弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人鈴木茂、同城山鉄雄、同中本宏、同松家健一、同玉虫久五郎、同江口
俊夫の上告理由第一点について。
 原判決を通読すれば、原審が、本願発明と引用発明との同一性につき、その特許
請求の範囲記載の各構成要件のみを形式的に対比して判断したものではなく、その
発明の詳細な説明に記載された事項をも勘案してこれを判断したものであることは
明らかであり、所論の点に関する原審の認定判断が正当として首肯するに足りるも
のであることは、のちに論旨第二点及び第三点について説示するとおりである。所
論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。原判決に所論の違法はなく、論
旨は採用することができない。
 同第二点について。
 原判決は、本願発明につき、その特許請求の範囲及び「この発明は多段的に多重
時分割通信を行うように構成し、且つ同期信号はその一段にだけ挿入し、他の段の
同期をこれを利用して行わせること及びそれらの同期信号に該当する位置に通信路
を設けたことを特徴とする多重多段的時分割通信方式にかかるもので、その目的と
するところは通信路得数を多くするこの種通信方式を得ることにある」こと、引用
発明につき、その特許請求の範囲及び「この発明は多重通信を実施するに当り、周
波数分割と時分割とを組合せて搬送波の利用率を大きくして多重化を急速に大きく
することを目的とするものである」こと、並びに、両発明が原判示のような基本的
着想において一致すること、を確定したうえ、この基本的構想を具体化するにあた
り、引用発明にあたつては、複数個の信号を適当個数の群に分け、その各群につい
て時分割を施した後、各群毎に異なる副搬送波に托送し、更にその全部を主搬送波
で伝送する多重多段時分割の通信方式にこれを適用したものであつて、それは必ず
主搬送波を用いるものであるが、本願発明の場合は、同様に多重多段の時分割信号
を伝送するものではあるけれども、その伝送手段及びその多重多段にする手段につ
いてはなんらの限定もしていないものである(したがつて、主搬送波を必ず必要と
するものでもない。)、とし、両者を比較すれば、引用発明のものは、必ず主搬送
波を用いるものであり、その当然の結果として各副搬送波は必ず互に周波数を異に
するものでなければならないのに対し、本願発明のものは主搬送波を必ずしも必要
とせず、かつ、各搬送波の周波数も必ずしも互に異なることを要しないものであつ
て、この意味において引用発明を拡張したものであり、したがつて、両発明は、そ
の基本的着想を共通にするものではあるが、その着想を具体化した発明そのものと
しては、各その構成要件を異にするものであつて、これを同一発明とみることはで
きない、としているのであり、その認定判断は、原判決挙示の証拠に照らし、すべ
て正当として是認するに足り、その過程に所論の違法はない。
 所論は、引用発明の要旨は「周波数分割多重通信の入力信号を時分割多重信号と
した通信方式で同期信号を搬送波の一にのみ挿入したもの」となり、本願発明の要
旨は「周波数分割多重通信の入力信号を時分割信号とし、同期信号は一チヤンネル
(一段)に挿入したもの」と「時分割信号を有線的に多段に伝送し、同期信号を一
チヤンネル(一段)に挿入したもの」の二通りに表わされることを前提とし、本願
発明の相当に重要な部分である右「周波数分割多重通信の入力信号を時分割信号と
し、同期信号は一チヤンネル(一段)に挿入したもの」という部分は引用発明と全
く一致するから、結局、本願発明は引用発明を全く包含するものとなる、として、
原審の前記の認定判断を非難するけれども、それは、引用発明のものが必ず主搬送
波を用いるものであるのに対して、本願発明のものが必ずしも主搬送波を必要とし
ないものであるとする原審の認定事実を無視した両発明の要旨の把握を前提とする
議論であるから、失当というべきである。なお、所論は、引用発明の要旨の把握に
あたり、その同期信号挿入位置は「主搬送波又は副搬送波の一にのみ」と択一的で
あつても発明としてみれば搬送波の一にのみ挿入した場合に帰するとし、本願発明
は引用発明のように主搬送波に同期信号を挿入する場合を含まない意味においてこ
れを狭く限定したものであるとする原審の判断を非難するけれども、本願発明が主
搬送波に同期信号を挿入する場合を含まないとする原審の認定判断は原判決挙示の
証拠に照らして首肯しうるところであり、仮に所論のように同期信号を副搬送波の
一に挿入したものも同期信号を主搬送波の一に挿入したものも発明としてみればと
もに同期信号を搬送波の一にのみ挿入したものとみるべきであるとしても、本願、
引用両発明が既に前述の点においてその構成要件を異にするものである以上、それ
は原判決の結論に影響するものではない。なお、所論は、引用発明のものが同期信
号を副搬送波に挿入した場合と、本願発明のものが主搬送波を使用した場合とにお
いては、両発明がその実施の態様においてこれを区別できない場合のありうること
は否定できないとした原審の判断は、両発明の構成要件の技術的解釈を誤つたため、
実施の態様と構成要件とを誤認混同したものであるというけれども、この場合にお
いても発明必須の構成要件としては両者間に差異があるとした原審の判断の正当で
あることは、既に述べたところから明らかである。論旨は、すべて採用することが
できない。
 同第三点について。
 引用発明と本願発明とは発明の構成要件を異にするものであり、ただその実施の
態様において互に重複する場合がありうるにすぎないとする原審の判断が正当であ
ることは、既に述べたところである。ところで、本件においては、引用発明のもの
は必ず主搬送波を用いるものであるのに、本願発明のものは必ずしも主搬送波を必
要としないものであつて、その点において両発明がその構成要件を異にするのであ
るが、このように、先願発明に付された限定を不必要とする点において後願発明に
別個の技術的思想を見出しうる場合にあつては、本願発明のものが主搬送波を使用
したような場合を考えれば、両発明は常にその実施の態様において重複する場合が
ありうることとなるけれども、もとより、そのゆえに両発明が同一であるというこ
とになるものでもなく、また、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)八条が、その
ような場合にまで、実施の態様において重複する部分を除外しない以上同一発明と
して後願を拒絶すべきものとする趣旨の規定であると解することもできない。本願
発明と引用発明とを同一発明ということはできないとした原審の判断は正当であり、
論旨は採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    団   藤   重   光
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫

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