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平成27年2月27日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成25年(ワ)第28210号商標権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日平成27年1月23日
判決
広島市中区<以下略>
原告株式会社エネルギア・ソリューション・アンド・サービス
同訴訟代理人弁護士山﨑行造
同朴敬淑
同訴訟代理人弁理士小椋崇吉
東京都中央区<以下略>
被告株式会社ESSジャパン
同訴訟代理人弁護士田中紘三
同田中みどり
同田中みちよ
主文
1被告は,その営業に関し,別紙被告標章目録記載の標章を,別紙被告ウェ
ブサイト目録記載の各ウェブサイト及び会社説明書に使用してはならない。
2被告は,別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイトから別紙被告標
章目録記載の標章を削除せよ。
3被告は,その占有する別紙被告標章目録記載の標章を付した会社説明書を
廃棄せよ。
4訴訟費用は被告の負担とする。
5この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
1前提事実(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告は,石炭及び液化天然ガスの販売の他,いわゆるESCO事業(発
電装置等の各種装置を顧客敷地内に敷設し,各種装置やその設置,メンテ
ナンス等に要した費用を光熱費の削減分により賄う事業)を営む株式会社
である。
イ被告は,太陽光発電に関する調査,コンサルティング,企画,用地確保,
機材,器具選定,建設,運営,維持管理等の事業を営む株式会社である。
(2)原告の有する商標権
原告は,別紙商標目録記載の商標権を有している(以下,同目録記載1の
商標権を「本件商標権1」,前同2の商標権を「本件商標権2」といい,そ
れらの登録商標を順に「本件商標1」,「本件商標2」という。また,本件
商標権1及び本件商標権2を併せて「本件各商標権」といい,本件商標1及
び本件商標2を併せて「本件各商標」という。)。
(3)被告の行為
被告は,別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を,
別紙被告ウェブサイト目録記載の各ウェブサイト(以下「被告各ウェブサイ
ト」という。)上に,また,会社説明書(乙1。以下「被告会社説明書」と
いう。)に使用している。
2本件は,本件各商標権を有する原告が,被告が被告各ウェブサイト及び被告
会社説明書に本件各商標と類似する被告標章を使用していることが本件各商標
権を侵害すると主張して,被告に対し,商標法36条1項,2項に基づき,使
用の差止め及び侵害組成物の廃棄等を求めた事案である。
3争点
(1)本件各商標と被告標章の類否
(2)先使用権の成否
(3)権利濫用の成否
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(本件各商標と被告標章の類否)について
〔原告の主張〕
(1)被告標章は,ロゴタイプにて表された「ESS」の欧文字3文字の構成部
分と,上部に円弧を伴った「Japan」の欧文字の構成部分とから成る結
合標章であるところ,「Japan」の構成部分は,その役務識別機能は乏
しく,出所識別機能として支配的な印象を与えるものではない。
これに対して「ESS」の構成部分は,特定の観念を有しない造語であり,
役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるから,被告標章の要部
は「ESS」である。
(2)本件商標1と被告標章の称呼はいずれも「イイエスエス」であるから同一
であり,本件商標1と被告標章の観念は,いずれも造語であることから,特
定の観念も生じないものとして一致する。
また,本件商標1と被告標章は,その外観が類似する。
そして,被告標章は,本件商標1の指定商品役務と類似する役務に使用さ
れており,被告の提供役務につき,原告との間にいわゆる親子会社や系列会
社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による役務提供事業を営むグルー
プに属する関係にある営業主の業務に係る役務であると誤信され,役務の出
所を誤認混同するおそれがある。
したがって,本件商標1と被告標章は類似する。
(3)本件商標2は,標準文字にて表された「ESSJapan」の欧文字か
ら成る商標であり,その要部である「ESS」から「イイエスエス」の称呼
が生じるほか,全体から「イイエスエスジャパン」の称呼を生じる。また,
要部からは特定の観念を生じない。
被告標章も,その要部から「イイエスエス」の称呼が生じるほか,全体か
ら「イイエスエスジャパン」の称呼を生じる。また,「ESS」の構成部分
からは特定の観念を生じない。
そのため,本件商標2と被告標章は,称呼及び観念において一致し,外観
において類似する。
したがって,本件商標2と被告標章は類似する。
〔被告の主張〕
争う。
被告標章は,「Japan」の欧文字部分を上部に円弧を付して強調してお
り,本件各商標と被告標章とは外観において異なっている。
そして,外観,称呼,観念の類似は,飽くまで商品等の出所混同のおそれの
判断の一応の基準にすぎず,出所混同のおそれの有無の判断は,商標について
全体的に観察し,取引の実情について明らかにし得る限りの具体的な取引状況
を考慮することによって行われなければならない。
この点,原告は,広島市を本店所在地とし,中国電力株式会社(以下「中国
電力」という。)を出資企業とし,中国地方に限定したエネルギーのワンスト
ップサービスを提供している。他方,被告は,中国電力株式会社と関連がない
会社であり,東京都を本店所在地とし,原告のように石炭等を取り扱うのでは
なく,太陽光発電の事業媒介を事業とし,さらに,全世界にわたって取引をし
ており,顧客は全世界にいる。
また,被告は,被告各ウェブサイトや被告会社説明書で被告標章を表示して
いるが,被告の商号や本店所在地,被告代表者名を明示しており,中国電力と
の資本関係を窺わせるような記載も一切なく,ほかに特定の商品や役務に被告
標章を使用することはない。
したがって,本件各商標と被告標章において,出所につき誤認混同を生ずる
おそれがなく,本件各商標と被告標章は類似しない。
2争点(2)(先使用権の成否)について
〔被告の主張〕
(1)被告は,以下のとおり,先使用による被告標章を使用する権利を有する。
すなわち,被告代表者は,平成17年1月に「原太陽光発電研究所」を設
立して太陽光発電事業を営み,平成21年8月7日に被告を設立した。被告
は,太陽光発電の最適用地を見出して,地権者と交渉し,発電事業会社の発
電事業用の開発用地として媒介することを事業としており,日本全国にかけ
て適地探索をし,日本全国にとどまらず全世界の発電事業会社を売り込み対
象としてきた。
そして,被告は,平成21年8月5日,日本国内のみならず全世界からの
引き合い商談を求めて,「ESSJ.JP」のドメイン名を登録し,被告各
ウェブサイトを作成し,被告に関する情報をインターネットに掲載した。
さらに,被告は,平成22年9月,被告各ウェブサイトをリニューアルす
るとともに,被告標章を作成して,これを被告各ウェブサイトに掲載し,以
後表示を継続している。
また,被告は,併せて,その頃から,被告会社説明書に被告標章を表示し
て,被告各ウェブサイトを閲覧した顧客にこれを配布している。
(2)国が平成24年7月1日に再生可能エネルギーの固定価格買取制度を発足
させる前から太陽光発電事業を営んでいる会社はほとんどなく,原告が同事
業を開始したのは平成25年1月以降であり,被告は先駆者として同事業を
営んでいる。
被告は,例えば,平成21年9月には原告の関係系列会社の株式会社中電
工(以下「中電工」という。)との間で太陽光発電設備に関する契約交渉を
して,同社から見積書の交付を受けたことがあり,ほかに,創電開発株式会
社との間で,平成24年8月に太陽光発電システムのコンサルタント業務に
関して業務委託契約を締結して,同年10月から11月にかけて取引先と用
地の交渉をしていた。他にも被告各ウェブサイトを閲覧して被告に太陽光発
電事業に関して問い合わせをしたり,実際に被告会社を訪れたりする会社が
多数あった。なお,太陽光発電事業は,大規模事業であるから,取引先との
契約締結交渉が頓挫したからといって,事業を営んでいないということには
ならない。
原告は,被告に平成25年7月19日付け警告書を送付したが,これは,
原告が太陽光発電に関する事業の活性化に触発されて被告に追随して新規参
入に乗り出し,被告が被告標章を商標登録していないことを奇貨として,本
件各商標を商標登録し,これをもとに被告の事業に揺さぶりをかけようとし
ていることを示すものと考えられる。このことから,被告標章が被告各ウェ
ブサイトを閲覧できる原告及び日本国内の需要見込み客を含む全世界の需要
者に広く認識されていたことは明らかである。
したがって,遅くとも原告が本件商標1を商標登録出願した平成24年1
2月13日当時には,被告標章は周知となっていた。
(3)また,被告は,設立時から現在の商号を使用しており,同商号をデザイン
化して被告標章を作成した。また,原告については,原告から平成25年7
月19日付け警告書が送付されるまでその存在すら知らなかった。
したがって,被告が被告標章を使用することについて,不正競争の目的は
全くなかった。
〔原告の主張〕
(1)否認ないし争う。
原告が太陽光発電事業を開始したのは平成23年12月であり,再生可能
エネルギーの固定価格買取制度の発足時期を基準にすれば,原告は同発足前
から同事業を営んでいるから,被告と同様に原告も先駆者として同事業を営
んでいるといえる。
被告は,同事業の実績として,創電開発株式会社からの業務委託で太陽光
発電用地の取得に着手したなどと主張するが,被告が提出する業務委託契約
書(乙6)や用地取得の取り纏め依頼書等(乙7ないし9)には被告標章の
表示が一切ない。さらにいえば,上記証拠(乙7ないし9)の作成日付が平
成24年7月1日以降であることから,被告が上記主張する取引実績は,再
生可能エネルギーの固定価格買取制度の発足時期以降のものであり,被告が
先駆者として同事業を営んでいるとはいえない。また,上記取引実績は,原
告が同事業を開始して以降のものでもある。
また,被告は,被告各ウェブサイトを閲覧して被告に太陽光発電事業に関
して問い合わせをしたり,実際に被告会社を訪れたりする会社が多数あった
と主張するが,そのことを示す証拠は何ら提出されていない。
したがって,被告標章が周知であるとは認められない。
(2)また,被告は,平成21年9月頃には中電工から電気設備工事に関する見
積書の交付を受けているが,同社は原告と同じ中国電力グループに所属する
から,被告は同年8月の設立時において原告を十分に了知し,その上で被告
の商号を採択したものと推測されるから,被告に不正競争の目的がなかった
とはいえない。
3争点(3)(権利濫用の成否)について
〔被告の主張〕
(1)被告代表者が平成17年1月に「原太陽光発電研究所」を設立して太陽光
発電事業を営んでいたところ,平成21年8月7日に法人成りして被告を設
立してからは被告において太陽光発電事業を営んでいる。
原告は,平成13年10月1日に会社を設立したが,原告が本件商標1を
商標登録出願したのは,平成24年12月13日であり,原告が太陽光発電
事業を開始したのは,平成25年1月である。そして,原告は,平成25年
6月7日に本件商標1が商標登録されると,同年7月には被告に対して警告
書を送付している。
上記経緯からして,原告が,太陽光発電事業に参入するに当たり,先に事
業を始めた被告を強く意識して,本件商標1を商標登録出願したことは明ら
かである。
(2)さらに,原告は,平成25年7月18日に本件商標2を商標登録出願した
が,原告の商号には「Japan」の文言はなく,原告が海外に支社を有し
ていたり,外国企業を取引相手としていたり,英語のホームページを作成し
ていた事実もない。
(3)そうすると,原告は,被告が被告標章を商標登録していないことを奇貨と
して,被告の業務を妨害し,あるいは,被告の顧客の乗っ取りを企図して,
本件各商標の商標登録出願をしたことは明らかであり,原告の被告に対する
本件各商標権の行使は,権利濫用に当たり,許されるべきではない。
〔原告の主張〕
否認ないし争う。
原告が太陽光発電事業を開始したのは平成23年12月であるから,原告が
被告を意識して本件商標1を出願したという事実はない。本件商標1は,原告
の英文の名称「EnerGiaSolution&Service」の頭文字を繋げて短縮した頭
字語から成るものであって,平成13年10月1日の会社設立当時から現在に
至るまで継続して使用しているものである。したがって,原告が,本件商標1
を商標登録出願し,設定登録を受けることは,原告の業務上の信用が化体した
本件商標1や原告の商号などを守るために必要なものである。
また,原告が本件訴えにおいて本件商標2を行使するのは,被告が提訴前に
は本件商標1と被告標章が類似することを是認していたのに,本件訴えでは類
似しないと主張するため,その主張を封じて紛争を早期に解決するために必要
と判断したからである。
第4当裁判所の判断
1争点(1)(本件各商標と被告標章の類否)について
(1)商標と標章の類否は,対比される標章が同一又は類似の商品・役務に使用
された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否
かによって決すべきであるが,それには,そのような商品・役務に使用され
た標章がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記
憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の
実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきも
のである。そして,商標と標章の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を
使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準
にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の
点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役
務の出所の誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては,これを類似
の標章と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)
第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参
照)。
また,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成
部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不
可分的に結合していると認められる場合においては,その構成部分の一部を
抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して類否を判断することは,原則
として許されないが,他方で,商標の構成部分の一部が取引者又は需要者に
対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や,
それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じない場合などに
は,商標の構成部分の一部だけを取り出して,他人の商標と比較し,その類
否を判断することが許されるものと解される(最高裁昭和37年(オ)第9
53号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,
最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集
47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月
8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
(2)上記(1)を前提に,まず,本件商標1と被告標章の類否について検討する。
ア本件商標1について
本件商標1は,欧文字の「ESS」を標準文字で横書きして成るもので
あり,その称呼は,「イイエスエス」である。また,本件商標1は,造語
であり,特に観念を生じるものではないと認められる。
イ被告標章について
被告標章は,その外観が,別紙被告標章目録記載のとおりであり,緑色
の欧文字で「ESSJapan」と横書きで記載され,「ESS」の構成
部分と「Japan」の構成部分から成る結合商標である。「ESS」の
構成部分は,斜体のゴシック体で横書きして成り,「Japan」の構成
部分はその文字部分がゴシック体で横書きされ,同文字部分のうち左から
二文字目の欧文字の「a」から末尾の欧文字の「n」にかけてその上部に
青色の円弧が描かれている。
また,被告標章の称呼は,「イイエスエスジャパン」であり,被告標章
のうち「ESS」の欧文字部分は造語であり,特に観念を生じるものでは
ないと認められる。
ところで,被告標章のうち「ESS」の構成部分は造語であるから,役
務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものであるのに対し,
被告標章のうち「Japan」の構成部分は,我が国の国名「日本」を表
す語であることから,それを他の標章と結合して使用したとしても,せい
ぜい日本と何らかの関係性がある会社あるいは商品若しくは役務であるこ
とを示すにとどまり,自他商品・役務の出所識別力は極めて弱い。
そうすると,被告標章のうち,「ESS」の構成部分だけを取り出して,
本件商標1と比較し,その類否を判断することができるというべきである。
ウ対比
以上を前提に本件商標1と被告標章を対比すると,本件商標1と被告標
章は,称呼が一致し,いずれも特定の観念を生じるものではなく,さらに,
外観が類似する。
エ指定商品役務の類否
本件商標権1に係る指定商品役務は別紙商標目録記載1のとおりである
ところ,証拠(甲15)によれば,被告が提供する役務は,発電所の建設
工事及び発電設備装置の設置工事やこれらに関するコンサルティング,並
びに,電気の供給であると認められ,上記指定商品役務のうち太陽光発電
装置の据付・修理又は保守,太陽光発電装置の据付・修理又は保守に関す
るコンサルティング(第37類)と類似する。
オ被告の主張に対する判断
被告は,具体的な取引の実情に鑑みると,商品及び役務の出所を誤認混
同するおそれがないと主張する。
確かに,証拠(甲3ないし7,15,乙3ないし11)及び弁論の全趣
旨によれば,原告が中国電力の関連会社であり,広島市内を本店所在地と
し,中国地方を営業地域の中心として,その営む事業には石炭や液化天然
ガス等の燃料の販売等といったものがあるのに対して,被告が東京都内を
本店所在地とし,日本国内では全国を営業地域として,太陽光発電事業を
営んでいることが認められる。しかしながら,前掲各証拠によれば,他方
で,太陽光発電事業は,特定の地域に限らず日本国内で広く営まれている
事業であること,前記エによれば本件商標1の指定役務には太陽光発電事
業も含まれており,原告が現に同事業を営んでいること,被告には,広島
市内に本店所在地がある中電工に対する営業実績があり,被告の営業地域
は原告の営業地域でもあることが認められる。加えて,詳しくは後記2に
述べるが被告標章が被告の出所を表示するものとして取引者,需要者に広
く認識されているとは認められないことも考え併せると,原告と被告との
間における本店所在地や営業地域の違いといった点は,取引者,需要者に
とって商品及び役務の出所を誤認混同するおそれを否定する事情とはいえ
ないのであり,ほかに商品及び役務の出所を誤認混同するおそれを否定す
る取引の実情等は認められない。
カ以上のとおりであるから,本件商標1と被告標章は類似する。
したがって,被告による被告標章の使用は商標法37条1号に該当し,
被告が本件商標権1を侵害したものと認められる。
(3)次に,本件商標2と被告標章の類否について検討する。
ア本件商標2について
本件商標2は,欧文字の「ESSJapan」を標準文字で横書きし
て成るものであり,その称呼は,「イイエスエスジャパン」である。なお,
前記(2)ア,イと同様の理由により,本件商標2のうち「ESS」の構成部
分は,特に観念を生じるものではないことが認められ,また,本件商標2
のうち,同構成部分だけを取り出して,被告標章と比較し,その類否を判
断することができるというべきである。
イ被告標章について
被告標章の外観,称呼及び観念については,前記(2)イのとおりである。
ウ対比
本件商標2と被告標章を対比すると,本件商標2と被告標章の称呼は,
いずれも「イイエスエス」であり,また,全体においても,いずれも「イ
イエスエスジャパン」であるから,称呼が同一である。
また,本件商標2と被告標章の観念はいずれも,造語であって特定の観
念をもたない「ESS」の文字部分と我が国の国名「日本」を表す「Ja
pan」の文字部分とから成るから,同一である。
そして,本件商標2と被告標章の外観は,本件商標2が,欧文字「ES
SJapan」を標準文字で横書きして成るものであるのに対して,被
告標章は,文字全体において緑色でゴシック体の書体とし,「ESS」の
構成部分は斜体とし,「Japan」の構成部分にはその上部に青色の円
弧が付されているが,いずれも大きな相違とはいえず,本件商標2と被告
標章とは外観が類似するということができる。
エ指定商品役務の類否
本件商標権2に係る指定商品役務は別紙商標目録記載2のとおりであり,
被告が提供する役務である,発電所の建設工事及び発電設備装置の設置工
事やこれらに関するコンサルティング,並びに,電気の供給は,上記指定
商品役務のうち太陽光発電装置の据付・修理又は保守,太陽光発電装置の
据付・修理又は保守に関するコンサルティング(第37類)と類似する。
オ被告の主張に対する判断
前記(2)オのとおりである。
カ以上のとおりであるから,本件商標2と被告標章は類似する。
したがって,被告による被告標章の使用は商標法37条1号に該当し,
被告が本件商標権2を侵害したものと認められる。
2争点(2)(先使用権の成否)について
(1)被告は,先使用により被告標章を使用する権利を有すると主張するので,
この点について検討する。
証拠(甲15,乙1ないし9,11)及び弁論の全趣旨によれば,被告が
平成21年8月7日の設立以来,その商号を「株式会社ESSジャパン」と
し,大規模太陽光発電所(メガワット・ソーラー)の企画・開発・建設・運
営並びに経営コンサルティング等を事業としていること,同月頃に「ESS
J.JP」のドメイン名を登録し,被告各ウェブサイトを開設しており,平
成22年9月頃から被告標章を被告各ウェブサイトに掲載しているほか,そ
の頃から被告会社説明書にも被告標章を表示していること,平成21年9月
に福岡県内に太陽光発電設備を設置する事業に関して,中電工から電気設備
工事の見積もりをとったことがあるほか,平成24年8月に創電開発株式会
社と山梨県内における太陽光発電所の建設及び運営について業務委託契約を
締結し,当該業務に従事したこと,そのほかに,太陽光発電所の建設事業に
関連して被告が用地提供のとりまとめを自らあるいは第三者に委託して地権
者と交渉するなどした案件として,平成24年10月頃における千葉県市原
市内の土地に関するものや,同月頃における熊本市内の土地に関するもの,
平成24年11月頃における北海道釧路郡釧路町内の土地に関するものとい
った案件があること,被告各ウェブサイトには,被告が実施した大規模太陽
光発電所設立計画コンサルティング業務の案件として上記福岡県内の事業の
ほかに,平成21年8月の兵庫県におけるものや同年10月の高知県におけ
るものが紹介されているほか,太陽光発電所設立計画を策定中の案件として
平成24年3月の北群馬郡におけるものや伊豆半島東部におけるものが紹介
されていること,以上の事実が認められる。
なお,被告が主張するその他の事業に関する事実は認めるに足りる証拠が
ない。
(2)上記(1)の認定事実によると,被告による被告標章の使用は,平成22年9
月頃から行われている被告各ウェブサイトへの掲載及び被告会社説明書への
掲載に限られており,被告各ウェブサイトへの掲載については,その閲覧数
すら明らかではない。また,被告会社説明書への掲載についても,その頃か
ら本件商標2につき商標登録出願した平成25年7月18日までの期間にお
ける被告の実績が上記(1)の限度でしか認められず,その事業規模すら具体的
ではないのであって,被告会社説明書の交付数も明らかではない。
そうすると,原告が本件商標1を商標登録出願した平成24年12月13
日の時点においてはもとより,原告が本件商標2を商標登録出願した平成2
5年7月18日の時点においても,被告標章が取引者,需要者にとって広く
認識されていたとはおよそ認めることができず,ほかにこれを認めるに足り
る的確な証拠はない。
(3)したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告の前記主張は
理由がない。
3争点(3)(権利濫用の成否)について
被告は,原告が,被告が被告標章を商標登録していないことを奇貨として,
被告の業務を妨害し,あるいは,被告の顧客の乗っ取りを企図して,本件各商
標の商標登録出願をしたとして,原告の被告に対する本件各商標権の行使は権
利濫用に当たると主張する。
しかし,証拠(甲4ないし13)によれば,本件商標1及び本件商標2のう
ち「ESS」の構成部分は,原告の英文の名称「EnerGiaSolution&Service」
の頭文字を繋げて短縮した頭字語から成るものであって,原告はこれを,平成
13年10月1日の会社設立当時から継続して使用し,本件商標1の商標登録
出願時においてもこれを使用して太陽光発電事業を営んでいたことが認められ
る。
そして,本件全証拠を精査しても,原告が本件各商標の商標登録出願に際し,
被告の業務を妨害し,あるいは,被告の顧客の乗っ取りを企図していたことを
認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,原告による本件各商標の商標
登録出願は,被告が被告標章を商標登録していないことを奇貨として行われた
ものと認めることはできないから,原告の被告に対する本件各商標権の行使が
権利濫用に当たるとの被告の上記主張は理由がない。
4結論
以上によれば,本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,
なお,主文第2項及び第3項の請求については仮執行宣言を付するのは相当で
ないから,これを付さないこととして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
実本滋
裁判官
足立拓人
(別紙)
被告標章目録
(別紙)
被告ウェブサイト目録
<略>のURLにより特定されるインターネットのウェブページ及び
同ドメイン名下において存在する全てのインターネットウェブページ
(別紙)
商標目録
1登録番号第5587859号
登録日平成25年6月7日
出願番号商願2012-104860
出願日平成24年12月13日
登録商標ESS(標準文字)
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第4類固体燃料,液体燃料,気体燃料
第37類発電設備工事,電気工事,その他の建設工事,コージェネ
レーション機能を備えた発電装置の設置工事,発電設備工
事に関する助言,その他の建築工事に関する助言,発電設
備工事に関する技術指導,発電設備工事に関するコンサル
ティング,電気工事に関するコンサルティング,管工事に
関するコンサルティング,空調設備・給湯設備・電気設備
・発電設備・ガス設備・通信設備の運転・点検・整備,暖
冷房装置の修理又は保守,暖冷房装置の修理又は保守に関
するコンサルティング,バーナーの修理又は保守,バーナ
ーの修理又は保守に関するコンサルティング,ボイラーの
修理又は保守,ボイラーの修理又は保守に関するコンサル
ティング,ポンプの修理又は保守,ポンプの修理又は保守
に関するコンサルティング,冷凍機械器具の修理又は保守,
冷凍機械器具の修理又は保守に関するコンサルティング,
電動機の修理又は保守,電動機の修理又は保守に関するコ
ンサルティング,配電用又は制御用の機械器具の修理又は
保守,配電用又は制御用の機械器具の修理又は保守に関す
るコンサルティング,発電機の修理又は保守,発電機の修
理又は保守に関するコンサルティング,コージェネレーシ
ョン機能を備えた発電装置の修理又は保守,コージェネレ
ーション機能を備えた発電装置の修理又は保守に関するコ
ンサルティング,発電設備・受電設備・変電設備・配電設
備の修理又は保守,発電設備・受電設備・変電設備・配電
設備の修理又は保守に関するコンサルティング,エネルギ
ー設備に関する保守,太陽光発電装置の据付・修理又は保
守,太陽光発電装置の据付・修理又は保守に関するコンサ
ルティング
第39類ガスの供給,電気の供給,水の供給,熱の供給
第40類コージェネレーション機能を備えた発電機の貸与,太陽光
発電装置の貸与,発電機の貸与,変圧器の貸与
第42類建築物の設計,建築物の設計に関する助言,建築物の設計
に関するコンサルティング,配電用又は制御用の機械器具
の設計,発電機の設計,発電装置の設計,発電設備の設計,
受電設備の設計,変電設備の設計,配電設備の設計,電気
設備の設計,電気通信設備の設計,コージェネレーション
装置・給湯器・冷暖房装置等の装置により構成される設備
の設計,省エネルギー機器若しくは設備の設計,その他の
機械・装置若しくは器具(これらの部品を含む。)又はこ
れらの機械等により構成される設備の設計,地域冷暖房器
具の設計,燃料処理装置の設計,建築又は都市計画に関す
る研究,公害の防止に関する試験又は研究,電気に関する
試験又は研究,発電・配電及び電力の利用に関する試験又
は研究,省エネルギーに関する試験又は研究,省エネルギ
ーに関するコンサルティング,機械器具に関する試験又は
研究,都市計画における太陽光エネルギー・河川水保有熱
エネルギー・工場排熱エネルギー・下水廃熱エネルギー及
びゴミ焼却エネルギーの有効利用に関する試験・研究又は
調査,未利用エネルギーに関する調査・試験又は研究,コ
ージェネレーションシステムに関する試験又は研究,圧縮
天然ガスステーション機器に関する調査・研究,太陽光発
電装置の研究又は開発
第45類ボイラーの貸与,動力機械器具の貸与
2登録番号第5639898号
登録日平成25年12月27日
出願番号商願2013-55832
出願日平成25年7月18日
登録商標ESSJapan(標準文字)
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第37類発電設備工事,電気工事,その他の建設工事,コージェネ
レーション機能を備えた発電装置の設置工事,太陽光発電
装置の設置工事,発電設備工事に関する助言,その他の建
築工事に関する助言,発電設備工事に関する技術指導,発
電設備工事に関するコンサルティング,電気工事に関する
コンサルティング,管工事に関するコンサルティング,太
陽光発電装置の設置工事に関するコンサルティング,空調
設備・給湯設備・電気設備・発電設備・ガス設備・通信設
備の運転・点検・整備,暖冷房装置の修理又は保守,暖冷
房装置の修理又は保守に関するコンサルティング,バーナ
ーの修理又は保守,バーナーの修理又は保守に関するコン
サルティング,ボイラーの修理又は保守,ボイラーの修理
又は保守に関するコンサルティング,ポンプの修理又は保
守,ポンプの修理又は保守に関するコンサルティング,冷
凍機械器具の修理又は保守,冷凍機械器具の修理又は保守
に関するコンサルティング,電動機の修理又は保守,電動
機の修理又は保守に関するコンサルティング,配電用又は
制御用の機械器具の修理又は保守,配電用又は制御用の機
械器具の修理又は保守に関するコンサルティング,発電機
の修理又は保守,発電機の修理又は保守に関するコンサル
ティング,コージェネレーション機能を備えた発電装置の
修理又は保守,コージェネレーション機能を備えた発電装
置の修理又は保守に関するコンサルティング,発電設備・
受電設備・変電設備・配電設備の修理又は保守,発電設備
・受電設備・変電設備・配電設備の修理又は保守に関する
コンサルティング,エネルギー設備に関する保守,太陽光
発電装置の据付・修理又は保守,太陽光発電装置の据付・
修理又は保守に関するコンサルティング
第39類ガスの供給,太陽光発電装置による電気の供給,その他の
電気の供給,太陽光発電装置による電気の供給に関する情
報の提供及びコンサルティング,水の供給,熱の供給

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弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
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なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
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