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裁判例


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       主   文
一、申請人らが被申請人に対し、労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。
二、被申請人は、申請人Aに対し、昭和四六年四月一日以降昭和四八年三月末日
(本案判決が同日以前に確定した場合は、これが確定の日)まで、毎月二一日限り
一ケ月金三四、〇〇〇円を仮に支払え。
三、申請人らのその余の申請を却下する。
四、申請費用はこれを三分し、その二を被申請人、その余を申請人らの各負担とす
る。
       理   由
第一、当事者の申立および主張(答弁を含む)は別紙(一)記載のとおりである。
第二、当裁判所の判断
一、本件疎明および審尋の全趣旨によると次の事実が認められる。
(1) 被申請人は、九州産業大学、九州英数学館等を経営する学校法人であり、
申請人Aは、明治三一年七月一〇日に生まれ、昭和三七年四月一日、被申請人が経
営する九州商科大学(昭和三八年四月に九州産業大学と改称)の教授として勤務
し、以来同大学の商学部長、図書館長、産業経営研究所長等を歴任してきたもの、
また申請人Bは、明治三一年三月一七日に生まれ、昭和三八年四月、被申請人が経
営する九州産業大学の教授として勤務し、以来同大学の商学部長、産業経営研究所
長、第二部主事等を歴任してきたものである。
(2) 被申請人学校法人中村産業学園の就業規則(昭和三八年四月一日施行)第
三七条は別紙(二)の一記載のとおり、大学教授の定年を六四才としたうえ、定年
後は、学園の都合により、学園長の許可を得て引き続き勤務を許可されることがあ
る旨規定し、「大学教員の停年制の取扱要領」(昭和四二年四月一日施行)におい
て、別紙(二)の二記載のように、その細部取扱を定めていた。
(3) 申請人らは、昭和四二年頃、当時新設計画中の東亜学園大学の設立発起人
より、申請人Aは商学部長、申請人Bはそれに準ずる処遇をするので同大学設立準
備委員会に参画するように懇請された。ところで、申請人らは、ともに当時すでに
六八才を超えており、翌四三年四月一日以降は、前示就業規則ならびに「大学教員
の停年制取扱要領」が全面的に適用される結果、その継続任用は専ら学園長の許可
にかかるという極めて不安定な身分となり、しかも六九才以上になれば、減俸が確
実な状況にあつたので右の要請に応ずる予定にしていた。他方、被申請人において
も、かねてから九州産業大学に経営学部を新設すべく、学部準備委員会を設けて準
備中であつたが、申請人らが新設予定の東亜学園大学に参加しようとしていること
を聞知した被申請人代表者Cは申請人らが九州産業大学を退職することになれば、
経営学部の新設は一層困難になると考え、右委員会委員長を通じ、申請人らに対し
て同大学に留まり新学部設置に協力して欲しい旨懇請した。これに対して、申請人
らは向う五年間は大学教授としての身分を保障すること、およびその期間本俸の減
額を行なわないことを公正証書により約束すれば、これに応じてもよい旨申し出た
ところ、被申請人代表者Cも右申し出を承諾し、昭和四三年八月五日、申請人らは
被申請人との間に、身分保証ならびに給与に関する契約を締結し、これを証するた
め、被申請人と申請人Bとの間には同日、申請人Aとの間には同月二三日それぞれ
公正証書が作成された。
(4) ところが被申請人は、昭和四五年一一月四日、従来の「大学教員の停年制
の取扱要領」を変更したものとして、労働基準法所定の手続を履践したうえ、「大
学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」を制定し、同月一九日より実施した。
右規則によると、別紙(二)の三、記載のとおり、教授は満六六才をもつて定年と
し、定年後の継続任用については満七〇才を超えて継続任用を更新できず、すでに
定年に達している者は昭和四六年三月末日をもつて退職すべきものとされている。
(5) そして、被申請人は、昭和四六年四月一日以降は、申請人らが右規則によ
り同年三月末日をもつて労働契約上の地位を喪失したと主張し、同規則にしたがつ
て申請人らに対して定年退職としての取扱をなすに至つた。
 以上の事実が認められ、これに反する疎明はない。
二、そこで以下、被申請人が主張するように、申請人らが「大学教員(専任講師以
上)の定年制取扱規則」に基き、昭和四六年三月末日をもつて労働契約上の地位を
喪失したか否かについて判断する。
(1) 申請人らが被申請人との間に締結した身分保証ならびに給与に関する契約
は、前項で認定した同契約を締結するにいたつた経緯と同契約の各条項とを併せ考
えれば、申請人らに対しては就業規則の一部たる「大学教員の停年制の取扱要領」
の定める定年制の規定を向う五年間すなわち昭和四八年三月末日までは適用せず、
九州産業大学の教授としての身分を保証することを主たる内容とする定年制に関す
る特約であると解するのが相当である。
(2) ところで、労働基準法は、就業規則で定める基準に達しない労働条件を定
める労働契約について、その部分を無効とし、就業規則で定める基準によることと
している(九三条)が、就業規則で定める基準を超える特約を締結した場合には、
これを無効と解すべきいわれはないから、右身分保証ならびに給与に関する契約は
もとより有効であるといわねばならない。そして、使用者と労働者間に、定年制に
関する一般規定とは異なる労働者により有利な特約がなされている場合は、原則と
して、一般規定の変更は特約の効力について何ら影響を及ぼすものではないと解さ
れるから、本件のごとく「停年制取扱要領」が廃止され、新たに「定年制取扱規
則」が制定されたとしても、前記特約の効力に消長を来すものではなく、その特約
は定年制に関する新たな一般規定たる「定年制取扱規則」にも優先するものと解す
べきである。
(3) なお、この点については、新たな就業規則の作成または変更によつて、労
働者の既得の権利を奪い、労働者に不利な労働条件を一方的に課することとなる場
合であつても、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、
その適用を拒むことは許されないとの見解もあるであろう(最高裁昭和四三年一二
月二五日判決参照)。そして、この見解は、労働者の労働条件の集合的処理、特に
統一的且つ画一的決定の必要上、使用者と労働者との間の労働条件は使用者の定め
る就業規則によるという事実たる慣習が成立していることを前提に就業規則の法的
規範性を認めようとするものと解される。
 しかし、労働条件の集合的処理の要請も、使用者と労働者間での就業規則の定め
と異なる個別的な労働条件についての契約(特約)の締結を否定するものではない
(労働基準法九三条参照)から、労働条件について当事者間に就業規則の定めと異
なる労働者に有利な特約が存し、しかも、その特約によつて、少なくとも当該の労
働条件については就業規則によらないことの意思が窺知される場合には、当然、前
記の見解は、その前提を欠くものとして妥当しないこととなろう。
 これを本件について見るに、申請人らと被申請人との間に締結された身分保証な
らびに給与に関する契約は、前示のとおり、就業規則の定める定年制についての申
請人らに有利な特約であつて、すでに認定した事実と疎明によれば、右特約のうち
少なくとも定年制に関する限り、就業規則によらないとの意思を認めることは容易
である。
 もつとも、前示公正証書には、申請人らを昭和四三年四月より五年間は「昭和四
二年四月一日施行大学教員の停年制取扱要領第一条ただし書に該当するものとす
る」との規定(第二条)が存し、一見、特約締結後も、申請人らが被申請人の制
定、変更する就業規則により律せられることを認めたかのごとくである。しかしこ
れは、申請人らに定年制の規定を五年間適用しないことを公正証書中で明らかにす
るため、当時たまたま同要領一条ただし書で、要領の適用が除外される者を定めて
いたところから、便宜これを借用することとしたにすぎず、それ以上に五年内とい
えども、定年に関する就業規則ないし取扱要領が変更された場合は、右変更された
規則、条項によることを認めたものでないことは、前認定の事実および疎明によつ
て明らがである。したがつて、公正証書中、第二条の規定の存在は前示の判断を何
等左右するものではない。
 とすると、前記の見解は、本件については、その前提を欠き妥当しないものとい
うべきである。
(4) また、申請人らが「大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」の制定
に際し、これに反対の意思表示をしたり、異議をのべたとの事実を認めるに足る疎
明はないが、被申請人との間に前示のごとき特約の存する以上、そのことから直ち
に、申請人らがその特約を変更して、以後定年については右規則の定めによること
を承認したものと推認することはできない。
(5) とすれば、「大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」の当該規則条
項が合理的なものであるか否か等の点について判断するまでもなく、申請人らが右
取扱規則に基き労働契約上の地位を喪失するいわれはないことに帰するから、申請
人らは依然として被申請人学校法人中村産業学園九州産業大学の教授としての身分
を保有するものというべきである。
三、次に、仮処分の必要性について判断する。
(1) 前示のごとく、申請人らは依然として九州産業大学の教授としての地位を
引続き保有しているにもかかわらず、退職したものと取扱われることは、申請人ら
に対して、それ自体甚大なる有形無形の不利益ないし苦痛を与えるものであるか
ら、申請人ら両名につき、その地位保全の必要性の存することは明白である。
(2) さらに、賃金仮払の点について考えるに、申請人らはいずれも九州産業大
学の教授として、被申請人に対し、所定の賃金の支払を受ける権利を有するとこ
ろ、疎明によれば、申請人らが定年退職者としての取扱いを受けるに至つた当時、
申請人らに毎月二一日に支給されていた給与の額は、申請人Aが金一〇六、一九〇
円、また申請人Bが金一二〇、三〇〇円であり、申請人らが昭和四五年度に支給を
受けた手当のうち、七月に支給を受けた夏季手当の額は両名とも金一四三、九〇〇
円であり、また一二月に支給を受けた年末手当の額は、申請人Bが金二五七、〇〇
〇円、申請人Aがこれをやゝ下廻つていたことが認められる。したがつて、申請人
らが退職者として取扱われなければ、支払を受くべかりし給与および右各手当の額
は、右とほゞ同額のものと推認される。
 ところで、疎明によれば、申請人Aは妻と二人の生活で、その生計を維持してゆ
くためには少なくとも毎月金八〇、〇〇〇円が必要であるが、現在収入として、年
額五五一、一七六円(月額約四六、〇〇〇円)の退職年金を得ているほか、とりた
てて挙げるほどの資産もないことが認められるので、同申請人の求める賃金仮払の
仮処分は、毎月右の一月の生活維持費と年金の月額との差額たる金三四、〇〇〇円
の限度において必要性があり、右金額を超える部分についてはその必要性を欠くも
のと認める。
 また、疎明によれば、申請人Bは自宅で妻と二人の生活を営むもので、現在収入
としては年額六四〇、八六二円の共済組合年金を得ているに過ぎないが、ほかに約
三〇〇万円の貯金を有していることが認められるから、同申請人については、現在
のところ賃金の仮払を命ずる緊急の必要性はないものと認める。
四、よつて申請人らの本件申請は、右の限度において理由があるから、保証を立て
させないでこれを認容し、その余はこれを却下することとし、申請費用の負担につ
き民事訴訟法九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 鍬守正一 油田弘佑 前川豪志)
別紙(一)
申請の趣旨
一、申請人らが被申請人に対し、労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。
二、被申請人は、申請人Aに対し、昭和四六年四月一日以降昭和四八年三月末日ま

(一) 金一〇六、一九〇円を毎月二一日限り
(二) 金一四三、九二〇円を毎年七月末日限り
(三) 金二五七、〇〇〇円を毎年一二月末日限り
支払え
三、被申請人は、申請人Bに対し、昭和四六年四月一日以降昭和四八年三月末日ま

(一) 金一二〇、三〇〇円を毎月二一日限り
(二) 金一四三、九二〇円を毎年七月末日限り
(三) 金二五七、〇〇〇円を毎年一二月末日限り
支払え
四、申請費用は被申請人の負担とする
との裁判を求める。
申請の趣旨に対する答弁
一、申請人らの申請を却下する
二、申請費用は申請人らの負担とする
との裁判を求める。
申請の理由
一、被申請人は、九州産業大学、九州英数学館等を経営する学校法人である。
 申請人Aは、昭和三七年四月一日被申請人が経営する九州商科大学(昭和三八年
四月に九州産業大学と改称)の教授として勤務、以来商学部長、図書館長、産業経
営研究所長等を歴任してきたものである。
 申請人Bは、昭和三八年四月被申請人が経営する九州産業大学の教授として勤務
し、以来商学部長、産業経営研究所長等を歴任してきたものである。
二、被申請人は、申請人らに対し、昭和四六年三月三一日付をもつて就業規則第三
七条にもとづく大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則三条および付則二によ
り定年退職としての取扱いをなした。就業規則等の各条項は別紙(二)記載のとお
りである。
三、しかし、右取扱いは次の理由により無効である。
(一) 前記、「大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」三条および付則二
の各条項は、申請人らの労働契約を一方的に不利益に変更したもので、申請人らと
の関係では無効である。
(1) すなわち、被申請人学校法人中村産業学園の就業規則(昭和三八年四月一
日施行)第三七条は大学の教授は六四才を定年とし、定年後は毎年学園長の許可を
得て引続き勤務できると規定し、「大学教員の停年制の取扱要領」(昭和四二年四
月一日施行)において細部取扱いを規定している。
(2) ところで、申請人らは昭和四二年八月当時六九才であつたので、右就業規
則および取扱要領にしたがえば、定年制の適用を受け、毎年学園長の許可を得て引
き続き勤務できる地位にあつたが、申請人Aは同月二三日、申請人Bは同月五日、
被申請人学校法人中村産業学園との間に、昭和四三年四月より五年間は教授として
の身分保証をする旨の契約を締結し、その旨の公正証言を作成した。これにより申
請人らは昭和四八年三月まで教授として引き続き勤務できる権利を取得した。
(3) ところが、被申請人は昭和四五年一一月四日、右取扱要領の改正として
「大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」を制定し、同年一一月一九日より
実施した。右規則によると、教授は満六六才をもつて定年とし、定年後の継続任用
については満七〇才を超えて継続任用を更新できず、すでに定年に達している者は
昭和四六年三月末日をもつて退職するようになつている。
 右規則によると、申請人らは既に七〇才を超えているので当時退職せねばなら
ず、右規則は申請人らが被申請人に対して有する昭和四八年三月まで教授として継
続勤務できる地位を不利益に変更するものである。
(4) ところで、契約の内容は当事者の合意によつて決定されるべきものであ
り、かくして決定された契約の内容は、当事者において、相手方の同意なくして一
方的にこれを変更することができないのが契約法上の大原則であり、このことは、
労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものとされている労働条件を定め
る労働契約についても妥当する。
 そして、就業規則によつても労働契約の内容を労働者の同意なく一方的に変更す
ることができないのは就業規則の社会的規範としての性格上当然である。したがつ
て、取扱規則は申請人らの既存の労働契約の内容を申請人らに不利益に変更するも
のであり、且つ申請人らの同意がないので許されず、右規則は申請人らとの関係で
は無効である。
(5) 仮りに、就業規則に法的規範性を認める最高裁判所の立場に立つても新た
な就業規則の作成、変更によつて既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を
一方的に課することは原則として許されず、当該規則条項が合理的なものであると
きに限り例外的に許されるにすぎない(最高判昭和四三年一二月二五日秋北バス事
件)。そして本件規則は公正証書による個別契約の内容を申請人らに一方的に不利
益に変更するものであり、且つその定年に関する定めも定年に達したときに自動的
に退職するいわゆる「定年退職」制を定めたものである等、全く不合理なものであ
り、申請人らに対しては効力を有しない。
(二) 右規則の適用による定年退職は公序良俗に反し且つ権利の濫用であるから
無効である。
 申請人らは昭和四二年四月頃、当時新設を計画されていた東亜学園大学の発起人
より同大学設立準備委員会に参画するよう懇請され、申請人Aは商学部長、申請人
Bはそれに準ずる処遇をされるよう提案された。申請人らは、九州産業大学での身
分も昭和四三年三月で退職となる状況だつたので、東亜学園大学の要請に応える方
向で検討していた。その頃、申請人らは被申請人学校法人中村産業学園理事長Cか
ら新学部(経営学部)設置準備委員会を通じて「申請経営学部の文部省認可の有無
にかかわらず、昭和四三年度から五年間は定年制の拘束を受けることなく教授たる
身分を保障することを公正証書で確約するから転出を思いとどまり、九州産業大学
での学部設置に協力して欲しい」旨の懇請を受け、これを承諾し、前記公正証書が
作成されたものである。そして申請人らの協力の結果、新設経営学部は認可され
た。
 このように前記公正証書による契約が被申請人の懇請により締結されたこと、被
申請人は右契約により経営学部新設認可を得たこと等を考慮するとき、被申請人が
申請人らの労働条件を不利益に変更する規則を制定し申請人らを退職させることが
できるとすることは、申請人らに対する詐欺的、背信的な行為を是認することにな
り、公序良俗に反し、且つ権利の濫用として無効である。
四、以上のように本件定年退職は無効であるので、申請人らは依然として被申請人
学校法人中村産業学園九州産業大学の教授たる地位を有している。
 申請人らは定年退職として取扱われる以前、申請人Aは毎月給与として金一〇
六、一九〇円(本給金一〇二、八〇〇円、家族手当金一、五〇〇円、交通費金一、
八九〇円)、七月には夏期手当金一四三、九二〇円、一二月には年末手当金二五
七、〇〇〇円の支払を受け、申請人Bは、毎月給与として金一二〇、三〇〇円(本
給金一〇二、八〇〇円、家族手当金一、五〇〇円、役職手当金一六、〇〇〇円)、
七月に夏期手当金一四三、九二〇円、一二月に年末手当金二五七、〇〇〇円の支払
をうけていた。
 しかし、被申請人は、昭和四六年三月三一日以後、申請人らに対し、右給与等の
支払をしない。
 ところで、被申請人の給与規定によると給与は毎月一日から月末締切で当月分を
当月二一日に支払うことになつており、賞与については、夏期手当を七月に、年末
手当を一二月に支払うようになつている。
 そこで申請人Aは被申請人に対し昭和四六年四月一日以降昭和四八年三月末日ま
で給与として毎月二一日限り金一〇六、一九〇円を、夏期手当金として毎年七月に
金一四三、九二〇円、年末手当金として毎年一二月に金二五七、〇〇〇円を請求す
る権利を有しており、申請人Bは被申請人に対し、昭和四六年四月一日以降昭和四
八年三月末日まで、給与として毎月二一日に金一二〇、三〇〇円を、夏期手当金と
して毎年七月に金一四三、九二〇円を、年末手当金として毎年一二月に金二五七、
〇〇〇円を請求する権利を有している。
 申請人らは被申請人から支給される賃金のみにより生活を維持しているものであ
る。
 申請人らは現在、被申請人を被告として定年退職無効確認、賃金支払請求の本案
訴訟を提起すべく準備中であるが、本案判決の確定をまつていては、申請人らの生
活は破壊される。
 よつて本申請におよぶ次第である。
申請の理由に対する答弁
(一) 申請の理由一の事実は認める。
(二) 同二のうち、被申請人が昭和四六年三月三一日付をもつて申請人らに対
し、定年退職としての取扱いをなすに至つたことは認めるが、その余の事実は否認
する。
 すなわち、被申請人は昭和四五年一一月一九日付施行の「大学教員(専任講師以
上)の定年制取扱規則」の規定するところにより、申請人らに対し、同年四月一日
付をもつて、定年退職としての取扱いをなし、同年四月一日付をもつて客員教授と
して任用することを発令したものである。同規則第三条の適用をしたものではな
い。
(三) 同三の冒頭の主張は否認する。
(1) 同三の(一)の(1)のうち、昭和三八年四月一日施行の就業規則のある
こと、昭和四二年四月一日施行の「大学教員の停年制取扱要領」のあることは認め
る。しかし、同就業規則三七条但書は、学園の都合により、定年後の者に引続き勤
務を許可することがあるに止まり、定年後の者が毎年学園長の許可を得て引続き勤
務できる旨の規定ではない。
(2) 同三の(一)の(2)のうち、申請人らが、昭和四二年八月当時六九才で
あつたこと、申請人Aが同月二三日、同Bが同月五日それぞれ公正証書を作成した
ことは認めるが、その余の事実はすべて争う。
(3) 同三の(一)の(3)の前段は認めるが後段は争う。
(4) 同三の(一)の(4)については争う。
(5) 申請人ら援用の最高裁判所(昭和四三年一二月二五日大法廷判決)の判決
要旨二には、「使用者があらたな就業規則の作成または変更によつて労働者の既得
の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許さ
れないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これ
に同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきであ
る。」と判示し、同三においても「右改正にかかる規則条項において被解雇者に対
する再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによつて生ずる苛酷な
結果を緩和する途が講ぜられている等判示の事情があるときは、右改正条項は、同
条項の改正後ただちにその適用によつて解雇されることになる被用者に対しても、
その同意の有無にかかわらず、効力を有するものと解すべきである。」と判示して
いる。したがつて本件の場合、申請人らの主張のように、右最高裁判所の判示か
ら、ただちに無効との結論を導き出すことはできない。
(6) 同三の(二)のうち申請人ら主張の経営学部設置の経緯およびこれを契機
に前記公正証書が作成されたことは認めるが、その余の事実はすべて争う。
(四) 同四のうち申請人らが毎月支給を受けてきた給与の額は概ね認めるが、そ
の余の事実は争う。ことに申請人Aの夏季および年末各手当金の額は多額に過ぎ
る。
(五) 本件仮処分申請には緊急性、必要性は全くない。
(1) 申請人Aは、長崎商業高等学校教授二五年間、山口大学経済学部教授一三
年間と教員歴は実に三八年間の長期にわたつており、また、申請人Bは、大正一〇
年四月陸軍経理学校卒業以来終戦にいたるまで陸軍経理将校としての経歴をもち、
終戦時、陸軍高級将校の地位にあり、さらに昭和二八年四月北九州大学商学部教授
(会計学)として任用され、一〇年間の教員歴をもつている。これらの経歴からす
れば、申請人らは、ともに恩給受給資格を十分充足し、現在すでに、それぞれ多額
の恩給の支給をうけているのであるから、被申請人から支給される賃金のみにより
生活を維持しているものであるとの主張は事実に反する。なお、申請人らの給料明
細書から推定すれば、申請人Aは年間概算金五四四、〇〇〇円の、また申請人Bは
年間概算金五五〇、〇〇〇円の給与以外の収入を得ているものと思われ、本年度に
おいても申請人らには、被申請人より支給される賃金以外の所得のあることは明ら
かである。
(2) また、申請人らには、昭和四六年三月三一日付定年退職の発令をするとと
もに、被申請人は申請人らを昭和四六年四月以降客員教授として任用する旨の辞令
を交付しているが、申請人らに対しては、本給一〇二、八〇〇円を客員教授として
支給することになつており、申請人らもそのことを知つている筈である。そうすれ
ば、申請人らは、被申請人より同年三月三一日をもつてその身分を剥脱され、ただ
ちにその生活を脅かされる事態にあるということはできない。したがつて、申請人
らのいうごとく本案判決の確定をまつていては申請人らの生活が破壊される状態に
あるとは言えない。
被申請人の主張
「大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」は以下のような経緯と手続とを経
て成立したもので、しかも、定年退職者に対する再雇用(客員教授制)の特則が設
けられ、一律適用によつて生ずる苛酷な結果を緩和する途も講ぜられているのであ
るから、右の改正条項は合理的なものというべく、しかして、同条項の改正後、そ
の適用によつて解雇さるべき申請人らに対しても、同意の有無にかかわらず、その
効力を有するものというべきである。
(一) 被申請人において「大学教員の停年制の取扱要領」(昭和四二年四月一日
施行)を変更せざるを得なかつた理由
(1) わが国大学教員の八〇%を占める私立大学にあつては、諸般の状況により
教員の質とその量が国公立大学に比べ劣るところ大きく、この向上を図ることが私
学当面の緊急課題になつている。ところが大学教授の年令構成は、私立大学におい
ては六〇才以上二〇%であつて、国公立大学に比べ教授の新陳代謝は遅れ、その考
朽化が目立つている。これをさらに被申請人の設置する九州産業大学についてみる
と六〇才以上の専任教授は、商学部七三%、経営学部六〇%、工学部九四%、芸術
学部二五%、教養部六九%という実に驚くべき老朽化を示している。これら多数の
老朽教員をもつてしては、九州産業大学における教育研究の向上を望むことは到底
覚束ない。学内において教員の若返りを望む声が盛んであつたこともまた首肯しう
るところである。
(2) このように、教授の老朽化をきたした主たる原因は、「大学教員の停定制
の取扱要領」(昭和四二年四月一日施行)が規定されたにもかかわらず、この適用
が的確に実施されていなかつたところにあるものと認められ、また反面、国公立大
学における教員定年年令が六〇才ないし六五才である現状よりみれば、この取扱要
領において、大学教員の定年を満六四才としたこと自体に問題があると思われたの
で、六四才の定年を再検討するとともに定年制を的確に実施することとしたのであ
る。しかして、右取扱要領付則(2)「本要領は教育事情の変動に伴い改変するこ
とがあるものとする。」との規定に基づき、右取扱要領の改正方針を被申請人学校
法人定例理事会において審議した結果、昭和四五年一月八日同理事会において、
(イ)この規定の運用実施については、新学期になつて委員会を組織して検討する
こと。(ロ)運用面で困難な点があるということで規程改正の必要があれば考慮す
ること。(ハ)この規定の実施期日もそのときに検討すること。という基本方針が
確認された。
(二) 「大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」は大学より選出された委
員と被申請人学校法人委員との間で慎重協議されたのち、大学よりの意見を聴収す
るとともに、これをひろく大学内全般に周知徹底せしめたうえ、労働基準法所定の
手続を完全に履践、制定施行されたものである。
 特に申請人AおよびBは、ともに商学部教授会の構成員であり、且つ申請人Bは
協議会の構成員でもあつたので、大学側が前記意見を提出するについては、それに
参画し、検討を加えていることは明らかである。また申請人らは、被申請人学校法
人より大学に対して行つた意見聴収および大学側の意見提出にあたつても、被申請
人学校法人に対しなんら反対の意思表示もなく、異議を止めた事実もない。しかも
前記被申請人学校法人委員が大学側委員に提示した「大学教員(専任講師以上)の
定年制取扱の規則改正案」と、これに対し大学より提出された意見については、被
申請人学校法人は広報室より発行する九州産大時報(昭和四五年一一月一日発行第
三号)に、その対比表を記事として掲載、大学内教職員全員に配布、その周知徹底
かたを図つた。申請人A、同B両名も、この九州産大時報第三号を読み充分知悉し
ていたのである。それにもかかわらず、申請人らからは被申請人学校法人に対し、
前記同様なんの異議申立もなく、またこれに反対する意思表示もなされてない。
(三) 私立大学関係にあつて定年の最上限を七〇才とすることは、現在通念的考
え方であるにもかかわらず「客員教授制度」をとるにいたつた経過
(1) 被申請人学校法人において、定年の線を七〇才とせざるを得なかつたの
は、前記のように定年制に関する大学側の終始変らなかつた交渉態度もさることな
がら、現在、私立大学において定年制を実施している大学にあつては、七〇才がそ
の許容し得る最上限であつて、それ以上の年令に及ぶところがないのが一般である
からである。もちろん、七〇才以上の者で、私立大学教員として勤務中のものもあ
るが、それは当該大学で定年制が規定せられてないか、それとも例外的処置を講ぜ
られた場合にしか過ぎない。また、文部省の行政指導の実際をみると、私立大学の
新設をはじめとし、学部学科の増設申請の審理にあたつては、その教員組織を審査
する場合七〇才以上の教員は、これを所定教員定数より除外している。この取扱
は、大学院教員についてもまた同じである。さらに、文部省が昭和四五年度より、
私立大学の振興を図る目的をもつて、ようやく実施に踏みきつた教員人件費の半額
国庫負担を含む経常費補助にあたつても、七〇才以上の教員は、その補助の対象外
としている。
 このことからすれば、定年の線を最上限七〇才に設定することは、文部省はじめ
全国各私立大学においては、すでに常識となつているのであるから、制度として
も、その社会通念に従い、定年七〇才制を採用せざるを得ないのである。
(2) 被申請人学校法人にあつては、昭和四五年一二月二日に定例理事会におい
て、「大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」を昭和四六年度以降実施する
場合、規則は規則として当然遵守すべきことは当然ながら、このためには、大学各
学部の運営に支障を来たすことのないようにとの配慮から、定年制規則に関する経
過措置案が審議され承認せられた。これによつて、定年を経過した教員について
も、今次限りの客員教授の取扱が決定された。しかして、この経過措置もまた「大
学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則」とともに、九州産大時報第四号に掲載
し、周知徹底をはかつたものである。
(3) 通例、私立大学における客員教授の取扱はこれを当地私立大学、西南学院
大学および福岡大学についてみると、毎月四〇、〇〇〇円ないし五〇、〇〇〇円程
度の固定給を支給し、講義回数に応じて非常勤講師給を加給する制度である。しか
し、被申請人学校法人が九州産業大学で認めた制度は、これと異なり、各人が昭和
四五年度受給した本給額全額を保障する優遇措置を講ずるものである。これに対
し、大学からは、超過勤務による手当の支給、研究図書費の支給および私学共済組
合員としての資格継続などの要請があつたので、この要請をも全面的に認めること
として、客員教授の制度は、被申請人学校法人側と大学側双方の完全なる意見の一
致をみたうえで成立したものである。 以上
別紙(二)
一、就業規則
第三七条
 本学園に勤務する大学の教授、助教授、講師は満六四才、英数学館の教員、講師
は満六〇才。その他は満五八才となつたときこれを停年とする。
 但し、学園の都合により引続き勤務を許可することがある。
 この場合、停年後の勤務者は毎年学園長の許可を得なければならない。
二、大学教員の停年制の取扱要領(昭和四二年四月一日施行)
(前文)
 大学の講師以上の教員についての停年は就業規則第三七条に基づき六四才と定め
てあるが、この停年を経過したものの取扱いについては就業規則第三七条後段、但
書に基づき一年毎学園長が継続勤務を許可する、と定めるのみであつたので、今回
その細部取扱いにつき、本要領を制定施行するものである。
第一条 大学の講師以上の教員にして停年(六四才)を経過したものの取扱につい
ては原則として、この要領に従うものとする。
 ただし、役職者及び大学院教授資格者等については、その限りでない。
三、大学教員(専任講師以上)の定年制取扱規則
(前文)
 大学の講師以上の教員についての定年制については就業規則第三七条に規定する
ほか、昭和四二年四月一日施行の「大学教員の定年制の取扱要領」があるが、その
取扱につき今回次のとおり改正施行するものである。
第一条(定年)
 本学園に勤務する大学の専任講師以上の教員の定年は次のとおりとする。但し学
長についてはこの限りでない。
(2) 教授については満六六才
第三条 (定年後の継続任用)
 大学の専任教授にして満六六才に達した者、及び大学院教員資格相当者にして満
七〇才に達した者について、特に理事長がその研究業績、識見がすぐれ、健康能力
ともに、今後の研究の指導、教育に耐え得る者として認めた場合には、次項に基づ
き継続して任用することを許可することができる。
(2) 前項により継続任用を許可する場合の任用期間は前者にあつては二ケ年
間、後者にあつては一ケ年間とし、それぞれ二ケ年間、または一ケ年間を経過した
後、なおかつ健康能力ともに研究・教育に耐えうると認められた者については、前
者にあつては一回二ケ年間に限り、後者にあつては二回各一ケ年間づつに限り継続
任用を更新許可するものとする。
 但し、前者にあつては満七〇才を、後者にあつては満七三才を超えて継続任用を
更新することはできない。
(付則)
二、この規則の定むるところにより、すでに定年に達している者は原則として昭和
四六年三月末日をもつて退職する。
以上

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