弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 申請人が被申請人から毎月後記金員の支給を受ける場合には、その支給を受け
る都度、それと引換に各支給額の四分の一に相当する金員を供託することを条件と
して、次のとおり定める。
 被申請人は申請人に対し、昭和四五年九月七日から本案判決確定に至るまで毎月
二〇日限り金一九、九二〇円ずつ(但し、昭和四五年九月は金一五、九三六円)を
仮に支払え。
二 申請費用はこれを四分し、その一を申請人の負担とし、その余を被申請人の負
担とする。
       事   実
第一 当事者双方の求める裁判
一 申請人
(一) 申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に
定める。
(二) 被申請人は申請人に対し、昭和四五年一月から本案判決確定に至るまで毎
月二〇日限り金一九、九二〇円ずつを仮に支払え。
二 被申請人
(一) 本件申請を却下する。
(二) 申請費用は申請人の負担とする。
第二 当事者双方の主張
一 申請の理由
(一) (権利の存在とこれについての争い)
1(1) 申請人は昭和四〇年四月一日被申請人(以下電々公社と略称することも
ある)に入社してその職員となつた。同四三年一月からは電々公社東京統制電話中
継所(以下東中と略称する)第二伝送部第一試験課に勤務し、市外伝送同軸ケーブ
ル保守の職務に従事していた。
(2) 申請人は昭和四四年四月一日以降、機械職二級として、被申請人から毎月
二〇日に金三三、二〇〇円の給与の支払を受けていた。
(3) 申請人は、その後刑事々件に関し起訴されたため昭和四四年一一月二〇日
被申請人から休職の発令を受けた。電々公社では、刑事々件に関して起訴されたこ
とによる休職(以下起訴休職と略称する)の発令を受けた職員は、本来の給与の六
割相当の支給を受けられることになつている。
(4) したがつて申請人は被申請人の職員であつて、被申請人に対し右休職発令
後である昭和四五年一月以降毎月金一九、九二〇円(前記三三、二〇〇円の六割相
当額)の給与の支払を求める権利を有する。
2 しかるに被申請人は、昭和四四年一二月二五日以降申請人が被申請人の職員で
あることを争い、職員として処遇しない。
(二) (保全の必要性)
 申請人は被申請人から受ける給与を唯一の収入としてこれまでその生活を維持し
て来たものである。貯えはない。なお申請人の家庭は、父親が昭和四〇年一月九日
に既に病死しており、母(五六才)、兄一人(二七才)、弟二人(二一才と一八
才)の五人家族であるが、資産は全くなく、母は包装工、兄は工員として働き、一
ヶ月合計金八〇、〇〇〇円の収入はあるものの、弟らは在学中であり、右収入をも
つてしては一家の生計を維持することができないので、一、二年前まで母子年金の
交付を受けていた程であつた。申請人は、同四四年一〇月二一日兇器準備集合罪等
の被疑事実により現行犯逮捕され、引き続いて勾留されていたところ、同四五年九
月七日にようやく保釈されたが、保釈保証金の捻出には大いに苦慮した。通学して
いた日本大学夜間部も右勾留中の授業料怠納により退学に処せられた。申請人は保
釈されて以来生活に困窮するに至つており、本案判決を待つていたのでは著しい損
害を被る恐れがある。
二 申請の理由に対する答弁
 申請の理由(一)のうち、1の(1)ないし(3)は認める。1の(4)は争
う。2は認める。(二)の事実については、申請人がその主張のとおり現行犯逮捕
され、勾留され、保釈されたことのみ認め、その余はすべて否認する。
三 抗弁
(一) 被申請人の総裁の委任を受けた関東電気通信局長Aは、申請人に日本電信
電話公社職員就業規則(以下就業規則と略称する)第五九条七号、一八号および二
〇号に該当する所為があり、かつその情極めて重いとして、所定の懲戒手続を経た
うえ、昭和四四年一二月二四日日本電信電話公社法(以下公社法と略称する)第三
三条一項、就業規則第五九条を適用して、申請人を懲戒処分として免職する旨発令
した。その辞令書は郵便で送付されて翌二五日に申請人に到達した。
 就業規則第五九条の規定は次のとおりである。
 職員は、次の各号の一に該当する場合は、別に定めるところにより、懲戒される
ことがある。
(中略)
七 職員としての品位を傷つけ、または信用を失うような非行があつたとき
(中略)
一八 第五条の規定に違反したとき
(中略)
二〇 その他著しく不都合な行為があつたとき
右一八号に引用の就業規則第五条の一項には、
「職員は、みだりに欠勤……(中略)……してはならない。」と定められている。
 なお、被申請人は申請人に対し、本件懲戒免職処分を発令すると同時に解雇予告
手当として金三七、〇〇〇円の支払を準備し、右処分の辞令書送付と同時にその旨
を申請人に通知した。
(二)1 昭和四四年一〇月二一日、いわゆる国際反戦デーといわれた当日は、社
会、共産両党、総評が中心となつて計画した「安保廃棄、沖縄の即時無条件全面返
還、佐藤訪米抗議、国会解散、ベトナム侵略反対統一行動」の集会が行われた。し
かしこれとは全く別行動として反代々木系学生ならびに反戦青年委員会の若手労働
者らの過激集団は、当日の朝から東京都内の各所で散発的なゲリラ活動を起し、夕
方から夜にかけてさらに激しい実力行動に移り、公共建造物や交通機関などを占拠
したり損壊するなどし、東京、新宿、高田馬場駅付近を中心として主要街に混乱状
態を引き起し、このため東京都内の各所においてこれら過激集団と警備に当つてい
た警視庁機動隊との間に衝突が起り、同日だけで一、二〇〇名以上の者が現行犯逮
捕された。
 当日彼らは、警察署や交番を次々に襲い、投石したりあるいは火災びんを投入し
たりした。付近の自動車に放火もした。さらにまた、彼らは国鉄の主要駅構内に乱
入し、線路上をヘルメツト、角棒姿で走りまわり機動隊と衝突を繰り返すなどし、
東京都内各地は暴徒の町ともいうべき状態になつた。投石用に割られた敷石や看板
で車は各所で立往生し、国電は午後より間引運転を行つたが、山手、中央、京浜東
北の各線は午後三時以降運行本数は平常の三分の一にまで減じ、特に山手線は一時
完全な麻ひ状態となつた。また西武新宿線をはじめとする私鉄やバスなどの運行も
同様に阻害され、東京都民に多大の迷惑を及ぼした。このような状況から当日は休
校とした学校も多く、官公庁をはじめ多くの企業が半日あるいは早退とせざるを得
ない状態であつた。なお、高田馬場駅付近から新宿駅付近にかけては、もつとも過
激行動の目立つた地域であり、中核派系反戦青年委員会が主力部隊として火災びん
の投てき、投石を行い、さらに電車や信号機を壊すなどの暴挙があつた。
 そして右の出来事は直ちに新聞、テレビ、ラジオなどで日本全国に報道された
が、前記暴力集団の行動は広く世のひんしゆくを買つた。
2 申請人は当日、江東地区反戦青年委員会のメンバーと行動をともにして過激集
団の集団暴力事件に参加し、当日午後六時ころから同六時四〇分ころまでの間、東
京都新宿区<以下略>所在国鉄山手線、西武新宿線高田馬場駅付近から同区<以下
略>所在国鉄戸山アパート西側付近線路上および同アパート敷地周辺に至る間にお
いて、多数の者が共同して投石、火炎びん投てき、殴打などにより警備の警察官ら
の身体、財産に対し危害を加える目的をもつて多数の石塊、火炎びん、角材などを
準備して集合移動した際、角材を所持して右集団に加わつた。
3 申請人は当日の行為が兇器準備集合罪等に当るものとして現行犯逮捕され、昭
和四四年一一月一二日兇器準備集合罪で起訴された。
 前記集団暴力事件で兇器準備集合罪等で逮捕され起訴された者の中に申請人ら電
々公社職員もいることは新聞等で広く報道された。
4 申請人の前記犯行は偶発的かつ単純な暴行傷害事件などとは本質的に異なる。
それは暴力集団の威力をもつて公然と公共建造物や交通機関などを占拠ないし損壊
し、公の秩序を破壊することを目的として計画的に敢行された前記集団的暴力犯罪
の一環をなすものであつて、極めて反社会的、反道徳的なものといわなければなら
ない。
 しかるに申請人は敢て前記のような非違行為に出たため、申請人自身が職員とし
ての信用を失つたばかりでなく、被申請人の信用も甚しく害され、また被申請人職
員の名誉も傷つけられた。さらに申請人の前記所為は、申請人らに同調する一部の
被申請人職員の間に秩序軽視の念を誘起させ、被申請人の企業秩序維持の面にも悪
影響を及ぼした。
5 以上の次第で申請人の前記非行は就業規則第五九条七号に該当し、かつその情
は極めて重いものである。
 就業規則第五九条七号についての申請人の後記主張はすべて争う。被申請人は国
家社会の神経系統といわれる電信電話事業の経営を国民から付託されている極めて
公共性の高い企業であり、それ故被申請人職員の職務内容、特に服務規律などにつ
いては一般私企業の場合と異なり、立法上国家公務員に近い取扱いがなされている
(公共企業体等労働関係法第一七条・第一八条、公社法第三三条・第三四条、第一
八条・第三五条、刑事訴訟法第二三九条二項・昭和二七年政令第二八七号日本電信
電話公社関係法令準用令)のであつて、したがつてこれら被申請人の業務内容およ
び性格からして、その職員の懲戒については一般私企業と同一視されるべきではな
く、国家公務員に準ずる取扱いがなされるべきものである。被申請人は右のとおり
公共の福祉に密接に関連する公衆電気通信事業を経営している公共企業体であつ
て、被申請人職員は国民の重要な基本的人権たる通信の秘密の保持ならびに通信の
安全性の確保に関与するものであるから、その職務の遂行に当つて公正誠実である
ことはもとより、職務外にあつても国民の信頼を裏切るような重大な反社会的犯罪
を犯すことは許されるものではない。そして被申請人職員が職務外においてこのよ
うな犯罪を犯した場合でも、それはその職員自身の品位を傷つけ信用を失墜するに
とどまらず、その使用者である被申請人自体の信用をも失わせるものであり、国民
からその公正さを疑われることになるのであつて、被申請人の企業秩序の維持ない
し利害に密接に関連するものといわざるを得ない。したがつて、このような場合に
は、被申請人の懲戒権の行使は当然許容されなければならないものである。
(三) 仮に、申請人の(二)の2の行為が就業規則第五九条七号に該当しないと
しても、それは同条二〇号に該当するものであり、その情については前同断であ
る。
 なお、就業規則第五九条二〇号についての申請人の後記主張は争う。
(四)1 申請人は昭和四四年一〇月二二日から同年一一月一一日までの間におい
て、出勤すべき一六日間出勤しなかつた。因みに、申請人に対するその主張の起訴
休職処分は同年一一月一二日に日付を遡らせてなされたので、同日以降は出勤しな
いことになつていた。
 申請人が右のように出勤しなかつたことには何ら正当の理由がなかつたものであ
り、しかもそれは無断でなされたものである。なお、被申請人の職員の服務におい
ては、所属長の承認を受けないで欠勤すれば、届出の有無を問わず無断欠勤として
取扱われることになつている。
2 したがつて申請人が右のように出勤しなかつたことは就業規則第五条一項の
「みだりに欠勤し」た場合に該当し、同第五九条一八号に該当するものであり、そ
の日数その他前示諸般の事情に照らせば、その情重いものである。
3 申請人主張の後記四抗弁に対する答弁(四)の2の、
(1)前段は認めるが、後段は争う。申請人は逮捕され勾留されることもあること
を十分に予想しながら敢て前記のような非違行為に及んだものである。このこと
は、申請人がその友人B(東中第二伝送部第二整備課勤務)に対し、昭和四四年一
〇月二〇日に、若し同月二二日朝申請人と連絡がとれなかつたときは申請人が逮捕
されたと思つて申請人に代つて年次有給休暇の申請をしてくれと頼んだ事実のある
ことによつても窺われる。したがつて申請人が出勤できなかつたことについて責を
負うのは当然である。
(2)後段および(3)の事実は認める。しかし申請人の休暇申請は所属長の事前
承諾なしに突然なされたものであり、被申請人は正当な業務上の支障があつたの
で、申請人申請にかかる年次有給休暇はいずれも付与しないことにした。
(五) 以上述べたとおりであるから申請人に対する本件懲戒免職処分は有効であ
り、したがつて申請人は昭和四四年一二月二五日以降被申請人の職員の地位を有し
ないものである。
四 抗弁に対する答弁
(一)1 抗告(一)の事実は認める。
2 就業規則第五九条七号の規定は、企業施設内の作業秩序の維持を本旨とする就
業規則制定権の範囲を逸脱し、職員の全人格を支配せんとするものであるから憲法
第一九条、第二一条に違反し無効である。
(二)1 抗弁(二)のうち1は不知。2は否認する。3の前段は認めるが、後段
は否認する。4は否認する。5前段は争う。
2 被申請人とその職員との労働関係に関する立法上の取扱い(公共企業体等労働
関係法第三条、第八条、第二六条ないし第三五条、第四〇条一項)からすれば、そ
の関係は一般私企業におけるそれと同一の私法関係とみるべきものである。したが
つて被申請人の有する懲戒権は支配、服従という権力関係から認められるものでは
なく、懲戒規定の存する就業規則についての被申請人とその職員との合意により認
められるものである。このような合意に基礎を置く就業規則は、一般に協力作業に
ともなう作業秩序の維持と多数労働者の労働条件を統一的、画一的に取扱うための
準則たる性格を有するものであり、これに規定される懲戒は企業秩序維持の必要か
ら使用者の指揮命令に違反した労働者に対し課される制裁である。そうだとすると
被申請人の懲戒権は企業秩序の維持には関係のない被申請人職員の企業外の私行に
は及ばないものである。仮にそれに及ぶとしても、作業秩序の観点からしてその職
員を被申請人の職員たらしめておくことが被申請人の存亡にかかわる程重大な場合
に限るものと解すべきである。しかるに被申請人の主張する申請人の行為は企業外
の私行であつて、被申請人の企業内秩序に何ら影響を及ぼすものではない。しかも
申請人は一介の平職員に過ぎず、右行為は破廉恥罪とか涜職罪というようなもので
もないから、被申請人職員全体の不名誉となつたり、被申請人の信用を傷つけたり
するものではなく、したがつてそれが就業規則第五九条七号に該当する余地はな
い。
(三)1 抗弁(三)前段は争う。
2 前述したところの懲戒権の根拠および性質、就業規則の一般的性格ならびに就
業規則第五九条一号ないし一九号が七号および一六号を除いてすべて企業施設内で
の規律違反や職務懈怠および業務に関連する非行ないし刑法上の犯罪であつて、そ
の性質上電々公社の信用や利益を明らかに害するかまたはその恐れのある行為を対
象としていることからして、同条二〇号を理由とする被申請人の懲戒権行使も、そ
の職員の被申請人内部における行為に限られるべきであり、仮に業務外の行為に及
ぶとしても、作業秩序の観点から客観点にみてその職員を被申請人の職員たらしめ
ておくことが被申請人の存立にかかわる程重大な場合に限られるものと解すべきで
ある。したがつて申請人の行為が(二)の2で述べたようなものである以上同条二
〇号に該当する余地はない。
(四)1 抗弁(四)の1については、申請人が被申請人主張の間の一六日間出勤
しなかつたことは認めるが、その余は否認する。2は争う。
2(1) 既に述べたとおり、申請人は昭和四四年一〇月二一日兇器準備集合罪等
を犯したとの嫌疑で現行犯逮捕され、引き続き勾留され、同四五年九月七日によう
やく保釈されたものであり、したがつて被申請人主張の同四四年一〇月二二日から
同年一一月一一日までの間は出勤することが不可能だつたものである。
 そして申請人に対する右逮捕、勾留は違法なものであるから、出勤できなかつた
ことについて申請人に責はない。
(2) 申請人は昭和四四年一〇月二一日現在で年次有給休暇を五日ないし一〇日
未消化のまま残していた。
 それで申請人は同年同月二二日友人B(東中第二伝送部第二整備課勤務)を代理
人として申請人の上司であるC(同部第一試験課長)に対して、同日からの四日間
の年次有給休暇の申請をした。
(3) その後申請人は、接見に来た斉藤浩二弁護士に対し休暇届の提出を依頼
し、同弁護士および前記Bによつて、同年同月三〇日申請人の当分の間休暇をとる
旨の休暇届を東中第二伝送部第一整備課長Dを経由して前記C課長に提出し、年次
有給休暇の申請をした。
(4) 被申請人が前記三抗弁(四)3で主張の事実中、被申請人が、申請人から
前記年次有給休暇の申請があつたとき、休暇を付与するにつき業務上の支障があつ
たとの点は否認する。
五 再抗弁
(一)1 申請人は、昭和四四年一〇月二一日に兇器準備集合罪を犯したものとし
て同年一一月一二日東京地方裁判所に起訴され、これによる刑事々件は目下同庁に
係属中である。
 申請人が同年同月二〇日、右のように起訴されたことにより被申請人から休職の
発令を受けたことは既に述べたとおりである。
2 ところで公社法第三二条は、職員が刑事々件に関して起訴されたため休職とさ
れた場合の休職の期間につきその事件が裁判所に係属する間と定めているが、これ
には起訴休職中の職員を、その起訴にかかる行為を理由として免職することは一切
許されないとの趣旨を含むものと解すべきである。しかるに本件懲戒免職処分は申
請人の起訴休職中に該起訴にかかる行為を理由としてなされたものであるから、同
一事由で申請人に二重に不利益を課したものであり、かつ公社法第三二条に違反す
るものとして無効である。
3(1) 申請人は、被申請人の職員をもつて組織されている全国電気通信労働組
合(以下組合と略称)の組合員である。組合と被申請人との間に、本件懲戒免職処
分がなされた当時効力を有していた労働協約として、休職の発令時期等に関する協
約(四四中約第四号ー二、以下協約というときはこれを指す)がある。右協約には
次のような条項がある。
第一条一項 職員が左の各号の一に該当する場合は休職を発令するものとする。た
だし、第四号の場合において、その事案が軽微であつて情状がとくに軽いものにつ
いては、休職を発令しないことができる。
同項四号 刑事々件に関し起訴されたとき
第三条二項 刑事々件に関し起訴された者の休職の期間は、その事件が裁判所に係
属する間とする。
(2) 右協約第三条二項は、刑事々件に関して起訴されたことによつて休職とさ
れた組合員たる職員の職員たる地位を保障するために特に定められたものである。
したがつて、仮に公社法第三二条について前示のような解釈が採り得ないとして
も、右協約三条二項については、起訴休職中の組合員たる職員をその起訴にかかる
行為を理由として免職することは一切許さない趣旨を含むものと解すべきである。
現に、起訴休職中の職員については、該起訴にかかる行為を理由として免職するよ
うなことは一切行わないことが長年の労使慣行となつていた。
 しかるに本件懲戒免職処分は、申請人の起訴休職中に該起訴にかかる行為を捉え
て、これを就業規則第五九条七号に該当するものとしてなされたものであるから、
これは前記協約第三条二項に違反し、長年の労使慣行を一方的に破棄するものとし
て無効である。
(二)1 申請人は電々公社に入社して以来、病欠、遅刻、早退もせず、極めて熱
心に職務に従事する一方、昭和四一年四月からは日本大学理工学部二部電気科に入
学して勉学にはげみ、職場においても組合の職場委員、班長、東中青年会議委員な
どを兼任し、職場仲間からの信頼も厚く、これまで被申請人から非難を受けるよう
な行為は一度もしたことがなかつた。
2 ところで被申請人がその職員に対してなし得る懲戒処分には、免職、停職、減
給、戒告の四種のものがあるが、懲戒処分をなすに当り、右四種のうちどれにする
かを恣意的に選択することは固より許されない。選択される懲戒処分は、その対象
となつた非違行為と対照して見て、客観的に妥当なものでなければならず、社会通
念上是認されるものでなければならない。
 しかるに、被申請人は申請人を懲戒するのに免職という最も重い処分をもつてし
た。
 しかし、これは明らかに申請人に酷であつて、懲戒権が濫用されたものというべ
きであり、したがつて本件懲戒免職処分は無効である。
六 再抗弁に対する答弁
(一)1 再抗弁(一)のうち1は認め、2は争う。3の(1)は認める。3の
(2)は争う。
2 申請人は、起訴休職中の職員を懲戒免職にすることは前記休職の発令時期等に
関する協約第三条二項に反し許されないとして昭和四五年六月二日東中職場苦情処
理委員会に苦情解決請求をした。この請求については同職場苦情処理委員会、東京
搬送通信部地区苦情処理委員会、関東地方苦情処理委員会および苦情処理共同調整
会議において苦情処理に関する協約(被申請人と組合との間に締結されたもの)に
則つて慎重に審理されたが、結局起訴休職中の職員を懲戒免職にできるか否かは休
職の発令時期等に関する協約の解釈、運用の問題であつて団体交渉事項に該当する
との結論に達し、苦情処理共同調整会議が同年九月三〇日付で申請人の前記苦情解
決請求を却下した。
 右の事実は申請人の再抗弁(一)3(2)の主張が失当であることの証左であ
る。
(二)1 再抗弁(二)のうち1の事実は否認する。2の末段は、争う。
2 申請人は昭和四四年九月一五日にも九・一五全関東反戦総決起集会に参加し、
その際東京都公安条例違反で逮捕された前歴があり、このような非違行為歴を有す
る被申請人職員は稀である。
第三 疎明関係(省略)
       理   由
一、申請の理由(一)1の(1)ないし(3)および2の事実(入社、給与、休職
等)は当事者間に争いがない。
二、そこで懲戒免職処分の抗弁について判断する。
(一)1 抗弁(一)の事実(本件懲戒免職処分の発令等)は当事者間に争いがな
い。
2 申請人は就業規則第五九条七号の規定が違憲無効であると主張するが、その前
提とされている主張を採用できないから、右主張は前提を欠くものとして失当であ
る。
(二) 抗弁(二)(就業規則第五九条七号該当事実の主張)について
1 抗弁(二)の1の事実(昭和四四年一〇月二一日国際反戦デーにおける反代々
木系学生、反戦青年委員会の労働者らの集団的行動等)は、乙第二号証の一ないし
一二第二五号証の一ないし九(いずれも新聞であつて、成立に争いがない)第一
五、第一六号証の各一、二第一八号証(その方式および趣旨により公務員が職務上
作成したものと認められるからいずれも真正に成立したものと認められる)の各記
載によつて疎明される。
2(1) 抗弁(二)の2の事実(昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デー当日に
おける申請人の行動)については、
イ 申請人が角材を所持していたか否かの点はしばらく措き、その余は前示乙第二
号証の一ないし一二第一五、第一六号証の各一、二の各記載および証人Eの証言な
らびに前段認定の事実によつて疎明される。
 因みに、右乙第一六号証の一、二の各記載によれば、申請人が行動をともにして
いた江東地区反戦青年委員会のグループを含む集団は、当日午後五時ころ西武新宿
線下落合駅に集合し、線路上を歩いて高田馬場駅まで至つたもののように窺える。
ロ 前示乙第一五号証の各一、二および前示証人の証言によると次の事実が疎明さ
れる。
(イ) 当日午後六時二〇分ころ、機動隊が、高田馬場駅の新宿駅寄り線路付近に
いる学生等の集団を検挙すべく、線路上を新宿方向に進み、国鉄戸山アパート前に
至つたところ、突然同アパートの敷地から白ヘルメツトをかぶつた約一〇〇名ない
し一五〇名くらいの集団が機動隊めがけて激しく投石してきた。
(ロ) そこで機動隊は右集団を検挙すべく、その背後に廻つたところ、これに気
付いた右集団の中から機動隊めがけて数本の火炎びんが投げられ、アパート敷地は
火の海のようになつた。さらに投石も一斉になされた。右集団の大半の者は角材を
所持していたが、その角材で機動隊員に殴りかかつた者もいた。機動隊員が検挙活
動に入るや彼らは角材を投げ捨てて逃げた。
(ハ) 機動隊員Eは、右集団の一員であつた申請人を追跡し、午後六時四五分ご
ろ国鉄アパート階段上で同人を逮捕したが、申請人は「反戦」と書いたヘルメツト
をかぶり、タオルで覆面をし、ヘルメツトの中にさらに一枚タオルを入れており、
軍手をしていたが、これはかなり汚れていた。
 右(イ)ないし(ハ)の事実によると、申請人がイ前段で認定した集団に加つて
いた際、角材を所持していた蓋然性は相当に高い。仮に角材を所持していなかつた
としても、警備の警察官に投げるための石を所持していたことはまず間違いないと
思われる。
(2) 右に認定したところが正しいとすれば、当日の申請人の行為は、他人の身
体、財産に対し共同して害を加える目的で兇器を準備して集合したもの、即ち兇器
準備集合罪を犯したものといわざるを得ない。
3 抗弁(二)の3前段の事実(申請人の現行犯逮捕、起訴)は当事者間に争いが
なく、後段の事実(新聞報道)は、前示乙第二号証の一〇ないし一二の記載によつ
て疎明される。
4 昭和四四年一〇月二一日の国際反戦デー(以下国際反戦デーというときは当日
のそれをいう)における反代々木系学生や反戦青年委員会の若手労働者らの前認定
の暴力的行動は、その動機や目的が何であつたにせよ、法治国家としては到底許し
難い所為であり、反社会性の極めて高度なものといわざるを得ない。彼らの行動を
目撃し、あるいは報道機関の報道によつて知つた一般国民が、その反社会的な異常
さに驚き、怒り、あきれたことは少くとも東京都では公知の事実であり、前示乙第
二五号証の一ないし九の各記載からもこれを十分に窺うことができる。ところで前
認定の申請人の行為は、それ自体反社会性の強い罪に触れるものであるが、前認定
したところによれば、前認定の申請人の行為は、反代々木系学生や反戦青年委員会
の若手労働者らが国際反戦デーを期して計画的に敢行した集団的過激行動の一環と
してなされたものと見ないわけにはいかないのであつて、この観点に立つと申請人
の前記行為についての反社会性の評価は加重するのを免れないところである。
 当時申請人は被申請人の職員であつた。被申請人は、公衆電気通信事業の合理的
かつ能率的な経営の体制を確立し、公衆電気通信設備の整備および拡充を促進し、
ならびに電気通信による国民の利便を確保することによつて、公共の福祉を増進す
ることを目的として設立された企業であり(公社法第一条)、その資本金は全額政
府が出資している(同法第五条)。被申請人が右のような企業であり、その業務の
公共性が高度であるところから、法は被申請人の職員に対し、全力を挙げてその職
務の遂行に専念すべきことを命じており(同法第三四条二項)、このようなことは
一般私企業では例を見ないところである。その反面被申請人の職員は、一般社会か
ら、右のような公共性の高度な企業に勤務しその職務に専念しているものとしての
好ましい評価を与えられている。右のような社会的評価は職員としての信用と言い
換えてもよい。また、右のような社会的評価を保持することが職員としての品位だ
と解して大過ないであろう。
 このように考えて来ると、国際反戦デーにおいて申請人が前認定のような反社会
性の著しい非違行為を敢てなし、前認定のように報道されたことにより、申請人が
被申請人の職員としての品位を傷つけ、信用を失つたものであることはこれを認め
ないわけにはいかない。
 また、申請人を含む被申請人の職員が国際反戦デーの集団過激行動に参加して逮
捕され起訴され、それが新聞等で報道されたことが被申請人に対する一般国民の批
判を招いたことは、被申請人が一般企業とは異つた前述のような公共企業であるこ
とから容易に推認できることであつて、前示乙第二号証の一〇、一一の各記載にも
その一端が窺われる。したがつて申請人の前記非違行為は、現実に被申請人の信用
を害したものといわざるを得ない。申請人がその主張するように一介の平職員であ
つたにせよ、はたまた申請人の前記行為が破廉恥罪とか涜職罪とかではなかつたに
せよ、事実は右認定のとおりであつたことを否定できない。
 被申請人は、申請人の前記行為により一般の被申請人職員の名誉が傷つけられた
と主張するが、その点の疎明は充分でない。
 さらに被申請人は、申請人の前記行為は、申請人らに同調する一部被申請人職員
の間に秩序軽視の念を誘起させ、被申請人の企業秩序維持の面にも悪影響を及ぼし
たと主張するが、右主張前段についての疎明は充分でない。しかし右主張後段はあ
り得べきことだと考えられる。けだし、被申請人職員の中にも、社会一般から激し
い非難を浴びた国際反戦デーにおける集団過激行動に参加した者としての申請人な
いしその同調者に対し、非難の目を向ける者が少くなかつたであろうことは容易に
推察のできることであり、そのことによつて直接、間接に醸成される職員間の違和
は企業秩序維持に影響なしとしないと思われるからである。
5(1) 申請人は、被申請人の懲戒権は職員の企業外の私行には及ばないから、
申請人の前記行為は就業規則第五九条七号に該当しない旨主張する。それでこれに
ついて考えてみる。
 被申請人の職員に対する懲戒権は被申請人の総裁に与えられている(公社法第三
三条)。これは、被申請人が前叙のような企業として公共性の極めて高い業務を営
むものであるところから、被申請人がその企業目的を達成するのにマイナスになる
ような職員の非違を戒めて企業としての秩序を維持するために必要なものとして法
が特に総裁に懲戒権を付与したものと解される。この点一般私企業において使用者
が従業員に対して有するを通例とする懲戒権とその法的根拠を異にするものがあ
る。そうだとすると、総裁の有する右懲戒権は被申請人の企業秩序を維持するため
に必要な場合即ち職員の非違によつてそれが現実に害されたか、または害される恐
れが生じた場合に限つてその行使が許されるという言わば内在的な制約を受けるも
のというべきであるが、他方被申請人の業務の高度の公共性ならびにその職員が公
社法上右のような総裁の懲戒権のもとにあることのほか前叙のように職務専念義務
を課され、さらに罰則の適用に関しては法令により公務に従事する者とみなされる
こと(公社法第三五条、第一八条)等を考慮すると、職員に対する総裁の懲戒権が
奉仕すべき企業秩序なるものはこれを作業秩序ないし経営秩序というように狭く解
するのは相当でなく、広く被申請人が前叙のような企業として保有する有形、無形
の利益(社会的評価としての信用を含む)を保持するための秩序と解するのが相当
である。このようなものとしての被申請人の企業秩序は職員の企業外の非違行為に
よつても害されることがあるが、その場合若しそれが企業外の行為であるとの一事
でもつて総裁の懲戒権行使が制限されるものとすると企業秩序の維持は全きを得な
いことになり、法が職員に対する懲戒権を総裁に与えた前示の趣旨が貫徹できない
ことになる。
 他方、職員が被申請人に勤務する法律関係は、職員が公社法上前叙のような規制
を受けているため多少問題の存するところであるが、私法上の雇用契約関係と解さ
れる(したがつてそれは公法上の関係ではないから職員に対する懲戒処分には行政
庁の行政処分に見られるようないわゆる公定力は認められないことになる。)。し
たがつて職員は、雇用契約上の義務ないしこれに伴う信義則上の義務の履行につい
て欠けるところがない限り、その行動について被申請人からとやかく言われる筋合
は毛頭ない。しかし、職員は、被申請人との間の右のような法律関係を継続するこ
とを媒介として自己の経済生活を営むほか、好むと好まざるとに拘らず一個の企業
体としての被申請人の組織の構成に参加し、社会的、客観的な事実として被申請人
に向けられる一般社会の評価としての信用の一端に多かれ少かれ与かるのである。
前述の職員としての品位なり信用なりもこのことと密接不可分に関連している。そ
れ故職員は職員である以上被申請人の保有する有形、無形の利益を損わないように
すべき信義則上の義務を負うものといわなければならないが、事の性質上右の義務
は職員が企業外に在る場合でも免れることができない。そうである以上、職員が企
業外の非違行為によつて企業秩序を害したため懲戒処分を受けることがあつても止
むを得ないものといわなければならない。
 このように考えると、職員の非違行為が企業外でなされたとの一事によつて総裁
の懲戒権行使が制約されることはないといわなければならず、したがつて申請人の
前記主張は前提が失当となるから採用できない。
(2) 申請人は、企業外で非行をなした職員に対する懲戒は、作業秩序の観点か
ら該職員を被申請人の職員たらしめておくことが被申請人の存亡にかかわるほど重
大な場合に限るべきであるとの前提のもとに申請人の行為は、かかる場合に該らな
いから、それが就業規則第五九条七号該当の余地はないと主張する。
 しかし職員の非行に対する被申請人総裁の懲戒権を右前提のように極端に狭く解
すべき合理的な理由は発見できない。右主張も前提が失当であるから採るを得な
い。
(3) 当裁判所は、申請人の前記非違行為は就業規則第五九条七号に該当するも
のであつて、その情は重いものと考える。
(三) 抗弁(四)(就業規則第五九条一八号該当事実の主張)について
1 申請人が昭和四四年一〇月二二日から同年一一月一一日までの間に本来は出勤
すべきであつた一六日間出勤しなかつたことは当事者間に争いがない。
2(1) 申請人が右のように出勤しなかつたのは申請人が国際反戦デーに兇器準
備集合罪等の嫌疑で現行犯逮捕され、引き続き勾留されていたためであることは当
事者間に争いがない。
 申請人は、右逮捕勾留は違法なものであつたから右不出勤につき申請人に責はな
いと主張するが、申請人が国際反戦デーに兇器準備集合罪を犯したと一応認められ
ることは前示認定のとおりであり、申請人の逮捕勾留が違法であつたと認めるに足
る疎明資料はない。弁論の全趣旨によれば、申請人は国際反戦デーの前日に、友人
の職員Bに対し、若し一〇月二二日(国際反戦デーの翌日)に申請人と連絡がとれ
なかつたら申請人が逮捕されたと思つて申請人に代つて年次有給休暇の申請をして
くれと頼んだことが認められるが、この事実と国際反戦デーでの申請人のとつた前
示のような行動とから推せば、申請人は当日逮捕され、引続いて勾留されることの
あることは十分予期していたものと考えられる。したがつて申請人の右主張は失当
といわざるを得ない。
(2) 申請人が昭和四四年一〇月二二日前記Bを代理人として、その主張のとお
り同日から四日間の年次有給休暇の申請をし、また同年同月三〇日、当分の間休暇
をとる旨の届をその主張のとおり提出して年次有給休暇の申請をしたことは当事者
間に争いがない。右の事実に申請人本人の供述、乙第一、第五号証(成立に争いが
ない)、乙第六号証(その方式、趣旨から真正の成立を認める)の各記載ならびに
弁論の全趣旨を総合すると右申請の当日である同月二二日現在で申請人が被申請人
から発給を受けていた年次有給休暇のうち現実の給付を受けていなかつた日数は四
日であつたと一応認められる。
 被申請人は前記休暇申請は所属長の事前の承諾なしに突然なされたものであり正
当な業務上の支障があつたので申請人に右有給休暇をいずれも付与しなかつたと主
張する。
 前記休暇申請が右主張のとおり突然になされたことは申請人が明らかに争わず自
白したものとみなされるが、これによれば少くとも右休暇申請のなされた当日即ち
昭和四四年一〇月二二日と同月三〇日に関する限り、被申請人が申請人に年次有給
休暇を付与するにつき正当な業務上の支障があつたであろうことは容易に推察され
る。しかし右休暇申請中その翌二三日以降ならびに三一日以降にかかる部分につい
ては、申請人に年次有給休暇を付与するにつき被申請人に正当な義務上の支障があ
つたことの疎明はない。したがつて前記休暇申請により申請人は昭和四四年一〇月
二三日、二四日、二五日、三一日(前示乙第六号証の記載によると本来は出勤日)
の四日間を年次有給休暇としたものであつて、この四日間は出勤業務を免れたこと
になる。
(3) 以上認定の事実、前示乙第六号証の記載および弁論の全趣旨によると1で
判示の一六日間のうち申請人が出勤すべきであつたのに欠勤した日数は一二日間で
あること、このうち三日間(昭和四〇年一〇月二七日から二九日まで)について
は、申請人から被申請人に対し欠勤する旨の意思の表明が全くなかつたことが認め
られる。
3 以上認定したところによれば、申請人の右認定の一二日間の欠勤は、正当の理
由の認め難いものであり、就業規則第五九条一八号、第五条一項に該当するものと
認められる。
(四) 進んで再抗弁(一)(起訴休職と懲戒免職の関係についての主張)につい

1 申請人が昭和四四年一〇月二一日に兇器準備集合罪を犯したものとして同年一
一月一二日東京地方裁判所に起訴され、これによる刑事事件が目下同庁に係属中で
あること、申請人が同年同月二〇日右のように起訴されたことにより被申請人から
休職の発令を受けたことは当事者間に争いがない。
2 申請人は起訴休職中の職員をその起訴にかかる行為を理由として懲戒免職する
ことは同一の事由で職員に二重に不利益を課するものであり、公社法第三二条が起
訴休職の期間をその事件が裁判所に係属する間と定めている趣旨に違反し許されな
いと主張する。
 思うに、使用者が雇用中の労働者に就労を継続させるのを不適当とする事情(例
えば労働者の病気)が発生したと認める場合であつても、右事情の発生につき労働
者に責がないと認められるか若しくは労働者に責があるか否か不明なときや、右事
情が一時的なものであつて将来それが解消することを期待する余地があるときは、
直ちに労働者を解雇するのを適当としないことがある。一般に、休職は、このよう
な場合に使用者が労働者の解雇を回避するために行う措置であつて、雇用関係その
ものは維持しつつ労働者の就労義務を免除するものである。しかしかかる休職は給
与の減額をともなうのが通例であり、特に使用者が労働者の就労を不適当と認める
事情のいかんによつては、いかに就労義務の免除を受けるとはいつても、休職は労
働者にとつて事実上不利益な処分として現われる。したがつて使用者が労働者を休
職させることのできる事由について制限を受けたり、労働者を休職としておく期間
について制限を受けたりすることになると、それだけ労働者の地位が保障されるこ
とになる。
 公社法第三二条一項は、被申請人が職員を休職させることのできる事由を限定し
て職員の地位の保障を図つたものと解される。ところで職員が刑事事件に関して起
訴されたときその意に反して休職とされることのあるのは、公社法第三二条一項に
よつても免れないこと明らかであるが、このような休職は、職員が刑事事件に関し
て起訴されたこと(これは起訴の対象となつた非違行為とは別の事実である)によ
り該職員に就労を継続させることが不適当であると認めた被申請人が該職員を解雇
するのを避けるために行う措置であつて、起訴の対象となつた非違行為の責任を問
うものではない。公社法第三一条は職員の解雇を免職と呼び、降職と並べてその発
令事由を制限しており、被申請人は職員が刑事事件に関して起訴されたことによつ
て該職員を免職することはできないが、これは同条の規定がしからしめるのであつ
て、それによつて前叙の起訴休職の本旨は、若干覆われる嫌いはあつても変ること
はない。
 他方、公社法第三三条に規定され、総裁が行うこととされている懲戒処分は、職
員の非違行為があつたときその責任を問うことを本旨とするものであり、そのうち
免職処分はその手段として該職員を被申請人から排除するものであることは言うま
でもない。
 そうだとすると職員に対する起訴休職処分と、該起訴の対象となつた非違行為に
よる懲戒免職処分とは、処分者、目的、事由、効果すべての点で異るものといわざ
るを得ない。両者は別のものである。したがつて起訴休職中の職員を該起訴の対象
となつた非違行為の故に懲戒免職処分に付することは公社法上毫も妨げのないもの
であり、それが同一の事由によつて職員に二重の不利益を課するものであるという
非難は当たらない。
 つぎに、公社法第三二条三項は、起訴休職の発令を受けた職員の休職期間は、そ
の事件が裁判所に係属する間とする旨規定しているが、これは起訴休職者の休職期
間は長くてもその事件が裁判所に係属する間を超えることはない趣旨のものと解さ
れ、それ以外の意味を含むものとは解し難い。したがつて右条項は、起訴休職中の
職員に対して該起訴にかかる行為による懲戒免職処分が許されないことの根拠とは
なり得ないものである。
 以上のとおりであるから申請人の前記主張は採り得ない。
3 申請人が被申請人の職員をもつて組織されている全国電気通信労働組合の組合
員であること、組合と被申請人との間に申請人主張の休職の発令時期等に関する協
約と題する労働協約が締結されていること、職員の起訴休職に関して右協約に申請
人主張のとおりの条項が存することは当事者間に争いがない。
 申請人は、右協約第三条二項の刑事事件に関し起訴された者の休職の期間は、そ
の事件が裁判所に係属する間とする、との定めには起訴休職中の組合員たる職員を
該起訴にかかる行為を理由として免職することは一切許さない趣旨を含むものであ
ると主張する。
 労働協約は労使関係を規整する自治的法規範であるから、これに含まれる条項の
解釈に当つては、協約締結の当事者間で行われている解釈を尊重しなければならな
い。そこでまずこれを見るに、組合と被申請人との間に前記協約第三条二項につき
一致した解釈として申請人主張のような解釈が行われていることについてはこれを
認めるに足りる疎明資料がない。申請人の主張の労使慣行についても疎明はない。
そこで当裁判所の考えを示さざるを得ないが、当裁判所は、前記協約第三条二項
は、その文言から見て、公社法第三二条三項、就業規則第五二条三項(これは公社
法の右条項をなぞつたもののように思われる)をなぞつたに過ぎないのではないか
と推測する。そうだとすれば、それには前述した公社法第三二条三項の趣旨を超え
る意味はないことになり、申請人が主張するような趣旨は含まれていないことにな
る。少くとも前記協約第三条二項を申請人主張のように解するに足りるだけの資料
の疎明はない。
 右のとおりとすると申請人の前記主張は失当ということになり、それを前提とし
て本件懲戒免職処分を無効とする申請人の主張は失当といわざるを得ないことにな
る。
(五) つぎに再抗弁(二)(解雇権濫用の主張)について
 甲第一号証(成立に争いがない)の記載によれば申請人は被申請人に入社以来一
度も病欠、遅刻、早退などをすることなく職務に従事し、昭和四四年四月からは日
本大学理工学部二部電気科に入学して勉学にもはげみ、職場においても労働組合の
職場委員などをしたりして熱心に活動していたことが認められるが、右認定事実な
らびに申請人が平職員に過ぎず、そのなした行為も破廉恥罪というような性質のも
のではないことを考慮しても、(二)、(三)で認定した申請人の非違行為に照ら
すと本件懲戒免職処分が著しく妥当性を欠くものとは言い難いから申請人の権利濫
用の主張は失当である。
(六) 以上のとおりであるから本件懲戒免職処分は有効と認められ、したがつて
申請人主張の権利は、その疎明がないことになる。
三、申請の理由(二)の事実(保全の必要性)は、申請人本人の供述によつて疎明
される。右事実によれば、申請人が仮処分を必要としているのは、勾留から保釈さ
れた昭和四五年九月七日以降である。なお同日以降同月三〇日までの申請人の休職
者としての給与額は日割計算すると金一五、九三六円となることが計算上明らかで
ある。
四、申請人に保証を立てさせて仮処分を許すのが相当か否かについて考察する。
(一) 乙第二四号証(成立に争いがない)の記載、申請人が苦情処理委員会に対
し被申請人主張のような苦情解決請求をしたところそれが被申請人主張のような処
理がなされたこと(これは被申請人の再抗弁に対する答弁(一)2前段の主張であ
つて、申請人が明らかには争わないのでこれを自白したものとみなされる)、証人
F、Gの各証言ならびに弁論の全趣旨によると、前記休職の発令時期等に関する協
約第三条二項の解釈に関し、組合は、申請人が本件で主張すると同様に、同条項
は、起訴休職中の組合員たる職員は、該起訴にかかる該職員の行為を理由として免
職されることは一切ない趣旨を含むものとしており、これに対し被申請人は、同条
項にはそのような趣旨を含まず、起訴休職中の職員を該起訴にかかる非違行為を理
由に懲戒を含む免職処分にするかどうかは同条項の運用の問題であるとしているこ
と、この問題が団体交渉事項であることについては両者間に了解があるが、右問題
解決のための団体交渉は未だ行われていないことがそれぞれ疎明される。これによ
ると、他日右の問題について団体交渉が行われた場合、組合側の主張が一方的に通
るものと考えることは到底できないが、双方が妥協して、例えば企業外での犯罪嫌
疑で起訴されたため休職とされた職員が犯行を否認している場合(一般的に言え
ば、このような場合には、刑事事件の確定判決をまつて懲戒処分をするか否かを決
定するのが望ましいわけである。なお就業規則第五九条一六号は刑事事件に関し有
罪の確定判決があつたときを懲戒事由としている。)には、その事件が、裁判所に
係属している間は該起訴にかかる行為を理由とする懲戒免職処分はできず、前記協
約第三条二項はかかる趣旨を含むものである、というような解決に至る可能性が全
くないとは言えない。仮にかかる解決に到達したときは、申請人(同人が前記兇器
準備集合罪で起訴されている刑事事件で犯行を否認していることは弁論の全趣旨か
ら窺われる)を、前示二の(二)の2で認定の非違行為を理由として懲戒免職処分
とすることは許されないことになる。そして仮にそのようなことになつた場合に
は、前示二の(三)で認定の無断欠勤だけで申請人を懲戒免職処分としたのは、著
しく当を失し、懲戒権を濫用したものと評価される可能性が生れる。
(二) 当裁判所は、本件懲戒免職処分を有効とし、その結果申請人主張の権利は
認め難いと判断したが、これは疎明に基づく一応のものであつて、この点の確定的
な判断は本案訴訟にまつべきものであることはいうまでもない。そして本案訴訟の
判決確定に至るまではなおかなりの年月を要するものと思われるが、その間に前段
で述べたような事態に立ち至らないとは限らない。
(三) 以上の理由から当裁判所は、申請人にその主張の権利についての疎明に代
わる保証を立てさせて必要と認める仮処分を許すのが相当であると思料する。
五、以上のとおりであつて、申請人の本件仮処分申請は、申請人に右保証を立てさ
せれば理由があることになるから、主文一項記載内容の仮処分をすることとし(申
請人が休職者である本件では、申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する
地位にあることを仮に定める必要は認め難いのでこれをしないことにする。)、申
請費用につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宮崎富哉 矢崎秀一 飯塚勝)

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