弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 弁護人村田左文控訴趣意は、その提出にかかる控訴趣意書記載のとおりであるか
ら、こゝにこれを引用する。
 右に対する判断。
 控訴趣意第一点(公訴提起の手続違反)について、
 本件起訴状における公訴事実として、被告人は(一)昭和二五年六月初旬頃別府
市a町b組の相被告人A方において同人に対し、精米一斗を金六〇〇円にて売渡
し、(二)同年六月七日頃前同所において前同人に対し、精米五升を金三〇〇円に
て売渡した旨記載せられその罰条として食糧管理法第九条、第三一条、同法施行規
則第二三条を掲げ、法定の除外事由がないことに触れていないことは、所論のとお
りであつて、この種事案における訴因明示の方法としては、事案の法的性質を明ら
かにする意味において、法定の除外事由のないことを示すのが望ましく、原審裁判
官としては釈明権を行使して検察官にこれが補正の手続をなさしめるのが適当であ
<要旨第一>ると考えられる。しかし食糧管理法違反の犯罪において法定の除外理由
がないということは、犯罪の積極的構成要件をなすものではないから、
訴因の表示として常にこれを明示することを必要としないばかりでなく米麦等は政
府その他一定の者以外にこれを売り渡し又は譲り渡す場合の外、何人に対してもこ
れが売渡し又は譲渡を絶対に禁止されている法の建前より見れば、本件起訴状の記
載は、右事由のないことを当然に予定したものと解せられないことはない。従つて
起訴状に罪となるべき事実を包含せず又公訴事実の記載がないとする論旨は採用の
限りでない。
 控訴趣意第二点(証拠によらない事実認定)について、
 食糧管理法違反の罪において、法定の除外事由がないということは前段説示の如
く、犯罪の積極的構成要件をなすものではないから証拠によつてこれを認定する必
要はないばかりでなく、本件において原判決は、被告人がAよリ「妻の全快祝に入
用だから都合してくれ」又は「妻が入院のため米が不足して困るから都合してく
れ」といわれて本件の精米を同人に譲渡した事実を認定判示したもので、右判示自
体、被告人に法定の除外事由がなかつたことが明らかであり、しかも該事実は、原
判決挙示の証拠によつて優にこれを認め得るのであつて、原判決は証拠に基ずかな
いで事実を認定したものではないから、論旨は理由がない。
 控訴趣意第三点(事実誤認、法令適用の誤)について、
 原判決が被告人の犯罪事実として、被告人がAに対し、(一)同人より金六〇〇
円を受取つて、精米一斗を譲渡し、(二)配給米代の一部金三〇〇円を同人より受
取つて自己が受配した精米五斗を譲渡した事実を認定したことは所論のとおりであ
る。しかし原判文にその挙示にかゝる証拠を対照すれば、原判決は、米の売買乃至
有償譲渡の事実を認定したのではなく、原審において被告人の弁解する如く、米の
無償譲渡の事実を認定したものに外ならないと解せられる。この点に関し、事実誤
認ありとする論旨は、原判決の認定しない事実に立脚して原判決を非難するもの
で、採用することができない。次に論旨は、食糧管理法施行規則第二三条で禁止さ
れている米麦等の譲渡には、無償譲渡の場合を含まないというのであるが、一般に
食糧管理法関係法規において、<要旨第二>米麦等の譲渡というときは、売買、贈与
を含む一切の所有権移転を意味するものと解すべきで特に同法施行規
第二三条のそれは、消費者間における無償譲渡であつても別段の除外事由がない限
り、これを禁止する趣旨であることは、同法条「売り渡し」と「譲り渡し」とを特
に書き分けてある点に照し明らかであるから、原判決が、被告人の本件所為を同規
則二三条、食糧管理法第九条に違反するものとして、同法第三一条に問擬処断した
のは、もとより正当というべく、この点に関し何等法令適用の誤はない。論旨は理
由がない。
 控訴趣意第四点(訴訟手続の法令違反)について、
 原審が訴因変更の手続を経ないで、起訴状の米の売渡とあるのを無償譲渡と認定
したことは、所論のとおりである。しかし両者はその基本的事実関係において全く
同一であり、いわゆる公訴事実の同一性があるというべきで、訴因に含まれた事実
をこの程度に変更するには、格別訴因変更の手続をふむ必要はない。しかも原審に
おける審理の過程を見ると、原判決の認定は、むしろ被告人の自認の限度において
なされたもので、訴訟における被告人の防禦権の行使に実質的な不利益をもたらし
たものとは認められないから、原審の措置に訴訟手続の違背があるとなすことはで
きない。論旨は理由がない。
 その他原判決を破棄すべき事由もみられないので、刑事訴訟法第三九六条に則
り、本件控訴を棄却すべきものとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 筒井義彦 判事 川井立夫 判事 安東勝)

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