弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成23年12月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官山下京子
平成21年(ワ)第4753号損害賠償請求事件(以下「第1事件」という。)
平成21年(ワ)第39494号損害賠償請求事件(以下「第2事件」という。)
口頭弁論終結日平成23年9月14日
判決
東京都中央区<以下略>
第1事件原告・第2事件原告
株式会社カーニバル
(以下単に「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士引田紀之
東京都中央区<以下略>
第1事件被告株式会社アドック
(以下「被告アドック」という。)
同訴訟代理人弁護士中西義徳
同森本奈津子
神奈川県座間市<以下略>
第2事件被告A
同訴訟代理人弁護士澤本淳
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
被告アドックは,原告に対し,金904万8500円及び内金134万30
00円に対する平成20年11月1日から,内金770万5500円に対する
平成21年1月23日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
2第2事件
被告Aは,原告に対し,金904万8500円及びこれに対する平成21年
11月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,①被告アドックに対し,<ア>原告が制作したケーズデンキ
の新店舗告知のテレビCM原版(新店舗名部分が空白の原版)について,被告
アドックが無断で当該原版を使用して新たに新店舗告知のテレビCM原版(新
店舗名を挿入した完成版)を制作し,そのプリント(CM原版のコピー)を作
成した旨主張し,また,原告が制作した新店舗告知のテレビCM原版(上記と
同様の完成版)について,被告アドックが無断でそのプリントを作成した旨主
張し,著作権侵害(新店舗名部分が空白の原版の複製権侵害)を理由とする不
法行為に基づく損害賠償請求として,原告の利益相当額604万5500円
(附帯請求として内金134万3000円〔CM原版5本65万円及びプリン
ト42本69万3000円〕に対する訴状送達の日の翌日である平成20年1
1月1日から,内金470万2500円〔プリント285本470万2500
円〕に対する訴えの変更申立書送達の日の翌日である平成21年1月23日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めると
ともに,<イ>原告が制作したブルボンの商品告知のテレビCM原版について,
被告アドックが無断でそのプリントを作成した旨主張し,著作権侵害(当該テ
レビCM原版の複製権侵害)を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求とし
て,原告の利益相当額300万3000円(附帯請求として訴えの変更申立書
送達の日の翌日である平成21年1月23日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金)の支払を求め(第1事件),②原告の取締役であ
った被告Aに対し,上記①の著作権侵害を被告アドックと共同して行ったなど
と主張して,不法行為又は債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義
務違反)に基づく損害賠償請求として,904万8500円(附帯請求として
訴状送達の日の翌日である平成21年11月11日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた(第2事件)事案である。
1前提事実
以下,証拠(特に掲記がない限り枝番号を含む。)等を掲記した事実以外は
当事者間に争いがない。
(1)原告
原告は,著作物の企画製作並びに出版,映像物並びに演劇の企画製作,配
給及び興行,広告代理業を業とする株式会社である。
(2)被告ら及び関係者
ア被告アドック
被告アドックは,各種広告企画,制作及びその販売,広告代理業を業と
する株式会社である。
イ被告A
被告Aは,平成12年9月,原告に従業員として入社し,プロデューサ
ーの職務に従事していた。被告Aは,平成17年9月,原告の取締役に就
任し,平成20年3月20日,原告を退職するとともに,原告の取締役を
退任した。
ウB
Bは,電通に入社後,制作部門のクリエイティブ・ディレクターとして,
広告制作の企画・制作全般を統括指揮する業務に従事していた。Bは,平
成15年6月,電通を早期退職し,フリーのクリエイティブ・ディレクタ
ーとして独立し,平成17年1月,被告アドックの監査役に就任した。
(乙21,当裁判所に顕著)
(3)本件に関するテレビCM原版の制作とプリントの作成
アケーズデンキ関係
(ア)ケーズデンキの新店舗告知のテレビCM原版(新店舗名部分が空白
の原版。以下「本件ケーズCM原版」という。)は,平成18年6月こ
ろ,ケーズデンキの企業告知のテレビCM原版と併せて制作された。
(甲2の2,2の3,甲4,5,20,乙21,23)
(イ)被告アドックは,別紙1記載のとおり,平成20年2月から同年6
月までの間,本件ケーズCM原版を使用し,新たに店舗名を挿入して,
新店舗告知のテレビCM原版(以下「本件ケーズ新CM原版」とい
う。)を制作した。また,被告アドックは,本件ケーズ新CM原版につ
いて,別紙1記載のとおり,合計42本のプリント(CM原版のコピ
ー)を作成した。
(甲6,20,乙21,23,丙2,弁論の全趣旨)
(ウ)別紙2記載のとおり,平成18年10月から平成20年1月までの
間,本件ケーズCM原版を使用し,新たに店舗名を挿入して,新店舗告
知のテレビCM原版(以下「本件ケーズ旧CM原版」という。)が制作
された。被告アドックは,別紙2記載のとおり,本件ケーズ旧CM原版
について,合計285本のプリントを作成した。他方で,原告は,別紙
2記載のとおり,本件ケーズ旧CM原版について,合計49本のプリン
トを作成した。
(甲5,6,10,11,乙8,17,21,23,丙2,
弁論の全趣旨)
イブルボン関係
別紙3記載のとおり,平成19年6月から平成20年3月までの間,ブ
ルボンの商品告知のテレビCM原版(以下「本件ブルボンCM原版」とい
う。また,上記ア(ア)の本件ケーズCM原版と併せて「本件各CM原版」
という。)が制作された。被告アドックは,別紙3記載のとおり,本件ブ
ルボンCM原版について,合計182本のプリントを作成した。他方で,
原告は,別紙3記載のとおり,本件ブルボンCM原版について,合計12
8本のプリントを作成した。
(甲12~14,30,乙19,21,23,丙2,弁論の全趣旨)
2争点
(1)本件各CM原版の著作権の帰属
(2)被告らの損害賠償責任の成否(原告の同意の有無等を含む。)
ア被告アドックの不法行為に基づく損害賠償責任の成否
イ被告Aの不法行為又は債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実
義務違反)に基づく損害賠償責任の成否
(3)損害額
3争点に関する当事者の主張
(1)本件各CM原版の著作権の帰属(争点(1))について
(原告の主張)
ア共同著作物
本件各CM原版はテレビCMであって,著作権法の映画の著作物に関す
る規定とは別に著作者,著作権者を決定すべきである。
(ア)原告は,電通から,本件ケーズCM原版の制作を請け負い,平成1
8年6月20日,本件ケーズCM原版を制作した。また,同様に,原告
は,電通から,平成17年11月9以降,本件ブルボンCM原版の制作
を請け負い,本件ブルボンCM原版を制作した。
(イ)原告は,本件各CM原版について,CM制作にかかわる全ての事項
を請け負い,各作業を業者に注文する形態を取った。具体的には,企画
を決定し,監督を選定し,映像化作業(撮影,美術,編集)を行った。
費用に関しては,企画段階において決定された金額(CM制作に係る全
ての費用からタレントに要する費用を除いたもの)に基づき,原告が電
通に対して請求書を発送し,その金額が電通から支払われた後,各業者
に費用の支払いを行った。
(ウ)一般的に,CMの著作権に関しては,広告主,広告会社,制作会社
(原告)の共同著作物であり,これら三者の共有であると考えられてい
る。
イ職務著作
仮に,本件各CM原版が映画の著作物であるとしても,本件各CM原版
は職務著作(著作権法15条)として制作されたものであり,著作権法1
6条ただし書により原告が著作者となり,著作権者となる。
(ア)本件各CM原版は,法人である原告が,電通から注文を受け,創作
に関する最終的な意思決定が原告の下で行われることを前提に制作され
ており,被告Aら個人の発意に基づくものではなく,原告の発意に基づ
くものである。
(イ)原告は,CM制作会社であり,被告Aらが原告の職務上本件各CM
原版を作成していることは明らかである。
(ウ)公表に関しては,対外的に誰が著作者であるかを明確にするため,
又は,従業者が法人等に著作権があることを前提に創作活動に参画して
いることを明らかにする徴表として意味合いを持たせるため,要件とさ
れていると考えられる。
そうであれば,「公表」は,誰が著作者となるのかに関して,利害関
係を有する者の範囲で明らかにされれば足りるというべきであり,誰が
著作者かに関して特に利害関係のないテレビ視聴者に公表する必要はな
いと考えられる。
これを前提に,本件各CM原版をみると,甲5号証のように,制作さ
れた原版のクレジットには,従業者個人ではなく,原告の名称が制作会
社名欄に記載されているから,誰が著作者となるのかに関し,利害関係
を有する者の範囲で明らかにされ,従業者も法人等の著作権があること
を前提に創作活動に参画していることを読み取ることできる。
以上から,本件各CM原版について公表の要件を充足していると考え
られる。
(エ)本件各CM原版の制作時の契約や勤務規則により別段の定めがされ
た事実はない。
(オ)以上のとおり,本件各CM原版の著作者は原告である。
ウ映画の著作物の著作権の帰属
仮に,本件各CM原版が映画の著作物であり,その制作が職務著作では
ないとしても,原告は,著作権法29条1項に定める映画製作者であって,
著作権者となる。
(ア)本件各CM原版に関し,CM制作に必要なコンテ,企画案,監督,
撮影,照明,美術,編集等のスタッフや企業と契約しているのは原告で
あるから,その製作に関する経済的な収入及び支出の主体となっている
のは原告である。さらに,原告は,CMを完成させる義務を負い,その
制作に当たり生じた事故や遅延などについても責任を負担している。
したがって,著作権法29条1項を本件に適用する場合,映画製作者
であり得るのは原告のみである
(イ)著作権法29条1項の参加約束については,電通関係者,原告関係
者,被告アドック関係者が本件各CM原版の製作に参加しているという
認識を有していたものと思われるため,同条項により,映画製作者であ
る原告に著作権が帰属することとなる。
(ウ)以上のとおり,本件各CM原版の著作権は原告に帰属する。
(被告アドックの主張)
ア原告の主張に対する認否
原告の主張はいずれも否認する。
イ共同著作物について
本件各CM原版の著作権の帰属については,著作権法の映画の著作物に
ついての規定が適用されるとみるべきであるが,仮に,そうでないとした
場合には,被告アドックが広告主・電通とともに共同著作権者となる。
(ア)本件各CM原版は,被告アドックが電通からCM制作全体の発注を
受け,「企画」までを被告アドックが行い,「制作」を担当する会社と
して原告を選定して「制作」作業を原告に請け負わせたものである。
(イ)被告アドックのBは,本件各CM原版の作成に,企画段階,撮影段
階,編集段階と一貫して,これを現場で統括指揮し,クリエイティブ・
ディレクターとしてその作成に携わったのであるから,被告アドックが
広告主・電通とともに,本件各CM原版の共同著作権者である。
ウ職務著作について
本件各CM原版は映画の著作物であり,かつ,職務著作ではないから,
著作権法16条ただし書の規定は適用されない。
(ア)本件各CM原版は,広告主と電通が原初的企画をし,被告アドック
(の担当者)が著作物の内容を全体的に具体化するための創作行為とし
て企画し,被告アドックが現場制作を原告に注文し,被告アドックの担
当者の指揮のもとで原告の従業員や監督などの請負人が制作作業を行っ
たものである。この構造をみると,原告は制作契約における「下」請負
人であって「発意」者ではない。
(イ)本件では,監督ほかの創作行為者は,「原告の業務に従事する者」
として「職務上」作成したものでもない。「業務に従事する者」の要件
は,指揮命令下にあれば,雇用関係だけではなく請負関係も含むとされ
るが,原告と監督,撮影等の「著作物の全体的形成に創作的に寄与」し
た者は指揮命令関係がない請負関係に立つのであって,その点でも職務
著作の要件を欠く。
(ウ)公表要件に関する規定の制度趣旨は,著作における創作行為者の保
護のために,著作物が公表されるに当たって,法人等の指揮命令下にあ
って創作行為を行う従業員等においてその著作物が発意者たる法人等の
名義で公表されることを認識している場合に限る,という要件を付した
ものと解される。本件では,従業員ら(請負人も多い)は,本件各CM
原版が制作(下)請負会社である原告名義で公表されるものとは認識し
ておらず,この点でも原告の職務著作である要件を欠く。
(エ)原版のクレジットは,編集スタジオが作成する便宜的メモであり,
当該クレジットへの記載をもって本件各CM原版が原告名義で公表され
ているものとみなすことはできない。また,クレジットの表示を客観的
にみても,広告主以下の関係者の羅列において原告の社名が「制作会
社」の欄に表示されているだけであり,これをもって「原告の名義の下
に公表」されているとみなすことは不可能である。
(オ)以上のとおり,本件各CM原版は原告の職務著作ではない。また,
「職務著作」性の要件をみたす法人等が存するわけでもない。自己の名
義で公表するという要件を充足する可能性があるのは広告主であろうが
(広告主の広告として放送されるからである),本件においては,広告
主は個々の創作行為者との関係で,指揮監督をする「使用者」の地位に
なく,個々の創作行為者も広告主の「業務に従事して職務上作成」して
いるわけではないからである。
エ映画の著作物の著作権の帰属について
本件各CM原版は映画の著作物であり,その著作権者は著作権法29条
1項により広告主(主位的主張)又は被告アドック(予備的主張)であり,
原告に著作権が帰属することはない。
(ア)主位的主張
a映画の著作物に該当するための要件として,①表現方法の要件(映
画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現
されていること),②存在形式の要件(物に固定されていること),
③内容の要件(著作物であること)がある。
本件各CM原版は,①テレビ局が放送し,視聴者がテレビの上に影
像を顕出することが予定され,影像が動きをもつて見えるという効果
を生じさせており,②原版と呼ばれるビデオテープの上に固定された,
③著作物であるから,上記各要件を満たしている。
b本件各CM原版は,広告主が電通に製作を依頼し,電通の依頼に基
づいて製作されたものである。金銭の流れでいえば,製作費用は,広
告主が一括して電通に支払い,電通が原告・被告・出演したタレント
等にそれぞれ支払っている。また,最終的に完成した原版をテレビ放
映に使用するか否かを決定するのは,広告主である。
本件各CM原版の製作は,広告主が発意して電通にその製作を依頼
したものである。さらに,膨大ともいえる製作費用は,全額広告主が
負担している。広告主は,CMがテレビ放映されることによる利益を
享受するとともに,危険も負担している。CMがテレビ放映され,営
業成績が伸長すれば利益を享受し,営業成績が芳しくなければCM製
作に投じた費用が無駄になるという危険を負担している。
本件各CM原版の製作状況からすれば,本件原版の映画製作者は,
広告主である。
c本件各CM原版は広告主のCMであるが,電通の関係者,原告の関
係者,被告アドックの関係者のいずれもが,本件各CM原版の製作に
参加しているとの認識があったであろうことは容易に推認できる。
以上のとおり,本件各CM原版の著作権者は広告主のみである。
(イ)予備的主張
a本件各CM原版の制作については,被告アドックの社員であるディ
レクターやデザイナーらが中心となってCM制作の核である「企画」
部分を担当し,絵コンテを制作,被告アドック(B)がクリエイティ
ブ・ディレクターとして制作全般について「企画」どおりに「制作」
が行われるよう管理・監督を行っていたのであるから,「全体的形成
に創作的に寄与した者」とは,被告アドックの社員らやBであるため,
著作者は被告となる。
b原告(原告の取締役プロデューサーであった被告A)は,被告アド
ックが作成した「企画」に沿い被告の監督の下で撮影等を行い,予算
管理を行っていたにすぎず,CM制作について全体的形成に創作的に
寄与した者とはいえないため,被告Aを雇用していた原告も著作者と
はなり得ない。
c被告Aが著作物の全体的形成に創作的に寄与した者といい得る役割
を果たしていたとしても,被告Aは原告を代表する立場で被告アドッ
クのCM制作に参加していたのであるから,著作者は原告であっても
(著作権法16条),著作権は被告アドックにある(同法29条)。
(被告Aの主張)
ア原告の主張に対する認否
原告の主張はいずれも否認する。
イ共同著作物について
(ア)本件各CM原版は,被告アドックが電通から請け負い,現場制作作
業を原告に注文したものである。
(イ)上記(被告アドックの主張)イ(イ)と同じ。
ウ職務著作について
上記(被告アドックの主張)ウと同じ。
エ映画の著作物の著作権の帰属について
上記(被告アドックの主張)ウ(ア)と同じ。
(2)被告らの損害賠償責任の成否(争点(2))について
ア被告アドックの不法行為に基づく損害賠償責任の成否(争点(2)ア)に
ついて
(原告の主張)
(ア)ケーズデンキ関係の著作権侵害
本件ケーズCM原版は,広告主,広告会社,原告の共同著作物(共
有)であり,共有者全員の合意によらなければ行使できないところ(著
作権法65条2項),被告アドックは,原告に無断で,本件ケーズCM
原版を使用し,新たに店舗名を挿入し,本件ケーズ新CM原版を5本制
作して本件ケーズCM原版の著作権(複製権)を侵害し,本件ケーズ新
CM原版について,別紙1記載のとおり,合計42本のプリントを作成
(無断複製)した。また,被告アドックは,原告に無断で,別紙2記載
のとおり,本件ケーズ旧CM原版について,合計285本のプリントを
作成した。
仮にそうでないとしても,原告は職務著作又は映画の著作物の製作者
として本件ケーズCM原版の著作権を有するから,被告アドックが原告
に無断で本件ケーズ新CM原版5本及び合計327本のプリントを作成
したことは,原告の著作権(複製権)を侵害する。
(イ)ブルボン関係の著作権侵害
本件ブルボンCM原版は,広告主,広告会社,原告の共同著作物(共
有)であり,共有者全員の合意によらなければ行使できないところ,被
告アドックは,原告に無断で,別紙3記載のとおり,本件ブルボンCM
原版について,合計182本のプリントを作成した。
仮にそうでないとしても,原告は職務著作又は映画の著作物の製作者
として本件ブルボンCM原版の著作権を有するから,被告アドックが原
告に無断で合計182本のプリントを作成したことは,原告の著作権
(複製権)を侵害する。
(ウ)被告アドックの主張について
a被告アドックの主張に対する認否
被告アドックの主張(イ)~(エ)はいずれも否認する。
b著作権法65条3項について
原告には,被告が本件各CM原版を使用してプリントを作成するこ
とにつき,同意を拒む「正当な理由」がある(著作権法65条3項)。
CM制作の慣例上,制作会社は,制作したCM原版を保管し,広告
主・代理店においてプリントが必要となる場合には,制作会社にプリ
ント代を支払ってプリントの作成を依頼することとなっている。専ら
CM制作においては広告主の予算の関係で,制作会社はCM制作に関
しては十分な利益をとれない形で受注する場合が多い。このような形
で受注しても,後に必ず発生するプリント代金の支払により,その補
てんを図れるからである。これを何らの対価もなく奪われることは制
作会社にとって大きな損失となるのであるから,原告は,原告に対価
が支払われることなく本件各CM原版が使用されることについて,同
意を拒む「正当な理由」を有するといえる。
(被告アドックの主張)
(ア)原告の主張に対する認否
原告の主張(ア)及び(イ)はいずれも否認する。
(イ)原告の同意
a被告アドックは,本件ケーズ新CM原版制作及びプリント作成につ
いて,原告に無断で行ったことはない。仮に,原告が本件各CM原版
の共同著作権者であったとしても原告の同意を得ている。
b原告は,本件ケーズCM原版が新店舗告知CM(店舗名入り)の一
材料であることを認識し,被告アドックが本件ケーズCM原版を一材
料として,本件ケーズ新CM原版を作成することも認識していたから,
原告と被告アドックとの間で,被告アドックが本件ケーズCM原版を
使用して,本件ケーズ新CM原版を制作することについての包括的な
合意があった。
c本件で広告主が電通を通じて最初に制作会社に依頼したのは,テレ
ビで放映することを目的としたCM原版の作成であるから,原版を作
成後,テレビで放映するために,広告主がこれをプリントすることは
当然に予定されている。そのため,電通と被告アドックとの間の原版
制作契約,被告アドックと原告との間の下請契約には,広告主が原版
のプリントを行うことの合意も含まれているものと解すべきである。
仮に,原告が電通と直接に原版制作契約を締結していたとしても,
その原版制作契約には,広告主が原版のプリントを行うことの合意も
含まれているものと解すべきである。
(ウ)被告Aの同意
a原告の同意が認められないとしても,被告Aは,被告アドックに対
し,本件ケーズ新CM原版制作及びプリント作成について同意してい
た。
CM制作に関していえば,CM制作は映像・編集・録音といった作
業であるが,これには人員,機材,場所等を必要とし,それらを使う
には当然支払うべき費用が発生するし,受領すべき対価が発生する。
CM制作完了後も,制作に派生して,完成したCMの編集作業や完成
したCMのプリント代が発生することはCM制作を請け負った当初か
ら予定されている。
被告Aが原告から本件各CM原版の制作を任されていた以上,被告
Aは本件各CM原版に関する一切の裁判外の行為をする権限があった
(会社法14条1項)。
b仮に,原告が被告Aに対して,CM制作に関する行為のうち金銭交
渉に関する権限を制限していたとしても,被告アドックは,担当プロ
デューサーである被告AにCM制作に関する一切の行為をする権限が
あると考えて,取引を行っていたのであるから,善意の第三者として
保護されるべきである(会社法14条2項)。
cまた,会社法14条2項の適用がないとしても,原告が被告Aに対
してCM制作自体やそれに伴う人員,機材,スタジオ等の手配を包括
的に委任していたことは確実であるから,被告アドックがCMの編集
やプリント代の分配が被告Aの権限の範囲内の行為であると信じたこ
とにつき過失はなく,民法110条によって保護されるべきである。
(エ)著作権法65条3項
著作権法65条3項によれば,広告主・電通がプリントを行おうとし
た場合,原告は,正当な理由がない限り,プリントの同意を拒むことが
できない。本件では,広告主・電通がプリントを発注したのは,原版の
当初からの作成目的であるCMに使用するためであるから,原告にプリ
ントを拒否する「正当な理由」があったとは考えられないのであり,著
作権侵害に当たらない。
イ被告Aの不法行為又は債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実
義務違反)に基づく損害賠償責任の成否(争点(2)イ)について
(原告の主張)
(ア)著作権侵害
上記ア(原告の主張)(ア)及び(イ)と同じ。
(イ)被告Aの責任
被告Aは,本件各CM原版の(共同)著作権が原告に帰属しているこ
とを知りながら,著作権者ではない被告アドックと共同してこれを侵害
し,原告に損害を与えたものである。仮に,被告Aが,原告に著作権が
ない,又は被告アドックに著作権があると誤信していたとしても,8年
にわたりCM制作業界に携わりかつ原告の取締役として本件各CM原版
の制作に当初からかかわっていた以上,その誤信には重大な過失がある
といわざるを得えないから,被告Aは,不法行為責任があり,取締役の
善管注意義務・忠実義務に違反し,債務不履行責任がある。
また,被告Aの行為は,電通から依頼のあった仕事として原告におい
て処理し代金を受け得る状況であったものを,原告に秘して,被告アド
ックに仕事を横流しすることによって,原告に損害を与えたものであり,
かかる観点からは,著作権侵害とは離れた視点から考えても,善管注意
義務・忠実義務違反があるものといえる。
(ウ)被告Aの主張について
被告Aの主張(イ)はいずれも否認する。
(被告Aの主張)
(ア)原告の主張に対する認否
原告の主張(ア)及び(イ)はいずれも否認する。
(イ)原告の同意
a本件ケーズ新CM原版制作
⒜原告は,本件ケーズCM原版について,現場制作作業の請負人で
あり,CM制作の元請負人は被告アドックだったのであるから,被
告アドックが単独で個々の新店舗告知CMを作成することが予定さ
れていた請負契約であった。本件ケーズ旧CM原版は,原告(のプ
ロデューサーである被告A)の立会いのもとで,被告アドックが中
心となって完成された。しかし,被告アドックは,平成20年2月,
個々の新店舗告知CM作成について原告の立会いを求めなくなった
ため,被告Aは,原告代表者に対し,その旨を報告した。
⒝上記ア(被告アドックの主張)(イ)bと同じ。
bプリント作成
本件において,プリント代金については制作元請負人被告アドック
の担当者と現場制作作業請負人であった原告の担当者(プロデューサ
ーであった被告A)との話し合いで決定されていた。被告Aは,平成
18年10月,原告代表者に対し,被告アドックからプリント代金の
分配の要求があった旨を報告し,了承を得ている。
c小括
以上のとおり,仮に原告が本件各CM原版の(共同)著作権を有し
ているとしても,被告アドックはそれを侵害していないし,損害も与
えていないから,被告Aの責任を問う前提自体がない。
(3)損害額(争点(3))について
(原告の主張)
アケーズ関係の損害
被告アドックが制作した本件ケーズ新CM原版5本について,原告の利
益は1本当たり平均して13万円であるから,原告に生じた損害は65万
円である。
被告アドックが作成した本件ケーズ新CM原版のプリント42本及び本
件ケーズ旧CM原版のプリント285本の合計327本のプリントについ
て,原告の利益は1本当たり1万6500円を下ることがないから,原告
に生じた損害は539万5500円である。
イブルボン関係の損害
被告アドックが作成した本件ブルボンCM原版のプリント182本につ
いて,原告の利益は1本当たり1万6500円を下ることがないから,原
告に生じた損害は300万3000円である。
ウ合計
以上のとおり,原告の損害は904万8500円である。
(被告アドックの主張)
原告の主張はいずれも否認する。
(被告Aの主張)
原告の主張はいずれも否認する。
第3当裁判所の判断
後掲の証拠(特に掲記しない限り枝番号を含む。)等によれば,下記1及び
2(1)~(3)の各事実がそれぞれ認められ,これらを覆すに足りる証拠はない。
1本件各CM原版制作の特徴について
本件各CM原版を制作するについては,クライアントである広告主(ケーズ
デンキ及びブルボン)の希望が重視され,広告代理店は,制作開始当初に広告
主との間で会議を開催し,そこで広告主からの制作内容についての希望を聞き,
それに基づいて企画内容を検討している。また,企画内容を定めるに当たって
は,CMの成功が起用するタレントによって大きく左右されるため,タレント
として誰を採用するか,採用を決定したタレントについてその所属事務所に対
し,CMの企画内容を説明してその了解をとることが重要な作業として位置付
けられていた(甲20,乙21)。そして,企画内容が確定し,タレントの所
属事務所が了解した段階で,演出コンテを基に広告代理店(電通)で会議が開
催され,広告代理店の了解を得て,制作費が決定され,原版作成作業(撮影作
業)が開始されることになった(乙21)。
このように,本件各CM原版という著作物を制作するに当たっては,特に,
広告主の意向が重視され,その意向を基に原版制作作業が進められているから,
広告主の意向を把握した上で,原版制作作業を指揮できる立場にある者の役割
が重要であり,また,CMの成否に影響を与えるタレントの手配,広告代理店
への説明によりCM制作費の決定を得る手続を行う者の役割も重要であった。
したがって,このような役割を一貫して担う者があれば,その者がCM原版の
制作,その内容決定に当たっても主導的な役割を果たすものとして作業が進め
られていった。
2本件各CM原版の制作等について
(1)本件に至る経緯
アBは,電通に勤務していた平成7年以来,クリエイティブ・ディレクタ
ーとしてブルボンのテレビCMを担当していた。Bは,平成15年6月3
0日に電通を退職し,フリーのクリエイティブ・ディレクターとして活動
するようになったが,ブルボンの広告戦略を熟知していることや,ブルボ
ンとの信頼関係も形成されていたことから,退職後も電通から引き続きブ
ルボンのテレビCMのクリエイティブ・ディレクターを依頼されていた。
Bは,ブルボンのテレビCMについて,企画・制作を指揮するとともに,
撮影,編集等を担当する制作会社を独自の判断で選定しており,平成15
年12月から平成16年7月まではイフワークス,同年11月から平成1
7年3月まではシフトに担当させていた。
(前提事実(1)ウ,乙8,21,22)
イBは,平成17年1月,被告アドックの監査役に就任した。
(前提事実(1)ウ)
ウBは,平成17年5月ころ,ケーズデンキのCM制作について,電通を
通じ,ケーズデンキに対してプレゼンテーションを行う機会を得た。その
際,Bは,知人であった原告代表者に対し,プレゼンテーション案の作成
を手伝うように求め,被告A(原告のプロデューサーであって原告の制作
責任者)らがプレゼンテーション案の作成に関与した。しかし,原告の関
係者はプレゼンテーションに参加することはなく,電通がケーズデンキか
らCM制作を受注することはできなかった。プレゼンテーションに関する
費用は,被告アドックが電通に対してスポット制作費名目で63万円を請
求して支払を受け,原告が被告アドックに対してプレゼン費名目で42万
円を請求して支払を受けた。
(甲20,27,乙9,14,15,21,原告代表者本人,
被告A本人)
(2)本件ケーズデンキ関係
アBは,平成18年ころ,ケーズデンキが制作を希望するCMの内容を電
通に伝えるためのオリエンテーションに参加し,このオリエンテーション
に基づいて,CMのコンセプトを定め,出演タレントとしてドリフターズ
を起用することを決定した。Bは,被告Aに対し,ケーズデンキに対する
プレゼンテーションのために,絵コンテ作業を指示するとともに,制作予
算を作成した。Bは,絵コンテ作業を指揮して絵コンテを完成させた後,
ケーズデンキ本社において,電通の部長(C)及びマーケッターとともに,
プレゼンテーションを行い,電通はケーズデンキのCM制作を受注した。
原告は,上記オリエンテーションに参加することはなかった。
(甲17,乙10,21,22,被告A本人)
イBは,電通の部長及びキャスティング部門の担当者とともに,タレント
の所属事務所に絵コンテを持参し,撮影内容を説明した上で,タレントの
CM出演の了解を得た。また,Bは,電通のミーティング(プリ・プロダ
クション・ミーティング)に参加し,当該ミーティングにおいて制作予算
及びCM制作の進行予定が確定された。この会議にも原告は参加すること
はなかった。Bは,CMの撮影に際し,現場において撮影作業を指揮する
とともに,CMの編集に終始立ち会い,編集作業を指揮し,最終編集に立
ち会った広告主,電通の部長らに対して最終編集の説明を行った。この間,
被告Aは,原告のプロデューサーとして,撮影,編集等について,予算管
理,スケジュール管理,スタッフの選択・手配等に携わった。以上の経過
を経て,本件ケーズCM原版及び企業告知のテレビCM原版が平成18年
6月ころ完成した。
(甲2の2,2の3,甲4,5,17,20,27,乙8,10,12,
21~23,丙2,原告代表者本人,被告A本人)
ウ原告は,上記イのとおり,本件ケーズCM原版及び企業告知のテレビC
M原版の撮影作業について,予算管理,スケジュール管理,スタッフの選
択手配等の役割を担っていたため,平成18年7月,Bの指示により,電
通に対し,制作費名目で2877万円を請求して支払を受け,その中から
Bに対してクリエイティブ・ディレクター費を支払ったほか,企画費,制
作準備費,スタッフ費,撮影機材費,美術費,スタジオ費,編集費等を支
払った。他方で,被告アドックは,電通に対し,カンプ・コンテ費名目で
126万円を請求して支払を受けた。なお,原告は,同時期に,電通に対
し,ケーズデンキの企業告知のテレビCM原版のプリント代金約169万
円を請求して支払を受けた。
(甲1~3,17,22,23,乙1,21,23,丙2,
原告代表者本人,被告A本人)
エ本件ケーズ旧CM原版は,平成18年10月から平成20年1月までの
間,Bの指揮において制作され,被告Aは,声優リストの提出,編集室の
手配等を行った。本件ケーズ旧CM原版では,被告アドックが電通に対し
て制作費名目で請求して支払を受け,原告が被告アドックに対して制作費
名目で請求して支払を受けていた(例えば,平成18年10月には,被告
アドックの電通に対する請求額は約154万円であり,原告の被告アドッ
クに対する請求額は約94万円であった〔乙17の1のア及びイ〕。)。
また,原告は,本件ケーズ旧CM原版について,被告アドックを通じ,電
通からプリント49本の代金支払を受けたのに対し,被告アドックは,電
通から285本の代金支払を受けた。
(甲5~7,9~11,20,乙17,21,23,丙2,
原告代表者本人,被告A本人,弁論の全趣旨)
(3)本件ブルボン関係
アBは,平成17年11月以降,ブルボンのテレビCMについて,撮影,
編集等を担当する制作会社に原告を選定した。原告は,Bの指示により,
電通に対し,制作費名目で請求して支払を受け,他方で,被告アドックは,
電通に対し,制作費又はカンプ・コンテ費名目で請求して支払を受けてい
た(例えば,平成17年11月には,原告の電通に対する請求額は約29
71万円であり,被告アドックの電通に対する請求額は約117万円であ
った〔甲24の1,24の2,乙16の1,16の2〕。)。しかし,平
成19年2月以降,被告アドックが電通に対して制作費名目で請求して支
払を受け,原告が被告アドックに対して制作費名目で請求して支払を受け
るようになった(例えば,同月には,被告アドックの電通に対する請求額
は約1841万円であり,原告の被告アドックに対する請求額は約135
4万円であった〔乙18の1,18の2〕。)。また,原告は,そのころ
までは,電通に対し,プリント代金を請求して支払を受けていた。
(甲16,24,乙16,18,21,23,丙2,原告代表者本人,
被告A本人,弁論の全趣旨)
イBは,平成19年6月から平成20年3月までの間,本件ブルボンCM
原版について,その企画・制作を指揮し,被告Aは,原告のプロデューサ
ーとして,撮影,編集等について,予算管理,スケジュール管理,スタッ
フの選択・手配等に携わった。本件ブルボンCM原版では,被告アドック
が電通に対して制作費名目で請求して支払を受け,原告が被告アドックに
対して制作費名目で請求して支払を受けた(原告の被告アドックに対する
請求額は,平成19年6月約1858万円,同年11月約1396万円及
び平成20年3月約1417万円であった〔甲30〕。なお,被告アドッ
クの電通に対する同月の請求額は1869万円であった〔乙19の
3〕。)。この中から,原告は,企画費,制作準備費,スタッフ費,撮影
機材費,美術費,スタジオ費,編集費等を支払った。また,原告は,本件
ブルボンCM原版について,被告アドックを通じ,電通からプリント12
8本の代金支払を受けたのに対し,被告アドックは,電通から182本の
代金支払を受けた。
(甲12~14,20,27,30~33,乙8,19,21,23,
丙2,証人D,原告代表者本人,弁論の全趣旨)
(4)事実認定の補足説明
CM制作におけるBの役割について,その事実認定を補足説明するに,佐
藤洋輔作成の陳述書(甲18)では,Bの役割について,具体的な作業は広
告主に対するプレゼンテーションや最終的なチェックにすぎず,総合的に指
揮するようなことは一切なかった旨が供述され,原告代表者作成の陳述書
(甲20,27)でも,クリエイティブ・ディレクターは広告代理店の制作
責任者というような地位で制作を総指揮するような立場ではない旨が供述さ
れている。しかしながら,上記各陳述書では,B以外に誰がCM制作を総合
的に指揮していたかについて全く供述がされていない上,原告のプロデュー
サーとして原告の制作責任者(甲27参照)であった被告Aがそのような役
割をしたことも認められないのであるから(被告A自らそのような役割をし
ていないことを供述する〔乙8,丙2,被告A本人〕。),上記の佐藤洋輔
及び原告代表者の供述は容易に採用することができない。
これに対し,B作成の陳述書(乙21)は,特に本件ケーズCM原版(及
びケーズデンキの企業告知のテレビCM原版)について,その企画から完成
に至るまでの制作過程を具体的に供述するものであって,他の関係証拠とも
特段の矛盾のないものであるから,これを採用して,上記のとおり認定する
のが相当である。
3本件各CM原版の著作権の帰属(争点(1))について
(1)本件ケーズCM原版について
アまず,本件ケーズCM原版が映画の著作物であるかについて検討するに,
本件ケーズCM原版は,テレビCMの原版(新店舗名部分が空白の原版)
であり,これを使用して新たなテレビCM(新店舗名を挿入した完成版)
の制作ができるものであって(前提事実(3)ア),新店舗名部分の挿入が
なくともそれ自体で特徴のある表現を有するものと認められること(甲
5)に照らすと,映像が動きをもって見えるという効果を生じさせる方法
で表現され,ビデオテープ等に固定されており,創作性を有すると認める
のが相当である。
そうすると,本件ケーズCM原版は,映画の効果に類似する視覚的又は
視聴的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作
物であるから,映画の著作物(著作権法2条3項)であると認められる。
原告は,本件ケーズCM原版については,映画の著作物についての著作
権法の規定とは別個に著作者及び著作権者が決定されるべきであるとし,
本件CM原版は原告,広告主,広告代理店の共同著作物であると主張する
が,上記のとおり映画の著作物と認められる本件ケーズCM原版について
は,映画の著作物に関する規定に基づいて著作者,著作権者を認定するの
が相当であって,原告の主張は採用することができない。
イそこで,本件ケーズCM原版の著作者について検討するに,Bは,本件
ケーズCM原版において,その全制作過程に関与し,CMのコンセプトを
定め,出演タレントを決定するとともに,CM全体の予算を策定し,撮
影・編集作業の指示を行っていたのであるから(前記2(2)ア及びイ),
映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(著作権法16条本文)
として,本件ケーズCM原版の著作者と認めるのが相当である。
原告は,本件ケーズCM原版の制作は,職務著作(著作権法15条)で
あって,著作権法16条ただし書により原告が著作者となると主張するが,
Bが原告の業務に従事する者とは認められないから,原告の主張を採用す
ることはできない。また,本件ケーズCM原版は,テレビCMとして放映
されることによって公表されたものであると推認されるところ(公表につ
いては著作権法4条1項参照),テレビCMの放映では広告主の商号等が
示されることがあっても広告代理店や制作会社の商号等が示されることは
ないのが通常であることに照らすと,本件各CM原版が原告名義の下に公
表されたものであったとは認められないから,この点においても上記主張
は理由がない。
なお,Bは,被告アドックの監査役である(前記2(1)イ)ものの,被
告アドックの業務に従事する従業員等であるとは認められないから,被告
アドックが職務著作により本件ケーズCM原版の著作者であるということ
もできない。
ウ続いて,本件ケーズCM原版の著作権の帰属について検討する。
(ア)著作権法29条1項は,映画の著作物の著作権(著作者人格権を除
く。)は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参
加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属すると定めて
いる。
そして,映画製作者の定義である「映画の著作物の製作に発意と責任
を有する者」(著作権法2条1項10号)とは,その文言と著作権法2
9条1項の立法趣旨からみて,映画の著作物を製作する意思を有し,当
該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,
そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の
主体ともなる者であると解するのが相当である。
(イ)これを本件についてみるに,本件ケーズCM原版について,その製
作する意思を有する(発意)主体としては,広告代理店である電通か,
広告主であるケーズデンキであると考えられる。
原告は,本件ケーズCM原版について,CM制作に必要なコンテ,企
画案,監督,撮影,照明,美術,編集等のスタッフや企業と契約してい
るのは原告であり,その製作に関する経済的な収入及び支出の主体とな
っているのも原告であり,原告は著作権法29条1項の映画製作者であ
ると主張する。
確かに,前記2(2)ウのとおり,原告は,電通から,被告アドックよ
りも多額の支払を受けており,制作作業を担当する者を手配し,その支
払を電通から受ける窓口となっていたことが認められる。したがって,
被告アドックとの対比でみる限り,原告が中心的役割を担っていたよう
にも見える。
しかし,その支払内容の明細を見ると,原告の支払の大半を占めるの
は,撮影,編集関係の費用である(甲17,22)。前記CM原版制作
の特徴に照らせば,CM原版制作に当たっては,広告主の意向を反映し
て企画案を練り,出演するタレントを確保し,最終的に広告会社から確
定した企画の了承を得て,制作費を確定させるまでの作業が重要な意味
を持ち,そこまでの作業に比較すれば,その後の,撮影,編集の具体的
作業が寄与する程度は,相対的に低いものといわざるを得ない。
そうすると,原告は,本件ケーズCM原版制作の全体についてこれを
請け負って作業をしていたと認められず,その製作過程の部分的な関与
にとどまるのであって,原告が本件ケーズCM原版作成について,相対
的に比重の低い撮影,編集作業について,電通からの支払の窓口となっ
ていたからといって,本件ケーズCM原版の映画製作者であるというこ
とはできない。
(ウ)したがって,原告が本件ケーズCM原版の著作権を有するとは認め
られない。
(2)本件ブルボンCM原版について
ア本件ブルボンCM原版は,テレビCMであって,そのプリント(テレビ
CM原版のコピー)ができるものであったこと(前提事実(3)イ)に照ら
すと,映像が動きをもって見えるという効果を生じさせる方法で表現され,
ビデオテープ等に固定され,創作性を有していると認めるのが相当である。
そうすると,本件ブルボンCM原版は,映画の効果に類似する視覚的又
は視聴的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著
作物であるから,映画の著作物(著作権法2条3項)であると認められる。
なお,上記(1)アと同様に,上記のとおり映画の著作物と認められる本
件ブルボンCM原版については,映画の著作物に関する規定に基づいて著
作者,著作権者を認定するのが相当である。
イそこで,本件ブルボンCM原版の著作者について検討するに,Bは,電
通に勤務していた平成7年からブルボンのCM制作を担当し,撮影,編集
等を担当する制作会社の選定を行い,本件ブルボンCM原版についても企
画・制作を指揮していたのであるから(前記2(1)ア及び(3)),映画の著
作物の全体的形成に創作的に寄与した者(著作権法16条本文)として,
本件ブルボンCM原版の著作者と認めるのが相当である。
なお,上記(1)イと同様に,原告又は被告アドックが職務著作により本
件ブルボンCM原版の著作者であるということはできない。
ウ続いて,本件ブルボンCM原版の著作権の帰属について検討するに,上
記(1)ウ(ア)のとおり,映画製作者とは,映画の著作物を製作する意思を
有し,同著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であっ
て,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の
主体ともなる者である。
これを本件についてみるに,本件ブルボンCM原版について,その製作
する意思を有する(発意)主体としては,広告代理店である電通か,広告
主であるブルボンであると考えられる。
原告は,上記(1)ウと同様に,本件ブルボンCM原版について,原告が
著作権法29条1項の映画製作者であると主張する。
確かに,前記2(3)のとおり,原告は,電通から,被告アドックよりも
多額の支払を受けているが,その中から原告の支払の大半を占めるのは,
撮影,編集関係の費用である(甲31,32)。前記CM原版制作の特徴
に照らせば,本件ケーズCM原版と同様に,撮影,編集の具体的作業が寄
与する程度は,相対的に低いものといわざるを得ない。
そうすると,原告は,本件ケーズCM原版と同様に,本件ブルボンCM
原版についても,その製作過程の部分的な関与にとどまるのであって,本
件ブルボンCM原版の映画製作者であるということはできない。
したがって,原告が本件ブルボンCM原版の著作権を有するとは認めら
れない。
4被告らの損害賠償責任の成否(争点(2))について
(1)被告アドックの不法行為に基づく損害賠償責任の成否(争点(2)イ)につ
いて
原告は,本件各CM原版の著作権を有しないから,その余について判断す
るまでもなく,被告アドックが原告に対して不法行為に基づく損害賠償責任
を負うとは認められない。
したがって,原告の被告アドックに対する不法行為に基づく損害賠償請求
は理由がない。
(2)被告Aの不法行為又は債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実
義務違反)に基づく損害賠償責任の成否(争点(2)イ)について
ア不法行為に基づく損害賠償責任について
原告は,本件各CM原版の著作権を有しないから,その余について判断
するまでもなく,被告Aが原告に対して不法行為に基づく損害賠償責任を
負うとは認められない。
したがって,原告の被告Aに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理
由がない。
イ債務不履行に基づく損害賠償責任について
原告は,被告Aについて取締役としての善管注意義務・忠実義務違反が
あった旨主張する。
しかしながら,上記主張のうち,原告が本件各CM原版の著作権を有す
ることを前提とする主張については,被告Aの善管注意義務・忠実義務違
反の前提に欠けるから理由がない。また,原告は,被告Aが電通から依頼
のあった仕事として原告において処理し代金を受け得る状況にあったもの
を被告アドックに横流しした旨主張し,著作権侵害と離れた視点から考え
ても,善管注意義務・忠実義務違反がある旨主張するが,ここでいう代金
を受け得る状況とは,本件ケーズ新CM原版制作とプリント作成の受注を
いうものと解される。しかし,原告は,本件各CM原版の著作権を有せず,
その著作権を有するのは広告主又は広告代理店である電通であるから,誰
に発注するかは電通が自ら又は広告主の意を受けて任意に決定できる事項
である。そうすると,原告において,法律上の利益として代金を受け得る
状況があったとは認められないし,その他契約関係等の支払を受けうる地
位を根拠付けるに足りる証拠もないから,これを前提とする善管注意義
務・忠実義務違反の主張は理由がない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,被告Aが原告に対し
て債務不履行に基づく損害賠償責任を負うとは認められない。
したがって,原告の被告Aに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は
理由がない。
(3)結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官菊池絵里
裁判官小川雅敏

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛