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平成17年2月23日判決言渡 
平成14年(ワ)第17号 損害賠償金等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年12月1日
判       決
主   文
1 被告は,原告に対し,1356万7182円及び内金1188万5811円に対
する平成14年2月3日から,内金168万1371円に対する平成16年6
月3日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを4分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負
担とする。
4 この判決は1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
 1 被告は,原告に対し,5400万円及び内金4800万円に対する平成14年2月3日
から,内金600万円に対する平成16年1月1日からそれぞれ支払済みまで年5分
の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告に対し,別紙1〈略〉記載の謝罪文を手交する方法により謝罪せよ。
第2 事案の概要
 1 本件は,大手貨物運送会社である被告の従業員である原告が,被告が他の同業
者との間で認可運賃枠内での最高運賃収受や荷主移動(顧客争奪)禁止を内容と
するヤミカルテル(以下「本件ヤミカルテル」という。)を締結しているなどと内部告
発したところ,被告がこれを理由として長期間にわたり原告を昇格させなかったり,
原告に不当な異動を命じて個室に隔離したうえ雑務に従事させるなど,原告に対し
て不利益な取扱いをしたと主張して,被告に対し,雇用契約上の平等取扱義務,人
格尊重義務,配慮義務等に違反する債務不履行又は不法行為に基づき,慰謝料
1000万円,賃金格差相当額の損害賠償3970万円及び弁護士費用相当額430
万円の合計5400万円の支払い並びに原告に対する謝罪文の手交を求めた事案
である。
 2 争いのない事実等(証拠を掲げない事実は当事者間に争いがない。)
   (以下,役職名は特に断らない限り当時のものであり,兼務については主要なもの
を示す。)
  (1) 当事者等
    被告は,貨物自動車運送事業等を営む株式会社であり,従業員5812名,路線
事業所117か所等を有している。(上記数値は平成12年2月現在。)(甲2)
    原告は,昭和45年3月,大学を卒業して被告に入社し(当時23歳),現在まで被
告に在籍している。
  (2) 原告の経歴(甲18,原告本人)
    原告の被告入社後の経歴は,次のとおりである。
    昭和45年3月   横浜営業所に所属。
              同期の大学卒入社は25名。
    昭和46年     桶川営業所(埼玉県)に異動。
昭和47年     四日市営業所(三重県)に異動。
    昭和48年     主任補に昇格。
    昭和48年6月ころ 岐阜営業所に異動。
    昭和49年9月   日の出営業所(神奈川県)に異動。
    昭和50年1月   東京本部(東京都)に異動。
    昭和50年10月  教育研修所(富山県福光町(当時))に異動。
    平成4年6月    教育研修所が富山県大門町に新設された厚生年金会館に移
転。同教育研修所に勤務。
    (以下,平成4年6月まで富山県福光町(当時)にあった教育研修所を「旧教育研
修所」と,平成4年6月に富山県大門町に移転した後の教育研修所を「新教育研
修所」という。)
  (3) ヤミカルテル等をめぐる報道等
   ア 昭和49年8月1日,読売新聞に,東海道路線連盟(東京大阪間の陸上運送を
受け持つ大手運送会社50社が所属する連盟であり,被告も加盟している。)
に加盟する運送会社が,従前は各事業者が認可料金を基準に上下10%幅
で自由に運賃を収受していたが,同年7月12日の新料金認可時からは一律
に上限10%の運賃を収受することとし,違反業者には違約金没収等の措置
をとることを内容とする業者間協定を結んでいるという,本件ヤミカルテルにつ
いての記事が掲載された。(甲3)
   イ 公正取引委員会(以下「公取委」という。)は,同年10月16日,東海道路線連
盟やこれに加盟する被告等大手運送会社に対し一斉立入検査を行った。同
連盟は,昭和50年3月20日,同連盟代表者会長名で,「路線運賃収受にあ
たり,認可運賃の枠内の最高額の収受,荷主移動の停止等を申し合わせ,こ
れを昭和49年7月20日から会員に実施させましたが,連盟会長としてこれら
の申合せ事項は,独占禁止法に抵触するおそれがあると判断し,(中略),こ
れらの申合せ事項をすべて自主的に破棄させました。」との公告(以下「破棄
公告」という。)を新聞に掲載した。(甲5,6,20)
   ウ 昭和50年3月27日,衆議院物価問題等に関する特別委員会(以下「衆議院物
価問題等特別委員会」という。)において,質疑に立ったU議員が,本件ヤミカ
ルテルの問題を取り上げた。(甲4)
   エ 同年7月ころ,日本消費者連盟(以下「日消連」という。)は,実際に荷物を送る
方法で運送会社の違法運賃の実態を調査した。同年8月,この調査により,
被告が,最低換算重量を正規の20㎏ではなく40㎏に設定したり,輸送距離
を最短距離で計算しないなどの方法で不正な運賃を収受していることが明ら
かになったとの記事が新聞に掲載された。日消連は,同年9月1日,この調査
により不正運賃の収受が明らかになったとした他の大手同業者2社とともに,
被告を道路運送法違反容疑で東京地方検察庁に告発した。(甲5~9,13)
   オ また,日消連の指摘を受けた運輸省(当時。以下同じ。)は,被告を含む大手運
送会社10社に対し特別監査を行い,同年9月,同監査の結果,検査した案件
のうち小口荷物の重量や距離計算をごまかすなどして認可運賃を超える運賃
を収受していたものが全体の21%に上ることが判明したとして,これらの運送
会社を厳重警告処分とした。(甲19,23)
   カ 東京地方検察庁は,昭和52年11月ころ,上記エの告発に係る事件について
被告を不起訴処分とした。(甲13,18)
  (4) 昇格停止及び給与格差
   ア 被告の給与体系(甲16,17)
     基本給は年齢給と職能資格給からなる。これに仕事給(資格給,職務給)が加
わって基準内賃金となる。資格給は事務職5級以上の者に支給される。職務
給は,職務レベル(職務遂行能力)に応じて支給額が決定され,また,毎年4
月に職能資格給の昇給基準に合わせて昇給額が決定される。
     職能等級は,事務職については2級から11級まであり,大卒事務職は3級1号
から始まる。職能資格等級の7級以上が管理職に該当する。
   イ 原告の昇格停止(証人R)
原告は,昭和45年(当時23歳)に被告に入社した後,同期同学歴入社の
者とほぼ同様に昇格し,3年後(当時26歳)には主任補(4級)になった。しか
し,以後現在に至るまで昇格がなく,主任補(4級)に据え置かれている。
なお,被告は,定期採用で入った社員については,主任補の資格まで会社
の政策として誘導して昇格させ,その後は本人の能力や評価を加味して昇格
を決める。
ウ 他の従業員との格差
昭和45年に大卒で入社した25名のうち,現在被告に在籍している者は原
告を含めて6名又は7名である。原告と1名を除いていずれも管理職となって
おり,この1名も被告の労働組合の委員長をしている。同期同学歴入社の者
は,いずれも主任(5~6級職),所長,支店長又は係長(5~6級職),課長,
部長と昇格・昇進している。
賃金格差が生じてから平成12年末までの,原告の賃金と原告以外の同期
同学歴入社の者の平均賃金との差額は,合計3370万円である。
 3 争点
  (1) 内部告発の正当性
   (原告の主張)
    本件ヤミカルテルは,現実に存在していた。また,原告は,新聞社に内部告発す
る前に,副社長や現場の上司に不正運賃収受の是正を直訴していたが,同人ら
からは無視された。原告が被告内部で適切に問題を提起しても,その訴えが聞
き入れられる態勢は全くなく,経営者も耳を傾ける姿勢を示さなかった。
ア 本件ヤミカルテルの存否
東海道路線連盟がした破棄公告の内容からすれば,本件ヤミカルテルが
現に存在したことは明らかである。同連盟は,破棄公告において,路線運賃の
収受にあたり認可運賃枠内の最高運賃収受や荷主移動停止等を申し合わ
せ,これを昭和49年7月20日から被告を含む加盟会社に実施させたことを認
め,そのうえでこれらの申合せ事項を破棄させている。同連盟がこの申合せを
破棄させてその旨の公告をしたのは,この申合せが私的独占の禁止及び公
正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)に違反するものであり,
公取委による破棄勧告が避けられないと認識したためである。
公取委が同連盟や加盟運送業者に対する立入検査を行ったことは,独禁
法違反の容疑が非常に強かったことを意味する。
   イ 副社長への直訴の有無
     原告は,昭和48年12月ころ,当時原告が勤務していた岐阜営業所を訪れたA
副社長に対し,会社の営業姿勢を正し不正行為を止めるように直訴した。しか
し,A副社長は,「役員会で決めたことなので。」などと言ってこの訴えを拒絶し
た。
     原告は,この訴えで中継料の収受のみを問題にしたのではない。被告における
不正運賃収受の営業政策,経営姿勢が象徴的に表れているのが中継料の収
受であったため,まずこの点を直訴したにすぎない。原告は,A副社長の返答
を待って,更に,認可運賃は300円であるのにこれを超える500円の運賃を
収受している問題について言及するつもりであった。
     中継料の収受や違法運賃の収受は,本件ヤミカルテルを結び,営業活動によっ
て顧客を奪い合うことができない状態にして初めて可能となる。したがって,本
件ヤミカルテルの問題と中継料の問題とは密接に関係する。原告は,本件ヤ
ミカルテルの実態を凝縮したものとして中継料の収受を問題にしたのであり,
この問題を突破口とするつもりであった。
     中継料の収受そのものについても,他の運送会社に運送を委託しているといっ
ても実質的には自社中継と見るべきものについては,中継料を収受すべきで
なかった。被告は,その認可路線区域内にある業者に運送を委託する際,認
可運賃表に基づき改めてその距離と重量の運賃を収受していたが,これは二
重に運賃を収受するものであって,違法又は不当である。
   ウ 岐阜営業所長への訴え等
     原告は,昭和49年度に,岐阜市内に支店や営業所を持つ運送会社で構成する
トラック協会岐阜支部の総会に出席した。この総会で,認可運賃枠内の最高
運賃収受や荷主移動禁止など,違法運賃収受の方法が決められていった。
原告は,総会での決定事項をB岐阜営業所長に説明したが,その際,認可最
高運賃収受や荷主移動禁止条項が入ることによって営業活動が著しくやりに
くくなると話した。
     また,原告は,同所長から,トラック協会岐阜支部に提出するための誓約書に
岐阜営業所印と所長印をもらっているが,その際,同所長に荷主移動禁止は
よくないと強く話した。原告は,認可運賃を超える違法運賃の実態や,最低換
算重量を他社以上とすることによって自社の顧客が離れていく危険性を話し,
営業政策の面からも間違っていると主張した。
     被告が被告の顧客を奪った運送会社に荷主移動禁止の申合せに反したとして
抗議に行こうとしたときも,原告は反対した。
     なお,最低換算重量については,原告が上記のように強く主張した結果,被告
の他の営業所では運賃を水増しするため40㎏と設定されていたが,岐阜営
業所では正規の20㎏と設定することになった。
エ 被告の対応等
被告は,原告が内部告発を行った当時,不正運賃の問題を訴えても耳を傾
けたことがなく,本件ヤミカルテルや違法運賃の収受について反省し改善する
ような企業体質ではなかった。
A副社長は,上記イのとおり,原告の直訴を内容を確かめることもないまま
無視している。これは,被告には従業員の声を真剣に聞く姿勢がなかったこと
を意味する。
被告は,昭和49年8月1日に本件ヤミカルテルの記事が新聞に掲載された
翌日,社内のテレックスで「新聞に載った記事は当社には関係がない。ただ
し,荷主移動禁止のことなどは他言してはならない。」という通達を出し,本件
ヤミカルテルを隠そうとする態度に出た。また,被告は,同年10月16日に公
取委の立入検査があった後も,社内報(営業ニュース)に「立入検査に関して
も当社は関係がなく,一部の悪質な業者の仕業である。」との記事を掲載し
た。しかも,被告を含む運送会社は,東海道路線連盟が破棄公告を出し国会
で本件ヤミカルテルの問題が取り上げられてからも,なお違法運賃の収受を
続けていて,運輸省が行った特別監査の結果でも,不正運賃の収受が明らか
にされている。結局,原告が内部告発を行って新聞記事が掲載されるなどした
昭和49年8月から昭和50年9月までの間,被告に不正を改める態度はなか
った。
被告は,昭和50年8月19日から9月1日にかけて役員会等を開催するな
どして改善を図っていると主張するが,これらは原告が最初に内部告発を行っ
てから1年以上過ぎてから開催されたものであり,被告はそれまで全て隠し通
す方針であった。被告は,破棄公告を隠れみのにして違法運賃収受を続けて
いた。本件ヤミカルテルの実態は,認可枠内の最高運賃を最低として,それ以
上の違法運賃を各社が独自に収受するというものであったから,本件ヤミカル
テルと違法運賃収受は別の問題ではない。
オ 被告の労働組合の対応等
  原告が内部告発を行った後の労働組合役員らの発言等からすると,原告が
事前に労働組合に相談しても,労働組合が本件ヤミカルテル廃止等のために
行動することは期待できなかった。被告の労働組合の書記長は事実上被告の
経営に参加しているうえ,被告には再び会社に戻った労働組合の委員長や書
記長を経営者として処遇する慣行がある。被告の労働組合がヤミカルテルや
違法運賃収受について経営者の姿勢を追及したことはない。
被告労働組合のC委員長は,昭和54年10月,雑誌の取材に対し,「本人
は組合にひとことの相談もせずに,内部告発という手段で独走した。組合はこ
れを彼の売名行為と思っている。組織人としての手順を彼が踏まない以上,
何か支援することはないかなど言い出す必要はない。」などと述べている。
(被告の主張)
本件ヤミカルテルは,その存在が明確に認定されたものではない。また,原告
は,この問題を被告内部で適切に訴えたり相談したりすることなく外部に働きか
けた。
ア 本件ヤミカルテルの存否
     原告は本件ヤミカルテルが存在したと主張するが,そもそも本件ヤミカルテルの
存在が認定された事実はない。最終的には公取委が独禁法上の措置をとっ
たわけではないし,検察庁が被告を起訴したわけでもなく,違法であることが
確定したわけではない。
     破棄公告は,運送業界が誤解を受ける部分や疑わしい事実(独禁法に抵触す
るおそれ)があると判断して,自主的に一定の措置を取ったにすぎないもので
ある。公取委により立件されて独禁法上の措置が正式にとられることと,運送
業界が問題とされた部分を自主的に改善しこれにより立件が見送られることと
では,違法性の有無等について異なる評価を受けるべきである。
   イ 副社長への直訴の有無
    (ア) 直訴の有無
      A副社長が,昭和48年5月に同職に就任した後地方の営業所を訪問していた
事実はあるが,岐阜営業所を訪問したかどうかは不明である。A副社長が
原告から直訴を受けた記憶もない。仮にA副社長が岐阜営業所を訪問して
いたとしても,特定の従業員と会話をしたり特定の従業員から直訴を受ける
ような状況ではなかった。
    (イ) 直訴の内容
仮に原告が直訴していたとしても,その内容は中継料の収受の問題であ
って本件ヤミカルテルの問題ではない。
中継料は会社の規模,路線網,会社施設の配置状況によって決まる営
業政策の問題である。本件ヤミカルテルとは別個の問題であって,何らか
の法律に照らして違法となるものではない。中継料の収受がマスコミ,日消
連,検察庁等から違法行為として問題とされた事実はない。
原告が中継料の趣旨,実態と本件ヤミカルテルとの関連についてどのよ
うに考えていようとも,被告は当時原告からそのような考えを聞いたことが
ないのであるから無意味である。
   ウ 岐阜営業所長への訴え等
     原告が日頃からB岐阜営業所長に対し荷主移動禁止に反対したり違法運賃収
受を改めるように言っていた事実はない。仮に営業上の問題として同所長に
運賃の話をしたことがあったとしても,それは日常的な顧客対策として述べた
ものであって,ことさら独禁法違反,本件ヤミカルテルを問題としたものではな
い。顧客を奪った運送会社に抗議に行くことに原告が反対した事実や,原告
の訴えによって岐阜営業所だけ最低換算重量が20㎏に設定された事実もな
い。
エ 被告の対応等
A副社長が現場従業員からの直訴に対してその意を詳しく確かめなかった
としても,中継料の収受は会社の営業政策の問題であるから,従業員の声を
真剣に聞く姿勢がなかったと非難することはできない。また,A副社長への直
訴に関する事実関係は,本件ヤミカルテルが摘発されるよりも前の時点のも
のであるから,この事実関係を被告がその後に知った本件ヤミカルテルの問
題について反省がないことの根拠とすることはできない。
被告らは,公取委から指摘された協定を自主的に破棄し,昭和50年3月2
0日に破棄公告を出している。また,日消連からの指摘に対しては,昭和50
年8月19日に緊急役員会を開催して事実解明を協議し,同月20日に緊急支
店長会議を開催して運賃算定に関わる問題点の指摘と再発防止を指示し,同
月25日には通達で荷主すべてについて総点検を行うように指示したうえ,同
年9月1日遵法精神の徹底を重点方針として掲げてこれに取り組むこととして
いる。これらの対応は,公取委から指摘を受けた協定の問題とは別の最低換
算重量等の不正に関する日消連からの指摘を受けて行ったものであり,この
問題が新聞に掲載されたのは昭和50年8月以降である。したがって,原告が
内部告発を行ってから1年以上過ぎた後に初めて被告が改善策をとったとい
う原告の主張はあたらない。
当時,独禁法の適用について必ずしも峻厳な認識はなかった。規制緩和政
策の流れの中で運用が厳しくなったのは最近のことであり,現在の経済社会
や国民の法意識を基準に当時の被告の対応策を批判することは相当でな
い。被告は,当時としては,従来の経緯や法律の運用の実態,業界の実情等
を総合的に考慮して業界全体と歩調を合わせて一応十分な対応策をとってい
た。
   オ 被告の労働組合の対応等
     上記オの記事の内容は認める。しかし,労働組合や労働組合員のあり方は本
件とは無関係である。
  (2) 原告に対する不利益な取扱い等の有無1-主として旧教育研修所勤務時にお
けるもの
   ア 旧教育研修所への異動の経緯
    (原告の主張)
D教育部長代理兼教育研修所長代理は,原告に対し,本社内の教育部へ
の異動であると説明していて,旧教育研修所への異動であるとは言わなかっ
た。D教育部長代理は,原告に,教育の現場は教育研修所であるから1週間
ほど行って来るようにと言った。しかし,原告が旧教育研修所での1週間の勤
務を終えて本社に戻ったところ,D教育部長代理から原告の勤務先は教育研
修所であるから教育研修所に戻るように命じられた。被告は,原告に対し,原
告を旧教育研修所に異動させる理由や,なぜ原告に教育研修所での勤務の
適性があると考えたのか全く説明しなかった。このように,原告は,被告に騙さ
れて旧教育研修所に異動させられた。
(被告の主張)
     原告は当初から旧教育研修所での勤務とされていたのであり,原告を騙して旧
教育研修所に異動させた事実はない。被告は,原告に対して,教育研修所の
方を充実させることになったので今度はそちらに行ってほしい旨の説明をして
いる。
   イ 旧教育研修所での処遇
    (原告の主張)
    (ア) 仕事の内容
      旧教育研修所へ異動した後,原告には,旧教育研修所の周りやトレーラーコ
ースの草刈り,同コースの整備,近くの営業所に社内便を受け取りに行くこ
と,研修生等の送迎,研修後の布団の整頓,冬季のストーブへの給油等の
仕事しか与えられなかった。原告を運輸等の現場へ復帰させるとか,責任
と権限のある仕事に就けるという話は一度もなかった。
      このような仕事を専門に行っていたのは原告だけであり,他の従業員はそれ
ぞれの業務に付随して行っていたにすぎない。旧教育研修所に在籍する従
業員が3人となってからは,草刈り,コースの整備,給油はほとんど原告が
1人で行い,布団の上げ下ろしも事実上原告だけがしていた。
      逆に,原告には,数年で退社した従業員や女性事務員を除く原告以外の従業
員すべてが担当している研修の仕事,すなわち研修生に対する講義や指
導,各種検査の分析等の仕事がなかった。旧教育研修所に勤務する者は
教育に必要な知識を得るため社外研修に出かけることがあったが,原告に
はそのような機会が一度も与えられなかった。原告には上記事務のほかに
は特に専門業務はなかった。
      旧教育研修所での研修は毎日あるわけではなく,研修が行われるのは月に1
0日以下であった。1か月の勤務日数約25日のうち15日以上は研修がな
く,研修のない日は個室で外を眺めて過ごすしかなかった。
    (イ) 隔離等
      被告は,原告を旧教育研修所の2階にあった個室で約16年半にわたり1人で
勤務させた。そして,原告に上記(ア)のとおり通常業務と無関係な仕事のみ
をさせて従業員や他の会社の者から切り離し,原告が仕事を通じて社会と
接点を持ち,人間関係を深めることを不可能にした。このような状態は,直
接的に身体を拘束していなくても隔離監禁と同然である。
      旧教育研修所の開設以来,原告以外に個室に入れられて仕事をしていた職
員はいない。原告が旧教育研修所に異動した後も,何人かが旧教育研修
所に異動してきたが,すべて旧教育研修所の1階にあった事務室で仕事を
していた。
      旧教育研修所のE課長は,原告に対し毎日のように辞職を強要するのみなら
ず,原告が入っていた個室の廊下側の戸を閉めておくように言いつけ,研
修生との接触を禁じた。原告は,E課長に抗議し,F取締役やD教育部長代
理にE課長を注意するように申し入れたが,両名は聞き入れなかった。
      原告が2階の個室で仕事をしなければならない業務上の理由はない。1階の
事務室が,原告の机を置くことができないほど狭かったわけではない。ま
た,旧教育研修所が閉じられる何年も前から,1階の事務室で仕事をする
のは1人になり,机は4席か5席空いていた。安全部の職員が安全教室や
交通教室の時に旧教育研修所に来て1階の事務室の机を使用することは
あったが,これらは1か月に2回程度,数日間行われるに過ぎず,旧教育研
修所に来る職員も3人程度である。旧教育研修所に在籍する職員が減少し
たころには研修回数も減少していて,安全部の職員が絶えず出入りするこ
とはなかった。そもそも,旧教育研修所に在籍しているわけではない安全部
の職員が1階の事務室を使うという理由で,旧教育研修所に勤務していた
原告が2階の個室で仕事をしなければならないのは不合理である。なお,
自動車学校の教官が旧教育研修所に派遣されていた事実はない。
      安全適性検査の整理棚は旧教育研修所の2階に置かれていたが,そうである
としても原告がいた個室から整理棚までの距離と1階事務室から整理棚ま
での距離とに大きな違いはなく,整理棚にある書類の整理も月に数回行う
程度である。このことは,原告が2階の個室で仕事をしなければならない理
由にはならない。
    (被告の主張)
    (ア) 仕事の内容
      原告は,教育・研修に関する業務全般を担当していた。
      具体的には,研修スケジュールの管理・実施,教材の整理・セット・準備,文具
の購入,適性検査,個人台帳の記入整理,研修生の送迎・教室への案内,
教育終了後の教室の片付け・整理,給茶器・コーヒーのセット・片付け,研
修所資金の管理・精算,書類や荷物を引き取りに他の営業所へ行くこと,旧
教育研修所の建物やトレーラーコースの管理等である。
      原告がさせられていたと主張する仕事は,旧教育研修所における庶務の一つ
として原告が行っていたことはあるが,ことさら原告のみに担当させた事実
はない。必要に応じ,旧教育研修所の職員全員又は複数で,あるいは交替
で行っていた。旧教育研修所に在籍する職員が3名になってからは,1名は
専ら炊事が仕事であり,もう1名は身体に障害があったため,特に専門業務
がなく身体障害もない原告に体力的負担の重い労務が集中したにすぎず,
差別的な扱いをしたわけではない。「庶務」にあたる業務が原告の専門であ
ったわけではない。
      原告には研修生に対する講義や指導等の仕事がなかったが,これは他の職
員が担当していたので原告に担当させる必要がなかったためである。原告
には社外研修に出る機会が一度もなかったことは事実であるが,外部のセ
ミナーに行くのは講師を務める職員だけであり,講師を務めない原告はそ
のような研修を受ける必要がなかった。なお,原告は研修生の適性検査を
担当していて,指導業務を全く担当していなかったわけではない。
      研修のない日が月に15日以上あったとしても,研修に関連する業務や庶務は
あるから,何もしないで過ごすことはない。また,この状況は他の職員も同
様であり,原告のみが例外ではない。
    (イ) 隔離等
      被告が,原告を他の職員と切り離して接点を持たせなかった事実はない。原
告が旧教育研修所に勤務していたとき,旧教育研修所には所長以下5人~
9人(炊事係を含めると最大11人)が在籍していた。原告は他の職員や研
修生と話をすることができ,むしろ特定の支店や営業所に勤務するよりも様
々な者と話をする機会があった。
      原告の仕事場所は旧教育研修所の2階にある個室であったが,これは,当時
旧教育研修所1階の事務室が狭く職員全員が個々の机を持てない状況で
あったことや,安全適性検査の書類整理棚が2階にあったため,これに近
い2階で仕事をするほうが便宜であったことによる。原告が入っていた個室
は,6畳を少し超える大きさで窓もあり,部屋に鍵を掛けたわけではなく自由
に出入りができるものであった。原告は,使いや金銭の精算のため他の営
業所や本社に単独で行っていた。個室に配置したからといって,通常許容さ
れる労働環境である限り法律上違法な「隔離監禁」にはあたらない。
      旧教育研修所の人員が減った時期に原告を1階に移動させなかったのは,原
告が従来と同じ業務を担当する限り移動させる必要がなかったからであり,
原告からも特に要求がなかった。また,旧教育研修所の職員が減少した後
も,1階の事務室には安全部の職員や自動車学校の教官が絶えず出入り
し,旧教育研修所の職員が使っていた机を使用することもあったので,完全
に席が空いたわけではない。結局,旧教育研修所の所属人員が減って1か
月のうち多少の空白期間が生まれたものの,恒常的に机に余裕が生じる状
態ではなかったため,原告の部屋や机を移すことは実情にそぐわなかっ
た。新教育研修所に移ってからは,部屋が多くなったため,安全部の職員
が,原告のいる事務室とは別の部屋で仕事をするようになっている。
ウ 昇格停止等
    (原告の主張)
     原告は,前記争いのない事実等(4)イのとおり,昭和48年に主任補(4級)になっ
てから現在に至るまで昇格がなく,他の従業員との間に賃金格差が生じてい
る。また,昇格がないため資格給が支給されず,職務給も低位にされてきた。
号数についても,通常であれば毎年4号増えるのに原告は1号のみの増加に
抑えられてきた。
    (被告の主張)
     原告の号数は,平成元年より前及び平成10年以後は毎年2号増加している。
   エ 上記取扱いの違法性(上記取扱いが内部告発を理由とするものか否か。)
    (原告の主張)
     被告による上記取扱いは,原告の内部告発に対する報復である。これは,雇用
契約上の平等取扱義務,人格尊重義務,配慮義務などに違反する債務不履
行である。また,人事権の行使に名を借りて人格権を侵害する不法行為であ
る。
    (ア) 原告が旧教育研修所に異動するまでの経緯,被告が本件ヤミカルテル等の
報道等について原告の関与を認識していたこと等
     a 原告は,読売新聞に本件ヤミカルテルの記事が掲載されたことが原因で,岐
阜営業所から日の出営業所への異動を命じられた。
       原告は被告の名古屋支店で東京本部のG取締役から内部告発を行った詳し
い事情を聞かれた。G取締役は,この報道が公取委の立入検査に結び
ついたことも知っていた。
     b 原告は,日の出営業所に異動した後,大口荷主の支店長に対し,運送業界
には本件ヤミカルテルがあり,荷主移動禁止条項があるため荷主が運送
会社を選ぶことができない状態になっていて,運送会社から認可運賃枠
内の最高運賃を収受すると言われても,荷主は他の運送会社を選ぶこと
ができなくなっているなどと説明し,これをH神奈川支店長にも伝えた。こ
のように,原告が本件ヤミカルテル等を追及する姿勢を明らかにしていた
ため,東京本部のI取締役人事部長とH神奈川支店長が相談し,原告を
現場の営業所に置いていては危険だとして,日の出営業所へ異動してか
ら5か月にも満たないのに,原告を本件ヤミカルテル等の実態を知ること
ができない東京本部へ異動させて監視した。なお,上記大口荷主の支店
長が被告に原告の行動について苦情を言った事実はない。同支店長
は,原告の意向をくんで被告に本件ヤミカルテルを止めさせるための抗
議の電話をした。
     c 衆議院物価問題等特別委員会において本件ヤミカルテルの問題が取り上げ
られたとき,質問したU議員は,「東海道路線連盟の者から内部告発があ
って暴露された」,「トナミという運輸会社がいつも情報を出しておる」,
「私のところにあるのは岐阜県トラック協会のもの」などと発言している。
G取締役はU議員の上記質問が原告の渡した資料に基づいているので
はないかと疑って原告を問いただし,原告はこの事実を認めた。G取締役
は,原告に対し,社内の資料を持ち出したとして処分するとも言った。した
がって,被告は,上記委員会で本件ヤミカルテルの問題が取り上げられ
たことに原告が関与していることを認識していた。
     d 日消連による告発についても,被告は原告が関与していることを認識してい
た。原告は,本社機能の移転に伴って高岡市に帰省した数日後,J取締
役から原告が日消連の告発をやったのかと聞かれて,日消連に協力して
やってもらいましたと話している。また,原告は,そのころ,K副社長やI取
締役人事部長とも会い,両名から退社を求められている。これは両名が
日消連による告発には原告が協力していると考えていたためである。
     e 以上のとおり,被告の経営者や被告本社勤務の管理職以上の者は,原告が
旧教育研修所へ異動する昭和50年10月までに,原告が読売新聞への
告発を行ったこと,これに続く公取委の立入検査,衆議院物価問題等特
別委員会での質問及び日消連による東京地方検察庁への告発等に原
告が関与していたことを知っていた。
なお,被告は,原告の日の出営業所前後の異動について,原告の行
動が目立っていたため,現場の上司よりも上部で異動が決められたと主
張している。そうであれば,被告は,旧教育研修所への異動を命じる前
に,原告が本件ヤミカルテルや違法運賃の追及をし続けていたことを知
っていたことになる。
    (イ) 旧教育研修所への異動の理由
      被告は,原告による一連の内部告発に対する報復として,原告を旧教育研修
所に異動させた。また,被告は,原告の内部告発が原因で東京地方検察庁
に告発され,運輸省からも特別監査を受けて実態を明らかにされるなどした
ため,原告を会社の秘密や内情に触れる部署に異動させることはできず,
これ以上内部告発ができないような場所へ異動させようと考えた。被告は
原告を退職させたいとも考えていて,原告を2階の個室に入れておけば,や
がては被告を辞めていくだろうという思惑も持っていた。D教育部長代理兼
教育研修所長代理は,予め旧教育研修所の2階に原告を隔離監禁するの
に都合のいい部屋があることを探し出していて,それゆえ原告を旧教育研
修所に異動させることとし,自ら原告を同部屋に案内した。
      被告は,原告の適性を考慮して異動を決めたと主張するが,そのような事実
はない。むしろ,被告は,原告が読売新聞に本件ヤミカルテルの情報を提
供したことが社内で知られていて引受先が見つからなかったため,人事部と
して,引受け可能な旧教育研修所に異動させたとも主張していて,後者が
真の異動の理由である。
      原告には講義や研修の仕事がなく,社外研修に出る機会も与えられなかっ
た。このことは,原告の旧教育研修所への異動が原告の適性を考慮して決
定されたものではなかったことを示している。
    (ウ) 旧教育研修所に異動後,昇格や異動がなかった理由(新教育研修所勤務
時におけるものも含む。)
     a 原告の対決的,非融和的姿勢について
       マスコミへの投書等により自己の意思を発表することは,国民として当然の
権利行使である。投書の内容は,企業を正しくするためのものである。社
会の公器である新聞等が,原告の訴えには社会的意義があると考えた
から,原告の投書を掲載し,あるいは原告への取材を申し込んだのであ
る。
       被告は,本件ヤミカルテルを結び違法な運賃を収受しながら,何ら反省する
ことなくその実態を隠し通そうとしたうえ,逆に原告に対して退職を強要し
た。先に対決的,非融和的姿勢をとったのは被告である。
     b 原告の勤務態度等について
       原告が被告に異動希望を述べたり異動についての質問をするなどしなかっ
たのは,被告が原告の要望を聞こうとしなかったためである。そもそも,
被告は,原告については会社の秘密や内情に触れるような業務への異
動や昇格をさせられないと考えており,原告を異動させることが可能な業
務はなかったのであるから,原告が異動を申し出たとしてもそれが実現
することはなかった。
       原告が忙しくしている同僚を手伝わなかった事実はない。被告の主張は具体
的な事例に基づかない抽象的なものである。
       被告は,報復として原告から仕事を取り上げ,昇格昇進を停止したことを,原
告の仕事に対する意欲の問題にすり替えている。そもそも,被告が原告
にさせていた仕事は,その内容からみて昇進昇格の対象となるようなも
のではなかった。
       原告は毎年開かれるシンポジウムに出席するため有給休暇を取得してい
た。しかし,このシンポジウムは通常金曜日,土曜日及び日曜日の3日
間開催されるものであり,これに出席するために取得した有給休暇は金
曜日の1日にすぎない。しかも,原告はこのシンポジウムに昭和59年か
ら平成12年までの17年間で15回参加したが,この開催日と新旧教育
研修所で行われた研修とが重なったことはない。外国旅行については,
原告は,平成元年4月,平成4年4月,平成7年10月及び平成12年10
月の4回,それぞれ8日~9日間行き,そのために有給休暇を取得した。
しかし,その時期は4月と10月であり被告が特に繁忙期となる7月や12
月ではない。3月から6月は繁忙期ではない。また,旧教育研修所勤務
時の旅行については上司及び当時のL所長に,新教育研修所勤務時の
旅行については当時のM所長やN所長に事前に話して有給休暇申請書
を提出している。そもそも,有給休暇は権利であって,「労働者の請求す
る時季に与えなければならない」ものである。会社に時季変更権があると
しても,事業の正常な運営を妨げる場合でなければならないが,そもそも
原告には調整が必要な仕事を与えられていなかったのであるから,原告
の有給休暇の取得が被告の事業の正常な運営を妨げたことはなく,被告
から取得日の変更を求められた事実もない。被告は,一方的な権利行使
の前に事実上の調整行為がなされるのが実際であると主張するが,繁
忙期であるとか人数の少ない職場であることを理由に事前の調整を要請
し取得時期の変更を求めるのでは有給休暇を権利として認めないに等し
い。
     c 周囲の者の評価について
       原告が下部の職員から嫌がられていた事実や,同僚から期待されていなか
った事実はない。いずれも,具体的な事実に基づかない主張にすぎな
い。むしろ,原告が嫌がられるような雰囲気を作りこれを増長させようとし
たのは,被告の経営者である。
     d 原告の意思について
      (a) 被告は,原告が昭和52年1月25日以後解雇されるために異動を拒否し
ていたと主張しているが,原告は異動を拒否すれば解雇されるかもし
れないと覚悟したのであって,解雇されるために異動を拒否したので
はない。「これ以上の転勤は拒否するつもりだ。」と述べたのは,岐阜
営業所から旧教育研修所までの3度にわたる詐術をも用いた不当な
異動の経過を踏まえ,以後は不当な異動を拒否するという決意を表し
たものである。したがって,原告は被告の処遇を受忍していたわけで
はない。被告には,原告を個室に閉じこめて仕事らしい仕事を与えず,
昇進昇格もさせなければ,いずれ辞めていくだろうという思惑があっ
た。原告は,会社の方針がそうであればこそ,むしろ自ら会社を辞める
わけにはいかないと決意していた。
      (b) 新教育研修所に移転する前に,O安全部長代理が原告を「自分の部門に
来ないか」と誘った事実はない。Oが交通教室等実施のため旧教育研
修所に来て原告と会うことはあったが,あいさつを交わす程度であり異
動の話はなかった。
    (エ) まとめ
      原告の岐阜営業所から日の出営業所への異動,日の出営業所から東京本部
への異動,本社機能の移転に伴い東京から高岡市に移ってきてからの旧
教育研修所への異動及びこの異動後原告を2階の個室に隔離して仕事ら
しい仕事を与えず,また,一度も昇格させなかったことは,すべて原告の内
部告発を理由とするものであるから違法である。
    (被告の主張)
     被告が原告を旧教育研修所に異動させたのは,原告が内部告発を行ったから
ではなく,原告の適性を考慮したことによる。また,原告を昇格させなかったの
は,原告が被告に対して対決的姿勢を示したりその勤務態度が芳しくなかっ
たりしたためであり,これも内部告発を理由とするものではない。
    (ア) 原告が旧教育研修所に異動するまでの経緯,被告がヤミカルテル等の報道
等について原告の関与を認識していたこと等
      原告は,一連の内部告発のうち読売新聞への情報提供以外については原告
の関与を明らかにしていなかった。そのため,被告は,公取委の立入検査
や,日消連による被告らの告発等について,原告が直接関与していたとい
う認識はなかった。
      ただし,G取締役が,衆議院物価問題等特別委員会で本件ヤミカルテル問題
が取り上げられた後,原告を呼んで話を聞き,そのとき原告が自分が関与
した旨述べたことや,G取締役が会社の資料を無断で持ち出して外部の者
に渡したことは制裁に値すると述べたことは事実であり,被告は,同委員会
での質問については原告が関与していたことを認識していた。また,その他
の異動についても,原告の行動が目立っていたので,現場の上司よりもより
上部で異動が決められた事実はある。
      なお,上記(ア)bにつき,被告が原告を東京本部に異動させたからといって,原
告を重要な情報から遠ざける意図があったわけではない。日の出営業所か
らの異動の経緯は,原告が担当していた荷主の支店長から,東京本部に,
「この人(原告)を営業によこさないでほしい。来てもヤミカルテルの話をまく
し立てるだけで一体何をしに当社に来ているのか分からず迷惑である。」と
いう申出があったため,本社レベルで協議して異動させることとしたというも
のである。本件ヤミカルテルについてことさら取引相手に話すことは,被告
の職員としての業務を逸脱しており,被告としてこれに対処することは当然
である。
    (イ) 旧教育研修所への異動の理由
      旧教育研修所への異動は,原告の内部告発に対する報復ではない。
      被告は,上記のとおり,読売新聞への情報提供と衆議院物価問題等特別委
員会で本件ヤミカルテル問題が取り上げられたこと以外については,原告
が関与しているとの認識がなかった。
      原告に旧教育研修所への異動を命じた経緯は,被告の本社機能が東京から
高岡市に移ったことに伴い,原告を富山地区に配属することとなったが,原
告が読売新聞に情報提供したことは社内で知られていたため,原告の引受
けを了承する部署がなく,そのため,人事部として旧教育研修所に配属した
というものである。被告は,昭和50年8月の組織改編で,人事部教育課を
教育部に改編し教育部門を強化したため,その職員を充実させるため,原
告の適性を考慮したうえで異動を決めた。原告を引き受ける部署が見つか
らなかったとしても,被告に解雇の意思がない以上はどこかに勤務場所を
見つけだすことが必要となり,その場合には当然原告の適性を考慮する。し
たがって,異動先を決めるにあたり社内で引受先が見つからなかったことと
原告の適性を考慮したこととは矛盾しない。
      原告は講師等の仕事はしていなかったが,被告は原告には講師以外の仕事
に適性があるとしてそのようにしていたものである。従業員にどのような業
務を担当させるかについては被告に裁量権があり,旧教育研修所に配属し
たからといって原告を講師等の指導業務に従事させなければならない義務
はない。
      1階と2階とで,旧教育研修所の業務の内情や秘密に触れるかどうかに大き
な違いはない。仮に被告が業務の内情や秘密に触れさせないようにする目
的で原告を個室に置いていたのであれば,新教育研修所に移転した後も同
様に原告を個室に置く必要があるが,被告はそのようにはしていない。
    (ウ) 旧教育研修所に異動後,昇格や異動がなかった理由(新教育研修所勤務
時におけるものも含む。)
     a 原告の対決的,非融和的姿勢
       原告は,旧教育研修所に異動後,マスコミへの投書や取材に対する応答を
通じて,原告が本件ヤミカルテルの告発行為等に関与したことを公然と
明らかにするとともに,会社に対する対決的,非融和的姿勢を強め,「も
うこれ以上の転勤は拒否するつもりだ」(甲11),「会社を辞める決意をし
ている」(甲13)などと,「異動拒否」や「退社の決意」を表明したり,「仕事
らしい仕事はなかった」(甲15)などと事実と異なる説明をするなどした。
       被告において,投書等に表れる原告の意思を,被告に対する原告の姿勢と
して評価することは自由であり,上記のような言動から,ひいては仕事に
対する熱意や昇進昇格への熱意がないと受け取ることは当然である。被
告が,原告の上記言動を被告への対決的,非融和的姿勢であると判断
して人事において具体的に消極的な評価をしたとしても,社会通念上許
容される範囲内であって違法ではない。会社外の言論活動であっても,
広範な人事異動の権限を有する企業が,これを人事異動に関する全人
格的判断の材料として考慮することは許される。
     b 原告の勤務態度等
       原告には,与えられた仕事に熱意を持って取り組み,別の仕事への異動の
意欲を訴えるという態度がなかった。原告は,同僚が忙しいときにも進ん
で手伝わず,趣味のシンポジウムへの出席や外国旅行のため自分の都
合で休みを取るなど,上司として推薦できない仕事ぶりであった。そのた
め,被告の秘密や内情に触れる業務への異動・昇進や給与が上がるよう
な昇格をさせられる状況ではなかった。原告に資格給が支給されず,そ
の職務給や号数の上昇が低かったのは,このような原告の仕事ぶりと意
欲を評価した結果であって差別ではない。
       有給休暇について,研修が重なり忙しい時期であったため原告にその変更
を求めたところ,原告から既に決めているとの理由で断られたことがあっ
た。自己の都合で休暇を取得できることが原則であるとしても,事前に被
告の繁忙状態とすりあわせることなく一方的に休暇を決めてしまい,被告
が調整を頼んでも他の職員や業務の都合を考慮しようとする態度がなか
ったことは,不利益に評価されてもやむを得ない。教育研修所では金曜
日に研修行事が入ることが多かったのに,原告は趣味のシンポジウムへ
の出席等のために金曜日に休暇を取得することがしばしばあった。また,
3月から6月は新入社員の研修が集中する繁忙期であるのに,この時期
に外国旅行に行ったこともあった。M所長時代の平成7年には,原告が
上記のとおり一方的に外国旅行に行ってしまったこともあった。
       原告は外国旅行に行くため休暇を取ることは事前に当時の所長に申請して
いたと主張するが,それ以前に,原告には仕事との調整をして円満に休
暇を取得しようとする姿勢がなかったことが問題である。法律上は,労働
者の一方的時季指定に対し使用者が一方的に変更権を行使する建前に
なっているが,実際には一方的な権利行使の形をとる前に事実上の調整
をするのが通常である。少人数の職場で休暇を取る場合に,労働者に対
し事前の調整を要請することは,労働法上何ら違法ではない。その調整
ができないときに究極的に労働者の権利として休暇取得権を行使するこ
とは法律上当然であるとしても,その段階以前において話し合いの姿勢
がない原告の態度を非協調的と評価することは許される。
     c 周囲の者の評価
       原告は,上記のような勤務態度であったため,同僚からは期待されず,下部
の者からは嫌がられる状態であった。
     d 原告の意思
      (a) 原告は,昭和52年1月25日以後,解雇されるために自ら異動を拒否し,
その意思を表明していた。したがって,原告は,少なくともこの時点以
後,自らの意思に基づいて教育研修所に配属されていたか,この状態
を受忍していた。原告は,法的手段に訴えなければ事態の改善が不
可能と考えていたのに,これまで法的手段をとっておらず,これは教育
研修所に在籍することを自ら受忍したものである。このように,原告が
教育研修所に配属されていたのは原告の意思に基づくものであるか
ら,違法性がない。
      (b) 新教育研修所に異動する前,O安全部長代理が原告に対し「自分の部門
に来ないか」と誘ったが,原告はこれを断った。
    (エ) まとめ
      被告が原告に旧教育研修所への異動を命じたのは,内部告発に対する報復
ではない。以後原告の異動や昇格がなかったのは,原告が本件ヤミカルテ
ル告発等への関与や,被告への対決的姿勢,異動拒否等の決意を公然と
表明し,かつ,旧教育研修所における業務に熱意を持って取り組むこともな
く,したがって職務遂行に対する評価が低かったことや,原告からも異動の
希望が一切なかったことから,原告には責任や権限の大きい他の職務への
異動や,昇給・昇格させる適性がないと判断されたためである。また,原告
が隔離監禁と主張するような事実もなかった。
      労働契約の法理上人事異動等については会社に裁量権がある。以上の経
緯,理由に基づき,原告の旧教育研修所での勤務が継続し,また,原告を
昇格させなかったことは,使用者の有する人事権の裁量の範囲内にあると
いうべきであり,違法性はない。
   オ 退職強要行為
    (原告の主張)
     被告は,次のとおり原告及びその親族に対して退職を強要するなどした。
     被告によるこの行為も原告の内部告発を理由とするものであり,上記エと同様
に,雇用契約上の債務不履行又は不法行為である。
(ア) 原告が本社機能の移転に伴って高岡市に戻ってから旧教育研修所に異
動するまでの間に,K副社長は原告に「君は今後会社で昇格させてもらえな
い。私に身柄を預けないか。」と言って退職を強要した。I取締役人事部長も
長時間にわたり退職を強要した。また,K副社長は,昭和51年3月ころ,県
議会議員方に原告の兄Vを呼び出し,原告のヤミカルテルの内部告発で被
告も非常に困っている,早く原告に会社を辞めさせるよう努力してくれなどと
言って,原告に退社を説得するように依頼した。
(イ) 昭和51年4月8日,暴力団員が原告方を訪れ,2時間近くにわたって原
告やその家族に対し危害を加えるような言動をして脅迫し,原告に退職願
を書くように要求した。上記暴力団員風の者を原告方に向かわせたのは,
被告のP常務取締役である。
(ウ) 被告のF取締役は,原告に対し3回から4回にわたり直接退職を求め,
午後8時ころから翌朝4時ころまで原告方に居て原告に退職を迫ったことも
あった。また,F取締役は,当時新湊市役所に勤めていた原告の兄Vに対
し,「弟を説得できないのなら,代議士から市長に申し入れて,Vさん,あん
たを(市役所から)辞めさせることになりかねませんよ。」と脅した。
このようにF取締役に退職強要行為をさせていたのも,P取締役である。
F取締役は,個人の意思ではなく,被告の意向を受けて原告を辞職させよう
とした。
Q代議士は,原告が内部告発をしたころ被告の代表取締役会長の職に
あり,それ以前からも,創業者一家として,あるいは大株主として被告に対
する大きな影響力を持ち続けていた。したがって,同代議士は無関係では
ない。また,自由民主党に所属する同代議士と,以前は同党の国会議員で
あった上記市長とが話し合うことは,ありうることである。
    (エ) P取締役は,旧教育研修所に勤務していた職員に対し,原告が同職員を殴
って逮捕されるように仕向けさせ,これを理由に原告を懲戒解雇するという
計画を打診した。
    (オ) 旧教育研修所に異動した後,E課長は,毎日原告の部屋に入ってきて退社
を強要した。M教育課長も,E課長と一緒に原告の部屋に来ていた。
    (被告の主張)
     被告が原告に対して会社を辞めるように圧力をかけた事実はない。
    (ア) 上記(ア)は否認する。
    (イ) 上記(イ)は知らない。
    (ウ) F取締役が原告方を訪れたことは事実である。しかし,それはF取締役個人
の意思で行ったものであり,被告の意向でなされたものではない。F取締役
は原告と同じ富山県新湊市出身で,同市出身者の相談役的存在であった
ため,個人的に心配して原告を訪問したものである。取締役の行為であっ
ても,個人的発意に基づく行為と上級役員の指示等に基づく行為とは区別
される。上級役員がF取締役に原告方を訪問するよう指示した事実等はな
い。
      Q代議士は,当時国会議員として多忙であったため実質的な経営には関わっ
ていなかったし,原告の処遇問題にも関わっていない。同代議士が創業者
一家として敬愛の念を抱かれ,被告の大株主として影響力を行使できる立
場にあるとしても,また一連の内部告発に係る問題について責任のある立
場にあったとしても,そのことと原告の処遇問題に関わっていたかどうかは
別の問題である。
    (エ) 上記(エ)は否認する。
    (オ) 上記(オ)は否認する。
  (3) 原告に対する不利益な取扱い等の有無2-新教育研修所への移転時以後につ
いて
   ア 新教育研修所に移った経緯
    (被告の主張)
    (ア) 経緯の概要(異動等の説明にあたった者の順序を含む)
      平成4年6月の新教育研修所への移転の際,被告は原告がそのまま新教育
研修所に移ると考えていたが,原告が新教育研修所に移ることを拒否して
いると人事部に伝えられたため,R人事部長が,原告の真意を確かめ,ま
た新教育研修所へ移るように説得するため原告と面談した。
      原告は,旧教育研修所は取り壊されるのに,「ここに残る。新築の教育研修所
へは異動しない。」などと言った。R人事部長が,「残るといっても研修所の
事務所がここにはなくなるのにどうするつもりなのか。」と聞くと,「まだ草む
しりの仕事もある。」とか,「隣接する自動車学校の雑用でも何でもして残
る。」と答えた。この面談で,R人事部長は原告に「中央支店」,「産品センタ
ー」,「物販部」への異動を打診したが,原告はこれを拒否した。そこで,R人
事部長が職務や勤務場所の希望を聞いたところ,原告は「会社がボランテ
ィアみたいな事業に乗り出してくれれば,それを担当したい。」と非現実的な
ことを言った。このように,原告は,新教育研修所へそのまま移ることは施
設の状況,通勤時間等の点で原告にとって改善されるものであるのに,取
り壊される施設に残るという自分勝手な意思表示を行って新教育研修所に
移ることを拒否し,中央支店等への異動の打診も拒否し,ボランティアのよ
うな仕事等の希望を述べた。そこでL教育部長兼教育研修所長も説得に赴
き,結局,R人事部長やL所長らが3度にわたって他部門への異動を勧め,
どうしても嫌なら新教育研修所へそのまま移るようにと説得して,ようやく原
告は新教育研修所へ移ることに応じた。
      原告はまずR人事部長が厚生年金会館への異動の説得を試み,その後L所
長が原告に会いに来たと主張するが,仮に業務としての厚生年金会館への
異動であれば,直属の上司であるL所長が原告に内示をするはずであり,
いきなり人事部長が個別の異動の指示に赴くことはない。
    (イ) 異動先について
      原告は,被告から「厚生年金会館」への異動を命じられたと主張するが,職務
としての厚生年金会館への異動は選択肢のひとつとして上ったにすぎず,
特に厚生年金会館への異動を命じた事実はない。仮にR人事部長の説明
の中で「厚生年金会館への移転」という表現があったとしても,新教育研修
所が新築の厚生年金会館の建物内に設置されることになったため,新教育
研修所に移ることを指してそのように表現したにすぎない。被告が,最初か
ら原告を職務としての「厚生年金会館」に異動させようとした事実はない。
      原告は,被告が原告に対するそれまでの処遇を謝罪して反省し,原告を正当
に評価した結果の異動や転勤であれば拒否しなかったかのようにいうが,
そのような条件を付けることが異動拒否を正当化するものではない。
    (ウ) 詐術を用いた事実について
      R人事部長が新教育研修所には事務所がなくなるとの詐術を用いた事実はな
い。原告が事務所がなくなるとの詐術を使われたと主張するのは,教育研
修所の事務所が「ここにはなくなるのに」とのR人事部長の言葉を歪曲して
述べているにすぎない。
    (エ) 原告がボランティアのような仕事をしたいと言ったことについて
      原告は自分の仕事としてボランティアのような仕事をやりたいと言ったが,被
告は会社として原告のためにそのような仕事を作る用意はなく,非現実的
であると述べた。被告はその約2年後に財団法人トナミ松寿会を設立した
が,被告の職員は必要なときにその業務を手伝うだけであり,専任の職員
や出向社員もいない。したがって,原告をボランティアのような仕事に専念さ
せることが非現実的であったことに変わりはない。また,総会屋に関するや
りとりはなかったし,仮にそれらしい会話があったとしても,R人事部長が原
告の異動に関する面談の席で総会屋対策という重大な問題について責任
を持った発言をする義務はない。人事異動の面談の席でなされた一社員の
提案に対し,被告が原告と議論を続けたり原告の満足する対応を示さなけ
ればならない理由はない。
      結局,原告はボランティアのような仕事とか総会屋対策の仕事をしたいなどと
現実的でない回答をし,妥当性のある異動の希望先を述べなかった。
    (原告の主張)
    (ア) 経緯の概要(異動等の説明にあたった者の順序を含む)
      まずR人事部長が2度原告に対し厚生年金会館へ異動するように説得した
が,原告が応じなかったため,次にL教育部長兼教育研修所長が原告に会
いに来た。原告は,L所長に,R人事部長とのやりとり,すなわち,原告は新
教育研修所で勤務するものと思っていたこと,R人事部長が新教育研修所
には事務所がないと言っていたことを話した。その結果,L所長は,原告を
新教育研修所で勤務させることに応じた。
      R人事部長が原告に「中央支店」,「産品センター」,「物販部」への異動を打診
した事実はない。これらの部署はまさに会社の秘密や内情に触れる業務の
最前線であり,被告がこのような部署への異動を打診するはずはない。ま
た,原告は長期間現場から離れ,年齢も当時45歳になっていて,同期の者
とは地位や責任,権限の面で差がついてしまっていた。したがって,仮に被
告から中央支店等での勤務の打診があれば,原告はどのような権限と責
任が与えられるのか質問したはずである。しかし,被告がこの点を説明した
事実は明らかになっていない。
      原告が新教育研修所で勤務することを拒否した事実はない。むしろ,原告は
当初から新教育研修所への単なる引越であると考えていた。原告があくま
で旧教育研修所に残ると言った事実はないし,「隣接する自動車学校の雑
用でも何でもして残る。」などといった事実もない。
      わざわざ本社からR人事部長が来たのは,単なる新教育研修所への引越で
あるという話をするためではない。被告は,厚生年金会館への異動を意図
していたのであれば,直属の上司であるL所長が異動を内示するのであり,
いきなり人事部長が個別の異動の指示に赴くことはないと主張するが,たと
え一般的にはそうであっても,昭和49年から昭和50年にかけての原告の
異動においては,直属の上司が異動を考え,命じたことはなかったのである
から,直属の上司ではないR人事部長が原告に異動を伝えに来ることは不
思議ではない。
    (イ) 異動先について
      R人事部長から原告に最初に示された異動先は厚生年金会館であり,新教育
研修所に移ることではなかった。その後,R人事部長に代わってL所長が会
いに来たことにより,原告は新教育研修所で勤務することとなった。
      原告は,仮に厚生年金会館に異動すれば,そこでの仕事は,厚生年金会館の
宿泊の世話や,食堂関係の仕事,会館の周りの草刈りなど,将来的に可能
性が広がり希望の持てるものではないことが分かったうえ,日曜日が休み
でなくなり宿直も多くなるなど日常生活が不規則になる仕事でもあったた
め,異動を拒否した。
      厚生年金会館への異動は,旧教育研修所に閉じこめた状態を改善しようとす
るものではなく,表面上隔離監禁でないという姿に変化したにすぎない。被
告は,原告を引き続き隔離監禁したいと考えていたが,そのような場所が見
つからなかったため,やむを得ず被告の本体事業とは関係のない厚生年金
会館へ原告を出向させようとした。結局,原告は,被告が内部告発をいまだ
会社への反逆としか捉えていないことを感じたため,解雇覚悟で厚生年金
会館への異動を拒否した。
      この時の異動話も,たまたま旧教育研修所が古くなって建て替える必要が生じ
たために生まれたにすぎない。新教育研修所建設という事情がなければ,
原告にはおよそ異動話がなく,現に,旧教育研修所に異動してから現在に
至るまでこの1度しか異動の話はなかった。
    (ウ) 詐術を用いた事実について
      R人事部長は,厚生年金会館への異動を説得する際,新しい教育研修所には
事務所がなくなるという偽りの事実を言った。
    (エ) 原告がボランティアのような仕事をしたいと言ったことについて
      ボランティアのような仕事をしたいという原告の考えは,非現実的ではない。被
告は,平成6年3月に福祉財団を設立している。そもそも,原告が思い描い
ていたのは,二,三人規模による社会貢献課のような存在である。原告は
公共の目的のために経営資源を活用することを訴えたが,R人事部長から
は何ら応答がなかった。原告は,それが難しいのであれば,会社が法的に
間違いを犯さないように,あるいは総会屋などに金を渡すことのないように
するため企業倫理課を設けるべきであると言った。これに対し,R人事部長
は,即座に「そんなことができるのか。」と言い,現実的でないという意思表
示をした。
      原告は,被告により長期間現場から離されており,精神的にも年齢的にも現
場への復帰などできない状況になっていた。だからこそ,原告は被告内で
力を発揮できる場所として,社会貢献課のような部署の新設を望んだ。
   イ 新教育研修所での処遇
    (原告の主張)
    (ア) 仕事の内容等
      新教育研修所に移ってからも,原告の仕事は,新聞代金を払うこと,1か月に
2度の新入社員教育の際に受講生を迎えに行くこと,研修時に湯飲みやコ
ーヒーカップを洗うことなどである。業務の内容は,旧教育研修所時代から
現在まで変わりがない。
      新教育研修所が入っている建物に勤務する他のすべての者にはノート型パソ
コンが与えられているが,原告には与えられていない。新教育研修所に参
与として勤務している者にもノート型パソコンが与えられている。事務室に
はデスク型のパソコンがあるが,原告が使っていいという許可はない。被告
は,原告にはパソコンを与えず,あるいはパソコンを必要としない業務をさ
せて差別している。
    (イ) 労働環境,昇格停止等
      原告の仕事場所が個室でなくなったのは,旧教育研修所2階個室での隔離監
禁が,新教育研修所では目に見える方法でできなくなったというにすぎな
い。被告は,原告を新教育研修所で勤務させると個室に隔離することがで
きなくなるため,厚生年金会館へ異動させようとして,新教育研修所には事
務所がなくなるという詐術を用いた。異動に際して詐術を用いるのは旧教育
研修所への異動時と同じであり,被告の原告に対する根本的な姿勢は変
わっていない。
      新教育研修所に移ってからも,原告には仕事をさせない,原告を昇格昇進さ
せないという被告の方針は一貫して継続している。新教育研修所に移って
からは,原告を衆人の前で仕事のない人間としてさらし者にしたのであり,
いわば「格子なき牢獄」にいるという状態に置いた。したがって,旧教育研修
所での隔離監禁状態が終わったとはいえない。
    (ウ) 勤務態度等
      被告は原告が朝礼を行う仕事を適切にできなかったかのように主張するが,
M教育研修所長の言うとおりに話さない限り研修目的と関係がないことや
自己の信念を述べていると評価するのは不当である。また,わずか1回の
結果から原告には指導業務に従事させる適性がないと判断することも不当
である。
    (被告の主張)
    (ア) 仕事の内容等
      原告は,労働環境において,電話やパソコン等を自由に使用できる状態にあ
る。新教育研修所内には共通に使用するパソコンが1台あるだけであり,原
告以外に1人1台あるわけではない。業務上必要があれば誰でも使用する
ことができ,そもそも許可がなければ使用できないという実態がない。厚生
年金基金等の社員は被告からの出向社員であり,別部署の管理下にある
からパソコン貸与の方針が異なるにすぎない。参与として勤務している者に
専用のパソコンを貸与した事実はなく,同人は教室備付けのパソコンを研
修のないときに練習のため使用しているにすぎない。また,原告は担当業
務の性格上パソコンを使う必要がないのであり,差別しているわけではな
い。
      原告は,新教育研修所へ移った後,繁忙期の応援業務も行っている。毎年夏
季(7月上旬から8月上旬)及び冬季(12月)にはとやま産品への応援業務
に行き,年1回の電話帳の配送業務等も担当している。
    (イ) 労働環境等
      原告は,新教育研修所に移転した後,清潔で明るい部屋で同僚全員(2~3
人)と一緒に業務していて,隔離監禁とされる状態はなくなっている。新教育
研修所に移ってから労働環境が変わったことは明らかである。
    (ウ) 勤務態度等
      被告は,原告に一度研修生の前で朝礼を行う仕事をさせたことがあった。しか
し,その結果は,原告が研修目的とは無関係な自己の信念のようなことを
一方的に語るというものであった。そのため,被告は原告には研修生に対
する指導業務に従事させる適性がないと判断した。
   ウ 違法性の有無等
    (被告の主張)
     原告は,平成4年6月の新教育研修所新築移転時に,新教育研修所に移ること
を拒み,被告がいくつかの具体的な異動先の提案をしたのにこれを一蹴した。
原告が自らの処遇に不満を抱いているのであれば,R人事部長から異動を打
診されているのであるから,実際にある職場の中で現実的な異動先を上げて
希望するべきであったのに,現実的な異動先を述べなかった。しかも「今さら
他の仕事をするつもりはない。」旨言って,異動の希望自体を放棄した。その
ため,被告は原告には異動に応じる意思がない,あるいは異動してよりよい処
遇を求める意欲がないと判断し,その後は原告に対する異動をあまり考えなく
なった。被告のこの判断には相当な理由があり,その後の処遇はその延長に
ある。しかも,以後現在に至るまで,原告から新教育研修所に在籍しているこ
とへの不満が述べられたことはなく,異動の希望も一切表明されなかった。し
たがって,原告が新教育研修所に長期間在籍したことは,原告自身が新教育
研修所にいることに自足し,異動の意欲を持っていなかった結果である。
     前記のとおり被告には人事異動について裁量権があるから,異動の打診があっ
たのにこれを拒絶した原告の行為が不利益に評価され,以後原告が異動や
昇格の対象とされなかったことは当然であるか,やむを得ないものである。
     しかも,新教育研修所へ移った後については,原告が隔離監禁されていた事実
がないことは明らかである。
     したがって,被告の原告に対する処遇には違法性がない。
    (原告の主張)
     平成4年6月の異動話は,原告が希望を持てるような,将来の昇進昇格を期待
できるような内容ではなかった。もとより,この異動話も教育研修所の新築移
転という偶然の事情から生じたものにすぎない。被告は原告が異動の希望を
表明しなかったと主張するが,原告が異動の希望を申し出ても受け入れられ
る余地はなかったうえ,被告が原告をあまりに長期間現場から遊離させたた
め,原告は精神的にも年齢的にも現場への復帰ができない状態にさせられて
いたのである。
     むしろ,新教育研修所に移ってからも,原告に仕事をさせない,昇格昇進はさせ
ないという旧教育研修所時代以来の被告の方針は,一貫して継続している。
このような被告の方針は,仮に原告が平成4年6月に厚生年金会館への異動
に応じたとしても変わるものではなかった。それまでの旧教育研修所での仕事
が厚生年金会館の仕事となったにすぎず,仕事らしい仕事をさせないことは同
じであるから,昇進昇格もあり得なかった。かつてK副社長は原告に対し「これ
以上会社にいても昇格させてはもらえない。」と言っていたのであり,原告にい
かなる異動の話があろうとも,被告が原告を昇格昇進させることはあり得なか
った。
  (4) 損害の発生及びその額
   (原告の主張)
   ア 精神的損害  1000万円
     原告は,4半世紀を超える長期間にわたり,本来の業務を取り上げられて教育
研修所に隔離され,監禁状態に置かれ,昇格停止による経済的差別を受けて
いる。これらの被告の行為により,原告は深刻な精神的打撃を受け耐えがた
い精神的苦痛を被っている。
     この苦痛を癒すには,別紙1記載の謝罪文の手交による被告の明白な謝罪と1
000万円の慰謝料をもってしても困難である。よって,慰謝料は1000万円を
下らない。
   イ 財産的損害  3970万円
     原告は昭和48年(当時26歳)から一貫して今日まで4等級に据え置かれ続け
ている。
     同期同学歴入社の人の中で原告の能力は人並み・平均以上であるが,上記の
結果,同期同学歴入社の人の平均賃金と比べても,少なくとも次のとおり差別
されている。
     昭和51年~昭和54年
       年間差別額  30万円  4年間の累計  120万円
     昭和55年~昭和59年
       年間差別額  50万円  5年間の累計  250万円
     昭和60年~平成3年
       年間差別額 150万円  8年間の累計 1200万円
                   (ただし,本来は7年間である。)
     平成4年~平成15年
       年間差別額 200万円 12年間の累計 2400万円
     以上の累計額の合計             3970万円
   ウ 弁護士費用   430万円
   エ 合計     5400万円
  (被告の主張)
   ア 精神的損害
     争う。
   イ 財産的損害
     原告以外の同期同学歴入社の者の平均賃金と原告の賃金との差額が,原告
主張の金額と大差ないことは認める。
     なお,原告以外の同期同学歴入社の者のうち最も昇格の遅い者の賃金と原告
の賃金との差額は,平成13年末現在で2667万3603円である。
  (5) 消滅時効の成否
   (被告の主張)
    原告が主張する事実関係には訴えの提起から3年以上前のものが含まれる。特
に,原告が関与したとする内部告発やその後の旧教育研修所への異動,その直
後の状況等の事実関係は,無条件の消滅時効期間である20年以上前のもので
ある。また,原告は,3年又は10年以上前から,解雇されれば法的に争う意思
があり,また法的手段に訴えなければ事態の改善は不可能と考えていたのであ
るから,本件と同様の訴えを提起することは可能であった。
    したがって,不法行為に基づく損害賠償債務は3年又は20年の消滅時効(民法7
24条)により,債務不履行に基づく損害賠償債務は10年の消滅時効(民法16
7条1項)により消滅している。
   (原告の主張)
    争う。
   ア 消滅時効の未進行
     原告に対する違法,不当な処遇は昭和50年以後現在まで一貫して継続してい
て,一つ一つが別の行為ではない。原告の請求権はこのような一連の不法行
為又は債務不履行に基づくものであるから,消滅時効は未だ進行していな
い。
   イ 権利濫用
     これまでに原告が主張したところによれば,原告の行為は社会全体にとっても
被告自身にとっても有益な行為であったにもかかわらず,被告がこれに対して
長期間にわたり執拗な報復を行ってきたことが明らかである。したがって,被
告の消滅時効の援用は著しく正義公平に反するものであって,権利濫用であ
る。
     原告の権利行使には,差別立証の困難さや,裁判費用の準備,家族の理解,
会社からの更なる迫害や報復のおそれなど多大な障害があった。
   (原告の権利濫用の主張に対する被告の反論)
  本件請求には次のとおり消滅時効が適用される一般的条件が備わっているから,
消滅時効の主張は権利濫用にあたらない。
   ア 原告の請求原因事実は,約28年前から10年以上前の時期の事実関係が中
心である。古い資料の不備や,被告関係者で故人となった者,被告から離れ
た者も多いことから,被告に残っている関係者を含めても調査が困難であった
り,調査しても記憶喚起が困難な事実関係が非常に多い。
   イ 原告は,既に昭和52年当時から,解雇されれば法的に争う意思を持っていた。
したがって,原告は,20年以上前から本件と同様の法的手段をとることが可
能であった。
第3 当裁判所の判断
 1 本件事実経過の概要
   前記争いのない事実等に証拠(甲18,原告本人のほか各項末尾に掲記)を総合
すると以下の事実が認められる。
  (1) 原告による本件ヤミカルテル等の内部告発及び旧教育研修所への異動までの
経緯
   ア 原告は,昭和45年に被告に入社し,1年目に発送・到着,大口荷主の元での
常駐,請求書の配付,集金等運輸業全般を経験した後,2年目から営業を担
当し,顧客の獲得,荷主との運賃交渉,苦情処理,荷物事故が生じた場合の
損害賠償の処理等の業務に従事した。この間,原告の仕事について特に問題
が生じたことはなかった。
   イ 原告は,昭和48年に岐阜営業所に異動した後,トラック協会岐阜支部の会合
へ出席するようになり,その席で,運送業界において,本件ヤミカルテルが取
り決められていく様子を知った。そのころ,運送業界は運輸省に運賃値上げを
申請していて,昭和49年7月12日平均30%の値上げとなる運賃が認可され
た。(甲3)
   ウ 原告は,昭和49年7月末ころ,読売新聞名古屋支局に,本件ヤミカルテルが
結ばれていることを告発した。同年8月1日,原告の告発に基づき,読売新聞
に,本件ヤミカルテルの記事が掲載された。(甲3)
   エ 続いて,原告は,昭和49年8月,公取委中部事務所に本件ヤミカルテルを告
発した。また,原告は,同月21日,被告の労働組合と同じ運輸労連に所属す
る日本通運労働組合岐阜支部の幹部に会って,労働組合としても本件ヤミカ
ルテルを破棄させるよう努力すべきだと主張した。同月末,原告は神奈川支
店日の出営業所への異動を命じられた。同年9月以後,原告は,運輸省や日
消連を訪れて,本件ヤミカルテル等の実態を訴えた。(甲10,13)
   オ 昭和49年10月16日,公取委は東海道路線連盟やこれに加盟する被告等大
手運送会社に対し一斉立入検査を行った。一方原告は,昭和50年1月20日
ころ,日の出営業所から東京本部への異動を命じられ,営業課に所属した。そ
の後,原告は,日消連代表委員の紹介を受けてU議員に本件ヤミカルテル問
題の追及を依頼し,同議員は同年3月27日の衆議院物価問題等特別委員会
で本件ヤミカルテル問題を質問して追及した。東海道路線連盟は,これに先
立つ同月20日,同連盟代表者会長名で,破棄公告を新聞に掲載した。(甲4
~6,20,24)
   カ 昭和50年6月ころ,原告は日消連に被告を含む運送業者がなお認可運賃を超
える違法運賃を収受していると訴えた。そこで,日消連においてその実態を調
査するため実験的に荷物を送ることとなり,原告もこれに協力した。同年8月1
3日,日消連代表委員らがその結果を公表し,翌14日,前記争いのない事実
等(3)エのとおり,その内容が新聞に掲載された。(甲5~8)
   キ 日消連は,昭和50年8月13日,運輸省に対し上記調査結果に基づき厳重取
締りを申し入れ,また,同年9月1日,被告を含む大手運送会社3社を道路運
送法違反で東京地方検察庁に告発した。運輸省は,前記争いのない事実等(
3)オのとおり,被告を含む大手運送会社10社に対し特別監査を行い,その結
果,同記載の不正な運賃収受があったとして,同月10日までにこれらの運送
会社を厳重警告処分とするなどした。なお,東京地方検察庁は,昭和52年1
1月ころ,上記告発に係る事件について被告を不起訴処分とした。(甲9,13,
19,23)
  (2) 旧教育研修所への異動及び異動後の状況の概要
   ア 異動に至るまでの概要
     昭和50年8月,被告の本社機能が東京から高岡市へ移転することに伴い,当
時東京本部に勤務していた原告は,同月23日ころ高岡市に戻り,同年9月1
日から富山中央支店で勤務した。原告は,同月中は営業部営業課に在籍した
が,その後,旧教育研修所に異動となった。
   イ 旧教育研修所での処遇及び昇格停止
     原告は,旧教育研修所に異動後,旧教育研修所に在籍する他の職員が勤務し
ていた1階の事務室ではなく,2階の個室に配席され,その個室で1人で勤務
していた。原告にはトレーラーコース等の整備や研修生の送迎等の雑務しか
与えられず,研修生に対する講義や研修を実施する仕事はなかった。また,
原告は,以後現在に至るまで一度も昇格することがなかった。
  (3) 新教育研修所への移転及び移転後の状況の概要
   ア 新教育研修所へ移るに至る経緯の概要
     平成4年6月,被告の教育研修所が新築の厚生年金会館内に移転することに
伴い,原告の勤務先も新教育研修所に移った。その際,R人事部長やL教育
研修所長らは,異動等について原告と面談した。
   イ 新教育研修所での処遇及び昇格停止
     新教育研修所では,原告は事務室でほか数名の職員と一緒に仕事をするよう
になったが,仕事の内容は,年2回の繁忙期における応援業務が加わったこ
と以外には旧教育研修所勤務時と大きく変わることはなく,昇格もなかった。
 2 内部告発の正当性(争点1)について判断する。
  (1) 本件ヤミカルテル及びその他の違法運賃収受の真実性等
   ア 証拠(各項末尾に掲記)によれば次の事実が認められる。
     ①被告を含む大手運送業者は,共同して,申請中の値上げ運賃の認可に合わ
せて,前記破棄公告記載の申合せ,すなわち,運賃を認可運賃枠内の最高
額に統一し,併せてこれを実効的にするために顧客争奪を禁止することを内
容とする協定を結ぶこととし,上記認可があった後の昭和49年7月20日,東
海道路線連盟の名においてその旨の協定をした(本件ヤミカルテル)。この協
定は,独禁法に違反する可能性が極めて強いものであった。(甲3~6,20)
     ②昭和50年7月ころ行われた日消連の調査の結果,被告が,いわゆる容積品
(重量に比べて容量が大きいため,その大きさに応じて重量換算しその重量
に基づいて運賃を計算することとされている荷物)の換算重量を,例えばその
最低単位では正規の20㎏ではなく40㎏とするなどしてかさ上げし,また,輸
送距離も,東京・新潟間を最短距離の353㎞とすべきであるのに遠回りの路
線を選択して441㎞~470㎞とするなどの方法により,不正な運賃を収受し
ていたことが判明した。その後行われた運輸省の特別監査でも,大手運送会
社10社の調査対象案件のうち,被告の上記不正運賃収受を含め21%に上
る事例について超過徴収があり,試算では10社合計で30億円を超える不正
利得があったことが判明した。(甲5~8,19,23)
   イ 被告は,上記①について,公取委によって本件ヤミカルテルの存在が明確に認
定されたわけではなく,破棄公告は運送業界が独禁法違反のおそれがあると
して自主的に一定の措置を取ったにすぎないものであると主張する。しかし,
被告を含む運送業者らは破棄公告に先立ち公取委の一斉立入検査を受けて
おり,このような業者が公取委の立入検査の後違反行為を取りやめることは
通常ありうることである。公取委による独禁法上の正式な措置がとられなかっ
たのは,当時の独禁法上自主的にカルテルが破棄されると公取委による勧告
の対象とすることができなかったためにすぎないと認められるから(甲4。なお
独禁法48条2項参照),公取委による正式な措置がとられなかったことを根拠
に,本件ヤミカルテルが存在しなかったとか,その内容が違法性を帯びるもの
ではなかったということはできない。むしろ,被告の取締役であったFも,約束
であったか不文律であったかはわからないが,他の会社も大半同じような行
為をやっていたと証言していること〈証拠略〉,原告の内部告発の後,公取委
による立入検査が行われ,その後東海道路線連盟名で破棄公告が出されて
いてその中で自ら独禁法に抵触するおそれがあると述べていることからする
と,本件ヤミカルテルの存在は疑う余地がなく,その違法性も相当程度客観的
に裏付けられているといえる。
     また,被告は,上記②について,検察庁によって違法な運賃収受が明確に認定
されたわけではないとも主張するが,起訴不起訴の決定は検察官が種々の事
情を総合考慮したうえその裁量の範囲内で行うものであるし,かえって,証拠
(甲13,18)によれば,担当検察官が原告に対して一応被疑事実の存在は
認められるが諸般の情状を考慮して不起訴としたという趣旨の説明をしている
ことがうかがえる。したがって,上記②の事実が起訴されていないからといって
直ちに運賃収受の不正がなかったということはできない。上記②の事実が事
後的に日消連により実証され運輸省によっても確認されていることに照らせ
ば,原告が日消連に告発した内容が大筋において真実に合致していることは
明らかである。
  (2) 原告が読売新聞に対して内部告発をする前に被告内部でとった行為等
   ア 証拠(甲18,原告本人)によれば次の事実が認められる。
    (ア) A副社長への直訴
      原告は,昭和48年12月,当時原告が勤務していた岐阜営業所を訪れ従業員
への訓示を行った直後のA副社長に対し,「中継料をとるようなことは止め
てもらいたい。」などと言って,主として被告が中継料を収受している問題に
ついてその廃止を訴えた。この時,原告は「ヤミカルテル」という言い方はし
なかった。これに対し,A副社長は,「役員会で決めたことなので。」などと答
え,特にこれを再検討するといった態度を示さなかった。
    (イ) B岐阜営業所長への直訴
      原告は,昭和48年6月ころに岐阜営業所に異動した後,同営業所のB所長に
対して,原告が担当する問屋街の顧客から苦情がでているので中継料は
非常に問題であると主張したが,B所長は会社が決めたことだからそのとお
りやらなければならないと答えた。また,原告は,昭和49年に新運賃が認
可された後,被告が最低換算重量を正規の20㎏ではなく40㎏に設定して
いることについて,B所長に対しこれを是正するように訴えた。もっとも,原
告は,B所長に対しても,「ヤミカルテル」とか「これは独禁法に違反する」と
の言葉を直接出してその是正を訴えたことはなかった。
    (ウ) 原告のいう中継料の問題とは次のようなものである。
      中継料は,被告が受託した運送を途中から他社に委託する(中継する)場合
に収受する料金である。この中継のなかには,富山県西部において,他社
ではあるが被告営業所の名称で運送を行う業者に宅配を委託する場合が
ある。このような場合,被告は,直営ではないものの被告の営業所の名称
で運送を行う業者に委託したのであるから,他社中継と同様の中継料を収
受すべきではないのであり,実際に従前はそのようにされていた。しかし,
昭和48年度のある時期に,このような場合も中継料を収受するようになっ
た。そのため,実質的に運賃が高くなるのと同様の結果となり,顧客の利益
を損ない,また原告が営業を行ううえでもデメリットになった。
    (エ) 本件ヤミカルテルをめぐる被告内部の状況等
      原告が営業活動により他社の顧客を奪ってきたところ,その会社から顧客を
返すように言われたことがあり,逆に,被告においても,被告の顧客を奪っ
た他社に対して抗議に行くという話が持ち上ったことがあった。また,昭和4
9年8月1日に前記読売新聞の記事が掲載された翌日,被告は社内に「新
聞に載った記事は当社には関係がない。ただし,荷主移動禁止のことなど
は他言してはならない。」との通達を出すとともに,その指示文書を直ぐに
破り捨てるように指示した。
   イ これに対し,岐阜営業所長であった上記Bは,乙12において,上記ア(ア),(イ)
の事実はなかった旨の供述記載をしている。
     しかし,甲18(原告の著述)及び原告の供述は,旧教育研修所に移転した後に
原告が報道機関に投書し,又は原告が取材を受けた一連の記事(甲10,1
1,13,15)に基づくものである。これらの記事ももともとは原告自身が述べる
などした内容が記載されているものではあるが,この段階で原告が意図的に
事実を偽って述べているとはうかがわれず,中心的部分について大きく変化し
た部分もない。これらの記事が,原告が内部告発しその後旧教育研修所への
異動を命じられてから比較的近い時期のものであることも考慮すると,これら
の記事及びこれに沿う原告の上記供述等は,特に不自然なものや原告の推
測に基づくものでない限り基本的な信頼を置くことができる(これは,以下の事
実認定においても同様である。)。
     そして,上記ア(ア),(イ)の事実についても,上記記事には上司又は副社長に運
賃収受をめぐる問題を訴えたが取り合ってもらえなかったとの限度では一貫し
て記載されているから,原告の上記供述等は信用することができる。
  (3) 以上の事実を前提に,原告が行った内部告発の正当性について判断する。
    上記(1)によれば,被告が,現実に,①他の同業者と共同して本件ヤミカルテルを
結んでいたこと及び②容積品の最低換算重量を正規の重量を超える重量に設
定し,輸送距離の計算を最短距離で行わず遠回りの路線で行うなどして認可運
賃を超える運賃を収受していたことが認められる。また,原告が,これらを違法
又は不当と考えたことについても合理的な理由がある。したがって,内部告発に
係る事実関係は真実であったか,少なくとも真実であると信ずるに足りる合理的
な理由があったといえる。
    上記①の本件ヤミカルテルは公正かつ自由な競争を阻害しひいては顧客らの利
益を損なうものであり,上記②はより直接的に顧客らの利益を害するものであ
る。したがって,告発内容に公益性があることは明らかである。また,原告はこれ
らの是正を目的として内部告発をしていると認められ,原告が個人で,かつ被告
に対して内部告発後直ぐに自己の関与を明らかにしていることに照らしても,お
よそ被告を加害するとか,告発によって私的な利益を得る目的があったとは認め
られない。なお,日消連にした上記②の内部告発については,被告に対する感
情的な反発もあったことがうかがわれるが(甲13),仮にこのような感情が併存
していたとしても,基本的に公益を実現する目的であったと認める妨げとなるも
のではない。
    内部告発方法の妥当性についてみると,原告が最初に告発した先は全国紙の新
聞社である。報道機関は本件ヤミカルテルの是正を図るために必要な者といい
うるものの,告発に係る違法な行為の内容が不特定多数に広がることが容易に
予測され,少なくとも短期的には被告に打撃を与える可能性があることからする
と,労働契約において要請される信頼関係維持の観点から,ある程度被告の被
る不利益にも配慮することが必要である。
    そこで,原告が行った被告内部での是正努力についてみると,まず原告はA副社
長に対して上記(2)ア(ア)のとおり直訴しているが,経営のトップに準じる者に対し
訓示の直後にいきなり訴えるという方法はいささか唐突にすぎるきらいがある。
しかも,その内容は主として中継料の問題であり,原告は本件ヤミカルテルを是
正すべきであるとは明確に言わなかった。原告は,中継料の収受と荷主移動禁
止のヤミカルテルとは密接に関連し,本件ヤミカルテルの実態を凝縮したものと
して中継料の収受を問題にしたと主張するが,そもそも本件ヤミカルテルが明確
に結ばれたのは昭和49年7月であり,それ以前の顧客争奪禁止の実態は証拠
上必ずしも明らかでない。また,原告のいう中継料収受をめぐる問題点を見て
も,中継料の収受自体が具体的にどのような点で違法又は不当であるか必ずし
も明らかでなく,原告自身中継料を取ってはならないのに取っていたということで
はないとも述べている〈証拠略〉。これらの点をおくとしても,原告は本件ヤミカル
テルが問題であると明確に指摘していない以上,その内心では中継料の収受は
本件ヤミカルテルの問題でもあると考えていたとしても,この直訴を本件ヤミカル
テルを是正するための努力として評価することは難しい。このことは上記(2)ア(イ)
のB岐阜営業所長への訴えについても同様であり,B所長に対しても本件ヤミカ
ルテルの事実やこれが独禁法に違反することを明確に指摘していなかったか
ら,これを内部努力として大きく評価することはできない。なお,原告はB所長に
対して認可最高運賃の収受や荷主移動禁止条項について話したとも主張する
が,むしろ,原告本人によってもこれらを具体的に指摘した事実はなかったと認
められる。以上によれば,原告が行った上記(2)ア(ア),(イ)の行為そのものでは,
本件ヤミカルテルを是正するための内部努力としてやや不十分であったといわ
ざるを得ない。
    しかし,他方,本件ヤミカルテル及び違法運賃収受は,被告が会社ぐるみで,さら
には被告を含む運送業界全体で行われていたものである。このことは,被告が
荷主移動禁止条項を破った業者に対して抗議に行こうとしたり,逆に荷主移動禁
止条項を破った被告に同業者が抗議をしていた事実や,読売新聞に本件ヤミカ
ルテルのうち認可運賃枠内で最高額の運賃を統一して収受する旨の協定が存
するとの記事が掲載された後,被告が従業員に対し荷主移動禁止条項の口外
を禁じていることからも明らかである。このような状況からすると,管理職でもなく
発言力も乏しかった原告が,仮に本件ヤミカルテルを是正するために被告内部
で努力したとしても,被告がこれを聞き入れて本件ヤミカルテルの廃止等のため
に何らかの措置を講じた可能性は極めて低かったと認められる。
    このような被告内部の当時の状況を考慮すると,原告が十分な内部努力をしない
まま外部の報道機関に内部告発したことは無理からぬことというべきである。し
たがって,内部告発の方法が不当であるとまではいえない。
  (4) 以上のような事情,すなわち,告発に係る事実が真実であるか,真実であると信
じるに足りる合理的な理由があること,告発内容に公益性が認められ,その動機
も公益を実現する目的であること,告発方法が不当とまではいえないことを総合
考慮すると,原告の内部告発は正当な行為であって法的保護に値するというべ
きである。
 3 原告に対する不利益な取扱いの有無1-主として旧教育研修所勤務時におけるも
の(争点2)について判断する。
  (1) 前記争いのない事実等に証拠(甲18,乙6,7,9,10,証人I,証人D,証人M,
証人L,原告本人のほか各項に掲記のもの。ただし下記認定に反する部分を除
く。)及び弁論の全趣旨を総合すると,旧教育研修所への異動に至る経緯及び
旧教育研修所勤務中の処遇について次の事実が認められる。
   ア 旧教育研修所への異動に至るまでの経緯(甲13)
     原告は,読売新聞に前記1(1)ウの記事が掲載された2日後の昭和49年8月3
日,名古屋営業所に行った際,上記記事を読んでいたS支店長にその記事は
原告が読売新聞に申し入れて記事にしてもらったと言った。S支店長は原告を
名古屋支店に連れて行き,同支店長の連絡を受けてその日に東京本部から
来たG取締役が原告に告発に至った経緯を問いただした。
     原告は,同月21日,被告の労働組合と同じく運輸労連に所属する日本通運労
働組合岐阜支部の幹部に会って,ヤミカルテル破棄に向けて動くべきであると
主張した。すると,同日午後,原告はB岐阜営業所長から翌日東京本部に行く
ように指示された。同月22日,原告がS名古屋支店長と一緒に東京本部に行
くと,G取締役は原告に「まだやっているのか。」などと言い,S支店長は「昨
日,日通の労働組合の委員と会っただろう。」と言った。その後,J取締役業務
部長,T業務部長代理及びI人事部長も同席した。被告側は,読売新聞への内
部告発や日本通運労働組合への働きかけ等の原告の行為は好ましくないと
考えていて(乙6),この席で原告にそのような行為を止めるように命じた。ま
た,被告は,読売新聞の報道に原告が関与していたことが明らかになったた
め,岐阜営業所では原告を扱い切れず,当時本部のあった東京方面で原告を
預かることとし(乙6),同年9月1日付けで,原告に対し岐阜営業所から川崎
市の日の出営業所への異動を命じた。
     日の出営業所に異動した後,原告は,被告の大口荷主であった会社の取締役
に本件ヤミカルテルや違法運賃収受について話し,これを同営業所を統括す
るH神奈川支店長に伝えたところ,H支店長は「社長が業界でつるし上げにな
ったらどうするのだ。」などと言って原告を激しく怒った。
     原告は,昭和50年1月20日ころ,被告から東京本部への異動を命じられた。
東京本部では営業課に所属したが,東京本部への出勤を始めてから数日後,
J取締役業務部長やT業務部長代理が,原告に強い口調で「辞表を出せ。」と
言ったり,「こんなことを続けていると,君の一生は大変なことになるよ。」と言
って退職を迫った。
     また,衆議院物価問題等特別委員会で本件ヤミカルテル問題が取り上げられた
後,G取締役は原告を呼んで話を聞き,原告は同委員会での質問の資料提供
に自分が関与した旨述べた。
   イ 旧教育研修所への異動の経緯
     被告は,昭和50年8月,組織改編等を行い,本社機能を東京から高岡市に移
したほか,職員に対する各種教育を充実させるため教育部を新設し従前は人
事部の下にあった教育研修所をその下に置いて業務を拡充することとした。
東京本部に勤務していた原告は,本社機能の移転に伴い同年9月1日から富
山中央支店に勤務し,引き続き営業部営業課に所属した。しかし,I人事部長
兼教育研修所長は,内部告発を行った原告をそのまま営業部門に置いておく
ことはできないと考え,旧教育研修所に勤務させることとし,D教育部長代理
兼教育研修所長代理からもその了解を得た。なお,旧教育研修所に異動する
までに,K副社長は原告に「君は今後,会社で昇格させてもらえない。私に身
柄を預けないか。」,「娘婿がいる建築建材関係の会社を紹介する。」などと言
った。また,I人事部長も原告に対し退職を求めた。
   ウ 旧教育研修所での就業環境,与えられた仕事の内容等(乙7,11)
     原告は,旧教育研修所への異動後新教育研修所に移るまで,特に業務上の必
要がないのに,旧教育研修所2階にある広くても6畳程度の個室に机を配置さ
れ,同個室で1人で勤務していた。旧教育研修所に勤務する他の職員は全て
1階の事務室に机が配置され同室で執務していた。
     原告が旧教育研修所で与えられていた仕事は,ほとんどが極めて補助的で特
に名目のない雑務のみであった。具体的には,旧教育研修所建物やトレーラ
ーコースの清掃管理,夏季の同建物周囲やトレーラーコースの草刈り,研修
生等の案内・送迎,研修等終了後の教室の片付け・整理,他の営業所への書
類や荷物の引取り,文具等の購入,研修生が使用した布団の整頓,冬季の除
雪やストーブへの給油,個人台帳の整理等であった。研修や講習に関連する
ものとして,教材や教育記録の整理,教材のセット・準備の仕事はあったが,
研修や講習そのものを行うといった教育研修所本来の専門性が必要な仕事
は担当しておらず,これらは全て他の職員が担当していて,原告には外部研
修に出る機会も与えられなかった。また,原告は,昭和55年5月ころから,運
転手に実施する適性検査の実施及び資料整理を行っていたが,これも定型的
な作業の域を出るものではなく,時間を要するものでもなかった。研修等は月
に6日から10日程度しかなく,研修等がないときは何もすることがない状態で
2階の個室で1人過ごすこともあった(なお,このころ教育研修所長を務めたL
は,原告が日常的に手持ち無沙汰になることはなかったと供述するが(乙7),
他方,新教育研修所時代に所長を務めたNは,そのころと概ね同じ仕事をして
いる原告の様子について勤務時間中時間が余ることもあったなどと述べてい
る(乙13)から,採用することができない。)。
     原告は,昭和48年に主任補・4級に昇格した以後全く昇格がなかった。号数に
ついては,被告の職員は一般に毎年4号ずつ増加するが,原告は昭和63年
までは2号又は3号の,平成元年から平成4年までは1号の増加のみであっ
た。他方,同期同学歴入社の者の中で原告を除き最も昇格が遅い者でも,遅
くとも昭和52年には5級に,昭和59年1月に7級に昇格し,昭和62年8月に
6級に降格したものの,平成2年7月に再び7級に昇格している。(乙1~4,弁
論の全趣旨)
   エ 原告の言動等
     原告は昭和51年8月から昭和55年11月までの間,新聞や雑誌に投書したり
新聞社の取材に応じたりし,これにより新聞や雑誌にそれぞれ次のような内容
を含む記事が掲載された。
    (ア) 昭和51年8月1日 朝日新聞(取材に応じた)(甲10)
      原告が本件ヤミカルテルについて内部告発したところ,被告は「こわいおニイ
さん」を通じて原告に退社を強要した。原告がこれに応じないと旧教育研修
所に勤務させ,原告は格別の仕事もなく「草をむしったり,本を読んだり,ポ
カンとしていたりの毎日」となった。原告は,被告について,告発された道路
運送法違反とは別に,脅迫罪で告発する準備を進めている。原告は,「正し
いことをいえば,受け入れてもらえると愚かにも会社を信じていた。やめよう
か,と何度も考えましたよ。しかしこうなったら,乗りかかった船だからトコト
ン粘るだけです。」と述べている。
    (イ) 昭和52年1月25日 日本経済新聞(取材に応じた)(甲11)
      原告が公取委に本件ヤミカルテルを内部告発したところ,原告は神奈川支
店,東京営業本部などを転々とし,昭和50年10月から旧教育研修所で働
いている。原告は,仕事について「研修資料の作成,ということになっている
んですが,やることは何もないんです。ヒマつぶしに読書するのが仕事みた
いなもの。夏場になると毎日,庭の草むしりをやっています。」と述べてい
て,第一線の営業マンだった原告が「ほされ」ているとされている。原告は,
公取委への内部告発の後も,日消連に訴えるなど被告への抗議の姿勢を
取り続けていて,「もうこれ以上の転勤は拒否するつもりだ。」,「ここで負け
たら,今後,日本では内部告発はできなくなる。」と述べている。
    (ウ) 昭和54年10月12日 朝日ジャーナル(投書)(甲13)
      ヤミカルテルや水増し運賃を告発後の原告に対する処遇や退職強要行為に
ついて,原告が主張する事実を要約した内容が記載されている。この中で,
原告は,東京地方検察庁が起訴か不起訴かを決めるまでは会社を辞める
わけには行かないし,暴力団を使って原告を脅迫した犯人を明らかにしな
い限りは会社を辞められないとの決意を持っていたが,同検察庁が昭和52
年11月に被告の起訴を見送り,脅迫の件も時効の3年が過ぎてしまったこ
となどを受けて,原告は,「いま,わたしは会社を辞める決意をしている。こ
れで会社が望んだとおりになるわけだ。目的もなくなった今,まだ20年以上
もある定年まで,このまま教育研修所に監禁されて,夏は草刈り,冬は除雪
の窓際人生を続けることは耐えられないからだ。」と述べている。
    (エ) 昭和55年11月30日 朝日新聞(取材に応じた)(甲15)
      原告は内部告発を行ったため旧教育研修所に転勤させられたうえ,仕事らし
い仕事を与えられず,上司から命じられたのは,旧教育研修所内の草むし
りや雪かき,ペンキ塗りの仕事のみであるなどと,原告が主張する事実を簡
潔に要約した内容が記載されている。
  (2) また,被告の原告に対する退職強要行為の有無について,次のとおり認められ
る。
   ア 証拠(甲10,13,18,21,乙14,証人V,証人F,原告本人。ただし下記認定
に反する部分を除く。)によれば,概ね前記第2の3(2)オの「(原告の主張)」の
各事実が認められる。もっとも,このうち(エ)の事実は,その内容自体確実に
成功するかどうかも不明な現実味の乏しいものであるから,違法性があるとは
認められない。
   イ 被告は,(イ)の事実は知らないと主張するが,原告が暴力団員から退職を強要
された事実は証拠上明らかである。また,被告がこれに関与していたか否か
についても,原告主張の事実がそのまま認められるかどうかはともかく,上記(
1)ア,イのとおり被告の管理職らは原告による読売新聞への内部告発等を好
ましくないものと考えていてこの考えに沿った言動をしていること,その暴力団
員が所持していたメモの用紙が被告社内で使用されているものであったこと
等からすると,少なくとも何らかの被告の関与があった事実を認めることがで
きる。
   ウ 被告は,(ウ)の事実について,F取締役が原告方を訪れるなどしたのは専ら同
取締役の個人的な意思に基づくものであって,被告の指示に基づくものでは
ないと主張する。しかし,上記(1)ア,イのとおり被告の管理職らは原告による
読売新聞への内部告発等を好ましくないものと考えていてこの考えに沿った
言動をしていること,F取締役がこのような行為をした時期は原告が旧教育研
修所への異動を命じられて間もなくのころであることなどに照らすと,F取締役
は被告の意向を受けてこのような行為をしたものと認められる。
     また,上記Fは,原告に会社を辞めるように言った事実はなく,主としてヤミカル
テルの追及を止めるように言ったと証言しているが,原告の兄であるVはF取
締役との面談の後原告に会社を辞めるよう説得しているから,上記証言は信
用することができない。そもそも,F取締役は,同人自身の供述によっても,ヤ
ミカルテルの追及を止めることを受け入れなかった原告に対し最終的には会
社を辞めるように言ったというのであるから(乙14,証人F),同人の原告及び
原告の兄に対する行為は,全体として退職強要行為であったと評価すべきも
のである。
  (3) 被告が原告に対し内部告発を理由に不利益な取扱いをしたか否かについて判
断する。
   ア 上記(1)ア,イ及び(2)によれば,被告は,少なくとも原告が読売新聞等への本件
ヤミカルテルの内部告発に関与したことを明確に認識していて,このような原
告の行動を強く嫌悪し,それゆえ原告を営業部門に配属すべきでないと考え
ていたことが認められる。とりわけ,上記(2)で認定した退職強要行為のうち,
原告本人のみならず原告の兄ら親族をも巻き込み,原告の兄に対して威迫と
も受け取れる発言までして原告を退職させようとしている事実は,嫌悪の程度
が極めて強度であったことをうかがわせる。このような被告の意思は,当時教
育研修所長を務めたLが,原告に講師をさせなかった理由について「全国から
集まった管理職や運転者,新入社員に対して会社に都合の悪いことを言って
もらったら困るという不安があったから」と証言していること〈証拠略〉からも推
認される。
     また,上記(1)ウによれば,被告は,原告をことさら2階の個室に配席させて他の
職員との接触を妨げたうえ,それまでは営業課の職員として営業の一線で働
いていた(特に不適格なところがあったことを示す具体的な証拠はない。)原告
を極めて補助的で特に名目もない雑務に従事させ,昇格も停止したことが認
められる。後に人事部長となるRが,原告が個室に置かれていたことや与えら
れている仕事の内容について正常ではない状態であったと証言している〈証
拠略〉ことに照らしても,これらの取扱いが原告に著しく不利益なものであるこ
とは明らかであり,また,このような異常な処遇自体も被告が原告の内部告発
を強く嫌っていたことを推認させるものである。
     以上によれば,被告が,原告が内部告発をしたことを理由に,これに対する報
復として,原告を旧教育研修所に異動させたうえ,業務上の必要がないのに
原告を2階の個室に置いて他の職員との接触を妨げ,それまで営業の一線で
働いていた原告を極めて補助的で特に名目もない雑務に従事させ,更に,昭
和50年10月から平成4年6月までという長期間にわたって原告を昇格させな
いという原告に不利益な取扱いをしたこと及び原告に対する退職強要行為を
したことは明らかである。
   イ 被告は,原告を旧教育研修所に異動させたのは,原告の適性を考慮した結果
であると主張する。しかし,その後原告に与えた仕事の内容からすると原告の
適性を考慮した結果の異動であるとは到底考えることができない。教育部長
代理兼教育研修所長代理であったDは研修業務の手伝いやコース管理等が
原告に適任であると考えたとも述べているが(乙10),その仕事の実態は上
記のとおりであって,適性や育成を考えてそのような仕事を与えたとは到底考
えることができない。また,同人は,講師は特別の経験を持っている人しかで
きず,原告は年齢的にも職務経験から見ても講師としてはふさわしくなかった
と供述し〈証拠略〉,教育研修所長を務めたMも同旨の供述をしている〈証拠
略〉のであるから,そのような原告をわざわざ旧教育研修所に異動させたこと
について合理的な理由を見いだすことができない。しかも,仮に経験等が不足
しているというのであれば,外部研修等により講師になるための能力開発の
機会を与えてしかるべきであるのに,原告にはそのような機会を全く与えず,
特段の名目もない雑務のみをほとんどさせていたものである。以上によれば,
被告が原告を旧教育研修所に異動させたことが原告の適性を考慮したもので
はないことは明らかである。
   ウ また,被告は,原告を旧教育研修所2階の個室に配席したのは,1階の事務室
には原告の机を置く場所がなかったためであると主張する。しかし,被告は,
旧教育研修所に勤務する職員が次第に減少し最終的には1階の事務室で勤
務する職員が1人になったにもかかわらず,原告を2階の個室で勤務させ続け
ているのであり,原告が席を置く場所がなかったという主張は明らかに不合理
である。被告は,旧教育研修所に勤務する職員が少なくなった後も1階の事務
室には安全部の職員が絶えず出入りしていたため完全に机が空いたわけで
はないとも主張するが,安全部の職員が研修のために出入りしていたのは1
か月に1週間か10日くらいであり〈証拠略〉,暇なときやすいているときもあっ
た〈証拠略〉のであるから,少なくとも絶えず出入りしていた状況は認められな
い。そもそも,旧教育研修所に在籍しているわけではない安全部所属の職員
のために,旧教育研修所に所属する原告の席を動かすことができないという
説明自体不自然である。原告が業務に使用していた整理棚が2階にあったこ
とは,上記判断を何ら左右するものではない。
   エ 被告は,原告が旧教育研修所に異動してから一切昇格がなかったこと等は,原
告の勤務態度等に問題があったためであると主張するので,この点について
判断する。
    (ア) 日常的な勤務態度について
      証拠(乙6~10,証人D,証人M,証人L)によれば,上司らから見た原告の仕
事ぶりは,特に強い意欲や積極性がうかがわれるものではなかったもの
の,少なくとも「(上司から)仕事上言われたことはきちんとしていた」〈証拠
略〉,「まあまあ普通といった感じ」〈証拠略〉であったというのであり,仕事ぶ
りが劣悪であったと評価すべき具体的な事情があったとは認められない。
原告は定時(5時)で帰宅することが多かったことが認められるものの,与え
られていた仕事の内容では勤務時間中でもすることがない状態になること
があったのであるから,定時に帰宅していたことを意欲の乏しさと評価する
のは不合理である。また,定時後に研修生に16ミリ映像を見せることがあ
ったのに原告は残ることなく帰宅してしまったことが認められる(証人M)も
のの,M自身「16ミリを動かすためには資格がいるから我々がおってもどう
しようもないことではあった。」と供述している〈証拠略〉。被告は,原告が周
囲の職員から嫌われていて協調性がなかったとも主張するが,これを認め
るに足りる証拠はなく,かえって,周囲の職員とまずい関係になったとかトラ
ブルになったことはなかった〈証拠略〉ことが認められる。
      そもそも,原告の仕事ぶりが強い意欲や積極性の感じられるものではなかっ
たとしても,被告は原告に内部告発を行ったことを理由として熱意や積極性
が表れにくい種類の仕事しか与えていなかったのであるから,その仕事ぶ
りを原告に不利に評価することは著しく不公平である。
      また,上記証拠によれば,原告が上司らに対して処遇の不満や異動の希望を
言っていなかったことが認められるが,原告が上記(1)ウの処遇を受けるに
至った経緯からすれば,仮に不服や希望を言ったとしてもこれが受け入れ
られる可能性は乏しかったというべきであるから,これをもって消極的に評
価することも不当である。
    (イ) 原告の対決的,非融和的姿勢について
      被告は,原告が旧教育研修所に異動した後,報道機関への投書等を通じて,
「異動拒否」や「退社の決意」を公然と表明していたから,これらを被告への
対決的,非融和的姿勢として,仕事や昇進に対する熱意がないものと評価
することは違法ではないと主張する。
      確かに,上記(1)エの認定事実によれば,原告が報道機関に対して投書するな
どし,その中には,原告が「もうこれ以上の転勤は拒否するつもりだ。」(昭
和52年1月25日(上記(1)エ(イ)))とか,「いま,わたしは会社を辞める決意
をしている。」(昭和54年10月12日(上記(1)エ(ウ)))と述べている事実が
認められる。
      しかし,これらの言動は,原告が内部告発を理由に3度にわたり異動を命じら
れ,最終的には旧教育研修所への異動を命じられたうえ,2階の個室に1
人で勤務させられ,仕事も雑務しか与えられなかったことから,これに抗議
する意味で行ったものと認められる。そうすると,異動拒否とされる部分は,
内部告発を理由とする不合理な異動は拒否する意思を示したものというべ
きであるから,これを仕事や昇進への熱意や意欲のなさと結びつけることが
正当とはいえない。また,退社の決意とされる部分についても,被告が旧教
育研修所において原告にした上記処遇の内容からすれば,上記(1)エ(ウ)の
記事の中で原告が言うとおり原告の退社は被告が望んだものであると容易
に推認されるから,これをもって仕事や昇進に対する熱意や意欲の乏しさと
評価することも不公平である。また,被告の原告に対する上記処遇は,後
記のとおり法的保護に値する内部告発を理由に原告を不利益に取り扱った
ものとして違法の評価を免れないものであり,しかもこれを被告に抗議した
ところでその処遇が改善される見込みはなかったと考えられるから,外部の
報道機関にその実情を訴えて被告による処遇に抗議することはやむを得な
い面があったといえる。そうすると,これらの事実を理由に人事権の行使に
あたって原告に不利益に取り扱うこともまた許されないというべきである。
    (ウ) 有給休暇の取得について(新教育研修所に勤務時の事実を含む)
      原告が①趣味のシンポジウムへの出席や,②外国旅行に行くために有給休
暇を取得していたことは当事者間に争いがない。しかし,①については,こ
れによる有給休暇の取得日数はわずか1日であるから,ことさら原告に対
する消極的評価の根拠となるものではない。なお,被告はこのシンポジウム
への出席のための有給休暇の取得のみを問題にしているわけではないと
も主張するが,その他にどのような理由でどの程度有給休暇を取得したの
かを具体的に主張しないから,被告の主張は採用の限りでない。また,②
については,まず原告が最初に外国旅行に行ったのは平成元年であるか
ら,それ以前の処遇に影響を及ぼしたものではないし,証拠(証人M,証人
L)によっても,その取得について問題が生じたのは被告が主張する4回の
外国旅行のうち多くても2回にとどまる〈証拠略〉。原告が予め所定の手続を
踏まなかったわけではなく,最終的には被告側も理解して休暇の取得を認
めている。仕事の調整についても,被告は原告に専門性が必要で代替要員
の確保が困難な仕事をさせていたわけではないから,その調整に具体的な
支障があったとは考えられない。
    (エ) 小括
      以上によれば,被告が主張する各事実は,いずれも人事考課等において,原
告を不利益に評価するに足りないものであるか,不利益に評価することが
法律上許されないと解すべきものであるから,昇格(賃金)格差を生じさせる
等の取扱いを合理的に説明しうるものではないというべきである。
   オ まとめ
     被告が原告を旧教育研修所に異動させたうえ,2階の個室に配席し,極めて補
助的な雑務をさせていたこと,原告には昇格がなかったことは,いずれも,原
告が内部告発を行ったことを理由として,これに対する報復として,原告を不
利益に取り扱ったものと認められる。また,被告の原告に対する退職強要行
為も,原告が内部告発を行ったことを理由として行われたものと認められる。
 4 原告に対する不利益な取扱いの有無2-新教育研修所への移転時以後における
もの(争点3)について判断する。
  (1) 新教育研修所に移るに至る経緯について
   ア 証拠(甲18,乙7~9,証人M,証人L,証人R)によれば,次の事実が認めら
れる。
    (ア) R人事部長は,新教育研修所への移転に先立ち原告と面談し,新教育研修
所は厚生年金会館内に構えることになるから,宿泊を伴う厚生年金会館の
仕事を手伝ってもらうかもしれないと伝えた。これに対し,原告は,R人事部
長が厚生年金会館への異動を命じたものと理解し,厚生年金会館の仕事を
することとなれば,宿泊施設の掃除やシーツの取り替え等この時までに旧
教育研修所でしていた仕事と同種の仕事しか与えられないと考えたことや,
宿直の仕事もしなければならなくなるため勤務時間が不規則になり日曜日
も休むことができなくなるという理由でこれを拒否し,旧教育研修所に残る,
今のままでいいなどと答えた。
    (イ) R人事部長は,ここには教育関係の機能が無くなってしまうのに何をするの
かと尋ねると,原告は,安全能力テストの解析,自動車学校の仕事,コース
の除草等の仕事があるなどと答えた。また,R人事部長は,「今ならまだや
り直しがきく年齢だ,東京や大阪へ転勤しろとは君の家庭の事情からも言え
ないだろう。地元のとやま産品や宅配の仕事,それから場合によっては路
線でやるのもいいじゃないか。」などと言って,「とやま産品センター」での仕
事や,中央支店での貨物の発着などの運送現場の仕事をするのはどうかと
提案したが,原告は,「今さら他の仕事に変わりたくありません。」,「ここま
で来たら私の意地ですね。」などと言ってこれを拒否した。
    (ウ) R人事部長が,では原告はどのような仕事をしたいのかと尋ねると,原告
は,ボランティア活動の支援,具体的には当時原告がしていた美術館での
絵画の説明員の活動を支援する仕事や,総会屋対策を専門に担当する仕
事をやりたいと答えた。原告とR人事部長はこの問題を議論をしたものの,
被告には当時そのようなことを専門に担当する部署はなく,R人事部長は
総会屋対策の問題について趣旨は分かるがすぐにできるわけではないなど
と話した。結局,R人事部長との面談では,原告は最後まで旧教育研修所
がある場所を離れないと主張して譲らなかった。
    (エ) その後,L教育研修所長が原告と面談したところ,原告はR人事部長から厚
生年金会館への異動と言われたと話した。そこで,L所長が,厚生年金会館
への異動ではなく,今までどおり研修所あるいは教育課の人間として移る
旨説明したところ,原告は新教育研修所へ移ることを了解した。
イ 原告は,R人事部長は厚生年金会館への異動であると説明しており,その
際,教育研修所の事務所が無くなるという詐術を用いたと主張する。しかし,R
人事部長が原告に厚生年金会館の仕事をしてもらうこともあると説明したこと
は認められるものの,詐術を用いたことを認めるに足りる証拠はなく,厚生年
金会館への異動と説明したとの点は上記ア(ア)のとおり原告がR人事部長の
説明を誤解したものと認められる。
また,原告は,R人事部長から他の仕事を打診されたことはないと主張しそ
の旨供述する。しかし,甲18によれば,原告は,この時に「もう一五,六年も現
場から遠ざかっているので,現場への復帰の意欲はおこらない。」として,その
ため文化支援等の仕事をさせてほしいと述べていることが認められ,また,証
人Lによっても,原告がこの年だから他へ行くことは望まないという話をしたこ
とがあることが認められる〈証拠略〉。そうすると,原告がこのように述べる前
提として,運送に直接携わる仕事等への異動の打診があったと考えるのが合
理的であるから,原告の主張は採用できない。
更に,原告は厚生年金会館への異動を拒んだのは,その仕事内容が将来
に希望の持てるものではなかったからであると主張する。確かに,厚生年金会
館での仕事についてはそのような面があるものの,むしろ,甲18によれば,日
曜日が休日ではなくなるため原告がしていたボランティア活動に支障が生じる
ことがより強い理由になっていると認められる。
ウ 以上の認定事実によれば,原告は,日曜日が休日でなくなり,併せて仕事の
内容もそれまでと変わるものではないとの理由により厚生年金会館の仕事を
することを拒否し,取り壊される施設に残るという頑なに過ぎる態度を示したも
のである。いつ休日を取得することができるかは全ての職員について等しく問
題となるものであるから,休日が日曜日でなくなることを主たる理由として厚生
年金会館の仕事を拒んだことは,原告がボランティア活動をするようになった
経緯を考慮しても正当なものとはいいがたい。また,原告は,被告から,輸送
の現場等それまでの業務とは異なる仕事をすることができる部署への異動を
提案されたにもかかわらずこれも拒み,そのうえ現に存在しない部署を設置し
てそこで仕事をすることを求めている。将来的に原告が希望した事業を進める
ことが望ましいことであるとしても,異動希望の内容としては余りに現実的でな
いといわざるを得ず,このように述べて被告の異動の提案を拒んだことは,原
告の当時の年齢や輸送現場の仕事に長期間携わっていなかったことを考慮し
ても明らかに行き過ぎである。
そうすると,このような事実経過から,原告が新しい業務に就く意欲に欠け
るなどと評価されて,被告の配置,異動,担当業務の決定及び人事考課・査
定,昇格等の人事権の行使において不利益に取り扱われることは,やむを得
ない面があるというべきである。
(2) 新教育研修所での処遇,昇格停止
    証拠(乙8,9,13,証人M,証人R,原告本人)によれば,新教育研修所での原
告に対する処遇は次のとおりであると認められる。
   ア 原告は,新教育研修所に異動した後,他の職員と一緒にその事務室で勤務し
ている。
   イ 原告が担当している仕事は,①金銭管理(手元資金として3万円を保管して教
育研修所の日常業務のために使用し,なくなった都度被告本社にその明細を
持参して新たに3万円を受け取る仕事であり,このために原告が被告本社に
来るのは年に2回か3回である。),②研修生の出迎え及び誘導・案内,③庶
務全般(研修所内の新聞,文具,時刻表の購入・管理,コーヒーや湯茶のセッ
ト・後片付け,国旗や社旗の掲揚・片付け),④厚生年金会館の作業の補助
(花壇の整備等),⑤マイクロバスの管理(走行キロの記録等)である。また,こ
の他に,⑥毎年7月と12月に「とやま産品センター」の応援業務に行き,「ふる
さとパック」の詰め合わせ作業やアルバイトへ指示する仕事をしている。
     以上のとおり,原告は,概ね旧教育研修所時代と同様に補助的な雑務に従事し
ていた。原告は,これらの仕事をして就業時間を過ごすものの時間が余ること
がたびたびあって,そのようなときは個人的なことや読書をして過ごしていた。
   ウ R人事部長は,原告に再生の機会を与えようと考えて教育研修所所長であった
MやNに原告を活用するように指示し,M所長の時代に原告に朝礼の点呼等
をさせたことがあった。その中で,原告が,おじぎ訓練を行った際,M所長の訓
示と一見すると整合しない内容の話を始めたため,M所長がマニュアルに沿
って行わずに余計なことを言ったとして腹を立てたことがあった。(この事実以
外に,被告が主張するような,原告が点呼等を任されたときに研修目的とは無
関係な自己の信念を一方的に話した事実を認めるに足りる証拠はない。)
   エ 昇格等についても,原告には旧教育研修所時代と同様に現在に至るまで昇格
がなく,号数の上昇は1号又は2号(平成13年は4号)であった。他方,原告と
同期同学歴入社の者で原告を除いて最も昇格の遅い者でも,原告が新教育
研修所に移転した時点では7級になっていた。ただし,同人は,平成12年6月
に6級に降格した。
  (3) O安全部長代理による異動の打診の有無について
乙11によれば,原告が新教育研修所に移ってから間もない平成4年6月過ぎ
ころに,O安全部長代理が原告に現場復帰の考えの有無や安全部での勤務は
どうかと聞いたことがあることが認められるものの,上記証拠によってもこれは
「軽く聞いた」とか「非公式の打診」というものであるから,新教育研修所へ移る
際にR人事部長との間でなされた異動についての面談とは,その現実味や真剣
さの点で自ずから違いがある。したがって,この話に原告が応じなかったからと
いって,原告に異動の意欲が乏しかったということはできない。
    なお,被告は,新教育研修所に移る前にO安全部長代理から原告に異動の打診
があったと主張するが,乙11によっても,新教育研修所に移る前には,当時安
全部監査指導員であったOが原告に安全部が行う適性検査を手伝ってもらうな
どのつながりがあったことが認められるものの,両者がした会話の内容は,原告
がかつて内部告発に至った当時の気持ち等を話したり,その他の世間話をした
にすぎないと認められるから,被告の主張は採用できない。
  (4) 被告が原告に対し内部告発を理由に不利益な取扱いをしたか否かについて判
断する。
    上記(1)イによれば,新教育研修所に移った後には物理的に個室に入れられて他
者との接触を妨げられた状態はなくなっていたものの,ほとんど雑務しか仕事を
与えられず,昇格が停止されて格差が生じていたことは,旧教育研修所におい
て長期間なされていた処遇と同様のものである。そうすると,新教育研修所に移
った後の処遇も,基本的にそれまでと同様に原告の内部告発を嫌悪しこれを理
由としてなされたものであると認められる。
    また,上記(2)ウや(3)の事実は,その内容に照らして人事権の行使において原告
を不利益に取り扱う合理的理由となるものではない。
    しかし,上記(1)ウのとおり,原告は,新教育研修所へ移る際に,主として休日が
日曜日ではなくなるとの理由で異動を拒んだり,被告が提案した異動先を一蹴
し,希望する異動先を聞かれても新たな部署の設置を前提とする当面の異動先
としては現実的でない希望を述べていて,これらは配置,異動,担当業務の決定
及び人事考課,昇格等の人事権の行使に際して原告に不利益に評価されても
やむを得ない事情である。原告は,被告が原告の提案に対して真剣に応答しな
かったのであり,これらは非現実的ではないと主張するが,原告の異動の話をし
ている場であることや,R人事部長自身の考えで新部署の設置を決めることがで
きるわけではないことからすると,そのときにR人事部長が積極的な態度を示さ
なかったり,何らかの明確な約束等をしなかったとしてもやむを得ないことであ
る。原告が,旧教育研修所に残るといった主張をしたこと,被告の提案をすべて
拒否し当時存在しなかった部署の仕事をやりたいと述べたことは,いささか対決
的な感情に傾きすぎたきらいがある。その後R人事部長の指示で点呼等の仕事
をしたことがあったことに照らしても,このころ原告に対する処遇を見直す機運が
あったことが強くうかがわれる。したがって,この時点で異動に応じるなどしてい
れば,担当する仕事の面でも昇格等の面でも,現在までとは多少なりとも異なる
取扱いを受けた可能性があったというべきである。
    そうすると,新教育研修所に移ってからの原告に不利益な処遇は,基本的には内
部告発を理由とするものであるが,原告に対する正当な評価に基づく部分も含
まれていると認められ,これらは因果関係ないし損害額の算定において考慮さ
れるべきである。
 5 責任原因について判断する。
(1) 以上によれば,被告が,原告に対し,法的保護に値する内部告発を理由に,
①旧教育研修所に異動させて長期間にわたり個室においたうえほとんど雑務に
のみ従事させ,新教育研修所に移った後も同様の仕事しか与えなかったこと,②
原告の昇格を停止して賃金格差を生じさせたこと及び③退職強要行為を行った
ことが認められる。このうち,③については後記6のとおり消滅時効期間が経過
した行為であることが明らかであるから,ここでは①及び②の責任原因について
判断する。
(2) 不法行為責任について
従業員の配置,異動,担当職務の決定及び人事考課・査定,昇進・昇格等
は,使用者が,企業主体の立場で事業の効率的遂行や労働の能力・意欲を高
めて組織の活性化を図るなどの観点から,人事権の行使として行うものである。
このような人事権の性質上,その行使は相当程度使用者の裁量的判断に委ね
られる。しかし,このような裁量権もその合理的な目的の範囲内で,法令や公序
良俗に反しない限度で行使されるべきであり,これらの範囲を逸脱する場合は違
法であるとの評価を免れない。また,従業員は,雇用契約の締結・維持におい
て,配置,異動,担当職務の決定及び人事考課,昇格等について使用者に自由
裁量があることを承認したものではなく,これらの人事権が公正に行使されるこ
とを期待しているものと認められ,このような従業員の期待的利益は法的保護に
値するものと解される。
これを本件に即していえば,原告の内部告発は正当であって法的保護に値す
るものであるから,人事権の行使においてこのような法的保護に値する内部告
発を理由に不利益に取り扱うことは,配置,異動,担当職務の決定及び人事考
課,昇格等の本来の趣旨目的から外れるものであって,公序良俗にも反するも
のである。また,従業員は,正当な内部告発をしたことによっては,配置,異動,
担当職務の決定及び人事考課,昇格等について他の従業員と差別的処遇を受
けることがないという期待的利益を有するものといえる。
そうすると,被告の上記①,②の行為は,人事権の裁量の範囲を逸脱する違
法なものであって,これにより侵害した原告の上記期待的利益について,不法行
為に基づき損害賠償すべき義務があるというべきである。
(3) 債務不履行責任について
原告は,上記各行為は雇用契約上の平等取扱義務,人格尊重義務,配慮義
務などに違反する債務不履行であると主張する。
そこで検討すると,従業員は,雇用契約の締結・維持において,上記(2)のとお
り人事権が公正に行使されることを期待し,使用者もそのことを当然の前提とし
て雇用契約を締結・維持してきたものと解される。そうすると,使用者は,信義則
上,このような雇用契約の付随的義務として,その契約の本来の趣旨に則して,
合理的な裁量の範囲内で配置,異動,担当職務の決定及び人事考課,昇格等
についての人事権を行使すべき義務を負っているというべきであり,その裁量を
逸脱した場合はこのような義務に違反したものとして債務不履行責任を負うと解
すべきである。このことは,使用者の人事権に広範な裁量が認められることによ
って否定されるものではなく,また,人事権の行使が手続的に適正になされてい
るとしても,そのことが実体的な裁量逸脱の有無を左右するものではないから,
やはり債務不履行責任を免れるものではない。
本件では,原告の内部告発は正当な行為であるから,被告がこれを理由に原
告に不利益な配置,担当職務の決定及び人事考課等を行う差別的な処遇をす
ることは,その裁量を逸脱するものであって,正当な内部告発によっては人事権
の行使において不利益に取り扱わないという信義則上の義務に違反したものと
いうべきである。したがって,被告は原告に対し債務不履行に基づく損害賠償責
任を負う。
  (4) 原告は被告に対し謝罪文を手交する方法により謝罪することを求めているが,
原告は人格権侵害による不法行為を主張するのみで,被告が原告の名誉を毀
損した事実を具体的に主張しないから,このような処分を認めるべき法律上の根
拠は認められない(なお,仮に名誉毀損の事実があったとしても,下記慰謝料の
支払いをもって精神的損害の回復として足りるというべきであるから,それ以上
に謝罪文の手交をする必要性は認められない。)。
 6 消滅時効の成否(争点5)について判断する。
  (1) 被告が原告にした前記5(1)①から③までの行為には,本件訴えを提起した日で
ある平成14年1月29日から3年以上前になされた行為及び10年以上前になさ
れた行為が含まれている。また,被告が,原告に対し,平成14年5月15日の本
件口頭弁論期日において消滅時効を援用するとの意思表示をしたことは,当裁
判所に顕著である。
    原告は,被告の原告に対する違法な処遇は28年前から一貫して現在まで継続し
ていて,原告の請求権はこのような一連の不法行為又は債務不履行に基づくも
のであるから,消滅時効は未だ進行していないと主張する。確かに,被告の上記
各行為は原告の内部告発を嫌悪し,これを理由としてなされたものであって,継
続的な同一意思に基づくものであるとはいえる。しかしながら,不法行為又は債
務不履行の具体的内容は,被告が,原告を昇級又は昇格させなかったことによ
り,原告が毎月の賃金支払期に本来支払われるべき賃金を受領できなかったこ
と,日々雑務にのみ従事させるなどして,原告に精神的打撃を与えたことであっ
て,これらの損害は,各賃金支払期又は日々発生しているのであって,当然に不
可分一体の1個の行為であるとはいえず,あくまで個々の不法行為又は債務不
履行が継続的に行われたにすぎないものと認められる。
    また,不法行為や債務不履行の内容からすれば,その行為があった時点で損害
及び加害者を認識し,あるいは権利を行使することが可能であったと認められ
る。
  (2) 原告は,被告による消滅時効の援用は権利濫用であると主張するが,本件の全
証拠を検討しても,これが権利濫用であるとは認められない。
  (3) そうすると,本件訴えを提起した日である平成14年1月29日の3年前の日であ
る平成11年1月29日より前になされた不法行為に基づく損害賠償請求権と,平
成14年1月29日の10年前の日である平成4年1月29日より前になされた債務
不履行に基づく損害賠償請求権は,いずれも時効により消滅したというべきであ
る。なお,財産的損害は,内部告発を理由とする差別的取扱いがなかったならば
原告が得られたであろう賃金額と,原告の実際の賃金額との差額になり,長年
にわたり原告を昇級又は昇格をさせなかったことが累積して差額が発生していく
ことになるが,具体的損害は,被告が各賃金支払期に賃金を支払うことによって
発生するものであるから,その中に平成14年1月29日から3年以上前又は10
年以上前になされた人事考課に基づく部分が含まれていたとしても,その部分に
ついて時効期間が経過したとはいえない。
    原告は,不法行為による損害賠償請求と債務不履行による損害賠償請求を選択
的に併合しているから,以下,時効により消滅した期間が原告に有利である債務
不履行に基づく損害賠償請求により,判断することとする。
 7 損害の発生及びその額並びに因果関係の有無について(争点4)判断する。
  (1) 精神的損害について
    原告が,被告の前記5(1)①,②の行為によって,深刻な精神的打撃を受け,無力
感,屈辱感等の多大な精神的苦痛を被ったことは明らかである。
    ところで,平成4年1月29日より前になされた差別的処遇(債務不履行)に基づく
損害賠償請求権そのものは前記のとおり時効により消滅したものである。しか
し,同日以後の差別的処遇は,原告が旧教育研修所への異動を命じられた昭和
50年10月からの長期間に渡って一貫してなされた処遇と基本的に同質のもの
であるから,平成4年1月29日以後の差別的処遇に基づく精神的損害の評価に
あたってもこのような事情を考慮するのが相当であり,そうすると,同日以後に生
じた精神的苦痛は一層多大なものであったというべきである。
    もっとも,前記4(4)のとおり,平成4年6月に新教育研修所に移った際の原告の態
度には,その後の配置,異動,担当職務の決定及び人事考課,昇格等の処遇に
おいて被告から不利益に取り扱われる原因となってもやむを得ないものがあっ
たというべきである。このことは,精神的損害の算定にあたっても減額要素として
考慮せざるを得ない。
    以上の事情を総合考慮すると,精神的損害に対する慰謝料の額は200万円と認
めるのが相当である。
  (2) 財産的損害について
   ア 内部告発を理由とする差別的取扱い(債務不履行)がなかったならば原告が得
られたであろう賃金額と,原告の実際の賃金額との差額が,原告の財産的損
害となる。
   イ 原告は,内部告発を理由とする差別的取扱い(債務不履行)がなければ,少な
くとも原告以外の同期同学歴入社した従業員のうちの平均的従業員とは同程
度に昇格していたとして,原告が得られたであろう賃金額の算定基準を,同期
同学歴入社の従業員の平均賃金額とすべきである旨主張している。
     しかし,本件においては,まず,賃金格差を算定するにあたって同期同学歴入
社の従業員の平均賃金額を,平均的従業員の賃金額(あるべき賃金額)とし
て想定することはできない。なぜなら,原告と同期同学歴入社した者で現在被
告に在籍している者は原告を除いて5名又は6名にすぎず,このような少人数
で平均賃金額を算定しても,その額は個々の従業員が受けている評価の影
響を強く受けたものとなって,同期同学歴入社の者に対する処遇の一般的傾
向を的確に反映したものとはならない可能性が高いからである。しかも,もとも
と同期同学歴で入社した者は25名いたのであり,現在約4分の3の従業員が
既に退社してしまっているのであるから,なおさら現在在職している者の平均
賃金額が同期同学歴入社の者に対する処遇の一般的傾向を示しているとは
いえない。むしろ,現在在籍している従業員は,平均的従業員として観念され
る者よりもある程度積極的な評価を受けている可能性が多分にあり,原告が
そのような者らと同時期に同等の評価を当然に受けていたとはいえないと考
えられる。したがって,原告が得られたであろう賃金額の算定基準を,同期同
学歴入社の従業員の平均賃金額とすることはできない。
   ウ ところで,証拠(乙1,3)によれば,原告と同期同学歴入社の者の中で,原告を
除いて最も昇格の遅い従業員は,昭和62年8月に7級11号から6級35号に
降格され,その後いったんは7級に復帰したものの,平成12年6月に再び7級
8号から6級164号に降格されていることが認められる。原告の賃金と同期同
学歴入社の者の平均賃金との格差は,平成13年末現在で概ね3370万円,
原告の賃金と原告を除いて最も昇格の遅い従業員の賃金との格差は,同現
在で約2667万円であることは被告の認めるところであり,原告を除いて最も
昇格の遅い従業員は,原告以外の同期同学歴入社の者と比較して,かなり昇
格が遅れているといえる。他方,原告には,前記のとおり,平成4年6月までは
人事考課上特に不利益に評価されるべき事実があったと認めるに足りない。
そうすると,内部告発を理由とした差別的な評価がなければ,少なくとも2度の
降格処分を受け,同期同学歴入社の者と比較してかなり昇格が遅れている上
記従業員と同程度の賃金を得ることが可能であったと認めるのが相当であ
る。
   エ また,平成4年6月以後については,前記のとおり,原告にも人事考課上不利
益に評価されてもやむを得ない事由があったことが認められ,結局,同時点以
後の考課査定については,内部告発を理由とする違法な差別的評価に基づく
部分と正当な人事評価に基づく部分とが混在しているものと認められる。そこ
で,最も昇進の遅い上記従業員の賃金額を一応の標準としたうえ,内部告発
を理由とする違法な差別的評価に基づき生じた賃金格差は,この者との賃金
格差のうち,7割を下回るものではないと認めるのが相当である。
   オ 以上によれば,財産的損害の額は次のとおりとなる。
    (ア) 平成4年1月29日から平成4年5月までの分
      証拠(乙1~4)によれば,平成4年2月(平成4年1月分の給与の支払期が同
月29日以後であることを認めるに足りる証拠はない。)から平成4年5月ま
での,原告と同期同学歴入社で原告を除き最も昇進の遅い従業員が得て
いた賃金と原告が実際に得ていた賃金の差額は合計44万1267円(別紙
2〈省略〉差額計算書のとおり)となり,この額がこの期間の財産的損害とな
る。
    (イ) 平成4年6月以後の分
      証拠(乙1~4)によれば,平成4年6月から平成15年12月までの,原告と同
期同学歴入社で原告を除き最も昇進の遅い従業員が得ていた賃金と原告
が実際に得ていた賃金との差額は合計1432万2737円となる(別紙2〈省
略〉差額計算書のとおり。なお,平成14年1月から平成15年12月までの2
年間については,各年の賃金格差は少なくとも平成13年の賃金格差80万
0653円と同程度であると認めるのが相当である。)。
      上記のとおり,このうち内部告発を理由とする違法な差別的評価に基づき生じ
た部分は7割を下回るものではないと認められるから,財産的損害の額
は,1432万2737円×0.7=1002万5915円(円未満切捨て)となる。
      なお,このうち平成13年から平成15年までに発生した損害額は,80万065
3円×3×0.7=168万1371円(円未満切捨て)となる。
    (ウ) 小計  1046万7182円
(3) 弁護士費用
    訴訟の難易度,請求額と認定額等に照らして,110万円をもって相当と認める。
  (4) 合計  1356万7182円(うち,平成13年から平成15年までに発生した財産
的損害は168万1371円であり,その余の損害の合計は1188万5811円であ
る。)
  (5) 遅延損害金
    債務不履行に基づく損害賠償債務は期限の定めのない債務であるから,履行の
請求を受けた時に履行遅滞となり,遅延損害金はその翌日から発生するもので
ある。
    平成13年から平成15年までに発生した財産的損害の請求は,平成16年5月3
1日付けの請求拡張申立書によってなされたものであり,原告は同申立書を被
告代理人が受領した日に初めて履行の請求をしたものと認められるから,同申
立書受領の日の翌日である平成16年6月3日からの遅延損害金を認める。
    その余の損害については,訴状送達の日の翌日である平成14年2月3日からの
遅延損害金を認める。
第4 結論
   以上によれば,原告の債務不履行に基づく損害賠償請求は上記の限度で理由が
あるから認容し,その余は理由がないから棄却する。
富山地方裁判所民事部
裁判長裁判官   永野圧彦
   裁判官   剱持淳子
   裁判官   三輪篤志

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