弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人大塚喜一郎の上告趣意第一点について。
 所論は単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 刑訴三九条によれば身体の拘束を受けている被疑者は一般的に弁護人又は弁護人
を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者と立会人なくして
接見し又は書類若しくは物の授受をする権利を有するのであつて、検察官、検察事
務官又は司法警察職員は例外として捜査のため必要があるときは起訴前に限り右接
見、授受の日時、場所及び時間を指定することができるに過ぎず、弁護人との右接
見、授受を許可若しくは禁止する権能を有するものでなく、そして右指定は被疑者
が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならないのであり、
このことは憲法三四条の趣旨にも合致するのである。されば右指定が適切を欠き被
疑者の防禦準備権を不当に制限するような場合にはその指定は違法となるのみなら
ず、時には、他の事情と相俟つて、被疑者の供述が任意性を欠く素因となり或はそ
の供述の任意性若しくは特別信用性を疑わしめる事情となることなしとしない。け
れども、かような違法の指定は、そのことだけで必ず常に、その後になされた被拘
束被疑者の検察官、検察事務官又は司法警察員に対する供述の任意性を失わしめ或
は任意性若しくは特別信用性を疑わしめる事情となるものと断言することはできな
いのであつて、その任意性若しくは特別信用性の有無は、その供述をした当時の情
況(もとより供述当時の被疑者の内心の情況を含む)に照らしてこれを判断すべき
ものである(昭和二五年(あ)第一六五七号同二八年七月一〇日第二小法廷判決、
集七巻七号一四七四頁参照)。
 本件において、原判決はその認めた事実を判示するに当り「接見について検察庁
の命にて不許可になつた」との文言を用い恰かも検察官に前記接見を許可若しくは
禁止する権能があるかの如き誤解を生じさせる用語上の瑕疵があるけれども、右判
示にいわゆる「検察庁の不許可の命」なるものは要するに刑訴三九条所定の指定に
当らない、法の根拠なき不許可の意思表示を指すものと解せられるから、原判決が
これを違法であると判示した法律判断は正当であり、又、同判示昭和三〇年三月一
五目附指定書による遡及指定部分は無効であると判示した法律判断も正当である。
そして原判決は判示不当措置が採られたことから直に判示被疑者Aの供述に任意性
がないとは断定し得ないところであるとした上、挙示の証拠その他記録によつて、
右検察官に対する供述の方を信用すべき特別の情況の存することを認め得るとし、
検察官等の同人に対して採つた接見に関する不当措置と検察官に対して同人のなし
た供述との間に因果関係は認められないとし(すなわち右指定は不当であつたが、
それにも拘わらず右供述は任意に出でこれを信用すべき特別情況があつたとの趣旨
で)、第一審の審判を是認しているものであること判文上明瞭であるから、原判決
の判断は結局相当であつて何ら所論の違法あるものというを得ない。
 同第二点について。
 所論は単なる量刑不当の主張に過ぎず刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三一年一〇月二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三

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