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平成21年8月18日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成20年(行ケ)第10336号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年6月4日
判決
原告サン−ゴバンセラミック
スアンドプラスティク
ス,インコーポレイティド
同訴訟代理人弁護士上谷清
永井紀昭
仁田陸郎
萩尾保繁
笹本摂
山口健司
薄葉健司
石神恒太郎
同訴訟代理人弁理士関根宣夫
古賀哲次
永坂友康
出野知
蛯谷厚志
田崎豪治
被告特許庁長官
同指定代理人金澤俊郎
小谷一郎
大谷謙仁
深澤幹朗
森川元嗣
安達輝幸
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのため
の付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−19068号事件について平成20年5月7日にした審
決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶
査定不服審判の請求について,特許庁が,補正後の請求項1を下記2(2)とする本
件補正を却下し,発明の要旨を下記2(1)の補正前の請求項1のとおりと認定した
上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨
は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消
しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)本件出願(甲1)及び拒絶査定
発明の名称:「改良された粉砕媒体」
出願番号:特願2002−161450号
出願日:平成14年6月3日
パリ条約による優先権主張:平成13年(2001年)6月1日(米国)
手続補正日:平成17年3月7日(甲2)
拒絶査定:平成17年6月30日付け
(2)審判請求手続及び本件審決
審判請求日:平成17年10月3日(不服2005−19068号)
手続補正書の提出日:平成17年11月2日(甲3。以下,この手続補正書によ
る補正を「本件補正」という。)
本件審決日:平成20年5月7日
本件審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
審決謄本送達日:平成20年5月20日
2本件補正前後の特許請求の範囲(請求項1)の記載
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1ないし3について補正するものであるが,
本件補正前後の請求項1の記載はそれぞれ以下のとおりである。
(1)本件補正前の請求項1
種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子を粉砕媒体として用いる
ことを含む,ビードミルにおけるアルファアルミナ粉末の粉砕方法。
(2)本件補正後の請求項1(下線部分が補正箇所である。)
種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子を粉砕媒体として用いて
アルファアルミナ粉末を粉砕することを含み,前記粉砕媒体が,平均径1μm以下
のアルファアルミナの結晶を有する,ビードミルにおけるアルファアルミナ粉末の
粉砕方法。
3本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,要するに,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下
「本願補正発明」という。)は,下記①の引用例に記載された発明(以下「引用発
明」という。)及び下記②ないし⑤の周知例1ないし4に記載された従来周知の技
術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法2
9条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができず,したがっ
て,本件補正は,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第5項
において準用する特許法126条5項の規定に違反するから,平成14年法律第2
4号による改正前の特許法159条1項において準用する同法53条1項の規定に
より却下すべきものであるとし,その結果,本件出願の請求項1に係る発明の要旨
を本件補正前の請求項1の記載に基づいて認定した上,同発明も,本願補正発明と
同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許
法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
①引用例特開昭62−187157号公報(甲4)
②周知例1特開平5−345611号公報(甲6)
③周知例2特開昭62−148319号公報(甲7)
④周知例3特表平9−506585号公報(甲8)
⑤周知例4特開平4−108545号公報(甲10)
なお,本件審決(4頁24∼29行)がその判断の前提として認定した本願補正
発明と引用発明の相違点1(以下「本件相違点」という。)は,以下のとおりであ
る。
粉砕媒体としての「アルミナ」に関して,本願補正発明においては「種晶ゾル−
ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子」であり「アルファアルミナの結晶」
を有しているのに対し,引用発明においては,「アルミナ焼結体」であり「アルミ
ナ結晶」を有しているものの,「種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミ
ナ粒子」であるか否か,また「アルファアルミナの結晶」を有しているか明らかで
ない点
4取消事由
(1)本件相違点についての判断の誤り(取消事由1)
(2)本願補正発明に係る顕著な作用効果の看過(取消事由2)
第3当事者の主張
1取消事由1(本件相違点についての判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本件審決は,周知例1ないし3を挙げて,粉砕媒体の一種である研磨剤として
「種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子」を用いることは従来周
知の技術にすぎないとし(5頁16∼19行),また,本件出願に係る明細書(本
件補正後のもの。特許請求の範囲につき甲3,その余につき甲1,2。以下「本願
補正明細書」という。)及び株式会社大修館書店平成13年11月25日発行の
「ジーニアス英和辞典第3版」(甲9。なお,同英和辞典に記載された「grind」
の語の和訳が本件出願に係る優先日(以下「本件優先日」という。)当時のもので
あることについては,当事者間に争いがない。以下「ジーニアス英和辞典」とい
う。)の各記載を挙げて,本願補正発明の「粉砕媒体」が研磨媒体の意も包含して
いるとした(5頁20∼24行)上,引用発明における粉砕媒体として,上記従来
周知の技術を適用し,本件相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者
が格別困難なく想到し得ると判断した(5頁25∼27行)が,以下のとおり,こ
の判断は誤りである。
(1)「研磨」と「粉砕」とが異なること
ア本件審決は,「研磨剤」が「粉砕媒体」の一種であると認定した。
しかしながら,株式会社岩波書店平成20年1月11日発行の「広辞苑第六版」
(甲11。なお,同辞典に記載された「研磨」,「研削」及び「粉砕」の意味がい
ずれも本件優先日当時のものであることについては,当事者間に争いがない。)に
よれば,「研磨」とは「とぎみがくこと。研削。」と,「研削」とは「砥石の粒子
で工作物の表面を削り取り平滑にすること。研磨。」と,「粉砕」とは「粉みじん
に細かくくだくこと。」とそれぞれ説明されている。
また,丸善株式会社平成9年3月25日発行の「セラミックス辞典第2版」(甲
12)をみても,「研磨」とは「砥粒加工の仲間である研削と区別が曖昧であるが,
表面仕上げを目的とした砥粒加工」と,「粉砕」とは「個体を細かく砕く操作」と
それぞれ説明されている。
以上のとおり,「研磨」とは「とぎみがくこと」を,「粉砕」とは「細かく砕く
こと」をそれぞれ意味し,「研磨」と「粉砕」とは明確に異なる概念であるといえ
るから,「研磨剤」は「粉砕媒体」の一種ではない。
したがって,「研磨剤」が「粉砕媒体」の一種であるとの前提に基づき,「研磨
剤」として用いられることが知られている「種晶ゾル−ゲル法により得られるアル
ファアルミナ粒子」に係る技術を「粉砕媒体」としての用途(引用発明)に適用し
た本件審決の判断は誤りである。
イ被告の主張に対する反論
被告は,特開2001−108192号公報(平成13年4月20日公開。乙1。
以下「乙1公報」という。),特開昭62−128918号公報(乙2。以下「乙
2公報」という。),特表平6−510272号公報(乙3。以下「乙3公報」と
いう。),特開平11−276504号公報(乙4。以下「乙4公報」という。)
及び国際公開第99/1521号(乙5。以下「乙5公報」という。)を挙げて,
研磨剤として用いられる粒状媒体を粉砕媒体として用いることに格別の困難性はな
いと主張するが,以下のとおり,被告の主張は理由がない。
(ア)乙1公報
乙1公報(段落【0024】,【0025】)は,セラミックスボールで原材料
粉砕物(粗粉砕物)を粉砕すると,粉砕に伴って表面が研磨されることがあること,
すなわち,粉砕することにより被粉砕物が研磨され得ることを開示・示唆するもの
ではあるが,研磨することにより粉砕が生じ得ることを開示・示唆するものではな
く,前者が正しければ後者も正しいという関係にもない。
また,本件において問題となるのは,研磨剤として用いられてきたものを粉砕媒
体として用いることの容易想到性であるところ,乙1公報は,粉砕により結果的に
研磨が生じたことを示唆するものではあるが,研磨剤を粉砕媒体に用いることを開
示・示唆するものではない。
さらに,本願補正発明が種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子
を粉砕媒体としてアルファアルミナを粉砕するものであるのに対し,乙1公報に記
載された技術は,セラミックスボールを用いてセルロース系微粉料を粉砕するもの
(段落【0024】)であり,両者は,粉砕の対象を異にするものである。
したがって,乙1公報を根拠に,同じ媒体を用いて粉砕及び研磨の双方を行う場
合があるということはできない。
(イ)乙2公報及び乙3公報
乙2公報及び乙3公報は,粒状媒体の一般的な用途として,「研磨剤」と「粉砕
媒体」とを含む複数のものがあることを述べるものにすぎず,そのことと,それら
の用途の間の移動が容易であることとは,次元の異なる問題であって,本来何の関
係もない(粒状媒体の用途として,「研磨剤」及び「粉砕媒体」のほか,乙2公報
には「耐火材」が,乙3公報には「超伝導体」,「半導体」,「強誘電体」,「誘
電体」,「圧電性物質」,「耐火材」等がそれぞれ同等に挙げられている。)とこ
ろ,乙2公報及び乙3公報は,上記用途の間の移動が容易であることを開示・示唆
するものではない。
(ウ)乙4公報及び乙5公報
乙4公報及び乙5公報は,研磨剤を粉砕媒体に用い得ることを開示・示唆するも
のではなく,乙1公報と同様,粉砕媒体を用いて研磨する例を開示するものにすぎ
ない。
(2)「grind」の語の意味
ア本件審決は,本願補正明細書に「粉砕媒体(grindingmedia)」との記載が
あること(段落【0001】),英語の「grind」に,「砕く」のほか,「研ぐ,
磨いて∼にする」という用法があること(ジーニアス英和辞典)から,本願補正発
明の「粉砕媒体」は,研磨媒体の意を包含すると認定した。
しかしながら,本願補正発明の「粉砕媒体」の語の意味は,本願補正明細書の段
落【0001】の「grinding」との記載と,その英和辞典上の訳語だけで単純に決
まるものではない。一般に,複数の意味を持つ語であっても,文脈に応じて1つの
意味に用いられるのが通常であるところ,「粉砕媒体」あるいは「粉砕」の語は,
本願補正明細書の随所に用いられ,本願補正明細書の全体を見渡せば,「研ぐ,磨
いて∼にする」との意味ではなく,「砕く」との意味で用いられていることが一義
的に明確である。そうすると,本願補正明細書中の「grinding」の語も,「砕く」
との意味で用いられていることが一義的に明確であるというべきであるから,本願
補正発明の「粉砕媒体」が「研磨媒体」の意を包含する旨の本件審決の上記認定は
誤りである。
イ被告は,ジーニアス英和辞典に「粉砕」及び「研磨」の訳語が併記されてい
ることをもって,「粉砕」と「研磨」とが取り立てて技術分野を異にするものとは
いえないと主張するが,英和辞典は,技術的な観点から訳語を掲げるものではない
から,英和辞典に訳語として併記されていることと,当該併記に係る事項が同一の
技術分野に属することとは,何の関係もない。
(3)引用発明に周知技術を適用する動機付け
以下のとおり,引用発明に周知技術を適用する動機付けはないから,引用発明に
周知技術を適用して本件相違点に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が格
別困難なく想到し得る旨の本件審決の判断は誤りである。
ア刊行物の記載について
(ア)周知例1ないし3
以下のとおり,周知例1ないし3は,粉砕媒体としての用途以外の用途に,例え
ば,研磨剤,充填剤等として「種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ
粒子」を用いることを開示するものではあるが,いずれも,粉砕媒体として「種晶
ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子」を用いることを開示・示唆す
るものではない。
a周知例1は,アルファアルミナ粉末に関する発明に係るものであり(段落
【0001】),微細なアルファアルミナ粉末の製造を可能にする手法として,種
晶ゾル−ゲル法を開示する(段落【0003】)。周知例1には,この種晶ゾル−
ゲル法により製造され得るアルファアルミナ粉末につき,セラミック成形体や砥粒
を形成する素材としての用途,ポリシング材やラッピング材としての用途及び磁気
テープや磁気カードの材料の磨耗特性を改良するものとしての用途が開示されてい
るが,粉砕媒体としての用途については,開示も示唆もされていない。
b周知例2は,易焼結性アルミナ粉末の製造方法に関する発明に係るものであ
るところ,易焼結性アルミナ粉末の製造を可能にする手法として,種晶ゾル−ゲル
法を開示し,この種晶ゾル−ゲル法により製造されるアルファアルミナ粉末が「焼
結体用原料のみならず,研磨剤や充填剤としても使用可能である」と説明するもの
である。このように,周知例2には,当該アルファアルミナ粉末につき,研磨剤及
び充填剤としての用途が開示されているが,粉砕媒体としての用途については,開
示も示唆もされていない。
c周知例3は,微細なセラミック粉末の加熱に関する発明に係るものであり,
周知例3には,加熱の対象となるアルファアルミナ粒子につき種晶ゾル−ゲル法に
よって得られたものが開示されているが,そのようにして得られた粒子の用途につ
いては,開示も示唆もされておらず,したがって,粉砕媒体としての用途について
も,何らの開示も示唆もない。
(イ)引用例
他方,引用例をみても,種晶ゾル−ゲル法により得られたアルファアルミナ粒子
を粉砕媒体として用いることを動機付ける記載はない。
(ウ)以上のとおり,「種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒
子」を粉砕媒体以外の研磨剤,充填剤等として用いるという従来周知の技術を,引
用発明の粉砕媒体に適用する動機付けは,引用例及び周知例1ないし3のいずれの
刊行物にも見当たらない。
なお,本件審決は,研磨剤が粉砕媒体の一種であることを前提として,従来周知
の技術を引用発明に適用する動機付けに問題がないと解しているものと理解される
が,この前提が誤りであることは,上記(1)及び(2)のとおりである。
(エ)被告の主張に対する反論
a被告は,乙2公報及び特開昭64−52667号公報(乙6。以下「乙6公
報」という。)を挙げて,アルファアルミナ粒子が粉砕媒体として用いられること
は従来から特別なものではないと主張する。
しかしながら,本件においてその適用が問題となる周知技術は,「アルファアル
ミナ粒子」ではなく,「種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子」
であるところ,乙2公報及び乙6公報は,「種晶ゾル−ゲル法により得られるアル
ファアルミナ粒子」につき,粉砕媒体としての用途があることを開示・示唆するも
のではないから,乙2公報及び乙6公報を根拠に,従来周知の技術(種晶ゾル−ゲ
ル法により得られるアルファアルミナ粒子)を引用発明に適用することに動機付け
があるとはいえない。
b被告は,「研磨剤」及び「粉砕媒体」の語は媒体の用途に応じた呼び方の違
いにすぎないと主張する。
しかしながら,研磨と粉砕とは,概念として異なるばかりでなく,従来,研磨剤
が粉砕媒体として用いられることがなかったこと(前記(1)イ(ア)参照)に照らせ
ば,両者は,技術的にも異なるものであり,当業者にとっても,「研磨剤」と「粉
砕媒体」とは,明らかに技術的に相違する用途なのであって,単なる呼び方の違い
にすぎないという程度のものではない。
イ研磨剤等と粉砕媒体との用途の相違について
(ア)アルファアルミナ粒子を研磨剤等として用いる場合と粉砕媒体として用い
る場合とでは,要求される性質・機能が異なるから,「種晶ゾル−ゲル法により得
られるアルファアルミナ粒子を研磨剤等として用いる」との従来周知の技術を引用
発明の粉砕媒体に単純に適用することはできない。
なお,被告も,「研磨剤及び粉砕媒体に要求される性質・機能が異なることは明
らかであ(る)」として,研磨剤の用途と粉砕媒体の用途において要求される性質
・機能が異なることを自認するところである。
(イ)被告は,本願補正明細書の段落【0014】の記載を挙げて,要求される
性質・機能は砥粒(研磨剤)と粉砕媒体とで大きく異なるものではないと主張する
が,同段落の記載は,研磨剤として用いられてきた「種晶ゾル−ゲル法により得ら
れるアルファアルミナ粒子」を粉砕媒体に用いた旨をいうもの,すなわち,本願補
正発明の一例を明らかにしたものにすぎない。
〔被告の主張〕
(1)「研磨」と「粉砕」とが区別されていないこと
本件審決が認定した「粉砕媒体の一種である研磨剤」とは,一般的な用途の面か
らみて,セラミックスの媒体が「研磨用」又は「粉砕用」の加工媒体として取り扱
われる旨をいうものである。
そもそも,粒状媒体による「研磨」及び「粉砕」については,同じ媒体を用いて
粉砕及び研磨の双方を行う場合があり(乙1公報(段落【0024】,【002
5】)),また,粒状媒体(粉末)の用途として,研磨剤と粉砕媒体とは同等に扱
われており(乙2公報(2頁右下欄8∼10行,同欄16行∼3頁左上欄3行,5
頁右下欄5∼10行),乙3公報(3頁左上欄4∼10行)),さらに,粉砕媒体
が研磨に用いられる(乙4公報(段落【0023】),乙5公報(1頁35行∼2
頁5行,10頁30∼36行))など,粒状媒体においては,その呼び方を含め,
「研磨」と「粉砕」とが取り立てて区別されておらず,被加工物を加工するための
ものとして,研磨に用いるものと粉砕に用いるものとが大きく異ならないことから,
本件審決は,「粉砕媒体の一種である研磨剤」と認定したものであり,この認定に
誤りはない。
したがって,研磨剤として用いられる粒状媒体を粉砕媒体として用いることに格
別の困難性はない。
(2)「grind」の語の意味
本件審決は,本願補正明細書(段落【0001】)に,日本語(「粉砕媒体」)
に英語(「grindingmedia」)をあえて併記する記載があることから,その意味す
るところを解釈するため,「grinding」の語の意味を考慮することとしたところ,
その原形動詞である「grind」の語の訳として,ジーニアス英和辞典に「粉砕」と
「研磨」とが等価・並列に記載されていることから,日本語としての「粉砕」と
「研磨」との概念が異なることを考慮しても,本願補正明細書の上記記載が「粉砕
媒体」及び「研磨媒体」の双方の意味を有し,「研磨媒体」を包含すると解釈した
ものである。
なお,仮に,本願補正明細書中の「grind」の語が「砕く」を意味することが一
義的に明確であるとしても,上記のとおり,「grind」の語の訳として,一般的な
辞書であるジーニアス英和辞典に「粉砕」と「研磨」とが併記されていることにも
照らせば,「粉砕」と「研磨」とは,取り立てて技術分野を異にするものであると
はいえないというべきである。
(3)引用発明に周知技術を適用する動機付け
ア原告は,周知例1ないし3に,種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファア
ルミナ粒子の用途として粉砕媒体が開示されず,その示唆もないとして,引用発明
に周知技術を適用する動機付けがないと主張する。
しかしながら,アルファアルミナ粒子が粉砕媒体として用いられることは,従来
から特別なものではない(乙2公報(5頁右下欄5∼10行),乙6公報(4頁左
上欄11∼13行))。
また,周知例1ないし3に,アルファアルミナ粒子の用途として粉砕媒体を開示
する直接の記載がないとしても,他方で,周知例1ないし3は,アルファアルミナ
粒子の粉砕媒体への適用を阻害する事情について開示するものでもない。
さらに,前記(1)のとおり,粒状媒体の用途として,「研磨」と「粉砕」とは,
特に区別されず,「研磨剤」及び「粉砕媒体」の語は,媒体の用途に応じた呼び方
の違いにすぎない。
したがって,従来周知の技術(種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミ
ナ粒子)を引用発明に適用し,本件相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,
当業者が格別困難なく想到し得る旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ原告は,アルファアルミナ粒子を研磨剤等として用いる場合と粉砕媒体とし
て用いる場合とでは,要求される性質・機能が異なるとして,「種晶ゾル−ゲル法
により得られるアルファアルミナ粒子を研磨剤等として用いる」との従来周知の技
術を引用発明の粉砕媒体に単純に適用することはできないと主張する。
しかしながら,研磨及び粉砕の各技術において,被研磨体及び被粉砕体に応じ,
研磨剤及び粉砕媒体に要求される性質・機能が異なることは明らかであり,研磨及
び粉砕のいずれであっても,要求される性質・機能に対応するよう研磨剤及び粉砕
媒体を設計するのは当然のことである。
なお,本願補正明細書の実施例の記載(段落【0014】)によれば,要求され
る性質・機能は,砥粒(研磨剤)と粉砕媒体とで大きく異なるものではない。
以上からすると,原告の主張は失当である。
2取消事由2(本願補正発明に係る顕著な作用効果の看過)について
〔原告の主張〕
本願補正発明は,以下のとおりの有利な作用効果を奏するものであるところ,こ
れは,引用発明に従来周知の技術(種晶ゾル−ゲル法により得られたアルファアル
ミナ粒子を研磨剤,充填剤等として用いる技術)を単に組み合わせたものから予測
することのできる範囲を超えた顕著な作用効果であるから,これを看過した本件審
決の判断(6頁13∼14行)は誤りである。
(1)粉砕媒体から生ずる破片の大きさ
一般に,高純度アルミナから製造される粉砕媒体を用いる場合,媒体の破砕によ
り生ずる破片が許容できないほどの大きさになるという問題があり,他方,低純度
アルミナから製造される粉砕媒体を用いる場合,媒体の破砕により生ずる破片は小
さくすることができるものの,用途によっては,許容できない汚染物が生じてしま
うという問題がある(本願補正明細書の段落【0004】)。
これを引用発明についてみると,引用発明は,高純度アルミナから製造される粉
砕媒体を用いるため,媒体の破片による汚染の程度は低く抑えられるが,媒体の破
砕により生ずる破片が許容できないほどの大きさになってしまうという問題がある。
これに対し,本願補正発明は,種晶ゾル−ゲル法により得られ,平均径1μm以
下の結晶を有する種晶入りアルファアルミナ粒子を粉砕媒体として用いアルファア
ルミナ粒子を粉砕するとの構成を備えることにより,汚染の程度を低く抑えたまま,
媒体の破砕により生ずる破片を小さくすることができる(サブミクロンサイズの破
片のみが生じ,実質的に粗い破片は生じない)ものである(本願補正明細書の段落
【0018】及び【0019】)。
(2)粉砕媒体の重量損失
粉砕後の粉砕媒体の重量損失に関し,本願補正明細書の段落【0015】及び
【0017】に記載されているとおり,従来の粉砕媒体を用いた場合は,45kg
の重量損失が粉砕媒体にもたらされるが,本願補正発明の粉砕媒体を用いた場合は,
同じだけのアルファアルミナ粉末を粉砕するのに,10分の1以下の3.7kg程
度の損失で済む。このように,本願補正発明は,粉砕媒体の重量損失が従来の粉砕
媒体よりも少量で済むものである。
この点に関し,被告は,本願補正明細書の実施例に記載されたミルと,比較の対
象とされた従来のミルとが異なるため,粉砕媒体自体によってもたらされる重量損
失の差異が明確でないと主張するが,本件補正後の請求項1の記載のとおり,本願
補正発明は,各種ミル(ビードミル)を含むものであるから,本願補正発明が奏す
る作用効果の顕著性は,異なるミルを用いる従来技術と比較することによっても,
十分に示すことのできるものである。
なお,上記作用効果は,重量損失に係る追加実験の結果(種晶ゾル−ゲル法によ
り得られるアルファアルミナ粒子を粉砕媒体として用いることにより,粉砕媒体の
重量損失及び摩耗速度を,従来のものを用いた場合の約11%に抑えることができ
る。)を記載したRalphBauer作成の2009年(平成21年)3月13日付け
「REPORTONADDITIONALTEST」と題する書面(甲13。以下,同書面に記載された
追加実験を「本件追加実験」という。)によっても裏付けられている。
(3)粉砕速度
粉砕速度に関し,本願補正明細書の段落【0016】及び【0017】に記載さ
れているとおり,従来のアルミナ媒体を用いた場合には6日間の時間を必要とした
粉砕操作が,種晶入りアルファアルミナ粒子を用いたアルファアルミナ粉末の粉砕
操作の場合には,7分の1以下の1200分(20時間)で達成できる。
このように,本願補正発明は,従来の粉砕媒体を用いる場合に比して,アルミナ
粉末を迅速に粉砕することができるものである。
被告は,本願補正明細書の実施例に記載されたミルと,比較の対象とされた従来
のミルとが異なるため,粉砕媒体自体によってもたらされる粉砕速度の差異が明確
でないと主張するが,この主張に理由がないことは,上記(2)のとおりである。
〔被告の主張〕
(1)粉砕媒体から生ずる破片の大きさ
種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子は,アルファアルミナ相
への転移率(アルファ化率)が高く,結晶粒子の大きさが0.1μmのオーダーの
微結晶構造のアルファアルミナといえるものである(周知例1(段落【0003】,
【0006】),周知例2(2頁左下欄12∼19行))から,種晶ゾル−ゲル法
により得られる平均粒子径1μm以下の結晶を有するアルファアルミナ粒子を粉砕
媒体として用い,アルファアルミナ粒子を粉砕した場合に,アルファアルミナの汚
染の程度が低くなるとともに,媒体の粉砕により生ずる破片が小さくなることは,
当業者が予測し得ることである。
(2)粉砕媒体の重量損失及び粉砕速度
本願補正明細書の実施例に記載されたミルと,比較の対象とされた従来のミルと
が異なるため,粉砕媒体自体によってもたらされる重量損失及び粉砕速度の差異が
明確でないものの,種晶ゾル−ゲル法により得られる平均粒子径1μm以下の結晶
を有するアルファアルミナ粒子の粉砕媒体が,硬く,また,上記(1)のとおり緻密
なアルファアルミナへの転移率が高いことを考慮すると,原告が主張する重量損失
及び粉砕速度に係る本願補正発明の作用効果は,十分に予測され得るものであり,
顕著なものとはいえない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件相違点についての判断の誤り)について
(1)周知技術の引用発明への適用の可否
ア本件審決が適用した周知技術
種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子を研磨剤として用いると
の技術(周知例1及び2に記載されたもの)が本件優先日当時の周知技術であった
ことは,当事者間に争いがない(以下,この技術を「本件周知技術」という。)。
イアルファアルミナ粒子の粉砕媒体としての使用
乙2公報及び乙6公報には,次の各記載があるところ,これらによると,アルフ
ァアルミナ粒子を粉砕媒体として用いることは,本件優先日当時の周知技術であっ
たものと認められる。
(ア)乙2公報
a「本発明によって,0.5μmより小さい極めて微細なαアルミナの最終結晶
を製造する方法を開発した。」(2頁右下欄8∼10行)
b「本発明の粉末から多結晶の粒状またはペレット状の物質…も製造することが
できる。粒状製品は研摩材,粉砕媒体および耐火材,さらに精密セラミックスの充
塡材として使用される。」(5頁右下欄5∼10行)
(イ)乙6公報
「γアルミナ粉末は,…αアルミナの粉砕媒体を用いる乾式ボールミル粉砕のよ
うな様々な方法で処理された。」(4頁左上欄11∼13行)
ウ粉砕媒体と研磨剤との共通性
本件周知技術の研磨剤と上記イの粉砕媒体が,共に,ビードミル中で被処理物と
衝突するなどすることにより被処理物を加工する材料(媒体)であるとの点におい
て共通するものであることは,明らかである。
エ本願補正発明の課題及びその解決手段
本願補正明細書には,次の記載があるところ,これによると,本願補正発明は,
μmオーダ以下の微細なアルミナ粉末を従来の高純度アルミナにより粉砕した場合
に受け入れ難い大きさの破片が生成されるとの課題に対し,これを解決するため,
種晶ゾル−ゲル法を採用することにより,微細な平均径(1μm以下(本件補正後
の請求項1))のアルファアルミナ結晶を有するアルファアルミナ粒子を粉砕媒体
として用いることとしたものと認められる。そして,粉砕媒体を用いて被粉砕物を
粉砕する場合に受け入れ難い大きさの破片が生じないようにすることが,当業者に
とっての自明の課題であることは明らかである。
【0003】商業的に利用しうる…ビートミル操作には,いくつかの種類がある。
…これらはいずれも,媒体と材料の間に,粉砕を生じさせる度々の接触を創り出す
ように設計されている。
【0004】…最終生成物は,粉砕される材料からばかりでなく媒体から由来する
破片も含有し,これは問題をもたらした。…アルミナを粉砕する場合には,アルミ
ナ媒体が通常用いられる。なぜなら,アルミナを粉砕するためにアルミナを用いる
と,磨損された材料が,粉砕される材料とほぼ同じになるからである。…しかし,
高純度アルミナ(93%+)では,もし目的がμmの大きさ,もしくはもっと微細
なアルミナ粉末を製造することである場合には,使用時の粉砕媒体は,受け入れら
れないほどに大きい破片を生成する。…
【0005】【発明が解決しようとする課題】受け入れられうる破片に破砕し,本
質的に不純物を含有しないアルミナの粉砕に用いるのに適した粉砕媒体を提供する
ことを目的とする。
【0006】【課題を解決するための手段】本発明は,種晶ゾル−ゲル法により製
造されるアルファアルミナから本質的になる粉砕媒体を提供する。
【0007】【発明の実施の形態】種晶ゾル−ゲル法で製造されるアルミナは,均
一な結晶構造により特徴づけられ,結晶は約2μm以下の平均径を有する。…本発
明による好適な媒体は0.1μm∼1μmのような1μm以下の平均径を有するア
ルファアルミナの結晶を有する。
オ本件周知技術において種晶ゾル−ゲル法が採用された目的
周知例1及び2には,次の各記載があるところ,これらによれば,本件周知技術
においては,微細な結晶を有するアルファアルミナ粒子を容易に得るため,種晶ゾ
ル−ゲル法が採用されたものと認められる。
(ア)周知例1
【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】αアルミナはアルミ
ナの最も硬くてち密な形態であり,他の形態のアルミナまたはアルミナ水和物を高
温に加熱して製造される。このため,このアルミナの形態は研磨材やセラミックへ
の用途に最も適している。αアルミナは通常電融法によって製造され…る。…この
方法によって生成した密度と硬度が高いアルミナ粒子を粉砕する工程は,極めて困
難である。微粒子が要求される場合に,概して数μmかそれ以下の微粒子を得るた
めには,焼結結合を壊す必要があり,結晶粒子そのものを粉砕することさえも必要
である。これは当然ながら,多大なエネルギー消費を要する極めて困難な操作であ
る。…
【0003】最近になってゾルゲル法,特には種晶ゾルゲル(seededsol-gel)法
が開発され,結晶粒子の大きさが0.1ミクロンのオーダーの微結晶構造(しばし
ばミクロ結晶子と称される)のアルミナの生産を可能にしている。
(イ)周知例2
(発明が解決しようとする問題点)…本発明者らは平均粒径が小さくかつ,粒径及
び粒形のばらつきの少ない焼結時低温で緻密化する所謂易焼結性アルミナ粉末を得
るべく鋭意検討した結果,本発明方法を完成するに至った。
(問題点を解決するための手段)すなわち本発明は,アルミナゾルに微粒のα−ア
ルミナ粉末を添加,混合した後ゲル化させ,次いで焼成,粉砕することを特徴とす
る易焼結性アルミナ粉末の製造方法を提供するにある(2頁左上欄6∼16行)。
カ以上によれば,引用発明の粉砕媒体であるアルミナ焼結体としてアルファア
ルミナ粒子を用いた上,さらに,受け入れ難い大きさの破片が生じないようにする
との課題を解決する手段として,アルファアルミナの結晶を微細なものとするため,
本件周知技術を適用することには,十分な動機付けがあったものと認めるのが相当
である。
キこの点につき,原告は,アルファアルミナ粒子を研磨剤として用いる場合と
粉砕媒体として用いる場合とで,要求される性質・機能が異なるとして,研磨剤に
係る本件周知技術を単純に粉砕媒体に適用することはできないと主張するが,仮に,
アルファアルミナ粒子を研磨剤として用いる場合と粉砕媒体として用いる場合とで,
要求される性質・機能が異なるとしても,そのことをもって,種晶ゾル−ゲル法に
より得られるアルファアルミナ粒子を粉砕媒体として用いること自体に阻害要因が
あるということはできない。
また,原告は,引用発明に本件周知技術を適用し得るとすることにつき,粉砕と
研磨との相違を理由に,種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミナ粒子が
研磨剤の用途に供し得るからといって,粉砕媒体の用途に供し得るものではないな
どと主張するが,現に,前記イ(ア)のとおり,一般のアルファアルミナ粒子は,研
磨剤にも粉砕媒体にも用いられるものであって,それは,粒状媒体としての用途と
して一般的に認められていると解されるところであるから,種晶ゾル−ゲル法によ
って得られるアルファアルミナ粒子は,一般の粒状媒体と異なり,研磨剤の用途に
供し得るが,粉砕媒体の用途に供し得ないものであるというのであれば格別,その
ような事情も窺われない。
原告の主張は,いずれにしても,上記カの認定を左右するものではないというべ
きである。
(2)本件審決の判断の当否
以上のとおりであるから,引用発明の粉砕媒体であるアルミナ焼結体としてアル
ファアルミナ粒子を用いた上,さらに,本件周知技術を適用して,本件相違点に係
る本願補正発明の構成とすることが当業者において格別の困難なく想到し得るとし
た本件審決の判断に誤りはないというべきであり,したがって,取消事由1は理由
がない。
2取消事由2(本願補正発明に係る顕著な作用効果の看過)について
(1)本願補正明細書に記載されている本願補正発明の作用効果
本願補正明細書には,原告が主張する本願補正発明の作用効果に関し,以下の記
載がある。
【0014】【実施例】本発明の粉砕媒体の有効性は,本発明の媒体を用いて達成
される高いレベルの粉砕効率を示す次の例により例示される。
例1
AlcoaCompanyから購入された市販アルファアルミナ(15.8k
g)が原料として用いられ粉砕された。比表面積(BET法で測定して)6m/2
g(約1μmの平均径に相当する)を有するこのアルミナは,ペンシルベニア州E
xtonのNetzschInc.により『LabstarLMZ−10』の
商標で販売されているBeadMill内に置かれた。…一様でない形状を有し,
そして,46Aグリット(0.27∼0.8mm)の『SG』砥粒(装入全量の1
2%)としてSaint−GobainCeramicsandPlast
icsInc.により販売されている種晶入りゾル−ゲルアルミナ砥粒が粉砕媒
体として使用され,そして脱イオン水(装入全量の69.5%)が30.5wt%
の固形分を有する全装入量40.82Lを形成するように添加された。ついで粉砕
が開始された。
【0015】もっと多くの媒体が媒体レベルを一定に保つために時々添加された。
21時間の粉砕の間に,一定レベルに媒体を維持するために,合計わずか3.7k
gが添加に必要であった。…
【0016】120m/gを超える表面積を有するアルファアルミナ粉末が122
00分たらずで得られた。
【0017】同一のアルミナが,従来の半インチアルミナ媒体を用いて従来のSw
eco振動ミル内で粉砕される場合と比較すると,この粉砕レベルは約6日間で達
成されなかった。アルミナ粉末75kgが装入されたが,生成物はアルミナ粉末1
20kgであり,これは生じた磨損による媒体の有意の損失を示す。このように,
最終生成物は約45kgの媒体に存在するすべての不純物,ならびに装入されたも
とのアルミナ粉末からの粉砕生成物を含んでいた。
【0018】媒体のもろさを評価するために,上で述べられ用いられたのと同一の
媒体の90%装入が水のみの添加物で,NetzschInc.から入手しうる
LabstarTrinexミル内で実施された。実施は2時間続き,その時間
後に,媒体損失はわずか3.9%であり,同じ様に試験された従来の粉砕媒体と比
べて非常に有利である。3.9%の減量を構成する粒子はすべてサブミクロンサイ
ズであるので,媒体の実質的に粗い破砕が生じていないのは明らかであった。
【0019】上述の結果から,ビードミルにおける種晶入りゾルーゲルアルミナ媒
体の使用は非常に効率的であり有利な粉砕の選択を提供することが明らかである。
(2)本願補正明細書に記載された作用効果の程度
原告は,本願補正明細書の前記記載から,本願補正発明は著しい作用効果を奏す
るものであると主張するので,その作用効果の程度について検討することとする。
ア粉砕媒体から生ずる破片の大きさ
上記(1)のとおり,本願補正明細書には,種晶ゾル−ゲル法により得られるアル
ファアルミナ砥粒(原告販売に係るもの)を粉砕媒体として用いてアルファアルミ
ナの粉砕を行った結果,破片を構成する粒子がすべてサブミクロンサイズであった
旨の記載があるが,前記1(1)オのとおり,種晶ゾル−ゲル法により得られるアル
ファアルミナ粒子は,もともと微細な結晶を有するものであるから,これを粉砕媒
体として用いた場合,粉砕媒体から生ずる破片の大きさが小さくなるのは当然の理
であり,したがって,仮に,本願補正明細書に記載された破片の大きさ(サブミク
ロンサイズ)が本願補正発明の奏する有利な作用効果であるとしても,それは,本
件周知技術から当業者が予測することのできる範囲内のものであって,特に顕著な
ものではないというべきである。
イ粉砕速度
上記(1)のとおり,本願補正明細書には,種晶ゾル−ゲル法により得られるアル
ファアルミナ砥粒(原告販売に係るもの)を粉砕媒体として用いてアルファアルミ
ナの粉砕を「LabstarLMZ−10」なる商標が付されたビードミル内で
行った結果,120m/gを超える表面積を有するアルファアルミナ粉末が122
00分足らずで得られたのに対し,従来の半インチアルミナ媒体を粉砕媒体として
用い,従来のSweco振動ミル内で粉砕を行った場合には,約6日間かかっても,
同一の粉砕レベルを達成することができなかった旨の記載があるが,使用されたミ
ルが異なることを措くとしても,比較の対象とされた「従来の半インチアルミナ媒
体」が引用発明のアルミナ焼結体に相当するものであると認めるに足りる証拠はな
いから,本願補正発明が粉砕速度の点において引用発明と比較して有利な作用効果
を奏するものと認めることはできない。また,上記アと同様,種晶ゾル−ゲル法に
より得られるアルファアルミナ粒子は,微細な結晶を有するものであるから,これ
を粉砕媒体として用いた場合,緻密な粉砕媒体が形成され,粉砕効率が向上するの
は当然の理であり,したがって,仮に,本願補正明細書に記載された粉砕速度が引
用発明との比較において本願補正発明が奏する有利な作用効果であるとしても,そ
れはまた,本件周知技術から当業者が予測することのできる範囲内のものであって,
特に顕著なものではないというべきである。
ウ粉砕媒体の重量損失
上記(1)のとおり,本願補正明細書には,種晶ゾル−ゲル法により得られるアル
ファアルミナ砥粒(原告販売に係るもの)を粉砕媒体として用いてアルファアルミ
ナの粉砕を「LabstarLMZ−10」なる商標が付されたビードミル内で
行った結果,媒体レベルを一定に保つために,21時間で3.7kgの粉砕媒体を
添加する必要があったのに対し,従来の半インチアルミナ媒体を粉砕媒体として用
い,従来のSweco振動ミル内で粉砕を行った場合には,約6日間で45kgの
重量損失があった旨の記載があるが,上記イと同様,使用されたミルが異なること
を措くとしても,比較の対象とされた「従来の半インチアルミナ媒体」が引用発明
のアルミナ焼結体に相当するものであると認めるに足りる証拠はないから,本願補
正発明が重量損失の点において引用発明と比較して有利な作用効果を奏するものと
認めることはできない。
原告は,本件追加実験において種晶ゾル−ゲル法により得られるアルファアルミ
ナ粒子を粉砕媒体として用いることにより,粉砕媒体の重量損失を,従来のものを
用いた場合の約11%に抑えることができると主張するが,甲13によれば,本件
追加実験において比較例として用いられた粉砕媒体は,「白色溶融酸化アルミニウ
ム砥粒(『38ALUNDUM』,粒度46ANSI)」であり,これが引用発明
のアルミナ焼結体に相当するものであると認めるに足りる証拠はないから,仮に,
重量損失の点についての本願補正発明の作用効果に関し,本件追加実験の結果を参
酌することが許されるとしても,同実験の結果をもって,本願補正発明が重量損失
の点において引用発明と比較して有利な作用効果を奏するものと認めることはでき
ない。
また,本願補正明細書に記載された重量損失量の減少の程度(1時間当たり約0.
31kgから約0.18kg(約58%に減少))及び甲13(本件追加実験)に
記載されたそれ(1時間当たり3.35ポンドから約0.38ポンド(約11%に
減少))をみても,引用例には,「第1図から,アルミナ含有量が…99.9%以
上となると耐摩耗性が急激に向上し,摩耗量はアルミナ成分量が99.9%未満の
場合の1/10以下に減少することが判る。」との記載(5頁左上欄1∼5行)が
あるのであるから,仮に,上記重量損失量の減少の程度(約58%又は約11%)
が引用発明との比較において本願補正発明が奏する有利な作用効果であるとしても,
この程度の減少をもって,当業者の予測の範囲を超えた顕著な作用効果であると評
価することはできないというべきである。
(3)小括
したがって,本願補正発明が顕著な作用効果を奏するとの原告の主張は,いずれ
の点においても失当といわなければならないから,取消事由2は理由がない。
3結論
以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求
は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官滝澤孝臣
裁判官本多知成
裁判官浅井憲は,差し支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官滝澤孝臣

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