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平成26年1月30日判決言渡
平成25年(行ケ)第10111号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成25年12月16日
判決
原告ザプロクターアンドギャンブル
カンパニー
訴訟代理人弁護士吉武賢次
同宮嶋学
同大野浩之
同髙田泰彦
同柏延之
訴訟代理人弁理士勝沼宏仁
同永井浩之
同磯貝克臣
被告特許庁長官
指定代理人野村亨
同菅澤洋二
同氏原康宏
同堀内仁子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2011-19804号事件について平成24年12月10日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「改善された衣類のような特徴を有する吸収性物品」とす
る発明につき,平成18年9月28日に国際出願し(パリ条約による優先権主張
平成17年9月29日,アメリカ合衆国。以下「本願」といい,本願に係る明細書
及び図面を併せて「本願明細書」という。)(甲1),平成23年5月9日付けで
拒絶査定がされた(甲6)。これに対し,原告は,同年9月13日,拒絶査定不服
審判(不服2011-19804号事件)を請求し(甲7),平成24年9月25
日,手続補正を行ったが(甲2),特許庁は,同年12月10日,請求不成立の審
決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
平成24年9月25日付け手続補正後の特許請求の範囲の請求項1は,次のとお
りである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)(甲2)。
「【請求項1】シャーシに耳部が個別の構成要素として付着される複数片構成の
使い捨て吸収性物品(multipiecediaper)において,
a)前側腰部縁部を備える前側腰部区域(36),後側腰部縁部を備える後側腰
部区域(38),前記前側腰部区域と後側腰部区域との間の股部区域,及び1対の
対向する長手方向縁部(12)を有し,
i)液体透過性トップシート(24)と,
ii)バックシート(26)と,
iii)前記トップシート(24)と前記バックシート(26)との間に配置さ
れる吸収性コア(28)とを含む,シャーシ(20)と,
b)上側面方向縁部(43c),近位縁(43a),末端縁(43b)を有し,
少なくとも一部分が前記後側腰部区域(38)におけるシャーシ(22)の長手方
向縁部(12)から側面方向に外に向かって伸長し,個別要素として形成され,シ
ャーシ(22)の後側腰部区域と結合される後耳部(42)と,
c)締着装置(50)であって,
i)前記耳部(42)の末端縁(43b)近傍に配置される嵌合部材(52)と,
ii)前記シャーシ(20)の前記前側腰部区域(36)に配置される受入部材
(54)と,を含む締着装置(50)と,
を有し,前記耳部(42)は,前記嵌合部材(52)が前記受入部材(54)と嵌
合する時に,前側腰部区域(36)と後側腰部区域(38)を相互に接続し,
前記前側腰部区域(36)と後側腰部区域(38)が計量試験方法及び計量測定
手順に従って相互に接続したときに,前記耳部(42)は次のように前側縁部変位
(A)と後側縁部変位(C)と耳部全体幅(B)と耳部中点幅(X)とを有し,
1.前記前側縁部変位(A)及び前記後側縁部変位(C)の合計は12mm以下
であり,
2.前記前側縁部変位(A)及び前記後側縁部変位(C)の合計は前記耳部全体
幅(B)に対して比率が0.30以下であり,
3.前記前側縁部変位(A)及び前記後側縁部変位(C)の合計は前記耳部中点
幅(X)に対して比率が0.30以下であり,
前側縁部変位(A)と後側縁部変位(C)と耳部全体幅(B)と耳部中点幅(X)
は計量試験方法及び計量測定手順によって定められる,複数片構成の使い捨て吸収
性物品(20)。」
3審決の理由
(1)審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,その要旨は,以下
のとおりである。すなわち,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物であ
る特表平10-506030号公報(甲13。以下「刊行物1」という。)に記載
された発明(以下「引用発明」という。),特表平11-502427号公報(甲
14。以下「刊行物2」という。),特開2003-153955号公報(甲15。
以下「刊行物4」という。),国際公開第2005/77313号(甲16。以下
「刊行物6」という。)及び特表2000-504975号公報(甲17。以下
「刊行物7」という。)に記載された事項並びに周知の事項に基づいて,当業者が
容易に発明することができたものであるというものである。
(2)審決が上記判断に到る過程で認定した引用発明の内容,本願発明と引用発
明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
ア引用発明の内容
「シャーシにイヤフラップ54,54が結合される使い捨ておむつ20において,
a)端縁32を備える前方ウエスト領域22,端縁32を備える後方ウエスト領
域24,前記前方ウエスト領域22と後方ウエスト領域24との間のクロッチ領域
26,及び1対の対向する縁部30を有し,
i)液体透過性トップシート38と,
ii)液体不透過性バックシート42と,
iii)前記液体透過性トップシート38と前記液体不透過性バックシート42
との間に配置される吸収コア44とを含む,シャーシと,
b)上側面方向縁部,近位縁51,遠位縁53を有し,後方ウエスト領域24に
おけるシャーシの縁部30から側面方向に外に向かって伸長し,シャーシの後方ウ
エスト領域24と結合されるイヤフラップ54,54と,
c)i)前記イヤフラップ54,54の遠位縁53,53に隣接して配置される
固定部材56,56と,
ii)前記シャーシの前記前方ウエスト領域22に配置される被固定部材とを有
し,前記イヤフラップ54,54は,前記固定部材56,56が前記被固定部材と
結合する時に,前方ウエスト領域22と後方ウエスト領域24を相互に接続する,
使い捨ておむつ20。」
イ一致点
「シャーシに耳部が個別の構成要素として付着される複数片構成の使い捨て吸収
性物品において,
a)前側腰部縁部を備える前側腰部区域,後側腰部縁部を備える後側腰部区域,
前側腰部区域と後側腰部区域との間の股部区域,及び1対の対向する長手方向縁部
を有し,
i)液体透過性トップシートと,
ii)バックシートと,
iii)前記トップシートと前記バックシートとの間に配置される吸収性コアと
を含む,シャーシと,
b)上側面方向縁部,近位縁,末端縁を有し,後側腰部区域におけるシャーシの
長手方向縁部から側面方向に外に向かって伸長し,個別要素として形成され,シャ
ーシの後側腰部区域と結合される後耳部と,
c)締着装置であって,
i)前記耳部の末端縁近傍に配置される固定部材と,
ii)前記シャーシの前記前側腰部区域に配置される被固定部材と,を含む締着
装置と,
を有し,前記耳部は,前記固定部材が前記被固定部材と結合する時に,前側腰部区
域と後側腰部区域を相互に接続する,複数片構成の使い捨て吸収性物品。」である
点。
ウ相違点
(ア)相違点1
締着装置に関して,本願発明では,耳部の末端縁近傍に配置されるのが「嵌合部
材」であり,シャーシの前側腰部区域に配置されるのが「受入部材」であって,耳
部は「嵌合部材が受入部材と嵌合する」時に,前側腰部区域と後側腰部区域とが相
互に接続されるものであるのに対して,引用発明では,締着装置は固定部材56,
56と被固定部材であって,嵌合により締着するものであるのかどうか,不明な点。
(イ)相違点2
耳部の前側腰部区域,後側腰部区域に対する位置に関して,本願発明では,「前
側腰部区域と後側腰部区域が計量試験方法及び計量測定手順に従って相互に接続し
たときに,耳部は次のように前側縁部変位(A)と後側縁部変位(C)と耳部全体幅
(B)と耳部中点幅(X)とを有し,
1.前記前側縁部変位(A)及び前記後側縁部変位(C)の合計は12mm以下であ
り,
2.前記前側縁部変位(A)及び前記後側縁部変位(C)の合計は前記耳部全体幅
(B)に対して比率が0.30以下であり,
3.前記前側縁部変位(A)及び前記後側縁部変位(C)の合計は前記耳部中点幅
(X)に対して比率が0.30以下であり,
前側縁部変位(A)と後側縁部変位(C)と耳部全体幅(B)と耳部中点幅(X)は計量試
験方法及び計量測定手順によって定められる」ものであると特定しているのに対し
て,引用発明では,前方ウエスト領域22と後方ウエスト領域24が相互接続した
時,イヤフラップ54,54の前方ウエスト領域22,後方ウエスト領域24に対
する位置関係について不明な点。
第3取消事由に関する当事者の主張
1原告の主張
審決には,刊行物4,6及び7に記載された事項の認定の誤り(取消事由1),
相違点2の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)があり,取り消されるべきであ
る。
(1)刊行物4,6及び7に記載された事項の認定の誤り(取消事由1)
審決は,刊行物4,6及び7に記載された図面を基に,おむつ本体の上端と本体
の両側に存在する接続用の部分(以下「耳部」という。)の上端がほぼ同じ高さで
あることを前提として,おむつを装着したときに上端がほぼ一直線になると認定し
ている。しかし,このような図面の解釈は誤りである。
特許出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,特許を受けようとする発
明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図に留まり,当該図面に表示さ
れた寸法や角度,曲率などは,必ずしも正確でなくても足りる。刊行物4,6及び
7の図面においても,おむつの上端の位置関係が正確に示されているとは認められ
ない。そもそも,刊行物4,6及び7には,おむつの上端を一直線に揃えることを
要件とする旨の記載はなく,上端がほぼ一直線になることを念頭においてこれらの
図面が描かれていると解する根拠はない。たまたま,上記図面において,上端がほ
ぼ一直線になるように描かれていたとしても,刊行物4,6及び7には,この点に
関する記載がないのであるから,何らかの技術的課題を解決する手段として上記構
成が採用されていると解することはできない。
以上のとおり,刊行物4,6及び7に記載された発明において,おむつを閉じた
状態で上端が同一(一直線)であるとは認められず,審決の刊行物4,6及び7に
記載された事項の認定には誤りがあり,この誤りは,同認定に基づいた相違点2の
容易想到性の判断に影響を及ぼすものである。
(2)相違点2の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
審決は,引用発明に刊行物2,4,6及び7の記載事項を参酌することによって,
相違点2に係る構成に容易に想到し得たと判断する。しかし,審決のこの判断には
誤りがある。
本願発明は,複数片で構成されたおむつに生じるトップハッティングによる折り
重なりや弛み並びにトップハッティングによってもたらされる腰部縁部の平滑性,
連続性及び周辺性の欠如の問題を解決課題とし,前側縁部変位A及び後側縁部変位
Cの合計値,前側縁部変位A及び後側縁部変位Cの合計値の耳部全体幅Bに対する
比率,並びに前側縁部変位A及び後側縁部変位Cの合計値の耳部中点幅Xに対する
比率を適切な数値範囲(パラメーター)に設定することなどにより,この課題を解
決するというものである。
これに対し,引用発明は,使い捨ておむつは,緩い便また尿又は液体の噴出が着
用者の衣服を汚すことを防止する障壁カフを備えているが,適合性が悪くそれらの
液体が障壁カフを越え着用者の衣服を汚すという問題があることから,それらの液
体を漏らさない改良された障壁カフを有する吸収性物品を提供することを解決課題
とするものである。刊行物1には,本願発明のようにトップハッティングによる折
り重なりや弛み,トップハッティングによってもたらされる腰部縁部の平滑性,連
続性及び周辺性の欠如という解決課題や,前縁部変位,後縁部変位,耳部全体幅及
び耳部中点幅に着目し,これらを基に適切なパラメーターを設定するとの上記の課
題についての解決手段の記載も示唆もなく,そのような作用効果に関する記載も存
在しない。
また,刊行物2,4,6及び7には,トップハッティングによる折り重なりや弛
みについては何ら言及されておらず,トップハッティングによってもたらされる腰
部縁部の平滑性,連続性及び周辺性の欠如によって,その製品がおむつであるとの
消費者又は着用者にとって不必要な情報が伝わってしまうという問題についても,
何ら言及されていない。したがって,刊行物2,4,6及び7をもって,本願発明
の解決課題が周知であるということはできない。
さらに,刊行物1にも,刊行物2,4,6,7のいずれにも,相違点2に係る構
成は記載されていない。もし仮にこれらの公知文献のいずれかにおいて相違点2に
係る構成が記載されていたとしても,それは単なる偶然の一致にすぎず,そのよう
なパラメーターを設定することによってトップハッティング並びにそれによっても
たらされる腰部縁部の平滑性,連続性及び周辺性の欠如の問題を解消しようとする
ものではないから,引用発明において相違点2に係る構成を採用する示唆等は存在
しない。加えて,引用発明と刊行物2,4,6及び7記載の発明は,おむつに関す
る発明という点で共通するのみで,その技術的思想や作用効果等は全く共通性がな
いのであるから,その意味においても刊行物2,4,6,7に記載の技術を引用発
明に適用する動機付けは存在しない。
以上のとおり,引用発明を基に,本願発明における解決課題を認識して相違点2
に係る構成を採用する動機付けは存在しない。
2被告の反論
(1)刊行物4,6及び7に記載された事項の認定の誤り(取消事由1)に対し

願書に添付された図面は,各部の相対的な位置関係や配置構造については,大き
な誤りなく記載されている。
刊行物4の図1では,フラップ11,12の長手方向端縁が,おむつ1の前後胴
周り域6,8の長手方向端縁とほぼ一直線であり,図3では,おむつ1の着用状態
において,フラップ11,12の上端縁と前後胴周り域6,8の上端縁の位置が同
じ高さであると理解し得る。刊行物6のFig.3では,側部領域40,50の長
手方向端縁が,主要吸収性部分30の長手方向端縁とほぼ一直線であり,Fig.
1では,衣類20が閉じた形状にある時,側部領域40,50の上端縁が,主要吸
収性部分30の上端縁とほぼ同じ高さであると理解し得る。刊行物7の図2では,
フロントサイドパネル46,バックサイドパネル48の長手方向端縁が,シャーシ
41の長手方向端縁とほぼ一直線であり,図1では,使い捨てプル・オンおむつ2
0が閉じた形状にあるとき,フロントサイドパネル46及びバックサイドパネル4
8の上端縁が,シャーシ41の上端縁とほぼ同じ高さであると理解し得る。
したがって,審決の刊行物4,6及び7に記載された事項の認定に誤りはない。
(2)相違点2の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対して
おむつにおいて,腰部からの排泄物の漏れを防止することは一般に求められてい
る課題であるところ,おむつを装着した時のおむつと腰部の境界面におけるおむつ
端部の折り重なりや弛みは漏れにつながるため,おむつの装着時において腰部の境
界面をできるだけ一直線にすることが課題となっている。
同課題は,刊行物1のみならず,刊行物2,4,6及び7にも記載ないし示唆さ
れており,周知の課題である。
そして,刊行物1の図5では,おむつ20の長手方向の端縁32とイヤフラップ
54の端縁とが一直線になっていると解されるところ,イヤフラップ54が設けら
れているのはおむつ20の後方ウエスト領域24であるから,本願発明における後
側縁部変位Cがほぼゼロであると解することができる。刊行物1では,本願発明に
おける前側縁部変位Aをどのように取るかは不明であるが,前記のとおり,おむつ
の装着時において腰部の境界面をできるだけ一直線にすることが求められているこ
とからすれば,引用発明のおむつ20の装着時において,おむつ20の前側ウエス
ト領域22の端縁32とイヤフラップ54の端縁とを一致させること,すなわち,
本願発明における前側縁部変位Aをほぼゼロとすることは,当然のことである。
また,刊行物2には,使い捨ておむつ20の長手方向端縁である第1端縁106
とサイドパネル90の端縁とファスナタブ44の縁がほぼ一直線になるものにおい
て,前方及び後方ウェストバンド部38,40はおむつ20の両端縁106,10
7に近接して設け,その装着時には,第1及び第2ウェストバンド部40及び38
が腰部に周状になることが実質的に記載されており,この場合,本願発明における
前側縁部変位A及び後側縁部変位Cをともにゼロとする場合に相当する。前記のと
おり,刊行物4,6及び7についても,本願発明における前側縁部変位A及び後側
縁部変位Cをともにゼロとすることが示されているということができる。
以上のとおり,引用発明に刊行物2,4,6,7の記載事項を適用し,前側縁部
変位A及び後側縁部変位Cをともにゼロすることは,当業者にとって容易といえる。
第4当裁判所の判断
1認定事実
(1)本願明細書の記載
本願明細書には以下の記載があり,図1A,図2A及び図3Aは別紙本願明細書
図1A,同図2A及び同図3Aのとおりである(甲1)。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】本発明は,より衣類のような物品をもたらす耳部を支持するファス
ナを有するおむつのような吸収性物品に関する。」
「【0003】現行のおむつの設計は,しばしば伸長可能な耳部の使用を含む。
後耳部は,シャーシ後側腰部区域の長手方向縁部から横に伸長し得る。締着装置の
嵌合部材は,この後耳部に付着されてよい。・・・エラストマー材料が高価格であ
るために,一般的な方法においては,弾性耳部は,シャーシに取り付けられる個別
の構成要素として構成され(つまり,主要な吸収性アセンブリに他の構成要素が付
着する),複数片のおむつとなる。・・・
【0004】複数片のおむつにおいて見られる1つの問題は,「トップハッティ
ング」である。「トップハット」は,前又は後耳部の最上縁部を越えて,おむつの
腰部縁部まで伸長する前側又は後側腰部区域の部分である。・・・腰部縁部が前側
腰部区域から取り付けられた後耳部まで移動すると,腰部縁部は急に降下し,次に
後耳部の上縁部に繋がるように直線状又は曲線状に続く。前側腰部区域又は後側腰
部区域における腰部縁部から後耳部の上縁部までのこの「降下」は,1センチメー
トル以上であり得る。着用の際,腰部縁部においてこの降下を伴うテープ式おむつ
は,その側部からの切欠きを有するように見える。かかるおむつの腰部縁部は,階
段状の外観を有し得る。
【0005】トップハッティングは,複数片のおむつの適合特性に関して悪影響
を有し得る。一般的に,おむつは,着用者の胴体の円周線に張力をもたらす。この
張力は,伸長した弾性後耳部によってもたらされてよい。トップハットを示す複数
片のおむつにおいて,張力の線が,連続的に途切れることないおむつの経路のみに
沿うか又は通して伝わるために,張力の線は腰部縁部をはるかに下回って配置され
る。張力生成弾性耳部及び締着装置は,腰部縁部から非常に離れているので,張力
線は同様に,前側腰部区域及び後側腰部区域における腰部縁部から離れている(つ
まり,一般的により低い)。
【0006】適合及び機能的な問題は,腰部縁部から離れて位置する張力線に起
因し得る。例えば,おむつの前側腰部区域及び/又は後側腰部区域は,弛み又は折
り重なりを示し得る。弛みは,張力下にない場合におむつが示す,しわが寄り,緩
く,隙間があるか,又はひだのある構造をいう。折り重なりは,おむつの身体に面
する表面が衣類に面するようになるような,おむつの少なくとも一部分への反転を
いう。弛みと同様に,おむつの一部分が張力下にない場合,折り重なりが発生し得
る。折り重なり及び弛みは又,腰部縁部のガスケット機能を低下させ得る。例えば,
特に着用者が腹臥位又は仰臥位にある際,腰部縁部と着用者の腰部の境界面は漏れ
やすい。折り重なり及び弛みは,漏れをもたらし得るこの境界面において,着用者
と密接に接触するおむつの表面積を削減し得る。」
「【0008】トップハッティング及びそれによってもたらされる腰部縁部の平
滑性,連続性及び周辺性の欠如によって,消費者又は着用者に不必要な情報が伝わ
る。例えば,トップハッティングは,その製品がおむつであるということが目で見
てすぐ分かるしるしとなることがある。」
「【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】従って,複数片のおむつにおいてトップハッティングを除去又は削
減する後耳部を有するおむつを提供することが望ましい。さらに,おむつは,不連
続部又は欠落部のない,平滑性,連続性且つ周辺性の腰部縁部を示すことが望まし
い。おむつは,別個の耳部によって少なくとも部分的に,できる限り腰部縁部に近
くなるように提供される張力線を示すことが望ましい。おむつは,おむつであると
明らかに目に見えるしるし(例えば,腰部の不連続部分)のない,衣類のようであ
るという情報を伝えることも望ましい。」
「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】本明細書で使用する時,以下の用語は後述で特定される意味を有す
る:
「トップハット」は,おむつの前側又は後側の耳部の最上縁部を越えて腰部縁部
まで伸長する,おむつの前側又は後側腰部区域の一部分である。」
「【0032】図1は,本発明のおむつ20の平坦且つ非収縮状態(つまり,収
縮をもたらす弾性を有さない)における,代表的且つ非限定的な実施形態の平面図
である。・・・おむつ20は,シャーシ22を含んでよい。おむつ20及びシャー
シ22は,前側腰部区域36と,前側腰部区域36と対向する後側腰部区域38と,
前側腰部区域36及び後側腰部区域38との間に位置する股部区域37とを有する
ものとして示されている。」
「【0046】耳部40,42は別個であるか又は一体化されてよい。別個の耳
部は,シャーシ22に結合される分離要素として形成される。一体化された耳部は,
長手方向縁部12から横に向かって外側に突出するシャーシ22の一部である。一
体化された耳部は,突出部を有するようにシャーシ形状を切断することで形成され
てよい。
【0047】別個の後耳部42及び一体化された前耳部40を有する好適なおむ
つ20が,図1Aに示される。」
「【0049】図1A~図1Cの両図に示すように,後耳部42は,シャーシ2
2に結合される個別要素又は個別要素の一部分(例えば,ベルト45)であってよ
い。後耳部42は,近位縁43a,末端縁43b,上縁部43c,及び下縁部43
dを有してよい。近位縁43aと隣接した後耳部42の一部分は,後側結合部分4
5bにおいてシャーシ22と結合してよい。後側結合部分45bは,その中で1つ
以上の結合剤が個別の後耳部42とシャーシ22を結合する領域である。後側結合
区域45bは,接着剤結合,圧力接着,熱接合等の当該分野で既知の任意の結合方
法によって形成される1つ以上の結合剤を含んでよい。」
「【0053】図2Aは,おむつの通常着用中に見られるような締着された配置
における図1Aのおむつの斜視図である。嵌合部材52の嵌合表面53は,受入部
材54と結合し得る。」
「【0055】図1A~図1C及び図2A~図2Bは,前側トップハット99a
及び/又は後側トップハット99bを含む。」
「【0058】図3Aは,後耳部42,前側腰部区域36の一部分,及び後側腰
部区域38の一部分を示す図2Aのおむつ20の側面図の拡大平面図であ
る。・・・好適な計量には,前縁部変位A,後縁部変位C,耳部全体幅B,耳部中
点幅X,及び受入部材中点幅Yが挙げられる。いくつかの計量について,第1製品
マーク1,第2製品マーク2,及び横基準線3に関して測定される。・・・
【0059】トップハッティングの問題に対処するために,前縁部変位A及び後
縁部変位Cが削減されるか,又は除去されるのが望ましい。・・・特定の実施形態
において,前縁部変位Aは約0であってよい。・・・特定の実施形態において,後
縁部変位Cは約0であってよい。・・・さらに,特定の実施形態において,前縁部
変位Aと後縁部変位Cの合計は約12mm以下であってよい。・・・特定の実施形
態において,前縁部変位Aと後縁部変位Cの合計は約0mmであってよい。」
「【0060】他の実施形態において,前縁部変位A又は後縁部変位C対耳部全
体幅Bの比率は,トップハッティング及びそれによって生じる腰縁部の不連続性の
消費者知覚において非常に重要であることが分かっている。例えば,腰縁部の不連
続性は,より短い耳部全体幅Bを有するおむつよりもより長い耳部全体幅Bを有す
るおむつでの方がより目立たない。」
「【0061】他の実施形態において,前縁部変位Aと後縁部変位Cの総計は,
耳部全体幅Bとの関連で最小化されるのが望ましい。前縁部変位A及び後縁部変位
Cの合計と耳部全体幅Bとの比率((A+C)/B)は,約0.30以下であって
よい。・・・他の実施形態において,前縁部変位A及び後縁部変位Cの総計と耳部
全体幅Bとの比率((A+C)/B)は,約0であってよい。
【0062】他の実施形態において,前縁部変位Aと耳部中点幅Xとの比率は,
トップハッティング及びそれによって生じる腰縁部の不連続性の消費者知覚におい
て非常に重要であることが分かっている。例えば,腰縁部の不連続性は,より短い
耳部中点幅Xを有するおむつよりもより長い耳部中点幅Xを有するおむつでの方が
より目立たない。特定の実施形態において,前縁部変位A及び後縁部変位Cの総計
と耳部中点幅Xとの比率((A+C)/X)は,約0.30未満であってよ
い。・・・他の実施形態において,前縁部変位A及び後縁部変位Cの総計と耳部中
点幅Xとの比率((A+C)/X)は,約0である。」
「【0071】・・・図3Aに示すように,前側縁部変位Aは,後耳部42の上
縁部43cと前側腰部区域38の側面方向縁部14の距離である。・・・
【0072】・・・図3A及び3Bに示すように,後側縁部変位Cは,後耳部4
2の上縁部44cと後側腰部区域38の長手方向縁部14との距離である。
【0073】・・・図3Aに示すように,耳部全体幅Bは,(i)前側長手方向
縁部12aと後耳部42の下縁部43dとの交点,及び(ii)後側長手方向縁部
12bと後耳部42の下縁部43dとの交点間の距離である。・・・
【0074】耳部中点幅Xは,(i)第1製品マーク1から引かれた線分の距離
であり(ii)前側腰部区域36における側面方向縁部14又は前側腰部区域36
における側面方向縁部14の線状投影に対して垂直である。」
(2)刊行物1の記載
刊行物1には,以下の記載があり,図5は別紙刊行物1図5のとおりである(甲
13)。
「本発明は,使い捨ておむつ,失禁用パンツ,下着吸収材インサート,婦人用生
理用品のような吸収材製品に関し,さらに詳細には,着用者に適合するために吸収
材製品の収容特性及び適合性を改良する障壁カフを提供するために曲がるサイドパ
ネルを有する吸収材製品に関する。」(4頁4行~7行)
「使い捨ておむつ及び失禁用ブリーフまたは下着のような吸収材製品の主な機能
は,身体の排泄物を吸収し,収容することである。このような製品は,衣服または
着用者と接触するベッドシーツのような他の製品を身体の排泄物が汚すことを防止
するようになっている。身体の排泄物が吸収材と着用者の足または腰の間の空隙か
ら隣接した衣服に漏れ出すときにこのような製品における最もよく起こる共通のモ
ードが生じる。なぜならば,それらは,吸収材製品にはすぐには吸収されず,吸収
材製品は,着用者に良好に適合するように保持することはできず,その結果,空隙
が形成され,排泄物が吸収材製品から漏れ出すからである。」(4頁9行~16行)
「使い捨ておむつは,緩い便また尿または液体の噴出が着用者の衣服を汚すこと
を防止する障壁カフを備えている。障壁カフはこのような排泄物の自由な流れを抑
制し,おむつのトップシートで自由に浮きまたは流れ,おむつ内に収容されるよう
におむつ内にこのような物質を保持する構造を提供する。」(5頁8行~11行)
「従って,本発明の目的は,シムスの特許に示された曲った障壁カフの改良され
た拘束特性と,ギブソン等の2つの部品の下着を有するが製造及び使用にさらに有
効で便利である吸収材製品を提供することである。
本発明の他の目的は,本発明の身体の漏れに対して拘束材として作用する屈曲し
た障壁カフを有する吸収材製品を提供することである。
本発明の他の目的は,おむつの適用の変化において感度を小さくし,適合性を改
良することによって着用者に容易に適合し,さらによい収容を促進する吸収材製品
を提供する。
本発明の他の目的は,おむつを着用するとき,着用者に対して皮膚になじんだ表
面を提供する屈曲した障壁カフを有する吸収材製品を提供することである。」(6
頁14行~23行)
「発明の概要
本発明は,現在市販されている製品よりも製造及び使用においてさらに便利で経
済的な吸収材製品の適合性及び収容性を改良する障壁カフを有する,使い捨ておむ
つ,失禁ブリーフ,おむつホルダ,訓練用パンツ,生理用下着等のような吸収材製
品を提供する。」(6頁26行~7頁2行)
「第5図は,後方のウエスト領域24のサイドパネル62の遠位縁から横方向外
側に伸びているイヤフラップ54を有する本発明の1つの他の実施例を示す。イヤ
フラップ54は,前方ウエスト領域22及び後方ウエスト領域24に沿って着用者
の腰を包囲する構造を提供する。各イヤフラップ54は,近位縁51及び遠位縁5
3を有する。好ましい実施例において,少なくとも1つのイヤフラップ54は,サ
イドパネル62の各々に結合される。イヤフラップ54の近位縁51は,サイドパ
ネル62の遠位縁66に結合されることが好ましい。」(22頁15行~21行)
「さらに,イヤフラップ54はそれらの遠位縁53に隣接して配置された固定部
材56を有することが好ましい。」(24頁4行~5行)
「イヤフラップ54を有する本発明の実施例は,次のように着用者に適合するこ
とが好ましい。サイドパネル54は,パッキングのために折られた形状(図示せず)
から元のように折り戻され,後方のウエスト領域のサイドパネルの遠位縁がサイド
パネルの近位縁の外側に配置され,それによってサイドパネルを傾けるように反対
側に側方外側に引かれる。後方のウエスト領域24は,着用者の背中の下に配置さ
れ,おむつの残りは着用者の足の間に引かれる。前方のウエスト領域22は着用者
の腰の前方にわたって配置される。イヤフラップ54は,着用者のウエストの周り
を包囲し,サイドパネルは,着用者の寸法及び形状に適合するように張力がかけら
れ,伸長される。イヤフラップ54はイヤパネル54の遠位縁53に隣接するよう
に配置された固定部材56によって前方のウエスト領域22に固定される。」(2
4頁17行~27行)
(3)刊行物2の記載
刊行物2には以下の記載があり,その図1は別紙刊行物2図1のとおりである
(甲14)。
「【発明の詳細な説明】
横方向の伸び特性を有するおむつ
発明の属する技術分野
本発明は,おむつ,子供用ケア製品,女性用生理製品,失禁用下着などのような
伸縮可能吸収性下着に関する。特に,本発明は,改良された横方向の伸び特性を備
えたウェストバンド部を有する使い捨て吸収性下着に関する。」(7頁1行~6行)
「従来のファスナシステムにおいては,工場で結合するために,締結応力が,フ
ァスナタブ44と後方ウェストバンド40のサイド部の間で,実質的にファスナタ
ブの基本長58にわたって与えられた。その結果として,比較的小さいレベルの応
力が,ファスナタブの側縁に長手方向に隣接する耳部の領域に与えられる。結果と
して,この長手方向に隣接する領域は,しわをつくって,着用者の体から離れるよ
うにカールする傾向がある。このしわ及びカールは,見苦しく,おむつのウェスト
バンドおよび脚開口領域に沿ってギャップを作り,おむつから排泄物を漏れさせる
可能性がある。」(26頁26行~27頁5行)
「本発明の特別な構成においては,応力ビーム部98が,サイドパネル90の実
質的な長さ方向に沿って延び,物品の横方向に延びるウェストバンド縁106に実
質的に隣接する。例示された具体例においては,ファスナタブ44が,応力ビーム
部98の長さ方向に沿ってほぼ中心に位置される。・・・本発明の別の態様におい
ては,ファスナタブ44の縁が,改良された性能を与えるために,ウェストバンド
縁106に実質的に一致するように配置されてもよい。」(30頁27行~31頁
9行)
(4)刊行物4の記載
刊行物4には,以下の記載があり,図1,図3は別紙刊行物4図1,同図3のと
おりである(甲15)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,排泄物を吸収,保持する開放型の使い捨て
おむつに関する。」
「【0006】本発明の課題は,後胴周り域のフラップの中央下部に生じた不規
則な動きがフラップの中央上部に伝わることを防ぎ,着用者の胴部に対するフラッ
プの中央上部の密着状態を維持して着用中のずれ動きを防ぐことができる開放型の
使い捨ておむつを提供することにある。」
「【0014】おむつ1は,縦方向に前胴周り域6および後胴周り域8と,それ
ら胴周り域6,8の間に位置する股下域7とを備え,横方向へ延びる両端部9と,
縦方向へ延びる両側部10とを有する。前後胴周り域6,8の両側部10には,横
方向外方へ延びるフラップ11,12が取り付けられている。」
(5)刊行物6の記載
刊行物6には,以下の記載があり(翻訳のみ記載する。),Fig.1,Fig.
3は別紙刊行物6Fig.1,同Fig.3のとおりである(甲16)。
「本発明は使い捨て吸収性物品に関し,特に使い捨てパンツ様衣類に関する。よ
り詳細には,本発明は,調整可能で,汎用性があり,再締結可能な使い捨て製品を
提供する,改良型締結装置を有する事前締結型の使い捨てパンツ様衣類に関する。
・・・これらの物品は,尿及び糞便物質などの身体排出物を吸収及び収容するべ
く設計される。理想的には,これらの製品はぴったりとフィットし,排出物の漏れ
を防ぐ。」(1頁3行~11行)
「図1は,本発明の基本的なパンツ様衣類の一例を示す。図1に示す衣類20は,
一般に,主要吸収性部分30と一対の側部領域40及び50とを備える。側部40
及び50と組み合わせた主要吸収性部分30は,一般に,腰部開口部80と一対の
脚部開口部90及び100とを画定する。・・・更に,側部領域40及び50の
各々は,再締結可能な機構を備えてもよく,この再締結可能な機構により,側部領
域40及び50を,側部付着領域60及び70のいずれか,又は両方に沿って開け
る及び再び閉じることができる。図1に示すように,側部領域40及び50はそれ
ぞれ,各々の側部付着領域60及び70に沿って閉じられ,腰部開口部80が完成
し,衣類20は閉じた形状又はパンツ様形状をなしていると言える。
・・・衣類20の各々の側部領域50及び60(判決注:「側部領域40及び5
0」の誤記と解される。)は,主要吸収性部分30に別個に付着されてもよく,又
は主要吸収性部分30と一体的に作製されてもよい。
図3は,開いた非収縮状態で平らに置かれている図1及び図2の衣類を示す。衣
類20は,一般に,主要吸収性部分30と側部領域とからなる。図3に示すように,
衣類20が開けられ,展開されているとき,側部領域は前方側部42及び45(判
決注:「前方側部42及び52」の誤記と解される。)と,後方側部52及び55
(判決注:「後方側部45及び55」の誤記と解される。)とに分離される。」
(8頁10行~28行)
(6)刊行物7の記載
刊行物7には,以下の記載があり,図1,図2は,別紙刊行物7図1,同図2の
とおりである(甲17)。
「本発明は,使い捨てプル・オン着衣に関する。その様な使い捨てプル・オン着
衣の例には,使い捨て下着,プル・オンおむつ,トレーニングパンツ,および月経
時の使用のための使い捨てパンティが含まれる。本発明は特にプル・オンおむつ,
トレーニングパンツ,失禁用プル・オンブリーフなどのような一体的使い捨て吸収
性プル・オン着衣に関し,それらは汚れた後の向上した引き剥がし開放取り扱い性
を提供する。」(4頁5行~10行)
「前述に基づいて,適用と使用の間の大きな力に耐えるのに十分に強く,一方,
汚れた後の着衣の除去を過剰に妨げない,側面のシームを有する使い捨てプル・オ
ン着衣についての必要が存在する。現存する技術には,本発明のすべての長所およ
び利益を提供するものはない。」(5頁24行~27行)
「本発明のフロントおよびバックサイドパネル46および48は,シャーシ41
の対応するサイドエッジから横に外側に伸びるいずれの部材であっても良
い。・・・より好ましくは,フロントおよびバックサイドパネル46および48の
少なくとも一方,好ましくは両方は,シャーシ41の一部であり,シャーシ41か
ら連続的に伸びる連続的なシートまたはフィルム材料42を含む。別の態様におい
て,フロントおよびバックサイドパネル46および48は,シャーシ41のサイド
エッジに取り付けられる分離した部材(図においては示されない)である。」(1
9頁26行~20頁18行)
2刊行物4,6及び7に記載された事項の認定の誤り(取消事由1)について
(1)原告は,審決が,刊行物4,6及び7に記載された図面を基に,おむつ本
体の上端と本体の両側に存在する耳部の上端がほぼ同じ高さであることを前提とし
て,おむつを装着したときに上端がほぼ一直線になると認定したのは誤りであると
主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。
刊行物4,6,及び7はいずれも国内出願又は国際出願を公開又は公表した刊行
物であるところ,例えば,願書に添付する図面は,原則として製図法に従って描く
ものとされており(例えば,特許法施行規則25条,様式30の備考4項),上記
刊行物に記載された図面は,設計図面のように各部の寸法や角度,曲率の値は特定
できないとしても,各部の相対的な位置関係や配置構造については,大きな誤りな
く記載されているというべきである。
刊行物4の図1では,おむつ1の前後胴周り域6,8の両側部10に,横方向外
方へ延びるフラップ11,12が取り付けられており,フラップ11(本願明細書
中の前耳部に相当する。)は,その長手方向端縁が,おむつ1の前胴周り域6の長
手方向端縁とほぼ一直線になるように,また,フラップ12(本願発明の後耳部に
相当する。)は,その長手方向端縁が,おむつ1の後胴周り域8の長手方向端縁と
ほぼ一直線になるように,それぞれ取り付けられている。また,図3では,おむつ
1の着用状態において,フラップ11,12の上端縁と,前胴周り域6,後胴周り
域8の上端縁の位置がほぼ同じ高さになっていると理解できる。
刊行物6のFig.3では,使い捨てパンツ様衣類20の主要吸収性部分30の
長手方向一方端の両側に前方側部42,52(本願明細書中の前耳部に相当する。)
が形成され,他方端の両側に後方側部45,55(本願発明の後耳部に相当する。)
が形成されており,後方側部45,55の長手方向端縁は主要吸収性部分30の長
手方向一端側の端縁とほぼ一直線となっており,前方側部42,52の長手方向端
縁は主要吸収性部分30の長手方向他端側の端縁とほぼ一直線となっていると解す
ることができる。また,Fig.1では,衣類20を閉じた状態において,後方側
部45及び55,前方側部42及び52と衣類20の腰部開口部80の上端部の位
置は,ほぼ同じ高さに形成されていると理解できる。
刊行物7の図2では,フロントサイドパネル46(本願明細書中の前耳部に相当
する。)及びバックサイドパネル48(本願発明の後耳部に相当する。)の上端縁
がおむつ20の上端縁とほぼ一直線となっており,図1では,おむつ20を閉じた
状態で,フロントサイドパネル46及びバックサイドパネル48の上端縁とおむつ
20の上端部の位置がほぼ同じ高さに形成されていると理解できる。
以上によると,刊行物4,6及び7に,装着時におむつ本体の上端と耳部の上端
がほぼ同じ高さになる構成が記載されているとした審決の認定に誤りはない。
(2)原告は,特許出願の願書に添付される図面に表示された寸法や角度,曲率
などは,必ずしも正確でなくても足りるのであり,刊行物4,6及び7には,おむ
つの上端を一直線に揃えることを要件とする旨の記載はなく,たまたま,上記図面
において,おむつの上端がほぼ一直線になるように描かれていたとしても,何らか
の技術的課題を解決する手段として上記構成が採用されていると解することはでき
ないと主張する。
しかし,願書に添付する図面は,発明の内容を理解しやすくするために,明細書
の補助として使用されるものであり,前記のとおり,原則として製図法に従って描
くものとされていることなどからすると,図面に表示された寸法や角度,曲率など
は必ずしも正確でないとしても,各部の相対的な位置関係や配置構造については,
大きな誤りなく記載されているというべきである。また,確かに,刊行物4,6及
び7の明細書部分等には,おむつの上端を一直線に揃えることを要件とする旨の記
載はなく,各刊行物に記載された発明において,この点が構成とはされていないも
のの,図面により,おむつの上端を一直線に揃えることの技術的意義を理解するこ
とは可能である。各刊行物の図面は,各刊行物に記載された発明の代表的な実施態
様の一つを示したものと解することができるのであって,各刊行物には,そのよう
な実施態様の一つとして,各図面に記載されているように,装着時におむつ本体の
上端と耳部の上端をほぼ同じ高さにするとの技術が開示されているということがで
きる。
(3)小括
以上のとおり,原告主張の取消事由1には,理由がない。
3相違点2の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について
(1)本願発明の解決課題及び課題解決方法
前記認定によると,複数片のおむつにおいては,トップハッティングにより,前
側腰部区域及び後側腰部区域における腰部縁部から離れた位置(一般的には,より
低い位置)に張力線が配置されることにより,おむつの前側腰部区域及び/又は後
側腰部区域に,弛み又は折り重なりが発生する可能性があり,これらが発生すると,
特に着用者が腹臥位又は仰臥位にある際に,腰部縁部と着用者の腰部の境界面が漏
れやすくなり,また,トップハッティング及びそれによってもたらされる腰部縁部
の平滑性,連続性及び周辺性の欠如によって,その製品がおむつであることが見て
分かることがあり,消費者又は着用者に不必要な情報が伝わることがあるという問
題があった。本願発明は,複数片のおむつにおいて,トップハッティングを除去又
は削減すること,不連続部又は欠落部のない,平滑性,連続性かつ周辺性の腰部縁
部を示すことを解決課題とし,その課題解決手段として,おむつの後耳部における
「前側縁部変位A」,「後側縁部変位C」,「耳部全体幅(B)」及び「耳部中点
幅(X)」の関係について,A+C≦12mm,(A+C)/B≦0.30,(A
+C)/X≦0.30とのパラメーターにより特定される構成を採用したものであ
る。
(2)引用発明の解決課題等
刊行物1に記載された発明は,使い捨ておむつには,緩い便又は尿等の噴出によ
り着用者の衣服が汚れることを防止するために,障壁カフが備えられているが,液
体が障壁カフを越え,着用者の衣服を汚すことがあることから,製造及び使用にお
いてさらに便利で経済的な吸収材製品の適合性及び収容性を改良する障壁カフを有
する使い捨ておむつを提供することを解決課題とするものである。
刊行物1の図5には,シャーシの後方ウエスト領域24に結合されたイヤフラッ
プ54(本願発明の後耳部に相当する。)が略長方形であり,その上側面方向端縁
がシャーシの上側端縁32とほぼ一致するものとして記載されている。
(3)容易想到性の判断
ア前記のとおり,本願発明は,複数片のおむつにおいて,トップハッティング
を除去又は削減すること,不連続部又は欠落部のない,平滑性,連続性かつ周辺性
の腰部縁部を示すことを解決課題とした発明であり,その課題解決手段として,お
むつの後耳部における「前側縁部変位A」,「後側縁部変位C」,「耳部全体幅B」
及び「耳部中点幅X」の関係について,A+C≦12mm,(A+C)/B≦0.
30,(A+C)/X≦0.30とのパラメーターを設定した発明である。
ところで,本願明細書には,課題を解決するためには,トップハッティングを除
去又は削減するように後耳部を設けること,不連続部又は欠落部のない,平滑性,
連続性,周辺性のある腰部縁部とすること,張力線はできる限り腰部縁部に近くな
るようにすることが望ましいことが記載されている(段落【0009】)。しかし,
本願明細書には,上記パラメーターの臨界的意義に関して,何らの説明がないこと
に照らすならば,上記パラメーターにつき,おむつから便や尿等が漏れないように
する等のために,前側縁部変位Aや後側縁部変位Cはなるべく0mmに近づける方
が望ましい点は理解できるが,当業者が適宜選択し得る事項を超えるその他の技術
的意義があると理解することはできない。
イまた,以下の事情によれば,引用発明に接した当業者が,上記パラメーター
を満たす発明とすることに,格別困難性はないというべきである。
すなわち,引用発明は,本願発明の相違点2に係る構成を有するか否かが不明で
あるが,相違点2に係る構成を採用することを排除するものではない。刊行物1の
図5では,シャーシの後方ウエスト領域24に結合されたイヤフラップ54の上側
面方向端縁がシャーシの上側端縁32とほぼ一致していると解されることから,刊
行物1には,後側縁部変位Cが約0mmである構成が記載されているといえる。
前記のとおり,①刊行物4の図1及び図3には,おむつを着用した状態において,
フラップ11,12(耳部)の上端縁と,前胴周り域6,後胴周り域8の上端縁の
位置がほぼ同じ高さに図示され,②刊行物6のFig.1及びFig.3には,使
い捨てパンツ様衣類20を閉じた状態において,後方側部45及び55(後耳部),
前方側部42及び52(前耳部)と衣類20の腰部開口部80の上端部の位置は,
ほぼ同じ高さに図示され,③刊行物7の図1及び図2には,おむつ20を閉じた状
態で,フロントサイドパネル46(前耳部)及びバックサイドパネル48(後耳部)
の上端縁とおむつ20の上端部の位置がほぼ同じ高さに図示されている。なお,刊
行物6の記載(8頁22行~24行)及び刊行物7の記載(20頁16行~18行)
によると,刊行物6の側部領域40及び50や,刊行物7のフロントサイドパネル
46及びバックサイドパネル48は,おむつ本体と一体的に作製されるだけでなく,
おむつ本体とは別個の部材で作製されることも予定されているが,別個の部材で作
製された場合に,上記構成を採用しないとする理由はない。
以上によれば,引用発明に接した当業者が,装着時におむつ本体の上端と後耳部
の上端がほぼ同じ高さになるとの構成を採用すること,すなわち,後耳部の前側縁
部変位Aと後側縁部変位Cをいずれもほぼ0mmとすることは容易であると認めら
れる。
前側縁部変位Aと後側縁部変位Cをいずれもほぼ0mmとした場合には,A+C
≦12mmの構成を備えることとなり,さらに,耳部全体幅Bと耳部中点幅Xの値
にかかわらず(A+C)/B≦0.30,(A+C)/X≦0.30の構成も備え
ることとなる。したがって,引用発明に接した当業者が,本願発明における相違点
2に係る構成を採用することは容易であると認められる。
(4)原告の主張に対して
原告は,①刊行物1には,本願発明における解決課題及び課題解決手段について
の記載も示唆もなく,刊行物2,4,6及び7にも本願発明における解決課題の記
載はなく,引用発明を基に,本願発明における解決課題を認識して相違点2に係る
構成を採用する動機付けは存在しない,②刊行物1にも,刊行物2,4,6,7の
いずれにも,相違点2に係る構成は記載されておらず,引用発明において相違点2
に係る構成を採用する示唆等は存在しない,③引用発明と刊行物2,4,6及び7
記載の発明は,おむつに関する発明という点で共通するのみで,その技術的思想や
作用効果等は全く共通性がないから,刊行物2,4,6,7に記載の技術を引用発
明に適用することが容易とはいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は失当である。
刊行物1(4頁第9行~16行),刊行物2(26頁26行~27ページ5行),
刊行物6(1頁9行~11行)には,おむつと腰との間の空隙が生じると,そこか
ら排泄物が漏れ出すことが問題であるとの趣旨の記載があり,この問題を解決する
ことは,本願の優先日前から,おむつにおける周知の課題であったと認められる。
したがって,刊行物1,2,4,6及び7には,トップハッティングを除去又は削
減し,不連続部又は欠落部のない,平滑性,連続性かつ周辺性の腰部縁部を示すと
の,本願発明における解決課題が,具体的に明示されていないものの,上記周知の
課題を解決するために,後耳部の前側縁部変位Aや後側縁部変位Cの値を適宜設定
することは,当業者において容易になし得たことといえる。そして,前記のとおり,
当業者が前側縁部変位Aと後側縁部変位Cをいずれもほぼ0mmとすることは容易
であると認められることからすると,引用発明に接した当業者が,本願発明におけ
る相違点2に係る構成を採用することは容易であるといえる。
(5)小括
以上のとおりであるから,審決の相違点2の容易想到性の判断に誤りはない。
4結論
上記のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,
原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却すること
として,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
八木貴美子
裁判官
小田真治
別紙本願明細書図1A
本願明細書図2A
本願明細書図3A
別紙刊行物1図5
別紙刊行物2図1
別紙刊行物4図1
刊行物4図3
別紙刊行物6Fig.1
刊行物6Fig.3
別紙刊行物7図1
刊行物7図2

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71期修習生 72期修習生 求人
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