弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金壹千円に処する。
     右罰金を完納することができないときは金貳百円を壹日に換算した期間
被告人を労役場に留置する。
     但し裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。
     訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 検察官の論旨は大野区検察庁検察官事務取扱検事神野栄一提出の控訴趣意書に記
載するとおりであるから、これを引用する。
 本件公訴事実は被告人は法定の除外事由がないのに昭和二十六年九月二十日福井
県大野郡a町bの自宅においてAより質受した猟銃の実包五個、同空包四個を所持
していたものであるというのてあるが、右に対し原判決は質屋が質に取つた火薬類
を所持することは火薬類取締法第二十一条第五号にいわゆる「運送、貯蔵その他の
取扱を委託された者がその委託を受けた火薬類を所持するとき」に該当し、火薬類
所持禁止の除外事由に当るから罪にならない旨判示し被告人を無罪としたものであ
る。
 そこで考えるのに先づ火薬類取締法第一条は、この法律は火薬類の製造、販売、
貯蔵、運搬、消費その他の取扱を規制することにより火薬類による災害を防止し、
公共の安全を確保することを目的とする」と規定して同法の規制する行為は「火薬
類の取扱」であることを示すと共に「火薬類の取扱」とは何であるかについて製
造、販売、貯蔵、運搬、消費がこれに当ることを例示している。そして同法が第二
章以下の全章に亘り、右第一条が火薬類の取扱に当る行為として例示した「製造、
販売、貯蔵、運搬、消費」の各行為並に火薬類の輸出入及び廃棄の行為についてそ
れぞれの適法条件を整備規定しているのにその他の類型に属する行為について何<要
旨>ら別段の規定を設けていないことに照らして考えると火薬類取締法のいわゆる
「火薬類の取扱」とは火薬類の製造、販売、貯蔵、運搬、消費、輸出入並に
その廃棄の各行為を総称する概念であると解することができる。即ち同法が用いて
いる「火薬類の取扱」なる言葉が表現している行為は火薬類をしてその本来の爆発
燃焼の用途に従い社会の需要を満足せしめるに必要な製造から消費に至る各段階の
行為並にその不用物の破壊に関する行為などその用途又は使用価値の実現に関係し
て行われる行為に限定せられ、質屋営業者が債権担保の為め火薬類を質権の目的と
して受け入れる如き火薬類本来の用途に無関係の行為はこれに当らないことが理解
されるのである。
 従つて同法第二十一条が「火薬類は法令に基く場合又は左の各号の一に該当する
場合の外所持してはならない」として第一号乃至第九号列記の除外事由を掲げその
第五号として「運送、貯蔵その他の取扱を委託された者がその委託を受けた火薬類
を所持するとき」と規定する場合の「運送、貯蔵その他の取扱を委託された者」の
中には右の如き質屋営業者を含まないものであることは明白であると云わなければ
ならない。
 そこで右の趣旨を反対に解釈し被告人に無罪を言い渡した原判決は法律の解釈を
誤り判決に影響を及ぼす違法を冒したものであつて、破棄を免れない。論旨は理由
がある。
 それで刑事訴訟法第三百九十七条第四百条但書を適用して原判決を破棄し当裁判
所において被告事件について更に次の通り判決する。
 (事 実)
 被告人は法定の除外事由がないのに昭和二十六年九月二十日福井県大野郡a町b
の自宅営業所において猟銃の実包九個を所持していたものである。
 (証 拠)
 一、 被告人の原審公廷における供述
 一、 証第二号薬包の存在
 一、 司法警察員に対するAの供述調書
 一、 検察事務官に対するBの供述調書
 一、 C作成の鑑定書
 一、 右同人並にDの当公廷における供述
 (法律の適用)
 被告人の判示所為は火薬取締法第二条の三のロ、第三十一条、第五十九条第二号
に当るから所定刑中罰金刑を選択し所定罰金額の範囲内で主文の刑を量定し同罰金
不完納の場合には刑法第十八条により主文の割合による期間被告人を労役場に留置
すべきことを定める。但し諸般の犯情に徴し刑法第二十五条により本裁判確定の日
から三年間右刑の執行を猶予し訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項により被
告人に負担させる。
 なお被告人は仮に本件実包の所持が形式上火薬類取締法違反の構成要件に該当す
るとしてもAより本件実包と共に質受けした猟銃の所持許可証を交付され、これを
もつて居れば違反にならない旨告げられたので、その言を信じて所持したものであ
るから犯罪の成立を阻却する旨主張するけれども法律の不知又は誤解は一般に犯意
を否定する根拠にはならないのであるし、又所論の事由をもつてはいまだ行為の違
法性認識の欠如を主張する正当な理由とは認め難いから被告人の右弁疎は理由がな
い。
 そこで以上の通り判決する。
 (裁判長判事 吉村国作 判事 小山市次 判事 沢田哲夫)

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