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平成28年4月14日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成26年(ワ)第9977号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成28年1月22日
判決
原告シャープ株式会社
同訴訟代理人弁護士鎌田邦彦
同奥山隆輔
同北井歩
同毒島光志
同訴訟代理人弁理士深見久郎
同堀井豊
同荒川伸夫
同岡始
被告ダイニチ工業株式会社
同訴訟代理人弁護士細貝巌
同訴訟代理人弁理士吉井雅栄
同吉井剛
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は原告に対し,3億円及びこれに対する平成26年10月23日から支払済
みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,後記本件特許権1ないし3を有する原告が,後記被告製品1,2のハイ
ブリッド式加湿器を製造販売していた被告に対し,被告製品1を製造販売する行為
が原告の有する本件特許権1ないし3を侵害し,被告製品2を製造販売する行為が
本件特許権2及び3を侵害する旨主張して,損害賠償として合計3億円(被告製品
1についての損害額2億8800万円の内金1億6500万円,被告製品2につい
ての損害額3億4000万円の内金1億2500万円,弁護士費用及び弁理士費用
相当の損害額2000万円の内金1000万円の合計額)及びこれに対する不法行
為の日の後である平成26年10月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1判断の基礎となる事実(以下の各事実は,当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア原告は,通信機械器具,電気機械器具,電子応用機械器具,医療機械器具,
計量機械器具その他機械器具の製造販売等を業とする株式会社であり,加湿器を製
造販売している。
イ被告は,ガス,石油機器,厨房用品,発煙用機器,防除用機器,家庭用電気
製品の製造販売等を業とする株式会社である。
(2)原告の特許権
ア本件特許権1
原告は,以下の特許権(以下「本件特許権1」という。)を有している(以下,
この特許を「本件特許1」,同特許に係る特許請求の範囲のうち請求項1に記載さ
れた発明を「本件発明1-1」,請求項2に記載された発明を「本件発明1-2」,
両者を併せて「本件発明1」といい,同特許に係る明細書を「本件明細書1」とい
う。)。
(ア)登録番号特許第3497738号
(イ)発明の名称加湿器
(ウ)出願日平成10年7月29日
(エ)登録日平成15年11月28日
(オ)特許請求の範囲
【請求項1】
室内湿度を検出する湿度センサーと,室内温度を検出する温度センサーと,加湿
用の水蒸気を発生する水蒸気発生装置とからなる加湿器において,上記室内温度で
の湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な
加湿程度選択手段と,選択された該加湿程度及び検出された該室内温度に基づいて
加湿度を設定し,該加湿度に基づいて該水蒸気発生装置を制御する制御手段とを設
けたことを特徴とする加湿器。
【請求項2】
前記加湿程度選択手段は,選択可能な複数の加湿運転モードを設けたことを特徴
とする請求項1に記載の加湿器。
(カ)作用効果
本件明細書1に次のとおり記載されている。
【0030】本発明に係る加湿器によれば,室内湿度を検出する湿度センサーと,
室内温度を検出する温度センサーと,加湿用の水蒸気を発生する水蒸気発生装置と
からなる加湿器において,加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段と,選択された
該加湿程度及び検出された該室内温度に基づいて加湿度を設定し,該加湿度に基づ
いて該水蒸気発生装置を制御する制御手段とを設けたことにより,室内温度に応じ
た適湿な加湿運転ができる。
【0031】また,前記加湿程度選択手段によいり,複数以上の加湿運転モード
(「喉うるおい」「適湿」「ひかえめ」)を設けたことで,室内温度での湿度設定
に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した湿度での加湿運転をすることが出
来,使用者の快適度合いが満足される。
イ本件特許権2
原告は,以下の特許権(以下「本件特許権2」という。)を有している(以下,
この特許を「本件特許2」,同特許に係る特許請求の範囲の請求項1に記載された
発明を「本件発明2」といい,同特許に係る明細書を「本件明細書2」とい
う。)。
(ア)登録番号特許第4666516号
(イ)発明の名称加湿機
(ウ)出願日平成18年8月23日
(エ)登録日平成23年1月21日
(オ)特許請求の範囲
【請求項1】
通気路中の送風機の回転に従い,外部の空気を吸い込んで加湿し,加湿した空気
を外部へ吹き出す加湿機であって,前記通気路内には,前記送風機の上流域に,水
を貯めるトレイと,このトレイに貯まっている水に下部が浸されて水分を含んだ加
湿フィルタと,が配され,前記トレイには,前記通気路の外に配されるとともに給
水タンクからの水を貯めて前記トレイと互いに連通する補助トレイが接続されてい
て,前記補助トレイに貯まっている水が減って水不足の水位に達したことを検知す
るトレイ水位検知部と,前記送風機の回転動作を制御する制御部とを備えており,
前記送風機の回転に従って,前記補助トレイ内の水面には大気圧が作用する一方で,
前記トレイ内の水面には負圧が作用し,前記制御部は,前記送風機を回転させてい
る加湿運転中に前記トレイ水位検知部から検知出力を受けたとき,所定時間が経過
するまで前記送風機の回転を継続させることを特徴とする加湿機。
(カ)作用効果
本件明細書2には次のとおり記載されている。
【0014】本発明の加湿機によれば,補助トレイ内の水が水不足の水位に達した
際,給水タンクへの水の補給が済むまで加湿運転が再開されず,結果として,誤動
作を防止できる。
ウ本件特許権3
原告は,以下の特許権(以下「本件特許権3」という。)を有している(以下,
この特許を「本件特許3」,同特許に係る特許請求の範囲の請求項1に記載された
発明を「本件発明3」といい,同特許に係る明細書を「本件明細書3」という。)。
(ア)登録番号特許第3561443号
(イ)発明の名称加湿器
(ウ)出願日平成11年7月23日
(エ)登録日平成16年6月4日
(オ)特許請求の範囲
【請求項1】
室内の湿度を検出する湿度センサーと,水蒸気を発生させて加湿を行う水蒸気発
生装置と,湿度を設定する設定スイッチと,検出湿度及び設定湿度に基づいて前記
水蒸気発生装置の動作を制御する制御装置とを備え,該制御装置は,運転スタート
時において設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気発
生装置を動作させることを特徴とする加湿器。
(カ)作用効果
本件明細書3には次のとおり記載されている。
【0024】以上の説明から明らかな通り,本発明によると,運転スタート時に設
定された湿度や室内の現在の湿度に関係なく強制的に一定時間加湿運転を行うので,
設定湿度が検出湿度より低くて運転が行われない状況であっても運転が行われる。
そのため,ユーザーが湿度を設定して運転をスタートさせたとき,上記の状況であ
れば本来運転が行われないのであるが,強制的に運転することによって,運転が行
われないことを故障であるとユーザーが誤認識することを防止できる。しかも,こ
のときユーザーがあわてて間違った操作をした場合に加湿器に発生する誤動作も防
止できる。
(3)本件発明1ないし同3(以下「本件各発明」という。)の構成要件
本件各発明の構成要件を分説すれば,別紙対比表1ないし3の本件各発明の分説
欄記載のとおりである。
(4)被告の行為
被告は,別紙物件目録1,2記載の加湿器(以下,それぞれ「被告製品1」,
「被告製品2」といい,両者を併せて「被告各製品」という。)を,平成21年8
月から業として製造販売している。
(5)本件特許3の訂正請求
原告は,本件特許3の特許無効審判手続において,平成27年8月31日付けの
審決の予告(乙29)が出されたことを受け,同年9月25日付けで訂正請求を行
った(甲13,以下「本件訂正」という。)。本件訂正後の本件特許3の請求項1
は以下のとおりであり(以下,同請求項の発明を「本件訂正発明3」という。),
本件訂正発明3を分説すると,別紙対比表3の「本件訂正発明3の分説」欄記載の
とおりである。
【請求項1】
室内の湿度を検出する湿度センサーと,水蒸気を発生させて加湿を行う水蒸気
発生装置と,湿度を設定する設定スイッチと,検出湿度および設定湿度に基づいて
前記水蒸気発生装置の動作を制御する制御装置とを備え,該制御装置は,運転スタ
ート時において設定湿度と前記湿度センサーが検出した検出湿度とを比較して設定
湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気発生装置を動作さ
せることを特徴とする加湿器。」
2争点
(1)被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)
(3)被告各製品は本件発明2の技術的範囲に属するか(争点3)
(4)本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものか(争点4)
(5)被告各製品は本件発明3の技術的範囲に属するか(争点5)
(6)本件特許3は特許無効審判により無効にされるべきものか
ア本件特許3は特許法29条の2の規定により特許無効審判により無効にされ
るべきものか(争点6-1)
イ本件特許3は特許法29条2項の規定により特許無効審判により無効にされ
るべきものか(争点6-2)
(7)本件特許3についての訂正の再抗弁の成否(争点7)
(8)原告の損害額(争点8)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1)本件発明1の構成要件を分説すると,別紙対比表1の「本件発明1-1の分
説,同1-2の分説」欄記載のとおりであり,これに対応する被告製品1の構成を
分説すると,同対比表の「原告主張被告製品1の構成」欄記載のとおりであり,被
告製品1の構成は,本件発明1-1,同1-2の各構成要件を全て充足する。
(2)構成要件1B,1C,1Eの充足について
本件発明1の構成要件1Bの加湿程度選択手段は,適湿モードを含む三つの選択
手段があることを要件とするものではなく,高め・低めとを加味した加湿程度を選
択できれば足りるところ,被告製品1は,「サラリ加湿ボタン」と「のど・肌加湿
ボタン」により,室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加
味した加湿程度である「サラリ加湿」及び「のど・肌加湿」を選択できるようにな
っているから,構成要件1Bの要件を充足し,したがって,その要件を前提とする
構成要件1C,1Eを充足することも明らかである。
また,本件発明1に対応する被告製品1の作用効果によれば,被告製品1が,本
件発明1の作用効果を奏することは明らかである。
(3)被告の主張に対する反論
ア被告は,本件発明1は,拒絶査定に対する不服審判請求手続において原告が
手続補正書(乙10,以下「本件手続補正書」という。)を提出し,本件発明1が
「三つの選択モードを有する構成であること」に限られるという解釈を明らかにす
ることによって特許査定となったから,これと異なる解釈の主張は禁反言の原則に
照らし許されない旨主張する。
しかし,本件手続補正書に対応する補正は誤記を訂正しただけのもので何ら構成
を限定するものではないし,また,その手続補正書においても本件発明1を三つの
加湿程度選択手段を有する構成に限定する旨の記載がないことも一見して明らかで
ある。
本件手続補正書において三つの加湿程度について触れている部分は,具体例とし
て挙げているものにすぎず,これらが本件発明1を三つの加湿程度選択手段を有す
る構成に限定する趣旨でないことは明らかである。
また,拒絶査定(乙8)に対する本件手続補正書における記載部分も,本件発明
1を三つの加湿程度選択手段を有する点で引用文献2(特開平5-52392号公
報。乙3,以下「乙3公報」といい,これに記載された発明を「乙3発明」とい
う。)から差別化しているわけではなく,この点においても,本件発明1を三つの
加湿程度選択手段を有する構成に限定などしていないことは明らかである。
そもそも拒絶査定で引用された乙3公報は,本件発明1とは全く異なるものであ
り,拒絶査定(乙8)は乙3公報の単なる誤解に基づくものであったから,原査定
は取り消され特許査定されたのである。
イ被告は,被告製品1の適湿モードに相当する運転モードを不要とし,サラリ
モードとのど・肌モードとを比較したとしても,設定湿度が高い範囲もあれば低い
範囲もあり,一方が高め,他方が低めを加味した運転モードとは言えないから,サ
ラリ加湿(「サラリモード」)は使用者の希望の低めを加味した運転モードという
ことはできないと主張する。
しかし,本件発明1は,高め・低めとを加味した加湿程度を選択できればよいの
であるから,例外的な場合に,高い場合や低い場合,同じ場合が混在していたとし
ても,サラリモードとのど・肌モードとをもって,室内温度での湿度設定に使用者
の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度が選択できるとの要件を満たして
いる。
【被告の主張】
(1)被告製品1が,本件発明1の構成要件1A,1Dを充足することは認めるが,
構成要件1Bを充足しておらず,したがって,1Bを前提とする構成要件1C,1
Eも充足しない。
(2)構成要件1Bの解釈について
ア構成要件1Bの「上記室内温度での湿度設定に」の文言は,不明瞭な記載と
言えるが,その文脈及び本件明細書1に記載の本件発明1の目的,作用効果,その
実施例の記載を参酌すれば,上記文言は「上記室内温度での基準となる適湿な湿度
設定に」の意味である。「高め・低めとを加味した」の文言も,その文脈などから
して「この適湿モードの各室内温度における適湿な湿度設定に,更にこれに比べて
高め・低めとを加味した」の意味であるから,構成要件1Bは,合計三つの加湿程
度(加湿モード)に選択可能な加湿度選択手段を有することを内容とする構成要件
であると解される。
イまた原告は,以下のとおりの審査過程からこれに反する解釈を主張すること
は許されない。
すなわち原告は,本件特許権1に関し,適湿モード,すなわち,おまかせ運転モ
ード(自動制御モード)が開示されている引用文献1(特開平4-335943号
公報。乙1,以下「乙1公報」いい,これに記載されている発明を乙1発明)とい
う。)と,湿度設定を40%,50%,60%と選択できることが開示されていて,
その選択により室温に応じて加湿度(加湿量)が変更制御される乙3公報などから
容易に考えられる発明にすぎないとして一旦拒絶査定(乙8)を受けた。
原告は,この拒絶査定を不服として審判請求(乙9)をし,この審判請求時にこ
の拒絶査定に対しての反論と請求項1を補正した手続補正書(乙10,11)を提
出したが,その中で,請求項1記載の「室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希
望の高め・低めとを加味した加湿程度」なる構成要件(1B)には,高め・低めの
加湿程度と,これらの前提となる標準的な湿度に設定する加湿程度とが含まれてい
るということを自ら解説し,これが本件発明1の特徴であると拒絶査定に対して反
論して特許査定を受けている。
このように,この反論が認められて拒絶査定が覆り特許査定となったのだから,
禁反言の原則により,本件発明1は,検出した室内温度に適した標準的な湿度に設
定する加湿程度,すなわち,適湿モードがあることが前提(必須)である構成に特
定されている発明であると解すべきであり,これに異なる主張は許されない。
(3)構成要件1B,1C,1Eの非充足について
ア被告製品1は,室内温度に対して,その温度に適した標準的な湿度に設定す
る加湿程度,すなわち,本件発明1の適湿な湿度設定に相当する加湿程度はない製
品であるから,室内温度に応じた目標湿度が高めに設定されている「のど・肌モー
ド」と,低めに設定されている「サラリモード」とを有していても,適湿モードは
ない。
したがって,被告製品1は構成要件1Bを充足しておらず,これを前提とする構
成要件1Cも構成要件1Eも充足しておらず,本件発明1の技術的範囲に属さない。
イまた,本件発明1が適湿な湿度設定を不要とし,加湿程度を高め・低めに設
定する選択手段があれば足りるとしても,サラリモードとのど・肌モードは,設定
湿度が高い範囲もあれば低い範囲もあり,一方が高め,他方が低めを加味した運転
モードとは直ちに言えないから,サラリ加湿(「サラリモード」)は使用者の希望の
低めを加味した運転モードということはできない。
ウ本件発明1の作用効果は,本件発明1の構成要件を備えることにより,「室
内温度に応じた適湿な加湿運転ができる。」,「使用者の快適度合が満足される。」で
あるが,被告製品1は,その時の室内温度に対してその温度に適した標準的な湿度
に設定する加湿程度(適湿モード)はないので,室内温度に応じた適湿な加湿運転
をするものではないから,本件発明1の作用効果を奏しないものである。
したがって,被告製品1は,この点からも本件発明1の技術的範囲に属さない。
2争点2(本件特許1は特許無効審判により無効にされるべきものか)につい

【被告の主張】
(1)本件発明1は,以下のとおり,本件特許1の出願前に頒布された乙1公報及
び特開平6-42798号公報(乙2,以下,「乙2公報」といい,これに記載さ
れた発明を「乙2発明」という。)に記載された乙1発明及び乙2発明に基づいて
当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないものであり,同法123条1項2号に該当し,本件特許1は
特許無効審判により無効とされるべきものである。
(2)乙1発明
ア乙1公報の記載
乙1公報の請求項1には,「部屋の加湿を行なう加湿部と,部屋の温度を検出す
る室温センサと,部屋の相対湿度を検出する相対湿度センサと,前記室温と相対湿
度のデータから単位時間の絶対湿度変化率を演算する第1の演算器と,その室温に
対応して予め定められた目標相対湿度と現在の相対湿度との湿度偏差を演算する第
2の演算器と,前記室温センサ,第1の演算器および第2の演算器の出力を入力す
るファジー推論部とを備え,前記ファジー推論部は,室温,絶対湿度変化率,湿度
偏差のデータからファジー推論を用いて最適加湿量を演算し,求めた最適加湿量に
応じて前記加湿部を能力制御するようにした加湿装置。」との記載がある。
また,【0006】には,「本発明は上記した課題解決手段により,室温に対応
して予め定められた目標相対湿度(その温度に於ける快適湿度)を設定し,また,
絶対湿度変化率によって部屋の広さや密閉度合を測定し,湿度偏差に応じて徐々に
加湿量を制御するようにこれらデータを用いてファジー推論を行い,部屋の総合的
な状況に応じて最適加湿量を求め,湿度変動もなく,結露状態もない安定した快適
状態を作り出すよう加湿制御ができる。」との記載がある。
さらに,図4には,加湿装置の室温に応じた目標湿度曲線を示す図(検出した部
屋の室温に応じて目標湿度(設定湿度)が変化することを示す目標湿度曲線を示す
グラフ)が開示されており,具体的には,室温17℃~26℃にかけて,検出する
室温が変化すると目標湿度(設定湿度)も変化することが示されている。
イこれらの記載からすると,上記の「部屋の相対湿度を検出する相対湿度セン
サ」は,本件発明1-1の「室内湿度を検出する湿度センサー」に,また,「部屋
の温度を検出する室温センサ」は,本件発明1-1の「室内温度を検出する温度セ
ンサー」に,さらに,上記の「部屋の加湿を行なう加湿部」は,【0009】の記
載から,本件発明1-1の「加湿用の水蒸気を発生する水蒸気発生装置」に相当す
るものであり,これらによれば,本件発明1-1における構成要件1Aに相当する
構成が開示されている。
そして,上記の「ファジー推論部」は,室温,絶対湿度変化率,湿度偏差のデー
タからファジー推論を用いて最適加湿量を演算し,求めた最適加湿量に応じて前記
加湿部を能力制御するとの記載があることから,本件発明1-1の設定した「加湿
度に基づいて水蒸気発生装置を制御する制御手段」に相当する。また,上記の「室
温に対応して予め定められた目標相対湿度(その温度に於ける快適湿度)を設定し」
や図4に開示されている内容は,検出された該室内温度に基づいて加湿度を設定す
る構成であるといえ,本件発明1-1の「選択された該加湿程度及び検出された該
室内温度に基づいて加湿度を設定」する構成要件1Cの一部に相当するものである。
したがって,この乙1公報には,本件発明1-1の構成要件1Aに相当する構成
及び構成要件1Cそのものではないが,検出された室内温度に基づいて加湿度を設
定する構成が記載されている。
さらに,乙1公報には,室温,絶対湿度変化率,湿度偏差のデータからファジー
推論を用いてそのときの室温に応じて最適加湿量を演算し,求めた最適加湿量に応
じて加湿部を能力制御するようにしたから,過度の加湿による不快状態や結露状態
を招くことが解消され,室温に応じた快適湿度に制御されるため,どの温度領域に
おいても快適湿度が実現される,という効果を奏することが記載されている。
(3)乙2発明
ア乙2公報の請求項2には,外気温度を検知する外気温度検知手段を有すると
の記載,及び外気温度検知手段で検知した外気温度が所定温度以下の場合,室内の
湿度を所望の設定湿度より低下させるように前記加湿手段を制御する制御手段を有
するとの記載,請求項3には,少し加湿,もっと加湿を含む相対的体感湿度情報を
入力する入力手段を有するとの記載,及び前記入力手段によって入力された相対的
体感湿度情報及び前記湿度検知手段で検知した室内の湿度に基づいて前記加湿手段
を制御する制御手段を有するとの記載がある。
また,【0023】には,外気温センサで検知される外気温によって設定湿度を
補正するとの記載,【0024】には,湿度の設定方法についての説明で,「「高
湿(または強湿」,「標準」,「低湿(または弱湿)」等のボタンをリモコン4ま
たは操作部11に設ける。使用者はこれらのボタンの1つを押して,所望の湿度を
選択し,これにより設定湿度を決める。」との記載,【0033】には,「体感湿
度による設定湿度として,高湿,標準,低湿が示されているが,これらはそれぞれ
「もっと加湿」,「普通に加湿」,「少し加湿」等に対応するもの」との記載があ
る。
さらに,図6(a)及び図6(b)に,使用者が選択する「高湿」,「標準」,
「低湿」のいずれの加湿程度でも,検知する温度帯により異なる湿度が設定される
ことが示されている。使用者が「高湿」を選択した場合は,検知した外気温度が0
℃以下ならば設定湿度は50%になり,0℃~10℃ならば50%~55%,10
℃以上ならば55%に設定され,また,「標準」を選択した場合は,検知した外気
温度が0℃以下ならば設定湿度は40%になり,0℃~10℃ならば40%~45
%,10℃以上ならば45%に設定され,また,「低湿」を選択した場合は,検知
した外気温度が0℃以下ならば設定湿度は30%になり,0℃~10℃ならば30
%~35%,10℃以上ならば35%に設定されることが示されている。
イ上記アの「少し加湿,もっと加湿を含む相対的体感湿度情報を入力する入力
手段」は,本件発明1-1の「使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿
程度を選択可能な加湿程度選択手段」(1B)及び本件発明1-2の「加湿程度選
択手段は,選択可能な複数の加湿運転モードを設けたことを特徴とする請求項1に
記載の加湿器」(1Eの一部)に相当するものであり,また,「外気温センサで検
知される外気温によって設定湿度を補正する」との記載より,検出する温度は室温
か外気温かで異なるが,検出した温度に基づいて湿度を設定する発想が開示されて
いる。
しかも,この使用者が選択する「高湿」,「標準」,「低湿」のいずれの加湿程
度でも,検知する温度帯により異なる湿度が設定されるので,この点は,検出する
温度が,本件発明1-1が室温なのに対して,この乙2発明は外気温なので,本件
発明1-1とこの乙2発明とは同一発明ではないが,まさに「検出する温度での湿
度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な加湿
程度選択手段」を設けた構成と,「選択された該加湿程度及び検出された温度に基
づいて加湿度を設定する」構成との双方を兼ね備える構成(発想)が,この乙2発
明に開示されている。
したがって,この乙2公報には,本件発明1-1の構成要件1B及び1Cの一部
に相当する構成の双方を兼ね備え,また,本件発明1-2の構成要件1Eの一部に
相当する構成も記載されている。
(4)本件発明1と公知技術(先行する公知文献に記載の発明)との対比
ア本件発明1-1と乙1発明との対比
本件発明1-1と乙1発明とを対比すると,両者は共に加湿器(構成要件1D)
であり,室内の温度に応じて,自動的に適切な加湿制御を行なうものである点で共
通する。しかし,本件発明1-1は,室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望
の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段(構成要件1B)
があるのに対し,乙1発明には,この室内温度での湿度設定には,ファジー推論を
用いて室温に応じた最適加湿量に設定する構成が記載されているものの,この「湿
度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な加湿
程度選択手段」がない点で相違する。
乙2発明には,前記のとおり,構成要件1Bに相当する構成と構成要件1Cの
「選択された該加湿程度及び検出された該室内温度に基づいて加湿度を設定」する
構成とを兼ね備える発想が開示されている。
したがって,この乙2発明を乙1発明に適用することは当業者が容易に想到し得
るものであるから,本件発明1-1は,乙1発明及び乙2発明に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものである。
また,主引例・副引例を入れ替えて対比しても,同様に本件請求項1の発明が前
記二つの引用例から容易に推考できる発明にすぎないとの結論に達する。すなわち,
乙2発明を主引例とすると,本件発明1-1は,検出された室内温度に基づいて湿
度が設定されるものであるのに対し,乙2発明は,検出された外気温に基づいて湿
度が設定されるものである点で相違する(相違点は,検出する温度が室内温度か外
気温かの違いだけである。)。そして,この乙2発明と本件発明1-1との相違点
である,室内温度に基づいて湿度が設定される構成は,乙1発明に記載されている
のであるから,乙1発明を乙2発明に適用することは当業者が容易に想到し得るも
のであり,本件発明1-1は,同様に,乙1発明及び乙2発明に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものであるといえる。
イ本件発明1-2と公知技術との対比
本件発明1-2と乙2発明とを対比すると,両者は共に加湿器に係る発明であり
(構成要件1D),また,本件発明1-2の発明の加湿程度選択手段に選択可能な
複数の加湿運転モードを設ける構成(構成要件1E)に相当する構成は,乙2発明
に記載されている。
したがって,本件発明1-2は,乙1発明及び乙2発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
【原告の主張】
被告の主張は,以下のとおり,理由がない。
(1)本件発明1の意義
本件発明1は,「室温との対応が正確になされないために,過加湿になってしま
うなどの問題点があった」等の課題を解決するために(【0008】【発明が解決
しようとする課題】),特許請求の範囲に記載の構成を採用することにより,「室
内温度に応じた適湿な加湿運転ができる」(【0030】【発明の効果】),「室
内温度での湿度設定に使用者の湿度の高め・低めとを加味した湿度での加湿運転を
することが出来,使用者の快適度合いが満足される」(【0031】)という効果を
奏するものである。
(2)引用発明の認定
ア乙1発明
乙1発明は,「室温に応じた快適湿度に速やかに収束し,安定した温度環境をつ
くり出す加湿装置を提供することを目的としたものであ」り(【0004】),請
求項1記載の手段により,「本発明によれば・・・速やかに快適湿度に収束しまた
変動の少ない安定した湿度状態が実現できる。」(【0021】【発明の効果】)
を奏するものである。
乙1発明は,被告も認めるように,少なくとも,本件発明1の構成要件1Bの
「上記室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿
程度を選択可能な加湿程度選択手段と」,及び,構成要件1Cの「選択された該加
湿程度及び検出された該室内温度に基づいて加湿度を設定し」との構成を備えてい
ない。また,当然ながら乙1発明は構成要件1Eも備えていない。
乙1発明は,「室温に対応して予め定められた目標相対湿度(その温度における
快適湿度)を設定し」,「室温,絶対湿度変化率,温度偏差のデータからファジー
推論を用いて最適加湿量を演算し,求めた最適加湿量に応じて加湿部を能力制御す
るようにしたから・・・快適湿度が実現される」ものである(【0006】【作
用】,【0021】【発明の効果】)。すなわち,乙1発明は,その室温における
快適湿度を(単一の)目標相対湿度として予め定め(図4参照),使用者の制動操
作を要することなく装置において各種データを演算して加湿部を制御することによ
り快適湿度を自動的に実現しようとするものであるから,「室内温度での湿度設定
に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な加湿程度選
択手段」を設け,「選択された該加湿程度及び検出された該室内温度に基づいて加
湿度を設定」するという技術とは合わないものといえる。なお,被告は,乙1公報
には,本件発明1の構成要件1Cの一部である「検出された室内温度に基づいて加
湿度を設定する構成」が記載されている旨主張する。しかし,引用発明の認定は,
一まとまりの技術的思想として把握されるべきであり,その構成の一部のみを抜き
出して認定するのは相当でなく,被告の主張は誤っている。
イ乙2発明
乙2発明は,暖房加湿制御装置に関するもので,従来の加湿装置が「単に加湿を
行ったり,または圧縮機の能力に応じて加湿量を制御するというように比較的単純
なものであって,快適な加湿制御を行えないとともに,また窓や壁等に対する結露
対策も不十分であるという問題があ」ったことから(【0003】【発明が解決し
ようとする課題】),「室内湿度,室内温度,外気温等を検知して,快適な加湿制
御を行うとともに窓,壁等への結露を防止し得る暖房加湿制御装置を提供すること」
を目的として(【0004】),乙2公報の【0005】【課題を解決するための
手段】,【0006】及び【0007】に記載された手段等を採用することにより,
【0035】【発明の効果】),【0036】及び【0037】に記載の効果を奏
するものである。
被告は,このうち乙2公報の請求項2,請求項3及び実施例に係る発明を乙2公
報に係る引用発明として主張している。乙2発明は,【0023】,【0024】,
【0025】,図5,図6等に記載されているように,「高湿」,「標準」,「低
湿」といった使用者が選択した設定湿度を外気温センサによって検知される外気温
によって補正することにより結露を防止しようとするものである(すなわち,【0
024】には「ここで,設定湿度の補正方法を説明する前に,湿度の設定方法につ
いて説明する。・・・「高湿(または強湿)」,「標準」,「低湿(または弱湿)」
等のボタンをリモコン4または操作部11に設ける。使用者はこれらのボタンの1
つを押して,所望の湿度を選択し,これにより設定湿度を決める。そして,「高湿」
ボタンが押された場合には,この高湿に対して,例えば55%の湿度が設定湿度と
して選択される。また,標準に対しては,例えば45%,低湿に対しては,35%
が設定されるようにする。・・・」と記載され,【0023】には「図5は,窓や
壁等への結露を防止するために外気温センサ6で検知した外気温によって設定湿度
を補正する方法を示す表である。・・・本実施例では,外気温センサ6で検知され
る外気温によって設定湿度を補正することにより結露を防止している。」と記載さ
れ,【0025】には「・・・窓や壁への結露を防止するために,上述したように
決定された設定湿度を例えば5%程度下げるように決定する。すなわち,図5に示
すように,高湿,標準,低湿のように設定された湿度に対して,外気温が0℃以上
の場合に,湿度をそれぞれ55%,45%,35%と設定されたものに対して,外
気温が0℃以下の場合には,湿度をそれぞれ50%,40%,30%というように
5%低く設定する。・・・」と記載され,【0026】には「図6(a)は,図5
と同様な外気温による設定湿度の補正方法を示す表であるが,・・・」と記載され
ている。)。
乙2発明は,設定湿度を,(たとえば,高湿=55%,標準=45%,低湿=3
5%というように)固定値として設定し,その上で,結露防止のために外気温によ
って設定湿度をより低く補正するものである。すなわち,乙2発明は,設定湿度を
補正しているが,外気温によって補正するものであり,室内気温に応じて調整する
ものではない。また,乙2発明は,室内温度によって設定湿度を変えるものではな
く,設定湿度は室内温度に関係なく固定値として設定することを前提としている。
暖房加湿器である乙第2号証において室内温度は23℃~25℃で一定しているこ
とが想定されており(【0028】),およそ室内温度に応じて湿度設定を調整し
ようという発想はない。なお,本件発明1の(室内温度に基づいて湿度設定される)
「喉うるおい」等と乙2発明の(室内温度に関係なく固定値として設定される)
「高湿」とは全く異なるものである。
さらに,外気温による補正は結露防止のためだけに設定湿度をより低くすべく行
われるものにすぎず,およそ「室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高
め・低めとを加味した加湿程度を選択可能」とするようなものではない。
以上のとおり,乙2発明は,「室内温度での湿度設定」をするものではないし,
ましてや,「室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味し
た加湿程度を選択可能」とするようなものではないことは明らかで,乙2公報は,
本件発明1-1の構成要件1B及び1Cについて何らの示唆を与えるものではない。
また,乙2発明が本件発明1-2の構成要件1Eを備えないことも明らかである。
(3)本件発明1と乙1発明との対比
乙1発明は,前記のとおりであり,少なくとも,次の点で相違する。
①本件発明1-1の構成要件1Bの「上記室内温度での湿度設定に使用者の湿
度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段と」を
有さない(相違点1)。
②本件発明1-1の構成要件1Cの「選択された該加湿程度及び検出された該
室内温度に基づいて加湿度を設定し」との構成を有さない(相違点2)。
③本件発明1-2の構成要件1Eの構成を有しない(相違点3)。
(4)本件発明1と乙2発明との対比
乙2発明は,前記のとおりであり,少なくとも,次の点で相違する。
①本件発明1-1の構成要件1Bの「上記室内温度での湿度設定に使用者の湿
度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段と」と
の構成を有さない(相違点4)。
②本件発明1-1の構成要件1Cの「選択された該加湿程度及び検出された該
室内温度に基づいて加湿度を設定し」との構成を有さない(相違点5)。
③本件発明1-2の構成要件1Eの構成を有しない(相違点6)。
被告は,本件発明1と乙2発明の相違点は「検出する温度が室内温度か外気温度
かの違い」だけであると主張する。しかし,乙2発明は,外気温によって湿度設定
を補正するものであり,室内気温に応じて湿度設定を設定するものではなく,室内
温度に関係なく固定値として設定することを前提としている。さらに,乙2発明は,
単に結露防止のためだけに外気温によって設定湿度をより低く補正するもので,使
用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能とするようなもの
ではない。このように,乙2発明は,相違点4ないし6について何らの記載も示唆
もないものである。
(5)相違点についての検討
乙1発明も乙2発明も,相違点1ないし6に係る構成のいずれも備えておらず,
仮に乙1発明に乙2発明を適用したとしても,本件発明1-1及び同1-2の構成
に到達することはなく,本件発明1を容易に想到できないことは明らかであり,ま
た,同様に,仮に乙2発明に乙1発明を適用したとしても,本件発明1-1及び同
1-2の構成に到達することはなく,本件発明1を容易に想到できないことは明ら
かである。
さらに,乙1発明と乙2発明は,課題や作用効果を同じくするものではなく,こ
れらを組み合わせるべき動機付けはなく,むしろ,乙1発明は,室内温度に対応し
て目標湿度を設定するものであるのに対し,乙2発明は設定湿度を固定値として設
定することを基本とするものであるから,両者は相容れず,組み合わせが阻害され
ている。
3争点3(被告各製品は本件特許発明2の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1)本件発明2の構成要件を分説すると,別紙対比表2の「本件発明2の分説」
欄記載のとおりであり,これに対応する被告各製品の構成を分説すると,いずれも,
同表の「原告主張被告各製品の構成」欄記載のとおりであり,本件発明2の構成要
件を全て充足する。
(2)構成要件2Gの充足について
被告各製品は,被告の主張によっても,「水位低下検知後・・・ファンが止まら
ないうちに,ファンを30秒~50秒・・・アフターランした後,更にファンが停
まらないうちに・・・5分間ONによって5分程度回転する(アフターランする)」
構成である。すなわち,(ファンが回転している)加湿運転中にトレイ水位検知部
から検知出力を受けたときにファンを強回転で30~50秒間(さらに微弱回転で
5分間)回転させており,被告各製品が本件発明2の構成要件2G(「前記制御部
は,前記送風機を回転させている加湿運転中に前記トレイ水位検知部から検知出力
を受けたとき,所定時間が経過するまで前記送風機の回転を継続させることを特徴
とする」)を充足するものであることは明らかである。
(3)構成要件2Gについての被告の主張について
アアフターランの目的が異なるとの主張に対して
被告は,被告各製品が水位低下検知後,直ちに停止せずに送風機の回転を継続さ
せる,いわゆるアフターラン(以下「アフターラン」ともいう。)の目的は,本件発
明2のアフターランの目的とは全く異なり,ヒーター冷却と機内換気のためのアフ
ターランである旨の主張をするが,仮に被告各製品のアフターランにそのような目
的があったとしても,被告各製品は本件発明2の構成要件を充足しその作用効果を
奏しているのであるから,被告各製品が本件発明2の技術的範囲に属することは明
らかである。
イ「自動復帰」しない構成であるとの主張に対して
被告は,被告各製品が「自動復帰」の問題が起きない構成である旨主張するが,
使用態様如何によっては「自動復帰」する場合があるのであり,それが通常考えら
れない場合ではない。
そして,その場合,被告製品2はアフターランの結果,自動復帰による誤作動が
防止されるのであるから,本件発明2の作用効果を奏しているといえる。
【被告の主張】
(1)被告各製品が本件発明2の構成要件2B,2C,2D,2E,2F,2Hを
充足することは概ね認めるが,構成要件2Gを充足しない。
(2)構成要件2Gの非充足について
被告各製品は,水位低下検知後3秒停止させるが送風機が止まらないうちに,ヒ
ーター周辺の過加熱を防止するために送風機が30秒~50秒の僅かな時間アフタ
ーランした後,さらに送風機が止まらないうちに(機器内を換気して正確な検出湿
度を表示するために)前記微弱回転による間欠運転を5分間継続し,その後,15
分停止した後,運転入/切ボタンが押されない限り,再び5分回転し,15分停止
するという間欠運転を,延々と繰り返す構成を有する製品である。
そして,水位低下の検知によって一度点灯した給水サイン(給水警告ランプ)は,
その後の水位の変化にかかわらず,点灯(点滅)したままである。この給水警告ラ
ンプは,前述のとおり,運転入/切ボタンを押さない限り消灯することはないし,
たとえ1回押してもそれだけではまだなお自動復帰することもなく送風機は再回転
しない。
したがって,被告各製品には,自動復帰後(送風機再回転後)再び水位低下の検
知によって送風機が再停止してしまうことが繰り返されることになるという本件発
明2が課題とした「自動復帰」の問題が,もともと起きない。つまり,この被告各
製品のアフターランは,自動復帰の問題を防止するためのアフターランではなく,
全く目的の異なるアフターランである上に,本件発明2の作用効果にも関わりのな
いアフターラン,すなわち本件発明2の作用効果を奏しないアフターランである。
しかも,この微弱回転での間欠運転は,運転入/切ボタンを押して運転を停止さ
せない限り延々と継続するのであるから,「所定時間が経過するまで前記送風機の
回転を継続させる」ものでもない。また,本件発明2の「所定時間が経過するまで
前記送風機の回転を継続させる」のこの「所定時間」とは,自動復帰の問題が生じ
ない程度水位を下げるに十分な時間という意味であるから,被告各製品における水
位低下検知後の30秒~50秒の僅かな時間強制的にファンが強回転で運転するア
フターランのみでは,強回転であっても1分にも満たないため,これは「所定時間」
には足りない。
(3)以上のとおり,被告各製品のアフターランは,構成要件2Gの「所定時間が
経過するまで前記送風機の回転を継続させる」に該当しないから,構成要件2Gを
充足していない。
4争点4(本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものか)につい

【被告の主張】
(1)本件発明2は,以下のとおり,本件特許2の特許出願前に頒布された特開2
006-71145号公報(乙12,以下「乙12公報」といい,これに記載され
た発明を「乙12発明」という。)及び特開2002-147799号公報(乙1
3,以下「乙13公報」といい,これに記載された発明を「乙13発明」という。)
に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条2項の規定に
より特許を受けることができないものであり,同法123条1項2号に該当し,本
件特許2は特許無効審判によって無効とされるべきものである。
(2)公知技術
ア乙12発明
乙12公報に記載された乙12発明は,次のとおり,本件発明2の構成要件2A,
2B,2C,2D,2E,2Hに相当する構成を有するものである。
乙12公報の図7には,ファン20の上流に貯水槽42があること及び空気の通
気路外にタンク挿入部41が設けられていることが示されている。すなわち,「加
湿装置であって」及び「外部の空気を前記加湿フィルタを介して吸い込むとともに,
吸い込んだ空気を本加湿装置の外部に排出するファンを備え」(【0013】)は,
本件発明2の構成要件2Aの構成に相当するものである。
「加湿フィルタ5は,貯水槽42の水に浸されるように,少なくとも一部が適正
時の水面高さ(喫水面)より下側に配置される。」(【0021】)との構成は,
本件発明2の構成要件2Bの構成に相当するものである。
さらに,乙12公報の図7に示される空気の通気路外にタンク挿入部が設けられ
ていること,及び「タンク挿入部41の底部と貯水槽42とは,水路41Cに接続
される連通路41Dを介して連通しており,給水タンク3からタンク挿入部41に
供給された水は,水路41Cおよび連通路41Dを介して貯水槽42に導かれる」
(【0020】)構成は,本件発明2の構成要件2Cの構成に相当するものである。
「タンク挿入部41の内部にはフロートスイッチ14が設けられる。フロートス
イッチ14は,水面高さの上昇および下降を検出してスイッチ作動を行い,本発明
の液面検出手段を構成する」(【0022】)構成は,本件発明2の構成要件2D
の構成に相当するものである。
「水蒸気発生量演算部17は,蒸発させるべき水分量を算出する。水蒸気発生回
路18は,水蒸気発生量演算部17における算出結果に基づいてファン20の動作
を制御する」(【0023】)構成は,本件発明2の構成要件2Eの構成に相当す
るものである。
また,「ファン20が動作中の場合には,ファン20による吸い込み作用のため
貯水槽42内の水面高さが上昇する。」(【0024】)構成は,本件発明2の構
成要件2Fの構成に相当するものである。なお,補助トレイに相当するタンク挿入
部の水面に大気圧が作用しているとの明確な記載はないが,図7,図8に示される
ようにファンが動作していない状態で,タンク挿入部と貯水槽との水面高さが同レ
ベルであり,ファンの動作により負圧が生じることで貯水槽の水面だけが吸い上げ
られることから,タンク挿入部の水面には大気圧が作用していることは明らかであ
る。
そして,乙12公報には,「液体が補給されていないにもかかわらず,停止中の
加湿部の動作を再開させるという不具合を生じにくくできる。」という効果を奏す
ることが記載されている。すなわち,この乙12発明は,本件発明2と同様,タン
ク挿入部の液面検出手段が液不足を検出しファンの動作を停止させた際,このファ
ンの停止に起因するタンク挿入部の液面高さの上昇によって液体を供給していない
にもかかわらずファンの動作が再開してしまう不具合を生じにくくできる(防止で
きる)ものであり,加湿運転のオン・オフが繰り返される不具合(誤動作)を防止
できる効果を奏している。
イ乙13発明
乙13公報に記載された乙13発明は,次のとおり,本件発明2の構成要件2G
に相当する構成を有するものである。
乙13公報には,次の記載がある。
「前記ファンを駆動するモーターと,前記給水部の水位を検知する検知装置と,
前記検知装置からの水位の信号によりモーターの回転を制御する制御部と,前記制
御部に表示内容を切り替える表示部とを備えた加湿器において,」(【0005】)
「前記モーターの回転中に,給水部の水位が一定の水位よりも低くなると,前記
表示部にあらかじめ定めた第1表示内容を表示し,前記モーターは,水位が一定の
水位よりも低くなる前よりも低速で回転し,所定時間以上回転を継続した後,モー
ターを停止し,」(【0006】)
「モーターの回転を低速回転とするので,風量が減って,加湿量が減るので給水
部の水位が一定の水位よりも低くなった後はゆっくりと水位がさがり,長時間加湿
できる」(【0010】)
乙13公報の「前記モーターは,水位が一定の水位よりも低くなる前よりも低速
で回転し,所定時間以上回転を継続した後,モーターを停止し」(【0006】)
は,給水部の水位が低下して基準水位以下になっても,ファンが直ぐに停止せず,
モーター(ファン)を所定時間回転させ,加湿運転を継続する,いわゆるアフター
ランを行なうことを記載しているものであり,これはまさに,本件発明2の構成要
件2Gの構成に相当するものである。
(3)本件発明2と公知技術との対比
ア本件発明2と乙12発明との対比
本件発明2と乙12発明とを対比すると,両者は共に,送風機(ファン)により
外部の空気を吸い込み,水分を含んだ加湿フィルタによりこの吸い込んだ空気を加
湿し,この加湿した空気を外部に吹き出す加湿機(加湿装置)であり,送風機の吸
い込み作用を受け,送風機が運転中は水面が上昇し,送風機が停止すると水面が下
降するトレイ(貯水槽)と,このトレイと連通し前記吸い込み作用を受けず,トレ
イの水面が上昇することで水面が低下し,トレイの水面が下降することで水面が上
昇する補助トレイ(タンク挿入部)を有し,この補助トレイに水不足の水位に達し
たことを検知するトレイ水位検知部(液面検出手段)を設けた点で共通し,上記の
送風機の停止と回転が延々と繰り返される不具合を防止するための手段が異なる点
で相違する。
すなわち,本件発明2は,送風機を回転させている加湿運転中にトレイ水位検知
部から検知出力を受けたとき,所定時間が経過するまで送風機の回転を継続させる
制御部を備え,トレイ水位検知部から検知出力を受けたとき,所定時間の分だけ加
湿が進行し,補助トレイ内の水の水位はトレイ水位検知部よりはるかに下方まで下
降した位置に至り,所定時間経過後送風機が停止し補助タンク内の水の水位が上昇
してもトレイ水位検知部からの検知出力が消えず,送風機が再動作せず,送風機の
停止と回転が繰り返されない構成(不具合が生じにくくできる構成)としたのに対
し,乙12発明は,ファンを停止させ給水を促す水位を示す第1の基準位置H1と,
この第1の基準位置から,最大負荷で動作しているファンが停止した際のタンク挿
入部の水面高さの上昇量に相当する距離だけ離間して上方に配置した第2の基準位
置H2を検出するフロートスイッチをタンク挿入部に設け,タンク挿入部の水面高
さが第1の基準位置H1より低くなってファンが停止し,貯水槽からの水の流入に
よりタンク挿入部の水位が上昇しても,ファンの動作の再開を検知出力する第2の
基準位置H2まで水位は達しないため,ファンの動作が再開せず,ファンの停止と
回転が繰り返されない構成(不具合を生じにくくできる構成)とした点で相違する。
本件発明2は,トレイ水位検知部からの検知出力後,送風機を直ぐに停止させず,
所定時間継続運転する,いわゆるアフターラン(タイマーによるアフターラン)を
行なう構成としているのに対し,乙12発明には,このようなアフターランがない
点で相違する。
イ本件発明2と乙13発明との対比
しかしながら,乙13発明は,本件発明2と同じ技術分野の加湿器であり,本件
発明2におけるアフターランを行なう構成,本件発明2の「制御部は,前記送風機
を回転させている加湿運転中に前記トレイ水位検知部から検知出力を受けたとき,
所定時間が経過するまで前記送風機の回転を継続させる」構成がまさに記載されて
いる。
しかも,この乙13公報には,「水位を2点以上検知することは,コストアップ
になるという問題があった。」という本件発明2と同様の技術課題を記載している。
そして,この同じ課題に対して,両者は共に,二つ目の検知スイッチの代わりにタ
イマーを用いて,送風機を所定時間動作させて自動停止させることで,コストアッ
プを防止するという技術課題を解決している。すなわち,本件発明2と乙12発明
とは,送風機による吸い込み作用によって生じるトレイ内の水不足の水位に達した
際に起こる誤作動(オン,オフの繰り返し動作が生じる不具合)の発生を防止する
ことを目的(前提となる技術課題)とする点で共通し,また,本件発明2と乙13
発明とは,二つ目の水位検知スイッチの代わりにタイマーを用い(タイマーによる
アフターランを行ない),コストアップを防止することを技術課題とする点で共通
している。
(4)容易想到性
本件発明2は,乙13発明を乙12発明に適用することは当業者が容易に想到し
得るものであるから,本件発明2は,乙12発明及び乙13発明に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものである。
また,本件発明2は,乙12発明だけからでも容易に発明をすることができたも
のである。すなわち,乙12発明は,前述したように,本件発明2と同じ目的(本
件発明2の前提となる技術課題)を示し,この目的を解決すべく,タンク挿入部に
設けたフロートスイッチの接点を2か所に設け,下方の第1の基準位置H1に設け
た接点から検知出力を受けた際にファンが停止し,このファンが停止することによ
り貯水槽の水面の吸い上げ作用がなくなりこの貯水槽の水面が下降し,この貯水槽
の水面の下降により流入する水によってタンク挿入部の水面高さが上昇した際,第
1の基準位置H1の上方の第2の基準位置H2に設けた接点が検知しなければ停止
したファンが再稼働しない構成とし,これにより,水位変動(タンク挿入部の水面
の上昇)によるファンのオン・オフの繰り返し(不具合)を防止することが記載さ
れている。
つまり,この乙12発明において,前記フロートスイッチの第2の基準位置H2
の接点を,仮に本件発明2のトレイ水位検知部の検知出力位置とみなせば,この第
2の基準位置H2から下方の第1の基準位置H1までの間がアフターラン動作に相
当するといえる。そして,このアフターランにより,水位が第1の基準位置H1ま
で下がると,ファンが停止し,ファンによる吸い込み作用が無くなり貯水槽の水面
が下降しタンク挿入部の水面が上昇しても,第2の基準位置H2まで水面が上昇せ
ず,ファンのオン・オフが繰り返されなくなる構成が記載されているといえる。
以上から,この乙12発明は,フロートスイッチの接点を二か所設けてアフター
ランを行う構成であるのに対し,本件発明2は,接点を二か所設ける代わりに(二
つ目の第1の基準位置H1の検知スイッチの代わりに),タイマーで乙12発明の
第2の基準位置H2から第1の基準位置H1までの動作継続を実現しただけのもの
にすぎず,よって,本件発明2は,この乙12発明と同一発明ではないが,前提と
なる技術課題もこの技術課題を解決する手段の発想も構成も実質的に同じであるか
ら,この乙12発明だけに基づいても当業者が容易に発明をすることができたもの
であり,ゆえに少なくともこの本件発明2を容易に想到し得る乙12発明と,前記
タイマーによるアフターランが開示されている乙13発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものである。
【原告の主張】
被告は,乙13発明を乙12発明に適用すること,また,乙12発明だけからも,
本件発明2に容易に想到することができたと主張するが,以下のとおり理由がない。
(1)本件発明2の意義
本件明細書2の記載によれば,本件発明2は,「補助トレイ内の水が水不足の水
位に達した際に起こる誤作動の発生を簡易に防止できる加湿器を提供することを目
的とするもので」(【発明が解決しようとする課題】【0011】),上記目的を
達成するために,特許請求の範囲記載の構成を採用し,加湿運転中にトレイ水位検
知部から検知出力を受けたとき所定時間が経過するまで送風機の回転を継続させる
ことで,補助トレイ内の水の水位を下降させ(【課題を解決するための手段】【0
012】,【0013】),「本発明の加湿機によれば,補助トレイ内の水が水不
足の水位に達した際,給水タンクへの水の補給が済むまで加湿運転が再開されず,
結果として,誤作動を防止できる。」(【発明の効果】【0014】)という作用
効果を奏するものである。
(2)引用発明について
ア乙12発明
乙12公報の記載によれば,乙12発明の課題は,ファンの押し込み作用又は吸
い込み作用(【0005】,【0006】)によって正圧又は負圧が発生し,大気
圧が作用する箇所(タンク挿入部102)との間に圧力差が発生することに起因し
て水位の変化が発生し,その水位の変化が発生するタンク挿入部に液面検知手段
(フロートスイッチ14)を配置した構成において,「液量不足を検出して加湿部
を停止させたときに,液量不足のまま加湿部の動作を再開させないように加湿部の
動作を制御する」こと(【0007】),すなわち,圧力差によって生じる「誤作
動」を防止することである。
乙12発明は,この課題を解決するため,液面検知手段(フロートスイッチ14)
が液体収容部における液量不足の判断基準となる液面高さである第1の基準位置H
1と,予め設定された液面高さの上限位置と第1の基準位置との間に配置される第
2の基準位置H2とを基準に液体収容部内の液体の液面高さを検出している(【請
求項1】)。すなわち,第1の基準位置H1と第2の基準位置H2の二つの位置に
接点を設けることは,乙12発明の必須の構成要素であり,本質部分である。
イ乙13発明
乙13公報の記載によれば,乙13発明が解決すべき課題は,「加湿運転の停止
に気がつかずに長時間停止したままだと,部屋が乾燥する」ことを防止することで
ある(【0003】)。乙13発明は,この課題を解決するため,一つの検知装置
5(【0030】,図1)により給水部の水位を検知し,給水部の水位が一定の水
位よりも低くなったことを検知した後,給水を促す表示をし,モーターが所定時間
の5分間以上(図3(B)の例では30分)回転するように制御している(【00
09】)。これによりモーターが回転している間に使用者が給水を促す表示に気が
つき給水を行えば,加湿運転を停止させないので,部屋を乾燥させてしまうことが
ない,という効果を奏している(【0039】)。
(3)本件発明2と乙12発明との対比
本件発明2と乙12発明とは少なくとも下記の2点において相違する。
ア相違点1
本件発明2のトレイ水位検知部は,補助トレイに貯まっている水が減って水不足
の水位に達したことを検知する(構成要件2D)のに対し,乙12発明の液面検知
手段(フロートスイッチ14)は,液体収容部における液量不足の判断基準となる
液面高さである第1の基準位置H1と,予め設定された液面高さの上限位置と第1
の基準位置との間に配置される第2の基準位置H2の二つの位置を基準に液体収容
部内の液体の液面高さを検出する(乙12発明の請求項1)ため,二つの位置に接
点を設ける必要がある点。
イ相違点2
本件発明2において制御部は,送風機を回転させている加湿運転中にトレイ水位
検知部から検知出力を受けたとき,所定時間が経過するまで送風機の回転を継続さ
せる(構成要件2G)のに対し,乙12発明はこのような構成を有さず,乙12発
明のCPU10(制御部)は,ファン20(送風機)を回転させている加湿運転中
にフロートスイッチ14(トレイ水位検知部)から第1の基準位置H1より低い検
知出力を受けたときファン20(送風機)の回転を停止させる点(【0026】)。
(4)乙12発明だけに基づき容易想到であるとの主張に対して
被告は,本件発明2が乙12発明だけからでも容易に想到できたものであると主
張する。しかし,乙12発明には,相違点1に係る構成も相違点2に係る構成も記
載も示唆もされておらず,乙12発明から本件発明2を想到することができないこ
とは明らかである。すなわち,乙12発明は,二つの位置(第1の基準位置H1お
よび第2の基準位置H2)を基準に液体収容部内の液体の液面の高さを検出するこ
とを必須とする発明しか開示しておらず,本件発明2のように第2の基準水位H2
での検出を必要としないものに変更することはおよそ想到できない(相違点1)。
また,乙12発明は,液量不足の判断基準となる液面高さである第1の基準位置
H1より液面が低くなったことを検出するとファンを停止させるものであり,本件
発明2のように所定時間が経過するまで送風機の回転を継続させるものに変更する
ことはおよそ想到できない(相違点2)。
(5)乙12発明及び乙13発明に基づく主張に対して
以下のとおり,乙12発明及び乙13発明に基づいて本件発明2を想到すること
はできない。
ア乙13公報が相違点2を開示していないこと
(ア)相違点2(構成要件G)の技術的意義
本件発明2は,送風機の回転に従って補助トレイ内の水面には大気圧が作用する
一方でトレイ内の水面には負圧が作用し(構成要件2F),その補助トレイに水位
検知部を設けたこと(構成要件2D)に起因して生じる誤作動を防止するために,
加湿運転中にトレイ水位検知部(構成要件2D,相違点1)から検知出力を受けた
とき所定時間が経過するまで送風機の回転を継続させる(構成要件2G,相違点2)
ことで,補助トレイ内の水位を下降させ,その結果誤作動を防止するものである。
(イ)乙13発明は相違点2の前提となる構成要件2D及び2Fに相当する構成を
備えないこと
相違点2(構成要件2G)は,構成要件2D及び2Fを前提とするものであり,
これらは本来一まとまりで捉えられるべきものである。本件発明2は,上記(ア)の
とおりのものであり,構成要件2Gは「前記制御部は,前記送風機を回転させてい
る加湿運転中に前記トレイ水位検知部から検知出力を受けたとき,所定時間が経過
するまで前記送風機の回転を継続させることを特徴とする」というものであるとこ
ろ,「前記トレイ水位検知部」は,構成要件2Dで特定する「前記補助トレイに貯
まっている水が減って水不足の水位に達したことを検知するトレイ水位検知部」で
あり,また,「前記送風機を回転させている加湿運転中に」は,構成要件2Fで特
定する「前記送風機の回転に従って,前記補助トレイ内の水面には大気圧が作用す
る一方で,前記トレイ内の水面には負圧が作用し」ているのである。このように構
成要件2Gの意義は構成要件2Dや2Fとの関係で把握されなければならない。
乙13発明は,圧力差が生じるような相互に区切られた空間が存在することがそ
もそも開示されていないのであるから,相違点2(構成要件2G)の前提ないし一
体となる構成要件2D及び2Fに係る構成を備えておらず,結局のところ,相違点
2を備えていない。
なお,乙13公報の図1において,ガイド18が本体ケース10の内部を区切る
ものであるように見えるかも知れないが,ガイド18は加熱した蒸気を誘導する部
材であるので(【0025】),本体ケース10の内部に独立して設けられた筒状
の部材と理解するのが自然であり,ガイド18は本体ケース10の内部を区切るも
の,すなわち圧力差を生じさせるものではない。仮に,ガイド18の下方の加熱皿
17を本件発明2の補助トレイと仮定したとしても,加熱皿17には検知装置5は
設けられておらず,構成要件2Dに相当する構成を備えていない。
このように,乙13発明は相違点2の前提となる構成要件2D及び2Fに相当す
る構成をいずれも備えていない。
(ウ)被告が相違点2に相当すると主張する乙13発明の構成について
被告は相違点2が乙13公報に記載されていると主張する。
しかし,被告が指摘する乙13発明の構成は,構成要件2Gとは全く異なるもの
である。乙13発明は,前記(2)のとおり,加湿運転の停止に気がつかずに長時間
停止したままだと,部屋が乾燥することを防止するために,前もって給水を促す表
示と共にタイマーの残時間の表示を開始することで,使用者が給水を促す表示に気
がつく時間を確保するものであるから,乙13発明は本件発明2の構成要件2D,
2F及び2Gに相当する構成のいずれも備えておらず,本件発明2とは全く異なる
発明である。
(エ)以上のとおり,乙13公報は,本件発明2の構成要件2D,2F及び2Gに
相当する構成をいずれも開示しておらず,仮に乙12発明に乙13発明を適用した
としても,本件発明2に至ることがないことは明らかである。
イ乙12発明と乙13発明とを組み合わせることができないこと
(ア)動機付けがないこと
乙12発明と乙13発明は課題や作用効果を異にし,両者を組み合わせるべき動
機付けはない。
(イ)組み合わせを阻害する事情が存すること
乙12発明は,第1の基準位置H1と第2の基準位置H2の二つの位置に接点を
設けることを本質とするものであるところ,乙13発明はこれら二つの接点を必要
とするものではなく,乙12発明において二つの接点を取り去ることは発明を成り
立たなくさせるもので,およそなし得ない。
(ウ)乙13発明に「誤作動」の課題が生じないこと
乙12発明は,フロートスイッチ14が設けられたタンク挿入部の水位が変化す
る(【0005】,【0006】)ことで生じる「誤作動」を防止することを課題
(【0007】)とするものであるが,この水位の変化は,ファンの押し込み作用
又は吸い込み作用によって正圧又は負圧が発生し,大気圧が作用する箇所(タンク
挿入部102)との間に圧力差が発生することに起因するものである。
乙13公報には,「誤作動」の前提となる,本体ケース10の内部で圧力差が生
じることがそもそも開示されておらず,本体ケース10の内部は圧力差が生じるよ
うな構造でもない。また,乙12発明は圧力差により水位が変化するタンク挿入部
にフロートスイッチ14を設けたことにより「誤作動」が生じるという課題を解決
するものであるが,乙13発明の水位検知部5は圧力差による「誤作動」が生じる
ような箇所には設けられていない。
したがって,乙13発明には「誤作動」の課題が内在すらしていないことが明ら
かである。
5争点5(被告各製品は本件発明3の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1)本件発明3の構成要件を分説すると,別紙対比表3の「本件発明3の分説」
欄記載のとおりであり,これに対応する被告各製品の構成を分説すると,いずれも,
同表の「原告主張被告各製品の構成」欄記載のとおりであり,本件発明3の構成要
件を全て充足する。
(2)構成要件3Eの充足について
本件発明3の構成要件3Eにいう,強制運転の「一定時間」は,本件発明3の作
用効果に照らすと,運転が行われないことを故障であると使用者が誤認識すること
を防止できる時間であればよく,設定湿度や運転モード等にかかわりなく常に同一
不変の時間である必要はない。
そうすると,2009年製を除く被告各製品であっても,6分間,6分30秒間
又は7分間の強制運転をするというのであるから,それぞれの場合において運転が
行われないことを故障であると使用者が誤認識することを防止できるものであって,
「一定時間」強制的に水蒸気発生装置を動作させるものであることは明らかであり,
構成要件3Eの要件を充足しているというべきである。
被告は,本来なら運転しない状況において故障として誤認されないように強制運
転するという制御自体は周知慣用技術であるから,ここでいう「一定時間」は厳格
に解されるべきであると主張するが,周知慣用技術であるから厳格に解釈すべきと
する論理自体成り立たない上に,本件発明3の構成要件3E(「該制御装置は,運
転スタート時において設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前
記水蒸気発生装置を動作させることを特徴とする」)は従来にないものであって周
知慣用技術でもないから,被告の主張は全く理由がない。
【被告の主張】
(1)被告各製品が,本件発明3の構成要件3A,3B,3C,3D,3Fを充足
することは概ね認めるが,ほとんどの被告各製品は,本件発明3の構成要件3Eを
充足しない。
(2)構成要件3Eの非充足について
構成要件3Eには,「一定時間」とあるところ,そもそも本来なら運転しない状
況において故障として誤認されないように強制運転するという制御自体は周知慣用
技術であるから,ここでいう「一定時間」は厳格に解されるべきである。
これにより被告各製品についてみると,同製品のうち2009年度製品を除くそ
れ以降の製品の全ては,使用者が選択する設定湿度により強制運転時間が自動可変
する構成であり,具体的には,設定湿度50%のときは6分,設定湿度60%のと
きは6分30秒,設定湿度70%のときは7分,「のど肌・サラリ」モードを選択
した時は設定湿度にかかわらず7分に自動可変する構成を有する。
したがって,被告各製品のうち2009年度製品を除くそれ以降の製品の全ては,
「一定時間」の強制運転ではないから,構成要件3Eを充足せず,本件発明3の技
術的範囲に属さない。
6争点6-1(本件特許3は特許法29条の2の規定により特許無効審判によ
り無効にされるべきものか)について
【被告の主張】
本件発明3は,本件特許3の特許出願前の特許出願であって,その出願後に出願
公告又は出願公開された特許出願(特開2000-249386号公報,乙14,
以下「乙14公報」といい,これに記載された発明を「乙14発明」という。)の
願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,
この出願の発明者,出願人のいずれもその出願前の特許出願に係る上記発明の発明
者,出願人と同一でないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることが
できないものであり,同法123条1項2号に該当し,本件特許3は特許無効審判
により無効とされるべきものである。
(1)本件発明3
ア本件発明3の要旨
本件発明3の要旨は,特許請求の範囲の請求項1記載のとおりである。
イ本件発明3の効果
本件発明3の効果は本件明細書3の【0010】に記載の次のとおりである。
「本発明による課題解決手段は,運転スタート時に室内の湿度や設定された湿度
に関係なく強制的に一定時間だけは水蒸気発生装置を動作させて,加湿運転を行う
ものである。これによって,設定湿度と検出湿度に基づいて加湿運転を行うように
制御されている加湿器において,設定湿度が検出湿度より低い場合,本来であれば
運転が行われない状況であるにもかかわらず,加湿運転が行われるので,運転をス
タートさせたつもりのユーザーに対して,加湿運転が行われないから加湿器が故障
しているのではないかといった不安感を解消できる。」
(2)乙14発明について
乙14公報には次の記載がある。
【請求項1】設定湿度と検出湿度に基づいて容器に収容した水を加熱して蒸気を発
生させ,該蒸気により周囲の空気を加湿する加湿器において,通電開始または加湿
開始から所定時間は,設定湿度と検出湿度に関係なく,必ず蒸気を発生させて加湿
を行うことを特徴とする加湿器。)
【0010】・・・本体1の内部には,水を収容する内容器3が設けられている。
内容器3の底外面には,水を加熱する985ワットの立上げヒータ4と315ワッ
トの加湿ヒータ5が配設されている。(以下「略」)
【0011】前記パネル7には,前記水位窓8のほか,図2に示すように,運転入
/切スイッチ14と,40%から60%までの5段階の湿度を設定することができ
る湿度設定スイッチ15と,弱加湿モードを設定する弱加湿スイッチ16およびそ
の表示ランプ16aと,設定時間後自動的に運転を切にするタイマー設定スイッチ
17と,クエン酸洗浄モードを設定するクエン酸洗浄スイッチ18とが設けられて
いる。また,パネル7には,後述する湿度センサ23の検出湿度に応じて乾燥,適
湿,高湿の3段階の湿度を表示する湿度モニターランプ19と,連続運転を表示す
るランプ20と,前記湿度設定スイッチ15で設定される5段階の設定湿度を表示
する表示ランプ15a~15eと,2時間と4時間のタイマー設定時間を表示する
表示ランプ17a,17bと,給水を促す警告ランプ21と,湿度センサ23の非
接続を表示する警告ランプ22とが設けられている。
【0012】「本体1の外側面には,図3に示すように,湿度センサ23を内蔵し
たセンサユニット24から延びるコード25の先端のマグネットプラグ26が接続
される接続受部27が設けられている。前記センサユニット24は加湿器が設置さ
れる室内の壁等に引っ掛けて,加湿器から離れたところの湿度を検出できるように
なっている。
【0014】この制御装置36は,前記パネル7の各設定スイッチからの信号,お
よび前記温度センサ9および前記湿度センサ23からの検出信号に基づいて,前記
立上げヒータ4,加湿ヒータ5及びファン10を制御する。
【0018】・・・湿度設定スイッチ15により湿度を設定すると,設定された湿
度に対応するランプ15a~15eが点灯し,(以下,略))
【0019】標準加湿モードでは,図5のフローチャートに示すように,ステップ
101で,温度センサ9からの検出温度に基づいて湯温が98℃以上であるか否か
が判断され,98℃以上でなければステップ102で立ち上げヒータ4がオンされ,
内容器3内の水が98℃まで加熱される。湯温が98℃以上になると,ステップ1
03で2分タイマがスタートし,ステップ104で立ち上げヒータ4がオフされる
とともに,加湿ヒータ5とファン10がオンされる。これにより,設定湿度,検出
湿度にかかわらず,2分間は,蒸気が発生して吹出口2から吹き出す。ユーザーは,
設定湿度が検出湿度より低くて本来なら蒸気を発生させないような場合でも蒸気の
発生を確認できるので,正常に作動していると認識することができる。仮に,設定
湿度が検出湿度より低い場合であっても,蒸気が発生するのは,僅か2分だけであ
るから,湿度に影響しない。
(3)本件発明3と乙14発明との対比
ア本件発明3と乙14発明とを対比すると,本件発明3の構成は,すべて乙1
4発明が有する構成である。
本件発明3の構成要件Aは,乙14公報の【0012】に記載の「湿度センサ2
3を内蔵したセンサユニット24」に,本件発明3の構成要件Bは,乙14公報の
【0010】に記載の「立上げヒータ4と加湿ヒータ5を設けた内容器3」に,本
件発明3の構成要件Cは,乙14公報の【0011】に記載の「40%から60%
までの5段階の湿度を設定することができる湿度設定スイッチ15」に,本件発明
3の構成要件Dは,乙14公報の【0014】に記載の「制御装置36」に,本件
発明3の構成要件Eは,乙14公報の【0019】に記載の「設定湿度,検出湿度
にかかわらず,2分間は,蒸気が発生して吹出口2から吹き出す。ユーザーは,設
定湿度が検出湿度より低くて本来なら蒸気を発生させないような場合でも蒸気の発
生を確認できるので,正常に作動していると認識することができる。仮に,設定湿
度が検出湿度より低い場合であっても,蒸気が発生するのは,僅か2分だけである
から,湿度に影響しない。」とした構成に相当するものである。
このように,乙14発明は,一定時間,強制的に設定湿度が検出湿度より低い場
合であっても,蒸気を発生させる構成となっている発明であり,両者共に加湿器で
あるから,本件発明3と乙14発明は同一である。
イさらに言えば,本件発明3は,設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間
だけ強制的に水蒸気発生装置を動作させることを特許請求の範囲に特定しているだ
けで,設定湿度が検出湿度より高い場合に関しては何ら特定していないし,また,
運転スタート時に検出した湿度が設定湿度よりも高いか低いかを判断することを前
提としていることも明確に特許請求の範囲に特定していない。すなわち,この点を
明確に請求項に記載していない本件発明3は,設定湿度が検出湿度より低い場合,
一定時間だけ強制的に水蒸気発生装置を動作させるが,設定湿度が検出湿度より高
い場合には,通常運転が行われるのか強制運転が行われるのか特定されてないもの
で,両方の解釈ができるものであり,この点において構成要件が不明確とも言える
が,少なくとも設定湿度が検出湿度よりも低い場合,一定時間だけ強制的運転をす
る構成は,まさに乙14発明の「設定湿度,検出湿度にかかわらず蒸気を発生させ
る」構成に相当するものである。このような理由からも,本件発明3は,乙14発
明と相違点が全くなく同一である。
ウまた,仮に,特許請求の範囲には明確に特定されていないが,特許請求の範
囲の「設定湿度が検出湿度より低い場合」の文言が,運転開始時に検出湿度が設定
湿度より高いか低いかを(制御装置により)判断する構成要件をも特定していて,
この(制御装置により)判断を行ったうえで設定湿度が検出湿度より低い場合は,
一定時間,強制的に水蒸気発生装置を動作させることに限定している発明と解釈さ
れるものとしても(このような微差があると判断されるとしても),本件発明3の,
運転スタート時に検出湿度が設定湿度より高いか低いかを判断し,設定湿度が検出
湿度より低い場合,強制的に水蒸気発生装置を動作させる構成と,乙14発明の,
通電開始または加湿開始から所定時間は,設定湿度や検出湿度に関係なく,必ず蒸
気を発生させる構成とでは,運転開始時から一定時間運転する動作には全く変わり
がなく,しかも,設定湿度が検出湿度よりも低い場合であっても強制運転されるし,
逆に高い場合でも強制か強制でないかにかかわらず運転され,結果,一定時間運転
が続き,その後,通常運転,すなわち,設定湿度と検出湿度とが比較判断されて停
止か継続かの通常制御が成されることからすると,この微差による新たな効果は何
ら奏しない。言い換えると,この乙14発明と本件発明3のこの微差による運転動
作に何ら違いはなく,かつ,この微差による新たな効果も何ら奏しないから,この
本件請求項1の発明の運転スタート時に検出湿度が設定湿度より高いか低いかを判
断し低い場合に強制運転する構成(本件発明3と乙14発明との微差)は,課題解
決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,新たな効果を奏
するものではないもの)であるから,本件発明3は,乙14発明と実質同一である。
【原告の主張】
被告の主張は,以下のとおり,理由がない。
(1)本件発明3の要旨
本件発明3の要旨は,特許請求の範囲の請求項1記載のとおりであり,これを分
説すると別紙対比表3の「本件発明3の分説」欄記載のとおりである。
(2)乙14発明について
乙14公報の【請求項1】,【0019】の記載,及び【0020】の「ステッ
プ105で,タイマにより2分が経過したことが判断されると,ステップ106で
設定湿度が検出湿度より大であるか否かが判断される。設定湿度が検出湿度より大
であれば,ステップ107で加湿ヒータ5とファン10のオン状態を継続して,検
出湿度が設定湿度になるまで加湿が継続される。」との記載から明らかなように,
乙14発明は,設定湿度と検出湿度に基づいて容器に収容した水を加熱して蒸気を
発生させ,該蒸気により周囲の空気を加湿する加湿器において,通電開始または加
湿開始から所定時間は,設定湿度と検出湿度に関係なく,すなわち,湿度を検知す
ることなく,必ず蒸気を発生させて加湿を行うことを特徴とするものである。
(3)本件発明3と乙14発明との対比
乙14発明は,本件発明3の構成要件3E(「該制御装置は,運転スタート時に
おいて設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気発生装
置を動作させることを特徴とする」)に相当する構成を有していない。
すなわち,そもそも乙14公報には,「通電開始または加湿開始から所定時間は,
設定湿度と検出湿度に関係なく,必ず蒸気を発生させて加湿を行うこと」が記載さ
れているにすぎず,「運転スタート時において設定湿度が検出湿度より低い場合,
一定時間だけ強制的に前記水蒸気発生装置を動作させること」は記載されておらず,
乙14発明と本件発明3が同一でないことは文言上明らかである。
また,本件発明3は,「運転スタート時において設定湿度が検出湿度より低い場
合」との構成を有するもの,すなわち,運転スタート時において湿度を検出するも
のであるのに対し,乙14発明は,運転スタート時において湿度を検出するもので
はなく,両者は構成を異にしており,同一ではないことは明らかである。
(4)被告の主張に対して
被告は,本件発明3と乙14発明の構成の違いは,課題解決のための具体化手段
における微差であり実質的に同一であると主張する。
しかし,湿度を検出せずに,設定湿度や検出湿度に関係なく,所定時間必ず蒸気
を発生させる構成に代えて,湿度を検出した上で設定湿度が検出湿度より低い場合
に一定時間だけ強制的に水蒸気発生装置を動作させる構成をとることが,周知技術,
慣用技術の付加,削除,転換等でないことは明らかであり,両構成の違いは審査基
準にいう「課題解決のための具体化手段における微差」に当たらない。
また,乙14発明は,湿度を検出せずに,設定湿度や検出湿度に関係なく,所定
時間必ず蒸気を発生させるものであるから,所定時間中の運転は設定湿度が検出湿
度より低い場合(本来は加湿運転されるべきではない場合)であっても高い場合
(本来加湿運転されるべき場合)であっても区別されることなく同じ運転とならざ
るを得ない。
これに対して,本件発明3は,運転スタート時において湿度を検出するものであ
るから,設定湿度が検出湿度より低い場合には一定時間だけ強制的に水蒸気発生装
置を動作させる一方で,設定湿度が検出湿度より高い場合には適宜の方法で水蒸気
発生装置を動作させることができるという技術的意義を有するものである。本件明
細書3に記載された実施例においても,図3で示されているように,ステップ3に
おいて湿度センサーで室内の湿度を検知し,ステップ4において設定温度が検出温
度よりも高いかどうかを判断した上で,その検出結果に応じてステップ5に進むか,
ステップ6に進むかが決定されており,設定湿度が検出湿度より低い場合と高い場
合とで運転が切り替えられており,独自の作用効果を奏している。
以上のように,本件発明3は乙14発明と異なり,その相違点も「課題解決のた
めの具体化手段における微差」ではなく,本件発明3は乙14号証の発明と実質同
一ではない。
7争点6-2(本件特許3は特許法29条2項の規定により特許無効審判によ
り無効にされるべきものか)について
【被告の主張】
本件発明3は,以下のとおり,本件特許3の特許出願前に頒布された特開平5-
52392号公報(乙15,以下「乙15公報」といい,これに記載された発明を
「乙15発明」という。),昭63-46338号公報(以下「乙16公報」とい
い,これに記載された発明を「乙16発明」という。),特開平6-281233
号公報(以下「乙17公報」といい,これに記載された発明を「乙17発明」とい
う。)に記載された各発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたも
のであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないもので
あり,同法123条1項2号に該当し,本件特許3は無効審判により無効とされる
べきものである。
(1)本件発明の要旨
本件発明3の要旨及び効果は,上記5の【被告の主張】欄(1)記載のとおりであ
る。
(2)公知技術
ア乙15発明
乙15公報の請求項1には,「室内の湿度を検出する湿度センサーと,加湿量を
設定する湿度設定ボタンと,水蒸気を発生させ加湿を行う水蒸気発生装置と,前記
湿度センサーからの検出信号と前記湿度設定ボタンにより設定された湿度との比較
を行い,前記水蒸気発生装置による加湿量を制御し,前記加湿設定ボタンによる設
定湿度を維持する加湿制御手段とを備えた加湿器。」との記載がある。
すなわち,この乙15発明は,本件発明3と同じ加湿器であり,また,本件発明
3の構成要件3Aの室内の湿度を検出する湿度センサーと,構成要件3Bの水蒸気
を発生させて加湿を行う水蒸気発生装置と,構成要件3Cの湿度を設定する設定ス
イッチと,構成要件3Dの検出湿度及び設定湿度に基づいて前記水蒸気発生装置の
動作を制御する制御装置とを備えるものである。
イ乙16発明
乙16公報の特許請求の範囲には,「通電後,定時間は連続運転を行ない,定時
間後より前記湿度センサーによる運転制御を行なう運転制御手段を設けた」との記
載がある。
また,乙16公報の第2頁第1欄第4行から17行には,「従来の構成では,使
用後,長時間が経過した場合,たとえば一昼夜が経過したときなどは,水タンク1
02より流入した加湿用水101から蒸発した水分が,開口穴111からケーシン
グ110を経由し,湿度センサー113が実装された調湿器ユニット114を内装
する本体内に充満しており,通電開始直後においては,外気が充分乾燥しているに
もかかわらず,湿度センサー113が本体内の湿度を感知して加湿を行なわないと
いう問題があった。本発明はこのような問題を解決するもので,通電直後の定時間
内だけ,連続加湿運転を行なうようにし,使用者の不信感を一掃することを目的と
したものである。」との記載がある。
また,第2頁第2欄第8行から11行には,「通電開始直後は湿度センサーに依
らない連続運転を,また通電後,定時間経過のちより湿度センサーによる運転制御
で加湿を行なうこととなる。」との記載がある。
すなわち,乙第16発明の「通電後,定時間は連続運転を行ない,定時間後より
湿度センサーによる運転制御を行なう運転制御手段」は,本件発明3の構成要件3
E,すなわち,「運転スタート時において設定湿度が検出湿度より低い場合,一定
時間だけ強制的に水蒸気発生装置を動作させる制御装置」に相当する。
ウ乙17公報
乙17公報の【0031】には,運転開始5分後に湿度検知を行うことが記載さ
れており,また,【0032】には,上記の運転開始後の湿度検知における検出湿
度が目標湿度よりも低く,本来,除湿運転を停止する状況であっても,運転開始後
直ちに運転が停止すると,ユーザーが故障と間違えてしまうことがあるため,これ
を防止するために,運転開始後30分間は,例え検出湿度が目標湿度より低くても,
運転を停止させないようにすることが記載されている。
(3)本件発明3と公知技術との対比
ア本件発明3と乙15発明
両者は,室内の湿度を検出する湿度センサーと,水蒸気を発生させて加湿を行う
水蒸気発生装置と,湿度を設定する設定スイッチと,検出湿度及び設定湿度に基づ
いて前記水蒸気発生装置の動作を制御する制御装置とを備える加湿器である点で共
通し,また,本件発明3は,制御装置を,運転スタート時において設定湿度が検出
湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気発生装置を動作させるように
した構成(構成要件3E)があるのに対し,乙15発明には,この構成がない点で
相違する。
イ相違点に係る構成の容易想到性
(ア)乙16発明には,通電後,定時間は連続運転を行い,定時間後から湿度セン
サーによる運転制御を行う運転制御手段,つまり,構成要件Eに相当する構成が記
載されている。
本件発明3の構成要件3Eは,設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ
強制的に水蒸気発生装置を動作させることを特定しているだけで,設定湿度が検出
湿度より高い場合に関しては何ら特定していないし,また,運転スタート時に検出
した湿度が設定湿度よりも高いか低いかを(制御装置により)判断することを前提
としていることも明確に特定していない。そうすると,設定湿度が検出湿度より高
い場合には,通常運転が行われるのか強制運転が行われるのか特定されてないもの
で,両方の解釈ができるものであり,この点において構成要件が不明確とも言える
が,少なくとも設定湿度が検出湿度よりも低い場合一定時間だけ強制運転する構成
は,まさにこの乙16発明の構成に相当するものである。
したがって,乙16発明を乙15発明に適用することは,当業者にとって容易で
あるから,本件発明3は,乙15発明と乙16発明とに基づいて当業者が容易に発
明をすることができたものである。
(イ)また,仮に,クレームには明確に特定されていないが,本件発明3の構成要
件3Eにおける「設定湿度が検出湿度より低い場合」の文言が,運転スタート時に
検出湿度が設定湿度より高いか低いかを(制御装置により)判断する構成要件をも
特定していて,この(制御装置により)判断を行ったうえで設定湿度が検出湿度よ
り低い場合は,一定時間,強制的に水蒸気発生装置を動作させることに限定してい
る発明と解釈されるものとしても,すなわち,構成要件3Eと乙16発明の構成と
にこのような微差があると判断されるとしても,本件発明3の運転スタート時に検
出湿度が設定湿度より高いか低いかを判断し,設定湿度が検出湿度より低い場合,
強制的に水蒸気発生装置を動作させる構成と,乙16発明の,通電後,定時間は連
続運転を行い,定時間後より湿度センサーによる運転制御を行う構成とでは,運転
スタート時から一定時間運転する動作には全く変わりがなく,しかも,設定湿度が
検出湿度よりも低い場合であっても強制運転されるし,逆に高い場合でも強制か強
制でないかにかかわらず運転され,結果,一定時間運転が続き,その後,通常運転,
すなわち,設定湿度と検出湿度とが比較判断されて停止か継続かの通常制御が成さ
れることからすると,この微差による特有の作用・効果はない。
したがって,本件発明3の運転スタート時に検出湿度が設定湿度より高いか低い
かを判断し低い場合に強制運転する構成は,極めて自明な設計事項にすぎないので
(技術的な意味を成す相違点ではないため),やはり,本件発明3は,乙15発明
と乙16発明とに基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
(ウ)さらに,仮に,上記本件発明3と乙16発明との微差が相違点であると解釈
されたとしても,この点は,除湿機ではあるが,乙17公報に,運転スタート時に
湿度を検知し,検出湿度が低いと判断し除湿運転しなくてもいい状況であった場合
でも,強制的に運転を行い(除湿運転を更に強制的に継続し),ユーザーが運転し
ないこと(直ぐに停止してしまうこと)によって故障したと勘違いしてしまうこと
を防止する構成が記載されており,この構成は,加湿器か除湿機かの違いによる差
を除けば,目的,作用効果を含めて,まさに本件発明3の構成要件3Eそのもので
ある。
したがって,乙16発明及び乙17発明を乙15発明に適用することは,当業者
にとって容易であることから,本件発明3は,少なくとも乙15ないし乙17発明
に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
なお,本件発明3の特徴である,運転スタート時に本来ならば動作しない状況で
も,この動作しないことによって生じる不具合を回避するために所定時間,強制的
に動作(運転)させること,すなわち,運転スタート時に所定時間,強制運転を行
うことに関しては,乙16公報及び乙17公報の他に,例えば,特開昭60-21
8544号公報(乙21)や特開平11-133832号公報(乙22)にも開示
されている技術であり,本件発明3の加湿器の技術分野に限らず,他の技術分野に
おいても,周知慣用技術にすぎない。
【原告の主張】
以下のとおり,本件発明3が乙15発明ないし乙17発明に基づいて容易に想到
し得ないものであることは明らかであり,被告の主張は理由がない。
(1)本件発明3の要旨
本件発明3の要旨は,特許請求の範囲の請求項1記載のとおりであり,これを分
説すると別紙対比表3の本件発明3の分説欄記載のとおりである。
(2)引用発明の認定
ア乙15発明
乙15発明は,従来の加湿器が「湿度センサー21からの検出信号と予め定めら
れた設定湿度の値との差によって加湿量を直接決定しているので,加湿量が頻繁に
変化し,室温との対応が正確になされないため過加湿になってしまう等の問題点が
あった」ことに対し(【0006】【発明が解決しようとする課題】),「自動的
に設定湿度に見合った加湿量で加湿を行い,かつ,過加湿等が生じない適切な加湿
量にすばやく制御できる加湿器を得ることを目的と」して(【0007】),「室
内の湿度を検出する湿度センサーと,加湿量を設定する湿度設定ボタンと,室温を
測定する室温センサーと,水蒸気を発生させ加湿を行う水蒸気発生装置と,温度セ
ンサーと室温センサーの測定結果および湿度設定ボタンによる設定値に基づいて加
湿量を自動的に判定し,この加湿量に基づき水蒸気発生装置を制御する加湿制御手
段とを備え」ることによって(【0008】【課題を解決するための手段】),
「湿度センサー,室温センサーを設け,その検出信号および湿度設定ボタンによる
設定値に基づき加湿制御手段によりか質量を決定するように構成したので,操作を
繁雑化することなく,また過加湿等の不具合を回避しながら適切な加湿を行うこと
ができる」との効果(【0017】【発明の効果】)を奏するものである。
イ乙16発明
乙16発明は,「従来の構成では,使用後,長時間が経過した場合,・・・水分
が・・・湿度センサー113が実装された調湿器ユニット114を内装する本体内
に充満しており,通電開始直後においては,外気が充分乾燥しているにもかかわら
ず,湿度センサー113が本体内の湿度を感知して加湿を行わないという・・・問
題点を解決するもので,通電直後の定時間内だけ,連続加湿運転を行うようにし,
使用者の不信感を一掃することを目的とするものである」((2)頁左上欄「発明
が解決しようとする問題点」)。
そして,乙16発明は,「・・・前記調湿器ユニットに,通電後,定時間は連続
加湿運転を行ない定時後より前記湿度センサーによる運転制御を行なう運転制御手
段を設け」ることにより((2)頁左上欄~右上欄「問題点を解決するための手
段」),「・・・外気の湿度が低いのに,本体ケース内の高湿度を感知して加湿を
しないなど,使用者に不信感を与えるような動作をしなくなるという効果」を奏す
るというものである((2)頁右下欄~(3)頁左上欄「発明の効果」)。
乙16発明は,通電開始直後においては,外気が充分乾燥しているにもかかわら
ず,湿度センサー113が本体内の高湿度を感知して加湿を行わないという問題点
を解決するためのものであり,設定湿度が検出湿度よりも低い場合に運転が開始さ
れないことからユーザーが故障であると誤認することを防止するという本件発明3
とは,課題を全く異にする。また,解決手段をみても,乙16発明は,「前記調湿
器ユニットに,通電後,定時間は連続加湿運転を行ない定時後より前記湿度センサ
ーによる運転制御を行なう」もの,具体的には運転スタート時には湿度を検出する
ことなく定時間の強制加湿運転を行ない,定時間後に湿度センサーによる運転制御
を行なうものであり,運転スタート時に湿度を検知して設定湿度が検出湿度より低
い場合に一定時間だけ強制的に水蒸気発生装置を動作させるという本件発明3とは
手段も全く異にするものである。乙16発明は,外気(室内)の湿度が設定値より
も低い(にもかかわらず湿度センサーが本体ケース内の高湿度を感知するという)
状況において生ずる問題を通電後一定時間の強制連続運転により解決しようとする
ものであるから,乙16発明において,設定湿度が検出湿度より低い場合(すなわ
ち,室内湿度が設定湿度より高い場合)に一定時間だけ強制的に運転するという本
件発明3の解決手段(構成要件3E)を採用することはあり得ない。
以上のとおり,乙16発明は,本件発明とは全く異なる技術であり,また,その
目的上,本件発明3の構成要件3Eを採用することはあり得ないものであるから,
乙16発明を参酌してもおよそ本件発明3に想到することがないことは明らかであ
る。
ウ乙17発明
乙17発明は,加湿器ではなく,電気除湿機に係るもので,「湿度条件や環境条
件にかかわらず,無駄な電力消費を抑制して良好な除湿状態を迅速に得ることがで
きるようにした電気除湿機を提供すること」を目的として(【0009】),その
「目的を達成するために,本発明は,第1の目標湿度以下の第2の目標湿度を設定
して除湿運転を開始し,該第2の目標湿度に到達後,該第1の目標湿度に切り換え
て除湿運転を行なう」という手段を採用し(【0010】【課題を解決するための
手段】),「本発明によれば,運転開始後,最終目標とする第1の目標湿度以下の
第2の目標湿度が設定されて除湿運転が行なわれるので,離れた場所や家具,家財
などの表面の湿度までも迅速に第1の目標湿度に移行させることができるし,検出
湿度が第2の目標湿度に達すると,直ちにこれよりも高い第1の目標湿度に変更す
るものであるから,消費電力の増加も抑えることができる」(【0052】【発明
の効果】)等の効果を奏するものである。
乙17公報には,リレーのオン・オフにより除湿機の運転を制御すること(【0
025】),さらに,「電源スイッチをオンにして除湿運転を開始させると(ステ
ップ100),例えば60%である第1の目標湿度で除湿運転が行なわれ,5分間
経過後湿度センサ9で室内空気の湿度の検出を行なう(ステップ101)。このと
き検出される湿度を初期湿度という。この初期湿度が80%以上のとき(ステップ
102)には,目標湿度を50%の第2の目標湿度に変更し,室内空気の湿度を検
出しながら除湿運転を続行させる(ステップ105)。また,初期湿度が70%以
下のとき(ステップ104)には,目標湿度を第2の目標湿度として第1の目標湿
度のままとし,室内空気の湿度を検出しながら除湿運転を続行させる(ステップ1
07)。そして,夫々の場合,検出湿度が第2の目標湿度に到達すると,目標湿度
を第1の目標湿度とし,その後室内空気の湿度がこの目標湿度に達すると,従来の
電気除湿機と同様に,室内空気の検出湿度が60~63%の範囲内にあるように,
断続運転が行なわれる(ステップ111)」(【0029】)という実施例が記載
されている。当該実施例について,【0032】には,「運転開始後30分間は,
例え湿度が低くても,運転が停止しないようにする。これは,湿度が低くて運転開
始後直ちに運転が停止すると,ユーザが故障と間違えてしまうこともあり得るから
である」との記載があるが,これは,本件発明3の「運転スタート時において設定
湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気発生装置を動作さ
せること」とは全く異なるものである。
そもそも乙17発明は,電気除湿機に係るもので,加湿器に容易に適用できるも
のではないが,その点を措くとしても,乙17発明はおよそ本件発明3の「運転ス
タート時において設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水
蒸気発生装置を動作させる」構成に対応するような構成を有するものではない。
まず,乙17発明は,【0031】及び図1から明らかなように,(本件発明3
と異なり)運転開始時に湿度を検出しておらず,運転開始後5分は,設定湿度と検
出湿度に関係なく,除湿運転がなされるものである。
次に,乙17発明は,運転開始5分経過後に湿度を検出しているが,これは,8
0%以上,70~80%,70%以下と比較して(さらに70~80%の場合は除
湿速度を検出して)第1の目標湿度以下の第2の目標湿度を設定するために行われ
るものであり,「運転スタート時において設定湿度が検出湿度より低い場合,一定
時間だけ強制的に前記水蒸気発生装置を動作させる」構成に対応するようなもので
はない。すなわち,乙17発明は,検出した湿度を最終的な目標である第1の目標
湿度(60%)と比べるものではない。また,第2の目標湿度による動作は30分
後からなされ,運転開始後30分間はリレーはオンのままで同じ状態で除湿運転さ
れ,30分以内に運転が切り替えられるものではない。
【0032】の「運転開始後30分間は,例え湿度が低くても,運転が停止しな
いようにする。」という文章は,運転開始後30分間は,湿度の高い低いに関係な
く,運転が停止しないようにするという意味にすぎない。
以上のとおり,乙17公報には,「運転スタート時において設定湿度が検出湿度
より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気発生装置を動作させる」技術思想
について何らの記載も示唆もない。
(3)本件発明3と乙15発明との対比
本件発明3は,「該制御装置は,運転スタート時において設定湿度が検出湿度よ
り低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気発生装置を動作させること」を特徴
としているところ(構成要件3E),乙15発明はかかる構成を全く備えておらず,
本件発明3と乙15発明は少なくともこの点で相違する(相違点1)。
(4)相違点についての検討
ア引用発明は相違点1に係る構成を備えないこと
前記(2)のとおり,そもそも乙16発明も乙17発明も相違点1に係る構成を備
えておらず,たとえ乙15発明に乙16発明さらには乙17発明を参酌したとして
も,本件発明3の構成に到達することはなく,本件発明3を容易に想到できないこ
とは明らかである。
イ引用発明同士を組み合わせるべき動機付けもないこと,さらに組み合わせを
阻害する要因があること
①課題・目的や作用効果を異にすること
乙15発明と乙16発明及び乙17発明は,それぞれ課題や作用効果を異にして
おり,これらを組み合わせるべき動機付けは全くない。すなわち,前記のとおり,
乙15発明は,自動的に設定湿度に見合った加湿量で加湿を行い,かつ,過加湿等
が生じない適切な加湿量にすばやく制御できる加湿器を得るという目的のために,
湿度センサ,室温センサーを設け,その検出信号及び湿度設定ボタンによる設定値
に基づき加湿制御手段により加湿量を決定するというものである。
これに対し,乙16発明は,外気が乾燥しているにもかかわらず,湿度センサー
113が本体内の湿度を感知して加湿器が加湿を行わないという課題を解決するた
めに,通電直後の定時間内だけ連続加湿運転を行なうものであり,また,乙17発
明は,湿度条件や環境条件にかかわらず,無駄な電力消費を抑制して良好な除湿状
態を迅速に得ることができるようにした電気除湿機を提供するという目的のために,
第1の目標湿度以下の第2の目標湿度を設定して除湿運転を開始し,該第2の目標
湿度に到達後,該第1の目標湿度に切り換えて除湿運転を行なうものであって,乙
15発明とは課題・目的や作用効果を異にしている。
②技術分野を異にすること
乙17発明は,加湿器ではなく,除湿機に関する発明であり,乙15発明及び乙
16発明と技術分野を異にし,これらと組み合わせるべき動機付けはない。
③主引例の目的に反すること(組み合わせを阻害する要因があること)
乙15発明は,「過加湿等が生じない適切な加湿量にすばやく制御できる加湿器
を得る」ことを目的とするものであるところ,仮に乙16発明を組み合わせて,通
電後,定時間は連続加湿運転を行なうようにすると,加湿が不要な場合に加湿をす
ることになり,「過加湿等が生じない適切な加湿量にすばやく制御」するという乙
15発明の目的に反してしまう。
また,同様に,仮にさらに乙17発明を参酌して,運転開始後30分間に連続加
湿運転を行なうようにすると,やはり加湿が不要な場合に加湿をすることになり,
「過加湿等が生じない適切な加湿量にすばやく制御」するという乙15発明の目的
に反してしまう。
8争点7(本件特許3についての訂正の再抗弁の成否)について
【原告の主張】
(1)原告は,本件特許3について被告が平成26年12月9日付けで請求した無
効審判請求事件(甲12)において,無効理由がないことをより明確にするため,
平成27年9月25日付で訂正請求を行った(本件訂正,甲13)。本件訂正は,
本件特許3の構成要件3Eについて従前から原告が主張してきた解釈をより明確に
したものであり,これにより実質的に変わるものではない。
そして,本件訂正は訂正の要件があり,本件訂正により無効理由が解消され,被
告各製品は本件訂正発明3の技術的範囲に属するものである。
(2)訂正要件の充足
本件訂正は,設定登録時の請求項1の「運転スタート時において設定湿度が検出
湿度より低い場合」を,「運転スタート時において設定湿度と前記湿度センサーが
検出した検出湿度とを比較して設定湿度が検出湿度より低い場合」に訂正するもの
である。本件訂正は,訂正前から実質的に特定されていたが訂正前の請求項では文
言上明示されていなかった限定事項を明示するものであるので,特許請求の範囲の
減縮ないしは明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する(特許法134条
の2第1項ただし書1号,3号)。また,本件訂正は,発明特定事項を直列的に付
加するものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上
特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず(同法134条の2第9
項,126条6項),また,「該制御装置は,運転スタート時において設定湿度と
前記湿度センサーが検出した検出湿度とを比較して」という限定は本件明細書3の
【0018】における「ステップ4で両湿度を比較して,設定湿度が検出湿度より
低いか否かを判定する」という記載を根拠に導き出せるもので,明細書中の発明の
詳細な説明及び図面に基づいて導き出される構成であるといえる(同法134条の
2第9項,126条5項)。本件特許3は無効審判の請求の対象とされているので,
本件訂正に関して独立特許要件は適用されない(同法134条の2第9項,126
条7項)。
したがって本件訂正は訂正要件を充足する。
(3)訂正により無効理由が解消されたこと
本件訂正発明3が,乙14公報ないし乙17公報との関係で無効理由を有しない
ことについては,次に記載するほか,前記6及び7【原告の主張】記載のとおりで
ある。
ア拡大先願(特許法29条の2)について
本件訂正発明3の構成要件3E′は,乙14公報(無効審判における甲第1号証)
には開示されていない。
平成27年8月31日付の審決の予告(乙29)において「(【0016】)か
ら,甲1発明も運転スタート時において湿度を検出するものである。」と認定され
ている。
しかしながら,乙14公報の【0016】には,「パネル7の運転入/切スイッ
チ14により電源を投入すると,連続運転のランプ20が点灯する。湿度センサ2
3が接続されていなければ,湿度センサ非接続のランプ22が点灯して,ユーザに
警告される。湿度センサ23により湿度が検出されると,湿度モニターランプ19
に,乾燥,適湿および高湿の3段階の湿度が表示される。」と記載されているにす
ぎず,電源を投入すると連続運転ランプ20が点灯することは明らかであるものの,
湿度センサ23が湿度を検出することは明示されていない。さらに,図5から明ら
かなように,検出湿度が加湿器の制御に用いられるのは運転開始から2分経過後で
あり,加湿器の制御との関係で,通電開始時または加湿開始時に湿度が検出されて
いるとはいえない。加えて乙14公報は,構成要件3E′における「運転スタート
時において設定湿度と・・・検出湿度を比較して・・・」との構成は一切開示して
いない。
さらに,本件訂正発明3は,当該相違点によれば,検出湿度と設定湿度との対比
結果に応じて運転を切り分けることができるが,乙14発明はこのような効果を奏
さない。
以上から,本件訂正発明3は,乙14発明と同一ではないことが明らかである。
イ進歩性の欠如(特許法29条2項)について
乙15発明は,本件訂正発明3との関係では,構成要件3E′に相当する構成が
存しない点で相違するが,乙17公報は,構成要件3E′を開示していない。
すなわち,乙17公報においては,【0031】及び図1から明らかなように,
「運転開始(ステップ100)」では湿度を検出しておらず,運転開始後5分間は,
設定湿度と検出湿度に関係なく,除湿運転がなされるものである。
また,乙17公報は,運転開始5分経過後に湿度を検出しているが,これは,8
0%以上,70~80%,70%以下と比較して(さらに70~80%の場合は除
湿速度を検出して)第1の目標湿度以下の第2の目標湿度を設定するために行われ
るものであり,「運転スタート時において設定湿度と前記湿度センサーが検出した
検出湿度とを比較して設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前
記水蒸気発生装置を動作させる」構成に対応するようなものではない。すなわち,
乙17公報は,検出した湿度を最終的な目標である第1の目標湿度(60%)と比
べるものではない。また,第2の目標湿度による動作は30分後からなされ,運転
開始後30分間はリレーはオンのままで同じ状態で除湿運転され,30分以内に運
転が切り替えられるものではない。
乙17公報の【0032】の「運転開始後30分間は,例え湿度が低くても,運
転が停止しないようにする。」という文章は,運転開始後30分間は,湿度の高い
低いに関係なく,運転が停止しないようにするという意味にすぎない。乙17公報
には,「運転スタート時において設定湿度と前記湿度センサーが検出した検出湿度
とを比較して設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に前記水蒸気
発生装置を動作させる」技術思想(構成要件3E′)について何らの記載も示唆も
ない。
審決の予告では,「甲2発明(本件における乙15発明)において,上記ユーザ
が故障と間違えるおそれを解消するために,甲4(本件における乙17公報)の技
術事項を適用する動機付けが認められる。」(13頁31行以降)と認定されてい
るがこれも誤っている。乙15公報に乙17公報の技術事項を適用する動機付けは
なく,さらにはこれらの組み合わせについては,従前主張したとおり,阻害する要
因がある。
なお,乙16公報(無効審判における甲第3号証)はそもそも本件訂正発明3の
目的及び構成を開示していないため,乙16公報を考慮しても,本件訂正発明3に
容易に想到できたとはいえない。
(4)被告各製品が本件訂正発明3の技術的範囲に属すること
ア本件訂正発明3の構成
前記第2の1判断の基礎となる事実前提事実(5)のとおりであり,これを分説す
ると,別紙対比表3の「本件訂正発明3の分説」欄記載のとおりである。
イ被告各製品が技術的範囲に属すること
本件訂正により本件訂正発明3は,構成要件3Eから構成要件3E′に訂正され
たが,訂正前の構成要件3Eが訂正後の構成要件3E′と同様に運転スタート時に
おいて室内の湿度を検出した上で設定湿度と比較判定することを特定していること
は従前から主張してきたところであり,両者は実質的には変わらず,前記5争点5
【原告の主張】記載のとおり,被告各製品は,構成要件3E′を充足し本件訂正発
明3の技術的範囲に属することは明らかである。
【被告の主張】
本件訂正発明3は,本件訂正によっても乙14発明と同一であり(拡大先願),
また,乙15発明と乙16発明に基づいて,あるいは乙15発明と乙17発明に基
づいて,容易に想到することができた発明にすぎないから(進歩性欠如),無効理
由を解消していないといえ,本件訂正後においても,本件特許3は無効審判により
無効とされるべきものである。
(1)本件訂正発明3
本件訂正は,運転スタート時において設定湿度が検出湿度より低い場合を,湿度
センサーが検出した検出湿度と設定湿度とを比較しての低い場合とすること(運転
スタート時において,湿度を検出し比較すること)をクレームに特定しただけの訂
正にすぎないから,被告がこれまで主張してきたとおり(前記6及び7【被告の主
張】),本件訂正発明3においても,設定湿度が検出湿度より低い場合に一定時間
強制運転するが,設定湿度が検出湿度より高い場合については何らクレームに特定
されていない。
また加湿器はそもそも検出湿度と設定湿度とを比較して加湿運転する構成である
ことから,本件訂正における湿度を検出し比較する点(訂正事項)がクレームに特
定されても,この訂正事項自体に何ら技術的意義はない。
(2)原告の主張に対する反論
ア拡大先願(特許法29条の2)について
乙14公報には,電源投入時に湿度センサーで湿度が検出される構成が記載され
ており(【0016】),そして,設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間強
制運転させる構成が開示されているといえる。
乙14公報には,「このように,本発明は,通電開始または加湿開始から所定時
間は,設定湿度と検出湿度に関係なく,必ず蒸気を発生させて加湿を行うようにし
たので,使用者は,設定湿度が検出湿度より低くて本来なら蒸気を発生させないよ
うな場合でも蒸気の発生を確認できるので,正常に作動していると認識することが
できる。設定湿度が検出湿度より低い場合に蒸気を発生させても,それは所定時間
だけであるから,湿度に影響しない。」(【0006】)と記載され,また通常運
転時は,検出湿度と設定湿度とを比較して設定湿度が検出湿度より高い場合に通常
加湿運転がなされる構成が記載されている(【0020】等)。
これらの開示内容をふまえれば,乙14発明において,「低い場合」とは,明示
的な記載がなくとも,設定湿度と検出湿度とを比較しての低い場合であることは明
らかであり,この検出して比較すること(比較動作(抑制)があること)自体に何
ら格別な作用効果はなく,技術的意義はない。
本件訂正発明3において,本件発明3における「低い場合」が湿度センサーで湿
度を検出し比較しての低い場合であることを特定しても,本来なら運転を停止する
ような低い場合に強制運転されるのであるから,設定湿度と検出湿度とを比較して
の低い場合であることは自明であり,また,そもそも設定湿度と検出湿度とを比較
して加湿運転がなされる加湿器であることから,この検出し比較すること(比較動
作があること)自体に何ら格別な作用効果はなく技術的意義はないことも明らかで
ある。
したがって,前記のとおり本件訂正発明3においては,運転スタート時において
設定湿度が検出湿度より低い場合に一定時間強制運転するが,高い場合については
クレームに何ら特定されていないため,単に訂正により運転スタート時に検出し比
較して低い場合に強制運転することが特定されても,なおも乙14発明とは実質的
相違点はなく,また本件訂正による特定事項に何ら技術的意義もないため,本件訂
正発明3は,乙14発明と同一発明であるから,本件特許3は,訂正後も特許を受
けることができないものであることは明らかである。
なお,原告は,【0016】において,通電開始時または加湿開始時に湿度が検
出されているとは言えないなどと反論しているが,誤りである。
同段落には,「パネル7の運転入/切スイッチ14により電源を投入すると,連
続運転のランプ20が点灯する。湿度センサ23が接続されていなければ,湿度セ
ンサ非接続のランプ22が点灯して,ユーザに警告される。湿度センサ23により
湿度が検出されると,湿度モニターランプ19に,乾燥,適湿および高湿の3段階
の湿度が表示される。」と記載されていることから,電源投入時に湿度センサーで
湿度が検出される構成も記載されていることは明らかである。そして,設定湿度が
検出湿度より低い場合,一定時間強制運転される構成が開示されていることも明ら
かである。
また,原告は,乙14公報が,構成要件3E′に相当する構成を開示していない
とも反論しているが,この原告の主張も誤りである。
前記のとおり運転スタート時に湿度を検出し,低い場合に強制運転する構成が記
載されていることが明らかであり,また乙14発明の加湿器も通常の加湿器と同様
に,検出湿度と設定湿度との比較に基づいて運転される加湿器であることも記載さ
れていることから,乙14発明に仮に運転スタート時において「検出し比較する」
動作があることが記載されていなくても,「低い場合」とは設定湿度と検出湿度と
を比較しての低い場合であることは明らかである。仮に運転スタート時において制
御プログラムで設定湿度と検出湿度とを比較して低い場合と判断して強制運転する
ことが記載されていなくても,乙14発明の「低い場合(低くて)」が,設定湿度
が検出湿度と比べて低い場合であることは自明なことであるから,この検出し比較
すること(比較動作(抑制)があること)自体に何ら格別な作用効果はなく技術的
意義はないことは明らかである。
イ進歩性欠如(特許法29条2項)について
(ア)乙15発明と乙16発明とに基づく容易想到性
乙16公報の特許請求の範囲には,通電後,定時間は連続運転を行い,定時間後
より湿度センサーによる運転制御を行う構成が記載されている。すなわち,乙16
発明は,設定湿度が検出湿度よりも低い場合であっても強制運転されるし,逆に高
い場合でも強制運転され,結果,一定時間強制運転が続き,その後,設定湿度と検
出湿度とが比較判断されて停止かその差に基づく加湿運転かの通常運転がなされる
ことからすると,本件訂正発明3も乙16発明と差異はなく,また仮に相違点があ
ってもその相違点に基づく格別な作用・効果もなく技術的意義のない微差にすぎな
い。
本件訂正発明3は,運転スタート時に設定湿度が検出湿度より高いか低いかを判
断し低い場合に強制運転する構成に特定されたにすぎないから,設定湿度が検出湿
度より低い場合に一定時間強制運転するが,設定湿度が検出湿度より高い場合につ
いて何らクレームには特定されていない。また,乙15発明の加湿器はそもそも検
出湿度と設定湿度とを比較して加湿運転する構成であることから,運転スタート時
において設定湿度が検出湿度より低い場合とは湿度を検出し比較しての低い場合で
あることが特定されるにすぎない本件訂正自体に何ら格別な作用効果はなく技術的
意義はない。
したがって,本件訂正発明3は,乙15発明と乙16発明とに基づいて当業者が
容易に想到をすることができたものであるから,進歩性を欠く。
(イ)乙15発明と乙17発明に基づく容易想到性
乙17発明は除湿機ではあるが,乙17公報には,本件訂正発明3と乙15発明
との相違点である構成要件3E′に相当する構成が記載されている。すなわち,乙
17公報には,運転スタート時に湿度を検知し,そして,検出湿度が低く除湿運転
しなくてもいい状況であった場合でも,運転開始後30分間は強制的に運転を行い
(除湿運転を強制的に行い),ユーザが運転しないこと(直ぐに停止してしまうこ
と)によって故障したと認識しないようにする構成が記載されており(【0032】
等),加湿器か除湿機かの違いによる差を除けば,目的,作用効果を含めて,まさ
に構成要件3E′に相当する構成が開示されている。加湿器か除湿機かは,室内の
湿度を適切に管理しようとする目的において同一であり,それぞれ,湿度を上げる
か下げるかの差異はあっても,その構造上に本質的な違いは認められないことは言
うまでもない。
したがって,乙17発明を乙15発明に適用することは,当業者にとって容易で
あるので,本件訂正発明3は,乙15発明に乙17発明を適用することにより,当
業者が容易に想到することができたものであるから,進歩性を欠くことは明らかで
ある。
9争点8(原告の損害額)について
【原告の主張】
(1)被告製品1の製造販売による損害等
ア被告製品の製造販売数
被告は,平成21年8月からこれまでに被告製品1を24万台製造販売した(本
件特許2の登録日である平成23年1月21日からだと17万台)。
イ損害賠償請求
(ア)特許法102条2項適用による請求
被告が,被告製品1の製造販売により受ける利益は1台当たり少なくとも120
0円であるから,本件特許権1,3の侵害により受けた原告の損害はいずれも2億
8800万円と推定され,本件特許権2の侵害により受けた原告の損害は2億40
0万円を推定される。
本件各特許権侵害による損害は,重複して発生したものであるから,被告による
被告製品1の製造販売による本件各特許権の侵害によって原告が受けた損害の額は
2億8800万円を下らない。
(イ)特許法102条3項適用による請求(上記(ア)と選択的請求)
本件各発明の実施料相当額は,発明ごとに,それぞれ1台当たり少なくとも40
0円を下らないから,本件発明1及び本件発明3の実施料相当額はそれぞれ960
0万円を下らず,本件発明2の実施料相当額は6800万円を下らない。
被告製品1の製造販売による本件各特許権の侵害により原告が受けた損害の額は,
上記合計金額の2億6000万円を下らない。
ウ不当利得返還請求(予備的請求)
本件各発明の実施料相当額は,発明ごとに,それぞれ1台当たり少なくとも40
0円を下らないから,本件発明1及び本件発明3の実施料相当額はそれぞれ960
0万円を下らず,本件発明2の実施料相当額は6800万円を下らない。
被告製品1の無権原の製造販売により,被告は上記合計額2億6000万円の実
施料の支払を免れ,原告は同額の損失を被っている。
(2)被告製品2の製造販売による損害等
ア被告製品の製造販売数
被告は,平成21年8月からこれまでに被告製品2を38万台製造販売した(本
件特許2の登録日である平成23年1月21日からだと30万台)。
イ損害賠償請求
(ア)特許法102条2項適用による請求
被告が,被告製品2の製造販売により受ける利益は1台当たり少なくとも800
円であるから,本件特許権3の侵害により受けた原告の損害はいずれも3億400
万円と推定され,本件特許権2の侵害により受けた原告の損害は2億4000万円
を推定される。
本件各特許侵害による損害は,重複して発生したものであるから,被告による被
告製品2の製造販売による本件各特許権の侵害によって原告が受けた損害の額は3
億400万円を下らない。
(イ)特許法102条3項適用による請求(上記(ア)と選択的請求)
本件各発明の実施料相当額は,発明ごとに,それぞれ1台当たり少なくとも40
0円を下らないから,本件発明3の実施料相当額は1億5200万円を下らず,本
件発明2の実施料相当額は1億2000万円を下らない。
被告製品2の製造販売による本件各特許権の侵害により原告が受けた損害の額は,
上記合計金額の2億7200万円を下らない。
ウ不当利得返還請求(予備的請求)
本件各発明の実施料相当額は,発明ごとに,それぞれ1台当たり少なくとも40
0円を下らないから,本件発明3の実施料相当額は1億5200万円を下らず,本
件発明2の実施料相当額は1億2000万円を下らない。
被告製品2の無権原の製造販売により,被告は上記合計額2億7200万円の実
施料の支払を免れ,原告は同額の損失を被っている。
(3)弁護士費用及び弁理士費用相当損害金
本件訴訟と因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用相当の損害額は,2000
万円を下らない。
(4)よって,原告は,被告に対し,本件各特許権侵害を理由とする不法行為に基
づく損害賠償請求権(予備的に不当利得返還請求)に基づき,被告製品1に係る損害
賠償として上記(1)の主張額の内金1億6500万円,被告製品2に係る損害賠償
として上記(2)の主張額の内金1億2500万円及び弁護士費用及び弁理士費用相
当損害金として内金1000万円の合計金3億円及びこれらに対する不法行為の日
の後である平成26年10月23日から支払済まで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金を支払うよう求める。
【被告の主張】
原告の主張はすべて否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告製品1は本件発明1の技術的範囲に属するか。)について
以下に詳述するとおり,被告製品1は,本件発明1の構成要件1Bを充足しない
から,ひいては構成要件1C,1Eとも充足せず,したがって,被告製品1は本件
発明1の技術的範囲に属するとは認められない。
(1)原告は,構成要件1Bの意義について,室内温度に基づいて加湿度(設定湿
度)を設定する際に単に一通りの設定をするのではなく,使用者の湿度の希望の高
め・低めを加味した加湿程度選択手段を選択できるようにしたと解すべきであって,
加湿程度選択手段が三つあることまでは要件としていないとして,これを前提に被
告製品1が本件発明1の技術的範囲に属すると主張する。
しかし,「加味」とは,通常の意味では,ある事物に他の要素を加えること(広
辞苑第6版)を意味する言葉であるから,使用者の湿度の希望の高め・低めを「加
味」する以上,その文章には,加えられる前提となる基準があるはずであって,
「室内温度の湿度設定に」との文言がそれに対応するから,この文言は,「上記室
内温度での基準となる適切な湿度設定に」の意味と解するのが日本語としては自然
である。そして,この解釈を前提とすると,構成要件1Bの加湿程度選択手段には,
「室内温度での基準となる適切な湿度」,「使用者の希望を反映した前者の湿度よ
り高めの湿度」及び「使用者の希望を反映した最前者の湿度より低めの湿度」の三
つの加湿程度の選択手段があることが要件とされているものと解されることになる。
(2)上記の構成要件の解釈は,以下のとおりの本件明細書1の記載及び本件特許
1の審査過程からも裏付けられている。
ア本件明細書1の記載
(ア)本件明細書1には,本件発明1の技術的分野について以下の記載がある。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,室内の温度に応じて,自動的に適切な加湿制
御を行う加湿器に関するものである。
(イ)本件明細書1には,本件発明1の背景技術について以下の記載がある。
【0002】
【従来の技術】一般に加湿器の加湿量は,室内の温度に関係なく設定された加湿量
により常に一定量の加湿を行う方式がとられているため,加湿量の調整は実際の部
屋の湿度と関係なく行われ,過加湿などの不具合が生じることがあった。
【0003】このため,加湿器の加湿量は,加湿を行う部屋の温度や湿度,または
加湿器の設定湿度などを総合的に判断して,過加湿とならないように,適切な加湿
を行う必要がある。
【0004】そこで,従来の加湿器は図6に示すように,9は湿度センサー,10
は水蒸気発生量制御手段,11は水蒸気発生装置,12は表示制御手段,13は表
示器,14はマイクロコンピュータである。
【0005】従来の加湿器は,以上のように構成され,湿度センサー9により部屋
の湿度を検出し,この検出値と使用者の希望する設定湿度とを比較して,その差に
より直接加湿量を制御し,水蒸気発生装置11を稼働させ加湿を行っていた。
(ウ)本件明細書1には,本件発明1が解決しようとする課題について,以下の記
載がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従来の構成は,上述のような構成になっていて,
従来の加湿器では,湿度センサーからの検出信号と,予め定められた設定湿度の値
との差によって,加湿量を直接決定しているので,加湿量が頻繁に変化し,室温と
の対応が正確になされないために,過加湿になってしまうなどの問題点があった。
【0009】本発明は,上記のような課題を解消するためになされたもので,自動
的に設定湿度に見合った加湿量で加湿を行い,かつ,過加湿などが生じない適切な
加湿量にすばやく制御できる加湿器を提供するものである。
(エ)本件明細書1には,本件発明1における課題解決手段として,以下の記載が
ある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明の加湿器は,上記のような目的を達成するた
めに,請求項1記載の発明は,室内湿度を検出する湿度センサーと,室内温度を検
出する温度センサーと,加湿用の水蒸気を発生する水蒸気発生装置とからなる加湿
器において,上記室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加
味した加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段と,選択された該加湿程度及び検出
された該室内温度に基づいて加湿度を設定し,該加湿度に基づいて該水蒸気発生装
置を制御する制御手段とを設けたことを特徴とする加湿器である。
(オ)本件明細書1には,本件発明1の実施の形態についての説明が,【0015】
から【0029】にかけて記載され,またその実施例における室温と加湿程度の関
係についての実施例が図3として示されているが,その図には加湿程度として,
「適湿」,「のどうるおい」,「ひかえめ」の三つの加湿程度が選択される例が示
されている。
(カ)本件明細書1には,本件発明1における作用効果について,以下の記載があ
る。
【0030】
【発明の効果】本発明に係る加湿器によれば,室内湿度を検出する湿度センサーと,
室内温度を検出する温度センサーと,加湿用の水蒸気を発生する水蒸気発生装置と
からなる加湿器において,加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段と,選択された
該加湿程度及び検出された該室内温度に基づいて加湿度を設定し,該加湿度に基づ
いて該水蒸気発生装置を制御する制御手段とを設けたことにより,室内温度に応じ
た適湿な加湿運転ができる。
【0031】また,前記加湿程度選択手段によいり,複数以上の加湿運転モード
(『喉うるおい』『適湿』『ひかえめ』)を設けたことで,室内温度での湿度設定
に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した湿度での加湿運転をすることが出
来,使用者の快適度合いが満足される。
イ本件特許1の審査過程
本件特許1が特許されるに至る審査過程は次のとおりである。
(ア)特許庁審査官は,平成14年12月,本件特許1の出願につき,本件発明1
は,引用文献1(乙1公報)と加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段の有無で相
違するだけであり,その相違点についての構成は,引用文献2(乙3公報),引用
文献3(特開平9-101048号の公開特許公報,乙4,以下「乙4公報」とい
う。)などから周知技術であるとした上で,乙1公報記載の構成に加湿程度選択手
段を有するという周知技術の構成を付加することは当業者であれば容易に想到し得
るとして,拒絶理由通知をした(乙5)。
(イ)原告は,上記拒絶理由通知に対し,本件発明1の請求項に,構成要件1Bの
「上記室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した」と
の部分を加える手続補正をなし(乙7),あわせて「即ち,本願発明の要旨とする処
の『室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した加湿湿
度を選択可能な加湿程度選択手段と,選択された該加湿程度及び検出された該室内
温度に基づいて加湿度を設定し,該加湿度に基づいて該水蒸気発生装置を制御する
制御手段とを設けた」構成が引用文献1~3の構成には全く記載されておりません。
(改行)引用文献2(乙3公報)及び3(乙4公報)のものは,室内温度が変わっても,
湿度は常に一定,つまり,湿度が40%の設定であれば,室内温度が変化しても常
に湿度が40%であります。(改行)これに対し,本願発明のものは,図3に示す
ように,室内温度が変わると湿度も変わる,例えば,のどうるおいであれば,のど
うるおいが得られる湿度に変わるもの,つまり,室内温度が変われば,のどのうる
おいが得られる湿度に変わるものであり,本願発明と引用文献2(乙3公報)及び3
(乙4公報)に記載のものとは全く相違するものであります。」,「本願発明は引用
文献1〜3(乙1,3,4公報)には記載されていない構成を要旨とすることにより
本願発明は,室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味し
た湿度で加湿運転をすることができ,室内温度が変化しても使用者の快適度合いが
常に満足されるという引用文献1〜3(乙1,3,4公報)にはない独特の効果を奏
するものであ」ると記載した意見書(乙6)を提出した。
(ウ)特許庁審査官は,引用文献2(乙3公報)の「一方,ステップ12によって室
温が0℃以下40℃以上でないと判定された場合には,ステップ14に進み湿度設
定ボタン3からの使用者の希望する設定湿度の読み込みを行い,加湿量判定手段4
にて現状湿度と設定湿度との比較を行う。そして,その差の大きさに基づいてステ
ップ15にて加湿量のランクを判定する。この現状湿度と設定湿度との差の加湿量
ランクの関係は図3に示している。但し,図3は一例であるため使用者の湿度の好
み具合に対応して変更することもできる。」とされた記載,及び同文献の図4を参
酌すると,「室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味し
た湿度での加湿運転をすることができ,室内温度が変化しても使用者の快適度合い
が常に満足される」という本件発明1の独特の構成及びその効果が記載されている
と解されるから,「意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに
足りる根拠を見いだせない」として,本件発明1の特許出願につき拒絶査定をした
(乙8)。
(エ)原告は,この拒絶査定を不服として審判請求(乙9)をし,同手続において,
この拒絶査定に対しての反論と請求項1を補正した手続補正書(乙10,11)を
提出しているところ,本件手続補正書(乙10)には,次の記載がある。
「本発明の加湿器は,室内温度を検出し,室内温度に適した目標の湿度になるよ
うに加湿度(加湿量)を調整しています。
その加湿度はユーザーが選択した加湿程度と,検出した室内温度に基づいて調整
されますが,その加湿程度は,『室内温度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高
め・低めとを加味した』ものとなっています。」具体的には,複数の加湿程度(運
転モード)の中からユーザーが一つを選択するわけですが,室内温度での湿度設定
とする加湿程度,すなわち室内温度に対して,その温度に適した標準的な湿度に設
定する加湿程度の他に,さらに湿度が高めの希望を加味した加湿程度,すなわち室
内温度に対して標準より高めの湿度に設定する加湿程度と,あるいは湿度が低めの
希望を加味した加湿程度,すなわち室内温度に対して標準より低めの湿度に設定す
る加湿程度とがあり,これらの加湿程度から選択します。
なお,これに対応するものとして本明細書の実施例では,「のどうるおい」,
「適湿」,「ひかえめ」の三つの加湿運転モードから選択して加湿器を運転する例
を記載しています(図3)。」
「拒絶査定では引用文献2(乙3公報)の[0014],図4を参酌すると,本願
発明の独特の構成及びその効果が記載されていると解することができる,とのご指
摘を受けております。
しかしながら,引用文献2(乙3公報)([0014],[0015])は室温
が0~40℃の場合に,現状湿度と設定湿度との差を検出し,図3に基づいて加湿
量を調整し,さらに現状の室温に基づいて図4により加湿量を補正することを記載
しているものです。
すなわち,あくまでも使用者が具体的な湿度(40,50,60%)の値を設定
し,検出した現状の湿度と室温に基づいて加湿量を調整しているものです。
本発明は既に説明したように,各々の室温領域での最適湿度を設定し,その設定
値に対して,さらに使用者が適湿度合いを加味して設定湿度を調整できるようにし
たものです。あきらかに引用文献2(乙3公報)とは異なります。」
また原告は,請求項1の「湿度程度」を「加湿程度」に訂正するとともに,明細
書の【発明の詳細な説明】欄の【0010】【課題を解決するための手段】中に,
上記(イ)の手続補正で特許請求の範囲【請求項1】に加えたと同様の「上記室内温
度での湿度設定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した」との文言を加え
た。
(オ)特許査定
本件特許1は,以上の過程を経て,平成15年11月6日,特許査定された(甲
2)。
ウまず本件明細書1を見ると,その【0031】には,本件発明1の効果が三
つの加湿程度選択手段との構成を採ることに関連付けられた記載があるが,本件発
明1の課題あるいはその解決のための技術的手段として,加湿程度選択手段が二つ
ではなく三つでなければならないことについて技術的意義を説明した記載があるわ
けではない。
しかし,その審査過程を見ると,原告は,最初にされた拒絶査定通知に対しては,
特許請求の範囲に加湿度程度選択手段を具体化する「上記室内温度での湿度設定に
使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した」との要件を加えるという補正手続
をなし,これにより引用に係る文献(乙1公報,乙3公報,乙4公報)記載の従来技
術とのと相違を強調する主張をなしている。
そして,それでもなお拒絶査定を受けたため不服審判請求をした機会にも,上記
付加した部分をもって従来技術との相違を強調する主張をしているが,本件手続補
正書において,上記補正により具体的要件を付加された構成要件1Bの意義につき,
室内温度に対して,その温度に適した標準的な湿度に設定する加湿程度の他に,さ
らに湿度が高めの希望を加味した加湿程度,すなわち室内温度に対して標準より高
めの湿度に設定する加湿程度と,あるいは湿度が低めの希望を加味した加湿程度,
すなわち室内温度に対して標準より低めの湿度に設定する加湿程度とがあるとして,
選択できる加湿程度が三つであると特定している(原告は,本件手続補正書記載中
の「具体的には」以下の部分を実施例の記述にすぎないように主張するが,日本語
の自然な解釈として,これに続く文章は,その前の文章の抽象的,観念的な表現を
文字通り具体化した内容であるから,その前文の構成要件の注釈的な解釈を述べて
いると理解できる。そして,この「具体的には」に続く文章のさらに続く「なお,
これに対応して」と続く文章こそが,「例を記載しています。」と結ばれることか
ら明らかなように,実施例について述べる部分と理解できるから,「具体的には」
以下部分すべてが実施例のようにいう原告の主張は採用できない。)。
加えて原告は,本件手続補正書において,拒絶査定の引用文献2(乙3公報)につ
いて,同文献の開示技術は,あくまでも使用者が具体的な湿度(40,50,60
%)の値を設定し,検出した現状の湿度と室温に基づいて加湿量を調整していると
した上で,本件発明1は,各々の室温領域での最適湿度を設定し,その設定値に対
して,さらに使用者が適湿度合いを加味して設定湿度を調整できるようにしたもの
として,すなわち,従来技術との相違点を明らかにするものとして,本件発明1の
構成は加湿程度選択が三つあることを特定している。
そうすると,構成要件1Bは,もともと三つの加湿程度選択手段があるものと解
釈するのが自然である上に,その解釈の手掛かりになる「上記室内温度での湿度設
定に使用者の湿度の希望の高め・低めとを加味した」との要件が,公知技術を引用
してされた拒絶理由通知に対して加湿程度選択手段を具体化する要件を付加する手
続補正として特許請求の範囲に加えられたものであり,しかも,その意味が,加湿
程度選択手段を三つとすることにあることを,原告自身,審査過程において繰り返
し明確に主張をしていたというのであるから,その審査過程を経て特許査定を受け
た後において,これと異なる解釈を主張することは許されないというべきである。
(3)以上によれば,構成要件1Bの「上記室内温度での湿度設定に使用者の湿度
の希望の高め・低めとを加味した加湿程度を選択可能な加湿程度選択手段」の意義
は,加湿程度選択手段の選択として,「室内温度での基準となる適切な湿度」,
「使用者の希望を反映した前者の湿度より高めの湿度」及び「使用者の希望を反映
した最前者の湿度より低めの湿度」の三つの加湿程度選択手段があることを要件と
しているものと解するのが相当である。
(4)以上を前提に検討すると,被告製品1には,加湿程度の選択手段として,
「サラリ加湿」ボタンを押すことによって加湿運転が開始するサラリモードと,
「のど・肌加湿」ボタンを押すことによって加湿運転が開始するのど・肌モードと,
湿度設定ボタンを押して,50%,60%,70%の加湿を選択することによって
加湿運転が開始する標準モードの複数があるが,本件発明1のように室温に応じて
加湿程度が変化する設定となっている加湿程度の選択は,サラリモードとのど・肌
モードの二つだけである。これと異なり標準モードは,使用者が加湿程度を選択す
るが,これは固定値であって室温に応じて変化するものではないというのであるか
ら,結局,本件発明1の加湿程度選択手段に対応する加湿程度選択手段は二つだけ
しか備わっていないということになる。
すなわち,被告製品1は,本件発明1の構成要件にいう加湿程度選択手段を二つ
しか備えていないから,構成要件1Bを充足しているということはできない。
(5)したがって,この点で,被告製品1は,本件発明1の技術的範囲に属さない
というべきである。
2争点3(被告各製品は本件発明2の技術的範囲に属するか)について
以下に詳述するとおり,被告各製品は,本件発明2の構成要件2Gを充足せず,
したがって,被告各製品は本件発明2の技術的範囲に属するとは認められない。
(1)本件発明2について
ア本件明細書2の【技術分野】の項には次の記載がある。
【0001】本発明は,室内の空気を加湿する加湿機に関し,特に,水分を含んだ
加湿フィルタを通じて空気を加湿する加湿機に関する。
イ本件明細書2の【背景技術】の項には次の記載がある。
【0002】この種の加湿機は,経路中に上流から順に加湿フィルタと送風機を配
された通気路を有し,送風機の回転に従い,外部の空気である室内の空気を通気路
内に吸い込み,吸い込んだ空気を加湿フィルタを通じて加湿して外部である室内へ
吹出し口より吹き出す。その際の空気は,加湿フィルタを通じる過程で水分を取り
込み,これにより加湿される。
【0003】ここでの加湿フィルタは,通気路の断面領域のほぼ全域を遮るように
配されたり,その一部を遮るように配されたりし,トレイに貯まっている水に下部
を浸され,その水を吸い上げて水分を含んだ状態になる。例えば図8に示すように,
トレイ15には,通気路の外でトレイ15と水平に並べて補助トレイ18が配され
る。補助トレイ18には,水を貯留した給水タンクが連結されていて,その給水タ
ンクから水が適時供給され,補助トレイ18内に一定の水位に水が貯められる。ト
レイ15と補助トレイ18とは,連通孔19を介して接続されており,それぞれに
貯まっている水はその連通孔19を通じて互いに行き来できる。そして,加湿運転
中は,空気の流通に伴って加湿フィルタから水分が奪われていくが,加湿フィルタ
は奪われた分の水をトレイ15から吸い上げ,吸い上げた分の水は給水タンクから
補助トレイ18,連通孔19を経てトレイ15に順次供給される。
【0004】また,補助トレイ18には,トレイ水位検知スイッチ45が設置され
ている。このトレイ水位検知スイッチ45は,補助トレイ18内に貯められた水が
正規の水位より下がって水不足の水位に達したことを検知する。従来一般の加湿機
では,加湿運転中にトレイ水位検知スイッチ45から検知出力があると,送風機を
停止し,その後トレイ水位検知スイッチ45からの検知出力が消えると,自動的に
送風機を回転させて加湿運転を再開させるようになっていた。給水タンクへの水の
補給がなされれば,補助トレイ18内の水位が上昇して回復し,これに伴ってトレ
イ水位検知スイッチ45からの検知出力が消えることから,復旧の自動化の観点よ
り便利だからである。
【0005】ところがこのような加湿機では,実際には,加湿運転中にトレイ水位
検知スイッチ45から検知出力があった場合,給水タンクへの水の補給がなされな
いと,送風機の停止と回転が延々と繰り返されるという誤作動が生じることがあっ
た。その誤作動の発生状況を図9を参照しながら以下に示す。
【0006】加湿運転中は,送風機の回転に従ってその上流側の通気路内に存在す
る空気が送風機に吸い込まれるため,送風機の上流側での通気路内の圧力は大気圧
よりも低下して負圧となっている。すると,図9(a)に示すように,補助トレイ
18内の水面には大気圧が作用する一方で,トレイ15内の水面には負圧が作用す
ることから,トレイ15内の水の水位は補助トレイ18内の水の水位よりも上昇し
た状態におかれる。
【0007】この状態で加湿が進行して,トレイ15及び補助トレイ18内の水が
減って行き,図9(b)に示すように,トレイ水位検知スイッチ45から検知出力
があると,送風機が停止して,送風機による空気の吸込みが止まる。すると,トレ
イ15内の水面には補助トレイ18内と同じ大気圧が作用するため,図9(c)に
示すように,トレイ15内の水の水位と補助トレイ18内の水の水位とが同じにな
るように,トレイ15内の水の一部が連通孔19を通じて補助トレイ18内に移動
し,その結果として,トレイ15内の水の水位が下降する一方で,補助トレイ18
内の水の水位が上昇する。これにより,給水タンクへの水の補給がなされていない
にもかかわらず,トレイ水位検知スイッチ45からの検知出力が消えてしまい,送
風機の回転が再開する。
【0008】送風機の回転が再開すると,再び送風機による空気の吸込みにより,
補助トレイ18内の水面とトレイ15内の水面とに作用する圧力に差が生まれ,平
衡を保つように補助トレイ18内の水の一部が連通孔19を通じてトレイ15内に
移動する。その結果,トレイ15内の水の水位が上昇する一方で,補助トレイ18
内の水の水位が下降する(図9(b)参照)。これにより,トレイ水位検知スイッ
チ45からの検知出力が再びあり,送風機が再び停止する。こうして,給水タンク
への水の補給がなされるまで,送風機の停止と回転が延々と繰り返されてしまうわ
けである。
【0009】そこで,このような誤作動の発生を防止するため,例えば特許文献1
には,補助トレイ18にトレイ水位検知スイッチ45を2つ設置した加湿機が開示
されている。1つ目のトレイ水位検知スイッチ45は,補助トレイ18内に貯めら
れた水が水不足の水位に達したことを検知し,2つ目のトレイ水位検知スイッチ4
5は,1つ目のトレイ水位検知スイッチ45よりも高い水位で検知出力が消えるも
のであって,2つ目のトレイ水位検知スイッチ45からの検知出力が消えない限り,
送風機の回転すなわち加湿運転を再開させないようにしている。
ウ本件明細書2の【発明が解決しようとする課題】の項には次の記載がある。
【0010】しかし,上記した従来の加湿機では,補助トレイ18内の水が水不足
の水位に達した際に起こる誤作動の発生を防止するためには,トレイ水位検知スイ
ッチ45を2つにする必要があることから,部品点数が増え,コストアップを伴っ
てしまう。
【0011】そこで本発明は,上記の問題に鑑みてなされたものであり,補助トレ
イ内の水が水不足の水位に達した際に起こる誤作動の発生を簡易に防止できる加湿
機を提供することを目的とするものである。
エ本件明細書2の【課題を解決するための手段】の項には次の記載がある。
【0012】上記目的を達成するため,本発明による加湿機は,通気路中の送風機
の回転に従い,外部の空気を吸い込んで加湿し,加湿した空気を外部へ吹き出す加
湿機であって,前記通気路には,前記送風機の上流域に,水を貯めるトレイと,こ
のトレイに貯まっている水に下部が浸されて水分を含んだ加湿フィルタと,が配さ
れ,前記トレイには,給水タンクからの水を貯めて互いに連通する補助トレイが接
続されていて,前記補助トレイに貯まっている水が減って水不足の水位に達したこ
とを検知するトレイ水位検知部と,前記送風機の回転動作を制御する制御部とを備
えている。前記制御部は,前記送風機を回転させている加湿運転中に前記トレイ水
位検知部から検知出力を受けたとき,所定時間が経過するまで前記送風機の回転を
継続させる。
【0013】このような構成にすれば,トレイ内の水の水位が補助トレイ内の水の
水位よりも上昇した状態での加湿運転中,トレイ水位検知部から検知出力を受けた
とき,所定時間の分だけ加湿が進行し,補助トレイ内の水の水位はトレイ水位検知
部よりはるかに下方まで下降した位置に至る。従って,給水タンクへの水の補給が
なされることなく,その後,トレイ内の水の水位と補助トレイ内の水の水位とが同
じになるように,トレイ内の水の水位が下降する一方で,補助トレイ内の水の水位
が上昇しても,その水位がトレイ水位検知部にまで至ってしまうことはなく,トレ
イ水位検知部からの検知出力が消えてしまうことはない。
よって,この場合は,給水タンクへの水の未補給を認識でき,補給が済むまで加
湿運転が再開されない。
オ本件明細書2の【発明の効果】の項には次の記載がある。
【0014】本発明の加湿機によれば,補助トレイ内の水が水不足の水位に達した
際,給水タンクへの水の補給が済むまで加湿運転が再開されず,結果として,誤作
動を防止できる。
カ本件明細書2の【発明を実施するための最良の形態】の項には次の記載があ
る。
【0058】なお,トレイ水位検知スイッチ45から検知出力があってからの所定
時間は,結局のところ,トレイ15内の水面と補助トレイ18内の水面に作用する
気圧が同じになり両者の水位が同じになっても,トレイ水位検知スイッチ45から
の検知出力が消えない程度まで,補助トレイ18内の水を減らすのに十分な時間で
あり,2分~10分程度が適当である。もっとも,補助トレイ18内の水の減り度
合いは,送風機8の風量すなわち回転数に依存することから,その所定時間は,継
続して回転する送風機8の回転数に応じて適宜変更されることが好ましい。つまり,
送風機8の回転数が高いほど短く設定される。
(2)本件発明2の構成要件は,別紙対比表2の本件発明2の分説欄記載のとおり
であるところ,これに以上の明細書の詳細な説明の記載を併せ考えると,本件発明
2は,水位低下(タンク水不足)の検知を受けて送風機を停止するという従来技術
の構成では,水位低下検知による送風停止に伴うトレイ内の負圧解除による水位変
動の影響を受けることによって送風機の回転と停止が繰り返されるという問題があ
ったことから,この問題を,水位低下検知後も直ちに送風機を停止させず,所定時
間が経過するまで送風機の回転を継続させることによって水位を下降させ,もって
送風機停止による負圧解除後に水位が上昇しても,なお水位低下を検知し得るよう
にすることで解決したものと解される。
そして,その課題解決手段である「所定時間が経過するまで送風機の回転を継続
させる」という場合の「所定時間」とは,水位低下検知後,送風機停止による負圧
解除によって水位が上昇してもなお,水位検知部がなお水位低下を検知できるに足
りるだけ水位を下降させるに必要な送風機の運転時間をいうものと解される。
(3)そこで,以上の点を踏まえて被告各製品についてみると,証拠(甲14,乙
25)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品は,水位低下を検知した際,この3
秒後に,30秒ないし50秒の間だけファンを強回転し,この強回転していたファ
ンが回転停止しないまま,その後5分間微弱回転して15分間停止し,再度,この
5分間の微弱回転と15分間の停止という間欠運転を繰り返し行う構成であり,こ
の微弱回転での間欠運転は,運転入/切ボタンを押して運転を停止(運転オフ)さ
せない限り延々と継続するものと認められる。
そうすると,この場合,水位低下検知後に継続される送風機の回転は,間欠的に
なされる微弱回転であるが,送風が継続してなされている以上,水位低下検知後の
補助トレイの水位をさらに下降させるものといえ(【0058】参照),また後記
検討する原告のした実験結果(甲14)からも裏付けられているように,その送風
機の継続回転は,負圧解除による水位上昇後も水位検知部がなお水位低下を検知で
きるだけの水位下降をもたらし得るものといえる。
(4)しかし,前掲証拠によれば,被告各製品は,水位低下を検知すると,その後,
運転入/切ボタンを押して運転を停止(運転オフ)させない限り,水位が変位して
も送風機の運転が再開しないという構成を採用していることも認められるから,被
告各製品は,送風機停止がもたらす負圧解除による水位変動の影響を受けることに
よって送風機の回転と停止が繰り返されるという問題を,水位そのものをさらに下
降させて解決するという本件発明2の解決手段とは異なる構成で解決しているもの
といえる。
また,その送風機の継続回転は,上記(3)のとおり,当初の強回転後は,微弱回
転の間欠運転が延々と継続するというものであって,その運転時間は,水位検知部
がなお水位低下を検知できるに足りる水位下降をさせるに必要な時間とは何ら関連
付けられていないし,そもそも水位低下を一旦検知した後は,その後の水位変動の
検知は影響を受けないというのであるから,被告各製品の構成は送風機停止による
負圧解除までに十分水位を下降させる「所定時間」を基準とする技術ではないとい
うべきである。
したがって,この送風機の継続回転には,本件発明2にいう「所定時間が経過す
るまで」送風機の回転を継続させるという技術的意義があるものということはでき
ないというべきである。
(5)この点,原告は,水位低下検知後,運転停止ボタンを一度押した後給水せず
に再度運転させる場合には,水位低下があると検知して送風機が回転する場合があ
ることから,被告各製品における水位低下後の送風機の回転(アフターラン)も,
本件発明2の課題とした誤作動を防止するという作用効果を生じるものであり,
「所定時間が経過するまで前記送風機の回転を継続させる」との要件を充足する旨
主張する。
確かに,原告がした実験結果(甲14)によれば,水位低下検知後に電源プラグ
を抜いて送風を止め,約22分30秒間放置後,再度,電源プラグを差すと送風機
の回転が開始されるが,水位低下検知後に送風機を,強回転を50秒,弱回転を4
分10秒,15分間の停止を経て弱回転2分30秒を経た後に停止させると,電源
を入れたとしても回転を開始しないことが認められるから,被告各製品では,水位
低下検知後に送風機を継続回転させない場合には負圧解除による水位上昇の影響を
受けるが,水位低下検知後も送風機を継続回転させることによって十分な水位下降
がもたらされ,送風機の回転の再開が防ぎ得るという効果が得られており,この場
面では,本件発明2と同じ技術的解決手段,すなわち送風機の継続による水位下降
が用いられているかのようである。
しかし,そもそも本件発明2は,水位低下検知により送風機の回転を停止すると,
負圧解除による水位上昇を受けて送風機の回転と停止が繰り返されるという問題の
解決を課題とするものであるから,電源がオンの状態が継続していることが前提と
されており,上記実験のように,電源をオフにすることは技術的課題の設定場面が
異なってしまうので,そのような場面設定での議論は相当ではない。また,上記実
験結果(甲14)は,電源がオンの状態が継続している場合,本件発明2と同様の
効果を奏する水位下降が,水位低下検知後22分30秒経過後にもたらされたこと
を示しているが,その時間は送風機の回転を人為的に途中で中断するまでの時間で
あって,これでは本件発明2の要件である「送風機の回転を継続させる」,「所定
時間」とはいえない(本件発明2は,送風機停止による水位上昇で生じる問題の解
決を課題とするものであるが,またそもそも送風機の回転を継続させれば,いずれ
十分な水位下降が生じるのも当然であるから,送風機の回転を十分継続させた上で,
必要な水位低下が生じたという結果だけを示すことに技術的な意味があるとは言え
ない。)。
(6)したがって,被告各製品は,構成要件2Gを充足するものとはいえないから,
本件発明2の技術的範囲に属さないというべきである。
3争点6-1(本件特許3は特許法29条の2の規定により特許無効審判によ
り無効にされるべきものか)及び争点7(本件特許3についての訂正の再抗弁の成
否)について
(1)本件発明3について
本件発明3の要旨は,特許請求の範囲の請求項1記載のとおりであり,これを分
説すると,別紙対比表3「本件発明3の分説」欄記載のとおりである。
(2)先願発明について
ア乙14公報の【特許請求の範囲】の項には,以下の記載がある。
【請求項1】設定湿度と検出湿度に基づいて容器に収容した水を加熱して蒸気を発
生させ,該蒸気により周囲の空気を加湿する加湿器において,通電開始または加湿
開始から所定時間は,設定湿度と検出湿度に関係なく,必ず蒸気を発生させて加湿
を行うことを特徴とする加湿器。
イ乙14公報の【発明が解決しようとする課題】,【課題を解決するための手
段】の項には,以下の記載がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の加湿器では,設定湿度が検
出湿度より低い場合,通電を開始してもいつまでも蒸気がでないため,加湿器が故
障していると使用者が勘違いをすることがあった。また,ファン式の加湿器では,
ファンによって蒸気を吹き出させるので,蒸気が見えにくく,故障であると使用者
が誤認することがあった。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するための第1の手段として,本発
明は,設定湿度と検出湿度に基づいて容器に収容した水を加熱して蒸気を発生させ,
該蒸気により周囲の空気を加湿する加湿器において,通電開始または加湿開始から
所定時間は,設定湿度と検出湿度に関係なく,必ず蒸気を発生させて加湿を行うよ
うにした。
ウ乙14公報の【発明の実施の形態】の項に以下の記載がある。
【0010】図1は,本発明にかかる加湿器を示す。この加湿器は,本体1と蓋体
2とからなっている。本体1の内部には,水を収容する内容器3が設けられている。
内容器3の底外面には水を加熱する985ワットの立上げヒータ4と315ワット
の加湿ヒータ5が配設されている。また,内容器3の底には,内容器3の前側の側
壁に沿って立ち上がり内容器3の内部と連通する透明な水位管6が接続されている。
この水位管6の水位は,本体1の正面に設けたパネル7の水位窓8から直視できる
ようになっている。また,本体1の内部には,内容器3内の水の温度を検出するた
めのサーミスタからなる温度センサ9が内容器3の底面に接触するように設けられ
ている。さらに,本体1の内部には,ファン10が設けられるとともに,該ファン
10から送風される空気の空気流路11が形成されている。空気流路11は,ファ
ン10から立ち上がって本体1の後側の上面に形成された吹出口12まで延びると
ともに,該吹出口12の近傍に蒸気入口13が形成されている。
【0011】前記パネル7には,前記水位窓8のほか,図2に示すように,運転入
/切スイッチ14と,40%から60%までの5段階の湿度を設定することができ
る湿度設定スイッチ15と,弱加湿モードを設定する弱加湿スイッチ16およびそ
の表示ランプ16aと,設定時間後自動的に運転を切にするタイマー設定スイッチ
17と,クエン酸洗浄モードを設定するクエン酸洗浄スイッチ18とが設けられて
いる。また,パネル7には,後述する湿度センサ23の検出湿度に応じて乾燥,適
湿,高湿の3段階の湿度を表示する湿度モニターランプ19と,連続運転を表示す
るランプ20と,前記湿度設定スイッチ15で設定される5段階の設定湿度を表示
する表示ランプ15a~15eと,2時間と4時間のタイマー設定時間を表示する
表示ランプ17a,17bと,給水を促す警告ランプ21と,湿度センサ23の非
接続を表示する警告ランプ22とが設けられている。
【0012】本体1の外側面には,図3に示すように,湿度センサ23を内蔵した
センサユニット24から延びるコード25の先端のマグネットプラグ26が接続さ
れる接続受部27が設けられている。前記センサユニット24は加湿器が設置され
る室内の壁等に引っ掛けて,加湿器から離れたところの湿度を検出できるようにな
っている。なお,このセンサユニット24は,電源コード28の一部に取り付けて,
そのコード25を電源コード28に沿わせるようにしてもよい。また,センサユニ
ット24は,図4に示すように,本体1の適宜場所に取り付けた伸縮可能なロッド
29の先端に設けてもよい。さらに,センサユニット24からの室内湿度の情報を
赤外線にて送信してもよい。
【0013】蓋体2は,図1に示すように,本体1にヒンジ30によって前記内容
器3を開閉可能に取り付けられている。この蓋体2の内面には前記内容器3を蓋す
る内蓋31が取り付けられている。この内蓋31と蓋体2との間には,内蓋31の
中央に形成された蒸気流入口32から,蓋体2の後側に形成された蒸気流出口33
に至る蒸気流路34が形成されている。この蒸気流路34の蒸気流出口33は,蓋
体2を閉じた際に,前記本体1の蒸気入口13と合致して,シール部材35を介し
て連通するようになっている。
【0014】本体1の内部には,タイマを内蔵し,マイクロコンピュータからなる
制御装置36が設けられている。この制御装置36は,前記パネル7の各設定スイ
ッチからの信号,および前記温度センサ9および前記湿度センサ23からの検出信
号に基づいて,前記立上げヒータ4,加湿ヒータ5およびファン10を制御する。
【0015】以下,前記構成からなる加湿器の制御装置36による動作を説明する。
なお,本加湿器の制御装置36では,標準加湿モード,弱加湿モードおよびクエン
酸洗浄モードの3モードを実行できるが,本実施形態では,主として標準加湿モ
ードについて説明する。
【0016】湿度センサ23が内蔵されたセンサユニット24を部屋の壁等の加湿
器から離れた場所に取り付け,そのマグネットプラグ26を加湿器本体1の接続受
部27に接続する。パネル7の運転入/切スイッチ14により電源を投入すると,
連続運転のランプ20が点灯する。湿度センサ23が接続されていなければ,湿度
センサ非接続のランプ22が点灯して,ユーザに警告される。湿度センサ23によ
り湿度が検出されると,湿度モニターランプ19に,乾燥,適湿および高湿の3段
階の湿度が表示される。
【0019】標準加湿モードでは,図5のフローチャートに示すように,ステップ
101で,温度センサ9からの検出温度に基づいて湯温が98℃以上であるか否か
が判断され,98℃以上でなければステップ102で立上げヒータ4がオンされ,
内容器3内の水が98℃まで加熱される。湯温が98℃以上になると,ステップ1
03で2分タイマがスタートし,ステップ104で立上げヒータ4がオフされると
ともに,加湿ヒータ5とファン10がオンされる,これにより,設定湿度,検出湿
度にかかわらず,2分間は,蒸気が発生して吹出口2から吹き出す。(略)
【0020】ステップ105で,タイマにより2分が経過したことが判断されると,
ステップ106で設定湿度が検出湿度より大であるか否かが判断される。設定湿度
が検出湿度より大であれば,ステップ107で加湿ヒータ5とファン10のオン状
態を継続して,検出湿度が設定湿度になるまで加湿が継続される。また,設定湿度
が検出湿度より以下であれば,ステップ108で加湿ヒータ5とファン10がオフ
されて,加湿が停止される。(略)
【0023】前記図5の実施形態において,通電初期の段階で加湿ヒータ5をオン
する時間,すなわち,強制加湿時間は,前記実施形態では2分であり,一定値に設
定されているが,湿度センサ23による検出湿度に基づいて変更できるようにして
もよい。すなわち,湿度センサ23による検出湿度により雰囲気湿度が高いと判断
される場合には,蒸気が見えにくいため,強制加湿時間を長くし,逆に雰囲気湿度
が低いと判断される場合には,蒸気が見えやすいため,強制加湿時間を短くする。
エ以上の記載によれば,乙14公報には,設定湿度と検出湿度に基づいて容器
に収容した水を加熱して蒸気を発生させ,該蒸気により周囲の空気を加湿する加湿
器であって,湿度センサ23を内蔵したセンサユニット24は加湿器が設置される
室内の壁等に引っ掛けて,加湿器から離れたところの湿度を検出できるようになっ
ており,水を収容する内容器3が設けられ,その底外面には水を加熱する立上げヒ
ータ4と加湿ヒータ5が配置され,5段階の湿度を設定することができる湿度設定
スイッチ15を有し,前記湿度センサ23の検出湿度に応じて乾燥,適湿,高湿の
3段階の湿度を表示する湿度モニターランプ19と,前記湿度設定スイッチ15で
設定される5段階の設定湿度を表示する表示ランプ15a〜15eが設けられ,制
御装置36が,各設定スイッチからの信号,及び前記湿度センサ23からの検出信
号に基づいて,前記立上げヒータ4,加湿ヒータ5を制御し,通電開始又は加湿開
始から所定時間は,設定湿度と検出湿度に関係なく,必ず水蒸気を発生させて加湿
を行い,所定時間経過後に設定湿度と検出湿度の比較を行って,加湿を継続するか
停止することを特徴とする発明が記載されているものと認められる。
(3)本件発明3と乙14発明との対比検討
ア本件発明3の構成要件Aの「室内の湿度を検出する湿度センサー」は,乙1
4発明の「湿度センサ23を内蔵したセンサユニット24」に,構成要件Bの「水
蒸気発生装置」は,乙14発明の「立上げヒータ4と加湿ヒータ5を設けた内容器
3」に,構成要件Cの「湿度を設定する設定スイッチ」は,乙14発明の「40%
から60%までの5段階の湿度を設定することができる湿度設定スイッチ15」に,
構成要件Dの「検出湿度および設定湿度に基づいて前記水蒸気発生装置の動作を制
御する制御装置」は,乙14発明の「制御装置36」に,構成要件Eの「運転スタ
ート時において設定湿度が検出湿度より低い場合,一定時間だけ強制的に水蒸気発
生装置を動作させる制御装置を備える」構成は,乙14発明の「設定湿度,検出湿
度にかかわらず,必ず水蒸気を発生させて加湿を行う構成」に相当するものである
から,本件発明3と乙14発明は,室内の湿度を検出する湿度センサーと,水蒸気
を発生させて加湿を行う水蒸気発生装置と,湿度を設定する設定スイッチと,検出
湿度及び設定湿度に基づいて前記水蒸気発生装置の動作を制御する制御装置とを備
え,運転スタート時において必ず前記水蒸気発生装置を動作させることを特徴とす
る加湿器であることにおいて同一であるといえる(本件発明3は「運転スタート時
において設定湿度が検出湿度より低い場合」の加湿器の作動だけを要旨とするもの
であるが,設定湿度が検出湿度より低い場合に加湿運転が開始されないと故障では
ないかと誤解されるという問題の解決が本件発明3の課題であることからすると,
本件発明3の加湿器は,加湿器本来の機能により,設定湿度が検出湿度より高い場
合には当然に水蒸気発生装置が作動させられていると理解できる。したがって本件
発明3と乙14発明とも,運転スタート時においては全ての場合に水蒸気発生装置
が作動して加湿がなされるという点では共通していることになる。)。
イ他方,本件発明3は,運転スタート時において設定湿度が検出湿度より低い
場合に強制的に蒸気発生装置を作動させるとして,運転スタート時に設定湿度と湿
度センサーが検出した検出湿度とを比較することを要件としていると解されるのに
対し,乙14発明は,通電開始から所定時間は,設定湿度と検出湿度に関係なく,
必ず蒸気を発生させて加湿を行うとして,運転スタート時において設定湿度と湿度
センサーが検出した検出湿度とを比較しないという点で相違している(原告は,本
件発明3は,運転スタート時に湿度を検出するのに対し,乙14発明は,運転スタ
ート直後は湿度を検出しないという点でも相違するように主張するが,乙14公報
の【0016】を見ると,乙14発明は,その実施態様として運転開始時に湿度セ
ンサーが作動を開始する実施態様は記載されているし,【0023】には,運転開
始時の湿度センサーにより検出湿度を用いて,強制加湿時間を変動させることが記
載されているから,運転開始時に湿度センサーが湿度を検出する作動をしているこ
とは明らかであり,したがって,本件発明3と乙14発明の相違点は,湿度を検出
するか否かという点ではなく,上記の相違点にとどまるというべきである。)。
ウまた,双方の発明における運転スタート後の加湿運転の態様は,乙14発明
では,運転開始時にされる加湿運転は設定湿度が室内の検出湿度より低い場合であ
っても高い場合であっても区別することはできず必然的に全く同一の加湿運転とな
ることになるのに対し,本件発明3では,設定湿度が検出湿度より高い場合の加湿
運転の態様は特許請求の範囲で特定されていないので,設定湿度と検出湿度を比較
して,高い場合と低い場合とで異なる加湿運転をする構成を採ることも可能という
ことになり,そのような構成を採る場合には,その点も相違点となりそうである
(本件明細書3の発明の詳細な説明の欄には,「【0019】設定湿度が検出湿度
より低い場合,ステップ6に進み,水蒸気発生量制御手段16は,強制的な加湿運
転を実行する。すなわち,検出湿度以上より高くなるような加湿量を設定して,こ
れに応じて水蒸気発生回路17を駆動する。加熱体6に通電されて,蒸発皿4内の
水が加熱され,発生した水蒸気は,蒸気案内筒7を通って蒸気放出口8から室内に
放出される。このとき,表示装置18には,設定湿度が表示される。【0020】
設定湿度が検出湿度より高い場合,ステップ5に進み,水蒸気発生量制御手段16
から設定湿度以上になる加湿運転を行うように指令が出され,水蒸気発生回路17
が駆動される。このとき,表示装置18には,検出湿度が表示される。」として,
運転スタート開始直後の検出湿度と設定湿度を比較して,設定湿度が検出湿度より
低い場合と高い場合で異なる加湿運転をしている実施態様が記載されている。)。
ただ,本件発明3は,特許請求の範囲の記載において設定湿度が検出湿度より高
い場合の加湿運転の態様を全く特定していないのであるから,それが低い場合と全
く同じ加湿運転の態様という構成を採ることも排除されておらず,そのため,本件
発明3における運転スタート時に開始される加湿運転は,乙14発明と同様,設定
湿度より検出湿度が高い場合も低い場合も全く同一の加湿運転という構成も含んで
いるといわなければならないから,運転スタート時の加湿運転の態様について相違
点があるということはできないというほかない。
エそうすると,本件発明3と乙14発明の相違点は,上記イで認定した設定湿
度と検出湿度の比較を運転スタート時に行うか否かという点だけというべきである
が,両発明の加湿器とも,客観的な加湿運転の態様は,いずれも運転スタート時か
ら水蒸気発生装置が作動し,またこれによってユーザーが加湿器の故障であるとの
誤認を防止する効果が奏されていることに変わりはなく,本件発明3の構成である
運転スタート時に設定湿度と検出湿度の比較を行うこと自体による効果は認められ
ないから,本件発明3は乙14発明に新たな効果を付け加えるものではないという
べきである。
したがって,加湿器の制御において,設定湿度と検出湿度を比較すること自体は
周知慣用の技術であることも併せ考えると,設定湿度と検出湿度の比較を運転スタ
ート時に行うか否かという上記両発明の構成の違いは課題解決のための具体化手段
における設計上の微差にすぎないというべきであるから,本件発明3は乙14発明
と実質的に同一であるというべきである。
オなお,本件発明3によれば,運転スタート時に設定湿度と検出湿度を比較す
ることで,その結果を加湿運転の態様に反映させることができるから,上記の実施
例のように,その比較結果を用いて設定湿度より検出湿度が低い場合と高い場合と
で加湿運転を異ならしめる構成を採用すれば,乙14発明とは異なる効果を奏する
ことは可能であり,またその場合は,設定湿度と検出湿度の比較を運転スタート時
に行うという乙14発明との相違点に技術的に意義があるものといえよう。そして,
原告は,相違点としてこの点を強調しているものと理解できるが,上述のとおり,
本件発明3は,乙14発明と同じ構成,すなわち,運転スタート時に設定湿度と検
出湿度の高低に関係なく全く同じ加湿運転をする構成をも技術的範囲に含んでいる
から,原告主張に係る効果はある特定の実施例の効果といわなければならず,した
がって,この点をもって本件発明3と乙14発明の実質的同一性を否定する主張は,
採用できないといわなければならない。
(4)また,原告は,本件訂正を踏まえ,これにより訂正の再抗弁も主張するが,
本件訂正に係る要件,すなわち「設定湿度と前記湿度センサーが検出した検出温度
とを比較」するとの要件が付加されなくとも,「設定湿度が検出湿度より低い場合」
との用語は,設定湿度と前記湿度センサーが検出した検出湿度とを比較するものと
解すことができ,上記説示は,そのことを前提に検討してきたものであるから,訂
正の再抗弁の主張を踏まえたとしても,本件発明3が,乙14発明と同一であって,
本件特許3が,特許法29条の2に該当することに変わりはない。
(5)以上によれば,本件発明3のみならず本件訂正発明3は,乙14発明と実質
的に同一であり,かつ,本件特許3の出願人はその出願時において,乙14発明に
係る特許の出願人と同一の者ではなく,発明者も同一の者ではないから,本件特許
3は,特許法29条の2に該当するものとして無効審判により無効とされるべきも
のと認められる。
4以上のとおり判断したところによれば,原告の請求はその余の判断に及ぶま
でもなく理由がないことが明らかである。
よって,原告の請求をいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について民事
訴訟法61条を適用して主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官森崎英二
裁判官田原美奈子
裁判官大川潤子

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