弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。
     右の部分につき被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め
た。
 当事者双方の事実上ならびに法律上の陳述および証拠の関係は、控訴代理人が乙
第一〇号証を提出し、当審における控訴人Aの本人尋問の結果を援用し、被控訴代
理人が右乙号証の成立を認める、と述べたほかは原判決の事実摘示のとおりである
から、ここにこれを引用する。
         理    由
 一、 原判決事実摘示中の請求原因一および二の事実ならびに前件訴訟における
主たる争点が同四のなかに記載されているとおりであつたこと、はいずれも当事者
間に争がない。
 <要旨>二、 ところで、不当に訴を提起されてやむをえず弁護士に委任して応訴
した被告は、その訴が不法行為の要件を具備しているときは弁護士に支払つ
た相当額の報酬につき民法の不法行為の規定に従つてその賠償を請求することがで
きるが、訴が不法行為の要件を具備しているというためには、それが目的その他諸
般の事情からみて著しく反社会的、反倫理的なものと評価され、公の秩序善良の風
俗に反していると認められる場合、すなわち訴がそれ自体として違法性を帯びてい
る場合でなければならないと解すべきである。単に訴訟の結果訴訟物たる権利がな
かつたのに、これあるものとして訴を提起したというだけで、この要件を具備した
というには十分でなく、権利がないことを知りながら被告を害するため、又はその
他紛争の解決以外の目的のため、あえて訴の手段に出たという場合か、権利の存否
について深く調査もせず、訴訟という手段に出る際の原告の態度としては誰が見て
も軽率に過ぎ、世間の常識上著しく非難されるに値する程の重大な過失によつて権
利のないことを知らずに訴を提起したというような場合でなければならない。訴訟
は一定の権利ないしは法律関係の存否に関して紛争が生じた際に、これを解決する
手段として設けられた公の制度であるから、そこに真の紛争と見うるものがある限
り、たとえ訴訟の結果は原告の敗訴に帰したとしても、ただちにこれを責むべき理
由ありとはいえないのである。
 そこで、控訴人の提起した前件訴訟についてこれをみると、被控訴人はまず、控
訴人がBから被控訴人への前件訴訟における係争地(以下本件土地という)の賃貸
人の地位の承継につき合意の成立がなかつたこと、したがつてまた控訴人はその賃
借権を被控訴人に対抗しえないこと、を知りながら前件訴訟を提起したというが、
控訴人が前件訴訟を提起するについて右の点を知つていたことについてはこれを認
めるに足る何らの証拠もない。
 そして控訴人が前件訴訟を提起するに至つた経緯をみると、いずれも成立に争い
のない甲第一〇号証の二、甲第一九号証の二、甲第三九号証の二、甲第五五号証の
二(乙第八号証の二)、甲第八三号証(乙第九号証の二)の各記載内容、成立に争
のない甲第三号証の八および九、甲第九〇号証、乙第一ないし第四号証、乙第一〇
号証、原審証人Cの証言原審における被控訴本人尋問の結果、原審ならびに当審に
おける控訴本人尋問の結果(甲第五五号証の二の記載内容および原審証人Cの証言
については、いずれもその一部)を綜合して考えると、次の各事実が認められる。
 1. 控訴人は昭年三年六月頃Bから本件土地を建物所有の目的で賃借し、そこ
に階下二六坪余、二階二二坪余の住宅を建てて居住し、隣地に病院を建てて医院を
経営していたが、右住宅は昭和二〇年四月強制疎開のため除却され、また右土地は
同年九月米国進駐軍のため接収され、昭和三〇年九月接収解除となつたこと、2.
 被控訴人が右土地を買受けた昭和一九年二月頃、Bの父のDは同人と同年輩の男
を伴つて控訴人方を訪れ、「今度この人に土地を譲渡したから、今後はこの人に地
代を支払つて貫いたい」という趣旨の申入をしたので、控訴人は、その男が被控訴
人の夫であるか又はその代理の者で、被控訴人は土地賃貸人としての地位の承継に
ついても異議なくこれを諒承し、引続いて控訴人に賃貸してくれるものと信じて何
らの疑ももたず、またその後被控訴人から土地の明渡を求められたこともなかつた
こと、3. 控訴人はこれよりさきの昭和一八年頃空襲の激化に伴い藤沢市鵠沼に
居を移して病院に通い、本件土地の地代はB所有の当時は毎月Bが控訴人方の病院
に取立てに赴いていたので、控訴人は病院の事務の者に支払をさせており、被控訴
人の所有となつた後も右のような申入れのあつた経緯よりして同じよらにして地代
の支払がされているものと信じていたこと、4. 被控訴人は本件土地の買受およ
びその後の管理については夫のCおよび差配のEに一任していたが、右買受に際し
ては被控訴人もCも控訴人が本件土地をBから賃借し住宅を建てて使用しているこ
とを熟知しており、Bから右賃貸借の契約書の引継もうけたこと、5. 控訴人は
接収が解除され次第本件土地に建物を建て医院の経営を続けたいと計画し、昭和二
三年九月には内容証明郵便で被控訴人に対し本件土地を引続いて賃借すべき旨の申
入をしておいたが、被控訴人が昭和二七年頃本件土地を他に譲渡し又は他人に賃貸
しようとしたことから、控訴人との間に賃借権の存否について紛争を生ずるに至つ
たこと、6. 前件訴訟の第一審においては前記争点について控訴人の主張事実が
認められて賃借権確認の請求が認容され、これを本案とする仮処分異議事件(横浜
地方裁判所昭和二八年(モ)第九〇七号、東京高等裁判所昭和二九年(ネ)第一八
七二号)も第一、二審とも同一の争点につき控訴人の主張事実が認められて控訴人
が勝訴していること。
 甲第五五号証の二の記載内容および原審証人Cの証言中右認定に反する部分は採
用しない。
 被控訴人は、控訴人が被控訴人に対し本件土地の地代の支払をしたことがなく、
またその領収証もなくして賃借権ありと信ずるわけがないと主張するが、前に掲げ
た甲第一〇号証の二、甲第三九号証の二の各記載内容および原審ならびに当審にお
ける控訴人の本人尋問の結果によると、控訴人の言い分としては、「被控訴人が本
件土地を買受けた後は、右買受の頃Dと同道して新地主と称して来訪した前記の男
が地代を取りに来たので、同人に支払つた、領収書も受取つたがその後病院が戦災
に遭つたときに焼失した」というのであつて、この供述を虚偽と断定すべき資料は
何もなく、また仮りに控訴人が被控訴人に対する地代の支払をした事実がなかつた
としても、この地代は被控訴人が本件土地を買受けた昭和一九年二月から、本件土
地の上に在つた控訴人所有の建物が強制疎開によつて除却された昭和二〇年四月ま
での極めて短期間のもので、控訴人はその間は前記認定のように病院の事務員が被
控訴人に対して地代の支払をしていると信じていたのであつて、当時は戦争の激化
に伴つて日常生活がきわめて混乱していた時であることを考え併せると、控訴人が
そのように誤信したことを深くとがめることはできない。
 被控訴人は更に、控訴人は本件地上の建物には登記がないことを知つていたか
ら、その借地権を被控訴人に対抗しえないことを知らなかつたことにつき過失があ
る、というが、右建物にはその登記がなかつたからこそ前件訴訟において賃貸人の
地位の承継についての合意の成否が問題となつたわけであつて、控訴人が右訴訟に
おいて登記ある地上建物の存在による借地権の対抗力を主張したのでないことは、
被控訴人の主張自体からして明かなところであるから、この点は前件訴訟提起の当
否を判断するについて全く関係のない事項である。
 控訴人が前件訴訟を提起するに至つた経緯が以上のとおりであるとすれば、この
訴の提起については相応の理由があつたというべきで、これを目して前記のような
趣旨において違法と判断すべき何らの事由をも見出すことができないのである。し
たがつて右訴の提起は不法行為に該当しないものといわなければならない。
 三、 よつて被控訴人の本訴請求は失当であるから、原判決中被控訴人勝訴の部
分を取消し、右請求を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八
九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 小川善吉 裁判官 松永信和 裁判官 川口冨男)

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