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平成17年(行ケ)第10730号審決取消請求事件
平成18年12月7日口頭弁論終結
判決
X原告
訴訟代理人弁護士小原真一
訴訟代理人弁理士鈴江武彦
同河野哲
同中村誠
同堀内美保子
被告ユニチカ株式会社
Y2被告
被告ら訴訟代理人弁護士平野和宏
同訴訟代理人弁理士小谷悦司
同原田智裕
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告
特許庁が無効2004−80150号事件及び無効2004−80189号
事件について平成17年9月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告らの負担とする。
2被告ら
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年10月26日,発明の名称を「生理機能活性を有するハ
」(「」ナビラタケの菌床作製方法とする発明につき特許出願をし以下本件出願
という,同16年1月9日に設定登録(特許第3509736号)を受けた。)
(請求項の数は4である。以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細書,
を「本件明細書」という。。)
被告らは,平成16年9月13日(無効2004−80150号)及び同年
10月18日(無効2004−80189号)に,本件特許を無効にすること
について審判を請求した。
特許庁は,これらの請求を無効2004−80150号事件及び無効200
4−80189号事件として,併合審理し,その結果,平成17年9月6日,
両事件について,いずれも「特許第3509736号の請求項1ないし4に,
係る発明についての特許を無効とする」との審決をし,審決の謄本は同月1。
6日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「請求項1】大鋸屑を主成分とする培地に,該培地対して高温水蒸気処理お【
よび水洗を行なうことなく,ハナビラタケMH−3(受託番号FERMP
−17221)を接種することを特徴とするハナビラタケ人工栽培用菌床の
作製方法。
【請求項2】菌床容器としてプラスチック製容器を用いることを特徴とする,
請求項1に記載のハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法。
【請求項3】前記培地が小麦粉を5∼10%含有することを特徴とする,請求
項1または2に記載のハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法。
【請求項4】前記培地が粉末蜂蜜を含有することを特徴とする,請求項1∼3
の何れか1項に記載のハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方法」。
(以下,請求項1ないし4に係る各発明を「本件発明1」ないし「本件発明4」
という。また,これらを総称して「本件発明」という)。
3審決の理由
別紙審決書の写しのとおり。これを要約すれば,次のとおりである。
()無効2004−80150号事件(以下「請求1」という)1。
(ア)審決の理由は,本件発明は,いずれも,本件出願前に埼玉県立熊谷農業
高等学校(以下「熊谷農業高校」という)科学部員作成(完成日平成9。
年9月17日)の活動記録資料(甲3。審決では,請求1における甲5の
,。「」。)3請求2における甲12以下熊谷農業高校科学部活動記録という
が第48回日本学校農業クラブ全国大会(平成9年10月22日,23日
),開催において閲覧に供されたことにより公然と知られた発明に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は特許
法29条2項に違反してされたというものである。
(イ)審決が本件発明に進歩性がないとの上記結論を導く過程において,熊谷
農業高校科学部活動記録が閲覧に供されたことにより,公然知られること
となった発明(以下「公知発明」という)の内容及び同発明と本件発明。
1との相違点として認定したところは,次のとおりである(公知発明の内
容として認定されたところが,そのまま公知発明と本件発明1との一致点
となる。。)
【公知発明の内容】
オガクズを主成分とする培地に,該培地対して高温水蒸気処理および
水洗を行なうことなく,ハナビラタケを接種するハナビラタケ人工栽培
用菌床の作製方法
【相違点】
本件発明1では,菌株として「ハナビラタケMH−3(受託番号FE
RMP−17221(以下「MH−3」という)を接種するのに)」。
対し,公知発明で,具体的に使用された菌株は,熊谷農業高校で保管さ
れている菌株3776,3777,3779,583である点No.
()無効2004−80189号事件(以下「請求2」という)2。
,(「」。)審決の理由は本件発明の完成には被告2以下被告2というYY
が深く関与しており,同被告なくして本件発明の完成はなかったものと認め
られるものであって,被告2は単独の発明者か共同発明者かは措くとしY
ても,本件発明の発明者というべきであるから,本件特許は特許法38条に
違反してされたというものである。
第3原告主張の取消事由の要点
1請求1について
()取消事由1−1(相違点の看過)1
審決は,公知事項の認定を誤り,公知発明の内容を誤認した結果,本件発
明1と公知発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過したものであり,こ
の誤りが本件発明についての審決の結論に影響することは明らかである。
(ア)審決は,公知発明を認定する前提として「培養容器としてガラスビン,
を用い,加熱処理を行なわないカラマツのオガクズを主成分とし,小麦粉
を5∼20%及び蜂蜜を含有する培地を滅菌処理し,ハナビラタケ菌株
3776,3777,3779を接種して菌床を作製し,これを培養No.
して子実体原基を形成させ,その後ビンの蓋を取り外してハナビラタケ子
実体を成長させるハナビラタケの菌床栽培方法(以下「公知事項1」。」
という「培養容器としてプラスチック製栽培袋を用い,加熱処理を行。),
なわないオガクズを主成分とし,小麦粉20%及び蜂蜜を含有する培地を
滅菌処理し,ハナビラタケ菌株3777,583を接種して菌床を作No.
製し,これを培養して子実体原基を形成させるハナビラタケの菌床栽培方
法(以下「公知事項2」という)及び「培養容器としてガラスビンを」。
用い,加熱しないオガクズを主成分とし,小麦粉を10%及び蜂蜜を含有
する培地を滅菌処理し,ハナビラタケ菌株583を接種して菌床を作No.
製し,これを培養して子実体原基を形成させるハナビラタケの菌床栽培方
法(以下「公知事項3」という)が本件出願前に公然と知られたもの。」。
となったと認定している(審決書10頁21行∼末行。)
上記公知事項のうち,公知事項1は,熊谷農業高校科学部活動記録に平(イ)
成8年12月から開始された「予備実験」として記載されたもの(甲3の
),「」42頁∼205頁であり同公知事項における加熱処理を行なわない
とは,審決の認定する「大鋸屑を,予め120∼121℃,圧力2気圧程
度の高温水蒸気にさらした後,水洗する処理を行なわない(審決書11」
頁14行∼19行)ことを意味するものと理解することができる。ところ
で,ハナビラタケの人工栽培において,大鋸屑に対し「高温水蒸気処理及
び水洗」を行うことは,平成9年3月頃から開始された「実験2」におけ
る失敗(滅菌の段階で袋が破れたものについて2度滅菌を行ったという,
実験過程における失敗。甲3の377頁)から得られた知見を基に,ハナ
ビラタケをより早く成長させるために平成9年6月頃から開始された「実
験3」において実施された技術であり,具体的には煮たオガクズが用いら
れている(甲3の399頁。したがって,公知事項1として認定された)
「予備実験」の段階では「加熱処理を行なわないオガクズ」を用いてい,
るとの意図,あるいは「加熱処理」に替えて滅菌処理のみをオガクズに施
すとの意図は全くなかったのであり,審決における公知事項1の「加熱処
」,,理を行なわないカラマツのオガクズとの認定は本件発明に惑わされて
熊谷農業高校科学部活動記録に記載された「予備実験(42頁∼205」
頁)に対する客観的事実の認定を怠ったものであり,この点において明ら
かな認定の誤りがある。
次に,公知事項2は,上記「実験2(甲3の357頁∼378頁)で」
あるところ,上記のとおり,ハナビラタケの人工栽培において,オガクズ
に「加熱処理」を施すこと,すなわち煮たオガクズを用いることは「実,
験2」における失敗から得られた知見を基に「実験3」において実施さ,
,「」,れた技術であるから公知事項2として認定された実験2の段階では
「加熱処理を行なわないオガクズ」を用いているとの意図,あるいは「加
」。熱処理に替えて滅菌処理のみをオガクズに施すとの意図は全くなかった
,「」したがって審決における公知事項2の加熱処理を行なわないオガクズ
との認定は,公知事項1と同様に,明らかな誤りである。
本件発明1は,ハナビラタケ人工栽培において,オガクズに含有される
ハナビラタケ生育阻害物質を除去するために従来行われていた煮沸処理等
の「高温水蒸気処理及び水洗」が,工業的規模でのハナビラタケ人工栽培
の実現を困難としていることに着目し「培地に高温水蒸気処理及び水洗,
を行うことなくハナビラタケMH−3(受託FERMP−17221)
を接種する」ことによりこの問題点を解決したものである。ここで,培地
,,として煮たオガクズを用いるハナビラタケ人工栽培技術は上記のとおり
「実験2」における失敗から得られた知見を基に「実験3」において確,
。,「」,立された技術であるすなわち公知事項1として認定された予備実験
公知事項2として認定された「実験2」の段階では,煮沸したオガクズを
用いるとハナビラタケの成長が促進されるという知見はなかったのである
から,煮沸を施さず滅菌処理を施したオガクズを用いていることにそれ以
上の意図があるわけではなく「加熱処理を行なわないオガクズ」を用い,
ているとの意識,あるいは「加熱処理」に替えて滅菌処理のみをオガクズ
に施すとの意識は全くなかったことは明らかである。しかるに,上記のよ
,「」うに審決は公知事項1及び2において加熱処理を行なわないオガクズ
を用いていると認定を誤ったものである。
また,公知事項3は,上記「実験3」において実施された菌床栽培の中(ウ)
で「加熱しないオガクズ」を用いた菌床栽培を公知事項として認定した,
ものであるが,そもそも「実験3」は「実験2」の失敗,すなわち,滅,
菌袋の破裂という失敗があり再度滅菌した菌床の発菌がよかったため,実
験2の追跡実験を行った結果,オガクズを加熱(煮沸)するとハナビラタ
ケの菌糸の伸び,子実体形成が向上するとの知見が得られたことから,ハ
ナビラタケを早く栽培すべく「煮たオガクズ+F培地濃度」の組合せ条件
の最適化・好適化を行った実験である(甲3の398頁,399頁。そ)
の中で審決において公知事項3として認定された「加熱しないオガクズ」
を用いた栽培法は,培地に対しあらかじめ煮沸処理してハナビラタケ育成
阻害物質を除去することが,煮沸を行わない場合に比しハナビラタケの育
成に好適であることを示すための比較例として行われたものである。そし
て「実験3」のまとめとして,オガクズを煮た培地の方が菌糸・子実体,
の成長がよいこと,この発見によりオガクズ栽培が確立されたことが記さ
れている(甲3の417頁。このように「実験3」において「加熱しな)
いオガクズ」を用いる公知事項3は,加熱したオガクズ(煮たオガクズ)
を用いたハナビラタケ人工栽培方法に劣る例として開示されていると解す
るのが相当である。このような公知事項3は,工業的規模でのハナビラタ
ケ人工栽培を実現すべくあえて「高温水蒸気処理及び水洗を行わない」本
件発明に対する進歩性否定の根拠となる公知発明認定のための公知事項と
しての適性を有しないものである。
(エ)以上のとおり,審決は,熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)に対する
誤認により,本件発明1との対比において,本来,相違点として認定しな
「,ければならない培地に対して高温水蒸気処理および水洗を行うことなく
接種がされている」という点を,本件発明1と公知発明との一致点として
誤って認定し,相違点を看過したものであり,この誤りは本件発明につい
ての審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべき
である。
()取消事由1−2(相違点についての判断の誤り)2
審決は,本件発明1と公知発明との相違点についての判断を誤ったもので
あり,この誤りが本件発明についての審決の結論に影響することは明らかで
ある。
(ア)熊谷農業高校の保管に係るハナビラタケ菌株についての認定の誤り
,()「」,審決は熊谷農業高校科学部活動記録甲3に記載された予備実験
「実験2」及び「実験3」においてハナビラタケ人工栽培用菌床の作製に
使用された菌種であって熊谷農業高校で保管されているハナビラタケ菌株
3776,3777,583が,本件出願前に当業者が容易にNo.No.No.
入手することができたと認定している(審決書11頁31行∼12頁2
)。,,,行しかしながらこのような認定は証拠の評価を誤ったものであり
誤りである。
すなわち審決は甲4審決では請求1における甲7及び甲5審,,(,)(
決では,請求1における甲8の3)には,菌株3776(採取地十文No.
字峠,3777(同北海道,583(同十日町)が,原告が代表))No.No.
取締役を務めていた株式会社ミナヘルス(以下「ミナヘルス」という)。
に分譲されたことが示されていると認定しているが,この認定は誤りであ
る。甲5に記載されているように,ミナヘルスは被告2から菌種4株Y
を譲り受けており,それらの採取地が十日町,北海道,十文字峠,浅間で
,,,,あったことは認めるが審決が認定するような5833776No.No.
3777を譲り受けた事実は存在しない。審決の上記認定の根拠となNo.
るものは甲4の被告2の陳述のみであり,客観的な証拠は何ら存在しY
ない。しかも,3776については同被告の陳述による証拠さえもなNo.
い。
また,審決は,甲6(審決では,請求1における参考資料)のみを根拠
として本件出願前の平成12年6月16日に菌株583がミツワ興業No.
株式会社(以下「ミツワ興業」という)に分譲されたと認定している。。
しかしながら,同日何らかの菌株が被告2からミツワ興業に分譲されY
たことについては甲6から認定可能であるとしても,その菌株が58No.
No.3であることは甲6に記載された事項からは不明である。そもそも「
583」なる名称は被告2が付した識別名に過ぎないものであり,ミY
ツワ興業としては,当該菌株を分譲した被告2が当日分譲した菌株はY
583であったと主張していることに対して,異議を唱える必要性はNo.
ない。被告2からミツワ興業に分譲された当該菌株が583であるYNo.
ことを示す客観的証拠は存在しない。
(イ)本件発明の作用効果の誤認・看過
()特性1(阻害物質除去操作を必要とせずに,ハナビラタケを順調に生a
育せしめることができること)に関する審決の判断(審決書12頁13
行∼13頁13行)について
熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)が,オガクズに菌株377No.
6,3777又は583が接種された培地であって「高温水蒸No.No.
気処理及び水洗」されていない菌床を用いてハナビラタケを生育させ収
穫することができることを示しているとの審決の認定については,争わ
ない。しかし,審決は,ハナビラタケの生育期間及び収穫量に関し,本
件発明の菌株MH−3と菌株3776,3777又は583No.No.No.
との比較において,本件発明のMH−3が「生育期間が)格別早いと(
言うことはできない(審決書12頁19行∼13頁1行「収穫量。」),
が格別多いということもできない(同13頁2行∼7行)としてい。」
るが,この判断は,本件発明の格別な作用効果を誤認ないし看過し,そ
の結果,相違点についての判断を誤ったものであり,この誤りは審決の
結論に影響を及ぼすものである。
まず,収穫量に関してみると,審決が認定しているように,本件明細
書の実施例には,小麦粉を含まない培地Aでは菌糸接種から3ヶ月後の
収穫時の生ハナビラタケの重量が50.5g/1株であり,小麦粉を含
む培地Bでは菌糸接種から2ヵ月後の収穫時の生ハナビラタケの重量が
100.5g/1株であることが示されているが(甲2の表2,留意)
すべきは,これら収穫量が1株当たりのものであり,容器1個につきそ
の1株が形成される点である。MH−3を用いた本件発明における上記
収穫量は,容量500mlのポリエチレン製容器において形成された1
株当たりの収穫量である(甲2の段落【0023。一方「収穫量が】),
格別多いということもできない」との比較判断の根拠とされた「予備。
実験」に示された菌株3776の平均収穫量82.3g及び3No.No.
779の92.1gは,容量900mlのガラス瓶において形成された
1株当たりの収穫量である(甲3の203頁,205頁。すなわち,)
本件発明の菌株MH−3は,菌株3776及び3779に比較No.No.
し,略半分量の培地から同量もしくはそれを超える量のハナビラタケを
収穫することができることが示されているわけであり,これは審決(審
決書13頁8行∼13行)の指摘するような,同一菌株間において通常
見られるバラツキの範囲内の差とは,到底いえるものではない。
そして,工業的規模でのハナビラタケ大量栽培の観点からは,生育期
間の長短の判断において,用いられる容器の容量(培地量)や,ハナビ
ラタケの収穫量が重要な要素として含まれるものであるところ,審決に
No.おいて「格別早いと言うことはできない」との判断の根拠となる。
583について,熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)には収穫量が記
載されていない。
このように,本件発明は菌株MH−3を用いることにより,500m
l容器に充填された,小麦粉を含まない培地から平均収量50g超のハ
ナビラタケを菌糸接種から3ヶ月後に収穫可能とし,小麦粉を含む培地
Bから100g超のハナビラタケを菌糸接種から2ヶ月後に収穫可能と
する,公知発明に比し極めて優れた作用効果を奏するものである。審決
はこの作用効果を看過ないし誤認しており,その結果,相違点について
の判断を誤ったものである。
()特性2ポリエチレン容器を使用できることに関する審決の判断審b()(
決書13頁14行∼25行)について
審決は,菌床容器としてポリエチレン容器を用いてハナビラタケを培
養することが可能か否かの観点から「特性2」が本件発明に特有な作用
効果といえるかを判断しているが,このような判断には誤りがある。す
なわち,本件発明において菌床容器としてガラス瓶に替えてポリエチレ
ン容器を用いることは,工業的規模での大量栽培の観点から重要な技術
的意義を有するものである。そして,上述のように,菌株MH−3を用
いたことにより工業的規模でのハナビラタケ大量栽培の実現が可能とな
ったのであるから,特性2は本件発明の特有ないし格別な作用効果とい
える。
()特性3(β−1,3−Dグルカンを多量に含有すること)に関する審c
決の判断(審決書13頁26行∼14頁5行)について
審決は,ハナビラタケ100g中に含まれる「含有率」のみからβ−
1,3−Dグルカン量に関する「特性3」を判断している。ところで,
菌株MH−3を用いることにより,菌株3776及び3779No.No.
に比較し,略半分量の培地から同量若しくはそれを超える量のハナビラ
タケを収穫することができることは先に指摘したとおりである。したが
,,って同量の培地から得られる1株のハナビラタケに含有されるβ−1
3−Dグルカン量は,菌株MH−3を用いることにより菌株377No.
6及び3779に比較して2倍以上となることは容易に理解できるNo.
ところである。してみると,β−1,3−Dグルカン量に関する「特性
3」を「含有率」のみから判断し,該特性をMH−3特有の効果という
ことはできないとした審決の判断には誤りがある。
2請求2について
()取消事由2−1(譲渡された菌株等についての認定の誤り)1
審決は,被告2から譲渡されたハナビラタケの菌株等について,証拠Y
の評価を誤り,事実の認定を誤った結果,本件発明の発明者についての判断
を誤ったものである。
(ア)審決は,甲4(審決では,請求2における甲5)及び甲5(6頁目以降
が,審決での請求2における甲2の3)に基づき「2は,平成10年,Y
No.No.No.1月に,菌株162(採取地十文字峠,583(同十日町,))
3372(同浅間山,3777(同北海道)をに譲渡した」こと)No.A
()。,,を認定している審決書21頁7行∼9行しかし審決の上記認定は
誤った証拠の評価に基づくものであり,誤りである。
すなわち,上記1()(ア)において述べたとおり,甲5に記載されている2
ように,ミナヘルスは被告2から菌種4株を譲り受けており,それらY
の採取地が十日町,北海道,十文字峠,浅間であったことは認めるが,審
No.No.No.No.決が認定しているような,菌株162,583,3372,
3777を譲り受けた事実は存在しない。審決の上記認定の根拠となるも
のは甲4の被告2の陳述のみであり,客観的な証拠は何ら存在しないY
のである。このように当事者である被告2の陳述のみにより,客観的Y
な証拠もないまま,ミナヘルスが被告2から菌株162,58YNo.No.
3,3372,3777を譲り受けたとした審決の認定には誤りがNo.No.
あり,しかも同誤認は審決の結論に影響を及ぼすものである。
(イ)審決は,科学技術振興事業団に提出した「新技術コンセプト・モデル化
課題申込書」に添付された財団法人日本食品分析センター(以下「日本食
品分析センター」という)の分析試験成績書(甲第5号証。審決では,。
請求2における甲2の3)において検体とされたハナビラタケ菌株が,被
告2が所有していた菌株583であると認定している(審決書22YNo.
頁7行∼8行。しかしながら,当該分析試験成績書には検体として「ハ)
No.ナビラタケ」と記載されているのみであり,同成績書からその菌株が
583であることは不明である。被告2の供述のみをもって当該分析Y
試験成績書における検体が同被告の菌株583であるとした審決の認No.
定には誤りがある。
(ウ)審決は,被告2が被告ユニチカ株式会社(以下「被告ユニチカ」とY
いう)中央研究所の(以下「」という)に菌株583を譲渡し。。BBNo.
たと認定している(審決書22頁24行∼25行。しかし,審決の同認)
定は,甲8(審決では,請求2における甲17)のみを根拠とするもので
,,,あり甲8には平成14年7月25日付けで譲渡された菌株6種のうち
No.No.583のみが番号で表示され他の菌株は採取地で示されているが,,
。583が同日付でに譲渡されたことを示す客観的な証拠は存在しないB
甲8のみを根拠として平成14年7月25日に菌株583が被告2No.Y
からに譲渡されたとした審決の認定には誤りがある。B
(エ)審決は,被告ユニチカ中央研究所が保有している菌株583と,菌No.
株MH−3とは,RAPD解析によるバンドパターンが一致しており,対
峙培養で帯線が形成されないと認定している(審決書22頁26行∼28
行。しかしながら,平成14年7月25日に菌株583が被告2)No.Y
からに譲渡されたとの審決の認定に誤りがあることは上記のとおりでB
ある。してみれば,RAPD解析に係る甲9(審決では,請求2における
甲22)及び対峙培養に係る甲10(審決では,請求2における甲23)
に示された実験成績証明書において使用された比較菌株が被告2からY
の平成14年7月25日付け分譲に係る583であることを示す客観No.
的証拠はないのであるから,これら実験成績証明書を用いてのMH−3と
比較菌株との同一性の議論は当を得ないものである。
()取消事由2−2(本件発明の発明者の判断の誤り)2
審決は,被告2が開発した技術の内容,同被告がミナヘルスに指導しY
た内容等について事実の認定を誤り,本件発明との対比を誤った結果,本件
発明の発明者についての判断を誤ったものである。
(ア)審決は,被告2が開発した技術として,平成8年から平成9年にかY
けて行った「予備実験」及び平成9年に行った「実験2」について,いず
れも「加熱処理を行なわないカラマツのオガクズを主成分」とする培地を
用いたと認定している(審決書22頁32行∼23頁7行。しかしなが)
ら,既に前記1()(イ)において述べたとおり,ハナビラタケの人工栽培に1
おいて,オガクズに「加熱処理」を施すことは「実験2」における失敗,
から得られた知見を基に,ハナビラタケをより早く成長させるべく「実験
3」において実施された技術であり「予備実験」及び「実験2」の段階,
では「加熱処理を行なわないオガクズ」を用いているとの意図は全くな,
かったのであるから,審決の上記認定は「予備実験」及び「実験2」に,
ついての事実認定を誤ったものである。
また,審決は,平成9年に行った「実験3」についても「熱水で煮な,
いオガクズ」に菌株583を接種して子実体原基を発生させるハナビNo.
ラタケの菌床栽培方法を被告2が開発した技術として認定しているがY
(審決書23頁8行∼11行,同認定も,前記1()(ウ)において述べた)1
とおり,誤りである。
(イ)審決は,被告2がミナヘルスの社員に対して行った栽培方法の指導Y
内容を認定しているが(審決書23頁12行∼27行,その内容は公知)
技術に過ぎず,本件発明の要旨ではない。
すなわち,平成8年度の研究活動記録(甲11。審決では,請求2にお
ける甲9)においてはオガクズを熱水処理等の前処理を施すことなく小麦
粉等の栄養分を混入し菌床を作製しているのに対し(甲11の65頁∼6
8頁等参照,その改良技術に係る平成9年度の研究活動記録(甲3。審)
決では,請求2における甲12)においては,培地に対しあらかじめ高温
水蒸気処理及び水洗を行うことにより育成阻害物質を除去することが,該
培地処理を行わない場合に比しハナビラタケの育成に好適であることが示
されていることに鑑みると,被告2によるミナヘルスへの栽培技術のY
指導内容は,あらかじめ高温水蒸気処理及び水洗を行うことを要旨とする
ものであると解するのが相当である。
そうとすると,工業的規模でのハナビラタケ人工栽培を実現するため,
オガクズの加熱処理(煮沸・乾燥)を行うことなくハナビラタケを大量に
人工栽培するという本件発明の着想及びその具現化において,被告2Y
,。の指導が関与していないことは明らかであり審決の判断には誤りがある
第4被告らの反論の要点
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
1請求1について
()取消事由1−1(相違点の看過)について1
(ア)新規性ないし進歩性の判断に用いる公知事実は客観的事実であれば足
り,原告が主張するような主観的意図の有無など何ら問われる性質のもの
ではない。
被告2は,永年,日本菌学会会員及び埼玉きのこ研究会副会長としY
て各種きのこの栽培に従事してきており(甲4,きのこのオガコ栽培に)
用いるオガクズはあらかじめ加熱処理を施さないオガクズに米ヌカ等の栄
養分を混ぜた培地をビンに詰め栓をした後に高温滅菌する方法が古くから
一般的に行われている事実(乙8参照)を熟知しており,本人も各種きの
このオガコ栽培においてあらかじめオガクズを加熱処理することなく本件
出願前から自ら行ってきたものであり,その認識は十二分に存していたも
Yのであるこのように予備実験及び実験2以前の段階で被告。,「」「」,
2が,加熱処理を行わない大鋸屑に栄養成分を添加した培地を使用してハ
ナビラタケ菌株を接種し,培養することによりハナビラタケ子実体(きの
こ)を形成させる人工栽培方法を開発していたことは,審決(審決書23
頁37行∼39行)の認定するとおりである。
そして,被告2は,更に子実体の発生期間を短縮する手段として,Y
あらかじめ大鋸屑を熱水で加熱処理する菌床作製方法,あらかじめ大鋸屑
を高温水蒸気処理及び水洗する菌床作製方法を開発した(審決書23頁3
9行∼24頁3行)ものであり,この発明が特開平11−56098号公
Y報(乙3)として特許出願されたものである。このことは,審決が「,
2は,加熱処理を行わない大鋸屑に栄養成分を添加した培地を使用してハ
ナビラタケ菌株を接種し,培養することによりハナビラタケ子実体(きの
こ)を形成させる人工栽培方法を開発した後,さらに子実体の発生期間を
短縮する手段として,予め大鋸屑を熱水で加熱処理する菌床作製方法,予
め大鋸屑を高温水蒸気処理及び水洗する菌床作製方法を開発したことは明
らかであり,被請求人の上記主張は前記開発過程を無視するものであって
採用できない(審決書23頁37行∼24頁4行)と適切に認定して。」
いるとおりである。そうすると「加熱処理を行わない大鋸屑に栄養成分,
を添加した培地を使用してハナビラタケ菌株を接種し,培養することによ
りハナビラタケ子実体(きのこ)を形成させる人工栽培方法」が,加熱処
理を行なう特開平11−56098号公報(乙3)記載の発明より劣るも
のであったとしても,本件出願前に公知である以上,本件発明に対する進
歩性否定の根拠となる公知発明認定のための公知事項としての適性を有す
ることに疑いはない。
しかも,乙8(青島清雄ほか編「菌類研究法(共立出版株式会社,昭」
和58年6月1日初版1刷発行)316頁)の「C鋸屑による生産」の.
項においては,従来のキノコ栽培に用いられていた鋸屑について,加熱処
理のことに関しては何ら記載されておらず,スギのような樹脂成分が多い
鋸屑に関しては6ヶ月以上野外で加水堆積した後に使用した方がよい旨が
記載されているだけである。
(イ)以上から明らかなとおり,公知事項1ないし3にはいずれも「オガク,
ズを主成分とする培地に,該培地に対して高温水蒸気処理および水洗を行
なうことなく,ハナビラタケを接種するハナビラタケ人工栽培用菌床の作
製方法の発明が示されており対比における一致点の認定において高」,,「
温水蒸気処理および水洗を行なうことなく」という構成を一致点と認定し
た審決に誤りはない。
なお公知事項1ないし3における加熱処理を行なわないとは大,「」,「
鋸屑を,予め120∼120℃,圧力2気圧程度の高温水蒸気にさらした
,」(,後に水洗する処理を行わないことを意味するものでありこのことは
原告も認めている,100℃程度の蒸気滅菌処理とは異なる(審決書。)
11頁14行∼19行参照「予備実験(甲3の44−2頁,乙33))。」
や「実験2(甲3の377頁)で行われている滅菌処理は「加熱処理」」,
に替えて行われたものではない。
()取消事由1−2(相違点についての判断の誤り)について2
(ア)熊谷農業高校の保管に係るハナビラタケ菌株についての認定の誤りをい
う点について
()原告は,ミナヘルスが被告2から菌種4株を譲り受けたこと,そaY
れらの採取地が十日町,北海道,十文字峠,浅間であったことを認めな
がら,菌株№583,№3776,№3777を譲り受けた事実はない
旨主張している(なお,浅間を採取地とする菌株は菌株№3372であ
り,被告2が譲り渡した菌株は,菌株№162,№583,№33Y
72,№3777の4株である。。)
しかしながら,熊谷農業高校科学部活動記録の30−1頁に表として
まとめられている熊谷農業高校において保有するハナビラタケの保存菌
株の「菌株」と「採取場所」との対比表から明らかなとおり「菌株No,
№162」=「十文字峠を採取地とする菌株「菌株№583」=「十」,
日町を採取地とする菌株「菌株№3777」=「北海道を採取地と」,
する菌株「菌株№3372」=「浅間を採取地とする菌株」であり,」,
正に菌株№583を含む上記4菌株(菌株№162,№583,№33
72,№3777)が譲渡されていたのである。
()また,ミナへルスの従業員撮影に係るミナヘルスの栽培室におけるハb
ナビラタケの原木栽培の写真(乙24の1)を拡大した乙24の2に写
っているハナビラタケを接種した原木の袋には「ハナビラタケ583」
なる表示が付されており,ミナへルスにおいても被告2から分譲をY
受けた菌株について,被告2が付した菌株番号をもって菌株を特定Y
し,認識していたことが分かる。このことだけでも,原告の主張が事実
に反することは明らかである。
なお,ミナヘルスへの分譲時点において被告2が保有する菌株のY
うち,採取地が十日町である菌株は,菌株№583のみであった(甲3
の30−1頁,乙2の15頁右欄()。1)
被告2は菌株№3776をミナヘルスには譲渡していないが,当Y
該菌株も,公知事項1のとおり,本件出願前に開催された第48回日本
学校農業クラブ全国大会において公開されたことによって,本件出願前
に公然と知られた菌株であり,他の菌株同様,第三者に対する譲渡に制
限を設けていたわけではないので,当業者が菌株№3776を容易に入
手することができたことに変わりはなく,菌株№3776をミナヘルス
に譲渡していないことは,審決の判断に影響を及ぼすものではない。
()なお,審決は,請求1においては,菌株№583と菌株MH−3とがc
同一の菌株であることを認定するまでもなく,菌株№3776,377
7,3779との比較からしても,本件発明が進歩性を欠如するもので
あるとの判断をしているだけであるが,請求2においては,菌株MH−
3は被告2がミナへルスの社員に分譲した菌株№583に由来するY
ものであり,遺伝的系統が同じであると認定している(審決書24頁5
行∼25頁5行。そうすると,請求1においても,菌株MH−3は被)
告2がミナへルスの社員に分譲した菌株№583に由来するものでY
あり,遺伝的系統が同じであることを根拠に,本件発明が新規性又は進
歩性を欠如するものとされるべきものである。
(イ)本件発明の作用効果の誤認・看過をいう点について
()特許庁の審査基準a
特許庁の特定技術分野の審査基準における微生物の利用に関する発明
においては「微生物の利用に関する発明(例:物質を生産する方法の,
発明)において,利用する微生物が分類学上公知の種で,しかもその発
明と同一の利用の態様(例:目的とする物質を生産すること)が知られ
ている他の微生物と同一属に属する場合,通常その発明は進歩性を有し
ない。ただし,前者の微生物を利用したことが後者の微生物を利用した
ことに比較して,当業者が予測できない有利な効果を奏する場合には,
その発明は進歩性を有する(特定技術分野の審査基準第Ⅶ部第2章2.
2.2進歩性(2」とされている。))。
このことからすれば,以下に述べるとおり,菌株MH−3を利用した
ことによって奏される効果は,他の菌株を利用したことに比較して当業
者が予測できない有利な効果を奏するものであるとは到底いえず,本件
発明が進歩性を有しないことは明らかである。
なお,菌株MH−3は,被告2がミナへルスの社員に分譲した,Y
本件出願前公知の菌株№583に由来するものであり,遺伝的系統が同
じであるので,本来,本件発明は,特性1ないし3について検討するま
でもなく,新規性又は進歩性を欠如するものとされるべきものである。
()特性1(阻害物質除去操作を必要とせずに,ハナビラタケを順調に生b
育せしめることができること)について
ハナビラタケの育成期間及び収穫量について,菌株MH−3と菌株№
3776,№3777,又は№583との比較において,菌株MH−3
の生育期間が格別早いということはできず,収穫量が格別多いというこ
ともできないとする審決の判断について,原告は,本件発明の格別な作
用効果を誤認あるいは看過するものである旨主張している。
しかしながら,次に述べるとおり,原告の主張は理由がない。
①実験環境の相違について
ハナビラタケを初めとした植物の生育は,光・温度・湿度・二酸化
(,炭素・雑菌汚染等の栽培環境によって影響を受けるものであるなお
甲4の4頁21行∼23行参照。。)
,(),しかるところ熊谷農業高校科学部活動記録甲3記載の実験は
いずれも,被告2の指導の下とはいいながら,高校生が不十分なY
高校の栽培室を使用して行ったものである。これに対して,本件明細
書に記載された実験は,企業が十分な施設を使用して行ったものであ
る。そうすると,熊谷農業高校科学部活動記録記載の実験結果と本件
明細書に記載された実験結果との間に差異があったとしても,そのこ
とをもって本件発明が格別の作用効果を奏するとすることはできな
い。
②実験条件の相違について
熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)記載の予備実験に用いられた
【】,,F培地と本件明細書の段落0026欄記載のA培地B培地とは
含まれている栄養分の成分が異なるものであり,熊谷農業高校科学部
活動記録記載の実験結果と本件発明の特許公報に記載された実験結果
との間に差異があったとしても,そのことをもって本件発明が格別の
作用効果を奏するとすることはできない。
③収穫量について
「予備実験」は「F培地の濃度がオガクズの割合に対して低い場,
合,補助栄養分として加える小麦粉の添加物の間に何か関係があるの
ではないかと思い表にあるような成分で実験を行った」ものであり,
個体毎にF培地又は小麦粉の添加物の量を異にして実験が行われたも
のである甲3の46頁それ故予備実験のまとめとしてF()。,「」,「
培地濃度と小麦粉添加量の差による収量変化が当然考えられるが,今
後,実験本数を増やして正確な値を出してゆきたい(同205頁)。」
とされたところである。このような「予備実験」におけるハナビラタ
ケの平均収量を,本件明細書記載の実施例2のように同一の培地によ
り栽培されたハナビラタケの平均収量と比較して格別の差異があると
することは相当ではない。
また「予備実験」において平均収量を計測したのは,菌株№37,
76,3779の2系統のみであるところ,菌株№3776で収量が
最大のものは120g(13株中2株,菌株№3779で収量が最)
大のものは186.8g(9株中1株)であることからすれば(甲3
の63頁,本件明細書記載の培地Bにより栽培されたハナビラタケ)
の平均収量と比較してもまったく遜色がない。
なお,ハナビラタケ収穫時のカットの仕方(根元の部分を含ませる
か否か)により,収穫時の計測値は変動することを付言する。
④育成期間について
加熱処理を行わないオガクズ培地が使用された「予備実験」におい
て,菌株3776,3779ではいずれも種菌接種から菌糸蔓延No.
まで平均461日(甲3の203頁,伏せこみから収穫まで約1ヶ.)
月程度(同204頁)であると記載されていることから,種菌接種か
ら収穫まで2ヶ月半程度であり,本件明細書の実施例に記載されてい
る培地A(菌糸接種後収穫まで3ヶ月)及び培地B(同2ヶ月)での
育成期間と遜色ないことが分かる。
そして,審決が認定しているとおり「実験3」で加熱しないオガ,
クズに小麦粉及び蜂蜜を添加した培地に菌株583を接種して培No.
養した場合,子実体形成まで40.6日∼41.0日で,その後収穫
までが1ヶ月程度の合計2ヶ月半弱であり(甲3の416∼417
頁,菌株№583は「菌糸の成長や子実体形成の劣化は認められ),
ず実験3の観察では,菌糸成長速度が他の種菌を上回る場合も認めら
れる(甲3の29頁)と記載されていることから明らかなとおり,」
収穫量いかんにかかわらず,菌株№583の菌糸成長速度は他の種菌
を上回るものであることが分かるうえ,菌株№583は,菌株MH−
3と遺伝的系統が同じであるので,菌株MH−3との間で生育期間に
格別の差異がないことは明らかである。
()特性2(ポリエチレン容器を使用できること)についてc
原告は,菌株MH−3を用いたことにより工業的規模でのハナビラタ
ケ大量栽培が可能となったことを理由に,特性2は本件発明の特有ある
いは格別な作用効果といえる旨主張している。
しかしながら,公知事項2のうち「培養容器としてプラスチック製,
栽培袋を用い,小麦粉を20%及び蜂蜜を含有する培地を滅菌処理し,
ハナビラタケ菌株№3776,583を接種して菌床を作製し,これを
培養して子実体原基を形成させるハナビラタケの菌床栽培方法」が公。
知であることは原告も認めるところであり,PP容器で培養できること
は明らかであって,特性2も,菌株MH−3でなければ奏し得ない効果
ではない。
また,茸一般の大量人工栽培でプラスチック(PP)ビンを使用する
ことが従来から一般に行われていることであるうえ(乙第8号証の31
6頁右欄C.1.参照,熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)の43)
0頁には,今後の課題としてプラスチック培養ビンを利用した培養が示
されており,このことからしても,菌株MH−3でなければ,ポリエチ
レン容器を使用してハナビラタケの栽培ができないものでないことは明
らかである。
なお,熊谷農業高校の実験においてガラスびんを用いたことは,ガラ
ス瓶は透明であるので培地の変化(カビの発生等)や子実体原基の成長
具合を観察することができることに基づくに過ぎないものである(甲1
3,乙40,乙41の27頁21行∼25行。)
()特性3(β−1,3−Dグルカンを多量に含有する)についてd
原告は,β−1,3−Dグルカン量に関する特性3を「含有率」のみ
から判断し,該特性をMH−3特有の効果ということはできないとした
審決の判断には誤りがある旨主張している。
,【】【】,しかしながら本件明細書の従来の技術欄の段落0003に
「ハナビラタケには有用な生理活性物質が多量に含まれており,この点
でも注目されている。特に,優れた免疫賦活作用を有する生理活性物質
として知られる総βグルカンの含有量は,100g当り43.6gであ
る」と記載されているとおり,βグルカンを多量に含有することは,。
菌株MH−3を接種して栽培されたハナビラタケに限られるものではな
い。
実際,乙18によれば,菌株№3777及び菌株「菅平」より栽培し
たハナビラタケとMH−3菌株より栽培したハナビラタケとの間にβグ
ルカンの含有量に格別の差異はないことが分かる。
そして,審決がいうように,キノコの栽培においては,同一の菌株で
あっても,生育期間や収穫量にバラツキがあることは普通であり,菌株
MH−3より栽培したハナビラタケの収穫量が菌株№3776,№37
79より栽培したハナビラタケと比較しても収穫量が格別多いというこ
とができない以上,特性3を「含有率」から判断して,該特性をMH−
3特有の効果ということはできないとした審決の判断に誤りはない。
なお,甲5の10枚目の平成10年4月3日付分析試験成績書に分析
結果が記載されている検体(ハナビラタケ)は,被告2が所有してY
いた菌株№583より栽培したハナビラタケであるところ(甲13,乙
40,乙41の23頁23行∼26頁12行参照,菌株№583は,)
菌株MH−3と遺伝的系統が同じであるが,本件出願前に公知の菌株で
あった。
2請求2について
()取消事由2−1(譲渡された菌株等についての認定の誤り)について1
(ア)原告は,ハナビラタケの菌株につき,ミナヘルスは被告2から採取Y
地が十日町である菌株は譲り受けたが菌株583は譲り受けていないNo.
と主張し,それを前提として日本食品分析センターの分析試験成績書にお
ける検体を被告2から譲り受けた菌株583に基づくハナビラタケYNo.
であるとの審決の認定は事実誤認であると主張する。
しかしながら,ミナヘルスが被告2から分譲を受けた採取地を十日Y
町とする菌株が菌株583であることは,既に前記1()(ア)においてNo.2
述べたとおりである。
Yまた,日本食品分析センターの分析試験成績書における検体が,被告
2からミナヘルスが譲り受けた菌株583に基づくハナビラタケであNo.
ることは,審判手続での当事者尋問における被告2の供述(甲13,Y
乙40,乙41)をはじめとする証拠に照らして,明白に認められるとこ
ろである。ミナヘルスは,平成10年3月17日に日本食品分析センター
にハナビラタケの検体を提出したものであるところ(甲5,ミナヘルス)
代表取締役会長であったは同月初旬に被告2から菌株583のCYNo.
ハナビラタケ原体の凍結乾燥体を譲り受けているものであり,ハナビラタ
ケが稀少な茸で発見採取することが難しいものであり,ミナヘルスが自ら
又は被告2以外の者からハナビラタケを入手したことをうかがわせるY
ような事情は何ら存在しないことに照らせば,ミナヘルスが日本食品分析
センターに提出した検体が被告2から譲り受けた菌株583のハナYNo.
ビラタケであることは明らかというべきである。
(イ)原告は,被告2が被告ユニチカのに菌株583を譲渡したとYBNo.
の審決の認定を誤りであると主張し,それを前提として,被告ユニチカの
保有に係る菌株583と原告の菌株MH−3との間でのRAPD解析No.
試験及び対峙培養の結果についての審決の認定も事実誤認であると主張す
る。
しかしながら,被告2が被告ユニチカのに菌株583を譲渡YBNo.
したこと及び原告の菌株MH−3との間でのRAPD解析試験及び対峙培
養に用いられた検体が被告2からに譲渡された菌株583であYBNo.
ることも,甲8,乙38,39をはじめとする証拠に照らして,明白に認
められるところである。
()取消事由2−2(本件発明の発明者の判断の誤り)について2
(ア)原告は「予備実験」及び「実験2」の段階では,被告2が「加熱処,Y
理を行なわないオガクズ」を用いているとの意図は全くなかったとして,
「予備実験」及び「実験2」のいずれにおいても「加熱処理を行なわない
カラマツのオガクズを主成分」とする培地を用いているとした審決の事実
認定は誤りであると主張する。
しかしながら,被告2が,きのこのオガコ栽培に用いるオガクズはY
あらかじめ加熱処理を施さないオガクズに米ヌカ等の栄養分を混ぜた培地
をビンに詰め栓をした後に高温滅菌する方法が古くから一般的に行われて
いる事実を熟知しており,本人も各種きのこのオガコ栽培においてあらか
じめオガクズを加熱処理することなく本件出願前から自ら行ってきたもの
であり,その認識は十二分に存していたものであることは,前記1()(イ)1
において述べたとおりである。原告の主張は,失当である。
(イ)また,原告は「実験3」において「熱水で煮ないオガクズ」を用いた,
ハナビラタケの菌床栽培は,熱水で煮たオガクズの作用効果を確認すべく
比較実験として行われたものであるから,審決がこれを被告2が開発Y
した技術として認定したことは誤りである旨を主張する。
しかしながら,特定の完成した発明を前提にして,その改良発明がなさ
れることは通常のことであり「熱水で煮ないオガクズ」を用いたハナビ,
ラタケの菌床栽培を前提に,改良発明として特開平11−56098号公
(),「」報乙3記載の発明がなされたからといって熱水で煮ないオガクズ
を用いたハナビラタケの菌床栽培が発明として完成していなかったことに
はならない。
また「実験3」以前に実施された「予備実験」や「実験2」からも明,
らかなとおり「熱水で煮ないオガクズ」を用いたハナビラタケの菌床栽,
培は「実験3」で開発された技術ではない。,
原告の主張は,被告2によるハナビラタケ栽培方法の開発過程を無Y
視するものであって失当である。
(ウ)原告は,被告2がミナヘルス従業員に対して行った栽培方法の指導Y
内容はあらかじめ高温水蒸気処理及び水洗を行うことを要旨とするもの
で,本件発明の要旨ではないとし,工業的規模でのハナビラタケ人工栽培
を実現するため,オガクズの加熱処理(煮沸・乾燥)を行うことなくハナ
ビラタケを大量に人工栽培するという本件発明の着想及びその具現化にお
いて,被告2の指導は関与していないと主張する。Y
Yしかしながら,甲5,乙36の1∼15等の証拠に照らせば,被告
2のミナヘルスの従業員に対する指導内容が「あらかじめ高温水蒸気処,
理を行わない大鋸屑に栄養成分を添加した培地を使用してハナビラタケ菌
株を接種し,培養することによりハナビラタケ子実体(きのこ)を形成さ
せる人工栽培方法」であったことは明らかである。
また,被告2とハナビラタケの大量栽培に向けて共同で開発を行っY
たミナへルスが,実際に事業化した技術が「あらかじめ高温水蒸気処理,
を行わない大鋸屑に栄養成分を添加した培地を使用してハナビラタケ菌株
を接種し,培養することによりハナビラタケ子実体(きのこ)を形成させ
る人工栽培方法」であることは,被告2のミナヘルスの従業員に対すY
る指導内容が「あらかじめ高温水蒸気処理を行わない大鋸屑に栄養成分,
を添加した培地を使用してハナビラタケ菌株を接種し,培養することによ
りハナビラタケ子実体(きのこ)を形成させる人工栽培方法」であること
の証左である。本来,あらかじめ煮たオガクズを用いる方がより好ましい
が,被告2の陳述書にあるように(甲4の4頁1行目以下,工業大量Y)
生産する上では煮ないオガクズを用いた上で滅菌処理を行う方がコスト面
で有利であることから,被告2は,ミナヘルスの社員にはその方法でY
一貫して指導していたのである。
第5当裁判所の判断
1請求1について
()取消事由1−1(相違点の看過)について1
(ア)原告は,審決の認定した公知事項1,2における「加熱処理を行なわな
いカラマツのオガクズ」について「予備実験」及び「実験2」の段階で,
は「加熱処理を行なわないオガクズ」を用いているとの意図は全くなか,
ったなどとして,公知事項1,2において「加熱処理を行なわないカラマ
ツのオガクズを主成分」とする培地を用いているとした審決の事実認定は
誤りであるとし,また,公知事項3における「熱水で煮ないオガクズ」を
用いたハナビラタケの菌床栽培は「加熱したオガクズ(煮たオガクズ」,)
を用いた方法に劣る例として開示されているものであり,本件発明に対す
る進歩性否定の根拠となる公知発明認定のための公知事項としての適性を
有しない旨主張している。
(イ)乙3(特開平11−56098号公報)によれば,被告2は,平成Y
9年8月25日に「ハナビラタケ人工栽培用の菌床作成方法」として,,
自らの発明に係る「カラマツ材を主成分とする大鋸屑又はチップ,もしく
,,はこれらを含む混合物を水の存在下で加熱し熱水可溶成分を除去した後
栄養成分を加えることを特徴とするハナビラタケ人工栽培用の菌床作成方
」,,法等の発明について特許出願しており同特許出願に係る公開公報には
「本発明者らは,従来の栽培法の欠点を改善して,比較的短期間で可能な
ハナビラタケの栽培法とそのための手段を開発することを課題としてき
た(段落【0003「ハナビラタケの菌糸が生育し,なおかつ発茸。」】),
に至るためには,針葉樹の成分が必要であるが,新鮮な針葉樹の中には成
長を阻害する成分も含まれているとの知見を得た。‥‥‥そこで,産業的
に栽培を行うためには,短期間で,成長阻害成分を除去する必要がある。
一般に液体や固体の水に対する溶解度は,温度の上昇によって,大きくな
る。したがって,天然の状態で,雨水によって成長阻害成分が溶出した状
況を,産業的な栽培で再現するために,カラマツの大鋸屑又はチップを熱
水で処理し,熱水で可溶成分を除去し,その後に栄養物質を添加した菌床
を用いてハナビラタケを栽培することにより,およそ2ケ月半で,収穫可
能なハナビラタケの子実体を得るに至った。この出願の発明は,以上の知
見を踏まえて,短期間でハナビラタケを栽培するための手段として,カラ
マツ材を成分とする大鋸屑又はチップもしくはこれらを含む混合物を水の
存在下で加熱し,熱水可溶成分を除去した後,栄養成分を加えることを特
徴とするハナビラタケ人工栽培用の菌床作成方法を提供する(段落【0。」
004】∼【0006)との記載があり「実施例2」として「温度1】,,
21℃,圧力2気圧の高温水蒸気のもとに,60分間さらした後に水洗」
する方法(段落【0010)が記載されていることが認められる。】
そして,本件明細書(甲2)には「発明の詳細な説明」欄に「更に,,,
ハナビラタケの従来の人工栽培法においては,その菌床作製の際に,培地
に用いるカラマツ大鋸屑を,予め熱水煮沸温度120∼121℃,圧力2
気圧の高温水蒸気に60分間さらした後,更に水洗することによる培地処
理が行われていた。これは,カラマツ大鋸屑に含まれる阻害物質がハナビ
ラタケの生育を阻害するため,この阻害物質の除去を行わなければハナビ
ラタケは順調に発育しないと言う理由に基づくものである。しかし,この
阻害物質の除去方法は操作が複雑であり,多額の費用がかかるため,菌床
作製上の障害となっていた(段落【0005「発明が解決しよう。」】),【
とする課題】本発明は上記事情に鑑みてなされたもので,その課題は,ハ
ナビラタケを確実に人工栽培することを可能にし,且つ従来の複雑かつ費
用のかかる培地処理を省略することが可能な,ハナビラタケの菌床作製方
法を提供することである(段落【0006「課題を解決するため。」】),【
の手段】上記課題は,大鋸屑を主成分とする培地に,ハナビラタケMH−
3(受託番号FERMP−17221)を接種することを特徴とするハ
ナビラタケの人工栽培用菌床の作製方法によって達成される(段落【0。」
007「本発明においては,前記カラマツ大鋸屑のハナビラタケ生育】),
阻害物質を除去しないで用いることができる(段落【0011「本。」】),
発明の第一の側面は,ハナビラタケMH−3を使用することにより,高温
水蒸気処理および水洗といった従来の複雑かつ費用のかかる培地処理を必
,。要とせずにハナビラタケの人工栽培菌床の作製を可能にしたことである
即ち,発明者はMH−3菌を使用することにより,上記の阻害物質除去操
作を必要とせずに,ハナビラタケを順調に生育せしめることに成功した。
これにより,極めて経済的かつ簡便にハナビラタケ菌床を作製することが
可能になった(段落【0015)との記載がある。。」】
上記によれば,本件発明1は,特開平11−56098号公報(乙3)
に係る発明である「培地に用いるカラマツ大鋸屑につき,あらかじめ熱,
水煮沸温度120∼121℃,圧力2気圧の高温水蒸気に60分間さらし
た後,更に水洗することにより,生育阻害物質を除去する」という菌床作
製方法の存在を前提とした上で,菌株としてハナビラタケMH−3を用い
ることにより,当該生育阻害物質除去のための作業を施さないカラマツ大
鋸屑を用いて菌床を作製するというものと認められる。
(ウ)しかしながら,被告2は,熊谷農業高校において,平成3年からハY
ナビラタケの人工栽培の試験を行い,平成6年から平成9年にかけては,
大鋸屑を使用した菌床栽培によるハナビラタケの茸の発生及び成長を調べ
る実験を行っていたものであるところ,平成6年度及び平成7年度には,
カラマツ,アカマツ,モミの大鋸屑を培地として用いた実験を行い,ハナ
ビラタケ栽培の培地に用いる大鋸屑としてカラマツがよいことを見いだし
たものである(甲3の24∼26頁,甲4,甲11,乙5の1,2,乙6
の2,乙19,乙20。そして,平成8年12月から平成9年6月にか)
けて行った「予備実験」及び平成9年に行った「実験2」では,加熱処理
をしない(大鋸屑を,あらかじめ120∼121℃,圧力2気圧程度の「
高温水蒸気にさらした後,水洗する処理を行わない」ことを意味するもの
であり,本件明細書の段落【0023】に記載されているような通常行わ
れる蒸気滅菌処理を行わないことまでも意味しない。以下,同じ)カラ。
マツの大鋸屑を主成分とする培地を用いたが「実験2」において,培地,
を詰めたプラスチック製栽培袋が滅菌処理中に破裂したものについては2
度滅菌したところ,2度滅菌したものの方が菌糸の成長が良好であること
を見いだした(甲3の42∼205頁,357∼378頁。そこで,平)
成9年に行った「実験3」では,熱水で煮たカラマツの大鋸屑(100℃
で60分間煮た後煮汁を捨てる作業を3度繰り返した大鋸屑)を用いた培
地と煮ない大鋸屑を用いた培地の双方を使用したところ,いずれも子実体
,,原基が形成されたがわずかに大鋸屑を煮た培地の方が菌糸の成長が良く
子実体が速くでることが確認された(甲3の400−1頁∼417頁。)
なお,上記各実験で用いられたハナビラタケ菌株は「予備実験」では菌,
,,,「」,株№3776№3777№3779実験2では菌株№3776
№3777,№583「実験3」では菌株№583である(甲3の29,
∼30頁,46頁,361∼362頁。)
他方,乙8(青島清雄ほか編「菌類研究法(共立出版株式会社,昭和」
58年6月1日初版1刷発行)316頁)の「C鋸屑による生産」の項.
には,ナメコ,ヒラタケ,エノキタケの栽培に用いる鋸屑と米ヌカの混合
培地について,通常の滅菌処理を施すことは記載されているが,加熱処理
のことに関しては何ら記載されておらず,スギのような樹脂成分が多い大
鋸屑に関しては6ヶ月以上野外で加水堆積した後に使用した方がよい旨記
載されているだけである。
また,甲4(被告2の陳述書)には,被告2の指導下でのミナヘYY
ルスにおける開発状況に関する記述として「オガクズを煮るという方法,
は,オガクズの前処理(大釜で煮る作業,大型脱水機,乾燥)の3段階の
工程を経るため手間とコストがかかるので,従来どおりのオガクズを煮な
い方法(通常,多くのキノコ栽培業者が行っている一般的な方法)で実施
することになりました」との記載がある。。
上記によれば,茸栽培のための大鋸屑を用いた培地については,従来,
いわゆる野積みをした木材を用いることや通常の滅菌処理を施すことは知
られていたが,加熱処理を施すことは知られていなかったものであり,被
告2は,熊谷農業高校において,このような従来技術を前提として,Y
ハナビラタケ栽培のための培地としてカラマツの大鋸屑が適していること
を見いだし「予備実験」及び「実験2」において,加熱処理をしないカ,
ラマツの大鋸屑を主成分とする培地を使用したものであるところ「実験,
2」において破裂した栽培袋に2度滅菌処理を施したものの方が成長が良
いとの知見を得たことから「実験3」においては,従来と同様の加熱処,
理をしない大鋸屑培地に加えて,新たに加熱処理を施した大鋸屑培地を使
用したものと認められる。
そうすると,被告2は,平成8年までに,ハナビラタケの栽培におY
いて,加熱処理をしないカラマツの大鋸屑を主成分とする培地を使用する
方法を確立していたというべきであり,平成9年の「実験2」及び「実験
3」における上記知見を契機として,特開平11−56098号公報(乙
3)に係る発明の特許出願に至ったものであり,同公報に記載された「従
来の栽培法(段落【0003)とは,このような加熱処理をしない培」】
地を使用する方法を指すものと理解することができる。
(エ)上記認定の事実関係によれば「予備実験「実験2」及び「実験3」,」
,,においては平成8年ないし9年当時における茸栽培の技術常識に従って
培地に加熱処理をしなかったものであるから,これらの実験の内容が記載
された熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)が本件出願前に開催された第
48回日本学校農業クラブ全国大会において公開されたことにより,本件
出願前に「オガクズを主成分とする培地に,該培地対して高温水蒸気処理
および水洗を行なうことなく,ハナビラタケを接種するハナビラタケ人工
栽培用菌床の作製方法」の発明が公知となっていたというべきである。し
たがって,審決の公知発明の認定に誤りはなく,審決に原告主張の相違点
を看過した違法はない。
(オ)原告は,大鋸屑に対して「高温水蒸気処理及び水洗」を行うことは「実
験2」における実験過程での失敗から得られた知見を基に「実験3」にお
いて実施された技術であるから「予備実験」及び「実験2」の段階では,
「加熱処理を行なわないオガクズ」を用いているとの意図,あるいは「加
」,,熱処理に替えて滅菌処理のみを大鋸屑に施すとの意図は全くなくまた
「実験3」においては「加熱しないオガクズ」を用いる例は,加熱した,
オガクズを用いたハナビラタケ人工栽培方法に劣る例として開示されてい
るものであって,進歩性否定の根拠となる公知発明認定のための公知事項
としての適性を有しないと主張する。
しかしながら「予備実験」及び「実験2」においては,その当時にお,
ける技術常識に従って培地に加熱処理をしなかったものであることは,前
記認定のとおりであり,また,公知の従来技術に対して,これを改良する
新技術が発明されたとしても,その後の発明との関係で当該従来技術が新
規性ないし進歩性判断のための公知例として使用できなくなるものではな
い。本件において,本件発明は,従来技術を改良した特開平11−560
98号公報(乙3)に係る発明の内容をなす,大鋸屑に対して「高温水蒸
気処理及び水洗」を行うという新技術を実施せず,単に従来技術と同様に
滅菌処理のみを大鋸屑に施すというものである。そうであれば,当該発明
前の従来技術との関係で,進歩性の有無を判断されるのは当然のこととい
うべきである。原告の主張は,採用することができない。
()取消事由1−2(相違点についての判断の誤り)について2
(ア)熊谷農業高校の保管に係るハナビラタケ菌株についての認定の誤りをい
う点について
()原告は,熊谷農業高校で保管されていた菌株3776(採取地十aNo.
文字峠,3777(同北海道,583(同十日町)がミナヘル))No.No.
スに分譲されたとの審決の認定(審決書11頁31行∼33行)につい
て,ミナヘルスが被告2から菌種4株を譲り受けたこと,それらのY
採取地が十日町,北海道,十文字峠,浅間であったことを認めながら,
菌株№583,№3776,№3777を譲り受けた事実はない旨主張
している。
()甲4(被告2の陳述書)には,平成10年1月に試験管2本とオbY
ガクズ種菌として,菌株№162,№583,№3372,№3777
をミナヘルスの従業員であるに渡した旨の記載があるところ,熊谷A
農業高校科学部活動記録中の熊谷農業高校において保有するハナビラタ
ケの保存菌株の「菌株」と「採取場所」との対比表(甲3の30−No
),,,1頁によればこれらの菌株の採取場所は菌株№162は十文字峠
菌株№583は十日町,菌株№3372は浅間,菌株№3777は北海
道であり,甲第5号証に記載されているミナヘルスが被告2から譲Y
り受けた菌株の採取場所(ミナヘルスが被告2からこれらの採取場Y
所の菌株を譲り受けたことは,争いがない)と一致する。また,ミナ。
へルスの従業員撮影に係るミナヘルスの栽培室におけるハナビラタケの
原木栽培の写真(乙24の1)及びこれを拡大した写真(乙24の2)
に写っているハナビラタケを接種した原木の袋には「ハナビラタケ58
3」なる表示が付されている。
そうすると,被告2からミナヘルスが譲り受けたハナビラタケ菌Y
株は,№162,№583,№3372,№3777の4種類であり,
審決が認定した菌株のうち,菌株№3776は誤りであるが,後記(イ)
において検討するとおり,この誤りは審決の結論に影響するものではな
い。
()また,原告は,審決が本件出願前に菌株583がミツワ興業に分cNo.
譲されたと認定したこと(審決書11頁34行∼35行)についても,
誤りであると主張するが,甲6(ミツワ興業作成の証明書)によれば,
平成12年6月16日に,ミツワ興業が被告2から菌株583をYNo.
Y譲り受けたことが認められる。原告は「№583」なる名称は被告,
2が付した識別名に過ぎないなどと主張して,審決の認定を争うが,上
記()において認定したとおり,ミナヘルスにおいて,被告2から譲bY
り受けた菌株583を当該名称をそのまま用いて特定・識別していNo.
ることに照らせば,被告2からミツワ興業への譲渡の際も「№58Y,
3」なる名称を付して譲渡されたと推定するのが相当であって,審決が
甲6により上記事実を認定したことに誤りがあるとはいえない。
(イ)本件発明の作用効果の誤認・看過をいう点について
()原告は,本件発明は菌株MH−3を用いることにより格別な作用効果a
を奏するものであるとして,特性1ないし3についての審決の判断の誤
りを主張する。
前記()において説示したとおり,本件発明1のうち「オガクズを主1
成分とする培地に,該培地対して高温水蒸気処理および水洗を行なうこ
となく,ハナビラタケを接種するハナビラタケ人工栽培用菌床の作製方
法」という点は,本件出願前に既に他の菌株のハナビラタケについて実
施されているものであり,そのことが公知となっているのであるから,
菌株として「ハナビラタケMH−3」を接種することにより,ハナビラ
タケの他の菌株を接種した場合と比較して当業者が予測できない顕著な
作用効果を奏するのでない限り,本件発明1は進歩性を有するものとは
認められないというべきである。
しかるに,本件明細書(甲2)をみるに,発明の詳細な説明欄におい
て「本発明の第一の側面は,ハナビラタケMH−3を使用することによ
り,高温水蒸気処理および水洗といった従来の複雑かつ費用のかかる培
地処理を必要とせずに,ハナビラタケの人工栽培菌床の作製を可能にし
たことである。即ち,発明者はMH−3菌を使用することにより,上記
の阻害物質除去操作を必要とせずに,ハナビラタケを順調に生育せしめ
ることに成功した。これにより,極めて経済的かつ簡便にハナビラタケ
菌床を作製することが可能になった(段落【0015)と記載しな。」】
がら,菌株MH−3を接種した場合と他の菌株を接種した場合との比較
に関する記載は全く見受けられない。
また,本件発明1に関しては,本件明細書の記載によれば,菌株MH
−3以外の菌株を用いた場合には,加熱処理をしない培地での人工栽培
が困難ないし不可能であることを前提として,菌株MH−3を用いるこ
とにより初めてこれを可能とした点に進歩性があることをいうものと解
される。すなわち,本件明細書(甲2)には,上記の段落【0015】
,,,「」,の記載があるほか生育期間収穫量については実施例2として
培地A(小麦を添加していないもの)を用いた場合と培地B(小麦を添
加したもの)とを比較した結果が記載され,培地Aを用いた場合と比べ
て培地Bを用いた場合の方が生育期間,収穫量,β−1,3−Dグルカ
ン重量とも優れているとの結果を得た旨が記載されているが(段落【0
025】∼【0032,他の菌株を用いた場合との比較については】)
一切記載されておらず,段落【0033】∼【0036】には「発明,
の効果」として「MH−3菌を使用し,培地に添加栄養剤に小麦粉を使
用することにより以下の効果を得た(1)菌床作製に使用するカラマ。
ツ大鋸屑は,従来ハナビラタケの発育阻害を防止する目的で,熱水煮沸
・高温水蒸気処理・水洗が従来行われていたが,本発明の方法によれば
従来のこれらの処理が必要なく,菌床作製に一工程が省けることにより
経済効果が極めて向上した(2)本発明のB処方すなわち従来の処方。
に5∼10%小麦粉を栄養剤として添加することでハナビラタケの発育
が促進されさらに目的とするβ−13−Dグルカンの量が従来法A,,(
処方)に比較して約1.3倍の増量が得られ,経済効果が格段に向上し
た(3)従来ハナビラタケはガラスビンを菌床の容器として使用しな。
ければ雑菌が混入しハナビラタケの栽培は不可能とされていたが,MH
−3菌の使用によってポリエチレン容器を使用でき,大型自動機械の使
用が可能な工業的大量栽培が可能となった」と記載されている。これ。
によれば,生育期間の短縮並びに収穫量及びβ−1,3−Dグルカン量
の増大の点は,小麦粉を含有する培地を使用することを発明の特定事項
に含む本件発明3,4の作用効果として記載されているものであって,
加熱処理をしない培地に菌株MH−3を接種することを特定事項とする
本件発明1の効果として記載されているものと解することはできない。
そうすると,既に認定したとおり,本件出願前に,菌株No.377
6,3777,3779,583のハナビラタケについて「高温高圧処
理及び水洗処理」あるいは「煮沸処理」等の生育阻害物質除去操作をす
ることのない培地に接種して生育させ収穫することができることが公知
となっていたのであるから,それらの生育阻害物質除去操作を必要とせ
ずに人工栽培菌床を作製でき,ハナビラタケを生育させることができる
ことは,菌株MH−3を使用することによる特有の効果といえないこと
は明らかであるし,また,本件明細書には,菌株MH−3を用いた場合
と,それら既に公知の他の菌株を用いた場合との比較について全く記載
されていないのであるから,本件発明が菌株MH−3を用いることによ
り他の菌株に比して格別な作用効果を奏する旨の原告の主張は,そもそ
も明細書の記載に基づかないものといわなければならない。
()その点はさておき,審決において比較例とされている菌株№583,b
№3776,№3777,№3779のハナビラタケとの関係で検討し
ても,以下のとおり,菌株MH−3がこれらの菌株と比較して当業者が
予測できない顕著な作用効果を奏すると認めるには足りない(なお,上
記(ア)において認定したとおり,ミナヘルス及びミツワ興業が被告2Y
から譲り受けた菌株のなかには,№3776,3779は含まれていな
,(),,いが熊谷農業高校科学部活動記録甲3によればこれらの菌株も
菌株№583,№3777と同様に,本件出願前に開催された第48回
日本学校農業クラブ全国大会において公開されたことによって,本件出
願前に公然と知られた菌株であり,本件発明1の進歩性判断のための公
知例として使用し得るものというべきである。。)
①原告は,審決が特性1(阻害物質除去操作を必要とせずに,ハナビ
ラタケを順調に生育せしめることができること)に関して,熊谷農業
高校科学部活動記録(甲3)における「予備実験」での平均収穫量と
,「」比較して菌株MH−3の収穫量が格別多いということもできない
と判断したことに対して,本件明細書に実施例として示されているの
は容量500mlのポリエチレン製容器において形成された1株当た
りの収穫量であり「予備実験」において示されているのは容量90,
0mlのガラス瓶において形成された1株当たりの収穫量であるか
ら,本件発明の菌株MH−3は「予備実験」の菌株3776及,No.
び3779に比較し,略半分量の培地から同量もしくはそれを超No.
える量のハナビラタケを収穫することができると主張する。
確かに,本件明細書の実施例においては,容量500mlのポリエ
チレン製容器が用いられている(甲2の段落【0023【002】,
5)のに対して「予備実験」においては容量900mlのガラス】,
瓶が用いられている(甲3の203頁,205頁。しかしながら,)
同一の菌株であっても培地の内容によって収穫量が異なることは,本
件明細書が培地Aと培地Bの比較として示すとおりであるところ,本
件明細書における実施例と「予備実験」とでは,培地の内容を含めた
実験条件が異なるから,両者を単純に比較して,菌株MH−3の方が
収穫量において優れていると判断することはできない。
すなわち,甲4(被告2の陳述書)に,被告2の指導下でのYY
ミナヘルスにおいて,平成10年3月ころから,簡易の栽培室をビニ
ールテントと加湿器を用いて作製し,温度については外側の部屋全体
を冷暖房し,光は蛍光灯でまかなうという方法での栽培を行ったが,
光,温度,湿度,二酸化酸素濃度の問題に加えて,雑菌汚染等の影響
もあって栽培環境が安定せず,ハナビラタケの栽培に失敗した旨が記
,,,載されていることからも明らかなようにハナビラタケの栽培は光
温度,湿度,二酸化炭素濃度,雑菌汚染等の栽培環境により影響を受
けるものであるところ,熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)によれ
ば「予備実験」を含め,熊谷農業高校におけるハナビラタケの栽培,
は,被告2の指導下とはいうものの,高校生が不十分な学校施設Y
を利用して自ら作製した栽培室において行ったものであり,温度,湿
度の安定的制御に欠け,カビが発生するなどの困難な状況の下におけ
るものであるが(甲3の423頁,426頁等,他方,本件明細書)
,(,の実施例は安定した環境下において実施されたものである例えば
本件明細書の段落【0024】には「滅菌した菌床を常温まで冷却,
したところで,MH−3菌(茸ハナビラタケ)の菌糸を無菌的に接種
した。接種後,20℃で1ヶ月のインキュベーションの後に原基が発
生した。容器の蓋を取り去り,温度20℃,湿度80%の暗室に1ヶ
月間放置したとの記載があるまた培地の内容についても予」。)。,,「
備実験」においては,カラマツの大鋸屑に「F培地「1/2F培」,
地「1/3F培地(F培地の成分は,ペプトン1.0g,エビオ」,」
ス(ビール酵母)3.0g,塩化カルシウム0.5g,ハイポネック
ス0.5ml,バナナ40.0g,ハチミツ30.0g,粉末寒天2
0.0g,水1000mlである)と小麦粉5%,10%,15%。
を組み合わせた培地が用いられた(甲3の31頁,64頁)のに対し
て,本件明細書の実施例においては,A培地(粉末バナナ6g,ビー
ル酵母45g,ペプトン1g,塩化カルシウム0.6g,粉末蜂蜜2
g,カラマツ大鋸屑1kg)及びB培地(A培地に塩化マグネシウム
0.5g,小麦100gを加えたもの)が用いられている(甲2の段
落【0026)ものであって,その内容が異なる。これらの点を考】
慮すれば「予備試験」の結果と本件明細書における実施例の結果と,
の間に差異があったとしても,そのことから直ちに菌株MH−3が格
別の作用効果を有すると判断することはできない。加えて「予備実,
No.No.験における菌株3776は13株中の2株が119g菌株」,
3779は9株中の1株が186.8g,1株が133gの収穫量で
あり(甲3の63頁,これらは,菌株MH−3の培地Bにおける平)
均収穫量と比較しても遜色がない。
また,原告は,審決が菌株MH−3の生育期間が菌株583とNo.
比べて格別早いとはいえないと判断したことに対して,熊谷農業高校
科学部活動記録には菌株583の収穫量が記載されていないことNo.
を挙げて非難する。確かに,熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)に
よれば,菌株583の収穫量については記載されていないが,菌No.
株MH−3が,生育期間の点で「実験3」における菌株583,No.
の加熱しない培地を用いた場合の生育期間に比べて格別早いとはいえ
ないことは審決の認定するとおりであって,菌株583の収穫量No.
についての記載がないからといって,菌株MH−3が菌株583No.
に比べて優れているということはできない。
②原告は,審決が特性2(ポリエチレン容器を使用できること)に関
して,熊谷農業高校科学部活動記録に菌株3777,583No.No.
につきプラスチックフィルム製の栽培袋を使用したことが記載されて
いることに照らし,ポリエチレン容器で培養できることは明らかであ
ると判断したことに対して,菌株MH−3を用いたことにより工業的
規模でのハナビラタケ大量栽培の実現が可能となったのであるから,
。,特性2は本件発明の格別な作用効果であると主張する原告の主張は
審決の一致点認定に関しての,熊谷農業高校科学部活動記録(甲3)
には加熱処理をしない培地を用いての栽培が開示されていないとの非
難を前提とするものと解されるが,既に上記()において判示したと1
おり,原告の非難は理由がない。したがって,原告の上記主張は,そ
の前提を欠くものであって,採用することができない。
③原告は,審決が特性3(β−1,3−Dグルカンを多量に含有する
こと)に関して,日本食品分析センターによるハナビラタケの分析結
果と比較して,菌株MH−3のβ−1,3−Dグルカン含有量(10
0g当たりの含有量)は格別多いとはいえないと判断したことに対し
て,菌株MH−3を用いることで菌株3776,3779とNo.No.
比較して,略半分量の培地から同量若しくはそれを超える量のハナビ
ラタケを収穫することができるから,同量の培地から得られるハナビ
ラタケに含有されるβ−1,3−Dグルカン量は2倍以上となると主
張する。しかしながら,上記①において説示したとおり,菌株MH−
3の収穫量が菌株3776,3779と比較して優れているNo.No.
とは直ちに認定できないから,原告の上記主張はその前提において採
用できないものであるが,そもそも,原告の主張は,収穫量とは別に
単位重量当たりのβ−1,3−Dグルカン量を比較するという審決の
検討内容をおよそ理解せず,収穫量とβ−1,3−Dグルカン量とを
区別せずに論ずるものであって,それ自体失当である。
()以上のとおり,菌株MH−3を用いることにより,他の菌株を接種しc
た場合と比較して当業者が予測できない顕著な作用効果を奏するもの
とはいえないから,菌株MH−3を用いることにより格別な作用効果
を奏することを前提として本件発明の進歩性をいう原告の主張は理由
がない。
()小括3
以上によれば,請求1について,原告が審決の取消事由として主張すると
ころは,いずれも理由がなく,本件における全証拠に照らしても,その他,
審決に事実誤認等の誤りはないものであって,本件発明が特許法29条2項
に違反して特許されたとの審決の判断は是認することができる。
したがって,原告の本訴請求中,特許庁が無効2004−80150号事
件についてした審決の取消しを求める請求は,理由がない。
2請求2について
()取消事由2−1(譲渡された菌株等についての認定の誤り)について1
(ア)原告は,ハナビラタケの菌株につき,ミナヘルスは被告2から採取Y
地が十日町である菌株は譲り受けたが菌株583は譲り受けていないNo.
として,審決の事実認定の誤りを主張し,また,日本食品分析センターの
分析試験成績書における検体が菌株583であるとした審決の認定もNo.
誤りであると主張する。
しかしながら,ミナヘルスが被告2から分譲を受けた菌株のうち,Y
採取地を十日町とする菌株が菌株583であることは既に前記1()No.2,
において認定したとおりである。
Yまた,日本食品分析センターの分析試験成績書における検体が被告
2の菌株583であることは,次のとおり,明らかなところである。No.
すなわち,①ミナヘルスは,平成10年3月17日に日本食品分析センタ
ーにハナビラタケの検体を提出したものであるところ(甲5,ミナヘル)
CYス代表取締役会長であったは,同月初旬に,成分分析のため,被告
2から菌株583のハナビラタケ原体の凍結乾燥体を入手したことNo.
(乙41の23頁∼24頁,②前記1()(ア)において認定したとおり,)2
,,,ミナヘルスは平成10年1月にハナビラタケの菌株№162№583
№3372,№3777を被告2から譲り受けていたが,これらの菌Y
株を栽培してハナビラタケを得るまでには最低4ヶ月の月日を要するから
(乙41の22頁∼23頁,これらの菌株を栽培したものが当該検体で)
あったことはあり得ないこと(甲5の2枚目∼4枚目のから被告2CY
宛ての平成10年6月30日付け書簡の記載によっても,ミナヘルスにお
いては,同月に至ってようやくハナビラタケの子実体を得たことが認めら
れる。なお,乙41の24頁∼25頁参照,③野生のハナビラタケを山)
で採取するとしても,本件明細書(甲2の段落【0002)にも記載さ】
れているとおり,ハナビラタケはカラマツに生える非常に稀少な茸で,幻
の茸とも称されている珍種であり,発見採取すること自体難しいものであ
るし,成育したハナビラタケを採取できる期間は夏から秋にかけての短期
間に限られており(甲5の35枚目。また,甲3の30−1頁によれば,
熊谷農業高校で栽培されているハナビラタケは,京都で10月26日に採
取された菌株№1068を除き,いずれも7,8月に採取されたものであ
る,ミナヘルスがハナビラタケの人工栽培事業に取り組み始めた平成。)
10年1月から日本食品分析センターに検体を提出して分析依頼した平成
10年3月17日までの間にハナビラタケを採取することは時期的に不可
能であること,④本件証拠上,ミナへルスが,日本食品分析センターに提
出した検体であるハナビラタケを自ら採取し,あるいは被告2以外のY
第三者から入手したことをうかがわせるような事情は全く認められないこ
と(なお,本件訴訟において,原告は,ハナビラタケを被告2以外のY
者から譲り受けたか,あるいは自ら採取した等の具体的な主張はしていな
い)からすると,ミナヘルスが日本食品分析センターに分析試験の検体。
として提出したハナビラタケは,が平成10年3月初旬に被告2かCY
ら入手した菌株583のハナビラタケ原体の凍結乾燥体であったと認No.
めるのが相当である。
原告は,被告2の供述のみをもって日本食品分析センターの分析試Y
験の検体が被告2の菌株№583であると審決が認定したことは,適Y
切ではない旨主張しているが,上記のとおり,被告2の供述内容は他Y
の証拠から認められる当時の周辺事実と符合するものであって,十分な信
用性を有しており,原告の主張は,失当である。
(イ)原告は,被告2が被告ユニチカのに菌株583を譲渡したとYBNo.
の審決の認定を誤りであると主張し,それを前提として,被告ユニチカの
保有に係る菌株583と原告の菌株MH−3との間でのRAPD解析No.
試験及び対峙培養の結果についての審決の認定も事実誤認であると主張す
る。
YBNo.しかしながら甲8確認証には被告2及びの連名で菌株,(),
583を被告2がに分譲したことが明確に記載されている。また,YB
乙38(作成の陳述書)には,被告2から平成14年7月25日にBY
菌株583を譲り受けたこと及び譲り受けた菌株583を被告ユNo.No.
ニチカにおいて植継を行い,培養した状況が記載されているほか,担当の
研究員が当時記載していた実験ノートの写し(583」の記載が認めら「
れる)及び被告ユニチカにおける培養状況を撮影した写真(583」。「
の記載が認められるが添付されているそして乙38及び乙39被。)。,(
告ユニチカの中央研究所所属研究員である作成の陳述書)には,被告D
ユニチカにおいて培養した菌株583をRAPD解析試験及び対峙培No.
養の検体として提出した際の状況が,詳細かつ具体的に記載されている。
乙38,39の内容は詳細であり,その内容は十分な信用性があるもので
ある。被告2が被告ユニチカのに菌株583を譲渡したこと及YBNo.
び被告ユニチカの培養に係る菌株583が原告の菌株MH−3との間No.
でのRAPD解析試験及び対峙培養の検体として用いられたことは,上記
各証拠により優に認められるところであり,原告の主張は失当である。
()取消事由2−2(本件発明の発明者の判断の誤り)について2
(ア)原告は「予備実験」及び「実験2」の段階では,被告2が「加熱処,Y
理を行なわないオガクズ」を用いているとの意図は全くなかったとして,
「予備実験」及び「実験2」において「加熱処理を行なわないカラマツの
オガクズを主成分」とする培地を用いているとした審決の事実認定は誤り
であると主張する。
しかしながら,茸栽培のための大鋸屑を用いた培地については,従来,
いわゆる野積みをした木材を用いることや通常の滅菌処理を施すことは知
Yられていたが,加熱処理を施すことは知られていなかったこと,被告
2は,熊谷農業高校において,このような従来技術を前提として,平成3
年からハナビラタケの人工栽培の試験を行い,平成6年から大鋸屑を使用
した菌床栽培によるハナビラタケの茸の発生及び成長を調べる実験を行っ
ていたものであるところ,平成6年度及び平成7年度に行った実験を通じ
てハナビラタケ栽培のための培地としてカラマツの大鋸屑が適しているこ
とを見いだし,平成8年までに,ハナビラタケの栽培において,加熱処理
をしないカラマツの大鋸屑を主成分とする培地を使用する方法を確立して
いたこと,被告2は,これを前提として「予備実験」及び「実験2」Y,
において,加熱処理をしないカラマツの大鋸屑を主成分とする培地を使用
したものであることは,前記1()(ウ)において認定したとおりである。1
したがって,被告2は,加熱処理を行わない大鋸屑に栄養成分を添Y
加した培地を使用してハナビラタケ菌株を接種し,培養することによりハ
ナビラタケ子実体を形成させる人工栽培方法を開発したものというべきで
ある。原告の主張は,採用できない。
(イ)また,原告は「実験3」において「熱水で煮ないオガクズ」を用いた,
ハナビラタケの菌床栽培は,熱水で煮たオガクズの作用効果を確認すべく
比較実験として行われたものであるから,審決がこれを被告2が開発Y
した技術として認定したことは誤りである旨を主張する。
しかしながら「熱水で煮ないオガクズ」を用いたハナビラタケの菌床,
栽培に対する改良技術として特開平11−56098号公報(乙3)記載
の発明がされたからといって「熱水で煮ないオガクズ」を用いたハナビ,
ラタケの菌床栽培が発明として完成していなかったことにはならない。
上記(ア)記載のとおり,被告2は,平成6年度及び平成7年度に行っY
た実験を通じてハナビラタケ栽培のための培地としてカラマツの大鋸屑が
適していることを見いだし,平成8年までに,ハナビラタケの栽培におい
て,加熱処理をしないカラマツの大鋸屑を主成分とする培地を使用する方
法を確立していたものである。
原告の主張は,被告2によるハナビラタケ栽培方法の開発過程を無Y
視するものであって失当である。
(ウ)原告は,被告2がミナヘルス従業員に対して行った栽培方法の指導Y
内容はあらかじめ高温水蒸気処理及び水洗を行うことを要旨とするもの
で,本件発明の要旨ではないとし,工業的規模でのハナビラタケ人工栽培
を実現するため,オガクズの加熱処理(煮沸・乾燥)を行うことなくハナ
ビラタケを大量に人工栽培するという本件発明の着想及びその具現化にお
いて,被告2の指導は関与していないから,審決の判断には誤りがあY
ると主張する。
しかしながら,甲4(被告2の陳述書)及び乙41(審判手続におY
ける被告2の供述の録音の反訳書)には,ミナヘルス従業員に対するY
指導内容につき「オガクズを煮るという方法はオガクズの前処理(大釜,
で煮る作業,大型脱水機,乾燥)の3段階の工程を経るため手間とコスト
がかかるので,従来どおりのオガクズを煮ない方法(通常のキノコ栽培者
が行なっている一般的な方法)で実施することなった」旨が記載されてい
る(甲4の4頁,乙41の26∼27頁。)
,「」()そして熊谷農業高校のきのこ研究班活動日誌乙36の1∼15
には,平成9年12月17日の記載部分(乙36の4)に,出席者欄にミ
ナヘルス従業員のの名が出席した旨が記載され,末尾の「先生から」A
欄に「本日さんが研修に見えた。生徒と培地作りを行なったりしていA
ただいた。‥‥‥」と記述され「活動内容・観察記録」欄に「培地作り,
の方法」として「1.オガクズに水を入れる(この時900ccの方,。
はぬかも混ぜる)‥‥‥手でにぎって水がにじむぐらいにする。2.重。
,。.,さ18l→17㎏900cc→1㎏にする3鉄で穴をあけたあと..
木で穴をあける。‥‥‥まがらずにまっすぐあける。4.びんの外側を,
水で洗う。‥‥‥水がびんの中に入らないようにする。5.フィルター付
きのフタをして滅菌。121℃70分」と記載され,平成10年1月2
1日及び2月3日の記載部分(乙36の6,10)にはいずれも絵入りで
培地作りが記述されており,オガクズをあらかじめ煮ない方法でが栽A
培方法の教示を受けていたことが示されている。
また,ミナヘルス作成に係る平成10年7月8日付け新技術コンセプト
・モデル化課題申込書の8枚目(甲5の13枚目)には,ミナへルスが平
成9年12月より設置推進した研究設備によって「埼玉県立熊谷農業高,
(,,等学校2氏より株式会社ミナへルスが4株生産地:十日町北海道Y
十文字峠,浅間)を受け,同2氏の開発した『培地』をカラマツのオY
ガコに混合し,ガラスビン又はポリビン850に充填し,同充填されml
た容器を100℃3時間滅菌後自然冷却し,この容器(ガラスビン,ポ
リビン)に上記4株を,それぞれに接種し,20−25℃の部屋に放置培
。.,(),養する接種後約2∼25ヶ月目に菌糸より子実体カサが発生し
加湿室に移し,温度20∼25℃,湿度80∼90%の部屋に放置し,生
育を推進している。2氏の指導により㈱ミナヘルスで実験室的栽培が出Y
来る見込みがついた」と記載されており,被告2のミナヘルスの従業。Y
員に対する指導内容が,加熱処理をしない大鋸屑を用いた培地を使用して
ハナビラタケ菌株を接種し,培養する栽培方法であったことが示されてい
る。
上記によれば,被告2がミナヘルス従業員に対して行った栽培方法Y
の指導内容が,大鋸屑にあらかじめ高温水蒸気処理及び水洗を施さずに培
地として用いる方法であったことは,明らかである。原告の主張は採用で
きない。
()小括3
以上によれば,請求2について,原告が審決の取消事由として主張すると
ころは,いずれも理由がなく,本件における全証拠に照らしても,その他,
審決に事実誤認等の誤りはないものであって,被告2が単独の発明者かY
共同発明者の一人かは措くとしても本件発明の発明者であるから本件発明が
特許法38条に違反して特許されたとの審決の判断は是認することができ
る。
したがって,本訴請求中,特許庁が無効2004−80189号事件につ
いてした審決の取消しを求める請求も,理由がない。
3結論
よって,原告の本訴請求は棄却することとし,訴訟費用の負担について行政
事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官佐藤久夫
裁判官三村量一
裁判官古閑裕二

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