弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 被告は、八千代市に対し、金一八七三万〇八〇〇円及びこれに対する平成一〇年
七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、八千代市の住民である原告が、平成九年六月一日及び同年一二月一日を
基準日として支給された八千代市の一般職員に対する勤勉手当のうち、後記の定額
金として支給された部分について、これを違法な公金の支出であると主張して、八
千代市長である被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づき八千
代市に代位して右定額金相当額(合計一八七三万〇八〇〇円)の損害の賠償を請求
した事案である。
一 本件条例等の定め(甲四、乙一)
1 八千代市一般職員の給与に関する条例(平成九年条例第四四号による一部改正
前のもの、以下「本件条例」という。)二二条四項及び二三条は、勤勉手当につい
て、次のとおり規定している。
(期末手当)
 第二二条
1ないし3 (略)
4 行政職給料表の適用を受ける職員でその属する職務の級が四級以上であるもの
として規則で定める職員については、前項の規定にかかわらず、同項に規定する合
計額に、当該職員がそれぞれその基準日現在において受けるべき給料の月額及びこ
れに対する調整手当の月額の合計額に規則で定める職員の区分に応じて一〇〇分の
一五を超えない範囲内で規則で定める割合を乗じて得た額を加算した額を第二項の
期末手当基礎額とする。
(勤勉手当)
 第二三条 勤勉手当は、六月一日及び一二月一日(以下この条においてこれらの
日を「基準日」という。)にそれぞれ在職する職員に対し、基準日以前六箇月以内
の期間におけるその者の勤務成績に応じて、それぞれ基準日の属する月の別に市長
が定める日に支給する。これらの基準日前一箇月以内に退職し、又は死亡した職員
(規則で定める職員を除く。)についても同様とする。
2 勤勉手当の額は、勤勉手当基礎額に、市長が別に定める基準に従って定める割
合を乗じて得た額とする。この場合において、勤勉手当の額の総額は、前項の職員
の勤勉手当基礎額に当該職員がそれぞれその基準日現在(退職し、又は死亡した職
員にあっては、退職し、又は死亡した日現在。次項において同じ。)において受け
るべき扶養手当の月額及びこれに対する調整手当の月額の合
計額を加算した額に一〇〇分の六〇を乗じて得た額の総額を超えてはならない。
3 前項の勤勉手当基礎額は、それぞれその基準日現在において職員が受けるべき
給料の月額及びこれに対する調整手当の月額の合計額とする。
4 前条第四項の規定は、第二項の勤勉手当基礎額について準用する。この場合に
おいて、同項中「前項」とあるのは「次条第三項」と、「第二項の期末手当基礎
額」とあるのは「同条第二項の勤勉手当基礎額」と読み替えるものとする。
2 また、八千代市職員の期末手当及び勤勉手当の支給に関する規則(平成九年規
則五七号による一部改正前のもの、以下「本件規則」という。)は、本件条例二三
条二項所定の「市長が別に定める基準に従って定める割合」について、次のとおり
規定している。
 (勤勉手当の支給割合)
 第一〇条 条例第二三条第二項に規定する割合は次条に規定する職員の勤務期間
による割合(以下次条において「期間率」という。)に第一四条に規定する職員の
勤務成績による割合(以下第一四条において「成績率」という。)を乗じて得た割
合とする。
 (勤勉手当の期間率)
 第一一条 期間率は、基準日以前六箇月以内の期間における職員の勤務期間の区
分に応じて別表第2に定める割合とする。(別表は略)
 第一二条及び第一三条 (略)
 (勤勉手当の成績率)
 第一四条 成績率は、一〇〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下の範囲内で、任命
権者(市長以外の任命権者にあっては、市長と協議して)が定めるものとする。
二 前提となる事実(証拠を掲げたもの以外は当事者間に争いがない。)
1 当事者
 原告は、八千代市の住民であり、被告は、平成九年当時の八千代市の市長であ
る。
2 勤勉手当の支給
(一) 被告は、八千代市長として、八千代市の一般職員に対し、平成九年六月一
三日に六月期(六月一日を支給基準日とするもの)の勤勉手当として総額三億五〇
一九万二二三四円を、同年一二月五日に一二月期(一二月一日を支給基準日とする
もの)の勤勉手当として総額三億五二〇〇万六七八〇円を、それぞれ支給した(以
下、これらを合わせて「本件勤勉手当」という。)(甲一の2)
(二) 右勤勉手当支給総額は、本件条例及び本件規則(以下、両者を合わせて
「本件条例等」という。)に基づき算出された個々の職員の勤勉手当基礎額に、そ
の勤務期間に応じた本件規則一一条所定の期間率を乗じ、さらに全職員について、
被告
が本件規則一四条に基づき、一〇〇分の六〇と定めた成績率を乗じて得た金額(以
下「成績定率金」という。)に、当該職員の属する行政職給料表における職務の級
(以下「級」とは、この職務の級をいう。)に応じて被告が定めた一定額を加算し
て得られた額(以下、これを「定額金」という。)であった。
(三) 右定額金の職員一人当たりの額は、六月期は、一級(一二一人)が二万八
七〇〇円、二級(一九四人)が二万〇二〇〇円、三級ないし六級(一〇九四人)が
二〇〇〇円、七級以上が〇円で、総額九五七万九五〇〇円であり、一二月期は、一
級(一一三人)が三万〇五〇〇円、二級(一九四人)が二万〇四〇〇円、三級ない
し六級(一〇九二人)が一六〇〇円、七級以上が〇円で、総額は九一五万一三〇〇
円であった(以下、平成九年六月期及び一二月期の定額金総額一八七三万〇八〇〇
円を「本件定額金」という。)。(乙一〇)
3 監査請求等(甲一の1、三)
 原告は、平成一〇年四月一六日、本件定額金の支給は地方自治法二〇四条の二及
び地方公務員法二四条六項に違反した公金の支出であるとして、八千代市監査委員
宛の「八千代市職員措置請求書」を提出し、その返還を勧告するよう求める住民監
査請求をした。
 これに対し、八千代市監査委員は、同年六月一日付けで、右請求には理由がない
ものと判断するとの監査結果を原告に通知した。
 原告は、同月二四日、本件訴えを提起した。
三 争点
 本件の争点は、八千代市長である被告が勤勉手当として支給したもののうち、本
件定額金が、地方自治法二〇四条の二に定める給与条例主義に違反する違法な公金
の支出に当たるか否かであり、この点に関する当事者の主張は以下のとおりであ
る。
1 原告の主張
 本件条例二三条は、勤勉手当はその者の勤務成績に応じて支給すると規定してお
り、本件規則一〇条でも、勤勉手当は成績率に応じて支給されなければならないと
されているのであって、勤勉手当が個々の職員の勤務成績に基づき支給される能率
的手当であり、業績報奨的性格を持つものであることは明らかであるが、本件定額
金は、一級ないし六級の職員に対し、一律に支給されていたものであり、このよう
な支給方法は本件条例等に規定されていないものであるし、地方自治法二〇四条二
項が、勤勉手当を設けた趣旨にも反するものである。
 したがって、本件定額金は法律及び条例に基づかないものであるから、給与条例
主義(地方自治法二〇四条の二、地方公務員法二四条六項)に違反するものであ
り、その支給は違法な公金の支出に当たる。
2 被告の主張
(一) 八千代市における勤勉手当の支給について
 勤勉手当は、期末手当とともに民間企業における賞与に類似したものであり、一
定期間における職員の勤務成績に対する報償的意図を持つ能率給的な性格及び生活
給的な側面を有するものであるところ、八千代市においては、勤勉手当支給の総額
は、勤勉手当基礎額に支給割合を乗じた額として計算される(本件条例二三条二
項)。
 勤勉手当基礎額は、原則として、職員が受けるべき給料の月額及びこれに対する
調整手当の月額の合計額であるとされ(本件条例二三条三項)、また、支給割合
は、期間率と成績率を乗じて得た割合をいう(本件規則一〇条)ところ、期間率
は、勤勉手当支給の基準日以前六か月以内の期間における当該職員の勤務時間に応
じて本件規則によって定められる割合であり(本件規則一一条)、成績率は、一〇
〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下の範囲内で市長が定める割合である(本件規則
一四条)。
 以上を計算式で表すと、勤勉手当の支給額は次のようになる。
 【勤勉手当基礎額・・・(給料+調整手当)+(給料+調整手当)×役職加算割
合】×【支給割合・・・期間率×成績率】
(二) 本件定額金支給の適法性
(1) 本件規則一四条は、成績率を一〇〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下の範
囲内で市長が定めると規定しており、その上限である本件規則の定める勤勉手当支
給総額の範囲内でどのように配分するか(個々の職員についていかなる勤務評定を
行い、勤勉手当の成績率に反映させるか)については市長の裁量行為であるとこ
ろ、成績主義に徹し、能力の実証及び成績によって給与を支給するためには、その
前提条件として、地方公共団体におけるあらゆる仕事が組織体として有効に機能す
るよう必要最小限の単位としての職に整理系統づけられ、かつ、それぞれの職の有
する困難性と責任の軽重の度合いに分類されなければならない(職階制)が、右職
階制は未だ実現されていないし、終身雇用制を基調とし、職員の任用も当該職に対
する適性というよりも、将来、さらに重要な職に任用するための経験を得させるた
めの必要性から行われることの多い公務員の行政組織運営上及び人事政策上の実態
や、民間企業と異なり、職務の範囲が多岐にわたることが多く、また、職
務の成果が数値化されにくい公務の特殊性に照らすと、公務員について勤務評定を
厳格に行い、これを給与の支給額に反映させることは困難である。
(2) 右のような事情から、八千代市では、本件勤勉手当に関する成績率を、勤
勉手当基礎額に乗ずべき割合(以下「定率分」という。)と、勤勉手当基礎額に加
算すべき金額(以下「定額分」という。)の二つに分け、定率分については勤勉手
当支給の対象となる全職員について一律に一〇〇分の六〇とし、定額分については
当該職員の属する職務の級に応じて前記二2のとおり定額金として支給することと
したものであるところ、このような勤勉手当の支給方法には、以下のような必要性
ないし合理性がある。
 すなわち、八千代市は、人事政策的な目的のために、一級、二級の職員を多忙な
職場に多く配置することとしているのであるが、これらの級別の職員の比率は職員
全体の約二割にすぎない上、これらの職員は、職員構成の末端に位置しているた
め、本来の業務のほか、庶務的・雑務的業務をも行わざるを得ず、他の職員と比較
して業務が集中する傾向にある。また、一級、二級の職員は、業務遂行に必要な知
識を修得すべく、勤務外においてもその修得を重ねなければならないため、一級の
職員の年次有給休暇の取得率は管理職以外の職員中最低であり、二級の職員の時間
外勤務は管理職以外の職員中六級に次いで多くなっている。
 したがって、このような勤務実態に照らすと、これらの職員についてはモラルの
高揚を図る必要があるとともに、一級、二級の職員の勤務成績は、「通常良好」の
水準を超え、「優秀」というべき水準に接近している傾向にあるとみることができ
るし、管理職手当の支給の対象外である三級ないし六級の職員(八千代市では、七
級以上の職員に管理職手当が支払われている。)についても、その年次有給休暇の
取得及び時間外勤務の状況に照らせば、その勤務成績は「通常良好」の水準を上回
っているものとみることができる。
 また、優秀な職員の採用確保のためには、採用当初の給与を高くするよう配慮す
る必要がある上、八千代市の職員組合を始めとする職員らは、勤勉手当における四
級以上の職員に対する加算措置(通称役職加算)を差別的措置であると主張して、
その解消を八千代市に要求していたという経緯もある。
(3) 右(2)のような事情から、被告は、行政職給料表中の該当級別に着目
し、職務の級
に応じて成績率の一部を定額で定めたのであるところ、勤勉手当基礎額に定率分を
乗じた額(成績定率金)と定額分の額(定額金)とを合算し、その勤勉手当基礎額
に対する割合を再計算すると、その割合は、最高の一級該当者でも、六月期におい
て七七・五三、一二月期において七八・六三であり、本件規則一四条所定の成績率
の上限である一〇〇分の九〇を超えるものではない。なお、勤勉手当算出のための
成績率を定率分と定額分の二つの部分に分けて定める方法は、八千代市以外にも、
千葉県内の一二の市において行われている。
(4) 以上のとおり、本件定額金の支給は、成績率を定める本件条例及び本件規
則に何ら違反しない適法なものであり、八千代市における当時の行政運営上及び人
事政策上必要な処置として実施されてきたものである。
(三) 損害の不発生
 仮に、本件勤勉手当について、個々の職員の勤務評定を行い、これを勤勉手当の
成績率に反映させたとしても、その上限は、前記(一)の勤勉手当支給総額であ
り、その範囲内でどう配分するかは市長である被告の裁量行為であるところ、八千
代市の財政状況や人事政策からすれば、本件勤勉手当の支給に際しては、いずれに
せよ、勤勉手当支給総額の満額に近いが、これを上回ることのない形で支給される
ことになったと考えられるのであるから、本件定額金の支給によって八千代市に損
害をもたらした事実はない。
第三 当裁判所の判断
一 本件定額金支給の適法性について
1 八千代市においては、平成九年当時、勤勉手当の支給に当たり、個々の職員の
勤勉手当基礎額に期間率と成績率を乗じた金額(成績定率金)のほか、当該職員の
属する級に応じて被告が定める一定額を加算した額(定額金)が支給されていたこ
とは、前記第二の二2(二)のとおりである。
2 ところで、勤勉手当は、一定期間における職員の勤務成績に対する報償的意図
に基づいて支給される能率給的な性格を有する手当であることはその性質上明らか
であり、地方自治法二〇四条二項も、勤勉手当をそのような性格のものとして位置
付けていると考えられるのであるから、その支給に当たって職員の勤務評定又は勤
務成績を判定するに足りると認められる事実を考慮してその額を決定することが本
来的に必要であることはいうまでもない。
3 もっとも、地方自治法及び地方公務員法は、地方公共団体がその職員に支給す
る給与その他の給付については、条例でその額及び支給方法を定めなければならな
いとして(地方自治法二〇三条五項、二〇四条三項、地方公務員法二四条六項)、
給与及び勤勉手当を含む諸手当について、ある程度、各地方公共団体の実情に応じ
た支給方法をとることを是認している上、個々の職員の勤務成績は、本来、任命権
者が当該職員の勤務態度や事務処理能力等を総合的に判断して決すべきものなので
あるから、その評価方法については、評価権限を有する任命権者の裁量に委ねられ
る部分も多いこと、また、個々の職員の勤務状況について、厳格に勤務評定を行
い、勤勉手当の支給にこれを反映させることは、職務の範囲が多岐にわたることが
多く、かつ、職務の成果が数値化されにくい公務の性質上、決して容易ではないこ
と、さらに、終身雇用制を基調とする公務員制度の場合、職員の任用は、当該職に
対する適性という面のほか、将来さらに重要な職に任用するための一段階として行
われることも多く、そのような者についても、画一的に一定の期間における勤務成
績を手当の額に反映させるとすることが必ずしも適当でない場合もあることなどか
らすれば、勤勉手当の支給に当たり、勤務成績を評価し、それに応じてその額を決
定することが必要であるとはいっても、その具体的な評価及び算定方法について
は、前記2のような勤勉手当の基本的性格とその趣旨を没却しない限りは、支給権
者の合理的な裁量に委ねられるというべきであり、その逸脱がない限りは、当該勤
勉手当の支給が違法となるものではない。
4 そこで、右のような観点から、本件定額金の支給の適法性について検討する。
(一) 前記第二の一の本件条例等の諸規定によれば、八千代市の職員に支給され
る勤勉手当額は、勤勉手当基礎額に、勤務期間に応じてあらかじめ本件規則で客観
的に定められている期間率と、一〇〇分の四〇以上一〇〇分の九〇以下の範囲内で
市長が定める成績率を乗じて決定するとされており、八千代市においても、勤勉手
当の支給額は、個々の職員の勤務成績に応じて決めることが予定されているという
べきであり、そのほかに職員の属する級に応じて定額金が加算されるような決定方
法は本来予定されていないといわざるを得ない。
(二) そこで、右のような定額金の支給がなされるに至った経緯等について検討
するに、証拠(甲一の2、二の6、7、乙八、一〇ないし一二、一三ないし二四の
各1、2、二五、二六、二九、三五、証人A)及び弁論の全趣旨によれば、八千代
市において、右のような定額金を支給するようになったのは、前記3のように、個
々の職員の勤務状況につき厳格に勤務評定を行うことは決して容易ではない上、必
ずしもそれが適切でない場合もあるという実態を踏まえ、同市においては、人事政
策的な目的のため職員全体の約二割に当たる一級及び二級の職員を多忙な職場に多
く配置することとしているが、これらの職員は、職員構成の末端に位置しているた
め、本来の業務のほか、庶務的・雑務的業務をも行わざるを得ず、他の職員と比較
して業務が集中する傾向にあることなどから、その平均的な有給休暇取得日数は少
なく、逆に平均時間外勤務時間数はかなり多くなっており、その勤務成績は、全般
的にみて、「通常良好」の水準を超えて「優秀」というべき水準に接近していると
みることができるし、三級ないし六級の職員についても、その年次有給休暇取得日
数や時間外勤務実績からすれば、一級及び二級の職員に準ずるものとして、「通常
良好」の水準を上回っているとみることができるという考え方に基づくものである
こと、なお、このような取扱いの背景には、職員のモラルを高揚し、優秀な職員の
採用確保のために初任給を高水準に設定する必要があった上、職員組合からも、若
年職員に対する手当の増額を求める強い要望が存在したという事情もあったことが
認められる。
(三) しかし、個々の職員の勤務状況につき厳格に勤務評定を行うことが困難で
あるとはいっても、その勤務成績の把握が全く不可能であるとは考えられないので
あるから、それぞれの担当業務の性質、内容の相違等は十分考慮しつつも、一定の
限度で個々の職員の勤務評定をすることは十分可能であると考えられるし、また、
その職務への任用が一つのステップとして行われている場合にも、そのような事情
を勤務評定の上である程度考慮すれば足りることであって、これらを理由に、個々
の職員の勤務評定を全くしないまま、勤勉手当の支給額を決定することは許されな
いというべきである。
 もっとも、右のような勤務評定が困難を伴うものであること、また、その評価方
法及びそれに基づく勤勉手当の支給額の算定方法については、評価権者であり、支
給権者である被告の合理的裁量に委ねられる部分が多いことは前記3のとおりなの
であるから、その勤務評定に常に厳密さを要求することはできないし、また、そ
の勤勉手当の支給額への反映方法についても、ある程度概括的なものとならざるを
得ないと考えられるが、本件定額金の支給においてとられた前記(二)のような一
級ないし六級の職員の勤務成績の評価方法は、そもそも個々の職員の勤務評定とは
いえないような性質のものであり、右のような合理的裁量の範囲内といえないこと
は明らかである。すなわち、休暇取得日数や時間外勤務時間数の多寡が、直ちに勤
務成績の評価に結びつくものではない上、それらはあくまで平均的な数値なのであ
るから、それが個々の職員の勤務状況を直接反映するものとはいえないし、これら
に、前記(二)のような一級及び二級の職員の置かれた立場、状況を考慮しても、
その全員の者が一律に勤務成績が「通常良好」の水準を超えて「優秀」というべき
水準に接近していると合理的に評価し得る根拠はないといわざるを得ない。このこ
とは、三級ないし六級の職員についても同様である。
 なお、被告は、本件の成績定率金と本件定額金を合算し、その勤勉手当基礎額に
対する割合を再計算しても、その割合は、最高の一級該当者でも、六月期において
七七・五三、一二月期において七八・六三であり、本件規則一四条所定の成績率の
上限である一〇〇分の九〇を超えるものではないと主張するが、そうであったとし
ても、前記のような評価方法に基づく本件定額金の支給が許容されるものでないこ
とはいうまでもない。
(四) このようにみてくると、前記のような定額金の支給は、個々の職員の勤務
成績を評価し、それに基づいて勤勉手当の支給額を決定するという考え方とは全く
異なる観点から、勤務成績の評価につき、一定の擬制的な判断をし、その判断に基
づき、画一的・一律的に勤勉手当の一部を配分するものであって、前記2のような
勤勉手当の基本的性格とその趣旨を没却するものであり、前記3の被告の合理的な
裁量の範囲を逸脱するものといわざるを得ない。
 なお、右のような定額金が支給されるに至った背景には、前記(二)のように、
職員のモラルを高揚し、優秀な職員の採用確保のために初任給を高水準に設定する
必要があった上、職員組合からも、若年職員に対する手当の増額を求める強い要望
が存在したという事情があったと認められるが、そのような事情があるからといっ
て、右裁量権の逸脱が許されるものでないことはいうまでもない。
 また、証拠(乙二七、二八、三二、三五、証人A)及び
弁論の全趣旨によれば、勤勉手当額の決定については、八千代市と同様、定額金を
加算する運用を行っている市町村が千葉県内に複数存在し、右運用が相当程度一般
化していたことが推認できること、また、財政上の問題からではあるが、八千代市
においては、本件勤勉手当の支給後は定額金の加算が見送られていること、本件定
額金を含む本件勤勉手当の総額は、本件条例の定める勤勉手当限度額の範囲内であ
り、右についての予算はあらかじめ議会の議決を経由したものであることなどが認
められるのであるが、これらをもって本件定額金の支給を適法ならしめる事由とい
うことができないことは明らかである。
5 以上のように、本件定額金の支給は、勤勉手当の支給についての被告の合理的
な裁量の範囲を逸脱するものとして、違法であると考えられるが、右支給によって
具体的な損害が発生したと認め難いことは後記二のとおりであるので、本件におい
ては、これ以上、右支給についての被告の故意・過失の有無及び不法行為責任の存
否については判断しないこととする。
二 損害について
 原告は、本件勤勉手当の支給により、八千代市に本件定額金相当額(一八七三万
〇八〇〇円)の損害が生じた旨主張するのでこの点について検討する。
 八千代市が、勤勉手当として本件定額金相当額の支出をなしたことは当事者間に
争いがないのであるが、証拠(乙三五、証人A)及び弁論の全趣旨に照らせば、本
件定額金を含む本件勤勉手当の支給総額は、本件条例の定める勤勉手当限度額の範
囲内である上、右支給総額についての予算はあらかじめ議会の議決を経由したもの
であり、仮に、被告において、個々の職員の勤務評定を行い、それに基づき勤勉手
当支給額を決定したとしても、その額が、実際に支給された本件勤勉手当の額を下
回ることになったとは認め難く、いずれにせよ、それとほぼ同額の勤勉手当が支給
されることになったと推認されるのであるから、本件定額金の支給によって、八千
代市に具体的な損害が発生したとは認め難い。
 したがって、本件定額金相当額の損害賠償を求める原告の主張は、被告の責任に
ついて判断するまでもなく、理由がない。
第四 結論
 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負
担につき行訴法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
千葉地方裁判所民事第一部
裁判長裁判官 及川憲夫
裁判官 瀬木比呂志

判官 澁谷勝海

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