弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人の申請を棄却す
る。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用、認否は次のとおり付加する
ほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
 (あらたな証拠)
 被控訴代理人は甲第五四号証の一、二、第五五号証を提出し、当審における証人
A、Bの各証言並びに被控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第四三ないし第四五号
証の成立は知らない同第四六号証、第四七号証の一、二、同第四八ないし第五一号
証の成立はいずれも認めて、同第五一号証を援用すると述べ、控訴代理人は右乙号
各証を提出し、当審証人C、D、E及びFの各証言を援用し、甲第五四号証の一、
二、第五五号証の成立は知らないと述べた。
         理    由
 (本件試用労働契約関係の成立とその性格)
 一、 被控訴人は昭和三七年四月一八日控訴会社厚木工場に試用者として採用さ
れたが、その際の契約(試用契約)では試用期間は三カ月であり、その期間中従業
員として不適格と判定されない限り、右期間満了とともに正規の従業員(以下本採
用者ともいう)となる約定であつたことは当事者間に争いがない。
 二、 そこでまずこの場合の右試用契約の法的性格をどのように見るべきかにつ
いて本件の判断に関係ある限度で検討する。もともといわゆる試用契約は、労働契
約関係において、試採用者として採用された者が正規の従業員としての能力ないし
適格性を有するや否やを一定の期間(試用期間)内に試験する制度として認められ
て来たものであるから、その主眼とするところは右のような試験であつて、労務の
給付はその試験のための手段にすぎないと見られる。換言すればこの試験は使用者
がはじめに労働者を採用するにあたつて、それが自己の従業員たるにふさわしいか
どうかを判断するために施行する人物性行能力等の審査の一部であり、これを一定
の時間延長し、試みに一定の労務に従事せしめて判断するというにある。従つて試
用期間中は当初の雇傭における契約自由に発する使用者側に存する採否の自由の一
部が留保されているのであつて、解雇ないし本採用拒否の形式でなされる決定は原
則として使用者に一方的に留保されるのがその本来の姿と考えられる。この点にお
いてかかる試用契約をともなわず、もつぱら労務の給付を主眼とする本採用の労働
契約とはおのずからその性格を異にするものがあるといえよう。しかるに今日世間
の実際の慣行を見るに試用の期間は必ずしも短期間に止まらず、試験の手段たる労
務は通常のそれと異ならず、その他諸般の実情において試用契約は右のごとき本来
の姿を示していないものが少なくなく、他方後に見るように実定法上労働基準法第
二一条但書第四号は試用契約について一般の場合と同様解雇の予告を命じているの
であつて、このような見地からすれば、試用契約をたんにそれがいわゆる試用契約
であるということだけからその性格を一概に決定することは困難であり、むしろ試
用についての労使の合意や慣行あるいは就業規則の定め方その他諸般の実情を参酌
して具体的個別的に判断しなければならないのが実体である。従つて本件試用労働
関係の性格も右のような観点からこれを判定するほかはない。
 (一) まず、本件試用契約の約定が三カ月の試用期間中従業員として不適格と
判定されない限り、右期間満了とともに本採用となるものであつたことは前認定の
とおりであり、本件試用契約書と見られる成立に争いのない甲第三八号証の被控訴
人に対する従業員試傭書と題する書面の本文但書第二項には「試傭期間は昭和三七
年四月一八日より同年七月一七日まで」とあり、同但書第三項には「所定の試傭期
間終了までに従業員として不適当と認められた者は採用しないことがある」と定め
られていて、前認定と同趣旨のことをいい、成立に争いない乙第二号証の控訴会社
の就業規則第四五条には「試傭」の表題のもとに「新に従業を許された者の試傭期
間は三カ月とする。云々」とだけあり、これを従業員の定義を定めた同規則第二
条、従業員の採用詮衡の方法を定めた同規則第四三条、詮衡に合格した者について
定めた同規則第四四条とあわせて読み、弁論の全趣旨にかんがみれば、控訴会社に
おける試傭(試用)は、採用の詮衡手続に合格した新従業員のすべてを、三カ月の
試用期間を経て本採用拒否のないかぎり原則としてそのまま正規の従業員に移行せ
しめる必然の道程であつて、本採用の前後においては労務及び賃金等の条件にかく
べつの変動はなく、とくに被控訴人と同様新制中学校卒業の年少の女子の場合過去
数年にわたる試用者数百人中本採用を拒否されたものは本件を除きわずかに一、二
件にすぎないことが知られる。さらに原審における被控訴人本人尋問の結果(第
一、二回)に徴すれば、被控訴人らが前示のように控訴会社厚木工場に新規に採用
されるに当つては地元仙台公共職業安定所において控訴会社から適性検査、クレペ
リン検査、器具テスト、文章完成法(SCT)、面接試験等によつて厳重に試験さ
れ、この詮衡を経て一八、九名中六名が合格、採用されたのであつて、その間さし
あたり試用者であるとか試用期間があるとかいつたようなことは格別被控訴人ら側
(ことに後記のごとく当時未成年者であつた被控訴人らの親権者)には十分納得の
いく説明がなされていないことがらかがわれる。成立に争いのない乙第九号証の二
と当審証人Cの証言とによれば、控訴会社は試用期間を終つて本採用に移行する者
にはすべてその旨の辞令書を交付していることが認められるが、被控訴人らのごと
き未成年者の場合、そのさいあらためて親権者の同意を取りつけるかどうかは明白
でなく、むしろ弁論の全趣旨によれば会社は当初の採用(試用)にあたつて親権者
の包括的な同意を取りつけ、かつこれら父兄に対しては将来本人の結婚などによる
自然退職までは責任をもつて預る旨言明していたことがうかがわれる。
 <要旨>(二) 一方労働基準法第二一条は試の使用期間中の者(試用者)につき
一応解雇の予告の規定(同法第二〇条)を適用しない旨定めたうえ、その但
書において試用者が一四日を超えて引続き使用されるに至つた場合はこの限りでな
いとして解雇の予告の原則の適用にかえつている。これは明らかに同法が試用契約
における解雇についてその使用が一四日を超えない限りは使用者側からの自由な一
方的解雇を認めながら、一旦使用が一四日を超えた場合は、こと解雇に関する限り
これを常傭労働者と見て、労働者を労働関係の解消から保護するいわゆる雇用の安
定の理念から、本採用後に予定されている期間の定めのない労働契約の場合と同様
に取扱つているものと解されるのであつて、このことは試用契約が一四日を超える
がごとく相当期間にわたるときは、むしろ試みのためにする要素が後退し、労務の
供給の実体が重視され、解雇に関してはとくにその予告手続のみならず、その実質
が通常の労働契約に準ずべきことを象徴しているものというべきである。
 (三) 以上(一)(二)で見たところをさきに考察したところに綜合して考え
れば、本件試用労働関係は控訴会社が被控訴人ら新規採用者を将来本採用者に移行
せしめる前提として必ず締結するものであつて、その趣旨とするところは控訴会社
が当初の三カ月の試用期間に被控訴人ら新規採用者が正規の従業員としての能力と
適格性を有するやを試験のうえ判定し、その結果によつて本採用拒否の形式で契約
を解消しない限り、当然自動的に本採用に移行するものであり、その前後にわたつ
て労務の供給及び賃金の支払の関係においては基本的には変動がないものであつ
て、この一連の関係を統一的に見れば、ひつきよう試用期間中に本採用拒否の処分
のなされたことをいわば一の解除条件とする期間の定めのない労働契約がその採用
(試用)の当初から当事者間に成立したものというべく、会社の右期間中における
本採用拒否の処分は当初の採否の自由の留保されたものとしては基本的にはその自
由であるべきであるが、事体の現実としてはその恣意的な決定は許されず、その決
定の理由の対象は必ずや当初に残された審査の一項目としての従業員たる能力ない
し適格性の有無に向けられ、これを消極に判断すべき客観的合理的理由がある場合
に限るべきことは条理上当然であつて、かかる要件をみたさないものは結局におい
ていわゆる雇傭の安定の理念に反し、一の権利濫用としてその効力を否定されるべ
きものである。これを他の面からすれば右本採用拒否処分によつて労働関係を終了
せしめる点では解雇の場合と全く同様であつて、すでに本件の場合のように使用が
一四日を超えたときは労働基準法第二一条但書第四号が解雇について規定するとこ
ろに象徴されるように、本採用による期間の定めのない労働契約における解雇の場
合と同様に取り扱われるべきものと解さざるを得ない。
 (本件本採用拒否の効力)
 一、 控訴会社が昭和三七年六月二六日被控訴人に対し本採用を拒否する旨の意
思表示を口頭でしたことは当事者間に争いがない。そして右拒否の理由が被控訴人
の精神的疾患と作業態度の不都合などからして従業員として不適格であるとするに
あつたことは後記認定のとおりである。
 二、 被控訴人は控訴会社の右本採用拒否の処分は解雇権の濫用であると主張す
る。本採用の拒否は本件労働関係を終局的に消滅させる法律効果を招来する点にお
いて解雇の場合と異なるところがないことは前示のとおりであつて、右主張は本採
用の拒否処分が前段判示のごとき意味においてその要件をみたすものでなく、結局
において無効であるとの意味を含むものと解し得るところであるから、以下これに
ついて判断する。
 (一) (被控訴人が試用者として採用されてから本採用を拒否されるまでの経
緯)
 成立に争いのない甲第九号証の一、二、原審証人木村信の証言(第一回)により
成立を認めうる同第四、第四五号証、原審証人Gの証言により成立を認める同第一
〇号証の一、二、第三九号証、その作成方式及び趣旨により真正に成立したものと
認める同第一一号証、原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)により成立
を認める第一二、第三五号証、原審証人Fの証言(第一回)により成立を認める乙
第五号証に原審証人G、木村信(第一、二回)の各証言並びに原審及び当審におけ
る被控訴人本人尋問の結果(第一ないし第三回)を綜合すれば、次の事実が疎明さ
れる。被控訴人は昭和一九年九月一七日生れの女子であつて、本籍地宮城県玉造郡
a町の高等学校第一学年を中退し、仙台公共職業安定所を介し前示のとおり昭和三
七年四月一八日控訴会社厚木工場に試用者として採用され、同工揚の女子寄宿寮の
一室に同僚五名とともに住み込み、一週間の基礎訓練を受けた後同工場製造二課に
配属され、同所において同年五月三一日までトランジスター組立工程中の「バーハ
ンダ付け」と称する作業に従事した。同年六月一日からは「ICO測定」と称し、
トランジスターを測定器にかけ、同測定器のブラウン管を通して映る影像を見なが
ら、これを良品と不良品に選別する作業に変つた。ところが控訴会社は同年六月一
九日ごろ突然被控訴人を右工場の診療所に呼び出し、同じく試用者であるHととも
に、かくべつ理由を告げることなく、神経科専門医Iの約三〇分にわたる問診によ
る診察を受けさせ、その結果被控訴人は「ヒステリー、但し抑うつ状態、恐怖症を
加味し、詳しくは混合神経症と考えられる」との診断を受け、右Hは「ヒステリー
朦朧状態」と診断された(控訴会社が被控訴人ら両名に対し右医師の診察を受けさ
せ、その結果の診断がそれぞれ右のとおりであつたことは当事者間に争いがな
い)。その後数日を経た同月二六日被控訴人は右Hとともに右工場総務課長Jのも
とに呼出され、同課長から「Kさんは三カ月たてば本採用になるが、どうもこの会
社には不向きですね。あなたは仕事中よく横を向きますね。詮衡の時はよい成績だ
つたが、一日で性格まではわからなかつた。トランジスターの測定をいいかげんに
したり、不良品を良品に入れたりしたら、かえつて手間がかかることになる。あな
たは職の選定をまちがえたようだ。どこか他の会社の事務系統にでも移つてのんび
りと働くことにするか、故郷へ帰るかした方がよいのではないか。会社を出て行く
のは今日でなくても今月中に出てもらえばよい。」との趣旨のことをいわれ、退職
を勧告されるとともに前示のごとく本採用を拒否する旨を告げられた。被控訴人は
突然の通告に途方にくれ、その夜は被控訴人同様退職の勧告を受けた前記Hととも
に前途を思つて一夜を泣き明かしたが、翌二七日ごろ同室の者から右退職の理由は
精神的な病気であると聞かされ、たまたまそのころ被控訴人とH両名が精神病で会
社をやめさせられるとの噂を聞知したソニー労働組合の木部書記長木村信及び同組
合厚木支部執行委員長Lは被控訴人らは試用期間中で組合員ではなかつたが、従業
員の進退に関することとして組合としても黙視できないことがらと見て取り、被控
訴人とともに当時前記工場の寮の管理をしていた総務課員Eのところに同道し、右
退職理由の説明を求めたところ、同人から「被控訴人はヒステリーで抑うつ症だ、
このままでは団体生活に適さないから早いうちに会社をやめて郷里に帰つた方がよ
い」という趣旨のことをいわれた。そこで被控訴人はさらに精密な診療を受けるた
め同年六月三〇日右木村信に連れられてHとともに東京都立M病院におもむき、同
病院精神科医師Gの診察を受けたが、同医師は被控訴人及びH両名に対し問診、脳
波描記、ロールシヤツハ・テストなどの検査を約三時間にわたつて行つた結果、両
名とも「とくに精神障害を認めず、現在集団生活を不可能とするような精神異常は
認められない」との診断を受けた。そして被控訴人は右Hとともに同年七月一〇日
横浜法務局人権擁護部に対し控訴会社の前記不採用拒否の措置は明らかに被控訴人
ら両名の人権を侵害するものとして、これにつき救済を求める申立をするに至つた
(ただし成立に争いのない乙第四七号証の一、二によれば右申立は昭和四〇年三月
三〇日「非該当」として処理されたことが疎明される)が、前記「ICO測定」の
作業には控訴会社の了承のもとに試用期間の満了日だる同年七月一七日まで従前ど
おり従事していた。以上の事実が疎明され、これをくつがえすに足る資料はない。
 (二) (控訴会社が被控訴人の本採用を拒否するまでの経緯)
 原審証人Eの証言により成立を認める乙第三号証、原審証人Fの証言(第二回)
により成立を推認すべき同筆三一号証、当番証人Cの証言により成立を認める同第
三三号証、当審証人Dの証言により成立を認める第四三号証と原審証人N、O、原
審及び当審証人E、F(原審は第一ないし第三回)、当審証人C、Dの各証言を綜
合すれば、次の事実が疎明される。被控訴人は前記「バーハンダ付け」の作業をし
ている時、エツチング室においてエンジニヤーから本をもらつたとか、係長とデイ
トしたなどと男女間の内密の問題について遠慮のない話をして周囲の人の歓心をか
うような態度があり、そのようなおしやべりが多くて職場のチーフNから注意を受
けるよらなことも一再ならずあつたが、そのような時でも東北なまりの意味のわか
らない言葉で茶化すようなことがあつた。また前示のように昭和三七年六月一日被
控訴人の作業が「ICO測定」に変つてから同月中旬ごろエンジニヤーDがIC0
特性の向上を目的として一〇日間にわたりテストロツトを流し表面処理工程の良否
を調べているうち、予想した結果が得られなかつたので、不審に思い原因と考えら
れる被控訴人担当の作業の部分をひそかに再検査して見たところ、この段階では良
品の中に入れるべき断線品を不良品の再生不能の中に混入するような過誤があり、
右チーフを介して被控訴人に注意したことがあつた。そこで被控訴人のこのような
作業態度から被控訴人は本採用するのに適当ではない旨の意見がそのころ上司に対
して具申されたが、一方入社詮衡の際実施されたCT(文章完成法)テストの判定
の結果が同じころ判明し、それによれば被控訴人は分裂気質であることがわかつ
た。これを聞いた前記Eは被控訴人の前記作業態度とあわせ見ると、被控訴人は感
情の抑揚が強く自己中心型の性格の持主であると考え、さきに似たような前例で驚
かされたこともあつたので、控訴会社の嘱託医Oに相談のうえ被控訴人を前認定の
とおりI医師に診断させたところ、その結果被控訴人に対し前記のように抑うつ状
態と恐怖症を加味したヒステリーであるとの診断がなされた。かくして同年六月下
旬控訴会社の課長会議が開かれた際、叙上のような被控訴人の職場における作業態
度、作業上の、ミスSCTテストの判定の結果及びI医師の診断の結果が綜合斟酌
されて、結局被控訴人は本採用者としての適格性を欠くと判定し、本採用にしない
ことの最終決定を見、さきに認定したように同月二六日被控訴人に対し本採用を拒
否する旨の意思表示をしたことが疎明される。原審(第一ないし第三回)及び当審
における被控訴人本人尋問の結果中右認定にそわない部分は措信しがたく、他に右
認定を動かすに足る資料はない。
 なお控訴会社は被控訴人が寮生活において同室の者をいじめたり、前記Hに対し
て金銭的なことで優越的態度を示したりした旨主張し、前掲乙第三号証、原審証人
Fの証言(第三回)により成立を認める同第四二号証の各記載並びに原審証人N、
F(第一ないし第三回)の各証言中には右主張にそう趣旨の部分があるけれども、
いずれも原審証人P(第一、二回)、Qの各証言並びに原審における被控訴人本人
尋問(第一ないし第三回)の結果に照らしにわかに信用し難く、他に右主張を首肯
させるに足る資料はない。
 (三) なお被控訴人は前記解雇権の濫用の理由として前記I医師の被控訴人に
対する診察は精神衛生法第二三条に違反するとか、あるいはI医師の右診察による
診断は正確性信用性をはなはだしく欠くと主張するけれども、当裁判所は右主張は
いずれも採用し得ないと判断するところ、その理由は右の点に関する原判決の理由
(控訴会社の自白の撤回に関する部分をも含む)と同一であるから、これを引用す
る。
 <要旨>(四) そこで前記(一)及び(二)の経緯にもとずいて本件本採用拒否
の処分の当否について検討する。
 (1) すでに本件試用労働契約関係の性格が前説明のとおりであるとするな
ら、本件本採用拒否の意思表示のあつた昭和三七年六月二六日の時点において被控
訴人に対し被控訴人には正規の従業員たるの能力、適性なしと判断するためには、
それだけの客観的合理的理由がなければならないことは予想されている本採用によ
る期間の定めのない労働契約の場合の解雇におけると同様である。そこでこの基準
にもとずいて前認定の本採用拒否の理由を順次とりあげて見る。
 イ、 被控訴人の職場における作業態度について。この点については前認定のよ
うに被控訴人は職場でおしやべりが過ぎたびたびNチーフから注意を受け、その時
でも東北なまりの言葉で茶化すようなことがあつたのであるが、なるほどかような
言動はとくに試用期間中の者の態度として好もしいものではなく、それが異常に過
ぎれば問題であろうが、その内容たるや当時の被控訴人のような思春期の少女にあ
りがちな話題で、やがて匡正の可能性はなくはなく、しかもこの点にふれる前記証
人N、F、E、C、Dの各証言もその大部分が伝聞にかかり、具体的に被控訴人が
いつ、どの程度のおしやべりをしたのか特定することができない。被控訴人がバー
ハンダ付けの作業から後記ICO測定に移されたのはもつぱら右ハンダ付けにあら
たにパートタイマーの婦人が配置されたためであつて、それ以上の意味はないこと
は原審における被控訴人本人尋問の結果(第一回)から明らかである。かえつてい
ずれも作成方式及び趣旨より真正に成立したものと認める甲第一九号証の一ないし
九の各記載並びに原審証人R、P(第一回)、Qの各証言に徴すれば、被控訴人は
むしろ明朗快活で、職場でも寮でもよく同僚を笑わせ、その意味では人気の中心で
あつたことがうかがわれ、これらの事実にかんがみれば結局あかるいおしやべりの
度がいささか過ぎた程度のものであつたこと以上の疎明はないから、被控訴人の前
記言動はまだもつてその従業員の不適格性を構成する合理的理由とはならないもの
というべきである。
 ロ、 被控訴人のICO測定における作業上のミスについて。この点についても
この点にふれる前記証人F(原審第一回)、N、E、C、Dの各証言などによつて
見ても、被控訴人の右ミスが明確に認められるのは一度だけでそれも前記Rが被控
訴人に告げたような不良品を良品に混入したのではなく、良品に入れるべき断線を
不良品に入れたというのであつて、それ以上のミスはあつたにしても伝聞や噂さに
過ぎずこれを確認できないのみならず、かようなミスについて他の試用者の場合と
の比較も明らかにされてはおらず、むしろ従来被控訴人のような女子試用者をIC
O測定に当らせたことはなかつたことがうかがわれるから、前認定の事実だけから
は被控訴人が作業成績において他の試用者よりいちじるしく劣るとは考えられず、
また被控訴人が本採用拒否を申し渡された六月下旬より被控訴人の希望とはいえ引
き続き七月一七日まで依然として同じICO測定の作業に従事せしめられていたこ
とから推して考えれば、被控訴人のミスは必ずしも本質的なものではなく、右作業
に不適とするほどのものではなかつたことが推認され、これまたこの場合の合理的
理由と見ることはできない。
 ハ、 SCTテストの判定結果について。SCTの判定の結果被控訴人が分裂気
質であることがわかり、そのことが控訴会社側をしてI医師に被控訴人を診察させ
ることに導いた一誘因となつたことは前認定のとおりであるが、原審証人Gの証言
に徴すれば分裂気質は人間の持つている性格傾向の一つであつて、病気ではなく、
またSCTテストそのものもそう信用のおけるものでないことが認められ、一方原
審及び当審証人Eの証言によれば前記Eら控訴会社側では分裂気質を直ちに精神病
の一つと思い誤り、被控訴人の前認定のごとき作業態度とあいまつて、被控訴人は
精神病の疑いがあるとして被控訴人を神経科専門医I医師に診察させたが、後日分
裂気質が右のように病気でないことがわかり、控訴会社側としても被控訴人をI医
師に診察させたことは思い過しであつたと考えていることの疎明があり、いずれに
せよ前記SCTテストの判定結果を従業員として不適格との判断をすべき理由とし
て取り上げることはできない。
 ニ、 I医師の診断について。被控訴人を診察したI医師の診断の結果が「ヒス
テリー、但し抑うつ状態、恐怖症を加味し、詳しくは混合神経症と考えられる」と
いうのであり、この診断の結果に被控訴人の職場における作業態度、作業上のミ
ス、SCTテストの判定結果などを綜合斟酌して控訴会社側が被控訴人を本採用し
ないことの最終決定をしたことは前認定のとおりであり、しかもこの場合右決定に
は被控訴人の精神面の病的欠陥として信ぜられたものが大きなウエイトを占めてい
たことは前認定の控訴会社が被控訴人の本採用を拒否するに至るまでの経緯から推
察されるし、さらに成立に争いのない甲第八号証(昭和三七年六月二八日付控訴会
社厚木工場総務課長より被控訴人の父親宛手紙)には「被控訴人に専門医の診察を
受けてもらつた結果、被控訴人はヒステリー症の抑うつ病であることがわかり、団
体的生活にもつとも適さないので、本採用を見合せることに決定し、近日被控訴人
を郷里に掃えす。なお被控訴人の病気は決してなおらないものではなく、静かな環
境の中で精神的に落着いた生活をして治療すればなおる」という趣旨の記載があ
り、以上より見れば本件木採用拒否の前提たる不適格の判断の理由は前記I医師の
診断にもとずいて控訴会社側が被控訴人にあると信じた精神的疾患がその主たるも
ので、それに被控訴人の前記のような作業態度などが参酌されたものであることが
推認される。そこでこの場合前記I医師の診断がきわめて重要な意味を持つわけで
あるが、右I医師の診断そのものが不正確で信用性のないものであるとはにわかに
断定し得ないことは前説示のとおりである。しかし前掲乙第五号証、第四一号証に
よれば右I医師の意見として「被控訴人に対する前記診断は『ヒステリー、但し抑
うつ状態云々』であつたが、ヒステリーは神経症の一つであつて精神異常(精神
病)ではなく、被控訴人の場合は右ヒステリーもさほど重いものではないので、入
院など身がらをどうしたらよいかの判定は一週間後の状態でしてほしいと控訴会社
側の医師に依頼した」との趣旨記載があり、これによればI医師の診察を受けた時
点において被控訴人がかりにヒステリーであつたにしてもそれはただちに判定しが
たいような軽症のものであつたといえるし、それに前認定のように被控訴人がその
後数日を経たのち東京都立M病院でG医師から約三時間にわたつて種々の検査によ
る診察を受けた結果「とくに精神障害を認めず、現在集団生活を不可能とするよう
な精神異常は認められない」との診断を得たことや前掲甲第三九号証中の右I医師
の被控訴人に対する診断についてのG医師の意見並びに前記被控訴人本人尋問の結
果を綜合すれば、被控訴人が本採用を拒否された昭和三七年六月二六日当時の被控
訴人の精神面はかりにヒステリー状態であつたとしても一過的かつきわめて軽度の
もので、これをとり立てて病気とするほどのものではなかつたと見るのが相当であ
る。それなら前記I医師の診断にもとずく不適格の判断はそれ自体速断のきらいを
免れないとともにその理由もきわめて薄弱なものといわざるをえない。
 (2) このように見てくると被控訴人に対する前記本採用拒否を導いた不適格
の判断の理由はいずれも十分な根拠がないのみでなく、とくに被控訴人の精神的疾
患を理由とするものについては前認定のとおり控訴会社側は被控訴人に対するSC
Tテストの判定結果たる分裂気質を精神病の一つと思い誤り、まだ思春期の少女で
ある被控訴人を突然呼出し、理由も告げずに神経科専門医I医師の診察を受けさ
せ、前記のような診断が出るや、本来ならば人間の死活にかかる精神面のことがら
ゆえ、使用者としてはその病状の軽重にかかわりなく、本人はもとより親権者らに
もよく説明のうえ、多少の日時をかけても十分納得のゆく検査をし、正確な診断を
確定したうえ治療方策を立てるだけの配慮をなすべきが当然であり、本採用の諾否
はもとより、その前提をなす不適格の最終判断のごときはその後の問題として考え
られてしかるべきある。ところが控訴会社は前認定のように前記I医師の診断によ
り被控訴人が精神病であるらしいとの確信を深めながら右のような配慮をしないば
かりか、一週間後再び被控訴人を呼出し、ことさらに精神面のことにはふれない
で、婉曲に被控訴人の退職を勧告するとともに本採用拒否の意思表示をし、なお二
日後の二八日付の手紙をもつて被控訴人の親権者に対し精神的欠陥から被控訴人の
本採用を拒否する旨を告げている。これを要するに本件本採用の拒否の処分はその
前提をなす従業員としての不適格の判断の理由においてきわめて薄弱であり、客観
的合理的理由を構成せず、その要件をみたすものといい得ないとともに、かかる事
体の性質上具有すべき要件のないままいちずに本採用拒否を強行するのは結局にお
いて一の権利の濫用として無効であるといわざるをえない。
 三、 なお被控訴人は本件本採用拒否の処分は組合の弱体化をねらつた不当労働
行為であり、労働組合法に違反し無効であると主張する。すでに前段説示の理由で
本件本採用拒否が無効である以上、その他の無効事由を取り上げて判断する必要は
ないが、本件本採用拒否の処分のなされた背景として前段の結論に影響を及ぼすも
のかどうかの限度で考察しておく。原審証人L、P(第一回)、Qの各証言並びに
原審における被控訴人本人尋問の結果(第一、二回)によれば、被控訴人は控訴会
社に入社後試用者であるためソニー労働組合の組合員ではなかつたが、新規採用者
の中では同組合の勧誘にはとくに熱心に応じた二、三人の一人で、組合主催のフオ
ークダンスの会に二、三回顔を出したり、同じく組合主催の学習会が五、六回あつ
たうち三回ほど出席したり、またたびたび組合事務所へ遊びに行つたりしていたの
で、同僚から組合活動に神経質になつている会社からにらまれないようにと注意を
受けたことがあつたことが疎明され、また成立に争いのない甲第一五ないし第一八
号証、原審証人Lの証言により成立を認める同第一四号証や原審証人S、L、木村
信(第一、二回)の各証言に徴すれば、控訴会社においては当時すでに会社と組合
(ソニー労働組合)の対立が激化し、賃上げその他の待遇改善をめぐり労使は熾烈
な攻防を展開しており、会社は新入社員の組合への接近にもいたく神経を尖らして
いたことがうかがえるので、このような事体において被控訴人に対し本件本採用の
拒否がなされたのであるから、前認定のようにその理由がそれ自体として薄弱であ
ることから見て、あるいは控訴会社が被控訴人を犠牲に供して試用者その他の組合
への接触ないし加入を阻止しようとしたのではないかと疑う者があるかもしれな
い。しかし、被控訴人は当時まだ右組合の組合員でもなければ、またこれに加入し
たわけでもなく、右のように被控訴人が組合に接近していたことを会社側が知得し
ていたことを認めるべき疎明もないから、前記認定の諸事情からだけで、本件本採
用拒否の処分が右組合の弱体化をねらつて行われたものとはいい得ない。かえつて
当時の情勢が右に見たようなものであるため、会社としてもこのよらな騒然たる環
境の中で被控訴人についてした不適格の判断がやや早急に過ぎ、安易に失したきら
いがあるのであつて、その事情は察し得るけれども、そのことのために前段の結論
を左右すべきものとは解せられない。
 (被控訴人の労働契約上の地位及び賃金)
 一、 前認定のとおり被控訴人は本件試用労働契約では三カ月の試用期間中従業
員として不適格と判定されない限り、右期間満了とともに本採用者となる約定であ
つたから、右のような不適格の判定がなく、本採用となることを拒否されない以上
昭和三七年四月一八日より三カ月を経た同年七月一八日をもつて本採用者としての
身分を取得すべき地位にあつたものというべく、従つて被控訴人に対する不適格の
判定が客観的合理的理由を欠き、これにもとずく本採用拒否の処分が無効であるか
らには、被控訴人は同年七月一八日以降本採用者としての身分を取得したものとい
わざるをえない。
 二、 被控訴人は右のような労働契約上の権利を有する地位の保全と、同地位に
もとずく賃金の支払を求めるが、当裁判所はいずれも原判決が認容した限度におい
てこれを正当として認容すべきものと判断するところ、その理由は原判決のその点
の理由と同一であるので、これを引用する。
 (むすび)
 よつて原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条
第一項、第九五条、第八九条に従い、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 浅沼武 判事 上野正秋 判事 柏原允)

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