弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中控訴人に関する部分を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人代理人は、控訴棄却の判決を
求めた。
 当事者雙方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「(一)控訴人は、A
(原審共同被告)から同人の被控訴人に対する本件債権を譲り受けたものではな
い。Aは、控訴人から金二十万円を借り受けるにあたつて、担保として本件債権に
関する書類を控訴人に交付したに過ぎない。(二)控訴人がAから本件債権を譲り
受けたとしても、控訴人は、本件債権が被控訴人とAとの通謀虚偽表示による仮装
債権であることを知つて本件債権を譲り受けたものである。(三)またAは、被控
訴人に対し本件債権の譲渡通知をしていないから、控訴人は、被控訴人に本件債権
の譲渡をもつて対抗し得ない。A名義で被控訴人に対してなされた債権譲渡通知
は、Aの関知しないもので、右通知書は控訴人が作成し、Aの妻が捺印したもので
あるから、適法な債権譲渡通知の効力を有しない。」と述べた外、原判決事実摘示
記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 証拠として、被控訴代理人は、甲第一ないし第五号証の一、二(但し甲第五号証
の一、二は写)第六号証を提出し、原審及び当審における証人Bの証言、原告(被
控訴人)C本人尋問の結果、原審における共同被告A本人尋問の結果を援用し、乙
第一号証、第二号証の一、二、第三号証の成立を認め、その余の乙各号証の成立は
不知と述べ、控訴代理人は、乙第一号証、第二号証の一、二、第五ないし第五号証
を提出し、当審証人D、Aの証言、当審及び原審における控訴人(被告)E、原審
における共同被告人A各本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の一、二、第三号証
の一、二、第四号証の一の成立、第五号証の二の原本の存在及びその成立、第六号
証の成立を認める。その余の甲各号証の成立は不知と述べた。
         理    由
 成立に争のたい甲第一号証の一、二、乙第一号証、原審における原告(被控訴
人)C、共同被告A各本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認める甲第
二号証の一、二を綜合すれば、原判決添附目録記載の宅地及び建物は被控訴人の所
有であるが、被控訴人は、税務署関係で、金二十万円の調達先を明らかにする必要
に迫られ昭和二十四年十一月一日Aと通謀して、Aから、金二十万円を、弁済期を
昭和二十五年五月三十一日、利息年一割二分毎月末日払、期限後は百円につき一日
金三十銭の損害金を支払うことと定めて借り受け、右債権担保のため右宅地及び建
物に抵当権を設定したように装い、右抵当権の、設定登記手続を経由したこと、並
びに右抵当権設定登記済証をAをして保管せしめていたことを認めることができ
る。
 しかして控訴人が昭和二十五年二月四日東京法務局渋谷出張所受附第八三一号
で、前記債権並びに抵当権を控訴人がAから昭和二十四年十一月二日に譲り受けた
旨の抵当権取得附記登記を経由したいことは、当事者間に争のなところである。
 被控訴人は、Aが控訴人に前記債権並びに抵当権を譲渡したことがないと主張し
ているけれども、前記乙第一号証、原審における共同被告A、被告(控訴人)E各
本人尋問の結果を綜合すれば、Aは、昭和二十四年十一月二日頃控訴人から金二十
万円を借り受け、これが支払を確保するため前記債権並びに抵当権を控訴人に譲渡
し、前記抵当権の登記済証(乙第一号証)及び抵当権譲渡登記に要するA作成名義
の委任状を交付したことを認めることができるから、Aは、控訴人に対する自己の
債務の支払を確保するため、いわゆる譲渡担保の目的で右債権及び抵当権を控訴人
に譲渡したものと認定するのが相当である。
 次に、被控訴人は、控訴人はAから右債権及び抵当権の譲渡を受けるにあたつ
て、右債権及び抵当権が通謀虚偽表示に基く仮装のものであることを知つていたと
主張しているけれども本件一切の証拠によつても控訴人がAから昭和二十四年十一
月二日頃右債権及び抵当権を譲り受けるにあたつて、これが仮装のものであつたと
知つていたと認められる証拠がないのみならず、原審における共同被告A及び被告
(控訴人)E尋問の結果によれば、控訴人は、右債権及び抵当権が仮装のものであ
ることを知らずして、これを譲り受け、これを担保として金二十万円をAに貸し渡
したことが認められるので、被控訴人は、民法第九十四条第二項により本件債権並
びに抵当権が通謀の虚偽の意思表示に出ずることを理由としてその無効を控<要旨>
訴人に対し対抗することができないものというべきである。けだし、債権の譲渡は
当事者間における譲渡の意思表示により直ちに効力を生じ、これが通知は単
に譲渡を以て債務者その他第三者に対抗するの要件にすぎず、また、譲渡債権、抵
当権が仮装のものであるとの事由は民法第四百六十八条第二項にいわゆる譲渡の通
知を受けるまでに譲渡人に対し生じた対抗事由に該当しないので、本件のような場
合控訴人の善意悪意を判定するに当つては、譲渡が効力を生じた時を基準とすべ
く、譲渡通知の時によらないのが相当であるからである。
 次に、被控訴人は、Aが被控訴人に対し本件債権譲渡の通知をしないから、控訴
人は被控訴人に対し本件債権譲渡を対抗し得ないと主張しているので按ずるに、成
立に争のない乙第二号証の一、二によれば、昭和二十五年三月二日付書面でA名
義、被控訴人あての右債権及び抵当権を譲渡の通知が発せられ、右通知は翌二月二
日被控訴人に到達したことが認められ、原審における被告(控訴人)E本人尋問の
結果によれば、右債権譲渡通知書は控訴人が作成し、Aの妻が右通知書のA名下に
捺印した後これを被控訴人あてに発送したものであることが認められるけれども、
Aが前記認定の如く右債権及び抵当権を控訴人に譲渡し、右抵当権登記に必要な登
記済証、委任状を交付した以上、債権譲渡通知をなすことについても承諾していた
ものと推定すべく、かつ前記原審における控訴人(被告)尋問の結果によれば、A
は、右債権譲渡通知書作成後その妻より債権譲渡通知書に捺印したことを聞知し、
控訴人に対し債権譲渡通知をなすことにつき承諾したことが認めらしるから、結局
右債権譲渡の通知は譲渡人Aの意思に基きなされたものであつて、その効力にかく
るところがないものといわなければならない。
 また控訴人が昭和二十五年二月四日右抵当権取得附記登記申請をなすにあたり、
これより先被控訴人が東京法務局渋谷出張所に対し控訴人の右抵当権取得をもつて
詐欺的行為であるから抵当権取得附記登記申請を受理せられざるようとの上申書を
提出していたことは、原本の存在及びその成立につき争のない甲第五号証の二及び
原審における被告(控訴人)E本人尋問の結果により明らかであるけれども、控訴
人がたとえ右登記申請当時右上申書その他により、本件債権並びに抵当権が虚偽仮
装のものであることを知つていたとしても、譲受当時これを知らなかつたことが前
記認定のとおりであるや以上、右事実は、本件抵当権取得附記登記の効力に何の影
響も及ぼさないことはいうまでもない。
 以上説示のとおり、被控訴人は、控訴人に対し本件債権並びに抵当権が虚偽仮装
のものなることを対抗し得ず、また本件抵当権取得の附記登記の効力に欠くること
がない以上、前記債権不存在確認並びに抵当権取得附記登記の抹消登記手続をなす
ことを求める被控訴人の本件請求は失当として棄却すべきものである。よつて被控
訴人の本件請求を認容した原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用
の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 大江保直 判事 猪俣幸一 判事 河原徳治)

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