弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役2年に処する。
未決勾留日数中150日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,政治団体B会総本部会長であるが,宗教団体アレフ(元オウム真理
教。以下,「アレフ」という。)信者多数が東京都世田谷区ab丁目c番d号所在
のハイムC等に転居してきたため,地域住民によるアレフ信者の退去要請運動が起
こったこと,B会総本部としてもアレフ信者の退去を要求する街宣活動を行ってい
たこと,B会総本部構成員がハイムCにおいてけん銃を発砲してアレフ信者の使用
する居室ドア等に弾丸を撃ち込んだことなどを利用して,アレフ信者らから金員を
喝取しようと企て,平成13年1月9日午前0時過ぎころから同日午前2時ころま
での間に,東京都世田谷区ab丁目e番f号所在のgビル1階バーラウンジ「D」
店内において,前記ハイムC等に転居してきたアレフ出家信者E(当時31歳)及
びF(当時30歳)に対し,「住民運動はこれからもっと激しくなるだろう。」
「住民のほうからB会のほうに,5000万とか1億で何とか追い払ってくれとい
うような話がある。」「アレフの出方によっては住民運動を抑えてやるぞ。」「街
宣は今のところはやめるが,アレフの出方次第によっては,街宣もB会以外の右翼
がやってきたり,どんどんエスカレートしてくるだろう。」「アレフのほうの対処
が遅れるならば,下のほうの者の抑えがきかなくなる。何するか分からない。」
「今回は扉に対する発砲事件で済んだけれども,こんなものじゃ済まなくなる
ぞ。」「タマを取るぞ。」「村井もああいう死に方をしたしな。」「警察も抑えき
れなくなるぞ。最終的に守ってくれないぞ。」「我々は小さな組織ではない。バッ
クには大きなやくざに金貸しをしているような組織がついているんだ。関東でも3
本指に入るような大きな団体である。だから特に金に困っているとかそういうわけ
ではない。」「我々は何百万とかそういう金では動かない組織なんだ。」などと言
って暗に現金の交付を要求し,この要求に応じないときは,前記ハイムC等に居住
する前記Eらアレフ信者の生命,身体,財産等に危害を加えかねない気勢を示して
前記Eらを畏怖させ,アレフ信者らから現金を喝取しようとしたが,前記Eらが警
察に被害を届け出るなどしてその要求に応じなかったため,その目的を遂げなかっ
たものである。
(事実認定の補足説明)
 弁護人は,「被告人が,金員喝取の目的で,アレフ信者Eらを脅迫した事実は認
められず,被告人は無罪である。」などと主張し,被告人もこれに沿う供述をして
いるので,この点についての判断を説明する。
第1 E供述の信用性
 前記罪となるべき事実の認定において,証人E(以下,「E」という。)の
公判供述が最も重要な証拠になっており,この供述の信用性を検討する必要があ
る。
1 本件前後の経過
そこで,まず,本件前後の経過についてみると,前記の関係証拠によれば,
以下の事実が認められる。
(1) B会総本部(以下,「B会」という。)は,被告人及び兄Gが平成11年
2月に結成した右翼団体で,被告人が会長に就き,街宣車による街宣活動等を行っ
ていた。
(2) 平成12年12月中旬ころ,アレフ信者十数名が,アレフが高山豊から借
り受けた東京都世田谷区a所在のハイムC(以下,「ハイムC」という。)ほか2
棟のマンションの居室数室に入居し,世田谷区役所に対して転入届を提出するなど
した。そのため,世田谷区は,同月21日,同区役所内にアレフ対策本部を設置す
るとともに,転入不受理の通知書を送付するなどした。同月26日,町会役員等の
地域住民が集まり,世田谷区役所職員とともに今後の対策を協議し,アレフ信者の
退去を求めていくとともに,アレフ信者の動向を警戒していくことになった。さら
に,平成13年1月9日,世田谷区役所の呼びかけによりアレフ対策の住民協議会
が数百名の参加者を得て開催され,アレフに対して退去要請が行われた。
(3) 他方,被告人は,平成12年12月27日夜,B会会長代行であるG(以
下,「G」という。),B会会長秘書であるH(以下,「H」という。)ととも
に,ハイムCを訪れた際,アレフ信者に対し,Hの名刺を渡し,責任者からの連絡
がほしい旨伝えた。その後,地域住民や地元警察との対応を担当していたEは,こ
のことを伝え聞いたが,夜遅くなっていたため翌28日の日中に連絡することにし
た。
(4) B会は,翌28日の朝,ハイムC周辺において,街宣車で,アレフに対し
烏山から退去するよう要求する街宣活動を行った。そこで,Eは,B会の事務所に
赴き,同日午後10時ころから,被告人,Gらと面談した。
(5) B会は,前日に引き続き,同月29日,30日にも同様の街宣活動を行っ
た。30日の街宣活動の際には,Hが,警察官から街宣車を移動するよう指示され
たことに反発し,警察官に向けて街宣車を急発進させる暴行を加えたため,公務執
行妨害の現行犯人として逮捕された。その後,B会はアレフに対する街宣活動を行
っていなかったが,アレフが地域住民に対して説明会を行った平成13年1月4
日,アレフに対する街宣活動を再開した。同日深夜,B会構成員であるI(以下,
「I」という。)が,ハイムCの高山豊方ドア及びアレフ信者の使用する居室のド
アにけん銃で弾丸を4発撃ち込み,銃砲刀剣類所持等取締法違反の現行犯人として
逮捕された。そのため,B会は,再びアレフに対する街宣活動を止めた。
(6) Eは,同月8日午後11時20分ころから午後11時40分ころまでの間
に,被告人から再三電話がかかってきて,面談を求められたため,アレフの広報部
長Jらと協議の上,アレフ信者のF(以下,「F」という。)とともに被告人と会
うことにした。そして,E及びFは,被告人から指示された路上で被告人と落ち合
い,被告人に連れられ,翌9日午前0時過ぎころ,バーラウンジ「D」(以下,
「D」という。)に入り,同日午前2時ころまで被告人と面談した。
(7) E及びFは,同日午前2時過ぎころ,ハイムCに戻り,Jらに対して,被
告人との面談の内容について報告し,今後の対応について協議し,警察に対して被
害申告をすることにした。
(8) 同月22日,Eは,K(以下,「K」という。)とともにJR新宿駅南口
改札口前歩道上に赴き,被告人と会った。
2 E供述の信用性の検討
以上のような経過の中で,Eは,公判廷において,平成13年1月9日のD
店内における会話の内容等について,前記認定に沿う供述をしているほか,同月2
2日のJR新宿駅南口改札口前歩道上における会話の内容等については,「被告人
から「前回の話を上に上げてどういうことになったのか。」と聞かれたので,私
は,アレフの経済状況等について説明した上,「お金ということだったら,これは
お支払いできません。」と言った。すると,被告人は,「そういうはっきりした言
い方はしたくないんだけどな。」と言った。その後,被告人は,「街宣はこれから
もやる。」「ほかの右翼も含めて何十台も来ることになる。」「下の者の抑えがき
かなくなる。」などといった話を繰り返すなどしたが,その際に「銭金の問題じゃ
ないんだけど。」「結局は,金ということになるんだろうけどよ。」などと言っ
た。」旨供述する。
 そこで,これらの点に関するEの公判供述の信用性について検討すると,そ
の供述内容は,他の供述部分と同様に具体的であるばかりか,尋問に応じて詳細な
供述がなされている。その上,本件犯行時の会話内容に関するEの供述内容は,前
記認定の一連の経過,特に地域住民等によるアレフに対する退去要請等の状況,B
会の街宣活動の状況,前記発砲事件に照らして,極めて自然なものであり,平成1
3年1月22日JR新宿駅南口改札口前歩道上における会話内容やこのとき被告人
とEらが会うことになった経緯に関するEの供述内容も,前記認定の一連の経過の
ほか,本件犯行時の会話内容に関するE自身の供述内容との関係でも自然な流れに
なっている。また,Eの公判供述は前後矛盾することもなく,詳細な反対尋問にも
揺らいだり,あいまいになったりすることもなかった。これらのことからすると,
前記のEの公判供述は記憶に基づいた供述としての特徴を十分に有しているといえ
る。
さらに,Eの公判供述は,F及びKの各公判供述ともよく符合しているとこ
ろ,F及びKの各公判供述は,いずれもその内容自体特に不自然なところはなく,
両名ともアレフ信者ではあるものの,Eの公判供述にことさら符合させようとして
いる供述態度や供述内容ではなく,それぞれの記憶に基づいて供述しているものと
認められ,その信用性を肯定することができ,Eの公判供述の信用性を担保するに
十分であるといえる。
なお,弁護人は,「アレフが組織防衛のため自分たちに邪魔なB会を潰そう
として恐喝未遂事件がないのにあったとしたものである。」などと主張し,Eらに
虚偽供述をする動機があることを指摘している。しかしながら,前記のとおり,平
成13年1月4日の発砲事件以降B会はアレフに対する街宣活動を止めていたこと
が認められる上,前記の関係各証拠によれば,アレフとしても,発砲事件によって
B会に対する警察の監視も強化されることになり,B会がアレフに対して更に危害
を加えるなどしてくることはないであろうと考えていたことが認められる。このよ
うな状況に鑑みれば,Eらが,B会を潰すため警察に虚偽の被害届を出すなどして
まで被告人を罪に陥れる必要性はなく,本件全証拠を検討しても,本件に関連して
接触するまではまったく面識のなかったEらが被告人を罪に陥れるためにあえて虚
偽の供述をする動機はうかがわれない。
以上のことからすると,Eの公判供述は,信用性が極めて高いと評価でき
る。
第2 被告人の弁解の信用性
ところで,被告人は,捜査公判を通じて,平成13年1月9日及び同月22
日にEらと面談した際,Eらが供述しているような内容の発言をしたことを否定
し,同月9日Eに面談を求めたのは,アレフ信者がハイムC等から退去するか,同
月4日のアレフの地域住民に対する説明会での説明が不十分であったため,地域住
民に対して納得のいくような説明をすべきであるということを伝えるためであった
と弁解し,また,同月22日に面談した状況については,同月19日Eの方から電
話があり,「相談したいことがある。」と言われていたので,同月22日被告人が
Eに電話をかけ,JR新宿駅南口改札口でEと落ち合ったが,Eの方からいきなり
「Aさんお金ですか。」と言われたなどと弁解する。
しかしながら,街宣車による街宣活動という手段により,アレフ信者に対し
ハイムC等から退去するよう要求していた被告人が,このような内容の話をするた
めに平成13年1月9日の面談をEに求めたというのはかなり不自然である。しか
も,アレフの地域住民に対する説明会が行われてから数日も経過し,その間に発砲
事件も起こっていながら,被告人は,Eに再三電話をかけて面談を求めた上,深夜
被告人の知人が経営する飲食店にEらを連れていって面談し,このような内容の話
をするというのも不自然である。
また,Dでの面談が約2時間に及んでいることは前記認定のとおりである
が,被告人の弁解するところからすれば,不相応な時間を要しているといわざるを
得ず,この点でも不自然である。
また,平成13年1月22日の面談の状況についても,同月19日にEの方
から電話があって「相談したいことがある。」と言ってきたということ自体,それ
までの経過に照らし不自然であるし,被告人がこれに応じようと電話をかけてEと
会うことにしたというのも不自然である。また,同月9日の面談の際の会話内容が
被告人の供述するような内容であったとすれば,Eが被告人に対しいきなり「Aさ
んお金ですか。」などと言うことは考えられないし,このようなことを言われれ
ば,被告人はEに強い不信感を抱くはずであるにもかかわらず,被告人は,その後
もEに対し被告人の要求を伝える会話をした旨供述しており,極めて不自然な流れ
になっている。
このように被告人の弁解には不自然なところが多く,信用できない。
第3 結論
前記のとおり信用性の極めて高いEの公判供述により,被告人が,平成13
年1月9日D店内において,前記認定のとおりの文言を述べたこと,同月22日J
R新宿駅南口改札口前歩道上において,前記のとおりの文言を述べていることが認
定できるが,本件犯行において,被告人がEらに対して述べた文言自体から,Eら
アレフ信者の生命,身体,財産等に危害を加えかねない気勢を示したことは明らか
である。さらに,被告人がこのような脅迫行為に出た目的についても,その文言自
体から,アレフ信者をハイムC等から退去させるためでないことは明らかであり,
B会がアレフに対して街宣活動をしないことやアレフ信者をハイムC等から退去さ
せようとする地域住民の活動を抑えることなどに関してEらアレフ信者から現金を
脅し取るためであると推認でき,さらには,その文言により暗に現金の交付を要求
していたとも認められる。このことは,平成13年1月22日JR新宿駅南口改札
口前歩道上において被告人がEらに対して述べた文言からも裏付けられている。
以上によれば,被告人が,金員喝取の目的で,判示のとおりの文言を述べて
E及びFを脅迫したことは優に認定することができる。
(量刑の理由)
本件は,右翼団体の会長である被告人が,アレフ信者から多額の現金を喝取しよ
うと企て,アレフ信者を脅迫したものの,警察に被害を届け出るなどしてその要求
に応じなかったため,その目的を遂げなかったという恐喝未遂の事案である。
本件犯行は,被告人が,アレフ信者の退去を求める街宣活動をする一方,執拗に
被害者らアレフ信者との面談を求め,これに応じた被害者らに対し,被告人自身が
結成した右翼団体の構成員の起こした発砲事件を引き合いに出したり,団体の威力
を誇示したりして脅迫し,多額の現金を喝取しようとしたものである上,アレフ及
びその信者が世間から危険視され,転居する先々で地域住民から退去を要求される
など地域社会と軋轢を生じているというアレフ及びその信者の窮状につけ込んだも
のであり,その態様は,悪質かつ卑劣なものといわざるを得ない。しかも,前記の
ような発砲事件が発生していた状況下での本件犯行によって被害者が受けた強い恐
怖感等も看過することができない。このようなことからすると被害者らの処罰感情
が強いのも当然であるが,被告人は何ら慰藉の措置を講じていない。その上,被告
人は,捜査段階から一貫して本件犯行を否認して,不合理な弁解を繰り返している
のであって,反省の態度は認められない。したがって,被告人の刑事責任は重い。
そうすると,本件犯行が未遂に終わり,財産的被害は発生していないこと,前刑
出所後約10年間は処罰を受けていないこと,被告人の収入で生計を立てている妻
子がいることなど被告人のために酌むべき事情も認められるが,これらの事情を考
慮しても,被告人に対しては主文の実刑を科すのが相当であると判断した。
平成13年12月6日
東京地方裁判所刑事第9部
裁判長裁判官   秋葉康弘
裁判官   宮武 芳
裁判官   鎌倉正和
              

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