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平成15年(行ケ)第97号 審決取消請求事件
平成15年8月26日判決言渡,平成15年7月1日口頭弁論終結
      判      決
     原      告 株式会社ウジケ
     訴訟代理人弁理士 鈴木正次,涌井謙一,山本典弘,鈴木一

     被      告 特許庁長官 今井康夫
     指定代理人    藤木和雄,藤正明,林栄二,大橋信

      主      文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 「特許庁が不服2002-4311号事件について平成15年2月6日にした審
決を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本件は,原告が,後記本願意匠の登録出願をしたところ,拒絶査定を受け,これ
を不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたた
め,同審決の取消しを求めた事案である。
 なお,本訴における準備書面,本願意匠に関する書証(甲2,甲3-1,2,甲
5-2)及び審決において,「パット」と記載されているのは,「パッド(pad)」
(甲7,8)の意味ではないかと推察されるが,本判決では,上記準備書面等に従
い「パット」と表記する。
 1 前提となる事実等
 (1) 特許庁における手続の経緯
 (1-1) 本願意匠
 意匠登録出願人:株式会社ウジケ(原告)
 意匠に係る物品:「ポリシングパット」
 出願番号:意願2001-2892号
 出願日:平成13年2月9日
 形態:別紙審決書写しの別紙第1「本願の意匠」のとおり(審決書の別紙第1の
写真部分はカラー写真であるが,写しとしてはモノクロームのものを添付し
た。)。
 (1-2) 本件手続
 拒絶査定日:平成14年2月12日(原告への送達日)
 審判請求日:平成14年3月13日(不服2002-4311号)
 審決日:平成15年2月6日
 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」
 審決謄本送達日:平成15年2月18日
 (2) 審決の理由
 審決の理由は,別紙審決書の写しのとおりである(ただし,前記のとおり,別紙
第1の写真部分については,モノクロームのものを添付。)。要するに,本願意匠
は,その意匠の属する分野における通常の知識を有する者が,日本国内又は外国に
おいて公然知られた形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に意
匠の創作をすることができたものと認められるから,意匠法3条2項の規定に該当
し,意匠登録を受けることができない,というものである。
 2 原告の主張(審決取消事由)の要点
 (1) 取消事由1
 審決は,引用意匠(甲4,甲6ないし9)を誤って認定し,さらに,創作容易性
の判断を誤ったものであるから,違法として取り消されなければならない。
 (1-1) 審決は,実開平4-92769号公報(甲6)の図1,実開平7-174
63号公報(甲7)の図4~図6に「厚手のドーナツ状板を,薄手のドーナツ状板
でサンドイッチ状に積層した研磨部本体」の意匠が表されているとし,「厚手のド
ーナツ状板を,薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層した研磨部本体の態様
はごくありふれた態様であって,…この構成に格別の創作性は認められない」と判
断したが,誤りである。
 甲6の図1記載の意匠においては,下方の部分(ベース布4とその下面に植設さ
れている繊維5)の厚さは,中間の弾性板2の厚さと同等以上のものとなってお
り,中間のドーナツ状板が厚く,その上下に積層されるドーナツ状板が中間のドー
ナツ状板に比較して薄いというものではない。
 甲7の図4~図6記載の意匠に関しては,上面にベルベット式ファスナ11が貼
着されているリング状硬質基板,ドーナツ状の可撓性チューブ13(23),スポ
ンジパッド14(24)からなる部分の全体を,中間に存在する「厚手のドーナツ
状板」と把握したとしても,この部分の下側に「薄手のドーナツ状板」が積層され
ているものではない。スポンジパッド14(24)の下面には,甲7の図2に示さ
れているように,間隔16,17を空けて,無数の研磨紙布15が貼着されてい
る。側面図である図4~図6においても,間隔17を空けて,複数の研磨紙布15
がスポンジパッド14(24)の下面に配置されていることが表されている。当業
者であれば,甲7の図2,図4~図6及び図中に表されている「間隔」「研磨紙
布」との記載をみれば,中間に存在する「厚手のドーナツ状板」の下側に存在する
ものが,「ドーナツ状板」でないことは直ちに認識できる。すなわち,甲7の図4
~図6記載の意匠は,中間に存在する「厚手のドーナツ状板」の下側に「薄手のド
ーナツ状板」が積層されているものではない。
 したがって,甲6の図1,甲7の図4~図6の記載から,「厚手のドーナツ状板
を,薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層した研磨部本体」の態様がごくあ
りふれた態様であると認定することは誤りであり,この認定に基づき,上記構成に
格別の創作性は認められないと判断したことも誤りである。
 (1-2) 審決は,「間に挟まれたドーナツ状板については,側面視略台形状に形成
することもごく一般的な態様であり(例えば,意匠登録第617966号(注:本
訴甲4),特開平9-141558号(注:本訴甲8)図2参照),上方のドーナ
ツ状板と同形の円孔を設けることも普通に見られる態様であるから(例えば,特開
平9-141558号(上記甲8)図2参照),該ドーナツ状板の態様について
も,格別の創作性があったと認めることはできない。」と認定判断しているが,誤
りである。
 甲4に表されている「砥石」の意匠において,側面視略台形状に表れている部分
は,「砥石」そのものであって,この下面に研磨面が形成されているものであり,
この「砥石」の下面に,更にドーナツ状板が積層されるものではない。本願意匠に
おける中間部の「厚手のドーナツ状板」は,その下面に薄手のドーナツ状板が積層
されるものであって,この中間部の「厚手のドーナツ状板」の下面に積層された薄
手のドーナツ状板の下面が研磨面に形成される。下面に,更にドーナツ状板が積層
されている形態における「間に挟まれたドーナツ状板」と比較すべきであるが,甲
4の意匠は,これとは異なる。甲4の意匠をもって,上記のように認定判断するこ
とは誤りである。
 甲8に記載されている「鏡面研磨用研磨体」の意匠における「スポンジ6」は,
本願意匠における「間に挟まれたドーナツ状板」に相当すると認めることができ
る。しかし,この「鏡面研磨用研磨体」の意匠は,被研磨面への傷防止のため,複
数の平行なディッチ4に対して直角方向の周縁部に,ディッチ4にそって切除した
切欠部8を設けたことを特徴としているものである。すなわち,「被研磨面への傷
防止」という目的を達成するため,甲8の図1,図4,図3,図6に表されている
ように,スポンジ6は,その周縁が切除されている特異な形態になっている。甲8
に係る「鏡面研磨用研磨体」中のスポンジ6の意匠における切欠部8,8の存在
は,観者の注目を引く部分であって,創作において重要な要点をなすものとなって
いる。したがって,このような甲8のスポンジ6の意匠の存在をもって,上記のよ
うに認定判断することは誤りである。
 (1-3) 審決は,「下方のパットの態様について,やや厚手で一回り大径のパット
としてはみ出させることもごく普通の態様であり(例えば,実開平6-80555
号(注:本訴甲9)参照),また,円孔の径を種々変えることも常套的になされる
ものであるから,下方のパットの態様について特に評価すべき創作性は認められな
い。」と認定判断するが,誤っている。
 甲9の研磨用バフの意匠は,図3において「(複数枚の円盤状の布又は紙を重ね
て縫い合わせてなる)バフ本体」(符号2)が示されているが,図3の上側のカッ
プ金具3と下側のカップ金具4とに緊締されることによって,図1,図2図示のよ
うに,円盤状のバフ本体2の周縁が,斜め方向下側に向かっている上側のカップ金
具3の周縁端の下から斜め方向下側に向かって,スカートのフレアー部のように広
がって現れるものである。すなわち,甲9の研磨用バフの意匠は,側面視略台形状
の中間の厚手のドーナツ状板の下側に,薄手のドーナツ状板が積層されているとい
う形態の意匠ではない。何よりも,上側のカップ金具3の周縁端の下から,スカー
トのフレアー部のように広がって現れるものであるから,これをもって上記のよう
に認定することは,誤りである。
 また,甲9の研磨用バフの意匠は,上記のとおり,側面視略台形状の中間の厚手
のドーナツ状板の下側に,薄手のドーナツ状板が積層されているという形態の意匠
ではないので,中央に設けられている円孔が小径であるかどうかを検討する基礎に
なるものではない。
 なお,甲6,甲7の意匠の場合を検討すると,前者の場合,中間の弾性板2の下
面に積層されている下方の部分の中央に備えられている円孔の直径と,中間の弾性
板2の中央に備えられている円孔の直径とは同一である。後者の場合,最内側に配
備される複数個の研磨紙布15によって形成される中央の円孔の直径は,中間に存
在する「厚手のドーナツ状板」(上面にベルベット式ファスナ11が貼着されてい
るリング状硬質基板,ドーナツ状の可撓性チューブ13,スポンジパッド14から
なる部分の全体)の中央に備えられている円孔の直径と同一である。また,甲8の
意匠においても,基材2の中央に設けられている円孔の直径と,スポンジ6の中央
に設けられている円孔の直径とは同一になっている。すなわち,中央に円孔が形成
されている弾性体の下面に,研磨対象物に当接し研磨する研磨面が形成され,中央
に円孔が形成されている下側部材が取り付けられる場合,当該下側部材の円孔の直
径と,弾性体の円孔の直径とは同一にされるのが一般的である。
 下方のパットの円孔の径を変えることも常套的になされるものであるとの審決の
認定も誤りである。
 以上のような誤った認定を前提として,下方のパットの態様について,特に評価
すべき創作性は認められないとする審決の判断は,誤りである。
 (1-4) 審決は,原告(請求人)の主張を排斥する理由として,「取付部を除いた
研磨部の態様については,上記したようにありふれた態様の単なる寄せ集めにすぎ
ないから,結局本願意匠について格別の創作性が認められず,請求人の主張は採用
できない。」とするが,この判断は,誤りである。
 前記のとおり,甲6の図1,甲7の図4~図6に表されている意匠をもって,
「厚手のドーナツ状板を,その上下の薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層
した」態様が「ありふれた態様」であるということはできず,甲4の意匠,甲8の
図2の意匠をもって,「間に挟まれたドーナツ状板は,側面視略台形状に形成し
た」態様が「ありふれた態様」であるということはできず,甲9の意匠をもって,
「下方のドーナツ状板は,やや厚手で一回り大径のパット」とした態様が「ありふ
れた態様」であるということはできず,また,下側のドーナツ状板の中央に形成さ
れている円孔の直径の方が,上側のドーナツ状板の中央に形成されている円孔の直
径よりも小さい形態を「ありふれた態様」ということはできず,「(下方のドーナ
ツ状板は)小径の円孔を中央に設けた」態様であることが「ありふれた態様」であ
るということはできないのであって,「ありふれた態様」の組み合わせであると判
断することは,間違いである。
 前記のとおり,本願意匠の構成は,審決で指摘されている甲4,甲6ないし9に
記載された意匠に表されていないのであるから,これらの書証の意匠を「単なる寄
せ集めた」だけでは,本願意匠を創作することはできず,「(ありふれた態様の)
単なる寄せ集めにすぎない」と判断することは,間違いである。
 (1-5) 「厚手のドーナツ状板を,その上下の薄手のドーナツ状板でサンドイッチ
状に積層したものであって」,「間に挟まれたドーナツ状板が側面視略台形状に形
成」され,「下方のドーナツ状板は,やや厚手で一回り大径のパットとして小径の
円孔を中央に設けた」態様の「研磨器の駆動部分を除いた研磨部」の意匠を,甲
4,甲6ないし9の意匠に基づいて創作することは,当業者にとって容易ではな
い。
 既に指摘したとおり,甲4に係る意匠は「砥石」に係るものであるから,当業者
ならば,甲4の砥石部の下側に,更にドーナツ状板を取り付けて本願意匠の創作を
することは困難である。
 また,甲8の「鏡面研磨用研磨体」の意匠を創作の基礎として本願意匠を創作す
るためには,少なくとも,周縁部に切欠部8,8が形成されていない状態にし,そ
の上で,本願意匠における下側のドーナツ状板に相当する「繊維3で織った複数の
平行のディッチ4が形成されている基材2」を一回り大径のパットにする必要があ
る。しかし,甲8の「鏡面研磨用研磨体」の意匠は,被研磨面への傷防止という目
的のために,わざわざ前記切欠部8を設けたことを特徴としているものである。こ
のような意義を正しく認識できる当業者であればあるほど,甲8に記載されている
「鏡面研磨用研磨体」の意匠を創作の基礎として,スポンジ6の周縁部に切欠部
8,8が形成されていない形態の意匠を創作することは困難であるといわざるを得
ない。
 したがって,上記のような本願意匠を創作することが容易であるとした審決は,
誤りである。
 (1-6) 「(下方のドーナツ状板は)小径の円孔を中央に設けた」態様の「研磨器
の駆動部分を除いた研磨部」の意匠を,甲4,甲6ないし9の意匠に基づいて創作
することは,当業者にとって容易ではない。
 既に指摘したように,中央に円孔が形成されている弾性体の下面に,下面に研磨
対象物に当接し研磨する研磨面が形成され,中央に円孔が形成されている下側部材
が取り付けられる場合,当該下側部材の円孔の直径と,弾性体の円孔の直径とは同
一にされるのが一般的である。
 審決は,「円孔の径を様々に変化させることはこの分野で普通に行われているこ
と」であるとするが,本願意匠は,一つの「研磨器の駆動部分を除いた研磨部」の
意匠中に,中央に円孔が形成されている上側のドーナツ状板と,その上側のドーナ
ツ状板の下面に,研磨対象物に当接し研磨する研磨面が形成され,中央に円孔が形
成されている下側のドーナツ状板が取り付けられているものである。甲6,甲8の
いずれも,下側のドーナツ状板の円孔の直径と,上側のドーナツ状板の円孔の直径
とは同一であって,「円孔の径を様々に変化」したものにはなっていない。
 以上のように,下側部材の円孔の直径と,弾性体の円孔の直径とが同一にされる
のは,下側部材の研磨対象物に当接する下面のすべての領域において均一な当接圧
力で研磨対象物表面に下側部材の研磨面を当接させたいという技術的要求,考えか
ら必然的に生じるものであり,本願意匠に係る「ポリシングパット」のような研磨
用具,研磨機器に関わる意匠が属する分野における通常の知識を有する者であれば
当然のこととして理解し,認識しているものである。
 しかるに,本願意匠のように,下側のドーナツ状板の中央に形成されている円孔
の直径が,この下側のドーナツ状板が下面に取り付けられている弾性を有する中間
の肉厚のドーナツ状板の中央に形成されている円孔の直径より小さい場合,下側の
ドーナツ状板には,上面が中間の肉厚のドーナツ状板の下面に支持されている部分
と,上面が中間の肉厚のドーナツ状板の下面に支持されていない部分とが形成され
てしまう。すなわち,下側のドーナツ状板の中央側(中央に形成されている円孔の
周縁)の上面は,中間の肉厚のドーナツ状板の下面に支持されないようになる。こ
の結果,下側のドーナツ状板の研磨対象物に当接する下面のすべての領域において
均一な当接圧力で研磨対象物表面に下側のドーナツ状板の研磨面が当接しなくな
り,特に,下側のドーナツ状板の中央側(中央に形成されている円孔の周縁)の部
分は当接圧が小さくなる。
 当業者が,あえて,当接圧が小さくなる部分を,下側のドーナツ状板の中央側
(中央に形成されている円孔の周縁)に形成しようと発想することは困難である。
 したがって,「(下方のドーナツ状板は)小径の円孔を中央に設けた」態様の
「研磨器の駆動部分を除いた研磨部」の意匠を,甲4,甲6ないし9の意匠に基づ
いて創作することは,当業者にとって容易ではなく,「円孔の径を様々に変化させ
ることはこの分野で普通に行われていること」とした審決の判断は,誤りである。
 なお,原告が,「(下方のドーナツ状板は)小径の円孔を中央に設けた」態様に
したのは,本願意匠に係るポリシングパットの上側のドーナツ状板の上面を研磨器
の駆動部分に取り付け,下側のドーナツ状板の下面に粉体のコンパウンドをつけて
ポリシングパットを回転させ,前記コンパウンドが付着している下側のドーナツ状
板の下面を研磨対象物表面に当接・摺接させて研磨対象物表面を研磨する際に,下
側のドーナツ状板下面の中央側にコンパウンドが集まり,このコンパウンドが移
動・集中してきた中央側が当接・摺接する研磨対象物表面に傷がつくことがあるの
で,下側のドーナツ状板の中央側(中央に形成されている円孔の周縁)における当
接圧を小さくすることによって,これを解決しようとしたためである(原告は,こ
の技術的知見に基づき,「回転研磨機用研磨盤」について特許出願している(特開
2002-239920,甲10)。
 本願発明の「(下方のドーナツ状板は)小径の円孔を中央に設けた」という態様
は,前記技術的知見に基づいて採用されたものである。これに対して,甲6ないし
8の意匠のように,中央に円孔が形成されている弾性体の下面に,下面に研磨対象
物に当接し研磨する研磨面が形成され,中央に円孔が形成されている下側部材が取
り付けられる場合,当該下側部材の円孔の直径と,弾性体の円孔の直径とは同一に
されるのが一般的であり,研磨用具,研磨機器に関わる意匠が属する分野における
通常の知識を有する者は,下側部材の研磨対象物に当接する下面のすべての領域に
おいて均一な当接圧力で研磨対象物表面に下側部材の研磨面を当接させる必要性を
一般的に認識しているものであるから,「(下方のドーナツ状板は)小径の円孔を
中央に設けた」態様の「研磨器の駆動部分を除いた研磨部」の意匠を,甲4,甲6
ないし9の意匠に基づいて創作することは当業者にとって容易ではない。
 (2) 取消事由2
 審決は,審理不尽であり,その手続は,意匠法50条3項で準用する特許法50
条(拒絶理由通知)の規定に違背するので,取り消されなければならない。
 (2-1) 原告(請求人)は,審判において,審決の理由中「3.請求人の主張」に
記載されている主張のほか,請求人は,(ⅰ)拒絶理由で引用された意匠(甲4)の
砥石部の上面の取付部を,甲4の意匠に基づいて,面ファスナーの形態に変更する
ことは当業者にとって容易でないこと,(ⅱ)甲4の意匠の砥石部の下面が研磨面で
あると認識できる当業者にとって,この砥石部の下面に更に円形板を重ねて配設す
る意匠の創作を行うことは容易でないこと,(ⅲ)拒絶理由で引用された意匠(甲
4)を創作の基礎として本願意匠を創作することは当業者にとって困難であること
を具体的に主張している。これは,拒絶理由に対して具体的に反論したものであ
る。
 しかし,上記原告の主張が審決の「3.請求人の主張」欄に記載されていない。
これは,審判における審理が不十分であったことを示すものにほかならない。
 (2-2) 拒絶理由で創作容易性を判断する資料として引用された意匠は甲4のみで
あり,審決において創作容易性を判断する資料として引用された意匠中,甲6ない
し9は,審決において初めて引用されたものであって,甲6ないし9を創作容易性
を判断する資料として引用する拒絶理由に対しては,原告が意見を述べる機会は与
えられていない。
 拒絶理由から一貫して引用されている甲4が創作容易性を判断する資料として審
決中で引用されたのは,「間に挟まれたドーナツ状板を側面視略台形状に形成す
る」態様に関してのみである。そして,これ以外の「厚手のドーナツ状板を,その
上下の薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層した」研磨本体部の態様,「上
方のドーナツ状板の上面に面ファスナーを設ける」態様,「間に挟まれたドーナツ
状板に上方のドーナツ状板と同形の円孔を設ける」態様,「下方のパットを,やや
厚手で一回り大径のパットとしてはみ出させる」態様に関しては,原告(請求人)
に意見を主張する機会を与えることもなく,甲6ないし9が創作容易性を判断する
資料として,審決において初めて引用されたのである。
 審決は,「取付部を除いた研磨部の態様については,上記したようにありふれた
態様の単なる寄せ集めにすぎないから,結局本願意匠については格別の創作性が認
められず,請求人の主張は採用できない。」としているのであるが,甲4,甲6な
いし9の意匠に含まれている構成態様を組み合わせて本願意匠の創作を行うことが
当業者にとって容易であるかどうかに関して,原告が意見を述べる機会は与えられ
ていない。
 このように,原告(請求人)が,甲4のみが創作容易性を判断する資料として引
用された拒絶理由に対する意見の開陳を行った後に,甲6ないし9という創作容易
性を判断する新たな資料が引用されるようになり,しかも,甲4,甲6ないし9の
意匠に含まれている構成態様を組み合わせて本願意匠の創作をすることが当業者に
とって容易であるという拒絶理由を構成するようになったにもかかわらず,原告
(請求人)に,これらの新たな資料(甲6ないし9)に基づく拒絶理由及び甲4,
甲6ないし9の意匠に含まれている構成態様を組み合わせて本願意匠の創作をする
ことが当業者にとって容易であるという拒絶理由に対する意見を開陳する機会を与
えずに審決を下した特許庁の手続は,意匠法50条3項で準用する特許法50条
(拒絶理由通知)の規定に違背するものである。
 3 被告の主張の要点
 (1) 取消事由1に対して
 (1-1) 原告主張の取消事由は,審決が,概括的態様である本願意匠の全体の構成
について,創作性の有無を検討するに当たり,同様の概括的態様が本願前の意匠に
おいて既にありふれているかどうかを検討した部分である。
 甲6の図1は,模式図であり,「構成」の欄に,「研磨布6はベース布4に所定
長さの繊維5を植設し,あるいは細かい毛が起き立つ布から構成され」と記載され
ていることから,弾性板2にやや厚手の研磨布6を積層したものと理解すべきであ
り,その態様は,本願意匠とほぼ同程度の態様であると考えられる。したがって,
審決に誤りはない。
 仮に,研磨布6が弾性板2よりも厚いものであったとしても,厚みを適宜変更す
ることは常套的手段というべきものであるから,結局,審決の認定判断に格別な誤
りはない。
 前記のとおり概括的態様としては,甲7の図4~図6は,「厚手のドーナツ状板
を,薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層した研磨本体部の態様」であると
みなして差し支えない。また,甲7の間隔16,17は,ごく細幅であって,多数
の研磨紙布をごく細幅の関係を設けて敷き詰め,貼着した態様のものと考えられ
る。研磨体底面部は,むき出しの状態で露出し被研磨面と接触するのではなく,研
磨体底面全体に敷き詰められた研磨紙布の面を介して被研磨面と接触するのである
から,研磨体の下面にドーナツ状研磨紙布面が積層されたものとしてとらえること
に格別の問題はない。
 また,図2は模式図であり,「構成」「請求項3」で「適宜間隔を存して」とさ
れているように,間隔をごく微細にほとんど隙間が目立たないように貼着すること
も想定されるのであるから,審決に特に問題はない。
 (1-2) 甲4は,初期の研磨盤であり,上方の取り付け盤は,本願意匠のファスナ
ー部に相当し,砥石部については,その上方部分が本願意匠の中間のドーナツ状板
に相当し,その下面部分が本願意匠の下部のドーナツ状板に相当する。本願意匠
は,甲4の下面部分のみを切り離し,別体のドーナツ状板として貼着したまでであ
って,先行する周知意匠である甲4の基本的要素から何ら逸脱する意匠ではない。
この分野の通常の知識を有する者であれば,甲4の周知意匠の形態を基本的な知識
とし,この周知の側面視略台形状のドーナツ状板に基づいて,本願意匠の中間のド
ーナツ状板の形態を同様の形態とすることは,容易である。そうであれば,中間の
ドーナツ状板と下方のドーナツ状板(パット)を含む略台形状の形態と,その一部
である中間のドーナツ状板の略台形状の形態とを比較することは,何ら不合理では
ない。
 次に,甲8の切除部分は,図1ないし図3によれば,相対する位置に2か所設け
られ,その幅は,直径の各45分の1程度を切除したにすぎず,スポンジ下部のわ
ずかな垂直部分としてしか表れないものであり,全体からみればごくわずかなもの
である。よって,スポンジ6のドーナツ状板の側面視の態様を「側面視略台形状」
と認定することに格別の誤りはない。
 (1-3) 審決は,3つのドーナツ状板をサンドイッチ状に積層した全体の構成及び
各部の態様についての認定を前提に,下方のドーナツ状板(パット)について,上
方部分より一回り大きくはみ出させることもごく普通の態様であることを,甲9の
参考例を挙げて述べたものであって,甲9の図1,図4には,バフ本体2がその上
部構造体からはみ出している態様が示されているから,審決の認定に格別の誤りは
ない。
 甲6ないし8の円孔の直径は,甲6及び7では,盤全体の直径に比してほぼ9分
の1であるが,甲8のそれは,ほぼ3分の1(図3)又はほぼ9分の2(図9,図
10)であり,その径を種々変化させることは普通のことである。そして,円孔の
態様は,主として技術的理由によるものであり,意匠的にみる場合においては,ド
ーナツ状板における円孔を種々変化させた態様のものであることにとどまる。
 本願意匠において,下側部材の円孔と弾性体の円孔の径が同一でないとしても,
それは,技術的理由によるもので,使用状態では,上方の円孔は隠れてしまい,そ
の径の大小は認識されないものであるから,意匠的にはさして大きく評価すること
はできず,周知の態様のバリエーションであり,常套的にされる変更にとどまる。
 (1-4) 本願意匠は,ありふれた態様の単なる寄せ集めの域を出ないものであり,
原告の主張は失当である。
 (1-5) 既に主張したところから,甲4,甲6ないし9の意匠に基づいて本願意匠
を創作することが当業者にとって容易ではないとの原告の主張は,失当である。
 前記のとおり,本願意匠と甲4の周知意匠とは基本的要素に変わりはない。本願
意匠を創作する際において,従来ある砥石部の下面の研磨部分だけを独立させて研
磨部の交換の便を改善するなどということは,甲6ないし8で明らかなように,あ
りふれた態様であって,当業者にとって創作容易である。
 また,甲8において切欠部が形成されているものは,実施例1及び2であり,従
来例の図9,図10の課題を解決したものである。切欠部を形成しないこととする
ことは,従来例に戻るだけのことであるから,格別の創作の必要もなく,容易であ
る。
 (1-6) 円孔の態様について,原告主張のような技術的困難があるかどうかはとも
かく,意匠的には,円孔の径の変化については,既に述べたように,審決が挙げた
例でも盤全体の直径に比してほぼ9分の1からほぼ3分の1の範囲の円孔が知ら
れ,また,本願意匠の上方円孔と同程度の大径の円孔もありふれた態様であるから
(実開昭63-97459号公報,乙3),本願意匠は,普通に知られている範囲
内で,上方及び下方の円孔の径を変化させたにすぎないものであり,当業者であれ
ば,常套的手法を用いて本願意匠の態様にすることは容易である。
 そして,上方と下方の円孔の径が異なる点も,前記のように,使用状態では上方
の円孔は隠れてしまうものであるから,意匠上は格別重視することはできない。
 (2) 取消事由2に対して
 (2-1) 審決は,請求人の主張の要旨としてその概略を記載したのであり,原告主
張のような具体的記載がないからといって審理上遺脱があったということではない
し,その主張を検討せずに判断したものではない。
 (2-2) 甲4は,本件出願の17年前に発行された意匠公報であり,甲6ないし9
も,本件出願のほぼ4年ないし9年前に発行された実用新案又は特許の公報であ
り,その記載内容は,本願意匠の属する分野の研磨盤又は研磨バフ等に係るもので
あり,これら資料は広く公開されている。したがって,当業者であれば,本願意匠
の属する分野のこれら資料について了知していることは通常であると考えられるの
で,甲6ないし9について当業者にとっての周知の資料であると判断したことに格
別の誤りはない。
 そして,拒絶理由通知及び審決は,本願意匠の創作容易と結論づけるに当たっ
て,当業者が通常有する知識としての周知状況,又はその創作水準を示す例示とし
て,上記資料を示したにすぎないので,本願意匠と特定の引用意匠との美感の異同
を検討する場合とは異なり,本願意匠の創作性の有無を検討する本件の場合は,当
業者にとって不意打ちとはならないから,上記周知例について,改めて請求人の意
見を聞かなければならないというものではない。
 原告の主張は失当である。
第3 当裁判所の判断
 1 取消事由1について
 (1) 審決が「厚手のドーナツ状板を,薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積
層した研磨部本体の態様はごくありふれた態様であって,…この構成に格別の創作
性は認められない。」と認定判断した点について
 甲6によれば,弾性板2の下面に研磨布6を固着した構成が示されている。甲6
の図1をみれば,原告主張のように,ベース布4に繊維5を植設してなる研磨布6
の厚さが,繊維部分をも含めれば,弾性板2の厚さと比べ,同等以上の厚さがある
かのように記載されている。しかし,甲6によれば,図1は模式図であって,厳密
な縮尺の下に作成されたものではないこと,そもそも,弾性板2の下面に固着され
たベース布4の厚みは弾性板よりも薄手であると認められる上,繊維5の厚み(繊
維の長さ)については,「所定長さの」とされ,限定されていないこと(実用新案
登録請求の範囲等),「表面に細かい毛が起り立つ布を研磨布として直接に弾性板
2に取り付けることもできる。」(段落【0013】)とされ,この構成の研磨布は弾
性板2よりも薄手であると認められることなどに照らせば,甲6には,弾性板の下
面にこれよりも薄手の研磨布を固着した態様のものが示されているものといえる。
この点に関する原告の主張は採用の限りではない。
 また,甲7によれば,可撓性チューブ13(23)の下側に,直接又はスポンジパ
ッド14(24)を介して,無数の小研磨紙布を適宜間隔を空けて貼着したものが示
されている。この無数の小研磨紙布は,被研磨面の湾曲,凹凸などの形状に沿って
変形して馴染み性を良好とし,被研磨面の全面を均一な研磨圧で研磨することがで
きるようにするため,可撓性チューブを採用したのに伴い,従来,一枚の円板状パ
ッドなどであったのを,無数の小研磨紙布に分けて適宜の間隔をおいて貼着したも
のであるものと認められる。もとより,甲7には,上記間隔をどのようにするかの
限定はなく,小研磨紙布同士が極めて近接したものも含まれるほか,もともと一枚
の円板状のものに一定の規則正しい切れ目を入れたような形状を呈しており,すべ
ての小研磨紙布及び間隔が全体として一体となっているドーナツ状の紙布であると
認識することも不可能であるとはいえない。
 よって,審決が,甲6を参照として,さらに甲7をも掲げた上で,「厚手のドー
ナツ状板を,薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層した研磨本体部の態様が
ごくありふれた態様であって,この構成に格別の創作性は認められない。」と認定
判断したことに誤りがあるとはいえない。
 (2) 審決が「間に挟まれたドーナツ状板については,側面視略台形状に形成する
こともごく一般的な態様であり,上方のドーナツ状板と同形の円孔を設けることも
普通に見られる態様であるから,該ドーナツ状板の態様についても,格別の創作性
があったと認めることはできない。」と認定判断した点について
 審決は,側面視略台形状に形成する点につき甲4及び8を参照として掲げてい
る。
 甲4によれば,既に昭和55年に出願されたもので,図面からすると,本願意匠
における中間部の厚手のドーナツ状板とその下面の薄手のドーナツ状板に相当する
部分が一体となった砥石が記載されており,その形状は側面視略台形状となってい
ることが認められる。しかし,甲4の出願後,甲6ないし8などにみられるよう
に,被研磨体に接して研磨する部分(上記の下面部分)が独立した形状とされたも
のが周知となっている。そして,審決の上記認定判断は,前に説示した「厚手のド
ーナツ状板を,薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層した研磨部本体の態様
はごくありふれた態様であること」(この点は前記(1)のように是認し得る。)を前
提に説示していることが明らかである。以上にかんがみれば,審決が甲4を参照と
して掲げて上記のように認定判断した点に誤りがあるとはいえず,原告の非難は当
たらない。
 甲8における「スポンジ6」が本願意匠における「間に挟まれたドーナツ状板」
に相当することは原告も争わない。そして,確かに,原告主張のとおり,甲8のス
ポンジ6は,図1,図4,図6のように,2か所において周縁が切除され,切欠部
が存在する。切欠部を通る線での断面図は図2,図5のとおりであり,これを厳密
にみると,台形ではなく,長方形に台形を乗せたような形となっている。しかしな
がら,切欠部は円盤の中心部分に大きく食い込んだものとは認められず,切欠部を
通る線での断面図である図2,図5により断面形状をみても,上記長方形部分の高
さはほとんど目立たないほどに低く,その上に乗った台形部分と合わせてスポンジ
6の断面全体をみれば,ほぼ台形状であると認識されるものと認められる。また,
切欠部を通らない線での断面は台形の形状をしていることはいうまでもない。以上
によれば,審決が甲8をも参照として掲げて,「側面視略台形状」などと上記のよ
うに認定したことが直ちに誤りであるとはいえない。この点に関する原告の主張も
採用の限りではない。
 (3) 審決が「下方のパットの態様について,やや厚手で一回り大径のパットとし
てはみ出させることもごく普通の態様であり,また,円孔の径を種々変えることも
常套的になされるものであるから,下方のパットの態様について特に評価すべき創
作性は認められない。」と認定判断した点について
 (3-1) 審決は,上記の前段の点につき甲9を参照として掲げている。
 甲9の図1,図2によれば,確かに,原告主張のように,円盤状のバフ本体2の
周縁が,斜め方向下側に向かっている上側のカップ金具3の周縁端の下から斜め方
向下側に向かって,スカートのフレアー部のように広がっている状況が認められ
る。
 しかしながら,審決の上記認定判断は,前に説示した「厚手のドーナツ状板を,
薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積層した研磨部本体の態様はごくありふれ
た態様であること」(この点は前記(1)のように是認し得る。),「間に挟まれたド
ーナツ状板については,側面視略台形状に形成することもごく一般的な態様であ
り,上方のドーナツ状板と同形の円孔を設けることも普通に見られる態様であるこ
と」(この点は前記(2)のように是認し得る。)など,既になした認定判断を前提に
説示していることが明らかである。したがって,審決の標記説示は,既に以上のよ
うな構成,各部の形態であることを前提に,甲9におけるバフ本体が,その上部の
構造体よりも大きく,はみ出しているとの点のみを参照する趣旨で説示しているも
のと解される。このような趣旨の下に甲9を参照すれば,「下方のパットの態様に
ついて,やや厚手で一回り大径のパットとしてはみ出させることもごく普通の態様
である」とした審決の認定判断に誤りはない(なお,甲8においても,基材2から
繊維3がはみ出す構成となっている。)。この点に関する原告の主張は採用するこ
とができない。
 (3-2) 円孔の径についてみるに,本願意匠では,厚手のドーナツ状板の円孔はや
や大きめ(上方のドーナツ状板の円孔と同形)であり,その下方のドーナツ状板の
円孔は,小径となっている。そして,原告の主張するとおり,甲6ないし8におい
て上記のドーナツ状板に相当する部材における円孔をみると,同一例における円孔
同士は同じ大きさとされている。
 しかしながら,甲6ないし8の円孔を相互に比較しても明らかなように,ドーナ
ツ状板の大きさと比べた円孔の大きさは,まちまちであり,「円孔の径を種々変え
ることも常套的になされるものである」との審決の認定判断に誤りはない。そし
て,上記各証拠及び甲10によれば,同じ研磨器の研磨部の各部材において,どの
程度の大きさの円孔とするかは,主として技術的理由から決せられているものと認
められ,下側のドーナツ状板の円孔の大きさをその上面のドーナツ状板の円孔より
も小さくしたとしても,意匠としては,ドーナツ状板における円孔の大きさを種々
変化させるという域を出ないものであって,格別の創作性があり創作困難であると
はいい難い。この点に関する原告の主張も直ちに採用の限りではない。
 (4) 審決が,原告(請求人)の主張を排斥する理由として,「取付部を除いた研
磨部の態様については,上記したようにありふれた態様の単なる寄せ集めにすぎな
いから,結局本願意匠について格別の創作性が認められず,請求人の主張は採用で
きない。」と説示した点について
 この点に関する原告の主張は,既に判示したところに照らせば,採用することが
できないことが明らかである。
 (5) 取消事由1(1-5)における原告の主張について
 「厚手のドーナツ状板を,その上下の薄手のドーナツ状板でサンドイッチ状に積
層した態様」,「間に挟まれたドーナツ状板が側面視略台形状に形成された態
様」,「下方のドーナツ状板は,やや厚手で一回り大径のパットとして小径の円孔
を中央に設けた態様」については,既に判示したとおりである。そして,審決の説
示をみると,上記各態様につき,甲4,甲6ないし9を参照として掲げつつ,いず
れもごくありふれた,一般的で普通にみられる態様であるか,常套的手段によりわ
ずかな改変を加えた程度の部分にすぎず,格別の創作性は認められないとした上
で,これら各部分の態様を組み合わせることは,当業者であれば容易なことという
べきであるから,上記各態様を合わせもった「研磨器の駆動部分を除いた研磨部」
の意匠を創作をすることは容易であったということができ,この認定判断は是認し
得るものである。
 原告の上記主張は,採用の限りではない。
 なお,仮に,原告の主張が,甲4の砥石部又は甲8の鏡面研磨用研磨体そのもの
に他の部分の態様を付加することによる本願意匠への創作困難性をいう趣旨である
とすれば,審決に対する非難としては前提に誤解がある。また,甲4,甲8を参照
することにより,本願意匠の「間に挟まれたドーナツ状板が側面視略台形状に形成
された態様」がごく一般的な態様であると認められるとした審決に誤りはないこと
は,既に判示したとおりである。
 (6) 取消事由1(1-6)における原告の主張について
 「円孔の径を種々変えることも常套的になされるものである」との審決の認定判
断が是認し得ることは,既に判示したとおりであり,審決が「円孔の径を様々に変
化させることはこの分野で普通に行われている」との認定判断についても同様に是
認し得るものである。そして,前記(3)で判示したように,原告の標記主張もまた直
ちに採用の限りではない。
 なお,原告は,下側部材の円孔の直径と,弾性体の円孔の直径とが同一にされる
のは,技術的要求から必然的に生じるものであり,当業者であれば,当然のことと
して理解し,認識しているものであるが,これに反し,本願意匠においては,
「(下方のドーナツ状板は)小径の円孔を中央に設けた」という態様にしたもので
あり,これは,原告の特許出願に係る技術を理由とするものであり,したがって,
このような態様の「研磨器の駆動部分を除いた研磨部」の意匠を,甲4,甲6ない
し9の意匠に基づいて創作することは,当業者にとって容易ではないと主張する。
 しかしながら,原告の特許出願に係る発明が想到容易であるか否かは別として,
特許出願された技術の想到容易性と,物品の形状などに関する意匠の創作容易性と
は直結するものではない。そこで,円孔の大きさという意匠の問題として検討する
ならば,円孔というありふれた形状のものであり,前記のとおり,従来例において
も円孔の大きさ自体はまちまちであり,円孔の径を種々変えることが常套的になさ
れるものであることが明らかであって,下側のドーナツ状板の円孔の大きさをその
上面のドーナツ状板の円孔よりも小さくしたとしても,ドーナツ状板における円孔
の大きさを種々変化させるという域を出ないものであって,円孔の大きさを変える
ことに意匠としての格別の創作性があり創作容易でないとはいい難い。この点に関
する原告の主張も直ちに採用の限りではない。
 2 取消事由2について
 (1) 審決の理由中における「請求人の主張」の欄に,請求人がした主張について
これを構成する個別具体的な事由をすべて網羅しなければならないわけではなく,
網羅しないことが直ちに審理不尽となるものではない。また,原告が主張する点に
ついても,審決の理由中において,少なくとも実質的にみて審理判断がされている
ものと解されるのであって,いずれにしても,審決に原告主張のような違法はな
い。
 (2) 本願意匠の審査段階における拒絶理由通知書では,甲4のみが示されている
ことが認められる(甲3-1)。審決は,これに加え,甲6ないし9をも理由中に
記載している(甲1)。
 しかし,証拠(甲1,甲3-1,2,甲4,甲6ないし9)及び弁論の全趣旨に
よれば,本願意匠については審査段階から意匠法3条2項の要件が問題となってい
ること,審決は,甲6ないし9を引用意匠としているものではなく,意匠法3条2
項の公知の形状などを認定する証拠としているものでもないこと,審決は,甲6な
いし9を「厚手のドーナツ状板を,その上下の薄手のドーナツ状板でサンドイッチ
状に積層した研磨本体部の態様」,「間に挟まれたドーナツ状板が側面視略台形状
に形成された態様」,「上方のドーナツ状板の上面に面ファスナーを設ける態
様」,「下方のドーナツ状板は,やや厚手で一回り大径のパットとしてはみ出させ
る態様」などが周知であると認定する際に,参照として掲げたにすぎないこと,甲
6は実開平4-92769号公報,甲7は実開平7-17463号公報,甲8は特
開平9-141558号公報,甲9は実開平6-80555号公報(ちなみに,甲
4は意匠登録第617966号公報)であること,本願意匠の登録出願日は平成1
3年2月9日であるところ,甲6は平成4年8月12日に,甲7は平成7年3月2
8日に,甲8は平成9年6月3日に,甲9は平成6年11月15日にそれぞれ公開
されたものであって,さらに平成11年3月からは,特許庁ホームページ上の特許
電子図書館サービスとして,誰でもコンピュータからアクセスが可能な状態とされ
ており,平成12年1月からは,独立行政法人工業所有権総合情報館とその地方閲
覧室及び都道府県に設けられた知的所有権センターなどの公衆閲覧施設の専用端末
から特許電子図書館サービスにアクセスが可能となっていること,甲6ないし9
は,特許又は実用新案に関するものであるが,本願意匠の属する分野である研磨盤
又は研磨バフなどに係るものであることが認められる。
 以上の事情に照らせば,審決が認定した上記の各部分の態様は,本願意匠の登録
出願前において,本願意匠の属する分野における通常の知識を有する者の間におい
て,周知となっていたものと認めることができるのであり,各部分の態様が周知で
ある以上,いずれも本願意匠の属する分野におけるものであるから,それらを組み
合わせることに支障がないことも明らかであり,甲6ないし9は,これらの周知事
実ないし創作水準の認定に関しての例示的な参照として使用されたものであって,
事前に原告に示して意見を述べる機会が付与されなかったからといって,手続上の
違法があるとまではいえない。
 原告の主張は採用することができない。
 3 結論
 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却さ
れるべきである。
  東京高等裁判所第18民事部
        裁判長裁判官     塚   原   朋   一
           裁判官     塩   月   秀   平
           裁判官     田   中   昌   利

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