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平成25年11月13日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ワ)第22013号商品形態模倣行為差止等請求事件
平成24年(ワ)第36288号承継参加申立事件
口頭弁論終結日平成25年8月23日
判決
大阪市<以下略>
原告プロエフこと
X1
大阪市<以下略>
原告プロエフこと
X2
東京都渋谷区<以下略>
原告株式会社Cryltd.
大阪市<以下略>
承継参加人proefdesigns合同会社
上記4名訴訟代理人弁護士飯田圭
同外村玲子
同訴訟代理人弁理士加藤ちあき
同上杉浩
同訴訟復代理人弁護士佐竹勝一
大阪市<以下略>
被告株式会社チユチユアンナ
同訴訟代理人弁護士平野惠稔
同吉村幸祐
同荒木昭子
主文
1原告ら及び承継参加人の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告ら及び承継参加人の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1原告らの請求
(1)被告は,別紙被告商品目録記載の商品を譲渡し,譲渡のために展示して
はならない。
(2)被告は,前項記載の商品を廃棄せよ。
(3)被告は,原告X1に対し,金654万5750円及びこれに対する平成
24年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被告は,原告X2に対し,金654万5750円及びこれに対する平成
24年9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)被告は,原告株式会社Cryltd.に対し,金673万6200円
及びこれに対する平成24年9月4日から支払済みまで年5分の割合による
金員を支払え。
(6)被告は,別紙広告目録記載第1の広告を,同目録記載第2の要領で,掲
載せよ。
2承継参加人の請求
(1)被告は,別紙被告商品目録記載の商品を譲渡し,譲渡のために展示して
はならない。
(2)被告は,前項記載の商品を廃棄せよ。
第2事案の概要
以下,原告X1を「原告X1」,原告X2を「原告X2」,原告株式会社C
ryltd.を「原告クライ」という。また,原告X1及び原告X2を併せ
て「プロエフ」という場合がある。
本件は,原告らが,被告に対し,被告が別紙原告商品目録記載の商品(以下
「原告商品」という。)の形態を模倣した別紙被告商品目録記載の商品(以下
「被告商品」という。)を販売しているなどと主張して,①不正競争防止法3
条1項に基づく差止請求として被告商品の譲渡等の禁止,②同条2項に基づく
廃棄請求として被告製品の廃棄,③同法4条に基づく損害賠償請求として,㋐
原告X1及び原告X2につき各654万5750円,㋑原告クライにつき67
3万6200円(いずれも附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成24
年9月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支
払,④同法14条に基づく信用回復の措置請求として訂正広告を求めた事案で
ある(参加人は,同法2条1項3号の請求主体の地位を原告X1及び原告X2
から承継したなどと主張して,上記①と同様の請求をしている。)。
1前提事実(証拠等を掲記した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告X1及び原告X2
原告X1と原告X2は,「proef」(プロエフ)というブランド名
を使用して,平成23年10月以降,主としてプリントストッキングの企
画,販売をしていた者である(後記オのとおり,現在は,参加承継人が
「proef」に係る事業を承継している。)。
(甲1,3,弁論の全趣旨)
イ原告クライ
原告クライは,アパレル製品,紳士服,婦人服,日用雑貨品のデザイン,
企画,製造,販売等を業とする株式会社である。
(弁論の全趣旨)
ウ被告
被告は,靴下,衣服等衣料用繊維製品の製造,販売等を業とする株式会
社である。
エ承継参加人
承継参加人は,アパレル製品,紳士服,婦人服,子供服のデザイン,企
画,製造等を業とする株式会社である。
(弁論の全趣旨)
オ承継参加人の事業承継
原告X1と原告X2は,平成24年8月1日,承継参加人に対し,原告
商品に関する著作権(著作権法27条及び28条に定める権利を含む。),
意匠登録を受ける権利を含む知的財産権,不正競争防止法,民法等法律上
生じる権利及び経済上の利益を享受する権利を含むがこれに限定されない
一切の権利(ただし,契約締結より前に上記の権利の侵害により原告X1
及び原告X2に生じた損害賠償請求権を除く。)を譲渡し,承継参加人は
これを譲り受けた。
承継参加人は,原告X1と原告X2から「proef」ブランドに係る
事業を承継した。
(以上につき甲79,弁論の全趣旨)
(2)原告商品の販売
原告らは,平成23年9月下旬から,原告商品(タトゥータイツ)を価格
2940円(税込価格)で販売している。
(弁論の全趣旨)
(3)被告商品の販売
被告は,遅くとも平成24年3月頃から,被告商品(タトゥータイツ)を
価格1470円(税込価格)で,被告の渋谷道玄坂店舗,池袋店舗,光が丘
店舗等において,販売のために展示し,販売している。
2争点
(1)原告らの請求主体性(争点1)
(2)原告商品の形態が不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商
品の形態」に当たるか(争点2)
(3)原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるか(争点3)
(4)被告商品の形態が原告商品の形態に依拠したものであるか(争点4)
(5)損害の有無及び額(争点5)
(6)訂正広告の必要性(争点6)
3争点に関する当事者の主張
(1)原告らの請求主体性(争点1)
(原告ら及び承継参加人の主張)
ア原告商品の商品化の経緯は,以下のとおりである。
(ア)原告商品の商品化に向けた話合いの開始
原告クライのW(以下「W」という。)は,平成23年7月13日,
原告X1に対し,ストッキングのコラボレーション商品を作る企画を提
案した(甲83)。これに対し,同月14日,原告X1がWに対しプロ
エフと原告クライのブランドのすり合わせを行う必要がある旨を述べる
など(甲84),原告クライと原告X1及び原告X2との間で原告商品
の商品化に向けた話合いが始まった。
(イ)原告商品の基本デザインの作成
Wは,平成23年7月19日,原告X1に対し,原告クライのブラン
ドのコンセプトを説明し(甲85),同月22日には,原告X2がWに
対し,コラボレーション商品のデザインについて薔薇の模様を入れるこ
とを提案し(甲86),これを受け,同年8月12日には,Wが原告X
2に対し,小さな星が流れているデザインの再提案を行い(甲87),
同月14日に原告X2が検討する旨を述べるなど(甲88),原告X1
及び原告X2と原告クライとの間において,具体的に商品化するストッ
キングのデザインの方向性について意見がやりとりされた。同月16日,
原告X2は,Wに対し,原告商品のデザインの原型となるデザインを含
む2つのデザイン案を提示したところ(甲89),Wは,甲89号証添
付の写真1のデザインに決定する旨を原告X2に伝え(甲90),その
結果,原告商品の基本デザインが決定した。
(ウ)サンプルの製作及び商品としてのストッキングの仕様の決定
基本デザインが決定した後,原告X1及び原告X2によってサンプル
の製作が開始され(甲91),ストッキングとしての耐久性の確保,色
落ちの有無の確認及びフィッティング感の調整等がされた後,平成23
年9月1日,原告X1及び原告X2から,原告クライに対し,最初のサ
ンプルの提案が行われ,引き続いて協議を行い,ストッキングとしての
フィッティング感を確認した結果,サンプルの内容でストッキングの仕
様が決定した。
(エ)パッケージデザインの作成
原告クライは,平成23年9月2日,原告X1及び原告X2から,原
告商品のパッケージのデザイン案の提案を受けた。原告クライにおいて,
当該デザイン案を検討した結果,同月11日にこれを了承し,原告商品
のパッケージデザインが決定した。
(オ)原告商品の生産開始及び納入
原告X1及び原告X2において,平成23年9月12日,双方で合意
した原告商品のストッキング及びパッケージのデザイン及び仕様に基づ
き,原告商品の生産を開始し,同月20日に,原告クライに対し,初め
て原告商品が納入された。
(カ)原告商品の宣伝及び広告
原告商品の宣伝及び広告については,衣服,ファッション雑貨等の製
造,販売等において培ってきたノウハウを生かせることから原告クライ
が行うこととし,実際に原告クライが原告商品の宣伝,広告を行ってき
た(甲92,93)。
(キ)原告商品の販売
原告X1及び原告X2と原告クライは,原告クライの店舗及びプロエ
フのウェブサイトで原告商品を販売することとし,まず平成23年9月
22日から,原告クライの表参道の店舗において,原告商品の販売を開
始した。程なくして,プロエフのウェブサイト上においても,原告商品
の販売が開始された。
また,原告商品の販売価格は,原告X1及び原告X2と原告クライと
が話し合った結果,原告クライの店舗及びプロエフのウェブサイトのい
ずれの場合においても同じ価格で販売されている。
イ以上のとおり,原告X1及び原告X2と原告クライは,共同して原告商
品の企画,開発,商品化を行ったものであり,原告クライと同様に,原告
X1及び原告X2についても原告商品の商品化のために資金,労力を投入
していたことは明らかである。
(被告の主張)
ア不正競争防止法2条1項3号の趣旨は,商品化のために資金・労力を投
下した者を当該商品の形態をデッドコピーするという不正な競争行為から
保護するものであるから,その請求主体は事業の利益及び損失が帰属する
主体であり,「商品化のために資金・労力を投下した者」に限定される。
そのため,当該形態のアイデアを出しただけの企画・発案者やデザイナー
は,請求主体とはなり得ない。
イ原告ら及び承継参加人の主張によれば,原告商品の仕様は平成23年9
月1日以降に原告X1及び原告X2が提案したサンプル(原告商品サンプ
ル)の内容で決定したことになる。
しかし,原告商品サンプルの形態の具体的な内容は何ら明らかにされて
おらず,原告商品サンプルと原告商品の形態の同一性があるか否か,主張
上も証拠上も明らかになっていない。
また,柄物のストッキングを開発するに当たっては,デザイン画やサン
プルを作成するに当たりストッキング工場に対し提示する資料を作成する
のが通常である。しかし,原告らは,原告商品と同一性の認められない極
めて粗いデザイン画を示すのみであり(甲89),存在するはずの資料等
を一切提出していない。加えて,原告商品の商品化に当たっては,模様の
詳細な配置(模様の具体的な大きさ・数及び配列)や,模様のプリント方
法,商品全体の形状,色彩,糸の種類及び編み方等を決定する必要がある。
しかし,原告らは,これらに関する事情を何ら明らかにしておらず,これ
らがいかなる経緯で決定されたのかが全く不明である。
したがって,原告X1は,原告商品の事業の利益及び損失が帰属する主
体とは認められず,「商品化のために資金・労力を投下した者」とも認め
られない。
ウ原告X2についても,原告X1と同様の理由において,原告商品の事業
の利益及び損失が帰属する主体とは認められず,「商品化のために資金・
労力を投下した者」であるとも認められない。
むしろ,原告商品の納品書(甲81)右上の箇所には「X1(ローマ字
表記)」とのみ記載されており,原告X2の存在を示す記載が存在しない
ことからすれば,当該記載は原告X2が原告商品の事業の利益及び損失が
帰属する主体ではないことや,「商品化のために資金・労力を投下した
者」ではないことが示されている。
エ原告クライは,原告商品の単なる転売者にすぎず,原告商品の「商品化
のために資金・労力を投下した者」とは到底認められない。
原告ら及び参加承継人の主張によれば,原告商品の仕様は平成23年9
月1日以降に原告X1及び原告X2が提案したサンプルの内容で決定して
いるが,この時点までの原告クライの関与は,①イメージ写真を提示する
などして,原告商品のデザインにかかるアイデアを提供したこと(甲87,
88),②原告商品と同一性の認められない粗いデザイン画2つのうち1
つを選択したこと(甲90),③出来上がったサンプルについてストッキ
ングとしてのフィッティング感を確認したことの3点に限定されており,
原告商品の商品化のために資金・労力を投下したとは到底いえない。むし
ろ,甲91号証の「サンプル製作代など,コストは余分にかかりますが,
今回の商品はproefとcryの共同制作ということで,販売店はcr
yと,proefのオンラインショップでの取り扱い限定商品にさせてい
ただければ通常価格と同額で問題ありません」との記載は,原告クライが
原告商品の商品化のために必要なサンプル製作にかかる費用すら負担して
いないことを示している。
さらに,原告商品は原告クライなどの取引先に対し販売されていたとの
ことであり,原告クライは原告商品の数ある購入者のうちの一取引先にす
ぎない。
したがって,原告クライは,原告商品の「商品化のために資金・労力を
投下した者」とは認められない。
オ以上のとおり,原告らのそれぞれが請求主体であることは明らかとなっ
ていない。
(2)原告商品の形態が不正競争防止法2条1項3号によって保護される「商
品の形態」に当たるか(争点2)
(原告ら及び承継参加人の主張)
ア原告商品の形態
原告商品の形態は,別紙原告商品目録記載写真(1)及び(2)(以下,順に
「原告商品写真1」「原告商品写真2」という。)で示されるとおりであ
る。なお,右脚又は左脚とは,すべて正面から見て右脚又は左脚を指すも
のとして主張する。
(ア)基本的構成
Aパンティストッキングに星柄がプリントされている。
B星柄の彩色は,不透明,黒色である。
C星柄の大きさの種類は,4種類ある。
D星柄の数は,多数である。
E星柄の配置は,左脚の膝上太腿部から下腿部脛部分まで縦方向の帯
状に配置されており,また,右脚の膝周辺部分から足首周辺部分まで
縦方向の帯状に配置されている。
(イ)具体的構成
c4種類の星柄の大きさ(一つの山部から対の谷部まで)は,各約
6mm(小),約8.5mm(中),約12.5mm(大),約1
8.5mm(特大)である。
d1右脚において19個の星柄がプリントされている。
d2左脚において19個の星柄がプリントされている。
e1(正面から見て)右脚における星柄の配置は,最上端部(膝周囲
部分)に3つの小さい星が縦に並び,その一番下の星の左斜下方に
やや大きめの星が配置され,脛から足首にわたり小さい星と大き目
の星が混在し,膝周辺と比較して密に配置されている。
e2(正面から見て)左脚における星柄の配置は,最上端部(膝周囲
部分)に小さい星と大き目の星が混在して配置され,脛から足首の
側面にわたり疎らになるように星柄が配置され,最下端部分には,
3つの小さい星が縦に並んで配置されている。
fウエスト巾は約21cm,股上は約21.6cm,股下は約46.
1cm,太もも巾は約9cmである。
g股部分にマチがある。
hつま先に生地を厚くする加工がされている。
iベースとなるストッキングの生地は透明感は低く光沢がない。
jストッキングの色は濃いベージュである。
イ原告商品の形態の特徴的部分
市場で流通する他社の多数のタトゥータイツのデザイン(甲2)から明
らかなとおり,星柄のデザインを採用するストッキングはそれほど多くな
い。さらに,星柄を採用するとしても,星柄の数,大きさ,配置や,星柄
と他のデザインとの組み合わせ等においてさまざまな選択が可能であると
ころ,星柄を採用している他社のストッキングにおいても,原告商品の形
態のうち,星柄のデザインの部分,具体的には,星柄の大きさを4種類と
し,左右の脚の星の数をそれぞれ19個程度とし,右脚における星柄の配
置は,最上端部(膝周囲部分)に3つの小さい星が縦に並び,その一番下
の星の左斜下方にやや大きめの星が配置され,脛から足首にわたり小さい
星と大き目の星が混在し,膝周辺と比較して密に配置されたものとし,左
脚における星柄の配置は,最上端部(膝周囲部分)に小さい星と大き目の
星が混在して配置され,脛から足首の側面にわたり疎らになるように星柄
が配置され,最下端部分には,3つの小さい星が縦に並んで配置されたも
のとしたデザインの部分(原告商品星柄デザイン部分)と同一のデザイン
を採用するものは存在しない(甲2写真2~5参照)。
以上のとおり,原告商品星柄デザイン部分は,従来の他社の商品にはな
く,他社商品と区別する原告商品の商品形態の特徴的部分である。
ウ被告の主張に対する反論
被告は,原告商品星柄デザイン部分に関連し,原告商品に類似する商品
として類似商品①~⑥(乙22~27)を挙げる。
しかしながら,類似商品①,③及び④については,そもそも,原告商品
とは星柄デザインの位置が異なる(原告商品は右脚と左脚の星柄の位置が
アシンメトリーであるのに対し,類似商品①,③及び④は右脚と左脚の星
柄の位置がシンメトリーである)ことから,これらの商品の存在によって,
原告商品星柄デザイン部分が原告商品の商品形態における特徴的部分であ
ることは否定されない。
また,類似商品②,⑤及び⑥がいつから販売されたものであるか不明で
はあるが,原告商品の販売が開始された平成23年9月よりも後に販売さ
れたものである可能性が極めて高く,これらの商品は原告商品のデッドコ
ピーである可能性が極めて高い。そこで,これらの商品の製造者又は販売
者に対して,原告商品のデッドコピーである旨の警告状を送付しており
(甲76,95~97),製造者・販売者は,不正競争防止法2条1項3
号該当又はそのおそれを認め,既に製造及び販売が中止されている(甲7
8,98,103~105)。したがって,これらの商品の存在によって
も,原告商品星柄デザイン部分が原告商品の商品形態における特徴的部分
であることは否定されない。
(被告の主張)
原告ら及び承継参加人の主張するように,抽象的に原告商品の形態を捉え
れば,かかるアイデアレベルの形態はありふれたものであり,不正競争防止
法2条1項3号の保護に値する「形態」とはいえない。
以下のとおり,抽象的に原告商品の形態を捉えれば,そのほぼ全ての特徴
が一致ないし類似している商品が市場には多数存在する。
類似商品

(乙22)
類似商品

(乙23)
類似商品

(乙24)
類似商品

(乙25)
類似商品

(乙26)
類似商品

(乙27)
①基本的構成
ストッキングに星柄がプリ
ントされている
一致一致一致一致一致一致
星柄の彩色は,不透明,黒
色である
一致一致一致一致一致一致
星柄の大きさの種類は4種
類である
一致一致一致一致一致一致
星柄の数は,多数である一致一致一致一致一致一致
星柄の配置は,左脚の膝上
太腿部から下腿部脛部分ま
で縦方向の帯状に配置され
ており,また,右脚の膝周
辺部分から足首周辺部分ま
で縦方向の帯状に配置され
ている
一致
ほぼ一致
(右脚と
左脚の柄
の配列を
逆転させ
れば一
致)
ほぼ一致ほぼ一致一致
ほぼ一致
(右脚と
左脚の柄
の配列を
逆転させ
れば一
致)
②具体的構成
4種類の星柄の大きさの概

一致一致一致一致一致一致
上記の表が端的に示しているとおり,流行の追求を本質とするファッショ
ン・アパレル業界においては,その追求の過程において激しく競争し,その
結果,抽象的なアイデアにおいて類似した商品が市場で多数流通することに
なる。むしろ,ファッション業界としての共通の利益として流行があり,
様々な商品が共通のアイデア・スタイルの下に,多数のブランドから一時期
一斉に流通することによってこそ流行が生まれ,流行が需要を喚起し,着用
する需要者への満足を与えるのである。様々な事業者が流行を追うことによ
って,業界が活性化され,それぞれの需要を「食い合う」のではなく,相互
にそれぞれの需要を活性化させるのである。このようなファッション・アパ
レル業界の競争の実態からすれば,抽象的な形態をして不正競争防止法2条
1項3号により保護されるとの主張は,あまりに非常識なものといわざるを
得ない。
(3)原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一であるか(争点3)
(原告ら及び承継参加人の主張)
ア被告商品の形態
被告商品の形態は,別紙被告商品目録記載写真(1)及び(2)(以下,順に
「被告商品写真(1)」「被告商品写真(2)」という。)で示されるとおりで
ある。なお,右脚又は左脚とは,すべて正面から見て右脚又は左脚を指す
ものとして主張する。
(ア)基本的構成
A’パンティストッキングに星柄がプリントされている。
B’星柄の彩色は,不透明,黒色である。
C’星柄の大きさの種類は,4種類ある。
D’星柄の数は,多数である。
E’星柄の配置は,左脚の膝上太腿部から下腿部脛部分まで縦方向の帯
状に配置されており,また,右脚の膝周辺部分から足首周辺部分まで
縦方向の帯状に配置されている。
(イ)具体的構成
c’4種類の星柄の大きさ(一つの山部から対の谷部まで)は,約6
mm,約8mm,約12mm,約15mmである。
d1’右脚において17個の星柄がプリントされている。
d2’左脚において19個の星柄がプリントされている。
e1’右脚における星柄の配置は,最上端部(膝周囲部分)に3つの小
さい星が縦に並び,その一番下の星の左斜下方にやや大きめの星が
配置され,脛から足首にわたり小さい星と大き目の星が混在し,膝
周辺と比較して密に配置されている。
e2’(正面から見て)左脚における星柄の配置は,最上端部(膝周囲
部分)に小さい星と大き目の星が混在して配置され,脛から足首の
側面にわたり疎らになるように星柄が配置され,最下端部分には,
3つの小さい星が縦に並んで配置されている。
f’ウエスト巾は約20cm,股上は約20cm,股下は約67cm,
太もも巾は約10cmである。
g’股部分にマチがない。
h’つま先の生地を厚くする加工がされていない。
i’ベースとなるストッキングの生地は透明感が高く光沢がある。
j’ストッキングの色は薄いベージュである。
イ原告商品及び被告商品の形態の対比
(ア)原告商品写真(1)と被告商品写真(1)との対比及び原告商品写真(2)
と被告商品写真(2)との対比から明らかなとおり,被告商品のデザイン
は原告商品のデザインと酷似している。被告商品においては,星柄の大
きさを4種類とし,左右の脚の星の数をそれぞれ19個程度(右脚が1
7個,左脚が19個)とし,右脚における星柄の配置は,最上端部(膝
周囲部分)に3つの小さい星が縦に並び,その一番下の星の左斜下方に
やや大きめの星が配置され,脛から足首にわたり小さい星と大き目の星
が混在し,膝周辺と比較して密に配置されたものとし,左脚における星
柄の配置は,最上端部(膝周囲部分)に小さい星と大き目の星が混在し
て配置され,脛から足首の側面にわたり疎らになるように星柄が配置さ
れ,最下端部分には,3つの小さい星が縦に並んで配置されたものとし
たデザインを採用しており,原告商品星柄デザイン部分と共通するデザ
インを採用している。被告商品は,原告商品の商品形態の特徴的部分で
ある原告商品星柄デザイン部分と共通するデザインを備えるものである。
言い換えれば,原告商品の形態と被告商品の形態は,①パンティスト
ッキングに星柄がプリントされている(A,A’),②星柄の彩色が不
透明,黒色である(B,B’),③星柄の大きさの種類が4種類ある
(C,C’),④星柄の数が多数である(D,D’),⑤星柄の配置が
左脚の膝上太腿部から下腿部脛部分まで縦方向の帯状に配置されており,
また,右脚の膝周辺部分から足首周辺部分まで縦方向の帯状に配置され
ている(E,E’),という基本的な構成において全て共通し,具体的
な構成においても,①4種類の星柄の大きさの概要(c,c’),②右
脚の星柄の数の概要(d1,d1’),③左脚の星柄の数(d2,d
2’),④右脚の星柄の配置の概要(e1,e1’),⑤左脚の星柄の
配置の概要(e2,e2’)が共通するものであるから,原告商品の商
品形態における特徴的部分である原告商品星柄デザイン部分と被告商品
のデザインが共通していることが明らかである。
(イ)一方,両者が相違している部分は,具体的な構成における,①4種
類の星柄の微細な大きさ(0.5mmないし3.5mm程度)(c,
c’),②右脚の星柄の若干の数(2個)(d1,d1’),③右脚の
星柄の若干の配置(e1,e1’),④左脚の星柄の若干の配置(e2,
e2’),⑤商品サイズ(f1,f1’),⑥マチの有無(g,g’),
⑦つま先加工の有無(h,h’),⑧ストッキングの光沢,質感,透け
感及び伸縮性の相違(i,i’)及び⑨ストッキングの色(j,j’)
である。
しかしながら,①~④の点については,被告商品のデザインは,①星
柄の大きさを4種類とし,②左右の脚の星の数を19個程度(≒17
個)とし,③右脚における星柄の配置は,最上端部(膝周囲部分)に3
つの小さい星が縦に並び,その一番下の星の左斜下方にやや大きめの星
が配置され,脛から足首にわたり小さい星と大き目の星が混在し,膝周
辺と比較して密に配置されたものとし,④左脚における星柄の配置は,
最上端部(膝周囲部分)に小さい星と大き目の星が混在して配置され,
脛から足首の側面にわたり疎らになるように星柄が配置され,最下端部
分には,3つの小さい星が縦に並んで配置されたものとした,という点
において原告商品の形態の特徴的部分である原告商品星柄デザイン部分
と共通するといえることから,商品全体からみるといずれも些細な相違
にすぎない。
また,⑤~⑨の点については,これらの点は全て既存のストッキング
において選択的に採用されてきたありふれた形態であり,容易に改変で
きるものである。言い換えれば,ストッキングとして一般的・標準的に
適宜選択する種類の範囲内の改変に基づくものにすぎず,その改変のた
めの着想は極めて容易であり,改変の内容,程度は低いことから,実質
的同一の判断に影響を与える事情とはいえない。
したがって,①~⑨の相違点は両商品の形態の実質的同一性の判断に
影響するものではなく,被告商品は,原告商品の形態の特徴的部分であ
る原告商品星柄デザイン部分と共通するデザインを備えるものであるか
ら,原告商品と被告商品を全体として観察した場合に両者の形態が実質
的に同一であるといえる。
(ウ)以上から,被告商品の形態は,対応する原告商品の形態と実質的に
同一であることは明らかである。
ウ対比方法(ただし,後記(ア)は原告らの主張,後記(イ)及び(ウ)は原告
ら及び承継参加人の主張である。)
(ア)不正競争防止法2条4項において「商品の形態」は「需要者が通常
の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の
外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質
感」と定義されるから,商品形態の実質的同一性を判断する際には,主
として,需要者が通常の用法に従った使用をする際に認識する商品全体
の形態を対比することが合理的である。
そして,本件では,ストッキングの「通常の用法」とは,着用である。
このことは,原告のオンラインショップ(甲49),被告のオンライン
ショップ(甲50),ファッション雑誌(甲5~7,9~21)のいず
れにおいても着用した状態が表示されていることから明らかである。ま
た,ストッキングは,およそ着用した状態で宣伝広告及び販売されてお
り,需要者はモデル,マネキン等が着用した状態で認識する場合が通常
である。
これに対し,被告は,商品を平置きにした状態で計測したウエスト巾,
股上等の相違を指摘する。しかし,ストッキングのサイズは編地の種類
による伸縮性に大きく左右される。さらに,同一の商品であっても,着
用,洗濯,乾燥によりウエスト巾,股上,股下,太もも巾が変化する。
被告が主張するような未着用の商品を平置きにした状態は,需要者が通
常の用法に従った使用をする際に認識する商品全体の形態に該当せず,
使用の実態からも乖離しており,かかる状態で計測した商品のサイズは,
商品形態の対比において全く意味がない。
(イ)被告は,ストッキング商品の大部分がパッケージに入ったままの状
態で展示されていることなどから,需要者は,ストッキング商品の大半
をパッケージに入ったままの状態で認識し,モデル,マネキン等が着用
した状態を具体的に認識することなく購入するのが通常であると主張す
る。
不正競争防止法2条1項3号は,先行者が投下した資本,労力を後行
者による模倣行為から保護することを目的とする。そのメルクマールと
して,購入や展示の際の誤認混同ではなく,「通常の用法に従った使
用」の際の認識に基づく形態を問題とするのであるから,ストッキング
の展示場面や購入場面における形態が問題となるのではなく,通常の用
法に従った使用,すなわち着用場面における形態が問題となるのである。
したがって,ストッキングが通常どのような形態で販売され,また展
示されているかは問題ではなく,ストッキングが通常の用法に従って使
用された場合,すなわちストッキングが着用された場合における形態が
問題となることは明らかである。
(ウ)また,被告は,平置きの状態も通常の用法に従った使用であると主
張する。
しかし,ストッキングの通常の用法に従った使用が着用であることは
自明であり,被告の主張は平置きの状態を「通常の用法に従った使用」
に含めるために考えられた技巧的な説明であり,ストッキングの「通常
の用法に従った使用」の理解として誤っている。
(被告の主張)
ア商品の形態を詳細に観察した場合,原告商品と被告商品の形態は以下の
とおりとなる。
原告商品(Mサイズ)被告商品


Aウエスト巾約18cm,股上約2
2cm,股下約48cm,太もも
巾約8cmである(別紙1比較写
真①,乙1)。
ウエスト巾約20cm,股上約2
0cm,股下約67cm,太もも
巾約10cmである(別紙1比較
写真①,乙1)。
B股部分にマチがある(別紙1比較
写真②-2,乙2の1)。
股部分にマチがない(別紙1比較
写真②-1,乙2の2)。
Cつま先部分の生地を分厚くする加
工がされている(別紙1比較写真
③,乙3)。
つま先部分の生地を分厚くする加
工がされていない(別紙1比較写
真③,乙3)。


D星柄部分は,星柄にくり抜かれた
光沢のないフェルト状の手触りの
黒色生地がストッキングに張り付
星柄部分は,やや光沢のある顔料
インクにてストッキングにプリン
トがされており,ストッキング生
けられており,ストッキング生地
から星柄が浮き出ている(別紙1
比較写真④-2,乙4の1)。
地とプリント部分はフラットであ
る(別紙1比較写真④-1,乙4
の2)。
E右脚には,19個の星柄が付され
ており,その具体的配列は,別紙
1比較写真⑤のとおりである(乙
5)。
右脚には,19個の星柄が付され
ており,その具体的配列は,別紙
1比較写真⑤のとおりである(乙
5)。
F左脚には,19個の星柄が付され
ており,その具体的配列は,別紙
1比較写真⑥のとおりである(乙
6)。
左脚には,17個の星柄が付され
ており,その具体的配列は,別紙
1比較写真⑥のとおりである(乙
6)。
G星柄の大きさには4種類あり,そ
れぞれ各約6mm,約10.5m
m,約15mm,約18.5mm
である(別紙1比較写真⑦,乙
7)。
星柄の大きさには4種類あり,そ
れぞれ各約6mm,約8mm,約
11mm,約15mmである(別
紙1比較写真⑦,乙7)。


Hベースとなるストッキングの色
は,サンドベージュ(白味がかっ
たベージュ)である(別紙1比較
写真⑧,乙8)。
ベースとなるストッキングの色
は,フレッシュベージュ(黄味が
かったベージュ)である(別紙1
比較写真⑧,乙8)。


Iベースとなるストッキングは,比
較的光沢のある生地が用いられて
いる。
ベースとなるストッキングは,比
較的光沢のない生地が用いられて
いる。


Jベースとなるストッキングは,ポ
リエステルとナイロンの糸で編ま
ベースとなるストッキングは,ポ
リエステルとナイロンの混縫の糸
れており,厚さはストッキングの
中では比較的厚く,網目が緊密で
なめらかであり,透け感がない。
とナイロンの糸が交互に編まれて
おり,厚さはストッキングの中で
は比較的薄く,網目が粗く,透け
感がある。
イ原告商品の形態と被告商品の形態とを比較すると,両商品の形態は次の
各点において異なっている。
(ア)形状
原告商品と被告商品とでは,形状の点において,以下のとおり違いが
ある。
aサイズ
原告商品被告商品
ウエスト巾18cm20cm
股上22cm20cm
股下48cm67cm
太もも巾8cm10cm
このように,原告商品と被告商品のサイズは,ウエスト巾,股上,
股下及び太もも巾においてそれぞれ異なっており,特に股下のサイズ
において19cmもの差異がある(別紙1比較写真①,乙1)。
b股部分の加工
原告商品は股部分にマチがあるのに対し,被告商品にはこれがない
(別紙1比較写真②,乙2の1,2)。股部分にマチを加工するのは,
ストッキングを履いた際の履き心地を良くするための工夫であるが,
マチの加工をした場合には,その分製造コストが高くなる。
cつま先部分の加工
原告商品はつま先部分の加工がされているのに対し,被告商品には
これがされていない(別紙1比較写真③,乙3)。つま先部分の加工
をなくすことは,「つま先スルー」と呼ばれ,サンダルを履いたとき
や靴を脱いだ際に素足のように見えるための工夫である。
(イ)形状に結合した模様
a星柄の質感,光沢,色彩等
原告商品の星柄は,星柄にくり抜かれた光沢のないフェルト状の手
触りの濃い黒色生地がストッキングに張り付けられており,ストッキ
ング生地から星柄が浮き出ている。これに対し,被告商品の星柄は,
光沢のある顔料インクにて比較的薄い黒色で,ストッキングにプリン
トがされており,ストッキング生地とプリント部分はフラットである。
このように,原告商品と被告商品の星柄の質感や光沢等は大きく異な
っている(別紙1比較写真④,乙4の1,2)。また,ストッキング
は,着用の折には全体として伸張するところ,原告商品の星柄はフェ
ルトであるためほとんど伸張せず,被告商品の星柄は伸張によって,
質感,光沢,色彩は大きく変わる。
b星柄の大きさ
原告商品の星柄の大きさは,各約6mm,約10.5mm,約15
mm,約18.5mmである。これに対し,被告商品の星柄の大きさ
は,各約6mm,約8mm,約11mm,約15mmである(別紙1
比較写真⑦,乙7)。このように,原告商品と被告商品の星柄の大き
さは,4種類中3種類において異なっており,特に,最も目立つ最大
の星柄の大きさについては,3.5mmもの違いがある。
c星柄の数及び具体的配列
原告商品の星柄の数は右脚,左脚ともに19個であり,具体的配列
は別紙1比較写真⑤⑥(下側)のとおりであるのに対し,被告商品の
星柄の数は右脚が19個,左脚は17個であり,具体的配列は別紙1
比較写真⑤⑥(上側)のとおりである(乙5,6)。右脚の星柄は,
その数は一致するとはいえ,左側の星柄の数は異なっている。また,
具体的な星柄の配列も,星柄と星柄との位置関係が異なるほか,星柄
と星柄との間の距離(原告商品の方が被告商品よりも星柄どうしの間
隔が狭い。)や星柄の角度も異なっている。このように,原告商品と
被告商品の星柄の具体的配列もまた大きく異なっている。
d小括
このように,原告商品の模様と被告商品の模様とは,その質感や光
沢,大きさ,具体的配列においてそれぞれ大きく異なっている上,こ
れらの相違点が相まった結果,原告商品の模様と被告商品の模様とは
全く異なったものとなっている。
(ウ)形状に結合した色彩
原告商品の色彩はサンドベージュ(白味がかったベージュ色)である
のに対し,被告商品の色彩はフレッシュベージュ(黄味がかったベージ
ュ色)である。このように,原告商品と被告商品の色彩は大きく異なっ
ている(別紙1比較写真⑧,乙8)。
(エ)形状に結合した光沢
原告商品には比較的光沢のある生地が用いられているのに対し,被告
商品には比較的光沢がない生地が用いられている点で異なっている。
(オ)形状に結合した質感
原告商品は,ポリウレタンとナイロンの糸で編まれており,厚さはス
トッキングの中では比較的厚く,網目が緊密でなめらかであるため,透
け感がない。これに対し,被告商品は,ポリウレタンとナイロンの混縫
の糸とナイロンの糸が交互に編まれており,厚さはストッキングの中で
は比較的薄く,網目が粗いため,透け感がある。
(カ)小括
以上のとおり,原告商品と被告商品とは,商品の形状並びに形状に結
合した模様,色彩,光沢及び質感の全てにおいて大きく異なっているの
であり,その形態が同一であるとはいえない。原告らの主張は,ストッ
キングに関する抽象的なアイデアの保護を求めるものにすぎない。
被告は,被告商品の開発に当たって,両商品の相違点について相当の
資本や労力を投下している(乙41,42)。被告独自の競争の結果が
上記相違点として現れているのであり,正当な競争の結果として企画・
開発された被告商品が不正競争防止法に違反するはずがない。
ウ(ア)原告らは,原告と被告のオンラインショップ,ファッション雑誌の
いずれにおいても着用した状態が表示されていることから,ストッキン
グの「通常の用法」とは着用であると主張する。
しかし,「通常の用法」の主体は「需要者」であり,原告,被告,フ
ァッション雑誌の出版社等ではなく,原告らの主張に理由はない。
(イ)また,原告らは,ストッキングは,およそ着用した状態で宣伝広告
及び販売されており,需要者はモデル,マネキン等が着用した状態で認
識する場合が通常であると主張する。
しかし,被告においては,被告の店舗での売上げがオンラインショッ
プでの売上げを大幅に上回る(全売上げの99%程度が店舗での販売で
ある。)。被告の店舗では,大多数のストッキング(本段落ではタイツ
を含む。)はパッケージに入ったままの状態で展示されており,マネキ
ン等に履かせて展示しているのは5%程度にすぎない。さらに,その
5%程度の商品についても,展示期間は販売開始直後等の期間に限られ
ており,全販売期間にわたってマネキン等に履かせて展示されているわ
けではない。加えて,被告を含むストッキングの販売店舗では,通常,
需要者によるストッキングの試着を認めていない。
したがって,被告店舗においては,需要者は,ストッキングの大半を
パッケージに入ったままの状態で認識し,モデル,マネキン等が着用し
た状態を具体的に認識することなく購入するのが通常である。
よって,被告商品を購入した需要者一般について,被告商品をモデル,
マネキン等が着用した状態を具体的に認識して購入したということはで
きない。
また,原告クライの神宮前(表参道店)の店舗においても,原告商品
はマネキン等に履かせて展示されていない。具体的には,同店舗で,原
告商品は,マネキンの足に複数の星柄に切り取られた模様が直接貼り付
けられるという方法で,そのアイデアのみが開示されており,原告商品
自体は,パッケージに入った状態で販売されている。したがって,原告
商品を購入した需要者一般について,原告商品をモデル,マネキン等が
着用した状態を具体的に認識して購入したということはできない(乙2
9)。
(ウ)需要者が原告商品を使用するには,通常,①パッケージを開封して
取り出す,②足,下腿部,大腿部,腰に通す,③原告商品を,腰,大腿
部,下腿部,足から脱する,④洗濯し,乾燥させ,押入れ等に保管する,
⑤その後,押入れ等の保管場所から取り出し②~④を繰り返すとの過程
を経ている。そのため,「通常の用法に従った使用」とは,上記①~⑤
の一連の使用行為と解すべきであり,需要者が上記①~⑤に「際して知
覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその
形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感」は全て原告商品の「形態」
となる。
したがって,着用を前提としていない平置きの状態での比較は正当で
ある。
他方で,ストッキングは,伸縮性のある生地が用いられており,それ
を着用する人の体型や着用の仕方等によって,柄の見え方が変わってく
るから,誰かが着用した状態で形態を捉えることは不適切であるという
ほかない(別紙2参照)。
(4)被告商品の形態が原告商品の形態に依拠したものであるか(争点4)
(原告ら及び承継参加人の主張)
原告商品は,平成23年9月下旬には,原告クライの表参道店舗及びプロ
エフのウェブサイトで販売が開始された。また,原告商品は,ファッション
雑誌「ar」(甲5),同「NYLONSTYLEbook」(甲
6),同「Gina」(甲7),タレント藤井リナの写真集「アイラブ
カワイイ」(甲4)に掲載される等,マスメディア及びインターネットに掲
載され,被告は原告商品にアクセスが可能であった。実際に,被告代理人は,
平成24年5月25日付け書状において「当社担当デザイナーが,インター
ネットで種々の商品を研究する中で,Proefの商品を偶然見つけ,その
デザインに触発され,これを参考とさせていただいてデザインされた商品で
す。Proefの当該商品のデザインは,…当社デザイナーもProef商
品のデザインにおける,これらアイディア,コンセプトおよび作風をアレン
ジして,当社商品をデザインしたものであります。」(甲43)と回答して
いる。
したがって,被告商品は,原告商品に依拠して制作されたことは争う余地
がない。
(被告の主張)
被告は,被告商品の開発に当たり,偶然にインターネット上で発見した原
告商品着用画像のデザインをアイデアとして参照したにすぎず,原告商品の
現物にアクセスしたことはなく,当然ながら,原告商品の具体的形態を被告
商品の開発に際し参考にすることなどできない。また,不正競争防止法2条
1項3号は,単にデザインを参考にすることを規制の対象とはしていないの
であるから,被告代理人の書状の内容をもって,被告が被告商品の開発に当
たって原告商品に「依拠」したなどということはできない。
(5)損害の有無及び額(争点5)
(原告らの主張)
ア逸失利益
(ア)原告らの逸失利益の発生
被告の故意による形態模倣行為により,原告らの営業上の利益が侵害
され,これにより原告らは原告商品の製造販売により得べかりし利益を
失った。
(イ)プロエフの逸失利益の額(不正競争防止法5条1項)
プロエフは,原告クライに対し,原告商品を金1260円で販売して
いる。また,自らのウェブサイトにおいても2940円(税込)で直接
販売している。
プロエフは,原告クライに販売した場合,1足当たり950円,自ら
のウェブサイトで販売した場合,2100円の利益がある。また,プロ
エフの販売実績全体において,原告クライへの販売が約60%,自らの
ウェブサイトでの販売が約40%を占めている。
プロエフは,平成24年3月から7月末までの間,約9000足の原
告商品の製造販売が可能であったが,被告の形態模倣行為により約85
0足の製造販売にとどまった。
平成24年4月19日付け繊研新聞(甲35の2)によれば,被告の
原宿店では1週間に450点のタトゥータイツが販売され,その売れ筋
商品は被告商品であると記載されている。被告の店舗は全国で約200
箇所存在し,仮にタトゥータイツの売上の2分の1が被告商品であると
しても,被告は,平成24年3月から7月までの間,少なくとも1万足
以上を販売したものである。
したがって,プロエフの逸失利益の額は,少なくとも1149万15
00円に上る。
(計算式)(950円×8150足×60%)+(2100円×815
0足×40%)=1149万1500円
注:8150足=9000足-850足
(ウ)原告クライの逸失利益の額(不正競争防止法5条1項)
原告クライは,表参道店舗において原告商品を2940円(税込)で
顧客に販売し,原告クライの利益は,1足当たり1260円である。
原告クライは,平成24年3月から7月末までの間,プロエフが製造
販売可能であった約9000足の原告商品のうちプロエフ・原告クライ
の販売実績割合である60%に相当する約5400足の原告商品の仕入
販売が可能であったが,被告の形態模倣行為により約530足の販売に
とどまった。上記のとおり,被告は,平成24年3月から7月までの間,
少なくとも1万足以上を販売したものである。したがって,原告クライ
の逸失利益の額は,少なくとも613万6200円に上る。
(計算式)1260円×4870足=613万6200円
注:4870足=5400足-530足
イ慰謝料
プロエフは,独創的なデザインを重視するブランドである。また,原告
商品は,「モード感がありエッジが利いたアイテム」という原告クライの
方向性をも踏まえてプロエフにより独自にデザインされたデザイン性の高
いコラボレーション商品である。しかるに,被告の故意による形態模倣行
為により,被告商品があたかも被告のオリジナルであるかのような,ある
いは原告商品のオリジナリティが乏しいかのような誤解が取引者・需要者
に生じてしまうことは,プロエフのブランド・イメージを著しく傷つける
ものとして,原告X1及び原告X2にとって,到底容認し難いものである。
このように原告X1及び原告X2が受けた精神的苦痛による損害の額は,
金銭に換算すると各々10万円,合計20万円と算定するのが相当である。
ウ経費
原告X1及び原告X2は,本件訴訟の準備のために,証拠収集のための
費用,交通費等各々10万円,合計20万円を支弁せざるを得ず,同金額
の損害を被った。
エ代理人費用相当額
原告らは,当初話し合いによる解決を試みたが,被告の不誠実な対応に
より本訴の提起を余儀なくされ,事案の性質・内容からこれを弁護士であ
る原告代理人に依頼せざるを得なかった。その結果,原告らは,原告代理
人らに弁護士費用の支払を約し,少なくとも各々金60万円,合計180
万円の弁護士費用相当額の損害を蒙った。
オ以上のとおり,原告X1及び原告X2の損害は各654万5750円,
原告クライの損害は673万6200円である。
(被告の主張)
原告らの主張ア(ア)は争う。同ア(イ)のうち,平成24年4月19日付け
繊研新聞に被告の原宿店では「タトゥー風パンスト」が1週間に450点が
売れた旨,売れ筋が星柄である旨が記載されていることは認め,その余は争
う。同ア(ウ)のうち,第1段落は不知,その余は争う。同イ~オは争う。
(6)訂正広告の必要性(争点6)
(原告らの主張)
被告の故意による形態模倣行為により,原告商品に係る原告らの営業上の
信用が毀損された。
このような広範囲に及ぶ深刻な原告商品に係る原告らの営業上の信用の毀
損は,性質上,その損害額を金銭的に正確に算定することが困難であり,ま
た,いずれにしても損害賠償により完全に回復させることも困難であるので,
損害賠償に代えて原告らの信用の回復措置が不可欠である。被告に謝罪文言
を含まない単なる訂正広告として別紙広告目録記載第1の広告を同目録記載
第2の要領で掲載させる程度であれば,原告らの信用の回復措置として相当
なものということができる。
(被告の主張)
原告らの主張第1段落は否認ないし争う。同第2段落は争う。
第3当裁判所の判断
1本件事案の内容に鑑み,まず,原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に
同一であるか(争点3)について検討する。
(1)不正競争防止法2条1項3号は,他人の商品の形態を模倣した商品を譲
渡するなどの行為を不正競争行為として規定する。ここで「模倣する」とは,
他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出す
ことをいう(同法2条5項)から,同号の不正競争行為といえるためには,
他人の商品と作り出された商品を対比して観察した場合に,それぞれの形態
が同一であるか実質的に同一といえる程度に類似していることが必要である。
そして,問題とされている商品の形態に他人の商品の形態と相違する部分が
あるとしても,その相違がわずかな改変に基づくものであって,商品の全体
的形態に与える変化が乏しく,商品全体からみて些細な相違にとどまると評
価される場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべき
である。これに対して,当該相違部分についての改変の着想の難易,改変の
内容・程度,改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したとき
に,当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて,当該商
品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような
場合には,両者を実質的に同一の形態ということはできない。
(2)以上を前提として,原告商品と被告商品のそれぞれの形態を対比する。
ア原告商品の形態
後掲の証拠によれば,原告商品の形態は,以下のとおりであると認めら
れる(ただし,原告商品はMサイズのものである。)。
(ア)外部形状
ウエスト巾約18cm,股上約22cm,股下約48cm,太もも巾
約8cmである(乙1,別紙1比較写真①参照)。
股部分にマチがある(乙2の1,別紙1比較写真②-2参照)。
つま先部分の生地が厚い(乙3,別紙1比較写真③参照)。
(イ)外部形状に結合した模様
外部形状に結合した模様として,星柄のフェルト状の黒色生地がスト
ッキングに張り付けられている(乙4の1,別紙1比較写真④-2参
照)。
a着用者の正面に向き合った場合の右脚(通常でいう左脚であるが,
原告の主張に合わせて,以下「右脚」という。被告商品についても,
以下同様に表記する。)には,19個の星柄が付されており,その具
体的配列は,原告商品写真(1)及び別紙1比較写真⑥のとおりである
(甲2,乙6)。
(a)着用時の写真において,右脚の星柄模様が付された位置は,膝
下付近の模様は脚の外側に位置するが,緩やかに流れ落ちるように
正面方向へ向かい,足首付近では,ほぼ正面に位置している。足首
部分の星の配置の形状に特色は見られない。
(b)非着用時の写真において,右脚の星柄模様は,右上方向から左
下方向に流れるように形成されており,着用時の形状と一致してい
る。
(c)着用時と非着用時を比較すると,着用時の写真では,星柄模様
の間隔が非着用時よりも広くなっており,原告商品の伸縮性が高い
ことが分かる。
b着用者の正面に向き合った場合の左脚(通常でいう右脚であるが,
原告の主張に合わせて,以下「左脚」という。被告商品についても,
以下同様に表記する。)には,19個の星柄が付されており,その具
体的配列は,原告商品写真(2)及び別紙1比較写真⑤のとおりである
(甲2,乙5)。
(a)着用時の写真において,左脚の星柄模様が付された位置は,膝
のやや上部に位置する大腿下部において,最も上部の2個の星は左
脚の正面近くに位置し(着用時の写真においては,最も上部の2個
の星のうち一番上の星は撮影の対象から除外されており,二番目の
星はわずかにその一部が撮影されているのみである。),そこから
緩やかに流れ落ちるようにふくらはぎ方向へ向かい,一番下の3個
の星はふくらはぎ(正面から見ると見えない脚の背部)の下部にま
で達している。星柄模様が回転しながら,脚に巻かれているように
見える。
(b)非着用時の写真において,左脚の星柄模様は,右上方向から左
下方向へ流れるように形成されており,着用時の形状と一致してい
る。
(c)着用時と非着用時を比較すると,着用時の写真では,星柄模様
の間隔が非着用時よりも広くなっており,原告商品の伸縮性が高い
ことが分かる。
c星柄の大きさ(1つの山部から対の谷部までの長さ)には,4種類
あり,それぞれ小さい方から約6~8mm,約10.5mm,約15
mm,約18.5mmである(乙7,別紙1比較写真⑦参照)。それ
ぞれの個数は,右脚が小さい方から4個,8個,5個,2個,左脚が
小さい方から4個,8個,5個,2個である(乙5,6,弁論の全趣
旨,別紙1比較写真⑤,⑥参照)。
(ウ)外部形状に結合した色彩
ストッキングの生地は,濃いベージュである(乙5,6,別紙1比較
写真⑤,⑥参照)。
(エ)外部形状に結合した光沢
ストッキングの生地は,透明感が低く光沢がない(乙8,別紙1比較
写真⑧参照)。
(オ)外部形状に結合した質感
ストッキングの生地は,比較的厚く,網目が緊密でなめらかである
(乙4の1,別紙1比較写真④-2参照)。
イ被告商品の形態
(ア)外部形状
ウエスト巾約20cm,股上約20cm,股下約67cm,太もも巾
約10cmである(乙1,別紙1比較写真①参照)。
股部分にマチがない(乙2の2,別紙1比較写真②-1参照)。
つま先部分の生地は厚くない(乙3,別紙1比較写真③参照)。
(イ)外部形状に結合した模様
外部形状に結合した模様として,星柄は顔料インクでストッキングに
プリントがされている(乙4の2,別紙1比較写真④-1参照)。
a右脚には,17個の星柄が付されており,その具体的配列は,被告
商品写真(1)及び別紙1比較写真⑥のとおりである(甲2,乙6)。
(a)着用時の写真において,右脚の星柄模様が付された位置は,膝
下付近の模様は脚の外側に位置し,そのままほぼ外側を緩やかに流
れ落ちるが,足首付近で正面方向へ向きを変え,足首の星柄模様は
ほぼ正面に位置している(原告商品の右脚の着用時の写真と被告商
品の右脚の着用時写真とでは,被告商品の写真のマネキンの方がつ
ま先をやや内側へ向けられているため,被告商品でも星柄が上部の
方から正面に位置するようにも見えるが,両写真のマネキンの足首
の方向を一致させた状態を考えれば,被告商品における星柄の配置
は上記のとおりと認められる。)。足首部分の星側の形状が北斗七
星のひしゃく部分のように見える点に特色がある。
(b)非着用時の写真において,右脚の星柄模様は,足首部分のひし
ゃく形の部分を除いては,ほぼ直線上に配置されており,右上方向
から左下方向に流れるように形成されており,着用時の形状と一致
している。
(c)着用時と非着用時を比較すると,着用時の写真では,星柄模様
の間隔にそれほど大きな差異はない。
b左脚には,19個の星柄が付されており,その具体的配列は,被告
商品写真(2)及び別紙1比較写真⑤のとおりである(甲2,乙5)。
(a)着用時の写真において,左脚の星柄模様が付された位置は,最
上部の星柄が膝の外側側部に位置し,そこからほぼ緩やかに流れ落
ちるように左脚の外側側部をふくらはぎ方向へ向かい,一番下の3
個の星はふくらはぎ(正面から見ると見えない脚の背部)の下部に
まで達している。星柄模様はほぼ縦の直線状に見える。
(b)非着用時の写真において,左脚の星柄模様は,上部から下部へ
ほぼ直線状に形成されており,着用時の形状と一致している。
(c)着用時と非着用時を比較すると,星柄模様の間隔にそれほど大
きな差異はない。
c星柄の大きさ(1つの山部から対の谷部までの長さ)には,4種類
あり,それぞれ約6mm,約8mm,約11mm,約15mmである
(乙7,別紙1比較写真⑦参照)。それぞれの個数は,右脚が小さい
方から3個,8個,4個,2個,左脚が小さい方から7個,5個,5
個,2個である(乙5,6,別紙1比較写真⑤,⑥参照)。
(ウ)外部形状に結合した色彩
ストッキングの生地は,薄いベージュである(乙5,6,別紙1比較
写真⑤,⑥参照)。
(エ)外部形状に結合した光沢
ストッキングの生地は,透明感が高く光沢がある(乙8,別紙1比較
写真⑧参照)。
(オ)外部形状に結合した質感
ストッキングの生地は,比較的薄く,網目が粗い(乙4の2,別紙1
比較写真④-1参照)。
ウ形態の対比
(ア)外部形状の対比
原告商品は,①ウエスト巾約18cm,股上約22cm,股下約48
cm,太もも巾約8cmであり,②股部分にマチがあり,③つま先部分
の生地が厚い。
これに対し,被告商品は,①’ウエスト巾約20cm,股上約20c
m,股下約67cm,太もも巾約10cmであり,②’股部分にマチが
なく,③’つま先部分の生地は厚くない。
以上のとおり,原告商品と被告商品とは,サイズの違い(①と①’)
があるが,これは生地の伸縮性によるものと解されるから,形態として
大きな相違点であるとは解されない。また,原告商品と被告商品とは,
マチの有無(②と②’),つま先部分の生地の厚さ(③と③’)に違い
があるが,これらは機能的な工夫によるものと解される上,通常の着用
の状態では見えない部分であるから,同様に形態として大きな相違点で
あるとは解されない。
(イ)外部形状に結合した模様の対比
原告商品は,④外部形状に結合した模様として,星柄のフェルト状の
黒色生地がストッキングに張り付けられ,⑤右脚には,19個の星柄が
付されており,着用時における具体的配列は,原告商品写真(1)のとお
りであり,右脚の星柄模様が付された位置は,膝下付近の模様は脚の外
側に位置するが,流れ落ちるように緩やかに正面方向へ向かい,足首付
近では,ほぼ正面に位置している。足首部分の星の配置の形状に特色は
見られない。⑥左脚には,19個の星柄が付されており,着用時におけ
る具体的配列は,原告商品写真(2)のとおりであり,左脚の星柄模様が
付された位置は,膝のやや上部に位置する大腿下部において,最も上部
の2個の星柄は左脚の正面近くに位置し,そこから正面から背面へ向け
て流れ落ちるように緩やかにふくらはぎ方向へ向かい,一番下の3個の
星はふくらはぎ(正面から見ると見えない脚の背部)の下部にまで達し
ている。星柄模様が回転しながら脚に巻かれているように見える。⑦星
柄の大きさ(1つの山部から対の谷部までの長さ)には,4種類あり,
それぞれ約6~8mm,約10.5mm,約15mm,約18.5mm
である。それぞれの個数は,右脚が小さい方から4個,8個,5個,2
個,左脚が小さい方から4個,8個,5個,2個である。
これに対し,被告商品は,④’外部形状に結合した模様として,星柄
は顔料インクでストッキングにプリントがされ,⑤’右脚には,17個
の星柄が付されており,着用時における具体的配列は,被告商品写真
(1)のとおりであり,右脚の星柄模様が付された位置は,膝下付近の模
様は脚の外側に位置し,そのままほぼ外側を流れ落ちるが,足首付近で
正面方向へ向きを変え,足首の星柄模様はほぼ正面に位置している。足
首部分の星柄の形状が北斗七星のひしゃく部分のように見える点に特色
がある。⑥’左脚には,19個の星柄が付されており,着用時における
具体的配列は,被告商品写真(2)のとおりであり,左脚の星柄模様が付
された位置は,最上部の星柄が膝の外側側部に位置し,そこから左脚の
外側側部を流れ落ちるようにふくらはぎ方向に向かい,一番下の3個の
星はふくらはぎ(正面から見ると見えない脚の背部)の下部まで達して
いる。星柄模様はほぼ縦の直線状に見える。⑦’星柄の大きさ(1つの
山部から対の谷部までの長さ)には,4種類あり,それぞれ約6mm,
約8mm,約11mm,約15mmである。それぞれの個数は,右脚が
小さい方から3個,8個,4個,2個,左脚が小さい方から7個,5個,
5個,2個である。
以上のとおり,原告商品と被告商品とは,星柄がフェルト状かプリン
ト(④と④’)との違いがあり,原告商品では星柄が浮き出ているとい
う違いがある。また,原告商品と被告商品とは,右脚では,星柄の個数
に違いがある上,着用による対比によっても,上から5番目以降の星の
配置に違いがあり,その結果,星柄模様の流れの方向性に違いがある
(⑤と⑤’)。特に,被告商品では足首部分が北斗七星のひしゃく部分
のように見える模様があるが,原告商品ではそのような特色はない。左
脚では,星柄の個数は同じであるが,着用による対比によっても,上か
ら9番目までの星の配置が,原告商品では脚の正面側に寄っているのに
対し,被告商品では膝の横に位置するという違いがあり,その結果,原
告商品では,星柄模様が回転しながら脚に巻かれているように見えるの
に対し,被告商品では,星柄模様はほぼ縦の直線に見えるという違いが
ある(⑥と⑥’)。さらに,原告商品と被告商品とは,星柄の大きさに
違いがあるが,特に一番大きな星の大きさが異なる(⑦と⑦’)。また,
被告商品の方が星の大きさが原告商品と比較してより小さく,より繊細
な印象を与える。
(ウ)外部形状に結合した色彩の対比
原告商品は,⑧ストッキングの生地が濃いベージュである。これに対
し,被告商品は,⑧’ストッキングの生地が薄いベージュである。
このように,原告商品と被告商品とは,ストッキングの生地の色に違
いがある(⑧と⑧’)。
(エ)外部形状に結合した光沢の対比
原告商品は,⑨ストッキングの生地の透明感が低く光沢がない。これ
に対し,被告商品は,⑨’ストッキングの生地の透明感が高く光沢があ
る。
このように,原告商品と被告商品とは,ストッキングの生地の透明感
や光沢に違いがある(⑨と⑨’)。
(オ)外部形状に結合した質感の対比
原告商品は,⑩ストッキングの生地は,比較的厚く,網目が緊密でな
めらかである。これに対し,被告商品は,⑩’ストッキングの生地は,
比較的薄く,網目が粗い
このように,原告商品と被告商品とは,ストッキングの生地の厚さ及
び網目の違いから,なめらかさの有無という質感に違いがある(⑩と
⑩’)。
(カ)以上のとおり,原告商品と被告商品とは,①~⑩と①’~⑩’の違
いがある。
もっとも,被告商品の①’~③’については,商品の全体的形態に与
える変化が乏しく,商品全体からみて些細な相違にとどまるといい得る。
しかしながら,被告商品の④’~⑩’については,これらを総合して
判断すると,これらによって商品に相応の形態的特徴がもたらされてお
り,被告商品④’~⑩’と原告商品④~⑩との相違が商品全体の形態の
同一性の判断の上で無視できるものとはいい難い。
特に,着用時における星柄の模様の配置等について検討すると,①右
脚について,原告商品と被告商品では星柄の数(原告商品19個,被告
商品17個)という相違があるほか,着用時において星柄の模様の配置
された箇所が,原告商品においては,模様が膝下の外側から流れ落ちる
ように緩やかに正面方向へ向かい,足首付近でほぼ正面に位置するのに
対し,被告商品においては,模様が膝下の外側からそのまま外側を流れ
落ち,足首付近で正面方向へ向きを変え,足首の星柄模様がほぼ正面に
位置するという相違があり,また,被告商品においては足首部分の星柄
の形状が北斗七星のひしゃく部分のように見えるのに,原告商品ではそ
のような特徴がないという相違がある。②左脚について,原告商品では,
星柄の最も上部の2個の星が左脚の正面近くに位置し,そこから星柄模
様が正面から背面へ向けて流れ落ちるように緩やかにふくらはぎ方向へ
向かい,脚に巻かれているように見えるのに対し,被告商品では,最上
部の星柄が膝の外側側部に位置し,そこから左脚の外側側部を流れ落ち
るようにふくらはぎ方向に向かい,一番下の3個の星はふくらはぎの下
部まで達しており,ほぼ縦の直線状に見えるという相違がある。
したがって,これらの点を考慮すると,原告商品の形態と被告商品の
形態が実質的に同一であるとは認められない。仮に,星柄の模様のみで
実質的同一性を判断するとしても,上記の相違点に鑑みれば,原告商品
と被告商品の星柄の模様は実質的に同一とはいえない。
エ対比方法について
原告ら及び参加承継人は,ストッキングの「通常の用法に従った使用」
が着用であるとして,平置きの状態の比較が誤っている旨主張する。
確かに,不正競争防止法2条4項は,「この法律において『商品の形
態』とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識す
ることができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,
色彩,光沢及び質感をいう。」と規定しているから,「通常の用法に従っ
た使用」,すなわち,本件でいえば着用時における商品の形態をもって比
較するのが相当である。
しかし,別紙原告商品目録及び被告商品目録(甲2も同じ)における着
用時の一方向からの写真のみでは,撮影方向が一方向に限定され,また,
マネキンの足の方向によっても見え方が左右されるから,限定された写真
のみから着用時の星柄模様の状態を正確に把握することはできない。その
ため,着用時の状態を正確に把握するためには,非着用時の模様の配置を
参考にする必要がある。その意味で,非着用時の模様の配置(被告のいう
着用前の平置きの状態)を参照することが相当であると解される。
他方,被告は,ストッキングは,伸縮性のある生地が用いられており,
それを着用する人の体型や着用の仕方等によって,柄の見え方が変わって
くるから,誰かが着用した状態で形態を捉えることは不適切である旨主張
する(別紙2参照)。しかしながら,そのような問題点があることを踏ま
えながら,非着用時の状態(平置きの状態)での形態も考慮して比較をす
ればよいのであって,ストッキングを着用した状態での比較が許されない
とはいえない。
オ小括
以上のとおり,原告商品の形態と被告商品の形態が実質的に同一である
とは認められないから,その余について判断するまでもなく,被告商品は,
不正競争防止法2条1項3号に該当しない。
(3)したがって,原告ら及び参加承継人の請求はいずれも理由がない。
2結論
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官大須賀滋
裁判官小川雅敏
裁判官森川さつき

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