弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人廬原常一の上告趣意第一点について。
 記録によれば、公判請求書の公訴事実、第一審の判示事実のいずれも、原判示事
実とおなじく、被告人等は、その業務上保管にかかる島根縣食糧営団所有の米穀類
を横領したというのであつて、所論のように、刑法一五六条同二四六条を適用すべ
き事実ではない。そして原判示事実の認定は原判決挙示の証拠によつてこれを肯認
するに足りその間反経験則等の違法はない。従つて原判決が所論刑法の各規定を適
用しないのは当然である。されば論旨は、原判示にそわない事実を前提として原判
決の擬律を非難するに帰するのみならず、原判決適条の他に刑法一五六条同二四六
条を適用すべきものとする論旨は被告人に不利益な主張であつて、いずれの点より
するも論旨は上告適法の理由とならぬ。
 同第二点について。
 しかし、憲法三二条の規定はすべて何人も憲法又は法律に定められた裁判所にお
いてのみ裁判を受ける権利を有し、裁判所以外の機関によつて裁判されることのな
いことを保障したものと解すべきことは当裁判所の判例とするところであるから、
事実審たる原裁判所がその裁量権の範囲内において被告人に刑の執行猶予を言渡さ
なかつたからといつて、原判決を目して右憲法の規定に反するものとなす論旨はと
るをえない。又憲法三七条一項の公平な裁判所の裁判を受ける権利とは偏頗や不公
平の虞のない組織と構成をもつた裁判所の裁判を受ける権利と解すべきことは当裁
判所の判例とするところであるから、本件のように被告人に刑の執行猶予を言渡さ
なかつた原判決が、被告人から見て不公平の裁判と思われるからといつて、右憲法
の規定に違反するものとはいえない。論旨は結局事実審たる原裁判所の裁量に属す
る量刑の不当を主張するに帰し上告適法の理由とならぬ。
 被告人B弁護人大脇英夫の上告趣意第一点について。
 刑の執行猶予を言渡すか否かは事実審たる原裁判所が各被告人について諸般の事
情を考慮して決するところに委されていることがらであるから、たとい、被告人に
は所論のような事情があるとしても、それにもかかわらず、原審が刑の執行猶予を
共犯者たるC、同Dに対してはそれぞれ言渡したのに、被告人に対しては言渡さな
かつたからといつて、原判決を違法ということはできない。されば論旨は上告適法
の理由とならぬ。
 同第二点について。
 被告人等を横領罪に処断した原判決の事実認定と擬律とに違法のかどのいささか
もないことは、被告人A弁護人廬原常一の上告趣意第一点について説明したところ
によつて明らかである。されば被告人を横領罪に問擬した原判決には事実誤認の違
法があるとの論旨は原審の裁量に属する事実認定を非難するに帰し上告適法の理由
とならぬ。
 よつて旧刑訴四四六条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
 検察官 三堀博関与
  昭和二六年三月一五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    眞   野       毅
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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