弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人久保田畯の上告理由第一について。
 自創法による農地買収において、買収計画で定められる「買収の時期」があらか
じめ、買収今書交付の日以後になるように定められることは望ましいことではある
けれども、右「買収の時期」より遅れて買収令書の交付せられることのあることは、
法の予想するところであること所論のとおりであつて、「買収の時期」より遅れて
買収令書が交付されたからといつて、それだけで所論のようにただちに右買収処分
をもつて違法のものとするいわれはない。
 本件において原審の確定した事実によれば、本件土地は不在地主たる上告人所有
の小作地として、昭和二三年二月九日右土地につき買収計画が樹立され、同月二〇
日「買収の時期」を同年三月二日として右計画の公告が行われ、所定の手続を経て
昭和二四年一二月一日自創法九条一項但書に基き買収令書の交付に代えて公告が行
われ、次いで右土地が買収により国の所有に帰したものとしてこれを二筆に分筆し
一筆あて被上告人B1と同B2とに売り渡され、昭和二五年七月二〇日付で買収・
売渡に伴う登記を了し現在に至つているというのである。右事実によれば、「買収
令書の交付に代えてした公告」はその当時遅滞なく行われ、これが有効であるとの
前提の下に、買収計画において定められた「買収の時期」に本件土地の所有権が国
に移転し、次いで前示の経過で国からさらに被上告人等に移転したものとして取り
扱われ、その後被上告人都知事が右令書の公告を取り消し、あらためて昭和三〇年
四月二日買収令書を上告人に交付するに至るまで、右法律状態のまま経過したもの
であることは明らかである。そして、本件買収令書は所論のように「買収の時期」
から七年を経過した後に上告人に交付されたとしても、右は右述の事実関係を前提
として、当時遅滞なくなされた「買収令書の交付に代えてした公告」に瑕疵があつ
たがため、これを補正し、法律関係を安定する趣旨においてなされたものであると
は原判文上あきらかであるから、本件において、右令書の交付が七年経過した後に
なされたとの一事をもつて、右買収処分の効力を否定し、さらにその以前になされ
た一連の手続の効力をも否定せんとすることは相当でなく、右事実関係の下では、
買収による所有権移転の効果は、買収計画において予定し、公告された「買収の時
期」に遡つて生ずるものと解するのが相当である。右に反する所論は、独自の見解
に基くものであつて、採用のかぎりでない。
 また本件において昭和二三年二月九日買収計画が樹立され、同月二〇日その公告
がなされたことは原判決の確定するところであるから、前記の趣旨において本件買
収令書の交付が自創法の規定に従つてなされたのは農地法施行法二条一項一号の法
意に沿う所以であつて、この点において原判決に所論の違法はない。
 所論は、また、さきになされた「買収令書の交付に代えてした公告」による買収
処分の取消に関する原判示を論難するけれども、元来右公告は買収令書の交付に代
用してなされた公告であるから、これを取り消すのに必ずしも公告をもつてするを
要せず買収令書の交付自体をもつてすることを妨げないとした原判旨は正当である。
 次に登記の点については、原判示に従えば、結局本件の各登記は現在の権利の実
体に符合するのみならず、その変動の経過についても事実に反するところはないこ
とに帰着するのであるから、この点に関する所論も理由はない。
 その余の論旨はいずれも本件買収の効力若しくは効力発生の時期に関し、本判旨
と相容れない独自の見解に基いて、原判決を非難するものであつて、その採るを得
ないことは前述するところによつてあきらかである。また、所論違憲の主張も、ひ
つきよう、本件買収処分を違法・無効のものとする上告人独自の見解を前提とする
ものであり、既にその前提において採用に値しないものである。
 同理由第二について。所論は、原審が適法にした証拠の取捨、事実の認定を非難
するに帰着し、上告適法の理由とすることはできない。よつて、民訴四〇一条、九
五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    奥   野   健   一
 裁判官河村大助は病気につき署名押印することができない。
         裁判長裁判官    藤   田   八   郎

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