,9,33,
弁論の全趣旨)。
「何から書いたらいいのかな。一年前のあの時,やらなかった事。
結局一年前と同じところに戻ってきた。一年間ずっと忘れられなか
った,周囲に助けられて生きてきたけど,最後はやっぱりこうなる
って思っていた。本当にもう無理。情けない自分とこれ以上向き合
えません。もう終らせたい。本当に自分勝手ですいません。Qさん
へ。本当に本当にありがとう。(中略)私は,周囲とうまくやってい
く事が苦手でした。」
2争点
⑴FのAに対する違法行為の存在
⑵Fの違法行為とAの自殺との間の相当因果関係
⑶被告Dの使用者責任
⑷被告Dの安全配慮義務違反
⑸被告Bの安全配慮義務違反
⑹被告Bの安全配慮義務違反とAの自殺との間の相当因果関係
⑺原告の損害
3争点に対する当事者の主張
⑴争点⑴(FのAに対する違法行為の存在)について
(原告の主張)
アFは,スーパーバイザーとして,実習生に対し,精神障害や過労
等の心身の不調をもたらすような過度の疲労や心理的負荷を与え
ないように十分配慮する義務があったにもかかわらず,これに違
反し,本件実習において,Aに対し,指導の域を超えたパワハラ行
為をした。
具体的なパワハラ行為は,以下のからまでのとおりである。
Aは,平成25年11月12日,担当患者に対し,Aが患者の
皮膚を楊子で軽く刺して刺激を入力し,当該患者が自らの感じ
た刺激の強さを数値に表して回答するという検査(以下「痛覚検
査」という。)を実施していた。
すると,Fは,痛覚検査を実施中のAに対し,同検査の中断を
指示した上,「何をしているのか。」と尋ねた。そのため,Aが痛
覚検査についての説明を始めたところ,Fは,Aの説明を途中で
遮って,「意味がないから中止。」と述べ,痛覚検査を中止させた。
その後,FがAに対して再度説明するように指示したため,A
が痛覚検査についての説明をしたところ,Fは,Aに対し,「そ
れならそう言えばいい。要点を伝えないと分からない。」と述べ
た。もっとも,痛覚検査が再開されることはなかった。
Aは,同月13日,前日である同月12日にFにより担当患者
に対する痛覚検査の中止を指示されてしまったため,症例日誌
に同患者についての記載をしていなかった。
すると,Fは,Aに対し,前記のとおり症例日誌に記載がない
ことを指摘した上,「これはボイコットをしているのと一緒。今
日はもう見せたくない。帰るか。」と帰宅を促した。
その後,AがFに対して謝罪したところ,Fは,Aに対し,「次
やったら終了。」と述べた。
Aは,同月15日,その前日である同月14日に担当患者がE
で受診しなかったため,担当患者について症例日誌に何も記載
しなかった。
すると,Fは,Aに対し,症例日誌に担当患者についての記載
がないことを指摘した上,「診ていなければ出さなくていいのか。」
と叱責した。Aが返答に窮していると,Fは,Aに対し,「無視
するのか。」と述べた。
その後,AがFに対して謝罪をしたにもかかわらず,Fは,A
に対し,「帰れ。」と強い口調で述べた。
その結果,Aは,同日午前8時頃,Eを出て,Kの電話による
指示に従い,Cへ登校した。
Fは,同月27日,Aに対し,10分後にEの隣にある接骨院
で受診する予定がある担当患者に対して同人とAがEの前の直
線道路を一緒に6分間歩くという内容の検査(以下「6分間歩行
検査」という。)を実施するよう指示した。
そこで,Aは6分間歩行検査を実施したものの,実際には,同
検査を終えてEに戻るまでに15分間程度かかってしまったた
め,前記接骨院のスタッフが周囲を探し回る事態となった。
Fは,自らがAに対して,時間もなく,スーパーバイザーの目
も届かない場所で行う6分間歩行検査を指示したにもかかわら
ず,Aに対し,「何してたんや?みんな探してたんやで。」と叱責
した上,「接骨院のスタッフも探し回ってくれてたから,一言謝
っとき。」と述べて,接骨院へ謝罪に行かせた。
Fは,Y月Y日,Aがスーパーバイザー等に対して担当患者に
ついての考察等を発表する場である症例発表の直前に,Aに対
し,発表資料である症例レジュメの加筆修正を具体的な説明や
指導のないまま指示した。
イ平成11年3月31日に厚生省が定めた理学療法士作業療法
士養成施設指導要領(甲71。以下「厚生省指導要領」という。)
は,「臨床実習については,1単位を45時間の実習をもって構
成する」と規定しているところ,これは,理学療法士養成施設に
おいて,学生の実習施設の病院等での実習時間とレポート等の
作成時間の合計(以下「学習時間」という。)が1週間当たりお
おむね45時間以内でなければならないことを意味している。
したがって,Fには,本件実習に係るスーパーバイザーとして,
厚生省指導要領(甲71)を把握した上で,Aの学習時間が1週
間当たりおおむね45時間以内となるよう配慮すべき義務があ
った。
にもかかわらず,Fは,Aがレポート等の
作成のために1週間当たり25時間程度を費やしており,学習
時間が1週間当たり60時間以上となっていることについて,
何ら注意を払わずに,これを放置した。
(被告Dの主張)
ア原告の主張アは,否認する。
原告の主張する注意義務は特定されておらず,主張自体失当で
ある。
また,そもそも教育の本質として強制的・懲戒的側面があること
は否定できないため,スーパーバイザーには実習生に対して一切
の疲労や心理的負荷を与えてはならない義務があるとするのは不
合理である。仮に,疲労や心理的負荷の程度が問題だとすれば,そ
の基準が曖昧である以上,注意義務違反を認めることはできない。
さらに,Fは,Aに対するパワハ
ラ行為をしていない。
aFがAに対して検査の中断を指示したこと及び同検査が再
開されなかったことは認め,その余は否認する。
「実習の顚末」と題する書面(甲6。以下「顚末書」という。)
の「説明していたのですが」との記載は,説明が検査開始前に
されていることを意味するため,FがAの説明を遮った旨の原
告の主張と整合しない。
bFは,検査開始前に,Aから,担当患者の足をブラシでこす
り,その反応を見て,同人の微妙な感覚を確認するという検査
(以下「触覚検査」という。)を実施する旨の報告を受けた。
しかし,Aは担当患者の足を約15分間にわたりブラシで強く
こするという不適切な態様で触覚検査を実施したため,担当患
者はそれに不快感を示していた。そこで,Fは,Aに対し,「何
をしているの。そんなやり方では意味がないから。」と述べて,
触覚検査を中断させた。
その後,Fは,Aに対し,触覚検査の内容を再び説明させた。
aAが症例日誌に何も記載していなかったこと,FがAに対し
て症例日誌に記載がないことを指摘したこと及びAが謝罪し
たことは認め,その余は否認する。
bFは,本件実習の開始当初から,Aに対し,毎日必ず症例日
誌に担当患者に関する考察等を記載するように指示していた。
それにもかかわらず,Aが症例日誌に何も記載していなかった
ため,FがAに対して「なんで何も書いてないの。」と尋ねた
ところ,Aは「検査が中止になったので書く必要がないと思い
ました。」と答えるばかりであった。そのため,Fは,Aに対
し,考えることを放棄したことがボイコットに当たるため,学
校に帰って検査方法を再考するように求める趣旨で「これはボ
イコットしているのと同じやで。今日は帰るか。ちょっと考え
てみて。」と注意し,頭を冷やして考えることを促した。
その後,冷静になったAは,自らの行動を反省し,Fに対し
て謝罪をした。Fは,その際,Aに対し,同じ担当患者に対し
て再び不適切な検査がされた場合には担当患者が実習に協力
したくないと言い出すため,更なる不適切な検査はやめてもら
うとの趣旨で,「次やったらもう止めてもらう。」と述べた。
aAが症例日誌に何も記載していなかったこと及びAがEを
出て行ったことは認め,その余は否認する。
顚末書(甲6)は,Aが自己弁護のために作成した書面であ
るから,その内容を信用することはできない。
また,Fが「帰れ。」と述べたとの点については,Fが焦っ
ていたことと整合しない。
bFは,本件実習の開始当初から,Aに対し,毎日必ず症例日
誌に担当患者に関する考察等を記載するように指示していた。
それにもかかわらず,Aが症例日誌に何も記載しなかったため,
Fは,Aに対し,「診ていなければ担当患者の記載はなくても
いいの?」,「どう思う?」などと何度か聞いた。しかし,Aか
ら返答がなかったため,Fは,自分の声が聞こえていないのか
もしれないと思い,「こっちの声聞こえてる?こっちは返答待
ってるんやけど無視してるの?」と確認した。
すると,Aが「はい,こちらの認識不足でした。いったん学
校に帰って作ってきます。」と挑戦的に答えたため,Fは,む
っとして「じゃ,帰り。」と述べた。その直後,Aは,実習用
の白衣を着たままEを出て行った。
aFがAに対して6分間歩行検査の実施を指示したこと及び
Aと担当患者が6分間歩行検査の開始から15分後にEに戻
って来たことは認め,その余は否認する。
bAは,毎日のように担当患者を診ており,同人が毎日定時に
接骨院に行くことを知っていたため,平成25年11月27日
も同人が6分間歩行検査を開始する10分後に接骨院で受診
する予定があることを知っていた。それにもかかわらず,Aは,
6分間歩行検査の開始後10分を経過してもEに戻って来な
かったため,待機していた接骨院のスタッフ及びFが付近を捜
すという事態になった。
その後,Fは,戻って来たAに対し,「何してたんや?みん
な探してたんやで。」と尋ねたところ,Aが「SpO2の測定
に手間取ってしまいました。すいません。」と素直に謝ったた
め,「接骨院のスタッフも探し回ってくれてたから,一言謝っ
とき。」と指示した。
cAが時間を超えて検査を実施した結果,接骨院のスタッフに
余計な手間を掛けさせたのであるから,同スタッフに対して謝
罪するのは社会人として当然の行為であり,これを指示したF
の行為が社会通念に反するとはいえない。
aFがAに対して症例レジュメの加筆修正を指示したことは
認めるが,その余は否認する。
bFは,Aに対し,症例レジュメの具体的な改善点として,①
空白箇所が多いため,検査内容や評価内容をより多く書くこと,
②歩行観察の内容が少なく,なぜ担当患者にとって歩行が重要
なのかが説明できていないこと,③歩行の持久性について客観
性が乏しく,検査内容が活かされていないことを指摘した。
イ原告の主張イは,否認する。
そもそも厚生省指導要領(甲71)は,臨床実習時間の一単位
の最低時間を定めたものにすぎず,実習生のレポート等の作成
時間を含めた学習時間を管理すべきことを定めたものではない。
また,スーパーバイザーについて,実習生の学習時間を一括管
理し,実習生に配慮すべき義務があるとするのは不合理である。
Fは,Aに対し,睡眠時間を確保することやレポート等が未完
成であっても口頭で補えば足りること等を伝えた上,実習課題
等を減らし,1日2回行うこととなっていたフィードバックも
端的なものとするなどの配慮をした。
(被告Bの主張)
原告の主張は,知らない。
⑵争点⑵(Fの違法行為とAの自殺との間の相当因果関係)につい

(原告の主張)
アFのパワハラ行為等(前記⑴の原告の主張)により,Aの精神状
態は悪化し,平成25年11月15日頃には,生気がなく,ひどく
落ち込んでいる様子になるなど,Aに抑うつ症状が認められるよ
うになり,更に自殺する前日(Y月Y日)頃までには,うつ病を発
症していたと推認される。そして,Aは,前記うつ病の発症に伴う
自殺衝動により,自殺に至った。
イ人が,長期の慢性的疲労や睡眠不足,ストレス等が過度に蓄積
した場合,精神障害を発症して自殺に至る危険があることは,周
知の事実である。そうすると,精神障害を発症させ得る長期の慢
性的疲労や睡眠不足,ストレス等の過重な負荷を伴う実習である
ことについての予見可能性があれば,相当因果関係があるという
べきである。
F及び被告Dは,本件実習が開始されるまでに,①理学療法士養
成機関における臨床実習が一般的に学生にとって負荷が高いもの
であること,②Aの前年度の第Ⅲ期臨床総合実習はAが行方不明
になったことによって中止されたこと,③Aは疲労が蓄積すると
意識が飛ぶことがあること,④Aは社会人経験があり,実習生とし
ては年齢も高く,留年をしていたため,二度と失敗できないという
追い込まれた状況であったことを認識していた。
これらの事情によると,F及び被告Dは,本件実習がAにとって
精神障害を発症させ得る長期の慢性的疲労や睡眠不足,ストレス
等の過重な負荷を伴う実習であることについての予見可能性があ
った。
したがって,Fのパワハラ行為等とAの自殺との間には,相当因
果関係がある。
(被告Dの主張)
ア原告の主張アは,否認する。
Aの自殺の原因は不明というほかない。
イ原告の主張イのうち,Fが,Kから,Aの前年度の第Ⅲ期臨床総
合実習について,Aが行方不明になったため中止になったことを
聞いていたこと及びAには社会人経験があり,実習生としては年
齢も高く,留年をしていたことは認め,その余は否認又は争う。
予見可能性は結果に対するものであるから,本件における予見
の対象は,Aが自殺を発症するような精神的疾患にり患していた
か又はAの自殺を危惧させるような具体的な事情があったかであ
る。
そして,本件実習当時,原告及びGはAが自殺するとは考えてお
らず,FとAの人間関係も良好であって,Aには抑うつ症状にあっ
たと疑わせるような特異な言動もなかったのであるから,F及び
被告Dには予見可能性がなかったといえる。
(被告Bの主張)
原告の主張は,否認する。
⑶争点⑶(被告Dの使用者責任)について
(原告の主張)
FのAに対するパワハラ行為等(前記⑴の原告の主張)は,被告D
が本件実習を実施するに際して行われた不法行為といえるから,被
告Dは,Aに対し,使用者責任に基づく損害賠償責任を負う。
(被告Dの主張)
原告の主張は,否認又は争う。
⑷争点⑷(被告Dの安全配慮義務違反)について
(原告の主張)
ア被告Dは,被告Bとの間でCの実習生を受け入れる旨の契約を
したことにより,実習実施機関として実習生に対する指揮命令関
係を有するに至ったといえるから,実習生に対し,スーパーバイ
ザーによるパワハラを防止し,実習生の心身の不調をもたらすよ
うな過度の疲労や心理的負荷を与えないように十分配慮すべき安
全配慮義務を負うといえる。
したがって,被告Dは,実習生であるAに対し,前記安全配慮義
務を負っていた。
イ被告Dは,FのAに対するパワハラ行為等(前記⑴の原告の主
張)を放置したほか,Eにおいて実習生が休憩できる場所や設備
を設置しなかった。
したがって,被告Dは,Aに対し,前記アの安全配慮義務違反に
係る債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。
(被告Dの主張)
ア原告の主張アのうち,被告Dと被告Bとの間の契約の存在は認
め,その余は否認又は争う。
原告の主張する安全配慮義務の内容は,極めて抽象的であって,
その具体的内容が特定されていない。
イ原告の主張イは,否認又は争う。
Fは,Aに対し,疲れた場合には仮眠するよう指導しており,実
際に,Aは本件実習中に仮眠を取っていた。
⑸争点⑸(被告Bの安全配慮義務違反)について
(原告の主張)
ア安全配慮義務の存在
被告Bは,Aとの間でCに係る在学契約を締結していたことか
ら,Aまでの安全配慮義務を負っていた。
平成25年度の担任教員であるKに対し,Aの平成24年の
失踪事件の原因が心理的負荷であることを適切に引き継ぐべき
義務
Aの平成24年の失踪事件を踏まえて,Aの平成25年度の
実習施設及び実習時期について適切な選択を行うべき義務
本件実習の開始に先立ち,Aの実習施設のEに対し,実習生の
Aについて,その既往症,精神疾患にり患しやすい可能性がある
こと及び実習の際に特に配慮すべき事項を伝えるべき義務
本件実習中,実習が適正・安全に進められるように実習状況を
適宜確認し,Aに対して過度の心理的負荷が掛かることのない
ように,Aへの適切な指導及び助言をするとともに,実習施設の
Eに対して必要な申入れや環境調整を行うべき義務(特に,理学
療法士養成施設として,厚生省指導要領(甲71)を遵守し,A
の本件実習中の学習時間が1週間当たりおおむね45時間以内
となるよう配慮すべき義務)
イ予見可能性
人が,長期の慢性的疲労や睡眠不足,ストレス等が過度に蓄積
した場合,精神障害を発症して自殺に至る危険があることは,周
知の事実である。
そうすると,安全配慮義務違反を問う前提としての予見可能性
は,精神障害を発症させるおそれのある長期の慢性的疲労や睡眠
不足,ストレス等の過重な負荷を伴う実習であることについての
予見可能性で足りるというべきである。
被告Bについては,①理学療法士養成機関における臨床実習
が一般的に学生にとって負荷が高いものであることを認識して
いたこと,②平成24年9月頃,Aから,平成24年の失踪事件
に関する心理的負荷の状況についての事情説明書(甲8)を受領
していたこと,③同年10月31日頃,Aが平成24年の失踪事
件の後に受診したTクリニックの医師から,平成24年の失踪
事件について,過労状態となったためにZが生じた疑いがある
旨の記載のある診療情報提供書(甲4,乙1・6頁。以下「本件
診療情報提供書」という。)を受領していたこと,④平成20年
頃,Cにおいて,実習中の学生が自殺する事件を経験していたこ
と,⑤Aが,前記④の自殺者と同様に,社会人経験があり,実習
生としては年齢も高く,留年をしていたため,二度と失敗できな
いという追い込まれた状況であったことを認識していたことと
いった事情がある。
これらの事情からすると,被告Bは,本件実習が,Aにとって,
精神障害を発症させるおそれのある長期の慢性的疲労や睡眠不
足,ストレス等の過重な負荷を伴うものであることについて予見
できた。
ウ安全配慮義務違反
被告Bは,以下のまでのとおり,前記アの各安全配慮義
務に違反した。
Kへの引継ぎ
Aの平成24年度の担任教員であるJは,平成25年4月頃,
平成25年度の担任教員であるKに対し,「あとは実習の方をよ
ろしくね。」と述べただけで,平成24年の失踪事件に関するA
の精神状態やAに対する心理的負荷が高まった原因(①担当患者
の評価に悩んでいたこと,②スーパーバイザーの指導内容が分か
りにくかったこと,③睡眠時間が不十分であったこと,④実習生
としては年齢が高いため,二度と失敗できないという追い込まれ
た状況であったこと,⑤迷惑を掛けてしまうという気持ちからス
ーパーバイザーやCの教員に相談できなかったこと)等のAに関
する具体的事情の引継ぎを行わなかった。
実習施設及び実習時期の選定等
a被告Bは,本件実習におけるAの実習施設を選定する前に,
Aとの間で,Aの精神状態等を確認するための面談を実施しな
かった。
b被告Bは,Aの本件実習の開始時期を平成25年9月頃では
なく,同年11月頃と選定した。
本件実習の開始時期を同年9月頃とすれば,本件実習中が何
らかの原因で中止されたとしても,同年11月頃から再度実習
を実施するなどの柔軟な対応が可能であるため,Aに対する心
理的負荷も減っていたはずである。
実習開始前の環境調整等
a被告Bは,本件実習の開始前に,Eに対し,Aの既往症やA
が精神疾患にり患しやすい体質である可能性があることを伝
えなかった。
b被告Bの作成した平成25年度臨床総合実習指導要項(乙2。
以下「実習指導要項」という。)には,臨床実習の前に,Cに
おいて臨床実習指導者会議を開催し,実習施設のスーパーバイ
ザーに対する事前説明(実習生の紹介や実習指導要項の説明等)
を行うこと及びスーパーバイザーが臨床実習指導者会議に参
加しなかった場合には,Cの実習担当教員が実習施設を訪問し,
同様の説明を行うことが規定されており,被告Bは実際に同規
定どおりの運用をしている旨表明している(甲61・3頁)。
しかし,Eの関係者が臨床実習指導者会議に参加しなかった
にもかかわらず,Aの実習担当教員であるKは,本件実習の開
始前にEを訪問せず,EのスーパーバイザーであるFに対して
事前の説明も行わなかった。
実習期間中の環境調整等
a被告Bは,平成20年9月頃,「実習チューターの教育管理
12カ条」(甲47の2・21頁。以下「チューター12カ条」
という。)を作成し,その第8条において「教員は実習地を必
要に応じて訪問しまたは学生を適切な時期に登校させ問題発
生を未然に防ぐ努力をすること。」と定めた。
しかし,Aの実習担当教員であるKは,本件実習中,Eを一
度も訪問せず,Aとの面談も,AがFから帰るように言われて
Eを出た後にCに登校した平成25年11月15日の1回し
か実施しなかった。
b被告Bは,チューター12カ条の第6条において「教員はス
ーパーバイザーとの連絡を綿密にして信頼関係を構築するこ
と。」と定めた。
しかし,Aの実習担当教員であるKは,本件実習中,Fとの
面談を実施しなかった
c被告Bは,厚生省指導要領(甲71)に違反し,Aがレポー
ト等の作成に毎日膨大な時間を費やしていることを認識しつ
つ,これを放置し,Aに対して睡眠時間を十分に取るよう指導
することやEに対してレポート等の負担が過度にならないよ
う是正の申入れをすることを怠った。
Aへの説明
被告Bは,本件実習の開始に当たり,Aに対し,スーパーバイ
ザーの役割について,実習生に対して精神的苦痛を与えるための
者ではなく,臨床実習の合否の決定権限も有していないことを説
明しなかった。
Kの業務の過重性
被告Bは,本件実習当時,Aの担任教員兼実習担当教員である
Kに対して過重な業務を課し,KによるAに対する適切な指導及
び助言ができないような状況にした。
すなわち,被告Bは,担任教員としての経験が1年間にすぎな
いKを,近畿厚生局健康福祉部指導養成課の指導(甲64)に違
反して,夜間部の定員(40名)を超える合計48名の学生の担
任教員に任命した。また,被告Bは,理学療法士作業療法士学校
養成施設指定規則2条4号が理学療法士である専任教員を6名
以上確保しなければならない旨規定していたにもかかわらず,こ
れに違反し,Cの夜間部の専任教員を5名しか有していなかった。
(被告Bの主張)
ア安全配慮義務の存在
原告の主張アのうち,被告BとAとの間に在学契約が締結され
ていたことは認め,その余は争う。
は,争う。
原告の主張する義務の内容は不明確である。
Aが本件実習当時39歳の社会人経験者であったこと,本件実
習前にはAに異常な言動が見られなかったこと,本件診療情報提
供書には過労状態という肉体的負荷に関する情報しか記載され
ていないことからすると,被告Bには,心理的負荷に関する引継
ぎ義務はない。
は,争う。
原告の主張する義務の内容は不明確である。
Cのカリキュラムの決定については,被告Bの広範な裁量に委
ねられるべきであるから,実習施設や実習時期の決定についての
義務は存在しない。
原告の主張アは,争う。
本件診療情報提供書には過労状態という肉体的負荷に関する
情報しか記載されていないこと,Aが平成24年度の第Ⅳ期臨床
総合実習を問題なく終えているため本件実習当時は病的な精神
状態ではなかったといえること,仮にAが病的な精神状態であっ
たとしても,本件診療情報提供書等に記載された情報は個人のプ
ライバシーに関わる情報であるから第三者に開示すべきもので
はないことからすると,被告Bには,本件実習前の情報開示に関
する安全配慮義務はない。
原告の主張アは,争う。
原告の主張する義務の内容は不明確である。
また,臨床実習において全く心理的負荷が掛からないようにす
るのは不可能である。
イ予見可能性
,争う。
安全配慮義務違反を問う前提として,Aの自殺という結果に対
する予見可能性が必要であるから,予見の対象はAの自殺である。
Bが,平成24年9月頃にAから
事情説明書(甲8)を受領したこと,同年10月31日頃にTク
リニックの医師から本件診療情報提供書を受領したこと及び平
成20年頃にCの学生が実習中に自殺する事件を経験したこと
は認め,その余は否認又は争う。
以下のaからfまでの事情からすると,Aが自殺に至るような
事情やAの自殺の兆候はなかったといえるから,被告BはAの自
殺を予見し得なかった。
a本件診療情報提供書には,Aについて「現在の負荷が減った
状態では,病的と判断される精神状態は認められません。」と
記載されていた。
bAは,平成24年度の第Ⅳ期臨床総合実習を問題なく修了し
た。
c本件実習の開始前には,Aに異常な言動がなかった。
dAとFとの関係は,平成25年11月15日にKがFに対し
て電話を掛けた後に改善された。
eAは,同月27日及び同月28日,Kに対し,本件実習の課
題についての相談をしたものの,Eにおいていじめを受けてい
るなどの相談はしていない。
fAと同居する原告は,Aが自殺するまで,Aが自殺してしま
うかもしれないとの危惧を有していなかった。
ウ安全配慮義務違反
原告の主張ウは,争う。
原告の主張は,否認する。
Kは,平成24年の失踪事件当時から,Aの平成24年度の実
習の状況をおおむね把握していた。また,Jは,平成25年4月
頃,Kに対し,平成24年の失踪事件から平成24年度の第Ⅳ期
臨床総合実習終了までの状況を報告した上,本件診療情報提供書,
事情説明書(甲8),始末書(甲12)及び誓約書(甲13)を
確認させて,Aに対する心理的負荷が高まった原因についても引
き継いだ。
原告の主張は,認める。
Aについては,平成24年度の第Ⅳ期臨床総合実習を問題なく
終え,平成25年4月及び6月に精神的な問題を抱えている様子
も見受けられなかったのであるから,本件実習前のAの精神状態
には何ら問題がなかったといえる。また,被告Bは,Aの実習施
設を選定した時点においては,Eが不適切な実習施設であるとの
認識を有していなかった。
さらに,本件実習の実習時期を同年11月頃と選定したのは,
現役生との公平を図った上,9月から復学する留年生のために臨
床実習の準備のための指導を行っていたからである。
そうすると,Aとの面談を実施しなかったとしても,被告Bに
は,Aの平成25年度の実習施設及び実習時期の決定について安
全配慮義務違反があったとはいえない。
原告の主張は,認める。
なお,Aの既往症等を連絡しなかったのは,本件診療情報提
供書には過労状態という肉体的負荷に関する情報しか記載さ
れておらず,Aが平成24年度の第Ⅳ期臨床総合実習を問題な
く終えていること等から精神的問題がなかったといえる上,仮
にAに精神的問題があったとしても個人のプライバシーに関
わる事情であるから第三者に開示すべきものではないからで
ある。
b原告の主張は,否認する。
そもそも,実習指導要項(乙2)は,原則を定めたものにす
ぎず,実習前に必ず訪問しなければならない旨を定めたもので
はない。
また,Kは,本件実習の開始前に,Fに対し,電話を掛けて
打合せを実施し,Aが平成24年度の第Ⅲ期臨床総合実習の途
中で失踪したことや優秀ではあるが頑張りすぎる性格である
ことを伝えた上,様子を見ながら指導して欲しい旨を依頼した。
原告の主張のうち,Kが本件実習中にEを一度も訪
問していないこと及びKとAとの面談は平成25年11月1
5日の1回しか実施されていないことは認め,その余は否認
する。
そもそも,チューター12カ条は努力指針にすぎず,被告B
は,平成25年当時,実習担当教員が少なくとも1回は実習地
訪問をすることとしていたにすぎない。また,Kは,本件実習
の開始前後を通じてAからのメールや電話による相談に応じ,
同年11月15日にはAとの面談を実施し,Fに対して電話を
掛けてAからの要望を伝えた上,同月22日にもFへ電話を掛
けてAに特に問題がないことを確認し,同年12月4日にEを
訪問することを予定していた。
これらの事情からすると,KがEを訪問していないことやA
との面談回数が1回であったことは,安全配慮義務違反に当た
らない。
b原告の主張のうち,Kが本件実習中にFとの面談を実
施しなかったことは認め,その余は否認する。
そもそも,チューター12カ条は努力指針にすぎない。また,
Kは,本件実習の開始前後を通じてAからのメールや電話によ
る相談に応じ,同年11月15日にはAとの面談を実施し,F
に対して電話を掛けてAからの要望を伝えた上,同月22日に
もFへ電話を掛けてAに特に問題がないことを確認し,同年1
2月4日にEを訪問することを予定していた。
これらの事情からすると,Kが本件実習中にFとの面談を実
施しなかったことは,被告Bにとって,安全配慮義務違反に当
たらない。
c原告の主張は,否認する。
原告の主張は,否認する。
スーパーバイザーが精神的苦痛を与える存在ではないこと及
び合否の決定権限を有していないことは,Cの学生にも配布され
る実習指導要項(乙2)にも明記された周知の事実である。
原告の主張は,否認する。
Cでは,担任教員及びその他の教員の合計10名程度の教員が
分担して学生を担当していた。また,Kが実習担当教員として担
当していたのは,Eのほか5施設,Aのほか6名(うち2名は同
一の実習施設で実習していた。)にすぎなかった。
⑹争点⑹(被告Bの安全配慮義務違反とAの自殺との間の相当因果
関係)について
(原告の主張)
ア被告Bの安全配慮義務違反により,Aの精神状態は悪化し,平
成25年11月15日頃には,生気がなく,ひどく落ち込んでい
る様子になるなど,Aに抑うつ症状が認められるようになり,更
に自殺する前日(Y月Y日)頃までには,うつ病を発症していたと
推認される。そして,Aは,前記うつ病の発症に伴う自殺衝動によ
り,自殺に至った。
イまた,前記⑸原告の主張イのとおり,被告Bには,本件実習が,
Aにとって,精神障害を発症させるおそれのある長期の慢性的疲
労や睡眠不足,ストレス等の過重な負荷を伴うものであることに
ついての予見可能性があった。
したがって,被告Bの安全配慮義務違反行為とAの自殺との間
には相当因果関係が認められる。
(被告Bの主張)
ア原告の主張アは,否認する。
①Aが,平成25年11月16日(Kとの面談の翌日)からY
月Y日(自殺する前日)までの間,何ら問題なく本件実習を実施し
ていること,②EにおけるFのパワハラ行為等があったとはいえ
ないこと,③本件遺書には臨床実習の課題がうまくいかない旨が
記載されていたこと,④Aが,同日に予定されていた症例発表の準
備を進めていたにもかかわらず,症例発表のプレッシャーにより,
Fに対し,パソコンと発表データを忘れた旨の嘘を述べてEから
出て行き,その後に自殺したといえること,⑤Aが原告を含む家族
の援助をプレッシャーに感じていたことからすると,Aの自殺の
原因は,Aの独自の性格傾向(年齢相当の問題解決能力の欠如)で
ある。
イ原告の主張イは,否認する。
前記⑸被告Bの主張イのとおり,被告Bには,Aの自殺について
の予見可能性がなかったのであるから,被告Bの行為とAの自殺
との間の相当因果関係は認められない。
⑺争点⑺(原告の損害)について
(原告の主張)
アAは,被告らの行為により,以下の損害を被った。
死亡による慰謝料2800万円
死亡による逸失利益5402万5000円
a基礎収入は,平成25年度賃金センサス産業計・企業規模計・
男性労働者・学歴計35歳~39歳に基づき,518万050
0円が相当である。
就労可能年数は,Aが死亡当時39歳であったことから,2
8年(ライプニッツ係数=14.8981)である。
生活費控除は,30%とすべきである。
したがって,死亡による逸失利益の計算式は,以下のとおり
である。
518万0500円×14.8981×(1-0.3)=5
402万5724円(小数点以下切捨て)
b原告は,前記aで算出された5402万5724円のうちの
一部である5402万5000円(千円未満切捨て)を損害と
して主張する。
葬儀費用150万円
弁護士費用835万2000円
までの合計9187万7000円
イ原告は,Aの死亡により,Aの前記損害に係る債権を相続した。
原告の相続分は3分の2であるから,原告の損害額は6125万
1333円であるところ,原告はその一部である6125万10
00円を損害として主張する。
(被告Dの主張)
ア原告の主張は,否認する。
イAが自殺するに至ったのは,Aが本件実習を頑張り過ぎたこと
及びAの被害妄想的性格が原因であるから,大幅な過失相殺又は
素因減額がされるべきである。
(被告Bの主張)
ア原告の主張は,否認する。
イAが自殺するに至ったのは,Aが幼少期に発症したαが原因で
あるから,素因減額(民法418条類推適用)がされるべきであ
る。
第3争点に対する判断
1認定事実
前記争いのない事実等,証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事
実が認定できる(認定根拠は各事実の末尾に記載している。)。
⑴厚生省(当時)は,平成11年3月31日,厚生省指導要領(甲7
1)を定め,その「5授業に関する事項」の項において,「臨床実
習については,1単位を45時間の実習をもって構成することとし,
実習時間の3分の2以上は病院又は診療所において行うこと。」と規
定した(甲71)。
なお,前記規定における「1単位」は,1週間で取得することが前
提とされている(弁論の全趣旨)。
⑵Cにおいては,平成20年9月29日,臨床総合実習中の学生(F
の同級生)が実習施設のスーパーバイザーから過度に心理的重圧を
与えるような発言をされたこと等を原因として失踪し,自殺した事
件(以下「平成20年の自殺事件」という。)が発生した(甲11,
56,57,弁論の全趣旨。原告と被告Bとの間では争いがない。)。
なお,平成20年の自殺事件については,自殺した学生の両親が
被告B及び実習施設の経営者に対して損害賠償請求訴訟を提起し,
平成26年4月28日に神戸地方裁判所の第一審判決が,平成27
年2月17日に大阪高等裁判所の控訴審判決がそれぞれ言い渡され
た(甲56,57)。
⑶被告Bは,平成20年9月頃,Cにおいて,チューター12カ条
を作成し,その第8条において,「教員は実習地を必要に応じて訪問
しまたは学生を適切な時期に登校させ問題発生を未然に防ぐ努力を
すること。」と定めた(甲47の2・21頁,甲61,弁論の全趣旨)。
⑷被告Bは,平成22年7月頃,近畿厚生局健康福祉部指導養成課
から,一部の学年において退学者を見込んで定員を超過して入学さ
せている状況(1年生(夜間部)定員40名のところ,実際には学生
数44名であること等)について,定員遵守に努め,退学者を見込
んで定員を超過して入学させることは翌年度から絶対に行ってはな
らない旨の指導(以下「近畿厚生局の指導」という。)を受けた(甲
64,証人H調書22頁)。
⑸被告Dは,同年頃から,被告Bの依頼に応じ,Cの学生をEにお
いて実習生として受け入れていた(時期につき,証人M調書2頁,
弁論の全趣旨。その余は,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では
争いがない。)。
そして,被告Dは,平成24年3月頃,被告Bとの間で,平成25
年度についてもCの学生をEにおいて実習生として受け入れる旨の
合意をし,平成25年8月26日頃にも改めて前記合意を確認した
(乙10~12,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では争いがな
い。)。
⑹Aは,Cの教員から,熱心に勉強するまじめな性格である上,高
い能力を有しており,成績はとても優秀であって実習の準備や国家
試験の対策について最も問題のない生徒の一人であると評価されて
いた(乙3,証人K調書30頁,証人H調書17頁,18頁,証人I
調書1頁,弁論の全趣旨)。
⑺Aは,平成24年9月24日,平成24年の失踪事件の状況等に
ついて,おおむね以下の内容が記載された事情説明書(甲8)を作
成し,同月頃,Cに対し,これを提出した(甲8,弁論の全趣旨。原
告と被告Bとの間では争いがない。)。
ア謝罪の言葉
失踪したことにより,実習施設やCの関係者ら及び家族に対し
て迷惑を掛けたことを反省し,謝罪する。
イ失踪に至る経緯
同月3日から同月19日までの間,担当患者についてのレポー
トやレジュメを作成したところ,スーパーバイザーからその内容
に改善すべき点があることを指摘されたため,前記レポート等を
書き直すなどしたものの,実質的に改善することができずにいた。
失踪前日である同月19日の夜も,帰宅して3時間の仮眠を取っ
た後,前記レポート等の改善をしようと検討していたが,結局,一
行も書けないまま,同月20日の朝を迎えてしまった。
同日朝,自宅を出て実習施設へ向かおうとしたものの,自宅近く
の公園で,レポート等が全くできなかったことを考え込んでしま
い,気が付くと実習施設での実習開始時間に間に合わない時間に
なってしまっていた。その頃からの記憶はあいまいになっている。
一度自宅に戻った後,家族にはもう顔を合わせられないなどと考
え,気が付くとタクシーに乗っていた。自宅に携帯電話を忘れたこ
と等から再び自宅に戻った後,大阪を離れなければと思うように
なり,電車に乗った。降りた駅でネットカフェやホテルに入り,一
日中ぼんやりとしていた。
同月21日は,朝から目的もなく外出していたところ,携帯電話
に警察から家族が心配しているのですぐに連絡するようにとの連
絡が来ていたことに気が付き,家族に連絡した。家族には同月22
日の昼までには必ず帰ることを約束した上,同月21日もホテル
に宿泊した。
同月22日午前11時30分頃,帰宅した上,家族に謝罪するな
どした。
ウ失踪に至った原因
実習中に,担当患者の障害の原因等の評価について悩んでおり,
スーパーバイザーからも「2年次の実習でやるべきことで,今つま
づくことではない」,「レポートに進展が見られない」などと指摘さ
れたため,焦りがあった。また,検査の繰り返しによる担当患者へ
の負担及びスーパーバイザーの業務時間を割いてもらって指導を
受けていることに対して,申し訳ないという気持ちがあった。実習
のために睡眠時間が短くなり,体調が優れなかった。年齢的なこと
もあり,チャンスは一度しかないと考えて,常に後がない,追い詰
められているような気持ちがあった。実習施設の理学療法士に助
言をもらっても,うまく整理することができなかったため,Cの教
員等に助言を求めること等も申し訳なく思い,できなかった。
同月20日については,気が付くと失踪していたため,どのよう
な気持ちだったか記憶がない。レポートを全く進められなかった,
それでは病院に行けない,そんな状態では家にいられない,という
気持ちだったと思う。
エ今後の対応
自身の考え方の特徴として,周囲に気を遣い過ぎて自ら行動し
づらくしてしまうことが挙げられるので,もっと周囲に頼るべき
だった。従前は,理学療法士になれなければもう後はないと思い込
み,家族も同様の思いだと考えていたが,家族に「理学療法士にな
れなかったとしても,それはそれで仕方ない。」と言われ,多くの
可能性があることが分かった。
今回の失踪に関して病院で診療を受けた後,できることなら再
び理学療法士を目指したい。
⑻Aは,同年10月17日,家族からの勧めを契機に,心療内科・
精神科・神経科を専門とするTクリニックのR医師の診察を受けた
ところ,「α」及び「Zの疑い」等と診断された(甲4,乙1,弁論
の全趣旨)。
Aは,その際,R医師に対し,平成24年の失踪事件当時は死ぬ気
があったと思うがよく分からない旨を述べた(乙1,弁論の全趣旨)。
⑼Aの義父であるGは,CがAの平成24年度の第Ⅲ期臨床総合実
習を中止としたため,Aが留年せざるを得なくなってしまったこと
から,同月23日,Aと共にCを訪れて同校の学院長,I及びJと
面談し,Aに平成24年の失踪事件について謝罪させた。その後,
Gは,Aに席を外させた上,再度の実習等のAが留年せずに済むよ
うな救済措置を依頼した。しかし,学院長は,Gに対し,学院の規則
により前記救済措置を取らない旨を述べた上,Aを立派に卒業させ
るのでもう1年間預からせてほしい旨を述べた。その結果,Aは,
平成25年度に留年することを決意した。(甲81,88,証人G調
書1頁,2頁,15頁,16頁,弁論の全趣旨)
また,Aは,同日,Cの指示に基づき,①平成24年の失踪事件に
ついて謝罪と反省をするとともに再度同様の事態を引き起こした場
合にはいかなる処分にも異議なく従うことを誓う旨が記載された始
末書(甲12)及び②平成24年度の第Ⅳ期総合臨床実習への参加
を強く希望し,万が一,身体的・精神的問題が発症し中断せざるを得
ないような状況が発生した場合,Aとその保護者が一切の責任を負
い,Cに迷惑を掛けない旨が記載された誓約書(甲13)に署名する
などし,これらをCに提出した(甲12,13,弁論の全趣旨)。
⑽Aの当時の担任教員であったJは,同月下旬頃,R医師に対し,
Aの精神状況や総合臨床実習の実施可能性等について問い合わせた
(乙1・7頁)。
R医師は,同月31日,Cに対し,Aについて,「病名#1.Z
の疑い(H24年9月頃)」,「症状経過および治療経過等H24年
10月17日当院初診,27日,31日と受診して頂いています。H
24年9月中,実習とアルバイトで充分睡眠もとれず,過労状態と
なっており,一時的に上記が生じたものと思われます。現在の負荷
が減った状態では,病的と判断される精神状態は認められません。
実習については,負荷が大きくなりすぎないよう,相談しながら進
めていかれるとよいのではと考えます。今後しばらく当方にても経
過をみる予定としています。(通院のための時間については配慮を願
います。)」などと記載した本件診療情報提供書を送付した(甲4,乙
1・6頁,弁論の全趣旨。原告と被告Bとの間では争いがない。)。
⑾Aは,同年11月5日,S病院において,平成24年度の第Ⅳ期
臨床総合実習を開始し,同年12月21日に同実習を問題なく修了
した(弁論の全趣旨。原告と被告Bとの間では争いがない。)。
また,Aは,同時期頃から本件実習の開始前頃までの間,K及び原
告からみて,心身の健康状態について特に問題のある様子は見受け
られなかった(乙3,証人K調書5頁,原告本人調書5頁,25頁~
27頁,弁論の全趣旨)。
⑿Cは,平成25年3月頃,おおむね以下のア及びイのような記載
のある実習指導要項(乙2)を作成した(乙2,弁論の全趣旨)。
ア臨床総合実習の単位認定について(乙2・16枚目)
単位の認定は,実習施設での臨床総合実習内容(経過表及び意見)
を尊重し,併せて学生の臨床実習における課題遂行状況,実習後の
学内での症例報告状況等を総合的に検討し,Cの責任により判定
する。
イ実習担当教員の実習施設訪問時期について(乙2・18枚目)
実習施設を訪問する時期は,原則的に実習前及び実習期間中を
予定しているが,実習期間中の訪問については各実習施設と調整
した上で実施する。
訪問の主たる目的は,実習前については実習生の紹介と実習指
導要項の説明,実習期間中については実習の進行状況や実習生の
課題等について実習施設の意見等を聴くことである。
ただし,実習施設の関係者が臨床実習指導者会議に出席した場
合には,同会議を実習前の訪問に代えることとする。
⒀Kは,Aの平成25年度の担任教員になることが決まった際,A
の平成24年度の担任教員であったJから,Kの担当する全学生(A
を含む。)について1行又は2行程度の概要が記載された一覧表を引
き継いだものの,Aに関する情報について個別の引継ぎは受けなか
った(証人K調書26頁,27頁,48頁,弁論の全趣旨)。
また,Cにおいては,学生のプロフィールが記載された個人票が
存在するものの,同個人票がJからKへの引継ぎの際に活用される
ことはなかった(証人K調書48頁,49頁,弁論の全趣旨)。
⒁Cの夜間部に所属する専任教員(理学療法士)は,平成25年度
については5名であった(甲66,証人H調書23頁,24頁,弁論
の全趣旨)。
⒂Kは,平成25年度の担任教員として48名の学生を担当し,実
習担当教員として5か所程度の実習施設(学生数合計6名程度)を
担当していた(甲65,証人K調書38頁,39頁,証人H調書8
頁,9頁,22頁~24頁,弁論の全趣旨)。
⒃Kは,遅くとも平成25年6月頃までには,Aが平成24年の失
踪事件を引き起こしたこと並びに本件診療情報提供書及び事情説明
書(甲8)の内容を認識していた(証人K調書2頁,18頁,19
頁,25頁,26頁,弁論の全趣旨)。
⒄Kは,同年3月頃までの間に,Cの指示に基づき,Kが担当する
学生全員(Aを含む。)の平成25年度の実習施設の割当案を作成し,
その内容をまとめた一覧表(以下「実習施設割当一覧表」という。)
を作成した(証人K調書5頁,49頁)。
Kが当初作成した実習施設割当一覧表においては,Aの実習施設
はEではなかった(証人K調書6頁,27頁,49頁,証人H調書2
頁,25頁,弁論の全趣旨)。
⒅Cの学科長のHは,遅くとも同年6月頃までには,Aが平成24
年の失踪事件を引き起こしたこと並びに本件診療情報提供書及び事
情説明書(甲8)の内容を認識していた(証人H調書3頁,18頁,
25頁~27頁,弁論の全趣旨)。
もっとも,Hは,平成24年の失踪事件後から平成25年6月2
6日までの間,Aに関与したことはなく,同期間のAの具体的状況
についても認識していなかった(証人H調書13頁,28頁,弁論の
全趣旨)。
⒆Hは,遅くとも同月頃までには,Eについて,学生に対してしっ
かりとした指導をする施設であると認識していたが,特に厳しい指
導をする施設であるとは認識していなかった(乙16,証人H調書
16頁,17頁,28頁,弁論の全趣旨)。
他方,Kは,同じ頃までには,Eについて,レベルが高く,かつ,
厳しい指導をする施設であると認識していた(証人K調書6頁,7
頁,24頁,28頁,58頁,弁論の全趣旨)。
また,Eは,同じ頃までには,Cの学生から,厳しい指導をする実
習施設であるとの評価をされていた(甲20の1,34の1②,35
の1,35の2①,36①,証人K調書6頁,7頁,57頁,証人M
調書5頁,18頁,21頁,22頁,弁論の全趣旨)。
⒇Kが,同月頃までの間に,原案として作成した実習施設割当一覧
表(前記⒄)をHに対して提出したところ,Hは,Kに対し,同一覧
表の一部を修正し,Aの実習施設をEにするよう指示した(証人K
調書6頁,27頁,28頁,49頁,50頁,証人H調書1頁,2
頁,25頁,弁論の全趣旨)。Hは,Aの実習施設を検討する際,①
Fは,Cに在学中にまじめで熱心な学生であったため,Aに対して
もまじめで熱心な指導をすることが期待できたこと,②EはAが自
宅から通うことのできる位置に所在すること,③Aの同級生であっ
たNが勤務していること,④本件診療情報提供書及び事情説明書(甲
8)の内容を考慮したものの,前記④については特に重視しなかっ
た(乙16,証人H調書3頁,5頁,6頁,26頁,27頁,弁論の
全趣旨)。
Hの指示を受けたKは,Hに対し,平成24年度の失踪事件があ
ったにもかかわらずAの実習施設をEにすることについて問題ない
かどうかを尋ねたところ,Hは,Kに対し,「まあ大丈夫だろう。」な
どと答えた(証人K調書6頁,27頁,28頁,58頁,証人H調書
2頁,25頁,弁論の全趣旨)。
Kは,Hの前記指示どおり,実習施設割当一覧表の一部を修正し,
Aの実習施設をEに変更した(証人K調書6頁,50頁,証人H調書
2頁,25頁,弁論の全趣旨)。
Kによる前記修正後の実習施設割当一覧表は,同月26日,Cの
教務会議において配布されたところ,同一覧表に対して異議や意見
を述べる教員がいなかったため,Aの実習施設は同一覧表のとおり
Eに決定された(証人K調書8頁,証人H調書6頁,28頁,証人I
調書14頁,弁論の全趣旨)。
K及びその他のCの教員は,本件実習におけるAの実習施設がE
に決定される前までに,Aとの間で,Aの精神状態等を確認するた
めの面談を実施しなかった(証人K調書25頁,弁論の全趣旨。原
告と被告Bとの間では争いがない。)
Kは,同日,CにおいてAと面談し,Aに対し,本件実習におけ
る実習施設がEに決定したことを伝えた(甲5,34の1①,乙3,
証人K調書8頁,9頁,弁論の全趣旨)。
Aは,同日午後5時54分頃,Kに対し,「実習先を聞いて緊張度
が高まりましたが,頑張ります。Eですが,一時間程度で通えると
思います。実習の開始及び終了時間は実習近くにならないと分から
ないでしょうか?」などと記載したメールを送信した(甲34の1
①)。
また,Aは,同日午後6時8分頃,Cの同級生に対し,「実習→E
です…学校に嫌われてもたかな。まあしゃあないです。また勉強会
寄せてくださいな」などと記載したメールを送信した(甲20の1,
36①,弁論の全趣旨)。
Kは,同日午後6時40分頃,Aに対し,「実習先がどこかという
のは,電話やメールで伝えても良かったのですが,直接話したいの
で来てくれるという提案に乗らせてもらいました。実習の開始時間
と終了時間ですが,調べて伝える事は出来るのですが,U君やNさ
んに聞いてもらうことで,二人とのラインをつなぎ,情報を得るこ
とが出来るようになれば良いのではと考えます。もちろん,Aさん
と二人の関係についてはほとんど知らないので,判断はお任せしま
すが。それでは,また,返事を待っています。」などと記載したメー
ルを送信した(甲34の2①)。
Aは,同月28日午前7時25分頃,Nに対し,「実習,11月位
からなんですが,Eになりました。その際にNさんがそちらに就職
したとK先生から聞きました。色々教えていただけたらとメールし
ました(時間,事前に学習しておくべきこと,特徴など)。ちなみに,
かなりビビってます。」などと記載したメールを送信した(甲35の
1)。
Nは,同年7月2日午前6時30分頃,Aに対し,「実習,Eなん
ですかぁ。Aさんなら大丈夫ですよ。自分で追い込みすぎないよう
にしてください。ビビることはないかと思います。Cから昼間の学
生さん来てますけど,そんなビクビクしてませんし。バイザー担当
の先生は二人。一人は皆がやられてるF先生。この人はもともとね
っちっこい人なので,特徴掴めば大丈夫です。もう一人はベテラン
のV先生。学生に当たりは厳しいとこもありますが,他の実習地並
みかと。(中略)私も多分まだいてるやろうし,一緒に乗りきりまし
ょう!」などと記載したメールを送信した(甲35の2①)。
Aは,同年の初夏頃,原告に対し,本件実習における実習施設が
Eに決まったことについて,学生の間で一番厳しくて嫌な実習施設
と評価されているところに当たってしまって最悪である旨を何度も
述べた(原告本人調書5頁,弁論の全趣旨)。
Eの関係者は,Cにおいて開催された平成25年度の臨床実習指
導者会議を欠席した(証人F調書3頁,4頁,弁論の全趣旨)。
Kは,同年8月頃,Fに一度だけ電話を掛け,Aについて,学力
は非常に優秀であるが,まじめで一つのことを思い詰めやすい性格
であること,平成24年の失踪事件を引き起こし,平成24年度の
第Ⅲ期臨床総合実習が中止となったこと,その結果,平成25年度
に留年して本件実習に臨む状況であること及び本件実習では様子を
見ながら指導して欲しいことを伝えた(甲5・2頁,3頁,乙4,証
人K調書10頁,29頁,30頁,証人F調書26頁~28頁,43
頁,61頁,62頁,弁論の全趣旨)。
その際,Kは,Fに対して,平成24年の失踪事件の原因を伝えて
おらず,Fも,Kに対して,平成24年の失踪事件の原因について何
ら確認しなかった(証人K調書10頁,30頁,31頁,42頁,4
3頁,証人F調書27頁,弁論の全趣旨)。
また,Kは,本件実習の開始前に,Fに対し,Aの本件診療情報提
供書及び事情説明書(甲8)を交付せず,その内容を伝えることもし
なかった(証人K調書10頁,30頁,31頁,証人F調書43頁,
44頁,弁論の全趣旨)。
Fは,遅くとも平成25年11月5日までには,平成20年の自
殺事件の存在を認識していた(証人F調書46頁,47頁,弁論の
全趣旨)。
Eのリハビリ部長であるM,F及びNは,遅くとも平成25年1
1月5日までには,Kからの連絡(前記)を踏まえてAへの対応
方針等を検討し,Aが自己を追い詰めやすい性格であるため,本件
実習による負荷が掛かり過ぎないように配慮しなければならないと
考えていた(証人M調書37頁,証人F調書62頁,弁論の全趣旨)。
同年当時,Eにおける診療業務は,午前7時30分頃に朝礼をし
て始業した後,午前診(午前8時診療開始,午後0時受付終了)及び
午後診(午後4時診療開始,午後8時受付終了)の二部制となって
おり,1週間のうち月曜日,水曜日及び金曜日は午前診及び午後診
の双方を実施し,火曜日,木曜日及び土曜日は午前診のみを実施し
ていた。また,日曜日は休診日とされていた。(甲5,88,乙5,
6,証人F調書30頁,原告本人調書6頁,弁論の全趣旨)
Fは,本件実習の初日である同年11月5日,Aに対し,平成2
4年の失踪事件の経緯を尋ね,Aから,第Ⅲ期臨床総合実習により
睡眠不足となったため,心身が病的状態となり,記憶を失って同事
件を引き起こしたこと及び疲労がたまると記憶を失うことがあるこ
と等の説明を受けた(甲5・8頁,乙5,証人F調書5頁,6頁,弁
論の全趣旨)。
Fは,同日,Aに対し,実習日誌については口頭の説明で補って
もよい旨を伝えた(甲16の1・55頁,証人F調書6頁,8頁,弁
論の全趣旨)。
Aは,同日頃から同月7日頃までの間に,原告に対し,Fの声が
小さすぎて聞き取りにくいこと,Aが聞き取れなかった場合に聞き
返すとFの機嫌が悪くなること及びFが返事に困るような話し方を
することから,Fとの人間関係について非常に困っている旨を何度
も述べた(甲6,原告本人調書8頁,28頁,弁論の全趣旨)。
Aは,同月9日,Cの同級生に対し,「同級生がいてるのはありが
たい…が,やっぱり実習は楽しくはない」と記載したメールを送信
した(甲37,弁論の全趣旨)。
Aは,同月12日,Fの許可を得て,担当患者に対する痛覚検査
を実施した(甲6,15・39頁,証人F調書10頁,60頁,弁論
の全趣旨)。
Fは,Aが痛覚検査を実施する前に,Aから同検査の概要の説明
を受けていたものの,同検査の具体的方法はCの授業で習得してい
るはずであると考え,Aに対して同検査の具体的方法を指導しなか
った(証人F調書10頁,47頁,65頁,弁論の全趣旨)。
Fは,同日,Aに対し,前記担当患者に対する検査の中止を命じた
(甲6,15・39頁,証人F調書11頁,弁論の全趣旨。原告と被
告Dとの間では争いがない。)。
Aは,同月13日,Fに対し,症例日誌を提出したものの,同月
12日に検査中止を指示された担当患者についての考察等は何ら記
載していなかった(甲6,証人F調書12頁,弁論の全趣旨。原告と
被告Dとの間では争いがない。)。
Fは,Aが症例日誌に前記担当患者についての考察等を記載して
いなかったため,同日,Aに対し,「なんで何も書いてないの。」と尋
ねたところ,Aは「検査が中止になったので書く必要がないと思い
ました。」と答えた(証人F調書12頁,弁論の全趣旨)。
その後,Aは,Fに対し,症例日誌に記載がなかったことについて
謝罪した(甲6,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では争いがな
い。)。
Aは,同月13日に帰宅した際,非常に落ち込み,しょうすいし
た様子であって,原告と会話をしようともしなかった(原告本人調
書10頁,11頁,弁論の全趣旨)。
Aは,同日頃,実習日誌(甲15)の同月12日の欄に,痛覚検査
を実施したことに加え,反省点として,「検査の進め方のまずさと,
説明ミスで中止となる。」,「検査の進め方・目的について質問された
際,その内容を的確に伝える説明を行えなかった。これを的確に行
えなかったことから,中止となってしまい」担当患者に迷惑を掛け
た旨を記載した(甲15・39頁,弁論の全趣旨)。
Aは,同月14日,担当患者がEで受診しなかったため,Fの指
示に基づき,その他の患者の検査や治療を実施した(甲6,弁論の
全趣旨)。
同日の実習終了後,Aは,Fの指示に基づき,同日に検査等を実施
した患者についての考察等を実習日誌に記載した(甲6,16の1,
弁論の全趣旨)。
Aは,同日午後7時45分頃,Kに対し,「今のところは,継続し
て行っておりますが,昨日帰らされかけました。謝罪してどうにか
帰らずに済みましたが。予想通りプレッシャーが強い環境で,一次
評価で苦労しています。気を使いすぎて思うように考えられない,
抜けが出てしまっている状態です。他校の実習生が体調不良で今日
欠席でしたが,昨日話した感じだと,バイザーとの関係で悩んで来
るのが辛いようでした。愚痴になってしまい申し訳ありません。明
日も頑張ります。」などと記載したメールを送信した(甲34の1②)。
Aは,同日に帰宅した際,非常に落ち込んだ様子であって,原告
と会話をしようともしなかった(原告本人調書11頁,弁論の全趣
旨)。
Aは,同月15日午前7時30分頃,Fに対し,実習日誌及び症
例日誌を提出したものの,前日である同月14日に担当患者がEで
受診しなかったことから,担当患者についての考察等は何ら記載し
ていなかった(甲6,16の1,証人F調書16頁,17頁,64
頁,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では争いがない。)。
Aの実習日誌等を確認したFは,Aに対し,実習日誌又は症例日
誌に担当患者に関する記載がないことを指摘した(甲6,証人F調
書17頁,64頁,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では争いがな
い。)。
その後,Aは,同日午前8時頃,突然,実習用の白衣を着たまま,
自らの荷物を抱えてEを勢いよく走って出て行った(甲6,乙5,
6,証人F調書19頁,67頁,68頁,弁論の全趣旨。原告と被告
Dとの間では争いがない。)。
Nは,同日午前8時25分頃,Aに対し,「どうしました??大丈
夫ですか?連絡ください!」と記載したメールを送信した(甲20
の2,35の2②)。
Kは,同日午前9時8分頃,Aに対し,Kに連絡をするよう求める
旨のメールを送信した(甲34の2②)。
Kは,同日午前8時30分頃までには,Fからの連絡を受け,A
がEを突然出て行ったことを認識した上,Aと連絡を取り,Aに対
してCへ登校するよう指示した(甲5,乙4~6,証人K調書55
頁,証人F調書19頁,20頁,30頁,31頁,弁論の全趣旨)。
K及びIを中心とするCの教員三,四名は,登校したAと面談し,
Eを出た経緯を聴取した(甲5,乙4,証人K調書14頁,22頁,
35頁,44頁,証人I調書15頁~17頁,29頁,弁論の全趣
旨)。
Aは,同日のCにおける面談の際,Kの指示に基づき,同月5日
から同月15日までのEにおける本件実習の具体的経緯等を記載し
た顚末書(甲6)を作成し,Cへ提出した(甲6,証人K調書34
頁,35頁,52頁,53頁,弁論の全趣旨)。
顚末書には,以下のように記載された箇所がある(甲6)。
ア「11/12(火)」
「担当症例様の痛覚検査を行う事になっていました。検査の手順
として,まず左右への感覚の入力の有無をみて,その後左右の強弱
を調べていこうと思っていました。実施途中で,F先生より一端中
断するようにいわれ,「何をしているのか」と聞かれました。説明
していたのですが,途中で止められ,「意味がないから中止」とい
われました。その後もう一度説明を求められたので,最終的に左右
の強弱を比較する事を伝えたところ,「それならそうと言えばいい。
要点を伝えないと分からない」と言われましたが,自分のしようと
していた事は理解していただけたと感じました。」
イ「11/13(水)」
「11/12(火)のデイリーを提出したのですが,その中に担
当症例の方についてのものは作っておらず,お叱りを受けました。
内容としては,中止したとはいえ,何か得られるものはあったはず
で,それは当然出さないといけないと言われ,「これはボイコット
しているのと一緒」と指摘されました。そして,「今日はもう見せ
たくない,帰るか」と言われました。その後,30分程,リハ室の
角のスペースで待機していましたが,最終的には謝罪し,受け入れ
て頂きました。その際,次やったら終了と言われました。」
ウ「11/14(木)」
「この日は担当症例様が休まれた。F先生と,V先生につかせて
頂き,担当症例様以外の検査や治療を行いました。終了後,「今日
はKさん(治療させて頂いた方)の事と,課題(3つありました)
をまとめることと,V先生の方をやるように」と言われましたので,
帰宅後,それらをまとめ,担当症例様のことについては,レポート
の叩きを作成していましたが,叩きについては提出できる形にな
っていなかったので,プリントアウトはしませんでした。」
エ「11/15(金)」
「朝礼前にデイリーをF先生,V先生に提出し,本日行う担当症
例様への検査内容を伝え,了承されました。朝礼後,F先生より,
症例様についてのものが出ていないと言われました。前日お休み
でしたので,デイリーは作っていない事,自宅でレポートの叩きを
作っていた事を伝えましたが,「みてなければ出さないでいいの
か?」と聞かれ,返事に窮していると「無視するのか?」といわれ
ました。お詫びしたのですが,帰るように言われました。その後,
クリニックを出ました。」
Kは,同月15日のCにおける面談の際,Aに対し,Fに対して
気を遣い過ぎないようすべきである旨を助言した。その後,IがA
に対して更に何か言いたいことがあれば言うように促したところ,
Aは,Fの声が小さくて聞き取りにくい旨を述べた。
そこで,Kは,Aの面前でFに対して電話を掛け,Fに対し,Aが
Fの声が小さいため聞き取りづらいと述べている旨を伝えた。これ
に対し,Fは,Kを通じて,Aに対し,声が小さくて聞き取りづらい
場合には気負わずに近づいて聞くようにして欲しい旨を伝えた。(甲
5,乙4,証人K調書14頁,22頁,23頁,35頁,44頁,4
5頁,証人F調書20頁,31頁,32頁,証人I調書15頁~18
頁,29頁,弁論の全趣旨)
Aは,同日午後9時35分頃,Nに対し,「ご迷惑かけて申し訳な
いです。『帰れ』と言われまして,Nさんからもアドバイスいただい
てましたが,ちょっと自分を客観視できてなくて…自分の反省すべ
き点をきちんと考え直す必要があると思ったので,学校に帰って指
導を受けてました」と記載したメールを送信した(甲20の3)。
Nは,同日午後10時3分頃,Aに対し,「何度も言ってますが,
自分を追い詰めたらダメですよ~『帰れ』と言ったF先生が焦って
はったし〔汗を意味する絵文字〕状況は,F先生からも聞きました。
バイザーの求めることと,自分の解釈の差違ってどうしてもあるし
…とにかく明日は頑張って来てくださいね!」と記載したメールを
送信した(甲20の4・5,35の2③)。
Aは,同日頃から,原告に対し,背中全体の痛みを訴えるように
なった(原告本人調書14頁~16頁,弁論の全趣旨)。
Aは,同月21日午後2時26分頃,Kに対し,「本日は午前診で
終わりました。今日も叱られましたが,どうにか続いています。頑
張ります。」などと記載したメールを送信した(甲34の1③)。
Kは,同日午後2時35分頃,Aに対し,「本日もお疲れ様でした。
大変かと思いますが,応援しています。」と記載したメールを送信し
た(甲34の2③)。
Kは,同月22日,Fに対して電話を掛け,Aの様子を尋ねたと
ころ,Fから,特に問題は生じていない旨の回答があった(甲5,乙
4,証人K調書15頁,証人F調書34頁,弁論の全趣旨)。
Eでは,実習生への指導又は支援の一環として,実習生がスーパ
ーバイザー等に対して担当患者についての考察を発表する場である
症例発表を実施することがあった(証人F調書35頁,弁論の全趣
旨)。
Aは,遅くとも同月23日頃までには,前記症例発表の前提とな
る担当患者についての「問題点抽出」という作業が難しいと感じる
ようになり,同作業を思うように進められなくなった(乙6,弁論の
全趣旨)。
Aは,同月24日午後2時49分頃,Cの同級生に対し,「なんか
もう,毎日気を使い過ぎて,よう分かりませんわ…しかもまだ折り
返しじゃないしなー」と記載したメールを送信した(甲36②)。
Fは,同月25日,Aによる症例発表が予定されていたものの,
Aの発表内容の一部である問題点抽出の作業が不十分であったため,
症例発表の日程を同月Y日に延期した(甲5,乙5,6,証人F調書
21頁~23頁,34頁,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では
争いがない。)。
Fは,同月27日,Aに対し,10分後にEの隣の接骨院で受診
する予定がある担当患者に対して6分間歩行検査を実施するよう指
示した(甲5,乙5,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では争いが
ない。)。
Aは,6分間歩行検査を実施したものの,同検査を終えてEに戻
るまでに15分程度かかってしまったため,前記接骨院のスタッフ
及びFが周囲を探し回る事態となった(甲5,15,乙5,6,証人
F調書23頁,弁論の全趣旨。原告と被告Dとの間では争いがない。)。
Fは,戻って来たAに対し,「何してたんや?みんな探してたんや
で。」と述べたところ,Aが「SpO2の測定に手間取ってしまいま
した。すみません。」と謝罪したため,Aに対し,「接骨院のスタッフ
も探し回ってくれてたから,一言謝っとき。」と述べた(甲5,15,
乙5,弁論の全趣旨)。
Aは,同日及び同月28日,Kに対し,電話を掛け,担当患者の
評価についての技術的な質問や本件実習の進捗状況に遅れがないか
どうか等の相談をした(甲5,乙4,証人K調書15頁~17頁,2
0頁,21頁,23頁,24頁,36頁,37頁,弁論の全趣旨)。
Aは,同月18日から同月27日までの間,しょうすいし又は呆
然とした様子が続いており,原告に対し,Fの声が相変わらず小さ
くて聞き取りにくいことや背中全体が痛むこと等を訴えていた(原
告本人調書15頁,16頁,弁論の全趣旨)。
Aは,同月28日午後3時30分頃に帰宅した後,ちょっと寝た
いなどと言って仮眠を取った。そして,Aは,同日午後6時頃から
夕食を食べ,同日午後8時頃まで再び仮眠を取った後,Y月Y日午
前3時頃までの間,症例日誌等の本件実習に関する資料を作成した
後,就寝した。(甲25の1,88,原告本人調書16頁~18頁,
弁論の全趣旨)
Aは,同日午前5時頃起床し,同日午前6時頃に自宅を出てEへ
向かった(甲88,原告本人調書16頁~18頁,弁論の全趣旨)。
Fは,Y月Y日の朝,Eに到着して間もないAに対し,症例発表
の資料ができたかを尋ねたところ,Aは,資料はできたが資料のデ
ータ及び同データを修正するためのパソコンを忘れた旨を答えた。
Aがすぐに「家に取りに帰ります。」と述べたものの,Fは,Aに対
し,同日午前中に持参した資料を見直すことを指示した。
Fは,同日昼頃,Aの作成した発表用資料(甲18)を確認し,A
に対し,①空白箇所が多いため,検査内容や評価内容をより多く書
くこと,②歩行観察の内容が少なく,なぜ担当患者にとって歩行が
重要なのかが説明できていないこと,③歩行の持久性について客観
性が乏しく,検査内容が活かされていないことを指摘した。(甲5,
18,乙5,証人F調書24頁,56頁,57頁,弁論の全趣旨。原
告と被告Dとの間では争いがない。)
その後,Aは,同日午後1時頃にEを出たまま行方不明となった
(争いがない。)。
Aは,本件実習中,おおむね以下のようなスケジュールで過ごし
ていた(甲5,15,16の1・2,21,25の1・2,88,乙
5,6,証人F調書30頁,原告本人調書6頁,弁論の全趣旨)。
ア月曜日,水曜日及び金曜日
午前5時頃起床
午前6時30分頃自宅を出発
午前7時30分頃Eにおける清掃及び朝礼
午前8時頃午前診開始
午後0時頃午前診終了
休憩又は実習日誌等の作成
午後4時頃午後診開始
午後8時頃午後診終了
スーパーバイザーによる講評
午後8時30分頃Eを出発
午後9時30分頃帰宅
午後10時頃実習日誌等の作成開始
イ火曜日,木曜日及び土曜日
午前5時頃起床
午前6時30分頃自宅を出発
午前7時30分頃Eにおける清掃及び朝礼
午前8時頃午前診開始
午後0時頃午前診終了
スーパーバイザーによる講評
午後1時頃Eを出発
午後2時頃帰宅
午後3時頃実習日誌等の作成開始
Aは,本件実習期間中である同月5日からY月Y日まで間のほぼ
毎日,各日の実習日誌等をパソコンのワードファイルで作成してい
たところ,その総編集時間は約103時間であり,1日当たりの編
集時間は平均約4時間であった。また,Aが前記ファイルを最終的
に保存して作業を終了した時刻は,編集を開始した日の翌日午前3
時頃や起床後の午前6時頃になることもあった。(甲21,25の1・
2,弁論の全趣旨)
もっとも,Fは,Aに対して実習日誌等の作成にどの程度の時間
を掛けているのかを確認しなかったため,Aの前記総編集時間や前
記作業終了時刻を把握していなかった(証人F調書38頁,弁論の
全趣旨)。
また,Fは,Aに対して具体的な睡眠時間を確認することもなか
った(証人F調書59頁,弁論の全趣旨)。
Kは,同年12月16日,Aの遺族に対する報告書として集約さ
れることを前提に,本件実習開始前のAとのやり取りについての報
告書(乙3)及び本件実習中のAとのやり取りについての報告書(乙
4。以下「K報告書」という。)を作成した(乙3,4,弁論の全趣
旨)。
K報告書の同年11月15日の欄には,「実習指導者から帰るよう
に言われ,実習先を出た旨の連絡があったため,電話で連絡を取り,
学院に来るように指示した。」,AがEを出てCに登校し,Aと同校
の教員らとの面談を経て,KがFに対して電話連絡をした後,「この
時より,実習指導者は学生の発言を無下にするような発言は避け,
指導をした際もフォローをするように心がけていた。また,「帰れ。」
のような発言も控えていた。」との記載がある(乙4)。
Fは,遅くとも平成26年1月21日までの間に,Aの遺族に対
する報告書として集約されることを前提に,Aの本件実習中の状況
を記載した「Aくんの実習中の状況について」と題する書面(乙5。
以下「F報告書」という。)を作成した(乙5,弁論の全趣旨)。
F報告書の平成25年11月15日の欄には,以下のような記載
がある(乙5)。
「朝提出されたデイリーノートと症例ノートを見てみると,昨日
の内容についてのデイリーが全く入っておらず,本日症例患者さん
にする予定の検査項目の内容もありませんでした。今回の実習中で
は内容が少なくてもデイリーを提出することが大前提になっていま
すので,これまで順調だった事を考えると,少し驚いて『昨日のデイ
リーはなんで無いの?』と聞きました。A君は『昨日は検査が途中で
終わったのでもう書かなくていいと思いました。』私は,『昨日は検
査が10分程度で中断したけど,その中でもいろいろ経験した事も
あるだろうし,他にも見学とか経験したことは無いの?今日の患者
さんにする検査の内容もどうするの?』と聞くと,『はい。こちらの
認識不足でした。一旦学校に帰って作ってきます。』(と言う感じの
発言があったと思います。)実習中に自分から簡単に『学校に帰る。』
と言うのは実習先としては信じ難く,相当の事だと思い,『じゃ,帰
り。』と強く言いました。するとその直後に白衣のままで荷物を持っ
て急いで走ってリハビリ室を出ていったので,私はA君が逆に怒っ
て出てしまったのかと感じ,一旦止めて話を聞いた方がいいかと思
い,後を追いかけましたがもう見えなくなっていました。すぐにA
君の携帯に連絡したが,一方的に切られてしまった記憶があります。
(この電話対応は記憶が曖昧)私とN先生の心境として,A君の置
かれた状況と年齢を考えると,あの行動と反応は理解しがたく,驚
いたとの事でした。」
Nは,遅くとも平成26年1月21日までの間に,Aの遺族に対
する報告書として集約されることを前提に,Aの本件実習の状況を
記載した「Aさん実習経過経緯」と題する書面(乙6。以下「N報告
書」という。)を作成した(乙6,弁論の全趣旨)。
被告Bは,同月21日,Kの各報告書(乙3,4),F報告書(乙
5)及びN報告書(乙6)の各記載等を集約したAの本件実習開始
前及び本件実習中の状況に関するAの遺族宛ての報告書(甲5。以
下「状況報告書」という。)を作成し,同日頃,原告に対してこれを
交付した(甲5,弁論の全趣旨)。
被告Bは,同月29日,Aの遺族宛ての「故A君の自死に関する
見解報告書」と題する報告書(甲74)を作成し,原告に対し,同日
頃,これを交付して,Aの自殺の原因が特定できなかった旨を報告
した(甲74,弁論の全趣旨)。
2争点⑴(FのAに対する違法行為の存在)について
⑴ア前記認定事実によると,被告Dは,被告Bとの間で,Cの臨床
実習について,同校の学生をEにおいて実習生として受け入れる
旨の合意をし(前記1⑸),実際にEにおいて,Cの学生に対し,
臨床実習に係る指導を行っていたことが認められる。
そうすると,被告D及び実際に指導を担当するスーパーバイザ
ーは,臨床実習の指導によって実習生の生命,身体,精神及び財産
等に危害が及ぶことがないように,当該実習生の安全に配慮すべ
き義務(安全配慮義務)を負うと解すべきである。
そして,臨床実習に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積する
と,実習生の心身の健康を損なう危険性があることは明らかであ
ることをも考慮すると,本件実習におけるAのスーパーバイザー
であったFは,実習生として受け入れたCの学生であるAに対し,
前記安全配慮義務の内容として,本件実習に伴う疲労や心理的負
荷等が過度に蓄積してAの心身の健康を損なうことがないように
すべき注意義務を負っていたと解するのが相当である。
イこれに対し,被告Dは,教育の本質として強制的・懲戒的側面が
あるため,実習生に対して一切の疲労や心理的負荷を与えてはな
らない義務があるとはいえず,仮に疲労や心理的負荷の程度が問
題だとすれば,その基準が不明確である以上,注意義務違反を問
うことはできない旨を主張する。
しかし,前記注意義務が実習生に対して一切の疲労や心理的負
荷を与えてはならないとする義務でないことは明らかであるし,
基準が不明確ということもできない。
したがって,被告Dの前記主張は採用できない。
⑵そこで,原告の主張する各行為が前記⑴アの注意義務に違反する
かを検討する。
ア平成25年11月12日の行為について
a原告は,同日の経緯について,おおむね次のとおり主張する。
Aが同日に痛覚検査を実施していたところ,FがAに対して
同検査の中止を指示した上,「何をしているのか。」と尋ねた。
Aが痛覚検査の説明を始めたところ,Fはその説明を途中で遮
り,「意味がないから中止。」と述べて,同検査を中止させた。
その後,Fの指示により,Aが痛覚検査の説明を再度行ったと
ころ,Fは「それならそう言えばいい。要点を伝えないと分か
らない。」と述べたものの,同検査が再開されることはなかっ
た。
b原告の前記主張は,Aの作成した顚末書(甲6)の内容に沿
うものであるところ(前記1),前記認定事実によれば,顚
末書は,Aが,同月15日,Eを出て行った後に行われたCの
教員らとの面談の際に,同校の教員らに対して本件実習の同日
までの具体的経緯等を説明するために作成した文書であるか
ら),同月12日の3日後というAの記憶が新
しいうちに作成されたものといえる上,その作成経緯からする
と,同校の教員らが顚末書(甲6)の記載内容の真実性につい
てFやEの関係者らに対して確認する可能性が高いことから,
あえてこれに虚偽の事実を記載する理由も見当たらない。また,
Aの実習日誌(甲15)の同月12日の欄には,痛覚検査を実
施したことに加え,反省点として,「検査の進め方のまずさと,
説明ミスで中止となる。」,「検査の進め方・目的について質問
された際,その内容を的確に伝える説明を行えなかった。これ
を的確に行えなかったことから,中止となってしまい」担当患
者に迷惑を掛けた旨の記載があるところ(前記1),これら
の記載は原告の前記主張と矛盾しない。
そうすると,同日の経緯は,前記認定事実(前記1)のほ
かは原告の前記主張のとおりであったと認められる。
そして,Fのaの行為は,Aに対し,痛覚検査について,
突然,中断を指示した上,Aの同検査についての説明を途中で遮
って,Aに対して痛覚検査についてのAの意図を説明する機会
を与えないまま,「意味がないから中止。」と述べて中止させ,A
の検査行為を否定したものといえる。このようなFの行為は,A
に対し,一方的に不安感や屈辱感を与えるものであって,過度に
心理的負荷を与える行為であるというべきである。
したがって,Faの行為は,前記⑴アの注意義務に違
反する(以下,Faの行為を「F違法発言①」という。)。
aこれに対し,被告Dは,同日の経緯について,Aが不適切な
態様で触覚検査をしており,担当患者が不快感を示していた
ため,Fは,Aに対して「何をしているの。そんなやり方では
意味がないから。」と述べて同検査を中止させ,その後,Aに
触覚検査の内容を再度説明させた旨を主張し,Fもおおむね
同旨の供述をする(証人F調書10頁,11頁)。
しかし,被告Dの前記主張は,これを裏付ける的確な客観的
証拠が見当たらない上,触覚検査ではなく,痛覚検査について
の説明ミス等により検査中止となった旨のAの実習日誌(甲1
5)の記載内容(前記1)と整合しない。
したがって,被告Dの前記主張は採用できない。
なお,実習日誌(甲15)の「検査の進め方のまずさと,説
明ミスで中止となる。」との記載(前記1)からすると,A
が痛覚検査の方法を誤っていた可能性は否定できないものの,
F違法発言①が前記⑴アの注意義務に違反するといえるのは
Aが実際に痛覚検査の方法を誤って
いたか否かは前記結論を左右しないというべきである。
bまた,被告Dは,顚末書(甲6)の「説明していたのですが」
との記載(前記1)は,Aの説明が検査開始前に既にされて
いたことを意味するため,FがAの説明を遮ったとの事実は認
められない旨を主張する。
しかし,顚末書(甲6)のうち,被告Dの指摘する前記部分
の前後をみると,「実施途中で,F先生より一端中断するよう
にいわれ,「何をしているのか」と聞かれました。説明してい
たのですが,途中で止められ,「意味がないから中止」といわ
れました。その後もう一度説明を求められたので,最終的に左
右の強弱を比較する事を伝えた」との記載があるところ(前記
1),同記載は,FがAに対して「何をしているのか。」と説
明を求められたため,Aがその回答として痛覚検査の説明をし
たこと,Aの同説明はFに遮られ,AがFから「意味がないか
ら中止。」と告げられたこと,その後,AがFから再度の説明
を求められ,説明をしたことを意味すると考えるのが自然であ
り,実習日誌(甲15)の前記記載内容とも整合する。
これに対し,被告Dの前記主張を前提とすると,AはFから
「何をしているのか。」と説明を求められたにもかかわらず,
Fを無視して何らの回答もしなかったことになること,検査中
止を意味することになる「F先生より一端中断するようにいわ
れ」と「途中で止められ」との記載が重複してしまうこと,「そ
の後もう一度説明を求められた」という記載からすると当初の
説明に関する記載があってもよいはずであるのにこれがない
ことなど,事実の経緯や顚末書の記載方法が不自然なものとな

したがって,被告Dの前記主張は採用できない。
イ平成25年11月13日の行為について
a原告は,同日の経緯について,おおむね次のとおり主張する。
Fは,Aに対し,Aが症例日誌の同月12日の欄に,Fの指
示により中止となった痛覚検査についての記載をしていなか
ったことを指摘した上,「これはボイコットしているのと一緒。
今日はもう見せたくない。帰るか。」と帰宅を促した。
その後,AがFに対して謝罪したところ,Fは,Aに対し,
「次やったら終了。」と述べた。
b原告の前記主張は,Aの作成した顚末書(甲6)の内容に沿
うものであるところ(前記1),顚末書は,前記アと同
様に,Aの記憶が新しいうちに作成されたものといえる上,あ
えてこれに虚偽の事実を記載する理由も見当たらない。また,
前記認定事実によると,Aは平成25年11月14日にKに対
して「昨日帰らされかけました。謝罪してどうにか帰らずに済
みましたが。」と記載された現状報告のメールを送信している
ことが認められ(前記1),同メールの内容は原告の前記主
張に整合しているところ,同メールもAの記憶の新しいうちに
作成されたものといえる上,Fとの連絡が容易に可能なKに対
してあえてFについての虚偽の事実を記載する理由も見当た
らない。さらに,K報告書(乙4)には,Fは,同月15日に
AがEを出て行く事件があった後から,学生の発言を無下にす
るような発言を避け,「帰れ。」のような発言も控えていた旨の
記載があることが認められるところ(前記1),同記載は,
少なくとも同日以前にはFが学生の発言を無下にするような
発言や「帰れ。」のような発言をしていたことを裏付けており,
原告の前記主張と整合する。
そうすると,同月13日の経緯は,前記認定事実(前記1)
のほかは原告の前記主張のとおりであったと認められる。
そして,Fのaの行為は,Aが痛覚検査の中止により症
例日誌に記載する必要がなくなったと勘違いしていた旨を説明
したにもかかわらず,Aに対し,「これはボイコットしているの
と一緒。」と述べてAが故意に症例日誌に何も記載しなかったも
同然であると決めつけた上,「今日はもう見せたくない。帰るか。」
と述べて帰宅を促し,本件実習を同日時点で中止して第Ⅲ期臨
床総合実習の単位を取得できない状況にすることを示唆したも
のといえる。また,その後にAが謝罪したにもかかわらず,Fが
更に「次やったら終了。」と述べたことは,同様の失敗をした場
合には本件実習を中止して第Ⅲ期臨床総合実習の単位を取得で
きない状況にすることを示唆したものというべきである。これ
らのFの行為は,Aに対し,一方的に威圧感や恐怖心,屈辱感,
不安感等の過度に心理的負荷を与えるものであるというべきで
ある。
したがって,Faの行為は,前記⑴アの注意義務に違
反する(以下,Faの行為を「F違法発言②」という。)。
aこれに対し,被告Dは,同日の経緯について,おおむね次の
とおり主張し,Fもおおむね同旨の供述をする(証人F調書1
1頁~13頁,15頁,16頁,48頁~50頁)。
Fは,AがFの指示に反して症例日誌に何も記載していなか
ったため,Aに対して「なんで何も書いてないの。」と尋ねた
ところ,Aが「検査が中止になったので書く必要がないと思い
ました。」と答えた。そのため,Fは,Aに対し,考えること
を放棄したことがボイコットに当たるため,学校に帰って検査
方法を再考するように求める趣旨で「これはボイコットしてい
るのと同じやで。今日は帰るか。ちょっと考えてみて。」と注
意した。
その後,Aが謝罪した際,Fは,Aに対し,担当患者に対し
て再び不適切な検査がされた場合には担当患者が実習に協力
したくないと言い出すため,更なる不適切な検査はやめてもら
うとの趣旨で,「次やったらもう止めてもらう。」と述べた。
b被告Dの前記主張は,これを裏付ける的確な客観的証拠が見
当たらない上,「ボイコット」や「帰るか。」などの客観的な発
言内容についてのFの主観的な意図を事後的に補足説明して
いるにすぎないものである。また,被告Dの主張するFの主観
的意図は,平成25年11月12日以外の日の実習内容につい
てはその考察を記載するためにCへ帰らせる必要がなかった
にもかかわらず,同日の痛覚検査についての考察を記載する場
合のみAをCへ帰らせる必要があったなど,不自然な内容であ
るといわざるを得ない。さらに,仮にFの「次やったらもう止
めてもらう。」との発言が不適切な検査はやめてもらうという
ものであったとしても,不適切な検査をするべきでないのはい
うまでもないことであって,一般人の通常の理解を基準とすれ
ば,同発言は実習の中止を示唆するものというべきであるから,
前記⑴イの注意義務違反が否定されることはない。
したがって,被告Dの前記主張のうち,前記認定に反する部
分は採用できない。
ウ平成25年11月15日の行為について
a原告は,同日の経緯について,おおむね次のとおり主張する。
Aは,担当患者が同月14日にEで受診しなかったため,症
例日誌の同日の欄に担当患者についての記載をしなかった。す
ると,Fは,Aに対し,症例日誌に記載がないことを指摘した
上,「診ていなければ出さなくていいのか。」と叱責し,Aが返
答に窮していると,「無視するのか。」と述べた。
その後,AがFに対して謝罪したにもかかわらず,Fは,A
に対し,「帰れ。」と強い口調で述べた。その結果,Aは,Eを
出て行き,Kの指示に従ってCへ登校した。
b原告の前記主張は,Aの作成した顚末書(甲6)の内容に沿
うものであるところ(前記1),顚と同
様に,Aの記憶が新しいうちに作成されたものといえる上,あ
えてこれに虚偽の事実を記載する理由も見当たらない。また,
前記認定事実によると,Aが平成25年11月15日にNに対
して「『帰れ』と言われまして」と記載したメールを送信した
ことが認められ(前記1),同メールの内容は原告の前記主
張に整合しているところ,同メールはAの記憶の新しいうちに
作成されたものといえる上,Aが,Eにおける本件実習を「か
なりビビってます」などと相談するなど(前記1)比較的本
音を言いやすい相手であったと認められるNに対し,あえて虚
偽の事実を伝えるとは考えられない。さらに,前記認定事実に
よると,Nが同日にAに対して「『帰れ』と言ったF先生が焦
ってはったし」,「状況は,F先生からも聞きました。」と記載
したメールを送信したことが認められるところ(前記1),
NがAとFのやり取りを直接見聞きしたか否かは明らかでな
いものの,Eに勤務し,同日の経緯をFから聞いていたNがあ
えて虚偽の事実を記載する理由は見当たらない。そして,少な
くとも同日以前にはFが学生の発言を無下にするような発言
や「帰れ。」のような発言をしていたことを裏付けているとい
えるK報告書(乙4)の記載(前記1)も,原告の前記主張
と整合する。
そうすると,同日の経緯は,前記認定事実(前記1)
のほかは原告の前記主張のとおりであったと認められる。
aのFの行為は,担当患者がEで受診しなかっ
た日については症例日誌に記載する必要がないと勘違いしてい
た旨をAが説明したにもかかわらず,Aに対し,「診ていなけれ
ば出さなくていいのか。」と反語を用い,Aが返答に窮している
と,叱責しているスーパーバイザーを無視する実習生などいる
わけがないことは明らかであるにもかかわらず,「無視するの
か。」と更に叱責した上,その後のAの謝罪を無視して強い口調
で「帰れ。」と重ねて叱責し,結果として本件実習の中止を示唆
したものといえる。このようなFの行為は,Aを無意味に困惑さ
せ,Aに対して一方的かつ執拗に威圧感や恐怖心,屈辱感,不安
感を与え,過度に心理的負荷を与えるものであって,本件実習に
おける指導の範囲とは評価し得ない。
したがって,Faの行為は,前記⑴アの注意義務に違
反する(以下,Faの行為を「F違法発言③」という。)。
aこれに対し,被告Dは,おおむね次のとおり主張し,Fも
おおむね同旨の供述をする(証人F調書16頁~19頁,3
0頁,31頁)。
Fは,AがFの指示に反して症例日誌に何も記載していな
かったため,Aに対して「診ていなければ担当患者の記載は
なくてもいいの?」,「どう思う?」などと何度か尋ねたとこ
ろ,Aの返答がなかったため,自分の声が聞こえていないの
かもしれないと思い,Aに対して「こっちの声聞こえてる?
こっちは返答待ってるんやけど無視してるの?」と確認した。
すると,Aが「はい,こちらの認識不足でした。いったん
学校に帰って作ってきます。」と挑戦的に答えたため,Fは,
むっとして「じゃ,帰り。」と述べた。その直後,AはEを出
て行った。
⒝被告Dの前記主張は,F報告書(乙5)及びF報告書に基
づく被告Bの状況報告書(甲5)の各記載内容に沿うもので
ある(前記1)。しかし,F報告書(乙5)及び被告B
の状況報告書(甲5)は,いずれもAの自殺が判明した後,
Aの遺族に対する報告書とする趣旨で作成されたものであ
る上(前記1),AがFから痛覚検査の中止を指示さ
れたのは平成25年11月12日であるにもかかわらず(前
記1),同月14日のできごととして同月15日の欄に記
載され,学校に帰る旨のAの発言について「(と言う感じの
発言があったと思います。)」と記憶が曖昧であることを示す
記載がされているなど(前記1),その記載内容の正確性
には疑問があるため,前記各報告書の記載内容を採用するこ
とはできない。
また,AがCへ帰る旨を言い出したとの点は,Fが帰れと
述べていた旨が記載された顚末書(甲6)やA及びNのメー
ル(甲20の3~5,35の2③)の各記載内容(前記1,
),K報告書(乙4)の同日の欄に,「実習指導者から帰る
ように言われ」との記載や,
同日以前にはFが学生の発言を無下にするような発言や「帰
れ。」のような発言をしていたことを裏付けているといえる
記載があること(前記1)と整合しない。
さらに,被告Dの前記主張によれば,Aは,Fから症例日
誌に記載がないことを指摘されていたにすぎず,調査等のた
めにCへ帰るように言われていたわけでもないため,Cへ帰
る必要性が全く生じていなかったにもかかわらず,理由なく
Cへ帰る旨を言い出したことになるが,そのような事実経緯
は不自然といわざるを得ない。
したがって,被告Dの前記主張は,採用できない。
bまた,被告Dは,Fが「帰れ。」と述べたとの原告の主張は
Fが焦っていたことと整合しない旨を主張する。
しかし,Fの当該反応は,Fが実習中止を恐れて帰りたくと
も帰れない状況にあるAが実際に帰ることはないだろうと予
想していたのに,これに反する状況になったためと考えられ,
FがAに対して「帰れ。」と述べた旨の原告の前記主張と矛盾
する事実ではないし,Fが「帰れ。」と述べていないことを裏
付ける事実でもないというべきである。
したがって,被告Dの前記主張は採用できない。
エ平成25年11月27日の行為について
前記認定事実のとおり,以下の事実が認められる(前記1)。
Fは,同日,Aに対し,10分後にEの隣にある接骨院で受診
する予定がある担当患者に対して6分間歩行検査を実施するよ
う指示した。Aは,6分間歩行検査を実施したものの,実際には,
同検査を終えてEに戻るまでに15分程度かかってしまったた
め,前記接骨院のスタッフ及びFが周囲を探し回る事態となった。
Fは,戻って来たAに対し,「何してたんや?みんな探してた
んやで。」と述べたところ,Aが「SpO2の測定に手間取って
しまいました。すいません。」と謝罪したため,Aに対し,「接骨
院のスタッフも探し回ってくれてたから,一言謝っとき。」と述
べた。
原告は,Fが前記⑴アの注意義務に違反する
ものである旨を主張する。
しかし,担当患者につき10分後に接骨院で受診する予定があ
ったとしても,同接骨院がEの隣に所在しており,6分間歩行検
査が6分間で終了する検査が予定されているものであることか
らすれば,実習生であるAの技能が未熟であることを考慮しても,
Fの前記指示が不可能を強いるような不合理なものであるとは
いえない。また,結果的に前記接骨院のスタッフに対して担当患
者及びAを探し回るという一定程度の負担を掛けてしまったこ
とは事実であるから,Fが同スタッフに対する謝罪を指示したと
しても,通常の指導の範囲というべきである。その他,Fの前記
Aに対し,過度に身体的・心理的負荷を与え
たものと評価すべきものは見当たらない。
したがって,Fアの注意義務に違反
するものとはいえないから,原告の前記主張は採用できない。
オ平成Y年Y月Y日の行為について
前記認定事実のとおり,以下の事実が認められる(前記1)。
Fは,平成Y年Y月Y日の朝,Eに到着して間もないAに対し,
症例発表の資料ができたかを尋ねたところ,Aは,資料はできた
が資料のデータ及び同データを修正するためのパソコンを忘れ
た旨を答えた。Aがすぐに「家に取りに帰ります。」と述べたも
のの,Fは,Aに対し,同日午前中に持参した資料を見直すこと
を指示した。
Fは,同日昼頃,Aの作成した発表用資料(甲18)を確認し,
Aに対し,①空白箇所が多いため,検査内容や評価内容をより多
く書くこと,②歩行観察の内容が少なく,なぜ担当患者にとって
歩行が重要なのかが説明できていないこと,③歩行の持久性につ
いて客観性が乏しく,検査内容が活かされていないことを指摘し
た。
その後,Aは,同日午後1時頃にEを出たまま行方不明となっ
た。
これに対し,原告は,FがAに対して症例レジュメの加筆修正
を具体的な説明や指導のないまま指示したことが前記⑴アの注
意義務に違反する旨を主張する。
Fはいくつかの点について一定程度
具体的に指導していることが認められる。また,同指導は,Aに
対して過度の心理的負荷を与えるものとは認められない。
したがって,原告の前記主張は採用できない。
カAの学習時間について
前記認定事実によると,AがEにおける本件実習に要した時
間は,月曜日,水曜日及び金曜日は1日当たり少なくとも約9時
間であり,火曜日,木曜日及び土曜日は1日当たり少なくとも約
5時間であるから(前記1),1週間当たり少なくとも約42
時間であると認められる。また,Aが症例日誌等のデータファイ
ルの作成に要した時間は,1日当たり平均約4時間であるから
(前記1),1週間当たり平均約28時間であると認められる。
そうすると,本件実習におけるAの学習時間は,1週間当たり
平均約70時間となっていたというべきである。
ところで,前記認定事実(前記1⑴),証拠(甲69,70)
及び弁論の全趣旨によると,平成11年に定められた厚生省指導
要領(甲71)の「臨床実習については,1単位を45時間の実
習をもって構成することとし,実習時間の3分の2以上は病院又
は診療所において行うこと。」との規定は,理学療法士養成施設
に対し,臨床実習における学習時間を1週間当たりおおむね45
時間以内とするよう求めるものであることが認められる。このよ
うに厚生省指導要領(甲71)が臨床実習における学習時間を制
限した趣旨は,臨床実習によって学生が受ける平均的な疲労や心
理的負荷等を考慮し,臨床実習における長時間の学習によって学
生が過度の疲労や心理的負荷等を蓄積し,その心身の健康を損な
ってしまうことのないように,学生を保護することにあると解さ
れる。このような厚生省指導要領(甲71)の規定の趣旨やAの
自宅での作業時間が深夜や早朝に及んでいたこと(前記1)に
照らすと,前記のとおり1週間当たり平均約70時間という前記
厚生省指導要領(甲71)の基準を大幅に超えるAの学習時間は,
質的・量的に過重なものであったことは明らかである。
臨床実習を指導する立場であるFは,Aに対し,具体的な作業
時間や睡眠時間等の確認を行うなどしてその学習時間の実情を
把握し,それが質的・量的に過重なものとなっていないかを検討
し,それが過重な場合には改善するための指導をするべきであっ
たにもかかわらず,Aに対して前記確認すらしたことがなかった
のであるから(前記1),前記⑴アの注意義務に違反したと認
められる(以下,Aの学習時間が質的・量的に過重なものであっ
たにもかかわらず,Fが実情を把握せず改善するための指導をし
なかったことを,「F違法行為」という。)。
これに対し,被告Dは,FがAに対して睡眠時間を確保するこ
とやレポート等が未完成であっても口頭で補えば足りること等
を伝えた上,実習課題等を減らし,1日2回行うこととなってい
たフィードバックも端的なものとするなどの配慮をした旨を主
張し,Fもおおむね同旨の供述をする(証人F調書7頁,8頁,
37頁,58頁,59頁)。
しかし,仮にFがAに対して抽象的に睡眠時間を確保するよう
伝えていたとしても,具体的な睡眠時間を確認せずにその旨伝え
るのみではAの学習時間が改善される実効性は認め難い。また,
FがAに対して実習日誌については未完成であっても口頭で補
えば足りる旨を伝えていたことは認められるものの(前記1),
前記イ及びウのとおり,平成25年11月13日や同月15日に
はAの口頭での説明を促すことなく「これはボイコットしている
のと一緒。」,「診ていなければ出さなくていいのか。」などと述べ
て症例日誌の記載がないことを厳しく非難していることからす
れば,Aが実習日誌等を作成しないことは事実上不可能であった
といわざるを得ない。さらに,Fが実習課題を減らしたことやフ
ィードバックを端的なものにした旨の前記主張については,主張
自体抽象的である上,これを裏付ける的確な客観的証拠も見当た
らない。その他,FがAの学習時間について何らかの配慮をした
ことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告Dの前記主張は採用できない。
キ小括
以上によると,本件実習におけるFのAに対する一連の行為の
うち,前記アからウまでの各行為(F違法発言①,F違法発言②,
F違法発言③。以下,F違法発言①からF違法発言③までを併せて
「F違法発言」という。)及びカの行為(F違法行為)は,いずれ
も前記⑴アの注意義務に違反する行為であると認められる。
3争点⑵(Fの違法行為とAの自殺との間の相当因果関係)について
⑴事実的因果関係について
ア前記争いのない事実等及び前記認定事実によると,Aが自殺す
るに至った経緯は次のとおりであると認められる。
Aは,平成24年の失踪事件を引き起こしたものの(前記第2
の1⑸),その後,S病院における平成24年度の第Ⅳ期臨床総
合実習を問題なく修了し,本件実習の開始前頃までの間は,少な
くとも外見上,その健康状態に病的な様子はなかったことが認
められる(前記1⑾)。
しかし,Aは,本件実習における実習施設がEに決まった平成
25年6月26日以降,KやCの同級生,N,原告に対し,Eで
の本件実習に不安がある旨を述べるようになった(前記1
)。
本件実習の開始後,Aは,学習時間が質的・量的に過重であっ
たにもかかわらず,F違法行為により,それが改善されず(前記
,原告に対してFとの関係で悩んでいる旨を,Cの同
級生に対して本件実習が楽しくない旨をそれぞれ述べるように
なった(前記1)。そして,Aは,更にF違法発言を受け
たことにより,精神的に落ち込み,しょうすいした様子となり,
背中等の痛みを訴えるようになるなど(前記1,,),疲
労や心理的負荷等が過度に蓄積して,Aの心身が病的状態になっ
たといえる。周囲からまじめで優秀と評価されているAが,同年
11月15日に,本件実習中に,突然,実習用の白衣を着たまま
Eを勢いよく走って出て行くという異常行動をとってしまった
のは(前記1⑹,),前記のとおり疲労や心理的負荷等が過度
に蓄積したことにより,Aが病的な精神状態となっていたことを
端的に裏付けているというべきである。
このような本件実習におけるAの状況について,同日から自
殺する前日であるY月Y日までの間に改善されたことを裏付け
る的確な証拠はない。かえって,Aが送信した平成25年11月
21日付けのKに対するメールに「今日も叱られましたが,どう
にか続いています。」と記載されていたこと(前記1)や同月
24日付けのCの同級生に対するメールに「なんかもう,毎日気
を使い過ぎて,よう分かりませんわ…しかもまだ折り返しじゃ
ないしなー」と記載されていたこと,自宅でもしょ
うすいし又は呆然とした様子であったこと等からす
ると,同月15日からY月Y日までの間についても,Aに対して
それ以前と同様の身体的・心理的負荷が過度に掛かり続けてお
り,又は少なくともF違法発言及びF違法行為の影響は除去さ
れていない状況であったと推認できる。
そして,前記のとおり病的な精神状態となっていたAは,本件
実習における症例発表の準備作業を思うように進められなくな
り,症例発表の当日においてもFから発表資料の再検討を指示さ
れる状況で症例発表の本番を迎えてしまったこと(前記1)を
契機として,自殺を決意するに至ったものと認められる。
イ以上の経緯によると,Aが自殺するに至った最大の原因は,本
件実習におけるF違法発言及びF違法行為であったと認められる
から,F違法発言及びF違法行為とAの自殺との間には,事実的
因果関係があると認めるのが相当である。
ウこれに対し,Mは,本件遺書の記載内容からするとAは臨床実
習における問題点抽出という作業が苦しくなって自殺したと思わ
れる旨を供述する(証人M調書16頁)。
しかし,Aが平成24年度のS病院における第Ⅳ期臨床総合実
習を問題なく修了していることからすれば,Aは仮に臨床実習に
おける問題点抽出という作業が苦しくなったとしても,スーパー
バイザーや実習担当教員等の適切な指導を受ければこれを克服す
る能力があったというべきであるから,臨床実習における問題点
抽出という作業が苦しくなったことのみ,またはそれが最大の原
因になりAが自殺に至ったとは認められない。また,本件遺書には
臨床実習における問題点抽出の作業が苦しいため自殺する旨の明
確な記載はない上,自殺者が自殺の原因となった事情を遺書に必
ず記載する旨の経験則は認められないから,遺書の記載内容は自
殺の原因を推認するための間接事実の一つになり得るとしても,
その他の一切の間接事実を無視して遺書の記載内容のみを重視す
ることはできない。
したがって,Mの前記供述は,採用できない。
⑵相当因果関係
ア前記⑴のとおり,AはF違法発言及びF違法行為が原因となっ
て自殺するに至ったものと認められるところ,FがAの死亡結果
について不法行為に基づく損害賠償責任を負うといえるためには,
更にF違法発言及びF違法行為とAの死亡結果との間に相当因果
関係があると認められる必要がある。
ところで,F違法発言及びF違法行為は,Aの身体に対する直接
的な暴行等とは異なり,Aの死亡結果を通常生じさせるものとま
ではいえないから,Aの死亡結果は,F違法発言及びF違法行為に
よってAが自殺を決意するという特別の事情が介在することによ
って生じたものというべきである。
そうすると,F違法発言及びF違法行為とAの死亡結果との間
の相当因果関係があるといえるためには,Fにおいて,Aの自殺に
ついての予見可能性があったと認められる必要があるというべき
である。
イ前記認定事実によると,Fは,遅くとも本件実習が開始される
平成25年11月5日までには,Cの学生(Fの同級生)が臨床総
合実習中に実習施設のスーパーバイザーから過度に心理的重圧を
与えるような発言をされたこと等を原因として失踪し,自殺した
事件(平成20年の自殺事件)を認識していたのであるから(前記
,臨床実習中の実習生はスーパーバイザーから過度に心理的
重圧を与えるような発言をされた場合には,失踪して自殺に至る
場合があることを十分に認識していたといえる。
また,Fは,Aについて,疲労がたまると記憶が失うことがある
ことや,実際に,本件実習が開始されるわずか約1年2か月前,第
Ⅲ期臨床総合実習において睡眠不足となったため,心身が病的状
態となり,記憶を失って失踪したこと(平成24年の失踪事件)を
把握した上(前記1,),Aが自己を追い詰めやすい性格であ
るため,本件実習による負荷が掛かり過ぎないように配慮しなけ
ればならない旨を認識していたのであるから(前記1),Aにお
いて本件実習に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積された場合
には,Aが記憶を失って失踪してしまうなどの病的な精神状態と
なるおそれがあることを認識していたといえる。なお,この点につ
いて,Fは,Aの心身の健康状態に関するより詳細な事情等が記載
された本件診療情報提供書及び事情説明書(甲8)の内容を確認し
ていないものの(前記1),平成25年8月頃や同年11月5日
にKやAから平成24年の失踪事件について聞いた際に,実習生
に係る安全配慮義務を負うスーパーバイザーとして,KやAに対
し,より詳細かつ具体的な事情の開示を求めることは容易であっ
たといえるから,前記各書面に記載された事情等も認識できたと
いうべきである。
そして,Fは,自らAに対し,F違法発言を行っていたのである
から,過度の心理的負荷を与えるF違法発言の内容を当然に認識
していたといえる。また,Aが症例日誌等の作成に要している具体
的な作業時間やAの具体的な睡眠時間は,Aに対してこれらを具
体的に確認すればすぐに認識できるものである上,遅くとも平成
25年11月15日には,Aが,突然,実習用の白衣を着たままE
を勢いよく走って出て行ってしまうという外部から容易に認識で
きる異常行動をみせていたことからも(前記1),Aに対して過
度の身体的・心理的負荷が掛かっていることを容易に認識できた
といえるのであるから(なお,Nが同日にAに対して「自分を追い
詰めたらダメですよ」と記載されたメールを送信していること(前
は,前記認識が容易であったことを裏付けているといえ
る。),Aの具体的な作業時間等を確認すべき契機もあったという
べきである。
以上のようなFの認識等を考慮すると,Fは,F違法発言の時点
において又はAが自殺する直前(F違法行為の最終日)までに,平
成20年の自殺事件と同様にAが自殺に至ってしまうことを予見
することができたと認めるのが相当である。
ウこれに対し,被告Dは,本件実習当時,Aには抑うつ症状を疑わ
せる特異な言動がなかったため,FはAの自殺を予見し得なかっ
た旨を主張する。
しかし,Aの自殺についての予見可能性を認めるためには必ず
Aの抑うつ症状が認められなければならないというわけではない
上,前記イのとおり,Aが自殺を決意するかもしれないことを疑わ
せる事情が存在し,Fがこれらを認識し,又は一般人の通常の注意
を払いさえすればFがこれらを認識できたといえることから,被
告Dの前記主張は,FがAに対する配慮を欠いていたことを意味
するにすぎない。
したがって,被告Dの前記主張は,採用できない。
4争点⑶(被告Dの使用者責任)について
前記2及び3で認定説示したとおり,Fは,Aに対し,本件実習に
伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積してAの心身の健康を損なうこ
とがないよう注意すべき義務に違反したことにより,Aの死亡につい
て不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)を負うところ,前
記争いのない事実等及び前記2によると,Fは被告Dの被用者であっ
て(前記第2の1),F違法発言及びF違法行為は理学療法士養
成施設の実習生の指導という被告Dの事業の執行についてされたもの
といえる。
したがって,被告Dは,Aの死亡について,民法715条1項に基
づく損害賠償責任(使用者責任)を負う。
Dの安全配慮義務違反)については,被告Dが
前記損害賠償責任を負うことから,判断は不要である。
5争点⑸(被告Bの安全配慮義務違反)について
⑴安全配慮義務の存在について
アa被告Bは,理学療法士養成施設であるCの経営者として,同
校の学生に対し,在学契約に基づき,その教育活動によって当
該学生の生命,身体,精神及び財産等に危害が及ぶことのない
ように,被告Bにおいて具体的に予見できる危険から当該学生
の生命,身体,精神及び財産等を保護し,その安全に配慮すべき
義務(安全配慮義務)を負うと解すべきである。
bまた,前記認定事実(前記1⑴),証拠(甲69,70)及び
弁論の全趣旨によると,平成11年に定められた厚生省指導要
領(甲71)の「臨床実習については,1単位を45時間の実習
をもって構成することとし,実習時間の3分の2以上は病院又
は診療所において行うこと。」との規定は,理学療法士養成施設
に対し,臨床実習における学習時間を1週間当たりおおむね4
5時間以内とするよう求めるものであることが認められる。こ
のように厚生省指導要領(甲71)が臨床実習における学習時間
を制限した趣旨は,臨床実習によって学生が受ける平均的な疲
労や心理的負荷等を考慮し,臨床実習における長時間の学習に
よって学生が過度の疲労や心理的負荷等を蓄積し,その心身の
健康を損なうことのないように,学生を保護することにあると
解される。
このような厚生省指導要領(甲71)の前記規定の趣旨からす
ると,被告Bは,前記安全配慮義務の内容として,Cの学生に対
し,臨床実習における学習時間が1週間当たりおおむね45時間
以内となるように注意すべき義務を負うと解すべきである。
cさらに,被告BがCの学生に対して前記安全配慮義務を果た
すためには,Cの教員が,当該学生の情報を適切に引き継ぎ,当
該学生の実習施設や実習時期を適切に選択し,当該学生や実習
施設との間で適切な環境調整や情報共有等を行うことが不可欠
である。
そうすると,被告Bは,前記安全配慮義務の内容として,Aの
情報を平成25年度の担任教員であるKに対して適切に引き継
ぐべき注意義務,Aの実習施設や実習時期を適切に選択すべき注
意義務及び本件実習の開始前後を通じてAの実習環境の調整や
Eとの情報共有等を適切に行うべき注意義務を負うと解するの
が相当である。
イこれに対し,被告Bは,Aが本件実習当時39歳の社会人経験
者であったこと,本件実習前にはAに異常な言動が見られなかっ
たこと,本件診療情報提供書の記載内容,Cのカリキュラムの決
定権限が被告Bにあること,本件実習前のAの様子等からすると,
前記アの安全配慮義務及びその内容としての前記アの各注意義務
は存在しない旨を主張する。
しかし,前記の各事情の存在のみをもって,被告Bがその教育活
動によってAの生命,身体,精神及び財産等に危害が及ぶことを放
置してもよいことにはなり得ない。
したがって,被告Bの前記主張は採用できない。
⑵予見可能性について
ア前記⑴アの注意義務の前提となる予見可能性は結果に対するも
のであるから,被告Bの前記⑴アの注意義務違反を問うためには,
被告Bにおいて,注意義務違反の行為をした時までに,Aの自殺
についての予見可能性があったといえる必要があると解される。
イa前記認定事実によると,被告Bは,平成20年の自殺事件を
同事件の当事者として認識していたのであるから(前記1⑵),
臨床実習中の実習生は,スーパーバイザーから過度に心理的重
圧を与えるような発言をされた場合には,失踪して自殺に至る
場合があることを十分に認識していたといえる。
また,被告Bは,Aについて,平成24年の失踪事件を引き起
こしたことや,心療内科・精神科・神経科の専門医であるR医師
によって精神疾患であるZが生じた疑いがある旨の診断がされ,
臨床実習における負荷が過度にならないよう相談しながら進め
ていくべきである旨の意見が述べられていたことを認識してい
たのであるから(前記第2の1⑸,前記1⑽),臨床実習におい
て,Aの疲労や心理的負荷等が過度に蓄積された場合には,Aが
記憶を失って失踪してしまうなどの病的な精神状態となるおそ
れがあることを認識していたといえる。
さらに,Kは,平成25年11月14日に,Aから,同月13
日にFによって帰らされかけたが謝罪してどうにか帰らずに済
んだことや,Eが予想どおりプレッシャーの強い環境であること,
気を遣い過ぎて思うように考えられないこと等が記載された,F
違法発言をうかがわせるメールを受け取った上(前記1),同
月15日には,Aが,実習用の白衣を着たまま,突然,Eを走っ
て出て行ってしまうという異常行動を取ったことを認識し(前記
1),同日のAとの面談の際にF違法発言の経緯が記載さ
れたA作成の顚末書(甲6)を受け取ったこと(前記1)から
すると,被告Bは,どんなに遅くとも同日までには,Aに対して
過度の心理的負荷を与えることが明らかなF違法発言の存在を
認識することができたというべきである。また,KがAからその
具体的な学習時間を聴取することについては何らの障害もない
から,被告Bは,本件実習の開始後,いつでもF違法行為を認識
することができたといえる。
そうすると,被告Bは,遅くとも同月15日までには,F違法
発言及びF違法行為によってAの疲労や心理的負荷等が過度に
蓄積されていることを認識することができたと認められるから,
遅くとも同日までには,平成20年の自殺事件と同様にAが自殺
に至ってしまうことを予見できたというべきである。
b他方,前記認定事実によると,Cの一部の教員がEにおいて厳
しい指導がされているとの認識を有していたことが認められる
ものの(前記1⒆),同認識における厳しさの内容すら抽象的な
ものにとどまり,EにおいてF違法発言やF違法行為に類する
違法行為が常態化していたことまでを裏付ける的確な客観的証
拠は見当たらない。
この点に関し,Iは,Cにおいては,本件実習の開始前に,E
について,学生に対して「帰れ」という言葉を多用するなどのパ
ワハラ行為が横行しているため,学生がスーパーバイザーとの間
で信頼関係を築くことが困難な実習施設であるとの認識があっ
た旨を供述する(証人I調書13頁,20頁,21頁,23頁~
25頁,37頁,50頁,51頁)。しかし,Iの前記供述を裏
付ける的確な客観的証拠が見当たらない上,仮にCにおいてIの
前記供述のような共通認識があったのであれば,CからEに対し
て是正の申入れがされ,又はその実習施設としての適格性が検討
されるはずであるにもかかわらず,Eについて問題意識を持って
いたと供述するIすら具体的な検討や対策をしたという明確な
記憶がなく(証人I調書21頁,49頁),平成25年6月26
日にAから本件実習におけるAの実習施設としてEが選定され
たことを聞いた際にも頑張れと述べただけであること(証人I調
書14頁)は不自然といわざるを得ないため,Iの前記供述は採
用できない。
そうすると,仮に被告BがE等に対する適切な調査をしていた
としても,本件実習の開始前においては,被告BがF違法発言及
びF違法行為を認識又は予見することは不可能であったという
べきであるから,Aの自殺についても予見することができなかっ
たと認めるのが相当である。
cしたがって,被告Bは,本件実習の開始前にはAの自殺を予見
することができなかったものの,本件実習の開始後,遅くとも平
成25年11月15日までには,Aの自殺を予見することがで
きるに至ったと認めるのが相当である。
ウこれに対し,被告Bは,①本件診療情報提供書には,Aについて
「現在の負荷が減った状態では,病的と判断される精神状態は認
められません。」と記載されていたこと,②Aは,平成24年度の
第Ⅳ期臨床総合実習を問題なく修了したこと,③本件実習の開始
前には,Aに異常な言動がなかったこと,④AとFとの関係は,平
成25年11月15日にKがFに対して電話を掛けた後に改善さ
れたこと,⑤Aは,同月27日及び同月28日,Kに対し,本件実
習の課題についての相談をしたものの,Eにおいていじめを受け
ているなどの相談はしていないこと,⑥Aと同居する原告は,A
が自殺するまで,Aが自殺してしまうかもしれないとの危惧を有
していなかったことから,Aの自殺を予見することは不可能であ
った旨を主張する。
しかし,本件診療情報提供書にZの疑いがある旨が記載されて
いるのであるから,Aが精神疾患を有している疑いがあることは
明らかである上,平成24年の失踪事件からわずか約1年2か月
しか経っていないことや臨床実習における負荷が過度にならない
ように相談しながら進める必要がある旨のR医師の意見を考慮す
ると,前記①から③までの事情を重視することは相当ではない。ま
た,前記④の事実を認めるに足りる証拠は見当たらず,かえってA
が平成25年11月21日にKに対して「今日も叱られましたが,
どうにか続いています。」と記載されたメールを,同月24日にC
の同級生に対して「なんかもう,毎日気を使い過ぎて,よう分かり
ませんわ…しかもまだ折り返しじゃないしなー」と記載されたメ
ールをそれぞれ送信していることからすると(前記1,),A
とFとの関係は同月15日以降も改善されていなかったことが推
認できる。さらに,AがKに対してEにおいていじめを受けている
旨の相談をしておらず(前記⑤),原告においてAの自殺を危惧し
ていなかったとしても(前記⑥),前記イのとおり,被告Bにおい
ては,本件実習の開始後,遅くとも平成25年11月15日までに
は,Aの自殺を予見することができるに至ったと認められる。
したがって,被告Bの前記主張は採用できない。
⑶安全配慮義務に違反したかについて
アKへの引継ぎについて
原告は,Aの平成25年度の担任教員であるKへの引継ぎに
ついて,Aの平成24年度の担任教員であるJから「あとは実習
の方をよろしくね。」と述べられただけで,平成24年の失踪事
件に関するAの精神状態や心理的負荷が高まった原因等のAに
関する具体的事情についての引継ぎがされなかったことは,A
の情報を担任教員であるKに対して適切に引き継ぐべき注意義
務に違反する旨を主張する。
前記認定事実によると,Kは,Aの担任教員となることが決ま
った際,Jからの引継ぎとしては,Kの担当する全学生(Aを含
む。)について1行又は2行程度の概要が記載された一覧表を受
領したにすぎず,学生のプロフィールが記載された個人票すら
活用されなかったことが認められる(前記1⒀)。
しかし,原告の前記主張は,要するに,被告BはKに対して「平
成24年の失踪事件に関するAの精神状態や心理的負荷が高ま
った原因等のAに関する具体的事情」を認識させておくべきであ
った旨を主張するものにすぎず,これを必ずJをして認識させな
ければならない旨まで主張するものではなく,また,前記「Aに
関する具体的事情」は,本件診療情報提供書及び事情説明書(甲
8)の内容から推認できる限りのものでしかないと解される。
そこで,Kが認識していた具体的事情について検討するに,前
記認定事実によると,Kは,平成24年度からCに教員として勤
務しており,遅くともAの実習施設を選定する前である平成25
年6月頃までには,Aが平成24年の失踪事件を引き起こしたこ
と並びに本件診療情報提供書及び事情説明書(甲8)の内容を既
に認識していたことが認められる(
⒃)。そうすると,Kは,遅くとも平成25年6月頃までには,
Jからの引継ぎという形ではないものの,原告の前記主張に係る
「Aに関する具体的情報」を認識していたといえるから,被告B
がAの情報を担任教員であるKに対して適切に引継ぐべき注意
義務に違反したと認めることはできない。
したがって,原告の前記主張は採用できない。
イ実習施設及び実習時期の選定等について
原告は,被告Bが,Aの精神状態等を確認しないまま,本件実
習におけるAの実習施設を選定したこと及びAの本件実習の開
始時期を平成25年11月頃と選定したことは,Aの実習施設
や実習時期を適切に選択すべき注意義務に違反する旨を主張す
る。
実習施設の選択について
aCにおける学生の実習施設の選定は,基本的には同校の教育
活動の一部としてその裁量に属する行為であるから,被告Bが
Aの実習施設を適切に選択すべき注意義務に違反したといえ
るのは,CにおけるAの実習施設の選択の過程・内容が著しく
不合理なものであった場合に限られるというべきである。
前記認定事実によると,本件実習におけるAの実習施設は,
HがEを選択し,その後,Cの教務会議において異議等が出な
かったため,Hの前記選択のとおり決定されたものであるとこ
ろ(前記1),Hは,Aの実習施設としてEを選択
する際,①Fのまじめで熱心な指導が期待できたこと,②Eが
Aの自宅から通える距離にあったこと及び③Aの同級生のN
がいること,④本件診療情報提供書及び事情説明書(甲8)の
内容を考慮したこと(前記1⒇)が認められる。そうすると,
被告Bは,前記①から④までの各事情を考慮して,Aの実習施
設をEと選定したといえるところ,これらの点のみでいえば不
合理なところはない。
しかし,被告Bは,Aについて,平成24年の失踪事件を引
き起こしたことや,心療内科・精神科・神経科の専門医である
R医師によって精神疾患であるZが生じた疑いがある旨の診
断がされ,臨床実習における負荷が過度にならないよう相談し
ながら進めていくべきである旨の意見が述べられていたこと
を認識していたのであるから(第2の1⑸,前記1⑽),Aの
実習施設の選定に際し,Aの直近の健康状態や実習施設につい
ての意向等を確認・検討することが不可欠であったというべき
である。それにもかかわらず,被告Bは,Aとの面談を実施せ
ず,前記各事情を確認しなかったばかりか(前記1),本件
診療情報提供書及び事情説明書(甲8)の内容について具体的
に分析し,検討した形跡すら見当たらない。
そうすると,CにおけるAの実習施設の選択の過程は著しく
不合理であったといえる。
bもっとも,前記⑵のとおり,被告Bは,本件実習におけるA
の実習施設の選択の時点においては,Aの自殺を予見すること
ができなかったと認められるから,被告BがAの実習施設を適
切に選択すべき注意義務に違反したと認めることはできない。
実習時期の選択について
前記争いのない事実等によると,被告Bは,Aの本件実習の開
始時期を平成25年11月頃と選定したことが認められる(前記
第2の1⑹)。
しかし,Aが本件実習と同様の時期である平成24年11月5
日に開始された平成24年度の第Ⅳ期臨床総合実習を問題なく
修了していること(前記1⑾)や,被告Bが,Aに対し,休学明
けとなる平成25年8月下旬頃から同年10月末頃までの間に,
Cにおいて,臨床総合実習に備えるための指導をしていること
(前記第2の1⑹)からすると,Aの本件実習の開始時期を平成
25年11月頃と選定したことが不合理であるとはいえない。ま
た,前記⑵のとおり,被告Bは,本件実習の開始時期の選択の時
点においては,Aの自殺を予見することができなかったと認めら
れる。
そうすると,Aの実習時期の選択について,被告BがAの実習
時期を適切に選択すべき注意義務に違反したと認めることはで
きない。
したがって,原告の前記主張は,いずれも採用できない。
ウ実習開始前の環境調整等について
原告は,被告Bが,本件実習の開始前にEに対してAの既往症
等を開示せず,Eの訪問等を行わなかったことは,本件実習前に
AのEとの間の適切な環境調整や情報共有等を行うべき注意義
務に違反する旨を主張する。
前記認定事実によると,Kは,本件実習の開始前に,Fに対し
て電話を掛け,Aがまじめで一つのことを思い詰めやすい性格
であること,平成24年の失踪事件を引き起こしたため平成2
4年度の臨床実習が中止となったこと,本件実習においては様
子を見ながら指導して欲しいことを伝えたものの,心療内科・精
神科・神経科の専門医であるR医師によって精神疾患であるZ
が生じた疑いがある旨の診断及び臨床実習における負荷が過度
にならないよう相談しながら進めていくべきである旨の意見が
記載された本件診療情報提供書やAの平成24年の失踪事件の
経緯等に関するAの自己分析等が記載された事情説明書(甲8)
等を開示するなどせず,Aの健康状態に関するより詳しい事情
について伝えなかったことが認められる(前記1)。このよう
なKのFに対する連絡は,Aの健康状態について不安があるこ
とを抽象的に伝えるものにすぎないから,Eにおいて具体的に
どのような点についてどのように気を付けるべきかの検討・判
断に資するものとはいえない。
また,本件診療情報提供書の内容等はAのプライバシーに関す
る情報といえるものの,Aから同意を得て開示すれば何ら問題が
ないにもかかわらず,被告Bは,Aに対し,情報開示に関する意
思の確認すらしていない。
そうすると,被告Bが本件実習の開始前にEに対して行った環
境調整や情報共有等は,不十分なものであったというべきである。
しかし,前記⑵のとおり,被告Bは,本件実習の開始前の時点
においては,Aの自殺を予見することができなかったと認めら
れるから,被告Bが本件実習前にAの実習環境の調整やEとの
情報共有等を適切に行うべき注意義務に違反したと認めること
はできない。
したがって,原告の前記主張は採用できない。
エ実習期間中の環境調整等について
Aの学習時間は,1
週間当たり平均約70時間という厚生省指導要領(甲71)の基
準を大幅に超えるものとなっており,Aの自宅での作業時間も
深夜や早朝に及んでいたことから,質的・量的に過重なものとな
っていたことは明らかである。
それにもかかわらず,被告Bは,Aに対し,具体的な作業時間
や睡眠時間等の確認すらしたことがなかったのであるから,被告
Bが臨床実習における学習時間が1週間当たりおおむね45時
間以内となるように配慮すべき義務に違反したと認められる。
次に,前記⑵のとおり,被告Bは,本件実習の開始後,遅くと
も平成25年11月15日までには,F違法発言及びF違法行
為によって疲労や心理的負荷等が過度に蓄積していたAが自殺
を決意することを予見できるようになったと認められる。そう
すると,被告Bは,遅くとも同日以降,K又はその他のCの教員
においてAやFとの面談等を実施するなどしてF違法発言及び
F違法行為の経緯を具体的に調査・確認した上で,これらの違法
行為の影響を除去し,又は更なる違法行為を防止するために,E
への申入れ等の対応策を検討・実行し,仮にEにおける本件実習
の継続が困難である場合には実習施設の変更等の対応策を検
討・実行して,Aの実習環境の調整やEとの情報共有等を適切に
行うべきであったといえる。
しかし,被告Bが,同日以降,Cにおいて組織的に何らかの対
応をしたことを認めるに足りる証拠はない。また,被告BからA
の対応を一任されていたといえるKにおいても,①同日,Eから
突然出て行ってしまうという異常行動をしたAに対し,周囲から
まじめで優秀と評価されているAがFの声を聞き取りづらいと
の理由だけで前記異常行動に至るとはおよそ考え難いにもかか
わらず,Fに気を遣い過ぎないようにすべきである旨を助言した
後,Fに対して電話を掛け,AがFの声が小さいため聞き取りづ
らいと述べている旨を伝えるにとどまるなど(前記1),Aの
実習状況について本質的な改善に資するとはいえない対応をし
たほか,②同月21日に,「今日も叱られましたが,どうにか続
いています。」という実習環境が改善されていないことを示唆す
るAのメールに対し,実習環境の変化の有無の確認すらしないま
ま,「本日もお疲れ様でした。大変かと思いますが,応援してい
ます。」という何ら具体性のない返信をし(前記1),③同月2
2日にF違法発言やF違法行為を行った本人であるFからAの
同日時点の様子のみを聴取し(前記1),④同月27日及び同
月28日にAに対して本件実習の課題についての技術的な助言
や本件実習の進捗状況についての助言をしたにすぎず(前記1
),F違法発言やF違法行為について具体的に調査・確認し,
その具体的な対応策を検討しようとしたことをうかがわせる事
情は見当たらない。
以上によると,被告Bは,本件実習の開始後(本件実習の期間
中)にAの実習環境の調整やEとの情報共有等を適切に行うべき
注意義務に違反したと認めるのが相当である。
これに対し,被告Bは,KがAからのメールや電話による相談
に応じていたこと,平成25年11月15日にはAとの面談を
実施し,Fに対して電話を掛けてAからの要望を伝えたこと,同
月22日にもFへ電話を掛けてAに特に問題がないことを確認
したこと,同年12月4日にはEを訪問することを予定してい
たことから,前記注意義務違反は認められない旨を主張する。
しかし,前記のとおり,Kの対応については,F違法発言や
F違法行為について具体的に調査・確認し,具体的な対応策を検
討したものとはいえず,仮にKが同年12月4日にEを訪問する
ことを予定していたとしても,同面談の目的がF違法発言やF違
法行為に関する環境調整等であったことを認めるに足りる証拠
はないから,被告Bの主張する前記各事情は前記結論を左右しな
いというべきである。
したがって,被告Bの前記主張は採用できない。
オAへの説明について
原告は,被告Bが,Aに対し,スーパーバイザーが実習生に対
して精神的苦痛を与える者ではなく,臨床実習の合否の決定権
限も有していないことを説明しなかったことは,Aの実習環境
の調整やEとの情報共有等を適切に行うべき注意義務に違反す
る旨を主張する。
しかし,スーパーバイザーが実習施設における実習指導担当
者にすぎず,実習生に対して精神的苦痛を与える者ではないこ
とは当然であるから,これを改めて説明すべき必要性は認めら
れない。また,Aにおいて臨床総合実習の単位の認定はCの責任
により判定される旨が記載された実習指導要項(乙2)の内容を
確認したことを認めるに足りる証拠はないものの,臨床総合実
習の単位の認定権の所在の説明のみによって学生の生命,身体,
精神及び財産等に危害が及ぶおそれが生じるとは考え難い。
そうすると,これらの点について,被告Bが何らかの意味で前
記注意義務に違反したと認めることはできない。
したがって,原告の前記主張は採用できない。
カKの業務の過重性について
原告は,Kの担任教員としての経験が浅いこと,Kの担当する
学生数が近畿厚生局の指導に違反していたこと及びCの夜間部
の専任教員数が1名不足していたことから,Kの業務が過重と
なり,Aに対する適切な指導及び助言ができない状態となって
いたことは,Aの実習環境の調整やEとの情報共有等を適切に
行うべき注意義務に違反する旨を主張する。
前記争いのない事実等及び前記認定事実によると,KがCの
教員となったのは平成24年4月頃であったこと(前記第2の
1),Kが平成25年度に担任教員として担当した学生数
は近畿厚生局の指導に違反していたこと(前記1⒂)が認められ
る。また,Cは遅くとも平成20年度には設置され(前記第2の
),その夜間部における平成25年度の専任教員数は5
名であったところ(前記1⒁),同教員数は,理学療法士作業療
法士学校養成施設指定規則2条4号本文の定める基準よりも1
名不足するものであることが認められる。
しかし,Kの業務が過重であるためにAに対する適切な指導及
び助言ができない状態となっていたことやKの業務の過重性の
原因が前記のKの経験年数や担当学生数,Cの教員数であったこ
とを裏付ける的確な客観的証拠は見当たらない。
したがって,原告の前記主張は採用できない。
⑷小括
以上によると,被告Bは,本件実習の開始後(本件実習の期間中)
にAの実習環境の調整やEとの情報共有等を適切に行うべき注意義
務及び臨床実習における学習時間が1週間当たりおおむね45時間
以内となるように配慮すべき義務を怠ったと認められる(以下,併
せて「被告Bの義務違反行為」という。)。
6争点⑹(被告Bの安全配慮義務違反とAの自殺との間の相当因果関
係)
⑴事実的因果関係
ア前記3のとおり,Aは,本件実習中のF違法発言及びF違法行
為によって疲労や心理的負荷等が過度に蓄積し,病的な精神状態
となったことを最大の原因として,自殺を決意するに至ったとい
えるから,被告Bが本件実習の開始後にAの実習環境の調整やE
との情報共有等を適切に行うべき注意義務及び臨床実習における
学習時間が1週間当たりおおむね45時間以内となるように配慮
すべき義務をいずれも怠っていなければ,Aは自殺に至らなかっ
たものと認めることが相当である。
したがって,被告Bの義務違反行為とAの死亡結果との間には
事実的因果関係があると認められる。
イこれに対し,被告Bは,①Aが,平成25年11月16日からY
月Y日までの間,何ら問題なく本件実習を実施していること,②
F違法発言があったとはいえないこと,③本件遺書には臨床実習
の課題がうまくいかない旨が記載されていたこと,④Aが,同日
に予定されていた症例発表の準備を進めていたにもかかわらず,
症例発表のプレッシャーにより,Fに対し,パソコンと発表デー
タを忘れた旨の嘘を述べてEから出て行き,その後に自殺したと
いえること,⑤Aが原告を含む家族の援助をプレッシャーに感じ
ていたことからすると,Aの自殺の原因は専らAの独自の性格傾
向(年齢相当の問題解決能力の欠如)にある旨を主張する。
しかし,前記2及び5のとおり,同月16日からY月Y日までの
間もF違法行為及び被告Bの義務違反行為は継続していたと認め
られるため,仮に被告BにおいてAが何ら問題なく本件実習を実
施していると認識していたとすれば,同事実は被告BがAの実習
環境の調整やEとの情報共有等を適切に行うべき注意義務に違反
し,A等に対する事情聴取等を怠っていたことを裏付けるものと
いうほかない(前記①)。また,F違法発言の存在が認められるこ
とは前記2のとおりである(前記②)。さらに,Aが平成24年度
の第Ⅳ期臨床総合実習を問題なく修了していることからすると,
Aについて年齢相当の問題解決能力が欠如していたとは認められ
ないし(前記③),症例発表や家族の援助によるプレッシャーのみ,
又はこれが最大の原因となり自殺に至るとも考えられない(前記
④,⑤)。
したがって,被告Bの前記主張は採用できない。
⑵相当因果関係
ア前記⑴のとおり,Aは被告Bの義務違反行為によって自殺する
に至ったものと認められるところ,被告BがAの死亡について債
務不履行に基づく損害賠償責任を負うといえるためには,更に被
告Bの義務違反行為とAの死亡結果との間に相当因果関係がある
と認められる必要がある。
ところで,被告Bの義務違反行為は,Aの死亡結果を通常生じさ
せるものとまではいえないから,Aの死亡結果は,被告Bの義務違
反行為によってF違法発言及びF違法行為が放置されたたために
Aが自殺を決意するという特別の事情が介在することによって生
じたものというべきである。
そうすると,被告Bの義務違反行為とAの死亡との間には相当
因果関係があるといえるためには,被告Bにおいて,Aの自殺につ
いての予見可能性があったと認められる必要があるというべきで
ある。
イそして,前記5⑵のとおり,被告Bは,本件実習の開始後におい
て,Aの自殺を予見することができたことが認められるから,被
告Bの義務違反行為とAの死亡結果との間には相当因果関係が認
められる。
⑶小括
以上によると,被告Bは,Aの死亡結果について,不法行為に基づ
く損害賠償責任を負う。
7争点(原告の損害)について
⑴Aの損害
ア死亡による慰謝料2800万円
Aの死亡当時の年齢,家族構成,死亡直前の稼働状況,その他本
件に現れた一切の事情を考慮すると,Aの死亡による精神的苦痛
を慰謝するための金額としては,2800万円が相当である。
イ死亡による逸失利益5402万5000円
Aは,死亡当時,満39歳の男性であり,満67歳に至るまでの
28年間にわたって稼働可能であったところ,この間,少なくとも
平成25年度賃金センサスの「産業計・企業規模計・男子労働者・
学歴計」の全年齢平均賃金の年収額である518万0500円の
収入を得ることができたと認められる。また,Aの死亡当時の年齢,
家族構成,死亡直前の稼働状況,その他本件に現れた一切の事情を
考慮すれば,生活費控除率は30パーセントとするのが相当であ
る。さらに,中間利息の控除についてはライプニッツ係数14.8
981を用いて算定すべきである。
そうすると,Aの死亡による逸失利益は,以下の計算式により,
5402万5725円と認められる。
(計算式)
518万0500円×14.8981×(1-0.3)=540
2万5725円
なお,原告は,Aの死亡による逸失利益5402万5725円の
一部である5402万5000円のみを請求しているため,Aの
死亡による逸失利益としては5402万5000円のみを計上す
る。
ウ葬儀費用150万円
本件に現れた一切の事情を考慮すると,葬儀費用として150
万円を認めるのが相当である。
エ過失相殺又は素因減額
被告Dは,Aが自殺するに至ったのは,Aが本件実習を頑張り
過ぎたこと及びAの被害妄想的性格が原因であるから,過失相
殺又は素因減額(民法722条2項類推適用)がされるべきであ
る旨を主張する。
しかし,F違法発言やF違法行為,被告Bの義務違反行為を耐
えながら本件実習を継続したAに何らかの過失があると評価す
ることは相当ではない。また,心療内科・精神科・神経科の専門
医であるR医師の診療録(乙1)にはAに被害妄想等の妄想性障
害やそれに類する症状があったことが記載されていないことか
らすると,Aが被害妄想的性格を有していたことを認めるに足り
る証拠はないといわざるを得ない。さらに,仮にAが被害妄想的
性格を有していたとしても,当該性格がAの自殺の原因となって
いたことを認めるに足りる証拠はない上,当該性格は,一般の社
会人の中にしばしば見られるものの一つであって,理学療法士養
成施設の学生の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れ
るものではないといえるから,賠償額を定めるにあたって斟酌す
べき事情とはいえない。
したがって,被告Dの前記主張は採用できない。
被告Bは,Aが自殺するに至ったのは,Aが幼少期に発症した
αが原因であるから,素因減額(民法418条類推適用)がされ
るべきである旨を主張する。
前記認定事実によると,Aは平成24年10月17日にR医師
によってαと診断されたことが認められるものの(前記1⑻),
Aのαの症状の有無,程度やこれがAの自殺にどの程度寄与した
かという点を認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告Bの前記主張は採用できない。
オ弁護士費用835万2000円
本件事案の難易,認容額その他一切の事情を考慮すると,弁護士
費用の額は,835万2000円(上記アからウまでの合計835
2万5000円の約1割)をもって相当と認める。
カ前記アからウまで及びオの合計9187万7000円
⑵原告の相続
前記争いのない事実等によると,原告はAの妻であり,その法定
Aの
被告らに対する前記⑴の損害賠償請求権の3分の2である6125
万1333円を相続したと認められる。
なお,原告の被告らに対する請求額(6125万1000円)は,
前記認容額(6125万1333円)の範囲内である。
第4結論
以上によると,原告の請求は理由があるから認容することとし,主
文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第22民事部
裁判長裁判官北川清
裁判官中出暁子
裁判官宮崎徹は,転補につき,署名押印することができない。
裁判長裁判官北川清

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