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平成8年(ワ)第1704号 損害賠償請求事件(甲事件) 平成10年(ワ)第
956号 損害賠償請求事件(乙事件)
主文
1 甲事件原告ら及び乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,甲事件原告ら及び乙事件原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
 1 甲事件
  1) 甲事件・乙事件被告東京都は,甲事件・乙事件原告らに対し,各10万円
及びこれに対する平成8年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を
(各5万円及びこれに対する平成8年5月31日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員の限度では甲事件・乙事件被告国立市と連帯して)支払え。
2) 甲事件・乙事件被告国立市は甲事件・乙事件被告東京都と連帯して,甲事
件(原告A,同B,同C,同D,同E,同F及び同Gを除く)・乙事件原告らに対
し各5万円及びこれに対する平成8年5月31日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,東京都国立市等に居住する甲事件・乙事件原告らが,被告東京都
(以下単に「東京都」という)及び同国立市(以下単に「国立市」という)に対し
て,JR国立駅前周辺に係る東京都知事及び国立市長の通謀による違法な都市計画
決定によって,同駅前の通称「大学通り」についての原告らの景観権が侵害され,
かつ,被告東京都については,適正な手続きによって都市計画を決定することを求
める両事件原告らの権利を侵害されたため,精神的損害を被った等と主張して(但
し甲事件原告A,同B,同C,同D,同E,同F及び同Gについては国立市の同意
を得て国立市に対する訴えを取り下げた),国家賠償法1条1項により,損害の一
部の賠償及びこれに対する平成8年5月31日から支払済みまで年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を求めた事案である。
第3 争いがないか証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
 1 大学通り周辺の状況
   別紙2「概況図」(省略)のとおり,JR国立駅南口前はロータリーになっ
ており,このロータリー付近から概ね南に向かってほぼ一直線に,南側の東西方向
の都道146号線(通称桜通り)と交差する地点まで,延長約1.3キロメートル
の公道がある(以下通称に従い「大学通り」という)。大学通りはそのほぼ中央部
分付近で一橋大学の敷地を東西に分割してこれと接し,さらに南側で桐朋学園,都
立国立高校に接し,近くには都立第5商業高校等がある。
  大学通りは,その中心から両端に向かって順に車道部分,自転車レーン部
分,緑地部分及び歩道部分から成り,車道部分及び自転車レーン部分の幅員の合計
は18.18メートル,緑地部分の幅員は各9.09メートル,歩道部分の幅員は
3.64メートル(以上の幅員の合計は43.64メートル)である。これらのう
ち車道部分,自転車レーン部分及び歩道部分は建設省が所有し,車道部分及び自転
車レーン部分を東京都が,歩道部分を国立市がそれぞれ管理し,緑地部分は国土計
画株式会社が所有し,国立市がこれを管理している。緑地部分には赤松,プラタナ
ス,銀杏,桜などが植えられている。大学通りの一橋大学に接する部分には,上記
の歩道部分の外側にさらに幅員各3.64メートルの緑地部分が設けられ,銀杏,
桜などが植えられている。
 JR国立駅前のロータリーから概ね東南方向に向かって旭通りと呼ばれる公
道が伸び,また概ね西南方向に向かって富士見通りと呼ばれる公道が伸びている。
なお,富士見通りの周辺には国立音大附属高校・中学校,郵政研修所等がある。
(甲3の1,2,弁論の全趣旨)
 2 大学通り建設の経緯等
1) 現JR国立駅周辺の開発
 現在のJR国立駅周辺は,かつては旧谷保村の地域内にあり,少なくとも
大正14年以前は畑,雑木林等であったところ,遅くとも大正14年ころ,当時の
箱根土地株式会社,旧東京商科大学(現一橋大学)等との間で,当時の省線国分寺
駅と立川駅の中間に新駅を建設し,新駅の付近に新しい町を建設して,旧東京商科
大学を招致することが計画されたが,この計画には,①新駅の前に広場を設けるこ
と,②この広場から旧東京商科大学の用地を貫通する幅員24間の幹線道路(ただ
し大学用地を通過する道路部分の幅員は30間)を設けること,③新駅を起点とし
てこの幹線道路と約45度の角度をなす幅員10間の放射状の道路を設けること,
④その余の道路をできる限り整然と区画して設けること,⑤上下水道,電力の設備
を設けることなどが含まれていた。(甲63,64)
2) 計画の実現と大学の移転
 箱根土地株式会社は,遅くとも昭和元年ころまでに,現JR国立駅となる
新駅(以下この駅を単に「国立駅」という),駅前の広場などを建設したほか,こ
のころ,駅前の広場から南方向へ向かう幅員24間の道路(旧東京商科大学の前の
部分は幅員30間,現在の大学通り),左右2条の放射状の各幅員6間の道路(現
在の旭通り,富士見通り)をそれぞれ建設し,さらに新駅の南側を幅員3間の道路
で碁盤の目状に区画した上,概ね200坪を1区画の単位として宅地の分譲を開始
した。なお,この南北方向の道路(現在の大学通り)は,中央の幅員10間が本道
(車道部分)となっており,その外側の左右の幅員各5間が公園道(緑地部分),
さらにその外側の左右の幅員各2間(旧東京商科大学前の部分は各5間)が歩道と
なっていた。また,前記の2条の放射状の道路の両側は,それぞれ商店が入居する
区域とすることが予定されていた。旧東京商科大学は,昭和2年及び同5年に,概
ね現在の一橋大学の敷地部分に移転した。(甲63,65の1から4)
3) 文教地区の指定,市制施行
 旧谷保村は,昭和26年,名称を旧北多摩郡国立町(以下「旧国立町」と
いう)に変更したが,このころ,当時の町民などは,国立町が立川基地の駐留軍兵
士相手の歓楽街化することに反対する浄化運動を行った。その後旧国立町は,翌2
7年1月6日,当時の建設大臣から文教地区の指定を受けた。
 旧国立町は,昭和42年1月1日,国立市へ市政移行した。
 国立市の市民らは,昭和44年,大学通りの桐朋学園付近に歩道橋を設置
する計画に対して,反対運動を行い,歩道橋設置工事の差止訴訟を提起したが,第
1審では敗訴し,控訴後の昭和49年に東京高等裁判所が控訴棄却の判決をし,そ
の後に同判決が確定したことで,この反対運動は終息し,結局歩道橋が設置され
た。(甲63,66,弁論の全趣旨)
3 平成元年の都市計画決定の見直し等
1) 東京都知事(以下暦年に応じて東京都知事の個人名は公知であるから省
く)は,昭和61年7月,都市計画区域における市街化区域と市街化調整区域との
区域区分,用途地域等の見直しを行うため,東京都都市計画地方審議会に対し,土
地利用の基本方針について諮問を行い,昭和62年3月に同審議会の答申を得たの
で,答申に示された土地利用に関する考え方に基づいて都市計画の見直しを行い,
同年6月,下記の内容を含む「用途地域等に関する指定方針及び指定基準」を定
め,国立市等に対し,都市計画の区域区分,用途地域の見直し等に関する都市計画
の原案の作成を依頼した。(甲2の1,弁論の全趣旨)
ア 用途地域等の指定の基本方針
 都市型・生活型の公害を防止する区域や,良好な都市景観の創出,歴史
的環境の保全を図る区域等については,公害を防止し,地域の持つ自然的な環境特
性を生かした,快適な生活環境の整備と自然環境の保全回復を図っていくため,土
地利用純化を指向する用途地域の指定等を行う。
 多心型都市構造の転換に向けて,居住空間の確保・回復を図る区域及び
商業・業務施設の立地を図る区域については,生活の場の充実と都市活動の場の整
備に努め,職と住の近接した機能的な都市の形成を図っていくため,他種類の用途
地域の活用と,その適切な配置に留意して用途地域等を指定する。この場合,容積
率については,都市施設との均衡に留意するとともに市街地の無秩序な過密化を防
止する等のため,原則として現行の指定を変更しないものとする。ただし,計画的
な市街地の整備を図る区域,都市施設が新たに整備された区域等については,適切
な見直しを行う。
 市街地再開発事業等の都市計画事業等の各種の制度に基づく事業が実施
される区域,高度利用地区等の制度の適用される区域等の区域については,これら
の事業等の目的に適合する用途地域等を指定する。
イ 住宅地,商業地等に係る指定方針
 土地利用の目標,土地利用の現況,動向,周辺の土地利用,道路,鉄
道,下水道等の整備状況,都市内における位置並びに広域的な土地利用構成等を考
慮して,用途地域等を指定する。
 住宅地は,生活環境を改善し,また生活利便性の向上を図って,居住空
間を確保していく必要があるから,第1種住居専用地域または第2種住居専用地域
を積極的に指定し,併せて地区の特性に応じた適切な建ぺい率,容積率を指定す
る。概ね多摩の「心」地区中心等の区域は,職と住の近接を目指した居住空間の回
復を図るため,オープンスペースを確保した環境の良好な中高層住宅地として形成
していく。このため,原則として第2種住居専用地域を指定し,併せて地域の特性
や都市施設の整備水準に留意し,適切な容積率を指定する。
 商業地は,日常購買品等を扱う店舗等の生活利便施設の立地を図る等の
区域については,近隣商業地域を指定する。また,多心型都市構造への転換を図っ
ていくため,副都心など商業,業務施設等の計画的な整備,充実を図る区域につい
ては,商業地域を指定する。多摩の「心」及び地域の拠点となる地区中心の区域
で,商業・業務等の施設が立地する区域またはその立地を誘導する必要のある区域
は,地域の拠点としての機能を一層高め,多心型都市構造への転換を図っていくた
め,商業地域に指定し,併せて地域の特性や都市施設の整備水準に留意し,適切な
容積率を指定する。
 特別用途地区,高度地区等の指定または変更にあたっては,生活環境の
保全や都市活動の維持増進等,その指定目的とともに併せて土地利用の目標,土地
利用の状況,地域特性の変化の過程等を勘案して行う。この場合,容積率400パ
ーセント以上の高容積が定められている区域については,周辺の住宅地に対する環
境保全上の配慮が特に必要な場合を除き,最高限度高度地区を指定しないこととす
るなど,基本となる用途地域との整合性に留意して行うこととする。
   ウ 上記ア,イの指定方針を踏まえて選定した用途地域(ただし,工業地域
等を除く)について,建ぺい率,容積率を定めるにあたり,基本となるべき建ぺい
率,容積率は別紙3の1から5「指定標準表」(省略)記載のとおりであった。
2) 国立市は,これより先,都市計画の基本構想として,①文化の創造,②教
育の尊重,③生活の尊重,④自然の保護育成を柱とし,自然を残しつつ公園・街路
樹等の公共施設を整備してその緑化を推進し,私有地に植樹を奨励すること等を具
体的施策の目標に掲げていたところ,昭和60年12月20日,新たに10年計画
としての都市計画に関する第2期基本構想を定め,同月23日にこれを告示した。
 第2期構想は,まちづくりの目標として「文教都市くにたち」や「緑と文
化のふれあい」を掲げ,公共の福祉の向上を目的として,環境の保全を図りつつ,
地域の自然的,社会的,経済的,文化的条件を配慮し,全市域の均衡ある発展を目
指し,これを敷衍して,①国立市の歴史的,地理的,文化的条件を十分に考慮し,
ふさわしい地域産業の育成に努め,同時にその振興をとおしてまちの活力を確保す
ること,②近隣都市との有機的な連関の中で,国立の地域特性を生かした商業環境
作りを進め,とりわけ人と自動車の共存を考慮し,安心して散策の楽しめるまちな
みの形成と文教都市にふさわしい文化的要素をもった個性豊かな商店街作りを促進
し,人が集い,活気にあふれるまちづくりをすることがまちづくりの基本施策であ
ると述べていた。
(甲14の1,2,弁論の全趣
旨)
3) 国立市長(以下暦年に応じて国立市長の個人名は公知であるから省く)
は,上記のとおり東京都知事の原案作成の依頼を受け,昭和62年10月30日付
でなされた,国立駅周辺の商店等の団体である国立市商工会の都市計画用途地域の
見直しを要望するとの申入れ等を斟酌して,「用途地域等見直し試案」及び「市街
化区域及び市街化調整区域の整備,開発又は保全の方針見直し試案」をそれぞれ作
成した上,昭和62年12月14日に国立市建設委員協議会に対して報告する等関
係方面に諮り,また,昭和63年1月25日,市内8か所で用途地域の見直し等に
ついての地区説明会を開催した。
 その結果,同年2月3日,国立市の都市計画用途地域等の見直しに関し
て,①都市計画,市街化区域等の整備,開発,保全の方針の見直しについて,見直
し試案を広報誌に掲載すべきであり,市民に対する説明会で説明すべきであるこ
と,②文教地区指定運動以来,国立市民が作り上げてきた良好な住環境を守り続け
るべきであり,都市計画用途地域等の見直しに際して,用途,容積,日影等の規制
を緩和する方向をとるべきでないことなどを訴える意見が市民から寄せられた。
 国立市長は,同年2月26日,「市街化区域及び市街化調整区域の整備,
開発又は保全の方針変更原案」及び「国立都市計画用途地域等変更原案」を作成し
た。このうち「市街化区域及び市街化調整区域の整備,開発又は保全の方針変更原
案」は次のとおりの内容を含んでおり,「国立都市計画用途地域等変更原案」は国
立駅周辺等の容積率・建ぺい率の緩和等を盛り込んでいた。
ア 土地利用の方針
 商業地の内,国立駅周辺地区を中心商業地と位置づけ,都市景観に配慮
し,土地の高度利用による建物の高度化を図り,商業復興の活性化を促進する。富
士見通り沿線地区,旭通り沿線地区等を商業地と位置づけ,地域サービスの利便性
を高めるため,土地の高度利用を図り,商業機能の充実を促進する。
 住宅地の内,既成市街地の国立地区等は,良好な住宅環境を形成してい
るので,その保全に努め,地域特性を生かした土地の有効利用を図る。
 商業地については,地域の特性に応じた高密度な土地利用とし,住宅地
については,国立地区等の計画的に市街化が形成され,都市施設が適正に配置,整
備された地区を除いて,原則として低密度の土地利用とする。
イ 市街地の開発及び再開発の方針
 既成市街地においては,地域特性にあった有効な土地利用を図りつつ良
好な都市環境の維持改善に努める。
 既成市街地の商業地については,土地の高度利用を図り,特に国立駅周
辺については,再開発等の市街地整備の誘導を図り,既成市街地の住宅地について
は,用途の純化を促進し,良好な住宅地として土地の有効利用を図る。
 国立市長は,平成63年2月29日,国立市にもうけられた都市計画審議
会(以下「国立市都市計画審議会」という)に対し,①市街化区域及び市街化調整
区域の整備,開発又は保全の方針,②用途地域,③高度地区等に関する都市計画の
変更の原案について報告し,同日,東京都に対し,都市計画用途地域の変更の原案
を提出した。国立市長は,その後,東京都知事の指摘に基づいて,都市計画用途地
域の変更の原案を5か所修正し,平成元年1月30日に国立市建設委員協議会に対
し,都市計画用途地域の見直しの当時の現況について,同年3月27日に国立市都
市計画審議会に対し,東京都から照会のあった国立市都市計画用途地域の変更案に
ついてそれぞれ説明し,同年5月19日,都市計画用途地域の変更案等について公
告,縦覧の手続をとっ
た。
 国立市長は,平成元年7月,国立市都市計画審議会に対し,国立市都市計
画用途地域の変更並びに国立市都市計画防火及び準防火地域,高度地区,特別工業
地区の変更についてそれぞれ諮問し,同月7日,国立市都市計画審議会による承認
を得て,これを東京都知事に送った。
 東京都知事は,国立市の見直し原案に一部修正を加えて都市計画の案を作
成し,都市計画法に定める手続を践んで,都市計画用途地域を決定し,同年10月
11日告示した。他方,国立市長も,国立市都市計画防火及び準防火地域,高度地
区,特別工業地区の変更について決定し,同日,これを公告し,縦覧の手続をとっ
た。
 上記の都市計画用途地域等の変更の前の国立市の都市計画用途地域(ただ
し,国立駅の周辺の部分で概ね一橋大学の敷地の南辺よりも北側の部分)の指定の
状況は概ね別紙4の1「国立市都市計画図1」(省略)のとおり,同変更後の国立
市都市計画用途地域(ただし,範囲は前記と同様)の指定の状況は概ね別紙4の2
「国立市都市計画図2」(省略)のとおりである。(甲3の1,2,甲4ないし
8,弁論の全趣旨)
4 都市計画法等の改正に伴う措置等
 平成4年,都市計画法及び建築基準法が改正され,住居系用途地域の細分化
(第1種及び第2種の住居専用地域,住居地域の3種類から,第1種及び第2種の
低層住居専用地域,第1種及び第2種の中高層住居専用地域,第1種及び第2種の
住居地域,準住居地域の合計8種類になった。),特別用途地区制度の拡充,誘導
容積率制度の創設,区市町村の都市計画に関する基本方針の策定の義務づけがされ
た。
 東京都知事は,法改正を受けて,東京都都市計画地方審議会に対して土地利
用の基本方針について諮問を行い,平成5年6月にその答申を得た上,同年9月,
「用途地域等に関する指定方針及び指定基準」(以下「ガイドライン」という)を
定めた。ガイドラインは概ね次の内容を含むものであった。(甲2の2,弁論の全
趣旨)
1) 用途地域等に係る指定方針及び指定基準に関する基本的考え方
 都心一極集中がもたらした諸問題を解決するとともに,多心型都市構造へ
の転換をより一層推進し,機能的な都市の形成を図るため,適切な用途地域等を指
定する。歴史的,文化的価値の高い社寺仏閣や特徴ある界隈を保全し,水と緑に彩
られた美しい街並みを保全,形成していくため,都市景観に配慮しつつ,適切な用
途地域等を指定する。
2) 用途地域等の指定方針
ア 用途地域の指定にあたっては,区部中心部等における居住機能の保全と
回復,良好な市街地環境の整備等を目標に,市街化区域及び市街化調整区域の整
備,開発,または保全の方針及び区市町の都市計画の基本方針等を踏まえ,当該地
域の土地利用の現況及び動向並びに周辺の土地利用等を勘案して,地域における道
路,鉄道等の都市施設の整備状況,市街地開発事業等の進捗状況を考慮しつつ,指
定する。指定にあたっては,安易な規制緩和とならないよう留意の上,住居系用途
地域を中心としつつも商業系及び工業系用途地域についても併せて検討する。商業
系及び工業系の用途地域の容積率については,一極集中等への対応から,計画的な
市街地の形成を図るもの等を除き,原則として変更しないこととする。
イ 住宅地については,住環境の悪化をもたらすおそれのある施設の混在を
防止して適切な住環境の保護を図り,環境の良好な居住空間を確保していく必要が
ある。このため,できるだけ住居の専用性を高めるという観点から,第1種低層住
居専用地域,第2種低層住居専用地域,第2種中高層住居専用地域を積極的に指定
し,併せて,良好な居住空間を確保するため,地区特性に応じた適切な建ぺい率・
容積率を指定する。
 良好な住環境を有する低層住宅地の形成を図る区域は,原則として,第
1種低層住居専用地域を指定する。また,住民の日常生活圏にも配慮して,小規模
な日用品販売店舗等の立地を許容する主要な生活道路に面する区域等については,
第2種低層住居専用地域を指定する。
 土地区画整理事業等により面的に公共施設を整備して新たに計画的に市
街化を図るべき区域については,原則として第1種低層住居専用地域または第2種
低層住居専用地域を指定する。
 良好な住環境を有する中高層住宅地の形成を図る区域は,原則として第
1種中高層住居専用地域を指定する。また,住民の日常生活の利便から中高層住宅
地内で中規模な店舗等の立地を許容する主要な道路に面する区域等については,第
2種中高層住居専用地域を指定する。
 その他の住宅地にあっては第1種住居地域を指定し,住居と店舗,事務
所等の併存を図りつつ住環境を保護する住宅地については,第2種住居地域を指定
する。
ウ 現在第1種住居専用地域が指定されている区域は,低層住宅専用の区域
として住環境の保全,整備を図るため,原則として第1種低層住居専用地域を指定
する。ただし,低層住宅地としての環境を保護しつつ,独立した日用品販売店舗等
の立地を許容することが適当な場合に限って,住民の利便にも配慮して第2種低層
住居専用地域を指定する。
 現在第2種住居専用地域が指定されている区域は,中高層住宅の専用地
域としての住環境の保護を図る観点から,原則として第1種中高層住居専用地域を
指定する。ただし,店舗で床面積の合計が500平方メートルを超えるもの,事務
所等が既に相当数立地しており,今後ともその立地を許容すべき区域については,
第2種中高層住居専用地域を指定する。現に低層住宅地でありながら独立した日用
品販売店舗等が既に相当数立地していることから第1種住居専用地域が定められ
ず,第2種住居専用地域を指定している区域は,極力第2種低層住居専用地域を指
定する。この場合,必要に応じて容積率の見直し等を行うこととする。
 現在住居地域が指定されている区域は,大規模な事務所,店舗等が進出
し,住環境に悪影響を与える例も多いため,より適切に住環境の保護を図るため,
基本的に第1種住居地域を指定する。ただし,店舗,事務所等で床面積の合計が3
000平方メートルを超えるもの等が既に相当数立地しており,今後ともその立地
を許容すべき区域に限って第2種住居地域を指定し,良好な住環境を害するおそれ
のある建築物の立地を制限すべき中高層住宅地については,第2種中高層住居専用
地域を指定する。
エ 多摩の「心」地区中心等の周辺の区域は,地区特性に応じ,都市施設の
整備を行いながら,職と住の近接を目指した居住空間を確保するため,地区計画等
を活用しつつ,オープンスペースを確保した環境の良好な中高層住宅地として整備
していく。このため,原則として第1種中高層住居専用地域を指定し,併せて,地
域の特性や都市施設の整備水準に留意しつつ適切な容積率を指定する。
 多摩地域等の市街化が進行している区域は,土地区画整理事業,地区計
画等の手法を活用し,地域の都市施設の整備状況や事業の進捗状況に合わせ,用途
地域の指定を行う。
オ 隣接する住宅地との環境の調和を図る商業地等で,近隣の住宅地の住民
に対する日用品の供給を目的とする店舗等の生活利便施設の立地を図る区域につい
ては,近隣商業地域を指定する。多摩の「心」については,多摩の自立性の向上に
資するとともに都心に集中する業務機能分散の受け皿として,地区中心等の業務,
商業施設を整備する区域については,地域の拠点として,また都心に集中する業務
機能分散の受け皿として,それぞれ商業地域を指定し,地域の特性や都市施設の整
備状況に応じて適切な容積率を指定する。なお,商業系用途地域の指定にあたって
は,住宅地への業務,商業機能の浸食が進行することのないよう留意するものとす
る。
3) 特別用途地区等の指定方針
 特別用途地区,高度地区等の指定等にあたっては,生活環境の保全や都市
活動の維持,増進等の指定目的とともに,土地利用の目標,土地利用の状況等を勘
案して行う。
 多摩の「心」等の業務,商業施設の集積を図るべき区域では,必要に応じ
て商業専用地区を指定する。興業場その他の娯楽施設,スポーツまたはレクリエー
ション施設等に係る利便の増進又はこれらの施設等に係る環境の保護を図る必要が
ある区域については,娯楽・レクリエーション地区を指定することができる。特別
業務地区は,流通業務施設,沿道サービス施設,特別な業務施設等の立地を図り,
これらの施設に係る業務の利便の増進を図る必要がある区域について指定すること
ができる。その他構成地区等については,地区特性に応じ,基本となる用途地域と
の整合を図りつつ,適切な指定を行う。
 高度地区は,住環境の保護や都市景観の形成等地区特性に配慮しつつ,基
本となる用途地域との整合に留意して適切な指定を行う。この場合,容積率400
パーセント以上が定められている区域等については,周辺の住宅地に対する環境保
全上の配慮が必要な場合を除き,原則として最高限度高度地区を指定しないことと
する。
4) 用途地域の指定にあたって留意すべき事項
ア 用途地域に関する都市計画の決定及び変更は,土地利用の動向,公共施
設の整備状況等の把握に努めるとともに,都市計画上の課題に対応し,その健全な
発展に資する的確な見直しが図られるよう十分留意して行うものとする。なお,用
途地域の種別,容積率等の変更に伴って,隣接する地域の住環境の保護や業務の利
便の増進に支障を及ぼすことが想定される場合等にあっては,地区計画等により必
要な制限を行うものとする。
イ 市街地再開発事業等を活用して良好な市街地を形成していく区域につい
ては,必要に応じて,これらの事業等の目的と熟度に配慮しつつ周辺の土地利用及
び公共施設の整備状況等を総合的に勘案し,適切な用途地域等を指定する。
 区市町の都市計画の基本方針に基づき,地区計画等をより一層活用し
て,地区施設の整備を誘導する等良好な市街地環境の整備を図ることとし,この場
合地区計画等の内容を配慮しつつ,適切な用途地域等を指定する。
 崖線,丘陵地等の緑や水系等の豊かな自然を生かし,歴史的,文化的価
値の高い建築物や美しく潤いのある都市景観を保全するとともに,新しい町作りに
ふさわしい都市景観を創造していく場合は,周辺の土地利用にも配慮しつつ,地区
計画等との連携の下に,適切な用途地域等を指定する。
ウ 当該地域における建築物の主たる用途が広範囲に変化し,新たな市街地
像に対応した用途地域に変更することが相当であり,かつ都市全体の都市機能配置
及び密度構成に支障がないと認められる場合,又は都市基盤施設の整備や面整備事
業等により土地利用条件が変化して,他の用途地域に変更することが適切な場合,
安易な規制緩和とならないよう,十分に留意しつつ用途地域の変更等を行うものと
する。
 すなわち,幹線道路等の都市施設の整備や土地区画整理事業等が行われ
ている区域については,地区特性の変化の要因となるこれらの事業の見通しを進捗
状況に合わせ,新たな土地利用条件に適合する用途地域等を指定し,工場等の移
転,鉄道駅の新設等により土地利用条件が変化した区域については,土地利用の動
向と今後の見通し,あるべき土地利用の方向を考慮して,周辺の土地利用との調和
に配慮しながら適切な用途地域等を指定する。
エ 第1種低層住居専用地域,第2種低層住居専用地域,第1種中高層住居
専用地域,第2種中高層住居専用地域と商業地域,工業地域,工業専用地域とは,
原則として相互に接して定めないものとする。
 用途地域等の最小標準面積は,原則として,「用途地域等に関する指定
方針及び指定基準」の3の「指定基準」の表によるが,都市計画事業,地区計画等
により計画的な市街地の整備を図る区域,比較的敷地規模の大きい供給処理施設等
の公共施設の区域については,この限りでない。用途地域等を路線式指定する場合
には,その区域の幅は道路境界線から原則として20メートルとする。
オ 上記2)から4)の指定方針及び留意事項を踏まえて選定された用途地
域(工業地域等を除く)について,建ぺい率,容積率を定めるにあたり,基本とな
るべき建ぺい率,容積率は別紙5の1から9「指定標準表」(省略)記載のとおり
であった。
5 平成8年の都市計画用途地域の変更等
1) 東京都知事は,平成5年9月14日,国立市に対し,国立市の都市計画用
途地域の変更の原案を作成するよう依頼した。
 国立市長は,「国立市用途地域等見直し素案」を作成し,これを平成6年
2月22日に国立市全員協議会に対し,同月25日に国立市都市計画審議会に対し
てそれぞれ報告したほか,同年3月20日には市の広報誌である「市報くにたち第
572号」に素案の概要,地区説明会の開催日程・場所,都市計画用途地域の変更
の手続の概要等を掲載して国立市民に頒布し,同月29日には市内7か所で地区説
明会を開催した。(甲9,10,弁論の全趣旨)
2) 国立市長は,これらの手続を経て,国立市都市計画用途地域等の変更原案
を作成し,同年7月18日,国立市都市計画審議会に対し,①市街化区域及び市街
化調整区域,②都市計画用途地域,③高度地区,④防火地域及び準防火地域,⑤文
教地区,⑥特別工業地区のそれぞれの変更の原案の概要を報告する等して関係方面
の了承を得た上,東京都知事に対し,同年7月20日に「市街化区域及び市街化調
整区域の整備,開発又は保全の方針(案)」を,同年9月13日に「用途地域等見
直し原案」をそれぞれ提出した。(甲11,弁論の全趣旨)
3) 東京都知事は,国立市長から提出された原案等を検討した上,都市計画用
途地域の変更等の素案を作成し,平成7年4月24日,東京都都市計画公聴会規則
3条に基づいて公告,縦覧の手続をとり,同年6月12日から29日にかけて公聴
会を開いた。また,同年8月30日には,国立市都市景観形成条例直接請求実行委
員会ほか24団体からの東京都知事に対する「超高層マンションの乱立を招いた東
京都国立市都市計画(用途地域等)の見直しに関する陳情」を受け付けた。(弁論
の全趣旨)
4) 東京都知事は,都市計画用途地域等の変更案を作成し,当時の建設省都市
局長とこの変更案について協議し,他方国立市に対して,同年12月,都市計画用
途地域の変更等についての意見照会を行ったほか,平成8年1月19日,都市計画
用途地域等の変更案を公告し,住民及び利害関係人の縦覧に供した。この間,先の
実行委員会は東京都知事宛に繰り返し意見を述べ,平成8年2月1日には,「用途
地域に関する都市計画決定の東京都案について(高度地区に関する都市計画変更の
国立市案について)」を都市計画法17条2項に定める意見書として提出した。東
京都知事はその要旨を東京都都市計画地方審議会に提出した。(弁論の全趣旨)
5) 国立市長は,同年2月16日,国立市建設委員協議会に対し,都市計画用
途地域等の変更案を報告し,同月20日に,国立市都市計画審議会に対してもこの
変更案を諮問し,同審議会はこの変更案を承認した。そこで国立市長は,同年3月
7日,東京都に対し,東京都の変更案どおりの都市計画用途地域の変更をお願いす
る旨の回答,国立市がした高度地区の変更について承認を求める旨の申請書をそれ
ぞれ提出した。
 東京都都市計画地方審議会は,東京都知事から提出された本件の都市計画
案に基づいて,同月29日,都市計画用途地域の変更について議決し,建設大臣
は,同年5月1日,東京都の都市計画用途地域の変更を認可した。
 東京都知事は,同月31日,都市計画用途地域について公告,縦覧の手続
をとり,他方国立市長も,同日,防火地域等の変更について,住民等の縦覧に供し
た。この公告,縦覧に係る都市計画用途地域の概況は別紙4の3「国立市都市計画
図3」(省略)のとおりである(以下この都市計画を「本件都市計画」といい,本
件都市計画に係る都市計画決定を「本件都市計画決定」という)。(弁論の全趣
旨)
第4 争点及びこれについての当事者の主張
 本件における争点は,①景観権の成否,②本件都市計画決定が実体的に,及
び手続的に違法であるか,③本件都市計画決定が違法であったとして,それにより
原告らの景観権等私法上の利益が侵害されたか,④侵害されたとしてこれにより原
告らが被った損害は幾ばくであるか,⑤損害が確定されたとして,賠償請求権は時
効により消滅したか,であり,これについての当事者の主張は次のとおりである。
1 景観権の成否について(争点1)
(原告らの主張)
1) 原告らが主張する景観権
 国立は,学術・教育の街として知られる。その中にあって大学通りは,①
広々とした緑地帯を有し,四季それぞれに彩りの変化する並木道,②空まで届く銀
杏並木,③人間的スケールから捉えた緑と道路幅のバランスの絶妙さ,④銀杏並木
の高さを超えない街並み,⑤大学通りの正面に緑の森に映えて佇む三角屋根と煉瓦
色の瀟洒な駅舎,⑥広い空と広がるスカイライン,⑦学術と教育の街,⑧日曜画家
がカンバスに向かい,小さな画廊が建ち並ぶ,芸術・文化を育む街,⑨ベンチでく
つろぎ,散策を誘う,公園のような街,という景観の特性を有する。
 ここに至るまでには,旧国立町の町民らが浄化運動をして文教地区の指定
を獲得し,国立市民らが積極的に参加して,国立,とりわけ大学通りの景観を守り
続け,これに応じて国立市も,大学通りの景観の保全を標榜してきた経緯があり,
大学通りの周辺にあっては,①道路両側の緑地帯を保全する,②大学通りに接して
銀杏並木の高さを超える建物を建てない,③大学通りに直接接してはいなくとも,
大学通りの景観を害する高層建物を建てない,との国立市民の不文律が形成されて
いた。
 こうした経緯に照らせば,大学通り周辺の地域住民の間には,個別的評価
の域を超えて大学通りの景観について先の特性を内容とする強い共通認識が存在
し,その景観は多数の人間によって支持され,相当期間にわたって永続し,希少な
もので他の景観によって代替できないものであるから,原告らはこうした特性を備
えた大学通りの景観について,これを享受する景観権を有するものというべきであ
る。
 景観権は,それを享受する個人からみると主観的であり,人により享受し
たい景観は異なる。場合によりそれらは互いに対立することもある。しかし,当該
景観が多数の人間によって支持されていること,当該景観が相当期間にわたって永
続していること,当該景観が希少なものであり,他の景観によって代替できないこ
と,の3要件を充足するとき,それは衝突する景観の中で法的保護に値する景観と
しての地位を取得する。原告らの主張する景観がこれらの要件を充足するものであ
ることはいうまでもない。こうして法的に保護されるべき原告らの景観権の外延は
先の9つの要件をもって画される。
2) 景観権の根拠
 人は,生まれながらに憲法13条,25条に由来する具体的な人格権ない
し環境権の一形態として,良好な景観(ある地域における歴史的に形成された自然
的文化的環境の総体)を享受する権利である景観権を有する。環境権は,良好な環
境に対する権利であって環境基本法3条の明定するところであるが,景観権はその
具体的な現れである。
 もっとも,だれでも景観権の権利者となれるわけではなく,当該景観と地
域的あるいは利用上のつながりがあり,従来から景観利益を享受してきた者のみが
景観権の主体になる。原告らはいずれも上記の景観を長く,かつ,積極的に享受し
てきたものである。
 景観が公共的空間に関わる主観に依存するとしても,同様に主観的色彩の
強い名誉権が権利性,要保護性を肯定され,また,相隣関係に見られるように他人
の権利領域に介入する権利が認められることから見ても,主観性の故に景観権が権
利性を否定される理由はない。
 被告らは,反射的利益であると主張するけれども,景観権は法的に格別に
保護されるべき実質を有する。
3) 景観権の性質
 景観の保全は第一には立法政策,行政対応によって図られるべきものであ
るが,立法や行政が景観保全の努力を怠り,あるいは積極的に景観保全を妨害し,
景観破壊を助長する挙に出たときは,景観権を侵害された者は司法救済を求めるこ
とができる。景観が破壊,侵害され,精神的苦痛が生じたときには,景観権侵害に
基づく慰謝料請求も許されるべきである。
(東京都の主張)
1) 景観権の特定について
 景観は,それ自体不確実かつ流動的なものであって,景観に対する認識,
評価において住民個々人の主観的判断が入ることは避けられず,この判断には差異
があるのが通常である。原告らが主張する大学通りの景観の特性も,抽象的かつ主
観的であり,地域住民に共通の内容を有する明確かつ具体的概念が成立したとはい
えない。
2) 景観権の根拠について
 憲法13条にせよ,同法25条1項にせよ,個々の国民に対して直接に具
体的な権利を付与した規定ではないから,景観権がこれらの条項により保障されて
いるということはできない。原告らが挙げる規定も景観権の根拠となるものではな
い。
 上記のとおり,内包,外延ともに不明確な景観を対象とする景観権なるも
のを構想しても,概念自体が抽象的かつ不明確である上,具体的な権利内容,根拠
規定,権利主体,成立要件,法的効果等を一義的に明らかにすることができない。
すなわち,裁判上救済の対象とすべき現実的,個別的内容を有する権利として景観
権を認めることはできない。
 都市の景観を構成する都市施設の整備,都市内の各地域の土地の利用のあ
り方等について都市計画法及び関連する諸法規がこれを定めるところであり,用途
地域の指定も都市計画の一端としてなされる。都市計画法1条及び同法2条の定め
る都市計画の目的及び基本理念は,適切な都市計画によって,健康で文化的な都市
計画及び機能的な都市生活を実現し,ひいては国土の均衡ある発展と公共の福祉の
増進を図るところにあり,都市計画はその目的を達成するために私権を制限するこ
とがある。しかし,このことにより周辺の住民個人に対して特定の権利を付与した
り,特別に一定の義務を免除する性質のものではない。
 大学通りの用途地域が,従前,近隣商業地域と指定されていたことによ
り,原告らが景観的利益を享受していたとすれば,それは,大学通りの周辺の土地
利用につき権利行使を一定の範囲に制限し,反面で当該土地の所有者らの権利行使
が制限されたことの結果であり,反射的利益であるに過ぎない。
3) 景観権の性質について
 上記のとおり,個人の私法的権利として景観権を認めることはできない。
 地域的景観の保全は,終局的には立法をもって決定されるべき問題であっ
て,具体的な被害の発生を離れ,あるいは個人の被害を超えた地域的被害をもって
その内容としうる景観権なる私法上の権利を構成し,これによる景観の保全を裁判
所に求めることは,裁判所にその本来の役割を超えて,社会的,経済的,文化的な
価値判断を含む広範な裁量に基づく公権力発動の可能性を求めようとするものであ
って許されない。
(国立市の主張)
1) 景観権の特定について
 被告東京都に同じ。
2) 景観権の根拠について
 被告東京都に同じ。
3) 景観権の性質について
 法令は建築の許容限度を定めたに過ぎず,許容限度内の建物の建築は,建
物建築主の裁量に委ねられているから,景観権を害する建築行為の是正は,建物建
築主に対して求めるべきである。その余の主張は被告東京都に同じ。
2 本件都市計画決定が実体的に,及び手続的に違法であるか(争点2)
(原告らの主張)
1) 国家賠償法上の違法性
 国家賠償法上の違法性は,法令の規定,趣旨,目的だけでなく,契約,慣
習,条理等によっても理由づけることができる。すなわち法令の規定,趣旨,目的
からみて個人の個別的利益を直接に,または公益に包摂する形式において保護して
いると認められる場合,そうでなくとも慣習あるいは条理等が保護している場合が
ありうる。こうして,法令が公務員に一定の行為をする権限を与え,その行使を公
務員の裁量に委ねている場合に,いかなる要件の下で個人に対する作為義務が生
じ,公務員が権限を逸脱し,あるいは行使しないことが国家賠償法1条1項の適用
上違法となるかについては,法令の規定がこれを明示している場合にはそれによる
べく,そうでない場合には,①生命,身体,財産等に対する具体的危険が切迫して
いたといえるか,②公務員がその危険を知り,又は知りうる状態にあったといえる
か,③公務員が権限を行使しなければ結果発生を防止できなかったか,④公務員が
権限の行使によって結果を容易に回避できたかの各点を考慮して,当該具体的事情
のもとで当該権限を行使しないことが著しく不合理であるといえるかどうかで決す
べきである。
2) 東京都知事及び国立市長の作為義務
 都市計画法の目的を定める同法2条は,直接的にではないが,健康で文化
的な都市生活を確保すべきことを明定することにより,個人の利益を公益に包摂す
る形式で保護しているといえる。そのほか,用途地域指定の主要な判断基準を定め
ていると解することのできる同法13条1項2号前段は同条2項とあいまって景観
利益の保護を都市計画決定権者の作為義務として定めたものと解することができ
る。東京都都市計画地方審議会の「東京における土地利用に関する基本方針」や東
京都の「用途地域等に関する指定方針及び指定基準」はこの作為義務の基準として
東京都が自ら定めたものである。他方国立市も,その都市計画を定めるにあたって
は,議会の議決を経て定められた建設に関する基本構想に即し,かつ,東京都知事
の定めた都市計画に適合するものにしなければならないから,おのずとこの作為義
務の基準に従うべきこととなる。そのほか,公聴会の開催等を義務づけた同法16
条,関係市町村の住民及び利害関係人に意見書提出を認めた同法17条はいずれも
個人の利益を保護すべきことを明らかにしたものである。
 仮に上記の主張に理由がないとしても,大学通りの沿革及び原告らが長く
本件の景観を享受してきた経過,本件用途地域指定の具体的事情の下においては,
東京都知事及び国立市長は,慣習,条理により,原告らの景観権を保護すべく作為
する義務を負っていた。
 本件景観については住民から再三にわたり陳情書や意見書が国立市長に提
出され,東京都知事においてもその事情を承知していたから,目前に迫る景観権侵
害の予見可能性があり,適切な介入がなければ景観権の破壊は防ぐことができず,
又,これを防ぐことは容易であった。
3) 義務違反の態様
 東京都知事は,昭和62年と平成5年の2度にわたり基本方針と用途地域
等ガイドラインを策定して,都市計画の基本方針を明らかにした。しかし,そのい
ずれも景観権保全に配慮すべき旨の定めはあるものの,具体的基準を欠いていた。
そこで東京都知事としては,その趣旨を生かし,必要に応じて一層厳しい用途地域
等の変更を行うべきであった。また,国立市長としても,高度地区の指定並びに用
途地域指定の原案提示をするにあたり,東京都知事と同じ趣旨の義務を負ってい
た。
 ところが,東京都知事は,平成元年10月に,国立駅周辺の地元商工会の
強い要望を受けた国立市長の意向を受けて,国立市長の提出した原案に基づいて,
国立駅,大学通りの周辺の土地の容積率,高度制限を,基本方針及び用途地域等ガ
イドラインを無視して異常に緩和する内容の都市計画用途地域の見直しをした。こ
の段階で国立駅周辺,とりわけ大学通りの周辺の景観には取り返しのつかない変更
が生ずる危険を生じていた。そのことは,平成元年10月の見直し後,国立市住民
らから国立市長に対して繰り返し陳情がなされ,その趣旨を東京都知事においても
承知していたところから,十分に理解していた。そこで東京都知事は,次の機会に
は,こうした危険を除去し,景観価値の維持が図られるように見直しをすべき義務
があった。
 そうであるにもかかわらず,東京都知事は,平成8年,当時の国立市長と
通謀して,権限を濫用し,当時の国立市長において東京都に対し,地元商工会の要
望すらも超えて容積率等を異常に緩和したこの平成元年の用途地域見直しをほぼ踏
襲した都市計画の原案を提出し,東京都知事においてこの原案に基づき,この平成
元年の用途地域見直しをほぼ踏襲した本件都市計画を決定した。ガイドラインとの
矛盾について項を改めて述べる。
4) 本件都市計画決定のガイドライン違反
 上記のとおり,原告らの景観権はガイドラインに具現しており,大学通り
等の景観を維持するためにはこれが最低限の基準であって,東京都知事,国立市長
はガイドラインを超える用途地域の緩和をすることは許されなかった。しかし本件
都市計画決定は次のとおりガイドラインに違反する。
ア 用途地域指定の際の留意事項
 ガイドラインでは,用途地域指定の留意事項として,安易な規制緩和と
ならないよう留意する旨を定めていたが,本件都市計画では異常で非常識な規制緩
和がされた。
イ 近隣商業地域の緩衝的指定
 ガイドラインでは,商業地の指定に関し,隣接する住宅地との環境の調
和を図る商業地等で,近隣住宅地の住民に対する生活利便施設の立地を図る区域に
ついては,近隣商業地域を指定する旨を定めていた(緩衝的指定)が,本件都市計
画では,大学通りに面した商業地等本来近隣商業地域に指定すべき地域を商業地に
指定した。
ウ 商業地域における後背地との容積率の差
 ガイドラインでは,商業地域における後背地との容積率の差に関して,
幹線道路沿いで住宅地に接する場合は,後背地との容積率の差が過大とならないよ
う配慮し,容積率の差を概ね300パーセント以内とする旨を定めていたが,本件
都市計画では,大学通りの左右両側の後背地との容積率の差が400パーセントか
ら500パーセントと過大であった。
エ 都市整備が未完の区域の用途地域の指定方式
 ガイドラインでは,商業地域の指定方法に関して,多摩地区で年間乗車
人員が1000万人を超える駅周辺区域で都市整備が未完の区域については,路線
式ではなく集団式で用途地域を指定する旨を定めていたが,本件都市計画では,大
学通り,富士見通り,旭通りの各商業地域について,路線式指定がされた。
 なお,ガイドラインでは,幅員20メートル以上の幹線道路沿いについ
て路線式指定ができると定めているところ,大学通りの両側の緑地帯は私有地であ
って,都道部分の幅員が18メートル(車道としては片側2車線,幅員14.68
メートル)にすぎず,かつ他のいかなる幹線道路にも連絡していないから,都市基
盤が整備され,商業地の交通量を処理できる幹線道路とはいえない。そして,富士
見通り,旭通りに至っては幅員10メートル強しかないから,大学通りを初めとす
るこれらの道路に面していても,広い道路に面しているとはいえない。
オ 都市施設の整備が完成していない場合の商業地の容積率
 ガイドラインでは,商業地域の容積率に関して,都市施設の整備が完成
していない場合には,容積率を500パーセント以内とする旨を定めていたが,本
件都市計画では,この場合でも容積率を600パーセントに指定した。
カ 住宅地への業務・商業地域の浸食の進行の防止
 ガイドラインでは,隣接する用途地域との関係に関して,住宅地への業
務・商業地域への浸食が進行しないよう留意し,第1種,第2種低層住宅専用地
域,第1種,第2種中高層住宅専用地域と商業地域等は原則として相互に接しない
ものとする旨を定めていたが,本件都市計画では,大学通りの両側の商業地域が,
東側が第2種中高層住居専用地域に,西側が第1種低層住居専用地域に接してい
た。
キ 高度制限の緩和
 ガイドラインは,人と環境が調和する都市の形成を,自然との共生を目
指し,住居系用途地域の指定を積極的に行うとして,住居系用途地域の重要性を強
調しており,大学通り等の周辺においては高度制限が必要であった。
 しかるに,ガイドラインでは,高度地区の指定方針に関し,容積率40
0パーセント以上の区域については,周辺の住宅地に対する環境保全上配慮が必要
な場合を除いて,原則として最高限高度地区を指定しないものと定めていたとこ
ろ,大学通りに隣接して良好な住宅地が存在し,大学通りの周辺は商業地域も含め
て文教地区に指定されており,景観,環境の保全上の十分な配慮が必要であり,平
成元年の都市計画の見直し前は,容積率300パーセントで高度制限があった。し
かし,本件都市計画では,容積率500パーセントとなり,高度制限が撤廃され
た。
 なお,ガイドラインでは,幹線道路の沿道の区域については,周辺の住
環境の保護や都市景観の形成等地区特性に配慮しつつ,高度地区を指定しないこと
ができる旨の原則を示しているが,国立市の市街地の特性を考慮すれば,従前のま
まの近隣商業地域,容積率350パーセント,第3種高度の指定こそがガイドライ
ンに反していないというべきであって,高度制限を撤廃した本件都市計画は不当で
ある。
ク 近隣商業地域の容積率,高度制限
 ガイドラインでは,近隣商業地域の容積率及び高度制限に関し,第1
種,第2種低層住居専用地域に囲まれた近隣商業地域は,原則として容積率200
パーセントとし,高度制限は2種高度とする旨を定めていたが,本件都市計画で
は,国立駅北口周辺,南口周辺,富士見通り,旭通りの近隣商業地域の容積率を3
00パーセントから400パーセントに指定し,高度制限を3種高度に指定する
か,又は撤廃した。
 たとえ東京都が主張するように,国立駅の年間乗車人員が1000万人
以上であったとしても,国立市の特性からいえば,同駅周辺に住居専用地域(特に
第1種低層住居専用地域)が多いことを第1に配慮することが最重要である。ま
た,仮に,同駅北口付近の地域について高度制限を無指定としたとしても,同地域
で商業施設,業務施設が増加するとは思われない。国立駅から遠く離れた地区につ
いてまで,同駅の年間乗車人員や土地利用状況を考慮するのも相当でない。
5) 本件都市計画決定の適正手続違反
    本件都市計画決定は,大学通り等について景観権を有する原告らに,景観
権の制限という不利益を課すものであったから,東京都知事及び国立市長は,本件
都市計画に際し,原告らに対し,不利益を告知し,その意見を十分に聴取する義務
を負っていた。また,この都市計画の決定は国立市の重要な政治的決定事項であっ
たところ,原告らは,国立市民として,適正な手続の下でこの都市計画決定に参加
する機会を与えられる権利を有していた。
    しかるに,被告らは,次のとおり,適正な手続を欠いたまま本件都市計画
の原案提出,計画決定を行い,原告らの適正な手続の下で都市計画の決定がされる
ことを求める権利,適正な手続の下で都市計画決定に参加する機会を付与される権
利をいずれも侵害した。
   ア 国立市は,平成5年9月,東京都から国立市の都市計画用途地域のガイ
ドラインを受領し,素案の作成依頼を受けたにもかかわらず,原告らに対し,素案
の作成依頼が来た事実や,素案の検討,作成を行っている事実を知らせず,原告ら
が素案作成に関与する機会を封じた。
   イ 国立市都市計画審議会は,国立市長が作成した都市計画用途地域につい
て素案を審議したが,原告らは同審議会の傍聴の機会を与えられず,同審議会の開
催の事実も知らされなかった。同審議会の議事録は審議会終了後半月以上経過後に
至って始めて入手できたにすぎず,審議の対象となった素案や説明資料は一切公開
されなかった。
     また,この素案は国立市議会に対して報告されたが,秘密会である全員
協議会で報告され,原告らが傍聴する機会はなかった。
   ウ 国立市が平成6年3月20日に開催した地区説明会は,国立市民の意見
を聞き置くだけで,都市計画に国立市民の意見を反映させる場ではなかった。
   エ 国立市長は,平成6年7月12日に秘密会である全員協議会に対して素
案の報告を行い,同月18日に傍聴を許さない国立市都市計画審議会の決議を経
て,同年9月13日に東京都知事に対して都市計画の原案を提出したが,これらの
過程には原告らが関与する機会はなかった。
   オ 東京都知事は,国立市長から都市計画用途地域の原案の提出を受けた
後,東京都の原案を作成して縦覧に供し,公聴会を開催したが,この公聴会は他の
市町村を含めた広域的なものに過ぎず,またこの公聴会で住民が意見を述べたとし
ても,都市計画を変更させる効果は皆無であった。
   カ 原告らを含む多数の市民団体は,国立市長,東京都知事に対して要望書
の提出,担当者らに対して面談等を行ったが,国立市長,東京都知事らは原告ら等
の意見を採り上げたり,耳を傾けたりしなかった。
   キ 国立市議会は,国立市民の陳情を採択したり,要望書等について議決す
れば,都市計画について何らかの事実上の効果があった可能性があったところ,同
議会は,平成6年7月12日,臨時市議会において,都市計画用途地域の異常な緩
和の見直しの意見採択の議案を否決した。
  (東京都の主張)
1) 平成8年度の都市計画決定が違法ではないことについて
 原告らは,東京都知事に都市計画法上の作為義務があることを主張するけ
れども,同法中にかかる作為義務を定めた規定がないことは勿論,そもそも規制権
限を一義的に明記した規定すらない。原告らの主張との関係では,用途地域等の指
定を,また国立市長に関わる高度地区指定を取り上げることができるが,先のとお
りの景観権の内容に照らしてみれば,東京都知事が,当該景観権の保護のために容
積率等の規制を強化する等,都市計画決定の内容の変更を義務づけられる,すなわ
ち,総合的街づくりという極めて高度に合目的的な行政的技術裁量に基づく都市計
画決定の内容を変更すべき法律上の義務を負い,これを怠るときは,その不作為が
違法となり,その結果生じた損害を賠償すべき法律上の義務が生じるということは
到底いえない。
 用途地域等の指定は,東京都知事の専門的判断に基づく合理的裁量に委ね
られた行為であるところ,都道府県知事にこの指定権を付与した法の趣旨,目的に
照らせば,仮に用途地域等の指定等が強化されなかったという不作為のために,指
定等の限度内で地権者等による積極的な土地利用が行われ,その影響により結果的
に一定の財産上の損害(原告らの主張する景観権がこれに含まれるとしても)を被
った住民がいるとしても,その不行使が著しく不合理でない限り,その不行使は国
家賠償法1条1項,3条の適用上違法の評価を受けない。
 しかるに,良好な景観を享受する権利,利益は,不明確でそもそも法的な
保護に値するか疑わしい上,現行の用途地域等の定めは平成元年の都市計画決定に
よって既に定められ,この都市計画を前提として約7年間多数の土地利用が計画,
実行され,既に都市計画の制度として定着しているから,本件都市計画の決定にあ
たって,東京都知事が大学通り周辺の地域について規制を強化しなかったとして
も,この権限不行使が著しく不合理であるとは到底いえず,原告らとの関係で国家
賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
 なお,原告らの立場からすると,その景観権が破壊されたのは,平成元年
の見直しにより,同年10月11日付で告示された都市計画用途地域の決定がなさ
れ,それまで到底建築が許されなかった規模の建物が建てられるようになったこと
によるのであるから,平成8年5月31日付で告示された本件都市計画決定により
あらたな侵害が発生したことにはならない。
2) 本件都市計画決定とガイドラインとの関係について
ア 用途地域指定の際の留意事項
 本件都市計画において異常で非常識な規制緩和がされた事実はない。
イ 近隣商業地域の緩衝的指定
 ガイドラインでは,年間の乗車人員が1600万人(多摩地区は100
0万人)を超える駅周辺区域,又は多摩の「心」若しくは地区中心等の区域及び周
辺の区域を商業地域に指定する旨を定めているところ,国立駅南口周辺は,国立市
の商業の中心的な位置にあり,かつ,国立駅の年間乗車人員は約2100万人に達
しているから,大学通りに面した土地等を商業地に指定してもガイドラインに反し
ない。
ウ 商業地域における後背地との容積率の差
 ガイドラインでは,多摩地区において,年間乗車人員が1000万人を
超える駅周辺の区域の土地は容積率を500パーセントから700パーセントとす
る旨を定めているところ,国立駅の年間乗車人員は約2100万人に達している
上,同駅周辺の都市施設の整備状況を考慮して,本件都市計画においては,同駅周
辺の区域のうち,広い道路に面する地区については容積率を600パーセントと
し,その他の地区については容積率を500パーセントとしたもので,これらの指
定はガイドラインに沿うものであった。
 他方,ガイドラインに基づいて,低層住宅地を形成している地区で,住
環境を維持する必要がある区域については,第1種低層住居専用地域,容積率10
0パーセントを,中高層住宅地として行く地区については,第2種中高層住居専用
地域,容積率200パーセントをそれぞれ指定した。
 土地利用の実態は,区部と多摩地区においては様相を異にしており,区
部においては駅前商業地と低層住宅地との間に店舗等と住宅とが混在した中間的な
土地利用が存在する例が多いが,多摩地区においては,低層住宅地が広範に広がる
中で駅前商業地が形成されており,商業地と低層住宅地との間に中間的な土地利用
が存在しない地区も多い。中間的な土地利用が存在する場合には,商業地の隣接地
に住宅地との間の環境の調和を図るため,緩衝的に近隣商業地域等を指定すること
も可能であるが,中間的な土地利用が存在しない場合には,緩衝的な用途地域の指
定が土地利用の実態に合わず,適切といえないことも多い。土地利用の実態を踏ま
えた用途地域の指定は,土地利用の現況及び動向,市としてのまちづくりの方針,
地元の要望等を勘案して定めるものであるところ,国立駅周辺の状況は,商業地が
コンパクトにまとまり,隣接して低中層住宅地となっており,住宅地と商業地の容
積率の差を少なくするために緩衝的な用途地域を指定することが適当でない。ま
た,商業地域・容積率600パーセントの地域と第1種低層住居専用地域・容積率
100パーセントの地域又は第2種中高層住居専用地域・容積率200パーセント
の地域が接することになるが,これらの容積率の差がガイドライン中にいう概ね3
00パーセント以内とならなかったからといって,ガイドラインに反するとはいえ
ない。
エ 都市整備が未完の区域の用途地域の指定方式
 用途地域の指定方式としての集団指定は,土地利用のまとまりのある一
団の地区に対する指定の方式であり,路線式指定は,道路の両側の一定の幅(原則
として道路端又は都市計画道路端から20メートル又は30メートル)の範囲につ
いて,道路に面するという地理的特性から沿道に形成される連続的土地利用に着目
して帯状に指定する方式であるが,国立駅周辺の商業地,業務地は,同駅の駅前広
場の周辺を中心にして,大学通り等が放射状に発展しているという土地利用の特性
を踏まえ,駅前広場周辺,大学通り,富士見通り,旭通りに広がる商業地を一団の
地区として商業地域の指定を行ったものである。
オ 都市施設の整備が完成していない場合の商業地の容積率
 国立駅南口周辺の商業地域は,駅前広場が完成し,大学通りも,計画幅
員44メートルに対して約43.64メートルの幅員が既にとられており,商業地
の交通量を処理する上で支障のない都市基盤が整備されている。同南口周辺の地域
は,前記のとおり,多摩地区における年間の乗車人員が1000万人を超える駅周
辺地域,又は多摩の「心」若しくは地区中心等の区域及び周辺の区域であって,都
市施設が整備されている区域に該当するから,同地域の容積率を600パーセント
に指定しても,ガイドラインに反しない。
カ 住宅地への業務・商業地域への浸食の進行の防止
 大学通りの両側の商業地が第1種低層住居専用地域,第2種中高層住居
専用地域に接しているとしても,国立市の市街地の特性を考慮すれば,ガイドライ
ンに反しているとはいえない。(なお,大学通りの一部については平成元年11月
10日から,その他の地域については昭和48年11月20日から既にこの住居専
用地域と商業地域の隣接状態が生じていたものであって,本件都市計画によって初
めて生じたわけではない。)
キ 高度制限の緩和
 大学通り周辺の地区は,平成元年度以前は,商業地内に住宅が混在して
いた市街地の状況を考慮して,第3種高度地区に指定されていたところ,その後の
土地利用状況の変化の中で,国立市が第2期基本構想,第2次基本計画の方針であ
る,国立駅周辺の商業の活性化,さらなる土地の高度利用のため,建物の高層化を
図る目的で高度地区を指定しなかったが,これはガイドラインに反しないので,東
京都は承認した。
 なお,文教地区は,文教上の目的から建物の用途を制限するものにすぎ
ず,建物の高さの制限を目的とするものではない。
ク 近隣商業地域の容積率,高度制限
 国立駅北口は,同駅南口と同様,国立市の中心部にあり,かつ乗車人員
の多い鉄道駅周辺の区域であって,ガイドラインの基準によれば,商業地域にもな
りうる位置にあるが,東京都は,同駅南口に比して,商業施設,業務施設が少ない
という土地利用の現況,駅の表玄関ではないことを考慮して,近隣商業地域,容積
率400パーセントに指定し,またガイドラインの容積率400パーセント以上の
区域については高度制限を原則無指定にするとの基準に従って,高度制限を無指定
とした国立市の案を承認した。
 富士見通り,旭通りの周辺の近隣商業地域については,国立駅の周辺で
あり,幹線道路沿いにあること,同駅の乗車人員,土地利用状況を考慮して,ガイ
ドラインに従い,容積率等を指定し,かつ国立市が前記基準に従って無指定とした
案を承認した。
3) 手続違反はないことについて
 原告らの主張する景観権は法律上保護された利益ということはできないか
ら,原告らは東京都知事が行う本件都市計画の決定によって利益を侵害されること
もなく,告知,聴聞の機会を与えられるべき法的地位にもない。また,都市計画決
定をするにあたり,都市計画法は住民等の利害関係人に意見を述べる機会を与えて
いるところであり,それ以上に原告らに都市計画決定手続への参加を実質的に保障
すべきことを定める規定もない。
 本件都市計画は,都市計画法,東京都都市計画公聴会規則等に定められた
所定の手続に従って,適正,適法に決定されたものであって,この手続に何ら瑕疵
はない。
  (国立市の主張)
1) 平成8年度の都市計画決定が違法ではないことについて
 国立市長は,国立市の基本構想,基本計画に即して,地域特性に応じた秩
序ある市街地の形成を図るため,指定基準の基本方針等に従って,指定,配置,規
模等の基準,並びに指定標準から,適切な用途地域,建ぺい率,容積率,高度地区
を選択することによって案を作成し,東京都知事に提出したものであって,国立市
長の裁量権の逸脱・濫用はない。
2) ガイドライン違反との主張について
 この点の国立市の主張は東京都の主張に同じ。
3) 手続違反はないことについて
 この点の国立市の主張は東京都の主張に同じ
3 本件都市計画決定が違法であったとして,それにより原告らの景観権等私法
上の利益が侵害されたか(争点3)
1) 原告らの主張
 東京都知事及び国立市長の通謀による,平成元年度の用途区域の指定を踏
襲した平成8年度の都市計画決定により,大学通りは,周辺の建物建築に対する高
さ規制が大幅に緩和される等したために,高層ビルの乱立情況が現実化し,景観を
破壊する性質の建物が続々と建築されつつあり,大学通りの景観は破壊され,周辺
を含めた景観は危殆に瀕している。こうして,原告らの景観権は侵害された。
 被告国立市は,手続が適正であり,意見陳述の機会を与えられた住民には
都市計画決定の結果景観権を侵害されることがあっても受忍すべきであると主張す
る。しかしながら,仮に受忍限度論を容れるとしても,その場合には,侵害される
景観権の性質のほか,①侵害行為(本件の場合には容積率の緩和)の目的及び行為
によってもたらされる利益の内容・程度及び受益者と行為の必要性,②その利益が
景観を破壊しない他の方法によって実現可能か否か,③当該行為の行政法規違反の
有無と程度,④当該行為による景観破壊の内容及び程度,⑤当該行為によって破壊
される景観を享受していた人間に対する情報公開や意見聴取などの手続的保障の有
無の諸事情を総合考慮してみなければならない。本件都市計画決定は,東京都が自
ら定めたガイドラインに違反してなされており,違法性は顕著かつ重大である。ま
た,容積率の緩和によって利益を受けるのは,一部の建設業者,不動産業者のみで
あって,ほとんど公共性がない。景観破壊の程度は著しい。そうとすると,原告ら
が侵害行為を受忍すべき理由などないことは明らかである。
2) 東京都の主張
 景観権が侵害されたとの原告らの主張事実は争う。原告らが主張する事態
が生じ,損害が生じたとしても,その発生原因は,本件都市計画決定ではなく,平
成元年10月11日付で告示された都市計画用途地域の決定であるから,同損害は
本件都市計画の決定と因果関係がない。
3) 国立市の主張
 景観権が侵害されたとの原告らの主張事実は争う。
 都市計画決定手続において,住民に意見を述べる機会が与えられた以上
は,その結果定められた都市計画による制限については,積極的であれ消極的であ
れ,当該住民はその制限を受忍しなければならない。原告らに対しては,都市計画
法上の手続により,意見を述べる機会が与えられており,用途地域の容積率制限の
緩和はこうした手続の後になされた。そうであれば,大学通り周辺の土地所有者が
法令の範囲内で建物を建築し,その結果原告らの景観権が害されたとしても,原告
らはそれを受忍しなければならない。
4 本件都市計画決定により原告らの私法上の権利が侵害されたとして,これに
より原告らが被った損害は幾ばくであるか(争点4)
(原告らの主張)
1) 被告ら両者に対する請求について
 東京都知事及び国立市長の違法行為により,国立駅の北側,大学通りの背
後に高層ビルの乱立状態がもたらされ,同駅の駅舎,大学通りの銀杏並木等の景観
が見苦しいものとなり,景観価値は大きく減殺,毀損した。そのため,原告らは,
従前大学通りの景観に対して抱いてきた誇り等を奪われ,精神的苦痛を受けた。こ
れを金銭に見積もるときは,原告ら各人について1000万円を下らない。本訴で
はこのうち一部各5万円を請求する。
2) 違法な手続に基づく損害賠償請求について(追加的請求)
 景観権に関して,原告らには,都市計画手続が適正な手続に従って決定さ
れるべきことを求める権利がある。しかしながら,実際には都市計画決定は東京都
知事の不適正な手続によってなされた。原告らはこれにより精神的苦痛を受けたと
ころ,その精神的苦痛を金銭に見積もるときは,原告ら各人につき100万円を下
らない。本訴ではこのうち一部各5万円を請求する。
(東京都の主張)
 損害の発生及びその数額についての原告らの主張事実は争う。
(国立市の主張)
 東京都に同じ
5 損害が確定されたとして,賠償請求権は時効により消滅したか(争点5)
1) 東京都の主張
 本件都市計画の決定は平成8年5月31日にされ,同日付の東京都公報に
より告示されており,そのことは公知であるところ,原告らの訴えの追加的変更の
申立ては同日から3年を経過した後である平成12年1月31日付でなされた。そ
うすると,原告らが請求する慰謝料請求権は,仮にそれが認められるとしても消滅
時効が完成しており,東京都はこれを援用する。
2) 原告らの主張
 争う。
第5 当裁判所の判断
1 景観権の成否について(争点1)
1) 原告らは,その主張する景観権の対象を,①広々とした緑地帯を有し,四
季それぞれに彩りの変化する並木道,②空まで届く銀杏並木,③人間的スケールか
ら捉えた緑と道路幅のバランスの絶妙さ,④銀杏並木の高さを超えない街並み,⑤
大学通りの正面に緑の森に映えて佇む三角屋根と煉瓦色の瀟洒な駅舎,⑥広い空と
広がるスカイライン,⑦学術と教育の街,⑧日曜画家がカンバスに向かい,小さな
画廊が建ち並ぶ,芸術・文化を育む街,⑨ベンチでくつろぎ,散策を誘う,公園の
ような街,という特性をもって画された大学通りであるとし,他方で,景観権が主
観に依存し,したがって,差異のある景観が競合して,その景観を享受する者どう
しが衝突する事態があることを認め,結局のところ永続性,希少性,不可代替性と
いう類の要件を充足した景観が優位を占めるとしつつ,人は,生まれながらに憲法
13条,25条に由来する景観権を有するものの,そのようにして優位を占めた景
観と地域的あるいは利用上のつながりをもって,従来から景観利益を享受してきた
場合にのみ景観権の主体になるという。
 原告らが,都市環境を構成する諸要素の稀有な組合わせをもって景観と構
成しているところを,あえて分解することは,原告らの本意とするところではない
であろうが,上記の景観の要素をひとつひとつ考えてみると,著しく樹木等の有様
に依存しているものであることは明らかである。しかし,樹木等は前記の大学通り
周辺の状況に明らかなとおり,多く私有地に属する。次に駅舎であるが,これも私
有財産である。これらに建物の高さ規制の結果現出した家並みを加えれば,残るの
は審美的な要素である。
 主として私有財産に依存する景観を,当該私有財産の所有者等の都合と関
わりなく,景観権の対象として私人に帰属させ,余人の任意に左右し得ないものと
することが果たして許されるものであろうかと考えると,いささか疑問なしとしな
い。
    また,原告らは,名誉権や財産権の例を引いて,主観的であるからといっ
て権利性,要保護性を否定される理由はない旨を主張し,その趣旨は上記の審美的
な要素を指摘するものと解することができるが,良好な景観は何人であってもその
好みに従って発見することができ,享受もできるものであって,人格的統一に不可
欠と考えられる名誉権や,排他的支配に任せるにふさわしい客観性・普遍性を備え
た財産権とはおよそ性質を異にするものといわざるを得ない。原告らの景観権の主
張が多数人の見解の一致をもって成立する趣旨であるのかどうかは明らかではない
が,仮にそうであるとすれば,景観権の性質ははなはだ不安定なものとなるほかな
い。
2) 国家賠償請求上,公務員の行為が違法であるかどうかの判断は,当該公務
員の行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかによって
なされるものと解される。ところで,もし原告らの主張を容れた場合には,景観権
を有する者は,当該景観を構成する土地を所有し,あるいは占有する者に限られな
いことになろうから,おそらく都市計画決定権者は,都市計画を策定するにあた
り,景観権を有する者の探索に膨大な費用と手間を要することになろう。原告らの
いうところが,そこにはなく,客観的にみて優れた景観があれば,当然にその景観
を享受する権利を有する者のあることが推測され,こうして権利者のあることが予
想される以上は,慎重に権限を行使し,いやしくもそうした権利を害することのな
いようにしなければならない,というものであったとしても,事情は変わらないよ
うに思われる。いかなる形態,性質の景観が景観権の対象として成立しているかを
判断することは同じように困難であるというほかないからである。
 また,都市計画が当然にその対象とする地域の建物の家並みを決定する関
係にないことはいうまでもないが,仮に将来望ましい高さに誘導するために規制内
容を定めるという場合があるとしても,都市計画決定権者は同じように,常に景観
権の対象である景観の成立の有無を尋ねなければ決定に至り得ないことになろう。
はたしてこのような事態が都市計画法の運用上望ましいものであるかどうかははな
はだ疑わしい。
3) 上記の諸事情を総合して考えると,私人の財産の特定の利用方法を前提と
して成立する景観というものは,その形成に与った人が多数であり,投じられた労
苦が多大であればあるほど(原告H,同I及び同Jの各本人尋問を聴くにつけ,都
市景観を養い,これを維持することに困難を伴うものであることが感得される),
第一次的には当該景観を構成する財産所有者の総体に処分の権限が帰属すると考え
られることは別にして,これをただちに個人個人の私有財産としての景観権の対象
であるとするのはふさわしくなく,また,これを維持すべきものとすれば,それは
特定の個人に委ねられるべきものではなく,むしろ住民を代表する者の賢慮に委ね
るのが相当である。そうした上で,法律や条令をもって,十分に具体化された景観
の全部または一部の要素を捉えて,その変更を許さないとする制度が設けられ,制
度の目的を達するために住民等の利害関係人に役割が振り分けられた場合には,景
観を享受する利益を背景に担った一定の権利の行使として制度違反を排除すること
が期待されるものと考える。原告らが景観権の根拠として挙げる憲法の各規定も,
また,東京都知事及び国立市長の作為義務を導き出すことができるとして挙げる都
市計画法等の各定めも,原告らに景観を侵害する行為の排除を求めるべき地位を認
めたものと解することはできない。
 2 本件都市計画決定が実体的に,及び手続的に違法であるかについて(争点
2)
1) 本訴の請求は,上記のとおり特定される大学通りという景観を享受する権
利である景観権が,本件都市計画決定によって,大学通りに面する土地の部分だけ
でなく,大学通りの後背部,国立駅の北側等においても,樹木の高さを優に超える
高い建物が任意に建てられるようになったため,現実に高い建物の出現を招き,ま
た,将来にわたってそのような事態が発生する危険がもたらされたことにより侵害
されたとの主張に基づくものであるが,景観の上記の性質からすれば,それまで景
観を享受してきた事実があるからといって,大学通りに面する土地に関してはもち
ろん,その周辺に建築物を建築しようとする者の権利行使を制限しうるほどに強い
地位を与えられる理由はないというほかない。
 そうであれば,本件都市計画決定が大学通りの景観の変容に影響を与え,
そのために原告らが不愉快に止まらない程に深い精神的苦痛を味わったことがあっ
たとしても,東京都知事あるいは国立市長が,大学通りの景観保全のために容積
率,高度制限を強化すべき義務,あるいは,容積率等を緩和してはならない義務を
怠ったということはできず,原告らに損害賠償請求権が生じるということもできな
い。
2) 原告らの適正手続に係る請求は,原告らの主張する景観権の成立を前提と
するものであり,その前提を認めることができないことは上記のとおりである。も
っとも,原告らは,大学通りの景観を享受する権利ないし利益が法律上当然に保護
されるべきものであるとはいえないにしても,都市計画上考慮すべきものであっ
て,原告らのうちには国立市の市民がおり,民主政治の観点から,あるいは容積
率,高度制限の緩和によって不利益を受けるために告知・聴聞等が必要であるとい
う観点から,原告らに同手続に関与,参加等をする機会が付与されなければなら
ず,これが濫りに奪われたことによって精神的損害が生じたと主張しているとも解
しうるので,この点について判断する。
 都市計画法は,都道府県知事及び市町村をもって都市計画決定権者とし
(都市計画法15条1項),都道府県又は市町村が都市計画に定める地区計画等の
案を作成する場合には,その案に係る区域内の土地の所有者その他政令で定める利
害関係を有する者の意見を求めるべきこと,それ以外の場合であっても必要がある
と認めるときは,公聴会を開催する等住民の意見を反映させるために必要な措置を
講ずべきこと(同法16条),都市計画を決定しようとするときは,あらかじめ,
その旨を公告し,かつ,都市計画の案を公衆の縦覧に供すべきこと(同法17条1
項),関係市町村の住民及び利害関係人は,縦覧に供された都市計画の案につい
て,意見書を提出することができること(同法17条2項),都市計画決定をする
ときは,都道府県知事の決定に係る都市計画にあっては都市計画地方審議会の議を
経て(その際関係市町村の住民及び利害関係人から提出された意見書があれば,都
道府県知事はその要旨を都市計画地方審議会に提出しなければならない),市町村
の決定に係る都市計画にあっては都道府県知事の都市計画地方審議会の議を経た承
認を得てすること(同法18条,19条)等を定めているが,市町村が都道府県に
対して提出する原案をまとめる以前の段階で,住民に対して素案を公表したり,審
議会を公開したりすること等についてまでは定めていない。素案の公表,審議会の
公開等の都市計画原案作成手続に住民らをどの程度関与させ,その意見を聴取する
かは,当該市町村あるいはその議会がもっぱら自主的に判断すべき事項であって,
個々の住民らに対して素案を公表し,審議会を公開する等の法的義務を当然に負っ
ているということはできない。
 また,公聴会をどのように開催し,要望書等の陳情を都市計画の内容にい
かに反映させるか等も,当該都道府県知事及び市町村がもっぱら自主的に判断すべ
き事項であって,都市計画決定権者が,当然に個々の住民に対して,その意見を十
分に聴けるように公聴会を運営したり,陳情内容を都市計画の内容に反映させる等
の法的義務を負っているものでもない。都市計画が,無数の利害の調整という側面
をはらんで進められるものであることを考慮すると,その運営は広い裁量のもとに
あると認めるのが相当である。
 そうであれば,東京都知事が,本件都市計画決定にあたって,原告らの告
知・聴聞等の機会が与えられる権利,素案の公表や審議会等の傍聴等の方法で本件
都市計画の決定手続に参加する権利を侵害したということはできない。
 3 結論
   以上の次第で,原告らの請求は,その余の事実の有無につき判断するまでも
なく,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
 東京地方裁判所八王子支部民事第2部
裁判長裁判官   曽   我   大 三 郎
   裁判官中   山   節   子
   裁判官田   邉       実

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