弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

       主   文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、補助参加によつて生じた分を含めて原告の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
 「特許庁が、昭和五九年八月二四日、同庁昭和五六年審判第一九一七号事件につ
いてした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
二 被告
 主文第一項同旨及び「訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第二 請求の原因
一 特許庁における手続の経緯、最終補正明細書の特許請求の範囲の記載及び本件
審決理由の要点は別紙のとおりである。
二 本件審決を取り消すべき事由
 本件審決理由の要点のうち、1(一)(1)①、②は認める。同(2)の①は認
める。②のうち(イ)は認める。(ロ)のうち、最終補正明細書の特許請求の範囲
第1項における『ラツクの噛合いが円滑に行われるように』との条件は、可変歯車
機構の噛合いの条件に規定されて、テーパーギヤーの回転方向転位量の変化と軸方
向転位量の変化が、互いに独立に決定し得ない密接不可分の関係にあるとの認定、
及び噛合いの軸方向と回転方向の転位量の不可分の関係を切下げに関連して解析し
た記載は、発明の詳細な説明に全く存在しないとの認定は認めるが、その余は否認
する。③のうち(イ)は認め、(ロ)は否認する。同(3)は否認する。1(二)
の(1)は認める。同(2)①のうち、第六次補正明細書に本件審決が指摘するよ
うな記載があることは認めるが、その余は否認する。②は否認する。同(3)の①
は認め、②び③は否認する。①(三)は否認する(但し第六次補正明細書による特
許請求の範囲の記載は認める。)。②(一)の(1)のうち、本件発明におけるラ
ツクについて、「第六次補正は、ラツクのピツチ線を直線形状のものから、直線形
状以外のものまで含むごとく補正した点に実質的内容が存在するものというべきで
ある。」との認定は否認し、その余は認める。同(2)は認め、同(3)の①及び
②は否認する。③のうち、当初明細書に「右の技術思想を不等ピツチのラツク、あ
るいは非直線状のラツクとの噛合いを前提とするセクターに拡張する技術的課題に
関する事項は示唆すらもされていない」との認定は否認し、その余は認める。④は
否認する。②(二)の(1)は否認し、(2)は争う。③(一)の(1)及び
(2)は認め、同(二)は否認する(但し、本件発明の出願日が要旨変更により繰
り下げられる場合には、本件発明が公知であることは争わない。)。同(三)は争
う。
 本件審決は、以下の点において違法であつて、取り消されるべきである。
1 特許法第三八条(昭和六二年法律第二七号による改正以前のもの、以下同
じ)、第四〇条違反(取消事由(一))
(一) 特許法第一二三条第一項は併合発明について無効審判請求を発明ごとに請
求できると規定し、また、同法第一八五条は特許原簿の登録、特許権の放棄などを
含む多くの場合について発明ごとに特許がされ、又は特許権があるものとみなす旨
規定し、二以上の発明に係る特許について各発明の独立性を明確にしている。そう
であるとすれば、特許権の設定登録後においては、併合発明のそれぞれについて個
別的に要旨変更の判断(特許法第四〇条)がなされるべきであつて、併合発明であ
るという理由で、一の発明について要旨変更を認定しただけで、他の発明について
の要旨変更の認定をすることなく、同様に特許法第四〇条の規定を適用することは
誤りである。
(二) しかるに、本件審決は、実質的には第六次補正明細書の特許請求の範囲第
1項の発明の技術内容についてだけ検討したうえ、第2項の発明については要旨変
更の有無について何ら判断を加えることなく、第六次補正を全体として要旨変更と
認定したうえ、特許請求の範囲第1項のみならず第2項の発明についてまで出願日
を第六次補正明細書が提出された日に繰り下げて認定し、そのうえで、第2項の発
明を引用例記載の発明と比較し、第2項の発明は引用例記載の発明と同一であると
認定し、更に、第1項の発明は第2項の発明を包含するから同様に無効であると認
定したものであつて、第1項の発明についての要旨変更の有無について検討するま
でもなく、本件審決は取消されるべきである。
(三) 被告及び被告補助参加人(以下「被告」という。)は、特許法第一二三条
第一項による併合特許に対する無効審判は各発明ごとになされるが故に、遡つて同
法第四〇条による出願日繰下がりの効果をすべての場合につき各発明ごとに考える
べきであるというのは本末を転倒した議論であると主張し、判決例及び文献を引用
しているが、被告の右主張は特許法第四〇条の解釈として不合理であり、また、被
告の解釈が判例において認められているとの主張も誤りである。この点を詳述する
に、
(1) 元来、特許法がその第三八条但書で一発明一出願の原則の例外として複数
の発明の併合出願を認めたのは、複数の発明の間に一定の関連性がある場合に、一
方において出願人に対しては類似した内容の明細書を複数作成して複数の出願とし
て維持したり、審査官の同一文献に基づく拒絶理由通知にその都度対応しなければ
ならない不便を回避せしめ、他方において、特許庁の審査官に対しては、極めて近
い技術内容についての公知技術の調査を重複して(多くの場合には、異なる審査官
が別個に)行わなければならない審査上の負担・不便を回避するため、すなわち審
査・登録手続及び出願手続上の便宜及び経済性に着目して定められたものである。
したがつて、併合出願においても、個々の発明自体は元来独立した存在であるか
ら、いつたん特許が付与された後においては、その有効性・無効性は各発明ごとに
特許がある場合と同様に取扱うべきことは特許法第一二三条、第一八五条の規定を
まつまでもなく、論理的に当然の帰結であり、右法条はこれを確認した規定にすぎ
ないのである。
(2) 右のごとき併合出願についての特許法の基本的な考え方は、特許法第四〇
条の解釈においても変更されるべきではない。周知のとおり、特許法第四〇条は、
公告決定送達前の補正が要旨を変更するものと特許権の設定登録があつた後に認め
られた場合の規定であるが、本来このような補正は出願手続において審査官、審判
官により速やかに却下されるべきものであり、審査官等が特許法の予定するように
速やかに特許請求の範囲ごとに要旨変更に当たるか否かを判断して出願人に通知し
ていれば、出願人は出願の分割、再度の補正、補正時を出願日とする新出願等いく
つかの手段により発明の保護を求めることができるのであるが、いつたんかかる要
旨変更が審査官等により看過され特許の設定登録がなされた後においては、特許権
者に残された方法は訂正審判の請求により特許請求の範囲の記載を訂正する他はな
い。しかしながら、審判により訂正が許される場合は法律上極めて限定されている
うえ、事実上も手続に長期間を要し、侵害訴訟や無効審判に有効に対処できない欠
点がある。
 被告の主張は、このような審査段階において要旨の変更の有無が請求の範囲ごと
に慎重に行われ、かつ出願人の選択可能な対処方法が与えられているのに、審査官
等の特許庁側が要旨変更を看過し特許の設定登録という行政処分を経たとたんに本
来要旨変更の存在しない請求の範囲にまで否も応もなく出願日の繰り下げを強要す
るという不合理な解釈を意味するものであり、その根拠を単に第四〇条の「その特
許出願」という一語に求めるものにほかならない。
(2) また、被告の引用する判決例は、いずれも特許法第三八条但書の規定によ
り複数の発明を一個の特許出願で出願した場合の拒絶査定に対する審決取消請求訴
訟の判決であつて、本件のように特許権成立後の特許の有効・無効の判断に関し複
数の発明の関係を認定したものではなく、しかも、右判決例は、併合出願を原則と
して一体として取扱うことを述べてはいるが、同時に右判決例自身において、出願
手続中の判断であることを強調し、一方、特許法第一二三条第一項柱書後段(本件
のような特許無効審判請求)の場合とは異なることを明確に述べているのである。
 したがつて、右二件の判決例は被告の主張を裏付けるものではなく、逆に原告の
主張こそ右判決により示された判断の前提もしくは趣旨に沿うものである。
2 要旨変更に関する本件審決の判断の誤り(取消事由(二))
(一) 本件発明は、ステアリング装置において使用されるラツク・セクター機構
においては、通常の歯車機構に比して回転角度範囲が狭く、回転速度が遅いことか
ら、通常の歯車機構のように一つの歯車横断面において完全な噛合い条件が成立す
る設計を行う必要は必ずしもないという技術上の認識のもとに、セクターの一つの
横断面において噛合いの連続性を保証するという考えにこだわらず、セクターの軸
線方向における長さ全体を利用して噛合いの連続性を保証するという考えを導入し
たものであって、その点に本件発明の技術思想の本質が存する。すなわち、本件発
明の実施例に開示されているように、ラツクの基準ピツチ線が直線の場合には、可
変歯車比にすると、セクターの軸線に垂直な任意の断面の一つのみではステアリン
グ装置の作動範囲全体にわたつては満足な噛合い条件が成立せず、噛合いの不連続
が生じ、また、ラツクの基準ピツチ線が曲線の場合でも、得ようとする可変歯車比
にとつて必要な噛合いピツチ曲線と異なる場合には、直線状のラツクの基準ピツチ
線の場合と同様な噛合いの不連続を生じるが、セクターの軸線方向に転位量が変化
したセクター歯形を用いると、噛合い位置がセクターの軸線方向に移るため、歯車
機構全体としての噛合いの連続性、すなわち円滑な噛合いが保証されるようにな
る。このように、セクターの軸線方向の長さを利用して初めて歯車機構全体として
の円滑な噛合いが保証されるのが本件発明の特徴であり、どのようなラツク歯形を
用いても、セクターが本件発明の要件を備える限り、所要の可変歯車比と円滑な噛
合いが得られるのである。
(二)(1) 右のような本件発明が、いかに当初明細書及び図面に記載されてい
るかをみると、まず、可変歯車比を得るために、セクターの回転方向のみならず、
軸線方向にも転位量を変化させなければならないことは、当初明細書第一頁第一九
行ないし第二頁第六行、同頁第七行ないし第一四行、第四頁第七行ないし第一二行
及び同頁第一三行ないし第一五行に当業者が容易に理解できる程度に記載されてい
る。更に詳述すると、当初明細書第一頁第一九行ないし第二頁第六行の記載によれ
ば、テーパーギヤーの中央より回転角が変わるにつれて歯数を変化させる(これは
噛合いピツチ円の直径を変化させることと同義である)ことにより可変歯車比が得
られる旨が説明されている。しかしながら、実施例に示されているラツクは直線状
の基準ピツチ線を有するものであるから、このように噛合いピツチ円の直径を変化
させることにより、ラツクの噛合いピツチ線が直線でなくなると、当然、そこに噛
合いの途切れや切下げの問題が生じる。すなわち、セクターの中央位置で円滑な噛
合いが得られても、セクターの回転にしたがい、噛合いが外れる個所が生じたり、
切下げが生じたりすることが考えられ、このことは、歯車技術に関し通常の知識を
有する者であれば当然に予測できるところである。当業者がこのような疑問をもつ
て当初明細書を検討した場合、前述したような個所でテーパーギヤーが噛合いに関
して説明されていることに着目し、これによつて噛合いの連続性の問題が解決され
ていることを理解する筈である。すなわち、テーパーギヤーが、大端側と小端側で
異なつた噛合い範囲を有することは当業者に周知の事実であり、したがつて、セク
ターをテーパーギヤーとし、噛合い範囲を拡大することによつて、前述の噛合いの
不連続の問題が解決できていることを、当業者は容易に理解できるものである。ま
た、切下げについては、ステアリング装置の歯車機構が通常の歯車機構に比して回
転範囲、回転速度とも比較にならない程小さいことを考慮すれば、本件発明におい
て問題として考えられていないことも理解できるものである。
(2) 右の説明から明らかなとおり、当初明細書から理解される技術的事項の本
質は、得ようとする可変歯車比に対応する噛合いピツチ曲線がラツクの基準ピツチ
線と一致せず、むしろ大きく外れているということ、そしてそのような噛合いピツ
チ曲線とラツクの基準ピツチ線との関係から必然的に生じ得る噛合いの不連続の問
題は、セクターを軸線方向に転位量の変化するテーパーギヤーとして構成すること
により解決されているということであり、これらのことは、歯車技術に関し通常の
知識を有する者であれば、当初明細書を注意深く読むことにより十分に理解できる
ものである。そして、このような理解に基づけば、ラツクの基準ピツチ線は必ずし
も直線状に限らず、曲線状の基準ピツチ線を有するラツクを用いる場合でも、本件
発明の技術思想をそのまま適用できることを極めて容易に理解できるものである。
(三) この点を更に詳述するに、当初明細書では不等ピツチのラツクやピツチ線
が非直線状のラツクについて明示的に説明はしていないが、このようなラツクの使
用も、次に述べるように本件発明の特許出願当時当業者には自明な事項であつたの
である。
(1) 当初明細書においては、等ピツチ、等圧力角の標準形ラツク、あるいは等
ピツチのラツクが、転位歯車であるテーパーギヤーとして構成されたセクターに噛
合わされることにより、可変歯車比を得ることができると説明されている。可変歯
車比を得るということは、噛合いピツチ線がその歯車比の変化に対応する曲線であ
るということである。これに対し、当初明細書に開示されたラツクは直線状の基準
ピツチ線を有するものであるから、当然のことながら、当初明細書に開示されたラ
ツクとセクターとの噛合いでは、ラツクの噛合いピツチ曲線が基準ピツチ線と合致
していない。このことは、本件発明の属する技術分野における通常の知識を有する
者であれば、容易に理解し得るところである。すなわち、当初明細書から、当業者
は、ラツクの基準ピツチ線に関係なく噛合いピツチ線を定めることにより、ラツク
の歯形に関係のない歯車比を得ることができるということ、換言すれば、ラツクの
歯形とは無関係に可変歯車比を得ることができる、ということを容易に理解できる
ものである。
(2) したがつて、当初明細書の特許請求の範囲におけるラツク歯形についての
限定を除くことは、当業者にとつて自明の範囲であり、要旨変更には当たらない。
 被告は、特許法第四一条における「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載
した事項の範囲」の解釈に際し、当業者の自明の範囲を全く考慮していない。被告
のこの主張が誤つたものであることは、明らかである。
(四) 以上によれば、本件発明の出願日は繰り下がることなく、したがつて、本
件発明の特許出願日は昭和四二年三月二八日であり、他方、引用例は本件発明の特
許出願日より後に公知となつたものであるから、本件特許について引用例記載の技
術が公知であることを理由とする無効原因は存しないのであつて、要旨変更に関す
る前記本件審決の誤認は本件審決の結論に影響を与えることは明らかである。
3 特許法第六四条第二項違反に関する本件審決の判断の誤り
(取消事由(三))
 本件審決は、公告後補正明細書の特許請求の範囲第1項は、先行する第六次補正
明細書の特許請求の範囲第1項を実質的に変更したものであると判断し、また、最
終補正明細書の特許請求の範囲第1項は、先行する公告後補正明細書の特許請求の
範囲第1項を実質的に変更したものであると判断したが、右判断は、いずれも誤り
である。この誤りは、本件発明におけるラツクとセクターの噛合いの技術的意義を
正確に理解しないなど本件発明の本質を誤解したことによるものである。
第三 請求の原因に対する認否及び被告及び被告補助参加人の主張
一 請求の原因一の事実は認める。
二 同二の主張は争う。本件審決の認定判断は正当であつて、原告が主張するよう
な違法の点はない。
1 取消事由(一)について
(一) 特許法第三八条但書は、一発明一出願の原則に対する例外として、相互に
深い関連性のある発明に限り複数発明を一つの出願にまとめることを認めて出願人
及び審査事務の便宜を図つた規定であつて、同条による出願に部分ごとに異なる出
願日を付与するような効果までを規定するものではない。そのような特殊な効果
を、明文の規定なしに解釈によつて創出することは到底認められない。しかして、
特許法第四〇条は、手続補正は一体として取扱うべきであり、この手続補正が要旨
変更と認められるときは、その特許出願(全体)は手続補正書を提出した時にした
ものとみなされることを規定しているのである。したがつて、その特許出願中に併
合発明があり、そのうち一発明のみが要旨変更であつたときでも、その特許出願全
体が前記手続補正書を提出した時にしたものとみなされるのであつて、もし特許法
第四〇条を発明ごとに適用するとすれば、特許請求の範囲の項ごとに異なる出願日
を認めるほか、発明の詳細な説明の記載についても、特殊請求の範囲の各項に対応
する記載部分についてそれぞれ異なる出願日を適用しなければならないことにな
り、そのような結果は、出願日に関する現行特許法の構成と根本的に矛盾するもの
と思われる。
(二)(1) 原告の主張は、専ら特許法第一二三条第一項及び第一八五条の規定
に依拠するものであるが、これらの規定は、条文の体裁上、明らかに二以上の発明
に係る特許について発明ごとに特許権がある如く扱う例外的場合を規定したものに
すぎない。しかも、その規定は、例外的に扱う場合を具体的に明示する形式である
から、法解釈の原則上、その他の場合に類推適用することは許されない。この理
は、東京高等裁判所の昭和五二年一二月二三日の判決及び同昭和五四年三月二二日
の判決の判示内容からも認められる。
(2) また、特許法第四〇条は適用範囲につき何らの条件を付せずに出願日に関
する基準を定めているのであるから、併合出願による特許についても、まず同条に
より出願日を定め、これを前提として出願日が問題となる各法律関係の内容を当該
法律関係ごとに決定するというのが現行特許法体系の意図するところと解される。
第一二三条により併合特許に対する無効審判は各発明ごとになされるが故に、さか
のぼつて第四〇条により出願日繰下がりの効果を、すべての場合につき各発明ごと
に考えるべきであるというのは本末を転倒した議論といわざるをえない。
(3) なお、特許法第一二三条は併合特許における各発明の有効性を独立に判断
すべき場合を規定しているが、そのことをもつて、特許法第四〇条により出願日が
繰り下がる場合においては発明ごとに異なる出願日を認めるべきであるということ
にはならない。同法第一二三条は、ただ一般的に併合特許の場合、一つの発明につ
いて無効理由があつても、当然に他の発明まで無効になるものではないという事実
(より正確には、無効にする必要はない、
という特許政策)を示すにとどまり、すべての発明について共通な無効理由がある
場合、全部が無効になることを禁じているものではない。したがつて、第一二三条
にかかわらず、第四〇条の適用上、出願日は如何に定めるべきかということは、第
四〇条自体の問題として判断すべく、前項に述べたような出願日の意義、併合出願
の法的性格、併合特許における発明思想の判断等の考慮から、この場合においても
統一した一個の出願日を有するものと解すべきである。
2 取消事由(二)について
 原告は、当初明細書の記載からして、補正後の不等ピツチラツクやピツチ線が非
直線状のラツクの使用は既に自明であつたから、第六次補正において要旨変更があ
つたとはいえず、したがつて、本件発明の出願過程において要旨変更はなかつた旨
主張する。しかしながら、当初明細書及び図面を一読すれば、本件審決認定のとお
り、等ピツチラツクを使用する技術しか記載されていないことは極めて明白であつ
て、かかる明細書及び図面の記載から、一般的でない不等ピツチラツクの使用を含
むことが自明とはいえないことは明らかである。すなわち、
(一) 当初明細書には、ラツクとして標準ラツク歯形ギヤー(等ピツチ、等圧力
角)を用いることが特許請求の範囲に記載されているほか、当初明細書の発明の詳
細な説明の締め括りとして、その第五頁第一行ないし第八行には「このように本発
明はボールネジラツクギヤーは一般の等ピツチのものを使用して、テーパーギヤー
のみを歯数の変化と共に各段階の転位置を変えた転位歯車とすることによりハンド
ルの回転角に応じた可変歯車比を得るようにしたことを特徴とするものであつて、
テーパーギヤーの取換のみで従来のステアリング装置を可変歯車比に改良し得る便
がある。」と記載されており、右の記載をみれば、本件出願の当初明細書ではその
明細書の記載全体を通じて、ラツクとして標準ラツク歯形ギヤー(等ピツチ、等圧
力角)のもののみを用い、その他の歯形のラツクの使用を排除したことは明らかで
ある。
 したがつて、原告が当初明細書に記載されていること以外についていかなる言辞
を為そうとも、標準ラツク以外のラツクを包含する特許請求の範囲(第六次補正)
は明細書の要旨変更であることは明白である。
(二) なお、念のため、原告の論旨を検討してみるに、原告は、憶測に憶測を重
ねて本件発明の本質、特徴、自明性等について主張するが、いずれも当初明細書に
示されているものではない。第六次補正明細書の特許請求の範囲第1項の記載が当
初明細書の特許請求の範囲の記載と異なつていることは一見して明白である。そし
て、このような場合、「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範
囲内において」の変更である場合は要旨変更とは見られないが(特許法第四一
条)、そうでない限り要旨変更となるのである。原告が引用する前記箇所には、等
ピツチラツクでないラツク、あるいは直線形状でないピツチ線を有するラツクにつ
いてはいかなる記載も存在しない(それどころか、前記一で述べたように、等ピツ
チ、直線形状ピツチ線の標準ラツクに限るとの趣旨の記載がある。)。かかる出願
当初の明細書において、第六次補正の特許請求の範囲第1項を特許請求の範囲とし
たならば、発明の詳細な説明の内容と齟齬することは明白であつて、これが要旨変
更とならない筈はない。
(三) 以上のとおり、第六次補正において導入された不等ピツチラツク又は非直
線形状ピツチ線を有するラツクを使用する発明が、当初明細書の記載外の技術であ
つて、要旨変更に該当することは明らかであり、この点に関する本件審決の判断に
誤りはない。
3 取消事由(三)について
 特許法第六四条第二項違反に関する本件審決の判断に原告主張のような誤りはな
い。
第四 証拠関係(省略)
       理   由
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、最終補正明細書の特許請求の範囲第
1項及び第2項の記載及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであること、当
初明細書及び当初図面に本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、第六
次補正明細書及び公告後補正明細書の各特許請求の範囲第1項及び第2項の記載が
本件審決認定のとおりであること、引用例が一九六九年(昭和四四年)七月四日に
フランス国工業所有権公報第二七号に掲載され、フランス国内で頒布された刊行物
であること、そこに本件審決認定のとおりの事項が記載されていること、第六次補
正明細書の特許請求の範囲第2項記載の発明と引用例記載の発明とが同一であるこ
とは、当事者間に争いがないところである。
二 取消事由に対する判断
1 取消事由(一)について
(一) 特許法第四〇条は、願書に添附した明細書又は図面について出願公告をす
べき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものと特許権の
設定の登録があつた後に認められた場合の取扱いについて、その特許出願は、その
補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす、すなわち出願日が要旨
変更に係る手続補正書提出日まで繰り下がるものとすると規定するところ、特許法
第三八条但書による複数の発明(以下「併合発明」という。)に係る特許出願は併
合発明が一体となつた一個の出願と解すべきであることからすると、併合発明は、
出願審査、拒絶査定に対する審判、特許査定、出願公告等出願手続において一体の
ものとして取扱われ、特許査定の登録後は一個の権利として、同じ期間(出願公告
から一五年又は出願から二〇年)存続するものとして、取扱われることになるので
ある。そうだとすれば、併合発明に係る特許出願において、そのうちの一発明につ
いてだけ要旨変更となる補正がなされた場合には、要旨変更のない発明を含めた当
該出願の全体の明細書又は図面の要旨が変更され、その出願日が右要旨変更に係る
手続補正書提出の日まで繰り下がるものと解するのが相当であり、そのように解す
ることは、特許法第四〇条が「・・・その特許出願は、その補正について手続補正
書を提出した時にしたものとみなす。」と規定している文理にも合致するものとい
うことができる。もし、補正された発明についてだけ出願日の繰下げを認めると、
併合発明につき複数の出願日が存することになるから、例えば一個の権利でありな
がら、存続期間が区々となるという理論的に整合しない結果を容認することとな
り、不当である。
(二) 原告は、①特許法第一二三条第一項、同法第一八五条は、二以上の発明に
係る特許について各発明の独立性を明確にしているのであるから、特許権の設定登
録後においては、併合発明のそれぞれについて個別的に要旨変更の判断がなされる
べきであつて、併合発明であるという理由で、一の発明について要旨変更であるこ
とを認定しただけで、他の発明について要旨変更に当るか否かの認定をすることな
く、同様に特許法第四〇条の規定を適用することは誤りである旨、また、②併合出
願においても、個々の発明自体は元来独立した存在であるから、いつたん特許が付
与された後においては、その有効性・無効性は各発明ごとに特許がある場合と同様
に取扱うべきことは特許法第一二三条、第一八五条の規定をまつまでもなく、論理
的に当然の帰結であり、右法条はこれを確認した規定にすぎないのであつて、右の
ごとき併合出願についての特許法の基本的な考え方は、特許法第四〇条の解釈にお
いても変更されるべきではない旨、更には、③審査官等が特許請求の範囲ごとに要
旨変更に当たるか否かを判断して出願人に通知していれば、出願人は出願の分割、
再度の補正、補正時を出願日とする新出願等いくつかの手段により発明の保護を求
めることができるのに、要旨変更となる補正が審査官等により看過され特許の設定
登録がなされた後においては、特許権者に残された方法は訂正審判の請求により特
許請求の範囲の記載を訂正する他はなく、侵害訴訟や無効審判に有効に対処できな
い欠点があり不合理な結果を招来する旨主張する。
 特許法三八条は、特許出願に関し一発明一出願を原則としたうえで、複数の発明
が同条但書一号ないし三号の関係にある場合には、その例外としてこれを併合発明
として一出願の形式により出願することを認めているが、かかる併合発明が特許さ
れ、登録された場合、それは一個の出願に対する特許査定に基づくものであるか
ら、一個の特許権が設定されたのであつて、例えば、特許法第一二三条、第一八五
条のように特段の規定がない限り、当然に発明ごとに特許があつたものとして取扱
うことはできない。しかして、特許権の設定登録がされた併合発明のうちの一部が
補正された場合の同法四〇条の適用関係については、これを個別に扱うべきとする
特段の規定はないのであるから、補正に係る一部の発明についてのみ出願日の繰下
げを認めることはできないものというべきであるし、また、同法第一二三条、第一
八五条を類推適用すべき理由も見出しがたい。この点に関する原告の前記①及び②
の主張は採用することができない。更に、③の主張については、その主張に係るよ
うな問題が存する事実であるとしても、立法論としてはともかく、特許法第四〇条
の解釈として部分的繰下げを認める根拠とすることはできず、③の主張も採用する
ことはできない。
(三) よつて、原告主張の取消事由(一)は理由がない。
2 取消事由(二)について
(一)(1) 成立に争いのない甲第二号証の一(本件発明の願書並びに添附の明
細書及び図面)(以下「当初明細書」ともいう。)によれば、当初明細書の発明の
詳細な説明の欄には、本件発明がボールねじ式のステアリング装置に於て可変歯車
比とした装置に関する発明であつて、従来、自動車の高速化に伴いハンドルのフイ
ーリングをよくしフラツキを少なくするためステアリングの剛性の向上を図る目的
でハンドルトルクを大きくしていたが、ハンドルの回転角が増すごとにハンドル操
作が重くなるという欠点があつたことから、回転角が増すに伴いギヤー比を大きく
してハンドルトルクを小さくし中央位置でのフイーリングをよくすることを目的と
するものであること(同号証の第一頁第七行ないし第一七行)、本件発明の特徴が
「ラツクギヤー(1)とテーパーギヤー(2)との噛合いを等ピツチラツクにて行
う場合にテーパーギヤー(2)(転位歯車)の中央(3a)より回転角が変わるに
つれて歯数を変化させると共にこれに伴い各歯(3)の各段階における転位量を逐
次変化させることによつてピツチ円直径を一定に保たせるようにしたこと」(同号
証の明細書第一頁第一八行ないし第二頁第六行)にあり、ハンドルの回転角が増す
につれてラツクギヤーとテーパーギヤーとのギヤ比を大きくするためには、「テー
パーギヤー(2)の中央から両端に向つて歯数を多く」する必要があり、「この場
合等ピツチラツクギヤー(1)と噛せ乍ら第2図の如く(イ)歯車のP.C.Dイ
から(ロ)歯車のP.C.Dロまで連続的に転位量を変化させることによつて正常
な噛合が得られる」(同頁第七行ないし第一四行)ことにより目的を達し得る旨の
記載が存することが認められるほか、発明の詳細な説明の締め括りとして、「この
ように本発明はボールねじラツクギヤーは一般の等ピツチのものを使用して、テー
パーギヤーのみを歯数の変化と共に各段階の転位量を変えた転位歯車とすることに
よりハンドルの回転角に応じた可変歯車比を得るようにしたことを特徴とするもの
であつて、テーパーギヤーの取換のみで従来のステアリング装置を可変歯車比に改
良し得る便がある」(同第五頁第一行ないし第八行)との記載が存することが認め
られる。このほか、前掲甲第二号証の一の当初明細書によれば、願書添附の図面の
第3図には、ラツクとして標準ラツク歯形ギヤー(等ピツチ、等圧力角)を用いた
本件発明の実施例の一部縦断側面図が記載されていることが認められ、更に、特許
請求の範囲の欄には、「ラツクギヤーとテーパーギヤーとの噛合を標準ラツク歯形
ギヤー(等ピツチ、等圧力角)にて行うものに於てテーパーギヤー(転位歯車)の
中央より回転角が変わるにつれて連続的に歯数と転位量を変化させることによつて
ピツチ円直径を一定に保たせ正常な噛合が可能な事を特徴とする可変歯車比ステア
リング装置」と、ラツクとして標準ラツク歯形ギヤー(等ピツチ、等圧力角)を用
いることを要件としていることが認められる。そして、前掲甲第二号証の一を精査
するも、当初明細書には、標準ラツク歯形ギヤー(等ピツチ、等圧力角)以外のラ
ツク、例えば不等ピツチラツク又は非直線形状のピツチ線を有するラツクを使用す
ることを示唆する記載は何も認められない。
(2) 以上の当初明細書の記載事項によれば、当初明細書においてテーパーギヤ
ーと噛合うラツクは直線状のピツチ線(基準ピツチ線)を有する等ピツチ、等圧力
角の標準ラツク歯形ギヤーに限定されているものと認められ、標準ラツク以外の構
造のラツクは記載されていないばかりか、標準ラツク以外の構造のラツクを用いる
ことを示唆する記載も認められない。
(二)(1) しかるに、成立に争いのない甲第三号証ないし第五号証(昭和四五
年一二月七日付、昭和四六年四月一〇日付各手続補正書本件特許公報)によれば、
本件発明の当初明細書の特許請求の範囲の「標準ラツク歯形ギヤー(等ピツチ、等
圧力角)」という要件は、昭和四五年一二月七日付手続補正(第四次補正)により
「直線状のピツチ線を有するラツク」(特許請求の範囲第1項)と補正されて不等
ピツチラツクが実質的に特許請求の範囲第1項に包含されることになり、次いで、
昭和四六年四月一〇日付手続補正(第五次補正)により「線形状のピツチ線を有す
るラツク」(特許請求の範囲第1項)と補正されたこと、そして、昭和四六年五月
二六日付手続補正(第六次補正)により、特許請求の範囲の記載が「1.ステアリ
ングシヤフトに形成されたボールネジにボールを介して螺合しているボールナツト
と、当該ボールナツトに形成されたラツクに噛合うセクターと、当該セクターを形
成したロツクシヤフトを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置におい
て、ステアリング装置の中央位置で最小のピツチ円直径を有し、ステアリング装置
の回転角の増加に対応してピツチ円直径を連続的に増加すると共に転位量を減少さ
せた特殊歯形を有するセクターを特徴とする前記可変歯車比ボールネジ式ステアリ
ング装置。2.特許請求の範囲1に記載の可変歯車比ボールネジ式ステアリング装
置において、ステアリングシヤフトの軸線に平行なピツチ線上にほぼ等しいピツ
チ、ほぼ等しい圧力角の標準歯形を備えているラツクを備えていることを特徴とす
る前記可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置。」と補正され(このことは当事
者間に争いがない。)、第五次補正における「線形状のピツチ線を有する」という
要件が削除されて、単に「ラツク」と、非直線形状のピツチ線を有するラツクも実
質的に包含されるように補正されたことが認められる。なお、成立に争いのない甲
第六号証(昭和四七年七月二八日付手続補正書)及び第七号証(昭和五一年六月八
日手続補正書)によれば、第六次補正明細書は、さらに公告後補正明細書により、
また、右明細書は最終補正明細書によりそれぞれ補正されたが、「ラツク」につい
ては第六次補正がそのまま維持されていることが認められる。
(2) 右事実によれば、第六次補正は、少なくとも「ラツク」について当初明細
書に記載された事項の範囲内の補正とは認められないから、本件発明の明細書及び
図面の要旨を変更するものと解さざるを得ず、本件特許に係る出願は、本件審決認
定のとおり特許法第四〇条の規定により、第六次補正のなされた昭和四六年五月二
六日にしたものとみなされるものである。
(3) 原告は、当初明細書及び当初図面には、不等ピツチラツク、あるいは非直
線状のラツクが明示的に記載されていないことを認めながら、当初明細書の発明の
詳細な説明の欄の記載をもとに、本件発明の技術思想の本質は、セクターの回転方
向の転位によつて生ずる一つの横断面において噛合いの連続性を保証しようという
考えにこだわらず、セクターの軸線方向における長さ全体を利用して噛合いの連続
性を保証するという考えを導入した点にあるとしたうえで、ラツクに関して、当初
明細書の特許請求の範囲におけるラツク歯形についての限定を除くことは当業者に
とつて自明の範囲であり、要旨変更には当たらない旨主張する。しかし、当初明細
書には、等ピツチ、等圧力角の標準ラツク及びこれと回転角に応じ歯数が変化する
セクターに形成されたテーパーギヤーとの断面における噛合いに関する技術的事項
以外に、他の形状のラツクに関する記載及びこれとセクターの軸線方向における噛
合いに関する記載は全く見出すことはできず、当初明細書から原告主張のような技
術的思想を読み取ることは到底困難というほかない。なるほど、原告主張のよう
に、標準ラツクと右のようなテーパーギヤーとの噛合いが不連続となるおそれのあ
ることは当初明細書から知り得ることができるが、だからといつて、当業者が当初
明細書から、不等ピツチラツクあるいは非直線状のラツクを用いれば、右のような
不連続を解消することができるとの事項が自明事項として、読み取ることができる
とする原告の主張は余りにも飛躍であり、採用の限りではない。
(三) よつて、原告の取消事由(二)は理由がない。
3 取消事由(三)について
 第六次補正明細書が公告後補正明細書により、公告後補正明細書が最終補正明細
書によりそれぞれ補正されたものの、「ラツク」については第六次補正がそのまま
維持されていることは前記2(二)(1)において認定したとおりであり、しか
も、本件発明は、第六次補正明細書が提出された昭和四六年五月二六日に出願され
たものとみなされるのであるから、公告後補正及び最終補正に対する本件審決の判
断に原告主張のような誤りがあつたとしても、後記説示のとおり、引用例の刊行さ
れた時期との関係で右判断の誤りは本件審決の結論に影響を与えないこと明らかで
あるから、原告の取消事由(三)の主張は、いずれにしても理由がないこととな
る。
4(一) 他方、引用例(フランス国特許第一五七三一〇〇号明細書)が一九六九
年(昭和四四年)七月四日にフランス国工業所有権公報第二七号に掲載され、フラ
ンス国内で頒布された刊行物であること、引用例には本件審決認定のとおりの発明
が記載されていること、そして、第六次補正明細書の特許請求の範囲第2項に記載
された発明と引用例記載の発明とが同一であることは、いずれも原告の認めるとこ
ろである。
(二) そして、前示第六次補正明細書の特許請求の範囲の記載に徴すれば、第1
項記載の発明は「ラツク」に限定がないのに対し、第2項記載の発明は「ラツク」
を「標準ラツク」(ほぼ等しいピツチ、ほぼ等しい圧力角の標準歯形を備えている
ラツク)と限定しており、第1項記載の発明は第2項記載の発明を包含する発明と
いえる。また、前掲甲第六、第七号証によれば、公告後補正及び最終補正に係る特
許請求の範囲第1項記載の発明も第六次補正明細書の特許請求の範囲第2項記載の
発明を包含しているものと認められる。
5 以上の事実によれば、第六次補正明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項に
記載された発明は、いずれも特許法第二九条第一項第三号の規定に該当し、本件特
許は、同法第一二三条第一項第一号の規定により無効とすべきものである。仮に、
公告後補正明細書、最終補正明細書が第六次補正明細書を実質的に変更していると
の本件審決の判断が誤りであるとしても、前記のとおり、本件発明の出願日が引用
例の頒布後である昭和四六年五月二六日(第六次補正明細書提出の日)とされる以
上、第六次補正明細書の特許請求の範囲第1項記載の発明を補正した公告後補正明
細書又は最終補正明細書記載の発明と第六次補正明細書の特許請求の範囲第2項記
載の発明がいずれも特許法第二九条第一項第三号の規定に該当し、同法第一二三条
第一項第一号の規定により本件特許が無効となることに変りはない。結局この点に
おいて本件審決の判断は正当であつて、原告の主張するような誤りは認められな
い。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があることを理由に本件審決の
取消しを求める原告の請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄
却することとし、補助参加によつて生じた分を含めた訴訟費用の負担について行政
事件訴訟法第七条並びに民事訴訟法第八九条及び第九四条後段の規定を適用して、
主文のとおり判決する。
(裁判官 松野嘉貞 舟橋定之 川島貴志郎)
別紙
一 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「可変歯車比ステアリング装置」とする特許第八五四七〇七号
(以下「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)の特許
権者である。
 本件特許は昭和四二年三月二八日に出願され、同年五月一三日付、同年八月二四
日付、昭和四四年一月七日付、昭和四五年一二月七日付(以下「第四次」とい
う。)、昭和四六年四月一〇日付(以下「第五次」という。)、同年五月二六日付
(以下「第六次」という。)手続補正書により手続補正がなされ、昭和四六年一〇
月一八日出願公告されたが、これに対し特許異議が申立てられ、それに伴って、昭
和四七年七月二八日付手続補正書により手続補正(以下「公告後補正」という。
)がなされたが、昭和五〇年五月二八日付で特許異議決定及び拒絶査定がなされ、
同時に公告後補正は補正却下決定された。その後、右拒絶査定及び補正却下決定は
拒絶査定不服審判の審決により取消され、出願は特許されたが、その間昭和五一年
六月八日付手続補正書による手続補正(以下「最終補正」という。)がなされ、昭
和五二年四月一四日設定登録されたものである。被告は、昭和五六年一月三〇日、
原告を被請求人として、本件特許の無効審判を請求し、昭和五六年審判第一九一七
号事件として審理された結果、昭和五九年八月二四日、「本件発明の明細書の特許
請求の範囲第一項、第二項に記載された発明についての特許を無効とする。」旨の
審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、同年九月一二日原告に送
達された。
二 最終補正明細書の特許請求の範囲の記載
1 ステアリングシャフトに形成されたボールネジにボールを介して螺合している
ボールナットと、当該ボールナットに形成されたラックに噛合うセクターと、当該
セクターを形成したロックシャフトを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリング
装置において、ステアリング装置の中央位置で最小のピッチ円直径を有し、ステア
リング装置の回転角の増加に対応してピッチ円直径を連続的に増加しつつ前記ラッ
クとの噛合いが円滑に行われるようにロックシャフトの軸線方向、すなわち大端側
から小端側に向って正から負に転位量を減少させた特殊歯形を有するテーパーギヤ
ーとしてセクターを形成したことを特徴とする前記可変歯車比ボールネジ式ステア
リング装置。
2 特許請求の範囲1に記載の可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置におい
て、ステアリングシャフトの軸線に平行なピッチ線上にほぼ等しいピッチ、ほぼ等
しい圧力角の標準歯形を備えているラックを備えていることを特徴とする前記可変
歯車比ボールネジ式ステアリング装置。
三 本件審決理由の要点
1 本件発明の要旨認定
 請求人(被告)は、本件発明につき要旨変更があると主張しているので、要旨変
更の存否の判断に入る前に、まず本件発明の要旨について認定する。
(一) 最終補正明細書について
(1)① 最終補正明細書の特許請求の範囲の記載は前記二記載のとおりである。
② 他方、公告後補正明細書の特許請求の範囲第1項(以下「第一クレーム」とい
う。)には、次のとおり記載されている。
 「ステアリングシャフトに形成されたボールネジにボールを介して螺合している
ボールナットと、当該ボールナットに形成されたラックに噛合うセクターと、当該
セクターを形成したロックシャフトを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリング
装置において、ステアリング装置の中央位置で最小のピッチ円直径を有し、ステア
リング装置の回転角の増加に対応してピッチ円直径を連続的に増加すると共にロッ
クシャフトの軸方向に転位量を減少させた特殊歯形を有するセクターを特徴とする
前記可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置。」
 なお、特許請求の範囲第2項(以下「第二クレーム」という。)は、文言上は最
終補正明細書の記載と同一である。
(2)① 最終補正明細書の特許請求の範囲第1項の記載と公告後補正明細書の第
一クレームとを比較すると、最終補正明細書には、(i)セクターの軸方向転位量
について、「ラックとの噛合いが円滑に行われるように」との限定、及び(ii)
軸方向の大端側から小端側に向って転位量を正から負へと変化させる旨、の二点が
付加されている。
②(イ) 被請求人(原告)は、(i)の限定について、当審における昭和五八年
一月二八日付答弁書において、「ラックの基準ピッチ線が直線である場合には、セ
クターの一つの横断面内において噛合いの連続性が保たれず、セクターの回転に伴
なってセクターとラックの噛合いが外れる恐れが生じる。本件の発明においては、
セクターの歯形に軸線方向の転位量の変化を与えることにより、・・・セクターの
一つの横断面内ではなくセクター全体としての噛合いの連続性が保たれる」(第四
頁第八行以下)ことを意味する旨述べている。また、本件特許に対する昭和五三年
審判第一一〇四六号無効審判事件の昭和五四年一一月七日付答弁書において、「本
件特許発明において、『回転方向の転位量の変化』と『軸方向の転位量の変化』と
は、共に可変歯車比を得るため及び円滑な噛合いを得るために不可欠であり、かつ
両者は密接不可分な関係にある」(第二頁第一六行以下)と述べ、更に、同審判事
件の昭和五五年九月一六日付答弁書において、請求人(被告)の提示した計算例に
反論して、「第二回弁駁書添付の上記参考資料に示された解析では、切下げの条件
が全く考慮されていず、・・・『円滑な噛合い』すなわち『或る組の歯の歯面の噛
合いが終らないうちに次の組の歯の歯面の噛合いが始まる』条件を論ずるには無意
味であり、・・・例示したすべての歯で、切下げが全く生じていないことを示さな
い限り、この計算例は無価値である」と述べた。
(ロ) 以上の被請求人(原告)の主張を総合すれば、最終補正明細書の特許請求
の範囲第1項における「ラックの噛合いが円滑に行われるように」との条件は、可
変歯車機構の噛合いの条件に規定されて、テーパーギヤーの回転方向転位量の変化
と軸方向転位量の変化が、互いに独立に決定し得ない密接不可分な関係にあり、そ
の条件が充足されているか否かは、すべての歯で切下げが全く生じていないことの
検証が必要なことを示すものと解される。しかるに、公告後補正明細書には、軸方
向に転位量の減少が存在することを規定するだけであって、上記の噛合いの軸方向
と回転方向の転位量の不可分の関係を切下げに関連して解析した記載は、発明の詳
細な説明に全く存在せず、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に不可欠の事項
を記載すべき第一クレームにも、セクターの回転方向と軸方向の転位量の相互関係
を規定した事項は全く記載されていない。
 してみれば、(i)の補正は、セクターの歯形に関する従来存しなかった異質の
特徴につき規定したものであるから、特許請求の範囲の実質変更に該当するもので
ある。
③(イ) また、(ii)の限定について、最終補正明細書の記載によれば、セク
ターの転位基準面上のP16において転位量は零であり、中心に向けて転位量が増
加してP0で最大となる。したがって、P16の転位量は零であり、同点を含む軸
方向転位量の変化は大端側から単調減少であるから、転位量はP16よりも大端側
で正、小端側で負となる。しかし、P0は転位量が正であるから、P0を含む軸方
向における転位量の変化のあり方が何らかの形で規定されていない限り小端側の転
位量の絶対値が負になるものと特定はできない。
(ロ) しかるに、最終補正明細書には、円滑な噛合いのためにP16を含む軸線
方向の小端側だけでなく、小端側転位量を負にしたもので、小端側においてはすべ
て転位量が負になると解する外ないものであり、円滑な噛合いとの関連において小
端側の転位量をすべて負にする旨の記載は、公告後補正明細書における技術課題と
の関連においても存在せず、第一クレームにも記載されていないものであるから、
(ii)の補正も特許請求の範囲を実質的に変更したものと認めざるを得ない。な
お、第二クレーム記載の発明も、第一クレームを前提とするものであるから、第一
クレームが実質変更であれば当然実質変更となる。
(3) したがって、最終補正明細書の特許請求の範囲第1項及び第2項の記載
は、特許法第六四条第二項において準用する同法第一二六条第二項の規定に違反す
るものであるから同法第四二条の規定により、当該補正がなされなかった特許出願
につき特許がなされたものとみなされる。
(二) 公告後補正明細書について
(1) 公告後補正は、第一クレーム中転位量の減少を「ロックシャフトの軸方向
に」限定したことを内容とするものである。
(2)① 出願公告された第六次補正明細書(その特許請求の範囲は後記(三)参
照)の記載によれば、「第6図に示すようにラックとセクターの噛合いにおけるセ
クターの軸線方向の転位基準面において、・・・P0、P1、P2、・・P16を
結んで構成する曲線(第5図に示されている点線イ―ロに対応する)が噛合いピツ
チ曲線」(第一三頁第五行以下)、「本発明のラック(1)とセクター(2)の噛
合いピッチ曲線は点線イ―ロがセクター(2)の噛合いピツチ曲線であり一点鎖線
イ―ロ’がラック(1)の噛合いピツチ曲線である。」(第九頁第一四行以下)等
の表現からみても、転位基準面においてセクターの全回転範囲にわたって噛合いな
がらラックを移動させる構成を前提に説明されている。したがって、第六次補正明
細書に開示された発明は、転位基準面においてセクターとラックがセクターの全回
転範囲にわたって噛合うものと認められ、この認定を左右するに足りる記載は右の
明細書及び図面に存在しない。そして、転位基準面におけるセクターの全回転範囲
にわたっての噛合いを前提にすれば、回転方向転位量と関連させて軸方向転位量を
考慮する必要はなく、軸方向転位量は回転方向転位量とは独立に決定し得るもので
ある。
② 以上の発明の詳細な説明の記載に基づいて、第六次補正明細書の第一クレーム
を解釈すれば、該クレームにおける「転位量」を軸線方向転位量と解すべき必然性
は全く存在せず、明細書と図面の記載にてらして、回転方向転位量と解することが
自然であるから、該記載は回転方向転位量を指称するものと解するのが相当であ
る。
(3)① ところで、公告後補正明細書における軸方向転位は、「セクター歯が噛
合いピツチ線に対して大きく転位している部分が・・・必然的に生ずる。したがっ
て、セクターの一つの横断面のみを取り上げてみた場合、セクターとラックとの間
の噛合いが外れる個処がどうしても生じてくる。・・・セクターを軸方向に転位量
の変化を与えたテーパーギヤーとすれば、一つの横断面で噛合いが外れるような条
件のもとでは他の横断面に噛合いが移り、・・・噛合いをセクターの軸線方向に移
していくことにより噛合いの連続性が維持できる」(昭和五九年五月三〇日付回答
書第一四頁第八行以下)ことに基づいて、歯車の噛合い条件から必然的に必要とさ
れるものである。
② 換言すれば、公告前における発明は、転位基準面の全回転範囲にわたって噛合
いが中断することなく成立していることを前提としているのに対して、公告後補正
明細書の発明は、該横断面で噛合いが外れることを前提にしており、その差異によ
って、公告後補正における第一クレームの軸方向転位は公告前とは異質の意義を付
与されるに至ったものである。
③ したがって、該補正は公告前における第一クレームを実質的に変更したものと
いわざるを得ない。そして、公告後補正明細書における第二クレームも、第一クレ
ームの構成を必須構成要件として含むものであるから当然に実質変更に相当するこ
とになる。なお、文理解釈の面からみても、回転方向におけるピッチ線の形状が与
えられても、歯車の転位量は一義的に決定されるものでなく、圧力角等他のパラメ
ータにより変化するものであるから、ピッチ円直径と転位量は同一の概念ではな
く、したがって、第六次補正明細書の第一クレームにおける転位量を回転方向と解
しても何の矛盾も生じるものではない。
(三) 本件発明の要旨について
 以上のとおり、最終補正明細書及び公告後補正明細書における特許請求の範囲
は、それぞれに先行する明細書における特許請求の範囲を実質的に変更するもので
あるから、特許法第六四条第二項において準用する同法第一二六条第二項の規定に
違反し、同法第四二条の規定によって、本件発明の要旨は第六次補正明細書による
特許請求の範囲、すなわち次のとおりのものとみなされる。
「1. ステアリングシャフトに形成されたボールネジにボールを介して螺合して
いるボールナットと、当該ボールナットに形成されたラックに噛合うセクターと、
当該セクターを形成したロックシャフトを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリ
ング装置において、ステアリング装置の中央位置で最小のピッチ円直径を有し、ス
テアリング装置の回転角の増加に対応してピッチ円直径を連続的に増加すると共に
転位量を減少させた特殊歯形を有するセクターを特徴とする前記可変歯車比ボール
ネジ式ステアリング装置。
2. 特許請求の範囲1に記載の可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置におい
て、ステアリングシャフトの軸線に平行なピッチ線上にほぼ等しいピッチ、ほぼ等
しい圧力角の標準歯形を備えているラックを備えていることを特徴とする前記可変
歯車比ボールネジ式ステアリング装置。」
2 本件特許の出願基準日の認定
(一) 本件発明の要旨変更について
(1) 本件発明におけるラックについて
 前記1(三)において認定した特許請求の範囲において、ラックは、その前提部
分において「当該ボールナットに形成されたラックに噛合うセクター」の表現で記
載されている。この表現は、第六次補正において、第五次補正明細書の「・・・形
成された線形状のピッチ線を有するラック・・・」を「形成されたラック・・・」
に補正したものであり、第五次補正のこの表現は、第四次補正明細書における
「・・・形成された直線状のピツチ線を有するラック」から補正されたものであ
る。そして、昭和五九年五月三〇日付回答書によれば、第五次補正における「線形
状のピッチ線」は第四次補正における「直線形状のピッチ線」と同義であるから、
第六次補正は、ラックのピッチ線を直線形状のものから直線形状以外のものまで含
むごとく補正した点に実質的内容が存するものというべきである。
(2) 当初明細書の記載の概要
 ところで、願書に最初に添附された明細書(以下「当初明細書」という。)及び
図面(以下「当初図面」という。)には、概要、以下の記載が存する。
(イ) 本発明は、「ボールねじ式のステアリング装置に於て可変歯車比とした装
置に関する。」(第一頁第八行以下)、従来のこの種装置は、「高速化に伴ないハ
ンドルのフイリングをよくしフラツキを少くするためステアリングの剛性の向上を
図る目的でハンドルトルクを大きくしているが、ハンドルの回転角が増すごとにハ
ンドル操作が重くなるという欠点がある。」(同頁第一〇行以下)、これに対し
て、本発明は、「回転角が増すに伴いギヤー比を大きくしてハンドルトルクを小さ
くし中央位置でのフイリングをよくすることを目的とするものである。」(同頁第
一五行以下)
(ロ) 次いで、実施例の説明と称して、「ラックギヤー(1)とテーパーギヤー
(2)との噛合を等ピッチラックにて行なう場合にテーパーギヤー(2)(転位歯
車)の中央(3a)より回転角が変わるにつれて歯数を変化させると共にこれに伴
い各歯(3)の各段階における転位量を逐次変化させることによってピッチ円直径
を一定に保」(同頁第一九行以下)つ点を特徴としてあげている。
ハンドル回転角の増加につれてギヤ比を大きくするには、「テーパーギヤー(2)
の中央から両端に向って歯数を多く」(第二頁第九行以下)する必要がある。「こ
の場合等ピッチラックギヤー(1)と噛合せ乍ら第2図の如く(イ)歯車のP.
C.Dイから(ロ)歯車のP.C.Dロまで連続的に転位量を変化させることによ
って正常な噛合が得られる」(同頁第一一行以下)ことにより課題が解決されるの
である。
(ハ) 以上の記載に続いて、モジュールM=三・五、ボールねじのピッチL=
八・四六六、ギヤ比を中央の一八・一八からプラスマイナス三五度位置の二一・四
まで変化させる計算例が示される。その手法は中央歯数と両端歯数の歯数差を等分
して各段階の歯数に均分し、該歯数にMを乗じて各段階のピッチ円直径P.C.D
を算出する。そして、各段階に対応する角度γ=360゜×1.5÷Z×16(な
お、明細書には分子にPが乗ぜられているが、これは誤記と認める。)を決定し
て、γとP.C.Dにより第2図に示す各ポイントを決定する。
(ニ) このようにして決定された「各ポイントを例えばZmaxのP.C.D
(D16)まで転位させた転位歯車を形成すれば、・・・等ピッチラックと支障な
く噛み合う」(第四頁第七行以下)ので、「ハンドルの回転角を増すにつれてギヤ
ー比が大となりハンドルトルクが小さくなる。」(同頁第一〇行以下)、「この時
の各歯の転位量は、・・・(中央から)順次小さくなりZmaxのP.C.D(D
16)では転位量は零である。」(同頁第一三行以下)と、決定されたポイントに
基づく転位歯車の形成法及び該歯車の特性を説明している。
(ホ) そして最後に、「ボールねじラックギヤーは一般の等ピッチのものを使用
して、テーパーギヤーのみを歯数の変化と共に各段階の転位量を変えた転位歯車と
することによりハンドルの回転角に応じた可変歯車比を得るようにした」(第五頁
第一行以下)本発明の特徴を摘示し、「テーパーギヤーの取換のみで従来のステア
リング装置を可変歯車比に」(同頁第六行以下)できることを効果としてあげてい
る。
(ヘ) 特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
 「ラックギヤーとテーパーギヤーとの噛合を標準ラック歯形ギヤー(等ピッチ、
等圧力角)にて行うものに於てテーパーギヤー(転位歯車)の中央より回転角が変
わるにつれて連続的に歯数と転位量を変化させることによってピッチ円直径を一定
に保たせ正常な噛合が可能な事を特徴とする可変歯車比ステアリング装置」
(3) 当初明細書におけるラックの意義と開示の範囲
① (2)において要約したとおり、当初明細書において、テーパーギヤーと噛合
うラックは等ピッチラックであることが前提とされている((2)の(ロ))。そ
して、このラックは、当初図面第3図及び特許請求の範囲の「標準ラック歯形ギヤ
ー(等ピッチ、等圧力角)」の記載に徴して、当然直線状ピッチ線(なお、ここに
いうピッチ線は、噛合いピッチ線ではなく、基準ピッチ線と解される。)を有する
ものと推認され、当初明細書には該推認を左右するに足りる記載は存しない。
② そして、等ピッチラックと噛合うテーパーギヤーの特定の横断面において、ギ
ヤーの回転中心からラックのピッチ線にいたる中心間距離hを一定に保ちつつ、歯
数を中心角の変化量に比例して変化させることによって可変歯車比を得るのであ
る。当初明細書の計算例で、セクターギヤーの横断面において歯数の変化の総量を
一六等分して段階ごとに均分したうえ、それをピツチ円直径に変換し、各ピッチ円
直径に対応する中心角をγ=360゜×1.5÷Z×16によって求める手法は、
セクターギヤーの噛合いピッチ線を求めるうえで、直線状の基準ピッチ線を有する
等ピッチラックとの噛合いを前提とする技術思想のみが開示されているのであり、
それによる効果は、「ボールねじラックギヤーは一般の等ピッチのものを使用して
(中略)テーパーギヤーの取換のみで従来のステアリング装置を可変歯車比に改良
し得る」((2)の(ホ))点に存する。
③ 当初明細書には、この技術思想を不等ピッチのラックあるいは非直線状のラッ
クとの噛合いを前提とするセクターに拡張する技術的課題に関する事項は示唆すら
もされておらず、またその解決のために必要なセクターとラックの噛合いピッチ線
の満たすべき幾何学的条件に関する記述も全く存しない。いわんや該ピッチ線を有
する歯型曲線の満たすべき条件、あるいは非直線ピッチ線を有するラックとそれと
噛合う可変歯車比セクターギヤーの歯車諸元に関する何らの開示も存しない。
 この点について、「当初明細書および当初図面において、標準ラック歯形ギヤー
以外のラックと噛合うギヤーについて、明文の開示がなされた個所があれば特定さ
れたい。あるいは、その噛合いを示唆する記載があれば、その個所といかなる理由
でそれが示唆されたものといえるかについて説明されたい。」との昭和五九年三月
三〇日付尋問書の求釈明に対して、被請求人(原告)は、同年五月三〇日付回答書
において、「当初明細書の説明は等ピッチラック歯形ギヤーについてのもので等圧
力角を前提としていない。したがって、標準ラツク歯形ギヤーとの噛合いについて
特に限定して説明されていず、むしろ圧力角を問題とせずに説明をしているもので
ある。この点については(1)項ですでに説明した」(第九頁第四行以下)と釈明
した。そして、(1)項でも、「当初明細書の『発明の詳細な説明』の欄には、等
ピッチラックギヤーの説明はあるが、これは等圧力角のラックギヤーに限定して説
明したものではない。」(第二頁第七行以下)として、圧力角に関する説明はして
いるが、等ピッチギヤー以外のピッチを有するギヤーに関する記載がある旨の釈明
は全くなされていない。更に、直線形状以外の基準ピッチ線を有するラックについ
て、右回答書は全くふれていない。
④ したがって、右回答書における被請求人(原告)の釈明も参酌すれば、当初明
細書及び当初図面のラックに関する記載事項の範囲は、等ピッチラックに限定され
ているものと認める。
(二) 本件特許に係る出願の基準日について
(1) 一で検討したとおり、当初明細書及び当初図面に記載されたラックは等ピ
ッチラックのみであって、不等ピッチラック、あるいは直線状ピッチ線以外の基準
ピッチ線を有するラックに関する開示は全く存しない。
 しかるに、昭和四五年一二月七日の第四次補正において特許請求の範囲が標準ラ
ックから直線状のピッチ線を有するラックに補正されることにより不等ピッチラッ
クが実質的に特許請求の範囲に包含されることになり、更に、昭和四六年五月二六
日の第六次補正で「線形状のピッチ線を有する」を削除することにより、非直線状
のピツチ線を有するラックも実質的に包含されることになった。そして、不等ピッ
チラック又は非直線形状のピッチ線を有するラックは、いずれも当初明細書の記載
事項の範囲内にはないものであるから、第六次補正は要旨変更に該当する。
(2) したがって、本件特許に係る出願は、特許法第四〇条の規定により、第六
次補正のなされた昭和四六年五月二六日にしたものとみなされる。
3 本件特許の無効理由について
(一) フランス国特許第一五七三一〇〇号明細書の概要
(1) 請求人(被告)の提出したフランス国特許第一五七三一〇〇号明細書(以
下「引用例」という。)は、その記載からみて、一九六九年(昭和四四年)七月四
日にフランス国工業所有権公報第二七号に掲載され、フランス国内で頒布されたも
のと認める。
(2) 引用例には、ステアリングシャフトに形成されたボールネジにボールを介
して螺合しているボールナットに形成された、ステアリングシャフトの軸線に平行
なピッチ線上に等ピッチの標準歯形を有するラックに噛合うセクターと、当該セク
ターを形成したロックシャフトを備えた可変歯車比ボールネジ式ステアリング装置
において、ステアリング装置の中央位置で最小のピッチ円直径を連続的に増加する
とともに転位量を減少させた特殊歯形を有するセクターを具備した可変歯車比ボー
ルネジ式ステアリング装置が記載されている。
(二) 本件発明と引用例との対比判断
 1の三において認定した本件発明の要旨、すなわち特許請求の範囲第1項及び第
2項に記載された事項と引用例とを対比すると、右第2項記載の発明と引用例記載
のものとは同一であり、かつ、第1項は第2項記載の発明を包含する要件によって
構成されたものであるから、同項も引用例記載のものと同一発明となる。
(三) 無効理由の存否について
 既述のとおり、本件特許は昭和四六年五月二六日に出願されたものとみなされ、
引用例は昭和四四年七月四日にフランス国内で頒布されたものであるから、特許請
求の範囲第1項及び第2項に記載された本件発明は、いずれも特許法第二九条第一
項第三号の規定に該当するものである。
4 したがって、本件特許は、同法第一二三条第一項第一号の規定により無効とす
べきものである。

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛