弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金参万円に処する。
     被告人が右罰金を納めることができないときは金弍百円を壱日に換算し
た期間被告人を労役場に留置する。
     原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 検察官の控訴趣意について
 本件起訴状における公訴事実は、被告人は昭和二十五年二月十二日大阪市a区百
貨店A一階ダンスホール附近において、イ、公に認められた場合でなく且法定の除
外事由がないのに米国軍軍票一弗紙幣五枚及び同軍用煙草「ラツキーストライク」
二十本入八個を携行、ロ、麻薬である塩酸ヂアセチルモルヒネ百五十ミリグラムを
携行し、以て夫夫これを不法に所持したものであるというのであり、又罰条は昭和
二十四年政令第三百八十九号第一条第二条第四条等であるところ、原審は、そのう
ち軍票と麻薬を所持した事実を認定し、これに対し被告人を罰金一万円に処し、煙
草所持の点については、犯罪の証明がないとして主文で無罪の言渡をしたこと、ま
ことに所論のとおりである。
 そこで、昭和二十四年政令第三百八十九号を見ると、第三条第一項で連合国占領
軍又は連合国占領車の要員の財産(日本国の通貨を除く)は、公に認められた場合
を除く外、収受し又は所持してはならないとし、第二項で右公に認められた場合の
意義を説明し、第四条で第二条第一項の規定に違反した者を処罰する旨を規定し<要
旨第一>ている。従つて右のような連合国占領軍財産を所持するときは、それが公に
認められた場合の立証がない限り処罰を免れない次第である。しかるに
訴訟記録を調べてみるに、原審第一回公判期日に於て、被告人は起訴状を朗読して
の裁判官の尋ねに対して事実その通り相違ない旨を答え、又弁護人の尋ねに対して
軍用たばこ八箱は進駐軍兵隊から一箱百円宛で買い求めた旨答えた旨の記載があ
り、又被告人及び弁護人が証拠とすることに同意している領置書(記録十五丁)に
は昭和二十五年二月十三日米軍犯罪捜査部において被告人からアメリカ巻タバコ八
箱を領置した旨の記載がある。そしてこれらのことから考えると、他に別段の事情
が認められない限り、被告人は公に認められた場合でなくて起訴状の公訴事実とし
て記載されているように米国軍用煙草八箱を所持していたものと認めるのが相当で
あつて、原審がこの点に犯罪の証明がないとしたのは事実誤認であつて、それが判
決に影響を及ぼすこともちろんである。しからば検察官の控訴趣旨(二)の点は理
由がある。
 次に刑事訴訟法第三百九十二条第二項によつて職権で原判決の認定事実に対する
法律の適用の当否を調べてみると、原判決は昭和二十四年政令第三百八十九条第四
条の罪と麻薬取締法第五十七条第一項の罪との併合罪<要旨第二>として刑法第四十
五条を適用しているのであるが、原判決認定のように同一日時場所で軍票と麻薬と
を所持していた場合はこれを一個の行為で二個の罪名に触れるものとし
て刑法第五十四条によつて処断するのを相当とし、原判決の右のような法律の適用
は誤りであつて、それが判決に影響を及ぼすこと明らかである。それで、原判決は
刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十二条第三百八十条によって破棄を免れないの
であるが、訴訟記録によつて直ちに裁判することができるものと認められるから、
控訴趣旨(一)の量刑不当の論旨についての説明をなさず同法第四百条但書によつ
て次のように判決をする。
 被告人は原判決が証拠で認定したところの外、同時に公に認められた場合でなく
て米国軍用煙草ラツキーストライク二十本入八箱を所持していたものである。この
ことは被告人の原審公判調書における供述記載、検察事務官に対する被告人の供述
調書の記載、検察事務官飜訳にかゝる米軍犯罪捜査部B作成の領置書の謄本(記録
十五丁)を綜合してその証明十分である。
 法律に照すと被告人の所為中軍票不法所持の点は昭和二十四年政令第三百八十九
号第一条に煙草不医所持の点は同第二条第一項に各違反同第四条罰金等臨時措置令
第四条第一項にあたり麻薬不法所持の点は麻薬取締法第四条第三号第五十七条第一
項罰金等臨時措置令第四条第一項にあたるところ以上は一所為で数罪名に触れる場
合であるから刑法第五十四条第十条により犯情重いと認める麻薬不法所持罪の刑に
従い所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金三万円に処し、そ
の不完納の場合に於ける労役場留置期間について同法第十八条訴訟費用の負担につ
いて刑事訴訟法第百八十一条第一項を適用して、主文のとおり判決をする。
 (裁判長判事 荻野益三郎 判事 佐藤重臣 判事 梶田幸治)

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