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裁判例


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○ 主文
被告が昭和五七年二月二二日Aに対してなした原告に係るきゆう務員設置認定を取
り消すとの処分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告及びAに対し昭和五七年二月二〇日になしたきゆう務員設置認定を
取り消すとの処分を取り消す。
2 主文第二項と同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
(一) 本件訴を却下する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
2 本案の答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告は、兵庫県、姫路市、尼崎市をもつて組織する地方自治法上の一部事
務組合である兵庫県競馬組合の管理者である。
右競馬組合は、競馬法等に基づき、園田競馬場等において兵庫県地方競馬を主催し
ている。
(二) 原告は、園田競馬場にきゆう舎を持つ調教騎手(調教師)訴外Aに雇傭さ
れ、兵庫県競馬組合地方競馬実施条例施行規則(以下「規則」という。) 一〇〇
条、兵庫県競馬組合きゆう務員設置認定要綱(以下「要綱」という。)により、被
告のきゆう務員設置認定を受けたきゆう務員である。
2 認定取消処分
(一) 訴外Aは、昭和五七年一月一〇日、原告に対し、口頭で同年二月一〇日付
で原告を解雇する旨の通知をなした(以下「本件解雇」という。)。
(二) 被告は、同月二〇日、要綱一一条五号により、原告及び訴外Aに対するき
ゆう務員設置認定を取り消した(以下「本件処分」という。)。
なお、要綱一一条五号は、「きゆう務員の所属調教騎手から当該きゆう務員を解雇
した旨の届出があつた場合において届出を受理した日から一〇日以内に当該きゆう
務員から八条に規定する届書(他の調教騎手に雇傭された場合のその旨の届書)が
提出されなかつたとき」は「管理者は(中略)きゆう務員認定を取消し、又は期間
を定めて効力を停止することができる」と規定している。
3 本件処分の違法
(一) 解雇と認定取消との関係
要綱三条五号によれば、きゆう務員設置認定申請者には、「きゆう務員として認定
されれば、雇用契約を結び、雇用することを確約します」という文面の雇傭確約書
の提出が義務づけられており、同条一号によれば、きゆう務員には、「認定を受け
た場合には、きゆう務員として業務に専心することを誓約いたします」という文面
の宣誓書の提出が義務づけられており、さらに、要綱四条二項六号では、「申請き
ゆう務員が常時継続的にきゆう務に従事できないと認められるとき」は、認定を拒
否することができる旨が規定されている。これらの規定は、雇傭契約が、形式だけ
ではなく、実体を伴うものである場合にのみ、被告はきゆう務員設置認定をなすこ
とができるとする趣旨である。
また、要綱一一条一項二、三、四、六の各号は、雇傭契約の存否とは無関係な認定
取消、認定の効力停止を規定しているが、実質的にみて、認定取消は即解雇を、認
定の効力停止は即就業禁止を意味するから、被告は雇傭契約の終了についてもこれ
を公権的に支配しているといえる。
右のように、被告は、雇傭契約の成立、終了について公権的に介入する権限を有し
ているのであるから、要綱一一条一項五号の解雇を契機とする認定取消、効力停止
の場合にも、公権的介入をすべきである。要綱一一条が、認定取消、効力停止を任
意的なものとし、被告に裁量権を認めたのは、右の趣旨に基づく。
したがつて、被告の判断が調教騎手の解雇に従属すべき理由は何ら存せず、要綱一
一条五号に基づく被告の処分は、調教騎手による解雇が有効であることを前提とす
ると解すべきである。
(二) 不当労働行為
本件解雇の理由は、原告の担当馬二頭の馬主が昭和五六年一一月二四日及び同月三
〇日に馬を売却したため、馬が他のきゆう舎へかわつたこと、他のきゆう務員に馬
の担当替えを相談したが実現できなくなつたことから原告の担当馬がなくなつたと
いうものであつた。
しかしながら、原告は、きゆう務員で組織する全日本運輸一般労働組合関西地区生
コン支部兵庫県きゆう務員園田分会に加入しており、その青年婦人部長として、調
騎会(調教師、騎手の団体)や調教騎手の不当労働行為に抗議する組合活動を活発
に展開していた。原告の右担当馬の転きゆうは、原告の組合活動を嫌悪した調騎会
会長である訴外Aと馬主とが共謀してなしたものである。
それゆえ、担当馬のとり上げそれ自体が、不利益取扱いであり、不当労働行為であ
るところ、本件解雇は、右不利益取扱いの結果を理由とするものであつて、明らか
に不当労働行為として無効であり、ひいては、前記(一)のとおり解雇の有効を前
提とする本件処分は、違法である。
(三) 解雇権の濫用
調教騎手ときゆう務員との雇傭契約は、きゆう舎の受託馬の頭数により継続したり
終了したりすべきものではない。したがつて、原告の担当馬が転きゆうしたこと
は、原告を解雇する理由とはならない。それゆえ、本件解雇は合理性を欠き権利を
濫用するものとして無効であり、ひいては本件処分も違法である。
(四) 地位保全仮処分決定
原告は、神戸地方裁判所尼崎支部昭和五七年五月二八日仮処分決定により、訴外A
に対し雇傭契約上の地位を有することを仮に定められ、現在に至つている。
右仮処分は、暫定的にせよ、解雇は無効であつて解雇前と同一の地位が継続してい
るものとして、従業員の地位を仮に形成するものである。
したがつて、被告のなした本件処分は、明らかにその基礎を失つたものであり、違
法である。
(五) 裁量権の逸脱
要綱一一条一項は、認定きゆう務員の解雇届出があつた場合、被告に、認定の取消
か効力停止かの裁量権を与えている。
ところで、原告は、本件処分の前に被告に対し、本件解雇の効力を争う意思がある
ので取消処分をしないよう申し入れたのであるから、右の裁量権を有する被告とし
ては、認定取消ではなく、仮処分決定がなされるまで認定の効力を停止すべきであ
つた。
したがつて、被告のなした本件処分は、裁量権を逸脱した違法のものである。
4 よつて、原告は、被告に対し、本件処分の取消を求める。
二 被告の本案前の主張
1 競馬組合と馬主との法律関係は、競馬組合の実施する競馬に当該馬を出走さ
せ、所定の報償金を得ることを目的とする契約(出走契約)である。
調教騎手は、馬主との間の預託契約に基づき馬主から当該馬の飼養、管理、調教を
委託されているものであり、出走契約の後、調教騎手届出をなすことにより、出走
契約において定められた競馬組合に対する債務を負担し、報償金請求権等の債権を
取得する。
騎乗騎手は、調教騎手との騎乗契約により当該馬に騎乗して競走に参加するもので
あり、騎乗騎手届出をなすことにより、組合との間で債権債務関係を生ずるもので
ある。
きゆう務員は、調教騎手に雇傭され、その指揮監督の下に馬の飼養、管理を補助す
るものであり、馬主と調教騎手との間の馬の預託契約の履行補助者である、調教騎
手は、きゆう務員を履行補助者として用いるためには、規則一〇〇条により、当該
きゆう務員を設置することについて競馬組合管理者の認定を受けなければならな
い。右認定にかかるきゆう務員は、競馬に参加することを許され、競馬組合と馬主
との間の契約に基づき所定の報償金請求権を取得する。
以上の競馬組合、馬主、調教騎手、騎乗騎手相互の法律関係は、いずれも私法上の
契約関係であり、調教騎手は、馬の飼養、管理、調教の事務を処理するにあたり、
きゆう務員なる履行補助者を使用する場合には、競馬組合管理者のきゆう務員設置
認定を受けなければならないという私法上の契約による制約を受けているものにす
ぎない。すなわち、きゆう務員設置認定は、調教騎手がその事務を遂行するにつき
調教騎手に対して私的契約に基づき課せられた制約であつて、被告の公権力の行使
によるものではない。
したがつて、本件きゆう務員設置認定の取消は、取消訴訟の対象となる処分ではな
い。
2 規則一〇〇条は、「調教騎手は、管理者の認定を受けたきゆう務員でなければ
預託契約に係る馬の飼養管理を補助させてはならない。」と規定し、要綱三条は、
「認定を受けようとする調教騎手は、当該認定の申請に係るきゆう務員と連名で別
記様式第一号のきゆう務員設置認定申請書に認定申請手数料及び所定の書類を添え
て管理者に提出しなければならない。」と規定している。
右の各規定によれば、きゆう務員設置認定は、自己のためにきゆう務員を設置しよ
うとする調教騎手が申請をなし、調教騎手が認定を受けるものであつて、きゆう務
員に対するものではない。したがつて、その取消もまた、調教騎手に対するもので
あつて、きゆう務員に対するものではない。
調教騎手は、自己の雇傭するきゆう務員に係る設置認定を取り消されると、当該き
ゆう務員をして馬の飼養、管理、調教の補助をさせることができなくなり、その結
果、反射的に当該きゆう務員は、解雇されたり職務内容を変更されたりすることが
考えられるが、それは、調教騎手ときゆう務員との雇傭契約自体の問題であつて、
きゆう務員設置認定取消の直接の効果ではない。すなわち、認定取消は、当該認定
に係るきゆう務員の法的地位に影響を及ぼすものではない。
したがつて、原告は、本件処分の取消につき直接の法的利害を有しないから、取消
を求める訴の利益は存せず、本件訴は不適法である。
3 要綱によれば、新たにきゆう務員の設置認定を受けたきゆう務員の認定の有効
期間は、当該年度末までとされ(要綱六条二項)、認定の有効期間の更新を受けよ
うとする調教騎手及びきゆう務員は、当該認定の有効期間が満了する日の一か月前
までに被告に対してきゆう務員設置認定更新申請書によりその旨を申請しなければ
ならず(要綱一二条一項)、また、更新を受けたきゆう務員の認定有効期間は、一
年間とされる。
ところで、原告に係る本件きゆう務員設置認定の有効期間は、昭和五七年三月三一
日までであり、また、所定の更新手続はとられていない。よつて、仮に本訴におい
て本件処分を取り消したとしても、昭和五七年二月二二日から同年三月三一日まで
の間についてのみ本件きゆう務員の設置認定が復活することになるにすぎない。
しかし、仮に右期間につき本件きゆう務員設置認定が復活したとしても、原告は、
右期間中、現実には就労しておらず、競馬に参画していないのであるから、競馬番
組所定の報償金等の請求権を生ずる余地はなく、その他に原告に何らかの法的利益
をもたらすものでもない。また、右期間中の原告の賃金等は、原告と訴外Aとの雇
傭契約自体の問題として民事訴訟等の手続により解決さるべきことからであり、本
件きゆう務員設置認定の消長とは無関係なことがらである。
したがつて、本件処分の取消によつて、原告に何らかの法的利益をもたらすもので
はなく、結局、本件訴は、訴の利益を欠き、不適法である。
三 被告の本案前の主張に対する原告の反論
1 被告の本案前の主張1に対する反論
馬主と調教騎手との預託契約、調教騎手ときゆう務員との雇傭契約、調教騎手と騎
乗騎手との騎乗契約は私法契約であるが、そのことと、原告と被告とがどのような
法律関係にあるかということとは、全く別問題である。
きゆう務員は、規則一〇〇条の効果として、調教騎手に雇傭されただけでは労働場
所である競馬場への出入りをなしえず、したがつて、調教騎手に対する賃金請求も
なしえない。かくして、きゆう務員と調教騎手との雇傭契約は、被告の認定がなけ
れば実体的効力を生ずる余地のないものとなる。すなわち、きゆう務員と調教騎手
との雇傭契約は、被告の認定を停止条件とする契約である。
そして、被告の認定は、競馬の公共確保という行政目的達成のための雇傭契約に対
する公権的介入として、被告が自らの責任ある判断に基づいて競馬のために馬の調
教の補助を行うことができる法的地位を付与することを内容とする権力的作用であ
り、行政法上、形式的処分たる認可の性質を有する。
したがつて、きゆう務員設置認定及びその取消は、抗告訴訟の対象となる処分であ
る。
2 被告の本案前の主張2、3に対する反論
原告は、たとえ訴外Aに対する雇傭契約上の地位を回復しても、被告の本件処分の
取消がないいじよう、就業できず、大巾な減収を余儀なくされる状態が続く。
したがつて、原告は、本件処分の取消につき法律上の利益を有する。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)の事実(被告)は認める。
同(二)の事実(原告)のうち、原告は園田競馬場にきゆう舎をもつ調教騎手訴外
Aに雇傭されたことは認め、その余の事実は否認する。
規則一〇〇条、要綱に基づくきゆう務員設置認定は、訴外Aが受けたのであつて、
原告が受けたのではない。
2 請求原因2(一)の事実(解雇通告)は知らない。同(二)の事実(認定取
消)のうち、取消の日が昭和五七年二月二〇日であることは否認する。取消の日は
同月二二日である。また、取消の対象は、訴外Aに対するきゆう務員設置認定であ
る。同(二)のその余の事実は認める。
3 請求原因3(一)の主張(解雇と認定取消との関係)は争う。
要綱一一条一項五号によれば、「きゆう務員の所属調教騎手からきゆう務員を解
雇」た旨の届出があつた場合において届出を受理した日から一〇日以内に当該きゆ
う務員から要綱八条に規定する届出(所属調教騎手が変つた旨の届出)が提出され
なかつたときは、管理者(被告)は、認定を取消し、又は期間を定めて効力を停止
することができる。」とされている。
ここに規定されているとおり、所属調教騎手からの解雇した旨の届出と、一〇日以
内に要綱八条の届出がないこととの二つの形式的要件のみが、同項に基づく認定取
消の要件であつて、これより進んで当該届出にかかる解雇が実質的に有効であるこ
とが要件となるのではない。
なぜなら、被告において当該届出にかかる解雇が実質的に有効であるか否かを判断
することはとうてい不可能であり、不適当でもあるからである。また、きゆう務員
の雇傭主である調教騎手から解雇した旨の届出がなされたからには、解雇の有効無
効にかかわらず現実にはきゆう務員は就労することができない状態におかれること
になるのであるから、現実に業務につかないきゆう務員につき設置認定を維持する
必要もないからである(もつとも、一〇日間の猶予期間をおいており、その間設置
認定のみが存続することともなるが、これは、きゆう務員が所属調教騎手を変更す
ることもあるので、事務的便宜上、それを考慮した例外である。)。
本件の場合、原告を雇傭していた調教騎手訴外Aから昭和五七年二月一一日被告に
対し原告を解雇した旨の届出がなされ、その後一〇日以内に要綱八条に規定する届
書が提出されなかつたため、被告は、同月二二日付で原告に係るきゆう務員設置認
定を取り消したものである。よつて、右取消は、右要綱に従いなされたものであつ
て、何ら違法ではない。
請求原因3(二)の事実(不当労働行為)は知らないし、同(三)(解雇権濫
用)、同(四)(地位保全仮処分決定)、同(五)(裁量権の逸脱)の各主張は争
う。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 本訴は、本件処分の取消を求めるものであるから、まず、当事者の地位及び請
求についてみる。
1 請求原因1(一)の事実(被告の地位)は、当事者間に争いがない。
2 原告に関する同(二)の事実のうち、原告が園田競馬場にきゆう舎を持つ調教
騎手訴外Aに雇傭されていたことは、当事者間に争いがない。
そして、規則一〇〇条は、「調教騎手は、管理者の認定を受けたきゆう務員でなけ
れば預託契約に係る馬の飼養、管理を補助させてはならない。」と定め、要綱三条
は、「認定を受けようとする調教騎手は、当該認定の申請に係るきゆう務員との連
名で別記様式第一号のきゆう務員設置認定申請書に認定申請手数料及び所定の書類
を添えて管理者に提出しなければならない。」と定めており、右各規定の文言に競
馬におけるきゆう務員の地位が、あくまで、調教騎手との関係で、馬の飼養、管
理、調教業務の補助者にとどまることを併せて考慮すれば、競馬組合の管理者であ
る被告によるきゆう務員設置認定は、自己のために補助者たるきゆう務員を設置し
ようとする調教騎手が、その申請をなし、これを受けるものであつて、直接的には
きゆう務員に対するものではないと解するのが相当である。もつとも、要綱によれ
ば、きゆう務員設置の認定、取消、更新等につき調教騎手ときゆう務員の連名によ
る申請書によるべきことを定めているが(三条、八ないし一〇条、一二条の別記様
式参照)、これは、原本の存在及び成立につき争いのない甲第一二号証、証人Bの
証言によると、競馬の公正確保という観点から、管理者においてきゆう務員の右申
請に対する意思確認の目的にでたことが窺われる。それゆえ、本件のきゆう務員設
置認定は、規則一〇〇条、要綱に基づき原告に係るきゆう務員設置認定として訴外
Aに対してなされたものであるというべきところ、被告が、要綱一一条五号により
訴外Aに対し原告に係る右きゆう務員設置認定を取り消した事実は、当事者間に争
いがない。
3 成立に争いのない乙第二号証の一によれば、右取消の日は、昭和五七年二月二
二日であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
4 ところで、原告が本訴において求める、請求の趣旨は、「被告が原告及びAに
対し昭和五七年二月二〇日なしたきゆう務員設置認定を取り消すとの処分の取り消
しを求める」というものであるが、本訴において取消の対象となるべき処分が前記
のとおりであるとすれば、原告の右請求の趣旨も、結局、被告が昭和五七年二月二
二日Aに対してなした原告に係るきゆう務員設置認定の取消処分の取消を求める趣
旨のものであることは明らかであるから、以下ではその訴の利益と請求の当否につ
き順次検討する。
二 本案前の答弁について
1 被告の本案前の主張1(きゆう務員設置認定取消の性質)について判断する。
兵庫県競馬組合地方競馬実施条例(以下「条例」という。)六条は、管理者は、競
馬の公正を確保し、その他競馬場内の秩序を維持するため、きゆう務員の認定その
他必要な措置を講ずることができる旨を定め、右条例をうけて、規則九〇条は、馬
主、騎手及びきゆう務員は、競馬の公正を確保するよう努めなければならない旨
を、また、同一〇〇条は、調教騎手は、管理者の認定を受けたきゆう務員でなけれ
ば、預託契約に係る馬の飼育管理を補助させてはならない旨を定めている。
そして、要綱四条一、二項は、管理者は、申請きゆう務員に一定の欠格事由がある
場合に認定申請を拒否すべき旨ないし拒否することができる旨を、また、同一一条
一項は、認定きゆう務員に一定の事由が生じたときは、
きゆう務員認定を取り消しまたは期間を定めて効力を停止することができる旨を定
めている。
なお、被告は、兵庫県、姫路市、尼崎市をもつて組織する地方自治法上の一部事務
組合である兵庫県競馬組合の管理者である。
以上のような法規の規定内容及びその立法趣旨に照らすと、きゆう務員の設置認定
制度は、競馬の公正な運営を公益にかかわるものと認め、この公益目的実現のため
に、調教騎手がする競走馬の飼養、管理、調教の補助をすることができるきゆう務
員の資格を規制しようとした制度であるということができ、また、右の認定の性質
は、管理者が自らの責任ある判断に基づいて調教騎手にその馬の飼養、管理、調教
の補助をさせるきゆう務員を使用しうる法的地位を与えることを内容とする権力的
作用であると解され、これを行う被告は、法律によつて特に付与された優越的な地
位に立つて右権限を行使するものであるといえる。それゆえ、きゆう務員設置認定
は、右のような性質の作用として公定力を有し、行政事件訴訟法三条の「公権力の
行使」にあたり、被告は、右の認定を行う限りにおいて同条の「行政庁」にあたる
ものというべきである。
したがつて、きゆう務員設置認定の取消もまた、行政庁たる被告のなす公権力の行
使にあたるというべきである。
以上から、被告の本案前の主張1は理由がないので採用できず、本件きゆう務員設
置認定取消は、取消訴訟の対象となる行政処分であるというべきである。
2 次に、被告の本案前の主張2(原告は、きゆう務員設置認定を受ける主体では
ないから、法律上の利益を有しない旨の主張)について検討する。
なるほど、前記一2のとおり、きゆう務員設置認定は、自己のために補助者たるき
ゆう務員を設置しようとする調教騎手が受けるものであつて、きゆう務員が受ける
ものではないし、その取消もまた、調教騎手に対するものであつて、きゆう務員に
対するものではない。
しかしながら、前記のとおり、条例六条、規則一〇〇条により被告の設置認定を受
けたきゆう務員のみが馬の飼養、管理の補助をすることができ、成立に争いのない
乙第四号証、証人Bの証言並びに原告本人尋問の結果によれば、設置認定がなされ
て競馬に参画したきゆう務員は、競馬組合と馬主との間の出走契約に基づき競馬番
組(別冊「兵庫県競馬組合地方競馬報償金交付要領」)所定の報償金を請求する権
利を取得することが認められる。
それゆえ、設置認定が取り消された場合には、きゆう務員は、競馬に参画すること
ができず、ひいては右の報償金を得ることができなくなるのである。右の事実のも
とではきゆう務員は、自己に係るきゆう務員設置認定及びその取消につき法的利益
を有しているということができる。
ところで、行政事件訴訟法九条は、取消を求められている処分の直接の相手方では
なくとも、違法な処分により法的に保護された利益の侵害を受けた者である限り
は、なお当該処分の取消を求めることができる旨を定めているものと解される。
したがつて、きゆう務員設置認定の直接の相手方ではない原告はその処分の取消を
求めることができない旨の被告の主張は採用できず、原告は、本訴において原告適
格を有するというべきである。
3 被告の本案前の主張3(有効期間の経過による法律上の利益の消滅)について
検討する。
要綱は、新たに設置認定を受けた場合の認定の有効期間は、当該年度末までとに
(要綱六条二項)、認定の有効期間の更新を受けようとする調教騎手及びきゆう務
員は、当該認定の有効期間が満了する日の一か月前までに被告に対してきゆう務員
設置認定更新申請書によりその旨申請しなければならない(同一二条一項)旨を定
めている。
そして、要綱六条二項の規定によれば、原告に係る本件きゆう務員設置認定の有効
期間は、昭和五七年三月三一日までであり、弁論の全趣旨によれば、本件において
は、所定の更新手続はとられていないことが認められる。
そこで、被告は、仮に本訴において本件処分が取り消されたとしても昭和五七年二
月二二日から同年三月三一日までの間についてのみ本件きゆう務員設置認定が復活
することになるにすぎず、この間、原告は、現実には競馬に参画していないから、
競馬番組所定の報償金等の請求権が生ずる余地はないし、右期間中の賃金は原告と
訴外Aとの雇傭契約自体の問題であるから、結局、本訴は、訴の利益を欠くと主張
するものである。
しかし、弁論の全趣旨によれば、訴外A及び原告が要綱一二条一項所定の更新手続
をとらなかつたのは、本件取消訴訟の判決がいまだなされない段階において本件処
分はなお効力を有するものと扱われ、きゆう務員設置認定が有効に存続しているこ
とを要件とする右更新手続をとることができなかつたためであることが認められ
る。したがつて、仮に原告主張のとおり本件処分が違法であつて取り消されるべき
ものであるとすれば、むしろ、右更新手続がなされなかつた理由は、被告の違法処
分にあるということができる。
ところで、要綱六条がきゆう務員設置認定に有効期間を定めているのは、期間の満
了により従来の認定の効力を絶対的に消滅させる趣旨ではなく、期間満了の機会に
おいて当該きゆう務員の適格の再審査を可能にしようという趣旨にすぎず、認定の
更新は、新規の認定とは異なり、従来の認定との同一性を維持したままその効力を
以後も継続せしめるという性質のものであると解される。
そうだとすると、要綱六条、一二条の規定は、本件のごとく認定が現在取り消され
ており、その取消の適否が訴訟によつて争われているような場合についてまでは適
用されず、かかる場合、その取消処分の取消が確定したときにその適格再審査の時
期に至つたものとみて、この時から一か月以内に所定の更新手続をとれば、当該認
定の効力は継続すると解するのが相当である。以上から、被告の本案前の主張3は
採用できず、原告は本件処分の取消を求める法律上の利益を有するものというべき
である。
三 本件解雇の効力について
1 成立に争いのない甲第一九、第二〇号証及び乙第二号証の四、五(甲第一九、
第二〇号証については、原本の存在とも)並びに原告本人尋問の結果によれば、訴
外Aは、昭和五七年一月一〇日原告に対し同年二月一〇日付で原告を解雇する旨を
口頭で通告し、同月一一日被告に対し原告を解雇した旨の届出をなしたこと、前記
争いのない本件処分(被告の同月二二日付訴外Aに対する原告に係るきゆう務員設
置認定の取消)は、右届出をうけて要綱一一条五号に基づきなされたものであるこ
とが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 そこで、右本件解雇の効力について検討する。前掲の甲第一九、第二〇号証並
びに原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、昭和三七、八年ころから園田競馬場においてきゆう務員として勤
務し、昭和五一年に訴外Aの細川きゆう舎へ入り、以来昭和五六年一一月まで常時
二頭の担当馬の飼養管理、調教の補助を受け持つており、同月ころには、アケボノ
スター及びジユニアホースの二頭を担当していた。
原告は、昭和五五年六月に全日本運輸一般労働組合関西地区生コン支部兵庫県きゆ
う務員園田分会(以下「運輸一般園田分会」という。)が結成された際、これに加
入し、昭和五六年六月からこの執行委員(青年部長)となつた。
運輸一般園田分会は、そのころ、調騎会(調教騎手らの団体)に対にその不当労働
行為に抗議し団体交渉を要求する活動を活発に展開していたところ、原告は、右組
合活動に積極的に参加しており、右事実は、原告の担当馬の馬主や訴外Aの知ると
ころとなつた。そのため、原告は、昭和五六年八月ころびら配りの組合活動に関し
て訴外Aから「余り派手にしとつたらアケボノスターの馬主であるCが馬を揚げ
る」と警告を受けた。
原告が同年一一月二四日きゆう舎へ行つたところ、訴外Aの兄である調教騎手訴外
Dと藤本功きゆう舎のきゆう務員とが、すでに訴外Aとは話がついているといつ
て、ジユニアホースを藤本功きゆう舎に移動させてしまつた。
原告は、ジユニアホースの馬主である訴外Eから同日午前中に細川きゆう舎所属の
運輸一般園田分会に加入しているきゆう務員である訴外F、同Gとともに訴外E方
へ赴くよう指示されていたので原告ら三名が訴外E方へ赴いたところ、訴外Eは、
原告らに対しもし運輸一般園田分会を脱退しなければ馬を揚げてしまうといつて右
分会の脱退をしようようした。
同月三〇日には、アケボノスターが、黒田きゆう舎へ転きゆうさせられた。原告
は、右事実につきその前に訴外Aや同Dから一切説明を受けていない。
原告は、一二月四日訴外Aと面談し、担当馬を与えてくれるよう要請したが、訴外
Aは、おりから同人の妻が病気入院していたことから、「死にそうな病人をかかえ
て、馬を捜す状態ではない。」と返答するばかりであり、その後同人の妻が退院し
ても、原告には担当馬を与えることなく、ついに前記昭和五七年一月一〇日の解雇
通告をなすに至つた。
なお、本件解雇の前、訴外Dが、細川きゆう舎のきゆう務員を集め、これらの者に
対し原告に担当馬をまわしてやるよう要請したこともあつたが、右の要請に応じる
とその分の給料や報償金が減るので、これに応じた者はなかつた。
原告は、昭和五七年一月三〇日付の書面による解雇通知を受け取つたが、
ここでも担当馬がなくなつたことが解雇の理由とされている。
(二) 飼養、管理、調教を要する三歳馬は、昭和五七年度についてみれば、その
初レースが同年七月にあるので、これに間に合うよう昭和五六年一二月から昭和五
七年三月ころまでの間にきゆう舎へ入れられるのが通例であるが、細川きゆう舎の
場合は、昭和五七年度の三歳馬は、昭和五七年三月に一頭、同年五月に二頭、同年
六月に五頭が入つてきており、右の通例より約三か月遅れている。
三 歳馬の買付は、初レースの約一年前、すなわち、昭和五七年度の場合は、昭和
五六年七月ころになされるのが通例である。
細川きゆう舎の馬房数は、全部で一八であり、入きゆうしている馬の数の推移をみ
ると、昭和五六年一二月は一六頭、昭和五七年一月は一四頭、同年二月は一二頭、
同年三、四月は一四頭、同年五月は一六頭、同年六月は一八頭となつている。
昭和五七年四月当時、園田競馬場内のきゆう舎のうち空馬房数が最も多かつたの
は、細川きゆう舎であり、他のきゆう舎の空馬房数は、ほとんどが皆無かせいぜい
一であつた。また、他きゆう舎のうち七つのきゆう舎には運輸一般園田分会に加入
しているきゆう務員がいたにもかかわらず、右七つのいずれのきゆう舎にも空馬房
数は皆無かまたは一であつた。
(三) 細川きゆう舎のきゆう務員訴外Hの息子訴外Iが昭和五六年ころ本来の調
教補佐の仕事とは別に、病気入院中の訴外Hに代り同人が担当する二頭の馬につい
てきゆう務を事実上代行していた。
昭和五七年ころの細川きゆう舎における担当替えの例としては、昭和五七年一月に
イチトカチの担当きゆう務員が訴外Jきゆう務員から同Kきゆう務員に変わつた例
や、同年四月にキヨセンジユの担当きゆう務員が訴外Iから同Jきゆう務員に変わ
つた例がある。
(四) 原告は、細川きゆう舎へ入つてから本件解雇までの間に、訴外Aから馬の
世話に関して注意を受けたことも指導を受けたこともない。
訴外Aは、関連事件の裁判において、原告の担当馬は獲得賞金が少い旨を主張して
いるが、その原因は、馬自体の素質や騎乗騎手の能力にあり、原告の能力に由来す
るものではない。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。右認
定事実によれば、本件解雇は、原告の担当馬がなくなつたことを理由になされたも
のであるが、
細川きゆ
う舎の受託馬数は昭和五七年六月には従来の水準(一八頭)に回復しておりしか
も、受託馬数を回復させうることは昭和五六年一一月の時点で予測しえたものとい
うべきであるから、昭和五七年一月になつて原告を解雇すべき必要性を認めること
は困難であり、原告の担当馬を転きゆうさせてから新たに受託馬を入れるまでの間
に内部の担当替え等によつて原告に担当馬を与えることも可能であつたのに、訴外
Aにおいてその努力をなしたとはいえず、また、細川きゆう舎所属のきゆう務員の
うちから特に原告を選定し、これに担当馬を与えず、同人を解雇すべき合理的な理
由もなかつたということができる。
かえつて、上記認定のとおり、原告の運輸一般園田分会における地位役割、解雇の
具体的経緯における訴外Aや同Eの原告に対する発言内容、細川きゆう舎の受託馬
数の推移状況と本件解雇時期との関係をも併せ考慮すれば、本件解雇は、原告が運
輸一般園田分会に加入し、組合活動に積極的に参加していたことを真の理由とし、
ことさら原告に担当馬を与えずにおきながら担当馬のないことを口実としてなされ
たものと推認するに難くない。
してみれば、本件解雇は、特に原告を解雇しなければならない必要性ないし合理的
な理由もないのに、ただ原告の前記組合活動を嫌悪し、原告を職場から排除する意
図のもとに行われたものであつて、解雇権の濫用として無効であるというべきであ
る。
四 解雇の効力と認定取消との関係について
そもそも、規則一〇〇条によれば、調教騎手は管理者の設置認定を受けたきゆう務
員でなければ雇傭できないのであり、他方、要綱三条五号は、きゆう務員設置認定
申請をなす調教騎手に対し「きゆう務員として認定されれば雇用契約を結び雇用す
ることを確約します。」という文面の雇傭確約書の提出を義務づけるとともに、同
条一号は、きゆう務員に対しても「認定を受けた場合にはきゆう務員として業務に
専心することを誓約いたします。」という文面の宣誓書の提出を義務づけており、
さらに、要綱四条二項六号は、「申請きゆう務員が常時継続的にきゆう務に従事で
きないと認められるとき」は認定を拒否することができるとし、同一一条五号は、
「所属調教騎手から当該きゆう務員を解雇した届出があつた場合において届出を受
理した日から一〇日以内に当該きゆう務員から第八条に規定する届出(所属調教騎
手の変更届等)が提出されなかつたとき」は認定を取り消すことができる旨を定め
ている。右各規定は、調教騎手ときゆう務員との間の雇傭契約がきゆう務員の設置
認定の存在を前提とする反面、当該雇傭契約が消滅すれば右設置認定の取消となる
関係を示すものであつて、きゆう務員設置認定と雇傭契約は、相互にその存続の前
提条件となるものと解される。
したがつて、要綱一一条五号による調教騎手から解雇の届出があつた場合における
きゆう務員設置認定の取消は、右解雇が解雇権の濫用として法秩序全体から見てそ
の効力が否定されるような場合には、認定取消の根拠を失い、許されないものとい
うべきである。
もつとも、成立に争いのない甲第一〇号証及び同第一二号証並びに証人Bの証言に
よれば、認定取消に関する現実の運用面では、解雇の届出につきその効力の実質的
審査まではされていないことが認められるけれども、上記説示のごとく、裁判所が
訴訟の過程において認定取消の前提となつた解雇の効力を審案し、これを解雇権の
濫用として無効であると判断した以上、当該認定取消処分はその根拠を失い、違法
との評価を免れ得ないものといわなければならない。
以上のことから、無効な解雇に基づいてなされた本件処分は、違法であつて、取り
消されるべきである。
五 叙上の次第で、その余の請求原因事実について判断するまでもなく、原告の本
訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴
法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 牧山市治 山  杲 柴谷 晃)

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