弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
     前項の部分につき、被上告人らの控訴を棄却する。
     控訴費用および上告費用は被上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人山口定男の上告理由第一点について。
 原審は、訴外Dが昭和二四年一一月六日死亡し、訴外Eが同人の妻として、訴外
F、第一審被告G、同Hおよび上告人がDの子として、第一審被告I、同JがDの
子訴外K(昭和二〇年五月八日死亡)の子としてKを代襲してそれぞれDの遺産を
相続したこと、第一審判決別紙目録(一)および(二)記載の物件(ただし、同目録(
二)記載の物件は同目録(一)9記載の物件を含む。以下右(一)および(二)の物件を
一括して本件不動産という。)はDの遺産に属すること、したがつて、本件不動産
につき、Eは三分の一の、上告人は一五分の二の共有持分をそれぞれ取得したこと、
ところがEは、右共有持分を昭和二八年一〇月一六日Fに贈与したが(以下、本件
贈与という。)登記未了のまま昭和三三年三月一九日上告人に遺贈し(以下、本件
遺贈という。)、遺言執行者にLを指定する旨の遺言公正証書を作成し、昭和三四
年三月一二日死亡するに至つたこと、他方、Fはこれより先昭和三一年三月二七日
に死亡し、被上告人BがFの妻として、その余の被上告人らが同人の子として同人
の権利義務をその法定相続分に応じて承継したこと、そして、上告人が、本件不動
産につき、昭和三五年三月一五日福岡法務局同日受付第六七二五号をもつてDの死
亡による相続を原因として共同相続登記をなすとともに、同法務局同日受付第六七
二六号をもつて昭和三四年三月一二日付遺贈を原因としてEの前記三分の一の共有
持分の取得登記手続を経由したこと、以上の事実を適法に確定したものである。
 所論は、要するに、本件贈与と遺贈とは不動産の二重譲渡と同様、その優劣は対
抗要件たる登記の有無によつて決すべきであり、これと異なつた見解に立つ原判決
は法令の解釈、適用を誤つたというものである。
 思うに、被相続人が、生前、その所有にかかる不動産を推定相続人の一人に贈与
したが、その登記未了の間に、他の推定相続人に右不動産の特定遺贈をし、その後
相続の開始があつた場合、右贈与および遺贈による物権変動の優劣は、対抗要件た
る登記の具備の有無をもつて決すると解するのが相当であり、この場合、受贈者お
よび受遺者が、相続人として、被相続人の権利義務を包括的に承継し、受贈者が遺
贈の履行義務を、受遺者が贈与契約上の履行義務を承継することがあつても、この
ことは右の理を左右するに足りない。
 ところが、原判決は、右の場合、受贈者および受遺者は、もはや、他方の所有権
取得を否定し、自己の所有権取得を主張する権利を失つたものと解すべきであると
して、本件遺贈の効力を否定したが、右は法令の解釈、適用を誤つた違法なもので
あつて、この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
 そして、前記事実関係のもとにおいては、被上告人らは、本件贈与をもつて上告
人に対抗することができず、また、原判決が適法に確定した事実関係に徴すれば、
上告人が本件贈与の登記の欠缺を主張するのは権利の濫用である旨の被上告人らの
主張が理由のないことは明らかである。それゆえ、上告人は、結局、本件不動産に
つき一五分の七の共有持分を取得するに至つたものというべきである。
 したがつて、第一審判決別紙目録(一)記載の物件につき上告人が一五分の七の共
有持分を有することを確認する旨の上告人の本訴請求は、正当として認容すべきで
あり、また、被上告人らの反訴請求は、失当として棄却すべきであつて、これと同
趣旨の第一審判決は正当であるから、原判決中上告人の敗訴部分を破棄し、右部分
についての被上告人らの控訴を棄却すべきである。
 同第二点について。
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして肯認する
ことができる。右認定の過程に所論の違法は認められない。論旨は、ひつきよう、
原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するものであつて、採用する
ことができない。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    天   野   武   一

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