弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点乃至第六点について。
 地方公務員法四六条が実体法上具体的な措置の請求権を認める趣旨のものでない
ことは所論のとおりである。しかし、同条は、地方公務員法が職員に対し労働組合
法の適用を排除し、団体協約を締結する権利を認めず、また争議行為をなすことを
禁止し、労働委員会に対する救済申立の途をとざしたことに対応し、職員の勤務条
件の適正を確保するために、職員の勤務条件につき人事委員会または公平委員会の
適法な判定を要求し得べきことを職員の権利乃至法的利益として保障する趣旨のも
のと解すべきことは、原判示のとおりである。従つて、同条に基く申立を違法に却
下した場合が右権利の侵害となることはもとより、右申立に対し実体的審査をし棄
却の裁決を与えた場合においても、審査の手続が違法である場合には、適法な手続
により判定を受くべきことを要求し得る権利を侵害することとなることは明らかで
ある。さらに、また、審査の手続が適法である場合でも、委員会が採るべき措置の
いかんについては―この点について委員会に広い裁量権が認められ、場合によつて
は申立を棄却することも裁量の範囲内の措置として適法になし得るとはいえ―裁量
権の限界があり、この限界を越えて違法に申立を棄却することは、裁量権の限界内
の適法な措置を要求する権利を害した意味で、なお、違法に職員の権利乃至法的利
益を害することとなるものと解すべきである。以上を要するに、地方公務員法四六
条は、職員の措置要求に対し、適法な手続で、かつ、内容的にも、裁量権の範囲内
における適法な判定を与うべきことを職員の権利乃至法的利益として保障する趣旨
の規定と解すべきものであり、違法な手続でなされた棄却決定また裁量権の限界を
越えてなされた棄却の決定は、同条により認められた職員の権利を否定するものと
して、職員の具体的権利に影響を及ぼすわけであるから、右棄却決定が取消訴訟の
対象とする行政処分に当るものと解すべきことは、原判示のとおりである。
 もつとも、委員会の判定の内容は、多くの場合、勧告的意見の表明であつて、そ
れ自体で、直接職員の勤務条件に影響を及ぼすものでなく、それ自体としては一種
の行政監督的作用を促す効果をもつに過ぎないことも所論のとおりであるが、勧告
的意見にせよ、人事行政の専管機関である委員会が、法律の規定に基き正規の手続
で意見を表明した場合には、この意見の表明がなに場合に比して職員が法的にもい
つそう有利な地位に置かれることは否定し得ないところであつて、かかる効果を伴
う意見の発表を要求し得る法的地位を識員に認めた以上、この意見の発表を要求し
得べき職員の権能は、一種の個人的権利乃至法的利益と解するに妨げがなく、右意
見の発表を違法に拒否する委員会の決定は、右の個人的権利乃至法的利益を害する
意味において、違法な行政処分と解さざるを得ない。同法四六条は、一面において、
個々の職員に職員全体の代表者とし職員全体のために委員会に行政監督的意見の発
表を要求し得ベき地位を認めたものとも解されるが、同時に、勤務条件につき不利
益を受けた職員個人のためにも、意見の発表を要求し得べき地位を認めたものと解
すべきことは前述のとおりであるから、同条に基く申立の権能が一面において公的
性質を保有するということだけで、ただちに、申立を違法に却下または棄却する委
員会の決定が個人の権利義務に関せず、従つて行政処分に当らないということはで
きない。
 また、職員の勤務条件につき同法四六条に基く申立とは別個に司法的救済を求め
る途があるということは、右申立を違法に却下または棄却する決定が抗告訴訟の対
象となる行政処分に当ると解することの妨げとなるものではない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    高   橋       潔
            裁判官    石   坂   修   一

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