弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人神道寛次、同青柳盛雄、同上村進及び同布施辰治の上告趣意第一点につい
て。
 人に脅迫を加えその脅迫状態を利用して義務なき事を行わしめれば、刑法第二二
三条第一項のいわゆる強要罪が成立する。原判決摘示の(一)及び(二)のいずれ
の事実においても、被告人等は、Aが被告人等の要求に応じないときは同人に対し
てどんな危害を加えるかも知れないような気勢を示してその要求の承認を迫り、遂
にAをして、自分の義務でもないのに、その要求に応ずる旨の覚書を交付せしめた
のである。さすれば原判決が被告人等の所為を刑法第二二三条第一項の罪にあたる
ものとしたのは正当であつて、所論のように強要罪に関する法律解釈並に適用を誤
つたという違法はない。論旨は、原判決には、被告人等の行為と、Aの畏怖心と、
覚書交付との間に一連の因果関係の存することの摘示及び判断を欠いていると非難
しているけれども、被告人等が、通常人ならば畏怖の念を生ずるであらうような脅
迫をAに加え、且つこの脅迫状態を利用して義務なきことを行わしめたことは、判
決文自体によつて明かであるから、論旨は理由がない。
 同第二点について。
 論旨に従えば、原判決が証拠として引用しているAに対する検事の第二及び第三
回聴取書中、同人の、「脅迫を受けて要求に応じたものである」との供述の趣旨は、
第一審及び第二審における同人の証言によつて打消され訂正されている。それにも
拘らず原判決が前者を証拠として採用したのは、刑訴応急措置法第一二条、憲法第
一一条、同第三一条、同第三七条第二項に違背するものであるという。しかし第一
審及び第二審の公判廷におけるAの供述は、必ずしも検事の聴取書における同人の
供述記載の趣旨を変更したものとは認められないのみならず、仮りに両者の趣旨に
食ひ違いがあつたとしても、そのような場合にいずれに信憑力を認め、いずれを証
拠として採用するかは、裁判官の自由心証に委ねられているところであつて、原判
決における証拠の取捨選択に所論のような違法のないことは、当裁判所の判例(昭
和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日大法廷判決)の趣旨に徴して明かであ
る。論旨は又、原審第二回及び第一審第三回公判調書記載の証人Bの証言は、同人
の個人的主観推察を述べたに止まり、Aが畏怖心を生じ、その結果覚書を交付した
ということを確定するための事実の証拠とはならないと主張している。しかし証人
Bは、本件犯罪が行われた現場にいて、自ら見、自ら聞いたこと、並にその見聞き
したところに基く観測を述べたのであるから、その証言に証拠能力又は証拠価値が
ないということは云えない。原判決がこれを証拠の中に加えて所論の事実を認定し
たことには何等の違法もない。
 これを要するに論旨第二点は凡て理由がない。
 同第三点について。
 論旨に従えば、被告人等の所為は、憲法第二八条に保障せられた勤労者の団体交
渉並に団体行動の権利の正当な行使であるというのである。しかし憲法第二八条は、
企業対勤労者すなわち使用者対被使用者というような関係に立つ者の間において、
経済上の弱者である勤労者のために団結権乃至団体行動権を保障したものに外なら
ないのであるから、その保障を拡張して、本件のように県C組合又はその組合長と
普遍の村民たる被告人等との関係にまで及ぼそうとする論旨の理由なきことは、当
裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三一九号同二四年五月一八日大法廷判決)に照
らして明かである。
 論旨は更らに、被告人等が互に意思連絡の下に交々原判決摘示のような放言を為
した事実を認めるに足る証拠は無いと主張している。しかし原判決が証拠として採
用している、Aに対する検事の第二、三回聴取書の中には、同人の供述として、判
示(一)の事実について、被告人D、E、Fは「自分等の要求通り一回限りで競馬
を抛棄してその後を開放するという書面を入れなければ帰らぬ」と確かに言うた。
他にも言うた者があつたようだが名前を知らぬのでよく判らぬ。Eは更に会談の合
間に二回位「懲役二年や三年行くことは覚悟している」又「板に釘を打つて検査官
の自動車を通させない」などと言い、その他にも、二、三人同様のことを言うた。
Eは又テーブルを二回程叩いて私に迫つた。Dは、「藁に火をつけて投げ込む」と
言うた、との記載がある、又判示(二)の事実についても、前記聴取書中に、Aの
供述として、D、F、Eその他の者等は、施設を即時撤去するという答を聞くまで
は帰えらないと言い、他の者も言うたが顔はよく覚えて居らぬ。またEは卓を叩き
暗くなつてから後方にいた者が一人、「どうしても撤去せんのか」と言うなり椅子
を持ち揚げて床に何回か叩き付けた、という記載がある。原判決はこれ等の記載を
証拠として、「被告人等は交々放言した」と判示したのである。「交々放言した」
という語句は、二人以上の被告人が放言したことを指すのであつて必ずしも所論の
ように、被告人等悉くが各自夫々放言したという意味ではない。被告人等は、共同
してAとの交渉を行い、その際仲間の者が右のような脅迫を為すことを互に認識し
つゝ、その脅迫状態を利用して、Aをして義務なきことを行わしめたのであるから、
これを強要罪の共同正犯に該るものとした原判決は正当であつて、所論のような違
法はない。
 なお論旨は、原判文が「先の覚書がC組合役員会の決議を経ず組合長単独で作成
された無効のもの」と判示したことを論難している。しかしこの場合問題となるの
は、先きの覚書がC組合長Aを拘束して更らに判示第二の覚書を交付する義務を負
わせたのであるか否かということである。原判決は、その全体の趣旨から考えてみ
れば、先きの覚書はそのような法律的効力を有するものでなかつたにも拘わらず、
被告人はそのことを察知しながら、Aにそのことを強要したものであるという意味
で、先きの覚書を、「無効のもの」と判示したものと解せられる。原判決をこのよ
うに解するならば、判示の見解は正当であつて、所論のような違法はない。
 右のように論旨第三点はすべて理由がない。
 同第四点について。
 被告人等がAをして交付せしめた交書が法律的に無効なものであり、財産的に無
価値なものであるとしても、社会的にはなお無意味なものではない。Aは本来かゝ
る文書を交付する義務を有してはいなかつたのに、被告人等は脅迫によつてこれを
交付せしめたのであるから、原判決が、これを義務なきことを行わしめたものとし
たのは当然であつて、原判決には所論のような理由齟齬の違法はない。それ故論旨
は理由がない。
 同第五点について。
 ポツダム宣言実施の一つの方策として聯合軍総司令部から発せられた所論農地革
命についての覚書は、日本国政府に宛てられたものであつて、農地改革案を同司令
部に提出すべき義務を政府に負わせている。しかしその結果として直接に、香川県
C組合長たるAにとつて、一回限り競馬を開催した後は競馬場を農地として解放す
る旨の覚書、又は昭和二三年一月一三日迄に競馬場の施設徹去を完了する云々の覚
書を被告人等に交付するという具体的な法律上の義務が発生したのでもなく、又被
告人等がそのような覚書の交付を受ける具体的な法律上の権利若しくは権能を獲得
したのでもない。それ故にポツダム宣言及び前記総司令部の覚書を援用して、被告
人等の所為は正当なる権利権能に基いてなされたものであり、被害者Aは義務なき
ことを行つたのではないと主張する論旨は採用することができない。原判決には所
論のような擬律錯誤の違法はない。
 以上の理由により旧刑訴第四四六条に従い主文の通り判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 田中己代治関与
  昭和二五年二月七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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