弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士内藤庸男の上告理由第一点について。
 しかし、所論原判決の公益上の理由ある場合には瑕疵ある行政処分を当該処分庁
自らも亦取り消しうるものと解すべきである旨の判示には、本件のごとき買収およ
び売渡処分が出訴期間内に行政上の不服申立をしないことにより確定するに至つた
場合においても、また、所論県知事の再議に付するという処分を俟たないでも自発
的に取り消しうること勿論である趣旨をも包含するものと解しうるから、所論の違
法は認められない。また、所論取り消し得ないとの主張又は無効である旨の主張は、
右のごとき理由で採用に価しないものであるから、仮りにその点につき判断遺脱が
あつたとしても、原判決に影響を及ぼさないこと明らかてある。されば、所論は採
るを得ない。
 同第二点について。
 しかし、原判決は、所論通知書は取消の通知ではなく、承認の通知すなわち行政
処分でない行政庁相互間の対内的行為の通知に止るものであり、従つて、訴を以て
その効力を争うことを許されず、これに対する訴も不適法として却下さるべきであ
る旨をも判示したものと解される。されば、原判決には所論の違法は認められない。
 同第三点について。
 しかし、所論通知書の趣旨についての解釈は法律上の解釈であるから、当事者の
主張に拘束されるものではない。されば、所論(1)は、採るを得ない。
次に、所論(2)前段につき考えて見るに、原判決は、結局採草地の面積を約九町
歩としているのであるから、所論前段の不法は認められない。
 更に、同後段につき考えて見るに、被告県委員会指定代理人は、法規に根拠を有
しない行政処分の存続は却つて社会の法秩序を破壊するものであり、自創法による
買収、売渡処分は公共の福祉の優位を認めたものである等の主張をもしているので
あるから、原審が所論のごとく認定しても所論のごとき訴訟手続の原則に違背する
ものとはいえない。
 同第四点について。
 しかし、原審の判示するところによれば、買収、売渡計画当時において本件土地
三五町歩のうち約九町歩は採草地であつたが、その他の部分は林地と認むべき状況
にあつたにかかわらず、その全部が採草地に当るとの誤認の下に買収処分がなされ、
上告人らを含む十数名の者に分割して売渡されたというのである。右事情の下にお
いては、売渡を受けた者の利益を犠牲に供してもなお処分の違法を是正する必要が
あり、しかも買受人相互の公平を期する上から一旦売渡処分の全部を取り消す必要
のあることは明らかであるから、本件買収売渡処分の全部の取消を適法とする原審
の判断は是認さるべきものであり、所論は採用の限りでない。
 同第五点について。
 しかし、行政処分が異議、訴願、行政訴訟等の提起なく確定しても、処分庁の取
消権が失われると解すべきではない。行政処分を放置することによる公益上の不利
益が、処分の取消により関係人に及ぼす不利益に比してはるかに重大であるような
場合には、たとえ、その行政処分が争訟の提起期間の徒過等により確定しても、処
分庁においてこれを取り消し得るものと解するを相当とする(昭和三一年三月二日
第二小法廷判決、民事判例集一〇巻三号一四七頁以下参照)。それ故、所論は採る
ことができない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    高   木   常   七

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