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平成30年6月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第27733号育成者権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成30年3月30日
判決
原告森産業株式会社5
同訴訟代理人弁護士八代徹也
八代ひろよ
木野綾子
同訴訟復代理人弁護士花山寛
中村遊10
被告株式会社河鶴
(以下「被告河鶴」という。)
株式会社長野管財(旧商号・株
式会社アグリンク長野)承継人
株式会社長野管財破産管財人15
被告X
(以下「被告破産管財人」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士前山暁子
成田茂
鈴木智有20
被告株式会社長野管財破産管財人X訴訟代理人弁護士
宮岡遼
主文
1被告河鶴は,別紙被告種苗目録1ないし3記載の種苗を輸入してはな
らない。25
2被告河鶴は,別紙被告種苗目録1ないし3記載の種苗を用いて得られ
る収穫物を生産し,譲渡の申出をし,譲渡し,貸渡しの申出をし,貸し
渡し,又はそれらの行為をする目的を持って保管してはならない。
3被告河鶴は,別紙被告種苗目録1ないし3記載の種苗に係る収穫物及
び加工品を廃棄せよ。
4被告河鶴は,原告に対し,6678万5832円及びこれに対する平5
成26年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
5原告の破産者株式会社長野管財(大阪地方裁判所平成28年(フ)第5
253号)に対する破産債権が0円であることを確定する。
6原告の被告河鶴に対するその余の請求をいずれも棄却する。10
7訴訟費用は,原告と被告河鶴との間では,これを3分し,その2を原
告の負担とし,その余は被告河鶴の負担とし,原告と被告破産管財人と
の間では原告の負担とする。
8この判決は,第1項,第2項及び第4項に限り,仮に執行することが
できる。15
事実及び理由
第1請求
1請求の趣旨
(1)被告河鶴は,別紙被告種苗目録1ないし3記載の種苗を生産し,調整し,
譲渡の申出をし,譲渡し,輸出し,輸入し,又はそれらの行為をする目的を20
持って保管してはならない。
(2)被告河鶴は,別紙被告種苗目録1ないし3記載の種苗を用いて得られる収
穫物を生産し,譲渡の申出をし,譲渡し,貸渡しの申出をし,貸し渡し,輸
出し,輸入し,又はそれらの行為をする目的を持って保管してはならない。
(3)被告河鶴は,別紙被告種苗目録1ないし3記載の種苗,収穫物及び加工品25
を廃棄せよ。
(4)被告河鶴は,日本農業新聞(全国版)及び全国きのこ新聞(全国版)に,
縦2段(上下67mm以上),横2分の1以上(左右192mm以上)の大
きさで,表題10ポイント以上本文8ポイント以上の文字で,別紙謝罪広告
記載の記事を各1回掲載せよ。
(5)被告河鶴は,原告に対し,2億5063万6734円及びこれに対する平5
成26年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)原告と被告破産管財人との間で,原告が,破産者株式会社長野管財に対し,
大阪地方裁判所平成28年(フ)第5253号事件につき,損害賠償請求金の
元本2億5063万6734円及びこれに対する遅延損害金2619万66
88円の破産債権を有することを確定する。10
(7)訴訟費用は被告らの負担とする。
(8)仮執行宣言
2請求の趣旨に対する答弁
(1)被告河鶴
ア原告の請求をいずれも棄却する。15
イ訴訟費用は原告の負担とする。
(2)被告破産管財人
ア主文第5項と同旨
イ訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要20
1本件は,種苗法(以下,「法」と略称する場合がある。)に基づき品種登録
されたしいたけの育成者権を有する原告が,被告河鶴,訴外株式会社農研管財
(旧商号は株式会社河鶴農研。以下,商号変更の前後を問わず「河鶴農研」と
いう。)及び破産者株式会社長野管財(旧商号は株式会社アグリンク長野。以
下,商号変更の前後を問わず「アグリンク長野」という。)は,遅くとも平成25
23年8月頃以降,しいたけの種苗及びその収穫物を生産,譲渡等していると
ころ,これらの行為は原告の育成者権を侵害するものであると主張して,被告
河鶴に対し,①法33条1項,2項に基づく上記種苗及びその収穫物の生産,
譲渡等の差止め,②同条2項に基づく上記種苗等の廃棄,③法44条に基づく
謝罪広告の新聞掲載,④共同不法行為に基づく損害合計2億5063万673
4円及びこれに対する不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である平成5
26年11月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求めるとともに,被告破産管財人に対し,原告がアグリンク長野に
損害賠償請求金の元本2億5063万6734円及びこれに対する遅延損害金
2619万6688円の破産債権を有することの確定を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣10
旨により認定できる事実)
(1)当事者等
ア原告は,きのこ種菌・菌床・加工食品・飲料の製造販売,きのこ栽培
施設の設計・施工・資機材販売等を業とする株式会社である。
イ被告河鶴は,漬物の製造・企画・販売等を業とする株式会社である。15
河鶴農研は,被告河鶴の関連企業であり,きのこ類の栽培及び販売等
を業とする株式会社であったが,平成28年12月26日午後3時に破
産手続開始決定を受け,平成29年4月13日に破産手続廃止の決定を
受けたものである。
ウアグリンク長野は,被告河鶴の関連企業であり,農畜産物の生産,加工20
及び販売業等を目的とする株式会社であったが,平成28年12月26
日午後3時に破産手続開始決定を受け,破産管財人が選任され(本件の
被告破産管財人),平成30年1月25日に破産手続終結決定を受けた
ものである。(甲54。以下,特に摘示しない限り,枝番のあるものは
枝番を含む。)25
エ平成26年当時,被告河鶴の代表取締役は甲(以下「甲」という。)及
び乙(以下「乙」という。)であり,甲は,河鶴農研の取締役及びアグ
リンク長野の代表取締役を,乙は,河鶴農研の取締役をそれぞれ兼務し
ていた。また,河鶴農研の代表取締役である丙(以下「丙」という。)
は,アグリンク長野の取締役を兼務していた。さらに,被告河鶴の取締
役(農産事業部長)の丁(以下「丁」という。)はアグリンク長野の取5
締役を兼務していた。(甲51~54)
(2)しいたけの栽培方法
しいたけの栽培方法には,「原木栽培」と「菌床栽培」とがある。このう
ち「原木栽培」とは,クヌギ,コナラ等の原木に種菌を植え付ける栽培方法
をいい,「菌床栽培」とは,おが屑にふすま,ぬか類,水等を混合してブロ10
ック状,円筒状等に固めた培地に種菌を植え付ける栽培方法をいう(食品表
示基準(平成27年内閣府令第10号)別表第三)。(弁論の全趣旨)
(3)原告の育成者権
ア明治製菓株式会社(以下「明治製菓」という。)は,以下の品種(以
下「本件品種」という。)に係る育成者権を有していた。(甲22)15
品種登録の番号第7219号
出願日平成7年9月28日
登録日平成11年4月15日
農林水産植物の種類しいたけ
登録品種の名称「JMS5K-16」20
イ原告は,平成14年9月12日,明治製菓から本件品種に係る育成者
権を譲り受け,平成15年2月28日,その旨の移転登録を受けた。
(甲1)
ウ本件品種の品種登録原簿(甲22)には,原木栽培による特性表のみ
が添付されており,菌床栽培による特性表は添付されていない。本件品25
種の出願に係る願書(甲45)には,「出願品種の主たる用途」として
「菌床栽培用,原木栽培用椎茸種菌」と記載され,原木栽培のみならず
菌床栽培による試験結果も添付されている。なお,種苗法に基づく品種
登録の運用上,しいたけについては,出願品種の用途に菌床栽培が含ま
れる場合であっても,原木栽培に係る品種の特性(法18条2項4号)
のみを品種登録原簿に掲載するとの取扱いがされている。5
(4)被告河鶴によるしいたけの卸売等
河鶴農研は,平成24年2月当時,①国内の商社である株式会社S.S.
IT(以下「S.S.IT」という。)を通じて,中華人民共和国(以下
「中国」という。)の菌床生産者から菌床を購入するルート,②国内のしい
たけ栽培業者から収穫物であるしいたけを仕入れるルートの2通りの方法で10
菌床又はしいたけを仕入れ,上記①の菌床については三重県内及び長野県内
の施設でしいたけを栽培した上で,被告河鶴に販売していた。被告河鶴は河
鶴農研から購入したしいたけを上記①及び②の区別なくパック詰めして小売
店に販売していた。(乙7~12,15,16,32~35,38,39,
41~48,60,61)15
平成24年2月3日,株式会社ヨークマートの小売店舗(a店)で「長野
県産『生椎茸』」(以下「被告しいたけ1」という。)及び「長野県産『肉
厚生椎茸』」(以下「被告しいたけ2」という。)が販売され,株式会社オ
オゼキの小売店舗(b店)で「長野県産『生しいたけ』」(以下「被告しい
たけ3」といい,被告しいたけ1及び2と併せて「被告各しいたけ」とい20
う。)が販売された。被告各しいたけは,いずれも,被告河鶴が上記各小売
店舗に卸したものであった。
(5)被告各しいたけの特性
一般財団法人日本きのこ研究所の品種調査によれば,被告しいたけ1ない
し3は,それぞれ別紙被告種苗目録1ないし3の「出願品種の特性値(標準25
品種との比較)」欄及び「備考(測定値等)」欄記載のとおりの特性を有し
ていた。(甲2,4~6,24,27)
河鶴農研は,S.S.ITから購入した菌床の品種のほとんどは中国で品
種登録されている「L-808」(乙1,2)であり,「香菇SD-1」も
少ないながらも含まれているとの説明を受けていたが,SSRマーカーを用
いたDNA解析の結果,被告各しいたけと「L-808」とは同一品種では5
ないことが明らかになった。(甲29。なお,以下,実際には「L-808」
と同一の品種ではないが,S.S.ITから「L-808」であるとの説明
を受けて購入した菌床を単に「L-808」ということがある。)
(6)原告は,平成24年5月14日付け内容証明郵便(甲25。以下「本件通
知書」という。)により,被告各しいたけの対峙培養試験の結果,被告各し10
いたけが原告の育成者権を侵害している可能性が高い旨を通知し(以下「本
件通知」という。),同通知書は同月16日に被告河鶴に到達した(弁論の
全趣旨)。
これに対し,被告河鶴は,平成24年6月4日到達の書面(乙62の1。
以下「本件回答書」という。)により,被告河鶴は,中国の菌床生産者及び15
その種菌の購入先の名称,住所を原告に知らせるとともに,当該種菌は「L
-808」及び「香菇SD-1」であるとの説明を受けていると回答した。
(7)破産債権の届出
原告は,アグリンク長野の破産手続において,育成者権侵害による不法行
為に基づく損害賠償請求権として,損害賠償金2億5063万6734円及20
びこれに対する遅延損害金2619万6688円を破産債権として届け出た。
3争点
(1)被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野の行為
(2)本件品種と被告各しいたけの対比
(3)育成者権の及ぶ範囲25
(4)品質の安定性欠如による権利濫用の有無
(5)過失の有無
(6)アグリンク長野の共同不法行為の成否
(7)損害発生の有無及び損害額
(8)差止め及び廃棄の要否
(9)謝罪広告の要否5
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野の行為)について
〔原告の主張〕
被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野は,遅くとも平成23年8月頃から
現在まで,業として,しいたけの種苗を生産,調整,譲渡,輸出入するなどし,10
また,その収穫物を生産,譲渡,貸付け,輸出入するなどしている。
被告らは,アグリンク長野がしいたけを取り扱う事業を行ったことはないと
主張するが,アグリンク長野の商業登記簿(甲50)の「目的」欄には「きの
こ類の生産,加工および販売業」と記載されており,また,被告河鶴のしいた
け栽培施設においては,被告河鶴及び河鶴農研の看板とともに「株式会社アグ15
リンク長野」との看板も掲げられていた。
したがって,アグリンク長野がしいたけの栽培をしていたことが強く推認さ
れる。
〔被告らの主張〕
被告河鶴の行為のうち,しいたけの種苗の生産,調整,譲渡及び輸出入並び20
にその収穫物の生産,貸付け及び輸出入については否認し,河鶴農研の行為の
うちしいたけの種苗の生産,調整,譲渡及び輸出入並びにその収穫物の貸付け
及び輸出入については否認し,アグリンク長野については全部否認する。
河鶴農研は,平成23年8月頃からしいたけの菌床栽培を開始し,平成24
年1月頃には栽培も軌道に乗り,被告河鶴を通じてスーパーマーケット等に安25
定した数量を出荷していた。
また,アグリンク長野は,平成25年5月31日の会社設立から現在に至る
まで,しいたけを取り扱う事業を行ったことはない。同社は被告河鶴の関連会
社としてレタス等の葉物野菜の生産を業としていた法人にすぎないのであって,
原告の指摘する商業登記簿及び看板の記載から同社がしいたけの栽培等を行っ
ていたとの事実が認められるものではない。5
2争点(2)(本件品種と被告各しいたけの対比)について
〔原告の主張〕
被告各しいたけは,本件品種と特性により明確に区別されない品種であるか
ら,本件品種に係る育成者権が及ぶ。
このことは,①種苗管理センターに寄託されている被告各しいたけの各菌株10
と,同じく同センターに寄託されている本件品種の菌株とを用い,裁判所の選
任した鑑定人による鑑定を実施したところ,被告各しいたけは本件品種の菌株
と同一であるとの結果が得られたこと,②法20条に基づく特性による識別を
したところ,被告各しいたけの特性と本件品種とは,大半の特性において同一
階級値となっており,差異のあるものでもわずか1ポイントの差異にとどまっ15
ていること(甲4~6),③被告各しいたけと本件品種とを対峙培養したとこ
ろ,品種が異なる場合に形成される帯線は形成されなかったこと(甲9),④
リボソームRNA配列の遺伝子領域におけるIGS1(遺伝子間スペーサー領
域)のDNA塩基配列の相同率を解析したところ,本件品種と被告各しいたけ
とで高い相同率を示し,また,塩基配列を用いた分子系統解析の結果,同じ系20
統枝上にあるものと認められたこと(甲11,12),⑤被告河鶴がDNA解
析の方法としてIGS1分析より精度が高いと主張するSSRマーカーを用い
た品種識別の結果においても,本件品種と被告各しいたけのSSR遺伝子型は
完全に一致するとの結果が得られたこと(甲29)などからも明らかである。
〔被告らの主張〕25
被告各しいたけと本件品種との同一性については争う。
3争点(3)(育成者権の及ぶ範囲)について
〔原告の主張〕
(1)上記2の〔原告の主張〕のとおり,被告各しいたけは本件品種と特性によ
り明確に区別されない品種であるから,被告各しいたけは本件品種の育成者
権の範囲に属する。5
(2)この点に関して被告らは,本件品種の品種登録簿に菌床栽培の特性表が添
付されていないから,育成者権は菌床栽培のしいたけに及ばない旨主張する。
しかし,法20条1項本文は「育成者権者は,品種登録を受けている品種
(以下「登録品種」という。)及び当該登録品種と特性により明確に区別さ
れない品種を業として利用する権利を専有する。」とのみ定められており,10
当該登録品種の栽培方法によりその権利範囲は限定されないので,単に栽培
方法が異なるという理由で当該登録品種の育成者権が及ばないという解釈は
採り得ない。
〔被告らの主張〕
しいたけは,その栽培方法が原木栽培であるか菌床栽培であるかによって,15
品種登録簿に添付される特性表の書式が全く異なるほど特性上の差異が大きい
ところ,本件品種については,品種登録簿上,原木栽培の特性表しか公示され
ておらず(甲22),菌床栽培された場合の特性は全く外部に公示されていな
い。
したがって,本件品種の育成者権は菌床栽培のしいたけに及ばない。20
4争点(4)(品質の安定性欠如による権利濫用の有無)について
〔被告らの主張〕
原告は,種苗管理センターが本件品種の菌株として保管している菌株は,D
NAの変異により,出願時に寄託した本件品種の菌株とは異なる特性を有して
いる可能性が高いと主張するが,そうであれば,本件しいたけは,法3条1項25
3号に定める品種登録の要件(品種の安定性)を喪失したことになる。この点,
しいたけ栽培家のブログ(乙25)でも,本件品種における形状異常の発生が
報告されている。
したがって,本件品種は,現在,法49条1項2号に定める後発的取消事由
の発生により品種登録を取り消さなければならない状態にある可能性が高いの
であるから,原告による本件品種の育成者権の行使は,権利の濫用に当たり許5
されない。
〔原告の主張〕
原告は,鑑定申請に対する意見として,植物一般に見られる不可避的な遺伝
子の変異の可能性を指摘し,原告の社内で採用していた菌株の保存方法(明治
製菓から譲渡された菌株を凍結保存する方法)の方が種苗管理センターの採用10
している菌株の保存方法よりも変異の可能性が相対的に低いと主張したにすぎ
ず,これは法3条1項3号所定の安定性の問題とは異なる。
また,被告らの引用するブログは,どのような環境下で栽培をしたのかなど
の詳細な事情が不明であり,その信用性は低い。
5争点(5)(過失の有無)について15
〔原告の主張〕
(1)本件においては,法35条が適用され,被告らの過失が推定される。
この点に関し,被告らは,菌床栽培のしいたけの特性を公示していないこ
とや調査・確認の困難性を理由として,法35条の過失の推定は及ばないと
主張するが,同条の文理上そのような限定はされていない。20
しいたけに係る品種の公示に関し,現在の取扱いでは登録原簿に掲載され
る特性表は原木栽培のもののみであり,被告らもそのことを熟知しているは
ずである。被告らの主張によれば,しいたけの菌床栽培により他人の育成者
権を侵害した者は常に過失が推定されないこととなるが,そのような解釈は
採り得ない。25
また,品種の異同の調査・確認手段としては,対峙培養試験,DNA解析
など迅速かつ簡便な方法が複数あるのであるから,しいたけの栽培・販売を
業とする被告らにとって,本件品種との異同を調査・確認することは十分可
能であった。
さらに,被告らは,法2条5項2号及び3号の育成者権の段階的行使の原
則(いわゆるカスケイド原則。以下,単に「カスケイド原則」という。)が5
適用される事案においては法35条の規定は不適用又は抑制的に適用すべき
であるとも主張するが,これは,同条の文理上の解釈を離れた立法論にすぎ
ない。
したがって,被告らの主張は理由がなく,本件のような菌床栽培によるし
いたけの菌株についても同条が適用される。10
(2)本件において過失の覆滅事由は存在せず,仮に過失が推定されないとして
も,被告らには過失があったと認められるべきである。
ア河鶴農研が菌床を購入した際に本件品種の登録品種の名称である「JM
S5K-16」との表示がなかったとしても,被告らは品種名を確認
し,国内の登録品種に該当するか否かを調査・確認すべきであった。現15
に原告は店頭に並んでいた被告各しいたけを見て,本件品種との類似性
に気付き,DNA解析により品種の同一性を判別し得た。
イしいたけが原木栽培と菌床栽培とで特性を異にすることは,しいたけの
生産・販売に携わる業者にとっては常識であった。また,原木栽培によ
る比較栽培試験を実施して品種登録簿の特性表と照合し,育成者権を侵20
害していないかどうか調査・確認することは十分可能であった。
ウ前記のとおり,品種の異同を迅速かつ簡便に調査・確認手段は複数ある。
被告らは,しいたけの栽培・販売を業とし,それにより多大な利益を上
げているのであるから,費用や期間がかかるとしても,本件品種との異
同を調査・確認すべきであった。25
エ原告は,被告河鶴に対し,本件通知後,被告各しいたけが原告の育成者
権を侵害している可能性が高いことを繰り返し警告したのであるから,
被告らが育成者権侵害の有無について調査・確認することは容易であっ
た。
被告らは自らDNA解析を行ったと主張するが,被告河鶴が行った解析
は,リボソームRNA配列の遺伝子領域にあるITS1のDNA塩基配5
列を検査したのみである。この試験方法ではしいたけという種のレベル
までしか同定できないので,調査・確認として不十分である。
また,原告は,上記の警告後,比較栽培試験を共同で行うことを申し入
れたが,この提案を無視したのは被告河鶴である。
〔被告らの主張〕10
(1)本件においては,過失の推定規定である法35条は適用されない。
法35条の正当化根拠は,①登録品種につき公示がある点,②専門的知識
を有する業者に対しては,種苗等の利用に際して育成者権が及ぶか否かの調
査・確認の実施を求めても酷ではないという点にあるところ(乙26),本
件ではその前提を欠くので,同条は適用されない。15
上記①に関し,原告は,品種登録簿の特性表によって原木栽培のしいたけ
の特性しか公示しておらず,菌床栽培のしいたけの特性を公示していない。
しいたけについては,原木栽培と菌床栽培とでは特性が全く異なるのである
から,原木栽培に関する特性表により,菌床栽培によるしいたけについて品
種の異同を判断することは著しく困難である。20
上記②については,しいたけのDNAは別品種でも極めて類似性が高く,
DNA解析による同一性判断は非常に困難であり,しいたけの比較栽培試験
は実施主体も限られているので,試験の実施自体が困難である。また,本件
品種の登録簿には菌床栽培用の特性表が掲載されていないのであるから,調
査・確認の対象となる品種の特性自体を把握できない。加えて,試験結果が25
判明するまでに長期間を要し,試験費用も安価ではない。
さらに,仮にカスケイド原則の例外を認めて,収穫物の販売を行っていた
被告河鶴に対する損害賠償を認めるのであれば,育成者権者保護の要請と均
衡を保つ必要があることから,法35条の過失の推定規定は不適用又は抑制
的に適用すべきである。
したがって,本件では,法35条により過失は推定されない。5
(2)本件において被告らには過失があるとは認められず,仮に過失が推定され
るとしても,その覆滅事由が存在する。
ア河鶴農研は,しいたけの菌床を購入した際,S.S.ITから当該菌床
は「L-808」又は「香菇SD-1」であるとの説明を受けていた。
また,S.S.ITからの請求書の品名欄には「椎茸菌床」と記載され10
ているにすぎず,国内業者から収穫物としてのしいたけを購入する際に
も,請求書等の品名欄には「しいたけ」と表示されているのみであった。
このため,河鶴農研からしいたけを購入した被告河鶴が品種を認識する
ことは困難であった。
イ本件品種の品種登録簿には菌床栽培の特性表が添付されておらず,河鶴15
農研としてはしいたけの菌床栽培の際に本件品種との同一性を確認する
ことができなかった。仮に河鶴農研のしいたけについて原木栽培を実施
したとしても,きのこは栽培環境によって植物体の特性が異なるため,
これをもって本件品種の品種登録簿の特性表と比較することは極めて困
難であった。20
ウしいたけの品種を外見から特定することは専門家でも困難であり,DN
Aの類似性が高いので,DNA解析による同一性判定も困難である。ま
た,菌床栽培で比較栽培試験を実施できる機関は極めて限られており,
被告河鶴がそのような機関にDNA解析等を依頼することは事実上不可
能であった。25
エ被告河鶴は,本件通知書を受領した後,S.S.ITに「L-808」
と本件品種が異なることを確認し,自主的にDNA解析を行っている。
また,原告と共同でDNA解析を行うことについては,原告がその費用
負担について不合理な条件を提示したために実施できなかったものであ
り,その責めは不誠実な対応をした原告が負うべきである。
6争点(6)(アグリンク長野の共同不法行為の成否)について5
〔原告の主張〕
アグリンク長野は,被告各しいたけの販売行為につき被告河鶴及び河鶴農研
と客観的・主観的に共同して侵害行為をしていたものであり,これは共同不法
行為(民法719条)を構成する。
(1)被告河鶴は,野菜を生産販売する農産事業部を擁しており,しいたけの専10
門家である丁を同事業部の部長職に就かせていた(甲51)。そして,同事
業部の下に,農業生産のための法人としてアグリンク長野等の子会社を設立
し,それらの子会社が栽培,生産した農作物を被告河鶴が仕入れ,小売業者
に販売するというビジネスモデルを採用していた。その結果,平成26年4
月当時,被告河鶴の販売する農作物の約8割は自社グループ生産によるもの15
であった。
(2)前記1の〔原告の主張〕のとおり,アグリンク長野の商業登記簿の「目的」
欄には「きのこ類の生産,加工および販売業」と記載されていた。また,被
告河鶴のしいたけ栽培施設においては,被告河鶴及び河鶴農研の看板ととも
に「株式会社アグリンク長野」との看板も掲げられていた。20
このように,アグリンク長野は,被告河鶴の傘下の企業体として,実際に
しいたけを栽培していた。
(3)前記第2,2(1)エのとおり,被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野の
主要な役員は共通しており,この三社は同一の意思決定主体により運営され
ていた。25
(4)本件においても,被告河鶴及びアグリンク長野は訴訟前から同一の弁護士
に依頼して対応していたものであって,被告らは,少なくとも訴訟前の段階
においては,アグリンク長野がしいたけの栽培をしていないとか,本件とは
関係がないなどと主張していなかった。
〔被告破産管財人の主張〕
上記1の〔被告らの主張〕のとおり,アグリンク長野はしいたけを取り扱っ5
ていなかった。原告は,その主張の根拠となる事実として,アグリンク長野の
商業登記簿の「目的」欄の記載及び被告河鶴のしいたけ栽培施設の看板の掲示
を挙げるが,アグリンク長野がしいたけを栽培していたことの根拠としては不
十分である。また,原告は,被告河鶴との共同不法行為を基礎付ける事実とし
て取締役の重複を挙げるが,これも,その事実のみで共同不法行為が成立する10
ものではない。さらに,原告は,本件訴訟前の段階でアグリンク長野に対して
何らの請求も行っておらず,同社の名前を出すことすらなかった。
7争点(7)(損害発生の有無及び損害額)について
〔原告の主張〕
(1)法2条5項2号に基づく収穫物に対する権利行使の可否について15
ア種苗法はカスケイド原則を採用しており,育成者権は,種苗段階で「権
利を行使する適当な機会がなかった場合」を除き,「その種苗を用いる
ことにより得られる収穫物」(同項2号)や「その品種の加工品」(同
項3号)に及ばないとしている。
ここで「権利を行使する適当な機会がなかった場合」とは,例えば,20
①育成者が第三者による種苗の無断増殖,販売を知らずに,収穫物が流
通した段階で無断販売等を発見した場合,②登録品種の種苗が海外で無
断増殖され,その収穫物や加工品が日本に輸入された場合などをいう。
本件品種に係るしいたけは,海外で無断増殖されて日本に輸入され,
原告は収穫物が流通した段階で被告各しいたけの無断増殖・販売の事実25
を初めて知ったのであるから,上記の「権利を行使する適当な機会がな
かった場合」に該当する。
イ被告らは,本件回答書をもって育成者権侵害の疑われる販売元等の会社
名及び住所を原告に回答したことにより,遅くとも平成24年7月31日
には原告の「権利を行使する適当な機会」が到来したと主張する。
しかし,被告河鶴は,本件回答書において,被告各しいたけは本件品5
種とは別品種であると主張し,菌床の販売元として中国に所在する会社
名等を告げたのみであり,同社が侵害行為をしたことの裏付けとなる資
料を原告に提供したわけでもない。
また,中国は当時「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UPO
V条約)に加盟していたものの,しいたけは平成28年5月15日まで10
保護対象植物とされていなかったため,原告は本件の侵害対象期間当時,
中国国内で本件品種の育成者権を主張することはできなかった。
したがって,本件回答書の受領により原告が菌床の製造販売元に対し
て「権利を行使する適当な機会」が到来したとはいえない。
なお,被告らは,仮に「権利を行使する適当な機会がなかった」と認め15
られるとしても,上記の事情を斟酌すると,平成24年6月4日以降の
損害拡大について過失相殺をすべきであると主張するが,被告らによる
過失相殺の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たり,許されない。
仮に時機に後れた攻撃防御方法に当たらないとしても,原告はこの主張
を争う。20
(2)法34条1項の適用について
被告らは,法34条1項が適用されるのは「育成者権者による利用と侵
害者による利用との間に競争関係がある場合」に限られるなどと主張する。
しかし,同項の文言上,「育成者権者による利用と侵害者による利用との間
に競争関係がある場合」は要件とされておらず,被告らの上記主張は規定上25
の根拠を欠くものである。
(3)原告の損害額について
ア逸失利益(法34条1項)2億2583万2814円
法34条1項に基づく原告の逸失利益の算定方法は,下記(ア)ないし
(エ)の算定方法1~4のとおりとなる。なお,算定方法1が主位的主張,
算定方法2ないし4が予備的主張であり,算定方法2ないし4相互間の5
関係は選択的である。また,算定方法2ないし4については内金として
2億2583万2814円を請求する。
(ア)算定方法1
被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野の栽培施設の面積から割り出
した3年分の菌床の譲渡個数を490万9409個と算定し,これに原10
告における菌床1個当たりの譲渡利益46円を乗じると,逸失利益の額
は2億2583万2814円となる。
(計算式)
1坪当たりの菌床の栽培個数:200個
被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野の栽培地合計:5156坪15
1回転(菌床の搬入から収穫後の廃棄までの1周期である230日)
当たりの菌床の個数:5156坪×200個=103万1200個
3年分の菌床の個数:103万1200個×365/230×3年≒490
万9409個
原告における菌床1個当たりの譲渡利益:末端販売価格160円-卸20
価格114円=46円
逸失利益の額:490万9409個×46円=2億2583万281
4円
(イ)算定方法2
河鶴農研の購入菌床数の平均値から3年分の菌床(1個1.8kgのも25
の)の譲渡個数を算出し,これを原告における菌床(1個1.3kgのも
の)数に換算して616万8461個とした上,これに原告における菌
床1個当たりの譲渡利益46円を乗じると,逸失利益の額は2億837
4万9206円となる。
(計算式)
河鶴農研の平成23年10月から平成24年1月の購入菌床数(1個5
1.8kgのもの):49万5000個
1か月当たりの平均購入菌床数:49万5000個÷4=12万37
50個
3年間の購入菌床数:12万3750個×36か月=445万500
0個10
原告における菌床(1個1.3kgのもの)に換算した購入菌床数:4
45万5000個×1.8kg/1.3kg=616万8461個
原告における菌床1個当たりの譲渡利益:末端販売価格160円-卸
価格114円=46円
逸失利益の額:616万8461個×46円=2億8374万92015
6円
(ウ)算定方法3
被告らの開示したしいたけ(収穫物)の納品額合計12億6521万
6042円に,原告が販売したしいたけ(収穫物)の粗利率18.8%
を乗じると,逸失利益の額は2億3786万0615円となる。20
(計算式)
被告河鶴の平成24年から平成26年までのしいたけの納品額:合計
12億6521万6042円
原告がしいたけを販売する場合の粗利率:18.8%
逸失利益の額:12億6521万6042円×18.8%=2億3725
86万0615円
(エ)算定方法4
被告らの開示したしいたけ(収穫物)の販売量182万2805.7
kgに,原告でしいたけを販売する場合の1kg当たりの利益額152円を
乗じると,逸失利益の額は2億7706万6466円となる。
(計算式)5
被告河鶴の平成24年から平成26年までのしいたけの販売量:18
2万2805.7kg
原告がしいたけを販売する場合の1kg当たりの利益額:152円
逸失利益の額:182万2805.7kg×152円=2億7706万
6466円10
イ調査費用202万3920円
原告は,被告らによる育成者権侵害の事実を調査するため,以下の支
出を余儀なくされた。
(ア)侵害状況記録書等作成費用11万6260円
(イ)品種調査資料作成費用143万9778円15
(ウ)DNA解析費用46万7882円
ウ弁護士費用2278万円
エ合計2億5063万6734円
〔被告らの主張〕
(1)法2条5項2号に基づく収穫物に対する権利行使の可否について20
被告河鶴は,本件回答書により菌床の販売元等の会社名及び住所を原告
に回答しているから,原告においては,遅くとも約2か月後の同年7月31
日には上記販売元等に対する権利行使が可能となっており,「権利を行使す
る適当な機会」(法2条5項2号)が到来していた。したがって,原告が被
告河鶴に対して賠償請求できるのは,平成24年7月31日までに生じた損25
害に限られる。
この点に関し,原告は,本件の侵害対象期間当時,中国国内で本件品種の
育成者権を主張することはできなかったと主張する。しかし,原告としては,
税関による水際措置として育成者権侵害のおそれのある菌床の輸入差止めを
申し立てることが可能であったのであり,このことは「植物の新品種の保護
に関する国際条約」(UPOV条約)の加盟の有無や同条約の保護対象物品5
の範囲に左右されない。
仮に原告に「権利を行使する適当な機会」がなかったとしても,上記の事
情を斟酌すると,平成24年6月4日以降の損害の拡大については過失相殺
が認められるべきである。
(2)法34条1項の適用について10
法34条1項が適用されるのは育成者権者による利用と侵害者による利用
との間に競争関係がある場合に限られるのであり,例えば,種苗についての
利用のみを行っている育成者権者は,収穫物について利用を行っている侵害
者に対して同項に基づく損害賠償を求めることはできない。原告はしいたけ
菌床の製造販売を業としており,しいたけの栽培及びその収穫物の販売を業15
とする被告河鶴及び河鶴農研とは競争関係にはないから,同項は適用されな
い。
(3)原告の損害額について
ア逸失利益
(ア)算定方法120
a算定方法の誤り
被告河鶴は,収穫物であるしいたけを購入し,小売店に販売してい
たのであり,菌床の製造,販売は行っていない。被告河鶴に対して,
法34条1項に基づき,自らが譲渡したものではない菌床の譲渡数量
に単位数量当たりの利益を乗じた金額の損害賠償を求めることはでき25
ない。
b譲渡数量
仮に,原告の主張するような算定方法が認められるとしても,原
告が主張する河鶴農研の栽培面積(合計5156坪)については否認
する。
河鶴農研は三重県内及び長野県内でしいたけを栽培していたが,三5
重県内での栽培が開始されたのは平成25年10月頃である。また,
長野県内のしいたけ栽培施設には施設A(原告主張で約3000坪),
B(原告主張で約532坪),C(原告主張で約155坪)及びD
(原告主張で約900坪)があるところ,①平成23年8月から平成
24年2月までは施設Bのみで栽培,②同年3月から平成26年3月10
までは施設B及びDのみで栽培,③同年6月以降は施設Aのみで栽培
していた。
c原告の単位数量当たりの利益額
原告は,原告における菌床1個当たりの末端販売価格を160円と
し,ここから卸価格114円を控除して,菌床1個当たりの譲渡利益15
を46円と主張している。しかし,菌床への取引業者への販売価格は
「末端販売価格」の160円ではなく,商取引の慣行上,これよりも
低額で販売されているはずである。仮に販売価格を135.5円とす
ると,ここから114円を差し引いた利益額は,21.5円となる。
したがって,原告の単位数量当たりの利益額は,21.5円とすべ20
きである。
(イ)算定方法2
a算定方法の誤り
上記(ア)aと同様。
b譲渡数量25
平成23年8月末請求分から平成26年7月請求分までの3年間に
河鶴農研がS.S.ITから購入した菌床数は360万個であり,そ
のうち295万5000個が「L-808」の菌床であり,そこから
不具合が発生したと推定される34万6088個を減ずると,譲渡菌
床数は260万8912個となる。河鶴農研の購入した菌床は1菌床
当たり1.5kgであり,原告の販売する菌床は1.3kgであるところ,5
原告の菌床の発生率は一般的な国産しいたけと同等以上であるので,
原告の菌床に換算することは不要である。
c原告の単位数量当たりの利益額
原告の菌床1個当たりの利益額については,上記(ア)c同様である。
(ウ)算定方法310
a算定方法
原告は「侵害品の納品額」に「粗利率」を乗じて損害額を算出して
いるが,法34条1項は,侵害者が譲渡した種苗,収穫物又は加工品
の数量に,育成者権者又は専用利用権者(以下「育成者権者等」とい
う。)がその侵害の行為がなければ販売することができた種苗,収穫15
物又は加工品の「単位数量当たりの利益の額」を乗じて得た額を損害
額とすることができる旨定めているのであって,原告の上記算定方法
は法34条1項の明文に基づかないものである。
b損害及び因果関係の有無
原告が法34条1項ではなく民法709条に基づいて損害額を主張20
立証しているとの理解に立つとしても,原告のしいたけの単位数量当
たりの納品額は被告河鶴のしいたけの1.2倍から1.7倍と高額で,
市場競争力が弱く,これを反映して原告の年間の売上高は被告河鶴の
5分の1以下である。また,原告が大阪,名古屋を販売地域としてい
るのに対し,被告河鶴は長野,三重を中心として販売しているので,25
市場における代替性もない。そのため,仮に被告河鶴に侵害行為があ
ったとしても,原告が被告河鶴の侵害品の納品額の粗利分を得ること
はできなかったものであり,原告に損害がないことはもちろん,侵害
行為と損害との間の因果関係も認められない。
仮に,原告に何らかの損害が生じ,その損害と侵害行為との間に因
果関係が存在したとしても,原告の供給能力に照らすと,原告主張の5
損害額は過大である。
(エ)算定方法4
a譲渡数量について
被告河鶴の平成24年から平成26年までのしいたけの販売量は1
82万2805.7kgであるが,これには,①「L-808」以外の10
菌床から栽培されたもの(「香菇SD-1」等)や,②河鶴農研以外
の業者から収穫物として仕入れていたものも含まれており,法34条
1項の「収穫物の譲渡数量」を確定するためには,その数量を控除す
る必要がある。
そして,S.S.ITの代表取締役の陳述書(乙59)のとおり,15
「L-808」には死滅したものや発生不良のものが多く含まれてお
り,河鶴農研のしいたけ生産量に占める「L-808」の割合は約6
0%にすぎなかった。仮に約60%との割合が認められなかったとし
ても,輸入許可通知書(乙56)及び請求書(乙57)によれば,輸
入菌床に占める「L-808」の菌床の割合は,多くとも82%であ20
った。
b原告の単位数量当たりの利益額について
原告の主張する単位数量当たりの利益額(1kg当たり152円)は
「生シイタケ販売明細」(甲57,62)に基づくものであるところ,
これには本件品種(「5K-16」)以外の品種のしいたけも多く含25
まれている。法34条1項による損害額の推定を受けるためには,侵
害品に対応する権利者の収穫物であって,侵害品によってその売上高
に影響を受けるもの,すなわち,何らかの意味で侵害品と競合関係に
立つ育成者権の収穫物が,単位数量当たりの利益額算出の基礎とされ
なければならない。
被告河鶴の販売するしいたけは一般消費者向けであり,スーパーマ5
ーケットでそのまま消費者に販売できるように個別包装済みの商品に
していた。これに対し,原告のしいたけは,業務用であり,個別包装
のコストが掛けられていないのであって,その設備費・人件費を控除
すれば,原告の主張する1kg当たり152円の利益額を維持すること
ができない。10
c育成者権者等の利用能力
原告の1年間のしいたけの売上額は6636万円余りであり,被告
河鶴の平成25年度の売上額(3億5223万7680円)の5分の
1以下であった。そもそも,菌床しいたけの栽培にはビニールハウス
を始めとする適切な栽培設備が必要であって,原告は大規模な設備投15
資や栽培・販売網の強化を図らなければ被告河鶴の譲渡数量を供給す
ることはできなかった。
したがって,種苗法34条1項の算定における収穫物の譲渡数量は,
被告河鶴の譲渡数量の5分の1にとどめるべきである。
d「販売することができないとする事情」(法34条1項ただし書)20
原告と被告河鶴のしいたけは,品質,販売先,用途,価格において
全く異なるため,市場において競合関係に立たない。すなわち,原告
の販売しているしいたけはほとんど全てが業務用であるのに対し,被
告河鶴の販売したしいたけは一般消費者向けであり,原告のしいたけ
は単価が高いことから,大手スーパーマーケットを中心とする被告河25
鶴の販売先が原告のしいたけを購入するとは考えられない。
また,原告のしいたけ販売の全国シェアは0.1%にすぎないから,
被告河鶴のしいたけが販売されなければ生じたであろう原告のしいた
けの需要は,被告河鶴の販売数量の0.1%にすぎない。
さらに,原告は種菌業界では首位であるが,小売量販店に対する営
業力や市場開拓力は有しておらず,小売量販店は原告の名前すら認知5
していなかったと考えられる。
したがって,本件においては,法34条1項の逸失利益の推定を覆
滅すべき事情が存在する。
イ調査費用
否認又は争う。10
ウ弁護士費用
争う。
8争点(8)(差止め及び廃棄の要否)について
〔原告の主張〕
被告らは原告の本件品種に関する育成者権を現在に至るまで侵害し続けてき15
たものであり,今後も同様の侵害を続けるおそれがあるため,これを差し止め
る必要がある。
また,今後,被告らが原告の本件品種に関する育成者権を侵害することを
予防するためには,被告らが現に所持している被告シイタケの種苗,収穫物
及び加工品を廃棄させる必要がある。20
〔被告らの主張〕
争う。
9争点(9)(謝罪広告の要否)について
〔原告の主張〕
被告らが原告の許諾を得ることなく被告各しいたけを本件品種よりも廉価で25
販売したことなどにより,本件品種の価格相場や商品イメージが低下させられ,
その結果として原告の業務上の信用が害された。これを回復するためには,業
界紙である日本農業新聞(全国版・掲載料34万8300円)及び全国きのこ
新聞(全国版・掲載料4万3200円)に謝罪広告を掲載する必要がある。
〔被告らの主張〕
争う。5
第4当裁判所の判断
1争点(1)(被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野の行為)について
(1)河鶴農研がしいたけの菌床を輸入して,平成23年8月頃からしいたけの
菌床栽培を開始し,平成24年1月頃には栽培も軌道に乗り,収穫物である
しいたけを被告河鶴に販売していたこと,及び,被告河鶴はこれをスーパー10
マーケット等の小売業者に転売していたことについては,被告らも自認して
いる。
(2)他方,原告は,①被告河鶴によるしいたけの種苗の生産,調整,譲渡及び
輸出入並びにその収穫物の生産,貸付け及び輸出入,②河鶴農研によるしい
たけの種苗の生産,調整,譲渡及び輸出入並びにその収穫物の貸付け及び輸15
出入も主張しているが,上記(1)で自認する範囲を超えて,被告河鶴及び河
鶴農研がこれらの行為に及んだことを認めるに足りる証拠はない。
(3)また,原告は,アグリンク長野もしいたけの生産,販売に関わっていたと
して,同社によるしいたけの種苗の生産,調整,譲渡及び輸出入並びにその
収穫物の生産,譲渡,貸付け及び輸出入も主張しているが,この点について20
も認めるに足りる証拠はない。
すなわち,原告は,アグリンク長野の商業登記簿の目的欄に「きのこ類の
生産,加工および販売業」と記載のあること(甲50)や,河鶴農研のしい
たけ栽培施設の看板に被告河鶴及び河鶴農研と並んで「株式会社アグリンク
長野」との記載のあること(甲13,48)を指摘するが,いずれも,アグ25
リンク長野が実際にしいたけの種苗ないし収穫物の生産,譲渡等を行ってい
たことを直接裏付けるものではない。
かえって,アグリンク長野の求人情報(丙1,2)には,「仕事内容」と
して「畑,ビニールハウスにて,高原野菜(レタス,ブロッコリー,白菜)
の生産を行なっていただきます。」と記載されており,原告の提出する雑誌
(甲3)にも,アグリンク長野の代表者である甲の発言として,「アグリン5
ク長野を設立し,・・・アグリンク長野が冬期間,雪で生産が難しくなる場
合,一種のリレー生産という形で,鹿児島や和歌山などのアグリンクが生産
を担い,切れ目なく新鮮野菜を生産し供給」,「野菜生産だけではなくタネ
の開発などにも積極的に取り組んでいます。」(いずれも26頁)との記載
があることにも照らせば,アグリンク長野は,被告らの主張するとおり,レ10
タス等の葉物野菜の生産を業としていたものであって,しいたけの生産を行
っていたとは認められない。
(4)以上によれば,原告の主張する各行為のうち,①河鶴農研が,しいたけの
菌床を輸入し,平成23年8月頃からはしいたけの菌床栽培を開始し,もっ
て,その種苗を用いることにより得られる収穫物(しいたけ)を生産すると15
ともに,これを被告河鶴に譲渡していた事実(法2条5項2号),②被告河
鶴が上記①の収穫物(しいたけ)をスーパーマーケット等の小売業者に譲渡
していた事実(同号)は認められるものの,その余の事実(アグリンク長野
におけるしいたけの生産,販売等を含む。)については,これを認めること
ができない(なお,アグリンク長野の共同不法行為の成否については後記620
で検討する。)。
2争点(2)(本件品種と被告各しいたけの対比)について
証拠(甲2,23)によれば,被告各しいたけは種苗管理センターが寄託物
として預かったことが認められる。そして,当審において,種苗管理センター
に寄託されている被告各しいたけの各菌株と,同じく同センターに寄託されて25
いる本件品種の菌株とを用いて鑑定を実施したところ,①菌株から菌床栽培し
て発生したしいたけの現物(培養期間:平成28年10月~平成29年3月,
発生期間:平成29年3月~同年7月)を比較すると,形態的特性(菌傘,子
実層たく,菌柄等)及び栽培的特性(子実体発生,培地適応性,乾物率,収量
性等)の全ての項目において被告各しいたけと本件品種の数値は類似していた,
②対峙培養の結果,帯線はみられず,同一菌株と考えられる,③生育試験の結5
果,菌株の生育特性が類似しており,同一菌株と考えられる,との結果が得ら
れた。
以上によれば,被告各しいたけは本件品種と特性により明確に区別されない
品種であるものというべきである。
3争点(3)(育成者権の及ぶ範囲)について10
(1)上記2において判断したとおり,被告各しいたけは本件品種と特性により
明確に区別されない品種であるから,被告各しいたけは本件品種の育成者権
の範囲に属するものというべきである(法20条1項本文)。
(2)この点に関し,被告河鶴は,しいたけは原木栽培と菌床栽培とで特性上の
差異が大きいところ,本件品種の品種登録簿には原木栽培の特性表しか添付15
されておらず,菌床栽培の特性表は添付されていないから,本件品種に係る
育成者権は菌床栽培された被告各しいたけに及ばない旨主張する。
しかし,種苗法の品種登録制度はその保護の対象を「栽培方法」ではなく
「品種」としているところ,その「品種」とは,特性の全部又は一部によっ
て他の植物体の集合と区別することができ,かつ,その特性の全部を保持し20
つつ繁殖させることができる一の植物体の集合をいい(法2条2項),現実
に存在する植物体の集合そのものを種苗法による保護の対象としている。そ
れゆえ,品種登録の際に品種登録簿に記載される品種の特性(法18条2項
4号)は,品種登録簿上,登録品種を同定識別するためのものであり,上記
特性の記載によって権利の範囲を定めるものではないものと解される(知財25
高判平成18年12月25日・判時1993号117頁参照)。
したがって,本件品種の品種登録簿には複数の栽培方法のうち一つ(原木
栽培)の特性表しか添付されていなかったとしても,被告各しいたけが本件
品種と特性により明確に区別されない品種と認められる以上,本件品種に係
る育成者権は,その栽培方法にかかわらず被告各しいたけに及ぶというべき
であって,被告河鶴の上記主張は採用することができない。5
4争点(4)(品質の安定性欠如による権利濫用の有無)について
被告河鶴は,原告の主張は,本件品種が法3条1項3号に定める品種登録の
要件(品質の安定性)を欠くことを自認するものであるから,本件品種には法
49条1項2号に定める後発的取消事由が存在し,原告による育成者権の行使
は権利の濫用に当たるなどと主張する。10
しかし,被告河鶴の引用する原告の主張(平成27年9月30日付け原告準
備書面(3)5頁以下)は被告らの鑑定申立てに対する意見の部分であり,そ
の内容は,概要,種苗管理センターで保存中の株菌は活動を続けており,細胞
分裂を繰り返すことによって増殖しているのであって,DNAの変異により,
出願時に寄託した本件品種の菌株とは異なる特性を有している可能性が高いと15
いうものにすぎない。すなわち,原告の上記主張は,植物一般に見られる不可
避的なDNAの変異の可能性を指摘するものにすぎず,本件品種が法3条1項
3号所定の安定性を欠くことを自認したものとまではいえない。
なお,被告河鶴は,しいたけ栽培家のブログ(乙25)でも本件品種の形状
異常が報告されていると主張するが,栽培環境等の事情が不明であって,上記20
ブログの存在をもって,直ちに本件品種が法3条1項3号所定の安定性を欠く
ものと断じることはできない。
そして,他に本件品種が上記安定性を欠くことを裏付ける証拠は見当たらな
いから,被告河鶴の上記主張は理由がない。
5争点(5)(過失の有無)について25
(1)法35条(過失の推定)の適用の有無
本件における被告河鶴の行為に対する法35条(過失の推定)の適用の有
無に関し,被告河鶴は,①現在の品種登録の取扱い上,菌床栽培のしいたけ
の特性が公示されていないこと,②しいたけの品種の異同について調査・確
認を行うのは著しく困難であることなどを理由として,同条は適用の前提を
欠くので,過失は推定されないと主張する。5
しかし,法35条は,「他人の育成者権又は専用利用権を侵害した者は,
その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定するのみで
あって,公示の範囲や侵害の調査・確認の難易度によりその適用範囲を制限
又は限定する旨の例外規定は,特段設けられていない。
また,被告河鶴は,仮にカスケイド原則の例外を認めて,収穫物の販売を10
行っていた被告河鶴に対する損害賠償を認めるのであれば,過失の推定規定
は不適用又は抑制的に適用すべきであると主張するが,同主張も条文上の根
拠を欠くものであって採用し得ない。
したがって,本件において法35条自体が適用されないとする上記主張は,
採用することができず,被告河鶴の主張する事情は,過失の覆滅事情として15
考慮すべきである。
(2)過失の推定覆滅事由の有無
被告河鶴は,①本件品種の品種登録簿には菌床栽培の特性表が添付されて
おらず,しいたけは菌床栽培と原木栽培でその特性が大きく異なることから,
公示された原木栽培の特性から本件品種との同一性を確認することができな20
いこと,②しいたけの菌床栽培による比較栽培試験を実施できる機関は極め
て限られており,品種の異同の調査・確認を行うのは非常に困難であったこ
と,③河鶴農研は,S.S.ITから当該菌床は「L-808」等であると
の説明を受けており,請求書等の表示からも品種名は知り得なかったこと,
④本件通知後にDNA分析を行うなどして可能な調査・確認は尽くしたこと25
などを理由に,本件では過失の推定を覆滅すべき事情が存在すると主張する。
そこで,以下,本件通知の前後に分けて,過失の覆滅事由の有無について
検討する。
ア本件通知より前の段階について
(ア)原告は,本件通知より前の段階においても,被告河鶴又は河鶴農研が
本件品種と被告各しいたけとの異同を調査・確認することは十分可能5
であり,そのような調査・確認をすべきであったと主張する。
この点,確かに,河鶴農研は業としてしいたけを生産,販売してい
たものであり,被告河鶴も業としてこれを販売していたのであるから,
購入したしいたけの種菌等が品種登録を受けている品種と特性により
明確に区別されない品種であるか否かを慎重に調査・確認すべき注意10
義務を負うというべきである。
他方,被告らも指摘するとおり,種苗法に基づく品種登録の運用上,
しいたけについては,出願品種の用途に菌床栽培が含まれる場合であ
っても,原木栽培に係る品種の特性のみを品種登録原簿に掲載すると
の取扱いがされていること(前記第2,2(3)ウ),原木栽培と菌床栽15
培とでは発生するしいたけの特性が大きく異なることの各事実が認め
られる。
そうすると,本件において被告河鶴らが育成者権の侵害の有無を調
査・確認するには,被告河鶴及び河鶴農研が取引先からの説明及び請
求書の表示等から本件品種に係る菌床であると認識することができず,20
かつ,しいたけの品種登録制度に関する現在の取扱いの下では本件品
種に関して公示されている特性表(原木栽培のみ)との対比によって
も被告各しいたけ(菌床栽培)と本件品種の異同を判別することがで
きない以上,まず,その取り扱うしいたけについて原木栽培を行った
上で,登録されている全ての品種の特性表との対比を行い,その上で,25
育成者権を侵害するおそれがある品種については必要に応じてDNA
解析等による調査・確認を行うことが必要となるが,被告河鶴らのよ
うな通常の取引業者にそこまでの注意義務を課すことは相当ではない
というべきである。
(イ)これに対し,原告は,被告各しいたけの外見から本件品種との類似性
を判断することは可能であり,現に原告は店頭に並ぶ被告各しいたけ5
から本件品種に係る育成者権の侵害の可能性を認識し得たと主張する。
しかし,菌床栽培に係るしいたけの特性は公示されていない以上,
育成者権者として菌床栽培した場合の本件品種の特性を把握している
原告と異なり,通常の取引業者は,自らの取り扱う菌床栽培に係るし
いたけと本件品種との異同を外見から判別することは困難であったと10
いうべきである。
また,原告は,被告らの主張によればしいたけの菌床栽培により他
人の育成者権を侵害した者は常に過失が推定されないこととなるが,
そのような解釈は採り得ないと主張する。
しかし,過失推定の覆滅事由の有無は,菌床の販売業者からの説明15
内容及びその合理性,請求書等の表示,育成権者からの指摘の有無な
ども含め,各事案における事実関係を踏まえて総合的に判断されるも
のであり,しいたけに係る品種の公示の在り方から常に過失がないと
判断されるものではない。
したがって,原告の上記各主張はいずれも理由がない。20
(ウ)以上のとおり,本件通知前の段階においては,①河鶴農研はS.S.
ITから購入する菌床が「L-808」との説明を受け,その説明に
疑念を差し挟むべき事情はうかがわれないこと,②S.S.IT等か
らの請求書にも品種の表示はなかったこと,③品種登録制度の運用上,
被告河鶴及び河鶴農研は品種登録簿に添付された特性表から品種の異25
同を判断することはできなかったことなどの事情が認められ,これら
は過失の覆滅事由に当たるというべきである。
イ本件通知後について
前記(第2,2(6))のとおり,本件通知書には,被告各しいたけは本
件品種に係る育成者権を侵害する可能性が高いと記載され,本件品種,
被告各しいたけの商品表示及び品種の異同に関して実施した試験方法ま5
で明記されているのであるから,本件通知後,被告河鶴は,被告各しい
たけが本件品種に係る育成者権の侵害に当たるかどうかについて,DN
A解析も含め適切な調査・確認をする義務を負うというべきである。
この点,被告河鶴は自主的にDNA解析を行ったと主張するが,被告
河鶴が行ったとするDNA解析は,解析に用いた資料が本件品種かどう10
かについても疑問である上,リボソームRNA配列の遺伝子領域にある
ITS1のDNA塩基配列を検査するものであり,しいたけという種の
レベルまでしか同定できないものであるから(甲26),調査・確認と
して不十分であったといわざるを得ない。
また,被告河鶴は,しいたけの菌床栽培による比較栽培試験を実施で15
きる機関は極めて限られており,品種の異同の調査・確認を行うのは非
常に困難であったと主張するが,本件品種のDNA配列は国立遺伝学研
究所において公開されている上(甲10),品種の異同の調査・確認手
段としては,対峙培養試験,DNA解析など複数の方法があるのである
から,被告河鶴又は河鶴農研が本件品種との異同を調査・確認すること20
は十分可能であったと考えられる。
したがって,本件通知後の被告河鶴の行為については,過失の推定を
覆滅すべき事由はなく,同被告には過失があると認めるのが相当である。
ウ以上によれば,本件通知がされた平成24年5月より後の被告河鶴の行
為に限り,同被告に過失を認めることができる。25
6争点(6)(アグリンク長野の共同不法行為の成否)について
原告は,被告各しいたけの販売行為につき,アグリンク長野には被告河鶴及
び河鶴農研との共同不法行為が成立すると主張し,その根拠として,①アグリ
ンク長野は被告河鶴の農産事業部の下に設立された子会社の一つであり,被告
河鶴は各子会社で栽培,生産された農作物を仕入れていた,②商業登記簿の
「目的」欄や被告河鶴のしいたけ栽培施設の看板からも明らかなとおり,アグ5
リンク長野は実際にしいたけを栽培していた,③アグリンク長野と被告河鶴及
び河鶴農研の幹部役員は重複しており,特に,アグリンク長野と被告河鶴の代
表取締役は同一人物であった,④本件においても,アグリンク長野は本訴提起
前から被告河鶴と同一の弁護士に依頼していたなどの事情を挙げる。
しかし,上記③の事実は認められるものの,上記①及び②については,前記10
1のとおり,アグリンク長野はレタス等の葉物野菜の生産を業としていたもの
であって,しいたけの生産を行っていたとは認められない。上記④については,
本訴提起前の原告の交渉相手は被告河鶴のみであって(甲25,26),アグ
リンク長野は交渉相手には含まれておらず,同社が被告河鶴と同一の弁護士に
依頼していたことをうかがわせる事実は証拠上見当たらない。15
そうすると,被告各しいたけの販売に関し,上記③の事情のみからアグリン
ク長野と被告河鶴及び河鶴農研との間に共同不法行為が成立すると認めること
はできないというべきであり,他に,共同不法行為の成立を裏付ける事情も見
当たらないのであるから,原告の上記主張は理由がない。
7争点(7)(損害発生の有無及び損害額)について20
(1)法2条5項2号に基づく収穫物に対する権利行使の可否について
ア種苗法は,育成権者は品種登録を受けている品種及び当該登録品種と特
性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を専有する
(法第20条1項)と規定した上で,「その種苗を用いることにより得
られる収穫物」(同項2号)や「その品種の加工品」(同項3号)につ25
いては,育成者権が種苗の生産者等の行為について「権利を行使する適
当な機会がなかった場合」に限りその育成者権を及ぼすことができると
定めている。
同各号にいう「権利を行使する適当な機会がなかった場合」とは,例
えば,①育成者が第三者による種苗の無断増殖,販売を知らず,収穫物
が流通した段階で初めて当該種苗が無断で増殖され,その収穫物が販売5
されていることを認識した場合,②登録品種の種苗が海外で無断増殖さ
れたことから,育成者権がその事実を認識し,権利行使をすることが法
的又は事実上困難である場合などを含むと解すべきである。
これを本件についてみるに,本件品種に係るしいたけは,海外で無断
増殖されて日本に輸入され,原告が被告河鶴らによる種苗の無断増殖,10
販売を知らずに収穫物が流通した段階で被告各しいたけの無断販売を発
見したのであるから,上記の「権利を行使する適当な機会がなかった場
合」に該当する。
イこれに対し,被告らは,育成者権侵害の疑われる販売元等の会社名及び
住所を原告に回答したことにより,遅くとも平成24年7月31日には15
原告の「権利を行使する適当な機会」が到来したと主張する。
しかし,本件回答書(乙62の1)には,中国の菌床生産業者及び種
菌の購入先の名称及び住所が記載されているにすぎず,当該菌床生産者
が侵害行為をしたことを裏付ける客観的な資料や説明はなく,かえって,
S.S.ITは,河鶴農研に販売した菌床が本件品種であると認めたこ20
とはなく,当該菌床は「L-808」であると説明していたのであるか
ら,上記回答後も原告が客観的資料に基づいて侵害者を覚知することは
困難であったというほかない。
加えて,中国は当時「植物の新品種の保護に関する国際条約」(UP
OV条約)に加盟していたものの,しいたけについては平成28年5月25
15日まで保護対象植物とはされていなかったため,原告が本件の侵害
対象期間当時,中国国内で本件品種の育成者権を主張することはできな
かった(当事者間に争いがない。)。
そうすると,上記回答後も原告が侵害者を覚知することができない以
上,当該侵害者に対して許諾契約の締結,日本の税関に対する侵害疑義
物品の輸入差止めの申立てなどにより権利行使を行う適切な機会を得る5
ことができたということはできない。
したがって,原告は,本件品種の収穫物に対して育成者権を行使する
ことができる。
ウ被告河鶴は,上記各事情に照らせば,平成24年6月4日以降の損害の
拡大については過失相殺が認められるとも主張するが(原告は,当該主10
張が時機に後れた攻撃防御方法の提出に該当する旨主張するものの,内
容及び本訴の進行段階に照らすと,時機に後れたとまではいうことがで
きない。),上記説示に照らせば,過失相殺の主張は採用することがで
きない。
(2)逸失利益(法34条1項)15
ア逸失利益の算定方法
(ア)算定方法1及び2について
原告は,被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野における「菌床」の
譲渡個数を490万9409個とし(算定方法1),又は,河鶴農研に
おける「菌床」の譲渡個数(原告における菌床に換算したもの)を6120
6万8461個とした上(算定方法2),これに原告における「菌床」
1個当たりの譲渡利益46円を乗じて,法34条1項の逸失利益の額を
算出している。
しかし,上記1において認定したとおり,①河鶴農研においてはしい
たけの菌床を輸入し,これを基にしいたけの菌床栽培を開始して,収穫25
物であるしいたけを被告河鶴に販売していたにすぎず,②被告河鶴にお
いては上記①の収穫物であるしいたけを小売業者に転売していたにすぎ
ず,③アグリンク長野においてはそもそもしいたけの生産,譲渡等を行
っていたとは認めるに足りない。
そうすると,被告河鶴,河鶴農研及びアグリンク長野において,しい
たけの「菌床」を譲渡していた事実は認められないのであるから,原告5
の算定方法1及び算定方法2については,その前提を欠き,採用するこ
とができない。
(イ)算定方法3について
原告は,被告河鶴の平成24年から平成26年までのしいたけ(収穫
物)の納品額合計12億6521万6042円に,原告での「粗利率」10
である18.8%を乗じて,法34条1項の逸失利益の額を算出してい
る(算定方法3)。
しかし,法34条1項は,侵害者が譲渡した種苗,収穫物又は加工品
の数量に,育成者権者等の「粗利率」ではなく,育成者権者等がその侵
害の行為がなければ販売することができた種苗,収穫物又は加工品の15
「単位数量当たりの利益の額」を乗じて得た額を損害額としているので
あって,原告の上記算定方法は法34条1項の文言に沿うものではない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の算定方
法1は採用することができない。
(ウ)算定方法4について20
原告は,被告河鶴のしいたけ(収穫物)の販売量に,原告でしいたけ
(収穫物)を販売する場合の単位数量(1kg)当たりの利益額を乗じて,
法34条1項の逸失利益の額を算出している(算定方法4)。この算定
方法4自体は同項の文言に沿ったものであり,本件では,以下,この算
定方法4に従って逸失利益の額を検討する。25
なお,被告河鶴は,概要,①法34条1項が適用されるのは育成者権
者による利用と侵害者による利用との間に競争関係がある場合に限られ
るのであり,例えば,種苗についての利用のみを行っている育成者権者
は,収穫物について利用を行っている侵害者に対しては,同項に基づく
損害賠償を求めることができない,②本件では,育成者権者である原告
はしいたけの菌床(種苗)の製造販売のみを業としており,しいたけの5
栽培及びその収穫物の販売を業とする被告河鶴及び河鶴農研とは競争関
係にはないから,同項は適用されないなどと主張する。
しかし,証拠(甲57~59)によれば,原告は菌床(種苗)の製造
販売だけでなく,収穫物としてのしいたけを販売していたものと認めら
れるから,被告河鶴の上記主張はその前提を欠き,採用することができ10
ない。
イ被告河鶴のしいたけの譲渡数量
(ア)被告河鶴が平成24年から平成26年までの3年間に販売したしいた
け(収穫物)の数量は,182万2805.7kgである(当事者間に争
いがない。)。15
しかし,上記販売数量の全てが,被告各しいたけと同様に,本件品種
と特性により明確に区別されない品種であって,原告の育成者権が及ぶ
しいたけ(以下,単に「侵害品」という。)の数量であるということは
できない。すなわち,被告河鶴は,侵害品のしいたけは河鶴農研におい
て「L-808」との名称で輸入した菌床から収穫したものであり,河20
鶴農研では他にも「香菇SD-1(七河一号)」等の名称の菌床を輸入
してしいたけを収穫していたと主張するところ,確かに,各種の取引書
類(乙41~47,50)によれば,河鶴農研においては「L-808」
以外にも複数の種類の菌床を輸入していたことが認められる。
そこで,上記譲渡数量のうち侵害品の占める部分を検討するに,輸入25
許可通知書(乙56)及び請求書(乙57)によれば,河鶴農研が輸入
した菌床のうち「L-808」との名称のものは,総輸入量360万個
のうち295万5000個であり,割合にして約82%であったと認め
られる(乙58,59参照)。
したがって,被告河鶴が平成24年から平成26年までの3年間に販
売したしいたけ(収穫物)のうち侵害品の数量は,149万4700.5
674kgであったと算出するのが相当である。
(計算式)
182万2805.7kg×82%=149万4700.674kg
(イ)なお,この点に関して被告河鶴は,①被告河鶴の販売したしいたけの
中には,河鶴農研以外の業者から収穫物として仕入れたしいたけも含ま10
れていた,②侵害品である「L-808」は死滅や発生不良のものが多
く含まれていたため,しいたけの総販売数量のうち「L-808」の占
める割合は82%よりも更に少なく約60%にとどまる,などとも主張
する。
しかし,上記①及び②についてはいずれも裏付けとなる客観的資料が15
見当たらず,控除すべき数量はもちろん,その事実関係自体も認定する
ことが困難であって,採用することができない。
ウ原告の単位数量当たりの利益額
(ア)証拠(甲57~59,61~63)によると,原告における平成25
年10月から平成26年9月までの1年間のしいたけの販売数量は8万20
1979.64kgであり,同期間の利益額は1250万8596円であ
るから,しいたけ1kg当たりの利益額は152円となる。
(計算式)
1250万8596円÷8万1979.64kg≒152円(小数点以
下切捨て)25
(イ)この点に関して被告河鶴は,上記(ア)におけるしいたけの販売数量に
は本件品種以外の品種も多く含まれているから,上記利益額の計算は不
適切であると主張する。
しかし,法34条1項は,民法709条に基づき販売数量減少による
逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定
であり,侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換5
を図ることにより,より柔軟な販売減少数量の認定を目的とするもので
あって,その文言及び目的に照らせば,育成者権者等が「侵害の行為が
なければ販売することができた種苗,収穫物又は加工品」とは,侵害行
為によってその販売数量に影響を受ける育成者権者等の種苗,収穫物又
は加工品,すなわち,侵害品と市場において競合関係に立つ育成者権者10
の種苗,収穫物又は加工品であれば足りると解すべきである。
本件においてこれをみるに,しいたけの収穫物は,一般に,販売に際
して「JMS5K-16」といった登録品種名が大きく明記されるこ
とはなく,単に「生椎茸」などと表記されているにすぎないことからす
れば(甲2参照),原告の販売するしいたけの収穫物は,しいたけであ15
る以上,被告河鶴の侵害品であるしいたけの収穫物と市場において競合
関係に立つものというべきである。
したがって,上記(ア)におけるしいたけの販売数量に本件品種以外の
品種が含まれているか否かを判断するまでもなく,被告河鶴の上記主張
は採用することができない。20
(ウ)また,被告河鶴は,原告は個別包装をせずにしいたけを販売していた
のに対し,被告河鶴は個別包装をしてしいたけを販売していたのである
から,1kg当たり152円の利益額から更に個別包装に係る設備費・人
件費を控除すべき旨主張する。
しかし,法34条1項は,譲渡数量に「育成者権者等」の種苗,収穫25
物又は加工品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を損害額と推定する
規定であり,「侵害者」の単位数量当たりの利益額を乗じた額を損害額
と推定する規定ではない。被告河鶴の上記主張は,法34条1項の規定
に沿うものではなく,採用することができない。
エ育成者権者等の利用能力
(ア)法34条1項は,譲渡数量に育成者権者等の種苗,収穫物又は加工品5
の単位数量当たりの利益額を乗じた額を,育成者権者等の利用能力の限
度で損害額と推定するものであり,同項本文にいう育成者権者等の「利
用の能力」とは,侵害行為の行われた期間に現実に存在していなくても,
侵害行為の行われた期間又はこれに近接する時期において,侵害行為が
なければ生じたであろう種苗,収穫物又は加工品の追加需要に対応して10
供給し得る潜在的能力が認められれば足りると解すべきである。
本件においてこれをみるに,原告は収穫物としてのしいたけの生産,
販売のほか,その種菌,菌床の製造販売も業とする会社であること(前
記第2,2(1)ア参照)に加え,そもそも本件の侵害品は単なるしいた
け(収穫物)であって,原告自らが生産する場合に限られず,他社への15
下請や委託生産等により供給することも十分可能であり,現に,原告は
他のしいたけ生産者(甲64の12頁に記載されている「有限会社フォ
ーレ白老」等)から収穫物であるしいたけを仕入れて販売していたこと
からすれば,本件の侵害行為の当時,原告には,上記イ(ア)で認定した
譲渡数量につき,侵害行為がなければ生じたであろう収穫物の追加需要20
に対応して供給し得る潜在的能力があったものと認められる。
(イ)この点に関して被告河鶴は,原告の1年間(平成25年10月~平成
26年9月)のしいたけの売上額は6636万円余りであり,被告河鶴
の平成25年度の売上額(3億5223万7680円)の5分の1以下
であるから,法34条1項の算定における収穫物の譲渡数量も被告河鶴25
の譲渡数量の5分の1にとどめるべきであると主張する。
しかし,上記(ア)で説示したとおり,育成者権者等の利用能力は,侵
害行為の行われた期間に現実に存在していなくても,追加需要に対応し
て供給し得る潜在的能力が認められれば足りると解すべきところである
から,被告河鶴の上記主張は採用することができない。
オ「販売することができないとする事情」(法34条1項ただし書)の有5

(ア)法34条1項ただし書の規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する
数量を育成者権者等が「販売することができないとする事情」について
は,侵害者が立証責任を負い,かかる事情の存在が立証されたときに,
当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものであるが,「販売す10
ることができないとする事情」は,侵害行為と育成者権者等の種苗,収
穫物又は加工品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情を対象とし,
例えば,市場における競合品の存在,侵害者の営業努力,侵害品の品質,
市場の非同一性などの事情がこれに該当するというべきである。
(イ)被告河鶴は,法34条1項の推定を覆滅する事情として,①原告の15
販売しているしいたけはほとんど全てが業務用であるのに対し,被告河
鶴の販売したしいたけは一般消費者向けであって,原告と被告河鶴のし
いたけは,品質,販売先,用途,価格において全く異なるため,市場に
おいて競合関係に立たない,②原告のしいたけ販売の全国シェアは0.
1%にすぎないから,被告河鶴のしいたけが販売されなければ生じたで20
あろう原告のしいたけの需要は被告河鶴の販売数量の0.1%にすぎな
い,③原告は種菌業界では首位であるが,小売量販店に対する営業力や
市場開拓力は有していないと主張する。
そこで,検討するに,販売先については,被告河鶴の販売先はスーパーマーケット
等の小売店が中心であるのに対し,原告のしいたけの販売先には「ヤオ25
コーc店」,「スーパーバリューd店」,「スーパーバリューe店」な
どのスーパーマーケット等も複数含まれているものの,その多くは工場
や卸売事業者向けの業務用であることがうかがわれる(甲57,
62)。
そして,販売価格については,原告のしいたけの1kg当たりの単価は,
被告河鶴のしいたけよりも高額であり(甲58),小売店向けのしいた5
けとしては値段が高い上,本件品種のしいたけがその品質において他の
品質のしいたけに比べて特に高いとの評価を受け,需要者,取引者にそ
の旨認知されていたと認めるに足りる証拠はない。
さらに,林野庁の「特定林産物生産統計調査/平成24年特用林産基
礎資料」(乙95)によると,原告の販売量(約82t。甲63)は,10
全国の生しいたけ集荷販売実績(約6万5600t。ただし,平成24
年度)の約0.1%を超える程度であると認められる。
以上の事情を考慮すると,原告が,きのこ種菌業界のトップ企業であ
り,菌床事業から食品事業に至るまで幅広く事業展開をし,前記のとお
り,追加需要に対する潜在的な供給能力を備えていたと認められること15
を考慮しても,侵害品の全てを販売することができたということは困難
である。そして,上記事情に加え本件に顕れた全ての事情を総合すると,
侵害品の譲渡数量の70%に相当する数量については,原告が販売する
ことができない事情があったというべきである。
カ小括20
以上を前提に,平成24年から平成26年までの原告の逸失利益の額
を算定すると,以下のとおり6815万8350円となるところ,この
うち被告河鶴に過失が認められるのは,上記3年間のうち本件通知書が
到達した平成24年5月より後の部分(平成24年6月から平成26年
12月までの31か月分)に限られるから,被告河鶴が支払義務を負う25
損害賠償金は5869万1912円となる。
(計算式)
149万4700.674kg×152円×(1-0.7)≒6815万
8350円(小数点以下切捨て)
6815万8350円×31か月/36か月≒5869万1912円
(小数点以下切捨て)5
(3)調査費用
証拠(甲19~21)によれば,原告は,被告河鶴による育成者権侵害の
事実を調査するため,①侵害状況記録書等作成費用11万6260円,②品
種調査資料作成費用143万9778円,③DNA解析費用46万7882
円を支出したものと認められるのであって,これらの合計額202万39210
0円が,被告河鶴の侵害行為と相当因果関係のある損害ということができる。
(4)弁護士費用
本件の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額損害は,607万
円となるものと認めるのが相当である。
(5)損害額合計15
以上によれば,被告河鶴が本訴において原告に支払うべき損害額の合計は,
6678万5832円となる。
8争点(8)(差止め及び廃棄の要否)について
(1)差止めの要否について
上記1において認定したとおり,被告河鶴は河鶴農研から仕入れたしいた20
け(収穫物)を小売業者等に譲渡していたものであるから,被告河鶴につき,
本件品種と特性により明確に区別されない品種であって,原告の育成者権が
及ぶしいたけ(収穫物),すなわち,別紙被告種苗目録1ないし3の種苗を
用いて得られる収穫物の譲渡の申出,譲渡,貸渡しの申出,貸渡し又はこれ
らの行為をする目的による保管をするおそれがあるものとして,その行為の25
差止めの必要性がある。
また,上記1において認定したとおり,河鶴農研はしいたけの菌床を輸入
し,菌床栽培をし,その収穫物であるしいたけを生産した上,被告河鶴に譲
渡していたものであるところ,河鶴農研は被告河鶴の関連会社であり,実際
は河鶴農研がしいたけを小売業者に直接出荷し,後日精算していたものであ
ること(被告河鶴の説明による。)などに照らすと,被告河鶴においては,5
自己又は第三者を通じて別紙被告種苗目録1ないし3の種苗を輸入し,又は
これを用いて得られる収穫物の生産をするおそれがあるものといわざるを得
ず,その行為の差止めの必要性がある。
他方,原告の求めるその余の行為(①種苗の生産,調整,譲渡の申出,譲
渡,輸出,保管,②種苗を用いて得られる収穫物の輸出,輸入)については,10
そのおそれがないものというべきである。
(2)廃棄の要否について
上記(1)において説示したところに照らせば,被告河鶴に対しては,別紙
被告種苗目録1ないし3の種苗に係る収穫物及び加工品の廃棄を命ずる必要
性があるものというべきである(原告は種苗そのものの廃棄も請求している15
が,被告河鶴がこれまで種苗そのものを保有したことを認めるに足りる証拠
はなく,原告の上記請求はその前提を欠く。)。
9争点(9)(謝罪広告の要否)について
原告は本訴において信用回復措置として謝罪広告の掲載を求めているが,認
容された損害賠償の額及び前記認定事実に照らして,その必要性を認めるに至20
らないから,上記謝罪広告の掲載の請求は理由がない。
10結論
よって,原告の被告河鶴に対する請求は,法33条1項,2項に基づく差止
請求の一部及び廃棄請求については理由があるからこれらを認容し,不法行為
に基づく損害賠償請求については損害額合計6678万5832円及びこれに25
対する不法行為の後の日(本訴状送達の日の翌日)である平成26年11月2
6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
る限度で理由があるからこれを認容し,被告河鶴に対するその余の請求は理由
がないからいずれも棄却することとし,原告の被告破産管財人の請求について
は原告の破産者株式会社長野管財(大阪地方裁判所平成28年(フ)第5253
号)に対する破産債権が0円であることを確定することとし,主文のとおり判5
決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐藤達文
署名押印することができない。
裁判長裁判官
佐藤達文20

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