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平成13年(ワ)第12927号実用新案権侵害差止等請求事件
平成15年5月26日口頭弁論終結
判         決
       原       告    ニポックス株式会社
       同訴訟代理人弁護士    日  野  和  昌
       同            大  井     暁 
       同補佐人弁理士    丹  羽  宏  之
       同            野  口  忠  夫
       被       告    キャビン工業株式会社
       同代表者代表取締役    八  田  政  恭
同訴訟代理人弁護士    毛  受久
同            太  田     純
同補佐人弁理士篠  原  泰  司
同            藤  中  雅  之
主         文
 1 被告は別紙被告製品目録記載の製品を製造し,販売し,又は貸し渡してはな
らない。 
 2 被告はその所有する前項記載の製品及び半製品を廃棄せよ。
 3 被告は,原告に対し,金914万4320円及びこれに対する平成14年8
月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4原告のその余の請求を棄却する。
 5 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担
とする。
 6 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
 1 主文1,2と同じ
 2 被告は,原告に対し,金2800万円及びこれに対する平成14年8月22
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は,別紙被告製品目録記載のオーバーヘッドプロジェクタ(以下,「被
告製品」という。)を製造,販売する被告の行為が,原告の有する実用新案権を侵
害するとして,原告が,被告に対し,上記各行為の差止,被告製品の廃棄及び損害
賠償金の支払を求めた事件である。 
 1 争いのない事実等(認定事実には証拠を付した。)
  (1) 原告の有する実用新案権
  原告は,以下の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,その考案を
「本件考案」という。)を有する。
 登録番号  第2039362号
考案の名称  オーバーヘッド・プロジェクタ
出 願 日  平成元年12月28日
出願公告日  平成6年2月16日
登 録 日  平成6年11月21日
    実用新案登録請求の範囲
           別紙「実用新案公報」(以下「本件公報」という。)写し
の該当欄記載のとおり
  (2) 本件考案を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
  A 2つの光源と,
  B 両光源のうち点灯した一方の光源の光を反射型の集光レンズへ向けて反
射する第1反射鏡と,
  C 集光レンズによって反射された光を第2反射鏡を介してスクリーンに投
影する投影レンズとが,
  D 1つのオーバーヘッド・キャビネット(「・」を挿入した。)に,その
長さ方向に並列して収められた構造のプロジェクタであって,
  E 前記2つの光源は,その光軸を第1反射鏡の鏡面中央部に向け,
  F かつ前記オーバーヘッド・キャビネットの幅方向に並列して取り付け,
  G 第1反射鏡は,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付けたことを特徴と
する
   H オーバーヘッド・プロジェクタ
  (3) 被告の行為
    被告は,平成12年9月から,被告製品を製造,販売している。被告製品
の構成は,別紙被告製品目録記載のとおりである。被告製品のうち,製品番号C-
36PZは,映写レンズにズームレンズを搭載しているタイプ(以下「ズーム型」
という。),製品番号C-36PSは,ズームレンズを搭載していないタイプ(以
下「非ズーム型」という。)である。
(4) 被告製品の本件考案の構成要件充足性
  被告製品は,本件考案の構成要件AないしCを充足する。
 2 争点
 (1) 被告製品は,本件考案の構成要件D,E,F,Gを充足するか。
(2) 本件実用新案登録には,明らかな無効理由が存在するか。
(3) 損害額はいくらか。
3 当事者の主張
 (1) 被告製品は,本件考案の構成要件D,E,F,Gを充足するか。
 (原告の主張)
   被告製品は,以下のとおり,本件考案の構成要件DないしGを充足する。
  ア 構成要件Dの充足性
    被告製品は,別紙被告製品目録添付の図3及び甲5から明らかなとお
り,光源1a,2aと,第1反射鏡3aと,投影レンズ5aとが,オーバーヘッド
キャビネット7aの長さ方向に並んでいる。
 したがって,被告製品は,構成要件Dの「1つのオーバーヘッド・キャ
ビネットに,その長さ方向に並列して収められた構造のプロジェクタであって」を
充足する。
  イ 構成要件Eの充足性
 被告製品は,別紙被告製品目録添付の図3,図5及び図6のとおり,光
源1aを第1反射鏡3aに向け,光源1aの光軸が,第1反射鏡3aの鏡面Sに達
し,Sで屈折して反射型の集光レンズに向かう構成が採用されている。そして,S
が「第1反射鏡の鏡面中央部」にあることは各図から明らかであり,このことは,
光源2aの光軸についても同様である。
 したがって,被告製品は,構成要件Eの「前記2つの光源は,その光軸
を第1反射鏡の鏡面中央部に向け,」を充足する。  
  ウ 構成要件Fの充足性
 被告製品の2つの光源1a,2aは,別紙被告製品目録添付の図4ない
し図7のとおり,互いに90度の角度で近接配置され,オーバーヘッドキャビネッ
トの幅方向に並んでおり,長さ方向からみて前後関係はない。
 したがって,被告製品は,構成要件Fの「前記オーバーヘッド・キャビ
ネットの幅方向に並列して取り付け,」を充足する。
    この点について,被告は,構成要件Fは,2つの光源が90度の関係に
ある場合を除外する旨主張するが,構成要件Fにおいて,両光源のなす角度につい
て何ら限定していると解すべき理由はないから,被告の主張は失当である。
  エ 構成要件Gの充足性
 被告製品は,光源1aと2aの光軸O,Pの交点Qを通り,かつ2つの
光軸O,Pに対して垂直な線R上に設けられた軸8を,ツマミ11で回動させるこ
とによって,第1反射鏡3aがR線を軸として回動する。このR線は,図5が示す
ように第1反射鏡3aの鏡面中央部を通っているから,第1反射鏡3aは,鏡面中
央部にあるR線と第1反射鏡3aの交点を中心に回動している。
 したがって,被告製品は,構成要件Gの「第1反射鏡は,鏡面中央部を
中心に回動可能に取り付けたことを特徴とするオーバーヘッド・プロジェクタ」を
充足する。
 (被告の反論)
   被告製品は,以下のとおり,本件考案の構成要件DないしGを充足しな
い。
  ア 構成要件Dの充足性について
    構成要件Dは,「2つの光源と,第1反射鏡と,投影レンズとが,1つ
のオーバーヘッド・キャビネット内に,その長さ方向に並列して収められたプロジ
ェクタ」とされている。同構成要件Dは,オーバーヘッドキャビネット内に,第2
反射鏡を収めたものを含まないと解すべきであり,また,オーバーヘッド
・プロジェクタ内部において,2つの光源,第1反射鏡,投影レンズの順序に配列
されたもののみに限定していると解すべきである。 これに対し,被告製品は,順
に,第1反射鏡3aと,2つの光源1a,2aと,第2反射鏡6aと,投影レンズ
5aとを,オーバーヘッドキャビネット7a内に収納したものであるから,オーバ
ーヘッドキャビネット内に第2反射鏡を収めている点,及び,配列順序を異にして
いる点で,構成要件Dを充足しない。
イ 構成要件Eの充足性について
 構成要件Eの「鏡面中央部」とは,「鏡面の縦辺及び横辺の中央」を指
すと解すべきである。
 被告製品の各光源からの光軸が反射される鏡面上の位置Sは,第1反射
鏡上端部から下方へ24ミリメートル(下端から上方へ46ミリメートル)の位置
であって,第1反射鏡の鏡面中央部ではない。したがって,被告製品は,構成要件
Eを充足しない。
ウ 構成要件Fの充足性について
  構成要件Fの「並列して取り付け」とは,「両光源が互いに90度の角
度で向き合うように近接配置する」場合を含まないと解釈すべきである。すなわ
ち,本訴において原告が,「本件考案では,光源は長さ方向に対し斜めとなり,か
つ,第1反射鏡を回動させるために長さ方向にその距離をとらなければならず,光
源の幅と第1反射鏡の回動とによって,従前のプロジェクタに比し,長さ方向が長
くなることはあっても短くなることはない」と主張しているとおり,本件考案は,
専ら,幅方向の短縮のみをその解決課題としているのであるから,両光源が90度
の角度を形成する場合を除外していると理解されるべきである。
 これに対し,被告製品は,キャビネットにおける長さ方向,及び幅方向
のサイズを最小化するという目的で,両光源が互いに90度の角度で向き合うよう
に近接配置する構成を採用したものであるから,構成要件Fを充足しない。
エ 構成要件Gの充足性について
(ア) 「鏡面中央部を中心に回動可能に取り付け」の意義
  構成要件Gの「鏡面中央部を中心に回動可能に取り付け」とは,以下
の理由から,「第1反射鏡が,ユニバーサルジョイントを介して,その鏡面中央部
を中心に,360度回動可能となるように取り付けた」ことを指すと限定的に解す
べきである。
 まず,①本件考案の明細書(以下「本件明細書」という。)では,第
1反射鏡を,ユニバーサルジョイントを介して,鏡面中央部を中心に回動可能とし
た構成のみが示され,第1反射鏡を,光軸に対して垂直な線上に設けられた「軸」
を中心として回動する構成は,何ら開示されていないことに照らすと,上記のとお
り限定的に解釈すべきことになる。
 また,②本件考案出願時に公知である乙13(特開昭55-9693
3号)及び乙14(乙13を拡大したもの。)記載の発明(以下「96933号発
明」という。)によって無効理由が生じないように解釈すると,上記のとおり限定
的に解釈せざるを得ないことになる。すなわち,96933号発明と,本件考案と
を対比すると,両者は,透過型と反射型という差異こそあるものの,いずれもオー
バーヘッドプロジェクタ(以下「OHP」ということがある。)の光源部の切換構
造に関して,①2つの光源を第1反射鏡に向けて配置する点,及び,②第1反射鏡
の鏡面の向きをいずれかの光源に向かうように操作可能にすることで当該光源の切
り換えを行う点で一致する。以上の事実に照らすならば,構成要件Gは,本件公報
の第3図の実施例のように,「第1反射鏡13は,キャビネット15に固定したア
ーム16にユニバーサルジョイント17を介して取り付け」た構成に限定しなけれ
ば,考案として成立し得ない。
(イ) 対比
  これに対し,被告製品の第1反射鏡3aは,第1反射鏡支持部材9に
固定されており,回動するのは第1反射鏡支持部材9であって,第1反射鏡それ自
体ではないから,構成要件Gを充足しない。また,同部材9は,第1反射鏡3aの
鏡面の中央部という「点」で回動させられるのではなく,光源1aの光軸Oと光源
2aの光軸Pとの交点Qを通り,かつ,2つの光軸O,Pに対し垂直な線R上に設
けられた「軸8」を中心として回動するから,この点からも,構成要件Gを充足し
ない。 
(2) 本件実用新案には明らかな無効理由が存在するか。
(被告の主張)
   本件考案は,以下のとおり,その出願当時公知である96933号発明
(乙13,14)を,反射型OHPに転用したものにすぎず,新規性及び進歩性を
欠くから,本件実用新案権に基づく請求は,権利の濫用に当たる。
   すなわち,乙14の「発明の詳細な説明」欄には,透過型OHPに関し
て,2つの光源9及び10を,互いの光源の交角αを鋭角又は鈍角にして配置する
と共に,各光軸の交差位置に平面反射鏡を配置した技術が,図2では,反射鏡12
を2次元方向に回動させることで,2つの光源のうち所望の光源に切り替えること
ができることが,図3では,反射鏡12と2つの光源9,10とを相対的に回動す
ることで2つの光源のうち所望の光源に切り替えることができることが,それぞれ
記載されている。以上のとおり,乙13,14は,本件考案と同一の技術分野にお
いて,本件考案と同様に,キャビネット内において,2つの光源を所定の角度に配
置し,各光源からの光軸に対して,反射鏡を,光軸対鏡面の入射角度を一定に保ち
ながら2次元方向に回転させることで,いずれの光源から発せられた光軸も反射鏡
に向かうようにするという構成を開示している。
   したがって,96933号発明と本件考案は実質的に同一であり,本件考
案には新規性がない。また,仮に,本件考案は反射型OHPであるのに対して,9
6933号発明は透過型OHPである点で相違すると解してみても,本件考案も9
6933号発明も,いずれもプロジェクタの光源を収納するキャビネット内部にお
ける光源と反射鏡の配置構成に関するものであって,共に実用新案法にいう「物品
の構造」に関する構成要素という点で共通し,透過型における発明を反射型へ転用
することに関しては技術的な障害はないから,本件考案は,96933号発明に基
づいてきわめて容易に考案することができたといえる。本件考案は進歩性がない。
(原告の反論)
   本件考案と,96933号発明には,以下のとおりの相違点があるから,
本件考案に新規性,進歩性がないということはできない。
  ア 96933号発明は透過型OHPであり,反射型OHPである本件考案
とは根本的に構造が異なる。両者の構成は,光源,反射鏡,集光レンズの配置とそ
の作用,ハウジングの有無,光路などの点で著しく相違する。
  イ 96933号発明は,光源がハウジング内に設置され,ハウジングの分
だけ大きくなっているから,本件考案の目的の一つである小型化を達成できない
し,そのような目的は,示唆ないし開示されていないという点で,本件考案と相違
する。
  ウ 96933号発明は,光源を放射状に数個配置するとしているのに対
し,本件考案では光源を2個に限定しており,その限定により,キャビネットの幅
を光源1個分狭くするという効果を奏しているという点で相違する。
  エ 96933号発明の目的は,光源と反射鏡との相対的位置,すなわち光
源と反射鏡の間隔を,光源ごとに変えること,及び投影レンズの位置とレンズ自身
を組合せて選択することにより,透明陽画の大小に対応しようとしたものであっ
て,数個の光源は,光源ごとに反射鏡と異なる間隔に配置されており,本件考案の
ように,光源をキャビネットの幅方向に並列にして取り付けた構成と相違する。
  オ 96933号発明は,数個ある光源のうち,光源と第1反射鏡との間隔
が異なるため,プロジェクタ使用中に光源が切れたとき,他の光源を交換して使用
することができない構成となっており,玉切れの際の光源の切り換えという目的は
示唆されていない点で,本件考案と相違する。  
(3) 損害額はいくらか。
(原告の主張)
  原告は,被告の本件実用新案権侵害行為により,少なくとも以下のとおり
の実施料相当額の損害を蒙った。
ア 被告製品の販売台数
  被告は,平成12年9月から平成14年5月末までの間に,被告製品の
うちズーム型を2513台,非ズーム型を998台販売した。また,この販売実績
からすると,平成14年6月及び7月の2か月の販売台数は,前者が200台,後
者が100台と推認するのが相当である。
イ 実施料算定の基礎となる販売価格 
 (ア) ズーム型の小売価格は15万8000円,非ズーム型は12万80
00円であり,実施料相当額は,同価格を基礎として算定すべきである。
 (イ) 仮に,小売価格を実施料算定の基礎としない場合でも,少なくとも
株式会社内田洋行(以下「内田洋行」という。)の販売価格をもって賠償額算定の
基礎とすべきである。被告は,被告製品を,親会社である内田洋行を通して販売し
ているのであるから,被告と内田洋行は一体となって原告の権利を侵害したと評価
することができ,原告は内田洋行の販売行為についても共同不法行為責任を負うべ
きである。
ウ 実施料率
 (ア) 被告製品の特徴がランプの切換えにあり,これにより小型化ができ
たことは,被告も繰り返し強調しているとおりであり,被告製品が本件考案の利用
の上に成り立っていることは明らかである。したがって,実施料としては,少なく
とも,販売価格の5%が妥当である。
 (イ) 被告は,被告製品には,さまざまな付加価値があり,これによっ
て,売上げを伸ばすことができたのであるから,実施料率について,それらの要素
を考慮すべきであると主張する。
 しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,被告製
品の第1反射鏡の回動手段については,従前の原告製品でも,第1反射鏡を回転さ
せると,光源の光が第1反射鏡中央部に向く位置で停止するような構成を採用して
おり,被告製品の回動手段が特別なものとはいえない。また,被告製品のズーム機
能及びデザインは,原告が平成11年ころ被告に対して提示した原告製品(ズーム
式OHP)を模倣したものであり,被告独自の開発によるものではない。そのほ
か,ワンタッチで操作できる点,安全機能,ランプチェンジの操作性の点は,他の
OHPと比較して特段に優れているということはなく,特に強調すべき性能ではな
い。コンパクト性については,ズームレンズの使用のため,従前のポータブルOH
Pに比較してむしろ横幅が大きくなっている。
エ 小括
  以上によれば,実施料相当損害金は,以下のとおり,2800万円を下
回ることはないから,原告は,被告に対し,内金2800万円の支払を求める。
 15万8000円×(2513+200)台×0.05
                    = 2143万2700円
 12万8000円×(998+100)台×0.05
                     = 702万7200円
 2143万2700円+702万7200円
                    = 2845万9900円
(被告の反論)
 損害の発生及び損害額はいずれも争う。
ア 被告製品の平成14年6月及び7月の販売台数について
   被告製品の平成14年6月及び7月の販売台数は,ズーム型が56台,
非ズーム型が5台である。
 イ 損害額算定の基礎となる販売価格について
  (ア) 実施料算定の基礎となる価格は,被告の販売価格(以下「製販価
格」という。)とすべきである。
    そして,被告製品のうちズーム型には,新型ズームレンズが搭載され
ており,そのため,非ズーム型に比して,小売価格も製販価格も高額である。この
差額は,ズームレンズ機能のために生じたものであって,本件考案とは全く関係が
ないから,実施料算定の基礎とすべき価格は,非ズーム型(C-36PS)の製販
価格である5万2500円である。
  (イ) 原告は,「小売価格」を基礎として,これに実施料率を乗ずべきで
あると主張する。しかし,被告と消費者との間には,内田洋行のような卸会社,そ
の代理店,小売店と複数介在するのであるから,被告製品を納品した先の小売店の
上代である小売価格を基礎とするのは妥当でない。
 また,原告は,「内田洋行の販売価格」を基礎として,これに実施料
率を乗ずべきであるとも主張する。しかし,この点の主張も,以下のとおり,妥当
でない。仮に,原告から被告が本件考案の実施許諾を受けて,被告が製品を製造し
て,内田洋行に販売するという場合を想定すると,原告に対してロイヤリティを負
担するのは被告であって,被告がこれを負担しさえすれば,その後は原告の権利は
消尽して,内田洋行がロイヤリティを負担することはない。そうすると,内田洋行
の販売代金を基礎とすることは,およそ解釈として成立しない。なお,内田洋行
は,被告と共謀の上,一体となって原告の権利を侵害したことはなく,単に被告製
品であるとの認識だけで,発注しているにすぎないのであるから,被告の製販価格
を算定の基礎とすべきである。
 ウ 実施料率について
 被告製品には,以下のとおり,数多くの付加価値が存在し,これらの付
加価値のあることが売上げに貢献したといえるから,本件考案の実施料率は,0.
5パーセントが相当である。
 すなわち,①被告製品においては,第1反射鏡は,鏡面が軸に固定さ
れ,その軸が回動の中心となって回動可能な構成となっており,第1反射鏡鏡面の
傾斜が回転軸上で常に一定に保たれるため,その回転軸以外には第1反射鏡鏡面の
傾斜角度を固定する部材を必要とせずに,所望の向きに切り替えた際,光源からの
入射光の入射角を常に一定に保つことができ,使用者の利便性が向上されているこ
と,②被告製品は,携帯性・操作性が重視されていること,③被告製品は,新型の
ズームレンズが採用されていること,④被告製品は,曲線曲面を重視した形状,多
彩な色調,すぐれたデザインが採用されていること,⑤被告製品は,使用の際にワ
ンタッチですべての部材がシンクロされ,映写状態にセットされるような工夫がさ
れ,簡便性が高いこと,⑥被告製品は,安全面での配慮がされていること,⑦被告
製品は,各光源が90度に対向近接配置されているため,コンパクト性が実現され
ていること等,販売を促進させるための価値が付加されている。
第3 当裁判所の判断
 1 被告製品は,本件考案の構成要件D,E,F,Gを充足するか。
  (1) 構成要件Gの充足性
   ア 「鏡面中央部」の意義
  (ア) まず,当裁判所は,構成要件Gにおける「鏡面中央部」とは,光が
集光レンズへ有効に反射されるある程度の広がりをもった,鏡面中央部分を指すも
のと解すべきであり,厳密な意味での「鏡面の中心点」,すなわち「鏡面の縦辺及
び横辺の中央点」を指すと限定的に解すべきではないと判断する。その理由は,以
下のとおりである。
 すなわち,①本件考案の【実用新案登録請求の範囲】には,構成要件
Gに対応する部分のほかに,「前記2つの光源は,その光軸を第1反射鏡の鏡面中
央部に向け」(構成要件Eに対応する部分)と記載されているが,いずれも「鏡面
中央部」と記載され,「鏡面の中心点」と記載されているわけではないこと,【考
案の詳細な説明】にも,「鏡面中央部」を「鏡面の中心点」に限定する旨の記載は
ないこと,②むしろ,〔作用〕欄には,「・・プロジェクタの使用中に,点灯して
いた一方の光源が切れた場合には,他方の光源をスイッチ等で点灯し,その光軸に
第1反射鏡を向けることにより,即座に使用できる」と,〔実施例〕欄には,「第
1反射鏡13は,第3図のように,キャビネット15に固定したアーム16にユニ
バーサルジョイント17を介して取り付けてあり,したがって,鏡面中央部を中心
に回動可能となっている。」,〔考案の効果〕欄には,「この考案によれ
ば,・・・第1反射鏡の向きは,点灯した光源の光軸に合わせて可変できるように
したので,次の効果を得ることができる。」「プロジェクタの使用中に,点灯して
いた一方の光源が切れたときには,他方の光源を点灯し,その光軸に第1反射
鏡を向けることができる」と,それぞれ記載されていること,③当業者が,これら
の記載を見れば,上記の作用効果を発揮するためには,第1反射鏡は,2つの光源
の光軸が交差する点付近の鏡面中央部分上の点を中心に回動される必要があるが,
必ずしも,厳密な意味で鏡面の中心に回動される必要はないと理解すると考えられ
ること等の諸点を総合すれば,「鏡面中央部」とは,光が集光レンズへ有効に反射
されるある程度の広がりをもった,鏡面中央部分を指すものと解すべきであり,
構成要件Gは,第1反射鏡が,そのような鏡面中央部分内の1点を中心として回動
する構成を意味すると解するのが相当である。
(イ) 次に,当裁判所は,構成要件Gの「第1反射鏡は,鏡面中央部を中
心に回動可能に取り付け」とは,第1反射鏡が「ユニバーサルジョイントを介し
て,360度回動可能となるように取り付け」られる場合に限定されるべきではな
いものと解する。その理由は,以下のとおりである。
 すなわち,確かに,本件明細書の【考案の詳細な説明】及び図面に
は,「第1反射鏡13は,第3図のように,キャビネット15に固定したアーム1
6にユニバーサルジョイント17を介して取り付けてあり,したがって,鏡面中央
部を中心に回動可能となっている。」(4欄31行目~35行目)として,ユニバ
ーサルジョイントを用いた実施例が示されている。しかし,①【実用新案の登録請
求の範囲】には,「鏡面中央部を中心に回動可能に取り付け」と記載され,同記載
文言に照らすと,第1反射鏡が360度回動する場合だけに限定されると解釈する
ことはできないこと,②【考案の効果】欄には,「この考案によれば,2つの光源
をキャビネットの幅方向に並列して取り付け,それぞれを別個に点灯できるように
するとともに,第1反射鏡の向きは,点灯した光源の光軸に合わせて可変できるよ
うにしたので,次の効果を得ることができる」,「プロジェクタの使用中に,点灯
していた一方の光源が切れた場合には,他方の光源をスイッチ等で点灯し,その光
軸に第1反射鏡を向けることにより,即座に再使用できる。」(本件公報5欄4行
目~13行目)と記載されており,これらの記載によれば,本件考案の
効果は,玉切れした光源からこれと並列する他方の光源に,第1反射鏡を向けるこ
とにより得られるものと理解されること,③第1反射鏡を一方の光源から他方の光
源へ向けるためには,第1反射鏡自体が回動中心点を中心に360度回動する場合
のみならず,鏡面中央部を通る1つの軸を固定し,その軸を中心に回動する場合で
あっても足りるのは,当業者にとって自明であると解されること等の諸点を総合す
れば,構成要件Gにおける第1反射鏡の取付け方法が「ユニバーサルジョイントを
介して,360度回動可能となるように取り付け」られる場合に限定されると解す
ることはできない。
 この点について,被告は,出願当時公知であった96933号発明と
の関係で,無効理由がないように,本件考案の技術的範囲を解釈しようとするなら
ば,構成要件Gは,「第1反射鏡13は,第3図のように,キャビネット15に固
定したアーム16にユニバーサルジョイント17を介して取り付け」たと限定的に
解釈せざるを得ないと主張する。
 しかし,後記2(1)のとおり,本件考案は,96933号発明と同一又
は同発明からきわめて容易に想到できた考案であるとすることはできないから,被
告の上記主張は,理由がない。 
イ 対比
  被告製品の第1反射鏡3aは,第1反射鏡支持部材9に固定されてお
り,同支持部材9をつまみ11を介して回動させることにより,光源1aの光軸O
と光源2aの光軸Pとが交差する第1反射鏡面上の点Qを通り,かつ,2つの光軸
O,Pに対し垂直な線R上に設けられた軸8を中心として回動する。したがって,
被告製品の第1反射鏡3aは,鏡面中央部にある点Qを中心に回動可能に取り付け
られているから,構成要件Gを充足する。
  (2) 構成要件D,E,Fの充足性
   ア 構成要件Dの充足性    
     被告は,構成要件Dの意義について,オーバーヘッドキャビネット内
に,2つの光源と,第1反射鏡と,投影レンズだけ配列された場合であり,かつ,
部材が,上記の順序で配列された場合に限られるように解釈すべきであると主張す
る。
     しかし,本件考案の【実用新案登録請求の範囲】のうち構成要件Dに対
応する部分には,「2つの光源と,・・・第1反射鏡と,・・・投影レンズとが,
1つのオーバーヘッド・キャビネットに,その長さ方向に並列して収められた」と
記載されているのみで,オーバーヘッド・キャビネット内に収納される部材が,2
つの光源と第1反射鏡と投影レンズのみである場合に限定されたり,配列の順序が
限定される旨の記載はない。また,本件明細書の【考案の詳細な説明】欄にも,そ
のような記載をした部分はない。よって,被告の主張は採用できない。
    被告製品は,光源1a及び2aと,第1反射鏡3aと,投影レンズ5a
とが,1つのオーバーヘッドキャビネット7aに並んで納められているから,本件
考案の構成要件Dを充足する。
  イ 構成要件Eの充足性
被告は,構成要件Gにおける「鏡面中央部」とは,厳密な意味での「鏡
面の中心点」,すなわち「鏡面の縦辺及び横辺の中央点」を指すと解すべきである
と主張する。
しかし,前記(1)ア(ア)で示したとおり,当裁判所は,構成要件Eにおけ
る「鏡面中央部」とは,光が集光レンズへ有効に反射されるべきある程度の広がり
をもった,鏡面中央部分を指すものと解すべきであると判断する。
被告製品においては,光源1a及び2aの光軸は,第1反射鏡3aの鏡
面上のS点で反射して,反射型の集光レンズ4aに向かっている(別紙製品目録添
付の図3及び図5)。そして,図5及び乙7によれば,被告製品の第1反射鏡で反
射した光の光束範囲は集光レンズ4a全体を覆っており,S点は第1反射鏡の鏡面
中央の一定の広がりをもった範囲内にあるということができるから,被告製品は,
構成要件Eを充足する。
被告は,S点は,第1反射鏡の上端部から下方へ24ミリメートル(下
端から上方へ46ミリメートル)に位置するから,「鏡面中央部」に位置しないと
主張するが,構成要件Dの「鏡面中央部」とは,「鏡面中央点」を意味するもので
ないことは上記のとおりであるから,被告の主張は採用できない。
  ウ 構成要件Fの充足性
    被告は,構成要件Fにおける「並列」について,「両光源が互いに90
度の角度で向き合うように近接配置する」場合は除外されると主張する。
しかし,本件考案の【実用新案登録請求の範囲】には,①2つの光源の
光軸が向かう方向については,「第1反射鏡の鏡面中央部に向ける」と記載されて
いるのみであり,両光源が90度で向き合う配置が除かれる旨の記載はないこと,
②本件明細書の第2図には,2つの光源が,キャビネットの長さ方向に対して斜め
に第1反射鏡に向けられた構成が記載され,一方,その説明として「2つの光源1
1,12は,キャビネット15の幅W方向に並列して取り付け・・」と記載されて
いるように,本件明細書においては,「光源が並列して取り付けられる」ことと,
「光源の向き合う角度が並列である」ことは区別して用いられていること等に照ら
すならば,構成要件Fの「幅方向に並列して取り付け」が,「2つの光源が並列す
る角度で向き合う」構成を意味し,「両光源が互いに90度の角度で向き合うよう
近接配置する」場合を除外するとは解されない。
    別紙被告製品目録添付図面及び甲5によれば,被告製品の2つの光源1
a,2aは,キャビネットの長さ方向(光源1a及び2aと,第1反射鏡3aと,
投影レンズ5aとが並んでいる方向)と直角に交わる同一線上に隣り合って配置さ
れているから,構成要件Fを充足する。   
  (3) 小括
    以上によれば,被告製品は,本件考案の構成要件をすべて充足するから,
被告製品は,本件考案の技術的範囲に属し,被告製品を製造,販売する被告の行為
は,本件実用新案権を侵害する。 
 2 本件実用新案には明らかな無効理由が存在するか。
 (1) 新規性又は進歩性欠如による無効理由
被告は,本件考案は,その出願当時公知である96933号発明と同一で
あるか,又は96933号発明に基づいてきわめて容易に考案することができたも
のであるから,本件実用新案登録には法3条1項及び2項違反の無効理由があると
主張するので,この点を検討する。
ア 96933号発明の内容
 (ア) 乙13(特開昭55-96933号)及び14(乙13を拡大した
もの)には,以下の記載がある。
 a 「特許請求の範囲」「ハウジング内に光源系およびコンデンサーレ
ンズを下方から順次配設するとともに,ハウジングの上端開口をステージガラスで
閉止した投影機本体と,ハウジング外でステージガラスのさらに上方に配設した投
影レンズと,この投影レンズを通過した光をスクリーン上へ反射する投影用反射鏡
とを備えるオーバーヘッドプロジェクターにおいて,光源系の少なくとも一部を,
その光軸が前記コンデンサーレンズの光軸上の一点に対して放射状をなすよう複数
個配置し,また,光源系からの光束を前記コンデンサーレンズへ反射する光束上向
用反射鏡を,ハウジング内で前記コンデンサーレンズの光軸上に傾斜させて配置
し,光源系の少なくとも一部と光束上向用反射鏡との相対運動を可能ならしめ,さ
らに投影レンズを垂直方向へ移動可能ならしめるとともに,交換可能ならしめたこ
とを特徴とするオーバーヘッドプロジェクター。」(乙14の1頁2行目から2頁
2行目)
 b 「発明の詳細な説明」「本発明はオーバーヘッドプロジェクター,
とくにステージガラス上に載置した透明陽画の大小にかかわらず,スクリーン上に
一定寸法,一定照度の画像を投影し得るオーバーヘッドプロジェクターに関するも
のである。」(乙14の2頁3行目から8行目)
 c 「発明の詳細な説明」「・・・第2図は,第1図のⅡ-Ⅱ線に沿う
投影機本体の略断面図であり,投影機本体7はハウジング1内で底壁8上に取り付
けた複数個の光源系9,10と,前述のステージガラス2と,このステージガラス
の直下に配置したコンデンサーレンズ11とを有する。ここで光源系9,10は,
その光軸がコンデンサーレンズ11の光軸上の一点で交差するとともに,光源系の
光軸が,その一点においてコンデンサーレンズ11の光軸の回りに放射状をなすよ
う配置される。・・・なお,図示例では2個だけの光源系を示し,コンデンサーレ
ンズ11の光軸と光源系の光軸を直交させているが,光源系の数を3個以上にする
ことおよび各光源の交角αを鋭角または鈍角にすることもできる。次いで,前述し
た各光軸の交差位置に光束上向用の平面反射鏡12を配置し,この反射鏡12を,
光源系の光軸を通る光束がコンデンサーレンズ11の光軸を通って反射されるよう
に傾斜させる。さらに,反射鏡12の裏面に連結したロッド13を底壁8に貫通さ
せるとともに,この底壁8によって軸受けし,そしてロッド13の先端にハンドル
またはつまみ14を設けて反射鏡12を,コンデンサーレンズ11の
光軸上で各光源系の光軸方向へ回転し得るようにする。」(乙14の
4頁18行目から6頁5行目)。
 d 「このように構成したオーバーヘッドプロジェクタにおいて,たと
えば,ステージガラス2とほぼ同一寸法の透明陽画13を投影するに際しては,焦
点距離の長い光源レンズ9aを有する光源系9の方向へ光束上向用反射鏡12を回
し,コンデンサーレンズ11によって,光束を透明陽画13の全体にわたって透過
させる。・・・このような投影の継続中において,または次回の投影において所定
の寸法の透明陽画よりも小さい寸法の透明陽画,たとえば第1図に仮想線で示すよ
うな小寸法の透明陽画を投影する必要が生じた場合には,まず,つまみ14を回す
ことによって,焦点距離が短い光源レンズ10aを有する光源系10の方向へ反射
鏡12を回転させ・・・る。」(乙14の6頁6行目から7頁10行目)。
 (イ) 上記の各記載によれば,96933号発明の内容は,「2つの光源
系9,10と,コンデンサーレンズ11とが,ハウジング内に下方から順次配設さ
れ,ハウジングの上端開口をステージガラスで閉止した投影機本体と,コンデンサ
ーレンズ11によって透過された光を投影用反射鏡を介してスクリーンに投影する
投影レンズが,ハウジング外でステージガラスのさらに上方に配設され,この投影
レンズを通過した光をスクリーン上へ反射する投影用反射鏡とを備える透過型オー
バーヘッドプロジェクタであって,両光源のうち点灯した一方の光源系9,10の
光をコンデンサーレンズ11へ向けて反射する光束上向用反射鏡12がハウジング
内に配設され,前記2つの光源系9,10は,その光軸を光束上向用反射鏡12の
鏡面に向け,かつ,その光軸が,コンデンサーレンズ11の光軸と交差する一点に
対して,放射状をなすよう配置され,光束上向用反射鏡12は,ロッド13及びそ
の先端に設けたハンドルまたはつまみ14により,鏡面中央部を中心に回動可能に
取り付けたことを特徴とするオーバーヘッドプロジェクタ」である。
イ 本件考案の新規性の有無について
  上記認定した事実を基礎にして,96933号発明と本件考案とを対比
すると,96933号発明と本件考案とは,以下の構成において相違するので,本
件考案は新規性を欠くとはいえない。
(ア) 96933号発明は透過型OHPについての発明であるのに対し
て,本件考案は反射型OHPについての考案であること
(イ) 96933号発明は「投影レンズ」が1つのオーバーヘッドキャビ
ネットに配置されていないのに対して,本件考案は「投影レンズ」が1つのオーバ
ーヘッド・キャビネットに配置されていること(構成要件C)
(ウ) 96933号発明は,光源と第1反射鏡と投影レンズが,オーバー
ヘッドキャビネットの長さ方向に並列して収められていないのに対して,本件考案
は,光源と第1反射鏡と投影レンズが,オーバーヘッド・キャビネットの長さ方向
に並列して収められていること(構成要件D)
(エ) 96933号発明は,2つの光源が,オーバーヘッドキャビネット
の「幅方向」に並列して取り付けられていないのに対して,本件考案は,2つの光
源が,オーバーヘッドキャビネットの「幅方向」(光源と第1反射鏡と
投影レンズが並ぶ長さ方向に対して直角の方向)に並列して取り付けられているこ
と(構成要件F)
ウ 本件考案の進歩性の有無について
 本件考案は,96933号発明に基づいて,きわめて容易に考案するこ
とができたものであると解することはできない。その理由は以下のとおりである。
(ア) そもそも,本訴において,被告は,本件考案が進歩性を欠如すると
の理由について,「96933号発明」を挙げるものの,同発明からきわめて容易
に考案することができる根拠とすべき公知技術について具体的な主張をしない。し
たがって,本件考案に進歩性がないとの被告の主張は,主張自体失当である。
(イ) 上記のとおり,本件考案に進歩性がないとの被告の主張は,主張自
体失当であるが,念のために,公知技術との組合せに関する具体的な主張があるも
のとして,補足判断する。そのように主張を補ったとしても,96933号発明に
おいて,光源を切り換える目的は,透過型OHPにおいて,原稿台の照明範囲を変
更するためのものであり,同発明は,本件考案とは解決課題が全く相違するから,
他の何らかの公知技術を組み合わせることによって,本件考案をきわめて容易に考
案することができたと判断することはできない。
a まず,96933号発明において,「2つの光源系9,10の光軸
を光束上向用反射鏡12の鏡面中央部に向け,光束上向用反射鏡12を,ロッド1
3及びその先端に設けたハンドルまたはつまみ14により,鏡面中央部を中心に回
動可能に取り付ける」という構成を採用したのは,専ら,光束上向用反射鏡12を
回転させて焦点距離が短い光源レンズ10aから焦点距離が長い光源レンズ9aに
切り換えることにより,「ステージガラス上に載置した透明陽画の大小にかかわら
ず,スクリーン上に一定寸法,一定照度の画像を投影し得る」という効果を奏する
ためのものであって,本件考案のように,一方の光源が切れた場合に光源の切り替
えを行い,プロジェクタの連続使用を可能とするという目的が存するわけではない
し,示唆されていない。したがって,当業者が,96933号発明における切り換
えの構成を,本件考案の光源の玉切れによる光源の交換目的のために採用すること
を,きわめて容易に想到することができたとはいえない。
b 次に,96933号発明においては,その「発明の詳細な説明」に
は,「なお,図示例では2個だけの光源系を示し,コンデンサーレンズ11の光軸
と光源系の光軸を直交させているが,光源系の数を3個以上にすることおよび各光
源の交角αを鋭角または鈍角にすることもできる。」(5頁12ないし16行目)
と,小型化とは相反する記載があり,本件考案のような,光源を2つだけキャビネ
ットの幅方向に並列して取り付けることにより,キャビネットを幅方向に小型化す
るという目的が存するわけではなく,そのような課題又は効果を示唆する記載は一
切されていない。したがって,当業者が,96933号発明における切り換えの構
成を,本件考案の小型化の手段として,きわめて容易に想到することができたとは
いえない。
 (ウ) また,仮に,96933号発明に「本件明細書の〔従来の技術〕欄
並びに第4図及び第5図記載の技術」(以下「本件明細書図面記載のOHP」とい
う。)を組み合せることによっても,当業者が,本件考案を,きわめて容易に想到
することができたと解することはできない。
 すなわち,本件明細書の〔考案が解決しようとする課題〕〔課題を解
決するための手段〕及び〔作用〕欄の記載によれば,本件考案は,「本件明細書図
面記載のOHP(従来のOHP)」では,①キャビネット8の幅Wを,光源1を3
個横に一列に並べられるだけの大きさにしなければならないため,キャビネット8
が大きくなり,コンパクト化の要請に応えられない,②一方の光源1が切れて他方
の光源2と交換する場合,人手によって,それぞれを鎖線位置と光源1のあとへ移
動させなければならないが,加熱されていて熱いのですぐには交換できず,そのた
め,光源1,2が冷えるまでの間,プロジェクタの使用が中断されてしまう,とい
う問題を解決することを課題として,「2つの光源の光軸を第1反射鏡の鏡面中央
部に向け,第1反射鏡を,鏡面中央部を中心に回動可能に取り付ける」(構成要件
E及びG)構成を考案したものである。そして,本件考案は,①プロジェクタの使
用中に,点灯していた一方の光源が切れた場合には,他方の光源をスイッチ等で点
灯し,その光軸に第1反射鏡を向けることにより,即座に再使用できる,②上記2
つの光源は,オーバーヘッドキャビネットの幅方向に並列して取り付
けたので,従来に比べれば,キャビネットの幅が光源1個分だけ狭くなる,という
効果を奏する。
 以上のとおり,「本件明細書図面記載のOHP」と本件考案とは,目
的,作用効果及び構成(本件考案の構成要件E及びG)において,著しく相違する
から,当業者が,本件考案の上記各課題を解決しようとした場合に,96933号
発明と「本件明細書図面記載のOHP」とを組み合わせることには無理があり,結
局,当業者がきわめて容易に想到できとはいえないと解すべきである。
(エ) さらに,仮に,96933号発明に「実開昭59-101250号
(乙28号証)記載の考案」(以下「101250号考案」という。)を組み合せ
ることによっても,当業者が本件考案を,きわめて容易に想到することができたと
解することはできない。
 すなわち,101250号考案は,光源4と,該光源からの光を反射
型の集光レンズ8へ向けて反射する第1反射鏡11と,集光レンズ8によって反射
された光を第2反射鏡10を介してスクリーンに投影する投影レンズ9とが,1つ
のオーバーヘッドキャビネット3に,その長さ方向に並列して納められたオーバー
ヘッドプロジェクタである。そして,同考案は,光源4を囲むキャビネット3に空
気流入部13及び空気流出部14を設け,キャビネット下部にファンを設けたもの
で,該ファンから送風される空気が,前記空気流入部から流入して光源4を冷却す
ることができるとするものである。そして,本件考案と101250号考案とを対
比すると,①本件考案においては2つの光源がキャビネットの幅方向に並列に設け
られているのに対して,101250号考案においては,光源が1つしか設けられ
ていない点,及び②本件考案においては第1反射鏡が鏡面中央部を中心に回動可能
に取り付けられているのに対して,101250号考案においてはそのような構成
が採られていない点において相違する。
 ところで,前記のとおり,本件考案は,2つの光源を並列に設けて,
一方を他方の玉切れの際における交換用の光源として用いることを前提として,キ
ャビネットの幅方向を光源1個分だけ狭くして,キャビネットの幅方向の小型化を
実現させるために,第1反射鏡を回動可能としたものであるから,当業者が,96
933号発明と101250号考案とを組み合わせることによって,本件考案の小
型化及び玉切れの際の光源交換の手段としての構成要件E及びGについて,きわめ
て容易に想到することができたとはいえない。
(オ) 以上総合すると,本件考案は,当業者が,96933号発明及び公
知技術を組み合わせて,きわめて容易に考案することができたといえないのであ
り,被告の主張は採用できない。
 (2) 小括
   以上によれば,権利濫用についての被告の抗弁は理由がない。
  なお,被告は,本件考案の【実用新案登録請求の範囲】のうち,①「前記
2つの光源は,その光軸を第1反射鏡の鏡面中央部に向け,かつ前記オーバーヘッ
ドキャビネットの幅方向に並列して取り付け,」,②「第1反射鏡は,鏡面中央部
を中心に回動可能に取り付けた」の各記載が,考案の詳細な説明に記載されていな
いものを含んでおり,かつ,登録を受けようとする考案を特定するのに不明瞭であ
るとも主張する。しかし,この点を認めることはできず,被告の同主張は採用の限
りでない(被告は,上記主張と同一の理由に基づいて本件実用新案について無効審
判を請求したが,平成14年1月24日付けで無効審判不成立の審決がされ,同審
決は確定している。)。
3 損害額について
   原告は,被告に対して,被告製品の販売について,平成12年9月から平成
14年7月までの損害賠償(実施料相当額)を請求する。そこで,その額について
判断する。
  (1) 被告製品の販売台数
   ア ズーム型の販売台数
     被告は,平成12年9月から平成14年5月末までの間に,ズーム型被
告製品を累計2513台販売した。ズーム型の販売台数のうち,被告の独自の販路
により販売した自社ブランド製品が108台,被告の親会社である内田洋行に対す
る製品が1055台,その他の業者1社に対する製品が1350台である(争いが
ない)。
     また,平成14年6月及び7月のズーム型の販売台数は,被告の独自の
販路による製品が6台,内田洋行に対する製品が50台,その他の業者1社に対す
る製品が0台の合計56台であり(その限度で争いがない。),これを超える販売
数を認めるに足りる証拠はない。
     したがって,販売時から平成14年7月までのズーム型の総販売台数
は,合計2569台である。
                   2513+56=2569台 
   イ 非ズーム型の販売台数
     被告は,平成12年9月から平成14年5月末までの間に,非ズーム型
被告製品を累計998台を販売した。非ズーム型の販売台数のうち被告の独自の販
路による製品が103台,内田洋行に対する製品が895台である(争いがな
い)。
   また,平成14年6月及び7月の間の非ズーム型の販売台数は,被告の
独自販路による製品が5台,内田洋行に対する製品はなく,合計5台であり(その
限度で争いがない。),これを超える販売数を認めるに足りる証拠はない。
     したがって,販売時から平成14年7月までの非ズーム型の総販売台数
は,合計1003台である。
              998+5=1003
  (2) 本件考案の実施に対し受けるべき相当金額
   ア 実施料算定の基礎とすべき販売価格
   (ア) 証拠(乙4,16,18ないし20,21)及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の事実が認められる。
 被告は,前記のとおり,被告製品につき,内田洋行,内田洋行以外の
業者(ただし非ズーム型はゼロ)及び被告独自の販路によって販売している。内田
洋行は,被告から購入した被告製品をさらに代理店(特約店),小売店(ディーラ
ー)等に対して販売している。
 被告の内田洋行に対する被告製品の製販価格は,非ズーム型について
は5万2500円,ズーム型は6万3500円である。また,被告製品の小売価格
(ただし,パンフレット記載のメーカー希望小売価格)は,ズーム型については1
5万8000円,非ズーム型については12万8000円である。
   (イ) 上記認定によれば,被告製品のうちズーム型は,非ズーム型と比較
すると高額であるが,これは,ズーム機能を付加したことにより生じたものと認め
られるので,本件考案についての実施料相当額を算定する基礎となる販売価格とし
ては,非ズーム型の価格によるのが相当である。
      また,実施料を算定する基礎となる価格については,一応,被告の製
販価格ではなく,最終小売価格を用い,小売価格の製販価格に対する価格差は,実
施料率において考慮することとした。
   イ 実施料率
     証拠(乙4,20,21)によれば,被告製品は,業界初の全面ズーム
型ポータブルOHPであり,また,ズーム型OHPとして最軽量(7キログラム)
を実現した商品であり,ワンタッチで開閉し,セットアップに要する時間が3秒と
いう高い操作性を有する等さまざまな付加価値が付けられていることが認められ
る。他方,①ポータブルOHPの携帯性,軽量化を高めるためには,キャビネット
の幅方向への小型化は重要な要素であると考えられること,②被告製品のパンフレ
ット(乙4)には,同製品の「主な特長」として挙げた5つの点の1つとして,
「ランプ交換はクイックランプチェンジ方式(ヘッド部に予備ランプを収納)を採
用。使用中にランプが切れても,ランプチェンジつまみのワンタッチ操作で直ちに
スペアランプに切り替えることができます。」と記載され,本件考案の実施による
プロジェクタの使用中断時間の短縮機能を強調した広告がされていること,③本件
考案は被告製品全体の販売の促進に相当程度寄与していると解して差し支えないこ
と等の事情を総合すると,本件における実施料相当額は,非ズーム型の最終小売価
格の2パーセントとするのが相当である。
     なお,被告は,本件考案は,単に「第1反射鏡を,鏡面中央部を中心に
回動可能に取り付けた」構成でしかなく,このままではおよそ市場において価値の
ある製品とはいえないのに対し,被告製品においては,第1反射鏡が一定の規則性
を維持しながら回動する構成としたため,光源の入射角度が固定されており調整不
要となっていることをもって,本件発明の寄与度が低いと主張する。しかし,「第
1反射鏡を回動させる」という構成要件を実施する場合,本件明細書記載の実施例
のようにユニバーサルジョイントを用いて回動させるか,被告製品のように第1反
射鏡が一定の規則性を維持しながら回動させる構成を採用するかは,当業者であれ
ばいずれも容易に想到することができる設計上の選択事項にすぎないのであるか
ら,このような設計事項を選択したことをもって,本件考案の寄与が少ないと評価
することはできない。
  (3) 原告の被った損害額
    そうすると,被告が本件考実用新案権を侵害したことにより,原告の被っ
た損害額は,914万4320円であると認められる。
    12万8000円×(2569台+1003台)×2%
                         =914万4320円
4 以上によれば,本訴請求は,被告製品の製造,販売及び貸渡しの禁止,被告
が所有する被告製品及びその半製品の廃棄並びに不法行為による損害賠償として金
914万4320円及びこれに対する不法行為の後の日である平成14年8月22
日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度
において理由があるからこれを認容し,その余は失当であるから棄却する。よっ
て,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官  飯 村 敏 明
 
    裁判官  榎 戸 道 也
裁判官大寄麻代は,転補のため署名押印することができない。
 裁判長裁判官  飯 村 敏 明
被告製品目録
1 オーバーヘッドプロジェクタ
 製品番号(C-36PZ,C-36PS)
2図面の簡単な説明
(1) 図1は,被告の製造販売に係るオーバーヘッドプロジェクタの全体を示す不
使用状態に折り畳んで示す斜視図である。
 (2) 図2は,使用状態に展開,拡開して示す斜視図である。
 (3) 図3は,要部構造のレイアウトを側面から示す概念図である。
(4) 図4は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す平面図で
ある。
(5) 図5は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す側面図で
ある。
(6) 図6は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す拡大斜視
図である。
 (7) 図7は,図3の構成のうち,ミラー回転式のランプ切換構造を示す分解斜視
図である。
3図面の符号
1a(2a)光源
3a第1反射鏡
4a集光レンズ
5a投影レンズ
6a第2反射鏡
7aオーバーヘッドキャビネット
8軸
9第1反射鏡支持部材
10回動範囲規制部材
11ツマミ
K光軸
O光源1aの光軸
P光源2aの光軸
Q2つの光源の光軸の交点
R2つの光軸に垂直な線
S光軸と第1反射鏡の交点
4 被告製品の構成
 2つの光源1a,2aと,両光源1a,2aのうち点灯した一方の光源の光kを
反射型の集光レンズ4aへ向けて反射する第1反射鏡3aと,集光レンズ4aによっ
て反射された光kを,第2反射鏡6aを介してスクリーン(図示省略)に投影する投
影レンズ5aとが,1つのオーバーヘッドキャビネット7aに収められた構造のプロ
ジェクタであって,
前記2つの光源1a,2aは,互いに90度の角度で向き合うように近接配置さ
れ,
 前記2つの光源1a,2aの光軸O,Pの交点Qを通り,かつ,2つの交軸O,
Pに対し垂直な線R上における,前記2つの光源1a,2aの光軸O,Pの交点Q
の上方の位置に軸8が設けられ,
 軸8には,第1反射鏡支持部材9が回動可能に取付けられ,
 第1反射鏡支持部材9の周囲には,第1反射鏡支持部材9の回動可能範囲を90
度に規制するように形成された回動範囲規制部材10が設けられ,
 第1反射鏡支持部材9は,第1反射鏡3aが,光源1aに向けられたとき及び光
源2aに向けられたときのいずれにおいても,いずれの光源に対しても一定の入射
角を保持するように,第1反射鏡3aを固定した状態で支持し,
第1反射鏡支持部材9には,これを所望の方向に回転させて回動範囲規制部材1
0に当接させるツマミ11が設けられている。
図面

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