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平成25年11月29日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ワ)第17747号営業誹謗行為差止等請求事件
口頭弁論終結日平成25年9月11日
判決
東京都新宿区<以下略>
原告コアフロント株式会社
同訴訟代理人弁護士小川義龍
同山本和也
同有本真由
東京都武蔵野市<以下略>
被告株式会社アイ・ティー・オー
同訴訟代理人弁護士鮫島正洋
同柳下彰彦
同溝田宗司
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告の取引先に対し,原告が製造販売する別紙物件目録記載の物件
について,同目録記載の商品に含まれた主要成分が表示と異なる旨を告知し,
又は流布してはならない。
2被告は,被告のインターネットホームページ上に,本判決確定の日から3か月
間,別紙謝罪広告目録記載1の謝罪広告文を,同目録記載2の掲載条件によ
り掲載せよ。
3被告は,原告に対し,250万円及びこれに対する平成24年3月1日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1本件は,原告が,被告に対し,被告が原告の取引先に対し原告が製造販売す
る別紙物件目録記載の商品((((以下以下以下以下「「「「本件商品本件商品本件商品本件商品」」」」というというというという。。。。))))には表示どおりの
成分が含まれていない旨の告知をしたことが不正競争防止法2条1項14号の
営業誹謗行為に該当すると主張して,同法3条1項に基づき告知及び流布の差
止めを,同法14条に基づき謝罪広告の掲載を,同法4条本文に基づき損害賠
償を,それぞれ求める事案である。
2前提となる事実(末尾に証拠等を付した以外の事実は争いがない。)
(1)当事者等
原告は,化粧品,創薬,バイオ研究支援業務委託及び関連機器の開発,
販売等を業務内容とする株式会社である。
原告は,化粧水「VElotion」(ヴィイーローション。本件商品)
を,クリニック販売専用化粧品として販売している。
被告は,化粧品,サプリメントのOEM及び販売,各種原料,美容機器,
出版,技術調査及びコンサルタントを業務内容とする株式会社であり,クリ
ニック販売専用化粧品の販売事業を営んでおり,原告と競争関係にある。
本件商品は,主要成分として,ビタミンC誘導体である「パルミチン酸
アスコルビルリン酸3ナトリウム」((((以下以下以下以下「APPS」「APPS」「APPS」「APPS」というというというという。)。)。)。)を1%,
ビタミンE誘導体である「トコフェリルリン酸ナトリウム」((((以下以下以下以下「TPN「TPN「TPN「TPN
a」a」a」a」というというというという。)。)。)。)を2%含有している旨表示している(甲1)。
(3)被告は,原告の取引先であるクリニック((((以下以下以下以下「「「「本件本件本件本件クリニッククリニッククリニッククリニック」」」」といといといとい
うううう。)。)。)。)に対し,被告の依頼に基づき財団法人日本食品分析センター((((以下以下以下以下
「「「「日本食品分析日本食品分析日本食品分析日本食品分析センターセンターセンターセンター」」」」というというというという。)。)。)。)が平成24年2月22日付けで作成し
た本件商品の分析試験成績書(甲2。以下以下以下以下「「「「被告分析結果被告分析結果被告分析結果被告分析結果」」」」というというというという。。。。)を示
した。被告分析結果には,本件商品について,APPSは0.18%しか検
出されず,TPNaは検出されなかった旨の記載がある。
3争点
主な争点は,被告分析結果が「虚偽の事実」(不正競争防止法2条1項14
号)といえるか否かである。
(原告の主張)
被告の告知行為
被告は,原告の取引先クリニック数箇所に対して,平成24年2月頃から,
本件商品の主要成分について,被告分析結果を示し,本件商品が被告の商品
より劣っているなどと営業担当者を通じて告知した。
本件クリニックは,以前は本件商品と同種の商品を被告から購入していた
が,被告との取引をやめて原告から本件商品を購入するようになった。本件
商品は,被告が販売する同種の商品より廉価であった。
平成23年末頃,被告の営業担当の従業員であるAが本件クリニックを訪
れ,同クリニックの院長であるB医師に対し,本件商品について,この商品
をこれだけ安く売れるのはおかしいと述べ,さらに,表示された成分が入っ
ていないかもしれないと伝えた。B医師はAに対し,そこまで言うのなら分
析してみればいいと本件商品を1本手渡した。
平成24年1月30日,Aが再び本件クリニックを訪れ,B医師に対し,
本件商品のAPPS含有量が0.2%であったとの日本食品分析センターの
報告書を見せた(甲17)。
平成24年2月28日,Aが本件クリニックを訪れた。そして,B医師に
対し,被告分析結果(甲2)を示し,APPSについては0.18%しか検
出できず,TPNaについては検出されなかった旨述べ,本件商品には表示
どおりの成分が含まれていない旨述べた。さらに,Aは,被告の同種商品の
分析試験成績書であるとして同様の書面を示し,被告の商品にはAPPSが
0.9%,TPNaが2.01%含まれているから,本件商品より優れてい
る旨述べた。
また,平成24年2月下旬ころ,被告の営業担当者が本件クリニックとは
別のクリニックを訪問した。このクリニックも以前は本件商品と同種の商品
を被告から買い受けていたが,被告との取引をやめて原告から本件商品を購
入するようになっていた。被告の営業担当者は同クリニックの医師に対して
被告分析結果(甲2)を示し,本件商品には表示どおりに成分が含まれてい
ない旨述べた。そして,同クリニックが保有している本件商品を分析するの
で1本購入させてほしいと申し出た。しかし,同クリニックの医師は,原告
とは信頼関係をもとにして取引をしているのでそのようなことはできないと
述べ,被告に対して本件商品を譲り渡さなかった。
告知内容が虚偽の事実であること
本件商品は,表示どおり,APPS1%,TPNa2%を含有しており,
被告分析結果は虚偽である。
ア本件商品の製造処方(甲12)では,APPS1%,TPNa2%の配
合を指示している。
イ原告の依頼により株式会社ブルームが平成24年3月30日付けで作成
した本件商品の分析試験成績書(甲3,4,13,14(枝番含む。以下
同じ)。以下以下以下以下「「「「原告分析結果原告分析結果原告分析結果原告分析結果」」」」というというというという。。。。)でも,APPS1.0%,TP
Na2.0%が検出されている。
ウ被告分析結果における試料用の溶媒の選択について
被告が不適切な試料用の溶媒を用いたことが,被告分析結果にかかる
誤った分析試験結果を生じさせた原因である可能性がある。
被告分析結果も,原告分析結果と同じく高速液体クロマトグラフ法((((以以以以
下下下下「HPLC「HPLC「HPLC「HPLC法法法法」」」」というというというという。)。)。)。)による分析を行っているところ,分析を行う
際は,固定相であるカラムの中を流れる移動相に分析対象の試料を溶かし
た溶液を注入して分析を行うが,このとき試料が移動相にうまく溶けない
場合,①リーディングやテーリングが起きる(検出結果の記録が左右対称
の図形(ピーク)にならずにピークの前に尾を引いたり(リーディング),
ピークの後に尾を引いたりする(テーリング)),②溶出時間がずれる,
③ピークトップが割れる,④非常にブロードなゴーストピーク(偽のピー
ク)が出現する,といったトラブルが生じ,不適切な分析結果が出ること
になる。したがって,試料が移動相にうまく溶けることが正しい分析結果
を得るための前提となる。
そして,試料を移動相にうまく溶け込ませるためには,試料を溶かす溶
媒の選択がポイントとなる。この点,移動相と同じ液体を試料を希釈する
際の溶媒として選択するのであれば,「試料が移動相にうまく溶けるこ
と」といった前提は何の問題もなくクリアできる。
化粧品規格を発行する昭和電工株式会社((((以下以下以下以下「「「「昭和電工昭和電工昭和電工昭和電工」」」」というというというという。)。)。)。)
も,APPS,TPNaともに試料調製は移動相で行うように指示してい
る(乙1,7)。
これに対し,被告は,APPS分析に際し,移動相には「アセトニトリ
ル」と「0.03mol/Lリン酸二水素カリウム溶液」を3対2の割合
で混合した液体を用いているが,試料を希釈する溶媒には水しか用いてお
らず,移動相と同じ液体を溶媒として用いていない(乙5)。そのため,
試料が移動相にうまく溶けずに誤った分析結果が出てしまった可能性があ
る。
また,被告は,TPNa分析に際し,移動相には「メタノール」と「水
(移動相で最終濃度0.05mol/L酢酸ナトリウム溶液)」を100
対1の割合で混合した液体を用いているが,試料を希釈する溶媒には水と
2-プロパノールの混合液を用いており,移動相と同じ液体を溶媒として
用いていない(乙5)。そのため,これについても試料が移動相にうまく
溶けずに誤った分析結果が出てしまった可能性がある。
原告分析結果に対する被告の指摘について
アAPPSについて
(ア)移動相の齟齬について
被告は,甲11と甲13とで移動相に齟齬があり,甲11では「水は
使用されてない」と主張するが,甲11と甲13とでは記載の仕方が違
うだけであり,移動相には水が含まれている。
(イ)標準品測定のチャートの不審点について
①ピーク表示感度が極端に低いとの指摘について
極端に低いことはなく,単なる言いがかりである。
②ゴーストピークが出現しているとの指摘について
ゴーストピークは出現していない。
③ピークの右肩にゴーストピークが出現しているとの指摘について
ゴーストピークではない。
④測定から印刷まで7か月近く経過しているとの指摘について
本来はチャートを印刷することはしないが,本件訴訟において印刷
物を提出する必要が生じたため印刷したものである。測定から印刷ま
で7ヶ月近く経過しているからといって,不自然というものではない。
⑤APPSの化粧品原料規格の日付が古すぎるとの指摘について
被告は,原告が2005年(平成17年)当時の規格書(甲15の
1)しか所持していないのは,昭和電工の原体が使用されていないこ
とを疑わせると主張している。しかし,かかる指摘は当たらない。
原告が本件商品を販売し始めたのは平成23年であるが,本件商品
の製造元であるメディカルスペース株式会社(甲12)では平成17
年当時からすでにAPPSを使用していた。甲15の1は原告がメ
ディカルスペース株式会社から交付を受けたものであり,その際20
05年(平成17年)当時のものを受け取ったまでである。当然メ
ディカルスペース株式会社は最新の規格書も保有している(甲18)。
したがって,この点も不自然ということはない。
(ウ)本件商品測定チャートの不審点について
①ピークが英語の文字で隠されていること
チャートはあくまで測定結果を印刷したものに過ぎず,ピークに英
語文字がかかっていたとしても測定結果自体に問題はない。
②測定から印刷まで7か月近く経過しているとの指摘について
前述と同様に不自然というものではない。
イTPNaについて
(ア)移動相の齟齬について
前述と同様,甲11と甲14とでは記載の仕方が違うだけであり,全
く同じ意味である。移動相には水が含まれている。
(イ)標準品及び本件商品の測定の各チャートの不審点について
①検査成績書の宛先が原告でないとの指摘について
メディカルスペース株式会社は本件商品の製造元である(甲12)。
②測定がTPNaの原体の保証期限経過後に行われていること
被告が指摘するとおり保証期限はわずかに経過しているが,適切に
保管しており品質に問題はない。
③測定から印刷まで7か月近く経過しているとの指摘について
前述と同様に不自然というものではない。
営業上の信用を害する事実であること
本件商品のような化粧品においては,主要成分やその含有量は顧客で
ある取引先が最も関心を示す部分であり,商品購入の動機となる事実で
ある。そのため,上記の被告の告知行為は,被告知者をして,原告との
間の取引関係を継続することに懸念を抱かせるものであり,原告の営業
上の信用を害するものである。
(5)営業上の利益の侵害
被告の告知行為により,原告の取引先からは原告に対し,その真偽に
ついて問い合わせが相次いでおり,原告はその対応に追われるなど営業
上の利益が侵害されている。また,原告は今後取引先との円満な取引関
係を喪失するなどの営業上の利益を侵害されるおそれもある。
(6)差止めの必要性
以上より,被告の告知行為は不正競争防止法2条1項14号の不正競
争に該当する。原告は被告に対して営業誹謗行為を中止するように警告
したにもかかわらず(甲5),被告は虚偽の事実を告げたものではない
として,今後も同様の行為を繰り返す可能性があることを示唆している
(甲6)。したがって,差止めの必要性がある。
(7)信用回復措置請求について
本件商品には表示のとおりの主要成分が含有されていることは前述の
とおり明らかである。また,被告が日本食品分析センターに分析試験を
依頼した際に,適切な分析方法による試験を実施していれば,本件商品
に原告が明示する成分が適正に含有されていることは容易に知れたはず
である。それにもかかわらず,被告はわざわざ特殊な分析方法を指定し
て分析試験を行い,その結果のみをもって告知行為に及んだのであるか
ら,被告には不正競争を行ったことにつき,故意ないし重大な過失があ
る。
(8)損害賠償請求について
ア信用毀損に基づく損害
被告の告知行為により,原告の営業上の信用に多大な悪影響を受けた。
かかる信用毀損行為による原告の無形損害は,少なくとも200万円を下
ることはない。
イ弁護士費用
原告は,被告が原告の警告に応じないため,やむを得ず弁護士に依頼し
て本件訴訟を提起することにした。したがって,少なくとも弁護士費用相
当額の50万円は原告の損害である。
(9)総括
よって,原告は,被告に対し,不正競争防止法2条1項14号,3条
1項に基づき,請求の趣旨1項の告知及び流布の差止めを,同法14条
に基づき,請求の趣旨2項の謝罪広告の掲載を,同法4条本文に基づく
損害賠償請求として,250万円及びこれに対する被告の告知行為後の
日である平成24年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
(1)被告の告知行為について
被告が,原告の取引先のクリニックに対し,被告分析結果を示したこ
とは認め,その余は否認する。被告が被告分析結果を示したのは,本件
クリニック1箇所であって,数箇所ではない。また,「本件商品が被告
の商品より劣っているなどと営業担当者を通じて告知した」ことはない。
本件クリニックは,被告の元営業部長(C)が営業担当をしていた販
売先であった。元営業部長は,問題を起こしたために被告を懲戒免職に
なり,その後に原告の顧問となったが,同顧問就任後の平成23年から,
「本件商品は,被告製品(APPS+Eローション。以下以下以下以下「「「「被告製品被告製品被告製品被告製品」」」」
というというというという。。。。)とほぼ同一の組成でより廉価である」と述べて,本件商品を
Aに売り込んだ。B医師は,本件商品を購入したものの,その成分内容
が気になったので,被告に本件商品の分析を依頼した。もっとも,B医
師は,被告の分析結果と原告の分析結果を検討した上で,原告から本件
商品の購入を継続している。
被告の従業員であるAがB医師より本件商品を受け取ったのは,平成
24年1月30日であって,平成23年末頃ではない。Aが「表示され
た成分が入っていないかもしれないと伝えた」ことはない。
AがB医師に被告分析結果の内容を「口頭で報告」したのは,平成2
4年2月28日である(乙11)。そもそも,甲2及び乙5の報告日は
平成24年2月22日であるから,この日前に報告書をB医師に見せる
ことは不可能である。
Aは,被告分析結果を口頭で伝えた後,B医師から被告分析結果のコ
ピーを求められ,仕方なくB医師にコピーを取らせたが,自ら積極的に
被告分析結果を示したわけではなく,「本件商品には表示どおりの成分
が含まれていない旨述べた」ことも「被告の同種商品の分析試験成績書
であるとして同様の書面を示し,被告の商品にはAPPSが0.9%,
TPNaが2.01%含まれているから,本件商品より優れている旨述
べた」こともない。
被告は,B医師以外に被告分析結果を開示したことはない。
告知内容が虚偽ではないこと
ア被告が採用した分析条件
APPS,TPNaをHPLC法で分析するにあたり,「標準に係
る(唯一無二の)」分析条件は未確立である。このため,被告の分析
方法・分析条件が標準にかかる分析方法から著しく逸脱するかの議論
はできないが,被告の採用した分析条件が技術的に見て妥当である場
合には,当該分析条件によって導かれた分析結果は真実であることが
推定され,被告が被告分析結果に基づいて行った告知行為は「虚偽」
ではないということになる。
被告の採用した分析条件は,
(ア)APPS
標準品:国内で唯一化粧品規格を発行している昭和電工の製造した原
料を使用(乙1~3)
測定条件:昭和電工より指示された内容で実施(乙4,5)
分析機関:国内で最も権威ある分析機関である日本食品分析センター
で実施(乙6)
(イ)TPNa
標準品:日本国内で唯一化粧品規格を発行している昭和電工の製造し
た原料を使用(乙7~9)
測定条件:日本食品分析センターが日本薬局方を参照して決定した条
件で実施(乙5,10,15)
分析機関:国内で最も権威ある分析機関である日本食品分析センター
で実施(乙6)
というものである。この分析条件は,国内において選び得る最適な条件の
選択となっており,技術的に妥当なものである。したがって,被告が採用
した分析条件によって導かれた被告分析結果は真実であることが推定され,
被告による告知行為は虚偽ではないことになる。
イ被告分析結果における試料用の溶媒の選択について
(ア)原告は,甲9を根拠として,試料が移動相にうまく溶けない場合,
①リーディングやテーリングの発生,②溶出時間のずれ,③ピークトッ
プの割れ,④ゴーストピークの出現につき主張するが,甲9はHPLC
法における試料調製についての一般的な説明が記載されているのみであ
り,これをもってAPPSという特定物質のHPLC分析の結果を論ず
ることは誤っている。本来であれば,原告は,自身の分析結果(クロマ
トグラムのチャート)では上記①~④が発生せず,被告の分析結果(ク
ロマトグラムのチャート。乙5)では上記①~④が発生している点を主
張・立証する必要がある。ところが,一般論に終止し,特定の分析結果
(乙5)について検討をしていない以上,原告の主張は全くの的外れで
あって意味がない。乙5を見る限り,上記①~④の発生は見受けられな
い。むしろ,上記①~④の発生が懸念される場合,分析のプロフェッ
ショナルである日本食品分析センターから何らかの連絡やコメントがさ
れるはずであるが,今回は上記連絡やコメントは一切されることなく分
析が実施されている。
(イ)原告もAPPSの調製用に水を用いていること
原告は,被告が試料を希釈する溶媒に水しか用いておらず,移動相と
同じ液体を溶媒として用いていないことから,誤った分析結果が出た可
能性があると主張する。
しかし,原告自身も,原告分析結果におけるAPPSの分析に際し,
試料を希釈する溶媒に水しか用いておらず,移動相と同じ液体を溶媒と
して用いていない(甲11)。希釈溶媒として水しか用いず,移動相と
同じ液体を溶媒として用いていないことが原因で被告の分析結果が誤っ
ているとする原告の主張は,自らの分析条件も誤っている(ひいては自
らの分析結果が虚偽である)ことを自認するものとなっており,被告の
分析条件に対する非難にすらなっておらず論理的に破綻している。
(ウ)APPSの溶媒選択について
被告の分析条件は,昭和電工が推奨する方法(乙4)とほぼ同一の条
件である。
被告の分析条件では,試料0.5~0.7gに水を加えて試料溶液5
0mlを調製しており,溶液50ml中のAPPS濃度は,試料中のA
PPS濃度が表示どおり1%であれば0.01~0.014%,被告分
析結果どおり0.18%であれば0.0018~0.0025%となる
が,こうした低い濃度であれば,APPSは水に良好に溶解する。
(エ)TPNaの溶媒選択について
被告の分析条件は,既知のビタミンE誘導体である酢酸トコフェロー
ルの日本薬局方の公定書(乙15)を参考に,日本食品分析センターが
決定したものである(乙10,17)。
公定書(日本薬局方)では,酢酸トコフェロールをHPLC法で定量
分析をするにあたり,本品(標準品)を99.5%の「エタノール」に
溶解している。他方,日本食品分析センターの採用した分析条件(乙
5)では,TPNaを約90%の「2−プロパノール」に溶解させてい
るが,エタノール及び2-プロパノールは,いずれもアルコールであり,
かつ分子量も近いためTPNaの溶解性が大幅に変化することはない。
具体的には,メタノール(CH3OH),エタノール(CH3CH2O
H),2-プロパノール(CH3CH(OH)CH3)は,アルコール
溶媒として近い性質を持つために抽出溶媒として同様に扱われるのが通
常である。日本食品分析センターは分析に関し長年の経験と知見を有し
ており,同センターは,エタノールと類似した性質をもつ2-プロパ
ノールが試料調製用の溶媒として適切であると判断したからこそ用いた
のであり,「90%2-プロパノール」の選択に何ら技術的問題はない。
ウ被告分析結果と同一の条件で,TPNa2.00%を添加した被告製品
中のTPNaの含有量を日本食品分析センターで測定すると,2.01%
という結果が得られた(乙18)。このことは,被告が採用したTPNa
の分析条件の選択,特に溶媒の選択に問題はないことを明確に示すもので
ある。
原告分析結果について
原告分析結果については,以下のとおり不審な点が多数見受けられ,原告
は,被告の分析結果が虚偽であるとの自己の主張の前提となる「原告の分析
結果が真実」との立証にすら失敗している。
アAPPS
①分析に使用した移動相が不明
甲13の1では「水/アセトニトリル混液」を使用したとあるが,甲
11では水は使用されておらず,いずれが真実か不明である。
②標準品測定のチャート(甲13の2)の不審点
ピーク表示感度が極端に低い。
チャートの4分~10分にゴーストピークらしきものがある。
ピークの右肩にゴースト(不純物)ピークらしきものがある。
測定からチャートの印刷まで7か月近くが経過
APPSの化粧品規格の日付が古すぎる。
③本件商品のチャート(甲13の3)の不審点
ピークが英語の文字で隠されておりピーク形状が確認できない。
測定からチャートの印刷まで7か月近くが経過
イTPNa
①分析に使用した移動相が不明
甲11では「0.1mol/L酢酸ナトリウム」をメタノール(10
0)に溶解させた上で,水(1)と混合しているが,甲14の1では
「0.1mol/L酢酸ナトリウム」を「メタノール/水溶液=100
/1」に溶解しており,いずれが真実の移動相か不明である。
②標準品の測定の不審点
標準品の検査成績書(甲16の2)の宛先が原告でない。
標準品として保証期限の切れたTPNaの原体(昭和電工製)が使用
されている。
測定からチャートの印刷まで7か月近くが経過
③本件商品のチャートの不審点
測定からチャートの印刷まで7か月近くが経過
④原告分析結果が真実ならば,APPS,TPNa共に,製造から約9
か月後に,製造時の実配合量(甲12)の10.0%が正確に分解した
ということになるが,APPSとTPNaとは経時的な分解挙動が異な
る(APPSは比較的分解されやすいが,TPNaはほとんど分解しな
い)から,原告分析結果は虚偽でないかと強く疑われる。
⑤原告は昭和電工の原体を標準品としていない可能性が高い。
⑥本件商品には昭和電工の原体が使用されていないと疑われる。
⑦原告は,原告分析結果にかかる分析の際に本件商品の組成をカタログ
値に一致するよう調製したことが疑われる。
原告の営業上の信用が害されていないこと
被告による告知の有無にかかわらず,本件クリニックでは,依然とし
て原告製品の購入を継続している。したがって,原告と本件クリニック
とは未だ取引関係が継続しているから,原告に損失は生じていない。
(5)被告に故意又は過失がないこと
被告は,恣意的に分析方法・条件を選択したものではないばかりか,
現在採り得る分析方法・条件のうち,最も合理性が高いものを採用して
おり,被告が,分析方法及び分析条件を指定することについて注意義務
を欠いたということはない。ましてや,意図的に誤らせたなどというこ
とはあり得ない。したがって,被告に故意又は過失があるとする原告の
主張は失当である。
(6)差止めの必要性
被告の回答書(甲6)には,被告が他の取引先にも本件告知と同様の
告知をする意図を有していることが記載されているが,被告は実際には
告知する意図を有していない。よって,原告の差止請求は棄却されるべ
きである
(7)信用回復措置請求及び損害賠償請求について
以上によれば,原告の信用は害されていないし,損害も発生していない。
また,被告には故意又は過失もない。
よって,原告の損害賠償請求及び信用回復措置請求は棄却されるべきであ
る。
第3当裁判所の判断
1被告が,原告の取引先である本件クリニックのB医師に対し,被告分析結果
(甲2)を示したことは争いがないところ,被告分析結果には,APPS1%,
TPNa2%を含有している旨表示している本件商品について,APPSは
0.18%しか検出されず,TPNaは検出されなかった旨記載されているの
であるから,被告が,競争関係にある他人(原告)の営業上の信用を害する事
実を告知したことは明らかである。問題は,被告分析結果が「虚偽の事実」と
いえるか否かである。
2移動相及び溶媒の選択について
(1)被告分析結果は高速液体クロマトグラフ法(HPLC法)を用いている
ところ,HPLC法では,試料を溶媒で溶かした溶液を移動相と呼ばれる液
体の流れに乗せて固定相(カラム)を通過させ,通過する速度の違いを利用
して成分を分離する(乙13)。不適切な溶媒に試料を溶かした場合には,
①リーディングやテーリングが起きる(検出結果の記録が左右対称の図形
(ピーク)にならずにピークの前に尾を引いたり(リーディング),ピーク
の後に尾を引いたりする(テーリング)),②溶出時間がずれる,③ピーク
トップが割れる,④非常にブロードなゴーストピーク(偽のピーク)が出現
する,といったトラブルが生じることがある(甲9)。
(2)APPSにおける移動相及び溶媒の選択について
ア被告分析結果におけるAPPSの分析において,移動相には,「アセト
ニトリル」と「0.03mol/Lリン酸二水素カリウム溶液」を3対2
の割合で混合した液体を用いている。
これに対し,試料及び標準品を希釈する溶媒としては水を用いている。
すなわち,標準品については標準品約0.1gに水を加えて100mlの
標準原液とし,これを水で段階的に希釈し,100,50,20,10及
び5μg/mlの標準溶液系列を作成している。試料については,試料0.
5006gを水で100倍に希釈して50mlとした試料溶液を用いてい
る。(以上につき乙5)
イ原告は,昭和電工の作成にかかる「逆相・順相クロマトグラフィ用の試
料調製方法」と題するウェブサイトの記載(甲9)を引用し,移動相と同
じ液体を溶媒として用いていないため,試料が移動相にうまく溶けずに
誤った分析結果が出てしまった可能性がある,などと主張する。
しかし,甲9のウェブサイトは,HPLC法で逆相分析を行う場合に,
移動相と同じ溶媒に試料を溶かす限りは問題がないという一般論を述べた
ものにすぎず,かつ,同ウェブサイトにおいても,移動相と異なる液体を
溶媒に用いることがあることが記載されている。
被告分析結果における移動相及び溶媒の選択は,APPSの化粧品規格
を発行し,甲9のウェブサイトの作成者でもある昭和電工の推奨する分析
条件に従ったものである(乙4)。
したがって,この移動相及び溶媒の選択は適切なものと認められ,この
認定を左右するに足りる証拠はない。
ウ上記のとおり,被告分析結果のAPPSの分析における移動相及び溶媒
の選択に問題はない。
(3)TPNaにおける移動相及び溶媒の選択について
ア被告分析結果におけるTPNaの分析において,移動相には,メタ
ノールと水を100対1の割合で混合し,移動相1L中0.05molの
酢酸ナトリウム(CH3COONa)を含む溶液を用いている。
これに対し,試料及び標準品を希釈する溶媒としては,水及び2-プ
ロパノールを用いている。すなわち,標準品については,1%水溶液を
(水で)100倍希釈した101.0μg/mlの標準溶液を用いている。
試料については,試料0.5279gを,定容の10%(2ml)のイオ
ン交換水に溶解し,これを定容の90%(18ml)の2-プロパノール
に溶解(40倍希釈)して20mlの試料溶液を作成している。(以上に
つき乙5)
イ原告は,移動相と同じ液体を溶媒として用いていないため,試料が移動
相にうまく溶けずに誤った分析結果が出てしまった可能性がある,などと
主張する。
しかし,上記分析条件は,被告が,平成23年11月25日頃,被告製
品中のTPNaの分析を日本食品分析センターに依頼した際,日本食品分
析センターが,公定書の酢酸トコフェロールの分析方法(乙15の1)を
参考に決定した分析条件と同一条件である(乙10,17,18)。
TPNaの分析法につき確立された公定書等は存在しないところ,酢酸
トコフェロールは,TPNaと同じくビタミンE(トコフェロール)の誘
導体(有機化合物の一部を置換した物質)であるから,TPNaは酢酸ト
コフェロールに似た性質を有すると考えられ,日本食品分析センターがT
PNaの分析方法を決定するに当たり,酢酸トコフェロールの分析方法を
参考にしたことは適切であったと認められる。
ウ「第十四改正日本薬局方」(平成13年厚生労働省告示第111
号)によれば,酢酸トコフェロールの定量分析方法は,試料及び標準
品薬0.05gずつをエタノール(99.5)に溶かして試料溶液及
び標準溶液とし,移動相としてはメタノールと水を49対1の割合で
混合させた溶液を用いることとされている(乙15の1・2)。
被告分析結果においては,上記のとおり,試料及び標準品を希釈する
溶媒としては水及び2-プロパノールを用い,移動相としてはメタノー
ルと水の混液を用いている。
この変更は,日本食品分析センターがバリデーション(検査・分析の方
法やその作業プロセスなどが適切であるか科学的に検証すること。乙1
6)を行う過程で変更されたものと認められるところ(乙10,17),
各種公的機関からの分析委託を受けており,化学分析について専門的知見
を有する(乙6)日本食品分析センターが行ったバリデーションであるか
ら,その変更は適切であったと認められ,この認定を左右するに足りる証
拠はない。
エ上記のとおり,被告分析結果のAPPSの分析における移動相及び溶媒
の選択に問題はない。
(4)上記のとおり,被告分析結果の移動相及び溶媒の選択に問題はなく,他
に被告分析結果が虚偽であることを裏付けるに足りる事情の主張,立証はな
い。
3被告が,平成23年11月21日及び同月25日頃,被告分析結果と同
一の方法で,被告の製造販売する被告製品(APPS+Eローション。甲
10,乙22)の分析を日本食品分析センターに依頼した結果,平成24
年1月24日付け分析試験成績書(乙18,24)で,APPS0.9
0%,TPNa2.01%という結果が得られている。
また,原告分析結果(甲3,4,13,14)では,本件商品の分析結
果として,APPS1.0%,TPNa2.0%との試験結果が示されて
いるが,他方,被告が,原告分析結果と同一の方法で,本件商品及び被告
製品の分析を,原告分析結果の作成者である株式会社ブルームに依頼した
結果,平成25年3月29日付け分析試験成績書(乙23)で,本件商品
についてはAPPS0.13%,TPNa検出されず,被告製品について
はAPPS0.73%,TPNa2.0%という結果が得られている。
これらの事実から見ても,被告分析結果が虚偽であるとは認められない。
4以上によれば,被告が虚偽の事実を告知したとは認められないから,原
告の請求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
大須賀滋
裁判官
小川雅敏
裁判官
西村康夫

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